〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第85回】「オウブンシャホールディング事件 (地判平13.11.9、高判平16.1.28、最判平18.1.24)(その1)」~法人税法22条2項の「取引」の解釈~
株式会社における新株発行手続きは、私法上の法律関係から見ると「発行法人」と「新株引受人」の「取引」である。しかしながら、一定の新株発行手続きには株主総会の決議を要するため、決議に参加する「既存株主」も間接的に取引に影響を与える。
本事案は、既存株主に株式価値の希釈化が生じる新株発行(有利発行による第三者割当増資。以下「非按分的有利発行増資」又は、文脈により「同増資」)が行われ、これによって生じた既存株主から新株引受人への「持分の移転」ないし「株式価値の移転」に対して、支配関係にもとづく「合意」を認定し、かかる合意が法人税法(以下、単に「法」)22条2項にいう「取引」に当たるとして、既存株主に課税した事案である。
国際課税レポート 【第21回】「多国籍企業課税制度と課税ベース」~ワールドワイドvsテリトリアル~
以下では、各国の具体的な制度として、米国のSubpart F、日本のタックスヘイブン対策税制(CFC税制)、OECD Pillar 2(IIR)、米国のGILTI及びその後継制度であるNCTI(いわば新CFC税制)を取り上げ、これら多国籍企業課税ルールの設計について整理し、今年6月にG7が合意したPillar 2と米国制度の“共存” (※)の多国籍企業課税制度における本質を探ることとする。
〈注記事項から見えた〉減損の深層 【第16回】「インドのイースト(酵母)事業が減損に至った経緯」-インフレ鈍化との関係-
今回は、インドにおいて、主としてパン酵母(イースト)を製造、販売している事業での減損損失計上事例を取り上げます。
製粉業界の最大手として知られるこの会社は、2017年7月に、子会社を通じてインドにイースト工場を建設することを決定しました。その後、2022年8月に当該工場が稼働開始しましたが、2026年3月期中間(第2四半期)に至って、インドイースト事業の固定資産について減損損失を計上しています。稼働から丸3年経過した時点での減損です。
さっそく、事例を見ていきましょう。
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第178回】株式会社旅工房「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2025年8月29日付)」
旅工房は、東京労働局から、2025年3月11日付で、「雇用調整助成金及び緊急雇用安定助成金受給事業主様への自主調査のお願い」と題する書面を受領したことを契機として、自主的に社内調査を開始したところ、その過程において、実際の勤務状況と受給申請の内容に齟齬が生じており、旅工房が受給した雇用調整助成金及び緊急雇用安定助成金(以下「雇用調整助成金等」という)累計802,230,837円(判定基礎期間は、2020年3月16日から2022年11月30日まで)に関して、受給申請の内容について精査を要する疑義(以下「本件事案」という。)が判明したことから、旅工房は、より客観性と信頼性の高い調査を行う必要があると判断し、2025年6月5日開催の取締役会の決議により、外部専門家を中心とした特別調査委員会を設置したものである。
〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2025年11月】
2025年11月1日から11月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。
具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。
なお、四半期ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。
monthly TAX views -No.154-「繰り返される金利・成長率論争」
高市総理は、衆議院予算委員会での答弁で、単年度プライマリーバランス(PB)黒字化目標の見直しを明言し、目標の確認サイクルを複数年度に変える旨発言した。
背景には「名目成長率(g)が国債金利(r)を上回る状況を維持できれば、債務残高の対GDP比は自然に安定する」という考え方がある。事実、高市総理は記者会見で、「名目成長率が金利より高ければ(g >r)財政は自然に安定するので破綻はしない」と発言している。これはリフレ派の主張でもある。
問題は、「そのような前提が現実に続くのか」という点である。
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例81】「外国為替の売買相場が著しく変動した場合の外国為替換算差損の損金性」
さて、今般、その際に行った外貨建社債の円換算により生じた損失の損金計上につき、現在受けている国税局の税務調査で問題となっております。すなわち、当該外貨建社債については、外国為替の売買相場が著しく変動したため、わが社は期末換算差損につき損金算入を行ったのですが、調査官は、当該外貨建社債については、デリバティブ取引により繰延ヘッジ処理がされており、為替変動のリスクがヘッジされていることから、損金算入は認められないと主張しております。損失が生じているのに損金算入されないという主張は理解できないのですが、税法上どう考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。
《税務必敗法》 【第7回】「振替伝票を削除した」
X会計事務所は、顧問先であるA社の記帳代行を行っている。ある日、所轄税務署の税務調査が入った。所轄税務署は、会計帳簿について電子データでの提示を希望したため、担当税理士はA社の同意をとったうえで会計ソフトのバックアップデータを提出した。なお、A社の帳簿は「優良な電子帳簿」には該当していない。
後日、調査官から連絡があった。内容は「振替伝票の一部が削除されているが、その理由を教えてほしい」ということであった。
X会計事務所内で調査したところ、入力担当職員が、仕訳を訂正する際、誤った仕訳が入力された振替伝票を削除し、新しい振替伝票に正しい仕訳を入力していたことが発覚した。
金融・投資商品の税務Q&A 【Q100】「不動産セキュリティトークンからの配当金」
私(居住者たる個人)は、不動産に投資するセキュリティトークン(デジタル証券)を保有しています。償還期限までの間に年に2回の配当が支払われることが予定されていますが、この配当は確定申告が必要でしょうか。
なお、この不動産セキュリティトークンは、税務上、特定受益証券発行信託に係る受益権に該当し、証券会社の一般口座で保管しています。
租税争訟レポート 【第82回】「重加算税「取締役及び従業員による不正と重加算税賦課決定処分」(第1審:仙台地方裁判所令和5年12月25日判決、控訴審:仙台高等裁判所令和6年6月4日判決)」
原告は、昭和27年10月27日、電気工事、照明工事、機械設備工事、プラント工事、土木工事、建築工事等の設計、施工及び保守、管理等を目的として設立された資本金1億円の株式会社である。
原告は、土木工事業を営む訴外株式会社A(以下「A社」という)に対する土木工事の外注費について、平成24年9月期から平成29年9月期までの事業年度(本件各事業年度)の法人税、復興特別法人税及び地方法人税の計算上、これを損金の額に算入するとともに、平成24年9月課税期間から平成29年9月課税期間(本件各課税期間)までの消費税及び地方消費税の計算上、仕入税額控除を適用して申告した。
これに対し、仙台北税務署長は、申告されたAに対する外注費の一部は、原告の従業員であった甲、乙、丙及び丁、並びにA社の代表取締役である戊らが行った工事代金の水増し請求によるものであり(以下、この水増し請求に係る甲らの行為を「本件不正行為」という)、当該外注費のうち水増し金額分(本件外注費水増し分)は、役務の提供を受けた対価であるとは認められないから、これを損金に算入することも、仕入税額控除を適用することもできず、法人税の計算上、本件不正行為により生じた損失は、本件各事業年度の損金に算入され、当該損失に対応する損害賠償請求権は、当該損失が生じた事業年度の益金に算入されることになるなどとして、下記の処分(本件各更正処分等)を行った。
本件は、原告が、本件各更正処分等を不服としてその全部の取消しを求める事案である。
