monthly TAX views -No.5- 「金融所得一体課税、 次の課題は「金融所得」の創設」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 日本版ISA(NISA)や教育資金一括贈与非課税措置の創設などに注目が集まる平成25年度税制改正だが、金融所得の一体課税が平成28年1月から大きく進むことが決定されたことも忘れてはならない重要事項である。 平成16年6月、旧政府税制調査会が「金融所得課税の一体化についての基本的考え方」と題する報告書を公表して以降、自民党政権下の平成21年から上場株式等の譲渡損と配当の損益通算が可能になり大きな一歩を踏み出したが、それ以来の進展である。 筆者が重要と考える点は、公社債の利子所得が含まれることになった点と、債権についてもリーマン債のように価値を喪失した場合、それを損失とみなして損益通算、繰越控除の対象とすることができるようにした点である。 価値喪失のような損失を、特定口座で管理されていれば損益通算可能としたことは、「損失」の概念を広げることであり、資産の運用がリスクを帯びる中で、リスク軽減を図るためには大変重要な話だと考えている。 これにより、金融所得と一括りにされる株式譲渡損益、配当と並んで、利子所得までカバーされることになったわけで、残るは、大口定期の利子所得やデリバティブなどだけとなった。これらの対応についても、順次進んでいくものと思われる。 以下、残された課題について上げてみたい。 多くの金融商品・金融所得が一体課税になり相互に損益通算されるようになると、法律の規定ぶりが大変複雑になる。 そこで、筆者は、「金融所得」という概念(いわば「箱」)を税法に設けて、そこに金融取引・商品を一つずつ指定していく方式をとっていくことを提言している。そうすれば、複雑な損益通算規定もすっきりしたものになるはずだ。 もう一つ重要な提案がある。 それは、「金融所得」の経費・損失の取扱いである。 現行制度では、利子所得には経費が認められず、配当所得には負債利子控除のみが認められ、株式譲渡所得の損失の取扱いも制限的である。 しかし、投資信託における投資顧問料、口座保管手数料などは、金融所得を得るために「直接必要な費用」であるので、所得税の考え方に沿って経費性を認めるべきではないか。 諸外国の事例を調べると、ドイツでは、年間801ユーロの定額控除が経費として認められている。スウェーデンでも資本所得の利子についての控除が認められている。 金融所得は人為的に損失を発生させやすく、租税回避に使われることもある。そこで損失の取込みについては何らかの制限をすることはやむを得ないが、そもそも金融所得一体課税のもとでは、金融所得と勤労所得との損益通算は原則認められていない。それによって、租税回避は基本的に防止されているとはいえ、金融所得の中での経費・損失については、もっと前向きに考えてもよいのではなかろうか。 そして、将来の金融所得一体課税化に向けた具体的な手順を、工程表としてあらかじめ公表すれば、納税者や市場関係者の法的安定性や予測可能性が増加し、スムーズに一体化が進むものと考えている。 1,500兆円の金融資産をどう活用していくかという点は、アベノミクスで株価が上昇する中で、わが国経済政策としても重要なポイントだ。新たな発想で、金融所得一体課税を進めていくことが、高齢社会を迎え、貯蓄を運用する時代にふさわしいと考えている。 (了)
他の者を介して 金銭の支出をした場合の 使途秘匿金課税 日本税制研究所研究員 朝長 明日香 企業の違法又は不当な支出を抑制するという目的の下、平成6年度税制改正において使途秘匿金課税制度が創設されたことは、周知のとおりである。 本稿では、法人が他の者を介して金銭の支出をした場合の使途秘匿金課税制度の適用関係について解説することとする。 金銭の支出が他の者を介して行われた場合には、その支出をした法人の帳簿書類には他の者の氏名等が記載されており、他方、他の者の帳簿書類にはその金銭を受け取った者の氏名等が記載されていないことが考えられる。 このようなケースにおいては、その金銭の支出が使途秘匿金の支出に該当するとされるのか否か、また、使途秘匿金の支出に該当するとされる場合には、いずれの者に対して追加課税がなされるのかといった疑問が生ずることとなる。 1 使途秘匿金課税制度の概要 法人が使途秘匿金の支出をした場合には、その法人の各事業年度の所得に対する法人税の額は、その使途秘匿金の額に40%を乗じた金額を加算した金額とされている(措法62①)。 この「使途秘匿金の支出」とは、法人がした金銭の支出(贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引渡しを含む)のうち、相当の理由がなく、相手方の氏名等をその法人の帳簿書類に記載していないものをいい、取引の対価としてされたことが明らかなものは除かれる(措法62②)。 相手方の氏名等を帳簿書類に記載しているのか否かの判定は、その事業年度終了の日に行うこととされており(措令38①)、その事業年度に係る確定申告の期限までに帳簿書類に記載されている場合には、その事業年度終了の日に記載があったものとみなされる(措令38②)。 使途秘匿金課税制度は、「使途秘匿金の支出」を課税標準として追加的に法人税を課すという税額の計算に関する仕組みであり、同制度の適用関係を考えるに当たっては、所得の金額の計算の場面と使途秘匿金課税制度による税額の計算の場面とを混同しないように注意しなければならない。 所得の金額の計算においては、法人税法22条3項各号(各事業年度の所得の金額の計算)に掲げる額のいずれかに該当するものが損金とされる。 例えば、ある会社から商品を仕入れたがその会社の名称や所在地を帳簿書類に記載していないという場合においても、仕入の事実を推認し得るときには、その仕入金額は損金の額に算入されることとなる。 ただし、金銭の支出の事由(使途)が明らかでない場合には、その金銭の額は、法人税法22条3項各号に掲げる額に該当するものと認めることができず、損金不算入とされる(法基通9-7-20)。 金銭の支出に係る取引自体が架空と認められる場合には、その金銭の額は、寄附金と認められない限り、損金の額に算入する余地がないこととなる。 このような所得の金額の計算に対し、使途秘匿金課税制度による税額の計算においては、相手方の氏名等の帳簿書類への記載の有無を「使途秘匿金の支出」に該当するのか否かの判断基準としているため、相当の理由がなく、相手方の氏名(名称)、住所(所在地)及びその事由を帳簿書類に記載していない場合(注)には、その金銭の支出は「使途秘匿金の支出」に該当することとなり、その支出した額に対して追加課税がなされることとなる。 (注) 租税特別措置法62条2項においては、「その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由」を帳簿書類に記載していないものと規定されているため、「若しくは」と「又は」という用語を用いて規定される場合とは異なり、「氏名又は名称」、「住所又は所在地」と「その事由」の3つのいずれをも帳簿書類に記載していないもののみが「使途秘匿金の支出」ということになる。 このように、使途不明金の支出に該当するものが、直ちに、「使途秘匿金の支出」として追加課税の対象となるわけではなく、その金銭の支出に損金性があるのか否かということと「使途秘匿金の支出」に該当するのか否かということは明確に区別して判断する必要がある。 2 他の者を介して金銭の支出をした場合の使途秘匿金課税 金銭の支出の相手方の氏名等を故意に伏せている場合には、その支出をした法人に対して、法人税の追加課税が行われることとなるわけであるが、使途秘匿金の支出を隠ぺいするために、下図のように、他の者を介して金銭を支出するといったケースも見受けられる。 ※A社及びB社、B社及び「仕入先」との間の外注と仕入の取引はいずれも実態のないものであり、売上割戻しや交際費その他対価性のある支払いでもない。 他の者を介して金銭を支出するといったケースにおいては、金銭の支出をした法人(A社)及び他の者(B社)の双方に使途秘匿金課税制度による追加課税がなされるのか、それとも、A社又はB社のいずれか一方に追加課税がなされるのか、という疑問が生ずることとなる。 また、いずれか一方に追加課税がなされるという場合には、A社とB社のいずれに追加課税がなされるのか、という疑問も生じてくる。 このような疑問を解決するために、租税特別措置法施行令38条3項において、次の規定が設けられている。 このように、租税特別措置法施行令38条3項においては、帳簿書類に記載された者が単なる名義人であって、その者以外の者に金銭の支出がなされていると認められるものについては、その支出をした法人(上図においては、A社)の「使途秘匿金の支出」に該当するものとされている。 他の者を介して金銭の支出をした場合におけるその金銭の支出がその支出した法人の「使途秘匿金の支出」に該当することは上記のとおりであるが、租税特別措置法施行令38条3項に規定する「その記載された者」(上図においては、B社)における金銭の受取り及び支払いの処理をどのように行うのか、ということに関しては、疑問が残るところである。 A社から無償で金銭を受け取ったと考えれば、「受贈益の額」として益金の額に該当することとなり、仕入先へ無償で金銭を交付したと考えれば、法人税法37条(寄附金の損金不算入)の「寄附金の額」に該当することとなる。これらの処理は、B社における消費税法上の課税売上割合や仕入税額控除の計算にも影響を及ぼすこととなるため、慎重に判断しなければならない。 しかし、本件のように、他の者を介して金銭の支出をするといったケースにおいては、B社がA社から受け取った金銭を仕入先へ支出することが当初から決められていると考えられること、そして、租税特別措置法施行令38条3項において、本件のB社が該当することとなる「その記載された者」が使途秘匿金を支出するに当たって通ずる者と理解されていることからすると、B社においては、A社において「使途秘匿金の支出」とされるものに関しては、単に自己を通過する金銭と考えて、「仮受金」等の科目をもって処理するのが適当であると考えられる。 以上の点を踏まえて、上図のケースのA社及びB社の処理を是正する場合の取扱いを考えてみると、次の2のとおりとなる。 2 上記1の図のケースにおける各法人の税務上の取扱い (1) A社における取扱い ① B社への「外注費」2,000,000円のうちの1,500,000円の取扱い A社がB社への「外注費」として支出した2,000,000円のうち、1,500,000円については、実際にA社がB社に外注を行ったという事実がなく、架空の取引であると認められるものであり、法人税法22条3項各号に掲げる額に該当しないため、損金の額に算入されない。 また、この1,500,000円の支出に関しては、「使途秘匿金の支出」に該当することから、600,000円(1,500,000円×40%)の追加課税がなされることとなる。 ② B社への「外注費」2,000,000円のうちの500,000円の取扱い A社がB社への「外注費」として支出した2,000,000円のうち、500,000円は、B社に不正行為に加担してもらうために支払われた金額である。 このため、このB社への不正加担料500,000円は、法人税法55条1項(不正行為等に係る費用等の損金不算入)の「隠ぺい仮装行為に要する費用の額」に該当し、損金の額に算入されないこととなる。 (2) B社における取扱い ① A社からの「売上」2,000,000円のうちの1,500,000円の取扱い B社がA社からの「売上」として支出した2,000,000円のうち、1,500,000円についても、「売上」の事実がない架空の取引によるものであり、法人税法22条2項の「収益の額」に該当しないため、益金の額に算入されない。 この1,500,000円に関しては、「仮受金」等として処理するのが適当であると考えられる。 ② A社からの「売上」2,000,000円のうちの500,000円の取扱い B社が不正行為に加担したことで受け取った不正加担料500,000円に関しては、A社に対する役務提供の対価であることは間違いなく、法人税法22条2項の「収益の額」に該当するものであるため、「雑収入」等として益金の額に算入される。 ③ 仕入先への「仕入」1,500,000円の取扱い B社が仕入先への「仕入」として計上した1,500,000円については、上記(1)①と同様の理由により、架空の取引であると認められるため、損金の額に算入されない。 また、B社における仕入先への1,500,000円の支出は、A社からの「仮受金」等の払出しとして処理するのが適当であると考えられる。 (了)