谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第54回】「定年延長と退職所得課税」-10年退職金事件・最判昭和58年12月6日訟月30巻6号1065頁の今日的意義と「雇用継続税制」-
近時、退職所得課税の見直しが盛んに議論されるようになってきた。政府税制調査会では比較的早くから退職所得課税について「支給形態の多様化」、「雇用の流動化」、「課税の中立性」を主たる課題として検討がされてきたところである(油井雅志「退職金制度等における課税上の諸問題について―定年延長等における打切支給の取扱いを中心に―」税務大学校論叢110号(2023年)79頁、125頁以下参照。税制調査会「我が国税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方―」(令和5年6月)96頁も参照)。
今回の原稿執筆中にも、「退職金課税の改正見送り」という見出しで「政府・与党は退職金課税の改正を2026年度は実施しない方針だ。政府で本格的な議論に上がって以降、見送りは3年連続となる。」旨が報じられた(日本経済新聞2025年11月15日朝刊5面)。
そのような議論状況の下、「近年における少子・高齢化の進展や公的年金等の支給開始年齢の段階的な引上げ等に伴い、高齢者雇用に関する就業機会の確保が求められることになり、企業において定年延長等の雇用制度の変更による労働環境の整備がなされている」(油井・前掲論文140頁)昨今、「定年延長等に伴い、退職手当を定年延長前の旧定年で支給する、いわゆる打切支給の退職金が支給されるケースも増えていると想定される」(同100-101頁)ところ、今回は、かつていわゆる短期定年制の下での打切支給退職金の退職所得該当性が争われた10年退職金事件に関する最判昭和58年12月6日訟月30巻6号1065頁(以下「本判決」という)の判断内容を検討し、その今日的意義に関連して若干の立法論的提言を述べることにする。
〈令和7年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第4回】「通勤手当の非課税限度額の引上げ」~令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当に適用~
令和7年11月19日に所得税法施行令の一部を改正する政令が公布され、自動車等の交通用具を使用している給与所得者に支給する通勤手当の非課税限度額が引き上げられた(所令20の2二)。本改正は、令和7年11月20日に施行され、令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当について適用される(令和7年改正令附則)。
改正前の非課税限度額を適用して源泉徴収が行われている役員及び従業員について、改正後の非課税限度額を適用することにより過納となる税額が生じる場合には、令和7年分の年末調整において精算することになる。
「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例152(所得税)】 「買手が耐震工事をしなかったため「空き家に係る3,000万円の特別控除」の適用が受けられなくなってしまった事例」
令和Y年分の所得税につき、依頼者の実母の相続により取得した被相続人の居住用家屋とその敷地の譲渡につき、「被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」(以下単に「空き家に係る3,000万円の特別控除」という。)の適用を受けるべく相談を受けたが、当初相談を受けた際に、家屋の耐震工事が必要である旨の説明をしなかったため、買手が決まった後に売買契約書に買手の責任で期限までに耐震工事を行うよう特約条項を織り込んだが、結果としてこれが履行されず、上記特別控除が受けられなくなってしまった。そして、買手が見つかる前に耐震工事が必要である旨の説明を受けていれば上記特別控除は受けられたとして、過大納付税額につき損害賠償請求を受けた。
国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正-防衛特別法人税等の企業への影響- 【第10回】
防衛特別法人税における通算法人の取扱いについては、法人税において規定されている通算法人の取扱いに対応する規定のほかに、防衛特別法人税の計算についてのみ設けられた通算法人の取扱いの規定がある。
法人税において規定されている通算法人の取扱いに対応する規定には、①通算子法人の課税事業年度、②仮決算をした場合の法人税の中間申告書の提出、③災害等による中間申告書・確定申告書の提出期限の延長、④清算中の内国法人の確定申告、⑤電子情報処理組織による申告の特例、⑥通算法人の連帯納付責任、⑦青色申告の取消し、⑧通算税効果額の取扱い、⑨電子情報処理組織による申請等、がある。
防衛特別法人税の計算についてのみ設けられた通算法人の取扱いの規定には、⑩基礎控除額の計算と、⑪通算法人に係る外国税額控除額の計算がある。本号では、⑤から⑪について解説する。
学会(学術団体)の税務Q&A 【第23回】「学会が賃上げ促進税制を適用する際の留意点」
本学会は、法人税法上の収益事業があるため、給与を収益事業と非収益事業に区分経理しています。このように給与の一部(収益事業に区分経理される給与)だけが法人税の計算上、損金算入される状況において、賃上げ促進税制を適用する際には、どのような点に留意すればよいでしょうか。
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第54回】「水道光熱費の使用料金が極めて少なく、かつ、居住目的が特例の適用を受けるためと答述したことから、居住用財産に該当せず、特別控除の適用は認められないとされた事例」
居住用財産の譲渡所得の特別控除は、居住の用に供している家屋の譲渡もしくはその家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等を譲渡した場合、又は住まなくなってから3年を経過する日の属する年の年末までに譲渡した場合の特例である(措置法35①)。譲渡所得の金額から3,000万円を限度として控除でき、短期譲渡所得であったとしても、条件を満たす場合は適用でき、他の居住用財産の特例の多くは国内の不動産に限られるが、この特例については特に制限は設けられていない。他方、譲渡先の制限、他の措置法との重複適用の制限、譲渡年の前年、前々年に特別控除の適用等を受けていないこと等の制限もある。
〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第84回】「海外子会社への貸付利子と移転価格税制-平成29年9月26日裁決の検討-(審裁平29.9.26)(その2)」~租税特別措置法〔平成26年法律第10号改正前〕66条の4、租税特別措置法関係通達66の4(7)-1・66の4(7)-4等~
租税特別措置法66条の4は、国外関連者との取引価格を独立企業原則(Arm’s Length Principle)に従って修正する制度として、平成2年に導入された。
当初はOECDモデル条約9条に基づく「恒久的施設回避の抑制」が主目的だったが、グローバル企業の利益移転行動が複雑化するにつれ、制度の実務的射程は大きく拡張していった。
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第177回】いわき信用組合「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2025年10月31日付)」
いわき信用組合は、2024年(令和6年)9月に投稿された「元信用組合職員」を名乗る者によるSNSへの書込みを契機とする内部調査により、いわき信用組合において、長年にわたって組織的に無断借名融資が繰り返されるなどしていたことが判明したことから、同年11月15日、一連の不祥事件(無断借名融資等の不正融資の継続及びその組織的隠蔽並びに当組合元職員2名による着服横領及びその組織的隠蔽)の事実関係の調査、原因分析、再発防止策の提言等を目的とする第三者委員会を設置し、2025年(令和7年)5月30日、第三者委員会から調査報告書の提出を受け、同日、その公表版を公表した。
しかし、いわき信用組合は、第三者委員会報告書において、第三者委員会による調査に対するいわき信用組合の協力姿勢に強い疑義を示された上、一連の不祥事件の実態解明に向けて、更なる調査を行う必要がある旨指摘されたことから、上記調査に対する誠実な対応を欠いたことを猛省するとともに、可能な限りの実態解明を図るべく、同年6月13日付け総代会において選任された役員による新たな経営体制の下で第三者委員会報告書における指摘を踏まえた徹底調査を実施することとして、同月30日、いわき信用組合と利害関係のない外部専門家から構成される特別調査委員会を組成し、調査を委嘱した。
特別調査委員会は、調査に当たり、独立性を確保し、実効的な調査を実現するため、以下の事項をいわき信用組合と合意した。
