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〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第66回】「功績倍率と功労加算」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第66回】 「功績倍率と功労加算」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 裁判例にみる功績倍率法の起源 今日では、税務上の役員退職給与の過大性判定において、代表取締役の退任であれば功績倍率を3倍以下とすることが無難である旨が実務上浸透していることは、本連載の各所で触れてきた通りである。ここで、功労加算の検討のため、昭和40年における法人税法の大改正以降の裁判例にいくつか触れる。なお、その当時は旧法人税法36条「内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給する退職給与の額のうち、当該事業年度において・・・・・・損金経理をした金額で不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」という規定が争点となっていたことに留意したい。 判例データベース上、功績倍率という用語が初出として確認できるのは、おそらく東京地裁昭和46年6月29日判決であると思われる(※1)。 (※1) 税務訴訟資料62号1002頁、TAINS:Z062-2753。 この裁判例は、課税庁側が同業類似法人を抽出し、功績倍率法を用いて更正処分等をしたことに対し、地裁が、旧法人税法36条等が設けられているのは、退職給与の損金性を決定する尺度となる役員の会社に対する貢献度を測る基準がなく、「個々具体的な退職給与金額には多分に益金処分としての性格を有する支出の含まれている事例が少なくないところから、・・・法人の行為計算のみにとらわれることなく、その合理性の検討について特に注意を喚起せんとするにとどまり、損金としての要件を具備する役員退職給与であっても、当該事案における特殊事情をすべて捨象して同業種、同規模の他の会社の役員退職給与の支給金額をこえる部分の損金算入をすべて否定せしめんとする趣旨に出たものではないと解すべきである」とし、役員の貢献度は設備投資の有無や功罪によっても異なるとし、損金算入の是非は支給実態による旨を示して、課税庁が同業類似法人を抽出した上で功績倍率法の主張をしたものの退けられた事例である。 これに対し課税庁が控訴した東京高裁昭和49年1月31日判決では(※2)、課税庁側が同業類似法人を抽出したうえで平均功績倍率法にて更正処分等をしたことは、旧法人税法36条の趣旨に合致する旨を示し、一転して納税者の主張が退けられている。 (※2) 税務訴訟資料74号293頁、TAINS:Z074-3261。 この当時、この事例を皮切りに、課税庁側が同業類似法人を抽出し、功績倍率法によって不相当に高額な役員退職給与を否認するという事例が相次いでみられる(※3)。 (※3) 例えば、東京高裁昭和51年9月29日判決(税務訴訟資料89号777頁、TAINS:Z089-3861)、東京高裁昭和52年9月26日判決(税務訴訟資料95号597頁、TAINS:Z095-4057)、長野地裁昭和62年4月16日判決(税務訴訟資料158号104頁、TAINS:Z158-5909)等がある。 この中でも、判決文の中で当時の企業の状況が垣間見える事例として、東京地裁昭和55年5月26日判決がある(※4)。 (※4) 税務訴訟資料113号442頁、TAINS:Z113-4599。なお、納税者によって控訴・上告がなされているが、高裁・最高裁ともに地裁の判断を支持している。 地裁は、旧法人税法36条の合理性について、「株式会社政経研究所が昭和47年6月20日現在で全上場会社1,603社及び非上場会社101社を調査したところ、何らかの形で役員退職給与金額の計算の基準を有しているものが682社、そのうち右基準を明示したものが265社あったが、265社のうち167社が退任時の最終報酬月額を基礎として退職金を算出する方式をとっており、さらに、そのうち154社が最終報酬月額と在任期間の積に一定の数値を乗じて退職給与金額を算出する方式をとっていることが認められるのであるから、退職給与金額の損金算入の可否、すなわちその相当性の判断にあたって原告と同業種、類似規模の法人を抽出し、その功績倍率を基準とすることは、前記法令の規定の趣旨に合致し合理的であるというべきである」と示し、民間企業が最終報酬月額や勤続年数、そして一定数値を採用して役員退職金を算定していることから、功績倍率法が合理的であると示しているのである(※5)。 (※5) 課税庁が納税者の所轄税務署を含む5税務署管轄内の同業類似法人を抽出し、その結果をもって「当時の全上場1,603社の実態調査の結果から算出される功績倍率の平均が社長3.0、専務2.4、常務2.2、平取締役1.8、監査役1.6であるところからみて相当な基準といえるものである。」と主張していることから、この裁判例が、代表取締役が3倍まで認められる根拠であるという見解も散見される。 なお、この裁判例は、対象となった納税者の取締役が昭和47年8月25日に退職していた状況を踏まえ、納税者が「同業種、類似規模の法人について算出した功績倍率を用いることは一般に是認されていない」と主張している。この点、この取締役の退任日が、上記で触れた東京地裁昭和46年6月29日判決で功績倍率を採用した課税庁の主張が退けられた後であり、かつその控訴審の判断が示される前だったことに鑑みると、当時の状況として、企業が役員退職金を算定する際に勤続年数や一定倍率を採用する傾向はあったものの、それを理由とした功績倍率法として役員退職給与の過大性を判断することは一般的ではなかったように思われる。 このような状況であったために、この当時は、法人が支給した役員退職給与についての過大性判断について争われた事例は、功績倍率法自体が認められるかどうかという点が中心となっており、功績倍率と功労加算の関係まで言及されているものは見当たらない。ここで、この裁判例が取り上げた株式会社政経研究所は、昭和39年にも『40年度版 役員退職慰労金の決め方』(以下「役員退職慰労金の決め方」という)を刊行しており、法人税法の大改正時の企業の状況が分かる資料となっているため、以下(2)にて触れる。   (2) 「役員退職慰労金の決め方」より 役員退職慰労金の決め方では、大東亜戦争時の経理統制令に触れ、理論的な役員退職慰労金の算定方法を示している。具体的には、役員退職慰労金について、経理統制令には「最終の受けた報酬の半年分に、任期の年数を乗じたものの範囲において支給すべきである」とする枠があったとし、昭和39年当時の大企業において、大体これを追っている企業が多いという言及がある他(5頁)、算定の基礎となる金額について「形としては退職時における報酬をとるのが一番望ましいと思う。それはその人の企業に対する貢献度を、現時点において最も正しく表現している報酬であると認められるから、その人が退職するときには、退職時点における報酬額の1年分の2分の1にしたものに在任年数を乗じたもの」が望ましいとしている(5頁)。 上記によると、この当時から役員報酬の額を基礎とした一定の額に勤続年数を乗じるという考え方自体は企業に浸透していたと思われる。また、企業を対象としたアンケート調査や取材等の結果、「退任時の報酬月額 × 在任年数(又は在任期数)× 役職別倍数」によって役員退職金の額を計算している企業が最も多かったことも明らかにされている(21頁)。 つまり、役員退職慰労金の決め方によれば、役員退職慰労金の算定方法は、経理統制令が色濃い役員報酬の半年分の額に勤続年数を乗じる形から、退任時の報酬月額に勤続年数と一定の役職別の倍数を乗じる形へと、主流の算定方法が変化していったことが示唆されていると思われる。なお、功労加算を規程として設けることについては、「退職役員の効労度(※6)については、取締役全員で判定できる問題である。従って功労加算を加えるかあるいは減額をするかという基準を、あらかじめ内規としてきめておくということはおかしなこと」として否定的な見解が示されている(8頁)。 (※6) 原文ママ。 これらのことから、当時から、多くの企業が現在の功績倍率法と同様の方法によって役員退職慰労金を算定していたため、これらの企業が同業類似法人として抽出される対象となるとともに、裁判所が功績倍率法を是認する根拠の1つともなり、これらの裁判例が蓄積された結果、課税庁が同業類似法人を抽出した功績倍率が3倍であれば過大ではないという現在の認識に収斂していったように思われる。 この点、国税庁が昭和57年、役員退職給与の適正額について不相当に高額なものをチェックするために「退職前適正報酬額 × 在任年数 ×『功績倍率』= 適正退職金額」という算式を作成したと説く見解がある(※7)。これによっても同業類似法人の平均率、つまり3倍程度までが適正とされているが、「国税庁の3程度(※8)というのは、・・・ポスト等から固定的に判定すべきものではない」とし、外形的なポストだけで功績倍率を判断すべきではないという注意喚起もなされている。 (※7) 吉牟田勲「役員退職金の不相当高額の判定-判例の分析から基準まで-」税務事例研究16号(1993)2頁。 (※8) 原文ママ。   (3) 功労加算をどのように考えるべきか (2)のように、功労加算については、加算することを基準として設けるべきではないとする見解が昭和39年当時から存在していた。また、課税庁が功績倍率3倍を採用して更正処分等を行い、その結果不服申立てに移行して、納税者が特別功労加算金を加算すべきだと主張した裁決例として、国税不服審判所平成23年5月25日裁決がある(※9)。 (※9) 裁決事例集等未登載、TAINS:F0-2-514。 これによると「当該役員退職給与の額には、その支出の名目のいかんにかかわらず、退職により支給される一切の給与が含まれるのであるから、・・・特別功労加算金相当額は、本件同業類似法人の功績倍率に反映されているものと解され、これを基礎として算定した役員退職給与相当額(審判所認定額)は、特別功労加算金を反映したものというべきである」として、功労加算部分は既に功績倍率に含有されている旨が示されている。 また、【第12回】で触れた東京高裁平成25年7月18日判決においても(※10)、納税者が最高功績倍率3倍に功労加算30%を加えた額を裁判時点で主張したところ、平均功績倍率法が採用されて納税者の主張が退けられている。なお、本件裁判例についても、更正処分時には3倍が採用されていたため、当初申告で功績倍率を3倍として役員退職給与を計算していれば税務調査で否認されることはなかったという見解がある(※11)。 (※10) 税務訴訟資料263号順号12261、TAINS:Z263-12261。 (※11) 山下雄次『三訂版 オーナー会社のための役員給与・役員退職金と保険税務』(税務研究会出版局、2024)116頁。 これらのことから、実務上、課税庁は功績倍率が3倍までなら認めている実態があると思われるが、功労加算部分を含めたところで判断されている。したがって、功労加算を反映させる場合には、功労加算を含めたうえで3倍以内に収めた倍率で役員退職給与を計算すべきだといえる。   (了)

#No. 590(掲載号)
#中尾 隼大
2024/10/17

基礎から身につく組織再編税制 【第69回】「適格株式移転を行った場合の申告調整」

基礎から身につく組織再編税制 【第69回】 「適格株式移転を行った場合の申告調整」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、適格株式移転を行った場合の申告調整の具体例について解説します。   1 適格株式移転を行った場合の株式移転完全親法人の処理 (1) 前提条件 【株式移転完全子法人A社の株式移転直前の貸借対照表(会計)】 会計上の資産・負債と税務上の資産・負債には差異が生じていません。 【株式移転完全子法人B社の株式移転直前の貸借対照表(会計)】 会計上の資産・負債と税務上の資産・負債には差異が生じていません。 (2) 会計処理 株式移転完全親法人C社の会計処理は、下記のとおりです。 会計上、取得企業の完全子会社の取得原価は、適正な帳簿価額で算定し、被取得企業の完全子会社の取得原価は、時価により算定することとされています。 (3) 税務処理 株式移転完全親法人C社の税務処理は、下記のとおりです。 ① 株式移転完全子法人株式の取得価額 適格株式移転により株式移転完全親法人が取得する株式移転完全子法人株式の取得価額は、次のとおりです(法令119①十二)。 株式移転の直前においてA社の株主は、50人以上のため、株式移転完全親法人C社が取得するA社株式の取得価額は、A社の前期末の簿価純資産価額の9,000となります。 株式移転の直前においてB社の株主は、50人以上のため、株式移転完全親法人C社が取得するB社株式の取得価額は、B社の前期末の簿価純資産価額の5,000となります。 ② 資本金等の額 株式移転完全親法人において株式移転により増加する資本金等の額は、株式移転完全子法人株式の取得価額(取得のために要した費用を除く)となります(法令8①十一)。 株式移転完全親法人C社において増加する資本金等の額は、14,000(9,000+5,000)となります。 ③ 利益積立金額 適格株式移転の場合には、株式移転完全親法人C社の利益積立金額は増加しません。 (4) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。 調整仕訳は、次のとおりです。 上記の調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (5) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (注)※印は調整仕訳により生じたものであることを表示するために記入しています。 ◆ポイント◆ 株式移転完全親法人C社において増加する利益積立金額が0、増加する資本金等の額が14,000となっているかを別表5(1)で確認することが重要です。   2 適格株式移転を行った場合の株式移転完全子法人の処理 適格株式移転の場合には、株式移転完全子法人A社及びB社が有する資産について時価評価を行う必要はなく、特段の課税関係は生じません。   3 適格株式移転を行った場合の株式移転完全子法人の株主の処理 (1) みなし配当 適格株式移転が行われた場合には、株式移転完全子法人の利益積立金額は株式移転完全子法人の株主に交付されないため、株式移転完全子法人の株主においてみなし配当を計上する必要はありません。 (2) 譲渡損益 投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2⑪)。「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 株式移転完全子法人の株主はC社株式のみの交付を受けているため、譲渡損益は生じません。 (3) C社株式の取得価額 株式移転完全子法人の株主が対価として株式移転完全親法人株式のみを交付された場合のその株式移転完全親法人株式の取得価額は、株式移転完全子法人株式の帳簿価額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①十一)。 株式移転完全子法人の株主は株式移転によりC社株式のみを交付されているため、C社株式の取得価額は、A社の株主であったものは、株式移転直前のA社株式の帳簿価額、B社の株主であったものは株式移転直前のB社株式の帳簿価額となります。   (了)

#No. 590(掲載号)
#川瀬 裕太
2024/10/17

相続税の実務問答 【第100回】「先順位の相続人が相続を放棄したことにより相続人となった者の相続税の申告期限」

相続税の実務問答 【第100回】 「先順位の相続人が相続を放棄したことにより相続人となった者の 相続税の申告期限」   税理士 梶野 研二   [答] 相続税の申告書の提出及び納付は、被相続人に相続の開始があったことを知った日の翌日から起算して10ヶ月以内に行わなければなりません。あなたと叔母様の場合には、それぞれが甲の相続放棄を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告及び納税をしなければなりません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続の放棄 (1)  相続が開始した場合、相続人は次の3つのうちのいずれかを選択できます。 (2) 相続人が、相続放棄又は限定承認をする場合には、家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。この申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内(注)に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にしなければならないと定められています(民法915①本文)。相続放棄の申述は、被相続人の住民票除票又は戸籍附票、申述人(放棄する者)の戸籍謄本など所定の資料を相続放棄申述書に添付して行います。相続放棄申述書を提出した後、家庭裁判所から「照会書」が送られてきます。照会に対して回答を行い、その回答に特段の問題がなければ、「相続放棄申述受理通知書」が家庭裁判所から送られてきます。 (注) 相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に相続財産の状況を調査してもなお、相続を承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合には、利害関係人が相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てをすることにより、家庭裁判所はその期間を伸ばすことができることとされています(民法915①ただし書き)。   2 相続税の申告書の提出期限等 相続税の申告書は、被相続人に相続の開始があったことを知った日の翌日から起算して10ヶ月以内に被相続人の住所地の所轄税務署長に提出しなければなりません。また、原則として、同日までに申告書に記載した相続税額を納付しなければなりません。 この「相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうものと解されています(相基通27-4)。すなわち、被相続人に「相続の開始があったことを知った日」とは、被相続人が亡くなったことを知ったという事実だけでは不十分であり、自分がその被相続人の相続人であることを知ったという事実も必要です。 通常、自分が相続人であるにもかかわらず自分が被相続人の相続人であることを知らないということはないだろうと考えられます。しかしながら、先順位の相続人が相続を放棄したことにより、後順位の者が相続人となった場合には、先順位の相続人が相続を放棄して自分が相続人となったことを知った日が、その者が被相続人に相続の開始があったことを知った日となると考えられます。   3 ご質問の場合 甲の相続放棄は、その申述が受理された日に効力が生じることとなります。この申述が受理された日は、家庭裁判所から申述者に送付された相続放棄受理通知書に記載されています。あなた及び叔母様は、この申述が受理された日に伯父様の相続人になります。 つまり、あなたが、被相続人に相続の開始があったことを知った日とあなたが伯父様の相続人となったことを知った日は同じ日ではありません。ご質問の場合、あなたが伯父様の相続人になったことを知った日は、あなたが甲の相続放棄を知った10月15日となります。同様に、叔母様の場合には、10月20日となります。 したがって、あなたの相続税の申告書及び相続税の納税は、10月15日の翌日から10ヶ月を経過する日である令和7年8月15日、叔母様の相続税の申告書及び相続税の納税は、10月20日の翌日から10ヶ月を経過する日である令和7年8月20日となります。 (了)

#No. 590(掲載号)
#梶野 研二
2024/10/17

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第53回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第53回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   (6) 受益権と本件持分 ア 概要 イ 本件持分の発行方式等 ウ 本件持分の譲渡方式等 (7) 米国連邦所得税の課税関係 ア スポンサーの意図 イ 信託課税 ウ 米国持分所有者に対する課税 (8) 非米国持分所有者への課税 (9) 米国における情報申告とバックアップ源泉徴収   (了)

#No. 590(掲載号)
#泉 絢也
2024/10/17

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第56回】「中央出版事件-旧信託法下における外国籍の孫への海外信託贈与-(地判平23.3.24、高判平25.4.3、最判平26.7.15)(その1)」~(平成19年改正前)相続税法4条1項、2項4号、5~9条、(平成18年改正前)信託法1条、(平成18年改正後)信託法2条~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第56回】 「中央出版事件 -旧信託法下における外国籍の孫への海外信託贈与- (地判平23.3.24、高判平25.4.3、最判平26.7.15)(その1)」 ~(平成19年改正前)相続税法4条1項、2項4号、5~9条、 (平成18年改正前)信託法1条、(平成18年改正後)信託法2条~   税理士 中野 洋     1 事案の概要 X(原告・被控訴人)の祖父Fは、平成16年8月4日に米国ニュージャージー州法に準拠して、Fを委託者、米国の信託銀行G社を受託者(以下単に「G」)、Xを受益者とし、券面額500万ドルの米国債を信託財産とする信託を設定したところ、処分行政庁(以下「Y」)はこの信託行為につき平成19年改正前相続税法4条1項(以下、単に「4条1項」)を適用して贈与税の決定処分等をしたことから、Xがその取消しを求めて提訴した事案である。 Xの母Bは、日本を出国した直後に米国でXを出産し、Xは米国籍のみを取得している。Xは、信託行為時において生後約8ヶ月の乳児であったが、本件信託契約後に日本に帰国している。日本国籍を有する父A及び母Bとの間には、Xの他にも長男C、三男Dがおり、Xは二男である。FはAの父親であり、Xからみれば祖父にあたる。 本件信託契約書によれば、本件信託は解約不能の永久信託であり(1条)、Fの子孫らのために設定され、受託者であるGは、自己の裁量により、Xが生存する限りにおいて、Xの教育、生活費、健康、慰安及び安寧のために妥当と思われる金額を、元本及び収益から支払う(同4条1項)。 一方で、4条1項にかかわらず、限定的指名権者である父Aは、新たに受益者となる者を指名する権限を有し(同4条3項)、限定的指名権が行使されたときは、Gはそれらの者のためにも信託財産を保有、管理、分配する(同4条2項1号)。さらに、Gは信託財産をあらゆる種類の投資対象に投資できる旨(同6条8項)、Fは本目的を満たすための適切な投資戦略は生命保険証券への投資であると信ずる旨(同7条1項)、投資顧問としてXの父Aを指名する旨(同8条1項)が記載されていた。 これを受けて、父AはGに対して本件生命保険の契約締結を指示し、Gは同年9月に父Aを被保険者とし、Gを保険契約者兼保険金受取人とする生命保険契約を6社と締結し、一時払保険料として440万ドルを支払ったが、残りの60万米ドルについては米国債として運用されていた。なお、Gの報酬等に関しては、信託より支払われる旨(同条11項)が記載されていた。 本件信託契約において受託者であるGには、信託財産の運用に関して広範な権限が認められている。また、Gは信託財産の分配に関して裁量権を有しており、父Aが死亡し本件生命保険の保険金を受領したとしても、これを直ちに全額Xに支払わなければならない義務を負っておらず、適宜の方法で支払うことが認められている。さらに、限定的指名権者である父Aは、X以外の者を受益者と指名することができる。 本件は平成18年信託法改正及びそれを受けた平成19年相続税法改正前の事案である。当時の4条1項には「信託行為があった場合において、委託者以外の者が信託の利益の全部又は一部についての受益者であるときは、当該信託行為があった時において、当該受益者が、その信託の利益を受ける権利(略)を当該委託者から贈与(略)に因り取得したものとみなす」と規定していたが、4条1項にいう「信託行為」については、相続税法に定義規定が置かれておらず、さらに、4条1項の「受益者」については、相続税法と旧信託法のいずれにも定義規定がなかったところ、原審は、受益者を「利益を現に有する地位にある者」と解し、受益者該当性を否定した。一方、控訴審においては、受益者を「受益権を有する者」とし「受益権」の範囲を広く解することで、受益者該当性を肯定した。   2 争点 Fの相続税対策スキームのフローにあわせて争点が形成されており、簡潔に説明すると、以下のような流れになる。 また、これをフローチャートにすると下記の図のようになる。 (※) 仲谷栄一郎・田中良「海外の信託を利用した租税軽減策~名古屋地裁平成23年3月24日判決~」国際税務31巻9号(2011年)77頁のフローチャートによる説明図を基に筆者一部改変の上作成。   3 原審 原審は、本件信託の設定が信託行為に当たるとしたが(争点1)、Xの受益者該当性(争点2)についてはこれを否定した。 (1) 争点1 ① Xの主張 「信託法1条の規定によれば、(略)受託者に受益者を選定する権限を認めておらず、まして、第三者にその裁量により受益者を選定する権限を与えることは想定されていない」として、わが国の信託法に規定されていない「指名権」や「裁量権」が付加されていることをもって、本件信託がわが国の信託法上の信託ではないと主張する。 ② Yの主張 これに対しYは「信託とは、委託者が信託行為によって、受託者に財産権(信託財産)を帰属させつつ、同時にその財産を一定の目的(信託目的)に従って、受益者のために管理・処分すべき拘束を加えるところに成立する法律関係」であると主張する。 ③ 原審の判示 本件信託の設定が、信託行為に該当するか否かについて、原審は借用概念(統一説)により結論を導いた。曰く「4条1項の『信託行為』については、同法にはこれを定義する規定は置かれていない。このような場合、納税者の予測可能性や法的安定性を守る見地から、税法上の用語は、特段の事情のない限り、通常用いられる用法により解釈するのが相当である。本件においても、信託行為は、信託法により規定されている概念であるので、4条1項の『信託行為』は、信託法による信託行為を意味するものと解するのが相当である。そして、信託法1条によれば、信託とは、委託者が、信託行為によって、受託者に信託財産を帰属させ、同時にその財産を一定の信託目的に従って受益者のために管理処分すべき拘束を加えるところにより成立する法律関係であると解されるところ(略)、委託者であるFが、本件信託の設定行為により、受託者であるGに本件信託財産である本件米国債を帰属させ、受益者とされる原告のために管理処分すべき拘束を加えたものと認められるので、本件信託の設定行為は、4条1項にいう『信託行為』に当たると認められる」とした。 (2) 争点2 ① Xの主張 Xは、4条1項に規定する受益者については、相続税法における他のみなし贈与規定(同法5条ないし9条)と同様に解し「実質的に見て贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある」ことが必要であるなどと主張した。 ② Yの主張 「4条1項は、委託者が他人に信託受益権を与えたときは、信託行為をした時に信託受益権を贈与又は遺贈したものとみなして課税する方法(信託行為時課税)を採用している。そして、Fが本件信託の信託行為をした時は、Fが本件米国債を本件信託財産としてGに引き渡した平成16年8月26日である」などと主張する。 ③ 原審の判示 判示は、信託行為があった場合のみなし贈与の規定(4条1項)を、相続税法における他のみなし贈与の規定と同様に解釈した上で、Xが現実に利益を享受していないことから、4条1項の「受益者」に当たらないとした。 すなわち、同法5条から9条の規定が「いずれも、受贈者とされる者が贈与とみなされる行為によりもたらされる利益を現に有することになったと認められる時に、贈与があったものとみなすと規定されていると理解できる。これらの規定と、通則法15条2項5号を併せて読めば、贈与税は、受贈者とされる者が贈与による利益を現に有することに担税力を認めて、これに対して課税する制度であると理解できる。したがって、相続税法5条ないし9条と同様に、みなし贈与の規定である4条1項にいう『受益者』とは、当該信託行為により、その信託による利益を現に有する地位にある者と解するのが相当である」とし、「Xは、本件信託の設定時において、本件信託による利益を現に有する地位にあるとは認められない」とした。 ((その2)へ続く)

#No. 590(掲載号)
#中野 洋
2024/10/17

〈経理部が知っておきたい〉炭素と会計の基礎知識 【第7回】「炭素に価格を付けるってどういうこと?」

〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第7回】 「炭素に価格を付けるってどういうこと?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔PNパッケージ社の登場人物〕 *  *  * カーボンプライシングは、企業などの排出する二酸化炭素に価格を付け、これによって排出者の行動を変化させて、排出量の削減を促す手法です。カーボンプライシングには、政府によるものと民間によるものとがあり、政府によるカーボンプライシングの代表は「炭素税」と「排出量取引」です。 日本では、2023年5月に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX推進法)が成立しました。このGX推進法は、同年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」のうち、成長志向型カーボンプライシング構想などの実現・実行に関する内容を定めたものです(※1)。この成長志向型カーボンプライシング構想でも、炭素税と排出量取引のしくみが掲げられています。 (※1) 経済産業省「「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました」 経済産業省「「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」が閣議決定されました」 なお、GXは、グリーントランスフォーメーション(Green Transformation)を指す。幅広い文脈で用いられるが、経済産業省は、GXを「化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動のこと」としている。 経済産業省 METI Journal ONLINE「知っておきたい経済の基礎知識~GXって何?」 *  *  * *  *  * 経済学では、企業などによる経済活動が、市場取引によらずに第三者に不利益や損害を与えることを外部不経済といいます。環境汚染はその典型です。たとえば、企業がある製品を製造することで環境汚染が生じ、社会全体がそのコストを負担することになっても、企業はそれを自社の費用とは考えません。結果的にその製品は過剰に生産され、社会的に最適な資源配分は実現されません。 温室効果ガスも、それを排出する者と、それによって不利益や損害を被る者とが異なり、外部不経済と考えることができます。 *  *  * *  *  * こうした問題を解決するための方策として、経済学ではピグー税やボーモル=オーツ税といった環境税の考え方が論じられてきました(※2)。環境税を課すことにより、排出量を削減するインセンティブを企業に持たせることができます。 (※2) ピグー税は、外部不経済を発生させる製品に対して、限界外部費用分の従量税を課す考え方をいう。ボーモル=オーツ税は、政府が限界外部費用の額を把握することは現実には困難であることを考慮し、一定量の排出量削減を社会にとっての最小費用で実現することを目標として、排出量1単位につき一定額を課税する考え方をいう。いずれも提唱者の名前に由来する。 カーボンプライシングの1つである炭素税は、この環境税に通じるものです。排出量取引も、ボーモル=オーツ税と同じように、社会にとって最小費用で二酸化炭素排出量の総量を一定水準にコントロールしようとする考え方に基づきます。 *  *  * *  *  * 炭素税は、石油や石炭などの化石燃料に対し、その二酸化炭素の含有量に応じて税金を課すしくみです。国によって税制の細かい部分は異なりますが、1990年にフィンランドが世界で初めて炭素税を導入して以降、さまざまな国・地域で導入されています。 日本では、炭素税に相当する税として「地球温暖化対策のための税(温対税)」が2012年以降導入されていますが(※3)、その水準は諸外国の炭素税に比べて低いものとなっています。 (※3) 温対税は、石油・石炭・天然ガスといった全ての化石燃料の使用に対し、二酸化炭素排出量に応じて課されるもので、石油石炭税に上乗せする形が採られている。 環境省「地球温暖化対策のための税の導入」 そこで、先述の成長志向型カーボンプライシング構想では、2028年度から化石燃料の輸入事業者等に対し、化石燃料に由来する二酸化炭素排出量に応じて「炭素に対する賦課金」を課すこととされています(※4)。 (※4) 経済産業省「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略) *  *  * *  *  * 一方の排出量取引制度(ETS:Emissions Trading System)は、各企業の二酸化炭素排出量の上限を決めておき、それを超過した企業と下回ることのできた企業との間で、排出枠を取引するしくみです。 【排出量取引のイメージ】 *  *  * *  *  * 排出量取引制度は、EUで2005年から開始されているEU-ETSが知られるほか、中国や韓国でもすでに導入されています。 日本では、東京都と埼玉県が、大規模な事業所を対象として温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度を導入しているものの(※5)、全国規模での排出量取引制度はこれまでありませんでした。 (※5) 東京都「総量削減義務と排出量取引制度について」 埼玉県「目標設定型排出量取引制度」 いずれの排出量取引も相対取引で、取引価格は当事者間の交渉・合意により決定される。 *  *  * *  *  * 日本でも、排出量取引制度の導入に向けた試行的な取組みとして2023年度からGX-ETSが開始されており(※6)、知見やノウハウの蓄積、必要なデータ収集などを行ったうえで、2026年度より排出量取引を本格稼働させる予定とされています。また、2033年度頃からは、発電事業者に対して排出枠の有償オークション(※7)を段階導入することが計画されています(※8)。 (※6) GX-ETSは、GXリーグの参加企業により行われる自主的な排出量取引の枠組みである。GXリーグは、GXに取り組む企業群が官・学と協働する場で、2024年度は747の企業等が参加している。 GXリーグ「GXリーグとは」 経済産業省「GXリーグに2024年度から新たに179者が参画し、合計747者となります」 (※7) 発電事業者に対し、二酸化炭素排出量に応じた排出枠の一部又は全部を、政府からオークションで購入することを義務づけるしくみをいう。 (※8) 経済産業省「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略) *  *  * *  *  * カーボンプライシングの施策に積極的に取り組む国や地域に所在する企業は、コストの増加を避けるため、生産拠点を規制の緩い国や地域に移転する懸念があります。その場合、移転先で排出量が増えてしまうこととなります。いわゆる「カーボン・リーケージ(漏洩)」です。 カーボン・リーケージを回避する方法として考えられているのが、「炭素国境調整措置」です。炭素国境調整措置は、国境で、輸入品に対して国内と国外の炭素価格の差額分の支払いを課す措置をいいます。 【炭素国境調整措置のイメージ】 EUは、世界に先駆けて、炭素国境調整措置(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)を2026年に本格導入する予定で、それに向けた移行期間が2023年10月から開始されています(※9)。 (※9) 移行期間は、本格適用に向けた準備や情報収集を目的とするもので、対象品を輸入する輸入者に、輸入品に含まれる炭素排出量などの報告義務が課される。移行期間中は費用の支払い等は求められない。 欧州委員会「Carbon Border Adjustment Mechanism」 *  *  * *  *  * Q 炭素に価格を付けるってどういうこと? A 企業などの排出する二酸化炭素に価格を付け、これを通じて排出者の行動を変化させて、排出量の削減を促す手法をカーボンプライシングといいます。カーボンプライシングは、企業などの排出する二酸化炭素に価格を付け、これを通じて排出者の行動を変化させて、排出量の削減を促す手法をいいます。政府によるカーボンプライシングの代表は「炭素税」と「排出量取引」で、日本でもこれらの本格導入が予定されています。 (了)

#No. 590(掲載号)
#石王丸 香菜子
2024/10/17

〔まとめて確認〕会計情報の四半期速報解説 【2024年10月】第2四半期決算(2024年9月30日)

〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2024年10月】 第2四半期決算(2024年9月30日)   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第2四半期(中間期)決算(2024年9月30日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。基本的に2024年7月1日から9月30日までに公開した速報解説を対象としている。 公開草案及び適用時期が将来のものは、基本的に記載の対象外としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 会計関係 企業会計基準委員会は次のものを公表している。 〇 移管指針「移管指針の適用」等(内容:日本公認会計士協会の実務指針等について、会計に関する指針のみを企業会計基準委員会に移管するもの) 2024年9月13日、企業会計基準委員会は、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等を公表している。 当該会計基準等は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの適用であり、早期適用として2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができるとされていることから、本稿では記載していない。   Ⅲ 金融商品取引法関係 次のものが公布されている。 〇 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第70号)(内容:「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)を受けたもの)   Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「2024年度品質管理レビュー方針」(内容:品質管理レビューの方針を示すもの) ② 「2023年度 品質管理レビュー事例解説集Ⅰ部・Ⅱ部」(内容:のれんを含む固定資産の減損会計に係る改善勧告事項などを解説している) ③ 「倫理規則」の改正(定期総会に付議する予定の改正案の公表)及び「倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」」の改正(内容:国際会計士倫理基準審議会の倫理規程の改訂等を踏まえた対応。2024年7月18日に開催された第58回定期総会において、「倫理規則の一部変更案」が承認されている) ④ 中小事務所等施策調査会研究報告第9号「第1種中間連結財務諸表等を含む半期報告書に関する表示のチェックリスト」(内容:表示の確認を実施する際の参考となるチェックリスト) ⑤ 中小事務所等施策調査会研究報告第10号「第1四半期又は第3四半期の四半期決算短信に含まれる四半期連結財務諸表等に関する表示のチェックリスト」(内容:表示の確認を実施する際の参考となるチェックリスト) ⑥ 「監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正(内容:倫理規則、四半期開示制度の見直しなどに対応するもの) ⑦ 監査事務所検査結果事例集(令和6事務年度版)(内容:公認会計士・監査審査会による監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたもの) ⑧ 四半期開示制度の見直しに伴う監査基準報告書等の改正(内容:今般の四半期開示制度の見直しを受けて、関連する監査基準報告書等について所要の見直しを行うもの) ⑨ 監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」、監査基準報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」、監査基準報告書700実務指針第1号「監査報告書の文例」及び関連する監査基準報告書等の改正(内容:2023年10月に国際監査・保証基準審議会(The International Auditing and Assurance Standards Board:IAASB)から公表された、IESBA倫理規程の改訂により会計事務所が社会的影響度の高い事業体(PIE)に対する独立性に関する要求事項を適用している場合の開示要求に伴う狭い範囲の改訂を受けたもの)   Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正(内容:倫理規則、四半期開示制度の見直しなどに対応するもの) ② 改定版「会計監査人との連携に関する実務指針」(内容:倫理規則、四半期開示制度の見直しなどに関連し、監査人との適切な連携について記載) ③ 「主要監査業務のポイントと事例研究-監査の実効性と効率性の向上を目指して-(最終報告)」(内容:監査役スタッフの誰もが関わる重要業務を対象にして、その趣旨・目的、業務上のポイント及び留意点、実務上の課題に対応した工夫事例について研究したもの)   Ⅵ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2024年4月1日以後に適用されるもの(早期適用を含む)として、次の会計基準等がある。 ① 「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(2022年10月28日、改正企業会計基準第27号)等(内容:税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果についての取扱いを示すもの。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) ② 実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」等(内容:グローバル・ミニマム課税について、法人税及び地方法人税の会計処理及び開示の取扱いを示すもの。補足文書がある。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用) ③ 企業会計基準第33号「中間財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第32号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(内容:改正後の金融商品取引法上、半期報告書において中間連結財務諸表又は中間個別財務諸表が開示されることに対応するもの。「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)の附則3条に基づき、同法により改正された金融商品取引法24条の5第1項の規定による半期報告書の提出が求められる最初の中間会計期間から適用する) ④ 会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正(内容:「中間財務諸表に関する会計基準」等を受けた改正) (了)

#No. 590(掲載号)
#阿部 光成
2024/10/17

給与計算の質問箱 【第58回】「源泉所得税の扶養親族等の数の変更時期」

給与計算の質問箱 【第58回】 「源泉所得税の扶養親族等の数の変更時期」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 源泉所得税の扶養親族等の数に変更があった場合、いつから給与計算に反映させればよいか、ご教示ください。 なお、当社の給与計算は月末締め翌月25日支払です。 A 扶養親族等の数に変更があった場合の、給与計算における対応は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 原則的な対応 給与の支払を受ける者は、その年最初に給与の支払を受ける日の前日(中途入社の場合は入社後最初に給与の支払を受ける日の前日)までに扶養控除等(異動)申告書を会社に提出する。 その後、申告書の記載内容に異動があった場合は、異動日後、最初に給与の支払を受ける日の前日までに異動の内容を記載した申告書を会社に提出する。会社は申告書を受領後、給与計算において源泉所得税の扶養親族等の数を変更する。 例えば、その月の社会保険料等控除後の給与等の金額が30万円の従業員が、10月10日に結婚し控除対象配偶者が追加になった場合は、10月24日までに扶養控除等(異動)申告書を会社に提出する。会社は10月25日支払の給与計算より、天引きする源泉所得税を8,420円(扶養親族等の数0人)から6,740円(扶養親族等の数1人)に変更する。 〈図表〉源泉徴収税額表 (出典) 国税庁「給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)」より抜粋   2 例外的な対応 年の中途で控除対象配偶者が死亡し、死亡した時点で控除対象配偶者の条件を満たしている場合(配偶者のその年の1月1日から死亡日までの合計所得金額が48万円以下)は、年末調整で配偶者控除の適用を受けられる。 したがって、扶養親族等の数を変更することなく1人のままで12月25日支払まで給与計算する。年末調整が終わり、翌年1月25日支払から扶養親族等の数を0人に変更して給与計算する。 控除対象扶養親族が死亡した場合についても同様である。 (了)

#No. 590(掲載号)
#上前 剛
2024/10/17

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第58回】「鑑定評価の過程には不動産鑑定士の判断が累積する」~鑑定評価書の利用者からみた留意点~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第58回】 「鑑定評価の過程には不動産鑑定士の判断が累積する」 ~鑑定評価書の利用者からみた留意点~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 前回は、不動産の鑑定評価という行為が、自然的要素よりも人間的要素の強いものであることを述べました。今回は、鑑定評価書の利用者にこのことをより身近に感じていただくために、不動産鑑定士の判断が累積されて鑑定評価の作業が進められていく複数の過程を例に、そのイメージを掴んでみたいと思います。 それとともに、鑑定評価書の利用者が、そこに記載された様々な判断の結果が妥当なものであるかどうかを見極めるために押さえておきたい留意点についても述べていきます。   2 鑑定評価の条件の記載内容とその妥当性 鑑定評価の条件の意義及びどのような場合に条件を設定することができるかについては【第41回】で述べましたが、鑑定評価書の利用者にとっては、これらの内容を理解するとともにその妥当性を確認しておくことが重要です。その理由は、鑑定評価額は評価の前提条件のいかんで大きく異なることもあり得るからです。 詳細は【第41回】を参照いただくこととし、鑑定評価で設定される条件には、対象確定条件(対象不動産の所在、面積及び評価の対象範囲等)のように最初に必ず確定させておかなければならない条件のほかに、想定上の条件や調査範囲等条件のように必要に応じて設定されるものもあります。 例えば、ある人が所有している土地の隣接地を買い取ることにより、もともと形状の悪かった所有地が著しく形状の良い土地の一部に変化する場合には、一般の人が購入するよりも割高な隣接地の価格が求められても不合理ではありません(その理由は、もともとの所有地の価格も上昇するというメリットが生じるためです)。このような前提条件を置いた鑑定評価を行う場合も対象確定条件に該当します。 次に、想定上の条件は、例えば、対象不動産の属する地域が将来○○○○○のような地域に変化することを想定した場合、その価格はどれくらいとなるかという前提に立つものですが、このような条件は都市計画の策定やこれに関する諸規制の変更、改廃に関する行政庁の確実な計画が存しない限り許容されません。 さらに、土壌汚染の状況調査など、不動産鑑定士の通常の調査では対象不動産の価格に対する影響の程度を判断することが難しい場合には、調査の範囲を制限して鑑定評価を行うことも可能となりますが、このような条件は調査範囲等条件に該当します。 条件を設定して鑑定評価を行うことができるというためには、それぞれの条件について鑑定評価上の取扱いが妥当なものと判断できることが必要であり、鑑定評価書の利用者は、鑑定評価書のなかにその条件設定を不動産鑑定士が妥当と判断した根拠が明確に記載されているかどうかを確認することが重要です。   3 価格時点が将来のものとなっていないか 鑑定評価書に記載されている価格時点が将来のものとなっている場合、鑑定評価書の利用者は、その理由(将来時点の鑑定評価を行う特段の必要性)が明確に記載されているかどうかを確認することが重要です。 価格時点を将来のものとすることは、不安定な価格形成要因を基に鑑定評価を行うこととなるため、このような条件は原則として設定してはならないこととされています。   4 不動産鑑定士が対象不動産の実地調査を行った範囲 不動産鑑定士は、対象不動産の物的確認を行うに当たり、現地確認を実施しなければならないことはもちろんですが、なかには(中高層の)テナントの入居している貸事務所等のように、テナントの業務上の都合によりすべてのフロアーについての内覧が困難な場合もあります。 このような場合、鑑定評価書の利用者は、鑑定評価書の以下の点についても目を配る必要があります。   5 鑑定評価書に記載されている資料 鑑定評価に際し、土地に関して以下について調査範囲等条件が設定されている場合でも、このことを理由に法令上の規制の有無(例えば、土壌汚染調査の場合は、土壌汚染対策法上の要措置区域、形質変更時要届出区域の指定の有無)及びその状況が確認できる公的な資料についての記載がなければ鑑定評価書として不備なものとなります。この点も1つのチェックポイントです。   6 区分所有建物及びその敷地の鑑定評価書 区分所有建物及びその敷地の鑑定評価においては、特定の部屋の専有部分及び敷地の持分がその対象となります。しかし、専有部分の属する1棟の建物及びその敷地についても、その状況を鑑定評価書に記載しなければならないこととされています。それは、区分所有建物及びその敷地は、1棟の建物及びその敷地の存在を前提として成り立つものであり、そこで求められる価格も1棟の建物及びその敷地の状況(建築年次、環境条件等)により大きな影響を受けるからです。 鑑定評価書の利用者からすれば、このような事項はあまり意識の対象とはならないと思われますが、チェックポイントとして押さえておくべきです。   7 最有効使用の判定 対象不動産についての最有効使用の方法は1つに絞られます(その意味で、「最」ということばが付されています)。そのため、鑑定評価書にこれが複数記載されている場合(例えば、「中高層マンションの敷地」のほかに「店舗付中高層事務所の敷地」というように)は、どのような鑑定評価の手法が対象不動産にとって最も適切であるかが不明確なものとなります(鑑定評価書で採用されている鑑定評価の手法が、上記の例でいえば「中高層マンションの敷地」としての使用が最有効であると想定していれば、鑑定評価書に「店舗付中高層事務所の敷地」も最有効使用として記載しては整合性がとれないこととなります)。併せて、最有効使用の判定の理由が明確に記載されているかどうかも、重要なチェックポイントとなります。 また、対象不動産の現状とは異なる用途を近隣地域の標準的使用と判定する一方で、対象不動産の最有効使用は現状の用途の継続であると判定されることも実際にはあります。 その例として、近隣地域の標準的使用が戸建住宅の敷地で、対象不動産の現状が共同住宅(建築後かなりの年数が経過しているが、賃貸に供されており、建物が古い割には安定した一定の収益が得られている)というケースがこれに該当します。 このようなケースでは、現存する建物(共同住宅)を撤去し、(近隣地域の標準的使用である)戸建住宅の敷地の用に供しようとしても多額の撤去費を要し、最有効使用を実現するには経済合理性に見合わない出費を伴うという判断が働くことがあります。すなわち、現状と同じ用途のまま賃貸を継続していく方が費用対効果から判断して合理的であるという考え方です。 鑑定評価書のなかに、対象不動産の現況は近隣地域の標準的使用とは異なるが、現況の使用方法をもって最有効使用と判定した旨の記載がある場合、鑑定評価書の利用者はその理由が明確に鑑定評価書のなかに記載されているかを確認しておく必要があります(上記のケースは、標準的使用と最有効使用の異なる理由を説明する1つの例といえます)。   8 まとめ 今回取り上げた内容は、不動産鑑定士の判断が累積されて鑑定評価という行為が進めらていく過程の一例です。 鑑定評価書の利用者は、結果としての鑑定評価額だけでなく、不動産鑑定士の判断結果が鑑定評価書のどこにどのように記載されているのかという視点をもつことにより、一層有意義な活用方法が見出せるものと思われます。 (了)

#No. 590(掲載号)
#黒沢 泰
2024/10/17

《税理士のための》登記情報分析術 【第17回】「代表取締役等の住所非表示措置」

《税理士のための》 登記情報分析術 【第17回】 「代表取締役等の住所非表示措置」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   令和6年10月1日から、代表取締役等の住所非表示措置が施行された。会社の登記記録には、これまで代表取締役等の住所が記載されてきたが、希望者が申出を行えば一定の要件のもとに、住所の記載を最小行政区画までに留めるという制度である(以下、「本制度」という)。税理士にも本制度の利用を希望する顧問先から相談が寄せられる可能性があるため、本連載でその概要を紹介するものとする。   1 制度創設の背景 本制度の創設の背景には、プライバシー保護の要請の高まりがある。 会社の登記記録に代表取締役等の住所が記載されてきた趣旨としては、会社に対する訴訟や連絡を容易にするためといったものがある。会社に対する訴訟を起こしたい場合に、事務所の閉鎖等により会社の本店に訴状が送達できないときには、代表取締役等の個人の住所に訴状を送達するといったことが行われている。 一方で、インターネットの発達により、情報を入手・拡散することが簡単になり、登記された代表取締役等の個人の住所情報が様々な犯罪や迷惑行為に悪用されるおそれも指摘されていた。本制度はそうした懸念について対応するものである。   2 本制度の対象 本制度の対象となるのは、株式会社の代表取締役等(代表執行役、代表清算人を含む)の住所である。一般社団法人や医療法人の代表者についても住所が登記されるが、本制度の対象とはなっていない。 【住所非表示措置が施される前の登記記録例】 【住所非表示措置が施された後の登記記録例】   3 本制度の利用方法 本制度を利用するには、利用を希望する者が、登記官(法務局)に対してその旨の申出を行う必要がある。注意が必要なのは、申出だけを単独で行うことはできないということである。 以下のような、代表取締役等の住所を登記することとなる登記申請と同時にする場合に限り、申出を行うことができる。 【本制度の申出を行うことができる登記申請】   4 本件制度利用の必要書類 申出の際には、登記の申請書に本制度の利用を希望する旨等を記載するほか、以下のような添付書面が必要となる。協力関係にある司法書士に依頼すれば、準備をすることが可能であろう。 【申出の添付書面】   5 本制度利用にあたって検討すべきこと 本制度は、代表取締役等のプライバシー保護の観点からは優れた制度ではあるが、実際に利用するかどうかは、以下の点について理解したうえで判断をするとよいだろう。 (1) 本人確認が煩雑になる可能性がある 銀行との取引や登記手続にあたって、代表取締役等の本人確認が求められるが、本制度を利用すると登記記録からは代表取締役等の住所を確認することができないため、別途代表取締役等の住民票の写しや印鑑証明書の提示を求められる可能性がある。不動産業のように頻繁に銀行取引や不動産取引を行う事業者の場合は、手間が増える可能性もある。 (2) 代表取締役等の住所が登記事項であることは変わりがない 本制度を利用した場合でも、代表取締役等の住所が登記事項であることは変わりがない。よって、代表取締役等の住所が変更された場合には、忘れずに登記申請を行う必要がある。本制度を利用すると、代表取締役等の住所自体が登記不要になったと誤解してしまうおそれがあるが、正確な認識が必要となる。 なお、本制度の利用を終了したい場合には、その旨の申出をすることで終了させることができる。この申出は登記申請と同時である必要はなく、単独で行うことができる。 (了)

#No. 590(掲載号)
#北詰 健太郎
2024/10/17
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