〈平成25年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第5回】 (最終回) 「実務上、判断に迷うケースQ&A」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 連載最終回となる今回は、筆者がこれまで年末調整に関し質問を受けた事項のうち、特に質問の多かったもの、又は、その判定が難しいものを選定し、実務的な観点から解説を行うこととする。 【Q1】 控除対象配偶者等の判定の時期 〈解 説〉 居住者の配偶者その他の親族が、控除対象配偶者若しくは扶養親族に該当するかどうかの判定、及び控除対象配偶者や扶養親族が障害者に該当するかどうかの判定は、原則としてその年の12月31日の現況による(所法85②③)。 居住者がその年の中途で死亡した場合(又は出国する場合)には、その者の死亡時(又は出国時)の現況により判定し、居住者の配偶者その他の親族のうちに年の中途で死亡した者がいる場合には、それらの者の死亡時の現況により判定する(所法85①②③)。 また、居住者本人が障害者、寡婦(寡夫)、勤労学生に該当するかどうかの判定も、その年の12月31日の現況によることが原則であり、居住者がその年の中途で死亡した場合(又は出国する場合)には、死亡時又は出国時の現況によって判定する(所法85①)。 年末調整に係る控除対象配偶者等の判定の時期についての事例を以下に示す。 [事例①]従業員が年の中途で死亡したケース 従業員が死亡した時の現況により、従業員本人が障害者、寡婦(寡夫)、勤労学生に該当するかどうか、また、配偶者その他の親族が控除対象配偶者、扶養親族、障害者に該当するかどうかを判定する。 この場合、配偶者その他の親族の合計所得金額は、従業員が死亡した時の現況によりその年の1月1日から12月31日までの金額を見積もることとされている(所基通85-1(2))。 なお、死亡時の現況で控除対象配偶者や扶養親族と判定された人の合計所得金額が、死亡時以後の状況変化により結果として38万円を超えたとしても、死亡時に行った年末調整をやり直す必要はない。 また、判定の時期が異なることにより、死亡した従業員の控除対象配偶者や扶養親族と判定された人が、12月の年末調整において他の給与所得者の控除対象配偶者や扶養親族に該当することもある(所基通83~84-1)。 [事例②]配偶者が年の中途で死亡したケース 配偶者が死亡した時の現況により、その配偶者が従業員等の控除対象配偶者、障害者に該当するかどうかを判定する。控除対象配偶者として申告されていない配偶者であっても、年の中途で死亡したため合計所得金額が38万円以下となり、その年は控除対象配偶者に該当するケースもある。 [事例③]配偶者と死別し、その年中に再婚したケース 年の中途において控除対象配偶者に該当する配偶者と死別した者が、その年中に再婚した場合、控除対象配偶者として扱う配偶者は死別した配偶者か再婚した配偶者のいずれか1人に限られ、2人分の配偶者控除を適用することは認められない(所令220①)。 この場合、控除対象配偶者としなかった方の配偶者は、扶養親族の定義を充たさないため扶養控除の対象とすることもできない。 【Q2】 合計所得金額の範囲 〈解 説〉 年の中途で海外転勤し非居住者となった者については、出国前の最後に支給する給与で年末調整を行う(所基通190-1(2))。【Q1】で解説した通り、年の中途で出国する場合は、出国時の現況により控除対象配偶者や扶養親族の判定を行うこととされている(所法85③、所基通85-1(2))。 この場合、判定の基礎となる合計所得金額には、非居住者の国外源泉所得は含まれない。したがって、配偶者その他の親族が、出国後に海外で働くことにより所得を得るとしても、その所得は0として合計所得金額を計算する。 【Q3】 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の再適用 〈解 説〉 (1) 特別控除の適用要件 特別控除の主な適用要件は、次の通りである(措法41①、措通41-2(1))。 (2) 転勤等により居住の用に供することができなくなった場合の取扱い 転勤等の事情により、それまで特別控除の適用を受けていた家屋を居住の用に供することができなくなった場合、特別控除の適用関係は次の通りとなる。 ① 国内転勤の場合 〈単身赴任の場合〉 (1)①~④をはじめとする特別控除の適用要件をすべて満たしていれば、(年末調整で)特別控除の適用を受けることができる。 〈家族と共に赴任する場合〉 (1)④の要件を満たしていないので、特別控除の適用を受けることはできない。 ② 海外転勤の場合 1年以上の予定で海外転勤する者は、出国日の翌日から非居住者となるため、海外赴任中は(1)①の要件を満たしていないことになる。したがって、単身赴任であるか、家族とともに赴任するかにかかわらず、特別控除の適用を受けることはできない。 (3) 特別控除の再適用(再び居住の用に供した場合の再適用) 特別控除の対象となっていた家屋を再び居住の用に供した場合には、一定の要件の下、一定の手続を行うことにより、特別控除の再適用を受けることができる。 下記①と②のケースについて、再適用に必要となる手続及び要件を解説すると、次の通りとなる。 ① 海外へ単身赴任していた場合 海外へ単身赴任していた者が帰国した場合には、帰国した年から(1)①の要件を満たすことになる。その他の要件もすべて満たしていれば、通常の年末調整の手続(*)により残存控除期間内につき特別控除の再適用を受けることができる。 (*) 通常の年末調整の手続 「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」に住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書を添付して勤務先に提出する。 ② 家族と共に赴任していた場合(国内、海外) 特別控除の適用期間内に勤務先からの転任の命令等により転居した場合には、次のすべての要件を満たしていれば、再び居住した年以後の残存控除期間について特別控除の再適用を受けることができる(措法41⑪)。この制度は、平成15年4月1日以後に対象となる家屋に居住しなくなった場合に適用される(平成15年改正法附則83)。 【Q4】 年末調整後の再調整 〈解 説〉 年末調整後、所得控除に異動があった場合には、その年分の源泉徴収票が作成される時(翌年の1月末日)までにその異動に関する申告があれば、異動後の状況により年末調整のやり直しをすることができる(所基通190-5)。 年末調整のやり直しをしなかった場合には、確定申告により精算することができる(所基通190-5(注))。 質問のケースの他、次のような場合には年末調整のやり直しをすることができる。 ① 年末調整後に控除対象配偶者や控除対象扶養親族の異動があった場合 年末調整後、その年の12月31日までの間に控除対象配偶者や控除対象扶養親族に異動があった場合には、異動申告の内容に基づいて年末調整をやり直すことができる。 例えば、次のようなケースが該当する。 ② 年末調整後に「生命保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」や「住宅借入金等特別控除申告書」の提出があった場合 年末調整後に「生命保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」や「住宅借入金等特別控除申告書」の提出があった場合には、その申告の内容に基づいて年末調整のやり直しをすることができる。 ③ 年末調整後に生命保険料等の追加支払いがあった場合 年末調整後、その年の12月31日までの間に生命保険料や地震保険料等の支払いがあった場合で、「生命保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」の再提出を受けた時には、再提出された申告書の内容に基づいて控除額を再計算し、年末調整のやり直しをすることができる。 ◆ ◆ ◆ なお、年末調整のやり直しができるのは「給与所得の源泉徴収票」を受給者に交付することとされている翌年の1月末日までである。 また、年末調整後に給与の追加払いがあった時には、追加支払額を給与等の支払金額に含めたところで年末調整のやり直しをすることとされている(所基通190-4)。この場合は、必ず年末調整のやり直しをしなければならない。 (連載了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第7問】 「区分所有に係る建物とその単独所有の土地を譲渡した場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、下図のような居住用財産を譲渡しました。 家屋は区分所有に係るもので、1階はXの所有(Xが居住)であり、2階はY(Xの長女の夫)の所有(Yが居住)であって、生活するにあたってそれぞれ独立した機能を有しています。 また、YのXに対する土地使用関係は使用貸借です。 この場合、Xについて「3,000万円特別控除(措法35)」の適用対象となる居住用財産の範囲はどこまででしょうか? A 家屋のうちX所有部分(1階)と、敷地の用に供されている土地のうちX所有の家屋に対応する部分(全体の1/2)が、「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる居住用財産に該当する。 〈解説〉 敷地の用に供されている土地のうちY所有の家屋に対応する部分(全体の1/2)については、Yに無償で使用させていることになる。 したがって、土地については、X所有の家屋に対応する部分(全体の1/2)が居住用財産となる。 (了)
鵜野和夫の不動産税務講座 【連載8】 路線価図の読み方(5) 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 (一) 私道 ―不特定多数の通行の用に供されているものは非課税だが 図表1 図表2(ア) 図表2(イ) 図表2(ウ) (二) 私道の評価は 図表3 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 図表4 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (三) 崖地のある宅地の評価は 図表5 崖地のある住宅団地の例 〈がけ地補正率表〉 (注) がけ地の方位については、次により判定する。 1 がけ地の方位は、斜面の向きによる。 2 2方位以上のがけ地がある場合は、次の算式により計算した割合をがけ地補正率とする。 3 この表に定められた方位に該当しない「東南斜面」などについては、がけ地の方位の東と南に応ずるがけ地補正率を平均して求めることとして差し支えない。 図表6 ① がけ地割合 ② 1㎡当たりの価格 図表7 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【23】 〔第5章〕法令用語 (その9) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 7 法の「適用」に関する法令用語 (① 適用する・施行する)【前回参照】 ② 適用する・準用する では次いで、「準用する」との差異について見ていく。 前回記したように「準用する」は、ある事項に関する規定をそれとは異なるが本質的には類似する他の事項について当てはめることをいい、これに対して、「適用する」は、ある事項に関する規定を本来その規定が対象としている事項について、そのまま当てはめることをいう。 通常「準用する」場合は、その準用ないし適用される法令の規定中の用語等(例えば、目的語、引用条文等)とその準用ないし適用する場合に関する法令の規定中のこれらの用語等とが異なるところから、 元の「適用する」とされている条文に若干の変更を加えることを要する。 そのため通常、「○○を△△と読み替える」などのいわゆる読替規定により、その用語を置き換える規定が設けられている。 この読替規定は、通常、準用規定の後段として規定され、例えば、 などと規定される。 国税通則法38条(繰上請求)第4項には、以下のようにある。 国税徴収法の159条は、保全差押について規定している条文であるが、同条第2項では国税局長の承認、同条第3項では書面通知といったように、第2項 から第11項 までに手続き等について規定している。国税通則法38条による繰上保全差押の場合にも、保全差押の場合と同様の手続き等を課すことを規定するにあたり、保全差押の条文を準用しているのである。なお第5項においては、保全差押においては書面通知した日から6ヶ月を経過した日までに税額の確定がない場合には差押を解除すべき旨等が規定されている。 上記読替規定は、保全差押のこの「6ヶ月」の期間が、繰上保全差押の場合には「10ヶ月」となることを規定している。 なお、保全差押と繰上保全差押は、異なるものではあるが本質的には類似するために「準用する」としている。 これに対し次の国税通則法第61条第1項では、「の規定を適用する」としている。 この前条である第60条は延滞税の規定であり、第2項には延滞税の利率が定められている。そしてこの61条の第1項も第2項とも、当初からこの60条の規定が適用されるものとして規定されており、「同項の規定を適用する。」と規定されている。 もう1つ別の例を示そう。 これは国税通則法第3条(人格のない社団等に対するこの法律の適用)である。 これはいわゆる「みなし法人」の規定である。法人格を持たない社団や財団であっても代表者又は管理人の定めがあるものは、税法上の法人として扱うことを規定している。 法人の規定をみなし法人に「準用する」のではなく、法人格を持たない社団や財団であっても代表者又は管理人の定めがあるものは、税法上は法人と本質的に同じであるとして、法人の一種として扱うため「適用する」としている。 ③ 例による これは、ある事項に関する法令上の制度を他の事項について包括的に借りてきて、これについても同様の取扱いをしようとする場合に用いられる。 「準用する」が個々の規定を他の事項について借用しようとするものであるのに対して、「例による」は一つの制度を全体として借用しようとする場合に用いる。 税法においては「従前の例による。」という中で使われることが圧倒的に多いのであるが、これ以外の使い方の例を一つ挙げる。 この第3号では利子所得及び配当所得に係る源泉徴収義務が挙げられており、第240条においては源泉徴収に係る所得税を納付しなかった場合の罪について規定している。 このように、他の規定を包括的に借りてきてそれと同様の取扱いをしようとする場合に「例による」が用いられるのである。 (次回に続く)
「企業結合に関する会計基準」等の 改正点と実務対応 【第3回】 「共通支配下の取引の会計処理①」 ~子会社株式の追加取得に関する連結財務諸表上の会計処理~ 有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 布施 伸章 (注)本連載記事において、文中、意見に関する部分は筆者の私見である。 1 はじめに 今回は、平成25年改正会計基準のうち、子会社株式の追加取得に関する連結財務諸表上の会計処理について解説する。 解説に当たっては、以下の設例をもとに、会計基準の改正前と改正後の会計処理及び連結財務諸表への影響を比較しながら行う。 なお、以下の文中、「改正前(後)仕訳○」は、設例中の「改正前(後)会計基準」欄の仕訳No.を示している。 2 子会社株式の追加取得の会計処理 子会社株式を追加取得した場合、改正前会計基準では、以下の改正前仕訳⑥のように、追加取得した株式に対応する持分60を非支配株主持分から減額(※)し、追加取得により増加した親会社の持分(追加取得持分(※))60を追加投資額100と相殺消去したうえで、追加取得持分と追加投資額との間に生じた差額40をのれんに計上し、20年以内の効果の及ぶ期間にわたり償却することとされていた(負ののれんが計上された場合には一時の利益に計上する)。 改正後会計基準では、改正後仕訳⑥のように、追加取得持分(※)60と追加投資額100との間に生じた差額40を、資本剰余金とすることとされた(改正連結会計基準28項)。 (※) 追加取得持分及び減額する非支配株主持分は、追加取得日における非支配株主持分の額により計算する(連結会計基準(注8))。 【図表】 設例の仕訳No.6を抜粋 なお、本設例のように、上記の差額を資本剰余金から控除した結果、資本剰余金が△40と負の値となる場合(X3/3期の連結B/S参照)には、連結会計年度末において、資本剰余金をゼロとし、当該負の値を利益剰余金から減額することになる(改正連結会計基準30-2項)。 3 改正による連結財務諸表への影響 設例では、X2/3期とX3/3期のいずれの期も、親会社の損益はゼロ、子会社の当期純利益は50としている。 (1) X2/3期(持分比率60%) X1/3期末に子会社株式の60%を取得しているため、X2/3期に子会社で計上された利益50のうち、親会社帰属額(60%)は30、非支配株主持分帰属額(40%)は20となる。 また、支配獲得時に計上した親会社持分(60%)に係るのれん償却額4が控除されるため、当期純利益のうち、親会社帰属額は26(=30-4)となる。 (2) X3/3期(持分比率100%) ① 連結P/L 期首に子会社株式のすべてを追加取得しているので、その年度に子会社が計上した利益はすべて親会社に帰属することになる。 改正前会計基準では、追加取得時の差額40はのれんに計上され(改正前仕訳⑥)、それに対応するのれんの償却額8が新たに生じることになるため(改正前仕訳⑧)、当期純利益のうち親会社帰属額は38(=50×100%-(4+8))となる。 改正後会計基準では、改正後仕訳⑥のように、追加取得時にはのれんは追加計上されないため、のれんの償却額は当初取得時持分(60%)に対応する額4のみが計上される。このため、当期純利益のうち親会社帰属額は46(=50×100%-4)となる。 このように、子会社株式を追加取得した場合には、子会社が計上した利益の親会社帰属割合(100%)とのれん償却額の親会社帰属割合(60%)とは異なることになる(子会社株式を追加取得したときは、改正後会計基準による方が当期純利益及び親会社帰属利益が大きくなる)。 ② 連結B/S 改正前会計基準では、追加取得時ののれんは資産に計上したうえで償却するため、のれんの減損がない限り、純資産が一時に大きく減少することはなかった(X3/3期の連結B/Sの純資産は564)。 改正後会計基準では、追加取得時の差額40すべてが資本剰余金から控除されるため、純資産が一時に大きく減少することがあるので、留意する必要がある(X3/3期の連結B/Sの純資産は532)。 4 設例 【買収年度(X1/3/31)】 ●P社はX1/3/31にS社株式の60%を80で取得した。 ●支配獲得時のS社の諸資産の時価と簿価は同じである。 ●P社及びS社のX1/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【翌年度(X2/3/31)】 ●P社の当期純利益は0、S社の当期純利益は50である。 ●のれんの償却期間は5年(年間償却額4)である。 ●P社及びS社のX2/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【追加取得年度(X3/3/31)】 ●P社は期首(X2/4/1)にS社株式の40%を100で追加取得した。 ●P社の当期純利益は0、S社の当期純利益は50である。 ●のれん償却期間は5年(年間償却額4)(改正前の追加取得に係るのれん償却期間は5年(年間償却額8)) ●P社及びS社のX3/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【参考】 会計基準の改正前と改正後の連結上の評価額の推移 【参考】 会計基準の改正前と改正後の子会社の当期純利益の帰属額の比較 (了)
減損会計を学ぶ 【第3回】 「減損会計の対象」 公認会計士 阿部 光成 「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)の表題を見てもわかるように、同会計基準は固定資産を対象としている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 対象資産 1 固定資産 減損会計基準は、固定資産を対象に適用すると規定している(減損会計基準一)。 固定資産には、有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が含まれる(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)5項)。 2 減損会計基準の対象とならない資産 減損会計基準では、他の基準に減損処理に関する定めがある資産については対象とされていない(減損会計基準一)。 また、減損適用指針でも減損会計基準の対象とならない資産が示されている(減損適用指針6項、68項、69項)。 これらの規定をまとめると、次の資産が減損会計基準の対象外となる。 Ⅱ 対象となる固定資産の留意点 前述のように、減損会計基準の対象は固定資産である。 例えば、次のような資産についても対象となるので注意が必要である(減損適用指針6項、68項、69項)。 「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)では、ファイナンス・リース取引は、リース契約上の諸条件に照らしてリース物件の所有権が借手に移転すると認められるもの(所有権移転ファイナンス・リース取引)と、それ以外の取引(所有権移転外ファイナンス・リース取引)に分類されている(リース会計基準8項)。 ファイナンス・リース取引の会計処理は、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うとされており、所有権移転外ファイナンス・リース取引についても通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理されることから、いずれのファイナンス・リース取引についても貸借対照表に計上されることになる(リース会計基準9項)。 ただし、「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号)79項では、リース取引開始日がリース会計基準適用初年度開始前のリース取引で、リース会計基準に基づき所有権移転外ファイナンス・リース取引と判定されたものについては、「リース取引に関する会計基準の適用指針」第77項又は78項の定めによらず、引き続き通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用することができるとされている。 このため、上記⑥の所有権移転外ファイナンス・リース取引のうち、借手側が通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っている資産が存在することになり、減損会計基準の対象となるものが存在することになる。 そのほか、貸借対照表上、「固定資産」という科目を用いていない業種においても、その内容から、一般の企業における有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産に該当するものは、減損適用指針の対象となる固定資産に含まれることに留意する。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第25回】 純資産会計③ 「自己株式の処分と新株発行を同時に行った場合の会計処理」 仰星監査法人 公認会計士 石川 理一 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 (単位:百万円) ○ケース1 (*1) 払込金額1,000×自己株式処分割合(10,000/50,000)-150=50 ○ケース2 ○ケース3 〈会計処理の解説〉 会社計算規則第14条では、第1項で資本金等増加限度額を規定し、第2項第1号で上の行為を実施した後のその他資本剰余金の額を規定しています。 その他の条件①より、資本金等増加限度額のうち、その他資本剰余金とならなかった金額は全額資本金として処理します。 会社計算規則第14条第2項第1号に基づいて計算されるその他資本剰余金の増減額及び増加する資本金の金額は、 の三者の関係で以下のとおり算定されます。 ケース1の場合、自己株式対価額が自己株式の帳簿価額を上回る金額だけその他資本剰余金が増加し、払込金額から自己株式対価額を控除した金額だけ資本金が増加することになります。 ケース2の場合、その他資本剰余金は変動しません。そして、払込金額から自己株式の帳簿価額を控除した金額が資本金の増加額となります。これは払込金額に株式発行割合を乗じた金額から、自己株式の帳簿価額が自己株式対価額を超過する金額を控除した金額と同額です。 ケース3の場合、処分する自己株式の帳簿価額が払込金額を上回っているため、資本金は増加しません。当該超過額だけその他資本剰余金を減少させることになります。 (了) ※12月は連結会計を取り上げます。
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載45〕 会社分割の会計処理 ~株主資本の内訳を中心として 公認会計士・税理士 安原 徹 Ⅰ 会社計算規則の条文 本稿では、まず吸収分割が行われたときに承継会社において変動する株主資本等について、会社計算規則の条項に従い、原則的な処理方法を定める37条とその例外処理である38条を検討する。 引き続いて、新設分割についても、新設分割設立会社の株主資本等の額に係る原則的な処理方法の49条とその例外処理である50条を取り上げることとする。 Ⅱ 吸収分割の条文 1 原則規定としての37条 会社計算規則37条は「吸収型再編対価の全部又は一部が吸収分割承継会社の株式又は持分である場合」の株主資本等の変動額について規定する。 「対価の全部又は一部が吸収分割承継会社の株式又は持分である場合」という要件を設けた理由は、もし対価の全部が承継会社の株式以外のもの(例えば対価が現金のみ)である場合には、承継会社において株式が発行されないのであるから、吸収分割によって株主資本等の額が変動しないことになるためである。 本条第1項は、承継会社において変動する株主資本等の総額の算定方法を定めている。 1号は承継会社から見て支配取得に当たるため時価受入れとする場合(逆取得を除く)。 2号は共通支配下関係だが企業結合会計基準にいう事業に該当しないものが吸収分割の対象となる場合に時価受入れとするもの。 3号は共通支配下関係にあるため簿価受入れとする場合。 4号は共同支配企業の形成や逆取得の場合に簿価受入れとするものである。 また第2項は、承継会社の資本金、資本剰余金(資本準備金、その他資本剰余金)の増加額は、株主資本等変動額の範囲内で吸収分割契約の定めに従いそれぞれ定めた額とし、一方、株主資本等変動額がマイナスの場合を除いて利益剰余金(利益準備金、その他利益剰余金)は変動しないと規定する。これは37条の吸収分割が、現物出資の発想に基づくため、原則として利益の性質を持つ項目を変動させることはできないという考え方によるものである。 2 例外規定としての38条 会社計算規則38条は、吸収分割における承継会社の株主資本等変動額を定める37条の特則として、株主資本等の内訳科目を引き継ぐことを認める規定である。吸収型再編対価の全部が承継会社の株式である分割型吸収分割の場合(第1項)と吸収型再編対価が存しない場合(第2項)について規定する。 本条第1項の「吸収型再編対価の全部が吸収分割承継会社の株式又は持分である場合」とは、交付される対価のなかに現金等が含まれず、承継会社株式のみを交付する場合である。 これは、もし吸収型再編対価のなかに吸収分割承継会社の株式以外のものが混じると、分割会社と承継会社において株主資本等の額が一致しなくなり、株主資本等を引き継ぐことができないからである。 また、同項には、「吸収分割会社における吸収分割の直前の株主資本の全部又は一部を引き継ぐものとして計算することが適切であるとき」という要件が定められている。 これは、組織再編を、現物出資と同じ発想のものと捉えるのではなく、会社と会社が合同する行為と捉え貸借対照表をそのまま合算させるという考え方によるものである。上記の要件は、このような会計処理によることを前提とする旨を表現したものである。 なお、「株主資本等を引き継ぐ」とは株主資本の内訳の資本金、資本準備金等の科目をそのまま引き継ぐという趣旨である。 ところで、第1項の適用場面は、例えば2つの事業を営む甲社が、そのうち1つを乙社に対して分割型の吸収分割する際、甲社の貸借対照表を事業別に2つに分けて、その1つの事業別貸借対照表を乙社の貸借対照表に合算させるといった場合である。このような場面では、旧商法の下での人的分割(分割型の分割)のように、吸収分割会社自体が2つに分割したものとして株主資本の内訳を配分することを認める実務上の必要があることから、会社法上でもこれを認めたものと説明される。 もっとも、旧商法時代の分割型吸収分割では、分割事業の受皿会社である乙社が、対価として乙社株式を分割会社甲社の株主に直接交付したが、会社法では、一旦乙社株式を甲社に割り当て、甲社が、割り当てを受けた乙株を、剰余金の配当もしくは分割会社甲発行の全部取得条項付種類株式の対価として甲社株主に交付することになった(後者は非按分型の分割で利用される)。 それでは、次に38条第1項の株主資本等変動額の内訳をどう決めるか。会社事業を2つに分けるのなら、株主資本の各項目もタテ割りにプロラタ配分しなくてはならないのかという疑問が生じる。ところが、38条第1項本文では、「変動する吸収分割会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額をそれぞれ当該吸収分割承継会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の変動額とすることができる」とだけ規定して、これらの計数の決め方については何も定めがない。 一方、会計基準においては、承継会社の増加資本金の処理について、「親会社で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上することができる。この場合、株主資本の内訳の配分額は、親会社が減少させた株主資本の内訳の額と一致させる。」と定められている(「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」234(2)、409(3)、446(以下「指針」という))。 したがって、38条第1項によって資産負債を切り出す際、承継会社で増加する株主資本の内訳については、分割会社の株主資本の各項目の金額の範囲内で、自由に決めることができると解される。 その結果、例えば分割会社が減資、準備金の減少を行わない場合、「その他利益剰余金」のみを変動させる処理も可能となる。 一方、第2項は、吸収分割会社と吸収分割承継会社が共通支配下関係にある場合で、無対価の吸収分割を対象とする。実務上完全親子会社関係にある組織再編で、対価の受渡しが行われない場合が数多く見受けられるので、そのような場合に対応するために設けられた規定である。 もっとも、会社計算規則は指針203-2のように「完全親子会社関係の存在」という要件を課していないが、手続の煩雑さ等もあって、実務において無対価吸収分割が利用されるのは、適用指針に掲げられた完全親会社→完全子会社、完全子会社→完全子会社、完全子会社→完全親会社のケースに限られるようである。 ただし、このうち38条2項が対象とするのは前二者の場合だけと考えられる。なぜなら、完全子会社→完全親会社の場合は親会社において抱合せ株式の価値の増減の問題として処理されるので、株主資本の変動を前提とする本条と関係ないことになるからである(平成21年改正前会社計算規則では18条第5項に規定があり子会社株式の目減り分を特別損益に計上する旨定められていた。21年改正では条文の簡素化が図られこの規定は削除されたが、法の趣旨は変わっておらず、また、改正後の規則では取扱いを会計慣行に委ねたと考えられることから、会計基準に従った処理をすることになる)。 また、無対価吸収分割の場合も分割会社では株主資本の各項目を適宜減少させることができるが、承継会社における株主資本の変動額には制限がある。すなわち、第2項本文が「吸収分割の直前の資本金及び資本剰余金の合計額を承継会社のその他資本剰余金の変動額と・・・」と定めた理由は、対価が存在しない場合には承継会社で株式が発行されず、払込資本や資本準備金の額を増加させることが適当でないことから、その他資本剰余金が変動するとしたものである。 さらに、同項では「吸収分割により変動する吸収分割会社の利益剰余金の額を当該吸収分割承継会社のその他利益剰余金の変動額とする」と定めており、分割会社で利益準備金やその他利益剰余金が変動するときには、承継会社ではその他利益剰余金だけが変動するとしている。これは、資本金や資本準備金の額を変動させないのに利益準備金の額を変動させるのは不自然なので、利益準備金を動かす代わりにその他利益剰余金を変動させるものである。 設例で示すと次のようになる。 分離する事業の株主資本が資本金のうち1,000、利益準備金の1,000、その他利益剰余金のうち21,000だったとする。この分割が無対価で行われると承継会社において資本金や利益準備金が増加せず、その他資本剰余金とその他利益剰余金が変動することになる。 なお、吸収分割を行う場合には、債務が吸収分割会社から吸収分割承継会社に移転することになり、また、会社分割により分割当事会社の資産状況に大きな影響を与えるため、吸収分割会社・吸収分割承継会社では原則として債権者保護手続が必要とされる(会社法789条①、②、799条①、②)。 この手続に加え、38条に従った吸収分割では、分割会社の資本金額や準備金額が変動することが多く、その際には、同条第3項による債権者保護手続が別途必要となる。このため、37条の吸収分割に比べ、手続がやや面倒なものとなっている(38条第3項では、会社「法第2編第5章第3節第2款の規定その他の法の規定に従うものとする」と規定されている)。 3 吸収分割のまとめ 会計計算規則37条と38条の概要をまとめると、次のとおりである。 Ⅲ 新設分割の条文 1 原則規定としての49条 会社計算規則49条は、単独新設分割の場合における新設分割設立会社の株主資本等について定める。 単独新設分割において、新設分割設立会社は新設分割会社の完全子会社となり、共通支配下関係の取引となるので、株主資本等変動額は、原則として分割対象財産の帳簿価格を基礎として算定される。また、新設分割は現物出資の発想に基づくため(ただし、共通支配下なので簿価ベース。なお、例外的な処理として、企業結合会計基準等における「事業」に該当しない財産が新設分割の対象となる場合等に時価処理によるべきことがありうることを想定した規定が設けられている)、株主資本等の内訳については資本性の科目のみとなり、損益取引から生ずべき利益剰余金はゼロとなる。 つまり、株主資本変動額をどのように資本金、資本準備金、その他資本剰余金の額に割り振るかについては、資本金額及び資本準備金額がいずれもゼロ以上の額である限り、新設分割会社が新設分割契約の定めに従って自由に定めた額とすることができる。 2 例外規定としての50条 会社計算規則50条は、49条の例外として株主資本等を引き継ぐ場合における新設分割設立会社の株主資本等についての規定である。 これは、新設型再編対価の全部が新設分割設立会社の株式である場合に、分割型新設分割により変動する新設分割会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額を、それぞれ新設分割設立会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額とすることができるとするもので、吸収分割における38条とパラレルな規定振りとなっている。 すなわち、分割型新設分割の対価の全部が設立会社の株式である場合においては、旧商法の下での人的分割(分割型の分割)のように分割会社自体が分割したものと捉え、株主資本の内訳を配分することを認める実務上の必要があることから、設けられた規定である。 「新設型再編対価の全部が新設分割設立会社の株式である場合」に限って本条の適用が認められる理由は、もし新設型再編対価の一部のみが新設分割承継会社の株式であったとすると、新設分割により分割会社において減少する株主資本等の各項目の金額と設立会社の株主資本等の各項目の額が一致しなくなるからである。また、例外的に「新設型再編対象財産に時価を付すべき」(49条①括弧書)の場合には、分割会社で減少する株主資本の額と設立会社の株主資本の額を一致させることができないため、本条を使うことはできない。 また、分割型新設分割の場合も、分割型吸収分割と同様、旧商法時代には新設会社の株式が分割会社の株主に直接交付されていたが、会社法では一旦分割会社に割り当てられたうえで、同社経由で分割会社株主に交付されることになっている。 次に、分割設立会社の株主資本の内訳が問題となる。50条1項本文では、「変動する新設分割会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額をそれぞれ新設分割設立会社の設立時の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額とすることができる」と規定するのみで、これらの計数をどのように決めるのかについて何も定めがない。一方、会計基準においては、「親会社が子会社に事業を移転する場合の子会社(吸収分割承継会社)の会計処理に準じて処理する。」と定められている(指針261)。 そこで、吸収分割の場合と同様に、資産負債を切り出す際、新設分割設立会社の株主資本の内訳については、分割会社の株主資本の各項目の金額の範囲内で、自由に決めることができると解される。その結果、例えば分割会社が減資、準備金の減少を行わない場合、「その他利益剰余金」のみを変動させる処理も可能となる。 なお、50条の新設分割では、38条の吸収分割と同様に、分割会社の資本金額や準備金額が変動する際には、債権者保護手続が必要となる(50条②)。 3 新設分割のまとめ 会計計算規則49条と50条の概要をまとめると、次のとおりである。 (了)
活力ある会社を作る 「社内ルール」の作り方 【第7回】 「企業文化を就業規則に落とし込んだ会社の実例②」 特定社会保険労務士 下田 直人 今回も前回に引き続き、企業文化を就業規則に落とし込んだ会社の事例を見ていきたい。 〈有給休暇が無制限の会社〉 今回もアメリカの企業の事例から入っていこう。 この事例は、会社が大切にしている文化や価値観を直接ルールに落とし込んだものではないが、文化や価値観への“こだわり”が徹底しているからこそ導入できたルールの一例として見てほしい。 シカゴにある社員100名程度のイベント会社では、有給休暇の取得日数に制限がない。 また、管理もされていない。 つまりこの会社では、有給休暇を何日とっても構わないし、公式に誰が何日とったか記録しているものも存在しないのだ。 一見、このように見ると自由でのびのびした会社であり、従業員が休みを気ままに好き放題とっているようなイメージを持つかもしれない。 しかし、実際は異なる。 この会社では、コア・バリュー経営を大事にし、それに沿った採用を徹底している。 コア・バリューに沿った採用を実践すると、そもそも会社や仕事そのものが好きな人ばかりの組織になる。つまり、会社を休んで家でのんびりする人はいない。 仕事をさぼるよりも、会社に来て仕事をした方が楽しいと考える人ばかりの集団になるのだ。 このため有給休暇を無制限としても、結局のところ、皆が際限なく有給休暇をとるようなことにはならない。 彼らが有給休暇をとるのは、せいぜいプロジェクトが終わった後など、計画的にかつ、周囲に気を配りながら数日間とる程度だ。 だから、管理などしなくても問題ないのである。 ただし、これはどの会社でも応用できるわけではない。 もし、コア・バリューに沿った採用が行われていない会社で、同様に有給休暇の日数の制限を設けなかった場合、おそらく、各自が勝手気ままにたくさん有給休暇を取得し、組織が機能しなくなってしまうだろう。 コア・バリューが明確だからこそ、このような制度が機能し、また、このような制度を構築することが、従業員を信頼している証となり、労使間の絆をより強固にし、プラスのスパイラルを構築するのである。 〈ライフプラン支援一時金がある会社〉 次に日本の企業の事例を見てみよう。 従業員数20名強のこの会社では、従業員に子供が生まれた時や、子供が学校に入学した時などに、一時金を出す。 出産時に数万円程度の祝い金を出している会社は多いと思うが、この会社では、出産時に30万円、小学校入学時に30万円など、高額な一時金を支給している。 その意図は、企業文化との関連性が強い。 この会社は、従業員のみならず、その家族までも「ひとつの家族」として大切に見るという文化を持っている。 出産や進学はめでたいことであるし、また、そのような時期は何かと費用が生じるわけだが、従業員の慶事を祝い、費用の一部を援助することで、その文化を体現しているのだ。 この会社においては、当初、毎月の給与において家族手当を支払うことを計画していたのだが、上記の会社文化とのリンクを考えたとき、一時金の方がより明確に企業文化を体現できるとのことで、このような制度になった。 〈夜食が出る会社〉 とある従業員数50名程度の企業では、毎週水曜日に残業で会社に残る従業員がいる場合は、会社から夜食が支給され、従業員は無料でそれを食べることができる。 ただし、この会社の夜食制度には「一定のルール」がある。 それは、「夜食は決まった時間に、会議室で一斉に食べる」というルールだ。 つまり、支給された夜食は、好きな時間に食べたり、自分の机の上で食べることはできない。 なぜなら、夜食のねらいはチームワークの醸成、従業員間のコミュニケーションの充実にあるからだ。 したがって、同じ場所で一緒に食べることが重要なのである。 そのため、食事の内容にも気が使われている。 基本的には軽食なのだが、おにぎりやピザのように、気楽に手に取って自分の机に持って帰ることができるようなメニューは、基本的には選ばれない。 読者の中には、「なぜ夜食なのか?」「昼食でもいいのでは?」と思われる方もおられるだろう。 これには、理由がある。 人は、同じような目的や境遇にいる人とは仲間意識を持ちやすい。 「残業して仕事を仕上げる」という共通の目標に向かう人たちは、一体感を作りやすい。 つまり、残業中に一息ついて食事を取ることにより、一体感を強めることを目的としているのだ。そして一部の従業員の中で一体感が高まることにより、それが徐々に会社全体へ広まっていくことを考えている。 * * * 以上2回にわたって、様々な会社の事例を見てきた。 どの会社も、単なる思いつきでその制度を始めたのではなく、会社の価値観や文化をより強固なものにするために必要な制度として考え出された制度である。 つまり、どれも価値観や文化が植えつくよう戦略的に検討され、作り出されたものなのである。 前回も申し上げたが、このような制度の表面だけを見て、「こんな制度、ウチでは無理」という発想にはならないでほしい。 まずは、価値観、文化がありきであって、その後に、その文化をより強固なものにするルールとしてどのような内容が必要なのかを考えていただきたい。 また、奇をてらったルールを作る必要もないのである。 (了)
年俸制と裁量労働制 【第3回】 「2種類の裁量労働制の特徴」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 裁量労働制とは、業務の遂行手段や時間配分について、使用者が細かく指示するのではなく、労働者本人の裁量に任せ、実際の労働時間数とは関係なく、労使の合意で定めた労働時間数を働いたものとみなす制度である。 裁量労働制には、「専門業務型」と「企画業務型」という2つの種類がある。 専門業務型裁量労働制 専門業務型裁量労働制は、業務の性質上その遂行方法を労働者の大幅な裁量に委ねる必要性があるため、業務遂行の手段及び時間配分につき具体的指示をすることが困難な一定の専門的業務に適用されるもので、現在19種類の業務に適用されている。 この制度により労働時間のみなし計算がされる場合の割増賃金の額は、あくまでもみなし時間を基準に判断されるが、みなし時間制は、労働基準法第4章の労働時間の計算に関してのみ用いられるものであり、みなしにより計算された時間が法定労働時間を超えたり、深夜業に該当する場合には、割増賃金が必要となる。 また、休憩や休日に関する規定も適用されるため、少なくとも深夜労働や休日労働に対して、使用者は割増賃金を支払う必要がある(S63.1.1基発1号)。 企画業務型裁量労働制 企画業務型裁量労働制は、企業の中枢部門で企画立案などの業務を自律的に行っているホワイトカラー労働者について、みなし制による労働時間の計算を認めるものである。 専門業務型裁量労働制の対象者と同様に、仕事の質や成果により処遇することが妥当であることを根拠としたものであるが、労使委員会における5分の4以上の多数決による決議を要するなど、専門業務型に比べて要件は厳格になっている。 企画業務型裁量労働制の対象業務に該当するどうかは個々の労働者ごとに判断され、一部門の全業務が対象業務となるものではない。 対象業務は、事業の運営に関し、企画・立案・調査・分析の各業務が相互に関連し合う作業を行う業務であることとされ、対象となる労働者としては、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を持ち、対象業務を適切に遂行しうる知識・経験を持つ者が想定されている。 導入の条件 導入の条件は、専門業務型の場合には労使協定の締結、企画業務の場合には労使同数で構成された労使委員会における5分の4以上の賛成による決議が必要とされる。 労使協定の当事者となったり労働者代表委員を指名できるのは、労働者の過半数を組織する労働組合か、労働者の過半数により選出された労働者代表だけである。さらに、企画業務型の場合には労働者本人の同意が求められる。 * * * 次回は、年俸制と裁量労働制での運用上のポイントについてお伝えしたい。 (了)