経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第129回】 連結会計⑫ 「持分法適用会社におけるのれんの償却」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 1-1 X1年3月31日 (1) 土地に係る評価差額の計上(単位:百万円) (※1) (1,200百万円-800百万円)×30%=120 (※2) 120×40%=48 (※3) 貸借差額 (2) 連結修正仕訳 ① のれんの発生 持分法上、仕訳なし。 (S社資本勘定のP社持分額は、資本金150百万円(500百万円×30%)、利益剰余金90百万円(300百万円×30%)、土地に係る評価差額120百万円((1,200百万円-800百万円)×30%)及びこれに対する繰延税金負債48百万円であり、その合計は312百万円となる。これに対して持分法評価額は450百万円であるから、その差額138百万円がのれんとなる。) 1-2 X2年3月31日 (1) 連結修正仕訳 ① 当期純利益の按分(単位:百万円) (※4) 200×30%=60 ② のれんの償却(単位:百万円) (※5) 138÷3年=46 〈会計処理〉 2 X1年3月31日 (1) 土地に係る評価差額の計上(単位:百万円) (※6) (1,200百万円-800百万円)×30%=120 (※7) 120×40%=48 (※8) 貸借差額 (2) 連結修正仕訳 ① 負ののれんの発生(単位:百万円) (S社資本勘定のP社持分額は、資本150百万円(500百万円×30%)、利益剰余金90百万円(300百万円×30%)、土地に係る評価差額120百万円((1,200百万円-800百万円)×30%)及びこれに対する繰延税金負債が48百万円であり、その合計は312百万円となる。これに対して取得原価は300百万円であるから、その差額△12百万円が負ののれんとなる。) 〈会計処理の解説〉 投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との間に差額がある場合には、当該差額はのれん又は負ののれんとし、のれんは投資に含めて処理します。そして、のれんは、原則として、その計上後20年以内に、定額法その他合理的な方法により償却しなければなりません。ただし、その金額に重要性が乏しい場合には、のれんが生じた期の損益として処理することができます(持分法実務指針第9項)。 本事例では、P社のS社株式取得日X1年3月31日におけるS社株式の取得原価450百万円と、これに対応するS社資本勘定のP社持分額312百万円に、138百万円の差額が生じている(1-1(2)①)ので、これをのれんとして償却期間である3年間で償却します(1-2(1)②の仕訳)。 また、負ののれんが生じると見込まれる場合には、次の処理を行います。 (1) 取得企業は、すべての識別可能資産及び負債が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直す。 (2) (1)の見直しを行っても、なお取得原価が受け入れた資産及び負債に配分された純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理する。 ただし、負ののれんが生じると見込まれた時における取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回る額に重要性が乏しい場合には、上記の処理を行わずに、当該下回る額を当期の利益として処理することができます(企業結合会計基準第33項)。 なお、負ののれん発生益は、持分法適用会社の投資に係る損益として考えられるため「持分法による投資損益」として一括して営業外損益の区分に計上します(持分法会計基準第27項)。 本事例では、P社のS社株式取得日X1年3月31日におけるS社株式の取得原価300百万円と、これに対応するS社資本勘定のP社持分額312百万円に、△12百万円の差額が生じているので、これをX1年3月期の利益として処理します(2(2)①の仕訳)。 * * * 次回は、持分法適用会社における包括利益の取り込みについて解説します。 (了)
家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第2回】 「家族信託普及の潮流」 弁護士 荒木 俊和 1 はじめに 家族信託は近時になって相続・資産承継対策の手法として広まりを見せつつあるものであるが、本稿ではなぜ近時まで利用されてこなかったのか、どのようなきっかけで広まってきたのかについて解説する。 まず前提としての信託関係の法制度の変遷について触れた上で、普及の拡大を進めた団体の活動等について述べる。 2 信託法制の変遷 家族信託は、基本的に家族内で信託契約を締結し、資産の管理・処分を子、孫又は配偶者等に対して委ねるということが眼目となっている。 このため、家族信託を実行するためには信託法に則った信託契約を締結することが前提となる。 また、一方で家族間での信託といっても必ずしも信託業法による規制の対象外というものではないため、信託業法に違反しないよう運用することも不可欠である。 これらの観点から、日本における信託法制の変遷について概観する。 まず、日本においては明治時代から無尽会社や貸金業者において信託類似の業務が取り扱われてきたが、現在の信託銀行や信託会社のように健全性の担保された事業体ではなく、不健全な経営状態の会社も多く見受けられる状況があった。 こうした中で、信託制度を整備して健全な信託業務が行われることが求められ、信託法制の整備が急務とされた。これにより大正11年に信託法と信託業法が制定され、不健全な信託会社が淘汰され、昭和に入るころまでには少数の信託会社に整理されていった。 日本において信託法は制定当初から商事信託の場面で利用されることが大半であり、民事信託の活用はわずかであった。 その後、日中戦争、第二次世界大戦の影響によって信託会社の整理統合が進められるとともに、昭和18年には銀行にも信託業務を認める「普通銀行等ノ貯蓄業務又ハ信託業務ノ兼営ニ関スル法律」(兼営法)が制定されたことにより、銀行による信託会社の吸収合併が進んだ。 これにより戦後はごく少数の信託銀行が信託業務の趨勢を握ることとなり、やはり信託法が信託銀行による商事信託のための法律としての色を持ち続けることとなった。 平成に入って、金融制度が多様化、グローバル化するのに際し、いわゆる日本版金融ビッグバンが叫ばれるようになったことで、信託法制についても抜本的な見直しが迫られることとなった。 そのような中で信託法が商事信託のみならず、少子高齢化の進展に伴い、社会的需要が一層高まることが予想される民事信託分野における活用も見込むべきとの指針が示され、平成18年改正(平成19年施行)により誕生した新信託法では、「目的信託」、「自己信託」及び「限定責任信託」等の制度が新設されるとともに、現代語化され、条文数も大きく増やされたことにより、信託銀行又は信託会社以外の者による信託制度の利用が図られることとなり、一般市民による家族信託の活用も見込まれることとなった。 3 家族信託普及への動き 以上のように、家族信託の活用に必要な法制度が創設されたものの、それまでに個人間で信託制度が活用されることが稀であったこともあり、すぐには家族信託の活用は進まなかった。 そのような中で、以下に挙げる団体は、家族信託の積極的な活用を進める動きを見せている。 (1) 日本司法書士会連合会 信託法改正後、日本司法書士会連合会はいち早く家族信託の活用に着目し、普及活動に取り組み始めた。 その一環として平成23年9月に一般社団法人民事信託推進センターを設立し、家族信託に関するセミナーや司法書士を対象とした研修を開催する等の普及活動を行っている。 また、一方で家族信託案件を取り扱える人材育成のため、平成26年4月には一般社団法人民事信託士協会を設立するとともに、平成27年からは民事信託士という資格制度を創設して動きを進めている。 (2) 一般社団法人家族信託普及協会 平成25年10月には、不動産コンサルタント、相続コンサルタント、司法書士らが母体となった一般社団法人家族信託普及協会が設立された。 同協会においては、セミナー活動による家族信託の普及を図るとともに、家族信託コーディネーター及び家族信託専門士という資格制度を設け、専門士業及び家族信託の活用を進めるコンサルタントの養成を図っている。 また、全国にいる専門士業との連携体制の構築を図り、全国的な専門家に対する需要への対応を行っている。 (3) 一般社団法人民事信託活用支援機構 平成27年12月には、信託会社を母体として、家族信託に関する専門職の養成と専門職に対する情報提供を目的として一般社団法人民事信託活用支援機構が設立された。 同機構では専門職育成のためのセミナー及びワークショップを開催するとともに、専門職に対する情報提供を進めている。 (4) 一部の金融機関 それらの他、一部の金融機関が家族信託の普及について取り組みを始めている。 筆者が知る限りでは、城南信用金庫の「高齢者向け総合サポートサービス」、千葉銀行の「ちばぎんファミリートラストサポートサービス」、広島銀行の「家族つなぐ信託」等の家族信託をサポートするサービスが開始されている。 なお、多くの金融機関が「遺言信託」のサービス提供を行っているが、これは家族信託とは全く別個のものであり、むしろ旧来型の遺言書の作成と遺言執行者への就任をパッケージ化したものに過ぎないことを念のため付言する。 4 実際の普及状況 このように複数の家族信託に関する団体が設立され、専門書籍の数もこの1、2年の間、急激に増加している。 しかしながら、弁護士、司法書士又は税理士等の専門士業の中でも家族信託を取り扱える者は少数派である現状があり、かつその案件処理能力にも大きな格差があるように思われる。そのような意味で、家族信託が業務を遂行すべき専門士業の中でも十分な普及に至っているものとはいえないであろう。 一方で、実際に相続・資産承継対策においてどの程度家族信託が活用されているかについては、信頼できる統計データ等が存在しないため明確ではないが、一般市民を招いたセミナーで家族信託を知っている割合を質問してもまず過半数に至らないことが通常であり、その中で活用経験のある参加者がいるということはめったにないことであろう。 そのような意味で、実際の普及はまだこれからといった段階である。 私見では、公共機関や金融機関が家族信託へのサポート体制を構築し、充実させることが、家族信託の普及にとって望ましいことであると考えている。 (了)
税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第4回】 「都市計画法」 税理士 島田 晃一 今回は、都市計画法について説明していく。都市計画法に関しては前回、前々回に説明した農地法のように直接農地に関わるものではないが、農地に関連する知識として理解しておきたい。 1 都市計画法と都市計画区域 都市計画法とは、都市計画区域を定め、その区域内において計画的な町づくりを行うための法律である。 都市計画法は原則として都市計画区域内に限り適用され、原則として都道府県知事が指定する。ただし、人口1万人未満の町村、人口の半数以上が農業、漁業等に従事する町村については基本的に指定対象外になる。 なお、平成25年度末において、都市計画区域に指定された面積は国土全体の27%であるが、人口の95%は都市計画区域に居住している。 2 市街化区域と市街化調整区域 市街化区域とは市街化を促進すべき地域をいい、この区域内においては積極的に道路、公園、下水道などの都市施設を整備する。市街化調整区域は逆に市街化を抑制すべき地域である。ただし、市街化が全面的に禁止されるのではなく、この区域内においても必要と認められれば都市施設の整備等が行われる。 市街化調整区域においては、原則として新たに住宅を建築することはできない。ただし、市街化区域に隣接又は近接し、市街化区域と一体的な日常生活圏を構成していると認められ、かつ、市街化区域内を含め概ね50以上の建物が建っている地域については建築が許可される。なお、農林業・漁業用の建築物、及び、農林業・漁業従事者の住居については許可不要である。 3 非線引区域 非線引区域とは、都市計画区域のうち市街化区域と市街化調整区域いずれにも区分(線引き)されていない区域であり、平成12年以前は未線引区域と呼ばれていた。 平成12年以前は、都市計画区域を有するすべての市町村が、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域いずれかに区分しなければならないとされており、まだ区分されていない区域もいずれ区分されるという意味で「未線引」となっていたのである。 しかし、平成12年の都市計画法の改正において三大都市圏の特定市のみ線引きが義務づけられ、その他の都市計画区域においては各都道府県の選択に委ねられたことにより、必ずしも線引きをしなければならなくなったため「非線引」と呼称が改められた。 逆に言えば、三大都市圏の特定市の都市計画区域は、必ず市街化区域と市街化調整区域に区分されていることになる。 三大都市圏の特定市は、東京都特別区、首都圏、中央圏、近畿圏にある政令指定都市及び既成市街地・近郊整備地帯に指定されている地域に所在する市をいい、平成27年1月1日において首都圏113市(東京都特別区を1市とみなした場合)、中部圏38市、近畿圏63市が該当する。なお、東京都特別区とは東京23区のうち目黒区、大田区、中野区、世田谷区、杉並区、北区、板橋区、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区の11区をいう。 4 用途地域 都市計画法においては、都市計画区域を市街化区域、市街化調整区域、非線引区域に区分した後、地域地区(用途地域)が定められる。 用途地域は市街化区域において必ず定められ(非線引区域においても定めることができる)、すべての用途地域において容積率が、また、商業地域以外の用途地域において建蔽率が定められる。さらに、補助的地域地区として「高度利用地域」、「防火地域又は準防火地域」及び「生産緑地地区」等が定められる場合がある。 用途地域は現在12種類あり、それぞれ用途や建築物の高さ等の制限がある。 例えば、第1種低層住居専用地域には一般住宅の他、小規模な兼用住宅(店舗・事務所)、学校等が建築可能である。ただし、建物の高さや容積率の制限が厳しいため、この地域内においては主として戸建て住宅や3階以下の共同住宅が主となる。 第1種中高層住居専用地域は第1種低層住居専用地域より容積率や高さ制限が緩和されるとともに、建築可能な建物の用途が広げられる。 評価対象土地がどの用途地域にあるかは、各市町村の都市計画課に備えつけてある都市計画図により調査する。また、自治体によっては、ホームページで都市計画図を公開しているところもある。 5 都市計画道路 都市計画道路とは、都市交通における重要な都市施設として都市計画法に基づいて都市計画決定された道路である。都市計画道路が評価対象地にかかっているかどうかは、用途地域と同様に都市計画図によって調査する。 なお、都市計画道路予定地上に建物を建築する場合、都市計画法第53条に基づき都道府県知事等の許可を受ける必要がある。ただし、階数が3階以下のもの、地下階がないもの、主要構造部が鉄骨造、鉄筋コンクリート造等堅固なもの以外のものについては原則として許可される。ただし、建築許可を受けられるのは都市計画道路の「計画決定」の段階であり、「事業決定」がされ実際に事業が動き出しているときは許可されない。 このように都市計画道路予定地上の土地には建築制限があるため、財産評価基本通達(24-7)においては一定の評価減が認められている。 6 開発許可 都市計画法第29条では、一定規模以上の土地に開発行為を行う場合、都道府県知事等の許可を受けなければならないとされている。 開発行為とは建築物・一定の工作物の建設を目的とした「土地の区画形質の変更」をいう。具体的には道路、水路等公共施設の新設、変更、廃止を行うことによる土地の区画変更、切土、盛土による土地の形質変更をいう。 開発許可を要する各区域毎の面積は次のとおりである。 (注) 条例により300㎡まで引下げ可能。 開発許可の可否基準には、①技術的基準と②立地基準がある。 ①技術的基準はすべての開発行為に適用される。具体的には、予定建築物が用途地域等に定めるものに適合していること、接続先の道路、開発区域内の道路が基準に適合していること、給排水設備が基準に適合していること、工事施行者に必要な能力があることなどを満たしている必要がある。 ②立地基準は市街化調整区域の開発行為に適用され、公益上必要な建物を建築するなど開発後の建物に関する事業内容に応じて許可の可否が決められる。 広大地評価の適用には、評価対象地が開発許可の対象であることが条件になるため、上表の面積については常に頭に入れておきたい。 * * * 以上、都市計画法について税務に関係あると思われるところを中心に簡単に解説した。次回は、今回解説した都市計画法の補助的地域地区のうち、生産緑地について取り上げる予定である。 (了)
〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第9回】 「裏付け取りの重要性について」 中小企業診断士 西田 純 前回は、特に情報共有に関係して陥りがちなワナについてお話しました。今回は「仮説検証」プロセスにおける裏付け取りの重要性についてお話します。 ▷ 人間は、自分が見たいようにしか事実を見ない ・・・と言ったのは、かのカエサルだそうですが、F/Sに限らず真理を突いた一面があると思います。F/Sに従事するエンジニアや責任者となる人たちは、経歴や専門などさまざまな背景を持っていても、その分野の第一人者とされる人であればこそ、そのF/Sにおける重要な役目に任ぜられたのだろうと思います。そういう方々には、ほぼ共通に「余人をもって代えがたい知見」という知的アドバンテージが備わっていまして、それがゆえに確度の高い仮説を立てることに長けているという場合が多いです。 確度が高いことは、多くの場合プラスに働きます。少し調べただけで仮説の正しさが証明されたり、いくつかの場面でその人の言う通りにものごとが進んだりします。そうすると、周りもついつい「あの人がいうことなら間違いない」というようなレッテルを貼ったりすることがあるのですが、実はこのプロセスが大きな落とし穴をもたらします。話をするほうも、果たしてそれが単なる仮説(ご意見)なのか、具体的な検証済みの情報(事実)なのか、ちょっと聞いただけでは区別がつきにくい言い方をしたりします。 「いや、そういうことになってるんだから」「見てみなよ、そうなってるでしょ」など、やや上から目線の言い方で具体的な根拠に言及しない発言があったときは、実は要注意だったりします。同じ不確かな情報でも、権威が発言すると本当らしく聞こえたりするから余計に性質が悪いのです。 これとは逆に、常に慎み深くかつ周到に、たとえ自分が手がかりを知っているような情報についても「〇〇は、どうなっていましたかね?」と確認を求める人がいます。気を付けてみていると、まったく同じ質問を違うシーンで違う相手にぶつけたりしています。F/Sにおいてそういう行動をとる人の場合は、まさか以前質問したことを忘れているわけではなく、慎重に情報の裏付けを取ろうとしているのだろうと理解してあげるべきでしょう。推論を述べるときでも、「〇〇は、こうなっているのだから××はこうなんじゃないですかね」というように、背景や理由を明らかにしつつそれが検証済みの情報であることを積極的に共有する。聞いているほうとしても素直に腑に落ちる話だろうと思います。 原則論を言うとF/S、特に新規事業の現地調査だと、いかに恵まれた知見があったにせよ、それがそのまま使えるばかりとは限らない事例がほとんどです(考えてみれば、だからこそF/Sをするわけです)。そういう場面に接したとき、これまでの知見が通用しないと困る、とばかりに自分の考えを押し付けるか、あるいは虚心坦懐に周りの知恵に教えを乞うか、という人間の属性があらわになります。たとえある程度知っていることであったとしても、「こういう場合はどうなるか」「それはなぜなのか」について、異なる場面で繰り返し検証を試みる、という態度は「仮説検証」プロセスを徹底させるために大変重要な態度なのです。 ▷ 売上予測こそ要注意 F/Sでは様々な情報を収集・分析しなくてはなりませんが、それが例えばメーカーの海外進出であれば、コスト構造や生産開始に向けたさまざまな手続きなど、支出を伴うものについてならある程度自分の知識でも通じてしまうところがあります。考えてみれば、国が変わっても製造するものが同じであれば、ある程度の共通性は担保されているわけですから、気を張って裏付け取りを繰り返しても、いつまでたっても同じことの繰り返しが続いたりします。 実は、しっかりとした裏付け取りをするべき急所というか脈があって、その第一は何をおいても「売上予測」なのです。これに続く優先順位は、次にその予測につながる市場データ、最後はその市場データの決定要因となるマクロ経済や社会の変化、ということになると思います(【第6回】で述べたPEST分析で把握される部分です)。 なぜなら、売上こそ製品やサービスに対する市場の特性的な反応を表すものであり、他の市場における経験値が必ずしも通じる部分ではないからです。複数の市場開拓を経験したベテランであっても、いやベテランであればこそ、仮説の検証を慎重に進めるべきポイントでしょう。基本的には単価と数量が予測できれば良いわけですが、そのいずれもがおそらくは幅を持ったデータとして認識されることが多いと思います。であればなおのこと、振れ幅を正確に認識するためのヒアリングは念を入れて実施することが重要になります。 ただ、いくらヒアリングを繰り返してもデータはなかなか一定レベル以上には収れんしないものです。ある程度煮つまった段階で「悲観論・楽観論・中立論」というような場合分けをしたシナリオを作成することになります。ざっくりとした分け方のシナリオが、他の場合は問題ないが、いつも悲観論の場合のみ失敗するという単純な「2勝1敗パターン」に陥って、F/Sの意義に疑問が呈されるようなことにならないためにも、重要なデータについては特に丁寧な裏付け取りを心がけることをお勧めします。 * * * 次回は「結果を見える化することのメリット」についてお話します。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会、「会計不正防止における監査役等監査の提言」を公表 ~三様監査において求められる監査役等の役割についてとりまとめ~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 公益財団法人日本監査役協会(以下「監査役協会」と略称する)会計委員会は、11月24日、「会計不正防止における監査役等監査の提言―三様監査における連携の在り方を中心に―」と題された提言集を、監査役協会会員会社へのアンケート結果とともに公表した。 提言を取りまとめた監査役協会会計委員会(第43期)の委員長は、元株式会社日立製作所取締役監査委員長(元副社長)三好崇司氏。筑波大学大学院の弥永真生教授と日本公認会計士協会の住田清芽常務理事が専門委員を務めるほか、上場企業の監査役が委員として参加している。 その提言内容について、「はじめに」から引用する。 1 提言の概要 提言内容は下記のとおり大きく3つに分類され、合計で9項目になっている。 本提言の構成は、各項目の最初に「提言」が示され、その後に提言内容の解説が述べられ、必要に応じてアンケート結果の引用が示される形式で統一されている。 2 監査役等の選任・構成 最初に、「監査役等の選任・構成」に係る提言の中で、いくつか特徴点を挙げてみたい。 まず、監査役候補者の選定プロセスに関する提言では、「監査役等が、実効性ある監査を実現するためには、監査役等として求められる経験・資質等を有していなければならない」としたうえで、監査役会等の構成については、「独立性・透明性が担保される必要がある」とまとめている。 また、社外監査役等については、「リスクの抽出・分析において社内監査役等とは異なる観点から貢献できる経営経験者、専門家が望ましい」とし、会計不正防止の観点から特に、「財務及び会計に関する相当程度の知見を有する監査役等を少なくとも1名以上選定すべきである」と提言している。 3 会計不正防止のための三様監査 監査役等が果たすべき三様監査における連携については、以下のように提言されている。まず、三様監査について、 としたうえで、「監査の有効性、効率性向上の観点で、監査計画、監査方法、監査報告内容等について議論を深め」る中で、「相互の改善点について真摯な意見交換を行い、緊張感ある連携を実現」することによって監査品質の向上を図ることの必要性が示されている。 次いで、内部監査部門との連携については、 と「可能な限り一体感のある運用を行うことが望ましい」としたうえで、情報を共有するため、「内部監査部門のレポートラインは監査役等にも平時・有事に関係なく確保されるべき」であるとしている。 最後に、会計監査人との連携については、 と提言の冒頭で述べたうえで、特に、会計不正防止の観点から、リスク情報の共有は最優先事項であるとして、「監査計画時・期中・期末時点各々で情報・意見交換を図り、懸念がある場合は都度報告する体制を確保すべきである」と解説している。 また、監査役等から積極的な情報提供を行うべきであるとして、「監査役会等の監査体制や監査計画、実施状況に加え、監査役等として認識している事業運営上の課題やリスク、業務監査等を通じて得た会計監査人の監査に影響を及ぼすと思われる情報、内部統制の評価状況や問題点等」について情報を提供し、議論を深めるべきであるとしている。 4 その他 その他の項目としては、グループ監査と監査役会等の評価について提言が行われている。まず、グループ監査の在り方については、 と述べたうえで、特に、親会社への影響度の大きい主要子会社はもちろん、「本業とは異なる事業を行う子会社及びM&Aで取得した子会社」などのリスクの実態把握が難しい子会社について、「子会社のガバナンス及び監査体制の把握に重点」を置くべきであることを提言している。 監査役会等の評価については、 として、まずは自己評価を実施し、取締役会等に対して監査活動の説明を行う機会を設けて、取締役会等のメンバーからの意見聴取を行うことが、「監査品質の向上だけでなく、監査役会等の監査活動の理解を深めることにも繋がる」と提言をまとめている。 5 解説―三様監査(※)の変容と提言― (※) 監査役協会が考える「三様監査」については、同協会の「新任監査役ガイド(第5版)」137ページなどにも、解説がある。 本提言をまとめた監査役協会会計委員会委員長の三好崇司氏は、ACFE Japanカンファレンス(2016年10月7日開催)にパネリストとして登壇した中で、「監査役協会としても提言をまとめている」旨の発言をされていたので、筆者としても、本提言の公表を待っていた次第である。 提言内容について異論を差し挟む余地はないものと思料するので、解説に代えて、変容の兆しがみられる三様監査について、少し現状をまとめておきたい。 既述のとおり、本提言Ⅱ.2.「監査役等と内部監査部門との連携」では、「内部監査部門の組織上の位置づけは社長直属の会社が多い」としながらも、「可能な限り一体感のある運用を行うことが望ましい」と解説しているが、より一体的な運用を目指して、内部監査部門を監査役会等の直属とする上場企業が増加している。 昨年、会計不正事件が明らかになった株式会社東芝は、今年3月15日公表した「改善計画・改善状況報告書」の中で、内部監査部門を執行部から切り離し、監査委員会の直轄組織とすることを明らかにした。また、大阪市に本店を置くステラケミファ株式会社のコーポレートガバナンス体制を見ると、内部監査部は、執行部門の枠外に置かれ、監査等委員会・会計監査人との連携が強調されている。 こうした動きには賛否両論があるようだが、目的とするところは「監査品質の向上」であり、「監査業務の有効性・効率性向上」であることから、企業規模や監査部門の人的リソースに応じた体制を選択する会社が増えることは間違いないと思料するところである。 (了)
《速報解説》 「MBO後の再上場時における上場審査について」パブコメを開始 ~再上場時の上場審査の視点・運用について整理~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年12月2日、株式会社東京証券取引所 日本取引所自主規制法人は、「MBO後の再上場時における上場審査について」を公表し、意見募集を行っている。 これは、MBO(Management Buy-Out)を実施して上場廃止となった会社が再度上場しようとする際の審査に関する視点・運用を再整理するものであり、通常のパブリック・コメント手続に準じて意見募集するものである。 意見募集期間は平成29年1月1日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 MBOとは MBO(Management Buy-Out)は、上場会社の経営者が株主から株式を買い取って会社を非公開化する取引である。 次のような意義がある。 2 MBO後の再上場 取引所では、これまで、過去にMBOを実施して上場廃止となった会社が再上場する際には、市場に対する信頼を維持する観点から、通常の上場審査に加えて、個別に投資者保護のための追加的な審査を行っている。 今回は、再上場時の上場審査の視点・運用について整理するものであり、(1)上場審査の視点と(2)上場審査の運用について、次のように述べている。 (了)
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《速報解説》 国税庁、HP上の「質疑応答事例」を更新 ~マンションの施工不良により受領する補償金の課税関係等、15問を新設 Profession Journal編集部 国税庁は2016年11月28日にホームページ上の質疑応答事例を更新し、新たに15問が追加された。 新設された15問の内訳は、法人税関係の7問に続き、消費税関係3問、所得税関係2問、財産評価関係2問、印紙税関係1問となっており、先日改正税法が公布された本年度の第2次の税制改正を反映してか、昨年、一昨年に比べ少ない追加数となっている(源泉所得税、譲渡所得、相続税・贈与税、酒税、法定調書については新設事例なし)。 なお、新設15問についてはこのページ下部にリンク先一覧を掲載している。 まず所得税関係については世情を反映し、建設されたマンションが耐震基準を満たしておらず耐震補強工事を実施する場合に、施工業者からマンション居住者へ損害賠償金として支払われる仮住まい補償金の課税関係について、不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金として非課税となるとした事例、さらに不動産貸付業者が賃貸用アパートを購入した際に売主に支払う固定資産税等清算金が必要経費とはならず取得価額に算入されるとした事例が追加されている。 法人税関係は、新設の7問中、組織再編関係が5問と昨年同様多くを占めており、合併法人と被合併法人との間に適格合併に該当するための関係が複数存在する場合の適格判定について照会された2問や、分割と合併を同日に行う場合に、消滅する被合併法人に属する当該分割に係る譲渡損益の損金算入時期等の取扱いについて解説した事例等が追加されている。 消費税関係では、平成28年度改正で手当てされた「高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例」について、本改正に該当し納税義務が免除されないケースを取り上げたほか、インターネットを介して株式投資の分析ツール(ソフトウェア)を提供等している国外事業者のサービス内容が事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するかを照会した事例等が追加された。 印紙税関係では、外国人旅行者向けの消費税免税制度(輸出物品販売場制度)に関し、平成27年度改正で創設された、ショッピングセンターなどで免税手続をワンストップ化できる手続委託型輸出物品販売場制度において、輸出物品販売場を経営するテナントと承認免税手続事業者との間で締結される「免税販売手続業務委託契約書」が第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当する旨を解説した1問が追加された。 財産評価関係で新設された2問は、景観法に基づき指定された「景観重要建築物」及び歴史まちづくり法に基づき指定された「歴史的風致建造物」の家屋及びその敷地の評価方法について、それぞれ財産評価基本通達5の定めに基づき、同通達24-8(文化財建造物である家屋の敷地の用に供されている宅地の評価)及び89-2(文化財建造物である家屋の評価)に定める評価方法に準じて評価する点が示されている。 なお、各事例には次の文言が記載されており、実際には各取引等の状況により判断の異なるケースがあるため留意されたい。 新設された15問とリンク先は下記のとおり。 〈新たに追加された質疑応答事例〉 〈所得税〉 「マンションの施工不良に伴う耐震補強工事により損害賠償金として受領する仮住まい補償金について」(総則9) 「賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の清算金の取扱いについて」(必要経費5) 〈源泉所得税〉 新設なし 〈譲渡所得〉 新設なし 〈相続税・贈与税〉 新設なし 〈財産の評価〉 景観重要建造物である家屋及びその敷地の評価(上記以外の土地等・家屋の評価42) 歴史的風致形成建造物である家屋及びその敷地の評価(上記以外の土地等・家屋の評価43) 〈法人税〉 「金銭債権を譲渡担保に提供した場合の取扱いについて」(収益の計上2) 「合併法人と被合併法人との間に「当事者間の完全支配関係」と「法人相互の完全支配関係」のいずれにも該当する関係がある場合の適格判定について)」(組織再編2) 「合併法人と被合併法人との間に「当事者間の完全支配関係」と「法人相互の支配関係」のいずれにも該当する関係がある場合の適格要件の適用関係について」(組織再編3) 「分割と合併を同日に行う場合に当該分割により移転する資産及び負債に係る譲渡損益の取扱いについて」(組織再編22) 「事業の譲受けに伴い賞与支払債務の履行に係る負担を引き受けた場合の課税関係について」(組織再編25) 「いわゆる「三角分割(分割型分割)」に係る具体的な適格判定について」(組織再編27) 「連結納税の開始に当たり、過去に特別償却の適用を受けた減価償却資産を有する場合の時価評価損益について」(連結法人1) 〈消費税〉 「ATMの銀行間利用料に係る仕入税額控除」(仕入税額控除(その他)6) 「高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例」(納税義務者10) 「事業者向け電気通信利用役務の提供の範囲」(国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等1) 〈印紙税〉 「免税販売手続業務委託契約書」(継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)25) 〈酒税関係〉 新設なし 〈法定調書〉 新設なし (了)
2016年12月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.196を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.47- 「トランプ税制の最大注目点」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 トランプ大統領の誕生には驚かされたが、氏の税制改革案も驚くべき内容だ。 税率引下げによる所得税減税は高所得者優遇になり、さらなる格差の拡大につながる。法人税率の大幅な減税は、失敗に終わったレーガン1期の税制改革を想起させる。さらに財源なき大幅減税は、財政赤字の拡大・金利高騰をもたらす(すでに先取りが始まっている)。 次の図表は、最新の情報に基づき税制改革案をまとめたものだが、今後は共和党の税制改革案とのすり合わせなしには物事は運ばないので、現実的な案ができるのだろう。 トランプ次期大統領税制改革案 (※) Tax Policy Centerなど米国シンクタンクの情報から筆者作成 筆者が最も注目するのは、国際課税の改革である。米国多国籍企業が海外(タックスヘイブンや低税率国)に留保している莫大な利益(2兆ドルともいわれている)の還流を促す税制改革を行うというもので、この成否がトランプ経済政策のカギを握っているといってもよい。 国際課税原則として、わが国を含む多くの先進国は、国外所得免除方式(子会社が海外で稼ぎその国で税を支払えば、配当としてわが国に還流させても非課税、わが国では5%分は課税、また支店については全世界所得課税)を採用しているが、米国は、全世界所得課税方式、つまり米国企業が世界で稼ぐ全所得に対して米国は課税権を持ち、二重課税は外国税額控除で調整する。 この方式の下では、米国多国籍企業が海外での税引き後利益を配当として米国に還流させると、差額が追加的に米国で課税される。企業はこれを避けるため、米国に還流せず海外の低税率国に利益を留保する。つまり、全世界所得課税方式という税制が、米国企業が2兆ドルを超える利益を海外に留保する最大原因となっている。 そこでこれを国外所得免除方式に変更しようというのが、かねてからの共和党案であり、今回のトランプ案である。 問題は、たまっている利益をどう還流させ、どう課税するのか、という点である。追加課税が大きすぎると、企業にはインバージョン(国籍を変える租税回避)の誘因が働き、米国への還流は夢に終わる。他方、税率が低すぎると、財源にはならない。 これに対しては、トランプ案と共和党案との間で意見の相違があるので、未だ明確ではないが、04年にブッシュ大統領が行った一時的な利益還流への軽減税率(10%)での課税(リパトリエーション税)が有力案となっている。 これを財源としてラストベルト(Rust Belt:錆びついた工業地帯)のインフラ投資の財源に充てるということのようだ。 うまく還流させ、米国経済の底上げになるような投資などに活用されれば、トランプ税制は中期的に好影響を米国経済に与えるであろう。 また還流マネーには、ユーロ建てのものもある。それがドルとして還流されれば、わが国にはドル高・円安要因として歓迎されるだろう。 トランプマジックは、成功するのだろうか。これが最大の見ものだ。 (了)