2014年8月28日(木)AM10:30、Profession Journal No.83 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第2回】 「交際費課税の本来あるべき姿」 税理士 山本 守之 1 「5,000円基準」導入のいきさつ わが国の交際費課税では、社外飲食費について次のように取り扱っています。 このうち①は平成18年度税制改正で定められたもので、平成17年度までは法律にも通達にもない「1人当たり3,000円程度までは交際費としない」という課税庁が作成した基準で税務執行が行われていました(②は後述)。 民間からは法令、通達にない基準の適用を問題視する発言があり、平成17年度税制改正大綱(自由民主党)では、交際費課税について、 としました。 実は、私は30年にわたって海外諸国の財務省や国税庁等を訪問し、税制や税務行政について討議をしていますが、海外諸国では飲食費についての交際費課税は常識的で納得できるものです。 例えば、お昼時に来社した得意先に昼食を供与するときに、お昼時だから社会通念としてリーズナブルな昼食を供与したのなら交際費等としないし、昼食の供与が相手方の個人的歓心を買うためならば課税するという考え方です。 つまり、「飲食の供与が契約条件を良くするために相手側の個人的歓心を買うためであったか」それとも「社会通念として通常供与されるものなのか」で判断すべきであり、金額基準で判断すべきではないという考え方です。 「個人的歓心を買ったか否か」は、交際費課税の趣旨からすれば「合理的」といえるでしょう。 平成17年当時の自民党税制調査会の津島雄二会長は、仕事の打合時における食事代についても としていました。 これを聞いて、私も「これで日本の交際費課税は世界に恥じない正しいものになる」と期待していました。 しかし、平成18年度の税制改正で実現したのは というものでした。 EU諸国のように、「飲食の提供によって個人的歓心を買ったか」「昼食時の来客に食事を供与するのは社会的儀礼にすぎない」という実質を判断するのではなく、「金額で割り切る」という官僚的な行政だったのです。 それでも、平成18年当時は1人当たり5,000円で収まっていましたが、昨今では居酒屋で飲食すると1人当たり5,000円を超えるケースも珍しくなくなりました。 2 「5,000円基準」に対する税務調査の限界 それではと一部の法人が飲食人員の水増しをして交際費課税を免れるというケースも出てきました。国税局はこれに対して居酒屋に反面調査をし、水増しした事例について重加算税を課すというシーソーゲームが始まっています。 例えば、接待する側が2人、接待される側が2人という場合に非課税限度額は税抜きで20,000円ですが、先に飲食を始めたのが4人で、セットで料理を頼んだが、後にもう1人が遅れて参加した場合は、非課税限度額は25,000円となります。 ところが、居酒屋は遅れて参加した人まで把握しておらず、国税局に「飲食参加人数4人」と答えてしまうと、トラブルが発生します。つまり、当初人員や、突き出しの数などからだけで、参加人員は判定できないのです。 ところで、1人当たり5,000円以下の飲食を交際費等としないためには、次の事項を記載した書類を保存していることが必要です(措法61の4④・68の66④、措規21の18の2・22の61の2)。 税務調査でのトラブルを避けるためには、参加人員を明記した領収書を居酒屋などからもらっておく必要があります。 3 1人当たり5,000円超の飲食費も2分の1損金に 平成26年度税制改正では、冒頭②のとおり、交際費等のうち飲食費その他これに類する行為のために要する費用(社内飲食費を除きます。以下「飲食費」といいます)であって、帳簿書類に飲食費であることについて所定の事項が記載されているもの(以下「接待飲食費」といいます)の額の50%に相当する金額は、損金の額に算入することとされました(措法61の4①④、措規21の18の4)。 なお、中小法人については、接待飲食費の額の50%相当額の損金算入と、従前どおりの定額控除限度額(年800万円)までの損金算入のいずれかを選択適用することができ、定額控除限度額までの損金算入を適用する場合には、確定申告書、中間申告書、修正申告書又は更正請求書(以下「申告書等」といいます)に定額控除限度額の計算を記載した別表15(交際費等の損金算入に関する明細書)を添付することとされています(措法61の4)。 気になるのは、居酒屋等の飲食では税務調査の際の5,000円基準の関係で反面調査がされますが、1人当たり5,000円超となる料亭や高級レストランを利用する場合は「5,000円以下基準」による反面調査は行われないということです。 また、得意先をゴルフや観劇等に接待し、食事を供与する場合がありますが、これはゴルフや観劇と一体不可分のものでゴルフ、観劇という催物に吸収されますから、食事代だけ抜き出して「5,000円以下基準」や「2分の1損金算入」の適用はありません。 ただし、地方のゴルフ場からプレー後に東京に戻り、そこで解散し、残った者で居酒屋で飲食する場合は、「1人当たり5,000円以下基準→交際費としない」という適用や「1人当たり5,000円超基準→2分の1損金」となります。 4 交際費課税のあり方 もともと交際費課税は、本来の必要経費の範囲を超えた冗費濫費を生ずるような弊害を防止し、資本の充実、蓄積等を促進するという目的から、法人の支出した交際費等の一定部分を損金の額に算入しないという趣旨で制定されたものです。 しかし、平成26年度の改正では、「消費の拡大を通じた経済の活性化を図る観点から、飲食のための支出(社内接待費を除く)の50%を損金算入できる」とされています。 つまり、交際費課税の改正は、交際費を負担する法人の税負担に配慮したのではなく、「消費拡大を通じた経済の活性化」という言葉に示されているように、飲食業界の活性化というアベノミクスの一つであると考えられます。 日本の税は、年を追うごとに悪くなっています。 また、金額基準という後進国型の税制ではなく、費用の内容によって損金性を考えるとした先進国の税制にしなくてはならないでしょう。 (了)
平成26年度税制改正における 消費税関係の改正事項 【第2回】 「簡易課税制度のみなし仕入率の見直し② (法人の適用関係)」 税理士 金井 恵美子 シリーズの第2回は、簡易課税制度のみなし仕入率の見直しについて、その適用関係を整理してみよう。 1 適用時期 改正後のみなし仕入率は、平成 27 年4月1日以後に開始する課税期間について適用される(改正消令附則4)。 ただし、平成 26 年 10 月1日前に簡易課税制度選択届出書を提出した事業者でその課税期間につき簡易課税制度の強制適用を受けるものについては、簡易課税制度の適用を開始した課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の末日の翌日以後に開始する課税期間について改正後のみなし仕入率が適用される(改正消令附則4)。 これは、簡易課税制度はその選択から2年間継続して適用しなければならないことに配慮した経過措置であり、平成 26 年9月30日までに簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、その届出により、簡易課税制度の適用が強制される課税期間においては、改正前のみなし仕入率によることとしたものである。 したがって、平成27年4月1日以後に簡易課税制度の強制適用期間がある場合には、簡易課税制度選択届出書を本年9月30日までに提出した場合と10月1日以後に提出した場合とでは、納付すべき税額に差額が生じることとなる。 この改正は、単純に納付すべき税額を増額させるだけの改正であり、新たに簡易課税制度を選択する場合には、簡易課税制度選択届出書の提出の時期に注意する必要がある。 不動産業を営む法人について、ケース別に見てみると、次のようになる。 2 適用時期に関するケーススタディ(法人:不動産業の場合) (1) 3月末決算法人が平成25年3月31日までに簡易課税制度選択届出書を提出している場合 3月末決算法人が、平成25年3月31日までに簡易課税制度選択届出書を提出している場合には、経過措置の適用はなく、平成27年4月1日に開始する課税期間から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 (2) 3月末決算法人が平成26年4月1日から簡易課税制度を適用する場合 平成26年9月30日までに簡易課税制度選択届出書を提出した場合は、その届出により簡易課税制度の適用が強制される課税期間においては、改正後のみなし仕入率は適用されない。 したがって、3月末決算法人が、平成26年3月31日までに簡易課税制度選択届出書を提出し、平成26年4月1日に開始する課税期間から新たに簡易課税制度を適用する場合は、平成28年4月1日に開始する課税期間から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 (3) 3月末決算法人が平成26年9月30日までに簡易課税制度選択届出書を提出し、平成27年4月1日から簡易課税制度を適用する場合 平成26年9月30日までに簡易課税制度選択届出書を提出した場合は、その届出により簡易課税制度の適用が強制される課税期間においては、改正後のみなし仕入率は適用されない。 したがって、3月末決算法人が、平成26年9月30日までに簡易課税制度選択届出書を提出し、平成27年4月1日に開始する課税期間から新たに簡易課税制度を適用する場合は、平成29年4月1日に開始する課税期間から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 (4) 3月末決算法人が平成26年10月1日以後に簡易課税制度選択届出書を提出した場合 平成26年10月1日以後に簡易課税制度選択届出書を提出しているため、経過措置の適用はない。強制適用期間であるかどうかにかかわらず、平成27年4月1日に開始する課税期間から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 (5) 新規開業した3月末決算法人が平成26年9月30日までに簡易課税制度選択届出書を提出し、開業した課税期間から簡易課税制度を適用する場合 平成26年6月1日から簡易課税制度の適用を開始しているので、「簡易課税制度の適用を開始した課税期間の初日から2年を経過する日」は平成28年5月31日となり、この日の属する課税期間まで簡易課税制度が強制適用されることになる。 平成26年9月30日までに簡易課税制度選択届出書を提出しているので、その届出により簡易課税制度の適用が強制される課税期間においては、改正後のみなし仕入率は適用されないから、その後の課税期間、すなわち、平成29年4月1日に開始する課税期間から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 なお、強制適用期間は、事業年度ではなく課税期間ごとに判断する。課税期間を短縮する特例を適用している場合には、次の課税期間は強制適用期間とならないので、改正後のみなし仕入率を適用することになる。 (6) 新規開業した3月末決算法人が平成26年10月1日以後に簡易課税制度選択届出書を提出し、開業した課税期間から簡易課税制度を適用する場合 平成26年6月1日から簡易課税制度の適用を開始しているので、「簡易課税制度の適用を開始した課税期間の初日から2年を経過する日」は平成28年5月31日となり、この日の属する課税期間まで簡易課税制度が強制適用されることになる。 ただし、平成26年10月1日以後に簡易課税制度選択届出書を提出しているため、強制適用期間であるかどうかにかかわらず、平成27年4月1日に開始する課税期間から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 (7) 新規開業した3月末決算法人が平成26年9月30日までに簡易課税制度選択届出書を提出し、開業の翌課税期間から簡易課税制度を適用する場合 平成26年9月30日までに簡易課税制度選択届出書を提出した場合は、その届出により簡易課税制度の適用が強制される課税期間においては、改正後のみなし仕入率は適用されない。 したがって、平成29年4月1日に開始する課税期間から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 事業を開始した日の属する課税期間に簡易課税制度選択届出書を提出しているが、その翌課税期間から適用を開始しているので、継続する事業者と同様の判断となる。 (8) 新規開業した3月末決算法人が平成26年10月1日以後に簡易課税制度選択届出書を提出し、開業の翌課税期間から簡易課税制度を適用する場合 平成26年10月1日以後に簡易課税制度選択届出書を提出しているため、強制適用期間であるかどうかにかかわらず、平成27年4月1日に開始する課税期間から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 事業を開始した日の属する課税期間に簡易課税制度選択届出書を提出しているが、その翌課税期間から適用を開始しているので、継続する事業者と同様の判断となる。 (了)
事業者等から質問の多い項目をまとめた 「生産性向上設備投資促進税制」の『Q&A集』について 【第3回】 (最終回) 「B類型(生産ラインやオペレーションの改善に資する設備)に係る留意点」 経済産業省 経済産業政策局 産業再生課 課長補佐 矢口 雅麗 質の高い設備投資を促進するための大胆な税制である「生産性向上設備投資促進税制」について、第1回では本税制全体に共通する留意点、第2回ではA類型(先端設備)に係る留意点について説明を行ってきた。 今回は、最終回ということで、B類型(生産ラインやオペレーションの改善に資する設備)に係る留意点について解説を行いたい。 〈1 B類型の申請スキーム〉 B類型は、A類型と異なり、単品単位ではなく投資計画単位で申請を行う。投資計画に係る複数設備を丸ごと対象とする認定スキームである(〈図1〉参照)。 〈図1〉 (経済産業省「生産性向上設備投資促進税制について(平成26年7月)」p11) 設備ユーザーは、自身で投資計画を策定し、その内容についてまずは公認会計士又は税理士の事前確認を受ける。当該公認会計士や税理士と協力して一緒に投資計画を策定してもかまわない。なお、公認会計士や税理士については特に制限はなく、会計監査人や顧問税理士に事前確認を依頼してもよい【B-4】。投資計画やその添付書類等について問題ないと判断された場合は、公認会計士や税理士から事前確認書が発行される。 次に、設備ユーザーは、投資計画に事前確認書を添付し経済産業局に確認書発行申請を行う。要件を満たしている場合には、経済産業局から確認書が発行される。なお、申請は全国10箇所の経済産業局にて受け付けており、原則、設備導入場所の最寄りの経済産業局へ申請することとしている【B-5】。 なお、あくまで計画ベースで申請・確認を行うものとしており、具体的には設備の取得等の前に経済産業局からの確認書発行を受ける必要がある【B-2】。申請から確認書発行までは1ヶ月以内を目処としているので、時限的に余裕を持った申請をお願いしたい【B-1】。 〈2 B類型の対象設備〉 B類型の対象設備の特長は、非常に範囲が広いことである。車輌、航空機、船舶等を除く大半の減価償却資産が対象となる(〈表1〉参照)。 〈表1〉 ※ 器具備品のうち、サーバー用の電子計算機については、情報通信業のうち自己の電子計算機の情報処理機能の全部又は一部の提供を行う事業を行う法人が取得又は製作をするものを除く。 (経済産業省「生産性向上設備投資促進税制について(平成26年7月)」p4) A類型とは異なり、機械装置以外についても用途・細目について制限がないため、例えば器具備品のうち医療機器等も対象となり、また建物そのものについても対象となる。 〈3 投資利益率〉 B類型では、投資計画における投資利益率が15%以上(中小企業者等にあっては5%以上)であることが要件となっている。 ここで言う「投資利益率」とは、下記の〈算式1〉によって算出する。 投資利益率の算出にあたり、まず投資計画を策定する範囲について説明する。 原則、投資計画の策定単位は、全社ベースではなく、その投資計画における投資目的を達成するために必要十分な設備、言い換えれば、投資計画に記載した効果(収益)のために必要不可欠であり、かつ当該設備から生じる効果(収益)を正確に算出できる必要最小限の単位とする【B-8】。 例えば、工場の生産ラインの改善投資であれば生産ライン単位、新工場建設や新店舗出店であれば拠点単位、会社全体に係る販売・生産管理システム改善であれば会社単位が適切と考えられる。 注意点として、例えば新工場建設において、A工場を閉鎖して新工場であるB工場に移転する場合など、単なる物理的な生産体制の移動の場合は、A工場閉鎖とB工場新設を合わせて一つの投資とみなして効果を算定する必要がある。 また、複数年度にわたって設備投資を行う場合であっても、当該設備投資がその目的に照らして一つの事業として実施される場合は、複数年の投資について一つの投資計画として考える必要がある。一方、それぞれの投資目的や期待する効果が異なる場合は、それぞれ別の投資計画として考え、別々に申請をする必要がある【B-16】。 なお、設備の取得前に確認書発行を受ける必要がある旨は既に説明したが、一連の設備投資において、既に一部の投資が完了している場合は、基本的に申請は不可であるが、完了した投資分を除いて、未取得の部分のみで設備投資の効果(収益)を適切に算定できる場合は、未取得部分のみの申請を可とする【B-13】。 例えば、それぞれ独立した生産ラインを3つ新設する場合で、うち2ラインについては既に取得済であっても、残り1ラインはこれから取得するような場合は、残り1ラインだけの独立した効果(収益)が算定可能であり申請可であると考えられる。 一方、例えば3台の機械により構成される生産ラインの新設において、既に2台が取得済で、1台が未取得である場合は、あくまで3台がそろって初めて生産が可能となるものであり、未取得の1台だけの独立した効果(収益)は算定不可能と考えられるため、このような場合は申請は不可である。 次に、具体的に投資利益率を算出するための計算方法について説明する。 上記の「必要十分な」という考え方から、当該効果(収益)を計上するために本税制の対象外となっている設備(車輌や160万円未満の機械装置等)が必要である場合は、これらの本税制対象外設備の取得価額についても分母の設備投資額に加える必要がある【B-11】。 また、補助金を受けて圧縮記帳をする設備についても、投資利益率算出の際には圧縮記帳前の数字を使用する【B-15】。 注意いただきたい点として、投資利益率を良くするために、恣意的に一部設備を除くこと等は認めていない。例えば新工場建設案件において、金額の大きい建物部分を除いて申請することは一切不可である。 なお、あくまでA類型とB類型はそれぞれ全く別の認定であり、B類型の認定を受ける際には、A類型で必要とされている「最新モデル要件」や「生産性向上要件」を満たす必要はない【B-12】。 〈4 その他留意点〉 確認書の発行を受けた後、設備ユーザーは、3年間の投資計画期間中、決算確定後に毎年1回(合計3回)、状況報告書を提出する必要がある。 状況報告書では、実際に設備投資を行ったかどうか、計画ベースではなく実際の投資利益率がどう推移しているか等を報告いただくことになるが、あくまで税制措置の適用可否は計画ベースで判定することから、万が一計画未達成であったとしても、税制措置の取り戻し等の規定はない【B-14】。 また、確認書発行後から実際に設備を取得するまでの間に、投資額が増加する等、投資利益率が悪化する方向の変更があった場合には、変更申請書を提出し、悪化後でも投資利益率が15%以上(中小企業者等は5%以上)を満たしているかどうかを再確認する必要がある。 ただし、状況報告書や変更申請書については、公認会計士や税理士の事前確認は不要であり、作成後、直接経済産業局へ提出いただきたい【B-17】。 * * * 以上がB類型についての留意点であるが、個別案件についての相談は、実際に案件受付・確認を行っている最寄りの経済産業局までお願いしたい。 全3回にわたり「生産性向上設備投資促進税制」における留意点を解説してきたが、本税制の理解にあたり、本解説やQ&A集が、少しでも事業者の皆さんのお役に立つことができれば幸いである。 ぜひ本税制を活用し、生産性向上に向けた質の高い設備投資を積極的に決断・実行いただきたい。 (連載了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例17(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 依頼者は不動産の売買、仲介業であり、土地の売買も行うことから、当初より課税売上割合が95%未満になることが予想された。 税理士は設立初年度から関与し、第1期の課税売上割合が95%未満となり、全額控除ができないため、本来であれば有利不利の検討を行い、個別対応方式か一括比例配分方式を選択すべきところ、十分な検討をしないまま一括比例配分方式で申告を行った。 しかし、実際には個別対応方式が有利であったことから、個別対応方式と一括比例配分方式との差額250万円につき損害が発生し、賠償請求を受けた。 なお、一括比例配分方式は2年間の継続適用要件があるが、第1期が1年未満であったことから、損害期は平成X4年3月期から平成X6年3月期までの3期にわたる。 《賠償請求の経緯》 依頼者は不動産の売買、仲介業を営む資本金1,000万円の新設法人である。 税理士は設立と同時に関与した。 設立初年度は8ヶ月であった。 第1期及び第2期の消費税を一括比例配分方式で申告。 依頼者からの問い合わせにより、個別対応方式が有利であることが判明。 継続適用要件のため、第3期も一括比例配分方式となる。 《基礎知識》 ◆課税売上割合が95%未満の場合(消法30②) 課税売上割合が95%未満の課税事業者は、課税売上に係る消費税額から課税仕入れ等の税額について個別対応方式又は一括比例配分方式のいずれかに基づいて計算した消費税額を控除する。 一般的に課税売上にのみ要する課税仕入れが多い場合や、課税売上割合が低い場合には、個別対応方式を採用した方が有利になる。 ◆一括比例配分方式(消法30④⑤) 一括比例配分方式は、課税仕入れ等に係る消費税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算する。そのため、個別対応方式に比べ一括比例配分方式の方が、手間がかからない。 ただし、一括比例配分方式を採用した事業者は、この方法により計算することとした課税期間の初日から同日以後2年を経過する日までの間に開始する各課税期間においてその方法を継続した後の課税期間でなければ、個別対応方式に変更することはできない。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 依頼者は不動産の売買、仲介業を営んでおり、土地の売却なども行っていたことから、設立初年度から課税売上割合が95%未満になることが予想された。 税理士はこれを念頭に設立初年度の決算期に個別対応方式と一括比例配分方式の有利不利の検討を行い、個別対応方式を採用すべきであった。にもかかわらずこれを怠り、安易に一括比例配分方式で申告を行ったため、結果として第3期まで一括比例配分方式での申告となってしまった。 設立初年度の期末までに有利不利の検討を行っていれば個別対応方式は採用できたことから、税理士に責任がある。 《予防策》 [ポイント①] 設立初年度は特に慎重な検討を 設立初年度から消費税の納税義務者となる場合には、設立初年度の実績しかないため、原則、簡易の判定はもとより、原則課税の場合においても、個別対応方式、一括比例配分方式のいずれが有利になるかの検討を依頼者を含めて必ず行う。 その際、2年間の継続適用要件のある簡易課税や原則課税における一括比例配分方式については、2年間のトータルで有利、不利の判断をする必要がある。 [ポイント②] 意思決定の証拠を書面に残す 上記検討の結果、最終的にどちらを選択するかの意思決定は依頼者に求め、その判断を「意思決定通知書」などを作成して依頼者に提出してもらう等、証拠として書面に残すことが重要である。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第8回】 「みなし共同事業要件の濫用(東京地裁平成26年3月18日判決)⑧」 公認会計士 佐藤 信祐 前回までは、特定役員引継要件を満たしている場合について、包括的租税回避防止規定を適用することができるか否かについて、特定役員引継要件の趣旨からの分析を行った。裁判所の理論構成はやや乱暴であり、とても同意できるものではないが、「移転資産に対する支配の継続」というものが特定役員引継要件の制度趣旨であり、その制度趣旨に反した場合には、「不当」と評価され、包括的租税回避防止規定が適用される可能性があるというのが一応の整理となろう。 第8回に当たる本稿においては、本事件における取締役副社長の就任が「不当」と評価されるものであったか否かについて分析を行うものとする。 (ⅲ) 本件組織再編成における不当性要件の充足の有無 第4回で解説したように、本事件において、裁判所は以下の事実関係があるものと判断している。 このような事実関係の下で、 と判示している。 すなわち、買収・合併とは無関係のものではなく、買収・合併があるからこそ、事前に取締役副社長として送り込まれたのであり、買収前の資産に対する支配は継続していないという判断となっており、そこに、取締役副社長としての実態が存在したか否か、その就任に税目的以外の事業目的が存在したか否かということは、ほとんど裁判所の判断に影響を与えていないことになる。 また、裁判所は、①従業員との契約は会社分割により別のF社に移転されてしまっていること、②買収対価の450億円のうち、200億円が繰越欠損金の価値であること、③事業規模に著しい差が存在し、事業規模要件を満たしようもないことを挙げており、その実質において、単なる資産の売買に留まるものであり、みなし共同事業要件を満たす合併としての性格が極めて希薄であると指摘している。 そのほかにも、④本件買収は、C社の繰越欠損金を余すことなく処理することを出発点としていること、⑤取引に係る契約書のほかに、差入書が作成されており、原告とB社において、繰越欠損金の引継ぎが認められない可能性が相当程度あることを認識していたことも触れているが、ある程度の節税効果が認められるものについては、包括的租税回避防止規定が適用される可能性がほとんどない場合であっても、差入書を作成することは不思議なことでもないので、これは補足的に捉えるべきであろうし、裁判所の判断においても、大きな影響を与えていないように読み取れる。 すなわち、裁判所の判断としては、取締役副社長としての実態が存在したとしても、その就任に税目的以外の事業目的が存在したとしても、買収・合併前からの資産に対する支配が継続していたと認められないのであれば、包括的租税回避防止規定を適用することが可能であるとしている。 確かにこの理屈であれば、本事件において、原告が敗訴になるというのも分からなくもない。前回解説した「施行令112条7項5号に係る法132条の2の適用の在り方」については、もう少し納得感のある文章である必要もあるが、「移転資産に対する支配の継続」というものが特定役員引継要件の制度趣旨であるということだけを抜き出せば、一応の整合性は取れる内容となっている。 しかしながら、制度趣旨に反するものについて包括的租税回避防止規定を適用することができるという解釈については、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算において導入されず、経済合理性で判断するという解釈になったのはなぜであろうか。 斉木論文から推測すると、 というのが制度趣旨であると考えるのであれば、「少数の株主等の支配によって生じた所有と経営の分離を前提とする純経済人から乖離した行為又は計算が経済的合理性を欠くもの」(※2)として、本規定の適用対象になったということとして説明できるであろう。 そうなると、純経済人を前提とする包括的租税回避防止規定においては、経済合理性で判断するという理論構成にはならず(※3)、不当性の判断については、制度趣旨からの逸脱ということになってくる。 (※1) 金子宏(2013)『租税法(第18版)』弘文堂441頁 (※2) 斉木秀憲(2012)「組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について」税大論叢73号30頁 (※3) 斉木秀憲(2012)前掲(※2)31頁 しかしながら、租税回避の定義については、従来から、 とされており(※4)、同族会社等の行為計算の否認に限って定義されたものではない。 (※4) 金子宏(2013)前掲書(※1)121頁 そのため、制度趣旨に反するという理由で包括的租税回避防止規定を適用することができるというのであれば、租税回避の考え方そのものを見直す必要があり、租税法律主義とのバランスからすると、より慎重な対応が求められることは言うまでもない。 従来の考え方であっても、租税回避のみを目的としているにもかかわらず、わずかな事業目的を外形的に作り出して、実行された組織再編成に経済的合理性があることを主張したとしても、租税回避に該当させる余地は十分にあり(※5)、その解釈の延長線上で、取締役副社長の就任が実態を伴ったものであったとしても、「わずかな事業目的」にしかならないものであり、不自然・不合理なものであれば、経済合理性がないと判断することも可能であったと考えられるし、もし不可能であるのであれば、平成13年度の税制改正当時には明らかにしてこなかった包括的租税回避防止規定の適用対象について、わざわざ10年経過したこのタイミングで同族会社等の行為計算の否認よりも広い範囲にするというのは如何なものであろうか。 (※5) 佐藤信祐(2009)『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』中央経済社12頁 租税法律主義とのバランスを考えると、いささか納得感の得にくい判決内容であり、控訴審、上告審においてより明らかになることを期待している。 次回以降においては、別訴において争われている資産調整勘定の計上について否認を受けた事件について解説を行う予定である。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第8回】 「請求書の消費税の記載の仕方と源泉徴収」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、弁護士に訴訟案件の対応を54万円(税込)で依頼し、無事解決しました。先日、弁護士事務所より「弁護士報酬54万円(税込)」と記載された請求書が届きました。 また、当社は、税理士と月額5万4千円(税込)で顧問契約を締結しています。毎月、税理士事務所より「税理士報酬5万円、消費税4千円」と記載された請求書が届きます。 弁護士報酬と税理士報酬とでは請求書の消費税の記載の仕方が異なっています。所得税及び復興特別所得税を源泉徴収する上での注意点があればご教示ください。 弁護士報酬は、消費税込の54万円を源泉徴収の対象とする。税理士報酬は、消費税別の5万円を源泉徴収の対象とする。 弁護士報酬と税理士報酬は、所得税法204条1項の報酬に該当するため、報酬の支払い時に所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。税率は、所得税率10%と復興特別所得税率0.21%の合計10.21%である。 また、所得税法204条1項の報酬の源泉徴収の対象とする金額は、原則は報酬に消費税を含めた消費税込の金額である。ただし、請求書等において報酬と消費税が明確に区分されている場合には、消費税別の金額を源泉徴収の対象として差し支えない(課法9-1)。 今回のケースでは、弁護士報酬は、請求書において消費税が別表記されておらず、報酬と消費税が明確に区分されていない。したがって、原則通り、消費税込の54万円を源泉徴収の対象とする。一方、税理士報酬は、請求書において消費税が別表記されており、報酬と消費税が明確に区分されている。したがって、消費税別の5万円を源泉徴収の対象とすることができる。 以上より、弁護士報酬と税理士報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税は、次の通りである。 ① 弁護士報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税 ② 税理士報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税 (了)
〈条文解説〉 地方法人税の実務 【第6回】 「確定申告(第19条)の取扱い」 税理士 小谷 羊太 税理士 伊村 政代 今回は、「第四章 第二節 確定申告(第19条)」について詳解する。 1 確定申告 【第19条第1項】 【第19条第2項】 2 提出期限 当課税事業年度が平成27年4月1日~平成28年3月31日の法人であれば、平成28年4月1日から平成28年5月31日の間に確定申告書を提出しなければならない。 3 申告書の内容 地方法人税法の確定申告書には、次の金額を記載することになる。 【第19条第1項第1号、第2号】 ①の課税標準法人税額、②の地方法人税の額の流れは、次の図のようになる。 【第19条第1項第3号、第4号】 中間申告書を提出している法人は、通常予定納税をしているので、その予定納税分の地方法人税額を確定申告による地方法人税額から控除することになっている。 ただし、前年度の実績により中間申告分の地方法人税額を納税している会社が、仮に当年度の実績が前年度に比べて大きく減少していたり、赤字であったりする場合には、確定申告による1年分の地方法人税額が中間申告分の地方法人税額よりも少なくなっていることが起こりうる。 その場合には、その控除しきれなかった地方法人税額は法人税法と同様に還付されることとなる。 【第19条第1項第5号】 課税標準法人税額、地方法人税の額、中間申告分の地方法人税の額などの記載にあっては、その金額を計算するために使用した数値なども記載する。またその他、法人の名称や所在地などを記載する。 (了)
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第18回】 「欠損金の繰戻し還付」 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 欠損金の繰戻し還付制度とは 青色申告書を提出する事業年度において欠損金が生じた場合(以下、この事業年度を「欠損事業年度」という)に、次の3つの要件に該当すれば、欠損金として翌事業年度以降9年間(または7年間)にわたって繰越控除するのではなく、その欠損金額を事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度(以下「還付所得事業年度」という)の所得金額に繰り戻し、既に納めた法人税額から、欠損金に相当する金額の還付を受けることができます(法法80)。 2 適用対象法人 この制度は、解散等の事実が生じた場合を除き、適用が停止されています(法法80、法令154の3、措法66の13①)。しかし、平成21年度税制改正において、中小企業に対する支援を目的として中小法人等に対してのみ繰戻し還付制度の適用停止措置が廃止されました。 その結果、中小法人等の平成21年2月1日から平成28年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額については、前事業年度に納付税額がある場合には、繰り戻すことが可能とされました。 3 還付請求できる金額 還付請求できる金額の計算は次のとおりです。 また、欠損金の繰戻し還付による繰戻しが可能な期間は1年間に制限されているため、欠損金額が還付所得事業年度の所得金額を上回る場合でも、前々事業年度以前に遡って欠損金を繰り戻すことはできません。したがって、還付請求できる金額は、分母の金額(=還付所得事業年度の所得金額)が限度になります。 例えば、欠損金額が600万円で、前事業年度の所得金額が400万円、法人税の額が60万円の場合には、還付請求できる金額は60万円が限度となります。 (※) 分子の「欠損事業年度の欠損金額」の限度額は、分母の「還付所得事業年度の所得金額」となります。 4 欠損金の繰戻し還付制度における留意点 欠損金の繰戻し還付制度は法人税についてのみ認められている制度であるため、地方税(法人住民税、事業税)については適用がありません。また、欠損金の繰戻し還付請求を行った場合には、確認のため、税務調査の対象となることがありますので留意が必要です。 5 繰戻し還付制度と繰越控除制度の比較 欠損金の繰戻し還付制度の適用対象法人である中小法人等においては、前回解説した欠損金の繰越控除制度(法法57)が規定されており、いずれかの選択適用が可能になります。 繰戻し還付制度と繰越控除制度の主な違いは、以下のとおりです。 繰戻し還付制度を選択した場合には、繰越控除制度と比べて比較的早く還付金を受け取ることができるため、資金繰りの点で有利といえます。また、発生した欠損金が多額で欠損金の繰越控除期間の9年(または7年)以内に所得金額から控除することができない場合には、欠損金は切り捨てられますので、繰戻し還付制度を選択した方が有利になる場合があります。一方、下記の6のように標準税率が適用される場合には、繰越控除制度を選択した方が有利になる場合があります。 いずれかの制度を選択するかにより、納付税額に有利不利が生じる可能性がありますので、個々の事実に即した試算を行い、慎重に検討を行うことが必要です。 6 繰戻し還付制度と繰越控除制度の計算例 A社は、資本金額2,000万円の内国法人(3月決算)であり、欠損事業年度(平成26年3月期)と還付所得事業年度(平成25年3月期)において、青色申告書である確定申告書を提出期限内に連続して提出しています。 また、各事業年度の所得と欠損の金額の実績および翌事業年度の所得金額の予想は次のとおりです。 繰戻し還付制度 (単位:万円) 繰越控除制度 (単位:万円) 繰越控除制度を選択した場合、繰戻し還付制度を選択した場合よりも、前事業年度から翌事業年度までの3年間の法人税額は、42万円(=894万円-852万円)少なくなります。 繰戻し還付制度において還付請求できる金額は、年800万円以下の所得に対して軽減税率が適用された前事業年度の法人税額を基に算定するのに対して、繰越控除制度において控除する欠損金額は標準税率が適用される前の所得金額から控除されるためです。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【42】 〔第5章〕法令用語 (その28) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 14 不確定概念と宥恕規定 (3) 「相当の(な)理由」 「相当の理由」と「特別の事情」は、前回述べた「正当な理由」や「やむを得ない事情」等とは異なり、通常、公権力の行使における裁量権、例えば税法においては、税務署長等課税庁に何らかの裁量権が与えられている場合に、その裁量権を行使するか否かの限界を画する基準として規定されている。 前々回、「正当の理由」の「正当」とは、正しいこと、道理にかなっていることで、一般的な正しさや、正当性を指すものである旨記した。 では「相当の理由」の「相当」とは何であろうか。 【第39回】で述べたように、一般的に、「相当」は「ふさわしいこと」、「つりあうこと」を意味している(なおこの回に、税法においては「相当する」という語が「対応する」というようなニュアンスの語としても使われている旨述べたが、当然この場合はその意味ではない)。 したがって「相当の理由」は、「それにふさわしい理由」「合理的な理由」という意味で使われる。 どのような場合が「それにふさわしい理由」といえるのか、あるいは「合理的な理由」といえるのかということは、その言葉が使われている条文の立法趣旨に応じて判断されることになるが、「合理的な理由」という意味である以上、客観的に、経験則や条理に従って合理的であると認定される理由でなければならない。 例えば、刑事訴訟法には以下の用例がある。 これは通常逮捕の要件の一つであり「逮捕の理由」といわれるものでるが、具体的には、特定の犯罪の嫌疑を肯定しうるような客観的・合理的な根拠があることをいい、すでに捜査機関が集めた捜査資料に基づいて相当高度の嫌疑が経験則上認められるということが必要である。 しかし、刑事訴訟法第210条にある「緊急逮捕」の要件とされる「死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由」ほど確実な嫌疑である必要はないとされる。 また同様の規定として、警察官職務執行法第2条第1項には、以下の条文がある。 ここにあるように、警察官の職務質問は合理的に疑い得る理由が必要であり、同法の1条2項において禁じられている権限の行使の濫用のみならず、警察法第2条第1項所定の目的を逸脱して行われた職務質問も違法とされる。 その他、自衛隊員の武器の使用について定めている自衛隊法第95条にも、この「相当の理由」という用語が使用されている。 税法には、国税徴収法に以下の規定がある。 この第1項において、原則日没後の捜索は禁止されているが、夜間捜索を実施せざるを得ないと客観的、合理的に認定されうる理由がある場合には、許されることになる。 このように「相当の理由」には、客観性、合理性が求められるのであるから、その意味では前回取り上げた「やむを得ない理由」よりも、さらに明確であることが要求されているものとされる。 もう1つ、国税通則法第23条第5項を見てみよう。 この場合には「正当な理由」よりは幅が広いが、「相当の理由」として猶予すべき理由に客観性、合理性が求められるために、「やむを得ない理由」よりも限定的であるとされる。 (4) 「特別の事情」 「特別の事情」というのは、「普通の事情とは異なった困難な事情」を意味している。 納税の猶予の要件等を規定した国税通則法第45条第5項を見てみよう。 この場合の、担保徴することができない「特別の事情」とは、一般的には担保を徴収すべきところ、金融機関の与信等の関係から担保を徴取すると事業経営に回復困難な影響を与えるおそれがあるというような特別の事情を指す。 (了)