《速報解説》
更正の請求による仮装隠蔽行為の重加算税賦課・消費税受還付犯の適用
~令和6年度税制改正大綱~
公認会計士・税理士 大橋 誠一
令和5年12月14日に決定された令和6年度税制改正大綱(与党大綱)においては、納税環境整備の適正化の一環として、
① 更正の請求による仮装隠蔽行為の重加算税賦課
② 更正の請求による消費税受還付犯の適用
本稿においては、上記税制改正大綱の記載内容等を前提に、予定されている改正の概要について解説する。
1 更正の請求による仮装隠蔽行為の重加算税賦課
(1) 問題提起
国税通則法第68条第1項は、重加算税の課税要件として、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」と規定している。
ここでいう納税申告書とは、国税通則法第2条第6号において「申告納税方式による国税に関し国税に関する法律の規定により次(略)に掲げるいずれかの事項その他当該事項に関し必要な事項を記載した申告書」をいう旨規定しており、同法第23条第3項に規定する「更正請求書」はこれに該当しない。
そのため、従前は、納税者が事実を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき更正請求書を提出していたときには、重加算税を賦課することができなかった。
しかし、税額を確定させるための手続である納税申告書の提出と税額を減少させるための手続である更正請求書の提出の違いは、少なくとも仮装隠蔽行為をした場合におけるペナルティの水準として取扱いに差を設ける必要はなく、むしろ、更正の請求について重加算税が賦課されないことは、納税義務違反の発生の防止という同税目の趣旨に照らして適切ではなく、納税申告書の提出と同様に同税目の賦課の対象とすることが必要であるという議論が政府与党の税制調査会において議論されていた。
(2) 大綱案
国税と地方税の双方において、重加算税(重加算金)の適用対象に、「隠蔽し、又は仮装された事実に基づき更正請求書を提出していた場合」を加えることとされた。
(3) 適用時期
上記(2)の改正は、令和7年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用され、同日前に法定申告期限が到来した国税については従前どおりである。
したがって、例えば、通常、所得税については令和6年分から、法人税については10月決算法人の場合には令和6年10月決算期分から、それぞれ適用される場面が生じ得る。
2 更正の請求による消費税受還付犯の適用
(1) 従前の規定
消費税法第64条第1項第2号は、「偽りその他不正の行為により第52条第1項又は第53条第1項若しくは第2項の規定による還付を受けた者」を10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処する旨を規定するとともに、同条第2項は、この未遂、すなわち、還付を受けずとも申告書を提出した段階において罰する旨をそれぞれ規定している。
消費税法制定時は「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金」であったところ、平成22年6月1日以後の違反行為から現行の量刑となり、また、平成23年8月30日以後の違反行為から未遂罪が追加された。
ここでいう「偽りその他不正の行為」は、国税通則法、所得税法及び法人税法において用いられているそれと同義であるとされている。
なお、従来の懲役と禁錮を一本化して「拘禁刑」を創設する改正刑法は令和7年6月1日に施行される予定である。
(2) 問題提起
消費税法第52条第1項及び同法第53条第1項は、それぞれ「申告書の提出があった場合において」と規定しており、国税通則法第23条第3項に規定する更正請求書の提出はこれに該当しない。
そのため、従前は、納税者が偽りその他不正の行為に基づき更正請求書を提出していたときには、罰則を科すことができなかった。
しかし、税額を確定させるための手続である申告書の提出と税額を減少させるための手続である更正請求書の提出の違いは、少なくとも偽りその他不正の行為をした場合におけるペナルティの水準として取扱いに差を設ける必要はなく、むしろ、更正の請求において罰則が科されないことは、社会秩序を維持して犯罪を抑止するという刑事罰の趣旨に照らして適切ではなく、納税申告書と同様に罰則の対象とすることが必要であるという議論が政府与党の税制調査会において議論されていた。
(3) 大綱案
国税と地方税の双方において、消費税(地方消費税)の不正受還付犯(未遂犯を含む)の対象に、「偽りその他不正の行為による更正の請求に基づく還付」を加えることとされた。
(4) 適用時期
上記(3)の改正は、法律の公布の日から起算して10日を経過した日以後にした違反行為について適用され、同日前にした違反行為については従前どおりである。
なお、国民に不利益を与える法律、特に刑罰を科する法律などは、原則として、即日施行にしないようにし、周知等のために必要な日数を確保しているところ、罰則を早期に実効ならしめる趣旨から、その日数は最低限度の10日間と設定されたものと考えられる。
(了)