特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第13回】 「買換資産を居住の用に供する期限」 -居住の用に供する期限- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年9月に居住用財産(所有期間が10年超で居住期間は10年以上)を売却し、同年12月に居住用の家屋とその敷地を取得しましたが、現在まで居住の用に供していません。 この場合、いつまでに居住の用に供すれば「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 譲渡の年に買換資産の家屋と敷地を取得していますから、その譲渡の年の翌年12月31日(本年12月31日)までに居住の用に供すれば、「買換えの特例」の適用を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 買換資産の取得の日に応じ、次に掲げる日までに居住の用に供すれば、「買換えの特例」の適用を受けることができます(措法36の2①②)。 したがって、本事例の場合は、譲渡の年に買換資産を取得していますので、上記の②に該当し、譲渡の年の翌年12月31日(本年12月31日)までに居住の用に供すれば、「買換えの特例」の適用を受けることができることとなります。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第22回】 「雑収入(預り金)」 ~従業員からの預り金に係る雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた「従業員からの預り金に係る雑収入計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成26年2月21日裁決(裁決事例集94号1頁。以下「本裁決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 本件理由付記は、素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工して作成したものである。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本裁決の判断 本裁決は、大要次のとおり、本件理由付記には、所得加算の内容、その判断の根拠、雑収入計上漏れの具体的態様等及び資料としての本件覚書が摘示されていることから、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 理由付記の趣旨目的と記載の程度 (2) 理由付記の十分性 4 検討 (1) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社がJ課長から受領した預り金(差入れ金)のうち返金を要しないこととなった30万円について、課税庁が雑収入に計上すべきであるとするものである。したがって、X社が、その帳簿上、雑収入として計上していないことの否認という広い意味において、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するものと考える(本裁決においては、X社はJ課長から受領した預り金に関して、帳簿書類への記録を行ったとの事実はないと認定されている。もっとも、覚書自体が帳簿書類の一種ではある)。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 ア 信憑力のある資料の摘示の有無 本件理由付記は、X社がJ課長から受領した預り金のうち30万円について、X社は、その帳簿上、雑収入に計上していないが、これを雑収入に計上しなければならないものとする本件更正処分を行うに当たり、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、その根拠として、X社とJ課長との間で取り交わした覚書が存在すること及びそこには平成17年9月27日にJ課長がX社に対し発生させた事業上の損失を補填させるための弁償金として、上記30万円については返金しない旨が記載されていることを摘示している。 したがって、本件理由付記は、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、更正処分の根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示していると評価し得る。 イ 理由付記の趣旨目的との適合性 本件理由付記は、本件更正処分の理由として、X社とJ課長との間で取り交わした覚書が存在すること、そこには平成17年9月27日にJ課長がX社に対し発生させた事業上の損失を補填させるための弁償金として、X社がJ課長から差入れを受けた金額のうち30万円については返金しない旨が記載されていること及びX社は当該30万円を雑収入として計上していないことを記載している。 当該30万円の収益該当性又は収益計上時期に関して、根拠条文の記載はないものの、X社がJ課長から差入れを受けた金額のうち30万円については返金しない旨が記載されていることからすれば、本件更正処分は、返金しないことの確定をもって、上記30万円を当事業年度の収益に計上すべきであると判断していることを読み取ることができる(関係法令としての法人税法22条2項又は4項については本連載【第20回】参照)。 そうすると、本件理由付記は、更正処分に係る法律上及び事実上の根拠を示すものであって、結論に至る判断過程並びに判断の前提となる事実及びその証拠資料を記載するものであるといえる。したがって、本件理由付記は、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであり、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 なお、参考として、本裁決は次のような判断も示している。 「課税要件に該当する事実の存否の問題」と「理由付記という課税手続の問題」は次元が異なるものであり、原則論としては妥当な判断である。 (3) 異なる視点 本裁決は、覚書には次のとおり記載されていることを明らかにしている。 この覚書の意味するところは、その文面上からは必ずしも判然としないが、本裁決は、種々の証拠や事情を勘案した上で、X社がJ課長に対して預り金のうち30万円を返金しないこととしたと認めることはできず、課税庁が主張するように当該事業年度において30万円の雑収入計上漏れがあったと認定することはできないとして、課税処分を取り消す判断をしている。 ところで、上記(1)③において示した「帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料の摘示」とは、厳密にいえば、【1】「資料の摘示」という形式的な要素と、【2】当該資料が「更正処分の根拠となるもの」であり、かつ、当該青色申告者の「帳簿書類の記載以上に信憑力があるもの」であるという実質的な要素の2つから成る。 このことを踏まえると、確かに、上記覚書の文面を見る限りでは、そこから上記30万円がX社の雑収入になるという結論を直截的に導くことは難しいように思われることから、上記覚書は、本件更正処分との関係において直ちに「本件更正処分の根拠となる」資料であるとはいい難いのではないかという疑問が生じる。 また、上記覚書が仮に「本件更正処分の根拠となる」資料であるといえたとしても、雑収入に計上していないという意味での帳簿の記載との関係において、「帳簿書類の記載以上に信憑力のある」資料であるとはいえないのではないか、という疑問も生じる。 この点、審査請求における課税庁の主張を見ると、課税庁は、調査担当者が作成したJ課長に対する質問てん末書(J課長の応答内容として、上記30万円について、J課長がX社から現金の返金を受けたのではなく、J課長が顧客に交付した交際費30万円が無駄になってしまった責任として、X社への預け金から補てんすることになった旨記載されているもの)を根拠として、更正処分を行ったことがわかる。 この主張に着目すると、更正処分の根拠として、上記質問てん末書に記載されているJ課長の応答内容を示した上で、上記覚書の意味内容についての課税庁の理解を理由付記に示すべきであったと考える。 このように、素材とした本裁決において示されている事情をも考慮すると、本件理由付記は、更正処分の根拠として帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示していない、あるいは、課税庁の判断過程の重要な部分を省略して記載するものであり、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものではないという評価も成り立つ余地が出てくる。 (4) 更なる議論 ~覚書の作成年月日の記載がないことが与える影響~ 本件理由付記には覚書の作成年月日の記載がない。このことが、理由付記の十分性にどのような影響を与えるであろうか。 この点、上述のとおり、本件理由付記には覚書の作成者や内容が具体的に記載されているから、特段の事情のない限り、どの覚書のことを指しているのか、その特定は容易であると考える。そして、覚書の当事者であるX社に関していえば、このことはよりいっそう当てはまる。このような事情を考慮すると、覚書の作成年月日の記載がないことのみをもって、本件理由付記は理由付記の趣旨目的に適うものであるという上記評価を覆すことは妥当でないという見解が成り立つ。 このような見解に対しては、理由付記は、更正通知書の記載自体において法が求める程度に記載されていることを要し、その理由を納税義務者が推知できると否とに関わりのない問題であるはずではないか(最高裁昭和38年12月27日第二小法廷判決・民集17巻12号1871頁)という反論があり得る。 これに対しては、「あくまで理由付記の文面の枠内において」という留保は付くものの、理由付記の十分性を判断するに当たっては、①理由付記の文言のみならず、その文面から推知可能な内容も判断の対象とすべきであること、及び、②このような推知の場面では課税処分を受ける納税者自身が最もよく知悉しているという事情を考慮すべきであること、という再度の反論の余地がある。 なお、この点に関して、本裁決は次のとおり判断している。 * * * 次回は、「立退料の雑収入計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第14回】 「法人税法上の土地の時価が問題となり原処分の時価が否定された事例」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 本件は、法人(原告)がその代表者から土地(本件各土地)の死因贈与を受けたことに関して、それに伴う受贈益がいくらなのかが問題となった事例である。 争点は、本件事業年度の益金の額に算入されるべき本件受贈益の額であり、具体的には、本件受贈益の額とされるべき本件各土地の課税時期(平成14年1月27日)における時価額の合計が、原処分について最終的に認定された5億6,408万2,311円又はこれを超えるか否かである。 〔当事者の主張〕 ▷ 原処分庁 取引事例比較法による評価額が合理的である。 本件各土地はいずれも更地であるから、主として建物又は建物及びその敷地の価格を算定するのに有効な原価法や、主として賃貸用不動産等の価格を求めるのに有効な収益還元法よりも、取引事例比較法の手法を採用することがより適切な時価額の評価手法である。 また、不動産鑑定士(丁)による不動産鑑定評価額からも、その評価額の合理性が裏付けられる。 ▷ 原告納税者 相続税評価額を0.8で除した価額(相続税評価還元法)が公示価格の近似値であり、時価として合理的である。 〔裁判所の判断〕 裁判では、「取引事例比較法」、「相続税評価還元法」及び「鑑定評価額」について当事者双方がそれぞれ価額を主張する展開となった。 裁判所は、要旨次のような理由から、課税庁の取引事例比較法による時価の算定結果は、その信用性に疑問があると結論づけた。 結局、裁判所は自ら、不動産鑑定士(丙)に鑑定評価を依頼して、その評価手法が不動産鑑定評価基準に沿ったものであり合理性があるとして、その価額を時価とする判断を下した。 〔判断の分水嶺〕 本件の判断の分水嶺は、まずは、課税庁の取引事例比較法の算定方法について合理性が認められずに原処分の前提となった時価が否定されたことである。そして、裁判所はその上で、丙鑑定(裁判所が命じたもの)の評価過程を検討してその評価額を時価と認めた。 なお、課税庁の丁鑑定について裁判所は、 ともしている。 〔本判決が示唆するもの〕 当然ながら鑑定評価であれば無条件に「時価」と認められるわけではないことを確認しておきたい。そして、本判決は、特段の事情の存する場合は別論として、不動産鑑定評価基準に従うことが法人税法22条4項の趣旨に沿うものというべき、という一つの考え方を示している。この考え方は、広く一般化できる基準とまではいえないだろうが、実務上の一つの指針といえよう。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第26回】 「意思無能力者の申告義務事件」 ~最判平成18年7月14日(集民220号855頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第133回】 企業結合会計⑦ 「共通支配下の取引」 ―無対価の会社分割(親会社が分割会社、子会社が分割承継会社のケース) 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 1 A社の会計処理 2 B社の会計処理 〈会計処理の解説〉 「共通支配下の取引」とは、結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいいます(「企業結合会計基準」119項)。 本事例における会社分割において、分割会社であるA社のa事業は会社分割前においてはA社の株主によって支配され、会社分割後に分割承継会社であるB社に承継された後においても、最終的には親会社であるA社(の株主)により支配されています。また、B社は過年度から継続してA社の100%子会社に該当するため、A社(の株主)による支配も一時的ではないといえます。よって、本事例における会社分割は共通支配下の取引に該当します。 共通支配下の取引により企業集団内を移転する資産及び負債は、原則として、移転直前に付されていた適正な帳簿価額により計上されます(「企業結合会計基準」41項)。 よって、B社においては、A社から受け入れるa事業に係る資産及び負債は、分割直前(分割期日の前日)にA社で付されていた適正な帳簿価額により計上します(「企業結合会計基準」41項、「企業結合・事業分離等適用指針」203-2項)。 また、A社においては移転した事業に係る資産及び負債の差額は、純資産を減少させます。減少させる株主資本(純資産)の内訳は、取締役会等の意思決定機関において定められた額となります(「企業結合・事業分離等適用指針」203-2項、233項)。 B社においては、原則としてA社が減少させた株主資本(純資産)の内訳を引き継ぐ会計処理をします(「企業結合・事業分離等適用指針」234項)。 ただし、会社法上、分割承継会社が、分割に際して株式を発行していない場合には、資本金及び準備金を増加させることは適当ではないと解されるため、会計上は、分割会社の株主資本の各項目を原則として引き継ぐこととしたうえで、増加すべき払込資本の内訳項目は、会社法の規則に従い、分割会社の資本金及び資本準備金の減少額は、分割承継会社においてその他資本剰余金として引き継ぎ、分割会社の利益準備金の減少額は、分割承継会社においてその他利益剰余金として引き継ぐ会計処理をします(「企業結合・事業分離等適用指針」437-2項、437-3項)。 本事例における会社分割は、無対価で行われていることから、当然にB社では、分割に際して株式を発行していません。よって、B社においては、A社が減少させた資本金及び資本準備金については、その他資本剰余金として引き継ぎ、A社が減少させた利益準備金についてはその他利益剰余金として引き継ぐ会計処理をすることになります。 (了)
外国人労働者に関する 労務管理の疑問点 【第2回】 「就労に制限のある在留資格・制限のない在留資格とは?」 社会保険労務士・行政書士 永井 弘行 1 外国人の在留資格は入国管理局が与える「許可」の一種です 日本に中長期間在留する外国人は、適法に日本に在留することができる「在留資格」を得て、法務省入国管理局が交付した「在留カード」を持っています。 在留資格は、行政機関(役所)が与える許可の一種です。「外国人が適法に日本に在留できる法律上の立場・資格」といえます。 例えば、自動車の運転免許は、免許証を持っている人だけが車を運転できる制度です。免許証を持っていなければ、車を運転することはできませんね。もし免許なしで車を運転すると法律違反であり、法令に基づき処罰されます。 こうした制度と同様に、外国人は「在留資格」が許可された人だけが、日本に在留することができます。「在留資格」が許可されなければ、日本に在留することができません。 さらに「在留資格」は、「就労に制限のない在留資格」と「就労に制限のある在留資格」に大きく区分されます。 ここで「在留」という用語の意味について説明しておきましょう。 「在留」とは、「しばらくその土地や地域にとどまって住むこと」をいい、特に「外国にとどまって住むこと」を表します。 「滞在」が「誰が、どこにいるのか」を意識せずに使うのに対して、「在留」は「外国にとどまっている」場合に用いることが多いと思います。この「在留」は、日常生活ではあまり使わない言葉です。ニュースや報道では、「海外の在留邦人の救助を行う」などといった使われ方をします(邦人は日本人のことです)。 なお、観光目的などで来日する外国人は、15日、30日、90日などの「短期滞在」の在留資格を得て、日本に入国するのが一般的です。団体旅行で来日した外国人のパスポートには、日本の港や空港で「短期滞在」と書かれた証印(シール)が貼り付けられます。 この「短期滞在」の外国人は就労不可です。もし日本国内の旅行中に所持金がなくなっても、日本でアルバイトをしたり、ハローワークで就職活動を行うことはできません。 2 「就労に制限のない在留資格」とは 「就労に制限のない在留資格」には、 の4つがあります。この4つは、日本との結びつきが強く「一定の身分または地位を有する人」に与えられる在留資格です。入管法では「別表第2」に記された在留資格です。 この4つの在留資格のある外国人は、日本人と同じように、どんな職にも就くことができます。前回ご説明した外国人留学生とは異なり、風俗営業などの業務にも従事することができます。在留カードの「就労制限の有無」欄には「就労制限なし」と書かれています。 例えば、次のような業務に従事することも可能です。 コンビニ向けの弁当工場で総菜、サラダを作る製造ラインで働く。 物流倉庫(配送センター)内で、フォークリフト等を運転し構内運搬の業務を行う。 居酒屋などの飲食店で調理補助や、ホール・レジ担当として働く。 社員として雇用するときの制約についてまとめた下図では、左側の「日本人の場合」に該当します。 〈社員として雇用するときの制約の有無〉 (※) 「単純労働的な業務」とは、入管法を適用するときに、入国管理局が「専門的・技術的な業務ではない」とみなしている業務をいいます。 3 「就労に制限のある在留資格」とは 上記の4つ(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者)以外の在留資格は、「就労に制限のある在留資格」です。 つまり になります。入管法では「別表第1」に記された在留資格です。 例えば、輸出品を多く扱う製造業を営む会社の場合、通訳・翻訳、貿易業務に従事する外国人には「技術・人文知識・国際業務」の在留資格が付与されるのが一般的です。これは「与えられた在留資格の範囲内で就労が認められているもの」です。 この外国人従業員の在留カードの「就労制限の有無」欄には、「在留資格に基づく就労活動のみ可」と書かれています。上記2の図では、右側の「外国人の場合」に該当します。 この製造業の会社の例では、外国人従業員が「通訳・翻訳の業務、貿易業務や付随する業務」に従事することを前提に、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格が許可されています。 この「技術・人文知識・国際業務」は、外国人の学歴や業務経験に基づく専門的・技術的な業務、または、外国人に固有の語学力等を活かした業務に従事するために許可された在留資格です。入管法では「本邦(日本国内)において行うことができる活動」として、次のように定められています。 ここで、在留資格で許容された範囲外の業務に従事することは、「資格外活動」として不法就労になります。 例えばこの製造業の会社で、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格のある外国人が、専ら工場構内のフォークリフトの運転に従事していた場合、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の業務に当てはまりませんので、不法就労になります。 なお、工場構内のフォークリフトの運転業務にフルタイムで従事できるのは、永住者、日本人の配偶者等などの「別表第2」の在留資格の外国人に限られます。現在の法令では、「技術・人文知識・国際業務」などの「別表第1」の在留資格の外国人は、従事することができません。また「工場構内のフォークリフトの運転業務」は、別表第1の中の、他のどの在留資格にも該当しません。 入管法では、それぞれの在留資格について「本邦(日本国内)において行うことができる活動」が定められています。外国人従業員を雇う側の経営者や人事担当者としては、「与えられた在留資格の範囲内に限り就労が認められている」ということを正しく理解し、範囲外の業務は決して行わせないでください。 4 不法就労に対する事業主への罰則は 外国人が不法就労を行うと、入管法によりその外国人本人が処罰されます。悪質な場合には退去強制(国外に追放)され、日本への再入国が5年間禁止されることがあります。 さらに、その外国人を雇用していた会社(事業主)も、外国人に不法就労をさせた者として処罰されます。 入管法により、次の場合には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。 実際にあった話ですが、今から5年以上前、関西で実施された外国人留学生を対象とした合同企業説明会で、ある会社から「大型トラックの運転業務」という募集がありました。 この業務は、そもそも現在の法令では、在留資格が許可されない業務です。当然、入国管理局から「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は許可されません。 当時は主催者や参加企業に、在留資格に関する知識が少なかったため、事前チェックが不十分だったのだと思われます。 5 留学生のアルバイト雇用について(おさらい) ここまでの解説を踏まえて、前回の内容をおさらいしましょう。 外国人留学生は「留学」の在留資格を得て、日本で学んでいます。この在留資格は、家族滞在などの在留資格と同様に「就労が認められていない在留資格」です。在留カードの「就労制限の有無」欄には「就労不可」と書かれています。つまり、外国人留学生は「日本で仕事に就くことができない」のです。 しかし、留学や家族滞在の在留資格は、入国管理局から「資格外活動の許可」を得ていれば、週28時間以内の就労が可能です。在留カードの裏面の資格外活動許可欄に「許可:原則週28時間以内・風俗営業等の従事を除く」と書かれていれば、資格外活動の許可を得ています。この状態で、初めてアルバイトが可能になります。 もし書かれていなければ、その状態ではアルバイトに就くことができませんので、アルバイト開始までに資格外活動の許可を得ることが必要です。 〈学生(大学生・専門学校生など)をアルバイトで雇用するとき〉 ここまでの説明を図にまとめると、次のようになります。 6 募集・採用選考時には「在留カード」を見て在留資格の確認を 中長期在留の外国人は、「在留カード」を常時携帯することが義務づけられています(入管法第23条第2項)。 会社が外国人を採用するときは、選考・面接の段階で「現在の在留資格を教えてください」という形で、確認を行うようにしてください。 永住者、日本人の配偶者等の外国人には就労の制限がありませんので、日本人と同様に仕事に就くことができますが、技術・人文知識・国際業務、研究、教育、技能などの在留資格は「在留資格に基づく就労活動のみ可」です。不法就労に当たる業務に従事させないよう、注意が必要です。 また留学生のアルバイトの場合は、資格外活動の許可を得ていることの確認が必要です。在留カードの裏面を見て、確認してください。 7 在留資格の種類と就労の可否の関係を図示すると 現在の法令に基づく「在留資格と就労の可否」の関係を図示すると、次のとおりです。 会社側としては、外国人がどの在留資格なのかを正しく理解したうえで、外国人従業員の雇用を行ってください。 〈就労の可否(制限の有無)で在留資格を区分すると・・・〉 なお在日韓国・朝鮮人、在日台湾人、その子孫のうち、日本で永住できる「特別永住者」は、上記の入国管理局の在留資格の制度の対象ではありません。 また、「特別永住者」に就労の制限はありません。特別永住者には「在留カード」ではなく、「特別永住者証明書」が交付されます。 * * * 今回の説明について参考となる入国管理局のホームページは以下のとおりです。 【参考】 ▷在留資格の種別と概要について見るには・・・ 「入国管理局パンフレット(出入国管理のしおり)(2016年版)」6~7ページ (※) なお8~10ページには、様々なタイプの在留カードが示されています。 ▷在留カードのサンプルを見るには・・・ 「在留カードとは?」 ▷特別永住者証明書のサンプルを見るには・・・ 「特別永住者証明書とは?」 (了)
これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第3回】 「「役員改選の登記手続」が定期メンテナンスの役割を果たす」 司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹 はじめに 前回は登記管理を怠るリスクについて解説した。今回は、役員の任期満了に伴う登記手続が、登記管理を怠るリスクを回避する役割を果たすという点に着目してみたい。 役員改選の登記手続=定期メンテナンスの役割 まず、役員の任期満了に伴う登記手続(以下、「役員改選の登記手続」という)は、連載【第1回】で解説した、会社の履歴書の更新であるとイメージしていただきたい。 以下で述べるように、役員改選の登記手続は、一定の期間で更新する必要があることから、その他の事項も含めた、会社の履歴書の定期メンテナンスを行うきっかけとなる。 この更新の頻度は、定款に定められた取締役や監査役の任期の規定による。 そこでまずは、役員の任期規定について整理していこう。 役員の任期規定 取締役の任期は、原則として2年である(会社法第332条第1項)。詳しく言えば、選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結時までである(以下、任期に関する表記については「〇年」と省略して表記する)。 監査役の任期は、原則として4年である(会社法第336条第1項)。 平成18年の会社法施行後は、株式の全部に譲渡制限が付されている株式会社(以下、「非公開会社」という)では、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除いて、定款で定めることにより、取締役、監査役の任期を最長10年まで伸長できるようになった(会社法第332条第2項・同法336条第2項)。 なお、非公開会社では、登記記録に以下の記載がある。 【非公開会社の登記記録の例】 (※) 機関設計によっては、「株主総会」や「代表取締役」といった承認機関となる。 非公開会社では、取締役の任期を1年から10年の間で定めることができる。監査役の任期は、取締役と異なり、監査の地位保障の観点から、原則の4年より短縮することができない。 一方、公開会社では、株主の変動が多く、取締役の選任につき株主の信任を頻繁に問う必要があることから、取締役の任期を2年より伸張することができない。監査役の任期は4年であり、任期の伸長や短縮はできない。 非公開会社・公開会社における取締役と監査役の任期をまとめると、次のとおりである。 【取締役・監査役の任期の定め】 (青色のアミカケ部分は、任期で定めることができる範囲を示す) 取締役や監査役の任期は、会社設立時は発起人により決定され、定款に記載される。会社設立後は株主総会の決議によって、定款に定められた任期を変更することができる。 役員の任期と定期メンテナンスにかかる労力 取締役の任期が1年、2年、4年、10年のケースについて、登記手続(=定期メンテナンス)のタイミングとそれぞれの特徴をまとめると、下図のようになる。 【取締役の任期】 ※非公開会社の場合 (青色の丸が登記手続(=定期メンテナンス)のタイミングを示す) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 次に、「任期1年の場合」と「任期10年の場合」における、メンテナンスのイメージ図である。 三角形の大きさが「メンテナンスを必要とする部分」を表す。これは「メンテナンスにかかる労力」ともいえる。また、矢印の数が「メンテナンスの頻度」を表す。これは「役員改選の登記手続の費用を要する場面」ともいえる。 【メンテナンスの労力・費用のイメージ図】 このように、任期が1年であれば毎年メンテナンス費用等がかかり、一方で任期が10年であればメンテナンスに多くの労力等を要し、さらにはメンテナンスの機会自体を逸するリスクも増大する。 そこで、「監査役の任期が最短4年である」という点に着目して、非公開会社では、取締役と監査役の任期を4年に統一し、取締役、監査役ともに同一の時期に改選すれば、登録免許税等の費用負担を減らすことができる。定期メンテナンスのしやすさや費用負担の観点から、任期を4年とするのも一案だろう。 なお、登記管理の場合、メンテナンスには役員や株主による意思決定が必要となる。一定の同意が得られないと、「会社の履歴書」は更新されないままとなる。このため、役員や株主の意思決定が不備なく反映される視点でメンテナンスを実施するのが望ましい。 定期メンテナンスで確認すべき項目 では実際に、役員改選の登記手続時に行う定期メンテナンスにおいて、どのような事項を確認すべきか、その「メンテナンス項目」について解説していく。 以下は、役員改選の登記手続時に検討すべきメンテナンス項目の例である。項目が多数にわたるが、主に「登記記録」「役員構成」「株主構成」に着目している。 【メンテナンス項目の例】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 なお、これまで述べた役員の改選登記の時期に限らず、例えば役員や株主構成に変動があれば、その都度登記手続や株主名簿の名義書換を行う必要がある点には留意されたい。 また、会社が個別に対応する機会を逸してしまったとしても、司法書士等の専門家が役員改選の登記手続に携わるなかで、会社が把握、対応しきれていない点につき、対策を講じることができる場合がある。 * * * 定期メンテナンスの機会を漏れなく設けるためには、入り口として、役員改選の登記手続の時期を的確に特定する必要がある。 そこで次回は、役員改選の登記手続の時期を特定する方法について解説していく。また、次回以降メンテナンス項目についても随時解説していく。 (了)
税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第7回】 「「農地の集約化」のための法制度(農業経営基盤強化促進法等)」 税理士 島田 晃一 連載【第1回】で紹介したように、我が国の農業については、高齢化、後継者不足及び輸入農産物との競争など岐路に立たされている。 これら問題点の解決策の一つとして、農地を集約し大規模に行うことによる経営の合理化が挙げられる。 今回は農地の集約化に関する法制度について見ることにする。 1 農業経営基盤強化促進法 農業経営基盤強化促進法とは、効率的かつ安定的な農業経営を育成するために設けられた法律で、市町村は次の事業(農業経営基盤強化促進事業)を行う。ただし、市街化区域にある農地については農業経営基盤強化促進事業の対象外である。 (1) 利用権設定等促進事業 利用権設定等促進事業は、農地について利用権の設定、所有権の移転を促進する事業である。 手順は、まず農地所有者及び農業者から「農地の権利設定・移転」について農業委員会に申出を行い、その申出を受け農業委員会が市町村に「農地の権利設定・移転」を盛り込んだ計画(農地利用集積計画)の作成を要請する。その際、認定農業者・認定就農者からの申出については、他の申出に優先して農業委員会が調整にあたる。 また、農地利用円滑化団体(市町村、農業公社、農協など)や農用地利用改善団体などが権利関係の調整を行いその内容を申し出たときは、その内容を勘案して農地利用集積計画が作成される。最終的には農業委員会の決定を受け市町村が農地利用集積計画の公告を行う。 市町村が「農用地利用集積計画の公告」を行った場合、農地法の特例として、農地法3条の許可(【第2回】参照)を受けなくても権利設定・農地移転を行うことができる(農地法第3条第1項第7号)。また、賃貸借の法定更新も適用されない(農地法第17条後段)。つまり、契約期間が満了すれば、離作料の支払をしなくても元の所有者に農地が返ってくる(再契約も可)。 なお、「認定農業者」とは経営の改善に取り組む農業者で、5年後の経営改善目標等を規定した経営改善計画を策定し、その計画について市町村の認定を受けた者をいう。一方、「認定就農者」とは18歳から45歳までの新たに農業を始める者で、就農後数年後の経営目標を定めた青年等就農計画を策定し、その計画について市町村の認定を受けた者をいう。 認定農業者又は認定就農者になった場合、前述したように利用権設定等促進事業について農業委員会の調整を受けることができる。また、日本政策金融公庫からの資金の貸し付けにあたって配慮を受けることができる。 (2) 農地利用集積円滑化事業 農地利用集積円滑化事業は、農地利用円滑化団体が実施主体になり、①権利設定・農地移転による農地集積を図る事業(農地所有者代理事業)、②農地所有者から農地を購入し他の農業者にその農地を売却する事業(農地売買等事業)、及び、③農地売買等事業により一時的に所有している農地を利用した新規就農希望者に対する農業技術等の実地研修を行う事業(研修等事業)からなる。 このうち農地所有者代理事業や農地売買等事業については、(1)の利用権設定等促進事業を活用し、農地法の制約を受けない形で行う場合もある。 (3) 農用地利用改善事業 農用地利用改善事業は、農用地利用改善団体など一定規模の集落内の農業者団体が、その構成員の合意のもとに、作付の集団化、農作業の効率化、農地等の利用関係の改善を促進する事業である。 2 農地中間管理機構(農地バンク) 農地中間管理機構(農地バンク)とは、地域内の分散・錯綜した農地利用を農業の担い手ごとにまとまった形に集約し、農業の効率化を図ることを目的とした組織で、平成25年度まで農地保有合理化法人(都道府県農業公社)が実地していた事業を引き継ぐ形で平成26年度に創設された組織である。農地中間管理機構は都道府県毎に1つ設けられており、その運営等は「農地中間管理事業の推進に関する法律」に定められている。ただし、市街化区域にある農地については事業対象外である。 農地中間管理機構は、農地所有者からの委任により借り受けた農地を、公募した希望者に貸し付ける(農地中間管理事業)。つまり、農地所有者は公的機関である農地中間管理機構に農地を貸し、農地を借りる者は農地中間管理機構から借りることになる。そのため、農地を借りる者は農地所有者と直接交渉することなく農地を借りることができるというメリットがある。 一方、農地所有者にとっても、自ら農地の借り手を探すことなく農地を貸すことができる。さらに、貸し付けの際には、農地中間管理機構が基盤整備等の条件整備を行い作業の効率化を図れる面積や形状に区分するとともに、すぐに借り手が見つからないときは当該農地の維持管理も行う。また、賃料は農地中間管理機構から支払われるので未収の心配もない。 民法上は借地権を貸主の承諾なしで第三者に転貸できないが、農地中間管理機構が設定した農地に係る権利(農地中間管理権)については、民法の例外として貸主の承諾を得なくても第三者に転貸でき、契約期間が満了すれば自動更新されず農地は所有者に返ってくる。さらに、農地中間管理権設定の際には、農地法の特例として農地法第3条の許可は不要である(農地法第3条第1項第7号の2)。 農地中間管理事業は、公募であることなどを除き、その内容について前述した農地所有者代理事業と多くの共通点がある。そのため、機構の創設以降、相当数の農地所有者代理事業が農地中間管理事業に移行している。 【参考図】 (※) 農林水産省ホームページより 3 農地に係る相続税の納税猶予 農地に係る相続税の納税猶予の適用にあたっては、原則として第三者に貸し付けている農地は適用対象外である。また、納税猶予期間中に対象農地を第三者に貸し付けたときは納税猶予が打ち切られ、猶予されていた税額及び利子税を納める必要がある。 ただし、「特定貸付け」といい「農地中間管理事業」、「農業経営基盤強化促進法による農地利用集積円滑化事業」などに基づく貸し付けを行ったときは、納税猶予の打ち切りの対象外になる。また、既に被相続人の死亡前に特定貸付けを行っている農地や相続発生に伴い新たに特定貸付けを行った農地については、相続税の納税猶予の適用対象になる。 4 農地の譲渡に伴う税制の特例 農地を譲渡したときは、譲渡所得(分離課税)の対象になり、所得税・復興特別所得税・住民税が課税される。 ただし、次の場合、特別控除の適用を受けることができる。 また、認定農業者又は認定就農者が「①市街化区域又は既成市街地等内の農地から市街化区域外の農地へ買い換えた場合」又は「②農用地区域内において買い換えた場合」については、事業用資産の買換え特例の適用がある(旧措法37①二・七)。 ①の場合は譲渡面積の10倍までが特例の適用対象になる。一方、②の場合は「取得農地の面積>譲渡農地の面積」又は「取得農地が自らの所有農地の隣接地であること」のいずれか1つの要件を満たすことが必要であり、譲渡面積の5倍までが特例の適用対象になる。 なお、平成29年度の税制改正により、これらの買換えの特例については原則として平成29年12月31日においてその適用が打ち切りになるので注意されたい。ただし、経過措置により、平成29年12月31日までに農業経営基盤強化促進法の規定に基づき農業委員会に農地売買の申出を行ったときは、平成31年12月31日まで特例の適用期限が延長される。 (了)
家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第12回】 「家族信託への金融機関の関与」 弁護士 荒木 俊和 今回は家族信託の組成、運営をめぐり、金融機関がどのように関与するかについて解説する。 1 家族信託と金融機関のつながり 前回まで解説したとおり、家族信託は原則的に家族内で行われる資産管理の手段であり、信託銀行等を受託者としなければならないものではない。 しかし、家族信託において信託財産とされるものは、不動産や金銭(委託者の預金を解約して信託財産とする場合を含む)であることが多い。 不動産については取得資金の借入れのために金融機関によって(根)抵当権が設定されている場合があり、また金銭については受託者が金融機関に預け入れるときに固有財産ではなく信託財産であることを明示する口座の開設が必要である。 また、やや複雑なスキームとしては、不動産等を信託した上で受益権を不動産の取得資金としての借入債務とともに新たに設立した法人へ移したり、相続税対策のために親が持っている土地を子に信託した上で信託内借入れを行い建物を建設するといったスキームも行われている。 このように、家族信託と金融機関は密接なつながりを持っていることから、家族信託の設定にあたっては金融機関への対応が重要となる場面も多い。 以下では、家族信託と金融機関の接点となる、①信託口口座の開設、②担保権の設定された不動産の信託、③信託内借入れの各場面における留意点を順に述べる。 2 信託口口座の開設 (1) 信託口口座の必要性 家族信託において金銭を信託した場合、受託者はかかる金銭と自己の固有財産としての金銭を分別して管理しなければならず、法律上は「その計算を明らかにする方法」で管理しなければならないとされる(信託法第34条第1項第2号ロ)。 法律上は、受託者は必ずしも信託財産専用の口座を開設しなければならないわけではないが、実務上、固有財産の口座において信託財産を管理するとなると計算が煩雑になり、混同をきたす恐れが大きい。 また、固有財産の口座において信託財産を管理していると、受託者が差押えを受けたり破産したような場合に、信託財産が凍結されたり、取り立てられるなどの問題が発生しうる。 そのため、信託の機能の一つである倒産隔離機能の実効性を担保するため、信託財産専用の銀行口座である「信託口口座」を開設し、信託された金銭を分別管理することが望ましい。 (2) 信託口口座への金融機関の対応状況 しかしながら、実質的な意味で信託口口座に完全に対応している金融機関はごく一部に過ぎず、形式的には信託口口座の開設には応じてもらえるが、倒産時や相続時等において十分な体制が整っていない金融機関、全く応じてもらえない金融機関も多数存在するものと思われる。 また、対応のレベルもまちまちであり、例えば信託口口座の名義ひとつを取ってみても「委託者〇〇 受託者××」と表記する金融機関もあれば「受益者〇〇 受託者××」と表記する金融機関もあり、統一的な対応が図られている状況とは言えない。 現在のところ家族信託を設定した案件において、相続や倒産等に関連して大きなトラブルがあったという例は耳にしていないが、十分な対応方針が確立していない金融機関においては、信託口口座の取扱いを巡ってのトラブルということも考えられる。 このため利用者側としては、信託口口座の開設を考えている金融機関の実績や担当者の説明に十分に注意し、後にトラブルになることがないかを吟味する必要があるといえる。 3 担保権の設定された不動産の信託 (1) 担保権の設定された不動産を信託する場面 アパート等の収益不動産を多数所有する高齢者が、認知症対策等の目的で、受託者に対して不動産を信託する場合がある。 この場合、ローンを組んで購入した物件の場合であれば、金融機関から(根)抵当権が設定されていることが大半である。そして、この委託者と金融機関の間では(根)抵当権設定契約が締結されており、その契約に基づき、不動産の処分については金融機関の承諾が必要とされていることが通常である。 委託者としては借入れを繰上返済することが可能な場合もあるが、そうすると余計な相続税額が発生することもあるため、安易な繰上返済はできない。 そのため委託者としては、金融機関にスキームを説明し、金融機関から家族信託を行うことについての承諾を得る必要がある。 (2) 信託設定時の対応 単に現所有者を委託者兼受益者とした信託を設定する場合、実質的な財産状況に変化はないため、金融機関としても経済的には大きなリスクが存在しないとの判断を行い、すぐに承諾が得られるケースが多いと思われる。 ただし、家族信託の経験がない金融機関等の場合は、承諾が得られるまでに時間を要することもある。 また、金融機関から「受託者を連帯保証人にしてほしい」といった要求が出る場合もあるが、経済的状況が変化していないことに鑑みると、過剰な要求であると考えられる。 金融機関の承諾が得られれば、信託契約を締結し、不動産の所有権移転登記及び信託登記を行い、信託の設定完了となる。 4 信託内借入れ (1) 信託内借入れが求められるようになった背景 近時、家族信託における信託内借入れの可否が論点になる案件が増加しているものと見受けられる。 まず前提として、信託内借入れとは、受託者が信託契約に定める借入権限に基づいて、信託財産のために借入れをする場合をいい、法律的には信託財産責任負担債務として受託者が信託財産から返済すべき債務となる(信託法第21条第1項第5号)。 このような信託内借入れが行われるようになった背景には、相続税対策における認知症リスクが取り沙汰されるようになったとの事情がある。 すなわち、これまでは財産を保有している本人が金融機関から借入れを行い、アパート等の収益物件を取得又は建設することが行われてきたが、取得や建設の途中において本人が認知症になってしまうと、その時点でプロジェクトがストップしてしまうという問題が指摘されるようになった。 このため、本人が所有する土地を子らに信託し、子らが受託者の立場で相続税対策として信託内借入れを行い、収益物件の取得又は建設を行うスキームが採られるようになった。 (2) 信託内借入れの融資審査 信託内借入れを行う場合の融資審査については(金融機関により異なるものであり、公表されているものではないが)、通常の借入れの融資審査と異なる部分があるように考えられる。 すなわち、信託内借入れの場合、委託者の信託されていない個人財産は引当てにならず、信託財産及び受託者の固有財産が引当てとなる(責任財産限定特約がない限り、信託財産責任負担債務は受託者の個人的責任かつ無限責任となる(信託法第21条第2項の反対解釈))。 また、実際に収益物件の取得又は建設、管理及び運営を行うのは、委託者ではなく受託者である。 このことから、金融機関としては、①信託財産の評価、②受託者の固有財産の評価、③受託者の能力及び意欲、④事業計画等を中心に融資審査が行われるものと思われる。 この際、金融機関に融資を不安視する向きがあれば、委託者に対しても連帯保証を求める等の担保提供の要求も考えられる。 このため、財産を保有している本人としては、このスキームを採る場合には、単に子らに後のことを委ねるというだけでは足りず、このような融資審査を踏まえて検討する必要がある。 具体的には、融資審査に不安が残るのであれば信託財産を土地とするだけではなく、一定の金銭を担保の意味で信託財産に加えておくような対応も考えられる。 (了)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第20話】 「共有持分と措置法35条」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「田中統括官・・・納税者からの質問なのですが・・・」 谷垣調査官は、少し遠慮した様子で尋ねる。 昼食後で、田中統括官は爪楊枝をくわえながら、新聞を読んでいる。 「・・・質問?」 田中統括官は、眠そうな顔をして振り返る。 「父の相続で、配偶者(甲)、長男(乙)、次男(丙)が自宅を取得したのですが・・・次のような持分で、それぞれ取得しているのです・・・」 と言いながら、谷垣調査官は、自分で描いた図を見せた。 「なるほど、ややこしいな・・・」 田中統括官は腕を組みながら、机に置かれた図を覗く。 「家屋と土地の持分が、それぞれ異なるのか・・・」 「電話によると、この自宅を売却するということなのですが・・・各人の措置法35条による3,000万円控除の適用範囲を訊いてきたのです・・・」 谷垣調査官が説明する。 「・・・君は資産課税部門に何年勤めているんだ?」 説明を聞いた田中統括官は、憮然とした表情で尋ねる。 「ええ・・・今年の7月で、8年になります。」 谷垣調査官は俯いたまま応える。 「8年間も資産税の仕事をしていたら、わざわざ僕に尋ねなくても、こんな質問は簡単に答えられるだろう?」 そう言うと、田中統括官の表情はさらに険しくなる。 「はい・・・何となく答えはわかるのですが・・・自信がなかったので・・・統括官に確認していただきたいと・・・」 谷垣調査官はバツの悪そうな顔をする。 「このケースでは、3人(甲・乙・丙)が家屋と土地について異なる持分を持っているのですが・・・この3人の措置法35条の適用はどうなるのですか・・・」 谷垣調査官は、そう言いながら、言葉を続ける。 「具体的な数字として・・・家屋のキャピタルゲインが600万円で、土地のキャピタルゲインが6,000万円だとしたら・・・どうなりますか?」 谷垣調査官は、生徒に質問するような先生の口調になる。 田中統括官は、谷垣調査官の言葉に頷きながら、素直に考える。 「・・・まず、甲(配偶者)は家屋について3分の2の持分を持っているから、措置法35条の適用は400万円になる。」 そう言いながら、罫紙の上に計算式を書いた。 「・・・ということは、甲は400万円の控除を受けられるから、譲渡所得は発生しないということですね。」 谷垣調査官が確認する。 「そうだね。次に、乙(長男)は家屋を3分の1、土地を3分の1の持分をそれぞれ持っているから、措置法35条の適用金額は、次のようになる。」 「そうすると、乙の上記2,200万円の金額は、措置法35条の3,000万円控除の範囲内ですから、乙も譲渡所得は発生しない・・・」 谷垣調査官の発言に対して、田中統括官は黙って頷く。 「最後に・・・丙(次男)なんですけど・・・丙は家屋を持っていませんが、居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用を受けることができるのですか?」 谷垣調査官が尋ねる。 「君は・・・通達を知らないのか?」 田中統括官は再び不機嫌になる。 谷垣調査官は慌てて傍らにある租税特別措置法通達を手に取った。 「・・・ということは、今回の質問の場合はこの①から③の要件をすべて満たしているから、丙は、甲と乙の特別控除額の控除不足額を使うことができるということですね。」 田中統括官は大きく頷く。 「甲と乙の控除不足額は3,400万円(2,600万円+800万円)で、丙の土地のキャピタルゲインが4,000万円(6,000万円×2/3)なので、措置法の特別控除額は3,000万円となり、丙に1,000万円の譲渡所得が発生することになる。」 そう言うと、田中統括官は再び罫紙に計算式を書いた。 「なるほど・・・」 谷垣調査官は納得した表情で罫紙を見つめた。 (つづく)