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《速報解説》 退職給付に関する会計基準適用に伴う「税効果会計に関するQ&A」改正の公開草案

《速報解説》 退職給付に関する 会計基準適用に伴う 「税効果会計に関するQ&A」 改正の公開草案   有限責任 あずさ監査法人 波多野 直子   企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」(以下「退職給付会計基準」という)に対応するため、日本公認会計士協会から「税効果会計に関するQ&A」(以下「税効果Q&A」という)にQ15を追加する改正の公開草案が平成24年12月10日に公表され、平成25年1月9日まで意見募集されている。 本稿は、公開草案の解説であるため、最終化した税効果Q&Aの内容を確認する必要がある。 なお、文中、意見に関する部分は、筆者の私見であることを申し添える。   1 税効果Q&Aの改正の経緯 退職給付会計基準の適用により、連結財務諸表においては、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用(以下「未認識項目」という)を、税効果を調整の上でその他の包括利益累計額で認識し、積立状況を示す額をそのまま負債(退職給付に係る負債)又は資産(退職給付に係る資産)として計上する。 一方、個別財務諸表においては、未認識項目は貸借対照表に計上せず、これに対応する部分を除いた、退職給付債務と年金資産の差額を負債(又は資産)として計上する。 このため、個別財務諸表上の退職給付引当金と連結財務諸表上の退職給付に係る負債の額が異なる。 税効果Q&Aの改正は、これに係る個別財務諸表と連結財務諸表における税効果会計の考え方を整理する必要が生じたことに対応するものである。   2 退職給付会計基準適用による個別財務諸表及び連結財務諸表の税効果の取扱い (1) 個別財務諸表と連結財務諸表の繰延税金資産の回収可能性 連結財務諸表において、未認識項目を負債又は資産として認識する会計処理は、連結手続の一環である。以下の前提の場合、未修正項目100を認識するため、退職給付に係る調整額100/退職給付に係る負債100の連結修正仕訳をする。 ・法定実効税率は40%と仮定とし、回収可能性に問題ないものとする。 この連結修正仕訳の結果生じた一時差異は、連結手続上生じた将来減算一時差異及び将来加算一時差異と考えられる。 このような連結手続上生じた繰延税金資産の回収可能性については、「連結手続上生じた将来減算一時差異(未実現利益の消去に係る将来減算一時差異を除く)に係る税効果額は、各納税主体ごとに個別貸借対照表上の繰延税金資産の計上額(繰越外国税額控除に係る繰延税金資産を除く)と合算し、個別税効果実務指針21項に定める回収可能性の判断要件及び個別税効果実務指針22項に従って繰延税金資産の連結貸借対照表への計上の可否及び計上額を決定し、個別税効果実務指針第23項に従って、計上した繰延税金資産の修正を行わなければならない。」とされている(連結税効果実務指針41項)。 したがって、連結財務諸表上の「退職給付に係る負債(又は資産)」に係る税効果は、個別財務諸表における退職給付引当金に係る一時差異に対する繰延税金資産の額(上記例では160)を計上し、これに連結修正項目の繰延税金資産(上記例では40)を合算し、この合算額(上記例では200)についての回収可能性を判断する(税効果Q&AのQ15(1))。 (2) 監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」との関係 監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下「監査委員会報告第66号」という)5(1)の会社分類(例示区分)について、連結財務諸表における会社分類(例示区分)は、個別財務諸表における会社分類(例示区分)と変わらないものと考えられる。 これは、未認識項目の負債(又は資産)の連結貸借対照表への即時認識を行うか否かにより将来年度の課税所得の見積りが変わるものではないためである(税効果Q&AのQ15(2))。 〈例〉 会社分類(例示区分)が①(期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している会社等)である。 連結修正手続(未認識項目の負債認識)において生じる将来減算一時差異を合算すると、「将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上していない」場合に該当する。 ⇒連結財務諸表における会社分類(例示区分)は②に修正するのではなく、個別財務諸表における会社分類(例示区分)と同じ①とする。 なお、監査委員会報告第66号5(2)の退職給与引当金(退職給付引当金)に係る将来減算一時差異に係る将来解消年度が長期となる将来減算一時差異としての扱いは、当該連結修正項目(未認識項目の負債認識)において生じる将来減算一時差異についても同様に当てはまるものと考えられる。連結財務諸表上の退職給付に係る負債と個別財務諸表の退職給付引当金の帳簿価額は、当初は相違があっても、未認識項目の認識のタイミングのずれによるものであり、退職給付に係る将来減算一時差異としての性質は異なるものではないためである(税効果Q&AのQ15(2))。 (3) 回収可能性の見直し時の会計処理 繰延税金資産の回収可能性の見直しにおいては、まず、回収可能性の見直しについての個別財務諸表における税効果に係る処理を行い、これに加えて、連結修正項目に係る税効果の追加認識又は取崩しを行うことになるものと考えられる(税効果Q&AのQ15(3))。 ① 退職給付引当金及び退職給付に係る負債に係る将来減算一時差異についての繰延税金資産の回収可能性が過去なかったものが、その後にあると判断された場合の処理 スケジューリングに基づき、個別財務諸表における退職給付引当金について繰延税金資産を計上する(繰延税金資産××/法人税等調整額××)。 これに加え、スケジューリングに基づき、未認識項目の負債認識において生じる将来減算一時差異について回収可能性があると判断される場合には、連結財務諸表上、当該一時差異についても一部又は全額の繰延税金資産を計上する(繰延税金資産××/退職給付に係る調整額××)。 ② 退職給付引当金及び退職給付に係る負債に係る将来減算一時差異についての繰延税金資産の回収可能性が過去あったものが、その後にないと判断された場合の処理 スケジューリングに基づき、個別財務諸表上の回収可能性の見直しを行い、回収可能性があるものと判断される将来減算一時差異に係る繰延税金資産を算出し、これを超えて計上されていた繰延税金資産の額について取崩しを行う(法人税等調整額××/繰延税金資産××)。 このように個別財務諸表において取崩しが生じる場合、未認識項目の負債認識において生じる将来減算一時差異に対応する繰延税金資産は、すべて回収可能性があるものと判断される額を超える額となる。このため、公開草案の考え方では、連結財務諸表上、個別財務諸表上の取崩しの処理に加え、未認識項目の負債認識において生じる将来減算一時差異に対応する繰延税金資産をすべて取り崩すことになる(退職給付に係る調整額××/繰延税金資産××)。 (了) 【参考】 日本公認会計士協会ホームページ 「「税効果会計に関するQ&A」の改正について(公開草案)」

#No. 0 創刊準備5号(掲載号)
#波多野 直子
2012/12/25

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第4回】税率変更の問題点(3) 「請求書発行に伴う販売管理等のシステム変更」

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第4回】 税率変更の問題点(3) 「請求書発行に伴う販売管理等のシステム変更」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   1 販売管理システムの変更 前回はレジスター等のシステム変更の必要性について述べたが、請求書の発行に伴う販売管理等のシステムについても変更が必要となる。 請求書の発行については、その処理や表示の方法が業種によって様々であり、その対応策が多岐にわたることから注意を要する。 販売先が一般の消費者である、いわゆるBtoCの取引の場合には、総額表示義務規定により税込で処理をすることとなるが、販売先が特定の事業者である、いわゆるBtoBの取引の場合には、外税で消費税を計算する税抜処理を認めている。 したがって、請求書を作成するにあたり、商品等を個別に消費税を含めた上で合計して請求額を求めるのか(内税方式)、商品等を税抜で合計し、合計後の金額に消費税率を乗じて計算し請求額を求めるのか(外税方式)といった選択については、事業の特性を踏まえた上で、その業界や事業者側の判断でシステム等の変更をしなければならない。 また、請求書は、月や週単位などの一定の期間ごとに、その期間中において取引先等に対して商品等を販売した金額を集計し、その合計額をその計算期間後に発行して請求することとなるため、税率改正の施行日をまたぐ処理については注意しなければならない。 例えば、月末締めの場合、施行日前の平成26年3月末締めの請求書は、施行日後の4月1日以後に発行することとなるが、その税率は旧税率の5%を適用しなければならず、システムの変更時期について注意が必要である。 さらに、毎月15日締めの場合における4月15日締めの請求書は、3月31日までの販売分については5%、4月1日から4月15日までの販売分については8%を適用することとなり、請求書の表示等について明確に区分して処理しなければならない(下記3参照)。 販売管理システムが請求書の発行だけでなく、納品書発行などの納品管理システムと連動している場合には、それらのシステム等についても変更しなければならず、注意しなければならない。 納品書の場合も請求書と同様に、納品時が施行日前なのか、施行日以後なのかによって税率が異なることとなる。また、販売商品の返品等があった場合には、納品した時期がいつなのかによって税率が異なるため、システムの変更が複雑になる可能性がある(特に販売した時期と返品される時期が長期間にわたる場合には、旧税率での返品処理に注意が必要)。 さらに、販売管理システムが経理処理のための会計システムとも連動している場合には、すべてのシステム構築に多くの時間と多額のコストがかかるため、慎重な対応が求められる。   2 請求書等の記載事項 上記1で述べたように、請求書の記載方法については業種や事業内容によって様々であるが、消費税の仕入税額控除を受けるためには、課税仕入につき帳簿及び請求書等を保存しなければならず、さらに、その帳簿及び請求書等につき帳簿は閉鎖日、請求書等は受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2ヶ月を経過した日から7年間保存することを要件としている。 この仕入税額控除の適用要件は、平成9年4月1日において『帳簿又は請求書等の保存』から『帳簿及び請求書等の保存』と改正され、請求書等の保存がなければ仕入税額控除の適用が受けられなくなった。 したがって、請求書等の取扱いについては、発行する事業者だけでなく請求書等を受け取る仕入側の事業者にとっても特に重要であり、その記載内容も含めて注意しなければならない。 この仕入税額控除を適用するためには、一定の事項を記載した請求書等を保存しなければならないが、その記載事項については、その事業者の業種等により以下のように定められている(消費税法30条7項~10項、施行令49条~50条、基本通達11-6-1~11-6-7)。 【請求書等の記載方法】   また、請求書等の記載内容については、次のような方法も認められている。 課税期間の範囲内で一定の期間内の取引をまとめて記載する方法 商品名等について、個々の名称でなく包括的な記載で、課税売上となることが明らかとなっているような記載方法 商品名を記号や番号などで表示した場合で、記号表などにより、課税売上となることが明らかとなっているような記載方法 上記のように請求書等の記載内容については、仕入税額控除の適用を受けるための詳細な項目があり、これらの項目を踏まえた請求書発行のシステムを構築する必要がある。   3 請求書等の記載内容における注意点 請求書の記載方法においては、相手側の仕入税額控除を考慮した上でシステム等の変更を行う必要があるが、特に注意しなければならないのが、税率改正の施行日をまたいで販売した場合における請求書等の表示につき、旧税率適用分と新税率適用分との区分が明確になっているのかという点である。 例えば、請求書の記載につき内税方式で処理している場合、請求書の記載内容に「(税込)」とだけ表記されていたとすると、「施行日前の納品なのか・施行日後の納品なのか」という日付からその税率を判断しなければならず、会計処理等も含め注意しなければならない。 また、外税方式であっても税率ごとに2段書きで表記されていれば問題ないが、5%部分と8%部分の消費税の合計額のみを表記された場合には、仕入側の事業者が自ら区分して計算しなければならず、その経理処理等を誤ってしまう可能性がある。 この請求書の記載方法については、具体的に以下のようなケースが考えられる。 【ケース1】 内税方式の請求書(1段書き)の記載例 【ケース2】 外税方式の請求書(1段書き)の記載例 【ケース3】 内税方式の請求書(2段書き)の記載例 【ケース4】 外税方式の請求書(2段書)の記載例 いずれの請求書についても、上記2で説明した請求書等の記載事項は含まれていることから仕入税額控除の適用には問題ないが、取引先側の処理を容易にするためには【ケース3】又は【ケース4】のような請求書を発行する方が望ましいと思われる。 販売管理等のシステム変更については、単に税率変更をするだけでなく、請求書等の記載方法、返品等があった場合の処理方法、複数の税率が混在する場合の表示方法など様々な事象を想定した上でシステムを構築しなければならず、そのための時間とコストを考慮し対応策を検討する必要がある。 さらに、このシステム変更についても税率変更が短い期間で2度実施されることから、その両方を対応させるのか、それぞれに分けて対応するのかといった点についても十分に検討すべき課題である。 (了)

#No. 0 創刊準備5号(掲載号)
#島添 浩
2012/12/06

今おさえておきたい 消費税改革をめぐる“3つの”キーワード 「簡素な給付措置・給付付き税額控除・複数税率」

今おさえておきたい 消費税改革をめぐる“3つの”キーワード 「簡素な給付措置」 「給付付き税額控除」 「複数税率」   マネーコンシェルジュ税理士法人 税理士 今村 仁   〈消費税増税に当たっての低所得者対策〉 2012年8月10日に参議院本会議で、消費税増税を含む社会保障・税一体改革関連法が賛成多数で可決・成立した。これに伴い、(附則に停止条項はあるものの)地方税を含む現在5%の消費税率が、2014年(平成26年)4月に8%、その1年半後の2015年(平成27年)10月に10%へと2段階で引き上げられることとなった。 しかし、消費税には「全世代で広く分かち合う観点から、社会保障制度の維持・安定化に適した税である」という側面がある一方、「所得の少ない家計ほど、収入に占める税負担割合が高くなるという逆進性が存在し、その緩和を図る必要がある」という低所得者対策の重要性を指摘する声も多い。 そこで民主党政府は当初、その対策として「給付付き税額控除」や「簡素な給付措置」を検討していたが、3党合意では更に「複数税率」も選択肢に入り、簡素な給付措置の実施が8%への引上げの条件ともされた。 衆議院選挙で政権が交代した場合に、この3党合意がどうなっていくのかなど、これら低所得者対策については特に今後、専門家として注視していく必要がある。   〈給付付き税額控除〉 まずは、給付付き税額控除であるが、これは子育て支援や就労支援などを目的に、社会保障給付と税額控除を組み合わせて行うものである。 例えば、所得税の納税者に対しては税額控除の恩典を与えるが、控除しきれない方や課税最低限以下の方に対しては現金給付を行うというものである。 現在の単なる税額控除方式の場合では、納税額が少ない方や課税最低限以下の方に対して十分な恩典を与えることができなかったが、この給付付き税額控除方式であれば、それらを一部克服することが可能となる。 しかし、この給付付き税額控除制度を導入するには、その前提として個々の所得把握が必要となる。 そのため制度導入には、マイナンバー制度の本格稼働及び定着が必須であるが、ご承知のように未だ法案(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案)自体が成立しないまま、衆議院が解散となってしまった。 また、「給付付き税額控除」は所得税のあり方に密接に関わるものであることに一定の留意も必要となろう。 一方、2012年8月23日の民主党税制調査会による「消費税の逆進性対策にかかる論点整理」によると、「制度設計上の論点」及び「制度導入に伴う論点」として下記の項目が掲げられている。 (出典:「消費税の逆進性対策にかかる論点整理」)   〈複数税率・簡素な給付措置〉 「複数税率」とは、例えば、食料品や一部の衣料品などの特定の財・サービスに対して相対的に低い税率を適用するなどして、単にすべての財・サービスに対して税率を一律に引き上げるのではない方法のことである。 この複数税率は一見すると、低所得者対策として一般的な理解は得やすいといえるかもしれないが、仮に食料品を軽減対象にしたとしても、かえって高額所得者ほど負担軽減額が大きくなり、逆進性対策としての効果には議論の余地があるといえる。 更には、インボイスの導入が必要となり、事業者(納税義務者)の事務負担の増加(積上げ計算、システム変更費用、商品管理の複雑化等)や、インボイスを発行できない免税事業者が取引から排除される懸念にどう対処するか、といった問題が考えられる。 中小企業にとっては、これらは大変影響の大きい事項であろう。 一方、前述の「給付付き税額控除」又は「複数税率」が実施されるまでの暫定的・臨時的な対応として、2014年4月の消費税率8%の段階から、「簡素な給付措置」を実施することになっている。 「簡素な給付措置」とは、「真に配慮が必要な低所得者の方々にしっかりとした措置が行われるよう、社会保障の機能強化との関係も踏まえつつ、給付の開始時期、対象範囲、基準となる所得の考え方、財源の問題、執行面での対応の可能性等について、予算編成過程において、立法措置を含めた具体化を検討していく」とされている。 つまり、現金給付なのかどうかなども含めて、未だ具体的な施策は何も決まっていないということである。 また、衆議院選挙の結果によっては、その後の政府の方針転換によって、大きな影響を受ける企業などが出てくる可能性があることにも注意が必要である。 (了)

#No. 0 創刊準備5号(掲載号)
#今村 仁
2012/12/06

制度改正と適用要件に注意! 青色欠損金の繰越控除制度 【第2回】「適用上の論点整理」

制度改正と適用要件に注意! 青色欠損金の繰越控除制度 【第2回】 「適用上の論点整理」   弁護士 木村 浩之   1 青色申告要件について (1) 青色申告の承認が取り消された場合 青色欠損金の繰越控除を受けるためには、当然のことながら、欠損金額の生じた事業年度において青色申告を行うことが要件とされている(法法57⑩)。 青色申告については、税務署長による承認を受ける必要があり、また、いったん承認がなされたとしても、一定の場合に取消しがなされる可能性がある(法法127①)。 この青色申告の承認の取消しがなされた場合、その効力としては、遡及効が認められており、過去に遡って青色申告がなされていなかったことになる。 したがって、青色申告の承認が取り消された場合には、その取消対象となった事業年度に遡って、青色欠損金の繰越控除の適用も否認されることになる。 (2) 承認の取消要件について 青色申告の承認の取消要件としては、法令上 などが規定されている。 もっとも、実務上、軽微な違反の場合にまで取消しをするのは相当でないとされており、具体的な事例において取消処分がなされるか否かについては、国税庁において一定の運用基準が定められている(「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」平成12年7月3日課法2-10ほか)。 これによれば、例えば、仮に帳簿書類に仮装又は隠ぺいがあったとしても、いわゆる不正所得金額が500万円未満又は不正所得金額の割合が50%未満の場合には、青色申告の承認を取り消さないことを原則とするなど、承認の取消しがなされる基準について明確化が図られている。   2 確定申告書の連続提出要件について (1) 問題の所在(期限後申告の取扱い) 青色欠損金の繰越控除を受けるには、上述のとおり欠損金額の生じた事業年度において青色申告を行っていることに加えて、さらに、その後に連続して確定申告書を提出していることが要件とされている(法法57⑩)。 すなわち、欠損金額の生じた事業年度において青色申告を行っていれば、その後は白色申告であってもよいとされているが、繰越控除の適用を受けようとする事業年度まで、連続して確定申告書を提出している必要がある。 それでは、欠損金額の生じた事業年度において青色申告を行い、その後、いったんは申告をしていない(無申告の)事業年度があったものの、青色欠損金の繰越控除を受けるために、その無申告となっていた事業年度の確定申告書を事後に提出した場合(期限後申告の場合)は、「連続して確定申告書を提出している」との要件に該当するか。 (2) 期限後申告書の提出と連続提出要件 青色申告を行った後に無申告の事業年度があり、その後、当該事業年度について期限後申告書の提出がなされた場合に、「連続して確定申告書を提出している」との要件に該当するか否かについては、青色欠損金の繰越控除を受けようとする事業年度の確定申告書の提出時を基準として判断するとした裁決例がある(平成20年3月14日裁決・裁決事例集75集370頁)。 したがって、これによれば、青色欠損金の繰越控除を受けようとする事業年度の確定申告書を提出してしまった後に、それ以前の無申告であった事業年度の確定申告書(期限後申告書)を提出したとしても、繰越控除は認められない可能性が高いといえる。 他方、期限後申告書であっても、その申告書自体は「確定申告書」に含まれるとされている(法法2三十一)ことからすれば、仮に青色申告後に無申告の事業年度があったとしても、青色欠損金の繰越控除を受けようとする事業年度の確定申告書の提出時までに、その無申告であった事業年度に係る期限後申告書を提出することによって、繰越控除が認められるものと解される。   3 更正期限の延長と帳簿保存義務 (1) 更正の期間制限と繰越控除の関係 過去の事業年度についての確定申告を行った後に、実際は欠損金額が生じていたこと(黒字申告の場合)、あるいは欠損金額が実際よりも多額であったこと(赤字申告の場合)が判明した場合においては、当該事業年度の純損失等の金額についての更正がなされた場合に限って、新たに判明した実際の欠損金額を繰越控除の対象とすることができるものとされている。 したがって、更正の期間制限により、もはや更正をすることができない事業年度に生じていた欠損金額については、その後の事業年度において繰越控除の対象とされる余地がないこととなる。このことは、言い換えれば、更正をすることができる事業年度に生じていた欠損金額については、遡って純損失等の金額について更正を受けることにより、その後の事業年度において繰越控除の対象とすることが認められる余地があるということになる。 (2) 税制改正に伴う今後の対応 平成23年12月の税制改正において、青色欠損金の繰越期間が7年から9年に延長されたことに伴い、法人税に係る純損失等の金額についての更正の期限も、7年から9年に延長されている。 ところで、一般に、法人税の確定申告時には欠損金額が生じていなかったとしても、後になって(極端な場合、9年後に)、計算の対象から漏れていた損金が判明することで、欠損金額が生じていたことになる場合もあり得るといえる。 この場合、その欠損金額について繰越控除を受けるためには、更正の請求などによって純損失等の金額について更正を受けることに加えて、その欠損金額が生じていたことになる事業年度の帳簿書類が9年間保存されていることが、今回の改正で新たな要件として規定されている(【第1回】の3を参照)。 したがって、確実に繰越控除を受けるという観点からは、今後は、帳簿書類については、確定申告時における欠損金額の有無にかかわらず、一律に9年間保存しておくことが望ましいといえる。   4 総括 以上、2回にわたって、青色欠損金の繰越控除につき、税制改正に伴う新制度の適用上の留意点及びそれに関連する論点についての整理を行った。 青色欠損金の繰越控除は、人為的に区切られた事業年度における法人税額を平準化し、税負担を合理的なものとするための重要な制度であるので、本稿をも参照しつつ、その適用に誤りや遺漏のないように留意していただきたい。 (連載了)

#No. 0 創刊準備5号(掲載号)
#木村 浩之
2012/12/06

改正通則法と重加算税の今後②

改正通則法と重加算税の今後②   公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   前回述べたように、課税庁は、重加算税の賦課決定処分をする際、納税者に「客観的な隠ぺい・仮装の事実」があれば、「故意の立証」は要求されない。 この「客観的な隠ぺい・仮装の事実」について、最近の判例では、どのように「隠ぺい・仮装」と認定しているか、検討してみたい。 以下の判例は、すべて裁判所が「隠ぺい・仮装」と認定した事例である。 ① 架空外注費 【認定事実】(東京高裁平17.8.31判決) 外注先名義の印章を所持していて、外注先の名義で納税者ら宛ての外注加工費の請求書及び領収書を作成していたこと 外注先名義の預金通帳と銀行印を所持していたこと   ② 経済的利益(雑所得) 【認定事実】(大阪地裁平17.9.14判決) 他人名義の預金口座を利用して受領したこと 名刺の裏に領収した旨記載した書面を作成・交付していること 3億円の受領した領収書等を作成・交付していないこと   ③ 簡易課税(消費税) 【認定事実】(名古屋地裁平21.11.5判決) 実体のない別会社を次々に設立したこと 請負業務をこれらの別会社に外注委託する形を採ったこと 別会社に従業員を転籍させたように装ったこと 架空の業務委託契約書を作成したこと   ④ 利益供与 【認定事実】(新潟地裁平22.1.14判決) 本件支出金(利益供与)を株式再評価差額であると偽った稟議書を作成したこと   ⑤ 特例の適用 【認定事実】(東京地裁平22.8.26判決) 農業生産法人がしたその飼育した肉用牛の売却が措置法67条の3第1項1号に規定する「市場において行う売却」の方法によるものではないにもかかわらず、そのようなものであるかのように装ったこと   ⑥ 従業員賞与 【認定事実】(熊本地裁平19.1.18判決) 納税者は、従業員の定期預金の通帳及び届出印を従業員に交付せず、簿外預金として秘匿して、自ら管理していたこと 従業員に対し、期末賞与を支給することや定期預金の存在を正式に周知していなかったこと   ⑦ 配当金除外 【認定事実】(名古屋地裁平20.10.30判決) 株式を1,500万円で取得したにもかかわらず、あたかも未払金の決済をしたかのような会計処理をしていること 上記により、取得した株式を簿外資産として、それに係る配当金を収入から除外していること   ⑧ 売上除外 【認定事実】(岡山地裁平22.6.22判決) 本件集計表による売上金額と公表帳簿による売上金との差額が10万円又は20万円の単位で、多数回にわたって規則的に生じていること このように「客観的な隠ぺい・仮装の事実」とは、典型的には、架空の書類を作成した直接の物的証拠、すなわち、取引先の領収書や印章(①⑥のケース)を税務調査で発見される場合であろう。 しかしながら、事前通知を前提とする税務調査においては、通常、このような発見をすることは期待し得ない。 ⑥のケースは、過去において、しばしば見受けられる隠ぺい・仮装の形態である。この場合も、専ら税金対策のために、従業員全員の了解の下で、このような行為が行われている場合に、直ちに「隠ぺい・仮装」といえるのか疑義が生じる。まして、従業員が賞与について周知しているということは、将来、従業員が納税者に対して当該金員を請求する権利を有しているともいえ、一時的に納税者が保管しているという反論を可能にする。 ②のケースは、他人名義の預金口座を使用する、高額の金員の受取りの証に名刺の裏を利用するといった不自然さが、隠ぺい・仮装と認定されたものと思われる。 ③は、典型的な消費税の租税回避のケースであるが、その実態(この判断には争いが生じるかもしれない)がなければ、「隠ぺい・仮装」となるのであろう。 ④は、「偽りの稟議書」であるが、この偽りについても、何をもって偽りとするか、争いが生じる。 ⑤は、免除所得の特例を受けるために、あたかも「市場において行う売却」のように装ったということであるが、その装いが「隠ぺい・仮装」であるという判断についても、争いが生じるかもしれない。 ⑦の配当金除外は、その前提として、株式の簿外資産がある。この簿外資産が結果として、配当金の収入を除外することになるから、隠ぺい・仮装と認定されている。 ⑧のケースは、一定の金員が、多数回そして規則的に生じていることから、隠ぺい仮装と認定されている。 このように、上記8つの判例を検討しても、「客観的な隠ぺい・仮装の事実」というものは少ないように思われる。 たとえ、課税庁が「隠ぺい・仮装」であると認定し、重加算税の賦課決定処分をしたとしても、まだ争える余地は残されているようである。 (改正通則法適用後となる)2013年以降の税務調査による重加算税の賦課決定処分に係る「理由附記」についても、今後、注意深く見守っていきたい。 (連載了)   【参考】拙著『第4版 事例からみる重加算税の研究』清文社(2012年)

#No. 0 創刊準備5号(掲載号)
#八ッ尾 順一
2012/12/06

特定新規設立法人の納税義務の免除の特例と企業戦略

特定新規設立法人の 納税義務の免除の特例と企業戦略 ―平成26年4月以後に「基準期間に相当する期間」の課税売上高が5億円超の法人が設立した新規設立法人は課税事業者となる─   アースタックス税理士法人 税理士 島添  浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆)   制度(改正消費税法12条の3)の概要 平成24年8月10日に成立した改正消費税法(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律)により、平成26年4月1日以後に設立される法人については、資本金の額が1,000万円未満であっても、基準期間に相当する期間の課税売上高が5億円を超える法人が50%超出資して設立した法人である場合には、事業者免税点制度の適用がないこととされた。   50%超出資した法人の課税売上高で納税義務を判定 従来は、その事業年度の基準期間がない法人については、事業年度開始の日の資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上のときは課税事業者になることとされてきた(消費税法12条の2)。 また、平成23年6月の税制改正により、平成25年1月1日以後に開始する事業年度からは、(その事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても)その事業年度の前事業年度の開始日から6ヶ月間の課税売上高が1,000万円を超える場合には、事業年度開始の日の資本金の額又は出資の金額が1,000万円未満であっても免税事業者にはならないこととされた(消費税法9条の2)。 本改正により、平成26年4月1日以後に設立される法人から、基準期間がない事業年度開始の日において発行済株式の50%超を他の者に直接又は間接に保有され、かつ、判定の基礎となった他の者及び当該他の者と特殊な関係にある法人のうちいずれかの者の『基準期間に相当する期間』における課税売上高が5億円を超える場合には、改正前の要件を満たしていても納税義務が免除されないこととなった。 つまり、新規設立法人の納税義務の判定にあたっては、当該新規設立法人の発行済株式の50%超を保有する出資法人の『基準期間に相当する期間』における課税売上高が5億円を超えるか否かによっても行うこととなる。 なお、新規設立法人の納税義務の判定にあたって必要な事項は政令で定める旨が規定(改正消費税法12条の3第5項)されているので、現時点(公開日現在)では詳細は明らかになっていないが、『基準期間に相当する期間』については、新設合併があった場合の納税義務の免除の特例(消費税法11条3項及び4項)等の従来の規定に準ずるものと想定される。 これを前提とすると、平成26年4月1日以後に設立される法人の納税義務の判定は、以下の図のようなイメージになる。 〈新規設立法人の納税義務〉 また、下記の〈ケース1〉及び〈ケース2〉の場合、新規設立法人S社は基準期間に相当する期間の課税売上高が5億円を超える法人P1社に株式を50%超保有されているため、平成26年4月1日以後開始する課税期間から事業者免税点制度の適用がないこととなる。逆に〈ケース3〉の場合、基準期間に相当する期間の課税売上高が5億円を超える法人P1社に株式を50%超保有されていないため、従前どおり事業者免税点制度の適用があるものと考えられる。 上記の場合、S社は課税事業者に該当 上記の場合、S社は課税事業者に該当 上記の場合、S社は免税事業者に該当 ※P1社及びP2社の「5億円超」又は「5億円以下」は、新規設立法人の『基準期間に相当する期間』の課税売上高をいう。 ※新規設立法人S社は、資本金の額が1,000万円未満を前提としている。   新規設立法人に係る納税義務の判定フローチャート 平成23年6月の税制改正により、特定期間(法人については、その事業年度の前事業年度の開始日から6ヶ月間)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間について納税義務が免除されないこととされた(特定期間の課税売上高に代えて、同期間の給与等支払額の合計額が1,000万円を超えたかどうかにより、納税義務の判定をすることもできる)。 なお、特定期間は、原則としてその事業年度の前事業年度の開始日から6ヶ月間となるが、新たに設立した法人で決算期変更を行った法人等は、その法人の設立日や決算期変更の時期がいつであるかにより、特定期間が異なるので、納義義務の判定にあたっては注意が必要となる。 この平成23年6月改正と特定新規設立法人の納税義務の免除の特例の創設に伴い、新規設立法人の納税義務の判定フローチャートは以下のとおりになる。 〈課税事業者判定フローチャート〉 企業戦略への影響 特定新規設立法人の納税義務の免除の特例の創設に伴い、関連子会社の設立を予定している企業グループは、平成26年4月1日前に資本金1,000万円未満で設立することにより、当該関連子会社の設立1期目を免税事業者とすることが可能となる。 ただし、2期目以降は、上記平成23年改正の特定期間の課税売上高による納税義務の有無の判定が必要になるので注意が必要である(上記「課税事業者判定フローチャート」参照)。 なお、改正消費税法12条の3によれば、新規設立法人の基準期間がない事業年度開始の日において他の者により発行済株式の50%超が直接又は間接に保有される場合に当該免除の特例の適用を受けることとされている。 したがって、親会社の課税売上高が5億円超、その子会社の課税売上高が5億円以下である場合において、いわゆる孫会社として新規設立法人を設立した場合であっても、当該免除の特例の適用を受けることが想定される。 また、政令が公表されていないので確実ではないが、「新規設立法人が支配される場合として政令で定める場合」にも当該免除の特例の適用を受けることとされていることから、課税売上高が5億円以下である持株会社を設立して、その持株会社が出資して新規設立法人を設立した場合であっても、持株会社の傘下に課税売上高が5億円を超えるような関連会社がある場合には、当該免除の特例の適用を受ける可能性があるので注意が必要である。 (了)

#No. 0 創刊準備5号(掲載号)
#島添 浩、小嶋 敏夫
2012/12/06

過年度遡及会計基準の適用による会計方針の変更の取扱い

過年度遡及会計基準の適用による 会計方針の変更の取扱い   公認会計士 阿部 光成   平成24年3月期決算から、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。以下「過年度遡及会計基準」という)及び「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第24号)が適用されている。 過年度遡及会計基準では、会計方針及び会計方針の変更についてあらためて定義を行い、会計方針の変更を行った場合には、新たな会計方針を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理することを規定している。当該処理を「遡及適用」という(過年度遡及会計基準4項(9))。 遡及適用は、従来の会計処理とは異なる方法であるので、実務に浸透するまでには時間がかかるものと思われる。 以下では、会計方針の変更及び遡及適用を中心に解説を行う。   Ⅰ 従来の取扱い 従来、会計方針の変更を行った場合には、会計方針の変更が当該変更期間の財務諸表に与えた影響に関して、注記により開示されていた。 過年度遡及会計基準において遡及適用が規定されたことにより、新たな会計方針を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理することになる。   Ⅱ 会計方針の変更等の定義 過年度遡及会計基準では、会計方針と表示方法を分けて、それぞれの定義が設けられている。これに合わせて、会計方針の変更と表示方法の変更も区別されている。 これらの定義は次のとおりである(過年度遡及会計基準4項(1)、(2)、(5)、(6))。 「会計方針」とは、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続をいう。 「表示方法」とは、財務諸表の作成にあたって採用した表示の方法(注記による開示も含む)をいう。 「会計方針の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することをいう。 「表示方法の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた表示方法から他の一般に公正妥当と認められた表示方法に変更することをいう。   Ⅲ 会計方針の変更の取扱い   1 会計方針の変更の分類 会計方針の変更には、①会計基準等の改正に伴う会計方針の変更と②それ以外の正当な理由による会計方針の変更の2つがある。 会計方針の変更があった場合、それぞれについて、原則として次のように取り扱う(過年度遡及会計基準6項)。 2 遡及適用 遡及適用により、次の処理を行うことになる(過年度遡及会計基準7項)。 表示期間(当期の財務諸表及びこれに併せて過去の財務諸表が表示されている場合の、その表示期間をいう)より前の期間に関する遡及適用による累積的影響額は、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映する。 表示する過去の各期間の財務諸表には、当該各期間の影響額を反映する。 3 開示例 平成24年3月期における会計方針の変更の事例として、次のものがある。 なお、当該事例は、有価証券報告書から検索した事例を参考として紹介するものであり、特段の推奨の意図などはないことを申し添える。 【会計方針変更の事例】 (出所:有価証券報告書) (了) 〈連載中の最新記事については、下記をご覧ください。〉

#No. 0 創刊準備5号(掲載号)
#阿部 光成
2012/12/06

〔会計不正調査報告書を読む〕【第3回】ニチリン米国子会社・不適切な会計処理「調査委員会調査報告書」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第3回】 ニチリン米国子会社 不適切な会計処理 「調査委員会調査報告書」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】   【株式会社ニチリンの概要】 株式会社ニチリン(以下「ニチリン」という)は兵庫県神戸市に本店を置く、自動車用ホース類を主とするゴム製品の製造・販売会社で、年商33,463百万円、経常利益682百万円。国内に3社、海外は北米の4社をはじめ計10社の5社の連結対象子会社を有している(数字はいずれも2011年12月期)。大阪証券取引所上場。   【報告書のポイント】 1 不正操作が発覚した経緯 (1) 取締役会における調査指示(2012年5月頃) ニチリン取締役会は、従前より、子会社の月次決算報告を義務づけているところ、ニチリン テネシー インク(米国、以下「NNT社」という)の月次業績報告において、売上の増減と利益の増減が連動しない傾向を示していたため、子会社管理部門に対し調査を指示した。 (2) 内部統制監査時の重点監査(8月下旬) 子会社管理部門の調査では原因は判明しなかったが、NNT社社長へのヒアリング等を通じ、棚卸資産残高に問題があると考え、定期的な内部統制監査実施時に、棚卸資産を重点監査させたところ、在庫金額を過大計上している疑念が高まった。 なお、NNT社社長は、この時点で不適切な会計処理を報告している。 (3) 社内調査チームによる調査 9月3日、社内調査チームを編成、同月8日から22日の第一次調査及び27日から翌月14日にかけての第二次調査で、本件不正操作にかかる事実関係の究明を行う。 (4) 調査委員会の設置 社内調査チームによる調査の後、9月28日に開催された取締役会で、調査委員会の設立が承認され、同日、適時開示を行った。 調査委員会の特徴として、調査委員にニチリン取締役(経理部、内部統制推進室、原価管理担当)を含み、日弁連の「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠する形態をとっていないことが挙げられる。 その理由としては、 等から、社内調査の結果等を活用し、それに第三者の視点を補完して調査する方が、迅速かつ適切に調査ができるものと判断した、と説明している。   2 調査結果により判明した事実 (1) 不正な操作による棚卸資産の過大計上 会計帳簿データの改竄による部品等の過大計上、不稼働在庫の過少見積りにより、2011年12月期に727千ドル(US)の過大計上を行った。 2012年第1四半期にはさらに851千ドル(US)分追加で過大計上を行ったが、同第2四半期では、不正操作の発覚を恐れ、632千ドル(US)分減額し、同期における過大計上額は946千ドル(US)となった。 結果的には、この減額処理により売上と利益の増減に不一致が生じたことから、取締役会での疑念につながった。 (2) 誤謬による棚卸資産の過大又は過少計上 NNT社では、不正の意思によらない、在庫締め手順の誤りや一部積送品の在庫計上の誤り等により、棚卸資産の過大又は過少計上の事実が認められた。 (3) 未払材料費として計上されていた買掛金の取崩しによる利益計上 NNT社では、2007年以降請求がない未払買掛金について、2011年12月期に608千ドル(US)を取り崩し、利益計上を行った。   3 NNT社における不正操作発生の理由 (1) ニチリンの企業風土 調査委員会のヒアリングによると、ニチリン社長は、「会社の風習、慣例を打ち砕き、新しいものにしていく、変化に挑戦していく組織風土作りを目指している」ということで、他の取締役・監査役も、取締役会で率直な意見交換ができ、風通しのいい会社風土であることを認めている。 こうした企業風土が、本件不正操作の早期発見を可能にしたことは間違いない。 (2) NNT社による原価管理と2011年12月期における特殊事情 NNT社では、四半期決算以外の月次決算では、簡便的に材料比率を使用して計算した材料使用高をもとに在庫金額を算定し、原価管理を行っていたが、2011年10月期、11月期において使用した材料比率が低く(利益は過大に計上)、12月末に実地棚卸により在庫金額を算定した結果、多額の営業損失が顕在化した。 一方、NNT社社長は、2011年12月に行われた全社的な会議で、実態より多く利益が計上された月次損益に基づく業績見込みを公表していたことから、営業損失を回避すべく、経理部長、製造部長などに指示を与え、本件不正操作を行わせたものである。   4 調査報告書の特徴 調査報告書の特徴としては、以下の2点を挙げられる。 本件不正会計は、親会社であるニチリン取締役会で問題となり、内部調査の結果、不正操作が発覚したものであること 調査委員会の設置が、日弁連ガイドラインに準拠せず、ニチリン取締役が調査委員に就任していること 子会社における不正の端緒に基づく社内調査により、証拠の収集や原因追及などを終えることができたのであるから、総合的に見てニチリンの内部統制は有効に機能していると言えよう。 そのうえで、第三者の視点を補完して調査の適正性を担保し、再発防止策の提言を受けようという姿勢は、経営者の不正防止への強い意思を感じさせる。同時に、形式的に日弁連のガイドラインに依拠するのではなく、社内調査の実質的責任者を配した委員会の組成は、自社の有する自浄能力への自負の表れではないかと思料する。 (了)

#No. 0 創刊準備5号(掲載号)
#米澤 勝
2012/12/06

公益法人の「会計区分」─ 公益法人会計基準及び公益認定法をめぐる解釈上の誤解 ─

公益法人の「会計区分」 ─ 公益法人会計基準及び 公益認定法をめぐる 解釈上の誤解 ─   公認会計士 上村 恒雄   平成20年4月に公布された「公益法人会計基準」及び「公益認定法(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律)」との関係においては、実務上分かりにくく、また誤解が発生しているポイントが多数存在する。 その主要な要因としては 大部分の公益法人は公益目的事業のみを実施する小規模な法人であるのに対し、会計基準及び公益関連法規が特殊な法人を前提とした複雑な構成であること 大規模法人と比較し小規模法人は管理要員(人員)が大幅に少なく、また資金的な余裕もないことから、会計専門家を顧問等として利用することが難しいと思っている法人が多いこと などが考えられる。 その実務上の混乱等の一つが「会計区分」に関するものであるが、この会計区分は、一般的に部門別計算での部門設定といえる。 具体的には、「公益目的事業」、「収益事業等」、及び「法人会計」の3区分となるが、正味財産増減計算書(損益)と貸借対照表では別の取扱いとなっており、貸借対照表の取扱いについて混乱が発生している。 この結果、特に小規模公益法人において不要とされる会計帳簿を作成し、無駄で多大な労力・時間を使用している法人が多数見受けられる。 本稿では、これら会計基準及び認定法の記載内容を検証し、上記に述べた誤解の多い解釈について解説するものとする。   1 公益法人会計基準等における記載 まずは、公益法人会計基準等の記載内容について検証する(一般的には16年基準を「新会計基準」、20年基準を「新新会計基準」という)。 以上のとおり、正味財産計算書では「会計区分が前提」という表現と推定されるが、貸借対照表については「法令の要請がある場合」との限定があり、必ずしも区分する必要はない。 しかし、その表現は「会計区分を有する場合」と、上記の通り並べて見て初めて明確になるものであり、一般経理担当者には分かりにくいものと思われる。 また、貸借対照表の記載例については、正味財産増減計算書の様式と同様に、まず総括表としての様式(前年比較様式)、次に内訳表(会計区分)と上下に連続して記載されており、内訳表は“作成しなければならない様式”に見えてしまい、必要ないにもかかわらず、貸借対照表の内訳処理(部門別処理)を実施している事例が多数存在した。 なお、財産、特に預金を部門別に管理することは極めて煩雑な管理を必要とする。つまり、従来は不要であった管理業務である部門別の資金の管理、タイムリーな資金移動、及び資金の部門間の貸し借り処理が必要となる。   2 公益認定法関係における記載 次に、公益認定法等における記載内容を検証する。 したがって、多数派である公益目的事業のみを実施している公益法人の場合、貸借対照表について会計区分は不要ということになる。 なお、貸借対照表の会計区分は原則として不要であるが、財産目録等において公益目的保有財産を明記しなければならない点に別途留意が必要である(公益認定法施行規則31条)。 また、会計システムへの対応という面では、市販の会計システムは全ての法人に対応できるように基本設計されているため、貸借対照表も内訳表を作成することを前提に設計しているものが多い点に留意が必要となる。 この場合、貸借対照表科目についてはシステム上、部門別処理を実施せざるを得ないが、出力する総勘定元帳については部門別の指定のない(全部門)での元帳を出力することにより、資金管理等の面での安全性かつ経済合理性を確保することが望まれる。   3 正味財産計算書の区分(配賦関係) 各事業部門と管理部門(法人会計部門)とに共通して関連する費用は、「配賦」により管理部門から各事業部門へ費用を振り替えられることとなった(公益認定法施行規則19条)。 公益認定法での特徴的な会計処理方法であるが、この点に関しても留意すべき点が存在する。 この配賦は、合理的に計算・按分した数値を各部門へ振り替えることを意味するが、この手続を日常的に実施した場合には、会計帳簿の量が従来から見て50%以上多くなる場合もあり、かつ、基礎証憑との整合性を確認することが技術的に難しくなる。 このように経済性、検証可能性において問題が発生するため、月次又は年次などの時期にまとめて合計額で配賦計算し、振替処理することが望ましいものと思われる。 また、配賦を決算組換えと考え、仕訳をせず財務諸表作成上の表示上の組替処理をすることも検討すべきものと思われる。その際には組換表について、会計帳簿及び決算書と同様の扱い(決算書類の一部)として保管することが必要である。 最後に、私見であるが、公益システム開発業者及び会計の専門家においても、一部ではあるが上記の誤解等が発生している点が特徴である。 本来、会計区分、配賦などは管理会計の分野であり、法人の実態に即して定めるものであって、一律に定めるものではないという考えの方が多いのではと思う。このような基礎知識があるが故に、法制度で制度化された場合には、よりタイトな設定(強制規定との認識)であろうとの考えが生じてくるのではないだろうか。 なお、監査対象の会社等と違い、規模等において大幅な違いがある公益法人は、法制度上認められる限りではあるが、簡易な方式を採用した方がよいと思われる。 (了)

#No. 0 創刊準備5号(掲載号)
#上村 恒雄
2012/12/06

外国人労働者の雇用と在留管理制度について【第2回】「在留管理制度の変更のポイント」

外国人労働者の雇用と在留管理制度について 【第2回】 「在留管理制度の変更のポイント」   KPMG BRM株式会社 マネージャー 申請取次行政書士 佐々木 仁   今年(平成24年)7月9日より、従来の外国人登録制度が廃止され、在留カードの交付等新たな制度により外国人の在留が管理されることになった。 この制度の導入により、在留期限の上限がこれまでの3年から最長5年となったほか、出国後1年以内に再入国する場合の再入国許可手続を原則として不要とする、「みなし再入国許可制度」が導入された。 従来は外国人が日本に上陸後90日以内に、居住している市区町村に届け出て外国人登録を行うことにより、市区町村の長から登録事項が記載された外国人登録証明書が交付されていた。 また、これまでの出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」)による外国人の管理は、上陸時、在留期間更新時、在留資格変更時、出国時といったその時々の変更に関する管理のみであった。 今回の入管法改正により、これまで入管法に基づいて入国管理官署が行っていた情報の把握と外国人登録法に基づいて市区町村が行っていた情報の把握が一元化され、法務大臣が在留管理に必要な情報を継続的に把握する制度に変更された。 新しい在留管理制度の対象者は、今年7月9日以降に上陸する、3ヶ月を超えて日本に在留する外国人(以下「中・長期在留者」)、及び同日以降に既存の在留資格の変更や在留期間の更新許可を受ける中・長期在留者等である。 中・長期在留者は、受入先や身分関係、在留カードの記載事項に変更があった場合に入国管理官署または市区町村役場を経由して法務大臣宛に届け出る必要がある。 また、中・長期在留者の受入先である企業や団体も法務大臣宛に、対象外国人に関する届出を行うことが求められる。 必要な手続の概要は、以下のとおりである。   新たな在留管理制度での手続の流れ 初めて入国する中・長期在留者には、例外を除き空港で、パスポートに上陸許可の証印がされるとともに在留カードが交付される。カードを受領した中・長期滞在者は、住居地を定めてから14日以内に、在留カードを持参して住居地の市区町村役場の窓口で住居地を届け出る。 また中・長期在留者が転居した場合は、変更後の住居地に移転した日から14日以内に、移転先の市区町村役場の窓口に在留カードを持参して、新しい住居地を届け出る必要がある。 このように住居地については市区町村役場の窓口を経由して、法務大臣に届け出る仕組みになっている。 なお、カードの記載事項(氏名や国籍)、または勤務先の名称や所在地、契約先(転職等)に変更があった場合、中・長期在留者は管轄する地方入国管理官署宛に、変更が生じた日から14日以内に変更の届出を行う必要がある。 また中・長期在留者を受け入れている企業や団体(勤務先)も、受入れを開始し(雇用の開始、役員選任等)、または終了(解雇や退職)した場合は、14日以内に地方入国管理官署に届出を行うことが求められている。従来は勤務先に対し、受入れの開始や終了について、このような届出等は求められていなかった。 この届出を行わなかった場合、刑罰を科せられることはないものの、今後中・長期在留者が在留期間更新等の許可申請を行う際に、入国官署での審査が慎重になる可能性があるので、失念しないよう注意したい。 次回は、在留カードについて取り上げる。 (了)

#No. 0 創刊準備5号(掲載号)
#佐々木 仁
2012/12/06
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