養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第14回】 「養子縁組のメリットとデメリット」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 [1] はじめに 特に普通養子縁組を行った場合を念頭に、そのメリットとデメリットにつき、これまでの総括も兼ねて、法務面と税務面に分けて以下解説を行う。 [2] 法務上のメリット 1 氏の同一性 養子は養親の氏を称することとなる(民810)。養子は養子縁組により養親の氏を称するが、縁組当時存在する養子の子は当然に養親の氏を称するわけではない(昭23・4・20民事甲209号回答)。 養子の子が養子と同じ氏を望む場合、本来、民法791条に従い、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めに従い届け出る必要があるが、養子夫婦が婚姻を継続している限り、家庭裁判所の許可を得ることなく戸籍法98条の入籍届によって養子の氏を称することができる(民791②)。 また、縁組の日から7年を経過した後に、離縁によって縁組前の氏に復した者(元養子)は、離縁の日から3ヶ月以内に戸籍法上の届出をすることによって、離縁の際に称していた氏を称することができる(続称・民816②、戸法73の2)。これにより、永年にわたり使用してきた氏を変更することで被るであろう、復氏者の不利益を避けることができる。 2 事前の届出により勝手に養親・養子とされない 届出人本人が市町村役場に出頭した上で、上記証明書にて本人確認がなされない限り、縁組届出を受理しないよう、あらかじめ本籍地の市町村長に申し出る方法が存在する(不受理申出・戸法27の2③)。従前は、その有効期限は6ヶ月であったが、平成 20 年5月1日からは有効期間の定めがなくなった。不受理申出のみならず、その申出を取り下げる場合にも届出人本人が自ら市町村役場に出頭する必要がある(戸則50の4⑥・同条①)。 [3] 税務上のメリット 1 基礎控除・生命保険等の非課税限度額の拡大、累進税率の緩和 基礎控除額については、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」が相続税の基礎控除額となり(相法15①)、生命保険金及び死亡退職金の非課税限度額についても、「500万円×法定相続人の数」が非課税限度額となることから(相法12①五・六)、養子縁組を行うことで法定相続人の数が増えれば、その分、相続税の負担を減少させることができる。 また、相続税の総額を計算するに当たっては、法定相続分に応じた各取得金額に超過累進税率(高い取得金額部分には高い税率が課せられる)を乗じて計算されることから(相法16)、養子縁組を行うことで法定相続人の数が増えれば、その分、相続税の負担を減少させることができる。 2 未成年者控除・障害者控除 相続人が一定の要件を満たす未成年者である場合、相続税の額から一定の金額を差し引くことができ(未成年者控除(相法19の3))、この未成年者控除は、実子のみならず、養子についても適用を受けることができる。 また、相続人が一定の要件を満たす85歳未満の障害者である場合、相続税の額から一定の金額を差し引くことができ(障害者控除(相法19の4))、この障害者控除についても、実子のみならず、養子についても適用を受けることができる。 3 連れ子との養子縁組 被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となった者(いわゆる配偶者の連れ子との養子縁組)は、相続税法上、実子とみなされる結果、たとえ、養子縁組が介在していたとしても、後述の相続税法上の養子縁組の制限対象とはならない(相法15③、相令3の2、相基通15-2)。 そのため、配偶者の連れ子が2人以上いる場合には、あと1人養子とすることができるため、実子がいない場合(この場合、相続税法上、法定相続人とできる養子の数は最大2人まで)での税効果よりも有利となりえる。 [4] 法務上のデメリット 1 婚姻障害 近親者間の婚姻の禁止、直系姻族間の婚姻の禁止がそれぞれ適用されるだけでなく(民734・735)、離縁による直系血族関係終了後、直系姻族関係終了後においても婚姻は禁止されることとなる(民736)。特別養子縁組においても同様である(民734・735・736)。 2 特別養子の戸籍の記載 特別養子の戸籍の処理に関しては、できるだけ実子と同様の記載を行う配慮はなされているものの、完全に実子と同様の取扱いがなされるわけではない。例えば、普通養子を特別養子とするような場合以外の通常の特別養子の場合には、「特別養子縁組」、「実父母」、「養子」等の字句は記載されないものの、特別養子の身分事項欄に「〇年〇月〇日民法817条の2による裁判確定」と間接的に記載されることとなる。 3 離縁 普通養子縁組は、当事者はいつでも協議により戸籍上の届出のみで離縁をすることができ(民811)、離縁に伴う財産分与についても、明文の規定なき以上、実務上は離縁において財産分与請求権は認められていない。もっとも、慰謝料については、離婚の場合と同様に、有責当事者は相手方から慰謝料を請求されることとなる。 協議離縁が困難な場合、最終的に裁判離縁手続を行うこととなるが、例えば、離縁したい養親が原告となって養子を被告として訴訟をしたが、養親が離縁の訴訟中に死亡した場合、当事者がいなくなったことによりその訴訟は当然に終了する(人訴27)。この場合、養親が養子に自分の遺産を相続させたくないとして離縁の調停や訴訟をしていても、その手続中に養親が死亡してしまうと離縁の手続が当然に終了する結果、離縁できなくなり、養子が養親の遺産を相続することになる。 また、離縁は離婚と異なり、当事者が通謀して戸籍上だけの離縁をすることとし、後に再度、縁組届けをして戸籍を復元することを約して離縁届けを行うような、いわゆる偽装離縁の場合であっても、離縁意思を欠くものとして無効となる。 他方で、特別養子縁組については、そもそも離縁自体が困難であり、養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があり、かつ実父母に相当の監護能力がある場合に限り、例外的に家庭裁判所の審判によってのみしか認められない(民817の10①②)。しかも、養親からの離縁の審判請求は認められていない(民817の10①)。 4 離縁の無効 当事者の離縁意思は、合意や届出作成の時点だけでなく、届出が受理される時点においても必要となるため、離縁の合意と届出は存在するものの、届出受理時において離縁当事者の一方が離縁意思を翻意したり、意思能力を失ってしまえば当該離縁は無効となる。まだら認知症の養親が養子縁組を行うような場合には、意思能力との関係でトラブルを生じやすい。 5 詐欺による養子縁組がなされた場合 東京高裁平成19年7月25日判決は、詐欺による養子縁組の取消権は、養親または養子だけが有するもので、養子の実子は取消権を行使できないと判示した。そのため、例えば、第三者による詐欺が養親に対してなされ、養子は当該詐欺をまったく知らない状態(善意)で縁組がなされたような場合において、その後、養親が死亡してしまえば、養子が取消権を行使しない限り、誰も養子縁組を取り消すことはできなくなる。 [5] 税務上のデメリット 1 基礎控除・生命保険等の非課税限度額の拡大、累進税率の緩和の限界 これら相続税の計算を行う際の法定相続人の数に含める養子の数は、被相続人に実子がいる場合は1人まで、被相続人に実子がいない場合には2人までと制限されている(相法15②)。過去に行き過ぎた租税回避行為が行われたことから、昭和63年の相続税法改正によって規制対象となった。 さらに、たとえ1人または2人の養子縁組であっても、相続税の負担を不当に減少させる結果となると税務署長が認める時は、これが否認され、相続税額の更正決定がなされうる(相法63)。もっとも、同否認のためには、養子縁組の目的が専ら相続人の地位を有する者の増加だけにあると認められることを課税庁において立証する必要があるところ(加藤千博編『平成22年版相続税法基本通達逐条解説』大蔵財務協会、2010年、641頁)、そのような立証はかなり困難であると思われる。 2 孫養子の2割加算 本来、養子は、養親の一親等の法定血族となることから、相続税額の2割加算の対象とはならない。ただし、養親が孫を養子とするような場合の当該孫は、代襲相続人となっているような場合を除き、当該養親の相続において相続税額の2割加算の対象となる。 もっとも、場合によっては2割加算がなされても相続税の負担を軽減させることは可能である。 (了)
企業の不正を明らかにする 『デジタルフォレンジックス』 【第4回】 「デジタルフォレンジックスの現場」 ~証拠収集編①~ プライスウォーターハウスクーパース株式会社 シニアマネージャー 池田 雄一 1 はじめに デジタルフォレンジックス調査を依頼した経験のある方は、専門家が現場でコンピュータなどの電子媒体を収集する様子を見たことがあるかもしれない。今回から2回にわたって、電子証拠の収集に使われる「七つ道具」の概要から、証拠収集の流れ、保全したデータ、実際の現場での様子などについて解説する。 本題に入る前に、証拠の「保全」と「収集」の言葉の使い分けについて解説しておきたい。 英語で表される場合は、「保全(Preservation)」と「収集(Collection)」と言うように、はっきりと使い分けられているが、日本ではその違いが曖昧になっていることが多い。前回紹介した「eディスカバリー」のプロセスにおいても、証拠の「保全」と「収集」は別のプロセスとして切り分けられている。 国語辞典によると、「保全」の定義は「保護して安全であるようにすること」であり、デジタルフォレンジックスの現場における「保全」のプロセスは、依頼者側が調査対象の電子媒体に対して証拠汚染が起こらないよう管理下に置き、専門家が到着するまで大切に保管しておくことを意味する。そして、証拠となる電子媒体の「収集」は、対象の電子媒体内に保存されている情報(データ)を、専用のツールを使用してコピーをする専門家による作業となる。 2 証拠収集に使用される「七つ道具」 筆者がデジタルフォレンジックスに関わり始めた10年ほど前は、電子証拠の保全に使用されるツールは重く大きく、大型のスーツケースに満載すると40キロを超えることもあり、移動時に何度かぎっくり腰を患った。現在では、ツールの小型化とパフォーマンス向上などで、大型スーツケースが必要だった当時と比較すると、飛行機のキャリーオンサイズのスーツケースに収まる程度になっている。 証拠収集の現場に持ち込む「オンサイトキット」に含まれるツールの数は、細かく数えれば数十に上るが、主要なツールは以下に示される7点となる。本稿では文字数にも限りがあるため、個々のツールに関する詳細な解説は割愛する。 また、携帯電話やタブレットなどの電子媒体についても収集対象となる場合は、上記に加え携帯電話端末専用の収集機材も併せて現場に持ち込むこともある。 筆者の勤務先では、この「オンサイトキット」がチームメンバーの人数分準備されており、即現場に出られる状況になっている。 3 証拠収集の流れ 通常、証拠収集は収集対象のコンピュータおよび依頼者側のIT環境(主にハードディスクの暗号化などを含むセキュリティ対策)のヒアリングから開始する。導入されているセキュリティ対策のソリューションにより、証拠収集に使用する適切なツールの選択やアプローチの調整が必要になるためである。ここでの事前調査が不十分、またはできない場合、必要以上に証拠収集に時間を要したり、収集自体ができず出直さなければならないこともある。 現在、企業で使用されているコンピュータに内蔵されているハードディスクの平均サイズは256GBである。このサイズのハードディスクの収集を行うには、技術的なトラブルが発生しないことを想定した場合、検証および記録作成も含め約2~3時間程度を必要とする。経験にもよるが、技術者1人あたり同時並行で3~5台程度のハードディスクの収集を行うことが可能であり、トラブルが発生しないことが前提となるが、準備も含めて3~4時間程度で平均5台程度の収集を行うことができる。 馴染の無いフォレンジック機材の利用やコンピュータからのハードディスクの取り出し作業など、証拠収集を行うシーンは人目を引くため、作業場所としてある程度広めの会議室などを確保し、従業員の目に触れない場所で行われる。事前に提供された収集対象のコンピュータに関する情報と、現地で確認した情報により、適切な収集ツールおよびアプローチを選択し作業を行う。 最近では、社外への持ち出しが可能なノートパソコンは、ハードディスクが暗号化されている場合が多い。そのため、クライアントの情報システム担当からアドミニストレーター権限を持つログインアカウントの提供を受け、対象のコンピュータを立ち上げた状態で証拠の収集を行う。コンピュータを立ち上げた状態で収集を行う理由は、立ち上がった状態であれば幾つかの特別な例を除き、ハードディスクの暗号化をバイパスして収集できるためである。 収集するデータは、当該コンピュータに接続する外付けハードディスクに保存される。一方で、社外に持ち出しをすることのないデスクトップ型のコンピュータについては、ハードディスクの暗号化がされていることはほとんど無いため、筐体からハードディスクを取り出し、ハードディスクのクローンコピーが作成可能な専用の機材に接続し、証拠収集を行う。 証拠収集を行いながら、収集対象のコンピュータおよびハードディスクなどの写真の撮影から、次回詳しく解説するが「Chain of Custody」と呼ばれる書類の作成を行う。収集データの検証作業が完了した時点で、「Chain of Custody」にクライアント側のコンピュータ使用者、もしくは案件担当者などから収集データの譲渡に関する署名を取得し、作業の完了となる。 【図1】 証拠収集プロセス ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 次回も引き続きデジタルフォレンジックスによる証拠収集について、次の点を解説する。 ハードディスクの暗号化が証拠収集に与える影響 証拠として収集したデータとコピーデータの違い 証拠管理と「Chain of Custody」の重要性 実際の現場で求められる柔軟な対応とは (了)
女性会計士の奮闘記 【第36話】 (最終回) 「これからが本番!」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ・ ・ ・ 〈ノビ(株) 部門別損益表〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (おわり) ◆ワンポントアドバイス◆ 「経営を見える化」するために、部門別損益計算書の作成は、とても大切な作業です。ただし、作っただけで満足してはいけません。また、一部の人だけがその数字を見て議論していても、経営数字は良くなりません。 まず、この自部門の数字を、業績報告会でリーダーに発表してもらい、意見を出し合います。そして、リーダーが部門に帰って、メンバーに業績報告会の結果を伝えます。 そのことによって、全従業員が数字を共有することができるようになります。まさしくそれが全員参加経営です。 その全員参加経営によって、数字を良くするための知恵が生まれてくるのです。
《速報解説》 法人事業税、外形標準課税の割合を8分の5へ拡大、 所得割の税率は引下げ ~平成28年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成27年12月16日、与党(自由民主党及び公明党)より「平成28年度税制改正大綱」が公表された。法人課税をめぐる改正の方向性は過去の方針を引き継ぎ、「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」という考え方のもと、引き続き実効税率の引下げが盛り込まれたところである。 他方、法人事業税については、実効税率の引下げと課税ベースの拡大の観点からの見直しが盛り込まれており、前年度(平成27年度)の税制改正において外形標準課税の段階的拡大と法人事業税所得割の税率引下げが実施されたところ、平成28年度税制改正大綱においても、もう一段踏み込んだ改正が盛り込まれている。 本稿では、平成28年度税制改正大綱における、法人事業税に関連する改正点について解説を行う。なお、平成27年度税制改正に関する詳細については、下記の拙稿を参照されたい。 2 法人事業税の税率引下げと外形標準課税の拡大 平成27年度の税制改正において、法人事業税の税収に占める外形標準課税(付加価値割及び資本割)の割合を、平成27年度・平成28年度の2事業年度にわたって段階的に2分の1(8分の4)まで引き上げる改正が盛り込まれた。これに伴い、相対的に、法人事業税(所得割)の税率が段階的に引き下げられている(下図参照)。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 平成28年度税制改正大綱では、地域で雇用を支える中堅企業への影響に十分配慮しつつ、外形標準課税の割合を8分の5に拡大するとともに、所得割(地方法人特別税を含む)の標準税率を引き下げることとされた。 具体的には、資本金額が1億円超の普通法人の法人事業税の標準税率を下表の通りとし、平成28年4月1日以後開始事業年度から適用される。 図示すると以下のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 3 事業税の負担軽減措置 外形標準課税の割合が拡大することに伴い、所得水準次第ではむしろ税負担が増加する可能性があることから、平成27年度の税制改正において時限的な事業税の負担軽減措置が講じられたが、平成28年度の税制改正大綱においても外形標準課税の割合が一層引き上げられたことを受け、負担軽減措置についても見直しが行われている。 (1) 改正前の制度の概要(平成27年度税制改正) 平成28年度(平成28年4月1日~平成29年3月31日までの間に開始する事業年度)において、付加価値割の課税標準となる付加価値額が40億円未満の法人について、その事業年度に係る事業税額が平成28年3月31日現在の税率を適用して計算された額を超える場合にあっては、その超える額に一定の控除率を乗じた額を事業税額から控除する。 控除率は、付加価値額が30億円未満の場合には50%とされ、30億円以上から段階的に引き下げられ、40億円に達するところでゼロとなる(下図参照)。 (2) 平成28年度の税制改正の概要 負担軽減措置の適用対象年度が2年延長され、平成31年3月31日までの間に開始する事業年度(平成30年度)までが対象とされたうえで、各事業年度に係る事業税額が平成28年3月31日現在の標準税率で計算された税額を超える場合に、その超える額に一定の控除率を乗じて計算された額を、各事業年度の事業税額から控除することとされた。 控除率は年度ごとに段階的に引き下げられる(下図参照)。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
《速報解説》 自動車取得税の廃止や自動車税における環境性能割の創設等、 車体課税の改正事項 ~平成28年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 菊地 弘 平成27年12月16日に公表された平成28年度税制改正大綱(与党大綱)のうち、自動車の車体課税等に関する主な改正事項等は次のとおりである。 1 車体課税の見直し (1) 自動車重量税(国税) ▷改正事項なし。 ▷自動車重量税に係るエコカー減税の見直しについては、燃料水準が年々向上していることを踏まえ、燃費性能がより優れた自動車の普及を継続的に促す構造を確立する観点から、平成27年度与党税制改正大綱に沿って検討を行い、平成29年度税制改正において具体的な結論を得る。 (2) 自動車取得税(都道府県税) ▷自動車取得税は、平成29年3月31日をもって廃止する。 (3) 自動車税(都道府県税)及び軽自動車税(市町村税)における「環境性能割」(仮称)の創設 ▷現行の自動車税を自動車税排気量割(仮称)、現行の軽自動車税を軽自動車税排気量割(仮称)とするなどの措置を講ずる。 ▷新設される「環境性能割」の概要 ① 納税義務者等 ・自動車の主たる定置場の所在地において、当該自動車を取得した者に課する。 (注) 課税対象となる自動車は現行の自動車取得税の対象と同一とする。 ② 課税主体 ・登録車(普通自動車及び三輪以上の小型自動車)については、自動車税環境性能割として道府県が課す。 ・軽自動車(三輪以上の軽自動車)については、軽自動車税環境性能割として市町村が課す。 ③ 課税標準と免税点 ・課税標準は自動車の取得価額とする。 ・免税点は50万円とする。 ④ 徴収の方法 ・申告納付(申告書に証紙を貼って納付する方法を原則とし、現金納付も可能) ⑤ 環境性能に応じた税率の適用と非課税 ⑥ 用途、構造等による特例措置 ・都道府県の条例で定める路線の運行の用に供する一般乗合用のバスに係る環境性能割について、非課税とする措置を平成29年4月1日から2年間に限り講ずること 等 ⑦ 市町村交付金 ・道府県は自動車税環境性能割について、その徴収から徴税に要する経費に相当する額を控除した額の100分の65を市町村に交付する。 ⑧ 施行期日 ・平成29年4月1日以後の自動車の取得に対して課する環境性能割について適用する。 ⑨ 税率適用基準の見直し ・上記⑤に定める税率適用基準は2年ごとに見直す。 (4) グリーン化特例の見直し及び延長 ◆「グリーン化特例」とは・・・自動車税及び軽自動車税において講じている燃費性能等が優れた自動車の税率を軽減し、一定年数を経過した自動車の税率を重くする特例措置のこと。 ① 自動車税のグリーン化特例(軽課) ② 自動車税のグリーン化特例(重課) 現行のグリーン化特例(重課)の適用期限を1年延長し、平成29年度分を特例措置の対象とする。 ③ 軽自動車税のグリーン化特例(軽課) 現行のグリーン化特例(軽課)の適用期限を1年延長し、平成28年度に新規取得した三輪以上の軽自動車(新車に限る)について適用する。 2 復興支援のための税制上の措置 (1) 自動車重量税(延長) ① 被災自動車等に係る自動車重量税の還付措置の適用期限を3年延長する。 ② 被災自動車等の使用者であった者が取得する自動車に係る自動車重量税の免税措置の適用期限を3年延長する。 (2) 自動車取得税(延長) 被災代替自動車の取得に係る自動車取得税の非課税措置の適用期限を1年延長する。 (3) 自動車税・軽自動車税(延長) 自動車税及び軽自動車税の非課税措置の適用期限を次のとおり3年延長する。 3 租税特別措置等 (1) 自動車重量税(拡充) 排出ガス性能及び燃費性能の優れた環境負荷の小さい自動車に係る自動車重量税の免税等の特例措置(いわゆる「自動車重量税のエコカー減税」)の適用対象となる自動車の範囲に、車両総重量が7.5tを超えるバス・トラックで平成28年ディーゼル重量車排出ガス規制に適合し、かつ、平成27年度燃費基準を満たすものを加える。 (2) 自動車取得税(延長・拡充等) ① 排出ガス性能及び燃費性能の優れた環境負荷の小さい自動車(新車に限る。)に対して課する自動車取得税に係る特例措置(いわゆる「自動車取得税のエコカー減税」)の適用対象となる自動車の範囲に、車両総重量が7.5tを超えるバス・トラックで平成28年ディーゼル重量者排出ガス規制に適合し、かつ、平成27年度燃費基準を満たすものを加える。 ② 都道府県の条例で定める路線の運行の用に供する一般乗合用のバスに係る自動車取得税の非課税措置の適用期限を1年延長する。 【参考】車体課税の見直しについて (2016/12/18追記) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (経済産業省ホームページより) (了)
《速報解説》 BEPS行動13を受け 「移転価格税制に係る文書化制度」を整備 ~平成28年度税制改正大綱~ デロイト トーマツ税理士法人 パートナー/税理士 移転価格サービス 小林 正彦 1 はじめに 平成27年12月16日に公表された平成28年度税制改正大綱(与党大綱)において、移転価格税制に係る文書に関する改正が勧告された。 我が国における移転価格文書(いわゆるドキュメンテーション)としては、これまでは、租税特別措置法施行規則第22条の10第1号及び第2号に掲げられた項目を含んだ文書がそれに当たるものとされてきたが、OECDによる「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」の行動13の最終報告書を踏まえ、我が国も諸外国並みのグローバルスタンダードとしての厳しい移転価格文書化の時代に突入することになる。 2 内容 【制度の担保策】 (1)及び(2)に関しては期限内に提出しない場合の罰則を設けることとされており、(3)に関しては罰則は設けないものの、国税当局が提出等を求めた場合において指定される日までに提出等しない場合の推定課税等の要件の明確化が行われている。ローカルファイルは同時文書化義務があるものについては提出依頼後45日以内の指定日までに、また、それ以外のローカルファイルについては60日以内の指定日までに提出がないときは推定課税・同業者調査ができるとされている。 なお、(1)及び(2)に係る改正は平成28年4月1日以後に開始する最終親事業体の会計年度に係る文書について適用することとされており、(3)に係る改正は平成29年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用することとされている。 3 留意点 (了)
《速報解説》 「更正予知に関する新たな加算税措置」 「繰り返しの無申告等に対する加算税の加重」 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 佐藤 善恵 はじめに 12月16日に公表された与党税制改正大綱によると、平成28年度税制改正では、過少申告加算税(国税通則法(以下「通法」という)第65条)、無申告加算税(通法第66条)、不納付加算税(通法第67条)及び重加算税(通法第68条)の4種類の加算税のうち、過少申告加算税及び無申告加算税について、「更正があるべきことを予知してされたものでない」申告(※1)に関して新たな措置が導入される。 また、無申告加算税及び重加算税について、過去5年以内に同税目で無申告加算税又は重加算税が賦課された事実があれば、加算税の税率が加重される。 これらの措置は、いずれも当初申告のコンプライアンスを高めるとの趣旨によるものである。 (※1) 納税者へのインセンティブの趣旨等から、調査があったことにより更正があるべきことを予知(以下「更正予知」という)してされたものでない申告には、加算税を免除ないし軽減(以下、単に「免除」という)する制度が設けられている(過少申告加算税は通法65⑤、無申告加算税は通法66⑤)。 1 更正予知に関する新たな措置 更正予知に係る加算税の免除に関して、加算税通達(※2)は、臨場調査のための日時の連絡を行った段階で修正申告書等が提出された場合には、原則として更正予知には該当しない、つまり加算税が免除されるという扱いを示しているが、改正により、税務調査の事前通知がされてしまうと、更正予知せずに修正申告書等を提出したとしても、低率ではあるものの加算税が賦課されることが法定化される。 具体的には、平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について、事前通知後、かつ、更正予知でない修正申告書等の提出があった場合、過少申告加算税は、本税に対して5%(申告漏れ過大部分は10%)の割合で、無申告加算税は、本税に対して10%(無申告過大部分は15%)の割合で、それぞれ加算税が課せられることとなる。 (※2) ・申告所得税及び復興特別所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針) 第1の2(注)、第2の2 ・相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針) 第1の2(注)、第2の2 等 〈図解〉 通法、加算税通達及び平成28年度税制改正の内容を整理すると次のとおりである。 (例) 過少申告加算税で増差税額50万円以下の場合の各税率 (※3) 無申告加算税の場合は10% (※4) 無申告加算税の場合は15% Bの期間は、原則として更正予知に当たる。 なお、他の税目における更正の請求に基づく減額更正に伴って、調査対象税目において必要となる修正申告等、一定の場合には、上記の措置は適用されない。また、源泉所得税の不納付加算税は、改正による影響はない。 2 繰り返しの無申告等に対する加算税の加重 更正予知による期限後申告もしくは修正申告、更正や決定等(以下「期限後申告等」という)があった場合に、その期限後申告等があった日の前日から起算して5年前の日までの間に、その期限後申告等に係る税目について更正予知による無申告加算税又は重加算税が課されたことがあれば、加算税の税率が10%上乗せされる(平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税より適用)。 したがって、無申告重課でこの措置の適用がある場合、重加算税の税率は、40%に10%が上乗せされて50%となる。 ◆無申告加算税(国税通則法65条)のまとめ(丸付数字は同法65条の項番号を指す。) (A) 当初申告が期限後申告の場合の無申告加算税(太枠が改正部分) (※) 更正予知によるものに限る(自発的申告を除く)。 (B) 期限後申告後の修正申告に対する無申告加算税(太枠が改正部分) (※) 更正予知によるものに限る(自発的申告を除く)。 ◆重加算税(国税通則法68条)のまとめ(太枠が改正部分)(丸付数字は同法68条の項番号を指す。) (※) 更正予知によるものに限る(自発的申告を除く)。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 セルフメディケーション(自主服薬)推進のための スイッチOTC薬控除(医療費控除の特例)の創設 ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士・社会保険労務士 上前 剛 1 概要 12月16日に公表された「平成28年度税制改正大綱」(与党大綱)において、セルフメディケーションの推進により医療費を削減するため、セルフメディケーション(自主服薬)推進のためのスイッチOTC薬控除(医療費控除の特例)が創設されることが決まった。 本制度は、特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康診査、がん検診(医師の関与があるものに限る)を受けている個人が、平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間に、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係るスイッチOTC医薬品(類似の医療用医薬品が医療保険給付の対象外のものを除く)を購入した場合において、その年中に支払った購入額の合計額が12,000円を超えるときは、その超える部分の金額(その金額が88,000円を超える場合には、88,000円)をその年分の総所得金額等から控除できる制度である。 なお、現行の医療費控除との選択適用となる点には留意が必要である。 2 スイッチOTC医薬品とは 医薬品には、医師が処方する医療用医薬品と薬局・ドラッグストアで市販されるOTC医薬品がある。OTC医薬品のOTCとは、“Over The Counter”の頭文字で、薬局のカウンター越しに売られる薬が語源である。 OTC医薬品のうち、本制度の対象となるスイッチOTC医薬品とは、医療用医薬品の成分をOTC医薬品に転用(スイッチ)したものをいう。医療用医薬品の成分が含まれるため、効き目が良いとされる。 3 今後の課題 まず、“スイッチOTC医薬品”の存在が世間に知られていない点が課題として挙げられる。本制度を普及させるには、スイッチOTC医薬品の認知度を高めるための周知活動が必要である。 次に、スイッチOTC医薬品を購入する際、薬局・ドラッグストアで薬を手に取ってみても、箱に『スイッチOTC医薬品』と明記されていないので、スイッチOTC医薬品かどうか判別するのが困難という点が挙げられる。薬剤師を通じて購入すれば解決するが、箱に記載してもらえると利便性が増すであろう。 最後に、スイッチOTC医薬品を購入したレシートに『スイッチOTC医薬品』と明記されていないと、確定申告時の集計が困難という点が挙げられる。 (了)
《速報解説》 欠損金の繰越控除制度、平成28年4月以後の控除限度割合が縮小へ ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 小谷 羊太 平成28年度税制改正大綱(与党大綱)において、欠損金の繰越控除制度の見直しが行われることが明記された。以下その内容を解説する。 1 制度の確認 法人の各事業年度において青色申告書である確定申告書を提出する事業年度の欠損金、青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金及び連結欠損金が生じた場合に、翌事業年度以降の各事業年度において生じた所得金額からそれらの欠損金額を控除する措置として設けられた制度である。 所得事業年度の所得金額と欠損事業年度の欠損金額について損益通算をすることによって、納税者の担税力の確保を図るために設けられている制度である。 2 現行制度(平成27年度税制改正後)の確認 欠損金の繰越控除制度は、中小法人の場合は、繰越欠損金のうち所得から控除できる金額はその全額であるのに対して、大法人については80%までとされていた。 しかし、平成27年度税制改正後は、次のように段階的に控除限度割合を引き下げることとなっている。 3 平成28年度税制改正大綱の内容 ① 控除限度割合の段階的な引下げ 今回の税制改正大綱では、平成27年4月から平成29年4月までに控除限度割合を65%から50%に引き下げる措置について、50%までの最終的な引下げ時期を平成30年4月まで引き延ばし、さらに段階的な引下げの措置を講じている。 【参考】繰越欠損金制度の見直しのイメージ (2016/12/18追記) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (中小企業庁ホームページより) ② 欠損金の繰越期間の延長 平成27年度税制改正によって、平成29年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金額(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度、青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越控除制度及び連結欠損金の繰越控除制度)について、繰越期間を10年間に延長する措置が講じられた。 平成28年度税制改正大綱では、この繰越期間の適用事業年度を、平成30年4月1日以後に開始する事業年度に改める措置が講じられている。 ③ 欠損金の繰越控除制度の適用に係る帳簿書類の保存要件 上記②を踏まえて、平成27年度税制改正によって、青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度、青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越控除制度及び連結欠損金の繰越控除制度の適用に係る帳簿書類の保存期間を平成29年4月1日以後に開始する事業年度から10年とする措置が講じられた。 平成28年度税制改正大綱では、この保存要件の適用事業年度を、平成30年4月1日以後に開始する事業年度に改める措置が講じられている。 ④ 法人税の欠損金額に係る更正の期間制限 上記②を踏まえて、平成27年度税制改正によって、法人税の欠損金額に係る更正の期間制限を平成29年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金額から10年とする措置が講じられた。 平成28年度税制改正大綱では、この更正の期間制限の適用事業年度を、平成30年4月1日以後に開始する事業年度に改める措置が講じられている。 ⑤ 法人税の欠損金額に係る更正の請求期間 上記②を踏まえて、平成27年度税制改正によって、法人税の欠損金額に係る更正の請求期間を平成29年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金額から10年とする措置が講じられた。 平成28年度税制改正大綱では、この更正の請求期間の適用事業年度を、平成30年4月1日以後に開始する事業年度に改める措置が講じられている。 (了)
《速報解説》 減価償却制度、建物附属設備・構築物等の定率法が廃止へ ~平成28年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 新名 貴則 自由民主党と公明党は、平成27年12月16日、平成28年度税制改正大綱(与党大綱)を発表した。この中で、減価償却制度の見直しが明記された。ここでは、その内容について解説する。 ◆見直しの内容 従来、平成10年4月1日以後に取得した建物については、償却方法が定額法に限定されていたが、建物附属設備や構築物については定率法も選択することができた。しかし、建物附属設備は建物と一体的に整備されること、また、構築物は建物と同様に長期安定的に使用されることから、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備及び構築物については、定率法を廃止し、償却方法を定額法に限定することになった。 また、同様に平成28年4月1日以後に取得する鉱業用減価償却資産(建物、建物附属設備及び構築物のみ)についても、定率法を廃止し、定額法又は生産高比例法に限定することになった。 なお、今回の改正後も、リース期間定額法、取替法等は存置される。 【平成28年4月1日以後に取得するもの】 ◆改正の影響 定率法及び定額法における償却を、事例に基づいて比較すると次の通りである。 これまで建物附属設備や構築物について定率法を選択していた法人では、今後は定額法に限定されるため、償却開始後の数年間は償却額が大幅に少なくなることに注意が必要である。 【 事 例 】 種類:建物附属設備 耐用年数:15年 取得価額:10,000,000円 (※1) 少数点以下の端数は切り捨てている。 (※2) 9年目以降は改定償却率による計算に変わっている。 (了) ↓お薦め連載記事↓