現代金融用語の基礎知識 【第11回】 「太陽光ファンド」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 注目される太陽光発電投資 広い土地一面に設置された太陽光パネルの写真や映像を誰でも一度は見たことがあるだろう。それは太陽光発電のための設備なのだが、現在、それへの投資に投資家や企業の関心が集まっている(そして、実際にお金が集まっている)。太陽光発電の将来性への期待もあるのかもしれないが、何よりも非常に魅力のある投資対象だからである。 2 太陽光発電投資の魅力 太陽光発電が非常に魅力のある投資対象であるのは、現在のところ確実に利益が得られるからである。なぜかというと、太陽光発電で得られた電気は、電力会社が一定の価格(電気を売る側が利益を得られるような価格)で買い取ることとされているからである。その制度を「固定価格買取制度」という。 太陽光発電で得られる電気の量は、気象状況の影響を受けるとしても、それほど大きく変動するものではないため、固定価格買取制度により売上の額は予め確定することになる。そして、費用も、主なものは土地の賃借料や減価償却費であり、その額は予め確定しているため、利益の額が予め確定することになるのである。 また、「グリーン投資減税」の恩恵を受けることもできる。グリーン投資減税とは、一定規模以上の太陽光発電設備を取得し、1年以内に事業の用に供した場合、①普通償却に加えて取得価額の30%相当額の特別償却、②即時償却(100%償却)、③取得価額の7%相当額の税額控除(中小企業者等のみ)、のうちいずれかの優遇措置を受けられるというものである。 3 太陽光ファンド このように非常に魅力のある太陽光発電投資だが、数億円の資金が必要となるため、財政的に余裕のある企業でない限り、そう簡単に行えるものではない。銀行からの借入れにも限界がある。そこでよく行われているのが、いわゆる投資ファンドを組成して投資家から資金を調達することであり、その投資ファンドがいわゆる「太陽光ファンド」である。 投資ファンドは「組合」の仕組みを利用して組成されることが多いが、太陽光ファンドの場合は、通常、「匿名組合」の仕組みを利用して組成される。匿名組合とは、商法で定められている仕組みで、投資家が組合の管理者の営業のために出資をして、その営業により生じる利益の分配を受けることを約束する契約のことである。民法で定められている「任意組合」の場合は、その契約書に出資する投資家全員の名前が列挙されるのだが、匿名組合の場合は、管理者が投資家それぞれと契約を結び、投資家は互いの名前や出資額を知らないため、「匿名」が付くのである。 任意組合では投資家が無限責任を負うため、多数の投資家からの資金調達には適さない。それに対して、匿名組合では投資家が有限責任を負うだけなので、多数の投資家からの資金調達が可能になる。そのため、太陽光ファンドでは、通常、匿名組合の仕組みが利用されるのである。なお、投資ファンドというと、「投資事業有限責任組合」を思い浮かべるかもしれないが、投資対象が有価証券等に限られるため、太陽光ファンドでは利用されない。 4 太陽光ファンドの注意点 太陽光発電投資に関心があり、太陽光ファンドを組成しようとする場合や、それに投資しようとする場合は、注意しなければならない点がある。 まず太陽光ファンドを組成する場合、専門知識が必要とされることを認識しておかなければならない。太陽光ファンドの組成に当たっては第二種金融商品取引業への登録が必要となり、その後の管理にも専門知識が必要とされるため、素人だけで全てを行うのは困難である。実際、管理に不備があるとして、証券取引等監視委員会に摘発されるケースも出てきている。 そして、太陽光ファンドを組成する場合だけでなく、それに投資する場合も、太陽光発電投資により得られる利益は今後も約束されたものではないということを認識しておかなければならない。上述のとおり現在のところ確実に利益が得られるのは固定価格買取制度によるのだが、その制度は今後もずっと継続されるとは限らないからである。 固定価格買取制度では電力会社に損失が生じるが、その損失は電力会社が負担しているわけではない。実は電気利用者が負担しており、電気利用者から再生可能エネルギー賦課金という名目で徴収されているのである(電気利用者は電気料金に加えて再生可能エネルギー賦課金を支払っている)。実質的に投資家が得る利益を電気利用者が負担していることになるため、固定価格買取制度に対しては批判があるということを留意しておく必要があるだろう。 【太陽光ファンドの利益はどこから?】 (了)
《速報解説》 人事院勧告を受け、非課税となる通勤手当の限度額を引上げ ~所得税法施行令20条の2第2号を改正し、55km以上を新設 Profession Journal編集部 10月7日の閣議決定を受け、マイカー等で通勤している人の非課税となる1ヶ月当たりの限度額(所令20の2)が改正され、10月20日に施行された(平成26年10月17日付官報第6396号で公布)。 役員や使用人に通常の給与に加算して支給する通勤手当は、一定の限度額まで非課税とされているが、非課税通勤手当の範囲については、「給与所得を有する者で通勤するものがその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの」(所法9①五)とされ、所得税法施行令20条の2に委任し、非課税の範囲が定められている。 このほど、内閣は8月に行われた人事院勧告「公務員の給与改定に関する取扱いについて」を閣議決定した(平成26年10月7日)。この中で、交通用具使用者に係る通勤手当について、民間の支給状況等を踏まえ使用距離の区分に応じ100円から7,100円までの幅で引上げが盛り込まれていたことから、それに連動した形で非課税となる通勤手当の限度額を定める所得税法施行令20条の2第2号が改正されたもの。 改正の特徴は、それぞれの区分で引き上げられたことに加えて、新たに「55km以上」が設けられた点だ。 今回の改正により、具体的には下表のようになる。 なお、今回の改正は平成26年4月1日以後に受ける通勤手当から適用される。 ちなみに、改正部分として、改正前の「自転車」が改正後には「自動車」と変わっているが、これについて財務省は「表記上だけの改正であって、内容的には影響を及ぼすものではない」としている。 参考までに改正された所得税法施行令20条の2を示せば、下記のようになる。主に2号の改正であり、1号と3号は改正されていないが、4号は2号を引いているため改正されている。 〈参考①:改正後の所得税法施行令20条の2(下線が改正部分)〉 〈参考②:人事院勧告とは〉 (了)
2014年10月16日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.90 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
日本の企業税制 【第12回】 「財務省・総務省が示す『財源案』と 経団連の姿勢」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに 10月9日開催の自民党税制調査会において、財務省・総務省より「法人税改革の具体化について(イメージ)」ならびに「法人税改革について-政府税制調査会の提言をベースとした課税ベース拡大等の考え方」が提示され、法人税改正議論はいよいよ本格的なスタートを切った。 本稿では、ここで示された財務省・総務省の提案を紹介し、これに対する経団連の対応方針を解説していく。 2 「法人税改革の具体化について(イメージ)」 法人税改革の工程表であり、平成27年度から30年度までが示されているが、27年度と29年度に大きなヤマが想定されている。 税率引下げの具体的数値は示されていないが、財源次第で27年度改正で3%程度、29年度改正で2%程度の引下げ幅を想定しているものと推測できる。 3 「法人税改革について-政府税制調査会の提言をベースとした課税ベース拡大等の考え方」 課税ベース拡大等の網羅的なメニューであるが、基本的には政府税制調査会で既に示されていた項目であり、特段の新味はない。 また、具体的な数字は含まれておらず、あくまでも定性的な考え方を示したものである。しかしながら、例えば欠損金繰越控除の制限では、ドイツ60%、フランス50%などの海外事例が意図的に引かれており、ある程度は課税当局の考えを推測することができる。 その概要を整理すれば以下のようになる。 -中小法人- (中小法人への影響を検証しつつ、検討) -公益法人等- (公益法人等の実態等を見ながら、検討) なお、中小法人や公益法人についても具体的課題が示されてはいるが、わざわざ「中小法人への影響を検証しつつ、検討」、「公益法人等の実態等を見ながら、検討」とされており、政治的には手をつけないとのメッセージが示されたものと考える。 4 経団連の対応 法人税の課税ベースについては厳しいメニューが並んでいるが、自民党税制調査会に向けた最初の打ち出しであり、次はここで示された各項目について、経団連の考え方を提示することになる。 最大のポイントは、国税・地方税を合わせた実質的な法人税負担軽減の確保である。 6月24日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2014」では、 とされており、この趣旨が実現されなければならない。 すべての業界・企業について減税とする仕組みは困難であるが、少なくとも利益を上げている企業には増税とならないよう、とりわけ企業の国際競争力へのマイナスの影響を排除することが重要である。 その観点から、主要項目について、以下のような対応を進めていく。 (了)
《編集部レポート》 第41回 日税連公開研究討論会が開催 ~「変貌する日本社会と税制のあり方」を統一テーマに研究成果及び提言を発表~ Profession Journal 編集部 2014年10月10日(金)ホテルニューオータニにおいて「第41回 日税連公開研究討論会」が開催された。 公開研究討論会は、税制及び税務行政等の改善合理化と税理士の資質向上を図るため、全国15税理士会を7グループに分け、税理士の日頃の研究結果の発表と質疑応答を行うことを目的として毎年開催されている(昨年は広島市にて開催)。 枡添要一東京都知事による来賓挨拶に始まった当日は、今回の担当会である東京税理士会から「変貌する日本社会と税制のあり方」を統一テーマに、下記の構成で研究発表が行われた。 各研究グループからの発表は、実際にシンガポールへの海外進出を行っている企業担当者や、高い消費税率と軽減税率を導入しているスウェーデン大使館への取材など趣向に富んだ内容となっており、「給与所得控除の10%(現行の1/3)への縮小」や「暦年課税の生前贈与加算については相続開始前3年以内を7年以内に延長」など税理士ならではの視点による税制への提言が行われた。 すべての発表後は、中里実政府税制調査会会長による講評で締めくくられた。 [当日の様子] (了)
法人税改革における『減価償却方法の見直し』が 企業経営へ与える影響 【第1回】 「減価償却費の償却方法と課税の公平」 税理士 小谷 羊太 はじめに 平成26年の政府税制調査会では、平成27年度税制改正における法人税率の引下げに伴う代替財源策として、減価償却制度については次のような見直し案が検討されている(下線筆者)。 【参考資料①】 政府税制調査会(第3回 法人課税ディスカッショングループ(2014年4月14日)) 「(法人課税DG3)租税特別措置・加速度償却」 【参考資料②】 政府税制調査会(2014年6月27日) 「法人税の改革について」 本連載では、このような経緯・現状と視点を前提に、減価償却方法の見直しが検討されているなか、企業側の減価償却の考え方やその計上の意味について、あらためて検討したい。 今回は「減価償却費の償却方法と課税の公平」という視点で検討する。 ◆減価償却費は徐々に計上する費用 減価償却資産は「使用したり、時の経過によりその価値が減少するもの」である。 使用や時の経過によりその価値が減少する資産がその前提となっているので、取得時に支出した資金は、取得時の一時の費用とするのではなく、使用頻度や時の経過によりその減少した価値(減価)部分を徐々に費用とすることになっている。 ◆減価償却費は売上げに貢献する費用 しかし、減価償却費として当期の費用に計上すべき金額は、単に減価した部分を費用として認識するのではなく、事業活動に必要なもの、つまり売上げを獲得するために必要となった費用としての側面も持ち合わせている。 ◆損益の面と貸借の面としての前提 損益の面から捉えた減価償却費の計上は、当期の売上げに貢献した原価としての適正額を減価償却費として計上すべきである、という前提があり、貸借の面から捉えた減価償却費の計上は、当期に価値が減少した部分を費用として認識し、減価する、という前提がある。 減価償却費の計上は、上記の両考え方をバランスよく汲み取った上で金額を算定し計上すべきである。 ◆合理的に算出するための選択肢 現行の法人税法では、上記のような考え方を前提として、減価償却費の算定方法については、資産の種類によって定額法や定率法、生産高比例法などの償却方法が用意されている。 つまり、当社のその減価償却資産の使用状況や当期の売上げに貢献するあり方により、限られた範囲ではあるが、合理的に算出できるように複数の選択肢が与えられているのである。 ◆使用目的により償却方法は変わる 償却方法の選択にあっては、例えば器具備品であるパソコンを例にしてみると、当社で使用するパソコンは総務における使用で、インターネットによる情報収集やメールでのやりとり、小規模の経理など、総合的な事務処理をするために使用する目的で購入し、4~5年に一度程度入替えをすれば十分に業務が遂行できるもの、という位置づけにあるのであれば、法定耐用年数4年をかけて定額法で償却をすれば十分に期間損益の適正化、販売費一般販管費としての計上を満たすことができるのではないだろうか。 しかし、同じパソコンであっても、当社がデザイン会社であるなど、そこで使用するパソコンは常に最新機能を備えたものであることが望ましいような前提があるのであれば、少なくとも2~3年周期で最新機能を備えた新しいものを早々に購入する必要がある会社となる。 このような会社が使用するパソコンであれば、定率法により早期償却を実現させるべきこととなる。 また、例えば機械装置であればその生産状況や稼働状況により、さらに会社によっては生産数や稼働時間も、その機械装置の設備の種類により様々であることが想定される。 生産数や稼働時間が少なかった場合には、法人税法では償却限度額以下の償却費の計上による償却不足を認めているので、計上する償却費は売上げに対する貢献度や使用状況により加減をすることができる。 逆に通常の稼働を超えた生産を行ったのであれば、税務署への届出により増加償却などの特別な追加の償却も認められている。 ◆選択の機会は不公平ではない 上記のようにその選択肢が多様にあることにより、会社ごとに減価償却費の計上の仕方によっては、法人間の税負担の不均衡を生じるおそれがあるのではないか、という考え方もあるようであるが、法律上の「公平」とは、同一条件であるにもかかわらず、A事業者が許されるのにB事業者は許されない、という場合に初めて不公平とされるのであり、A事業者にもB事業者にも均等にその選択の機会が与えられており、かつその選択肢を事業者自らが判断し、適用することができるのであれば、それはその結果、たとえ税負担が不均衡になろうとも「課税の公平」は守られているということに留意しなければならない。 むしろ、特定の会社の使用目的に適していない償却方法の強要があることのほうが課税の公平を阻害する恐れがある。つまりデザイン会社で使用するパソコンと一般会社で使用するパソコンでは、その使用状況や目的が全く違うにもかかわらず、同じ「パソコン」という器具の種類により、一般事務機器として使用した場合に適した償却方法しか認めないようにする、というのはルール変更という視点においては、いささかトンチンカンであることはいうまでもない。 国が定めた法定耐用年数が4年の資産であろうが10年の資産であろうが、さらに定額法で償却すると定めようが、実務上、2~3年で買換えが必要となる会社であれば、国の思惑には関係なく、時期早々に買換えが必要となる。つまり、買換えが実現できる会社であれば、会計的には多額の残存帳簿価額を除却処理することとなるであろうから、正しい期間損益の適正化は図れない結果となる。逆に買換えが実現できない会社であれば、使用する機器が古いために同業との競合に敗れ、淘汰される会社が増えることも想定できる。 本末転倒とはまさにこのことではないだろうか。 (了)
〔記載例が理解を深める〕 税務申請・届出手続解説 【第1回】 「輸出物品販売場許可申請手続」 税理士 野川 悟志 改正された輸出物品販売場における消費税免税販売制度が平成26年10月から適用されている。主な改正点としては、免税対象物品が電化製品、服、かばん、時計、カメラなどの「一般物品」に加えて、食品類、飲料類、薬品類、化粧品類などの「消耗品」も含むこととされたことが上げられる。 観光庁の資料によれば、平成26年4月から6月までの訪日外国人の土産品の購入実態は菓子類のほか、飲料、酒、たばこ、化粧品、香水などの消耗品の購入割合は高い状況となっている。今後も増加が見込まれる訪日外国人の旺盛な購買力を踏まえると、今般の改正は、事業者にとって大きなビジネスチャンスになるのではないかと考えられる。 また、輸出物品販売場は平成26年4月現在で全国に5,777件あり、昨年同期に比べ1,155件の増加となっている。地域別に見ると、東京都が2,239件(構成比39%)、大阪府が852件(同15%)、福岡県が372件(同6%)となっている一方で、島根県は1件で最も少なく、岩手県、秋田県、福井県、徳島県がそれぞれ2件となっており、地域間による格差が見られる。今後、観光産業との連携により、輸出物品販売場制度を活用した外国人観光客の誘致活動が期待されるところである。 ところで、この輸出物品販売場を経営しようとする事業者は、あらかじめ税務署長の許可を得ておく必要がある。具体的には、販売場ごとに、事業者(消費税免税事業者を除く)の納税地(本店所在地等)の所轄税務署長に、「輸出物品販売場許可申請書」を提出することになる(消法8⑥)。 この申請書には、「販売場の見取り図」、「免税販売マニュアル」、「事業内容が分かるもの」及び「取扱商品が分かるもの」を添付し、税務署では、提出された申請書を基に、販売場の実態確認等を行い審査することになる。 販売場として許可を受ける要件については、消費税法基本通達において、 とされている(消基通8-2-1)。 なお、販売場所在地の地理的要件については、申請の時点において非居住者の利用度が高いことまでを求められているのではなく、今後、非居住者の利用が見込まれる場所も含むとされている。 ちなみに、従来から許可を受けていた販売場において、今般の制度改正により新たに消耗品の免税販売を行おうとする場合であっても、改めて、輸出物品販売場の許可を受ける必要はない。 ◆手続名 輸出物品販売場許可申請手続 ◆書式名 輸出物品販売場許可申請書 ◆e-Taxによる申請 可能 ◆目的 輸出物品販売場の許可を受けようとする場合の手続(消法8⑥、消規10①)。 ◆提出期限 輸出物品販売場の許可受けようとするときに提出する。 ◆記載要領 (1) この申請書は、納税地の所轄税務署長に2通提出する。 (2) 許可を受けようとする販売場が2以上ある場合には、販売場の所在地及び名称、所轄税務署名は適宜の様式に記載して添付する。 ◆記載例 ※クリックすると別ウィンドウでPDFが開きます (了)
有料老人ホームをめぐる 税務上の留意点 【第4回】 「有料老人ホームをめぐる相続税実務のポイント」 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 有料老人ホームの入居に際して支払う費用には がある。 これらの入居費用のうち、①入居一時金以外の費用(②~⑤)については、その都度支払うものであり、その費用を夫婦間で負担しても、通常贈与税等の課税関係は生じない。 しかし、夫婦のいずれか一方が入居一時金を負担した場合等には、相続税や贈与税の問題が発生する場合がある。 今回はこの「入居一時金」と相続税・贈与税の問題について、3つの裁決事例を比較して検討してみたい。 2 相続財産に該当するとした事例 この事例は、被相続人Mと配偶者Kが夫婦で有料老人ホームに入居(入居一時金の負担状況はMが6,561万円、Kが1,220万円)したもので、Mに係る相続税の申告に関し、原処分庁は、Mの死亡に伴い生じる有料老人ホームの入居一時金等に関する返還金だけでなく、Kの返還見込額も相続財産に該当するとして、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。 ▼裁決事例集 No.72 P496 (平成18年11月29日裁決):国税不服審判所 有料老人ホーム入居時点において入居者が有することとなる入居者の死亡又は入居契約の解約権の行使を停止条件とする金銭債権は相続財産に該当するとした事例 〈裁決要旨〉 上記裁決においても、原処分庁の処分を支持し、Mの死亡により返還された入居一時金等だけでなく、配偶者Kの退所により返還される入居一時金等相当額のうち、Mの負担割合相当額についても、Mの本来の相続財産であるとしている。 これは、配偶者Kに係る入居一時金等返還金は、相続又は退所を停止条件とする金銭債権であるが、その条件はいつでも満たすことができ、条件成就により返還金が支払われ、その権利自体も預り金としての性質を持つものであり、金銭に見積もることができる経済的価値のある権利であることによる。 3 贈与税の非課税財産とした事例 この事例は、被相続人が配偶者のために負担した入居一時金は、入居契約時に被相続人から配偶者に贈与があったと認めつつも、扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与であるため非課税財産であるとした事例である。 ▼裁決事例集 No.81 (平成22年11月19日裁決):国税不服審判所 (贈与税の非課税財産)被相続人が配偶者のために負担した介護付有料老人ホームの入居金は、相続税法第21条の3第1項第2号に規定する「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」に該当するから、当該入居金は相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算する必要はないとした事例 〈裁決要旨〉 4 贈与税の非課税財産でないとした事例 これに対し、次の事例は、被相続人が配偶者のために負担した入居一時金は、入居契約時に被相続人から配偶者に贈与があり、非課税財産に該当しないと判断されたものである。 ▼裁決事例集 No.83 (平成23年6月10日裁決):国税不服審判所 (贈与税の非課税財産)被相続人が配偶者のために負担した有料老人ホームの入居金は、贈与税の非課税財産に該当しないから、当該入居金は相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算する必要があるとした事例 〈裁決要旨〉 5 まとめ このように、夫婦2人で入居する場合において、どちらか一方が入居一時金を過重に負担する場合には、上記2の事例のように契約形態によっては、入居一時金等に関する返還金等が相続財産とされることがある。 また、上記3、4の事例からは、入居一時金が、相続税法第21条の3第1項第2号に規定する「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」に該当するためには、住宅型や健康型有料老人ホームの場合には、入居一時金が、被相続人にとって入居金を負担して老人ホームに配偶者を入居させることが扶養義務を果たす上で社会通念上必然的な支出であることが求められる。 具体的には上記3の事例の要旨から、次の5つの要件が参考になる。 また、上記3、4の事例は、いずれも相続開始前3年以内の贈与であったが、単純に贈与と認定された場合には、税負担等、より影響が大きいことから、実行に当たっては、細心の注意が必要である。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第28回】 「判例分析⑭」 公認会計士 佐藤 信祐 第27回においては、相互タクシー事件に係る第1審における当事者の主張についてそれぞれ解説を行った。 本稿においては、これに対する裁判所の判断について解説を行うこととする。 ④ 裁判所の判断 ⑤ 総括 このように、本判決においては、法人税法37条のみが判断され、法人税法132条については判断されなかった。しかしながら、法人税法37条についての規定と法人税基本通達9-1-12の関連性、有価証券の取得価額と発行法人における資本勘定の取扱いなどを知る上で、重要な論点が含まれている。 本事件においては、増資払込金の中に寄附金に当たる部分がある場合には、当該寄附金に該当する部分の金額は、法人税法施行令119条2項に規定する「払込みをした金銭の額」に当たらないと解している。さらに、法人税基本通達9-1-12は債務超過会社に対する増資払込みのすべてが有価証券の取得価額を構成することを前提にした通達ではなく、経済的合理性が認められ、時価と払込金額の差額を企業支配の対価ととらえることができる場合を前提としていることから、本事件においてはこれに該当しないものと判断している。 さらに、発行法人において本件増資払込金の全額を資本勘定に組み入れたことと、原告にとって損失(寄附金)が発生するとすることとは、何ら矛盾するものではないとしている。すなわち、発行法人においては、資本等取引に該当することから、資本金等の額の増加として処理し、受贈益課税が発生しないものと解されたとしても、第三者割当増資により有価証券を取得した者においては有価証券の取得価額を構成せず、寄附金として処理されてしまうことがあり得ることを示している。 しかしながら、岡村忠生教授は、『別冊ジュリスト 租税判例百選(第4版)』(有斐閣)117頁において、この判決を判例として見るか否かについて、額面金額が廃止されたという点、組織再編税制が導入されたという点について、今日では事情が異なるという点を問題提起されている。さらに、日本スリーエス事件を紹介した上で、「払込みをした金銭の額」という条文の文言に対する経済合理性に基づく判断や私法上有効な取引の実質による上書きが、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認に見られる特質そのものであり、法人税法37条に規定する寄附金の規定が一般的に認めていると見ることはできないものとしている。 1つ目の額面金額が廃止されたという指摘については、まさにその通りである。すなわち、現行法であれば、債務超過会社に対する増資引受けについては、当該債務超過に相当する金額と払い込んだ金銭の価額のいずれか少ない金額が寄附金として認定されると考えられる。 また、2つ目の組織再編税制が導入されたという指摘についても、まさにその通りである。高額引受けによる有価証券の取得が適格分社型分割や適格現物出資により行われていた場合には、「移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額(法令119①七)」と規定していることから、同様の議論により高額引受けに該当する部分の金額を有価証券の取得価額ではなく、法人税法37条により寄附金としてこれを否認することは困難であると考えられる。また、適格分社型分割や適格現物出資を行った後にグループ内で株式譲渡を行うことについては、同一の者により直接又は間接に支配関係が維持されることが見込まれている限り、グループ内における適格分社型分割又は適格現物出資に該当する余地を残すため、このようなケースは十分に考えられる。 さらに、3つ目の同族会社等の行為計算の否認についての指摘については見解が分かれるところであると考えられるが、個人的には、法人税法37条についての条文解釈と事実認定により否認を行うべきではなかったと考えている。これに対し、日本スリーエス事件に対する平成12年11月30日東京地裁判決においては、 として、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認の適用を認めている。 このように、本事件については、法人税法37条を適用するのか、法人税法132条を適用するのかという点に争いがあるものの、寄附金として損金の額に算入することができないという点が示されたという点については、子会社の再生についての事案にとって、重要な判決であると考えられる。 次回以降では、控訴審判決、最高裁判決について触れたうえで、さらなる詳細な分析を行う予定である。 (了)
交際費課税Q&A ~ポイントを再確認~ 【第3回:2014年10月改訂】 「1人当たり5,000円以下の飲食費」 公認会計士・税理士 新名 貴則 租税特別措置法において、次の費用は税務上の交際費等から除くと定められている(措法61の4④二)。 ここでいう「政令で定めるところにより計算した金額」とは、飲食等のために支出した費用を参加者の人数で除した金額のことである。また、「政令で定める金額」とは、5,000円のことである(措令37の5①)。 したがって、飲食等のために支出した費用が1人当たり5,000円以下であれば、税務上の交際費等から除かれるという意味である。 ただし、これはその飲食等が、得意先や仕入先、その他事業に関係のある社外の者等と一緒の場合のみである。 親会社や子会社の役員や従業員は社外の者とされる。 社内の者だけでの飲食代が1人当たり5,000円以下であったとしても、これには該当しない(もちろん、そもそも交際費等ではなく会議費等に該当する場合もある)。 逆に、これらの社外の者と一緒であれば、明らかに居酒屋等での飲酒も伴う食事であったとしても、1人当たり5,000円以下であれば交際費等にはならないことになる。 このとき、以下の事項を記載した書類を保存しておくことが必要である。 この書類の様式は定められていないので、必要項目さえ網羅されていれば、任意の様式で構わない。 ◆ 判定に当たって注意すべき事項 ◆ 【税抜経理のケース】 【税込経理のケース】 (了)