《速報解説》 国税庁特設サイトで「令和6年分所得税の定額減税Q&A」が公表される ~全59問。今後の更新にも留意~ Profession Journal 編集部 既報のとおり、令和6年度大綱で示された所得税の定額減税制度については、令和6年1月22日に財務省・国税庁から源泉徴収義務者に向けた実施要領案が公表された後、同月30日には定額減税特設サイトが開設され、サイト内においてパンフレット(給与等の源泉徴収義務者に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた)も掲載されたところだ。 さらにこのたび2月5日付けで、より細かい解説が収録された「令和6年分所得税の定額減税Q&A」(以下「定額減税Q&A」という)が特設サイト内に公表された。 定額減税Q&Aは、本制度の概要や「同一生計配偶者」等の用語の定義に加え、令和6年1月1日時点で扶養親族であった親族が同年5月に死亡した場合に月次減税額の計算に含めるか(問6-11)など、今後実務において想定しうる具体的なケースについて、全59の問答で明らかにしている。 他に、問2-2では、定額減税の適用には所得制限があるが、合計所得金額が1,805万円を超える人についても主たる給与の支払者のもとで定額減税の適用を受けるのか、という問いに対し、合計所得金額が1,805万円を超える人であっても、主たる給与の支払者のもとでは、令和6年6月以後の各月(日々)において、給与等に係る控除前税額から行う控除(月次減税)の適用を受けることになるとしている。 一方で、合計所得金額が1,805万円を超える人については、年末調整の際に年調所得税額から行う控除(年調減税)の適用が受けられないので、年末調整の際にそれまで控除した額の精算を行うことになる。ただし、主たる給与の支払者からの給与収入が2,000万円を超える人については年末調整の対象とならないため、その人は確定申告で最終的な年間の所得税額と定額減税額との精算を行うことを示している。 また、問2-1では、定額減税の適用対象者について次のようにまとめられているので、まずは対象者の洗い出しに向け、あらためて確認しておきたい。 なお、所得税の定額減税(月次減税)については本年6月1日以後最初に支払を受ける給与等(賞与含む)に係る源泉徴収時から実施されるため、実施までに事業者等からの問い合わせを受け情報が更新(問答の追加等)される可能性もあるため、最新情報を確認するよう留意されたい。 最後に、本減税措置の根拠については、令和6年度税制改正関連法案が2月2日に通常国会へ提出されており、租税特別措置法の第2章第5節の2(第41条の3の3~3の10)として規定されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2024年2月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.554を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.132- 「暗雲垂れ込めるデジタル税制」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 OECD/G20で進めてきたデジタル税制の議論が、ここにきて大きな転機を迎えている。このままいくと、せっかくの合意が実行に移されず、デジタル経済が混乱したり、米国と欧州とを主戦場とした貿易戦争に発展する可能性がある。筆者が得ている情報の範囲で現状を述べてみたい。 * * * 問題が生じているのは、OECD/G20の主導するBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトの第1の柱(ピラーワン)と呼ばれる合意である。周知のように、物理的拠点(PE)がなくても市場国側で課税できる新たな国際課税ルールが創設され、売上が200億ユーロ(約3兆円)超かつ利益率が10%超の多国籍企業を対象に、利益率10%を上回る超過利益の25%を売上に応じて市場国に配分することとされた。当初、2023年中の多国間条約(MLC)の署名と2025年中の条約発効が目標とされた。 しかし、その後昨年12月に、OECDから「2024年3月末までにMLCの条文を確定し、2024年6月末までに署名式を開催することを目指す」という声明が発表され、目標が半年延長された。 この背景には、米国とグローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国の動向がある。米国は伝統的に国内法を縛る国際条約の締結に消極的という議会の事情がある。米国が参加しなければ条約は発効しない。またグローバルサウスにとっては、この合意では実入り(実際に入ってくる税収)が少ないという不満がある。 筆者が懸念するのは、この合意が遅れることによって、欧州諸国やインドなどで導入されているデジタル・サービス・タックス(以下、DST)が復活、恒久化される可能性があることである。 DSTについては、すでに導入している国は条約が締結されれば廃止すること、導入していない国は2024年末まで導入しないことが合意されている。 現在フランス、英国、イタリア、オーストリア、スペイン、インド、トルコの7ヶ国がDSTを導入している。フランスでは、対象ビジネスの域内売上に3%課税するデジタル広告税が2020年から導入され、英国では対象ビジネスの域内売上への2%課税が2020年末から再開している。 これらの7ヶ国は米国との間で、米国が制裁関税の発動をしないかわりに、条約が発効するまでDSTを第1の柱による税額と同水準にとどめること、第1の柱で配分されるべき税収を超えた部分の税額は条約発効後に税額控除できるという合意を行っている。 デジタルサービスに売上税をかけるDSTは、法人税との二重課税を生じさせる。各国がばらばらと導入すればデジタルビジネスは混乱するなど多くの問題を抱えている。GAFAは価格支配力が強いので、容易にDSTを顧客に転嫁できることから、結局消費者が負担する消費増税になるという見方もある。 加えて、米国との間で相殺関税の発動などの貿易戦争を招きかねない。すでにトランプ政権時代に、米国がフランスのチーズなどの関税を引き上げるとしてけん制した過去がある。 このように、長年の議論を経てせっかく合意にこぎつけた第1の柱であるが、今後については極めて不透明な状況にある。トランプ政権が誕生すればさらに困難性は増す。 OECDで、二重課税の調整のできる形でのDST(その場合、もはや売上税とは言えないが)の検討を始めるべきだという意見も出始めている。今年前半の各国の動向に注目したい。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例59】 「遺跡の調査・発掘に関する請負業務代金の未回収分に係る貸倒損失該当性」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、関東地方のある県庁所在地に本社を置き、建築・土木工事業を営む株式会社X(資本金3億円で3月決算)に勤務しており、現在総務部長を務めております。わが社はもともと宅地造成や住宅の建設工事などを行っている普通の建設会社でしたが、十数年前にたまたま地元自治体から依頼を受けて遺跡の発掘調査に携わったことから、最近の主たる業務は遺跡の調査・発掘に関する請負業務となっております。 遺跡の発掘作業が必要なケースというものは突然現れるもので、例えば、もともと企業の社宅として利用されていた敷地につき、当該企業が業務効率化の一環で社宅を廃止し、当該敷地をマンション用地として大手ディベロッパーに売却するという事例は非常にありふれたものですが、その際にマンション開発を担当したディベロッパーが当該敷地を掘り返したところ、運良く(むしろ悪く?)弥生時代の土器や石器が発掘されるというのが典型例となります。 発掘調査は地元や周辺の自治体の依頼で行うのですが、ケースによっては自治体が直接発注するのではなく、中間に任意団体(人格なき社団)を介して依頼される場合もあります。今回の税務調査で問題となったのは、この中間に任意団体を挟んだケースです。すなわち、元々話を持って来たのは地方自治体であるとはいえ、契約の相手方は当該任意団体であり、任意団体には当然信用力もなく、億単位の発掘費用を支払う能力があるのか疑問視されます。実際、契約で定められた着手金5,000万円の支払いは2ヶ月遅れ、残額は契約が終了した時点では1円も支払われておりません。したがって、わが社は未収入金として計上していた残額1億6,000万円について回収不能と判断し、全額その期において貸倒損失として損金処理を行いました。 しかし、国税局の調査官は、任意団体は地方自治体と一体で活動しているため信用力は十分である上、残額の支払いが遅延したのは発掘調査が天候不順のため当初予定より伸びたことが原因で、任意団体の支払い能力とは何ら関係がないことから、貸倒損失として損金処理することはできないと言ってきました。この場合、法人税法上はどのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 任意団体に対する債権である未収入金が貸倒損失として損金算入されるためには、債務者である当該任意団体の業務執行状況や財務状況、契約主体である代表者の法的性格といった諸般の事情を総合的に考察して、損金算入した事業年度末の時点において既に当該未収入金の回収が不能であることが客観的にみて明らかであったことが必要となりますが、その点に関する事実認定が損金算入の可否にかかる有力な判断材料となるでしょう。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 遺跡調査 一般に「遺跡」とは、文化財保護法に定める埋蔵文化財を包蔵する土地及びその範囲のこと(周知の埋蔵文化財包蔵地)を指す。ここでいう「埋蔵文化財」とは、土地に埋蔵されている、①遺構(住居、古墳、城跡等)及び、②遺物(土器、石器、鉄製品等)をいう。 また、文化財保護法では、土地の所有者又は占有者が出土品の出土等により貝塚、住居跡、古墳その他遺跡と認められるものを発見したときは、その現状を変更することなく、遅滞なく、その旨を文化庁長官に届け出なければならない、とされている(文化財保護法96①)。 埋蔵文化財の取扱いをフローチャートで示すとおおむね以下の図の通りとなる。 〇 埋蔵文化財の取扱いに係るフローチャート (出典) 日野市ホームページ「埋蔵文化財保護の手引き」3頁 さらに、埋蔵文化財の発掘調査は実際には建設会社が担うケースが多いが、その流れはおおむね以下の通りとなる(※1)。 (※1) 株式会社島田組ホームページ「発掘調査の流れ」 (2) 貸倒引当金及び貸倒損失の意義 今日の信用取引においては、個別の金銭債権について、一定の客観的事実が生じた場合には、当該信用取引を運営する際の一種のコストとして、現実の貸倒れを待たず、貸倒損失を引当金として見越計上するのが会計理論上確立した見解である。法人税法も基本的にこの考え方を踏襲し、以下の2つに該当する場合における貸倒引当金の計上を認めている(法法52①②)(※2)。 (※2) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)425-427頁。 貸倒引当金に関しては、従来、「法定繰入率」と「貸倒実績率」とのいずれかの選択適用が認められていたが、平成10年度の税制改正で、専ら財源捻出のために引当金全般の整理・縮小がなされ、貸倒引当金に関しては「法定繰入率」が廃止された(※3)。 (※3) 武田隆二『法人税法精説』(森山書店・2003年)839頁。 なお、金銭債権が現実に貸倒れとなった場合には、それは貸倒損失として貸付元法人における損金となる(法法22③)。 (3) 遺跡の調査・発掘に関する請負業務代金の未回収分に係る貸倒損失該当性が争われた事例 それでは、本件と同様に、任意団体から請け負った遺跡の調査・発掘に関する業務代金の未回収分について、その貸倒損失該当性が争われた事例(横浜地裁平成17年5月18日判決・税資255号-151(順号10032)、TAINSコード:Z255-10032)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、本店を横浜市に置き、土木・建築工事の請負及び設計・管理並びにこれに附帯する一切の業務を目的とし、遺跡の調査及び発掘を主たる事業の1つとする株式会社である原告が、平成5年10月1日から平成6年9月30日までの事業年度の法人税及び同課税期間の消費税について確定申告をし、その後、修正申告をしたところ、鶴見税務署長が、原告には、他にも請負代金等があり、これについての法人税に係る売上計上もれ及び消費税に係る課税標準額算入もれがあったとして、平成9年7月8日付けで各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分をしたことから、原告が、上記請負代金等の「未収入金」については、貸倒損失として損金の額に算入されるべきものであって、結局、上記請負代金等は上記事業年度の法人税及び上記課税期間の消費税の課税の対象とはならないから、上記各課税処分は違法であるなどと主張して、上記各課税処分の取消しを求めた事案である。 なお、本件各課税処分は、原告の本件事業年度の法人税及び本件課税期間の消費税について、原告が、確定申告及び修正申告分以外にも、東京都町田市の任意団体である「B遺跡調査会」から請け負った遺跡の発掘工事及び現場倉庫の設置工事に係る請負代金並びに仮設現場事務所の賃貸に係る賃貸料として合計8,608万9,396円の売上が存在していたにもかかわらず、これを法人税に係る所得金額及び消費税に係る課税標準額の計算上、計上していなかったことを理由とするものであった。 ② 事案の争点 本件事業年度において、未収入金である本件請負代金等について、これを原告の主張通り貸倒損失として計上することができるかどうか。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されているが(東京高裁平成17年10月26日判決・税資255号-295(順号10176)、TAINSコード:Z255-10176)、棄却されて確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 文化財保護法では、土地の所有者又は占有者が、その敷地内から(運悪く?)出土品の出土等により貝塚、住居跡、古墳その他遺跡と認められるものを発見したときは、その現状を変更することなく、その旨を文化庁長官に届け出なければならない、とされている(文化財保護法96①)。したがって、例えばマンションのディベロッパーが、企業の社宅をマンション用地として購入した後、当該用地に基礎工事を行っている最中に文化財が出土された場合には、直ぐに工事をストップさせ、遺跡の発掘調査に移行しなければならず、相当の追加負担が求められることとなる。 もっとも、発掘調査を受託する建設会社等にとっては、遺跡の発見はビジネスチャンスであり、土地所有者とは対照的である。当該建設会社に対して遺跡の発掘調査を依頼するのは通常、地方自治体(市町村)であり、土地の所有者ではない。ただし、この場合も、地方自治体が直接契約するケースのほかに、市町村や教育委員会がバックに控える任意団体との間の契約となるケースもみられるところである。今回問題となったのは、任意団体との間で契約を締結したケースである。 任意団体(人格のない社団)には法人格がなく、契約主体とはなれない。したがって、契約は団体の構成員である代表(市町村教育委員会の役職者が就任する場合が多い)との間で締結することとなる。したがって、任意団体との契約関係を検討する際には、特に契約主体である任意団体の代表者の地位・法的性格が重要になるだろう。任意団体そのものの財務的信用性は、一般に高くないであろうが、任意団体が遺跡発掘業務に関し単独で業務執行を行うことは考え難く、通常、本来の契約主体である市町村ないし市町村教育委員会の指示・命令に基づき実行されるであろう。また、予算措置も市町村ないし市町村教育委員会が行い、それに基づいて必要な資金が任意団体に供給されることとなる。そうなると、任意団体に対する債権である未収入金が貸倒損失として損金算入できるかどうかを判断する際には、任意団体の財務状況等を単体で評価するのは適切ではなく、そのバックに控える市町村ないし市町村教育委員会の役割・機能を踏まえて評価すべきとなるであろう。 (4) 本件へのあてはめ 遺跡調査の発掘事業に係る任意団体に対する債権である未収入金が貸倒損失として損金算入されるためには、債務者である当該任意団体の業務執行状況や財務状況、契約主体である代表者の法的性格といった諸般の事情を総合的に考察して、損金算入した事業年度末の時点において既に当該未収入金の回収が不能であることが客観的にみて明らかであったことが必要となるが、その点に関する事実認定が損金算入の可否にかかる有力な判断材料となるものと考えられる。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第35回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 7 暗号資産同士の交換時に課税しないという改正要望 前回の6のとおり、異なる種類の暗号資産同士の交換も課税イベントになるため、交換時に、取得する新たな暗号資産の時価(等価交換であれば、保有している暗号資産の時価と同額)と、その暗号資産の取得価額との差額が課税所得に反映される。 このように暗号資産同士の交換時に、保有していた暗号資産の含み損益が課税の対象となると、頻繁に暗号資産同士を交換する者にとっては所得計算が非常に煩雑になる。また、法定通貨に交換していない段階で納税を強いられるため、暗号資産を売却して法定通貨に交換せざるをえないというような事態も生じる。 したがって、一般の暗号資産ユーザーからは、暗号資産同士の交換時に課税するのをやめてほしいという声が上がっている。 この点について、一般社団法人日本暗号資産取引業協会=一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会「2024年度税制改正に関する要望書」(2022.7.31)16-17頁は、次のとおり、暗号資産同士の交換について、交換時に課税せずに、法定通貨に交換するまで課税を繰り延べることを検討すべきであるという見解を示している。 ただし、上記の見解は、暗号資産同士の交換について課税を繰り延べることを要望しているのではなく、その検討を要望するという慎重な言い回しを採用している(※1)。 (※1) 暗号資産同士の交換時における課税の撤廃を要望する一般社団法人日本ブロックチェーン協会「暗号資産に関する税制改正要望(2024年度)」(2023.7.28)15-16頁は、次のとおり述べたうえで、支払手段としての性格を重視するのであれば、暗号資産が実際に支払手段として使われた際(例えば、日本円などの法定通貨との交換や物の購入等で暗号資産を使用した場合)に課税すればよいと考えられ、暗号資産同士の交換においては課税を撤廃することには一定の合理性があるといえるのではないか、と提案している。 その背後には、個人の分離課税、法人税の第三者が発行する暗号資産の期末時価評価課税対象外(※2)、相続税の財産評価等の改正要望という上記要望書で特に強調している項目と異なり、上記の交換の論点は、制度上の整理にとどまらず、新たな計算方法の採用や暗号資産の色分け(事実上ステーブル性のあるコインか否かなど)など検討すべきことが多岐に渡ることから、まずは上記3項目の改正を優先とし、その後の将来的な要望とするという考え方が存在するようである。 (※2) 令和6年度税制改正で一定の要件を満たすものについては、期末時価評価課税の対象外となる見込み。 上記見解は、具体的に解決すべき主な論点として、要旨次の点を挙げている(上記要望書20-21頁)。 上記①との関係では、上記見解は、ステーブルコイン(※3)の交換も同様に課税対象外とした場合、実質的には外国為替取引(FX)と同じ効果を生むにも関わらず、外国為替取引については課税対象となり、ステーブルコインへの交換は課税されないという不均衡が生じる可能性があることを指摘している。 (※3) 他の通貨、コモディティ、金融商品の価値にペグする(固定する)ように設計されている暗号技術を利用したトークンであり、価格変動幅の大きい通常の暗号資産と異なり、価値ないし価格の安定化を謳っている。資金決済法上の暗号資産や電子決済手段(決済2⑤⑭)などに該当する可能性がある。 他方で、ステーブルコインへの交換については課税対象とする場合、ステーブルコインとステーブルコイン以外の暗号資産で税の取扱いが異なることになるため、ステーブルコインの定義や対象を明確化する必要が生じるとしている。 上記①の問題は、中立性の問題ともいえるだろう。同じ投資手段であったとしても、暗号資産とそれ以外の投資手段との間で税制の取扱いが異なる場合、投資家の経済合理的な判断を税制が歪めてしまう可能性があるからである。 このように暗号資産同士の交換の課税繰延べについては議論のあるところだが、次のとおり、自由民主党デジタル社会推進本部web3PT「web3関連税制に関する緊急提言」(2022.11.10)も検討すべきであることを指摘している。 その後の自由民主党デジタル社会推進本部web3PT「web3ホワイトペーパー~誰もがデジタル資産を利活用する時代~」(2023.4)9頁も、次のとおり、同様の見解を採用している。 参考として、平成30年3月22日の参議院財政金融委員会において、星野次彦財務省主税局長は、次のとおり答弁している。 また、令和4年4月13日の衆議院財務金融委員会において、鈴木俊一国務大臣は、次のとおり答弁している。 このように、暗号資産同士の交換時に課税しないという改正については、まだまだ「検討されるべきである」段階にすぎず、関係省庁の税制改正要望にも盛り込まれてはおらず、現時点では、直ちに改正がなされるという気配はない。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q86】 「暗号資産取引に係る利益を雑所得として申告する場合の帳簿保存」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 暗号資産取引により生じた利益の所得区分 暗号資産(資金決済に関する法律第2条第14項に規定するものをいいます)を譲渡したことによる利益は譲渡所得ではなく、原則として、雑所得に区分することが、国税庁が公表している「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和5年12月25日)」 問2-2において明らかにされています。 また、事業所得等の基因となる行為に付随するものである場合には事業所得として取り扱うこととされていますが、例えば、事業用資産として暗号資産を保有し、棚卸資産等の購入の際の決済手段として使用する場合に生じた所得は事業所得とされています。 2 事業所得と雑所得の区分 事業所得と雑所得をどのように区分するかの判断は実務上難しいと言われていましたが、令和4年10月に改正された所得税基本通達35-2(注)で下記の整理が示されました。 これによると、収入金額が300万円を超える場合、暗号資産に係る取引を記録した帳簿書類を作成し、これを保存していると、原則として事業所得として取り扱い、そうでなければ、事業所得と認められる事実がない限り、原則として「業務に係る雑所得」として取り扱うことになるものと考えられます。 「業務に係る雑所得」に該当する場合、その年の前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超えると、請求書、領収書その他これらに類する書類のうち、現金の収受もしくは払出し又は預貯金の預入もしくは引出しに際して作成された書類(現金預金取引等関係書類)を保存する義務が生じます。 さらに、その年の前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が1,000万円を超える場合には、確定申告の際、総収入金額や必要経費の内容を記載した書類(収支内訳書など)の添付が求められます。 なお、その年の前々年分の収入金額が300万円以下である場合には、現金主義による申告が認められます。 3 本件へのあてはめ おたずねの場合、2年前から暗号資産に係る譲渡収入が300万円を超えているとのことですので、暗号資産取引に係る利益については、原則として、業務に係る雑所得として区分して確定申告することになると考えられます。 2年前(前々年)の収入金額が300万円を超えますので、確定申告書の提出に加えて、現金預金取引等関係書類を保存しておくことが求められます。さらに、これが1,000万円を超える場合には、総収入金額や必要経費の内容を記載した書類(収支内訳書など)を作成して、確定申告書に添付することになります。白色申告者であっても、取引の記録を保存し、収支内訳書などの書類を作成することが要請されますので注意が必要です。 (了)
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第37回】 「経済活動基準の充足に関する手続要件」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 現行制度において、経済活動基準の充足に関する手続要件はどのように規定されているのでしょうか。 〔A〕 平成29年度税制改正により、確定申告書に適用除外に該当する旨を記載した書面の添付及び適用除外に該当することを明らかにする資料等の保存の要件は撤廃されましたが、制度の実効性の確保の観点から課税当局からの書類・資料の提示又は提出の要求、及び当該提示又は提出がない場合の推定規定が導入されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 経済活動基準の充足に関する推定規定 平成29年度税制改正前は、確定申告書に、適用除外に該当する旨を記載した書面を添付し、かつ、適用除外に該当することを明らかにする資料等を保存している場合に限り適用除外要件を充足することとされていたが、同改正により、当該規定は廃止された。一方で、制度の実効性の確保の観点から、課税当局からの書類・資料の提示又は提出の要求、及び当該提示又は提出がない場合の推定規定が導入された。 具体的には、税務当局の当該職員は、内国法人に係る外国関係会社が経済活動基準の各要件(措法66の6②三イ~ハ)に該当するかどうかを判定するために必要があるとき(注1)は、その内国法人に対し、期間を定めて、その外国関係会社が経済活動基準の各要件に該当することを明らかにする書類その他の資料(注2)の提示又は提出を求めることができることとされ、この場合に、その書類その他の資料の提示又は提出がないときは、その外国関係会社は経済活動基準の各要件に該当しないものと推定することとされた(注3)(措法66の6 ④)(※1)。 (注1) その外国関係会社が特定外国関係会社に該当しない事実が確認され、かつ、その外国関係会社の対象となる事業年度の租税負担割合が20%以上である事実が客観的に確認される場合には、その外国関係会社の対象となる事業年度の適用対象金額については、本税制の適用免除とされるため、その外国関係会社がその対象となる事業年度において経済活動基準の各要件に該当するかどうかを判定する必要はない。 (注2) 平成29年度税制改正前に適用免除規定の適用を受けるための要件として、確定申告書に添付し、又は保存すべきこととされていた書類その他の資料は、改正後の経済活動基準の各要件に該当することを明らかにする書類その他の資料が含まれるものと考えられる。 (注3) 経済活動基準の各要件に該当しないものと推定されると、ペーパー・カンパニー等に該当しない対象外国関係会社として取り扱われる。ただし、経済活動基準のうちの実体基準及び管理支配基準を満たすことを明らかにする書類その他の資料の提示又は提出がないために、その外国関係会社がペーパー・カンパニー等の特定外国関係会社に該当すると推定される場合(措法66の6③)には、特定外国関係会社への該当が優先される(措法66の6②三)。 (※1) 財務省「平成29年度税制改正の解説」684頁参照。 以下では、適用除外要件充足に係る書類添付の有無が問題とされた最近のサンリオ事件を検討する。 2 最近の裁判例 《サンリオ事件》(※2) (※2) (第一審)東京地裁令和3年2月26日(令和元年(行ウ)第325号)・TAINSコード:Z271-13531 (控訴審)東京高裁令和3年11月24日(令和3年(行コ)第101号)・TAINSコード:Z271-13633、(確定) (1) 事案の概要 本件は、X(原告・控訴人)が、香港に設立した子会社との間でキャラクター利用権の許諾に係るライセンス契約を締結し、当該香港子会社が第三者との間で再許諾を行うサブライセンス契約を締結し使用料収入を得ていることにつき、課税庁から、当該香港子会社が特定外国子会社に該当するとして処分を受けたため、これを不服として提訴した事案である。争点は、香港子会社の主たる事業は、適用除外基準の内の事業基準に掲げられている「著作権の提供」か、Xが法人税等の確定申告書に適用除外記載書面を添付していなくても、適用除外規定の適用を受けられるか否かであった。 (2) 裁判所の判示 本件の第一審において、Xは、香港子会社の事業について、単なる著作権を同子会社に付け替えるだけのものではなく、香港子会社は商品化関連業務・販促関連業務・イベント関連業務という複合的なサービス事業を行っているため、主たる事業は著作権の提供ではないと主張した。これに対し、東京地裁は、香港子会社の主たる事業は何かについては判断せず、法人税等の確定申告書に適用除外記載書面を添付していないことを理由に、適用除外規定の適用を受けられないと判断した。その控訴審である東京高裁も、法令の文言及びその規定の趣旨によれば、適用除外記載書面の添付が適用除外規定の適用要件と解されることは明らかである(※3)として納税者の控訴を棄却した。このように、地裁・高裁が、課税処分の違法性について判断を避け、手続的要件該当性のみにより判断を下したことについては批判(※4)がある。 (※3) 確定申告書への書面の添付及び保存の要件は、平成27年には宥恕規定が導入され、平成29年には規定そのものが廃止されたことで、もはや法定申告期限とは直接関係しない規定振りとなっているにもかかわらず、裁判所は事件当時の手続要件に固執しており、その姿勢にも問題があろう。 (※4) 岡村忠生「サンリオ事件判決への疑問」(国際税務Vol.42 No.4)39頁は、「極端に形式主義的な判断方法を取り、特定外国子会社等の事業内容に関する実質的な争点についての判断を回避している。しかし、このような判断方法は、域外課税の要素を持つタックス・ヘイブン対策税制を、国際的租税回避の防止という本来の目的を超えて不当に拡大するものとして、とうてい容認できるものではない。(中略)本来の争点(「著作権の提供」とは何か。)を審理することは、担当裁判官にとって大きな負担となったとは思われるが、裁判所本来の役割である法制度の意味や解釈の討究を回避することは、決して正しいことではない。それは、納税者が租税回避をするのと同罪だ。」と厳しく批判している。 なお、本件の国税不服審判所の裁決では、香港子会社はサブライセンサーとしての地位に基づき、その業務の中で著作物の現地化による二次的著作物の開発等も行っているが、当該二次的著作物に係る権利はXに帰属するとした上で、最終的にサブライセンシーとの間でサブライセンス契約を締結しており、当該開発等に係るデザイン料等を別途請求することなく、当該契約に定められたロイヤルティ料率等に基づいてロイヤルティ収入を得ていると認められることから、同香港子会社が得るロイヤルティ収入に係る事業は、著作権の提供を事業とするものとして請求を棄却している(令元.6.20東裁(法)平30-163)。 (3) 本判決の射程 上記1のとおり、現在では経済活動基準の充足に関する書面の確定申告書への添付要件は撤廃されたので、本判決は平成29年度税制改正前の事例判決ということができる。しかし、以下で述べるように、本税制について「著作権の提供」の範囲をどのように捉えるかについて残された課題がある。 (4) 残された課題-「著作権の提供」の範囲 (2)のとおり、裁判所が「著作権の提供」該当性に係る判断基準を示さなかったことから、「著作権の提供」に関する課税当局側の解釈の範囲に対する懸念が広がっている。 第一審判決において、国側は、「事業基準における『著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の提供』とは、著作権法上の著作権並びに出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものに位置づけられる各種権利について、譲渡、貸与、使用許諾等をすることにより、他人の用に供すること、他人が利用できる状態にすることをいうと解するのが相当である。(下線筆者)」と主張している。国側のこの解釈は、「提供」の範囲を、「譲渡」「貸与」「使用許諾」「等」まで拡大したもの(※5)となっている。果たして、「使用」に「譲渡」が含まれるのか、「等」とは何を指すかはいずれも不明である。このように国側解釈は、「著作権の提供」を広範囲に捉えてしまう恐れがある。 (※5) T&Amaster No.896(2021.9.6)4頁参照 同様に、国側は、「主たる事業」にいう「事業」の範囲を相当広く考えている。すなわち、第一審判決では、「(主たる事業にいう)『事業』とは、企業による個々の経済的行為を指すのではなく、企業全体を通じての有機的な一体としての経済活動を意味すると解され、その関連する業務も含まれ、ある業務が当該『事業』に含まれるか否かは、当該『事業』とは異なる独自の目的、内容、機能等を有するか否かによって判断されるべきである。(下線筆者)」と述べている。多国籍企業の外国子会社の営む事業を考える場合、「企業全体を通じての有機的な一体としての経済活動」とはやや風呂敷を広げた大袈裟な表現のように読めるが、問題は、下線部の「関連する業務も含まれ」の箇所と思われる。何故なら、「関連する業務」の及ぶ範囲が不明確で、少しでも「著作権の提供」があれば、それが主たる事業と捉えられてしまう解釈も不可能ではないからである。さらに、「ある業務が当該『事業』に含まれるか否かは、当該『事業』とは異なる独自の目的、内容、機能等を有するか否かによって判断されるべき」というのは、具体的に何を意味するのかを読み取るのは困難であり、かつ、その判断の主体によっては結論が異なる(※6)可能性もある。 (※6) 前掲(※5)5~6頁参照。 このように、裁判所が、その使命を果たすことなく、「著作権の提供」の解釈を示さなかったことの実務への悪影響、今後の課税庁による拡大解釈の恐れがあることを指摘したい。 (了)
〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第14回】 「財産評価基本通達第26項(2)(注)2の「一時的に賃貸されていなかった」の具体的期間」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 大阪国税不服審判所平成27年11月11日裁決(TAINSコード:F0-3-523) (1) 事実関係の概要 (2) 請求人の主張の概要 (3) 「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」の法令解釈 (4) 審判所の判断の概要・請求人の主張の排斥 2 「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」の解釈のアプローチ 相続税法第22条に規定する「時価」の法令解釈が「客観的交換価値」であることからすると、原則として、課税時期のその時点において「借家権による処分の制約」があったか否かによって判断されるべきであろう。 しかし、アパート等の貸室は、例えば、毎年3月頃に多くの入退去が発生し、一時的に空室となることもあるため、貸家建付地及び貸家の評価の原則を評価通達において緩和し、本件タックスアンサーの回答事例はこれを具体化したものと考えられる。 相続税法第22条の規定について、仮に通達等で実務上緩和されることがあったとしても、それは少なくとも同条の規定と同視可能な限定的な場合と考えるのが妥当であり、本件タックスアンサーで示された事実関係を超えるもの、例えば、課税時期前後の空室期間が少なくとも2ヶ月以上になる(もはや1ヶ月程度とは解せない)ものについては、その空室部分は評価減の対象から除外されてしかるべきだろう。 3 高松裁決をどう扱うか 審判所は、請求人による上記1(2)④の主張については全く応答していない。 高松裁決は、課税時期前後の空室期間が最長2年6ヶ月、最短11ヶ月であったが、これ以外に、以下の点について事実認定して、上記空室期間でも「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」と判断した。 高松裁決及びその後の国税不服審判所沖縄事務所平成21年10月13日裁決(空室期間は9ヶ月)における取消裁決は非公表裁決であるが、情報公開法による開示請求を経て、ともにTAINSに登録されている(それぞれTAINSコード:F0-3-296・F0-3-241)からか、請求人はこれを拠りどころに「おたく(審判所)は過去にこういう判断をしているではないか」という主張をしたかったのだろうと推察される。 しかし、「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」についての公表裁決は大阪国税不服審判所平成26年4月18日裁決(最長8年・最短4ヶ月)であり、これは高松裁決等のような長期にわたる空室期間を認容していない。 最近の裁判例では、大阪高裁平成29年5月11日判決において、最短の空室期間が5ヶ月の事案を「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」に当たらないと判断していることからしても、本件タックスアンサーにおいて許容される程度の空室期間のみそれに当たると考えた方がよいだろう。 4 小規模宅地等の特例の一時的空室 一時的な空室は、評価通達第26項(2)の(注)2及び同通達第93項の貸家建付地及び貸家の評価の場面のみならず、租税特別措置法第69条の4第3項第4号に規定する貸付事業用宅地等の該非についても論点となる。 この点、国税庁は、共同住宅の一部が空室となっていた場合について、下記の取扱いを公表している。 出典:国税庁ホームページ「6 共同住宅の一部が空室となっていた場合」 そうすると、貸家建付地及び貸家の一時的空室と貸付事業用宅地等の一時的空室の取扱いに違いがあるかどうかが問題となる。 これについては、令和6年1月18日に公表された裁決事例(令和5年4月12日)に、貸付事業用宅地等の一時的空室について下記の判断基準が示されている。 そうすると、貸付事業用宅地等の一時的空室は、貸家建付地及び貸家の一時的空室のような「1ヶ月程度」という具体的な空室期間の定めはないものの、「空室となった直後から不動産業者を通じて新規の入居者を募集しているなど、いつでも入居可能な状態に空室を管理している場合」を形式的に満たしていることでは足りず、入居者募集の積極性や相続開始後の充足といった空室が一時的であったことについての客観的な(対外的に識別可能な)事実関係が必要となると考えられる。 (了)
租税争訟レポート 【第71回】 「税理士懲戒処分の取消請求事件 (第1審:大阪地方裁判所令和3年5月27日判決、 控訴審:大阪高等裁判所令和3年12月2日判決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【判決の概要】 〈第1審判決の概要〉 〈控訴審判決の概要〉 【事案の概要】 税理士である原告は、東京都新宿区に本店を置く株式会社A(以下「A」と略称する)の平成25年4月から平成26年3月までの事業年度(平成26年3月期)の法人税の申告に当たり、Aの関与税理士であったB(横浜市に事務所を置く税理士。以下「B税理士」と略称する)からAの所得金額を圧縮することの相談を受けた。 原告は、Aの代表取締役であったC(平成26年死亡。以下「亡C」という)がAに対する貸付金債権のうち4億1,300万円について生前に債権放棄していたにもかかわらず、亡Cの死後に債権放棄額を3億円に減額する旨の債権放棄通知書を作成しAの債務免除益を1億1,300万円減少させることによって、その相談に応じたが、その行為は税理士法36条、45条1項の規定に該当するとして、処分行政庁から、令和元年6月6日付けで、税理士業務の禁止の処分を受けた。 本件は、原告が、原告の行為は税理士法36条が禁止する脱税に関する「相談」に当たらないから処分は違法であるなどと主張して、被告を相手に、処分の取消しを求める事案である。 【法律の定め】 脱税相談に係る税理士法の規定は次のとおりである。 【事実関係の経緯】 判決から、事実関係を時系列に沿ってまとめておきたい。 【第1審・大阪地方裁判所による判決の概要】 1 争点 2 大阪地方裁判所の判断 (1) 〔争点1〕について 裁判所は、①原告は、Dの依頼を受けて亡Cの相続対策を引き受けて、その一環として、第1債権放棄通知書のデータファイルを作成してその印刷したものをDに交付し、亡Cにその内容を確認させて押印させたのであるから、これにより亡CのAに対する貸付金債権のうち4億1,300万円について債務免除の法的効果が生じていたにもかかわらず、②亡Cの死後、B税理士から、Aは納税するための資金がないので、課税所得が生じないようにしてほしいと依頼を受けたことに対し、亡CのAに対する債務免除の額を3億円に変更することを提案していると認定した。 裁判所は、原告の上記②の行為は、Aが法人税の納税義務を免れるための相談を受けたのに対し、亡CがAに対して生前にしていた債務免除額を減額させ、Aの債務免除益を減額させることを装い、Aが法人税の納税義務を免れることを提案したものといえ、原告は、Aが法人税の賦課を免れる具体的方法についての相談相手となり、肯定的な回答をしたといえるという判断を示した。 そのうえで、原告の上記②の行為は、税理士法36条の「不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けることにつき、指示をし、相談に応じ」に当たることからは、税理士法36条が禁止する「不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れることにつき、指示をし」たものといえると結論づけた。 (2) 〔争点2〕について 原告は、次のように、原処分が、処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し、又はその濫用があると主張した。 裁判所は、原告の主張について、次のように斥けた。 そのうえで、裁判所は、原告の責任を問い得る不正所得金額等は極めて多額であり、原告の行為の性質・態様は悪質であって、その効果も重大であることに加え、他の税理士及び社会に与える影響も勘案すれば、原告に対しては厳重な処分が選択されるべきであるから、処分行政庁が原告に対して税理士業務の禁止の処分をしたことが、社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできないとして、本件処分が、考慮すべき事情を考慮せず、過度に重い処分を課すものとして、比例原則に反し、処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し、又はその濫用がある、ということはできないと結論づけた。 (3) 結論 大阪地方裁判所は、本件処分は適法であるとして、原告の訴えを棄却した。 【控訴審・大阪高等裁判所による判決の概要】 1 控訴審における原告の主張 (1) 控訴人による債権放棄額の減額反対 控訴人は、債権放棄額の打ち合わせの際のやり取りについて、次のように主張した。 B税理士が、電話で控訴人に、亡CのAに対する債権放棄額を減らすよう指示してきたことについて、控訴人は、自らの依頼者である(当時のAの実質的経営者)Fに対し、相続税の節約額の方が法人税の節約額より多いことを説明して、亡CのAに対する債権放棄額を減らすことに反対したが、F及びB税理士は、控訴人に対し、「労働組合対策のため、Aに課税所得が生じないようにすることは亡Cの遺言です。絶対に守らなければならない」と言い、さらに、Fは、「Aの法人税は5月末までに納付しなければならないとB税理士から言われていますが、Aには資力がなく、借入れもできません。相続税の支払には時間的に余裕があり、個人で借入れもできます」、「全責任は私がとります」と言って、控訴人の反対に耳を貸そうとしなかった。 (2) 税理士法45条の規定 次に、控訴人は、税理士法45条の規定について、同法2条が他人の求めに応じて、「税務代理」、「税務書類の作成」及び「税務相談」を行うことを税理士業務と定義していることに対応するものであるから、税務の専門家である税理士が、同法2条により独占的に行うことを認められた税理士業務全般において、納税義務の適正な実現を害する事態を生じさせた場合には、財務大臣は当該税理士に対して懲戒処分を科すことができるとしたのであるとの見解を示し、税理士に対する懲戒処分は、税理士が納税義務者から税務代理、税務申告書類の作成又は税務相談を具体的に求められた場合、すなわち、税理士が納税義務者と同法2条に規定された税理士業務に係る税務上の契約関係にある場合にのみ科されることがあると解すべきであると主張した。 さらに、実質的に考えても、税理士が、税務上の契約関係がないにもかかわらず、脱税相談に応じ、これによって、納税義務の適正な実現を害する事態を生じさせることは、税理士にとってみれば、税務上の否認や懲戒のリスクをとりながら、これに対する報酬対価等の一切のメリットを伴わないこととなり、考え難いと主張した。 (3) Aの法人税申告について 控訴人は、さらに、Aの法人税申告について何らの税務上の契約関係もない控訴人が、Aの債務免除益を減少させることは不可能であると主張した。 その理由として、Aの債務免除益の減少は、①Aから法人税申告の税務代理を受任しているB税理士が税務仕訳を行い、法人税の申告書を提出すること、②法人税申告時点においてAの実質的代表者になっていたFが債務免除益の減少を承認することによって行われ得るものであることを挙げ、①については、税務の専門家であるB税理士の判断と責任において行われたことであり、控訴人には何らの関係もないのであるから、Aの法人税申告について税務代理を受任しているB税理士が行った税務仕訳及び法人税申告について、控訴人が税理士としての責任を問われることはあり得ないし、②については、Fが判断したことであり、控訴人には何らの関係も責任もないとした。 (4) 東京国税局による相続税調査について 控訴人は、東京国税局は、平成28年頃に行った亡Cの相続税申告に係る税務調査の際、亡CのAに対する債務免除額を3億円のままにするよう指示し、Aの債務免除益を3億円とすることをその職権と責任において承認しているため、B税理士が作成したAの法人税の申告書は真正の事実に反するものではなく、Aから法人税の申告の税務代理を受任していたB税理士が税理士としての責任を問われることはないこととなり、B税理士に税理士としての責任がない以上、Aとは税務上の契約関係に一切ない控訴人において、Aの法人税の申告について税理士としての責任を問われることはないと主張した。 2 大阪高等裁判所の判断 (1) 控訴人による債権放棄額の減額反対 裁判所は、平成30年4月16日の大阪国税局における質問検査において、控訴人が以下のとおり説明したことを認めた。 控訴人の陳述書の記載は、この説明に照らして信用できないことから、裁判所は控訴人の主張は採用することができないという判断を示した。 (2) 税理士法45条の規定 次に、裁判所は、控訴人の主張に対し、税理士法45条は、財務大臣が、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は同法36条の規定に違反する行為をしたときは、1年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる旨規定しており、税理士が、納税義務者から具体的に求められた場合に不正な行為をしたときとは別に、同法36条の規定に違反する行為をしたときも処分の対象としているのであるから、税理士に対する懲戒処分が、税理士が納税義務者と同法2条に規定された税理士業務に係る税務上の契約関係にある場合にのみ科されることがあると解することはできないとして、控訴人の主張を斥けた。 さらに、税務上の契約関係がない者に対して税の逋脱の方法を教示した場合、そのこと自体に対する直接の報酬対価等が伴わないとしても、それを契機に、将来、税務上の契約関係がない者から何らかの便宜を図ってもらえることを期待し得るのであるから、税理士が、税務上の契約関係がないにもかかわらず、脱税相談に応じ、これによって、納税義務の適正な実現を害する事態を生じさせることは考え難いとはいえないとして、控訴人の主張は採用することができないという判断を示した。 (3) Aの法人税申告について 裁判所は、さらに、Aの法人税申告について何らの税務上の契約関係もない控訴人が、Aの債務免除益を減少させることは不可能であるという控訴人の主張に対し、Aの債務免除益を減少させるためには、Aから法人税申告の税務代理を受任しているB税理士の対応が必要であり、確かに、控訴人のみでAの債務免除益を減少させることは不可能であるが、控訴人において、B税理士やFと共同して、Aの債務免除益を減少させることは可能であり、B税理士としては、Aの平成26年3月期における法人税の納税義務を免れるためには、亡Cの相続に係る相続税の申告内容とAの法人税の申告内容とが矛盾しないように、相続税の申告に関与していた控訴人の協力を得る必要があったのであるから、控訴人がAの平成26年3月期の法人税の逋脱に寄与した程度は小さくないことから、控訴人の主張は採用することができないと判断を示した。 (4) 東京国税局による相続税調査について また、裁判所は、東京国税局が、平成28年頃に行った亡Cの相続税申告に係る税務調査の際、亡CのAに対する債務免除額を3億円のままにするよう指示したことを認めるに足りる証拠はなく、控訴人の上記主張は、その前提を欠くものであるから、失当であるとして、控訴人の主張を斥ける判断を示した。 (5) 結論 大阪高等裁判所は、結論として、控訴人の請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないとして、本件控訴を棄却する判決を言い渡した。 【解説】 脱税相談を理由とする税理士業務の禁止処分という、極めて厳しい処分に関して、大阪地方裁判所とその控訴審である大阪高等裁判所は、処分行政庁の判断を支持して、原告(控訴人)である税理士の訴えを斥けた。 そもそも既に死亡した者の債権放棄通知書を作り替えるという行為自体が私文書偽造(刑法159条1項)という違法行為であり、原告に関しては、脱税相談による懲戒処分を問題にする以前に、刑法に違反する行為をした点で情状酌量の余地はないといえる。債権放棄通知書の偽造を依頼し、容認したB税理士も同様である。 原告の主張を深堀りしながら、事案の経緯を振り返って、こうした犯罪行為を未然に防ぐことはできなかったのかを検討したい。 1 税務委任契約がない納税義務者に対する相談 原告(控訴人)税理士は、税理士法2条1項の「他人の求めに応じ」という文言から、税理士に対する懲戒処分は、税理士が納税義務者と同法2条に規定された税理士業務に係る税務上の契約関係にある場合にのみ科されることがあると解すべきであるという主張を導いている。 一見、この主張にも理があるように読めるが、同法36条の規定は、税理士が指示をしたり、相談を受けたりする相手方については制限を設けておらず、同法45条が、2条違反のみならず36条違反も懲戒の範囲に加えているのは、控訴審判決が判示した、税理士が納税義務者と税理士業務に係る税務上の契約関係にある場合にのみ科されることがあると解することはできないとの指摘は、法の趣旨からも首肯できるものであろう。 さらに、控訴審判決では、無償での税務相談により、税の逋脱の方法を教示した場合についても、直接の報酬対価等が伴わないとしても、それを契機に、将来、税務上の契約関係がない者から何らかの便宜を図ってもらえることを期待し得るとして、控訴人である税理士による、無償で税の逋脱の方法を教示することは、税務上の否認や懲戒のリスクをとりながら、これに対する報酬対価等の一切のメリットを伴わない行為であり、考えづらいものであるという主張を斥けている。 2 債権放棄額の決定プロセスに欠けた慎重さ 原告(控訴人)税理士が、Aの平成25年3月期における繰越欠損金額である4億1,300万円相当額の債権放棄を行うことによって、亡Cに係る相続税負担を軽減することを提案し、債権放棄通知書を作成した平成26年2月の段階で、Aの顧問税理士であるBと協議して、Aの平成26年3月期の決算見通しを確認していれば、亡Cの死後、債権放棄通知書を偽造する必要はなかったであろう。 原告(控訴人)税理士に、亡Cの債権放棄額次第で、Aの決算内容が大きく変わるという認識があったのかどうかは不明だが、Aの平成26年3月期の損益状況を確認するという慎重さが求められたのではないかと、自戒を込めて思料した次第である。 (了)
〈一から学ぶ〉 リース取引の会計と税務 【第12回】 「リース取引の税務上のポイント」 公認会計士・税理士 喜多 弘美 これまで本連載では、リース取引の会計について見てきました。今回は、リース取引の税務の概要について、会計と比較しながら簡単に確認します。 会計の勉強を始めた頃の筆者は、今回のような「会計と税務を比較する」「会計と税務の違い」と聞くと、頭にたくさん「?」が浮かびました(会計で計算された利益に基づいて、法人税を計算することは理解していたのですが・・・)。今回、当時の筆者と同じように、頭に「?」が浮かんでいる読者の方もいらっしゃると思います。 そのため今回は、まず会計と税務の違いを簡単に確認してから、リース取引の会計と税務の違いを見ていきたいと思います。 1 会計と税務の違い 会計では、収益から費用を差し引いて、利益が計算されます。一方で、法人税は、益金から損金を控除した所得金額に税率をかけて、計算されます。法人税の益金と損金は、会計上の収益と費用とは範囲が異なります。そのため、会計上の利益に税率をかけても法人税を計算することができません。 法人税を計算するためには、会計上の利益を法人税法上の所得金額へ調整することになります。具体的には、会計上の利益に「加算」や「減算」をすることで法人税法上の所得へ調整します。 会計の収益・費用と税務の益金・損金が異なるのは、会計上の処理が税務上は認められない場合などに生じます。つまり、会計と税務の処理が同じで問題なければ、会計の収益・費用と税務の益金・損金は同じものになり、調整は不要ということになります。 2 リース取引の会計と税務の違い (1) 税務上のリース取引 まず、会計上と税務上でリース取引に違いがあるか確認したいと思います。税務上のリース取引は、資産の賃貸借で、次の2つの要件を満たすものをいいます(法法64の2③)。 上記を簡単にすると、①「中途解約不能」、②「フルペイアウト」の2つの要件を満たす取引が税務上のリース取引になります。これは、【第4回】で確認したファイナンス・リース取引の定義と同じです。つまり、税務上のリース取引は、会計上のファイナンス・リース取引にあたるということになります。 (2) 税務上の2種類のリース取引 また、会計上のファイナンス・リース取引が「所有権移転ファイナンス・リース取引」と「所有権移転外ファイナンス・リース取引」に分類されるのと同じように、税務上のリース取引も「所有権移転リース取引」と「所有権移転外リース取引」に分類され、それぞれ取扱いが異なります。 税務では、次の4つの要件のいずれも満たさない場合は「所有権移転外リース取引」、1つでも満たす場合は「所有権移転リース取引」としています(法令48の2⑤五)。 上記を簡単にすると、①は「所有権移転条項」がある、②は「割安購入選択権」がある、③は「特別仕様物件」であるということです。つまり、こちらも【第5回】で整理した所有権移転ファイナンス・リース取引の条件と同じになります。 また、④の「相当短いもの」は、リース期間がリース資産の耐用年数の100分の70(耐用年数が10年以上のリース資産については、100分の60)に相当する年数を下回る期間であるものをいいます(法基通7-6の2-7)。 (3) オペレーティング・リース取引 オペレーティング・リース取引は、税法上のリース取引には該当しないことになります。そのため、税法上も賃貸借処理され、リース料が損金として計上されます。これは、【第9回】で整理したとおり、会計上の処理と同じです。 (4) セール・アンド・リースバック取引 セール・アンド・リースバック取引については、税法上は、資産の種類、売買及び賃貸に至るまでの事情その他の状況に照らし、これら一連の取引が実質的に金銭の貸借であると認められるときは、売買取引ではなく、譲受人(貸手)から譲渡人(借手)に対する金銭の貸付けがあったものとされます(法法64の2②)。 すなわち、金銭の貸借とされる場合には、譲渡人(借手)がリース資産を担保にして、譲受人(貸手)から融資を受けているものとして扱われるため、譲渡人(借手)が計上している譲渡損益は、益金・損金には算入されないことになります。この点、【第10回】で確認した会計上の処理と異なってきます。 (了)