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福岡魚市場株主代表訴訟 ~判決から読む会社経営者の子会社管理責任(2)

福岡魚市場株主代表訴訟 ~判決から読む会社経営者の子会社管理責任(2)   弁護士 中西 和幸   1 はじめに 前回は、魚市場の株主代表訴訟(福岡地裁、高裁では役員が敗訴し、上告中である)の概要を説明した。 今回は、地裁、高裁判決から役員として、「何をしなければならないか」について解説したい。 なお、本稿は、当該裁判に対する論評や被告取締役の責任を追及する目的を有するものではないことを了承されたい。また、略称は前回使用したものはそのまま用いている。   2 「しなかった」ことの責任 本件で忠実義務・善管注意義務違反(以下「注意義務違反」という)が認められた事実は、 簿外取引に対する監視・監督義務のうち、遅くとも平成14年11月18日に公認会計士からの指摘を受けた時点で具体的かつ詳細な調査を行わなかったこと 簿外取引発覚後の連帯保証契約 簿外取引発覚後の当初融資 である。 1については、直接「しなかった」ことの責任が問われているが、2、3も、実質的には「しなかった」ことの責任が問われているので、順に解説する。 (1) 「不作為」とは 「不作為」とは、一定の行為を行う義務がある者が当該義務があるにもかかわらず行為が必要な時期に当該義務を履行しないことをいう。この不作為によっても、取締役や監査役としての法令違反や注意義務違反は発生する。 例えば、取締役会設置会社の業務執行取締役は、取締役会に対し3ヶ月に1回以上自己の職務の執行の状況を報告しなければならない(会社法363条2項)のであり、かかる報告をしない取締役は、何もしていなくとも(何もしていないからこそ)、報告がなかったことにより会社に損害が発生すれば当該条項違反の責任を問われることになる。 例えば、不良品の発生について現場から報告を受けていたにもかかわらず取締役会に報告しなかったことにより会社が製品の回収等の対策を行わず、その結果、当該製品の利用者が負傷し、会社が損害賠償を行った場合が考えられる。 (2) 役員の「作為義務」を考える(役職員をどこまで信頼するか) それでは、役員が本判決で問題となった監視義務につき具体的な作為義務を負う、つまり監視義務の一環として調査義務まで負うのは、どの段階か。 この点、取締役が現場の従業員が行っているすべての行為について、監視義務があるとして疑いの目を向けて調査をする義務があるとまでは、本判決では述べられていない。確かに、日常業務については、役職員間の相互の信頼の下に行われており、実務上はかかる信頼関係を前提として組織・体制を築いているのであるから、特別な事情が発生していない平時には役職員のすべての行為を逐一監視する義務はなく、更に調査義務が発生しているとは言えない。 逆に、他の役職員との相互の信頼関係を疑わせる事情があったときは、監視義務が厳格化し、役員に事実関係の調査義務が発生する、すなわち「作為義務」が発生すると考えることが適切ではなかろうか。 (3) 平時と有事 それでは、他の役職員との信頼関係を前提としてよい時期を「平時」とし、信頼関係が崩れている時期を「有事」とすると、いかなる事態を取締役が認識した場合に、「有事」であることを前提とした作為義務が発生するといえるであろうか。 本判決では、会計士から指摘を受けた時点で具体的かつ詳細な調査を行わなかった不作為について、責任が問われている。ただし、詳しく読むと、判決が指摘した「有事」を疑わせる事情は、単なる会計士の指摘だけではなく、(ア)Y1らが、フク社役員の立場として、不良在庫の発生及び大幅な短期借入金の増加を認識していたこと(イ)魚市場の取締役として、在庫の増加が問題とされ常勤取締役会において在庫管理状況の徹底チェックと長期在庫の処分方針が決められたにもかかわらず在庫が減少せず大幅に増加していることを認識していたことを、調査を行うべき作為義務の根拠としているのである。 以上のように、本判決は、「有事」であることについて複数の通常でない状況を認識していること、それも、親子会社の役員を兼任しているY1らについて、親会社役員と子会社役員のそれぞれの立場での認識を区別して、根拠としている。 したがって、役員としては、それぞれの立場に立って、通常の業務である「平時」と異なる事実を認識したときは、「有事」である可能性があるものとして、監視義務に基づき様々な情報を集めて適正に対応する義務があるということになろう(※)。もっとも、どのような事実が「平時」と異なる事実であるかということについては、会社毎のリスクに応じて考えられるものであり、残念ながらどの会社にも共通するような「これ」といったものはない。したがって、役員としては、こうしたそのリスク感覚を日々磨き上げ、情報を収集して対応することになる。 (※)この点、「重大な企業不祥事の疑いを感知した際の監査役等の対応に関する提言」(平成24年9月27日・日本監査役協会)が参考になろう。 (4) 子会社情報の入手 会社役員が自社の情報、とりわけ不正、事故等の不利益な情報を入手することは容易ではない。不正や事故に関わった役職員は、自らの保身のために隠匿する動機があるからである。そこで、役員として、職制の整備、内部監査、内部通報制度等の内部統制体制(システム)を構築・運用・監査し、その中で情報を取得することになる。子会社の情報を入手するためには、子会社も含めた企業集団全体で内部統制体制(システム)を構築・運用し、また監査しなければならない。 ただし、企業集団全体で体制を構築・運用したとしても、そこで入手できた情報を生かすのは役員次第ということを念頭に置かなければならない。   3 まとめ 以上をまとめると、役員としては、 をすればよい、という、実は当たり前のことを本判決が述べているにすぎないことがわかる。ただ、「当たり前」のことがなかなかできないものが実務であり、それ故、役員の業務は難しいとも言える。 (次回につづく) (参考文献:金融商事判例1367号41頁、1399号24頁、旬刊商事法務1970号15頁) (了)

#No. 0 創刊準備4号(掲載号)
#中西 和幸
2012/11/22

事例で学ぶ内部統制【第3回】「限られた人員で経営者評価の独立性をいかにして保つか?」

事例で学ぶ内部統制 【第3回】 「限られた人員で 経営者評価の独立性を いかにして保つか?」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、内部統制の評価において主要な役割を担う監査部のあり方に目を向ける。 監査部は、企業の中にいながら、経営者の代理人として社内の内部統制の有効性を評価する。そのため、この経営者評価がお手盛りになることを防ぐため、監査部は評価される部門から独立していることが求められる。 ところが、企業の実務家による交流会で意見交換したところ、現場では限られた人員で監査部を組成するため、経営者評価の独立性を保つことに苦心している実情が浮かび上がった。 それでは、限られた人員で、どのように経営者評価の独立性を保っているのか。現場が抱える課題と解決のための創意工夫を紹介しよう。   内部統制の経営者評価をめぐる3つのパターン 議論の冒頭、筆者(株式会社スタンダード機構)より、 「内部統制の評価者は、経営者に代わって、社内で運用されているコントロールが財務報告の信頼性の確保に有効であることを評価するわけであるから、そのコントロールを運用する業務に関与できないこととなる。 例えば、売上計上プロセスで、売上伝票と証憑を照合するコントロールが運用されている場合、評価に携わる監査部の皆さまは、日々の照合業務や伝票への査閲印などという業務を担っていないだろう。これを“経営者評価の独立性”と呼ぶ。 では、実際に皆さまの会社では、どの程度の独立性が確保されておられるのか」 と切り出したところ、経営者評価の体制は3つのパターンに分かれた。 【パターン1】 監査部による第三者評価 参加企業Aは、「独立性を確保するため、すべてのコントロールの評価で、評価される部門から独立した第三者による評価を徹底した。 例えば、決算・財務報告プロセスについては、子会社監査役、財務管理部門経験者などからなる12名の評価チームを編成し、その他業務プロセスについては、内部統制部門からなる23名の評価チームを編成し、35名を統括するチームリーダーを監査部長とした。 この人数は多いと思われるかもしれないが、わが社の場合、過去に現業部門による不祥事が発生したためだ」(プラント会社)と、第三者評価を通じた監査部によるけん制が不可欠と判断した経緯を話した。 参加企業Bは、「当初は、評価される各部門に内部統制責任者を設置し、各部門で自己評価を実施し、その結果を本社に集める方式を考えた。 しかし、やってみたところ、各部門による評価のスタンダードがなく、評価結果がバラバラなため、本社側の内部統制担当者が評価レベルを揃えるのに苦労した。 そこで、評価の独立性を確保するために、本社にある独立した監査部の中に評価部署を設置し、すべての評価は監査部が行うこととした」(精密機器メーカー)と、評価の品質を保つためにも独立した監査部による第三者評価が有効であると指摘した。 【パターン2】 コントロールオーナーによるタスキがけ評価(クロスチェック) 参加企業Cは、「わが社の監査部は2名だけなので、すべてのコントロールの評価を監査部が行うことは不可能だった。 そこで、約30%のコントロールは監査部が評価に直接関与せず、現業部門が評価することとした。 その場合、評価を担う現業部門は、業務プロセスで日々運用を担当するコントロールオーナーが関与しない業務プロセスを担う者にし、相互に相手の業務プロセスのコントロールをタスキがけで評価することとした」(医療機器メーカー)と、監査部の人員の制約により、現業部門に属するコントロールオーナーによるクロスチェックを許容した実情を話した。 参加企業Dも、「恥ずかしながら、わが社の監査部も増員が認められない状況だったので、内部統制報告制度が始まる当初から監査部にすべてのコントロールの経営者評価を任せるという発想はなかった。 そこで、監査法人と相談し、管理部門の部課長から任命された者で構成される財務統制委員会を作って、すべてのコントロールの評価を実施することとした。 この財務統制委員会が経営者に代わって、評価範囲や体制やスケジュールなどの評価計画、評価、報告ができると社内規程で定めて権威づけをした。なお、財務統制委員会による経営者評価の結果に監査法人が依拠できるようにするため、自分が所属する部門の評価をしないようにした」(商社)と、監査法人との協議を経てクロスチェックに至った経緯を強調した。 【パターン3】 コントロールオーナーによる自己評価(セルフチェック) 参加企業Eは、「全体の約90%のコントロールは監査部による第三者評価だが、約10%に当たる海外部門の一部の経理プロセスのコントロールは、経理部門でコントロールを担うコントロールオーナーによる自己評価を行っている。 ただし、その自己評価結果を独立評価部署である監査部又は内部統制推進部が閲覧して評価の実施状況を確認している」(建設会社)と、海外の経理プロセスの評価に自己評価を導入していることを話した。 前出の参加企業Cは、「コントロールオーナーによるセルフチェックは、70%のコントロールの評価に導入した。結局、全体の30%はクロスチェック、70%はセルフチェックだ。 そして、監査部が評価の実施状況を後から確認するのは、セルフチェック部分の70%とクロスチェック部分の一部に相当する10%の合計80%のコントロールとなっている。 監査部の人員が制約され、作業負荷を考えると、これが最適解だった」と、自己評価を積極的に導入した実情を話した。   決算・財務報告プロセスの評価の独立性 多くの参加企業から相談が寄せられたのは、経理部が担う決算・財務報告プロセスの評価で独立性をどうやって保つかという問題であった。 参加企業Fは、「決算・財務報告プロセスの評価には会計知識が必要だが、わが社の監査部は、独立性を確保するあまり、経理・財務部門以外の組織が評価しているため、評価が表面的で形式的なものになりがちだ。 経理・財務部との定期的な勉強会を開催しているが、専門性が高く監査部担当者の知識が追いつかない。 実際の業務を理解して、有効な評価を行うために、他社ではどのような工夫をされているのか。逆に、経理・財務部門内の組織が評価に当たっている場合、独立性をどのように確保されているのか」(情報通信会社)と、問題を投げかけた。 これに対して、参加企業Gは、「経理部経験のある会計知識に明るいベテランを監査部に異動させ、決算・財務報告プロセスの評価をして、独立性と専門性を保った」(部品メーカー)と、人事異動で対応したと話した。 参加企業Hは、「わが社では、経理部員を監査部に異動させるだけの余裕がなかった。かといって、経理未経験者では、経理部のリスク評価ができない。 そこで、同じ経理部の中で、決算・財務報告プロセスを経験していた者が現在の起票を担当しないことを条件にクロスチェックすることとした。 評価者は、人事上は経理部員だが、経理部内の一切の経理伝票を起票しないため、内部統制報告制度においては、第三者として位置づけている」(建設会社)と、職務分離を図ることで対応していた。 次回は、監査部員1名当たりのコントロール数を比較検証する。 (了)

#No. 0 創刊準備4号(掲載号)
#島 紀彦
2012/11/22

香港と日系企業をめぐる最新事情① “Exciting Hong Kong”

香港と日系企業をめぐる最新事情① “Exciting Hong Kong”   アースタックス税理士法人 アースタックス・ビジネスコンサルティング(香港)有限公司 税理士 白水 幹範   〈はじめに〉 とある休日。朝食はいつもの納豆にお味噌汁、家族で街へ外出して、まずはユニクロでフリースを購入、お昼はみんなで回転寿司へ、午後は本屋で週刊誌を、その後ジャスコで晩酌用の焼酎いいちこを購入、夜は友達とワタミで軽く一杯、シメには一風堂のとんこつラーメン。 これ、もちろんすべて香港での話です。 香港の街中には、至るところに日本の物が溢れています。日本食材、日本の衣料品店、日本食レストラン、日本の雑誌、日本のアニメ、日本のリテールショップなど、香港において日本の文化は浸透しています。 香港といえば、観光・グルメ・ショッピングなどをすぐに連想しますが、一方で、金融・貿易・物流・サービスといった様々な産業において、世界中の企業からの資本を集める世界一の競争力をもった都市という一面を持っています。 翻って、今後は人口減少社会を迎える日本。 企業活動がますますグローバル化していくことは必然であり、海外進出は大企業だけに限った遠い話ではなく、身近な中小企業にとっても当たり前の時代がそこまで来ています。 ここでは、日系企業にとって大きな可能性を秘めている香港について、ご紹介させていただきます。   〈香港の概要〉 香港の正式名称は、中華人民共和国香港特別行政区(Hong Kong Special Administrative Region of the People’s Republic of China)といい、中国の南東部、広東省に位置しています。 香港島、大嶼山、九龍半島、そして中国本土に面している新界(262余りの島々を含む)からなります。面積は1,104平方キロメートル、人口は713.63万人(2012年中期現在、香港政府統計処)で、どちらも東京都の約半分強といったところです。 世界的に見ても香港は最も人口密度が高い地域で、香港全域では1平方キロメートル当たりの人口密度は6,580人、九龍地区では44,760人にも及びます(2012年6月末現在、香港政府統計処)。 この九龍地区にある旺角(モンコック)という町は、人口密度が一番高い町というギネス世界記録まで持っているそうです。平日でもお祭りのような雰囲気で、まさに眠らない街香港を象徴するかのように、深夜12時を過ぎても賑わっています。 とはいえ、香港の造成されている土地は全面積の25%も満たないくらいで、公園や自然保護区が40%ほどあるため、意外に思われるかもしれませんが、香港には自然を感じる場所も多いのです。   〈中国返還〉 長きにわたり英国統治下にあった香港は、1984年の英中共同宣言に基づき、1997年7月1日をもって中国に返還されました。 中国返還、そして香港特別行政区設立15周年を迎えた今年2012年7月1日には、ビクトリアハーバーでの花火などをはじめとするさまざまな祝賀イベントが開催されました。 返還後は、「香港特別行政区基本法」において定められている「一国二制度」(一つの国・中国で二つの制度が併存して実施されること)の原則に基づき、外交・国防を除き、香港は高度な自治権が認められました。返還後50年間は返還前の社会・経済制度などの維持が保証される、いわゆる一国二制度が適用されるとの約束が英中間で交わされたため、この制度は今でも順調に機能しています。 すなわち、自由な経済体制が引き続き保障され、規制等による政府のマーケットへの介入を極力排除した自由放任経済により、企業にビジネスの自由を保障しているのです。 また、英国統治下において制定された法制度が適用されており、公正なルールが運用されています。 中国や一部のアジア諸国では、法制度に基づく統治(法治主義)ではなく、権力者の裁量による統治(人治主義)が未だ残っており、外国企業がビジネスを行う場合のハードルを高くしていますが、香港においては、ビジネスにおける契約が当然に守られますし、法に基づかない政府の介入などがなく、極めて透明性の高いビジネス環境が整っています。 また、記憶に新しい2012年9月の尖閣諸島問題を原因とした反日デモ。香港のお隣の深センや広州でも、残念なことにデモが一部暴徒化し領事館や日本料理店への投石行為などがあり、改めて中国ビジネスの難しさを実感させられました。 一方、香港でも反日デモは行われましたが、中国本土のように過激な行動はみられず、秩序が保たれていました。同じ中国とはいえ、中国本土と香港とでは、その安全性も全く異なると感じさせられた一幕でした。   〈公用語〉 香港の公用語は、中国語と英語です。街中で最も広く用いられている言葉は中国語の方言の一つである広東語ですが、中国返還以降も英語教育は重視されており、ビジネスは英語で行うことができることも、香港において外国企業の参入を容易にしている要因の一つです。ストリート名・駅名・建物名などにも英国植民地であったことを感じさせる英語名がついていることがほとんどです。 たとえば、香港島のセントラル地区のWellington Streetは、広東語で威靈頓街(ウァイリントンガーイと発音、ガーイはストリートという意味)といいますが、その英語の発音に近い広東語を語呂合わせでつけられたストリートも多々あります。 最近では、中国経済との緊密化に伴い、中国語の標準語である普通語も普及してきており、若い世代では、英語、広東語、普通語の3言語を自由に操る人材も多くなっています。   〈潜在競争力ランキング〉 公益社団法人日本経済研究センター(JCER)では、潜在競争力を調査し、ランキングを作成しています。これは、世界50ヶ国と地域を対象として、今後10年間にどれだけ一人当たりGDP(国内総生産)を増加させるかを要因に、「国際化」「企業」「教育」「金融」「政府」「科学」「インフラストラクチャー(=社会資本)」「IT(情報技術)」の8つの項目をそれぞれに分析し、ランキング化したものです。 そのランキングによると香港は、2006年調査以来6年、連続総合首位を取っています。 ちなみに2011年調査の上位は、1位 香港、2位 シンガポール、3位 米国、そして日本は14位でした(東日本大震災前のデータを採用)。項目別にみると、香港は同年「国際化」と「金融」で1位、「企業」と「インフラ」で2位になっています。   〈香港の競争力の源泉〉 では、香港の競争力の源泉となっているものは、一体何なのでしょうか? ① 自由主義経済 政府の民間の経済活動に対する介入はできるだけ避けて、民間の自由に任せるという基本方針が貫かれています。 ② 低税率と簡素な税制 事業所得税16.5%、給与所得税は最高17%(2012/13課税年度)、配当金・キャピタルゲインは非課税、相続税・贈与税・消費税はなし、などのように低税率で、かつ、税金の種類も少なく非常にシンプルな税法体系となっています。 ③ 外資企業の進出の容易性 内資・外資企業を差別・制限するような規制がほとんどなく、また、企業設立の手続は極めて簡単に短期間で行えます。 ④ 貿易の自由度 関税がなく(タバコなど一部の品目には物品税あり)、通関の手続も迅速で効率的です。 また、外貨規制がなく、海外送金も自由に行うことができます。香港ドルは米ドルにペッグしており、為替相場も安定しています。 ⑤ 中国のゲートウェイ 今や世界第2位のGDPを誇る中国へのゲートウェイとしての機能を有します。 中国との経済緊密化協定(CEPA)の締結により、ますます活発化する中国との経済活動において、香港は中国市場進出を見据えたショーケース・テストマーケティングとしての役割を担っています。 ⑥ 地理的優位性 アジアの主要都市へ4時間以内のフライトでアクセス可能、さらに5時間のフライト圏内に世界の人口の半数が居住しています。また、日本との時差はわずか1時間です。 ⑦ 国際金融センター 全世界の主要な金融機関が集積しており、多くの金融機関のアジアの地域統括本部が置かれ、世界最高水準の金融サービスを享受できます。 ⑧ 人材インフラの充実 弁護士、会計士などの優秀な人材が豊富で、かつ、英語、中国語(広東語、普通語)を自由に操る人材を容易に雇用することができます。 次回は、香港へ進出を果たした日系企業の最新情報についてご紹介します。 (了)

#No. 0 創刊準備4号(掲載号)
#白水 幹範
2012/11/22

《速報解説》 平成23事務年度における相続税の調査の状況について

 《速報解説》 平成23事務年度における 相続税の調査の状況について 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   11月13日に国税庁から「平成23事務年度における相続税の調査の状況について」が公表された。また、東京国税局、名古屋国税局、大阪国税局からも同様の資料が公表された(他の国税局については、平成24年11月17日執筆時点では公表されていない)。 本稿では、この資料から読み取れる相続税の調査の動向について分析を行う。 本公表資料は、平成23事務年度(平成23年7月から平成24年6月)に実施された相続税の調査の状況をまとめたものであり、平成21年中及び平成22年中に発生した相続が主に対象であるとされている。 この期間における相続税の税制改正点として大きなものは、小規模宅地特例の改正(平成22年4月1日以降に生じた相続から適用)がある。また、相続税の基礎控除の引下げが、改正案として税制改正大綱に記載されたのが平成22年12月である。 平成23事務年度における相続税の調査の状況のポイントをまとめると、以下のとおりである。 実施調査件数 13,787件 申告漏れ等の非違件数 11,159件 非違割合 80.9 % 重加算税賦課件数 1,569件 重加算税賦課割合 14.1 % 申告漏れ課税価格 3,993億円 実地調査1件当たり申告漏れ課税価格 2,896万円 実地調査1件当たり追徴税額 549万円   平成22年分の相続税申告(相続税額があるもの)件数は49,733件であるため、概算としては約3割(*)の相続税申告が実地調査の対象となり、実地調査対象となったものは約8割の可能性で申告漏れが発見されていることになる。平成22事務年度の相続税の調査の状況と大きな傾向は変わっていないが、この公表資料から次の2点を読み取ることができる。 (*) 分子である実地調査件数13,787件は、平成21、22年中に発生した相続が主に対象となっている一方、分母である相続税申告件数(相続税額があるもの)49,733件は、平成22年中に発生した相続が対象となっているため、分母と分子の期間が一致していない。ただし、分母・分子の期間が一致した数値は公表資料からは把握できないため、概算として本件のように計算を行っている。   1 海外資産案件事案に係る調査実績 海外資産案件事案に係る実施調査件数は、平成22事務年度695件、平成23事務年度741件となっている。過去の公表資料を調べると、平成19事務年度407件、平成20事務年度475件、平成21事務年度531件と、この分野の実地調査に課税当局を重視している傾向が読み取れる。 非違1件当たりの申告漏れ課税価格は平成22事務年度5,047万円、平成23事務年度6,478万円となっており、数千万円レベルの高額な海外資産を対象として実地調査が行われていると推測される。 2 無申告案件に係る調査実績 無申告案件に係る調査件数は、平成22事務年度1,050件、平成23事務年度1,409件となっている。過去の公表資料を調べると、平成19事務年度504件、平成20事務年度555件、平成21事務年度626件となっている。 特に平成22事務年度、平成23事務年度は無申告事案に係る実地調査件数が大きく増加しており、将来の税制改正において相続税の基礎控除引下げが行われることが予想されることと併せて考えると、無申告事案に係る実地調査につき、課税当局は重視していくと推測される。 なお、無申告案件に係る、実施調査1件当たりの申告漏れ課税価格は、平成22事務年度10,052万円、平成23事務年度8,609万円となっており、課税価格1億円程度の、相続税申告案件としては相対的に小規模な案件が対象となっていると推測される。 (了)   【参考】拙著『知っておきたい やっておきたい 相続のキホンと対策』清文社(2012年)

#No. 0 創刊準備3号(掲載号)
#根岸 二良
2012/11/19

《速報解説》 「平成23事務年度 法人税等の調査事績の概要」について

《速報解説》 「平成23事務年度 法人税等の調査事績の概要」について   公認会計士・税理士 新名 貴則   国税庁は平成24年11月8日、「平成23事務年度 法人税等の調査事績の概要」をホームページ上で公開した。 これは、国税庁が平成23事務年度(平成23年7月~平成24年6月)に実施した法人税等の税務調査の結果の概要をまとめたものである。またこの中で、税務調査において特に重点を置いた項目とその結果についてまとめてあるので、これを読むことで国税庁の調査方針とその成果が見えてくる。   1 重点調査ポイント   2 実務において注意を要するポイント 無申告法人や無所得申告法人に対する調査件数は前年比で増加しているが、企業業績の低迷のためか追徴税額自体は前年比で減少している。 これに対し、海外取引法人に対する調査における申告漏れ所得の発見金額は大幅に増加している。中でもタックスヘイブン対策税制や移転価格税制に係る調査において発見された申告漏れ所得は、前年比で大幅に増加している。 このため、成果が挙げられる調査項目として、今後も国税庁が重点を置くであろうと推測できることから、実務においてはより慎重な対応が求められるところである。 また、この他にも注目すべき点としては、非居住者等に対する源泉所得税の追徴税額が増加している点が挙げられる。海外業務に携わる社員がいる場合には、その源泉所得税の処理を適切に行う必要がある。  (了) 【参考】国税庁ホームページ 「平成23事務年度 法人税等の調査事績の概要」

#No. 0 創刊準備3号(掲載号)
#新名 貴則
2012/11/15

3月決算法人の法人税中間申告のチェックポイント―税制改正事項を中心として―

3月決算法人の 法人税中間申告のチェックポイント ―税制改正事項を中心として―   税理士 齋藤 忠志   3月決算法人では仮決算による中間申告を行う場合も多いと思われる。特に、税制改正事項のうち、平成24年4月1日以降の開始事業年度から適用される場合には、従前通りの税務処理をするというような誤りがないようにしたいものである。 そこで、本稿では、平成24年4月1日以降の開始事業年度から適用される主な税制改正事項のポイントを記載することにより、実務の参考とするものである。 なお、仮決算による中間申告書の提出は、市場利率よりも有利な利率による還付加算金を得るという利殖行為等を防止するため、以下の場合には行うことができない。 中間申告における法人税額が、前年度の確定法人税額の6/12(前期基準額)を超える場合 前期基準額が10万円以下の場合 しかし、中間申告書を所轄税務署宛に提出する必要がなくても、 ・半期ベースの法人税額の試算や税効果会計等の会計処理をするため ・確定申告にあたっての実務上の問題点を把握するため など、仮決算による中間申告を内部的に行うことも有用である。 〔チェック項目〕 1 法人税の税率を正しく適用しているか? 〈留意事項〉 中小法人とは、普通法人のうち、各事業年度終了時の資本金の額などが1億円以下である法人をいうが、大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上の法人)の100%子会社や保険業法上の相互会社等は除かれる。 なお、法人税の額に10%の税率を乗じた復興特別法人税については、事業年度単位に課税されることから、中間申告の制度はない。   2 寄附金の損金算入限度額の計算を正しく行っているか? 〈留意事項〉 【改正前の限度額計算式】 (1)特定公益増進法人等に対する寄附金の損金算入限度額 ={(資本金等の額×6/12×0.25%)+(所得金額×5%)}×1/2 (2)一般の寄附金の損金算入限度額 ={(資本金等の額×6/12×0.25%)+(所得金額×2.5%)}×1/2   3 貸倒引当金を経過措置に則って正しく算定しているか? 〈留意事項〉 (1)中小法人の範囲は1に同じ。 (2)中小法人以外の法人で金融業以外の一般の事業法人については、リ-ス資産の譲渡対価に係る債権がなければ、原則として経過措置の適用が有利となる。   4 定率法の償却率を正しく適用しているか? 〈留意事項〉 原則として、平成19年4月1日から平成24年3月31日までの間に取得をされた減価償却資産(旧減価償却資産)は250%定率法により償却を行い、この旧減価償却資産に対して平成24年4月1日以後に行った資本的支出(追加償却資産)については200%定率法により償却を行う。   5 廃止された規定を従前通り申告していないか? 〈留意事項〉 【期限が延長された主な項目】 (1) 交際費等の損金不算入 (2) 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 (3) 使途秘匿金の支出がある場合の課税の特例 (4) 中小企業者以外の法人の欠損金の繰戻還付の不適用   6 外国税額控除の限度額計算を正しく行っているか? 〈留意事項〉 国外所得金額の算定では、非課税国外所得金額の全額を控除することとなったが、経過措置として、平成24年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度においては非課税国外所得金額の6分の5を控除する。 外国税額控除の限度額=法人税額×国外所得金額/全世界所得金額   7 青色欠損金の控除を正しく行っているか? 〈留意事項〉 控除前所得の金額とは、青色申告書を提出した事業年度の欠損金の損金算入の規定などを適用せずに算定した金額とする。 (了)

#No. 0 創刊準備3号(掲載号)
#齋藤 忠志
2012/11/08

平成25年から始まる源泉実務のポイント~復興特別所得税の計算・手続~

平成25年から始まる 源泉実務のポイント ~復興特別所得税の計算・手続~   税理士 柴田 知央   1 復興特別所得税の創設 東日本大震災からの復興を図ることを目的として、復興施策に必要な財源を確保するために、「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(以下、「復興財源確保法」)が、平成23年12月2日に公布された。 復興財源確保法では、新たに復興特別所得税及び復興特別法人税が創設され、復興特別所得税に関する規定は、平成25年1月1日より施行される。 これにより、個人の場合、平成25年から平成49年までの各年分の所得税額について、2.1%の税率により復興特別所得税が上乗せされることとなる。   2 復興特別所得税の源泉徴収 所得税の源泉徴収義務者は、源泉所得税を徴収する際、復興特別所得税を併せて源泉徴収し、源泉所得税の納期限までに、国に納税しなければならない。   3 いつから復興特別所得税を源泉徴収するのか 平成25年1月1日から平成49年12月31日までの間に生じる所得についての支払対価が、源泉徴収の対象となる。 例えば、平成24年12月分の給与について、契約又は慣習などにより、支給日が翌月10日と定められている場合には、支給日である平成25年1月10日が給与所得の収入すべき時期となる。 したがって、平成25年1月10日支給の給与については、源泉所得税と復興特別所得税を併せて徴収することとなる。 一方、平成24年12月分の給与について、支給日が平成24年12月25日と定まっている場合において、会社の資金繰りなどの事情により、平成25年1月に支払うときは、その支払った給与は、平成24年分の所得であるため、復興特別所得税を徴収する必要はない。   4 復興特別所得税の源泉徴収の対象となる支払い 復興特別所得税の源泉徴収の対象は、所得税法及び租税特別措置法により、所得税を源泉徴収することとされている支払いである。 具体的には、次に掲げる規定である。 なお、租税条約により、所得税法及び租税特別措置法に規定する税率以下の限度税率が適用される場合には、復興特別所得税は課税されない。   5 源泉徴収税額の計算 復興特別所得税の源泉徴収は、必ず源泉所得税とセットで行うため、復興特別所得税を単独で計算することはない。 したがって、源泉徴収の対象となる対価に対して、源泉所得税率×102.1%で計算した合計税率を乗じた源泉所得税と復興特別所得税を源泉徴収することとなる。 例えば、個人居住者に講演料20万円(源泉所得税率10%)を支払う場合には、源泉徴収税額(源泉所得税+復興特別所得税)は、 200,000円×10.21%(合計税率)=20,420円 となる。 また、源泉所得税率が2段階となる対価を支払う場合、例えば、個人居住者に原稿料180万円を支払う場合には、それぞれの合計税率を用いて、源泉徴収税額を計算する。 ① 1,000,000円×10.21%=102,100円 ② (1,800,000円-1,000,000円)×20.42%=163,360円 ③ 源泉徴収税額(①+②)=265,460円 なお、合計税率を乗じて算出した金額に1円未満の端数が生じたときは、1円未満の端数を切り捨てた金額が源泉徴収税額となる。   6 月額給与と賞与に係る源泉徴収税額の計算 月額給与に係る源泉徴収税額は、「源泉徴収税額表」に当てはめて算出する。 平成25年1月1日以降の支給日から使用する源泉徴収税額表では、復興特別所得税を含んだ税額表に変更されているので、注意が必要である。ちなみに、日額表も同様である。 給与所得の源泉徴収税額表(平成25年分) 月額表(平成24年3月31日財務省告示第115号別表第一)より抜粋 賞与に対する源泉徴収税額を計算する際に用いる算出率も、復興特別所得税を含んだ合計税率となっている。 賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(平成25年分) (平成24年3月31日財務省告示第115号別表第三)より抜粋   7 退職手当等に係る源泉徴収税額の計算 「退職所得の受給に関する申告書」が提出されている場合、次の速算表により、源泉徴収税額を算出する。 退職所得の源泉徴収税額の速算表(平成25年分) 例えば、課税退職所得金額が600万円の場合、源泉徴収税額は、 (6,000,000円×20%-427,500円)×102.1% =788,722.5円 →788,722円(1円未満切捨て) となる。 特別徴収をする住民税は、復興特別所得税を加味する必要はないため、 ・市町村民税:6,000,000円×6%=360,000円 ・道府県民税:6,000,000円×4%=240,000円 となる。 なお、退職所得に係る住民税の10%控除は、平成25年1月1日以後支払われるべき退職手当等から、廃止される。 一方、「退職所得の受給に関する申告書」が提出されていない場合、退職手当等の収入金額に20.42%を乗じた税額が源泉徴収税額となる。   8 源泉徴収した復興特別所得税の納税手続 源泉徴収義務者は、源泉所得税と復興特別所得税を合計した源泉徴収税額を納付書に記載し、納期限までに納めなければならない。 このとき納付書において、それぞれの税目に区分して記載する必要はない。 源泉徴収した復興特別所得税の納期限は、源泉所得税の法定納期限と同じである。 法定納期限は、原則、徴収した日の属する月の翌月10日である。 源泉所得税の納期の特例の適用を受けている場合には、復興特別所得税の納期限も特例の納期限となる。   9 施行直後は要注意 給与や退職手当等に係る源泉徴収税額では、税額表や速算表において、復興特別所得税が含まれているため、用いる表さえ間違えなければ、実務上、問題が起こることは少ないと思われる。 これに対し、給与や退職手当等以外の対価を支払う場合には、問題が生じやすい。 なぜなら、受取側が請求書を発行する際、復興特別所得税を考慮することを失念してしまう可能性があるからである。 源泉徴収義務は支払側にあるため、復興特別所得税の徴収が漏れてしまうと、加算金や延滞税は、支払側の負担となってしまう。 そのため、支払側においても、対価の支払い前に、復興特別所得税が加味されているかチェックすることが肝要である。 (了) 人気連載記事はこちら↓↓

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2012/11/08

平成24年分 おさえておきたい年末調整のポイント ② 質問の多い事項を解説

平成24年分 おさえておきたい 年末調整のポイント ② 質問の多い事項を解説   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   年末調整について、毎年様々な質問を受ける。今回はその中でも、質問されることが多い事項に絞って、実務的な観点から解説を行うこととする。   【質問1】 〈解説〉 年末調整の対象となる給与の範囲は、本年中に支払うべきことが確定した給与である(所得税法(以下、所法)190)。具体的には、給与所得の収入金額に計上すべき時期(所得税基本通達(以下、所基通)36-9)に従い、支給日到来基準で判定する。 したがって、平成24年分の年末調整の対象となる給与は、平成24年1月1日から同年12月31日までの間に支給日が到来するものとなる。いつの勤務を支給対象としているかは関係がない。 例えば、月末締め・翌月10日払いの給与の場合、本年12月の勤務を支給対象とする給与は、来年1月10日に支払われる。この給与は本年の勤務を支給の対象としているが、支給日が到来するのは翌年となるため、本年分の年末調整の対象とはならない。 なお、役員に対する賞与のうち、株主総会の決議等により算定の基礎となる利益に関する指標の数値が確定し、支給金額が定められるもの、その他利益を基礎として支給金額が定められるものについては、その決議等があった日(決議等が支給金額の総額を定めるにとどまり、各人ごとの支給額を定めていない場合には、各人ごとの支給額が具体的に定められた日)の属する年分の年末調整の対象となる。 〔月末締め、翌月10日払いの場合〕 また、支給日が到来していても資金繰りの都合で実際の支給が翌年となった給与は、支払いがなくても支給日の属する年分の年末調整の対象となる。   【質問2】 〈解説〉 年の途中で海外転勤した者については、非居住者になった時に年末調整することになっている(所基通190-1)。このとき、出国してから(=非居住者になってから)それまでの国内勤務にかかる給与の支給日が到来することがある。 例えば、給与の支払条件が20日締め・当月25日払いの企業で、3年間海外に勤務する予定の従業員が6月10日に出国したとする。 この従業員の5月21日から6月10日までの国内勤務に対する給与が6月25日に支払われた場合、この給与は年末調整の対象とはならない。 年末調整の対象となる給与は「居住者が支払いを受けるもの」に限られており(所法190)、非居住者に支給される給与は年末調整の対象には含まれないからである。 なお、6月25日に支払われる給与の計算期間が1ヶ月以下であれば、その全額が国内勤務に対応する給与である場合を除き、総額が国内源泉所得でないものとして扱ってもよいこととされている(源泉徴収不要)(所基通212-3)。一方、その全額が国内勤務にかかるものである場合には、20%の率で所得税の源泉徴収が行われる。 〔出国後に国内勤務分の給与が支払われたケース〕   【質問3】 〈解説〉 前職のある中途採用者を採用したときには、前職の給与や社会保険料、源泉徴収税額を含めたところで年末調整を行うことになっている(所法190一)。 年末調整は、各個人について1年分の正しい所得税額を計算し、それまでに源泉徴収した所得税額との差額を精算するための手続である。よって、その年の一部の給与収入や負担した一部の社会保険料、徴収された一部の所得税額を対象に年末調整計算をすることは理論的ではない。 したがって、前職にかかる源泉徴収票が提出されない場合には、本年最後の給与からも前月と同様の方法で源泉徴収を行い、所得税額の精算は各個人が確定申告により行うことになる。 なお、前職の源泉徴収票が入手できないときに、前職の給与明細の提示を受けることがある。給与明細からでは支払われた給与の網羅性が確保できないため、前職の給与等の情報がすべて集計されている源泉徴収票の提出を求めることが必要と考えられる。   【質問4】 〈解説〉 給与をどの年分の年末調整の対象とするかは、【質問1】で解説したとおり、その給与の支給日がどの年に属するかによって判定する。 通常、残業代についても給与規程等で対象期間と支給日が定められているので、それに従い本来支給されるべきであった日の属する年分の年末調整の対象に含められる。 この場合、過年度の年末調整はすでに終わっているので、さかのぼって支払った残業代を含めたところで過年度の年末調整をやり直し、不足税額分を源泉徴収する方法で対応することが認められている(所基通183~193共-8)。 なお、年末調整のやり直しにより、過年度の住民税額も変更(増額)となるため、関係市町村へ給与支払報告書を再提出することも必要となる。   【質問5】 〈解説〉 生命保険契約においては、通常、契約者が保険料を負担する。しかし、契約者に所得がない等の理由により、契約者以外の者が保険料を負担することがある。 生命保険料控除は、居住者が一定の生命保険契約にかかる保険料を支払った場合に適用できる所得控除で、保険金の受取人の範囲についての定めはあるが、契約者が保険料を負担しなければならないとは規定されていない(所法76)。 したがって、契約者ではない者がその保険契約にかかる保険料を負担したことが明らかにされれば、その保険料は負担した者の生命保険料控除の対象となる。 なお、詳細は省略するが、保険料を負担する者と保険金を受け取る者との関係によっては、受け取る保険金について一定の課税関係が生じる(贈与税や一時所得としての課税)場合もあることに注意が必要である。 (連載了)

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2012/11/08

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第2回】税率変更の問題点(1) 「商品等の価格変更に伴う表示方法」

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第2回】 税率変更の問題点(1) 「商品等の価格変更に伴う表示方法」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   1 価格変更の対象物 税率変更があった場合には、物品販売業であれば商品、サービス業であればそのサービスについて、価格の表示を変更しなければならない。 この変更については、商品だけでなく、商品カタログの価格表示やホームページに商品が記載されていればその価格表示なども変更しなければならず、具体的には以下のようなものがある。 税率変更に伴う表示変更の対象物が多岐にわたることから、この変更を実施するためには相当な時間を要する可能性もあり、さらにその変更をするために多額のコストが発生することから設備投資資金の手当てについても検討しなければならず、早急な対応が必要となる。   2 価格の表示方法 平成9年4月の税率変更の際は総額表示義務規定の創設前であったことから、商品等につき税抜表示を採用している事業者は本体価格のみを記載していたため、さほど大きな影響はなかった。 しかしながら、今回の税率変更では総額表示義務規定の適用後となることから、すべての商品等について表示価格の変更をしなければならず、事業者の負担は大きくなる。さらに、“1年6ヶ月”という短い期間で2回の税率変更となることから、回転率の悪い商品等では8%と10%の価格表示をどのように行うのかといった問題も生ずることとなる。 現在の総額表示の方法については、国税庁が平成16年2月19日に発表している『事業者が消費者に対して価格を表示する場合の取扱い及び課税標準額に対する消費税額の計算に関する経過措置の取扱いについて(法令解釈通達)』において以下のようなパターンを認めている。 したがって、いずれのパターンについても表示の変更は発生し、さらに8%と10%の両方に対応できるようにするためには表記箇所の部分が煩雑となり、消費者側が対応できなくなる可能性もあることから注意しなければならない。 この表示方法の変更については、平成24年5月31日に政府から発表された『転嫁対策・価格表示に関する対応の方向性についての検討状況(中間整理)』において、総額表示義務の弾力的運用について以下のように記載している。 続いて平成24年10月26日に発表された『消費税の円滑かつ適正な転嫁・価格表示に関する対策の基本的な方針(中間整理の具体化)』においても「各業界の所管省庁を通じ、各業界からの総額表示の弾力的運用に関する要望を把握し、その要望に応じ必要な弾力的運用のあり方について検討を行い、事業者の準備に係る期間も考慮し、適切な段階で事例集等を公表する。」としている。 また、上記の基本方針において、価格表示に関して業界団体が業界内の統一基準を策定し、その構成員たる事業者に対してその遵守を求めることは、独占禁止法に違反しないことをガイドラインにて明確化することも記載されている。 上記のように、価格の表示方法については、現時点においても未確定の要素が多く、この対策の実行時期をいつにするかといった点は、政府や各同業者団体の動向を見て行う必要があるので注意しなければならない。   3 価格の設定 この税率改正により表示価格を変更する場合、1円未満の端数をどのように取り扱うのかといった問題が生ずる。 前述した国税庁の取扱いによれば、「総額表示の義務付けに伴い税込価格の設定を行う場合において、 1円未満の端数が生じるときは、当該端数を四捨五入、切捨て又は切上げのいずれの方法により処理しても差し支えなく、また、当該端数処理を行わず、円未満の端数を表示する場合であっても、税込価格が表示されていれば、総額表示の義務付けに反するものではないことに留意する。」とあることから、例えば、本体価格198円の商品であれば、税込価格は以下のようになる。 なお、これらの価格は1円未満の端数処理を計算した場合の金額であり、10円未満の端数を切り上げて処理をしてしまうと「便乗値上げ」となる可能性があるため、注意しなければならない。 したがって、事業の性質により10円単位や100円単位で販売する場合には、この価格の設定については十分な検討が必要となる。 具体的な事業としては、自動販売機における商品の販売、電車やタクシーなどの旅客運賃、タバコの販売、コインパーキング業、ファストフードや食券販売などの飲食店業などがあり、その事業は意外に少なくない。 旅客運賃やたばこについては、価格の設定が他の法律により定められることから事業者側の検討事項ではないが、他の事業については、10円単位や100円単位の切上げができず、切り下げることとした場合には収益の減少となり、深刻な問題である。 なお、「便乗値上げ」に関しては、上述した基本方針において、「公正取引委員会は、競争制限的行為による便乗値上げを防止するため、独占禁止法を厳正に運用する。」としている。また、公正取引委員会が平成8年12月25日に発表した『消費税率の引上げ及び地方消費税の導入に伴う転嫁・表示に関する独占禁止法及び関係法令の考え方』においては、「事業者が共同して又は事業者団体が、各構成事業者の販売している価格に消費税率の引上げ分を上乗せする旨を決定すること」を禁止しており、さらに消費税率の引上げに伴う数量調整の決定について「事業者が共同して又は事業者団体が、商品又は役務の内容(容量、数量等)を消費税率の引上げ分変更させて、各構成事業者の価格を据え置く旨を決定すること」を禁止している。 これらの規定は、事業者が共同して行う場合に禁止しているものではあるが、便乗値上げについて厳しい対応が示されていることから、10円単位や100円単位の切上げについて慎重に対応しなければならない。 この消費税の転嫁に関する問題については、次回以降の「税込処理における消費税の転嫁に関する問題」において、さらに詳しく解説していく。 (了) 【参考】首相官邸ホームページ 「消費税の円滑かつ適正な転嫁等に関する対策推進本部」

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2012/11/08

租税争訟レポート【第2回】架空役員給与認定による青色申告承認取消及び更正処分等に対する不服申立事件

租税争訟レポート【第2回】 架空役員給与認定による 青色申告承認取消及び 更正処分等に対する不服申立事件   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【事案の概要】 原処分庁の調査担当職員は、生コンクリートの製造販売業を営む同族会社である請求人に対する税務調査の結果、請求人の代表取締役であるMが、代表取締役J(Mの実弟)、取締役N(Mの実子)、監査役P(Mの妻)に支給されるべき役員給与をすべて受領し、他の役員に対して実際には支給されていないことから、架空給与であると認定し、これを帳簿に記載したことが法人税法127条1項3号に規定する青色申告承認取消事由に該当することから、青色申告承認取消処分を行い、架空役員給与の損金算入を事実の隠ぺい又は仮装として、重加算税の賦課決定処分を行ったものである。 これに対し、請求人(納税者)は、原処分庁へ異議申立てを行ったが棄却されたため、役員給与は架空のものではないこと、青色申告承認取消処分等の通知書に記載された理由附記に不備があることなどを理由に、国税不服審判所に審査請求を行ったものである。 【図】請求人の役員給与支給形態   【不服審判所の判断】 M、J、N及びPは、請求人の役員として就任し、勤務実態もあるうえ、役員給与の金額は取締役会で定められて毎月10日払いとされていることから、支払債務は毎月10日の時点で確定していた。 原処分庁は、当該役員給与がMからJ、N及びPに渡らなかったことから架空給与であったと主張するが、請求人としては、毎月10日に確定した支払債務の支給事務を行っており、Mに役員給与をまとめて支給することで、債務は履行されていた。一部の役員がMから役員給与を受け取っていないとしても、それは請求人が支払債務を履行しなかったのではなく、役員給与を受領したうえで、その金員の貸付け又は贈与を行ったとみるべきである。 したがって、架空役員給与を理由とする青色申告承認取消処分は、理由がないから取り消されるべきであり、青色申告承認が取り消されたため理由が附記されなかった更正処分は法人税法130条2項に違反するため取り消されるべきであり、かつ、隠ぺい又は仮装があるともいえないことから、重加算税等の賦課決定処分についても全部が取り消されるべきである。   【解説】 法人が、定期同額給与(法人税法34条1項1号)の要件を満たして支給すべき役員給与を、代表取締役が、役員である弟、子及び妻の分までまとめて一括して現金で受け取ったうえで、適宜、他の役員に支給し、あるいは他の役員のための支払いに充て、また一部は法人の営業費用にも充当していたという事実のもと、原処分庁は、他の役員の「役員給与を受け取っていない」という申述に依拠して、彼らに対する役員給与を架空給与として損金算入を否認するとともに、取引の仮装を理由として青色申告承認を取り消し、取消後の更正処分には理由を付記せず、しかも重加算税を賦課決定するという厳しい処分をした。 これに対し、国税不服審判所は、請求人(法人)は、各役員には勤務実態があり、その報酬についても株主総会又は取締役会の承認を得ていること、役員給与の支払債務を履行していることなどを理由に、役員給与は架空のものではないと判断した。また、一部の役員が代表取締役から受領しなかった部分については、金銭の寄付又は贈与として取り扱うべきであると判断して、請求人の主張を全面的に認め、課税庁の処分をすべて取り消した。 本件は、原処分庁が、調査段階における一部の役員らの申述に依拠して課税処分を行ったところ、不服審判所の調査で、役員らの答述内容が変わったものであるが、不服審判所が原処分庁の主張をほとんど認めなかったことを考慮すれば、原処分庁担当職員の調査が不十分であった可能性もある。 (了)

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2012/11/08
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