金融・投資商品の税務Q&A 【Q13】 「外貨建預金を払い出して外貨建株式に投資した場合の 為替差益の取扱い」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 所得税法上、外貨建取引とは、「外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいい、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額はその外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するもの」とされています(所得税法第57条の3)。 また所得税法施行令167条の6第2項において、以下のとおり記載されています(下線筆者)。 この外貨建取引の範囲から除外する規定の趣旨としては、同一の金融機関において、同一の外国通貨で預貯金の預入れと払出しが行われる限り、その金額に増減はなく、実質的には外国通貨を保有し続けていることと同じであるところ、このような外貨の保有状態に実質的に変化がない外貨建預貯金の預入と払出しについては、その都度外貨建取引として為替差損益が認識されることは実情に即さないものであるから、とされています(【Q11】参照)。 本件のように、外貨建の預金をもって外貨建の株式に投資した場合が、上記の施行令を満たしているといえるかどうかですが、実質的には外国通貨を保有し続けていることと同じとは言い難いことから、為替差損益を認識する必要があると考えられます。 国税庁の質疑応答事例(「預け入れていた外貨建預貯金を払い出して外貨建MMFに投資した場合の為替差損益の取扱い」)でも、「新たな経済的価値(その投資時点における評価額)を持った資産(株式)が外部から流入したことにより、それまでは評価差額にすぎなかった為替差損益に相当するものが所得税法第36条の収入すべき金額として実現したものと考えられるから、為替損益の認識が必要」との旨のコメントがなされています。 したがって、おたずねのケースでは、当該外貨建株式の投資金額の円換算額とその投資に充てた外国通貨を取得した時の為替レートにより円換算した金額との差額(為替差益)が雑所得として認識され、総合課税の対象になると考えられます。 〔為替差益〕 (120円-100円)×10,000ドル=200,000円 なお、取得をした外国株式を譲渡(売却)したことによる所得については株式等の譲渡に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象となりますが、その譲渡による所得の金額を計算する際には、当該外国株式への投資時の為替レート(本件の場合は120円/ドル)による円換算額をその取得に要した金額として所得を計算することになります。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第16回】 「反対株主の株式買取請求②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、カネボウ事件のうち、東京高裁平成22年5月24日決定・金判1345号12頁について解説を行った。 本稿では、もうひとつのカネボウ事件である東京地裁平成21年10月19日判決・金判1329号30頁と、会社法施行後の事件である道東セイコーフレッシュフーズ事件について解説を行う。 1 東京地裁平成21年10月19日判決・金判1329号30頁 (1) 事実の概要 本事件は、平成20年11月11日に効力が生じた、相手方を吸収合併存続会社とし、清算会社である旧カネボウ社(平成19年7月1日に商号変更)を吸収合併消滅会社とする吸収合併に際して、反対株主の株式買取請求が申し立てられた事件である。 なお、本事件に先立ち、旧カネボウ社は主要三事業を営業譲渡していることから、営むべき事業がほとんどなくなっているため、清算会社になっている。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、裁判所は、清算価値に基づいて公正な価格を算定することとした。ただし、純資産価額が110円であるものの、合併交付金として130円を支払っていることから、公正な価格を130円であると判断している。 本事件では、営業譲渡から合併までの間が2年6ヶ月も経過している。営業譲渡の段階で反対株主の株式買取請求をしないでおきながら、合併の段階で営業譲渡における譲渡価額に異議を唱え、公正な価格を引き上げるということは、さすがに期間が長すぎることから認められなかったということが言える。 2 最高裁平成27年3月26決定・金判1466号8頁 (1) 事実の概要 本事件は、相手方を吸収合併存続会社、道東SFFを吸収合併消滅会社とする吸収合併に反対した道東SFFの株主であった申立人が、相手方に対し、申立人の有する道東SFFの株式を公正な価格で買い取るよう請求したが、その価格について協議が調わなかったため、反対株主の株式買取請求権が行使された事件である。 (2) 第一審(札幌地裁平成26年6月23日金判1466号15頁) (3) 控訴審(札幌高裁平成26年9月25日金判1466号14頁) 控訴審は、第一審の判断を踏襲しているため、詳細な解説は省略する。 (4) 裁判所の判断 (5) 評釈 本事件の第一審では、サイズプレミアム3.89%、非流動性ディスカウント25%をそれぞれ用いている。サイズプレミアムは小規模ディスカウントのことをいい、割引率に加算されていることから「プレミアム」という言い方になっている。算定された計算結果に対してディスカウント率を乗じるのであれば、「ディスカウント」という言い方になる。また、マイノリティ・ディスカウントは考慮されていない。 本事件では、非流動性ディスカントを考慮すべきでないと判断した最初の最高裁決定であり、極めて重要性の高い裁判例であると言える。しかし、その根拠が、反対株主の買取請求の事件だからなのか、収益還元法だからなのかは明らかではない。理論的には、カネボウ事件との整合性もあることから、前者と考えるべきであろう。 本稿までで、会社法の主要な裁判例については説明できたと思う。次回以降は、租税法の裁判例、裁決例について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【91】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その19:「「交際費」の範囲②」(東京高裁平15.9.9)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 4 萬有製薬事件の概要と争点 萬有製薬は、取引先である医療機関の医師や研究者を相手に医療関係文献の英文添削事業を行っていた。当初、国内業者の平均的な料金である1ページ当たり1,500円の料金の徴収であっても、社内に専門家がいたことから利益が出ていたが、その後その専門家が退社したことにより外部に委託せざるを得なくなり、外部委託の費用が収入金額を超過することが恒常的なものとなっていた。その差額の負担額について、課税庁によりそれが交際費とされ、損金不算入として課税処分されたことから、訴訟となったものである。 争点は、①本件英文添削の依頼者が、萬有製薬の取引先である医療機関の医師や研究者に限られていたことから、「事業に関係ある者」に該当するか否か、②差額負担による支出が、「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」に該当するか否かである。 5 萬有製薬事件判決 (1) 東京地裁平成14年9月13日 この裁判例は、裁判所ホームページ等では公開されていない。そこで少し長くなるが、交際費該当性に関する判示部分を、ここに紹介しながら解説したい(下線筆者)。 ① 「事業に関係ある者」の該当性について ここでは、添削対象とされた研究者が、一般の病院等に広告されていたものではなく取引先関係に限られていることから、取引に対する直接的影響力の有無とは関係なく、「事業に関係ある者」に該当するとしている。 ② 「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」該当性について この点については、判決は「次に、本件負担額の支出の目的が接待等を意図するものであるか否かについて検討する」として、その該当性の判断につき、接待等の意図をメルクマールとして判断している。 このように、裁判所は、交際費該当性の要件として、「当該支出が事業に関係のある者のためにするものであること」と「支出の目的が接待等を意図するものであること」を満たせば足りるとして、相手方の利益を得ているという認識を問わないとしている。 その上で、本件が、先にみたように「事業に関係ある者」に対するものであり、その内容が「本件英文添削を、添削の依頼者である研究者の所属する取引先との間において、医薬品の販売に係る取引関係を円滑に進行すること」を目的とするものであって、これは、「取引先の医師等に提供するために必要な費用として、医薬品の販売に係る取引関係を円滑に進行する目的で支出したものというべき」であるとして「接待等を目的として行われたもの」と結論付けている。 * * * 次回は控訴審(東京高裁平成15年9月9日)を取り上げ、本判決の意義をまとめてみたい。 (続く)
〈業種別〉 会計不正の傾向と防止策 【第2回】 「土木工事業」 公認会計士・税理士 中谷 敏久 どのような業種業態か? 土木工事業は、戦後の高度成長期には日本のインフラ整備に大きく貢献し、業界規模も拡大を続けたが、国内の景気変動に大きく左右され、金融危機による民間設備投資の減少や地方公共団体の財政悪化に伴う公共事業の見直しにより、一時低迷が続いた時期もあった。 しかし最近では、東日本大震災の復興需要やアベノミクスによる大規模な公共投資により、業界の受注工事高は増加傾向にある。 公共事業を受注したい業者には経営事項審査を受けることが義務付けられてはいるものの、依然としてどんぶり勘定的な経営をしている業者は少なくない。また、元請業者、下請業者、孫請業者という一種のヒエラルキーが定着しており、これらを悪用した不正が繰り返し行われている。 どのような不正が起こりやすいか? 材料費、労務費、経費等の発生原価は工事の進捗に伴って工事別に台帳に集計される仕組みとなっているが、この工事原価を本来の工事ではなく別の工事に集計する不正が起こりやすい。業界では「原価移動」あるいは「原価付け替え」と称されているものであり、赤字工事を回避するため、あるいはその発覚を遅らせるために行われる。 具体的には、元請業者(又は下請業者)の担当者がその発注権限を悪用し、下請業者(又は孫請業者)に別の工事名での請求書発行を依頼するのである。別の工事名としては、自ら担当する別の利益率の高い工事、進捗率の低い工事、請負金額の多額な工事が利用されるケースが多い。 下請業者(又は孫請業者)としては、工事代金が未払いとなるわけでもなく、また元請業者(又は下請業者)の担当者に対し一種の“借り”を作ることによって、今後の取引を優位に進めることが期待できるため、不正な要請に対しても応じることになる。 なお、このような不正は本社で行われるというよりは、実際の工事現場を管轄する地方の営業所や出張所で実行されるケースが多い。 事例検証 平成26年12月5日に公表された日本道路(株)(東証1部)の不正事例を紹介する。 第三者委員会の調査報告書によると、下記に示すような工事原価に関する不正な会計処理が某出張所において長期間にわたって行われていた。 ① 実態と異なる工事への原価付け替え ①については、前項で説明した典型的な原価移動である。すなわち、自ら担当する特定の工事が赤字になるのを避けるため、取引業者に依頼して別工事の請求書として発行してもらったというものである。 取引業者としても作業工数や工事代金の変更を求められるわけでもなく、単に工事名を変更するだけであり、簡単に応じてしまうのであろう。ただ、別工事の担当者にとっては無関係な工事原価が混入することになり、普通ならば原価移動を拒否するはずであるが、所属する組織の長が関与承諾している場合には、黙認せざるをえない状況に追い込まれるケースが少なくない。 ② 支払保留 ②については、取引業者に工事名を変更することを依頼するという点は①と同様であるが、工事代金の支払いを保留されるところが異なっている。 取引業者は一定の間支払いがストップされるのであるから、資金繰りが比較的良好な取引業者しか応じないであろう。後日別の工事名で取引業者が請求書を発行しそれに対して支払いがされるのであるが、工事代金を少し水増して支払うことにしないと、協力する取引業者は少なくなるものと推測される。 なお、当然のことであるが、不正行為を実施した営業所にとっては支払留保の期間に簿外債務が存在していることになる。原価付け替えを行う先の工事に適当なものが見つからない場合、いわゆる時間稼ぎとしてこの不正が行われるケースが多い。 ③ 別の取引業者への付け回しによる立替払い ③については、①②と異なり、さらに第三の取引業者の協力を仰ぐものである。 工事を行った取引業者が資金繰り上、支払保留に協力することができない場合、当該工事とは全く関係ない取引業者に対して請求書を提出させ、その取引業者に支払ってもらう方法である。 その結果、第三者の取引業者に立替払いしてもらっていることになり、②と同様、不正行為を行った営業所にとっては、立替えしてもらっている期間は簿外債務が存在していることになる。 後日、営業所は第三者の取引業者に対して、当該立替払い分を、別の工事名を使って支払うのであるが、②と同様、原価付け替えを行う先の工事に適当なものが見つからない場合、いわゆる時間稼ぎとしてこの不正が行われるケースが多い。 ④ 得意先(元請)への付け回しによる立替払い ④については、③と同様の方法であるが、立替えしてもらう業者が得意先(元請)である点が異なっている。 一般的に工事代金の支払いをするためには、下請業者の口座登録が必要とされる。したがって、得意先(元請)が工事代金の支払いを行うのは口座を登録している下請業者であり、いくら請求書が発行されても、孫請業者には本来支払いはなされないはずである。 この点どのようにして立替払いが実現されたのか疑問の残るところであるが、得意先(元請)、下請業者、孫請業者の各担当者が結託してなされた可能性がある。 不正行為を行った営業所にとって、立替えしてもらっている期間は簿外債務が存在していることになるという点は②③と同じである。 ⑤ 工事請負金の水増し計上 ⑤については、架空注文書を作成し、又は工事請負金を二重計上して、そこに原価移動を行うものである。 原価の付け替え先となる大型工事がなくなった場合に実行されるケースが多く、①から④の手法では原価移動ができない場合に行われる最終手段とも言える。 ⑥ キックバック ⑥については、取引業者に工事代金を過大請求させ、入金後その一部を不正実行者に返金させるものである。土木工事業に限られた不正ではないが、元請業者、下請業者、孫請業者という一種のヒエラルキーが定着している業界として、不正の頻度は少なくない。 不正の防止策 このような原価移動は営業所や出張所の所長が関与あるいは黙認しているケースが少なくない。工事現場を担当する地方の営業所所長や出張所所長が自らの成績を良く見せるため、あるいは昇進前の部下を応援するために実行される。 したがって、営業所や出張所の内部統制をいくら強化したとしても、その効果にはあまり期待できない。 やはり、不正の仕組みを熟知した本社の監査部が通常の内部監査あるいは抜き打ち監査を実施してチェックすることが、防止策としては最も効果があると考えられる。 同様の不正が起こりうる業種業態は? 請負工事を受注する業界であれば同様の不正が起こりうる。例えば製造業であっても、製品を単品で販売するだけでなく、自社製品を使ったシステム工事を請け負う場合がそれに該当する。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第30回】 「IFRS16 リース(借手の会計処理の基本)」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 2016年1月13日にIFRS第16号「リース(以下、「IFRS16」という)」が公表されている。IFRS16は、原則、2019年1月1日以後開始する事業年度から適用される。 リースとは、「資産(原資産)を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部」をいう(IFRS16.付録A)。原資産とは、「リースの対象である資産で、当該資産を使用する権利が貸手から借手に移転されているもの」をいう(IFRS16.付録A)。 ただし、以下のリースは、IFRS16の適用範囲外である(IFRS16.3)。 なお、借手は、上記⑤を除き、無形資産をリースの対象として、IFRS16を適用することができる(IFRS16.4)。 IFRS16の借手の会計処理では、従前のようにファイナンス・リースではオンバランス、オペレーティング・リースではオフバランスといった会計処理はされず、原則、全てのリースについてオンバランスする。この会計処理を「使用権モデル」という。 今回は、IFRS16において大きく変わった借手の会計処理の基本について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 IFRS16では、契約の開始時に契約がリースであるか又はリースを含んでいるかを、使用権の支配が借手に移転しているかどうかにより評価する(IFRS16.9)。この評価が見直されるのは、契約条件が変更された場合のみである(IFRS16.11)。 そこで、【STEP1】では、契約にリースが含まれているかどうかを検討するため、以下の5つを検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 特定された資産の有無 契約上、明示的又は黙示的に資産が特定されている場合(IFRS16.B13)、以下の(2)を検討する。 特定されない場合は、契約にリースは含まれていないため、IFRS16の適用はないことから、以下の検討は不要である。 (2) 経済的便益を得る権利の有無 特定された資産の使用を支配するためには、借手が使用期間全体にわたり資産の使用からの経済的便益のほとんど全てを得る権利を有している必要がある(IFRS16.B21)。 借手が使用からの経済的便益を得る方法としては、資産の使用、保有、転リースなどがある(IFRS16.B21)。 資産の使用からの経済的便益のほとんど全てを得る権利を評価する際には、当該資産の使用から生じる経済的便益を契約において定められた範囲の中で考慮する(IFRS16.B22)。範囲を超える部分は考慮してはならない。 経済的便益のほとんど全てを得る権利を有している場合、(3)を検討する。有していない場合、契約にリースは含まれていないため、IFRS16の適用はないことから、以下の検討は不要である。 (3) 使用を指図する権利 借手は、使用期間を通じて特定された資産の使用を指図する権利を有する場合(IFRS16.B24)、契約にリースを含んでいると判断する。使用期間を通じて特定された資産の使用を指図する権利を有するかどうかを判断するため、以下を検討する。 (4) 適用単位の識別 契約が複数要素から構成されているかどうかを検討する。契約が複数要素から構成され、その一部にリースが含まれている場合には、当該契約をリース要素と、非リース要素に分解して会計処理する。また、以下の両方の要件を満たす場合、各原資産を使用する権利は、独立のリース要素となる(IFRS16.B32)。 非リース要素には、IFRS16は適用しないで、他の適切な会計基準を適用して会計処理する。例えば、非リース要素部分は、リース料総額に含めずに、発生主義に基づき費用処理することが考えられる。 (5) 適用単位への対価の配分 契約で合意した対価を、各リース要素の独立販売価格と、非リース要素の独立販売価格の総額の比率により按分する(IFRS16.13)。独立販売価格が容易に利用可能でない場合には、借手は、観察可能な情報を最大限利用し、独立販売価格を見積る(IFRS16.14)。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 少額資産のリースに該当するかどうかを検討する。 少額資産のリースについては、オンバランスせず、定額法又は別の規則的な方法(当該方法の方が実態に沿う場合)により、純損益に反映する(IFRS16.6)。少額資産のリースについての会計方針の選択は、リースごとに行う(IFRS16.8)。 少額リースに該当するかどうかの判定においては、以下の点に留意する必要がある。 また、少額の数値基準は、IFRS16では、明示されていないが、結論の根拠(IFRS16.BC100)において、少額資産のリースについて簡便的な会計処理を認めるにあたって、5,000米ドル以下というのを念頭に置いていたとの記載がある。 IFRSでは、日本基準の300万円よりもかなり低いラインが想定されていることが伺える。 少額資産のリースに該当する場合、【STEP3】以降の検討は不要である。少額資産のリースに該当しない場合、【STEP3】を検討する。 リース期間は、以下のように決定する(IFRS16.18)。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 【STEP3】で決定したリース期間が、短期リースに該当するかどうかを検討する。 短期リースとは、開始日においてリース期間が12ヶ月以内のリース(購入オプションが付されているものを除く)である(IFRS16.付録A)。短期リースは、オンバランスせず、定額法又は別の規則的な方法(当該方法の方が実態に沿う場合)により、純損益に反映する(IFRS16.6)。短期リースの会計方針の選択は、使用権が関連する原資産の種類ごとに行う(IFRS16.8)。原資産の種類とは、借手が当該原資産を企業活動においてどのように使用するかといった、性質に基づくグルーピングをいう。 なお、契約変更があった場合やリース期間が見直された場合には、これを新規のリースとして扱わなければならない(IFRS16.7)。 短期リースに該当する場合、【STEP5】以降の検討は不要である。短期リースに該当しない場合、【STEP5】を検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 借手の会計処理は、主に(1)当初認識時、及び(2)事後測定時の会計処理に分けることができる。 (1) 当初認識時 借手は、リース開始日において、使用権資産(リース資産)とリース負債を以下のように算定する。 ① リース負債の当初測定 リース負債は、未払リース料の現在価値により算定する(IFRS16.26)。割引率は、リースの計算利子率を容易に算定できる場合は、リースの計算利子率を用い、容易に算定できない場合は、借手の追加借入利子率を用いる(IFRS16.26)。 未払リース料には、以下が含まれる(IFRS16.27)。 ② 使用権資産の当初測定 使用権資産の算定は、以下のように行う(IFRS16.24)。 前払リース料、当初直接コスト、原状回復費用の見積額がなければ、当初認識時とリース負債と使用権資産は同額となる。 会計処理は、以下のとおりとなる。 (※1) 前払リース料 (※2) 当初直接コスト (※3) 原状回復費用の見積額 (2) 事後測定時 事後測定時の会計処理においても、リース負債、使用権資産のそれぞれで検討することがある。 ① リース負債 事後測定時のリース負債の主な会計処理には、(ⅰ)利息の計上と(ⅱ)リース料の支払いがある。 (ⅰ) 利息の計上 リース開始日後において、リース負債に係る利息計上し、リース負債の帳簿価額を増額する(IFRS16.36)。 (※) リース負債残高×上記(1)①で決定した割引率 (ⅱ) リース料の支払い リース料を支払った場合、リース負債の帳簿価額から減額する(IFRS16.36)。 ② 使用権資産 使用権資産は、原則として、原価モデルにより事後測定を行う(IFRS16.29)。具体的な会計処理としては、(ⅰ)減価償却と(ⅱ)減損の検討が必要となる。 (ⅰ) 減価償却 リース開始日から、使用権資産の耐用年数の終了時点又はリース期間の終了時点のいずれか早い方の期間で減価償却を行う(IFRS16.32)。 ただし、リース期間終了時までに原資産の所有権が借手に移転する場合や使用権資産の取得原価に借手による購入オプションの行使が反映されている場合には、耐用年数の終了時までの間で減価償却を行う(IFRS16.32)。 (ⅱ) 減損の検討 他の固定資産と同様に、IAS第36号「資産の減損」に従って、減損について検討する。 * * * 以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《外貨建取引等》編 【第4回】 「外貨建資産負債の換算」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 期末時における外貨建資産負債の円換算方法には、その区分される内容によって会計処理と法人税法上の取扱いが異なるものと同じものとが混在しています。 今回は、外貨建資産負債の区分ごとに、期末時における外貨建資産負債の円換算方法を、会計上と法人税法上の両面からご紹介します。 1 当期末決算における換算仕訳 〈普通預金〉 〈売掛金〉 〈1年以内返済予定長期借入金〉 〈長期借入金〉 〈満期保有目的債券〉 〈子会社株式〉 期末時における外貨建資産負債の円換算方法には、その区分される内容によって下記のとおり会計処理と法人税法上の取扱いが異なるものと同じものとが混在しています(中小企業会計指針79)。 上記の会計上の換算方法より、設例の当期末貸借対照表における各資産負債の換算額は、次のとおりです。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 この設例では、期末換算方法についての税務署への届出が提出されていませんので、税務上は法定換算方法によらなければなりません。会計上の期末換算方法と異なる法人税法上の法定換算方法による外貨建資産負債の換算額は、次のとおりです。会計上の期末換算方法による換算額との差額については、税務上加算又は減算調整が必要です。 (《外貨建取引等》編 終了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔労務面のアドバイス〕 【第3回】 「日頃の防災対策で被害の軽減を」 特定社会保険労務士・中小企業診断士 小宮山 敏恵 災害を避けることはできないが、災害から被る被害は、対処の仕方によって軽減することはできる。過去に起きた震災の教訓を生かし、企業が一丸となって、日頃から防災対策に取り組んでいただきたい。 緊急時において、人の思考力・判断力は平常時に比べて格段に低下する。そのため、事前の対策・準備は重要である。 『防災意識の高い企業が、万一の時、経営を守る』ということを理解しておきたい。 (了)
「従業員の解雇」をめぐる 企業実務とリスク対応 【第10回】 「整理解雇をする際のチェックポイント」 弁護士 鈴木 郁子 1 はじめに ~整理解雇と整理解雇4要件 整理解雇とは、普通解雇の一種である。【第4回】から【第8回】で解説した普通解雇は、従業員側に解雇の理由がある。一方、整理解雇は、会社側に理由がある場合であり、会社側の経済状況等によって生じた従業員削減の必要性に基づき労働者を解雇することをいう。 整理解雇については、一般に、裁判例上、以下の4つ(「整理解雇の4要件(要素)」)が必要とされ、裁判例も蓄積されているところである。この4要件(要素)が存在することについては、会社側が証拠をもって立証する必要がある。 ①~④の要件(要素)を充足させるために、会社が実務的に何を行わなければならないか、以下、解説することにしたい。 2 人員削減の必要性(要件①) 「人員削減の必要性」とは、企業の人員削減が客観的に必要であり、やむを得ない場合である。 実際の裁判例では、必要性の有無につき、会社側の裁量を認める方向にあるといわれているものの、人員削減の方向性とは矛盾するような行動を会社がとっている場合には、解雇無効との判断がなされやすい。 したがって、以下のような行動を会社がとっていないか、とっているとすれば、合理的な説明が可能か、確認すべきである。 なお、裁判になった場合には、直近数年分の財務諸表の提出を求められ、業界動向のほか、売上・営業利益等の変遷、経費の変遷、役員報酬・給与など人件費の変遷、従業員数の変遷などから、客観的に人員削減の必要性を立証していくことになる。財務諸表の事前検討は必須である。 3 解雇回避努力義務(要件②) 整理解雇は、従業員に何ら落ち度がないにもかかわらず、生活の手段を一方的に奪うものである。したがって、会社のとる最終手段である必要があり、解雇を回避するための努力がなされていたかが問われることになる。 実際には、解雇回避としてどのような措置を講じたか、例えば次のような措置を講じたか講じることができたかが、総合的に検討されることになる。 もちろん、このすべてを実施する必要があるわけではなく、企業規模や赤字規模など個別の事情により、実施が求められる程度は当然異なってくる。ただし、実施できない措置があるのであれば、実施できない合理的理由があるのか、事前に検証しておいた方がよいであろう。 なお、上記のうち「希望退職の募集」については、通常、会社の負担もないことから、これを実施しない状況下での整理解雇が困難であることは認識しておく必要がある(ただし、専門的な部署で代替性がなく、企業存続の観点から希望退職を募ることが現実的でないなどの事情がある場合は別である)。実際、裁判においても、希望退職の実施状況については必ず問われることになる。 また、事業所閉鎖などの場合には、配転、出向などの可能性を模索すべきである。なお勤務地限定の雇用契約である場合などであり、通常は業務命令で配転させられない場合であっても、整理解雇にあたっては、少なくとも、転勤等の打診はした方がよい。 4 人選の合理性(要件③) 対象者の選定は、恣意的なものであってはならず、客観的かつ合理的な基準によらなければならない。 実務上、4要件(要素)の中で一番問題となりやすい要件(要素)は、この「人選の合理性」であり、整理解雇が無効とされる事案の多くを占める。 人選の基準としては、勤務態度、勤務成績、担当業務の内容、給与の額、年齢、勤続年数などいろいろ考えられるが、結局のところ、経営再建のために資する基準が何かということであり、これは、各会社の事情によって異なる。 会社としては、会社の個別事情から、その基準を採用する理由について合理的に説明でき、また、その基準自体が客観的なものになるように、恣意的な基準のあてはめ・適用がなされないよう留意する必要がある。 例えば、赤字部門・支店等の廃止・閉鎖に伴い、所属従業員の全部を対象とする場合は、廃止・閉鎖の判断に合理性が認められるのであれば、人選自体は客観的であるため、人選の合理性の観点からは問題とはなりにくい(なお、赤字ではない部門の閉鎖など、いわゆる戦略的整理解雇が認められるかは争いのあるところである)。 一方、勤務成績・勤務態度については、客観的な基準の定立、適用は難しい。この点、人事評価基準が確立しその運用実績のある会社であれば、その評価基準に基づく客観的な人選には、合理性の認められる余地はある。反対に、そのような基準がそもそも存在しない会社において、勤務成績・勤務態度による人選を行うとすれば、改めて基準を定立しなければならないが、なかなか難しい。 少なくとも、従業員に対して適用する基準を公表し、理解を求める等の工夫が必要であるし、処分歴の有無、欠勤の程度など、恣意の入らない客観的な基準によった方が安全である。 いずれにせよ、恣意の入りやすいものについては、整理解雇の有効・無効の問題をさておくとしても、そもそも従業員の納得を得られにくく、訴訟等に発展することが多いので、避けた方がよい。 また、労働組合がある場合において、組合員を狙い撃ちにするような整理解雇は、人選の合理性が問題となり、違法となる可能性が極めて高い。また、整理解雇の有効性とともに、不当労働行為が問題となり、裁判所だけでなく、労働委員会(都道府県に設置される)に対し申立てがなされることがあるので、注意されたい。 5 手続の相当性(要件④) そもそも整理解雇を行うにあたって、「手続の相当性」が要件として必要か否かは、争いのあるところである。 もっとも、労働協約に組合に対する協議説明義務がある場合には、これを行わなければ、整理解雇は無効となる。 また、労働協約がなかったとしても、整理解雇対象者に対する説明は必ず行うべきであると考える。裁判実務上、手続の相当性が、他の3要件(要素)の該当性の判断において実質的に考慮され、解雇の有効・無効の判断に少なからず影響を与えているからである。また、何らの説明のない一方的な整理解雇に対象者が納得するはずもなく、訴訟になるリスクが高いからである。 説明する内容としては、まさに、会社には整理解雇をする必要があり(①人員削減の必要性)、会社としては解雇を回避するために努力してきたけれども(②解雇回避努力義務)、やむなく貴方を解雇せざるを得ない(③人選の合理性)という整理解雇の要件(要素)そのものである。 組合・従業員の納得が得られるまで協議・説明する義務を負うものではないが、根拠・裏付をもって説明し、その疑問については回答し、誠実に対応すべきである。 なお、争われそうなケースであれば、上記①~③について記載した文書を配布し、説明したことの証拠化をしておくことも考えられる。 6 退職金加算について 整理解雇を行うにあたっては、4要件(要素)の充足のほかに、退職金加算もあわせて検討しておいた方がよい。 整理解雇は従業員に著しい不利益を一方的に与えるものである。従業員も通常これを期待しているし、従業員は会社がどの程度自分たちに配慮してくれているかをみている。加算の事実自体が、整理解雇が争われるリスクを現実的に減少させるのである。 裁判例でも、直接、整理解雇の要件として要求しているわけではないが、高額の退職金加算がなされたことを整理解雇が有効であることの根拠として述べているものもある。とりわけ人員削減の必要性が高度ではない事案については、検討した方がよいと思われる。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第19回】 「外国人従業員のマイナンバーの手続き」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 当社は、外国人留学生をアルバイトとして採用しました。外国人従業員に対しても日本人と同様のマイナンバーの取得や保管といった手続きが必要か教えてください。 〈A〉 住民票のある外国人には、マイナンバーが通知される。「住民票のある外国人」とは、住民基本台帳制度の適用対象者の外国人をいい、次の4つに区分される。 外国人留学生は、上記①の中長期在留者に該当する。したがって、マイナンバーが通知されることから、日本人と同様のマイナンバーの取得や保管といった手続きが必要である。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 【第5回】 「『判断能力・意思能力』の判定方法」 -証拠になり得るもの- クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 1 証拠収集の必要性 判断能力の有無につき当事者間で主張が対立した場合、通常、お互いにそれぞれの手持ち証拠を相手方に示したうえで示談交渉し、それでも解決できなければ民事訴訟を提起し、裁判所に公的に判断してもらうという流れとなる。 この場合、証拠裁判主義の下ではどのような証拠が存在するのかが決定的に重要であるから、紛争となる前から自己に有利な証拠につき関心を持ち、予め入手を試みておくということが非常に重要である。 そこで、今回は、判断能力について争いが生じた場合、どのような資料が証拠となり得るのかについて説明したい。 2 代表的な証拠(その1):長谷川式テスト(HDS-R)の判定結果 (1) 長谷川式テストの判定結果は証拠となり得るか 【第4回】では、わが国で広く用いられている「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」(長谷川式テスト)の内容について説明した。 当事者間で有効性が争われている行為(例えば、売買契約)と近接する時期に長谷川式テストが実施されている場合には、この点数が非常に有力な証拠の一つとなる。 この点、医学上は、長谷川式テストだけでは認知症の確定診断はできないとされている。 しかし、裁判の現場では、普及度が高く、精度も相応の確率を有しているとの特徴から、長谷川式テストの判定結果が重視される傾向にある。 したがって、紛争当事者としてまず着目すべきであるのは、過去に長谷川式テストが実施されていないかという点である。 また、仮に争いとなっている行為の時点からまだ長期間が経過していない場合には、現時点における専門医の問診・診断を得ることを検討すべきである。 (2) 長谷川式テスト実施にあたっての留意事項 なお、長谷川式テストに関して留意すべき点を、以下2点補足する。 長谷川式テストは、口頭の質問のみで構成されるため、誰でも簡単にテストを実施し判定ができると考えがちである。 しかし、正確な判定をするためには、テストを実施する上で細かな決まり事を順守する必要がある。 一例を挙げれば、設問5番(100から7を引いていく設問)において、仮に被験者が93と正答したとしても、「では、93から7を引くと?」と質問することは誤りである。この設問では、最初に出た答えを保持していられるかどうかもテストしているので、正しくは、「では、それからまた7を引くと?」と質問すべきなのである。 そのため、テストの実施方法が適切なものであったのかが争われる場合がある。 対策としては、長谷川式テストは専門医のもとで実施してもらい、医師の診断書に長谷川式テストの結果や所見を記載してもらうという方式が確実である。 また、テストの実施時期の問題も存在する。 【第2回】で説明したように、判断能力の有無は、個別具体的に、問題となる行為ごとに判定される。そのため、仮にテストの時点(仮に1月1日とする)で認知症に罹患していると判定された場合であっても、その半年前である7月1日時点で判断能力が既に減弱していたかというと、それは不明である。認知症の原因疾患の中には、急激に増悪する類型もあるからである。 また、【第2回】で説明した認知症の代表的な4類型の中には、いわゆる「まだらボケ」の症状を呈するレビー小体型認知症等も存在する。 このような場合には、前述の例では、たとえテスト当日である1月1日になされた行為が問題となる場合であっても、「当該行為は意識が清明な時間帯になされたものであるため、判断能力を有していた」と反論される可能性もある。 このようなケースでは、他の証拠をあわせて立証していく必要が出てくる。 3 代表的な証拠(その2):医学的検査の結果等 (1) 神経心理学的検査の結果 前述の長谷川式以外にも、世界的に広く用いられているMMSE(Mini Mental State Examination)のほか、時計描画検査やN式老年者用精神状態尺度など、認知機能を調べるための神経心理学的検査は多数存在する。 仮にこのような検査が実施されている場合には、これらの実施結果も判断能力を判定するための証拠となり得ることは勿論である。 ただし、これらの検査方法は、法曹関係者にとって一般的でないものも含まれており、検査の概要や仕組み、判断能力の判定において当該検査結果がいかなる重要性を有しているのか必ずしも明らかでない場合がある。 そのため、証拠として用いる場合には、検査方法につき解説した文献を添付したり、検査結果について医師の意見書を作成してもらう等の工夫が必要であろう。 (2) 医師が作成した意見書・鑑定書等 医師が、当該本人の判断能力に関して意見書・鑑定書を作成している場合には、有力な証拠の一つとなる。 これら意見書・鑑定書の記載方法に関しては、最高裁判所が公開している「成年後見制度における鑑定書作成の手引」という資料が参考となる。 同書の内容は、成年後見の申立時以外でも、判断能力の有無が問題となる場合に広く有用である。医師に診断書の作成を依頼する場合にも、念のため参照してもらうことが好ましいであろう。 ただし、医師の意見書・鑑定書の取扱いに関しては、①意見書の内容それ自体もさることながら、②意見書作成の時期(診断の時期)も問題とされることがある。このことは、前述の長谷川式テストの場合と同様である。 他方、医師が、判断能力の判定とは直接的には無関係の疾病について診断書等を作成している場合に、その診断の過程で認知症ないし判断能力に言及されているケースも考えうる。 このような場合の取扱いは案件ごとに異なるが、認知症ないし判断能力に関する診断・判定部分がどこまで具体的かつ詳細に記載されているか、また、診断の根拠となる検査結果やデータはいかなるものであったのかが重要となろう。 (3) 入院先のカルテ、入居先施設の看護記録等 判断能力が問題とされている本人が入院していたり、介護施設等に入居している場合、看護日誌等が作成されている場合が多い。 この中には、日常生活における本人の行動の状態が具体的に記載され、その日に起こったエピソード等が記述されている場合もある。 たとえば、「この日は朝から調子が悪く、周囲からの呼びかけにも応答せずコミュニケーションが全く成立しなかった」、「本人の言動を見ていても、自分や周囲の状況が理解できていない様子であった」、それとは逆に、「介護者と日常的な会話が成立して、ごく普通の状態であった」等である。 判断能力が問題となる日付の当日、あるいはその前後の期間において以上のような特徴的なエピソードが発見されれば、これもまた、判断能力の有無を事後的に判定する場合の判断材料の一つとなる。 4 代表的な証拠(その3):日常生活上で作成された書類等 (1) 本人の日記、自筆の手紙・文章 本人の日記等も証拠となる場合がある。 たとえば、本人が、日々の出来事を、しっかりとした文字で自ら綴っている場合には、基本的な認知能力に問題はないという方向の証拠として主張していくことができる。 (2) 親族の介護日誌、本人の日常生活を撮影したビデオ等 親族の介護日誌等において本人の言動や様子等が記載されている場合には、これもまた本人の判断能力を判定するための一材料となる。 5 まとめ 以上は、代表的な証拠の具体例を挙げたものに過ぎない。 どのようなものが証拠となり得るかはケース毎に変わってくるものであるし、また一つ一つの証拠の評価・軽重も、証拠全体の総合判断となる。争いある場合には、最終的には裁判官の判断となる。 このような事情があることから、判断能力の有無が争点となることが予想される事案では、「裁判官による事実認定の感覚」を広く経験として有している弁護士に相談する等の方法が有用であると思われる。 (了)