理由付記の不備をめぐる事例研究
【第17回】
「青色申告承認取消処分の理由付記制度の概要等」
中央大学大学院商学研究科 博士後期課程
(酒井克彦研究室所属)
泉 絢也
1 はじめに
本連載の【第1回】で述べたとおり、これまでの議論や事例の蓄積状況及び法人の9割以上が青色申告を行っている現状などを踏まえ、第1回~前回まで、法人税の青色申告書に係る更正の理由付記(法人税法130条2項)の十分性が問題となった裁判例・裁決例を中心に検討を行ってきた。
もっとも、理由付記については、青色申告書に係る更正のみならず、青色申告の承認取消しに係るものについても議論や事例が蓄積している。この青色申告の承認取消しは、その取消事由の存在する事業年度にまで遡って行われるものである上、その取消しによって青色申告者のみに認められている繰越欠損金(法人税法57条)や特別税額控除・特別償却(租税特別措置法42条の4、42条の6など)の利用が認められないことになるなど、納税者に対する影響は決して小さいものではない。
そこで、今回から第19回までは、青色申告承認の取消処分の通知書(法人税法127条4項)に係る理由付記の事例研究を行う。
2 青色申告制度の概要
青色申告制度は、適正な課税を実現するために不可欠な帳簿の正確な記帳を推進する目的で設けられたもので、所定の帳簿書類の備付け等を行っている者に限って、税務署長の承認を受けて青色の申告書を提出することを認め(法法121①) 、課税手続や、欠損金の繰越控除及び繰戻還付など税額計算等に関する各種の特典(法法57、80、130、131、措法67条の5など)を与えるものである(最高裁昭和49年9月20日第二小法廷判決・刑集28巻6号291頁、最高裁昭和62年10月30日第二小法廷判決・集民152号93頁参照)。
かような青色申告制度の適正な履行を担保するために、法は、青色申告法人に対し、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならないという、適式の帳簿書類の備付け等義務を課すとともに(法法126①)、当該義務に違反するなど一定の場合には、税務署長は青色申告の承認を取り消すことができるとしている(法法127①)。なお、本稿では、法人税法127条2項に規定する連結納税の承認の取消しに伴う青色申告の承認の取消しについては取り扱わない。
青色申告の承認の取消しがあったときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前に成立した法人税に係るものを除く)は、青色申告書以外の申告書とみなされる。この青色申告承認取消処分は、書面により通知しなければならず、かつ、その書面には、その取消しの処分の基因となった事実が、青色申告承認取消事由を定める法人税法127条1項各号のいずれに該当するかを付記しなければならない(法法127④)。
法人税法127条(青色申告の承認の取消し)
第121条第1項(青色申告)の承認を受けた内国法人につき次の各号のいずれかに該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に定める事業年度まで遡って、その承認を取り消すことができる。この場合において、その取消しがあったときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前に成立した法人税に係るものを除く。)は、青色申告書以外の申告書とみなす。
一 その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないこと 当該事業年度
二 その事業年度に係る帳簿書類について前条第2項の規定による税務署長の指示に従わなかったこと 当該事業年度
三 その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること 当該事業年度
四 第74条第1項(確定申告)の規定による申告書をその提出期限までに提出しなかったこと 当該申告書に係る事業年度
〔中 略〕
4 税務署長は、第1項又は第2項の規定による取消しの処分をする場合には、第1項又は第2項の内国法人に対し、書面によりその旨を通知する。この場合において、その書面には、その取消しの処分の基因となった事実が第1項各号又は第2項のいずれに該当するかを付記しなければならない。
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