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プロフェッションジャーナル No.321が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年6月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.321を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/06/06

monthly TAX views -No.77-「税の取れない『AI時代』」

monthly TAX views -No.77- 「税の取れない『AI時代』」   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   デジタルエコノミーの発達や、多様なプラットフォーマーの出現は、税金の将来に予想しがたい事態をもたらす可能性がある。以下では、筆者がそう考える根拠をいくつか挙げてみたい。 *  *  * まずは、世界的な賃金の停滞と二極化である。 これまでの3次にわたる産業革命時には、当初は雇用や賃金への悪影響が強調されたが、生産性の向上・経済発展により、結局、皆の生活は豊かになった。しかし、今回の第4次産業革命だけは様相が異なるようだ。 経済デフレ化は、これまでは中国・旧東欧圏など新興国からの安価なヒト・モノの流入・グローバル化が主因とされてきたが、最近ではAI発達に伴う労働代替が原因という説が強まりつつある。わが国でも人手不足にもかかわらず、賃金は上がっていない。 一方で米国のCEOの賃金は上がり続け、一般従業員との賃金の格差は、2018年には361倍にまで広がった。英国など欧州でもCEOの高額報酬は大きな問題となっている。 全体の所得が増加しない中で中間層が薄くなっていけば、当然だが、所得税は取れなくなっていく。 *  *  * 次に、世界中から所得を巻き上げる「巨大なプラットフォーマー」の存在である。 世界中のユーザーからビッグデータを集積し、アルゴリズムを使い、ビジネスモデルを無形資産化して、巧妙なタックスプランニングにより、タックスヘイブンや低税率国に所得を移転させる。 この問題はG20の最大関心事の1つでもあり、6月のG20大阪会合に向けて議論が続いているが、簡単にはまとまりそうもない。ユーザー国(消費国・市場国)が「データを供給したことで価値創造に参加しているので、その分は税の取り分が生じる」と主張したところで、その額はわずかなものになる。結局、巨額の所得はほとんど課税されないまま、低税率国に留保されることになりそうだ。 次に、仮想通貨(暗号資産)やブロックチェ-ンなどの新たなテクノロジーが税に及ぼす影響である。 これらは記録は残るものの、マネロンや脱税などの犯罪がらみになれば、真に取引をする者の実名を突き止めることは容易ではない。 *  *  * 最後に筆者が注目するのは、本連載でも何度か述べてきたが、シェアリングエコノミーの発達によって、物々交換的なビジネスが発展することである。 すでにわが国でも様々なポイント経済圏ができているが、今後は企業が賃金をポイントで支払うような動きもみられ、ポイントを介した物々交換的なサービス取引が拡大していく可能性がある。さらには、個⼈等が保有するスキルや時間等の無形の資産を、個⼈間で交換するサービスも出現しており、課税の前提となる金銭価値に評価できない世界が広がりつつある。 これらの広がりについては、そこまで課税しなくてもいいのでは、という意見もある。しかし、デジタル経済はあっという間に拡大していく。所得格差を放置しておくわけにはいかないし、再分配のためには社会保障財源が必要になる。 AIの発達がもたらす社会をユートピアにしていくためには、AIを使いこなすことが必要となる。我々には、人間力を磨く知識や教養が、国家にはそのための財源が必要となる。 *  *  * 以上の問題意識をもとに、日本経済新聞社から『デジタル経済と税』を上梓した。 ご興味のある方はご一読いただければ幸いである。 (了)

#No. 321(掲載号)
#森信 茂樹
2019/06/06

小規模宅地等特例に関する令和元年度(平成31年度)税制改正事項

小規模宅地等特例に関する 令和元年度(平成31年度)税制改正事項   税理士法人トゥモローズ 代表社員 税理士 大塚 英司   令和元年度(平成31年度)税制改正関連法については、去る3月27日の参議院本会議において可決・成立し、同月29日付官報において「所得税法等の一部を改正する法律」として公布された。本稿では、本件改正のうち小規模宅地等の特例に係る論点について解説を行う。   1 改正の背景 小規模宅地等の特例については、昨年(平成30年度税制改正)の「家なき子、貸付事業用宅地等」に係る改正に続き、今年度改正においても、本来の制度の目的に沿っていない特定事業用宅地等に係る特例の利用を是正するための見直しが行われた。 当該特例の本来の趣旨は、事業の継続を制度の目的とし、当該事業用の宅地等について相続税の課税価格を減額するものである。その一方で、本来の趣旨から外れるような、継続を前提としない事業を相続開始直前に開始することによって当該特例の適用を受けることができるという現行制度の状況を踏まえ、改正が行われている。 例えば、申告期限後の売却を見込んだ宅地の事業用宅地への転用や、多額の借入を行い事業用宅地の購入をし当該宅地について当該特例の適用により減額を受け、かつ、債務控除を受けるといった節税目的での利用が、趣旨から外れるような事例といえよう。   2 改正内容 ① 改正前の制度 特定事業用宅地等の制度は、被相続人等が亡くなる直前にその宅地等で事業(不動産貸付業や駐車場業等は除く)をしていた場合において、その宅地等を取得した相続人が相続税の申告期限まで引続き当該事業を継続したときは、当該特定事業用宅地等の相続税評価額につき400㎡まで80%の減額が認められている。 改正前の特定事業用宅地等は、あくまで「相続開始の直前において、被相続人等の事業の用に供されていた宅地」とのみ規定されており、その宅地等の事業供用が認められさえすれば適用ができた。例えば、相続開始の1ヶ月前に事業用に転用した宅地等であっても、申告期限まで所有及び事業継続していれば特例の適用は可能であった。 ② 特定事業用宅地等の範囲見直し 平成31年度税制改正大綱では、 と記載されており、特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前に駆け込みで事業の用に供した不動産等については、当該特例の対象外とされた。 なお、政令に当たる括弧書きにおいて、対象外となる範囲から下記の宅地等に該当するケースが除かれている。つまり、下記の宅地等に該当するときは、特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例が適用可能となる。   宅地等の相続税評価額 × 15% ≦ 宅地等の上で事業供用されている減価償却資産の価額  これにより、とりあえず少額で申告期限までに遊休地の事業転用を行っておこうといった節税対策が防止されることとなる。 この改正点について、法令上は下記のとおり、その対象が括弧書きにより追加規定されている。また、第6項が新設され、本年の税制改正で新設された個人版事業承継税制「個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度」との選択適用の旨が規定されている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ③ 今後の留意点 今回の改正により、事業供用後3年の間に発生した相続については、事業用減価償却資産の価額の15%以上となる事業用宅地等を除き、小規模宅地等の特例が適用できないこととなった。つまり、事業継続を考えていた被相続人が亡くなった場合にも適用ができないケースが想定されるため、事業開始後3年間は、事業用宅地と事業用減価償却資産の試算を行っておき、必要に応じて事業用資産の追加投資などの検討も要す。 また、新設された個人版事業承継税制との選択適用であるため、当該税制の適用期限である令和10年(2028年)12月31日までの期間は、いずれの適用を受けるか検討をする必要がある。 なお、今年度の税制改正においては、「特定同族会社事業用宅地等」については触れられておらず、適用対象外となるような内容とはなっていないが、上述の通り小規模宅地等の特例については昨年から連続して見直しが行われており、現行制度においても、相続開始後短期間での売却が可能な点、債務控除との併用等による節税余地がある点などから、今回の特定事業用宅地等及び前回の貸付事業用宅地等と合わせて、今後も引き続き改正が行われる可能性がある。   3 適用時期及び経過措置 改正後の特定事業用宅地等の特例については、平成31年(2019年)4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税から適用が開始される。ただし経過措置として、同日前から事業の用に供されている宅地等については、適用対象外となっている(所得税法等の一部を改正する法律附則79①②)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 321(掲載号)
#大塚 英司
2019/06/06

《相続専門税理士 木下勇人が教える》一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第2回】「養子縁組に関する税務上の実務論点と実務上のリスク把握」

  《相続専門税理士 木下勇人が教える》 一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第2回】 「養子縁組に関する税務上の実務論点と実務上のリスク把握」   公認会計士・税理士 木下 勇人   今回は、相続対策の提案に必ずと言っていいほど挙げられる「養子縁組」につき、税務上の実務論点とリスク把握を検証する。   1 節税目的の養子縁組の可否 相続税の節税目的のために、実務上、養子縁組を適用する場面は多いと推測される。2017年1月31日最高裁第3小法廷にて「節税目的の養子縁組でも直ちに無効とはいえない」との初判断を示したことは記憶に新しい。 ただし、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格及び相続税額を計算することができることには、引き続き注意を要する(相法63)。   2 税務上の論点整理 (1) 養子の数に関する算入制限(相法15②③:昭和63年度税制改正) どのようなケースが「実子とみなすか」を理解しておくことは、実務上必須となる。また、相続税の計算上、養子が相続人の数に算入されることにより、相続税の節税効果が生じるのは、①遺産に係る基礎控除額の計算、②相続税の総額を計算する場合の累進税率の緩和、③生命保険金・退職手当金等の非課税限度額の計算、④未成年者控除・障害者控除、⑤相続の一代飛ばし、などが挙げられる。 (2) 相続税の2割加算制度の改正(相法18②:平成15年度税制改正) 平成15年4月1日以後に相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、孫養子に2割加算が適用されるようになった。ただし、代襲相続の場合には適用がない。 (3) 間接的な節税効果 養子縁組により直系卑属となるため、そこから副次的な効果が生ずる場面がある。①住宅取得等資金贈与、②教育資金一括贈与、③結婚・子育て資金一括贈与、④相続時精算課税、⑤特例贈与の税率、などが挙げられる。 また、養子縁組をせずに遺言を用いて財産を取得すると原因は「遺贈」となるが、養子縁組後に相続により財産を取得すると原因は「相続」となる。その結果として、⑥登録免許税、⑦不動産取得税、などにも副次的に節税効果が生ずる。   3 実務上のリスク把握 (1) 改姓されるケース 養子縁組を提案して、クライアントに一番難色を示されるのが、改姓すること。①改姓されるケース、②改姓されないケース、につき戸籍法を理解して提案することが求められる。思わぬケースで改姓しない場合もある。 (2) 未成年者との養子縁組 祖父母と孫の養子縁組後に、祖父母に相続が発生した場合で、仮に孫養子が未成年者(10歳など)の場合、遺産分割手続に特別代理人が登場する。そのため、法定相続分の取得が必須となるため、相続人の数を増加させるためだけを目的とした場合にはリスクとなる。また、財産などに債務付きの収益不動産しかない場合、金融機関との間で債務引受の問題は残ると思われる。 (3) 養女となった長男の妻 長男の妻が長男の両親と養子縁組をし、その後、長男夫婦が離婚した場合はどうだろうか。離婚したからといっても養子関係は切れない。養子離縁手続きをする必要がある。昨今、離婚率が上昇していることを鑑みると、1つのリスクと捉えるべきと考える。また、離婚した長男の妻に養子離縁の意思があっても、長男の両親が認知症を発症している場合もリスクになりえると考える。 (4) 相続分・遺留分を減少させる目的の養子縁組 財産を相続させたくない子供(例えば次男)がいる場合に、長男を除く長男一家を養子縁組した場合はどうだろうか。高齢の親につき、認知症の問題も相まって、養子縁組無効確認の訴えのリスクが高まる。実子がいる場合に複数人を養子縁組しても節税効果は生じないが、感情が複雑に絡んだ相続では、節税効果よりもこちらの方が重視されるケースは存在しえる。 このようなケースを念頭に、税務以外のリスクにも目を向ける必要があると思われる。   (了)

#No. 321(掲載号)
#木下 勇人
2019/06/06

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例6】「機械装置の取得と減価償却費の計上」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例6】 「機械装置の取得と減価償却費の計上」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は東京都内の下町で、自動車部品等の製造を行っている町工場を運営する株式会社(3月決算)の代表取締役です。平成30年1月に工場内の機械装置の入れ替えを行うことを決定し、メーカーとの交渉を経て該当する機械装置を購入し、設置工事を経て、平成30年3月に当該機械装置を事業の用に供しました。当然のことながら、当該機械装置につき事業の用に供した平成30年3月期において、1ヶ月分の減価償却費の計上を行っております。 ところが、先日受けた税務調査で、機械装置を事業の用に供したのは平成30年4月15日と平成30年3月期の翌期であり、平成30年3月期には未だ機械装置を取得していないのであるから、その期において計上した減価償却費の計上は認められない、と調査官に言い渡されました。 確かに、当該機械装置は、弊社としてはどうしても平成30年3月中に操業を開始したいと熱望し、メーカーにもその旨を度々話してきたのですが、あいにく据付工事の後の試運転の際、ソフトウェアの不具合等もあってなかなか仕様書通りの数値を出すことができず、検収が翌期の4月15日にずれ込んだのは事実です。しかし、遅くとも平成30年3月20日には8割がた仕様書の数値をクリアしており、当該機械装置を使った部品の製作も開始され、当該部品の一部は平成30年3月中に出荷されております。 そうなると、平成30年3月期には機械装置を取得しており、損金経理により1ヶ月分の減価償却費の計上を行っていることから、当該金額の損金算入は認められてしかるべきと考えるのですが、いかがでしょうか。なお、契約上、代金の支払いは検収日に行い、その日に所有権がわが社に移転しております。   【A】 機械装置の減価償却費の計上は、当該資産を取得し事業の用に供したときから行うべきものと考えられます。本件の場合、機械装置を特定の場所(工場)に設置し、これを稼働させることを目的とする請負契約であるため、請負人であるメーカーにおいて、当該機械装置を設置すべき場所に物理的に設置するのみならず、当該機械装置をその使用目的に沿って使用することが可能な状態にすることが予定されているものといえます。 そのため、本件機械装置の取得は、その検収日かつ所有権移転の日である平成30年4月15日において行われたと解するのが相当であり、その日から減価償却費を計上することとなります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 減価償却費の計上の要件 法人が固定資産(減価償却資産、法法2二十三)の減価償却費を各事業年度の損金の額に算入するためには、以下の2つの要件を満たす必要がある。 ① その事業年度中に減価償却資産を「取得」していること(法法31①) この場合の「取得」とは、機械装置の設置の請負契約の場合には、その引渡しを受けていることが必要となる(名古屋高裁平成4年10月29日判決・行裁例集43巻10号1385頁)。 ② その事業年度に減価償却資産を「事業の用に供している」こと(法令13カッコ書) 事業の用に供していることを減価償却費計上の要件としている理由は、事業の用に供していない資産からは、その法人の負担すべき費用が発生するものではないという、減価償却の目的及び機能から導かれるものと解されている。フィルムリース事件(最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁)参照。 また、法人税法においては、法人が選択した減価償却の方法で計算した金額は損金に算入されるべき減価償却費の限度額(償却限度額)であり、減価償却費として損金に算入されるのは、そのうち損金経理(法法2二十五)をした金額(損金経理額)である(法法31①)。 上記減価償却資産の減価償却費の計上に係る要件を図示すると以下の通りとなる。 〇減価償却資産の減価償却費の計上に係る要件 (2) 減価償却費の計上につき争われた裁判例 ここでは、法人における減価償却費の計上につき争われた最近の裁判例を見ていきたい。まず、(1)で挙げた減価償却費の計上の要件のうち、①の減価償却資産の「取得」に関し、その時期が争われた裁判例である(東京高裁平成30年9月5日判決・TAINSコード:Z888-2212)。 当該裁判例では、法人が機械装置を自社の工場に設置し試運転を行ったところ、不具合があったため、その調整等を行った結果、当該機械装置に関する検収が翌事業年度までずれ込んだ事案につき、裁判所は以下の通り判示した。 要するに、減価償却資産の「取得」((1)の要件①)に関し、その時期は、引渡しがあったときであり、それは機械装置を単に設置しただけのタイミングではなく、(早くとも)不具合の調整や改善が行われ、検収がなされたタイミングまでずれ込むということである。 ただし、当該判示では、減価償却費を計上するタイミングとして、果たして「検収日=引渡しの日(5月27日)」なのか、それとも、契約上所有権の移転する時期は代金全額が支払われた日とされているため、「契約上の所有権移転の日(7月10日)」なのか、不明である。当該裁判例においては、減価償却費の計上が(納税者の主張する)平成25年3月期か、それとも(課税庁が主張する)翌期かを判断できれば十分であり、翌期のいずれの日であるかは判断の対象外である。その点が実務指針としての当該裁判例の限界である(※1)。 (※1) 小山浩「近時の企業実務上留意すべき租税裁判例・裁決例の解説」『租税研究』2019年5月号256、257頁参照。 なお、当該裁判例の原審では、減価償却資産の取得につき、以下の通り判示している(東京地裁平成30年3月6日判決・TAINSコード:Z888-2211)。 ここでも、減価償却資産の「取得」に関し、その時期は、「請負人において当該機械装置等の物理的な設置及び所要の調整作業等を完了した上で、注文者による当該機械装置等が所期の性能を有することの確認等」がなされたタイミング、すなわち「検収日」以後であるということを言っている。 (3) 減価償却費計上開始の日は引渡しの日か所有権移転の日か 上記裁判例において裁判所は判断を示さなかったが、われわれが当該裁判例で本当に知りたかったのは、減価償却費の計上開始日は「引渡しの日」か、それとも「所有権移転の日」かという点であった。 〇裁判例の事実関係とスケジュール 原告・納税者は、機械の設置及び立会が平成25年2月20日に完了しているので、その日から減価償却費の計上を2ヶ月分(2月及び3月分)行ったと主張している。一方課税庁は、平成25年3月期には機械の不具合が調整されておらず、検収に基づく引渡しが行われていないため、減価償却費の計上はできないと主張している。 この点に関し、裁判所は、本件は機械装置の納入に係る請負契約であるため、その減価償却費の計上には目的物である機械装置の所有権が移転(すなわち取得)することが求められるとし、その取得の日は早くとも平成25年5月27日(平成26年3月期)であるとした。 それでは、結局、減価償却費の計上開始日は引渡しの日(機械装置の検収日)なのか、それとも所有権移転の日(請負代金支払完了日)なのか。租税法の通説では、収益及び費用の年度帰属は実現主義ないし権利確定主義により、それが請負契約の場合は、仕事の目的物の引渡しと同時に権利が確定すると解していたように思われる(※2)。また、判例上もそうである(前掲名古屋高裁平成4年10月29日判決)。 (※2) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)358頁。 当該通説・判例の立場に従えば、課税庁の言うように、減価償却費の計上開始日は引渡しの日(すなわち機械装置の検収日)と解するのが妥当であると考えられる。 これに対し、所有権移転の日(請負代金支払完了日)を減価償却費の計上開始日とするのは、私法上の法律関係(業務請負契約書)を重視するということになるのであろうが、必ずしも妥当な結論が導き出されるとは限らないと考えられる。なぜなら、契約書で定められた業務の内容をすべて完了し、目的物を事業の用に供して使用収益を開始していたとしても、支払いが完了していないため所有権が移転していないとして、減価償却費の計上ができないとなると、収益の計上時期と費用の計上時期にズレ(行き別れ)が生じる可能性があるからである。 そうなると、引渡しの日と所有権移転の日とが期をまたぐ(後者が翌事業年度となる)場合、課税庁が、収益は引渡しの日を基準に事業の用に供し使用収益を開始しているため前倒しで計上を開始し、費用(減価償却費)の計上は私法上の法律関係を重視して後ろ倒し(翌事業年度)で行うと主張するケースも出てきかねず、深刻な問題となり得る(コストなしで収益獲得?)。 〇収益と費用の「行き別れ」 (4) 私法上の法律行為解釈と減価償却 減価償却費の計上に関し、減価償却資産の「取得」((1)の要件①)の時期が重要なのは言うまでもないし、その解釈を私法(特に民法)上の法律行為に基づき行うとする裁判例(東京地裁平成30年3月6日判決・控訴審も同旨)の考え方は妥当であろう。しかし、この要件だけで減価償却費の計上の時期を判断するのは不十分である。なぜなら、減価償却資産を取得しても、それを取得者がその事業の用に供していなければ((1)の要件②)、そこから収益は生み出されないからである。 すなわち、減価償却資産を使用しそこから収益が生み出され、それを益金に算入するから、対応する費用である減価償却費を計上し(費用収益対応の原則)、損金経理により損金に算入するというのが、法人税法における所得計算の基本的な枠組みである。 裏を返せば、取得しておらず、事業の用にも供していない減価償却資産からは、収益も益金も稼得することはないということである。筆者が懸念するのは、私法上の法律行為解釈を重視することは妥当であるが、それを費用・損金にのみ適用し、収益・益金との対応関係を考慮しないという不整合により、収益・益金計上の前倒し、費用・損金計上の後倒しが発生するという「誤った」課税が起こり得るという点である。 本連載で何度も強調している通り、費用収益対応の原則は租税法・法人税法においても所得計算の基本原則である。法人税法における費用収益対応の原則は、益金とそれに対応する損金は同一事業年度に帰属するという形態を採ると解するべきであろう。 〇法人税法における費用収益対応(同一年度帰属)の原則 上記(3)の問い「減価償却費計上開始の日は引渡しの日か所有権移転の日か」に戻れば、私見では、租税法の通説に従い、引渡しの日に開始するのが妥当と考える。それと同時に、特に本連載で強調したいのは、いずれを採用したとしても、費用収益対応の原則から、収益と費用とは同時に計上(同一事業年度に帰属)するという原則からは外れてはならないということである。 (5) 本件へのあてはめ 本件の場合、幸いにして、検収・引渡しの日と取得・所有権移転の日が一致しており、上記(3)(4)で検討したような「行き別れ」は生じない。そのため、本件は、機械装置を特定の場所(工場)に設置し、これを稼働させることを目的とする請負契約であるため、請負人であるメーカーにおいて、当該機械装置を設置すべき場所に物理的に設置するのみならず、当該機械装置をその使用目的に沿って使用することが可能な状態にすることが予定されているものといえる。 したがって、本件機械装置の取得は、その検収日かつ所有権移転の日である平成30年4月15日において行われたと解するのが相当であり、その日から減価償却費を計上することとなる。 一方、収益の計上は、費用収益対応の原則から、減価償却費の計上と同一事業年度に行う(帰属する)こととなる、すなわち平成31年3月期に行うべきものと考えられる。 (了)

#No. 321(掲載号)
#安部 和彦
2019/06/06

租税争訟レポート 【第43回】「税理士に対する所得の秘匿行為を重加算税の賦課要件に該当すると判断した事例(東京地方裁判所平成30年6月29日判決)」

租税争訟レポート 【第43回】 「税理士に対する所得の秘匿行為を重加算税の賦課要件に該当すると判断した事例 (東京地方裁判所平成30年6月29日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   〈訴訟の概要〉   【事案の概要】 本件は、所有する不動産に係る賃料収入を得ていた原告が、西大寺税務署長から、平成27年3月6日、平成19年から平成25年分までの所得税についての更正処分及びこれらの所得税に係る重加算税の賦課決定処分を受けたことから、西大寺税務署長が所属する被告に対し、①平成19年から平成22年分までの所得税の各更正処分について、原告に「偽りその他不正の行為」(平成27年改正前の国税通則法70条4項)はなく、更正処分の除斥期間である3年を経過してされたものであり、違法であるとして、②平成19年から平成22年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分について、違法な更正処分を前提とし、かつ、重加算税の賦課要件(国税通則法68条1項)である「隠蔽又は仮装」の事実がないのにされた違法なものであるとして、③平成23年から平成25年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分について、「隠蔽又は仮装」の事実がないのにされた違法なものであるとして、それぞれ、その取消しを求める事案である。   【判決の概要】 1 原告に「隠蔽又は仮装」の事実が認められるか[争点1] (1) 被告の主張 被告は、原告の姿勢について、次のように説明して、当初から所得を過少に申告することを意図し、税理士に対する不動産所得の秘匿という過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたのであるから、国税通則法68条1項に規定する重加算税の賦課要件である「隠蔽又は仮装」の事実が認められると主張した。 (2) 原告の主張 原告は、本件賃料収入の存在は認識していたが、本件の土地については関連する多額の支出又は損失があり、本件各土地建物全体として利益はないと思い、平成19年から平成25年分までの所得税の申告において、申告すべき不動産所得があると明確には認識していなかったとしている。 また、原告は、本件各土地建物に係る不動産所得が申告されていないことを認識しておらず、過少申告の意図に基づき同所得の秘匿を行った事実もないから、「過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動」はなく、したがって「隠蔽又は仮装」もなく、重加算税の賦課要件を満たさないと主張した。 2 原告に「偽りその他不正の行為」が認められるか[争点2] (1) 被告の主張 原告は、平成19年分から平成25年分までの所得税について過少申告の意図の下に内容虚偽の確定申告書を提出していたものであるし、また、「隠蔽又は仮装」を行っていたのであるから、いずれの点からみても、国税通則法70条4項の「偽りその他不正の行為」に該当し、7年の除斥期間が適用されると主張した。 (2) 原告の主張 原告に「隠蔽又は仮装」の事実はなく、「偽りその他不正の行為」もないから、更正処分及び重加算税の賦課決定処分の除斥期間は法定申告期限からそれぞれ3年及び5年であり、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分のうち、本件各更正処分に係るものは全て違法であるとした。 3 裁判所の判断 (1) 「隠蔽又は仮装」の解釈 裁判所は、原告に「隠蔽又は仮装」の事実が認められるか[争点1]の判断に先立ち、「隠蔽又は仮装」の解釈について、以下のように判示した。 その上で、税理士との関係について、特定の所得を申告すべきことを熟知しながら、税理士から当該所得の有無について質問を受け、資料の提出も求められたにもかかわらず、確定的な脱税の意思に基づいて、当該所得のあることを税理士に対して秘匿し、何らの資料も提供することなく、税理士に過少な申告を記載した確定申告書を作成させてこれを提出した場合には、「過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動」があったといえると述べた。 さらに、裁判所は以下の判断を示した(下線は筆者による)。 (2) 原告における「隠蔽又は仮装」の認定 裁判所は、以下の事実認定から、原告について、賃料収入に係る不動産所得を申告すべきことを熟知しながら、確定的な脱税の意思に基づき、当該所得に関する資料を意図的に顧問税理士に提示せず、顧問税理士に過少な申告を記載した平成19年分から平成25年分までの確定申告書を作成させてこれを提出するという「過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動」をした上で、その意図に基づく過少申告をしたものと認めるのが相当であると判断した。 (3) 原告に「偽りその他不正の行為」が認められるか[争点2] 裁判所は、原告による平成19年分から平成25年分までの所得税の申告は、いずれも「隠蔽又は仮装」に基づく申告といえることから、同時に、国税通則法70条4項にいう「偽りその他不正の行為」によりその全部又は一部の税額を免れたものともいえると判断して、原告の主張を一蹴した。   【解説】 税務調査に立ち会った顧問税理士にとって、調査官から、納税者が所得の一部又は全部を隠していることを告知されることは、最も避けたい事態の1つであろう。本件訴訟で、東京地方裁判所は、賃料収入を隠した納税者が、確定申告を依頼した税理士に過少申告となる申告書を作成させた事案について、重加算税の賦課決定処分を適法であると判断した。 1 税理士による資料の提出要請があったか否か 本件判決の中で最も注目したのは、前述した「3 裁判所の判断」(1)の中でも下線を附した箇所、すなわち、税理士が納税者に対して資料を提示するよう要請したかどうかは問題ではなく、納税者が「申告すべきことを熟知」しているにもかかわらず、「確定的な脱税の意思に基づ」いて、「所得のあることを税理士に対して秘匿」した場合には、「税理士に対する所得の秘匿は『過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動』を構成する」と明確に判断したことである。 判決文を読む限りでは、本訴訟における原告は多額の貸付金を有していたこともあり、顧問税理士の担当者が、賃料収入を貸付金の回収による入金と考えていたとのことであった。 そうだとすれば、顧問税理士は不動産賃料収入について特段の資料提出を要求していなかったであろうと思われるが、裁判所は上記の判断を示すことにより、原告の秘匿行為について、「隠蔽又は仮装」に該当するという結論を導いている。 2 原告が賃料収入を秘匿した動機 判決によれば、西大寺税務署による税務調査において、原告は、調査官に「申告しなかった理由」を尋ねられた際に、以下のように答えたという。 原告が、「税務署にバレなければいい」と考えて所得から除外していた金額は、次の表のとおり、毎年400万円程度であった。 《原告による申告額と更正処分額(単位:円)》 3 収入の申告漏れを防ぐために税理士ができること 本稿の最後に、本件訴訟の原告のように、「確定的な脱税の意思」を持った納税者の確定申告にあたり、税理士として、どう対処すべきかを検討したい。 本来であれば、納税者に脱税をうかがわせる兆候を感じた場合には、税理士という資格を守るためにも、税務代理を受任しないことが1番である。税務代理の受任契約締結の段階で、租税法規に違反する事実があれば、いつでも契約の解除ができることを予め契約条項に入れた上で、その内容を告知して、「法律違反である脱税はさせない」ことを明確にしておく必要があるだろう。 本件原告のように多額の収入があり、それが所得に該当するのか、貸付金の弁済を受けたものであるのかが税務調査で問題となることが考えられるのであれば、貸付金の根拠である消費貸借契約の提示を納税者に求め、返済が条項どおりに行われているのかを確認する必要があることは言うまでもない。 例えば、「貸付金に利息が附されていれば、利息収入を申告しなければならない可能性も検討する必要があるから、契約書を確認したい」と申し出れば、特に納税者へ不快感を与えずに済むのではないだろうか。それでも納税者が契約書の開示を拒むようであれば、それは「不正の端緒」と言えるだろう。その場合は、「申告する内容について、税理士として責任が持てないので、辞任したい」と申し入れるべきである。   (了)

#No. 321(掲載号)
#米澤 勝
2019/06/06

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第69回】「納税義務の成立の時及び納税義務者」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第69回】 「納税義務の成立の時及び納税義務者」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   不動産売買契約書を作成するにあたり、下記の売買契約書には印紙税が課されると聞きました。この場合、いつ・誰が、印紙税を納める義務があるのですか。   課税文書の作成者である甲乙がともに署名押印した時に、連帯して印紙税を納める義務がある。   [検討1] 課税文書の作成者とは 「課税文書の作成者」とは、その文書に記載されている名義人が作成者となる。また、法人等の役員や従業員がその業務等に関して、その役員や従業員の名義で作成する場合は、その法人等が作成者となる。 したがって事例の場合は、その文書に記載されている甲及び乙が作成者となり、売主である甲においては営業本部長の名義で作成するものの、法人の業務に関して作成するものであることから、作成者は営業本部長ではなく、〇〇不動産株式会社となる。   [検討2] 課税文書の作成の時とは 「課税文書の作成の時」とは、事例の不動産売買契約書のように、契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書の場合は、その証明の時とされ、「甲乙署名押印した時」が作成の時とされる(※)。 (※) 実際は契約が成立しているにもかかわらず、文書所持者が自己の署名押印をし忘れて、契約相手方の署名押印だけがあるものを所持している場合は、文書所持者において容易に押印することが可能であり、課税文書に該当することとなるので留意する。   [検討3] 共同作成者の連帯納税義務 事例のように甲乙の間で作成した場合、課税文書の作成者は甲乙ともに納税義務がある。したがって、印紙税の負担は連帯して行うこととされており、どちらが印紙税を負担してもよく、双方において納得された場合は負担割合も自由に決められる。   ▷まとめ 印紙税は課税文書の作成者が文書を作成した時に印紙税を納めることとなる。この場合は甲乙が共同して作成しているため、甲乙が作成者であり、ともに納税義務者となる。 また、「作成した時」とは当事者の意思の合致を証明する時であり、甲乙ともに署名押印した時に収入印紙を貼付する等して印紙税を納めることとなる。   (了)

#No. 321(掲載号)
#山端 美德
2019/06/06

〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準 【第10回】「もし桃太郎が鬼ヶ島へ行くことをイヌ・サル・キジに隠していたら~収益認識対象とならない場合の処理」

〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第10回】 「もし桃太郎が鬼ヶ島へ行くことをイヌ・サル・キジに隠していたら ~収益認識対象とならない場合の処理」 公認会計士 石王丸 周夫   1 桃太郎、行き先を明かさず 桃太郎がイヌとサルを連れて、鬼ヶ島に向けて歩いていると、キジがやってきました。 「桃太郎さん、お腰につけたきびだんごを、1つ私にくださいな。」 「いいとも。ぼくの家来になってお供をするなら、きびだんごをあげよう。 「ところで、どこまでお供するのですか。危ないところなら行きたくありません。」 「行き先はまだ言えないんだよ。少し大変だけど、このきびだんごがあれば大丈夫。心配するようなところではないよ。」    すると、キジは少し考えました。 (ということなら、危なくはないということかな? ちょっと気になるけど、そこはお供しながら桃太郎さんと話してみればいいか・・・) そして、こう答えました。 「わかりました、桃太郎さん。お供しますので、きびだんごをください!!」 この話に基づいて、キジが桃太郎からもらったきびだんごという報酬について、どのように会計処理すればよいかを考えてみましょう。 【第1回】で述べたように、収益の認識は、まず契約内容を確かめることから始めます。桃太郎とキジは口頭で上のような約束をしたので、これは契約です。その内容について、【第2回】と同じように双方の権利と義務を整理してみましょう。 〈桃太郎の権利と義務〉 〈キジの権利と義務〉 これらの権利と義務が表裏一体になっていることも確認しておきましょう。 権利義務の対応関係が2つ識別できますが、1つめの方は細部を決めないまま合意してしまったかのように見えます。 単純なモノの売買ではないため、細部について双方の協議によるとする契約もあるわけですが、ここはあいまいさが残ります。   2 きびだんごを収益認識するための条件 やや問題を抱えた契約内容でしたが、一応のところ整理ができたので、この契約が収益認識の対象となるものかどうかを判定します。 【第2回】で示したように、収益認識会計基準では以下5つの条件を満たす場合に収益認識の対象となります。 ① 桃太郎とキジが、各自の義務を果たすことを約束しているか? ② 桃太郎とキジのそれぞれの権利は明確か? ③ キジが提供するサービスの報酬について、対価の支払条件は明らかか? ④ 契約により、キジがきびだんご報酬を得る等、経済的実質があるか? ⑤ キジの対価の回収可能性に問題はないか? すると、この契約が抱えている上述の問題から、5つの条件のうち①と②が満たされないことがわかります。 桃太郎としては、キジの義務は『鬼退治への同行』だと考えています。そのつもりできびだんごを与えたのです。しかし一方で、キジは自らの義務を『危険のない範囲で桃太郎にお供すること』だと考えています。 つまり、キジは、桃太郎が期待しているような義務を果たすことは約束しておらず、桃太郎の権利もその点で不明確です。 したがって、この契約は①と②の条件を満たさず、収益認識の対象となりません。 ではその場合、キジはどのように会計処理すればよいでしょうか。 というと、これは収益認識会計基準に定めがあります。 一般的には、上記5つの条件がこのあと満たされるかどうかを引き続き待ち、条件が満たされたら、収益認識会計基準を適用するという手順になります。 ただし今回のお話では、条件を満たさないまま、対価であるきびだんごを受け取っているため、何らかの会計処理が必要になります。その場合、次のいずれかに該当するときは、受け取った対価を収益として認識します。 (1) キジが桃太郎に以後のサービスを提供する義務がなく、約束した対価(きびだんご)のほとんどすべてをキジが受け取っており、桃太郎への返還は不要である。 (2) 契約が解約されており、キジが桃太郎から受け取ったきびだんごを返す必要がない。 つまり、現にキジはきびだんごをもらっているので、その時点で貸借対照表の資産サイドにきびだんごを計上し、そして、上記(1)または(2)のいずれかに該当するまで、もしくは先ほどの①と②の条件が満たされるまで、きびだんご1つに見合う額を負債に計上して様子を見る、ということになります。 この負債は、将来における「キジのサービス提供義務」あるいは「キジのきびだんご返還義務」を表しています。 ▷今回のまとめ 収益認識の対象となる条件が満たされていない状態で対価を得た場合、所定の状態になるまで負債計上しておきます。 (了)

#No. 321(掲載号)
#石王丸 周夫
2019/06/06

企業結合会計を学ぶ 【第18回】「取得とされた株式移転の会計処理」

企業結合会計を学ぶ 【第18回】 「取得とされた株式移転の会計処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、取得とされた株式移転の会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 株式移転のイメージ 株式移転とは、1又は2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう(会社法2条32号)。 「株式移転設立完全親会社」とは、株式移転により設立する株式会社をいい(会社法773条1項第1号)、また、「株式移転完全子会社」とは、株式移転において、株式移転設立完全親会社に発行済株式の全部を取得させる株式会社をいう(会社法773条1項5号)。 株式移転のイメージは次の図のとおりである。 〔例〕 次の条件による株式移転を行った(「結合分離適用指針[設例15]取得-株式移転設立完全親会社の会計処理」を参考にしている)。   Ⅲ 株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理 1 子会社株式の取得原価の算定 株式移転による共同持株会社の設立の形式をとる企業結合が取得とされた場合には、取得企業の決定規準に従い、いずれかの株式移転完全子会社を取得企業として取り扱う(結合分離適用指針120項)。 株式移転設立完全親会社が受け入れた株式移転完全子会社株式(取得企業株式及び被取得企業株式)の取得原価は、それぞれ次のように算定する(結合分離適用指針121項)。なお、株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱いについては、結合分離適用指針121-2項に規定されている。 2 株式移転設立完全親会社の増加資本の会計処理 株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本は、払込資本(資本金又は資本剰余金)とし、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づいて決定し、また、株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本の額は結合分離適用指針121項の取得の対価の算定に準じる(結合分離適用指針122項)。   Ⅳ 株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理 株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)では、株主が、従来の株主から株式移転設立完全親会社に入れ変わるだけなので、基本的には、特段の会計処理は行われない。 ただし、新株予約権の交付又は新株予約権付社債の承継や、株式移転完全子会社(取得企業)が株式移転日の前日に他の株式移転完全子会社(被取得企業)となる企業の株式を保有していた場合について、結合分離適用指針は規定を設けているので注意する(結合分離適用指針123-2項、123-3項)。   Ⅴ 株式移転設立完全親会社の連結財務諸表上の会計処理 1 投資と資本の消去 株式移転による企業結合が取得とされた場合の資本連結の手続は、連結会計基準に従って行い、次の(1)①と②及び(2)①と②をそれぞれ相殺消去する(結合分離適用指針124項、連結会計基準23項)。 また、(2)の消去差額であるのれん(又は負ののれん)は、結合分離適用指針72項及び76項から78項に準じて会計処理する(結合分離適用指針124項)。 2 株式移転完全子会社(取得企業)の資産及び負債の引継ぎ 連結財務諸表上、株式移転設立完全親会社は株式移転完全子会社(取得企業)の資産及び負債の適正な帳簿価額を、原則として、そのまま引き継ぐこととされている。ただし、株式移転完全子会社(取得企業)が連結財務諸表を作成している場合には、株式移転完全子会社の連結財務諸表上の帳簿価額で受け入れる(結合分離適用指針125項)。 ただし、連結財務諸表上の資本金は、株式移転設立完全親会社の資本金とし、これと株式移転直前の株式移転完全子会社(取得企業)の資本金が異なる場合には、その差額を資本剰余金に振り替えることとされている(結合分離適用指針125項)。 (了)

#No. 321(掲載号)
#阿部 光成
2019/06/06

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第5回】「従業員の「残業と健康の両立」に活用したい『勤務間インターバル制度』」

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第5回】 「従業員の「残業と健康の両立」に活用したい 『勤務間インターバル制度』」   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明   前々回、前回と「残業時間の上限規制」についてお話してきました。 しかし、会社としては「『残業時間を減らせ』と言われても、どうしても今日中に仕上げてもらわなければならない業務があるんだよね。」といったこともあり、ときには深夜にまで、従業員の残業が及んでしまうこともあります。 このような場合に、翌日の朝、従業員がいつもと同じ時間に会社に出社するとなると、ゆっくり睡眠がとれない状態になりかねません。前日遅くまで働いた上に、ゆっくり休めていないとなると、翌日の仕事ぶりに影響が出ることも考えられます。 こんなときに有効になるのが、「勤務間インターバル制度」です。   ▷勤務間インターバル制度とは 「勤務間インターバル制度」とは、勤務終了時刻と翌日の始業時刻の間に、一定時間以上の休息時間を設ける取組みのことをいいます。「勤務間インターバル制度」を導入することで、前述の例のような、夜遅くまで働いた従業員の翌日の始業時刻を繰り下げ、「明日の朝は、いつもよりゆっくり出社していいよ!」という対応が可能になります。 この制度は、従業員の生活や睡眠時間を確保することが目的です。睡眠不足は、うつ病などの「こころ」や「からだ」の不健康リスクを増加させると考えられています。筆者も主治医からは、「睡眠時間は、1日7時間を確保すること!」といつも言われています。睡眠時間の確保は、従業員の健康を守るためにも重要なことなのです。 実際のところ、従業員が十分に休息をとるためには、遅くとも「20時」までに退社するのが望ましいでしょう。例えば、18時終業で通勤が片道1時間と考えると「2時間残業」して、退社時間は20時になります。1時間かけて自宅に着くと21時となり、寝るまでに3時間ほどの自由な時間を過ごすことができます。これくらい時間があればゆっくりとお風呂も入れるし、1日7時間の睡眠時間を確保することができそうですね。 しかしながら、いつも早く帰れるとは限りません。退社時間が1時間遅くなり2時間遅くなり・・・となってくると、どうしても睡眠時間を削ることになります。こんなときに「勤務間インターバル制度」の出番となるのです。 例えば、インターバル(=休息時間)を「11時間」と設定すると、22時まで勤務した場合には、翌日の始業時間(9時)までの間に「11時間」の休息時間は確保できています。 しかしながら、23時まで勤務をした場合には、翌日の始業時刻までの間は「10時間」しかないため、「11時間」の休息時間を確保できません。 そのため勤務間インターバル制度を導入している場合には、出社時間を1時間繰り下げて「10時」とし、11時間の休息時間を確保します。 なお、就業規則等で21時以降の残業を禁止し、かつ8時以前の始業を禁止する旨の定めをすることで、上記と同様に終業から次の始業までの休息時間を「11時間」確保することが可能となります。「勤務間インターバル制度」はこのような導入の方法もあります。   ▷助成金を活用して制度の導入を 仮に休息時間を9時間以上とする勤務間インターバル制度を導入した場合、厚生労働省で実施している「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」を活用することによって、「最大100万円」の助成金を受給することが可能です。 この助成金は、社会保険労務士(以下「社労士」)などの外部専門家によるコンサルティング、就業規則・労使協定等の作成・変更、勤怠管理システムの導入等に要した費用の一部を助成するものです。 勤務間インターバル制度の導入を検討している会社は、こういった助成金の活用も合わせて検討したいところです。 なお、労働社会保険諸法令に基づく助成金の申請書の作成及び行政機関への提出等は、社労士法により社労士の業務と定められており、社労士又は社労士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、それらの業務を業として行えないこととなっていますので、注意が必要です。   ▷勤務間インターバル制度の留意点 以下では勤務間インターバル制度を導入するにあたって、どのような留意点があるかを見ていきます。 1 適正な始業・終業時刻の把握 そもそも、従業員の始業・終業の時刻が適正に把握できなければ、何時間の休息時間を与える必要があるのかが明確にならないため、正確な始業・終業時刻の把握が必須となります。 このために、新たに勤怠システムを導入する場合には、前述した「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」を活用することで、導入時の金銭的負担を減らすことができます。 2 休息時間の目安は? 休息時間の長さについては、法令等で特に定められているわけではありません。「自社で勤務する従業員の平均の通勤時間+7時間」、このあたりが1つの目安と考えられます。 ちなみに、この「勤務間インターバル制度」はEU(欧州連合)ではすでに導入されている制度で、EUにおいては24時間につき、最低でも連続11時間の休息が定められています。なお、前述の「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」では、「9時間以上」が対象となっています。 3 連続での適用には問題が・・・ 勤務間インターバル制度を適用し続けると、極端な話かもしれませんが出勤時間がどんどん遅くなって、お昼過ぎに出社なんてことにもなりかねません。 特定の従業員ばかりに残業をさせない仕組みづくりが望まれますが、制度の対象者には、連日の残業をさせないようにすることや、業務繁忙期などの特定の時期には勤務間インターバル制度の適用をしないといった対応が必要なケースも考えられます。 4 確保した休息時間の取扱い 確保した休息時間が通常の勤務時間と重なった(始業時間をずらした)場合には、その時間帯についての労働は、休息時間となるため、労働を免除したこととなります。 この場合のその時間帯に対する賃金の支払いは、労使間で取り決めるため、取り決めによっては「無給でも構わない」ということになります。 5 勤務間インターバル制度の導入は努力義務 2019年4月1日から勤務間インターバル制度の導入が会社の努力義務となっています。なお、労基法改正後に「特別条項付き36協定」を締結する場合には、何らかの健康確保措置を取らなければなりません。この健康確保措置の1つとして、勤務間インターバル制度が挙げられています。 *  *  * 残業はいつもするものではなく、必要に応じてやるものです。もちろん、場合によっては会社として、従業員に長時間の残業をさせざるを得ない状況があるでしょう。 そのような場合に、従業員にしっかりと働いてもらうためにも、「勤務間インターバル制度」は必要ではないでしょうか。 しっかりと働いてもらった後は、しっかり休んでもらう。休息時間を確保し、翌日以降に疲労を残させない働き方が「従業員の健康」を守ることにつながるのです。 (了)

#No. 321(掲載号)
#飯野 正明
2019/06/06
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