公開日: 2016/04/14 (掲載号:No.165)
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理由付記の不備をめぐる事例研究 【第9回】「固定資産評価損」~固定資産評価損の計上が認められないと判断した理由は?~

筆者: 泉 絢也

理由付記の不備をめぐる事例研究

【第9回】

「固定資産評価損」

~固定資産評価損の計上が認められないと判断した理由は?~

 

中央大学大学院商学研究科 博士後期課程
(酒井克彦研究室所属)
泉 絢也

 

今回は、青色申告法人X社に対して行われた固定資産評価損の否認に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成15年1月28日裁決(裁決事例集65号401頁。以下「本裁決」という)を取り上げる。

 

1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記)

更正の理由

貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから次のように申告書に記載された所得金額等に加算して更正しました。

(固定資産評価損の否認額 〇〇〇円)

貴法人は、その固定資産として計上している本件土地に係る評価損の額〇〇〇円を、本件事業年度の法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入しています。

しかしながら、固定資産の評価損に関する法人税法の規定をみると、法人税法33条《資産の評価損の損金不算入等》は、その1項において、「内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」としつつ、その2項において、「内国法人の有する資産につき、災害による著しい損傷により当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなったことその他の政令で定める事実が生じた場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、前項の規定にかかわらず、その評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」と定めています。

また、これを受けて、法人税法施行令68条《資産の評価損の計上ができる事実》1項は、その柱書において、「法第33条第2項 (特定の事実が生じた場合の資産の評価損の損金算入)に規定する政令で定める事実は、物損等の事実(次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める事実であって、当該事実が生じたことにより当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなったものをいう。)及び法的整理の事実(更生手続における評定が行われることに準ずる特別の事実をいう。)とする。」とし、その3号 において、固定資産の場合は、次に掲げる事実と規定しています。

イ 当該資産が災害により著しく損傷したこと。

ロ 当該資産が1年以上にわたり遊休状態にあること。

ハ 当該資産がその本来の用途に使用することができないため他の用途に使用されたこと。

ニ 当該資産の所在する場所の状況が著しく変化したこと。

ホ イからニまでに準ずる特別の事実

これらの各規定に照らして判断すると、X社の場合、本件土地については、施行令第68条第3号イからホまでのいずれにも該当しないので、法人税法33条1項の規定により、本件評価損を本件事業年度の損金の額に算入することはできません。

したがって、本件評価損の額〇〇〇円を、本件事業年度の所得金額に加算しました。

(注)  素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。

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理由付記の不備をめぐる事例研究

【第9回】

「固定資産評価損」

~固定資産評価損の計上が認められないと判断した理由は?~

 

中央大学大学院商学研究科 博士後期課程
(酒井克彦研究室所属)
泉 絢也

 

今回は、青色申告法人X社に対して行われた固定資産評価損の否認に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成15年1月28日裁決(裁決事例集65号401頁。以下「本裁決」という)を取り上げる。

 

1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記)

更正の理由

貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから次のように申告書に記載された所得金額等に加算して更正しました。

(固定資産評価損の否認額 〇〇〇円)

貴法人は、その固定資産として計上している本件土地に係る評価損の額〇〇〇円を、本件事業年度の法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入しています。

しかしながら、固定資産の評価損に関する法人税法の規定をみると、法人税法33条《資産の評価損の損金不算入等》は、その1項において、「内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」としつつ、その2項において、「内国法人の有する資産につき、災害による著しい損傷により当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなったことその他の政令で定める事実が生じた場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、前項の規定にかかわらず、その評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」と定めています。

また、これを受けて、法人税法施行令68条《資産の評価損の計上ができる事実》1項は、その柱書において、「法第33条第2項 (特定の事実が生じた場合の資産の評価損の損金算入)に規定する政令で定める事実は、物損等の事実(次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める事実であって、当該事実が生じたことにより当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなったものをいう。)及び法的整理の事実(更生手続における評定が行われることに準ずる特別の事実をいう。)とする。」とし、その3号 において、固定資産の場合は、次に掲げる事実と規定しています。

イ 当該資産が災害により著しく損傷したこと。

ロ 当該資産が1年以上にわたり遊休状態にあること。

ハ 当該資産がその本来の用途に使用することができないため他の用途に使用されたこと。

ニ 当該資産の所在する場所の状況が著しく変化したこと。

ホ イからニまでに準ずる特別の事実

これらの各規定に照らして判断すると、X社の場合、本件土地については、施行令第68条第3号イからホまでのいずれにも該当しないので、法人税法33条1項の規定により、本件評価損を本件事業年度の損金の額に算入することはできません。

したがって、本件評価損の額〇〇〇円を、本件事業年度の所得金額に加算しました。

(注)  素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。

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連載目次

理由付記の不備をめぐる事例研究

第1回~第19回 ※クリックすると開きます。

  • 【第1回】
    「理由付記制度及び判例法理等の概観」
  • 【第2回】
    「最近の注目裁判例・裁決例①(国税不服審判所平成26年11月18日裁決)」
    ~相続財産の価額からの債務控除が認められないと判断した理由は?~
  • 【第3回】
    「最近の注目裁判例・裁決例②(大阪高裁平成25年1月18日判決)」
    ~収益事業に該当すると判断した理由は?~
  • 【第4回】
    「売上計上漏れ」
    ~100万円の入金が「X社の」「当事業年度の」「売上の」入金であると判断した理由は?~
  • 【第5回】
    「雑収入(従業員の横領による損害賠償請求権の収益計上)」
    ~従業員の横領による損害賠償請求権を収益に計上しなければならないと判断した理由は?~
  • 【第6回】
    「仕入」
    ~架空仕入れと判断した理由は?~
  • 【第7回】
    「棚卸資産計上漏れ」
    ~棚卸資産の計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第8回】
    「減価償却費」
    ~架空の減価償却資産と判断した理由は?~
  • 【第9回】
    「固定資産評価損」
    ~固定資産評価損の計上が認められないと判断した理由は?~
  • 【第10回】
    「有価証券評価損」
    ~有価証券評価損の計上が認められないと判断した理由は?~
  • 【第11回】
    「寄附金と貸倒損失」
    ~立替金債権の放棄が貸倒損失ではなく、寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第12回】
    「寄附金と営業権」
    ~営業権の譲受代金の支払ではなく、寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第13回】
    「交際費と外注費」
    ~外注費ではなく交際費等に該当すると判断した理由は?~
  • 【第14回】
    「交際費と福利厚生費」
    ~福利厚生費ではなく交際費等に該当すると判断した理由は?~
  • 【第15回】
    「過大役員退職給与」
    ~役員退職給与が過大であると判断した理由は?~
  • 【第16回】
    「収用換地特例・宥恕規定」
    ~やむを得ない事情がないと判断した理由は?~
  • 【第17回】
    「青色申告承認取消処分の理由付記制度の概要等」
  • 【第18回】
    「青色申告承認取消処分の事例①」
    ~青色申告承認取消事由(帳簿書類の不保存等)に該当すると判断した理由は?~
  • 【第19回】
    「青色申告承認取消処分の事例②」
    ~青色申告承認取消事由(取引を隠ぺい仮装して記載等)に該当すると判断した理由は?~

第20回以降(掲載予定)

  • 【第20回】 ★連載再開★
    「売上」
    ~有料老人ホームの入居一時金を売上に計上しなければならないと判断した理由は?~
  • 【第21回】
    「雑収入(開店祝い金)」
    ~開店祝い金の雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第22回】
    「雑収入(預り金)」
    ~従業員からの預り金に係る雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第23回】
    「雑収入(立退料)」
    ~立退料の雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第24回】
    「雑収入(受取利息)」
    ~受取利息の雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第25回】
    「受贈益」
    ~新株引受権に係る受贈益を計上しなければならないと判断した理由は?~
  • 【第26回】
    「有価証券譲渡益計上漏れ」
    ~有価証券譲渡益の計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第27回】
    「収益事業」
    ~不動産貸付業に係る収益事業から生じた所得に該当すると判断した理由は?~
  • 【第28回】
    「棚卸資産」
    ~棚卸資産の計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第29回】
    「宅地造成工事費用」
    ~宅地造成工事費用の支出の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第30回】
    「有価証券評価損」
    ~有価証券評価損の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第31回】
    「ゴルフクラブ入会金(諸会費)」
    ~ゴルフクラブ入会金の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第32回】
    「役員賞与引当金」
    ~事前確定届出給与に係る役員賞与引当金の繰入額の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第33回】
    「役員給与」
    ~代表者の配偶者に対する交際費の支出が代表者に対する役員給与に該当すると判断した理由は?~
  • 【第34回】
    「役員退職給与」
    ~役員退職給与の額が過大であると判断した理由は?~
  • 【第35回】
    「分掌変更退職給与」
    ~分掌変更による役員退職給与の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第36回】
    「寄附金(社員旅行負担金)」
    ~グループ3社の共同社員旅行の負担金が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第37回】
    「寄附金(貸倒損失)」
    ~貸倒損失が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第38回】
    「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」
    ~子会社に対する貸倒損失が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第39回】
    「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」
    ~書面による債権放棄の通告が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第40回】
    「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」
    ~債権放棄に基づく関係会社援損が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第41回】
    「寄附金(債権放棄)」
    ~子会社再建支援のための債権放棄が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第42回】
    「寄附金(売上値引・特別拡売費)」
    ~売上値引が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第43回】
    「寄附金(終身年金)」
    ~創業者の配偶者に対する金員の支給が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第44回】
    「青色繰越欠損金控除額の損金算入否認」
    ~青色繰越欠損金の当期控除額の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第45回】
    「リース取引(減価償却費)」
    ~法人税法上のリース取引に該当しないと判断した理由は?~
  • 【第46回】
    「交際費等(損金性否認)」
    ~交際費勘定に計上している支出の損金性が認められないと判断した理由は?~
  • 【第47回】
    「交際費等(外注費)」
    ~英文添削料の差額負担額が交際費等に該当すると判断した理由は?~
  • 【第48回】
    「交際費等(会議費)」
    ~会議費として計上している支出が交際費等に該当すると判断した理由は?~
  • 【第49回】
    「過収電気料金等の返戻額に係る収益」
    ~電力会社から過大に徴収された電気料金等の返戻額の収益計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第50回】
    「前期損益修正」
    ~国保収入を減額する決算修正仕訳は認められないと判断した理由は?~
  • 【第51回】
    「前期損益修正」
    ~過去の事業年度に係る外注費の損金算入が認められないと判断した理由は?~

筆者紹介

泉 絢也

(いずみ・じゅんや)

東洋大学法学部准教授
博士(会計学)

2023年3月末まで千葉商科大学商経学部准教授、2023年4月より東洋大学法学部准教授。中央大学ビジネススクール非常勤講師。
(一社)アコード租税総合研究所研究顧問。
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。博士(会計学・中央大学)。
Twitter:@taxlaw17
ブログ:https://note.com/cryptotax/

【著書】
・泉絢也『逐条解説 法人税法第22条の2 収益認識会計基準に対応する法令・通達の論点整理』(清文社2023)(単著)
・泉絢也=藤本剛平『事例でわかる! NFT・暗号資産の税務』(中央経済社2022)(共著)
・泉絢也『パブリックコメントと租税法』(日本評論社2020)(単著)
・酒井克彦編『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(ぎょうせい2019)(共著)
・松嶋 隆弘=渡邊涼介編著『仮想通貨はこう変わる!!暗号資産の法律・税務・会計』(ぎょうせい2019)(共著)

【論文】
・「仮想通貨(暗号通貨、暗号資産)の譲渡による所得の譲渡所得該当性-アメリカ連邦所得税におけるキャピタルゲイン及び為替差損益の取扱いを手掛かりとして-」税法学581号3頁以下
・「NFT(ノンファンジブルトークン)の譲渡による所得は 譲渡所得か?もしそうであれば非課税所得か?」千葉商大論叢59巻3号143頁など
・「法人税法における暗号資産税制の問題点(1)・(2完)-期末時価評価課税の改正提言-」千葉商大論叢60巻1号73頁、千葉商大紀要60巻1号61頁
など多数

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