「企業結合に関する会計基準」等の 改正点と実務対応 【第4回】 「共通支配下の取引の会計処理②」 ~子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)の連結財務諸表上の会計処理~ 有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 布施 伸章 (注)本連載記事において、文中、意見に関する部分は筆者の私見である。 1 はじめに 今回は、平成25年改正連結会計基準のうち、子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)の連結財務諸表上の会計処理について解説する。 解説に当たっては、以下の設例をもとに、会計基準の改正前と改正後の会計処理及び連結財務諸表への影響を比較しながら行う。 なお、以下の文中、「改正前(後)仕訳○」は、設例中の「改正前(後)会計基準」欄の仕訳No.を示している。 2 子会社株式の一部売却(売却後も支配関係は継続)の会計処理 子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)には、改正前会計基準では、以下の改正前仕訳⑥のように、売却した株式に対応する持分80を親会社の持分から減額し、非支配株主持分(少数株主持分)80を増額(※)する。そして、売却による親会社の持分の減少額(売却持分(※))80と投資の減少額72との間に生じた差額8は、子会社株式の売却損益の修正として処理する。 さらに、のれんの未償却額64のうち売却した株式に対応する額26(=64×40%=25.6)を、子会社株式売却損益の修正として処理するものとされていた(改正前連結会計基準29項、(注9)(1))。この結果、連結財務諸表には子会社株式売却益が44(=78-(8+26))計上されることになる。 改正後会計基準では、以下の改正後仕訳⑥のように、売却した株式に対応する持分を親会社の持分から減額し、非支配株主持分(※)80を増額する。そして、売却による親会社の持分の減少額(売却持分(※))80と売却価額150との間に生じた差額70を、資本剰余金とすることとされた(改正後連結会計基準29項)。 (※) 売却持分及び増額する非支配株主持分については、親会社の持分のうち売却した株式に対応する部分として計算する(連結会計基準(注9)(1))。 【図表】 設例の仕訳No.6を抜粋 (注) 子会社株式の一部売却において、関連する法人税等(子会社への投資に係る税効果の調整を含む。)は、資本剰余金から控除することとされているが(連結会計基準(注9))、この点については本連載【第6回】で取り上げる。 上記の改正後仕訳⑥を、上段と下段に分けて改めて考えることとする。 上段は、親会社の個別財務諸表で計上された子会社株式売却益78から売却持分に対応した子会社投資に係る損益(連結上は認識済)8(=200(連結上の評価額)×40%-72)を控除するための調整である。この会計処理にあたり、売却後も支配関係が継続しているときは、上段の子会社株式売却損益の調整処理において、売却時に関連するのれんの未償却残高があっても、それを取り崩してはならない点に留意する必要がある。 下段は、売却価額150と売却持分に対応する連結上の評価額80との差額70を親会社の個別財務諸表で計上された子会社株式売却益から資本剰余金へ振り替えるための調整である。 この結果、親会社の個別財務諸表で計上された子会社株式売却益78は、連結上はゼロとなる。 3 改正による連結財務諸表への影響 設例では、X2/3期とX3/3期のいずれの期も、親会社の損益はゼロ(X3/3期は子会社株式売却益を除いて損益ゼロ)、子会社の当期純利益は100としている。 (1) X2年3月期(持分比率100%) 子会社で計上された利益100から支配獲得時に計上した親会社持分(100%)に係るのれんの償却額16が控除されるため、当期純利益は84となる(親会社帰属額も同額)。 (2) X3年3月期(持分比率60%) ① 連結P/L 子会社株式の一部売却が行われた年度の連結損益に与える影響は、子会社株式売却益の調整処理(資本剰余金への振替)とのれん未償却残高の取扱いの相違から生じる。 〈子会社株式売却益の調整処理:親会社の利益〉 改正前は売却価額と親会社持分(のれんの未償却残高の調整後)との差額44(=150-(80+26))は、子会社株式売却益として連結上も当期純利益に計上された。 改正後は売却価額と親会社持分との差額70は、損益ではなく資本剰余金に直接計上されることとなった。 〈のれん未償却残高の取扱い:子会社の利益〉 期首に子会社株式の一部売却が行われているため、その年度に子会社が計上した利益100は、親会社帰属額60(60%)、非支配株主持分帰属額40(40%)となる。 改正前会計基準では、子会社株式の一部売却後ののれん償却額は売却後の持分(60%)に対応する額9(=64×60%/4年(残存償却年数)=9.6)だけが計上されていた(改正前仕訳⑧)。 改正後会計基準では、改正後仕訳⑥のように、一部売却時におけるのれんの未償却残高を取り崩さないため、のれんの償却額は当初取得時持分(100%)に対応する額16が継続的に計上されることになる。 このように、子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)には、子会社が計上した利益の親会社帰属割合(60%)とのれん償却額の親会社帰属割合(100%)とが異なることになる。 上記の結果、当期純利益は、改正前は135であるが、改正後は84と減少し、また、当期純利益の親会社帰属額も、改正前は95であるが、改正後は44(=100(子会社利益)×60%-16(のれん償却額))となる。 ② 連結B/S 改正後会計基準では、売却持分に対応したのれん未償却残高19(=(64-16)×40%=19.2)が取り崩されないため、改正前との比較では、貸借対照表に計上されるのれん未償却残高がその額だけ大きくなる。 なお、その後、子会社株式を処分した場合(支配関係を喪失)には、当該のれんの未償却残高が取り崩されることになるため、改正前との比較では、その分、子会社株式売却益が小さくなる(この点については、次回【第5回】で取り上げる)。 4 設例 【買収年度(X1/3/31)】 ●P社はX1/3/31にS社持分の100%を180で取得した。 ●支配獲得時のS社の諸資産の時価と簿価は同じである。 ●P社及びS社のX1/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【翌年度(X2/3/31)】 ●P社の当期純利益は0、S社の当期純利益は100である。 ●のれんの償却期間は5年(年間償却額16)である。 ●P社及びS社のX2/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【一部売却年度(X3/3/31)子会社(100%)→子会社(60%)】 ●P社は期首(X2/4/1)にS社株式の40%を150で売却し(売却後持分60%)、個別財務諸表上、子会社売却益を78計上(=150-(180×40%))した。 ●P社の当期純利益(売却益78を除く)は0、S社の当期純利益は100である。 ●税効果は省略する。 ●のれんの償却期間は5年(年間償却額16)である(改正前会計基準における売却後の持分に係るのれんの償却期間は5年(年間償却額9)である)。 ●P社及びS社のX3/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【参考】 会計基準の改正前と改正後の連結上の評価額の推移 【参考】 会計基準の改正前と改正後の子会社の当期純利益の帰属額の比較 (了)
林總の 管理会計[超]入門講座 【第15回】 「個別原価計算への誤解」 公認会計士 林 總 特定の製品・作業に対する集計方式ではない 個別原価計算であるべき理由 (了)
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第23回】 「完全支配関係にある国内会社間の譲渡取引」 公認会計士 阿部 光成 「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果実務指針」という)と「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第6号。以下「連結税効果実務指針」という)では、完全支配関係にある国内会社間の譲渡取引について規定している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 完全支配関係にある国内会社間の譲渡取引 1 一時差異 完全支配関係(法人税法2条12の7の6号)にある国内会社間の資産の移転に係る譲渡損益のうち一定の要件を満たすものは課税の繰延べが行われる。 課税の繰延べを行った場合、税務上の調整資産又は調整負債が生ずることになる。 個別税効果実務指針では、完全支配関係にある国内会社間の資産の移転による譲渡損の繰延べに係る税務上の調整資産については将来減算一時差異となると規定している(個別税効果実務指針8項)。また、完全支配関係にある国内会社間の資産の移転による譲渡益の繰延べに係る税務上の調整負債については将来加算一時差異となると規定している(個別税効果実務指針10項)。 以下において会計処理を述べるが、これらに関する税効果会計の考え方は資産負債法で整理するところがポイントになる。 2 完全支配関係にある国内会社間の譲渡取引の損益の繰延べ 前述のとおり、譲渡当事会社の属する企業集団の連結財務諸表において、譲渡した事業年度の課税所得を構成せずに課税が繰り延べられることとなる損益は、基本的には、連結財務諸表上においても消去されることから、繰延税金資産及び繰延税金負債を認識しない(連結税効果実務指針12-2項、47項)。 3 企業集団内の会社に投資(子会社株式又は関連会社株式)を売却した場合の税効果 連結税効果実務指針30-2項では、企業集団内の会社が企業集団内の他の会社に投資(子会社株式又は関連会社株式)を売却すると、個別貸借対照表上の投資簿価が購入側の取得原価に置き換わることになり、投資の連結貸借対照表上の簿価との差額、すなわち、連結財務諸表上の一時差異の全部又は一部が解消することとなると規定している。 この場合、企業集団内での投資の売却により、追加的に又は新たに発生する一時差異については、連結税効果実務指針30項に従い会計処理することになる。 ある会社が完全支配関係にある他の会社に投資(子会社株式又は関連会社株式)を売却したことにより発生した譲渡損益の繰延べに係る税務上の調整資産又は負債に係る個別財務諸表上の一時差異の税効果については、連結財務諸表上も、修正されずに、個別財務諸表上において認識された繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されることになると規定している。 連結税効果実務指針53-2項では、企業集団内における完全支配関係にある国内会社間において、投資を売却することにより、売手側の個別貸借対照表上、完全支配関係にある国内会社間における資産の移転による譲渡損益の繰延べに係る税務上の調整資産又は負債として、将来減算一時差異又は将来加算一時差異が生じ、これに係る繰延税金資産又は繰延税金負債が認識されている場合には、投資に係る一時差異とは性格が異なるものであるため、連結財務諸表上においても、個別財務諸表上において認識された繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されることになると述べている。 Ⅱ 設例 企業集団内の会社に投資(子会社株式又は関連会社株式)を売却した場合の税効果については、理解しにくい内容であるので、連結税効果実務指針でも次の設例により解説している。 【売却前後で税効果が同じ結果となるケース(売却後、子会社の投資に係る将来減算一時差異に回収可能性がある場合)】 (*1) S1社におけるS3社株式の税務上の簿価 (*2) S1社におけるS3社株式売却益に係る税務上の調整負債 (*3) S2社におけるS3社株式の税務上の簿価 【仕訳】 ■売却前 〈連結〉 ■売却後 〈S1社個別〉 〈S2社個別〉 〈連結〉 親会社P社と完全支配関係にある企業集団内のS1社が、同じく完全支配関係にある企業集団内の他のS2社に投資(S1社個別上の簿価100、連結上の簿価120)を130で売却する場合、売却前に、子会社への投資に係る将来加算一時差異20に対して、連結上、企業集団内であるが、売却予定があるため、繰延税金負債8(=20×40%)を計上していたものとする。 その後、投資を売却した場合、当該一時差異20が解消し、新たに10(=120-130)の将来減算一時差異が生じることになる。この場合、繰延税金負債8を戻し、また、S2社において投資を売却する予定があり、かつ、回収可能性に問題ないときは、繰延税金資産4(=10×40%)が計上される。 また、S1社とS2社が完全支配関係にあるという前提においては、S1社において、譲渡損益の繰延べに係る税務上の調整負債30(=130-100))について、繰延税金負債12(=30×40%)が計上される。これは、上記の投資に係る一時差異とは異なるものであるため、連結財務諸表上も、繰延税金負債12が計上される。 この結果、投資の売却前後とも、純額の繰延税金負債は8となり、同じ結果となる。 (了)
年金制度をめぐる 最新の法改正と留意点 【第3回】 「年金強化法等における改正事項(その1)」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 「社会保障と税の一体改革関連法」の成立に伴い「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(年金機能強化法)」が公布(平成24年8月22日)されている。 施行日は改正内容によって異なるが、一部は平成26年4月1日から施行される。 1 遺族基礎年金の支給対象の拡大(平成26年4月1日施行) 国民年金の遺族年金である遺族基礎年金は、被保険者又は被保険者であった者の妻又は子に支給されていたが、その遺族の範囲が妻又は子から配偶者又は子へ改定され、父子家庭の父親にも遺族基礎年金が支給されることとなった。 また、遺族基礎年金の改正に伴い、遺族厚生年金も改正され、今まで妻が死亡したとき、夫は遺族厚生年金の受給権者になっても60歳まではその支給が停止されていたが、夫が遺族基礎年金の受給権を有するときは、支給停止されず、遺族厚生年金が支給されるようになった。 〈国民年金法第37条〉 〈関連:遺族厚生年金保険法65条の2〉 2 産前産後休業期間中の社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の免除(平成26年4月1日施行) (*) 育児休業期間は、原則として、子が出生した日から満1歳になるまでであるが、女性の場合は産後休業が終了した日の翌日から育児休業が開始される。 現在、育児休業期間の社会保険料は事業主の申出により免除となっているが、産前産後休業期間中(産前42日、産後56日)は保険料が免除されない。 これが平成26年4月より、次世代育成支援の観点から、産前産後の休業期間についても、事業主の申出により、事業主及び被保険者の保険料が免除になる。 3 産前産後休業期間を終了した際の標準報酬の改定措置(平成26年4月1日施行) 育児休業等終了時改定と同様の方法により、産前産後休業終了時においても、標準報酬月額の改定(産前産後休業終了時改定)の対象となる。 ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業を開始している被保険者は改定措置の対象とならない。 4 受給資格期間の短縮(平成27年10月1日施行予定) 将来の無年金者の発生を抑えていくという観点から、老齢基礎年金の受給資格期間が25年から10年に短縮される。 現在、受給資格期間を満たさず無年金である高齢者に対しても、改正後の受給資格期間を満たす場合は施行日以降、年金が支給されることになる。 〈国民年金法第26条〉 10年の受給資格期間の対象となる年金は、老齢基礎年金、老齢厚生年金、退職共済年金、寡婦年金及びこれらに準じる旧法の老齢年金である。 (了)
年俸制と裁量労働制 【第4回】 (最終回) 「年俸制と裁量労働制の運用上のポイント」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 年俸額に割増賃金分を含める場合 年俸制を導入する際に、年俸額に一定の割増賃金分も含めたい場合は、「この程度含んでおけば問題ないであろう」といった推測で決めるのではなく、過去1年間でどの程度の残業時間が発生しているのか、法定時間を超えている勤務状況を確認し、これを元に算出された割増賃金を含んだものとして年俸額を計算すべきである。 あらかじめ想定していた時間外勤務時間を超えて勤務した場合には、当然に割増賃金の支払いが必要となるのであり、始めから残業時間分を年俸額に含んでいるから問題ないということではない点を十分に認識しておく。 裁量労働制の労働時間管理 裁量労働制の運用にあたり、「業務の遂行手段や時間配分について、使用者が細かく指示するのではなく、労働者本人の裁量に任せる」という点に対し、「出社・退社時間も本人の裁量であるから」と好きに決め、全社会議などの指示がしにくいという声を聞くケースがある。 業務の遂行手段や時間配分=仕事の進め方や各仕事に対する時間配分の仕方を労働者に任せているのであり、何から何まで労働者の裁量に任せるものではない。 例えば、出社時間は他の労働者と同じとするが、退社時間は裁量労働制適用者の裁量に任せるなどの方法でも構わない。 労働時間の把握という点では、通常時間帯の勤務に対しては、出退勤時刻と実際の業務内容を把握する程度でよいとされているが、深夜労働と休日出勤に対しては、タイムカード等で客観的に労働時間数を把握し記録に残す必要があるとされている。 深夜労働と休日出勤に相当する賃金が、年俸額の内訳として、あらかじめ一定時間分に相当する額が含まれていない場合には、別途、法定割増賃金の支払義務がある。 最近の行政の指導内容では、出退勤時刻を把握・記録せずに、出勤日のみの記録としている場合は、労働時間の客観的把握ができていないと、是正指導の対象とされる傾向が強いので注意が必要である。 また、近年、長時間労働を原因とする労働者の健康障害が問題となっている。たとえ裁量労働制の適用者であっても、使用者には労働者の健康維持義務があり、過重労働につながるような働き方を防止する措置を講ずるよう努めるものとされている(厚生労働省通達 H18.3.17基発第0317005号別添)。 * * * 年俸制という給与に対する考え方と、裁量労働制という働き方に一定の自由性がある方法のイイトコ取りをして運用するというのは、労務上のリスクが必ず伴うものであり、それぞれのメリット・デメリットを十分に理解・把握した上で活用すべきである。 〈連載のまとめ〉 今回は、年俸制と裁量労働制についてお伝えしてきた。「年俸制」という給与支払方法と、「裁量労働制」という労働時間の管理方法という、まったく性質の異なるものを併せて運用する難しさをよく理解し、残業代抑制のために利用するのではなく、働く時間だけでは図ることができない業務内容に活用するのだと認識いただきたい。 (連載了)
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第25回】 「原価管理のKPI (その③ 原価差異分析)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、原価管理を構成する複数のKPIから、「原価差異分析」のサービスレベルを評価するKPIを取り上げる。 製品・商品・サービス1単位あたりの原価標準となる目標コストと実際に発生したコストを比較して分析する原価差異分析により、財務諸表を作成する観点では、売上原価と棚卸資産の金額を適正に計上することができるとともに、企業価値を高める戦略的観点からは、原価差異の要因を経営者やそのコストを管理できる担当部門の責任者に伝達して改善を促すことにより、コスト低減を達成することに役立つ。 そこで、今回は、適正な原価管理活動を支える戦略的観点から、原価差異分析で得られた情報を経営戦略に活用するために経理財務部門が担うべき伝達のサービスレベルを評価するKPIを紹介する。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードでは、原価管理において、会社が担う一般的な機能として、「予算策定」と「実績管理」を挙げている。 「実績管理」は、「実績原価算定」と「実績原価分析」という機能で構成される。 今回解説するKPIは、実績原価分析に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:原価管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、実績原価分析に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:6.3.1報告書作成〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 実績原価分析では、原価差異分析によって判明した差異の要因を報告する。まず、原価予算に対応した実績原価データを収集し、予算原価と実績原価の差異の原因を分析する。材料費であれば価格差異、数量差異、配賦差異、労務費であれば賃率差異、作業時間差異、製造間接費であれば操業度差異、能率差異等に分析する。 あらかじめ設定した予算原価が、生産販売の基本条件や実態を反映していれば、原価差異をもたらすのは業務上の問題と判断できるので、業務の改善を促すため、経営者やそのコストを管理できる担当部門の責任者に報告する。 今回のKPIは、原価低減という原価管理の目的を達成するためには、原価差異分析の結果を経営者やそのコストを管理できる担当部門の責任者に適時に伝達することが重要である点に着目し、経営層に報告する頻度を問うものである。 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「原価差異」とは、目標コストとそれに対応する実際コストの差異をさす。 「原価差異発生の原因分析」とは、原価差異の金額を測定するだけでなく、その原価差異を発生させている事象、事象の管理責任部門、改善のための具体的活動を特定できる程度まで調査することをさす。 通常、原価差異の原因となるのは、材料価格の差異、材料消費量の差異、賃率の差異、作業時間の差異、それらと不可分の関係にある予算差異、操業度差異、能率差異である。それらの項目について管理を行う権限と能力を持つ担当部門を特定し、改善策の策定を促すことができる程度の情報として提供することが求められる。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、経理財務部門が、定期的に、原価予算の統制状況を分析した情報を経営層に提供し、経営層による適切な事業戦略策定及び経営判断を支援することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 原価差異の主な要因となる差異について、経理財務部門は少なくとも次のような分析を行うべきであろう。 直接材料費差異は、消費価格差異と消費数量差異から構成される。 消費価格差異は、標準価格又は予定価格等と実際消費価格の差異として生ずる。あらかじめ設定した標準価格又は予定価格等に誤りがなければ、購買部門の購買活動か、製造部門の誤計算か、いずれの責めにも帰すことができない市況の問題かを特定する。 消費数量差異は、標準消費数量と実際消費数量の差異として生ずる。通常は、会社の業務上の問題が原因である。そこで、あらかじめ設定した標準消費数量に誤りがなければ、計算の誤り、設計部門の設計不備、製造部門における使用材料や生産手順の変更、製造部門作業員の能率等を疑う。 直接労務費差異は、賃率差異と作業時間差異から構成される。 賃率差異は、標準賃率の誤計算や予定等級外労働等に起因する。 作業時間差異は、製造部門担当者の能率の問題か、製造レイアウトや製造設備の不備、教育訓練の不足等、生産管理体制の問題かを特定することが必要である。 製造間接費差異について、固定費部分から能率差異は発生しないと考える三分法によれば、予算差異、変動費部分能率差異、操業度差異に分解する。 予算差異は、間接材料の市場価格の大幅な変動、電力量、間接賃金賃率の変動、燃料の季節変動等に起因するが、そのうち管理可能なものは費目別分析が必要である。 変動費部分能率差異は、標準作業時間と実際作業時間の差異であり、作業の不能率に起因する。能率が直接作業時間で測定される場合、直接労務費の作業時間差異の原因と同じ分析を行う。 操業度差異は、基準操業度と実際操業度の差異であり、生産能力が遊休になって利用されなくなったことに起因する。販売と製造が特定時期に集中する季節変動、景気変動、販売不振による操業度の低下、製造設備の不良による操業停止、他の製造部門のトラブルによる活動調整、災害、ストライキ、労働意欲の低下による操業度の低下等が考えられ、管理責任が曖昧になりがちである。むしろ、操業度差異こそ、管理可能な要素を分解して全社的な改善活動につなげることが重要である。 もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されず、原価差異の分析結果が定期的に経営層に報告されていない場合、どのような事態が想定されるのか。 財務諸表を作成する財務会計の観点からは、毎期の決算で原価差異が解消せず、配賦の余地が大きくなり、売上原価と棚卸資産の金額が歪む可能性が高くなる。 コストを低減する原価管理の観点からは、原価差異を発生させる要因を特定した情報が経営者やコストを管理することができる担当部門において共有されないため、コストが管理不能となり、適正な原価低減活動ができない結果、競争力が低下するであろう。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、実績原価分析の業務プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、原価差異分析資料を閲覧し、原価差異金額、責任部門、改善活動が明記されていること、経営層への報告の頻度の日数を確認することが考えられる。 さて、読者の顧問先において、原価差異発生の原因分析結果を、経営層に報告する頻度は何日になったであろうか。 * * * 次回は、「原価管理」を構成する複数のKPIから、原価管理業務の効率性を評価するKPIを取り上げる。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第11話】 「税制改正ネタはいつでも出せる・使えるように」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ◆ワンポントアドバイス◆ 税制改正をチャンスと捉えましょう。税制改正がお客様にとってどのような影響があるのか?同族会社の場合、社長の相続財産だけでなく、会社の財産も視野に入れ、トータルで考えることが必要です。 まずは、会社の決算書をじっくりと眺めてください。そして、会社と社長との取引を洗い出してください。 そうすれば、必ず“答え”は見えてくるでしょう。 (了)
税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第10回】 「専門分野の絞込みが、集客につながる」 データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥 今回は引き続き、 ということについてお話しましょう。 前回、事務所ホームページの目的として挙げた2つのうち 場合の定番の方法として、以下の2つがあることをご紹介しました。 ①については前回取り上げましたので、ここでは2つ目の「専門分野に特化したホームページにする」にはどうすればいいか、順を追ってご説明しましょう。 まず、ホームページで「どのような専門分野をアピールするか」を決める(絞る)必要があります。 この「専門分野」については、どのような切り口でもいいのですが、例えば、業務で分類するのなら「相続税」とか「デューデリ」、顧客の業種で分類するのなら「製造業の税務」とか「小売業の税務」など。 あるいはもっと細かく「食品の小売業の税務」としても良いでしょう。 このように言うと、 とお考えになる人もおられるかと思います。 しかし、集客においては という戒めがあります。 これは、逆の立場で考えてみるとよくわかるのですが、万が一、あなたが所得税について国と法廷で争うことになり、パートナーとなる弁護士を選ぶとしましょう。 「どんな訴訟でも引き受けます!」 と言う弁護士と、 「税務訴訟専門!」 と言う弁護士がいたとして、どちらの弁護士を選びますか? ・・・もちろん後者ですよね。 つまり「専門」というからには、税務訴訟に強そうだからです。 さらに税の中でも「所得税の税務訴訟専門!」だったりしたら、大歓迎でしょう。 このように、「なんでもできる」と言っていたら、どんな分野においてもその分野の「専門」と言っている同業者に客を奪われることになります。 結局、「なんでもできる」では、「何一つ仕事がない」ということになりかねないのです。 また、専門分野で獲得した顧客があなたを信頼してくれれば、その他の分野の仕事についても、まず初めにあなたに相談してくるはずです。 つまり、専門分野を絞るということは、これから様々な仕事を増やしていきたい新規開業における「はじめの一歩」の戦略としても使える方法なのです。 * * * 次に、上記で絞った専門分野に「特化したホームページ」にしていく場合には、ページを訪れた潜在顧客に対し「その分野なら任せてほしい!」と強く訴えかけなければなりません。 一番効果的なのは、その分野の実績や経歴をアピールすることです。 しかし、これからその分野をウリにしていこうという場合には、それほど実績や経歴はないでしょう。 その場合には、その分野についての知識をアピールすることです。 ただし、潜在顧客はたいていの場合、その分野の素人ですから、読みやすく、理解しやすいページを制作することが肝要です。 間違っても専門書を書き写したようなページは作らないことです。 専門分野に特化したホームページの場合、自分の事務所の紹介は必要最小限になります。自分の事務所も詳しく紹介したいという場合には、「事務所紹介のホームページ」の他に「専門分野に特化したホームページ」を開設する方法もあります。 このように本体となるホームページの他に公開するホームページを「サテライト・サイト」と呼びます。 サテライト・サイトは、従来の業務と全く異なる業務に進出するような場合に、今までの業務の集客に影響を与えずに、新業務に特化した集客をかけたい場合などに適しています。 * * * ここまで、ホームページからの集客を望んでいる場合の定番のホームページについてご説明してきました。 前回ご説明した「事務所に親しみをもてるホームページにする」方法は、すでにある程度の実績と規模のある事務所に適しているといえます。 そして「専門分野に特化したホームページにする」方法は、どのような人にもお薦めです。 次回以降お話していきますが、「専門分野に特化したホームページにする」方法の方が、集客には優れていることが多いようです。 さて、いよいよ次回からは、「集客できる」良いホームページというものを、より実践的に考えていくことにします。 「ホームページからの集客」という以上、ホームページを見る人(「訪問者」とか「閲覧者」と呼ばれます)がいて、その人たちから仕事の問合せが来ることが必要です。 ここで、以下のような場合を考えましょう。 この場合、訪問者の0.5%の問合せがあったことになります。 集客ということを考えた場合、仕事の問合せ件数が多いほど良いので、良い事務所ホームページとは、 ホームページということになります。 次回からは、これらのことをお話していきます。 (了)
「なんにしましょうか」 「メニューあります?」 「メニューはないんですよ。こっちがスコッチで、こっちがバーボンです」 私はバックバーの酒が並ぶ真ん中ぐらいで手をささっと振る。 輸入洋酒はすぐに値上がりするのと、酒の種類も入れ替えるので書き換えが面倒になりメニューはやめた。 「じゃあ、ジャック・ダニエルをロックで」 「会社はご近所ですか」 新顔の客には、だいたいこのセリフを使う。客の緊張を解すつもりで話し掛けている。 「近いですね。すぐそこですよ」 「お仕事は何屋さんで」 客が応えたその後にこれを続ける。 「え、まあ、普通のサラリーマンですよ」 客は「詮索好きなヤツだな」と続くせりふを飲み込んでいる。 私はここまでのやり取りで、話して面白い相手かどうかも探っている。今夜最初の客はあまり面白い人ではなさそうだ。 「なにか聴きたいのありますか」 「いえ、ジャズはあまり詳しくないんで」 「じゃあ、マイルスのカインド・オブ・ブルーでもかけますか」 CDを交換していると、石さんがドイツ人2人を連れて入ってきた。続いて田中さん、会計士の本橋さん、小山田さんも会社の同僚3人と、ギターの川上くんとピアノの瞳ちゃん、奥にある小部屋を除いてほぼ満席になった。 石さんはオールド・クロウのロック+チェイサー、ドイツ人2人は銘柄は決まっていないがスコッチのシングルモルトをストレートで(ほとんどのドイツ人はウイスキーをストレートでしか飲まない)、田中さんはこの時間だとメイカーズをロックで、本橋さんは冷凍庫のタンカレーをストレート+チェイサー、小山田さんグループはボウモアのロックを4つ、川上くんはターキーのロック、瞳ちゃんはアードベックのロック。この人たちの飲むものはだいたい決まっている。 「これでいいですよね」オールド・クロウの酒ビンを右手で持ち上げながら石さんの方を見れば頷いている。以下も銘柄だけ一応確認しながらどんどん作る。全員に酒を出し終わっても「カインド・オブ・ブルー」1曲目の『ソー・ホワット』はまだ途中だった。 月末の金曜日。時刻は9時を過ぎたところ。昼間から空は晴れ、さわやかな風が吹いていた。こんな夜はぶらぶらと2軒目へ足を向けるにはもってこいで、客の多さに不思議はない。 「私は招き猫なんですよ。客が1人もいない店に私が入るとそのあとにいっぱい入ってくるんですよ」と普通のサラリーマン。 こんなことをいうヤツがよくいる。 「そうですね」と笑って答えておくが、ほとんどの店の人は(そうじゃない、おれの日々の努力の結果だ)と思っているのではないだろうか。努力などしていない私もあんたのお陰じゃないとは思ってる。 普通のサラリーマンは得意そうに微笑を浮かべている。 「あんたは普通に客が多い日に来た普通のひとだ」といいたいが我慢する。その通りにいったら来なくなったひとがいるのだ。 (了)
日本の企業税制 【第1回】 「法人税実効税率引下げへの道筋」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 1 はじめに 法人実効税率の引下げが、にわかに現実味を帯び始めている。 10月1日に取りまとめられた与党「民間投資活性化等のための税制改正大綱」(以下、大綱)では、復興特別法人税の1年前倒し廃止について12月中に結論を得ると表記されたのに続き、以下のような記述がなされている。 これには官邸よりの強い要請があったとされるが、その伏線は8月に遡る。 8月13日の日本経済新聞朝刊1面に、安倍首相が法人税率の引下げを検討するよう関係省庁に指示したと報じられた。これを好材料として株価は13日、14日と続伸したが、15日に至り麻生副総理兼財務大臣、菅義偉官房長官等がこれを否定したため、株価は大きく下落した。 この記事の信憑性はともかく、市場が法人実効税率引下げを強く待望していることが、改めて明確になった。 その後、9月10日に至り、今度は本当に総理から実効税率引下げが提案され、これに対して財務省は復興特別法人税の1年前倒し廃止ならば、と応じたのが、この大綱に至る経緯である。 もともと消費税率の引上げを決めた消費税法改正法(平成24年8月22日成立)では、法人実効税率の見直しは平成27年度以降の検討課題とされていたのであるが、ともかくも、「速やかに検討を開始する」こととなった。 2 なぜ、法人実効税率引下げか それでは、なぜ、法人実効税率の引下げなのか。 法人税負担を軽減するのであれば、税率だけが唯一の手段ではない。現に「税制秋の陣」では、経済活性化のために生産性向上設備等投資促進税制の創設や所得拡大税制の見直しなど、政策税制が大胆に拡充された。 今後も、政策税制により、日本経済を支えていくべき企業の税負担を実質的に軽減していく方が、すべての企業を対象に税率を引き下げるよりも、効果が高く、財源も少なくて済むのではないか。 実効税率引下げか政策減税かは、この10年以上、わが国の法人税のあり方をめぐる根本的な問題であり、経団連も税率引下げを絶えず主張しながら、毎年の税制改正では政策税制を取りに出ていたことも事実である。 私見であるが、日本に既にある企業、とりわけ国際競争に直面している企業には、投資減税等の政策税制を有効に活用していくことで実質的な税負担を軽減していくことでもよい。 一方、目を外に転じると、企業が立地先を選ぶ重要な条件が税負担であるが、政策税制は大部分が時限措置であり、また毎年のように改正され、対象や要件も当然のことながらバラバラであり、一目瞭然とはなり得ない。 そこで、分かりやすい実効税率(表面税率)が重要となる。 日本再興戦略では、「2020 年における対内直接投資残高を35 兆円へ倍増(2012 年末時点17.8 兆円)することを目指す」とされているが、その実現のためには「国家戦略特区」だけでは不十分であり、法人実効税率をアジア近隣諸国並みの25%にまで引き下げることが必要であろう。 まさに、法人実効税率の引下げは、わが国の立地競争力を強化し、国内における生産・開発拠点等を維持するとともに、内外の企業による投資を促進する上で、避けて通ることのできない改革の本丸である。 【法人実効税率の国際比較-財務省資料より】 (2013年1月現在) 3 課税ベースと実効税率 しかしながら、復興特別法人税廃止後も実効税率は35.64%(東京都)に止まり、25%までには未だ10%ポイントもの開きがある。これは税収としては4兆円にも上り、経済活性化による自然増収がある程度は期待できるとしても、実効税率引下げを実現するためには、財源を確保することが不可欠になる。 大綱では、財源として「政策減税の大幅な見直しなどによる課税ベースの拡大」が明記されているが、実効税率の引下げ分だけ課税ベースを拡大したのでは全く意味がないとしても、それなりの対応はしなければならない。 平成23年度税制改正では、実効税率を5%引き下げるために、国税の法人税率を30%から25.5%に引き下げたが、そのための財源のおよそ半分を法人税の課税ベース拡大で捻出している(下表参照)。 減価償却制度の見直しや欠損金の繰越控除制度の見直しなどが主なものであったが、これらをこれ以上深堀りすることになれば、企業活力をかえって損ないかねない。 政策税制の見直しは当然であるとしても、仮に今回創設された投資減税等を含めすべての政策税制を廃止しても、税率換算で4%にもならない。 また、政策税制の多くが中小企業の特例であるが、その廃止は困難である。 【平成23年度税制改正の法人税(国税のみ)増減収】(単位:億円) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 4 「他税目」とは何か 大綱では「他税目での増収策による財源確保」も言及されている。従来、法人税の中で税収中立が言われてきたことからは大きな前進である。 しかし、実効税率引下げを可能とするような「他税目」とは、何であろうか。 個人所得課税を増税して法人税減税では政治的には通らない。実効税率引下げで企業収益が向上し、株価の上昇や配当の増大が期待できるとすれば、株式譲渡益や配当への課税を見直すことはあり得るとしても、来年からの20%への引上げの先にすぐ増税ができるであろうか。資産課税の強化や酒税・たばこ税も考えられるが、それぞれ税収には限界がある。 結局は消費税となるが、8%、10%ヘの引上げ分は社会保障財源とされている。その先の消費税率引上げを見通すとすれば、2020年のプライマリーバランス回復を目標とする財政再建との絡みで、2016年度から2020年度のどこかで、さらなる消費税率引上げがあり得るとしても、かなり先のことでしかない。 5 地方法人課税をどうする 法人税の課税ベース拡大にせよ、他税目を勘定に入れるにせよ、国税だけで実効税率10%分の財源を得ることは困難であり、地方法人課税の見直しが不可欠である。 もともと、わが国の法人実効税率が高いのは、法人事業税、法人住民税のためである。また、地方税全体の中でこの“法人2税”のウエイトが高いために、景気変動による税収の不安定さとともに偏在性の問題がつきまとっている。 地方法人特別税は、消費税率引上げまでの暫定措置という経緯からしても廃止すべきものだが、それが困難である場合は、地方法人2税の全部又は一部、とりわけ所得に対する課税部分を国税の法人税に統合し、その全額を、地方交付税の不交付団体に対する一定の配慮を行いつつ、各自治体に配分することが考えられる。その上で、地方消費税も含む財源を見出しながら、実効税率を国際的な水準へと段階的に縮減すべきである。 なお、消費税改正法では、地方税制については、次に定めるとおり検討することとされていた(第7条五号)。 6 実効税率引下げへの道筋を早急に 法人実効税率の引下げをめぐっては、いくつか批判的な見解も存在する。 欠損法人割合が7割のため税率引下げの効果は限定的との意見、減税をしても内部留保が積み上がるだけであるとの批判、国際競争にさらされているのは製造業等の一部業種に過ぎず一律減税には意味がない、といった主張である。 しかし、欠損法人が永久に欠損状態であるということはあり得ない。法人実効税率の引下げは、利益計上法人の税引後当期純利益を増大させ、新たな投資や雇用を生み出すということのみならず、欠損法人から利益計上法人へと復帰した企業を強力に後押しするという効果もある。 また、創業期にある企業のキャッシュ・フローの改善による開業率の向上や海外からの直接投資の増加を通じた雇用の創出と産業構造変革の推進という効果も忘れてはならない。 日本はこの面で諸外国に大きく見劣りしており、改善が急務である。 内部留保については、まず、議論の前提として、余剰資金を意味しないということを認識すべきである。 内部留保は、会計上、利益剰余金を指すことになるが、これらは貸借対照表において現金預金のみならず、機械・設備などにも対応している。すなわち、企業は内部留保を源泉として、広く事業用資産への投資を行っている。 企業が保有する現金預金がマクロで増加していることは事実であるが、その要因としては、第1に、需給ギャップの存在により企業の設備投資意欲が低下していたこと、第2に、先行き不安によるリスク回避傾向があったと考えられる。ただし、これらも安倍政権が進める経済政策とあいまって、解消の傾向にあると考えられる。 法人実効税率の引下げによるメリットを享受するのは、製造業に留まらない。今や非製造業を含め、熾烈な国際競争が行われている。法人実効税率の引下げについては、改めて大所高所に立った議論を行い、平成26年度税制改正において、具体的な道筋=スケジュールを明らかにする必要がある。 (了)