〔会計不正調査報告書を読む〕 【第57回】 株式会社ブロードリーフ 「調査委員会最終報告書(平成29年1月31日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 【株式会社ブロードリーフの概要】 株式会社ブロードリーフ(以下「ブロードリーフ」と略称する)は、2005(平成17)年12月創業、2009(平成21)年9月法人設立。業務支援用ソフトウエア・ITソリューションをはじめとする各種サービスの提供を主たる事業とする。資本金7,147百万円。売上高16,760百万円、税引前利益2,921百万円(数字は、いずれも平成28年12月期)。従業員数772名。本店所在地は東京都品川区。東京証券取引所1部上場。 【調査委員会報告書の概要】 1 発覚の経緯 最終報告書によれば、ブロードリーフが販売協力店等に対して支払う販売手数料及び顧客又はリース会社に対して支払う下取残債(※)に関する業務について、職務分掌による相互牽制の観点から、2015年に、業務部がすべての業務を担う体制から、残高管理業務を経理部に移管することとしたところ、当該移管の過程において、取引関係のない名義人の口座に対する支払いが行われていることが判明した(当初判明した金額は約310万円)ことを契機に社内調査を行ったところ、従業員Xによる支払処理が行われていた疑義が判明した。 (※) 下取残債とは、リース会社が顧客に代わって当社のシステムを購入し、当該リース会社からリースを受ける方法で当社のシステムを使用している顧客が、当社の旧システムから新システムに切り替える場合に、リース会社と顧客との間で締結しているリース契約に基づき顧客がリース会社に対して負担することとなる中途解約金支払債務又はリース料支払債務を、当社が顧客又はリース会社に対して負担することを合意することにより生じる当社の債務を意味する(最終報告書p.8)。 社内調査を進めた結果、Xによる不正は2006年5月~2013年6月までにわたって行われ、不正に送金した金額は6,000万円を超えることが判明したが、調査の途上でXは無断欠勤を続けて所在不明となり、ブロードリーフは9月30日付でXを懲戒解雇とした。 その後、ブロードリーフは、10月28日開催の取締役会において、本件不正行為に係る事実関係の調査等のために、常勤監査役に法律や会計に深い知見を有する外部専門家を加えた調査委員会を設置することを決議したものである。 なお、最終報告書の中では、Xが所在不明で懲戒解雇されていることから、「調査委員会は、X氏に対しては、インタビューを実施できていない」ことが述べられている。 2 調査結果の概要 (1) 本件不正行為の発生経緯(最終報告書p.13以下) Xは、2005年12月31日から2013年4月1日まで、当初は業務部販売在庫課課長代理として、2006年7月16日以降は課長として、販売手数料及び下取残債の支払業務全体を統括する立場にあり、他の役職員でこの支払業務の全容を把握している者はいなかった。 Xはこうした自身の立場を悪用し、本来は各営業所からの受注データ入力によって発生する販売手数料及び下取残債の支払業務を、受注データが入力されていないにもかかわらず追加で入力し、ブロードリーフとは取引関係のない名義人の口座を4口座利用して、振込金額を支払情報として追加入力することにより、不正な送金を行っていた。 (2) Xによる隠蔽工作 Xは、業務部長から作成した書類のもととなる資料を提出するように求められると、「確認作業に時間がかかること」や「支払総額が一致しているため確認の実益は乏しいこと」などを説明して資料の提出を回避して、業務部長の承認を得ていた。 また、内部監査室への異動後の不正送金は、Xが、元部下である後任の担当者に対し、「この件は経理部長も知っている案件である」などと述べて、支払先情報を追加で入力させたものである。 3 不正行為の発生原因(最終報告書p.18以下) 調査委員会が、Xによる不正行為が発生し、かつ、長期間露見しなかった原因として認定した事象は、次の7つであった。 (1) 長期間にわたる業務の属人化 (2) 業務フロー等を記した社内規程等の不存在・業務フローの脆弱性 (3) 業務部における監督・牽制不足 (4) 支払先別の未払費用残高明細の不存在 (5) 内部監査室によるモニタリング・牽制不足 (6) 「取引先マスター」の網羅性の欠如 (7) ITシステム統制上の問題 この中でも、Xによる不正行為を長く発見できなかった理由の最大の原因は、(4)支払先別未払費用残高明細の不存在ではなかったかと思料する。最終報告書の一部を引用する。 販売手数料は、各営業所での受注データ入力によって未払計上が行われるものの、実際には販売協力店等から請求がないものがあり、未払費用として多額の債務が滞留していたため、Xが支払データを追加入力して、販売手数料を過剰に支払ったとしても不正行為が発覚しなかったということであろうと考えるが、管理上は大いに問題である。 Xが不正行為を始めた2006年度は、ブロードリーフはMBO実施前で、翼システム株式会社が設立し、その後増資を引き受けたアイ・ティー・エックス株式会社の子会社となった時期と重なっているが、未払費用の支払先ごとの残高が把握できない状況で、決算を適正に行うことができたのだろうか。 4 会計処理に及ぼす影響(最終報告書p.22) 調査委員会が認定したXによる不正送金は、2006年度から2013年度までの8年間にわたり、計222回、61,689千円に及ぶ。年度別にみると、最も多いのは、2007年度の48回、15,249千円であり、Xが業務部から内部監査室に異動した後の2013年度においてもなお13回、3,601千円が不正に送金されていたことが判明している。 1回当たりの平均不正送金額は277千円程度で、販売手数料や下取残債の金額が大きくなり過ぎないように調整していたのではないかと推測できる。 なお、本件不正による損失について、調査委員会は、「2016年12月期第3四半期決算以前の各期の損益に与える影響額には重要性は認められない」として、「過年度の遡及修正は行わず、2016年12月期第4四半期に一括して処理すれば足りる」と判断している。 5 再発防止策の提言(最終報告書p.23以下) 調査委員会は、本件不正発覚後、ブロードリーフでは、業務部と経理部とで支払リストと請求書との突合手続きを行い、未払費用残高管理業務を経理部へ移管する作業を進めるなど、「再発防止策がすでに一定程度進められている」と評価したうえで、さらなる再発防止策の提言として、以下の8項目を挙げている。 1.業務フロー等の明確化・見直し 2.定期的な人事ローテーションの実施 3.支払先別の未払費用残高明細の継続的な更新及び確認 4.内部監査体制の強化 5.網羅的な「取引先マスター」の作成 6.ITシステムによる統制の強化 7.コンプライアンス教育の徹底 8.断固たる措置 【調査報告書の特徴】 従業員不正の特徴として、「経理担当者の不正は単独犯」であることが多いが、「それ以外の部門担当者の不正には共犯者が必要」という特徴があると、筆者もセミナーなどでお話させていただくのであるが、本件は、会社の管理体制があまりにお粗末であったため、経理部門の犯行でないにもかかわらず、社内に共犯者を必要とせず、単独での不正が可能となった事例である(預金口座の名義を貸した協力者が社外にいたようだが)。 1 調査委員会の構成 不正行為の調査にあたり、ブロードリーフは、常勤監査役を委員長とし、外部の弁護士と公認会計士を委員とする調査委員会を設置した。常勤監査役を委員長とすることは、社内の情報収集や関係者へのヒアリングがスムースに進むなどのメリットが期待できることは否定しないが、本件においては、不正行為が行われていた期間である2007年3月に常勤監査役に就任し、その後ずっと常勤監査役の職務にある(付言すれば4,200株の株式を所有する株主でもある)青木伸也氏は、調査に利害関係を有する者であることは間違いなく、同氏を委員長としたことには疑問が残る。 最終報告書を公表した際のリリースで、同氏も他の複数の取締役同様月額報酬の10%を3ヶ月間減額する申出を行ったことが記載されているが、その一方で、最終報告書には、不正行為を防止できないばかりか、長く発見できなかった内部管理体制を放置してきた取締役やこれを監督できなかった監査役の責任について、まったく言及がないのは、うがった見方をすれば、常勤監査役を委員長とする調査委員会の構成に原因があるのではないだろうか。 2 再発防止策における「断固たる措置」 不正を行った従業員に対して厳正な処分を行うことで、不正への抑止力とすることを再発防止策として提言している報告書は多いが、最終報告書の記載は相当に厳しいものとなっている。以下に全文を引用する(調査報告書p.26)。 もちろん、不正行為に対する責任は厳しく追及すべきである。ただ、不正実行者であるXが所在不明であり、元従業員の自殺というリスクを考慮しなければならない本件において、損害賠償請求や刑事告訴を行うことが、果たして、再発防止策につながるのであろうか。むしろ、経営陣が襟を正し、従業員に不正を起こさせない管理体制の構築に向けた決意を示すことの方が、再発防止策として有効なのではないかと思料する次第である。 しかし調査委員会の提言した「再発防止策」には 経営陣自らが法令遵守の重要性を示す 経営陣が率先垂範して、不正を許さない組織風土を醸成する といった項目は見当たらない。 3 中間報告書の公表 最終報告書の公表に先立つ平成28年12月29日において、ブロードリーフは、調査委員会による中間報告書を公表している。この段階では、まだ、不正送金に使用された銀行預金口座の調査に協力が得られていないことから、「一部の調査の完了にはまだ時間を要する見込みである」ことを理由に作成されたようであるが、結果的に、調査が年末年始を挟むこととなってしまった状況で、当初予定していた調査終了時期が徒過して、投資家をはじめとするステークホルダーに不要な懸念を与えなかったという点で、中間報告書をこの時期に公表したことは評価していいのではないだろうか。 (了)
税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第6回】 「耕作権とその税務」 税理士 島田 晃一 今回のテーマは「耕作権」である。限られたページの中ですべてを網羅することはできないが、より深い理解の一助となるよう、重要と思われる部分をピックアップし、簡潔に説明していくことにする。 1 耕作権の概要と農地基本台帳(農地台帳) 「耕作権」とは、農地の所有者に小作料を支払いその農地を耕作(又は採草放牧地で養畜)する権利をいう。農地法においては第16条から第29条にわたり農地の利用関係の調整の項目において、その取扱いが述べられている。 耕作権を設定、移転、解除するためには、農業委員会又は都道府県知事の許可が必要である。また、その農地に耕作権が設定されているか否かは、農地基本台帳を閲覧して確認する。 「農地基本台帳(農地台帳)」とは、各市町村が区域内の農地を管理するために、農業委員会に備え付けてある台帳である。農地基本台帳には、世帯員及び就業者、営農の状況、一筆ごとの面積、現況、所有者、利用者(小作人)、経営意向・経営計画等が記載され、農地法の許可申請を受けた際などにおける参考資料になる。 2 小作権と永小作権 耕作権は、賃借権としての「小作権」と、物権としての「永小作権」とに区分される。 永小作権はそれ自体が資産価値を持ち、農地所有者の意向にかかわらず、その所有者が自由に第三者に譲渡することが可能である。また、不動産登記を行うことができ第三者に対抗することができる。ただし、現状においては永小作権はほとんどなく、大半は賃借権としての小作権である。 賃借権としての小作権については、不動産登記はされないが、前述した農地基本台帳の小作人としての記載が不動産登記と同様の価値を持つことになり、新たに底地を取得した第三者に対抗できるが、農地所有者の同意なしにはこれを第三者に売却や贈与することはできない。 小作料の金額は小作人と農地所有者との交渉により決められるが、農業委員会で標準小作料を定めており、この標準小作料が小作契約を締結する際の目安になっている。 税務上は、小作料を支払った場合は農業所得計算において必要経費に算入される。一方、小作料を受け取った場合には、農業所得ではなく不動産所得の収入金額になる。 3 小作契約の解除 小作契約の解除については、賃借人及び賃貸人双方の合意があった場合のみ可能であり、賃貸人もしくは賃借人からの一方的な請求で解除することはできない。また、解除の際には離作料を払う必要がある。この点については借地権の取扱いと似ている。ただし、賃借人が農地の保全を怠り農地として維持されていないときなどは、一方的な解除理由になりうる。 期間の定めのある契約の場合、その期間の満了の1年前から6ヶ月前までに相手方に更新をしない旨の通知をしないときは、従前の賃貸借と同一条件で更に賃貸借をしたものとみなされる(農地法第17条)。また、合意解約が解約に基づく農地の返還前6ヶ月以内に成立したものであり、かつ、その旨が書面において明らかであるなどの事由がある場合を除き、契約を解除するためには都道府県知事の許可を受けなければならない(農地法第18条)。 離作料の金額は、その農地が所在している地域やその農地の耕作状況などによって異なり、一概には定められない。参考事例としては、平成元年12月の東京地方裁判所の判決があり、その中では としている。ただし、農地維持のための管理が不十分であるようなときは、離作料の減価要因になりうる。 離作料を受け取った場合、耕作権の譲渡として譲渡所得(分離課税)の対象になる。ただし、使用貸借により借り受けていた農地に対する離作料の受領は、次項にあるように耕作権の価額が0であり贈与税の課税が行われるため注意が必要である。一方、農地所有者が離作料を支払い、その後その農地を売却したときは、その離作料はその土地の取得費になる(譲渡費用には該当しない)。 なお、農業委員会又は都道府県知事の許可を受けず賃貸借契約を結んでいる場合がある。これを“ヤミ小作”といい、農地法においてその権利が保護されないため、農地所有者からの申出があれば一方的に契約解除されてしまう。もちろん離作料も原則として受け取ることはできない。 4 耕作権の相続と財産評価 耕作権は相続税の課税対象になる。耕作権の評価は、純農地や中間農地については、財産評価基本通達に定める方式によって評価した金額に、所在する地域の耕作権割合を乗じた金額とされる。 市街地周辺農地・市街地農地に係る耕作権の価額は、その農地が転用される場合に通常支払われるべき離作料の額、その農地の付近にある宅地に係る借地権の価額等を参酌して求めた金額とされる。ただし、都市部の農地については、その農地が所在する都府県ごとに定められた割合を乗じた金額により評価しても差し支えないとされている。当該割合及び各地域の耕作権割合は、国税庁ホームページにおいて検索できる。 なお、その農地が使用貸借契約であるときは、耕作権の価額は0とされる。一方、耕作権の目的となっている農地(底地)の価額は、財産評価基本通達に定める方式によって評価した農地の価額から耕作権の価額を控除した金額になる。 耕作権は農地の納税猶予の対象になる。ただし、納税猶予を受けるための担保として提供することはできないため、仮に耕作権について納税猶予を受ける場合、他に担保を用意しなければならない。 5 固定資産の交換特例の適用 小作人が耕作地の一部を地主に返還し、地主から残りの部分の底地を取得した場合、耕作地と底地の交換であるので、固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例(所得税法58条)の適用を受けられる。 ただし、農地の移転を伴うため、農地法に基づく許可が必要である。【第2回】で説明したように、農地の移転に関する許可については、3条許可(農地のままの移転)もしくは5条許可(非農地化するための移転)がある。 3条許可による移転は農地のままの移転であり、交換特例の適用要件の1つである「交換直前の用途と同一用途に供されること」を満たす。一方、5条許可は非農地化を前提とした許可であるので、その土地を交換直前の用途に供していないことになる。しかし、3条許可を受けるためには相当規模の農地を耕作していなければならない。 そこで、3条許可が受けられない場合について、便宜的に5条許可を受けて所有権移転を行い、交換後もその農地を耕作しているときには交換特例の適用が認められる。なお、ヤミ小作については、交換の特例の適用は認められない。 * * * 以上、耕作権とそれに関わる税務について簡単に見てきた。 耕作権の設定や解除については複雑な事例も多く、慎重な対応を要する。特に小作料や離作料の金額については、農地の所在する地域や農地の状況によってそれぞれ異なるので、まずは該当地域の農業委員会に相談し、何らかの回答を得てから動く必要があろう。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第7回】 「管理者による『預金の使い込み』(その2)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問07] 私は【設問06】で、妹から父の預金を使い込んだと主張されている姉です。 妹は私に対して一方的に疑いの目を向けていますが、それは妹の思い込みなのです。 ◆ ◆ ◆ 父が入院する際に私が管理を任された銀行口座には、そもそも700万円ほどの残高しかありませんでした。 この中から、父の手術費用である約50万円をはじめとした病院代や入院費用をすべて支出したのです。 また、戦災孤児であった父は、幼いころに自分を育ててくれた地元の福祉施設に大変感謝しており、成人して働き始めてからは毎年少しずつ寄付を続けてきたそうです。そのような中で、今回、福祉施設の建物を全面的に建て直すという計画が持ち上がり各方面に寄付を募っていましたので、父はこれに応じて300万円の寄付を申し出たのです。その手続も、父から依頼されて、私が行いました。 なお、入院中の父の世話をするために、私はパートの仕事を辞めなければなりませんでした。父はそのことを不憫に思い、月額数万円程度ではありますが、私の生活費の一部として援助してくれました。これは父から持ちかけてくれたことです。 ◆ ◆ ◆ 以上のように、私が管理していた間の預金の支出はすべて正当であり、父も了解済みのものです。不正を疑われるようなことは一つもありません。 父の最期に何も面倒をみず、遺産を欲しがってばかりの妹のことを考えると、非常に悔しく思います。 私は、今後の妹との交渉において、どのようにしていけばよいでしょうか。 1 「預金の使い込み」を疑われた側の対処方法とは? 「預金の使い込み」事案の多くは親族内での紛争であり、その根底には、長年にわたる親族間での人間関係(嫁・舅姑関係、きょうだい関係等)が存在しているケースが非常に多い。 そのため、一部の親族から「預金の使い込み」を指摘された場合、その内容の当否そのものとは別に、激しい感情的な対立を招くこともままある。その結果、冷静な話合いが難しく、解決に向けた道筋がまったくつかなくなるケースも多い。 今回は、前回述べた【設問06】における姉の、すなわち高齢者本人の「財産を管理していた者」の立場から、この問題を考えてみたい。 なお、「預金の使い込み」が争点となる訴訟は増加傾向にあるにもかかわらず、これまで裁判実務の指針となるような解説書や論文がほとんど存在しない状況にあった。 そのような中で、近時、裁判官のグループによる共同研究の成果が下記の論文として公表された。必要に応じてご参照いただきたい。 2 財産管理者側での対応(1)-領収書・レシート等の証憑書類の精査 【設問06・07】において、姉が一番はじめにやらなければならないことは、本人である父のために支出し、あるいは父から指示を受けて支出した内容に関し、領収書等の証憑書類をすべて収集し、確認することである。 この点、筆者が過去に取り扱った事件では、日々の出来事や入出金の詳細を、数十年にわたり専用ノートにその都度記録し、あわせて重要な証憑もほとんどを保存している方がおられた。このケースでは、それが功を奏し、「使い込み」との疑いを堂々と払拭し、反証に成功した。 このように証憑書類を普段からどの程度保管しているかは管理者各人の性格等にもよるところであり、いざ時間が経ってしまってからでは如何ともしがたい場合もある。 仮に、証憑書類が手元に保存されていない場合は、金額が大きな支出については、支払先に対して領収書の再発行を依頼する等の手段が考えられる。例えば、【設問07】では、父の指示で福祉施設に寄付したということであれば、仮に寄付金の払込をした振込票を廃棄していた場合でも、施設側に寄付金受領の証明書等の発行を依頼すれば入手できるであろう。 なお、証憑書類を入手した後は、各支出について、時系列で、①支出日、②支出先、③支出金額、④支出内容、⑤対応する証拠の説明等を一覧表に整理していくとわかりやすい。 一例であるが、裁判で争われる場合等は、次のような形で一覧表に整理したうえで、お互いの主張・反論を記載していくやり方が通常取られる。 〈支出内容一覧表(例)〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 3 財産管理者側での対応(2)-領収書等がない費目の精算 本人のために支出した費目の中には、こまごまとした日用品や飲食代、少額の交通費等といったように、必ずしも証憑書類を残していないものも存在するかもしれない。あるいは、菩提寺へのお布施や知人の葬儀に持参した香典代等、その性質上、領収書等がもともと発行されない費目もあろう。 これらについては、支出の時期や金額、支出先・支出内容等につき思い出せる限りで記憶を喚起し、すべて書き出して前記の一覧表に反映すべきである。そのうえで、これら費目については、他の親族・関係者に対して内容の正当性を説明し、理解を得ていくということになる。 以上のような整理を経て請求者と協議を重ねていくと、自ずと支出の正当性につき問題のない項目は争点から外れ、次第に争点が絞られてくる。あとは、その金額をめぐっていくらを返金するのか/しないのかを、双方で交渉していくことになる。 4 トラブルを未然に防ぐための予防策 「預金の使い込み」トラブルを2回にわたって取り上げた『まとめ』として、この種のトラブルを防ぐため、管理者としてなすべき予防策につき説明しておこう。 以上のような工夫をすることで財産管理の透明性を高めれば、深刻なトラブルへの発展は回避できるであろう。 (了)
役員インセンティブ報酬の分析 【第2回】 「株式交付信託①」 -平成28年度の状況- 弁護士・公認会計士 中野 竹司 1 役員報酬のための株式交付信託の概要 コーポレートガバナンス・コード原則が中長期的な業績と連動する報酬の割合や現金報酬と自社株報酬の割合を適切に設定すべきとしたこともあり、自社株報酬の制度の一つとして株式交付信託制度の導入が増加している。 実際、株式交付信託導入に関する平成28年度中の企業の適時開示事例を見ると、制度導入目的として、中長期的な業績向上と企業価値の増大を挙げる企業が多かった(株式会社丸井グループ、伊藤忠商事株式会社など)。 ここで、株式交付信託(株式給付信託など様々な名称で呼ばれることがある)とは、会社が信託銀行等と信託契約を結び信託を設定したうえで、委託者たる会社が受託者たる信託銀行等に金銭を交付し、受託者たる信託銀行が株式を取得し、受益者たる役員等が受託者から会社の株式の交付を受けるという制度である。 信託は、信託契約により、様々な制度設計ができるが、株式交付信託の大まかな流れを図示すると以下のようになる。 2 ガバナンス面から見たメリット・デメリット 平成28年度中において、株式報酬として上場企業が導入している制度としては、株式交付信託の他、特定譲渡制限付株式又はストックオプションのいずれかであることがほとんどであると思われる。 株式交付信託は、税法上の制約はあるものの、制度設計の自由度が高いため、他の制度と比べると、以下のようなメリット・デメリットがある。 まず、特定譲渡制限付株式はパフォーマンス・シェア型の制度設計も可能ではあるものの、税務上の制約もあり、欧米で導入されているパフォーマンス・シェアに比べると、業績向上のインセンティブ報酬という性格が弱められている。これに対して、株式交付信託はパフォーマンス・シェア型の制度設計が可能である。 また、ストックオプションを利用した場合と比べて、株式交付信託は、株式の希薄化が生じず、また、当該企業の株価水準によっては、費用対効果がより高いケースもあるというメリットがある。 一方、株式交付信託は、制度設計によっては、自己株式取得規制の潜脱となりガバナンスを歪める可能性もありうるため、受託者が議決権の行使を行わないという設計となっていることが上場企業においては通常である。 また、制度導入に当たって、決定プロセスの透明化や客観性を確保するため、諮問委員会としての報酬委員会等の検討を経ている旨を適時開示で明らかにしている事例もある(アステラス製薬株式会社、株式会社リクルートホールディングス、戸田建設株式会社など)。 3 取締役に交付する株式数の決定方法 (1) 付与ポイントの決定方法 取締役等を対象とした株式交付信託においては、まず、対象となる取締役に対し、職位や業績に応じて計算期間を定めポイントを付与するといった計算方法がとられることほとんどである。 そして、各対象者に付与されるポイントの計算方法には各種バリエーションがあるが、 により各対象者に付与されるポイントが決定されるという事例が多くみられる(アステラス製薬株式会社、伊藤忠商事株式会社、ブルドックソース株式会社など)。 この際、業績連動係数には様々な経営指標が用いられており、例えば、売上高、コア営業利益率、ROE、EBITDAなどを用いている例が見られた。 (2) 付与株式数の決定方法 各対象者別の付与ポイントが決定されると、これを基に交付株式数等が決定される。 この際、株式付与が確定した時点での累積ポイントに対して、1ポイント=1株(ただし、希薄化調整計算を予定するのが一般的)などという条件で付与される株式数が決定されるケースが多い。 もっとも、付与ポイントを株式数に換算し累積ポイントの一定割合を株式で交付し、残りの部分は信託内で換金処分した金銭相当額を付与するという方法をとる企業も少なくない(ブルドックソース株式会社、株式会社リクルートホールディングス、伊藤忠商事株式会社、アステラス製薬株式会社、日本郵船株式会社など)。 4 会社法上の視点 取締役を対象とした株式交付信託は、信託設定時に役員報酬を目的とした金銭の支払いが発生するため、株主総会の決議が必要となる。その際、株式交付信託は、確定報酬額、不確定報酬額及び非金銭報酬の性格をいずれも有していることから、他の役員報酬とは別枠で株主総会決議することが望ましく、実際に株式交付信託制度を導入する際には、役員報酬決議による承認を得ることが通常である。 また、付与対象範囲は、取締役と執行役を制度導入対象とするが、社外取締役、監査役と国外居住者を除いた事例が多く見受けられた。このように、取締役に対する株式交付信託は、受益権者として取締役の他、執行役や子会社取締役等を支給対象に含める場合もあるが、この場合の承認関係をどのように考えるかは慎重な配慮が必要である(倉橋雄作「経営陣の報酬をめぐる新たな問題―執行役員・子会社役員の報酬水準・報酬体系の変容を踏まえて―」商事法務No.2116(2016.11.15)参照)。 さらに、自己株式取得規制の潜脱とならないように制度設計する配慮が必要であり、一般的に信託管理人が受託者に対して、議決権不行使の指図を行うスキームがとられている。 5 税法上の視点 (1) 法人税法上の視点 株式交付信託が「受益者等課税信託」となるか「法人課税信託」となるかは、制度設計次第であるが、通常、会社が受益者となる受益者等課税信託として設計されている。このため、信託の受益者である会社が信託財産及び信託財産に帰せられる損益の帰属主体となる。 なお、株式交付信託の税務上の検討を行う際に重要な資料となる、2012年4月17日付の東京国税局による事前照会に対する文書回答事例「従業員持株会を利用した信託型インセンティブプランに係る税務上の取扱いについて」(以下「文書回答」という)においても、受益者等課税信託であることが前提の照会となっている。 株式交付信託が受益者等課税信託である場合、会社が金銭を信託した段階においては、特段の課税関係は生じない。 そこで、法人税法上は、一定の要件を満たして、取締役等が株式交付信託の受益者となった時、すなわち株式(場合によっては金銭)の交付権を取得した時の処理が問題となる。 この点、株式交付信託を役員インセンティブ報酬として用いた場合、役員への株式交付時点を、役員在任中と設計することも、役員退任時と設計することも可能である。 もっとも、役員在任中に株式が交付されるタイプの株式交付信託の場合、「定期同額給与」、「事前確定届出給与」、「利益連動給与」のいずれにも該当せず、法人税法上損金算入が認められない。 一方、役員退任時に株式が交付されるタイプの株式交付信託の場合は、交付時における時価総額相当額を、退職慰労金の支払いとして損金算入できる可能性があると考えられるが、明確な条文や通達の根拠があるわけではない。 なお、平成28年中に株式交付信託を導入した企業では、信託期間で定めた一定の時期に役員等が在任中であっても付与する制度(アステラス製薬株式会社、日本郵船株式会社など)もあれば、退任時に株式を交付することとしている制度(伊藤忠商事株式会社、興研株式会社、株式会社リクルートホールディングス)もあった。 なお、平成29年度税制改正は、株式交付信託を用いた役員インセンティブ報酬の損金算入に関する点に大きく影響する可能性があり、制度の見直し等が必要になる場合が考えられ、今後の実務の動きが注目される。 (2) 所得税法上の視点 株式交付信託により、役員に株式の交付が行われる場合、受益権の権利確定日の収入として申告すべきように思われる(文書回答参照)。 また、収入として計上すべき金額は、権利確定日の価額(所得税法36条2項)に基づいて算定されると考えられる(文書回答参照)。 6 会計上の視点 取締役等を対象とした株式交付信託については、本稿執筆現在、会計基準は公表されていない。 これに対して、従業員を対象とした株式交付信託(日本版ESOP)については、企業会計基準委員会から「実務対応報告第30号 従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(以下「実務対応報告」という)がすでに公表されており、一般に公正妥当な企業会計の基準が明らかになっている。 日本版ESOPと役員向けの株式交付信託では、報酬に関する株主総会決議の要否といった点など異なる制度設計となっている面はあるものの、会計処理に相違をもたらすような制度設計の違いはほとんどない。そこで、取締役等を対象とした株式交付信託についても、日本版ESOPについて定めた実務対応報告第30号に従った会計処理が、一般的になされているようである。 具体的には、以下のような会計処理がなされる制度設計となるのが一般的であろう。 信託設定時には、実務対応報告10項、15項の規定により総額法又は純額法で処理され、信託設定時に拠出した現預金は信託口として計上される。そして、信託での株式取得が、自己株式処分により行われる場合は、自己株式処分益(損)を認識しその他資本剰余金に計上する(実務対応報告11項)。 信託設定後、役員に対するポイントの付与時には、ポイントに応じた株式数に株式の価額を乗じた金額を基礎として、費用の引当金計上を行う(実務対応報告12項)。そして、実際に取締役等に株式を交付する時点でポイントの割当時に計上した引当金を取り崩す(実務対応指針14項)。 なお、会社の保有する自己株式を信託に譲渡した場合は、第三者への譲渡と同様に扱われ、信託からの対価の払込期日に自己株式処分差損を認識する(実務対応指針44項)。 (了)
《速報解説》 経済産業省、コーポレート・ガバナンス・システム研究会報告に基づき 実務指針(CGSガイドライン)を策定 ~経営者人材育成・ダイバーシティ2.0のガイドラインも同時公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年3月31日、経済産業省は次のものを公表した。 これは、平成29年3月10日に公表された「CGS研究会報告書-実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引-」(CGSレポート)を踏まえ、我が国企業のコーポレートガバナンスの取組の深化を促す観点から、各企業において検討することが有益と考えられる事項を盛り込んだものである。 以下では主な内容について述べるが、CGSガイドラインは多岐にわたる事項を取り上げているので、詳細な理解のためには同ガイドラインをお読みいただきたい。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ CGSガイドライン CGSガイドラインは、コーポレートガバナンス・コードにより示された実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を企業が実践するに当たって考えるべき内容について、コーポレートガバナンス・コードと整合性を保ちつつ示すことでこれを補完するとともに、「稼ぐ力」を強化するために有意義と考えられる具体的な行動を取りまとめたものである。 表紙などを含めて90ページのものであり、基本的に、CGSレポートと同様の内容となっている。 Ⅲ 経営人材育成ガイドライン 経営リーダー人材の育成を戦略的に推し進めていくために、経営トップが試行錯誤を繰り返しつつも覚悟をもって着実に取り組みを進められるための「道しるべ」となるガイドラインが有益であるとし、経営人材育成ガイドラインの意義を述べている。 経営人材育成ガイドラインは、経営リーダー人材の育成を進めていく上で、先進的な取り組みを行っている事例を整理・分析し、様々な制度や施策を運用する上で企業が直面する課題と、それらの課題を乗り越えるための処方箋を具体的な事例により述べている。 経営リーダー人材育成のためのガイドラインとして、次の4つのフェーズで構成されるものと整理している。 例えば、「仕事上の経験」を通じた育成を行う代表的なものとして、困難な課題を割り当てる「タフ・アサインメント」を通じた成長を促す取り組みを紹介し、新事業の立ち上げやベンチャー企業や投資先への出向、不採算事業の再建、海外子会社のトップ、あるいは、本人がそれまで経験したことのない業務分野など、あえて困難なポストにつけることによって、経営者としての知見や経験の幅を広げることにつなげることが述べられており、特に、グループ会社や投資先のベンチャー企業、海外子会社の社長などへのアサインを通じて、これまでの「事業」や「部門」のマネジメントから「企業」を経営する機会を得るとしている。 Ⅳ ダイバーシティ2.0行動ガイドライン 「ダイバーシティ2.0」とは、「多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、 付加価値を生み出し続ける企業を目指して、 全社的かつ継続的に進めていく経営上の取組」であるとし、次の4つのポイントを示して、「アクション」や「具体的な取組事例」について述べている。 実践のための7つのアクションとして、次のものを示している。 (了)
《速報解説》 金融庁、「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項」等を公表 ~平成29年度レビューは繰延税金資産の回収可能性等に着目~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年3月31日、金融庁は次のものを公表した。 平成29年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について 平成29年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項として、次のことを述べている。 1 新たに適用となる開示制度・会計基準に係る留意すべき事項 ①は「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(平成29年2月14日、内閣府令第2号)による有価証券報告書等の改正であり、次のように【対処すべき課題】から【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】へ改正されている。 ②は「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(平成28年12月27日、内閣府第66号)であり、「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第33号)などに対応するものである。 2 平成28年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項 平成28年度の有価証券報告書レビューに関して、平成29年3月31日時点までの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たっての留意すべき点を述べている(「別紙1」参照)。 平成28年3月期以降の法令改正関係審査及び重点テーマ審査は、以下のとおりである。 本稿では、「審査結果」において確認された事例について、「適切ではない事例」として紹介する。 重点テーマ審査等に関しては、各事項において、「有価証券報告書における他の項目の記載内容等と整合していない場合には、その理由」が審査内容となっているので、有価証券報告書の開示を検討する際には、開示の整合性について注意が必要と考えられる。 なお、「別紙1」では「留意すべき事項」として具体的な財務諸表等規則などの根拠規定が紹介されているので、実際に有価証券報告書を作成する際にお読みいただきたい。 Ⅲ 有価証券報告書レビューの実施について(平成29年度) 平成29 年度の有価証券報告書レビューについては、次のテーマに着目し、平成29 年3月31 日以降を決算期末とする有価証券報告書の提出会社の中から審査対象会社を選定するとのことである。 財務局等からの質問状には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。 (了)
《速報解説》 合併等を無効とする判決が確定した場合の連帯納付義務制度に係る 「国税通則法基本通達(徴収部関係)」が一部改正 ~合併等の新設法人は連帯納付義務者に該当しないことを明記~ 弁護士 羽柴 研吾 1 はじめに 国税庁は、平成29年3月3日付(HP公表は3月24日)で「『国税通則法基本通達(徴収部関係)』の一部改正について(法令解釈通達)」(以下「本件通達」という)を公表した。 この一部改正は、平成28年度の税制改正における法人の合併又は分割(以下「合併等」という)の無効判決に係る連帯納付義務の創設により、国税通則法(以下「通則法」という)等が改正されたことに伴い、所要の整備を図ったものである。 2 一部改正の内容等 平成28年度の税制改正によって、会社法第843条第1項と同様の責任負担とする観点から、通則法第9条の2として、合併等を無効とする判決が確定した場合の連帯納付義務について、以下の規定が新設された。 上記の通則法の改正を受け、本件通達第9条の2関係は、同法第9条の2によって連帯納付義務を負う者について、以下のとおり定めている。 以上のとおり、本件通達第9条の2関係は、通則法第9条の2に規定する連帯納付義務を負う「当該合併等をした法人」には、会社法と同様に、当該合併等をした法人が該当し、当該合併により新設された法人が該当しないことを明らかにした。 通則法第9条の2によって納付義務を負う主体は、以下のとおり整理できる。 3 その他 通則法第9条の2は、平成29年1月1日以後に行われる合併等から適用されているので留意されたい。なお、本件通達には、平成28年度の税制改正前の通則法第9条の2に相当する現行の同法第9条の3に係る法令解釈が新設されたほか、その他所要の改正が行われている。 (了)
2017年4月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.213を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.51- 「トランプ法人税改革における国境調整税の本質と障壁」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 オバマケア代替案のとん挫で、共和党内の亀裂が明らかになった。トランプ政権の次なる改革は、国境調整税(ボーダータックス)を含む税制改革である。国境調整税は、個人、法人税の減税と異なり、大幅な税制の変更を伴うだけに、共和党内のコンセンサスは極めて難しそうだ。この部分だけ切り離される可能性もある。 そういう状況の中、3月24日、IMFシニアエコノミストで、国境調整税の論文の共同著者であるMichael Keen 氏と直接話す機会があったので、それを踏まえていろいろ考えてみた。 * * * この税制は、正式名称を国境調整キャッシュフロータックス(BACFT)といい、欧州やわが国で導入しているVAT・消費税と同様の国境調整(輸入時課税、輸出時免税)を行う、つまり仕向地課税である。 WTO違反にならないように、税の中身(課税ベース)を、所得課税からキャッシュフローベースに置き換える。VATの課税ベースには賃金が含まれているが、国境調整税では除かれる。賃金部分は、個人段階で課税する(現行の所得税と同様)ので、国全体として税制が消費課税となる、これが国境調整税の基本的な考え方である。 国境調整は税関で行うのかどうかなど、未だ詳細については分からない部分が多いが、論理は極めて明快である。 この税体系の下では、わが国や欧州諸国のように、「所得税課税後に消費すると消費税が課税される、貯蓄から生み出す利子などが課税される、配当は法人段階と個人段階で二度課税される」というようなことは起きない。 また、投資は全額即時控除されるので、資本からの通常利潤は課税されず、超過利潤のみ課税されることになる。税率は立地に影響されないので、消費地に近いところ(つまり米国)への立地となる。その意味で、経済効率・経済成長に沿う税制といえる。 20%の国境調整税は、計算をすると、25%のVATと同じ機能を果たす。つまりスウェーデンのVATを、キャッシュフローをベースにして米国で導入する、と考えればよい。一見輸入品だけに課税されるように見えるが、国内品にも課税されるので、20%の国境調整税と25%のVATは同じ税収・税負担となる。 したがって、国民や企業がこの税制を受け入れるかどうかは、価格転嫁がうまく行われるかどうか、つまり全体としての税負担がどのように消費者や事業者に配分されていくかどうかがポイントだ。 * * * 国境調整税は、一見現行の法人税(直接税)のように見える。事業者も消費者も、VATのように、税負担がスムーズに次の取引段階に転嫁されて、最終的に消費者負担になるとは考えない。そこに国境調整税の問題点、受け入れ難さがある。 WTO違反かどうかということ、この点も重要なポイントとなる。 WTOは、間接税では輸出免税を認めているが、直接税で行うと輸出補助金として禁じている。では、直接税と間接税の区分は何か。「納税義務者と負担者が同じであると法律が予定しているのが直接税、異なる(転嫁する)と法律が予定しているのが間接税」、これが定義であり区分である。 しかしわが国の例でも、代表的な間接税である消費税引上げの際に、事業者がこれだけ反対するのは、間接税といっても実際に事業者も負担するからであろう。つまり、「法律が予定しているかどうか」ということは、現実の経済(転嫁できるかどうか)とは別の話である。 国境調整税は、米国の税制全体を、消費を課税ベースとした「間接税」に入れ替え、それにより国境調整(仕向地課税)が可能になり、輸出競争力が回復する。税率が立地に影響を与えない。輸出還付は、企業の社会保険料負担(ペイロールタックス:payroll tax)と相殺するとも言われており、社会保険料負担の軽減も視野に入っている。 わが国のコンテキストで考えると、究極の租税政策ともいえる、(地方)法人税軽減、消費税増税、社会保険料企業負担軽減、この3つが一挙に行えるという点で、示唆するものは大きい。 * * * いずれせよ、米国で国境調整税を成立させることは困難な状況と言える。 米国民や米国事業者がこの税制を間接税と認識するには、相当の時間がかかること、輸入企業と輸出企業の利害が対立し調整が難航すること、国境調整の具体的詳細(税関が行うのかどうか、など)が不明で、かつ不正還付をどう防止するのかなど課題が山積しているからである。 共和党のライアン下院議長の神話にも陰りが見え始めている。 5月の予算教書までに党内調整がつくとは考え難い。 (了)
電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第1回】 「電子マネー・仮想通貨等の普及と会計・税務の動向」 公認会計士・税理士 八代醍 和也 A ◆非現金決済の普及と企業実務への影響 ▷進む非現金決済の普及 今に始まったことではないが、昨今の非現金決済の普及には目を見張るものがあり、またその拡がりのスピードは日に日に増しているように感じられる。 総務省が公表している各年度の「通信利用動向調査」によると、インターネットによる物品購入時の決済方法として、最もその割合の高さにおいて群を抜く「クレジットカード払い」が、平成25年末から平成26年末、平成27年末に至るまで年々増加し69.2%に至っているのに対し、代金引換やコンビニエンスストアでの支払等、いわゆる現金決済が軒並み減少していることからも、その傾向を容易に見て取ることができる(下図参照)。 (※) 以下、本連載では、電子マネーや仮想通貨などの現金以外のものについて「非現金」という。 〈インターネットで購入する際の決済方法〉 【通信利用動向調査(平成26年)】 (※) 総務省「通信利用動向調査(平成26年)」別添2の図表2-4 【通信利用動向調査(平成27年)】 (※) 総務省「通信利用動向調査(平成27年)」別添2の図表2-4 ▷企業実務における非現金化の潮流 上記の変化は、企業実務においてはどうであろうか。 ビジネスのさらなる効率化やスピード化が求められる今日、実務面からのこうした非現金決済への期待もまた大きくなっている。 例えば、家電量販店や商業施設におけるポイントカードにはクレジットカード機能が付加されていることがもはや常識となり、企業においても家電や備品を購入する際に、法人としてこれらのポイントカードの会員となり、これらのサービスを利用することが一般的になった。また、クラウドソフトを利用することにより、クレジットカードの利用履歴データを財務会計システムへ取り込むことで、仕訳を自動で起票するようなサービスも始まっている。 こうした高度な機能性・利便性を有する新サービスの登場が、『現金による決済から非現金決済へ』という変化を強く後押ししている側面があると筆者は考える。 一方、このような新たなサービスを利用することで、会計・税務面での処理方法について、経理実務担当者がどのように処理していいか苦慮する場面も増えつつあるのではないかと感じる。 例えば、備品購入の際に、その代金の一部についてポイントカードを利用した場合の値引き額の取扱いをどのようにすればよいか、あるいは、公共交通機関の発行するポストペイ式のカードについて、利用額に応じた値引きを受けた場合の取扱いならどうかといった、何となく普段は定型的に経理処理を行っているが、はたしてそれが正しいのかと疑問に感じるようなことが意外に多くあるのではないだろうか。 各論の詳細な解説は次回以降に委ねるが、非現金決済の普及が進む中で、これらを適切に経理・税務処理するために、企業が検討すべき事項もまた同様に増加してきていると考えている。 ◆仮想通貨をめぐる会計・税務の動向 ▷仮想通貨の今 非現金決済の普及との関連で無視できないのが、ビットコインに代表される仮想通貨の存在であろう。 仮想通貨とは、資金決済法において、 と定義されているが、平たく言えば、インターネット上の帳簿を通じて、通常の通貨と同様、不特定多数の間で物品やサービスの対価に使用できる通貨であると言える。 非常に将来性があるものとして語られることも多い仮想通貨だが、その技術的な理解に高度な知識を必要とすること、また、仮想通貨を物品や役務提供の決済手段として使用できる店舗が未だ我が国においては非常に限られており、実体経済における流通量も未だ決して多いとは言えない状況にあることから、企業実務において処理方法等を検討する場面は、現段階においては非常に限定されたケースになるのではないかと思われる。 ▷仮想通貨に係る会計上の取扱い 平成29年3月28日に開催された第357回企業会計基準委員会において、「仮想通貨に係る会計上の取扱い」が新規テーマとして提言され、当面の取扱いとして、必要最小限の項目について開発することが決定された。 これは、資金決済法が改正されたことに基づき、実際に取引を行う仮想通貨交換業者等の会計処理を明確化することや、仮想通貨交換業者等に対する財務諸表監査を円滑に行う必要があることから決定に至ったものである。 一方、開発にあたっては、今後の仮想通貨の拡がりやビジネス実務における浸透スピードを予測することは非常に困難であるから、まずは上記のような仮想通貨交換業者等の会計処理の明確化や財務諸表監査の円滑化といった基礎的な環境整備を第一に考えることが重要である。このため、第一段階として、「仮想通貨に係る会計上の取扱い」を定めることでスコープを必要最小限に絞って早急な環境整備を進めたうえで、仮想通貨の取引規模の状況を見ながら中長期的には会計基準等の開発を検討していくことになったものである。 ▷平成29年度税制改正においてその譲渡が消費税法上非課税に 税務の面においては、平成29年3月31日に「所得税法等の一部を改正する等の法律」が公布、翌4月1日から施行され、仮想通貨については、平成29年7月1日以後の譲渡等について、消費税が非課税とされることとなった。 これは、改正資金決済法で、我が国の法律において「仮想通貨」が初めて定義されたことを受け、法文上、法規定の対象とされたことや、国際的な課税のバランス、今後の仮想通貨の利用増加の可能性等に考慮して消費税を非課税とすることが要望されたものと考えられるが、これによって直ちに企業による仮想通貨の利用が大きく進展するとは考えにくいものと思われる。あくまでも「仮想通貨」に紙幣や小切手の同様の地位を与えるという環境整備が行われたにすぎないものと考えている。 とはいえ、世間的な注目が高まりつつあり、また将来においては利用できる場面も増えていくことが想定されるところ、その経理・税務処理方法についても、今後各論にて解説する予定である。 ◆本連載の趣旨 本連載では、上記の動向を踏まえ、電子マネーや仮想通貨等の非現金による取引を行った際の会計処理や税務について、想定される様々な切り口により、各原稿執筆時点の制度下において求められるものを分かりやすく解説していきたい。 (了)