さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第17回】 「相互タクシー事件」 ~最判昭和41年6月24日(民集20巻5号1146頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q12】 「外国金融機関の国外営業所に預け入れた預金の利子の取扱い」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 利子に対する課税 所得税法上、預貯金の利子は利子所得に分類されます。利子所得の金額は、その年中の利子等の収入金額とされています。 居住者が国内において支払を受けるべき所得税法第23条第1項に規定する利子等については、他の所得と区分し、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率にて源泉徴収が行われ、課税関係が完結します(源泉分離課税)。 すなわち、通常の国内の銀行等に預け入れられた預貯金の利子については、源泉徴収で課税関係が終了するような仕組みがとられており、申告を行う必要はありません。 この源泉徴収の規定は、「国内において支払を受けるべき利子」についてのみ適用されるため、「国外において支払を受ける利子」については源泉徴収が行われません。 したがって、本件のような外国銀行の国外支店の口座において受ける預金利子については、所得税法の原則に則り、その収入すべき日(2を参照)の属する年分の利子所得として総合課税の対象となります(原則として申告が必要です)。 この場合における利子所得として収入金額に計上すべき金額は、外貨建の利子の金額をその収入すべき日におけるTTMにより円換算した金額となります。 2 収入すべき日 定期預金の利子については、それぞれ次に掲げる事由に応じ、それぞれに記載する日に収入認識すべきこととされています。 3 外国税額の取扱い 支払われる利子について、外国において所得税が源泉徴収されている場合は、個人の申告上、外国税額控除の適用を受けることにより、二重課税を排除することが可能です。 外国税額控除の適用に当たっては、国外所得の計算を行い、その限度額の範囲内での控除が可能です。また、確定申告書に一定の書類の添付が必要となります。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第36回】 「継続的取引の基本となる契約書③(単価決定通知書)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は製造業者です。下記「単価決定通知書」は、製造委託基本契約を取り交わしている下請業者に対して、あらかじめ協議のうえ決定した単価を通知するために作成する文書ですが、課税文書に該当しますか。 継続して行う請負契約に係る加工単価を定める文書であるため、第2号文書(請負に関する契約書)と第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当する。なお、この場合は契約金額の記載がないため、通則3のイの規定により第7号文書に該当する。 [検討1] 「単価決定通知書」は印紙税法上の契約書に該当するか 「通知書」という連絡文書のような名称であっても、印紙税法上の「契約書」とは、名称のいかんを問わず、契約の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実を証すべき文書をいい、当事者の一方のみが作成する文書であっても、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を称することとされているものを含むものとされている(通則5)。 事例の場合は、当事者間において協議のうえ、加工単価を決定したことが明らかであり、第2号文書及び第7号文書の重要事項である「単価」を補充した文書に該当することから、印紙税法上の契約書に該当する。 [検討2] 第2号文書と第7号文書に該当した場合は 第2号文書と第7号文書に該当した場合、通則3のイ規定を図示すると下記のとおりであり、原則は第2号文書に該当するが、契約金額の記載のない場合は第7号文書に該当する。したがって、事例の場合は、契約金額の記載がないため第7号文書に該当する。 ▷ まとめ (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第23回】 「実質主義④」 公認会計士 佐藤 信祐 前回までは、実質主義に対する主要な裁判例について解説を行った。その結果、法的実質主義は認められるものの、経済的実質主義を認めるべきではないと考えられる。 本稿では、法的実質主義の範囲内で、実務上、どのように適用されるのかについて解説を行うこととする。 6 実質主義の実務への適用 (1) 基本的な考え方 前回までで解説したように、現行法上、実質主義の適用は法的実質主義の範囲内に留まり、経済的実質主義は適用されないと考えられる。 法的実質主義が適用される場合には、形式的な法律関係ではなく、真実に存在する法律関係に即して課税関係が検討されることになる。その典型的なものは、実質所得者課税の原則(所法12、法法11、地法24の2、72の2の3、294の2の2)が挙げられる。 さらに、租税回避として否認される可能性が高いものとして、通謀虚偽表示(民法94)や仮装行為が考えられる。裁判例においても、これらについて争われたものも少なくない。 例えば、名義株に関する通達として、法人税基本通達1-3の2-1にて、「法第2条第12号の7の5《支配関係》の規定の適用上、一の者と法人との間に当該一の者による支配関係があるかどうかは、当該法人の株主名簿、社員名簿又は定款に記載又は記録されている株主等により判定するのであるが、その株主等が単なる名義人であって、当該株主等以外の者が実際の権利者である場合には、その実際の権利者が保有するものとして判定する。」とされたうえで、「同条第12号の7の6《完全支配関係》の規定の適用上、一の者と法人との間に当該一の者による完全支配関係があるかどうかについても、同様とする。」とされている点には留意が必要であろう。 グループ法人税制外しとして、1%だけグループ外の者に保有させるといった手法が可能かどうかという議論はあるが、租税回避という議論以前に、名義株として事実認定により否認がなされる可能性は考慮する必要があろう。 税務調査では、実際に株式を取得した時点におけるお金の動きについてまで調査の対象となり、名義株であったか否かが議論される可能性があるという点に留意が必要である。 (2) 具体的な検討 さらに、佐藤信祐『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』32頁(中央経済社、平成21年)では、①株主名簿における株主と実際の所有者が異なる場合、②非適格分割による分割承継法人に移転したことになっている不動産が、実際には移転したものと認められない場合、③経営参画要件(特定役員引継要件)の判定において、被合併法人から引き継いだ特定役員が、合併法人において特定役員としての実態を備えていない場合の3つについて、形式的な事実関係と真実の事実関係が異なるものとして否認される可能性があると記載した。 このうち、①②については異論がないところだと思われる。これに対し、③についてはヤフー事件もあったことから、やや実務では議論がなされているところである。 実務上は、名ばかり役員は否認される可能性が高いことは言うまでもない。しかし、ヤフー事件では、名ばかりかどうかは不明であるが、表見代表取締役に該当する副社長であったことから、事実認定による否認が困難であり、包括的租税回避防止規定が適用されたものと考えられる(※)。そうなると、専務取締役、常務取締役が名ばかり役員であったとしても、事実認定による否認がどこまで可能なのかは学術的には疑問のあるところである。 (※) 佐藤信祐「経営参画要件の判定」税務QA2013年4月号22-25頁(平成25年) 平成17年改正前商法であれば、専務取締役、常務取締役も表見代表取締役であったことから、学術的には、法的実質主義では否認できず、経済的実質主義にまで踏み込まざるを得ないのではないかという疑問も存在する。 さらに、同書23-24頁で指摘した株式継続保有要件についての議論も問題となる。同書では、被合併法人の株主が48人である場合において、事前に株主数を増加させ、被合併法人の株主が50人以上であるという外観を作ったときに、実質主義により株主が50人未満であるという否認が可能かどうかについて検討した。 当時は、「税務調査においては、株主名簿における記載状況のほか、株式譲渡契約書の約定日、株券の引渡状況、代金支払状況の有無を確認することにより、実質的に引き渡しがなされていたか否かを判断することになると思われる」と記載させていただいた。この範囲内であれば、法的実質主義の範囲内であり、株券が引き渡されていなかったり、代金の支払いが予定されていなかったりすれば、否認される可能性は十分に考えられる。 しかし、「法形式ではなく、経済的実質を重視する見地からは、株券の引渡しや代金の支払いが行われていたとしても、①株主としての権利を行使することが可能な状態にあったのか否か、②Y氏、Z氏が交付を受けた合併法人株式をX氏に譲渡することにより、合併前に株式譲渡を行わなかった場合と同様の結果になっているか否かなども判断材料になってくると考えられる。」と記載させていただいた。 実務上は、株主としての権利を行使することができなければ、譲渡人と譲受人との間に何らかの合意があったと推認されるため、単なる名義株であるという疑いは生じてくるであろう。すなわち、譲渡代金が授受されていたとしても、将来の買戻しのための預り金という認識を当事者が有している場合も考えられる。さらに、被合併法人の株主になっておきながら、合併後にすぐに譲渡人に取得価額で買い戻させれば、やはり名義株であるという疑いは生じてくるであろう。ただし、疑いはあくまでも疑いに過ぎないものであり、直接的な証拠にはなり得ない。実務上は、上記のような場合でも否認されると考えられるが、学術的に考えれば、他の証拠による補強が求められるところであろう。 このように、法的実質主義といっても、事実認定の問題であり証拠の積上げが重要であるという点に何ら変わりはない。すなわち、否認するための都合の良い事実関係の創造は法的実質主義の範囲を超えているものであり、あくまでも真実の事実関係を認定するための手法に過ぎないという点に留意が必要である。 次回以降では、私法上の法律構成による否認論について解説をしていく予定である。 (了)
〔経営上の発生事象で考える〕 会計実務のポイント 【第9回】 「子会社株式を新規に取得した場合」 仰星監査法人 公認会計士 田中 良亮 1 個別上の会計処理 (1) 取得関連費用の取扱い 《解説》 取得関連費用(付随費用)に関する個別上の会計処理は、従来からの我が国の会計基準に従って取得原価に含めることになる。この処理は、取得はあくまでも等価交換取引であるとの考え方を重視し、取得企業が等価交換の判断要素として考慮した支出額に限って、取得原価の一部を構成するとの考え方によるものである。 このような考え方による会計処理は、棚卸資産や固定資産などその他の資産の付随費用の取扱いと概ね整合している。 (2) 貸借対照表価額 《解説》 子会社株式への投資は、当該子会社の事業から得られる利益やシナジー効果などのメリットを享受することを目的として行われることが一般的である。そのため、子会社株式については、時価の変動は財務活動の成果とは捉えないという考え方に基づき、たとえ時価を把握できるものであっても、取得原価をもって貸借対照表価額とすることになる。 2 連結上の会計処理 (1) 取得関連費用の取扱い 《解説》 国際的な会計基準では、取得関連費用は事業の売主と買主の間の公正な価値での交換の一部ではなく、企業結合とは別の取引と考えられることや、取得関連費用のうち直接費が取得原価に含まれる一方で間接費が除かれる点が不整合であるとの理由から、発生した事業年度の費用として取り扱っている。 また、平成25年改正前企業結合会計基準では、取得とされた企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められる費用は取得原価に含め、それ以外の支出額は発生時の事業年度の費用とされており、企業結合において取得関連費用のどこまでを取得原価の範囲とするか実務上困難であるケースも見受けられた。 これらの状況を受けて、平成25年改正企業結合会計基準においては、国際的な会計基準に基づく財務諸表との比較可能性を改善する観点や、取得関連費用をどこまで取得原価の範囲とするかという実務上の問題点を解決する観点から、取得関連費用を発生した事業年度の費用として処理することとされている。 なお、個別財務諸表における子会社株式の取得原価は、従来と同様に、金融商品会計基準及び日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」に従って算定することになり、連結財務諸表と個別財務諸表で取得関連費用の会計処理が異なるため、留意が必要である(企業結合に関する会計基準94)。 (2) 支配獲得日 《解説》 株式の取得はいつも決算日に実施されるとは限らないため、会計上は株式取得日の前後いずれかの決算日に株式を取得したとみなして処理することが認められている。この場合の決算日には、四半期決算日又は中間決算日も含まれる(連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針7)。 (3) 資産及び負債の時価評価 《解説》 連結財務諸表上子会社が保有する金額的重要性のある資産及び負債は、支配獲得日の時価で計上しなければならない。実務上は子会社株式を取得する際に財務デューディリジェンス等で不動産鑑定評価等により時価評価額を検討している場合があり、当該評価額を利用すること等が考えられる。 (4) 投資と資本の相殺消去(のれん又は負ののれん) 《解説》 支配獲得日の時価による親会社の子会社に対する投資と、これに対応する子会社の個別貸借対照表上の純資産の部における株主資本及び評価・換算差額等と評価差額で構成される資本を連結財務諸表上で相殺消去しなければならない(連結財務諸表に関する会計基準 23)。 その際に生じた相殺差額は、のれん又は負ののれんとして計上することになるが、負ののれんが生じると見込まれる場合には、子会社の資産及び負債の把握並びにそれらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直し、見直しを行っても、なお生じた負ののれんは当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理することとなる(連結財務諸表に関する会計基準64)。 子会社の時価評価後の純資産より高い価額で子会社株式を購入した場合にのれんが発生し、逆に低い価額で購入した場合に負ののれんが発生する。のれんが発生するということは、その子会社のブランドや成長見込等の無形の価値に対する投資を意味し、負ののれんが発生するということは、将来の損失見込を織り込む等、子会社の財政状態が脆弱な場合に計上されることが想定される。 通常は時価より低い価額で取引が成立することは経済合理性に乏しいと考えられ、負ののれんが発生することは、現実には異常かつ発生の可能性が低いことから、慎重に見直しを行うことが要求され、計上する場合には原則として特別利益に表示することが求められている(企業結合に関する会計基準33、48)。 (5) 連結財務諸表固有の一時差異に対する税効果会計 《解説》 支配獲得時点で発生する連結財務諸表固有の一時差異のうち、一般的と考えられるものには以下の①及び②がある。 ① 取得関連費用 個別財務諸表において子会社株式の取得原価に含まれていた取得関連費用を、連結財務諸表において費用処理した結果、子会社への投資の個別貸借対照表上の価額と連結貸借対照表上の価額が一致しないことにより差額が生じる場合、当該差額は連結固有の一時差異に該当する(連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針29-3)。 ② 子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額 資本連結手続上、子会社の資産及び負債は、投資取得日又は支配獲得日の時価をもって評価され、その評価差額は資本として処理されることとなる。当該評価差額は親会社の投資と子会社の資本との相殺消去及び非支配株主持分への振替により全額消去されるが、評価対象となった子会社の資産及び負債の連結貸借対照表上の価額と個別貸借対照表上の資産額及び負債額との間に差異が生ずる。この差異は連結財務諸表固有の一時差異に該当する(連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針21)。 ③ 一時差異及びその繰延税金資産及び繰延税金負債の計上の手順 繰延税金資産及び繰延税金負債の計上は、連結納税制度が適用されている場合を除き、個々の連結会社ごとに行う。したがって、連結財務諸表の作成に当たり、個別財務諸表に税効果会計が適用されていない連結会社については、まず個別財務諸表項目に存在する一時差異等に対して繰延税金資産及び繰延税金負債を計上した後の個別財務諸表を作成する。 その後、資本連結手続及びその他の連結手続上生じた一時差異に対して、当該差異が発生した連結会社ごとに税効果を認識し、繰延税金資産及び繰延税金負債並びに法人税等調整額等を計算し、連結財務諸表に計上する。 また、税効果で適用する税率は各納税主体ごとに連結決算日又は子会社の決算日現在における税法規定に基づく税率による(連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針10、11)。 ④ のれん又は負ののれんに係る繰延税金資産又は繰延税金負債計上の可否 子会社への投資額と子会社資本の親会社持分額との間に差額が生じている場合には、のれん又は負ののれんが計上される。のれん又は負ののれんについては税務上の資産又は負債の計上もその償却額の損金又は益金算入も認められておらず、また、子会社における個別貸借対照表上の簿価は存在しないことから、連結固有の一時差異に該当する(連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針27)。 しかしながら、のれん又は負ののれんが投資額と子会社の資産及び負債の時価評価の純額の親会社持分額との差額であるため、のれん又は負ののれんに対して子会社が税効果を認識すれば、のれん又は負ののれんが変動し、それに対してまた税効果を認識するという循環が生じてしまうため、のれん又は負ののれんに対して税効果は認識しないこととされている(連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針52)。 【検討事項のチェックリスト】 ~子会社株式を新規に取得した場合~ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《外貨建取引等》編 【第3回】 「為替予約等が締結されている場合~一括計上」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 【第2回】に引続き、為替予約契約がある場合を取り上げます。前回は振当処理を取引発生日以後に為替予約が締結された場合の例としてご紹介しました。今回は為替予約が取引発生日前に締結されている場合に認められる処理方法についてご紹介します。 1 一連の輸入取引に係る仕訳 〈×1年1月31日:為替予約の締結〉 〈×1年2月15日:輸入商品の受取り〉 〈×1年3月31日:決算日〉 〈×1年5月31日:代金の支払い〉 原則として振当処理では、【第2回】の設例のように、取引発生日による円換算額(10,000ドル×@80円/ドル=800,000円)と為替予約による円換算額(10,000ドル×@97円/ドル=970,000円)との差額(170,000円)を期間配分することになりますが、為替予約等の契約(×1年1月31日)が外貨建取引(×1年2月15日)の前に締結されている場合には、実務上の煩雑性を勘案し、外貨建取引及び金銭債権債務等に為替予約相場(@97円/ドル)による円換算額(10,000ドル×@97円/ドル=970,000円)を付すことができます(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針8)。 2 決算書の金額 ① ×1年3月31日決算期 〈当期末貸借対照表〉 〈当期損益計算書〉 ② ×2年3月31日決算期 〈当期損益計算書〉 3 法人税法の規定における換算方法(参考) 4 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 【第2回】の【設例2】は、法人税法上の上記3の①が適用されるケースに該当します。また、【第3回】の【設例3】は、法人税法上の上記3の③が適用されるケースに該当します。 いずれの設例のケースも、会計処理と法人税法上の取扱いに差異がないので、損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整はありません。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔労務面のアドバイス〕 【第2回】 「災害時の特例措置」 特定社会保険労務士・中小企業診断士 小宮山 敏恵 災害が発生した場合、企業は、市区町村や厚生労働省等の公的機関が公表する災害への対応や特例措置について、報道やホームページ等で確認しなければならない。企業及び社員に必要な情報を収集・提供し、企業として対応可能な手続を速やかに行うことが必要である。 なお、災害の種類や規模、発生地域等によって、講じられる特例措置等の内容は様々である。下記で紹介するものがすべての場合において適用されるわけでないため、やはりその都度、確認することが必要となる。 災害時に講じられる主な労働保険・社会保険手続、各種助成金は次のとおり。 参考に、東日本大震災及び熊本地震における施策がまとめられた厚生労働省のホームページを紹介しておく。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 【第4回】 「認知症診断の医学的手順」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 1 認知症診断の一般的手順 ―「認知症疾患治療ガイドライン」の存在 ある人の判断能力に問題がありそうだ、という疑いが生じた場合、「判断能力が減弱していること」や、ひいては「認知症を発症していること」の判断はどのようにして行うのか。 今回は、この点に関して医学的観点を踏まえて解説したい。 【第2回】で説明したように、ひとくちに認知症といっても、その原因となる疾患は多種多様である。原因疾患が異なれば発生する症状も異なるし、その治療方法も変わってくる。 また、そもそも(狭義の)認知症には該当しないような疾患によっても、認知症と同様の認知機能の低下・障害が発生する場合がある。 そのため、認知症の疑いがある患者の診断手順については、日本神経学会が「認知症疾患治療ガイドライン」を作成し、公開している。 同ガイドラインに基づく一般的な診断手順について、以下、概略を説明する。 2 第1ステップ:認知症であるか否かを診断する 診断手順においては、まず、認知症と誤りやすい「うつ状態」や「せん妄」を除外する必要がある。 「うつ状態」とは、気力の低下や気分の落ち込みといった症状に始まり、食欲不振や睡眠障害、絶望感や自死念慮が起こる状態をいう。そのきっかけは、家族との死別、経済的な損失等の喪失体験が多い。 この場合に、意欲や注意力が低下することで頭がぼうっとし、記憶力が低下するといった認知症類似の症状が発生することがある(ただし、うつ病の場合は、後述するHDS-Rの点数は高い)。 他方、「せん妄」とは、次のような特徴を有する急性の意識障害である。 【「せん妄」の特徴-認知症との違い】 (前記ガイドラインより) 医師は、患者の問診によって、 等を確認・実施する。 これにより、患者本人の記憶障害の有無(長期・短期記憶、エピソード記憶の障害)、認知機能障害の有無(失語、失見当、失認、失語等)や生活上の障害(対人関係や仕事上での支障等)を見ていくことになる。 問診の際に、我が国で最も広く用いられている神経心理学的検査が「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」である。 「長谷川式」という略称を聞いたことがある方も多いであろう。 これは、次のような口頭での質問から構成され、正解すれば1~2点、ヒントを与えられて正解した場合は1点、間違えば0点というように計算していく。 そして、総計点30点満点中で20点以下の場合には、認知症の疑いがあるとされる。 【長谷川式による質問内容】 3 第2ステップ:認知症の原因疾患の診断をする 以上の第1ステップにより認知症の疑いがあることが判明した場合、次はその原因疾患を特定する作業へと移る。原因疾患の違いにより、その後の治療やケアの方法が変わってくるからである。 まず、前記の長谷川式テストを実施した際には、どの質問の回答が不得意だったのかを見ることで、原因疾患の特定に役立つことがある。 たとえば、アルツハイマー型認知症の場合は、(4)や(7)のような即時再生・遅延再生を苦手とする場合が多い。 同様に、レビー小体型認知症の場合は、上記の(7)は得意とするものの、(5)や(6)といった数字に関する問題になると誤答するといったような傾向があるとされる。 また、前記の問診において観察・聞き取りした事項全般も、原因疾患の特定と関連性を有する。 たとえば、診察室での様子ひとつをとっても、姿勢がどちらかに傾いている場合や小刻みにゆっくり歩くような場合にはレビー小体型認知症等が、能面のように無表情な場合には前頭側頭型認知症等が、挨拶もしてごく普通の様子に見えるが、本人には認知能力低下の自覚がないという場合にはアルツハイマー型認知症がそれぞれ疑われるといったようにである。 その他、日常生活におけるエピソードも、原因疾患特定につながる場合がある。 これらに加えて、①頭部CT画像による脳の萎縮度・形状の確認、②MRI検査による脳の形態学的変化の確認、③SPECT(スペクト)検査による脳血流量の確認、④一般的な尿や血液検査、⑤心電図検査等の各種データを総合的に把握し、原因疾患を特定していくことになる。 4 認知症の治療 以上のような診断を経て認知症の原因疾患を特定できて初めて、有効な治療を開始することができる。 認知症の治療は、通常、①薬物療法と②非薬物療法とに大別される。 ①薬物療法に関しては、現時点において、認知症を根本的に治療できる薬はないとされている。 そのため、認知症の進行を遅らせるための抗認知症薬が、原因疾患の類型に応じて処方される。 また、②非薬物療法に関しては、認知能力の維持・向上を目指す各種リハビリテーションや回想法、音楽療法、アニマルセラピーといったように多種多様な療法を組み合わせることで、認知症患者の生活の質の向上を目指していくことになる。 最近の世界的な潮流は、認知症患者の内的体験を尊重し、その人の「心の声」を聞きながら共感して寄り添うという「パーソンセンタード・ケア」の理念が重視されるに至っている。 以上のような認知症治療をめぐる状況は、長谷川式テストを開発され、現在も診療を続けておられる長谷川和夫博士が、『よくわかる認知症の教科書』(朝日新書、2013年4月刊)等の一般向け書籍においてわかりやすく説明されている。 同書は、認知症の病態や現在の治療体制、介護する家族の心構え、これからの認知症治療のあり方等を一般向けに解説しており、大変参考となる。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例9】 株式会社王将フードサービス 「『第三者委員会調査報告書提言に対する当社取り組みについて』の 報告終了に関するお知らせ」 (2016.8.12) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社王将フードサービス(以下「王将フードサービス」という)が平成28年8月12日に開示した「『第三者委員会調査報告書提言に対する当社取り組みについて』の報告終了に関するお知らせ」である。開示名だけでは、内容を推測するのは難しいかもしれない。今回の開示は、下表に示した一連の開示の最後に当たるものである。 同社は、まず平成27年12月28日に、第三者委員会の設置を決定したとする「当社におけるコーポレート・ガバナンスの評価・検証のための第三者委員会の設置について」を開示した。なお、前日27日の取締役会で第三者委員会の設置を決定したとされているため、この開示は遅延開示である。 そして、平成28年3月29日、第三者委員会から調査報告書を受領し(「第三者委員会からの調査報告書受領に関するお知らせ」)、そこで示された改善提言に対する取り組みを決定し、平成28年4月8日、「第三者委員会調査報告書提言に対する取り組みについて」において、その内容を開示している。なお、改善提言に対する取り組みは、4月1日と5日の取締役会において決定したとされているため、この開示も遅延開示である。 その後、改善提言に対する取り組みの経過について開示していたのだが、今回の開示がその最後に当たるものというわけである。 2 第三者委員会の目的 平成27年12月28日開示の「当社におけるコーポレート・ガバナンスの評価・検証のための第三者委員会の設置について」では、第三者委員会の目的について次のように記載されている。第三者委員会は、粉飾決算の原因解明を目的として設置される場合がほとんどだが、この第三者委員会は、王将フードサービスと反社会的勢力の関係の有無の確認を目的として設置されたのである。 調査報告書にも次のような記載がある。マスコミ報道に後押しされて、ようやくの決断だったようである。 3 調査報告書の提言 調査報告書は、王将フードサービスと反社会的勢力の関係は確認されなかったと一応結論付けているが、それだけでなく、同社のコーポレートガバナンスにおける様々な問題点を指摘している。平成27年12月28日開示の「当社におけるコーポレート・ガバナンスの評価・検証のための第三者委員会の設置について」では、「当社においては、東京証券取引所第一部の上場会社の中でも最も進んだコーポレート・ガバナンス体制を整備している会社の一つであると自負しております」と記載されているが、調査報告書を読むと、まったくそうではなかったのだということがわかる。次の記載のように、現在の経営陣に対しても厳しい(OFSは王将フードサービスのこと。以下同じ)。 そして、以下のような改善提言を示している(タイトルのみを列挙)。今回取り上げた開示は、この改善提言に対する取り組みを終了したというものである(本当に終了し、同社は生まれ変わったのだと信じたい)。 4 A氏との関係 改善提言の中に「創業家との関係」と「A氏との関係」がある。創業家とA氏は、改善提言に対する取り組みを実効性あるものとするために、王将フードサービスが関係を解消しなければならない存在である。まず調査報告書の中でおそらく読者の関心を最も引くのは、A氏に関する記載だろう。例えば、次のような記載がある。 そして、同社は、改善提言に対して、平成28年4月8日開示の「第三者委員会調査報告書提言に対する取り組みについて」において、次のように取り組むとしている。平成28年3月30日開示の「電子交換電話設備の保守委託契約の解除について」は、A氏との取引を終了したことに関するものである。 上述のとおり、調査報告書は、同社と反社会的勢力との関係は確認されなかったと一応結論付けているため、A氏は反社会的勢力ではないのだろう。しかし、なぜA氏が同社に対して強い影響力を持ち得たのだろうか。調査報告書を読んでも、その理由を正確に理解することは難しい。 5 創業家との関係 創業家に関しては、調査報告書に次のような記載がある。 そして、同社は、改善提言に対して、平成28年4月8日開示の「第三者委員会調査報告書提言に対する取り組みについて」において、次のように取り組むとしている。平成28年7月27日開示の「当社の賃借終了物件の敷金の返還について」と「公益財団法人加藤朝雄国際奨学財団の移転について」は、創業家との関係解消に関するものである。 最近、上場企業とその創業家の関係について考えさせられる事例が多いように思われる。創業家の存在は、企業にとってプラスになる場合もあれば、マイナスになる場合もある(例えば、トヨタ自動車にとっての豊田家の存在は、プラスになっている場合なのだろうか)。王将フードサービスにとっての創業家は、結果として極めてマイナスな存在だったようである。 (了)
税務ピンポイント解説 【第4回】 「「配偶者控除」廃止で“103万円の壁”崩壊!? その先は・・・?」 Profession Journal 編集部 2016年9月15日に開催された政府税制調査会では、「配偶者控除」の見直しへ向けた検討が始まり、話題を呼んでいます。 配偶者控除とは一口に言えば「配偶者の年収が103万円以下の場合、扶養者の課税所得から38万円を差し引く」所得税法上の仕組みですが、元来、専業主婦を念頭においた制度とされ、女性の社会進出を阻んでいるとして長い間問題視されてきました。 そこで今、それに代わる制度として、政府税制調査会では各国の制度との比較を行うなどして、わが国の家族制度にフィットした新たな制度のビジョンを検討しています。 (※) 「税制調査会(2016年9月15日)資料」より 今後、年末の平成29年度税制改正にむけて具体的な議論が集約されるかも不透明な状況です。 というのも、制度を変えることにより納税者に“損・得”が生じることは致し方ないのですが、これまで恩恵を受けてきた専業主婦の世帯などからは大きな反発も想定され、政府税制調査会の議論を受ける形で論議に入る与党税制調査会は、改正後の選挙への影響なども考慮するとみられるため、改正に対する世論の動向も大きく影響するとみられます。 新制度の検討は“1億総活躍社会”の実現の障害となる「103万円の壁」の撤廃を1つの課題とするとも考えられます。 しかしながら、女性の社会進出を阻む「壁」は一枚ではありません。 税金の壁とは別に、社会保険上の「106万円の壁」が存在します。 配偶者が扶養から外れる(=自分で社会保険料を払う必要が生じる)ラインは、元々は年収130万円でしたが、2016年10月施行の法改正により、会社規模等一定の要件を満たした場合には106万円に引き下がることとなりました。 「それなら106万円を超えないようにしよう」という考え方をいかに払拭し、年間最低で約10万円はかかる社会保険料を自分で支払っても十分生活力が残るレベルの本格的な就労に、いかに女性を導き出すか。育児や介護等、女性を家庭に留めてしまっている根本的な要因については、国や企業がどのようにサポートしていけるのか。配偶者控除にせよ夫婦控除にせよ、そうした視点を併せ持った上での議論が必要となるでしょう。 壁を取り払って終わりではなく、その先の道筋を照らせるような法改正に今後期待したいですね。 (了)