理由付記の不備をめぐる事例研究
【第20回】
「売上」
~有料老人ホームの入居一時金を売上に計上しなければならないと判断した理由は?~
千葉商科大学商経学部講師
泉 絢也
-連載再開に当たって-
平成23年12月の税制改正により、課税庁は、原則として国税に関する法律に基づく申請に対する拒否処分や不利益処分を行う場合には、処分の通知書に処分の理由を付記(注1)しなければならないこととなった(国税通則法74条の14第1項、行政手続法8条、14条)。
しかしながら、理由付記に当たり、どの程度の記載をすべきであるかを定める条文は存在しないため、実際の事案において、具体的にどの程度の記載がなされていないと、理由付記が不備であるとして処分が取り消されることになるのかについては、必ずしも明らかではなく、議論や事例の集積が待たれるところである。
『理由付記の不備をめぐる事例研究』は2015年から2016年にかけて、本誌上において全19回にわたり、実際の裁判例・裁決例を素材として、青色申告書に係る法人税の更正の理由付記及び青色申告承認取消処分に係る理由付記についての事例研究を行ったところである。
ところが、【第19回】掲載後においても、青色申告書に係る法人税の更正の理由付記の十分性が争われた注目すべき裁判例等を目の当たりにすることがあり(注2)、理由付記をめぐる議論を整理し、進展させることの必要性を痛感した。
理由付記の十分性は、関係する法令等の内容や納税者が保存している帳簿書類の記載内容に応じて、個別の判断が求められるものである。このことから、議論すべき論点の洗い出しやその検討に当たっては、理由付記をめぐる個別の事例の集積及び整理が有用である。
そこで、理由付記をめぐる議論や争訟の発展に資するべく、実際の裁判例・裁決例を素材として、更正の理由付記の不備についての事例研究を行う趣旨である本連載を引き継ぐ形で、再開することとしたい。
(注1) 本連載では、判決文等の引用部分を除き、「理由附記」ではなく「理由付記」と表記する。
(注2) 本連載【第45回】で取り扱う予定の「法人税法上のリース取引に該当せず、減価償却費の損金算入は認められない」とする法人税更正処分に係る理由付記の十分性を認めた松山地裁平成27年6月9日判決(判タ1422号199頁)や、【第51回】で取り扱う予定の「過去の事業年度に係る外注費の損金算入は認められない」とする法人税更正処分に係る理由付記の十分性を認めた東京地裁平成27年9月25日判決(判例集未登載)などがある。
◆ ◆ ◆
今回は、青色申告法人である財団法人Xに対して行われた「有料老人ホームの入居一時金に係る売上計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁平成22年4月28日判決(訟月57巻3号693頁。以下「本判決」という)を素材とする。
1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記)
更正の理由
貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから次のように申告書に記載された所得金額等に加算して更正しました。
(売上計上漏れ 〇〇〇円)
貴法人は、貴法人の運営する有料老人ホームAの入居者との間で締結している終身入居契約16条及び17条に基づき、契約締結時に入居者から受領する「終身契約の会員費」の一部について、当事業年度の売上に計上していませんが(貴法人が作成した終身契約の会員費の受領状況等を管理するための管理台帳に基づいて作成した別表「〇〇」欄参照)、「終身契約の会員費」は、同契約が入居日から5年以内に終了したときは、入居者に対してその一部を返済しなければならないものの、期間の経過に応じて入居者への返済金額が逓減することから(同契約23条1項及び同契約別表参照)、当事業年度に入居者への返済が不要となる部分が当事業年度の益金になります。このため、貴法人が受領した「終身契約の会員費」のうち、当事業年度において返済が不要となる金額(別表「〇〇」欄参照)を売上の計上漏れとして当事業年度の所得金額に加算しました。
(別表〔筆者注:掲載省略〕)
(注) 本件理由付記は、素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工して作成したものである。
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