理由付記の不備をめぐる事例研究
【第5回】
「雑収入(従業員の横領による損害賠償請求権の収益計上)」
~従業員の横領による損害賠償請求権を
収益に計上しなければならないと判断した理由は?~
中央大学大学院商学研究科 博士後期課程
(酒井克彦研究室所属)
泉 絢也
前回に引き続いて、青色申告法人X社に対して行われた売上計上漏れ(損害賠償請求権に係る雑収入計上漏れ)を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成23年2月8日裁決(裁決事例集82号117頁。以下「本裁決」という)を取り上げる。
1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (再掲)
更正の理由
貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから次のように申告書に記載された所得金額等に加算して更正しました。
(売上の計上漏れ 100万円)
ア 貴法人のB事業部を調査したところ、貴法人の帳簿に記載のないB事業部名義の本件貯金口座に貴法人の売上先であるC社から入金(平成X年X月X日 100万円)がされていましたが、調査の結果、本件貯金口座は貴法人のB事業部副部長で生産管理部門、購買部門の責任者であったRが開設し、入出金の管理をしていたものであること、当該入金額は貴法人の売上の入金であることが判明しました。
イ 貴法人は、上記100万円について、売上に計上していないことから、当該金額を売上の計上漏れとして当事業年度の所得金額に加算しました。
ウ なお、貴法人は、当該売上の計上漏れの金額100万円についてRから入金されておらず、当該金額に相当する資産減少損失が生じていることから損金の額に算入されますが、これと同時に同人に対する同額の返還請求権を取得しますので、同額が益金の額に算入されます。
(注) 本裁決の事案における実際の理由付記の一部を筆者が加工している。
なお、ア及びイの部分に係る理由付記の十分性については前回検討したため、今回は、ウの部分に係る理由付記の十分性について検討する。
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