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理由付記の不備をめぐる事例研究 【第19回】「青色申告承認取消処分の事例②」~青色申告承認取消事由(取引を隠ぺい仮装して記載等)に該当すると判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第19回】 (最終回) 「青色申告承認取消処分の事例②」 ~青色申告承認取消事由(取引を隠ぺい仮装して記載等)に該当すると判断した理由は?~   中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也   本連載の最終回となる今回は、青色申告法人X社に対して、架空の試験研究費を計上していた事実等が法人税法127条1項3号に該当するものとして行われた青色申告承認取消処分の理由付記の十分性が争われた、東京地裁平成16年10月15日判決(税資254号順号9780。以下「本判決」という)を取り上げる。   1 青色申告の承認の取消通知書に記載された処分の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した(この判断は、東京高裁平成17年4月27日判決・税資255号10014頁でも維持されている)。 (1) 理由付記の趣旨目的 (2) 理由付記の十分性 (3) X社の主張について   4 私見 (1) 理由付記の十分性 本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 青色申告承認取消処分に係る理由付記において要求される付記の内容及び程度は、特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならないものであるところ(最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁)、本件通知書の「取消処分の基因となった事実」欄には、X社は、「B株式会社に依頼して、貴法人宛の架空の請求書を作成させた上、これに基づいて総勘定元帳の試験研究費科目に、×4年5月29日に300万円を計上し、その支払として、振込手数料721円を差し引いた299万9,279円をC銀行T支店のB名義の普通預金口座に送金し、その支払金額の2分の1である150万円をB株式会社から」X社に現金で戻させていたこと及びこれを始めとしてX社が「総額で2,400万円の架空試験研究費を計上していたこと」が記載されている。また、本件通知書には、このことが法人税法127条1項3号の規定に該当すると判断したことが記載されている。 そうであれば、本判決も述べるとおり、本件通知書には、取消しの基因となった事実の該当法令のほか、当該事実として、X社の帳簿に記載された試験研究費の一部が架空であると認定した事実、その取引金額及び帳簿への記帳状況などが記載され、それによって、いかなる事実関係に基づいていかなる法規が適用されて当該処分がされたかについて処分の相手方が知り得る程度の摘示がされているといえる。したがって、理由付記に不備はないと考える。 (2) 若干の留意点 今後の議論の発展のためにも、以下では、若干の留意点を述べておく。 ア X社の上記3(3)の主張と青取事務運営指針 国税庁長官が発遣している平成12年7月3日付「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」(以下「青取事務運営指針」という)の3(1)においては、所得金額の更正をした場合において、その事業年度の当該更正後の所得金額(更正所得金額)のうち隠蔽又は仮装の事実に基づく所得金額(不正所得金額)が、当該更正所得金額の50%に相当する金額を超えるとき(当該不正所得金額が500万円に満たないときを除く)は、法人税法127条1項3号の規定によりその該当することとなった事業年度以後の事業年度について、その承認を取り消すものと定めている。 他方、青取事務運営指針の3(5)は、①その事業年度前7年以内の各事業年度につき、青色申告承認取消処分を受けていないこと及び②既往の調査に係る不正所得金額又は不正欠損金額が500万円に満たないことのいずれの要件も満たし、かつ、今後適正な申告をする旨の当該法人からの申出等があるときは、青色申告の承認の取消しを見合わせる旨規定している。 これらは、法文の規定から直ちに導くことができるような内容ではなく、国税庁長官によって定められた裁量基準であるといえる。すなわち、青取事務運営指針は青色申告承認取消要件を満たしている場合に、税務署長が青色申告承認を取り消すか否かについての裁量権を付与されていることを前提に、当該裁量権行使の内部基準を定めたものであると解されているのである(大阪地裁平成17年6月17日判決・税資255号順号10058及びその控訴審である大阪高裁平成17年11月10日判決・税資255号順号10198)。 したがって、「本件青色申告承認取消通知書記載の事実を認定した根拠が理由上明らかでなく、また、形式的に法人税法127条1項3号に該当する案件であっても必ずしも青色申告承認取消処分が行われるものではないところ、本件においてなぜ青色申告承認を取り消すに至ったかについての理由の記載がない」として、税務署長の裁量判断の内容を理由付記すべきであるとするようなX社の上記3(3)の主張には一定の説得力がある。 イ X社の上記3(3)の主張と2つの最高裁判決 また、以下の各判示に基づいて、X社の上記3(3)の主張の説得力を補強することができるかもしれない。 最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決(民集28巻3号405頁)は、青色申告の承認の取消しは、形式上、法人税法127条1項各号に該当する事実があれば必ず行われるものではなく、「現実に取り消すかどうかは、個々の場合の事情に応じ、処分庁が合理的裁量によって決すべきものとされているのであるから、処分の相手方としては、その通知書の記載からいかなる態様、程度の事実によって当該取消しがされたのかを知ることができるのでなければ、その処分につき裁量権行使の適否を争う的確な手がかりが得られないこととなるのである。〔下線筆者〕」と判示している。 この判示は、青色申告の承認の取消通知書において裁量判断の過程や考慮事項を記載すべきであることを直接的に述べたものではないが、いかなる態様、程度の事実によって青色申告の承認の取消しがなされたのかという点に関する理由付記の十分性について、裁量権行使の適否を争う的確な手がかりとなり得る程度のものかという観点から検証する視点を提供する。 さらに、最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決(民集65巻4号2081頁) は、行政手続法14条1項本文についてであるが、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという同項本文の趣旨に照らし、「当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準〔筆者注:不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準。行政手続法2八〕の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである〔下線筆者〕」と判示している。 この判示に基づいて主張することが可能であるならば、青色申告承認取消処分に係る理由付記において要求される付記の内容及び程度は、青取事務運営指針の内容等も踏まえて決定されるべきであるということになる。 もっとも、少なくとも本件においては、本件理由付記をもって、税務署長の裁量権行使の適否を争う的確な手掛かりが記載されているという見方もあり得よう。 ウ 文理解釈からの反論 税務署長の裁量判断の内容を理由付記すべきであるとするようなX社の上記3(3)の主張に対しては、文理解釈からの反論が待ち受けていることも指摘しておこう。 法人税法127条1項3号は、青色申告承認取消通知書には「その取消しの処分の基因となった事実」が法人税法127条「1項各号又は2項のいずれに該当するかを付記しなければならない」と規定しているところ、かかる規定から、法人税法127条1項各号のいずれかに該当する場合に、実際に取り消すか否かの裁量判断に関する記載までを付記しなければならないという解釈を導くことは難しい面がある。本判決が、「青色申告承認取消しにあたって付記が要求される理由の程度は、『いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るもの』であれば足り、それ以上は要求されていない」として、X社の主張を斥けていることは、法人税法127条3項の文理解釈とは整合的である。 なお、仮に、法人税法127条1項3号が、処分の「理由」を付記しなければならないという規定振りであったならば、結論は異なるかもしれない。立法論のほか、理由付記の趣旨目的との適合性から、上記文理解釈からの反論に問題はないかなど、解釈論としてもなお議論の余地はありそうである。また、一見したところ、青取事務運営指針によれば取消処分を見合わせるべきであるにもかかわらず、取消処分を行っているなど、裁量判断に関する記載までもが要求される場合もあるかもしれない。   (連載了)

#No. 185(掲載号)
#泉 絢也
2016/09/15

連結納税適用法人のための平成28年度税制改正 【第12回】「その他国際税務の改正・固定資産税の特例措置」

連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第12回】 (最終回) 「その他国際税務の改正・固定資産税の特例措置」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸   [13] 外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン税制)の見直し 1 改正内容 外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン税制)の適用がある場合の外国税額控除の対象となる外国法人税の額は、特定外国子会社等が納付した外国法人税の額に合算所得(個別課税対象金額)の特定外国子会社等の所得(調整適用対象金額)に対する割合(合算割合)を乗じて計算されるが、特定外国子会社等が子会社(持株割合25%以上等の要件を満たす法人をいう)から受ける配当等及び控除対象配当等の額のうち外国法人税の課税標準に含まれないものは、当該合算割合の計算に係る特定外国子会社等の所得(調整適用対象金額)から除外する(措令39の118①)。 2 適用時期 特定外国子会社等の平成28年4月1日以後に開始する事業年度から適用する(平成28年措令改正法令附則1、35)。   [14] 国際課税原則の帰属主義への変更の円滑な実施 1 改正内容 平成26年度税制改正で措置された国際課税原則の帰属主義への変更(平成28年4月1日施行)を円滑に実施するため、内国法人の外国税額控除に係る国外所得金額の計算について、次に掲げる取扱いを見直した(法令155の27の2)。 2 適用時期 平成28年4月1日以後に開始する連結事業年度から適用される(平成28年法令改正法令附則1、2)。   [15] 機械装置の固定資産税の特例措置の創設 1 改正内容 労働力人口の減少や企業間の国際的な競争の活発化等の下での中小企業・小規模事業者・中堅企業の経営の強化を図るため、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」(中小企業等経営強化法)を改正し、事業分野ごとに新たに経営力向上のための取組等について示した指針(事業分野別指針)を主務大臣において策定するとともに、この取組を支援するための措置を講ずることとなった。 そして、中小企業等経営強化法に基づいて、中小企業が取得する新規の機械装置について、3年間、固定資産税を1/2に軽減する措置を創設することとなった。 具体的には、中小企業者が、中小企業等経営強化法の施行日(平成28年7月1日)から平成31年3月31日までの期間内に、認定経営力向上計画に基づき取得をした経営力向上設備等に該当する機械装置に課される固定資産税の課税標準額を最初の3年間、1/2(半減)とする措置が講じられた。 ① 対象者 適用対象者は、次に掲げる中小企業者をいう(措法42の4⑥四、措令27の4⑤)。 したがって、連結親法人の資本金が1億円を超える連結納税グループに属する連結親法人及び連結子法人ついては、この優遇措置の適用は受けられないことになる。 ② 対象となる機械装置 この優遇措置の適用を受けるためには、事業分野別指針等に従って認定経営力向上計画を策定し、自社の事業を所管する大臣による認定を受ける必要がある。 そして、優遇措置の適用対象となる機械装置は、認定経営力向上計画に基づき取得する新規の機械装置で、次の一~三までのいずれにも該当するものをいう。 これは、最新モデル要件が緩和されている点を除いて、生産性向上設備投資促進税制のA類型の要件と同じ要件となっている。 なお、生産性向上設備投資促進税制のA類型の要件を満たせば同税制と併せて適用することができる。 ③ 対象となる取得期間 中小企業等経営強化法の施行日(平成28年7月1日)から平成31年3月31日までに取得したものが対象となる。 ④ 固定資産税が半減される期間 固定資産税が半減される期間は、機械装置を取得した年の翌年1月1日を賦課期日とする年度以後の3年となる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 平成28年に取得した設備は、平成29年1月1日時点に所有する資産として申告され、平成29、30、31年度の3年間固定資産税を軽減。 2 適用時期 中小企業等経営強化法の施行日(平成28年7月1日)から平成31年3月31日までに取得したものについて適用される。   (連載了)

#No. 185(掲載号)
#足立 好幸
2016/09/15

裁判例・裁決例からみた非上場株式の評価 【第15回】「反対株主の株式買取請求①」

裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第15回】 「反対株主の株式買取請求①」   公認会計士 佐藤 信祐   前回までは、譲渡制限株式の譲渡において、売買価格の決定の申立てがなされた事件について解説を行った。 本稿からは、反対株主の株式買取請求について争われた事件について解説を行う。平成17年改正前商法は「ナカリセバ価格」により評価し、現行会社法は「ナカリセバ価格」と「シナジー価格」のいずれか高い金額により評価することとなっているという点を踏まえて参照されたい。   1 東京高裁平成22年5月24日決定・金判1345号12頁 (1) 事実の概要 本事件は、相手方が平成18年4月14日開催の取締役会にて、その主要事業を営業譲渡することを決議したところ、これに反対する相手方の普通株式を所有する申立人らが、事前に相手方に対し当該営業譲渡に反対する旨通知し、さらにその所有する株式の買取りを請求した。本事件は、申立人らが、その所有する株式の買取価格について、相手方との間で協議が整わなかったために、裁判所に対し、株式価格の決定を求めた事件である。 (2) 原決定(東京地裁平成20年3月14日決定・金判1289号8頁) (3) 裁判所の判断 (4) 評釈 本事件は、カネボウ事件と言われているものであり、非上場会社の反対株主の買取請求の事件として貴重な判例のひとつである。 裁判所は、DCF法を採用するとともに、マイノリティ・ディスカウント、非流動性ディスカウントを認めなかった。「支配権の移動という観点から株式価値を評価する必要はない」と言いながら、マイノリティ・ディスカウントを考慮しないという第一審の判断は理解できない。理論構成からは、反対株主の株式買取請求において、少数株主が株式売却を意図していないにもかかわらず譲渡を余儀なくされたことを理由として、マイノリティ・ディスカウント、非流動性ディスカウントのいずれも認めないという判断はあり得るため、「支配権の移動という観点から株式価値を評価する」べきかどうかの判断は不要であったと思われる。 また、本事件では、営業譲渡により生じるシナジーを全く議論していない。これは、旧商法時代には、シナジー価格ではなく、ナカリセバ価格により評価することになっていたからであると考えられる。 さらに、本事件では、裁判所が選任した鑑定意見書の意見が強く反映されており、よほどの不合理がない限り、鑑定人の判断を尊重する結果になっているという点に留意が必要である。すなわち、よほどの不合理があるケースは極めて稀であろうから、マイノリティ・ディスカウントや非流動性ディスカウントを考慮するのかどうかという基本的なところを除いては、鑑定人の判断に委ねられる部分がかなりあるということが言える。 次回は、もうひとつのカネボウ事件である東京地裁平成21年10月19日判決・金判1329号30頁及び、会社法施行後の事件である道東セイコーフレッシュフーズ事件について解説を行う予定である。 (了)

#No. 185(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/09/15

税務判例を読むための税法の学び方【90】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む(その18:「「交際費」の範囲①」(東京高裁平15.9.9))

税務判例を読むための税法の学び方【90】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その18:「「交際費」の範囲①」(東京高裁平15.9.9))   立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘   1 はじめに この判例は、交際費の範囲について、それまでの2要件説から、条文に即した3要件説に基づいて判決を出したものである。 これまでは、交際費の範囲について、2要件説により判断されていた。その2要件とは、①支出の相手方が、事業に関係のある者等であること、②支出の目的が、接待、きょう応、慰安、贈答等企業活動における交際を目的とするもの、である。 しかし萬有製薬事件においては、3要件説による判断が示された。 そこで、今回から3回にわたって、この判決を題材に、交際費の範囲を検討したい。   2 条文と問題点 この条文は現行法のものであるため、後半の接待飲食費の点が事案当時と異なるが、下線を引いた要件を規定した箇所は変わっていない。 ここで分かるのは、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、~のもの」となっていることから、交際費、接待費のすべてがここで規定する交際費ではないことである。 例えば役員が同業者等と情報交換するために会合に出席した時に支出した費用は、通常交際費として処理すると思われるが、それは後半の「その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」には該当しないことから、ここで規定する交際費ではない。 問題は「その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」の「事業に関係のある者(以下「事業関係者等」という)」と、「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」の「接待、供応、慰安、贈答」の内容、及び「その他これらに類する行為」とは何か、また「支出するもの」とは直接支出するものに限られるか否かといった点が問題となる。   3 萬有製薬事件以前の主要裁判例 萬有製薬事件を検討する前に、これまでの代表的な交際費に関する裁判例を紹介しよう。 (1) 東京地裁昭和44年11月27日(興安丸事件) これは交際費等と広告宣伝費との区分で、事業関係者等には不特定多数の者を含まないとした事例である。 戦後引揚船として有名であった興安丸を遊覧船として使用するにあたり、遊覧船としての改装等の披露目会を催す際に、招待者を、東京都及びその近県居住の者で、階層的には興安丸を団体利用するにつき各職場において決定権を持つと推定される銀行、会社、官公庁の課長以上の地位にある者を、公刊の各種名簿類から抽出する方法によって決定し、招待した。その数が5万人と非常に多かったため、これらの者が事業関係者等に当たるか否かが争われた。 この裁判例は、裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 これらの招待者が事業関係者等に当たるとして、この支出を交際費と主張する課税庁に対して、裁判所は、事業関係者には不特定多数の者を含むものではなく、またこの事案は特定の事業関係者等に対する招待というよりも、一般に対する広告宣伝的効果が主たる目的として認定した。 判決の主要部分は、以下の通りである(下線筆者)。 この判決は、萬有製薬事件の前には、交際費に要件は通常2要件説によっていたところ、2要件説に挙げられるところの第一と第二に示された2つの要件の他に、第三として支出金額が比較的高額であることを挙げている。 (2) 東京地裁昭和50年6月24日・東京高裁昭和52年11月30日(ドライブイン事件) これは、交際費等は当該支出が事業遂行に不可欠であるかどうか、慣例として行われている定額的な支出であるかどうかを問わないとした事例である。ドライブインが観光バスの運転手、ガイド、添乗員にチップとして金員(300円)を渡し、これを乗客の誘導に対する対価として交際費には算入せず処理していたところ、課税庁より運転手等の歓心を買うための心付けであるため、交際費と認定されたが、これが交際費課税の立法趣旨であるところの「冗費濫費」には当たらず、事業遂行上必要な行為であるとして争われた。 この裁判例は、裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 第一審では、次のように判示する(下線筆者)。 ここでは次のような事実認定をしている。 そして以下の結論を下している。 高裁では、次のように判示する(下線筆者)。 法人税法の建付けとして、その支出の収益への貢献度合い、事業上の必要性を離れて交際費課税が規定されている。その意味では、その支出が事業上必要不可欠か否かは、結論を左右するものではない。 しかし、チップを渡す慣行がある中で、それをしない場合には、敬遠されることになるのであるから、特別便宜を図ってもらうための行為、歓心を買うための行為ではないこのような支出が、「接待、きょう応、慰安、贈答その他これらに類する行為」に当たるか疑問を感じるものである。 *   *   * 次回より萬有製薬事件について詳しく見ていきたい。 (続く)

#No. 185(掲載号)
#長島 弘
2016/09/15

ファーストステップ管理会計 【第3回】「原価計算はなぜ必要か」~寝かせるとおいしいシュトーレンの話~

ファーストステップ 管理会計 【第3回】 「原価計算はなぜ必要か」 ~寝かせるとおいしいシュトーレンの話~ 〔原価管理編②〕 公認会計士 石王丸 香菜子   管理会計を学ぶ時、切っても切れない分野があります。 それは「原価計算」です。 管理会計の基本を学ぶには、原価計算の大まかな仕組みを理解する必要があります。 今回は、財務会計や簿記の知識は前提とせず、原価計算の大枠を概説します。   ◆寝かせるとおいしいシュトーレン 読者の皆さんは、シュトーレンを知っていますか? ドイツでクリスマスに食べられるパンで、ドライフルーツやナッツ・バターをたくさん使ったものです。作ってすぐよりも、寝かせると熟成しておいしくなります。 ドイツでは11月中に作り、アドベント(クリスマス前の4週間)のあいだ、少しずつスライスして食べる習慣があります。最近は日本でもクリスマス前に見かけるようになりました。 さて、あるベーカリーでも、大量のシュトーレンを11月中に仕込んだとしましょう。ある程度寝かせておいしくなってから、12月に販売する予定です。もちろん、シュトーレン以外のパンの製造・販売も行っています。 11月末がこのベーカリーの決算日で、決算書を作ることになりました。この1年間の売上高は15,000,000円、パンを製造するのにかかった原価は、シュトーレンの分も含めて8,000,000円とします。 11月末では、シュトーレンはベーカリーの奥で熟成中ですので、売上高にシュトーレンの売上は含まれません。パンを製造するのにかかったすべての原価は8,000,000円ですが、これにはシュトーレンの分も含まれていますので、シュトーレンの原価を除いて売上原価を算定する必要があります。シュトーレンの原価がわからないと、決算書を作ることができませんね。 ここで、原価計算が必要になるのです。 原価計算の概要は後で説明するとして、原価計算の結果、シュトーレンの原価が300,000円と算定されたとします。この他に在庫はないとすると、決算書の概要は次のようになります。   ◆原価計算の目的 このように、決算書を作成するには原価計算が必要になります。財務諸表を作成するために行う原価計算は、財務会計と密接にリンクしています。 ただし、原価計算を行う目的は、外部の利害関係者に向けて財務諸表を作成するためだけではありません。   ◆原価計算を行うのは、企業自身のためでもある まず、シュトーレンの原価を把握することは、ベーカリーの原価管理に不可欠です。 また、原価計算は、ベーカリーの利益管理の面でも重要です。原価がわからないと、シュトーレンをいくらで販売すればいいかわかりません。 シュトーレンは、見かけの大きさのわりにはやや高めと感じる値段で売られていることが多いのですが、これは、ナッツやバターが多く使われていて、原価が高いことが理由の1つです。原価計算を行わず、適当にコッペパンと同じ販売価格にしていたら、赤字になってしまいます。 さらに、原価計算から得られた情報をもとに、ベーカリーの意思決定に役立てることもできます。例えば、一定条件でシュトーレンを一括購入したいという注文を受けるかどうかの意思決定をする場合などには、原価の詳細を把握している必要があります。 このような原価計算は、企業内部の経営者や管理者のためであり、管理会計と強く結びついています。   ◆原価計算はジグソーパズル 原価計算の目的がわかったところで、次に、原価計算の仕組みの大枠を見ていきましょう。 最終的には製品に原価を集計するのですが、バラバラの原価をいきなり製品に集計するのは難しいので、「費目別計算」・「部門別計算」・「製品別計算」という3つのステップで集計します(部門別計算は、小規模な企業や生産工程がシンプルな場合は、省略することもあります)。 ジグソーパズルの組み立てをイメージするとわかりやすいでしょう。ピースがバラバラの状態から、いきなり完成を目指して組み立てるのは難しいですね。ピースを分類したりまとめたりしながら、段階を踏んでパズルを組み立てるのと似ています。   ◆費目別計算-まずはピースを分類する 第1段階の「費目別計算」では、原価を材料費・労務費・経費に分類し、さらにそれぞれを直接費・間接費に分類します(この分類については【第2回】で解説しました)。 直接材料費・直接労務費・直接経費については、どの製品に生じたかがはっきり認識できるので、直接製品に集計します(これを「賦課」といいます)。ジグソーパズルで言えば、まずは端のピース(まっすぐの辺が含まれるピース)とそれ以外を分類し、端のピースについては、すぐに完成を目指して組んでしまうイメージです。 一方、製造間接費(間接材料費・間接労務費・間接経費)は、製品との関わりが直接認識できず、直接製品に割り付けることができないので、第2段階の部門別計算を行います。   ◆部門別計算-ピースをある程度まとめる 製造間接費は、直接製品に集計できないため、製品別計算の前に部門別計算を行います。「部門別計算」では、原価の発生場所ごとに原価を集計します。ジグソーパズルで言えば、端のピース以外を、同じ色や柄で分類して、ある程度のまとまりを作るのに似ています。 部門には、直接製造に当たる製造部門の他に、補助部門(例えば動力部や修繕部など)もあります。補助部門は直接製品の製造に当たるわけではないので、補助部門費を合理的に製品に直接集計するのは困難です。そのため、補助部門費は、一定の基準(例えば、動力使用料や修繕回数)を用いて、いったん製造部門に割り当てます(これを「配賦」といいます)。   ◆製品別計算-まとまりをつなげてパズルを完成させる 補助部門費を配賦した後の製造部門費を、適切な配賦基準(例えば、作業時間や機械運転時間)を用いて製品に配賦します。 ある程度のまとまりにしたピースをさらにつなげて、パズルを完成させる段階です。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   ◆集計する単位による分類-総合原価計算と個別原価計算 原価計算の基本ステップは上記のようになりますが、企業の生産形態はさまざまですので、これに応じて原価計算にも違いがあります。 規格品を連続して大量生産する形態に用いられる方法は「総合原価計算」です。 同じ形の食パンを連続して大量生産しているベーカリーを考えると理解しやすいでしょう。機械や自動車、食品・衣料品など、多くの業種で採用される方法です。同種の製品を切れ目なく生産しているので、製品一つ一つに原価を集計するのではなく、一定期間で区切って、その期間内の原価を集計します。 これに対して、顧客から注文を受けて個別生産する企業も存在します。イメージとしては、オーダーメイドのウェディングケーキを専門に作るケーキ屋です。 こうした個別受注生産形態には、「個別原価計算」を用います。 個別生産なので、注文ごと(あるいは顧客やサービスごと)に原価を集計します。建設やシステムなどの業種や、コンサルティングなどのサービス業でも利用されます。   ◆集計する原価の性質による分類-実際原価計算と標準原価計算 前述のステップによる原価計算は、集計する原価の性質に着目すると、「実際原価計算」と「標準原価計算」に大別することもできます。 実際原価計算は、実際に発生した原価を用いて計算する方法です。シンプルでわかりやすい反面、原価の実績値が判明するまでに時間がかかる点と、原価のあるべき目標値がないため、有効な原価管理が行えない点が欠点です。 こうした欠点を解決するのが、標準原価計算です。原価の目標値である標準原価を設定し、これを用いて原価を集計します。予め設定した標準原価を用いて迅速に計算ができるうえ、標準原価と実際原価を比較して差異分析することで、原価管理を行うことができます。 こうした長所から、製造業の企業では6割以上が標準原価計算を採用しているというデータがあります。【第1回】【第2回】で取り上げた標準による管理は、この標準原価計算を利用したものです。   ◆集計する原価の範囲による分類-全部原価計算と直接原価計算 また、ここまで解説してきたように、発生したすべての原価を製造原価として集計するという考え方を、「全部原価計算」と呼びます。すべての原価を集計するので、平たく言えば当たり前の原価計算です。 これに対して、製造直接費だけを製造原価として集計し、製造間接費は期間費用として処理する考え方があり、これを「直接原価計算」と呼びます。 製品との関わりが明確でない製造間接費は、先述のように、一定の仮定のもと配賦計算せざるを得ません。こうした配賦計算には、完全な正確性は求められないので、そもそも配賦計算を行わず、製造間接費をそのまま期間費用としてしまう方法です。制度会計としては認められていませんが、企業の利益管理上は重要な発想になります。 この連載では【第7回】から始まる〔利益管理編〕で、直接原価計算の考え方を利用した利益管理を取り扱いますので、頭の片隅に入れておきましょう。 原価計算の大枠をおさえたうえで、次回以降は、製造間接費の管理について解説していきます。 (了)  

#No. 185(掲載号)
#石王丸 香菜子
2016/09/15

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《外貨建取引等》編 【第2回】「為替予約等が締結されている場合~振当処理」

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《外貨建取引等》編 【第2回】 「為替予約等が締結されている場合~振当処理」   公認会計士・税理士 前原 啓二   はじめに 【第1回】は為替予約等が締結されていない場合をご紹介しました。【第2回】と【第3回】は為替予約契約がある場合を取り上げます。 振当処理とは、為替予約等により確定している決済時の円貨額により外貨建金銭債権債務等を換算し、直物相場との差額を期間配分する方法です。今回は、この振当処理についてご紹介します。   1 一連の輸入取引に係る仕訳 〈×1年2月15日:輸入商品の受取り〉 〈×1年2月28日:為替予約の締結〉 〈×1年3月31日:決算日〉 〈×1年5月31日:代金の支払い〉 仕入については、取引発生日(×1年2月15日)の為替相場(@80円/ドル)により円換算(10,000ドル×@80円/ドル=800,000円)します(中小企業会計指針75)。 取引発生日以後に為替予約が締結された場合、取引発生時による円換算額(800,000円)と為替予約による円換算額(10,000ドル×@97円/ドル=970,000円)との差額(170,000円)のうち、為替予約の締結時(×1年2月28日)までに生じている為替相場の変動による額(10,000ドル×(取引発生時@80-為替予約の締結時@100)円/ドル=△200,000円、「直々差額」といいます)は予約日の属する期(×1年3月期)の損益として処理し、残額(10,000ドル×(為替予約の締結時@100-為替予約@97)円/ドル=30,000円、「直先差額」といいます)は予約日の属する期(×1年3月期)から決済日の属する期(×2年3月期)にわたって期間配分します(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針8)。   2 決算書の金額 ① ×1年3月31日決算期 〈当期末貸借対照表〉 〈当期損益計算書〉 ② ×2年3月31日決算期 〈当期損益計算書〉 (了)

#No. 185(掲載号)
#前原 啓二
2016/09/15

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第123回】退職給付会計⑪「大量退職」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第123回】 退職給付会計⑪ 「大量退職」   仰星監査法人 公認会計士 永井 智恵     〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 退職給付債務の減少に伴う処理 (※1) 移行前の退職給付債務400-移行後の退職給付債務220=180 (※2) 退職一時金の支払額150 (※3) 差額 ② 未認識過去勤務費用、未認識数理計算上の差異及び会計基準変更時差異の未処理額の移行時の処理 (※4) 9(※5)-18(※6)+36(※7)=27 (※5) 未認識過去勤務費用の費用処理額=未認識過去勤務費用20×A=9 (※6) 未認識数理計算上の差異の費用処理額=未認識数理計算上の差異40×A=18 (※7) 会計基準変更時差異の未処理額の費用処理額=会計基準変更時差異の未処理額80×A=36 (※8) 消滅した退職給付債務の比率A=(大量退職前の退職給付債務400-大量退職後の退職給付債務220)÷大量退職前の退職給付債務400=0.45   〈会計処理の解説〉 大量退職とは、工場の閉鎖や営業の停止等により、従業員が予定より早期に退職する場合であって、退職給付制度を構成する相当数の従業員が一時に退職した結果、相当程度の退職給付債務が減少する場合をいいます。このような大量退職における退職給付の支払等を伴う減少部分については、退職給付制度の一部終了に準じて会計処理します(適用指針第8項)。 (退職給付制度の一部終了の会計処理は本連載の【第121回】をご参照ください。) 退職給付債務の減少部分と支払額の差は、通常の退職の場合、数理計算上の差異として一定の期間にわたり規則的に費用として処理されますが、通常の退職率をはるかに超える大量退職があった場合(例えば、構成従業員が退職することにより概ね半年以内に30%程度の退職給付債務が減少するような場合)には、退職給付制度の終了に準じて、当該部分について退職給付債務の消滅を認識することが適当であると考えられます(適用指針第25項)。 本事例では、大量退職により、退職給付制度の終了に準じて、退職給付債務の消滅の認識が行われます。このため、終了した部分に係る退職給付債務180(=大量退職前の退職給付債務400-大量退職後の退職給付債務220)を損益として認識します(①の仕訳)。 また、未認識過去勤務費用、未認識数理計算上の差異及び会計基準変更時差異の未処理額は、終了部分に対応する金額を、終了した時点における退職給付債務の比率その他合理的な方法により算定し、損益として認識します(適用指針第10項(2))。 本事例では、未認識過去勤務費用20(借方)、未認識数理計算上の差異40(貸方)及び会計基準変更時差異の未処理額80(借方)は、消滅した退職給付債務の比率(=(大量退職前の退職給付債務400-大量退職後の退職給付債務220)÷大量退職前の退職給付債務400)で損益に認識しています(②の仕訳)。 なお、①及び②で認識される損益は、事業所の閉鎖による大量退職という同一の事象に伴って生じたものであるため、原則として、特別損益に純額で表示します(適用指針第10項(3))。 ※10月は金融商品会計を取り上げます。 (了)

#No. 185(掲載号)
#永井 智恵
2016/09/15

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔労務面のアドバイス〕 【第1回】「実際に災害が起きた場合、人事労務管理上すべきこと」

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔労務面のアドバイス〕 【第1回】 「実際に災害が起きた場合、人事労務管理上すべきこと」   特定社会保険労務士・中小企業診断士 小宮山 敏恵     地震、火災、台風、豪雨などの災害は、地域の産業・経済、そして企業経営に大きな被害をもたらす場合がある。さまざまな災害とその程度を想定し、企業の被害を最小限に食い止め、被災した場合、迅速に対応するため社員一人ひとりの防災意識を高め、災害時に備える組織作りが必要となる。 災害発生時の初期対応が何より重要であり、事業活動の復旧と2次災害の回避に大きく影響する。こうした時こそ、社員全員がパニック状態に陥ることなく、冷静な状況判断ができるよう、日頃から災害意識を維持し、人命はもとより、企業に係る資産(施設・情報・財産等)を守る対応策を講じる「危機管理体制」の構築が重要である。   (1) 応急救護、初期対応、避難場所への誘導等 災害発生時に最優先すべきは、社員の「人命保護」である。素早い消火活動と迅速な避難場所への誘導が、社員の大切な命を守ることになる。 地震が起きた場合、作業を停止し、まずは自身の安全を優先する。怪我人がいる場合は、社員による応急手当や、救急車を要請し医療機関へ早急に搬送する。 なお、大規模災害の直後は、救急や医療機関が対応できないことが多いと考えられる。そのような事態を想定し、事前に「素人ができる医療行為」について、救急や医療機関に確認しておくことも必要である。 さらに火気使用場所を確認し、火災を発見した場合は、大声で周囲の人に知らせ、119番へ通報する。火災が大きくならないよう、初期消火(消火器・消火栓・水バケツ等)にも努めたい。 災害時に備え、日頃から周辺の避難場所を確認し、集合場所を決めておくことも重要である。市町村の防災マップなどに基づいて避難場所を決めておき、実際に歩いて経路や場所の確認を行っておきたい。 また、転倒物・落下物等の危険防止対策、消火装置の点検を定期的に行い、非常口や避難経路を確認するなど、地震・火災対策を立てておくことも重要となる。   (2) 災害対策本部の設置-情報の一元化とトップダウン 災害時においては、社内で「災害対策本部」を設置し、情報の収集・管理を一元化する必要がある。方針決定責任者(通常は社長)がトップダウンによる決定・指示・命令を速やかに行えるよう、組織体制を整えておきたい。 なお、責任者が不在あるいは負傷した場合の代行者についても決めておく必要がある。また対策本部の担当社員には、自宅から自転車や徒歩で会社へ到着できる人員を含めておくことが必要である。 対策本部では下記のような手順により、まず、社員の安否を確認し、被災社員とその家族の保護・援助をするとともに、2次災害の防止策や、企業資産の保護について対策を講じ、事業活動の早期復旧に向けて準備を行うことになる。   (3) 企業ホームページや掲示板へ最新の情報提供を掲載 対策本部が収集した企業の被災状況や、連絡が取れない社員の安否については、迅速に周知しなければならない。 この場合、企業のホームページや、社内掲示板(社内イントラ等)の開放が考えられる。 このため、日頃からホームページや掲示板は最新のものに整備し、対策本部の担当社員が更新の手続をできるようにしておくことが必要である。 (了)

#No. 185(掲載号)
#小宮山 敏恵
2016/09/15

「従業員の解雇」をめぐる企業実務とリスク対応 【第9回】「懲戒解雇をする際のチェックポイント」

「従業員の解雇」をめぐる 企業実務とリスク対応 【第9回】 「懲戒解雇をする際のチェックポイント」   弁護士 鈴木 郁子   1 はじめに ~懲戒解雇は難しい~ (1) 懲戒解雇と普通解雇 本連載の【第1回】で述べたとおり、解雇には、「普通解雇」と「懲戒解雇」の2種がある。両者は非違行為、企業秩序違反行為を対象とする点において重なるが、その性質は異なったものである。 【第4回】から【第8回】にかけて解説してきた普通解雇は、労務提供義務の不履行(不完全不履行)に基づく雇用契約の中途解約である。一方、懲戒解雇は、企業秩序違反に対する懲罰の一種である。また、普通解雇に比べて懲戒解雇の方が、求められる違法性の程度は高く、手続も厳格である。 一般に懲戒解雇と普通解雇の差は、解雇予告(解雇予告手当)の要否、退職金の不支給や減額の可否にあると思われており、この点、必ずしも間違いではないが、論理必然ではない。 すなわち、「労働者の責に基づく場合」は、除外認定を経た上で解雇予告(解雇予告手当の支払)が不要となるが(【第4回】参照)、懲戒解雇が有効・適法な場合は必ず除外認定が得られる関係にあるわけではない。 また、退職金の不支給や一部減額は、後述するように、退職金規程にそのような規定があることの効力によるものであるし、かかる規定があるからといって、規定どおりの不支給・減額が認められるわけでもない。 懲戒解雇と普通解雇の違いは、あくまでも性質上の違いにある。 (2) 懲戒解雇を行うには 懲戒解雇を行うには、①懲戒解雇が法的に可能な事案か否かを検討し、懲戒解雇できる事案であれば、②法に従った懲戒解雇手続を行うことになる。 以下、順に述べた上で、③懲戒解雇に特有の争点についても解説する。   2 懲戒解雇が法的に可能か否かの検討 (1) 就業規則上の懲戒解雇事由に該当すること 懲戒解雇をするためには、まず、就業規則上の懲戒解雇事由に該当する行為がなければならない。普通解雇の場合は、就業規則に普通解雇の定めがなくとも、その性質上解雇は可能であるが(【第4回】参照)、懲戒解雇の場合は、就業規則上の定めが必ず必要となる。 そして、就業規則上の懲戒事由の定めは、就業規則に定められているだけではなく、これが従業員に「周知」されていなければならない。 したがって、実務上の留意点としては、まず、①就業規則に懲戒解雇の定めがあるか否か、②これが周知されているかを確認する必要がある。 また、懲戒解雇が制限されないように、就業規則上、懲戒解雇事由が限定列挙となっておらず、③「その他これに準ずる事項」の包括的な条項があるか、確認した方がよい。 (2) 実質的該当性があること 形式的に懲戒解雇事由に該当するだけでは、懲戒解雇をすることはできない。これは労働契約法第15条において「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定められているからである。 実質的に該当するといえるかどうかは、以下のような点を総合考量する。 繰り返しになるが、懲戒解雇に求められる違法性の程度は非常に高いため、不正の程度が極めて高い横領、重大な機密情報の漏洩などの行為がない限り、一発での懲戒解雇(その行為だけでの懲戒解雇)は通常認められないとの認識が必要である。 また、従業員としても今後の転職等を考えた場合、懲戒解雇がなされると、転職活動において申告が求められる「賞罰」に影響してきたり、後述するように退職金に影響が出てくることがあるので、争われるリスクが高くなる。 したがって、判断に迷う場合には、退職勧奨を行い合意退職を成立させるか、普通解雇、あるいは出勤停止等の他の懲戒処分を検討すべきである。 (3) 解雇制限に違反しないこと また、懲戒解雇の場合も普通解雇と同様、解雇制限の規制が及ぶので、これに抵触しないか注意されたい(詳細は【第4回】参照)。   3 懲戒解雇の手続 (1) はじめに 懲戒解雇の手続については、普通解雇の場合と同様、①解雇通知の送付、②解雇理由書の交付、③解雇について協議事項がある場合の労働組合との協議を行うこととなる(詳細は【第4回】参照)。 以下、懲戒解雇において問題となりやすい特有の手続について解説する。 (2) 自宅待機処分について 懲戒解雇を検討するにあたって、対象者を自宅待機させ、その間に証拠保全を行い社内調査を行うことが必要となる場合があるが、会社が対象者に自宅待機処分を命じることはできるのだろうか。 この点一般的には、就業規則などに根拠条文がなくとも、自宅待機命令を命じることはできるが、必要性がないのに不当に長い自宅待機命令を出すことは違法とされている(2年で違法とされた裁判例がある)。 また、その間の賃金の不支給が許されるか問題となるも、この点は、就業規則などに、「自宅待機処分は無給とする」旨の根拠条項がないと許されないとされている。なお、根拠条項があったとしても、不支給は従業員に対し不利益を与えるため、違法性の程度が重く必要性が高い事案に限り、また、期間もせいぜい3週間以内程度に留め、その期間内に調査が終わらない場合には、以降は給与を支給すべきである。 (3) 弁明の機会について 懲戒処分を行うにあたり、就業規則や社内規程で、懲戒委員会を開催したり、本人に対する弁明の機会が付与されている場合には、これを必ず行う必要がある。 なお仮に、弁明の機会を付与する規定がない場合であっても、実務的には、懲戒処分を行う前に弁明の機会は与えておいた方がよい。 まず弁明の機会の付与により、会社の勘違いが判明することもあり、正しい処分、無駄な争いの防止につながる。また、争われるリスクが高い事案については、弁明の機会を与えることによって訴訟となった場合の反論内容を予め確認することができるし、弁明の機会の付与は初期供述の証拠化の良い機会ともなるからである(初期供述・初期の弁明は無防備なものであり、事実と整合することが多く、信用性が高いとされる)。 (4) 即時解雇について 懲戒解雇の場合は、性質上、30日前の解雇予告(30日分の解雇予告手当の支払)を行わずに、即時解雇が可能となる場合が多い(解雇予告の詳細は【第4回】を参照されたい)。 しかしながら、前述のとおり、即時解雇において必要とされる「労働者の責に基づく場合」は、予告制度による保護を否定されてもやむを得ないと認められるほど重大・悪質な場合をいい、懲戒解雇が可能な場合とは必ずしも同一ではないし、厳格に認定される。また、資料の提出、労基署の会社・本人に対する聴取など、除外認定の手続に伴う負担も大きい。 したがって、とりわけ争われるリスクが高いケースにおいて、即時解雇もしくは解雇予告手当なしの懲戒解雇を行うにあたっては、慎重な判断が必要である。 (5) 懲戒解雇事由の追加、普通解雇への転換、普通解雇の予備的主張の可否について 懲戒解雇通知や解雇理由書を作成するにあたっては、【第4回】で解説した事項のほか、以下の点に留意されたい。 まず、懲戒解雇事由に漏れがないか、他に懲戒解雇事由と言えそうなものがないか、十分にチェックする必要がある。懲戒解雇は普通解雇と異なり、解雇時点において、使用者が認識しているか否かを問わず、事後的に懲戒解雇事由を追加することはできないからである。 また、懲戒解雇の意思表示に加えて、普通解雇の意思表示もしないでよいのか、あわせて検討した方がよい。 前述のように、懲戒解雇の方が普通解雇より困難であるため、懲戒解雇としてなら無効であるが、普通解雇なら有効であるケースは多々ある。しかしながら、懲戒解雇としての意思表示をしておいて、事後的にこれは普通解雇の意思表示も兼ねていたとして、普通解雇として有効であるとの主張をすることはできない。 したがって、懲戒解雇が無効となる場合に備えて、そのような場合には「万が一懲戒解雇が無効となる場合であっても、本通知をもって予備的に普通解雇するものとします。」等記載して、普通解雇の予備的主張を行っておいた方がよい。   4 懲戒解雇において問題となりやすいその他の争点について (1) 退職金の不支給・減額について 前述のとおり、懲戒解雇が認められるからといって、直ちに、退職金の不支給・減額が有効となるものではない。退職金の不支給・減額を行うには、まず、就業規則、退職金規程、懲戒規程等に、「懲戒解雇となった場合には、退職金を不支給もしくは一部減額とする」等の規定が必要である。 もっとも、退職金の不支給・減額は、根拠条項があるからといって、直ちに認められるわけではない。退職金は、功労報償的性格(不支給・減額に結びつきやすい)のほか、賃金の後払的性格(不支給・減額に結びつきにくい)を持つため、会社の退職金の性質がどのようなものかを規程の内容等から検討しておいた方がよい。 また、近時の裁判例には、退職金を没収するには、懲戒解雇が有効なだけではなく、「長年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為」(功労抹消行為)を必要としているものがあり、退職金の不支給・減額には慎重である。 したがって、実務的には、根拠条項があったとしても、退職金を不支給としてよいのか、減額に留めるにしても減額幅は適当かについて、会社の退職金の性質、勤続年数、懲戒解雇事由の重さの程度、会社が受けた損害の程度等を考慮し慎重に判断すべきである。 (2) 従業員に対する損害賠償について 懲戒解雇の場合、横領等、懲戒解雇事由によっては、会社に金銭的な損害が発生していることもあり、従業員に対し懲戒処分を行うほか、損害賠償請求できないか問題となる。 そもそも、会社の従業員に対する損害賠償請求は、会社と従業員の経済力の差や報償責任の観点(従業員の労務提供により利益を得る会社はそこから生じるリスクも負担すべき)から、通常の場合より制限され、故意・重過失がないと認められないとされる(軽過失は免責される)。 また、従業員に責任が認められる場合でも、損害の公平な分担の見地から、その金額は、会社の事業の性格、規模、施設の状況、従業員の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての会社の配慮の程度等に照らして、減額される。 なお、労働基準法における賃金の全額支払の原則から、その賠償額を給与や退職金から一方的に控除することはできない。したがって、従業員から被害金額の弁償等の申し入れがある場合には、相殺合意の合意書を取り交わすべきである。   (了)

#No. 185(掲載号)
#鈴木 郁子
2016/09/15

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題 【第3回】「『判断能力』・『意思能力』とは?」-その具体的な意味内容-

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 【第3回】 「『判断能力』・『意思能力』とは?」 -その具体的な意味内容-   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   【第2回】では、認知症の進行により記憶や判断能力等に深刻な問題が生じることを説明した。 ここでも示されているように、「認知症により判断能力を失っている」というような言い方がよくなされるが、ではこの「判断能力」とは、法律学的にはどのように位置づけられ、具体的にはどの程度の能力を意味する概念なのであろうか。 今回はこの点につき説明したい。   1 いわゆる「判断能力」という言葉の意味するもの 「判断能力」という用語そのものは、一般的に広く用いられているものであるにもかかわらず、実は主だった法令には登場しない用語である。 代わりに、民法の教科書を読むと、「意思能力」という概念が登場する。 これもまた民法の条文上は直接には登場しない概念なのであるが、いわゆる「判断能力」とは、この「意思能力」の概念とおおむね重なりあうものとして理解されている。 その具体的な意味内容は、次のとおりである。 上記にもあるように、「ある程度」ということであるから、法律上の意味を理解していることを要すると言っても、法学部生が教科書で習うような正確な法律知識までを理解し、認識している必要はない(そのレベルまで要求したとしたら、世の中の法律行為の大半が無効となってしまうであろう)。 たとえば、自宅の売買契約を締結しようとしている売主の立場であれば、「ここにサインをしたら、自宅はもう他人の物になってしまうのだな」という程度の理解(小学生レベルの理解)ができるのであれば、意思能力はあると扱われるのである。   2 意思能力の有無の判断基準 以上の説明を聞くと、意思能力というのは、特定の時点において、その人において「ある」か「ない」かの2択であると理解するかもしれない。 しかし、それは誤りである。 意思能力は、問題となる行為や契約毎に、個別にその有無が判断されるのである。 つまり、たとえば同日のうちに締結した複数の契約が、ある契約においては意思能力があると判断され、別の契約においては意思無能力であると判断される可能性が十分あり得るということになる。 このように、意思能力は個別具体的な性格を有するので、その判断にあたっては、以下の要素を総合的に検討し、個別に判断していく必要がある。 【意思能力の判断にあたっての考慮要素】 判断能力、つまりは意思能力の有無が裁判で争われる場合には、双方の当事者は、以上の各要素に関連する自己に有利な事実関係を主張していくことになる。 それを踏まえ、最後は裁判官が結論を下すことになる。 このような個別具体的な場面における総合判断の側面が強いからこそ、当事者にとっても見通しが立ちにくく、厄介な問題なのである。   3 「判断能力」を欠く場合の結果の重大性-事例の紹介 では、裁判所が以上のような要素も考慮した上で、「判断能力」を欠いた状態、すなわち意思能力を欠いた状態で問題となる契約が締結されたと認定した場合、契約の効力はどうなるか。 これについても条文には直接の定めはないが、そのような契約は「無効」であると一般に理解されている。 具体的には、 という意味に理解されている(伝統的な理解による)。 (※)(2017/3/15追記) ただし、最近は、意思表示をした本人からしか無効を主張できないとする見解が主流である。 したがって、判断能力を欠いていたとして無効とされることによりもたらされる効果は、下記のケースを見てもわかるとおり、非常に強力である。 他にも、近時の参考になる裁判例として、有名百貨店の婦人服店舗において約4年間に実に約280点もの婦人服等を購入した女性につき、そのうちの一部の時期における購入についてはアルツハイマー型認知症に罹患したことによる意思無能力状態での購入であったとして無効主張を認め、百貨店側に代金の返金を命じた事案もある(東京地裁平成25年4月26日判決。この裁判例については、他の参考裁判例とともに国民生活センターのウェブサイトにおいて紹介されている)。 このようにして、判断能力を欠くとして意思無能力と認められた場合には、契約関係は無効とされ覆滅されることで劇的な効果が生じる。 つまり、それだけ認知症患者本人を救済するための非常に強力な手段となりうるのである。 ただし、急いで付け加えなければならない。それは、その立証の困難さである。 前述のように、意思能力の有無は様々な要素を考慮して個別具体的に判断されることから、画一的な基準がなく見通しが立ちにくい。 また、問題が「当の本人の頭の中の話」という側面があるため、客観的証拠が乏しいことも多い。仮に認知症の診断書を得ていたとしても、では問題となるその契約の当時に判断能力がなかったのかとなると、そう簡単には判断できないのである。 特に、高齢者本人が死亡後に不相当な契約が発覚し、遺族が契約の無効を主張するケース等では、契約書をはじめとした当時の客観的な資料が残っていないと、事実関係を正確に把握することすらできない。それがネックとなり、裁判等での被害回復が事実上困難となるケースも非常に多い。 判断能力を欠いていたことを証明するためにどのようなものが証拠になるのかについては、改めて別の回にて説明したい。   4 判断能力に乏しい者を保護するための法制度 以上に述べたような意思無能力の他にも、契約当時に十分な判断能力を有していなかった高齢者を救済するための法制度はいくつもある。 本稿を締めくくるにあたり、概観してみよう。 【認知症患者救済のために用いられる代表的な法制度】 (了)

#No. 185(掲載号)
#栗田 祐太郎
2016/09/15
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