公開日: 2026/05/28 (掲載号:No.670)
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書く論 【第5回】「なぜ枝葉がとれない」

筆者: 編集X

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※本連載は会員以外の方もご覧いただけます。

編集X

〈執筆:編集X〉

書く論

第5回

「なぜ枝葉がとれない」

法律の話は、とても細かく、奥が深い。実務家の方なら皆さん知っておられることです。

そして、その法律に関する書籍(原稿)を書くという場合、どこまで解説するかが大きな問題になります。

以前この連載の【第2回】では、具体的な読者の方を想定すれば、その線引きが明確になるとお伝えしました。

今回はこのお話をもう少し掘り下げてみましょう。

もし具体的な読者の方が想定でき、そのレベル感を把握できたとしても、やっぱり指(筆)が動かない(動きが鈍ってしまう)ケースがあります。

大変恐縮ながら、それはその著者の方が、これから書こうとする内容に関し、実は精通していないおそれがあります。

若い編集者や若い著者の方が、「従前の実務書は分かりづらい!」と声を上げ、何らかのテーマについて、基本的な内容のみ、一般の方に広く、分かりやすく解説する本を世に出したいというご意見をよく見聞します。

その後、「この人に届けたい」という具体的な読者の方を想定できたとしても、結局、詳しく書きすぎてしまい、想定読者の心に響かないものになることが意外と多いのです。

冒頭申し上げた通り、法律の話、税法の話は、細かく深く、一般の方向けに分かりやすく解説しようとすればするほど、法律上の正確な表現から乖離し、さらに、法律全体のうち解説できない部分が増えます。

そしてそれは、読者に誤った解釈を与えるリスクが増えるという見方もできます。

勢いよく船出した(企画した)若い編集者や若い著者の方は、ある時このようなリスクに気づき、
「この表記は正確ではない」
「この部分が載っていない」
読者からそういう指摘を受けるのではないかと、不安になります。

このような不安から、本来であれば想定読者が知る必要のない部分まで解説してしまい、「説明が不足しているのでは」と補足として大量の注書きを載せ、税法では頻出の「等」を必要のない箇所にまで付けてしまう(※)。さらに税務図書の場合、サービス精神から(または出版社側の要請で)細かい税制改正事項を注書き等で各所に書き加えることで、いたずらに書籍全体のレベルを上げてしまう。

(※) 税法上の「等」や括弧書きは、削除すると語彙の意味ごと変えてしまうものもあるので、慎重に判断する必要があります。

編集者側にその不安を解消できるような(もろもろ決断できるような)知見があればよいのですが、実際のところ手練れの編集者でなければなかなか難しい。

結果として情報過多、ページ数過多、価格過多、様々な面から、想定していた読者に届かない書籍が出来上がってしまうのです。

「この読者層には、このような表記で、ここまで伝えれば大丈夫。」

そういう確たる自信があれば、このような揺らぎは起こらないのですが、先ほどお伝えした通り、『これから書こうとする内容に真の意味で精通していない』と、そのテーマの根幹をつかんでいない(枝葉がどこか分からない)ことから、自信が揺らぎがちなのです。

もしそのような状況に陥っているとお感じになられたら、一度、書こうとするテーマをより深く理解することに取り組まれると、判断が容易になるかもしれません。

編集Xも過去、同じような苦い経験をしてきて、

『基本的な内容ほど、「どれだけ書かないか」という判断が各所で試されるので、書くのが難しい』

という認識を持っています(高度な専門書であれば、情報を漏れなく整備することだけに集中できるので(もちろん後述のような工夫は必要)、意外と迷わないのです)。

編集Xが尊敬する先生は、執筆される著作ごとに明確な読者レベルを設定し、揺るぎなく「この読者層には、このような表記で、ここまで伝えれば大丈夫」を長年決断されています。「枝葉末節は書かない」そのスタンスは、現在もぶれることがありません。「決断する勇気は確かな経験と知識に裏打ちされたものである」と、勉強させていただきました。

ちなみに、若い編集者や若い著者の方が、基本的かつ分かりやすい書籍が作れないというわけではありません。このようなハードルをしっかり越え、感性を存分に発揮し、成果を上げているものもたくさんあります。

最後に、『分かりやすい』=『基本的な内容』とは限らないという点についてお伝えしておきます。

高度な専門書であっても、そのレベル感の想定読者にとって理解しやすいものであれば、それは「分かりやすい本」といえます。それには、目次の構成や解説の順序、見出しの付け方、図表の工夫と配置、本文と図表の連動性、事例の追加、文字の大きさ、書体、色、様々な要素を工夫することで、目標に近づくことができます(言わずもがな、編集者の領域(責任)も大きいです)。

もちろんその場合であっても、『これから書こうとする内容に真の意味で精通していない』と実現が難しい(法律の条文をそのまま文章にする傾向があります)。

文字のしっかり詰まった、相当なページ数の高度な専門書でも、明確な決断と工夫を凝らした書籍は、『分かりやすい本』(いわば名著)として、読者の方にしっかり手に取っていただけるのです。

(注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)>

(つづく)

「書く論」は、不定期の掲載となります。

※本連載は会員以外の方もご覧いただけます。

編集X

〈執筆:編集X〉

書く論

第5回

「なぜ枝葉がとれない」

法律の話は、とても細かく、奥が深い。実務家の方なら皆さん知っておられることです。

そして、その法律に関する書籍(原稿)を書くという場合、どこまで解説するかが大きな問題になります。

以前この連載の【第2回】では、具体的な読者の方を想定すれば、その線引きが明確になるとお伝えしました。

今回はこのお話をもう少し掘り下げてみましょう。

もし具体的な読者の方が想定でき、そのレベル感を把握できたとしても、やっぱり指(筆)が動かない(動きが鈍ってしまう)ケースがあります。

大変恐縮ながら、それはその著者の方が、これから書こうとする内容に関し、実は精通していないおそれがあります。

若い編集者や若い著者の方が、「従前の実務書は分かりづらい!」と声を上げ、何らかのテーマについて、基本的な内容のみ、一般の方に広く、分かりやすく解説する本を世に出したいというご意見をよく見聞します。

その後、「この人に届けたい」という具体的な読者の方を想定できたとしても、結局、詳しく書きすぎてしまい、想定読者の心に響かないものになることが意外と多いのです。

冒頭申し上げた通り、法律の話、税法の話は、細かく深く、一般の方向けに分かりやすく解説しようとすればするほど、法律上の正確な表現から乖離し、さらに、法律全体のうち解説できない部分が増えます。

そしてそれは、読者に誤った解釈を与えるリスクが増えるという見方もできます。

勢いよく船出した(企画した)若い編集者や若い著者の方は、ある時このようなリスクに気づき、
「この表記は正確ではない」
「この部分が載っていない」
読者からそういう指摘を受けるのではないかと、不安になります。

このような不安から、本来であれば想定読者が知る必要のない部分まで解説してしまい、「説明が不足しているのでは」と補足として大量の注書きを載せ、税法では頻出の「等」を必要のない箇所にまで付けてしまう(※)。さらに税務図書の場合、サービス精神から(または出版社側の要請で)細かい税制改正事項を注書き等で各所に書き加えることで、いたずらに書籍全体のレベルを上げてしまう。

(※) 税法上の「等」や括弧書きは、削除すると語彙の意味ごと変えてしまうものもあるので、慎重に判断する必要があります。

編集者側にその不安を解消できるような(もろもろ決断できるような)知見があればよいのですが、実際のところ手練れの編集者でなければなかなか難しい。

結果として情報過多、ページ数過多、価格過多、様々な面から、想定していた読者に届かない書籍が出来上がってしまうのです。

「この読者層には、このような表記で、ここまで伝えれば大丈夫。」

そういう確たる自信があれば、このような揺らぎは起こらないのですが、先ほどお伝えした通り、『これから書こうとする内容に真の意味で精通していない』と、そのテーマの根幹をつかんでいない(枝葉がどこか分からない)ことから、自信が揺らぎがちなのです。

もしそのような状況に陥っているとお感じになられたら、一度、書こうとするテーマをより深く理解することに取り組まれると、判断が容易になるかもしれません。

編集Xも過去、同じような苦い経験をしてきて、

『基本的な内容ほど、「どれだけ書かないか」という判断が各所で試されるので、書くのが難しい』

という認識を持っています(高度な専門書であれば、情報を漏れなく整備することだけに集中できるので(もちろん後述のような工夫は必要)、意外と迷わないのです)。

編集Xが尊敬する先生は、執筆される著作ごとに明確な読者レベルを設定し、揺るぎなく「この読者層には、このような表記で、ここまで伝えれば大丈夫」を長年決断されています。「枝葉末節は書かない」そのスタンスは、現在もぶれることがありません。「決断する勇気は確かな経験と知識に裏打ちされたものである」と、勉強させていただきました。

ちなみに、若い編集者や若い著者の方が、基本的かつ分かりやすい書籍が作れないというわけではありません。このようなハードルをしっかり越え、感性を存分に発揮し、成果を上げているものもたくさんあります。

最後に、『分かりやすい』=『基本的な内容』とは限らないという点についてお伝えしておきます。

高度な専門書であっても、そのレベル感の想定読者にとって理解しやすいものであれば、それは「分かりやすい本」といえます。それには、目次の構成や解説の順序、見出しの付け方、図表の工夫と配置、本文と図表の連動性、事例の追加、文字の大きさ、書体、色、様々な要素を工夫することで、目標に近づくことができます(言わずもがな、編集者の領域(責任)も大きいです)。

もちろんその場合であっても、『これから書こうとする内容に真の意味で精通していない』と実現が難しい(法律の条文をそのまま文章にする傾向があります)。

文字のしっかり詰まった、相当なページ数の高度な専門書でも、明確な決断と工夫を凝らした書籍は、『分かりやすい本』(いわば名著)として、読者の方にしっかり手に取っていただけるのです。

(注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)>

(つづく)

「書く論」は、不定期の掲載となります。

連載目次

書く論

筆者紹介

編集X

(へんしゅう・えっくす)

実務書の編集業務に携わって約30年。
老眼歴長め。

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