公開日: 2019/08/16 (掲載号:No.331)
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政府税調における連結納税制度の見直しについて~改正の方向性とその影響~ 【後編】

筆者: 足立 好幸

(4) 新制度の適用関係
~移行スケジュールと経過措置のイメージ~

[改正の方向性]

第4回専門家会合では、新制度の適用関係について以下のような方向性が示された。

 改正法公布から1~2年程度の準備期間を設けること

 現行制度と新制度の承認申請期間が重なること

 連結納税採用企業は、新制度適用開始までに単体納税に戻ることを選択できること

[出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日

例えば、最短だと、新制度適用まで、次のようなスケジュールが一案となろう。

  • 2020.3.31:改正法公布
  • 2020.4.1~2022.3.31:経過期間
  • 2022.4.1~:新制度の適用開始

[実務上のポイント]

上記で示された新制度の適用関係のイメージについて、筆者が本稿執筆時点で考える実務上のポイントは次のとおりである。

〈1〉

新制度への準備期間は、2年、3年が妥当ではないか。

新制度への準備期間に何年が必要か、という点については、既に連結納税を採用している企業、システム会社、課税庁、それぞれに必要な準備期間を考慮して決定する必要があるが、2年か3年が妥当であろう。

まず、企業側は、連結納税を継続するかどうかを旧制度と新制度を比較して検討する期間と、新制度による決算・申告のトライアルやシステム研修等の準備期間が必要であるし、システム会社は新しい連結納税システムの開発期間、運用期間が必要になり、課税庁は、法律・通達やQ&Aの公表などの準備期間が必要になる。

いずれにせよ、準備期間を何年にするかは今後、慎重に議論されることになるだろう。

〈2〉

新制度で税負担が増加する連結グループは連結納税を継続するか、単体納税に復帰するかの検討(シミュレーションを含む)が必要になる。

現行制度では、いったん連結納税を採用すると単体納税に戻れないのが原則であり、新制度でもその点は変わらないだろう。

ただし、新制度になると税負担が増加する連結グループが生じることになるため、新制度の準備期間に限って、単体納税に戻る選択肢(チャンス)を与えることは当然のことと思われる。この点、連結納税採用企業が単体納税に戻ることができるのは、今後、唯一のチャンスかもしれない。

そのため、すべての連結グループが、連結納税を継続すべきか、単体納税に復帰すべきかを検討することが必要になる。

〈3〉

単体納税に戻ったグループが、再び連結納税を開始するために、一定の制限期間が設定されるか。

単体納税に戻ったグループが、再び連結納税を開始するのに一定の制限期間が設定されるかどうかは、連結納税を継続すべきか、単体納税に復帰すべきかを検討する上で考慮すべき点の1つであろう。

〈4〉

連結納税の採用を予定している企業は、旧制度で開始するか、新制度で開始するかを検討する必要がある。

連結納税の採用を予定している企業は、連結納税開始時の取扱いが現行制度と新制度で異なることから、最初に、新旧いずれの制度を採用した方が有利かを検討する必要がある。

〈5〉

連結納税の加入を予定している企業は、旧制度で加入するか、新制度で加入するかを検討する必要がある。

連結納税の加入を予定している企業は、連結納税加入時の取扱いが現行制度と新制度で異なることから、最初に、新旧いずれの制度で加入した方が有利かを検討する必要がある。

〈6〉

準備期間中に旧制度を採用し、単体納税に戻ることも可能かどうか検討する必要がある。

仮に、準備期間中に旧制度を採用し、単体納税に戻ることも可能になる場合、準備期間中に現行制度を採用し、親法人や子法人の繰越欠損金の解消を実現した上で、準備期間中に再び単体納税に戻る企業グループも出てくる可能性があろう。

政府税調における連結納税制度の見直しについて

~改正の方向性とその影響~

【後編】

 

公認会計士・税理士
税理士法人トラスト
足立 好幸

 

(3) グループ調整計算
~事務負担の軽減を図る観点からの簡素化~

[改正の方向性]

第4回専門家会合では、グループ調整計算の見直しについて、各個別制度ごとに、調整計算をやめることによる事務負担の軽減効果と、企業経営の実態や制度趣旨・目的、濫用可能性等を勘案した調整計算の必要性等を比較衡量の上、見直しの内容を検討することが提起され、次に掲げる所得調整と税額調整の制度について、グループ調整計算(全体計算)を廃止し、単体法人と同様の個社計算に変更するという方向性が示された。

また、それに伴い、単体法人の取扱いと整合性を確保するため、単体法人のグループ法人税制の取扱いについても、見直しが検討されることが示された。

〈所得調整〉

  • 受取配当等の益金不算入制度
  • 外国子会社の受取配当等の益金不算入制度
  • 寄附金の損金不算入制度
  • 貸倒引当金の損金不算入制度
  • 過大支払利子税制の損金不算入制度

〈税額調整〉

  • 所得税額控除
  • 外国税額控除
  • 留保金課税
  • 研究開発税制
  • 設備投資促進税制(法人税額基準額の計算に係る部分)

ただし、定額控除限度額(中小法人の軽減税率対象所得、収用等の場合の定額控除限度額、過大支払利子税制の適用免除基準、交際費の損金算入限度額)については、グループ調整計算を継続する必要があることが示された。また、中小法人特例について、個別申告方式に対応し、親法人だけではなく子法人の資本金の額等も勘案し、連結グループ内の全ての法人の判定を行うことも検討されている。

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連載目次

政府税調における連結納税制度の見直しについて~改正の方向性とその影響~

【前編】

はじめに

1 検討に当たっての視点

2 連結納税制度の見直しの方向性と実務上のポイント

(1) 個別申告方式への移行~事務負担の軽減を図る観点からの簡素化~

・改正の方向性

・実務上のポイント

(2) 時価評価課税及び欠損金の利用制限等の見直し~組織再編税制との整合性の観点~

・改正の方向性

・実務上のポイント

【後編】

(3) グループ調整計算~事務負担の軽減を図る観点からの簡素化~

・改正の方向性

・実務上のポイント

(4) 新制度の適用関係~移行スケジュールと経過措置のイメージ~

・改正の方向性

・実務上のポイント

(5) その他の論点

(6) 今回の専門家会合で方向性が示されなかった事項について

3 連結納税の実務への影響~上記2のポイント踏まえて~

(1) 既に連結納税を採用している会社への影響

① 事務負担がどれくらい軽減されるのか?

② 税効果会計はどうなるのか?

③ 連結納税システムはどう変わるのか?

④ 連結納税から単体納税に移行する連結グループはどれくらいありそうか?

(2) まだ連結納税を採用していない企業への影響

① 新制度適用後は、連結納税を採用する企業は増えそうか?

② 連結納税を開始、加入、離脱するなら改正前か? 改正後か?

③ 準備期間に連結納税を開始して、その後、取りやめるのもよいのか?

4 おわりに

筆者紹介

足立 好幸

(あだち・よしゆき)

公認会計士・税理士
税理士法人トラスト

グループ通算制度・連結納税制度・組織再編税制を専門にグループ企業の税制最適化、企業グループ税制に係る業務を行う。

著書に、『令和6年10月改訂 プロフェッショナル グループ通算制度』『グループ通算制度への移行・採用の有利・不利とシミュレーション』『グループ法人税制Q&A』『M&A・組織再編のスキーム選択』(以上、清文社)、『グループ通算制度の実務Q&A』『グループ通算制度の税効果会計』『早わかり 連結納税制度の見直しQ&A-グループ通算制度の創設で何が変わる?』『ケーススタディでわかる連結納税申告書の作り方』『連結納税の組織再編税制ケーススタディ』『連結納税の清算課税ケーススタディ』『連結納税の欠損金Q&A』『連結納税導入プロジェクト』(以上、中央経済社)など多数。
 

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