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令和6年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】

令和6年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   Ⅱ 特定税額控除規定の不適用措置の見直し 1 改正の概要 大企業につき研究開発税制その他生産性の向上に関連する税額控除の規定(特定税額控除規定)を適用できないこととする措置について、資本金の額等が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合及び前事業年度の所得の金額が0を超える一定の場合のいずれにも該当する場合における要件の上乗せ措置について、次の見直しを行った上、その適用期限を3年延長する(新措法42の13⑤⑦)。 この改正は、令和6年4月1日以後に開始する事業年度から適用される(令6改所法等附1、38、46②)。 (※) 「令和6年度(2024年度)経済産業関係 税制改正について(令和5年12月)」9頁 2 グループ通算制度における取扱い 特定税額控除規定の不適用措置の見直しについて、グループ通算制度における取扱いは以下のとおりとなる。下線部分が改正されている。 (1) 特定税額控除規定の不適用措置(個社判定) 法人(中小企業者(適用除外事業者又は通算適用除外事業者に該当するものを除く)又は農業協同組合等を除く)が、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度(対象年度)において、次の特定税額控除規定の適用を受けようとする場合において、その対象年度において次の要件のいずれにも該当しないときは、その対象年度においては、次の特定税額控除規定を適用できない(新措法42の13⑤⑥、42の12の5⑤一・四・五)。 [個社判定による不適用措置の対象となる特定税額控除規定] [特定税額控除規定の適用可否の判定要件(個社判定)] いずれかの要件に該当する場合に、特定税額控除規定を適用することができる。 (2) 通算特定税額控除規定(試験研究費の税額控除規定)の不適用措置(全体判定) 通算法人(中小企業者(適用除外事業者(通算加入適用除外事業者を除く)又は通算適用除外事業者に該当するものを除く)又は中小通算農業協同組合等を除く)が、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度(対象年度)において、通算特定税額控除規定の適用を受けようとする場合において、その対象年度において次の要件のいずれにも該当しないときは、その対象年度においては、次の通算特定税額控除規定を適用できない(新措法42の13⑤⑦⑧、42の12の5⑤四・五)。 [全体判定による不適用措置の対象となる通算特定税額控除規定] [通算特定税額控除規定の適用可否の判定要件(全体判定)] いずれかの要件に該当する場合に、通算特定税額控除規定を適用することができる。 ここで、「各通算法人」とは、その通算法人及びその通算法人の対象年度終了の日においてその通算法人との間に通算完全支配関係がある他の通算法人となる。 また、通算子法人の対象年度は、通算親法人の対象年度終了の日に終了するその通算子法人の事業年度とする。 つまり、通算グループを一体として税額控除限度額を計算する一般試験研究費の税額控除制度及び特別試験研究費の税額控除制度の適用対象事業年度に合わせて、不適用措置(全体判定)の適用を行うこととなる。 (3) 通算法人の改正法の適用事業年度(対象年度)について [誤りやすい事例]   (続く)

#No. 579(掲載号)
#足立 好幸
2024/07/25

学会(学術団体)の税務Q&A 【第7回】「学会誌と棚卸資産(法人税)」

  学会(学術団体)の税務Q&A 【第7回】 「学会誌と棚卸資産(法人税)」   公認会計士・税理士 岡部 正義   ▲▼▲[解説]▲▼▲ 1 原則的な処理 費用収益対応の原則の観点からは、決算時に期末在庫の棚卸を行い、会計上、棚卸資産を計上する必要がある。また、法人税の観点から考えても、本来計上すべき棚卸資産を計上していないと、その分だけ原価が過大計上され、不当に課税所得を圧縮することになるため、適切に棚卸資産を計上する必要がある。そのため、会計的な観点からも、税務的な観点からも、原則的には棚卸資産の計上が必要といえる。   2 無償配布を前提としている学会誌の取扱い 期末在庫に関する原則的な処理は上記の通りであるが、その一方で、基本的に会員に対して無償配布を前提としている学会誌について、原則通り棚卸資産を計上するのが必須か否かという点がある。 まず、無償配布を前提としている学会誌について、無償配布の部分だけを考えれば、費用収益対応の原則を考える必要はない。なぜなら、そもそも無償配布であれば、収益が計上されないからである。また、法人税の観点から考えた場合、そもそも無償配布部分については、法人税法上の収益事業に該当していないため、原価が損金に算入されることはない。そのため、仮に棚卸資産を計上していなかったとしても、法人税のリスクはないといえる。   3 有償頒布と学会誌の取扱い (1) 刊行年度の処理 有償頒布を前提とした出版物に関しては、原則通り、会計的な観点からも税務的な観点からも棚卸資産の計上が必要である。 他方で、一部のみを有償頒布する学会誌に関して、棚卸資産の計上は必須ではないと考える。なぜなら、会員に対して無償配布を前提としている学会誌において、翌年度以降、バックナンバーとして会員以外に有償頒布する件数は非常に少ないのが一般的であり、その数を予測することも難しく、重要性の観点から棚卸資産を計上する必要性が乏しいといえるからである。 また、仮に学会誌に関して棚卸資産を計上しなかったとしても、税務リスクはないと考える。なぜなら、学会誌の有償頒布に関して、収益事業の原価を計算する場合、1冊当たりの制作原価×有償頒布数で原価を計算することになるが、有償頒布以外の部分(無償配布部分+期末在庫分)は、すべて収益事業以外の原価として集計されるからである。すなわち、期末在庫に係る原価部分は、そもそも法人税の計算上の損金として計上されていないため、否認されるリスクもないといえる。 〈学会誌制作原価の会計・税務処理〉 なお、上記は、学会誌の有償頒布部分が法人税法上の収益事業に該当するケースを前提としているが、たとえば、公益法人の学会が、公益目的事業の一環として学会誌の刊行を行っている場合、たとえ有償頒布部分が出版業に該当したとしても、収益事業から除外されることになる(法令5②一)。そのため、そのような場合は、すべての原価が収益事業以外の原価となるため、そもそも有償頒布部分の原価を区別する必要はない。 (2) 翌年度以降の処理 棚卸資産を計上していない場合、仮に翌年度以降に有償頒布したとしても、有償頒布に対応する収益事業の原価を集計することができなくなる。なぜなら、刊行年度にすべて収益事業以外の原価として費用処理済みとなっているからである。 この点、期末において棚卸資産を計上していないものの、翌年度の有償頒布の際に、1冊当たりの制作原価×有償頒布数について、収益事業の原価として集計するような例も見受けられるが、本来、望ましくないと考える。なぜなら、会計上、費用計上していないにも関わらず、法人税の収益事業の計算上だけ、翌年度の原価として計上していることになるからである。そのため、仮に、翌年度以降の有償頒布部分について、収益事業の原価として計上しようとする場合は、原則通り、棚卸資産を計上する必要があるが、翌年度以降に有償頒布するようなケースが非常に少ない場合、どこまで原則的な処理をすべきかという点がある。 なお、上記(1)に記載の通り、公益法人の学会が公益目的事業の一環として学会誌の刊行を行っている場合は、そもそも有償頒布部分の原価を区別する必要がないため、棚卸資産を計上する必要性は乏しいと考える。   4 実務上の対応 学会誌は、年数回発行されるケースが多いため、仮に学会誌の在庫管理を行おうとする場合、相当程度の事務負担が生じることになるが、その一方で、学会事務局は少人数で運営しているケースが多く、学会誌について在庫管理を行うのが現実的ではないケースも多い。 棚卸資産を計上していない場合、翌年度以降の有償頒布について収益事業の原価として集計できなくなるが、通常、翌年度以降にバックナンバーとして有償頒布するようなケースは非常に少なく、その影響額は僅少である場合が多い。また、公益法人の学会が公益目的事業の一環として学会誌の刊行を行っているような場合は、そもそも収益事業の原価として集計する必要はない。 そのため、棚卸資産の計上は、原則的な処理といえるが、無償配布を前提としている学会誌の場合、重要性が乏しいため、実務上の対応として、棚卸資産を計上しないことも考えられる。   (了)

#No. 579(掲載号)
#岡部 正義
2024/07/25

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例136(消費税)】 「休眠会社再開に当たり、決算期を親会社と同じに変更したいとの相談を受けた際、免税事業者である期間が短くなるとの説明を怠ったため、変更により課税事業者となった期間の消費税額につき損害賠償請求を受けた事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例136(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆基準期間(消法2①十四) 個人事業者についてはその年の前々年をいい、法人についてはその事業年度の前々事業年度(その前々事業年度が1年未満である法人については、その事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後1年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間(※))をいう。 (※) 具体例(令和6年3月期の前々事業年度が1年未満の場合の基準期間の判定)       (了)

#No. 579(掲載号)
#齋藤 和助
2024/07/25

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第39回】「倍率方式で算定した相続税評価額は時価を上回るため違法であるという請求が認められなかった事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第39回】 「倍率方式で算定した相続税評価額は時価を上回るため違法であるという請求が認められなかった事例」   税理士 菅野 真美   相続税法22条において、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価と定められている。よって、「相続または贈与による財産の取得後に何らかの理由によってその価額が低落した場合も、課税価格に算入されるべき価額は、別段の定めがない限り、相続時または贈与時のその財産の時価である」(※)。 (※) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)734頁 この「時価」とは、客観的な交換価値と考えられるが、財産の時価は一種類とは限らない。納税者が自分に都合の良い時価で相続税の申告書を提出すると課税の公平が保たれず課税実務が混乱する。よって、原則的には、財産評価基本通達(以下「評価通達」という)の定めによって評価した価額が時価である(評価通達1《評価の原則》(2))。 しかし、評価通達に従って算定した価額が、相続時の時価を上回るような場合は、時価で評価すべきである。これは、評価通達の定める方法によるべきでない特別の事情がある場合と考えられるが、どのような場合であろうか。 今回は、倍率方式で宅地を評価した後に、相続税法22条に規定する時価を上回ることから申告した評価額の2分の1相当額にすべきであるとして更正の請求をしたが、認められなかったために審査請求をした事例を検討する。   ▷どのような事例か 納税者は、相続により市街化調整区域内にある3ヶ所の土地を取得した。2ヶ所の土地は、工場、物置、倉庫の敷地の用に供せられ、残りの土地は被相続人と納税者が共有する居宅の敷地として供せられた。 これらの土地は、登記上の地目は「田」であるが、固定資産税評価額は「宅地」として評価されていた。また、これらの土地の所在する地域は、相続税評価においても固定資産税評価額に倍率を乗ずる方式(倍率方式)で評価する指定があったことから、納税者は、倍率方式で相続税評価額を算定して申告した。 その後、納税者は小規模宅地等の減額について誤りがあったとして修正申告書を提出した。そして、土地の評価額について誤りがあるから評価額の2分の1相当額にすべきであるとした更正の請求をしたが、課税庁は、更正すべき理由がない旨の通知処分を行った。この処分に不服な納税者が審査請求したのが本事例である。   ▷争点 争点は、通達評価額は、相続税法22条に規定する時価を上回る違法があるか否かである。   ▷納税者はなぜ違法と主張したのか 納税者は、次のような理由から通達評価額は違法であると主張した。   ▷審判所はどのように判断したか 審判所は、主に以下の理由から、通達評価額は時価を上回る違法があるという納税者の請求を棄却した。 相続税法22条でいう「時価」は、客観的な交換価値であり、原則的には、評価通達の定める方法で算定すべきであり、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情がない限り、評価通達の定める方法によって評価するのが相当である。 以下、前述の納税者の主張から特別の事情があるかどうかを検討する。 ⇒ 固定資産税評価額の算定は、不動産鑑定士による市街化調整区域の市場の特性等を考慮した鑑定評価に基づき、線引き後宅地補正として建築制限等を考慮した減額修正が認められる。さらに、これらの土地は、市街化区域に隣接して主要地方道沿いの建物が連続して立ち並ぶ地域であり、登記上の地目が「田」であることから農地法関連の諸手続きに費用がかかるという意味での制限があるとしても、納税者の主張するような特別の事情に該当しない。 ⇒ 相続開始日に土地の上に建物が存在し、居宅や工場として利用されているということは、取壊し費用を土地の価額に反映すべき事情はない。建物の存在は、評価通達の定める評価方法によるべきではない特別の事情に該当しない。 ⇒ 納税者の主張する土地の時価の根拠となる査定額は、客観的な数値及び具体的な算定根拠が明らかではないから、そのような査定額をもって、相続開始日における土地の客観的な交換価値たる時価と認めることはできない。 *   *   * 相続税の評価は、相続時の現況で判断するため、相続の際に建物の取壊しが行われていないにもかかわらず将来のコストを見積もって減額することはできない。また、時価の根拠が業者に依頼した査定額では根拠として認められない。 更正の請求で評価減が認められるのはハードルが高いといわれているが、今回の事例は、評価通達を覆すレベルの知識に基づいた請求ではなかったことから請求が棄却されたと考える。 (了)

#No. 579(掲載号)
#菅野 真美
2024/07/25

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第51回】「寄与度利益分割法の適用が認められた事例(地判平24.4.27、高判平25.3.28、最判平27.1.16)(その2)」~租税特別措置法66条の4第1項、2項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第51回】 「寄与度利益分割法の適用が認められた事例 (地判平24.4.27、高判平25.3.28、最判平27.1.16)(その2)」 ~租税特別措置法66条の4第1項、2項~   税理士 水野 正夫     3 検討 (1) 本件国外関連取引に寄与度利益分割法を用いたことの適法性【争点①】 寄与度利益分割法は、基本三法を用いることができない場合に限りこれを用いることができるところ、基本三法のうち、原告が再販売価格基準法の適用が可能であると主張したことに対して、本判決は、エクアドル政府による最低買取価格及び最低輸出価格の設定は、バナナ生産者からの買取価格及び輸出価格を上昇させる方向に作用する要因であることは明らかであり、エクアドル産バナナの輸入価格が上昇すれば、その分だけ原価の合計額が上昇し、売上総利益の額が減少することになるのであって、その割合である「通常の利益率」にも影響が及ぶことは明らかであり、また、エクアドル政府規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整することができないと判示した。 原告は、エクアドル政府規制について、フィリピン産バナナとエクアドル産バナナは競争関係にあるから、バナナの輸入業者による再販売価格は、市場価格である浜値にならざるを得なくなるのであって、原告のエクアドル産バナナの再販売価格にエクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はないと主張している。 この点、仮に浜市場における特殊な構造があり、エクアドル政府規制の有無にかかわらず、浜値がフィリピン産バナナとエクアドル産バナナで市場価格が同一のものとなる現実があるとするならば、「通常の利益率」に影響を及ぼさず、また差異の調整も必要ないという結論もあり得たのではないかと思われるが、原告はそれを裏付ける客観的な分析・証拠資料などを用いて主張すべきだったものと思われる(※4)。 (※4) 政府規制と移転価格税制の関係についての先行研究について、例えば、国本健吾「価格規制・送金規制と移転価格税制-OECDおよび米国の議論を参考に-」『第43回日税研究賞入選論文集』(日本税務研究センター・2020年)9頁参照。 (2) 日本市場の特殊要因(エクアドル産バナナの価格下落)によるXの営業損失を分割対象利益に含めたことの違法性【争点②】 原告は、平成12年12月期及び平成13年12月期において原告が計上した営業損失は、バナナの輸入量が急増した後の需要の大幅な減少や競合品であるフィリピン産バナナの輸入量の急増等により日本市場におけるエクアドル産バナナの浜値が大幅に下落したこと及び顧客が原告との取引を減少させたことなどの当事者が支配できない日本市場の特殊要因により生じたものであるから、移転価格税制を適用するに当たり、これらの日本市場の特殊要因により生じた営業損失は、日本側の輸入業者である原告に帰属させる必要があると主張した。 これに対し、本判決は、そのような取扱いを定めた法令はなく、法令上はもちろん、通達上の根拠も欠くものであること、また、「この点を措くとしても、そもそも原告が主張するような市場における需給の増減や競合品との競争等による市場価格の変動やそれに伴う損益の発生は、市場主義経済の下では常に生じ得るものであるから、そのような損失をもって、直ちに市場の特殊要因により生じた損失とはいい難い」として、納税者の主張を排斥している。 原告の主張は、バナナの浜値が日本市場の特殊要因であることに力点が置かれているが、一方で、移転価格税制における機能・リスクの分析の観点からすれば、さらに踏み込んで、この損失は、ビジネス上当然に負っている市場リスクであるとの主張ができたのではなかろうか。移転価格税制においては、各関連当事者が負っている機能とリスクに応じてリターンを配分するべきであり、リスクが顕在化した場合には、そのリスクを負っているものが負担することが当然である。 寄与度利益分割法の適用の際、販管費がその機能を反映したと推測される要因に応じて利益が配分されることになるが、費用で利益を配分する場合には、寄与度利益分割法の計算構造上必ずしも市場リスクを反映するものとはなっていない。 したがって、明確に市場リスクを原告が負っていたことを主張し、立証できた場合には、日本市場の特殊要因により生じた営業損失は、原告に帰属すべきであるものと思われる。 実務的には、負っているリスクから生じた利益・損失については定量化して除外した上で、利益分割法を適用する事案もあるところ、本件の場合にも原告の主張の1つとして、その損失を合理的に定量化する試みがあってもよかったのではないかと思われる。 本判決は、「日本市場の特殊要因により生じた営業損失を日本側の輸入業者である原告に帰属させる必要があるとする点についても、通常の独立企業間の取引であれば、一方の市場における需給等の状況に大きな変化が生じたことにより、一方の当事者のみに多額の営業損失が生じるような場合、取引価格を改定し、取引量を減少させ又は取引自体を終了させるなどすることなく、従前の条件のままで漫然と取引を継続することは通常は考え難いから、その影響は少なからず他方の当事者にも及ぶものと考えられるところ、その損失を専ら日本側の輸入業者である原告に帰属させるべきとする合理的根拠も不明である」としているが、これに対しては、日本市場の特殊要因により生じた営業損失を国外関連者に帰属させる正当性が問われることになろう(※5)。さらに言えば、バナナの需給が日本市場において逆転して多額の利益が出た場合には、その市場リスクを負っている関連者がその利益を得ることになるが、機能に応じた寄与度利益分割では国外に所得が移転してしまう結果となってしまう弊害もあろう。 (※5) 原告が比較対象会社として主張する独立した第三者であるA社の平成12年12月期は原告と同じく売上総利益率がマイナスとなっており、日本市場の特殊要因によるものとも考えられる。 したがって、一般論としては、市場リスクから生じた利益・損失が利益に大きく影響しているのであれば、理論的には当該リスクから生じた利益・損失を定量化し利益の分割対象から除くことが独立企業間価格を算定する上で必要になる場合もあろう。 本件においては、機能・リスクの配分が国外関連者ゆえに契約書等で明確になっていなかったのではないかと推察されるが、契約書等を整備しリスクの配分を明確にしておく必要があったものと思われる。 (3) 分割要因としてX及びSが支出した販管費を用いたことの違法性【争点③】 原告は、寄与度利益分割法は、分割要因の選定次第では非常識又は不合理な結論を生じかねないことから、国外関連取引に当該分割要因を用いた寄与度利益分割法を適用した結果を反映した営業利益率や売上総利益率が同業他社の営業利益率や売上総利益率と著しく乖離していないかの検証等を行うことが不可欠であり、その結果が不合理なものとなっている場合には、当該寄与度利益分割法の適用は違法となるという主張を行った。 これに対し、本判決は「措置法及び措置法施行令その他関係法令を見ても、寄与度利益分割法について、原告が主張するような同業他社の営業利益率等と比較して検証することを義務付け、その結果が同業他社の営業利益率等と乖離している場合には、当該寄与度利益分割法の適用が違法となる旨を定めた規定は見出すことはできない。そもそも寄与度利益分割法は、同業他社の営業利益率や売上総利益率を用いることなく、国外関連取引に係る所得が当該法人と国外関連者がその発生に寄与した相対的な程度に応じて帰属するものとして計算した金額をもって独立企業間価格とする方法であって、基本三法を用いることができない場合、すなわち、適切な比較対象取引が存在しない場合に限り用いることができる方法であるから、寄与度利益分割法を適用した結果を反映した営業利益率等について、適切な比較対象取引とはいえない同業他社の営業利益率等と比較し、これを上回っていたからといって、直ちにその分割要因が不適切であるとはいえない」として納税者の主張を排斥している。 しかしながら、原告のいうとおり、利益分割法の適用結果は、概して独立企業間価格から乖離することがあり、常識的なビジネスの感覚からかけ離れることも実務上は多々あることである。本判決が、法令にその結果を検証する規定がないため利益分割法を形式的に適用し検証する必要が全くないという意味であれば、疑問が大いに残る。 ただし、本判決は、「上記の点を措くとしても」とし、実際に原告の売上総利益率、A社の売上総利益率を用いて算出した本件国外関連取引に係る所得移転額は、5事業年度で50億円4,300万円になるところ、本件各更正処分における所得移転額は39億9,226万円であって、これを下回るものであるから、「本件更正処分後の原告の売上総利益率がA社の売上総利益率と比較して、著しく不合理なものであるとはいえない」として、利益分割法の適用結果を検証した上で、納税者の主張を排斥している。 ※所得移転額=(原告の売上原価-(原告の売上ー原告の売上×A社の売上総利益率)) したがって、本判決は、利益分割法の適用結果を検証することを単に規定がないことのみを理由に、利益分割法の適用結果を検証する必要性を否定しているのではないと読むべきであろう。すなわち、利益分割法の適用結果の検証を行った結果、その結果が不合理であると認められる場合には、その利益分割法の適用結果が違法ないしはその計算が修正される余地を残しているものと理解しておきたい。 この点は実務上も極めて重要な論点である。移転価格税制の適用は個別性が強く、各事案について、機能・リスク・無形資産等の分析を行った上で、経済的合理性を念頭に置きながら移転価格税制を適用すべきものである。課税庁は常に形式的な判断に陥らないよう実態に配慮しながら執行を行うことが求められるのは当然であり、これには利益分割法の適用の結果の妥当性への配慮も含まれると理解すべきである。 この点、本件においては、納税者がA社の売上総利益率を比較対象とした再販売価格基準法を主張に沿った形で検証している点においてその判断に説得性を持ったものと評価できる。その意味で、本判決は利益分割法の適用結果の合理性を検証している点が先例として評価されるべきであろう。   4 おわりに 本件は、独立企業間価格算定方法の選定において基本三法が優先されていた当時の判例ではあるが、現行法においても最適な独立企業間価格算定方法を選定する際の立証責任があるため、本件の判断の枠組みは意義を持つものと思われる(※6)。判決は、基本三法優先の当時の法令を前提として、利益分割法の適用を支持する際、原告の主張する再販売価格基準法の適用結果についても「利益分割法の適用結果の検証」という形で引用し検証している点について、緻密で説得力のある判断となっている点について意義があるものといえよう。 (※6) 宮本前掲(※2)書170頁も同旨。 実務的な観点からは、基本三法が適用できないと判断される場合に、利益分割法の適用結果を形式的に当てはめ、どのような結果になろうともそれを検証せずに適用するという運用は、結果として課税庁と納税者との紛争を増加させ、移転価格税制の適切な発展を阻害することになろう。現行法では基本三法の優先が廃止され、最も適切な方法を選定することになっているが、課税庁は形式的な判断に陥らず、真の独立企業間価格にできるだけ近づける結果となるよう多角的に分析し移転価格税制を運用することが求められよう。 (了)

#No. 579(掲載号)
#水野 正夫
2024/07/25

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第4回】

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第4回】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   今回は、有価証券報告書のうち、第一部【企業情報】第2【事業の状況】3【事業等のリスク】から6【研究開発活動】までの作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2024年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。   1 【事業等のリスク】の作成実務ポイント 「事業等のリスク」では、当連結会計年度末における事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(経営成績等)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク(連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項)について、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、リスクが顕在化した場合の連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策など、具体的に記載する。 【事例:イーレックス(株)2024年3月期の有価証券報告書】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。   2 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析】の作成実務ポイント 「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析」では、当連結会計年度末における事業の状況、経理の状況等に関して投資者が適正な判断を行うことができるよう、経営成績等の状況の概要を記載した上で、経営者の視点による当該経営成績等の状況に関する分析・検討内容を、具体的に、かつ、分かりやすく記載する。 大きく、「(1)経営成績等の状況の概要」と「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」に分けて記載することが考えられる。 (1)経営成績等の状況の概要 (2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 【事例:(株)SHIFT  2023年8月期の有価証券報告書】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。   3 【経営上の重要な契約等】の作成実務ポイント 「経営上の重要な契約等」では、連結会社において事業の全部若しくは主要な部分の賃貸借又は経営の委任、他人と事業上の損益全部を共通にする契約、技術援助契約その他の重要な契約を締結している場合には、その概要を記載する。 【事例:(株)ジェイック 2024年1月期の有価証券報告書】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。   4 【研究開発活動】の作成実務ポイント 「研究開発活動」では、当連結会計年度における研究開発活動の状況(例えば、研究の目的、主要課題、研究成果、研究体制等)及び研究開発費の金額を、セグメント情報に関連付けて記載する。 【事例:イフジ産業(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 579(掲載号)
#西田 友洋
2024/07/25

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第25回】「その他の注記②」-減損損失に関する注記-

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第25回】 「その他の注記②」 -減損損失に関する注記-   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における減損損失に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 連結注記表及び個別注記表において、減損損失に関する注記は必ず記載しなければならない項目ではなく、その重要性を勘案して、企業集団の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と判断した場合に注記することになります。 注記する内容は、会計基準で定められている注記事項や有価証券報告書で開示が求められる事項を参考に検討することが一般的です。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表どちらも減損損失に関する注記について具体的な記載例は示されておらず、次のような記載上の注意が示されています。 【連結注記表】 【個別注記表】   2 注記事項の解説 (1) その他の注記(減損損失に関する注記)の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき減損損失に関する注記事項の定めは会社計算規則にはなく、次のようなその他の注記として包括的に定められています(会社計算規則第116条)。 (2) 注記事項の解説 減損損失に関する注記は、会社計算規則上、必ずしも記載が求められているものではなく、財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と企業が判断した場合に注記することになります。 減損損失に関する注記を記載する場合、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」第58項で定める以下の項目を参考に注記することが実務的には多いです。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [株式会社ディスコ 2024年3月期 連結注記表] ※株式会社ディスコ「第85回定時株主総会その他の電子提供措置事項(交付書面省略事項)」12頁より抜粋。 [イリソ電子工業株式会社 2024年3月期 連結注記表] ※イリソ電子工業株式会社「第58回定時株主総会招集ご通知」47頁より抜粋。 *  *  * 次回の第26回は、「その他の注記(企業結合・事業分離に関する注記)」をテーマに解説します。   (了)

#No. 579(掲載号)
#竹本 泰明
2024/07/25

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第22回】「所有権の登記名義人の旧氏併記及びローマ字氏名併記」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第22回】 (最終回) 「所有権の登記名義人の旧氏併記及びローマ字氏名併記」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 所有権の登記名義人の旧氏併記及び所有権の登記名義人のローマ字氏名併記に関する詳細が、不動産登記規則及び通達の公布等によって明らかになったと聞きました。この内容について教えてください。 【A】 以下の点が明らかになった。 -《解説》- 1 はじめに 相続実務に直接的には関係しなかったので、本連載の中では、所有権の登記名義人の旧氏併記及び所有権の登記名義人のローマ字氏名併記の改正点について今まで解説をしてこなかった。しかし、相続人申告登記制度の詳細が明らかになった不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第7号)で、所有権の登記名義人の旧氏併記及び所有権の登記名義人のローマ字氏名併記についても明らかになった。そこで、同じ不動産登記規則の改正を解説してきた都合上、今回の解説対象とした。   2 所有権の登記名義人の旧氏併記の取扱い 社会において旧姓を使用しながら活動する人が増加している中、様々な活動の場面で旧姓を使用しやすくする必要がある。この点、既に住民票、マイナンバーカード等への旧氏の併記ができる以上、当然の流れとして不動産登記にも導入された。後に紹介するローマ字氏名併記の申出と異なり、こちらは任意的な申出に留まる。 また、旧氏併記に係る申出は、登録免許税を要しない。 詳細は下記法務省のホームページを参照してほしい。   3 所有権の登記名義人の旧氏併記に関する登記簿の記録例 所有権の移転の登記と同時に旧氏を併記する場合の登記記録例は、以下のとおりである。 〈登記名義人の旧氏を併記する場合〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (※) 「(登記太郎)」が旧氏併記部分である。   4 所有権の登記名義人のローマ字氏名併記の取扱い 外国人を所有権の登記名義人とする登記の申請の際に、ローマ字氏名(氏名の表音をアルファベット表記したもの)を申請情報として提供する必要がある。先に紹介した旧氏併記の申出と異なり、こちらは義務的な申出である。 ローマ字氏名併記に係る申出は、登録免許税を要しない。   5 所有権の登記名義人のローマ字氏名併記に関する登記簿の記録例 所有権の保存の登記と同時にローマ字氏名を併記する場合の登記記録例は、以下のとおりである。 〈登記上の氏名が片仮名表記の場合〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 〈登記上の氏名が漢字表記の場合〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 漢字圏の外国人が所有権の登記名義人である場合には、記録上の氏名については、従前の取扱いと同様、日本語の漢字表記により表示できる氏名とし、これにローマ字氏名を併記することになる。 なお、特別永住者等の在日外国人の方が通称を使用して不動産登記の所有者となるケースで、通称名を氏名として記録する場合や、既に通称名を氏名として記録されている場合には、ローマ字氏名の併記をすることができない。 (※) 上記は、法務省の内部資料(ローマ字氏名・旧氏併記に関する質疑事項集)の中で明らかにされている。 (連載了)

#No. 579(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2024/07/25

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例95】昭和ホールディングス株式会社「第122回定時株主総会終結及び第123回定時株主総会における定数を必要とする議案の結果について」(2024.6.26)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例95】 昭和ホールディングス株式会社 「第122回定時株主総会終結及び第123回定時株主総会における定数を必要とする議案の結果について」 (2024.6.26)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、昭和ホールディングス株式会社(以下「昭和ホールディングス」という)が2024年6月26日に開示した「第122回定時株主総会終結及び第123回定時株主総会における定数を必要とする議案の結果について」である。タイトルにあるとおり、この開示では「第122回定時株主総会終結」と「第123回定時株主総会における定数を必要とする議案の結果」の2つが記載されている。 まず「第122回定時株主総会終結」は、文字どおり定時株主総会が終結するということなのだが、議案の決議を行わずに終結するという内容である。同社の第122回(2023年3月期)定時株主総会は、定足数を満たさないため、議案を決議できなかった(2023年6月27日に「第121回定時株主総会終結及び第122回定時株主総会における定数を必要とする議案の結果について」を開示)。そして、その継続会においても、定足数を満たさないため、議案を決議できなかった(2023年11月30日に「第122回定時株主総会継続会における定数を必要とする議案の結果について」を開示)。そのため、第122回定時株主総会は、議案の決議を行わずに終結するというのである。 次に「第123回定時株主総会における定数を必要とする議案の結果」は、第123回(2024年3月期)定時株主総会も、定足数を満たさないため、議案を決議できなかったという内容である。   2 2021年3月期の定時株主総会から 昭和ホールディングスにおいては株主総会が成立していないのだが、この状況は、第122回と第123回だけでなく、第120回(2021年3月期)から続いている。 第120回(2021年3月期)の定時株主総会とその継続会も、定足数を満たさず、議案を決議できなかったため、議案の決議を行わずに終結している(2021年6月25日に「第120回定時株主総会における定数を必要とする議案の結果について」を、2021年9月29日に「第120回定時株主総会継続会における定数を必要とする議案の結果について」を、2022年5月23日に「当社第120回(2021年3月期)定時株主総会の終結に関するお知らせ」を開示)。 第121回(2022年3月期)は、継続会を2回開催したものの、結局、議案の決議を行わずに終結している(2022年6月13日に「第121回定時株主総会における定数を必要とする議案の結果について」を、2022年10月11日に「第121回定時株主総会継続会における定数を必要とする議案の結果について」を、2023年3月1日に「第121回定時株主総会継続会における定数を必要とする議案の結果について」を、2023年6月27日に「第121回定時株主総会終結及び第122回定時株主総会における定数を必要とする議案の結果について」を開示)。 第120回の定時株主総会からずっと、付議されている議案は取締役の選任なのだが、決議されていない。すなわち、2022年3月期以降、同社の取締役は、株主に選任されていない者が務めている。   3 不成立の原因 昭和ホールディングスの株主総会が成立しないのは、同社の議決権を58.44%保有するSIX SIS LTD.から議決権行使書の提出がないからである。ただし、このSIX SIS LTD.は株主名簿上の株主であり、実質株主はA.P.F. Group Co., Ltd(以下「APFG」という)であるとされている。 しかし、昭和ホールディングスが2021年6月30日に開示した「当社実質株主の確認について」において、次のとおりAPFGが実質株主であることについて確認できていないとされている。 以来、現在に至るまで昭和ホールディングスは、APFGが実質株主であることについて確認できないままである。昭和ホールディングスは、自社の意思決定を支配する親会社とコミュニケーションが取れないという状況に陥っている。   4 内部統制も 上場会社としてというよりも、そもそも株式会社として企業統治が機能不全に陥っている昭和ホールディングスだが、内部統制も機能しているとは言い難い状態にある。以下のとおり、2018年3月期以降はずっと、開示すべき重要な不備があり、財務報告に係る内部統制は有効でないとされている。 財務報告に係る内部統制が有効でないのは海外子会社の管理に起因しているのだが、以下のとおり、海外子会社に対する監査やレビューの未了を原因として、監査意見不表明や四半期レビューの結論不表明となることもあった。なお、2022年3月期第2四半期以降は四半期レビューの結論も監査意見も表明されるようになったが、ずっと限定付のままである。 ここまで問題のある会社をみていると、こうした会社が上場し続けていいのだろうかと思われてくるかもしれない。上場廃止にはしなくとも、証券取引所による何らかの措置があってもよさそうである。しかし、昭和ホールディングス自体は犯罪や粉飾を行ったわけではなく、開示も適切に行っているようである。そのため、現在のルールのもとでは、同社が、上場廃止になることも、公表措置、改善報告書提出、特別注意銘柄指定といった証券取引所による措置の対象になることもない。 (了)

#No. 579(掲載号)
#鈴木 広樹
2024/07/25

プラス思考の経済効果 【第26回】「2024年お花見の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第26回】 「2024年お花見の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 はじめに 日本におけるお花見の歴史は古く、奈良時代には桜ではなく中国から伝来した梅がお花見の対象でした。 しかし、平安時代になり894年に遣唐使が廃止されたことなどから、お花見の対象は日本の桜に変わっていきました。源氏物語(文献初出は1008年)にも桜のお花見のことが書かれています。そして、当時の貴族たちには桜が「春を象徴する花」として鑑賞されるようになりました。 さらに、鎌倉時代になると武士や町人も桜を楽しむようになり、京都では山や寺社などに桜が植えられるようになりました。安土桃山時代には、武士たちの間で桜のお花見が盛んになり、豊臣秀吉が行った「吉野の花見(1594年)」「醍醐の花見(1598年)」は特に有名です。 江戸時代に入ると、貴賤に関係なく大勢の人々がお花見を楽しむようになり、女性は着飾り、また大勢で飲食を楽しむようになりました。「ソメイヨシノ」は江戸時代後期に開発され、徐々に日本中に広がり、桜と言えば「ソメイヨシノ」を指すまでになったのです。 今や、日本人が「桜」を愛でる「お花見」は日本の国民的行事であり、外国人観光客を呼び込む観光資産にもなってきています。 そして、今年のお花見は新型コロナが5類に移行してから初めての行動規制のないお花見だったため、多くの人出があったと推測されます。今回は、今年のお花見の経済効果を推計しました。   2 日本在住の人たちのお花見の総支出額 (1) お花見に行く日本在住の人たちの総数 ① 日本の総人口 最初に日本に在住していて今年お花見に行った人の数を推定します。総務省統計局の2024年2月20日の発表によると、2023年9月1日時点の日本の総人口(日本人+在日外国人)は約1億2,435万人で、詳細は以下の通りです。 〈日本の総人口〉 本稿では、自主的にお花見に行って1人分の経費がかかる年齢層を10~79歳と仮定します。その人数は10~19歳の約1,076万人と20~79歳の約9,207万人の合計約1億283万人となります。 ② お花見の人数 このうち何人がお花見に行くのでしょうか。天気予報アプリケーションの「ウェザーニュース」の調査(2023年5月30日発表)によると、2023年にお花見に行った人の割合は50.9%でした。 今年は、新型コロナによる行動規制がなくなり、人々の旅行や外出が増えていることから、お花見に行く人の割合が増えたと予想されます。株式会社NEXERが運営する日本トレンドリサーチの調査(2022年3月11日発表)では、「コロナが収束したらお花見に行きたい人」の割合は68.4%でしたので、「ウェザーニュース」と日本トレンドリサーチの平均値約59.7%が今年のお花見に行った人の比率と仮定しました。 以下には〈日本の総人口〉のうち、実際にお花見に行くと推定される59.7%の人数が示されています。合計人数は約6,139万人となります。これら以外の人たちは小さい子供や高齢者のため、費用がほとんどかからないか、同行者全体で費用を負担すると仮定します。 〈お花見に行く推定人数〉 (2) お花見における1人当たりの消費額 株式会社インテージの調査(2023年3月13日発表)によると、お花見の1人当たりの予算は1人平均6,935円となっています。本稿では学割を使用できる場合があることや飲酒をしないことを踏まえ、19歳以下の花見客の1人平均消費額は、6,935円より2,000円少ない約4,935円と仮定します。 その結果、今年の日本在住の人たちのお花見の総支出額は約4,128億9,965万円となります。   3 訪日外国人のお花見の総支出額 (1) お花見に行く訪日外国人数 ① 春に日本を訪問する外国人数 ここ数年、新型コロナにより観光目的で訪日する外国人の数は激減しました。しかし、訪日外国人の規制撤廃と円安の効果により、今後訪日外国人はかなり増加するものと考えられています。株式会社JTBは2023年12月20日に、2024年の訪日外国人の数は、過去最多の約3,310万人になると予想しています。 日本政府観光局(JNTO)は、2023年の訪日外国人は約2,507万人であったと発表しています。株式会社JTBは、2024年は2023年を約803万人(対前年比32%増加)上回る外国人が来日すると予想しています。その結果、2024年の春の訪日外国人数のうちの観光客数は以下のようになります。 〈春に訪日する観光客数〉 ② お花見に行く訪日外国人数 日本の桜は、南から北まで、3月下旬から5月上旬まで咲き誇るので、訪日外国人は長期にわたって日本の桜を楽しむことができます。これらの桜を楽しむ外国人観光客は3月下旬(1ヶ月の1/3)、と4月の1ヶ月、5月上旬(1ヶ月の1/3)にお花見に行くと仮定すると、訪日外国人の総数は約373万人となります。 (2) お花見に行く訪日外国人の支出額 国土交通省観光庁の「2023年1-3月期報告書 訪日外国人の消費動向」によると、観光・レジャー目的の訪日外国人観光客の1人当たり平均宿泊数は6.6日(本稿では延べ7日と仮定します)でした。 同じく国土交通省観光庁の2024年1月17日発表の【訪日外国人消費動向調査】によると、訪日外国人(一般客)1人当たりの旅行支出額は21万2,000円でしたので、訪日外国人観光客の1人1日当たりの消費額は約3万286円と仮定します。その結果、訪日外国人のお花見の総支出額は約1,129億6,678万円となります。   4 お花見の総消費支出額(直接効果) 以上の計算より、日本在住の人たちと訪日外国人のお花見の消費支出の総額は約5,258億6,643万円となりました。   5 お花見の経済効果(経済波及効果) これまで計算してきたお花見の直接効果約5,258億6,643万円を基にして経済効果を推計すると、以下のように約1兆1,358億7,149万円となります。 〈お花見の経済効果〉   6 まとめ 2024年のお花見の経済効果は約1兆1,358億7,149万円となりました。これは、2023年のお花見の経済効果約6,158億1,211万円の約1.8倍です。これだけ今年のお花見の経済効果が大きくなったのは、次の理由によるものと考えられます。 昨年セリーグでの阪神優勝の経済効果は約872億円でした。今年のお花見の経済効果約1兆1,358億7,149万円と同等の経済効果を生むには、阪神は13回優勝する必要があることになります。いかにお花見の経済効果が大きいかがお分かりいただけるでしょう。 たった2ヶ月足らずで、日本にこれだけ大きな経済効果をもたらし、世界に誇れる観光資産の美しい「桜」を、長年にわたって守り育ててこられた関係者の方々に心から感謝したいと思います。 (了)

#No. 579(掲載号)
#宮本 勝浩
2024/07/25
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