公開日: 2018/06/05
文字サイズ

《速報解説》 改訂コーポレートガバナンス・コードが公表される~パブコメを受けESG要素への言及も~

筆者: 阿部 光成

《速報解説》

改訂コーポレートガバナンス・コードが公表される

~パブコメを受けESG要素への言及も~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

平成30年6月1日、株式会社東京証券取引所は、改訂コーポレートガバナンス・コードを公表し、また、金融庁は、「投資家と企業の対話ガイドライン」を公表した。

これにより、平成30年3月26日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。

【参考】
改訂コーポレートガバナンス・コードの公表」(東京証券取引所ホームページ)
「投資家と企業の対話ガイドライン」の確定について」(金融庁ホームページ)

これは、平成30年3月の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の提言を受けたものである。

「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリック・コメントの結果について」(以下「コメントに対する考え方」という)と「投資家と企業の対話ガイドライン案に対するご意見の概要及びそれに対する回答」も公表されているので、コーポレートガバナンス・コード及び「投資家と企業の対話ガイドライン」の理解に資するものと思われる。

パブリック・コメントにおいて、「ESGに関する対話が進む中、企業のESG要素に関する『情報開示』についてコードに盛り込むべき」との意見が複数寄せられたことを受け、本年3月30日公表の制度要綱で示したコード改訂案に加えて、コードの第3章「考え方」において、「非財務情報」にいわゆるESG要素に関する情報が含まれることを明確化している(「コメントに対する考え方」(番号295~303))。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ コーポレートガバナンス・コードの改訂

主に次の事項が改訂されている。

政策保有株式(原則1-4、補充原則1-4①、1-4②)

〈主な内容〉

① 政策保有株式の縮減に関する方針・考え方などを開示すべき。

② 保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべき。

企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮(原則2-6)

〈主な内容〉

上場会社は、企業年金が運用の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべき。

考え方 (基本原則3)

〈主な内容〉

上場会社による情報開示は、計表等については、様式・作成要領などが詳細に定められており比較可能性に優れている一方で、会社の財政状態、経営戦略、リスク、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項(いわゆるESG要素)などについて説明を行ういわゆる非財務情報を巡っては、ひな型的な記述や具体性を欠く記述となっており付加価値に乏しい場合が少なくないとの指摘もある。

取締役会は、こうした情報を含め、開示・提供される情報が可能な限り利用者にとって有益な記載となるよう積極的に関与を行う必要がある。

情報開示の充実 (原則3-1)

〈主な内容〉

① 取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続を開示

② 取締役会が上記①を踏まえて経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明を開示

取締役会の役割・責務(1) (原則4-1、補充原則4-1③)

〈主な内容〉

取締役会は、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべき。

取締役会の役割・責務(2) (原則4-2、補充原則4-2①)

〈主な内容〉

取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべき。

取締役会の役割・責務(3) (原則4-3、補充原則4-3②、4-3③)

〈主な内容〉

① 取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべき。

② 取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべき。

独立社外取締役の有効な活用 (原則4-8)

〈主な内容〉

業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべき。

取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件 (原則4-11)

〈主な内容〉

① 取締役会は、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべき。

② 監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべき。

経営戦略や経営計画の策定・公表 (原則5-2)

〈主な内容〉

① 経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すべき。

② 事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべき。

「コメントに対する考え方」(番号3536214215)では、「資本コスト」は、一般的には、自社の事業リスクなどを適切に反映した資金調達に伴うコストであり、資金の提供者が期待する収益率と考えられ、適用の場面に応じて株主資本コストやWACC(加重平均資本コスト)が用いられることが多いものと考えられると記載されている。

また、原則5-2において、資本コストの数値自体の開示は求められていないが、「投資家と企業の対話ガイドライン」1-2において「目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか」との点が示されていることも踏まえ、同原則が求める「収益力・資本効率等に関する目標を提示」する中で、投資家に対して、自社の資本コストについての考え方や経営における活用状況などを分かりやすく説明することが求められるものと考えると記載されている。

 

Ⅲ 投資家と企業の対話ガイドライン

「投資家と企業の対話ガイドライン」は、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードが求める持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた機関投資家と企業の対話において、重点的に議論することが期待される事項を取りまとめたものであり、両コードの附属文書として位置付けられるものである。

次の5つの事項が述べられている。

 経営環境の変化に対応した経営判断(経営陣が、自社の事業のリスクなどを適切に反映した資本コストを的確に把握しているかなど)

 投資戦略・財務管理の方針(経営戦略や投資戦略を踏まえ、資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定・運用されているかなど)

 CEOの選解任・取締役会の機能発揮等(CEOの選解任・育成、経営陣の報酬決定、独立社外取締役の選任・機能発揮など)

 政策保有株式(政策保有株主との関係など)

 アセットオーナー(自社の企業年金が運用の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、人材の計画的な登用・配置などを行っているかなど)

 

Ⅳ 適用時期等

コーポレートガバナンス・コードの改訂に係る有価証券上場規程の一部改正を行い、本年6月1日から施行する。

上場会社は、改訂後のコードの内容を踏まえたコーポレート・ガバナンスに関する報告書を、準備ができ次第速やかに、遅くとも本年12月末日までに提出するものとする。

「コメントに対する考え方」(番号20)では、改訂されたコーポレートガバナンス・コードの原則について、実施する意思があっても、本年12月末日までに実施することが難しい場合にあっては、「コードの各原則を実施しない理由」の説明において、今後の取組み予定や実施時期の目途を記載することが考えられると記載されている。

また、「コメントに対する考え方」(番号24)では、利用者への配慮の観点から、コーポレート・ガバナンスに関する報告書更新の際には、新旧いずれのコードに基づく記載であるかを明記する等の対応が上場会社においてなされることが期待されると記載されている。

(了)

《速報解説》

改訂コーポレートガバナンス・コードが公表される

~パブコメを受けESG要素への言及も~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

平成30年6月1日、株式会社東京証券取引所は、改訂コーポレートガバナンス・コードを公表し、また、金融庁は、「投資家と企業の対話ガイドライン」を公表した。

これにより、平成30年3月26日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。

【参考】
改訂コーポレートガバナンス・コードの公表」(東京証券取引所ホームページ)
「投資家と企業の対話ガイドライン」の確定について」(金融庁ホームページ)

これは、平成30年3月の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の提言を受けたものである。

「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリック・コメントの結果について」(以下「コメントに対する考え方」という)と「投資家と企業の対話ガイドライン案に対するご意見の概要及びそれに対する回答」も公表されているので、コーポレートガバナンス・コード及び「投資家と企業の対話ガイドライン」の理解に資するものと思われる。

パブリック・コメントにおいて、「ESGに関する対話が進む中、企業のESG要素に関する『情報開示』についてコードに盛り込むべき」との意見が複数寄せられたことを受け、本年3月30日公表の制度要綱で示したコード改訂案に加えて、コードの第3章「考え方」において、「非財務情報」にいわゆるESG要素に関する情報が含まれることを明確化している(「コメントに対する考え方」(番号295~303))。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ コーポレートガバナンス・コードの改訂

主に次の事項が改訂されている。

政策保有株式(原則1-4、補充原則1-4①、1-4②)

〈主な内容〉

① 政策保有株式の縮減に関する方針・考え方などを開示すべき。

② 保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべき。

企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮(原則2-6)

〈主な内容〉

上場会社は、企業年金が運用の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべき。

考え方 (基本原則3)

〈主な内容〉

上場会社による情報開示は、計表等については、様式・作成要領などが詳細に定められており比較可能性に優れている一方で、会社の財政状態、経営戦略、リスク、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項(いわゆるESG要素)などについて説明を行ういわゆる非財務情報を巡っては、ひな型的な記述や具体性を欠く記述となっており付加価値に乏しい場合が少なくないとの指摘もある。

取締役会は、こうした情報を含め、開示・提供される情報が可能な限り利用者にとって有益な記載となるよう積極的に関与を行う必要がある。

情報開示の充実 (原則3-1)

〈主な内容〉

① 取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続を開示

② 取締役会が上記①を踏まえて経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明を開示

取締役会の役割・責務(1) (原則4-1、補充原則4-1③)

〈主な内容〉

取締役会は、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべき。

取締役会の役割・責務(2) (原則4-2、補充原則4-2①)

〈主な内容〉

取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべき。

取締役会の役割・責務(3) (原則4-3、補充原則4-3②、4-3③)

〈主な内容〉

① 取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべき。

② 取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべき。

独立社外取締役の有効な活用 (原則4-8)

〈主な内容〉

業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべき。

取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件 (原則4-11)

〈主な内容〉

① 取締役会は、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべき。

② 監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべき。

経営戦略や経営計画の策定・公表 (原則5-2)

〈主な内容〉

① 経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すべき。

② 事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべき。

「コメントに対する考え方」(番号3536214215)では、「資本コスト」は、一般的には、自社の事業リスクなどを適切に反映した資金調達に伴うコストであり、資金の提供者が期待する収益率と考えられ、適用の場面に応じて株主資本コストやWACC(加重平均資本コスト)が用いられることが多いものと考えられると記載されている。

また、原則5-2において、資本コストの数値自体の開示は求められていないが、「投資家と企業の対話ガイドライン」1-2において「目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか」との点が示されていることも踏まえ、同原則が求める「収益力・資本効率等に関する目標を提示」する中で、投資家に対して、自社の資本コストについての考え方や経営における活用状況などを分かりやすく説明することが求められるものと考えると記載されている。

 

Ⅲ 投資家と企業の対話ガイドライン

「投資家と企業の対話ガイドライン」は、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードが求める持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた機関投資家と企業の対話において、重点的に議論することが期待される事項を取りまとめたものであり、両コードの附属文書として位置付けられるものである。

次の5つの事項が述べられている。

 経営環境の変化に対応した経営判断(経営陣が、自社の事業のリスクなどを適切に反映した資本コストを的確に把握しているかなど)

 投資戦略・財務管理の方針(経営戦略や投資戦略を踏まえ、資本コストを意識した資本の構成や手元資金の活用を含めた財務管理の方針が適切に策定・運用されているかなど)

 CEOの選解任・取締役会の機能発揮等(CEOの選解任・育成、経営陣の報酬決定、独立社外取締役の選任・機能発揮など)

 政策保有株式(政策保有株主との関係など)

 アセットオーナー(自社の企業年金が運用の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、人材の計画的な登用・配置などを行っているかなど)

 

Ⅳ 適用時期等

コーポレートガバナンス・コードの改訂に係る有価証券上場規程の一部改正を行い、本年6月1日から施行する。

上場会社は、改訂後のコードの内容を踏まえたコーポレート・ガバナンスに関する報告書を、準備ができ次第速やかに、遅くとも本年12月末日までに提出するものとする。

「コメントに対する考え方」(番号20)では、改訂されたコーポレートガバナンス・コードの原則について、実施する意思があっても、本年12月末日までに実施することが難しい場合にあっては、「コードの各原則を実施しない理由」の説明において、今後の取組み予定や実施時期の目途を記載することが考えられると記載されている。

また、「コメントに対する考え方」(番号24)では、利用者への配慮の観点から、コーポレート・ガバナンスに関する報告書更新の際には、新旧いずれのコードに基づく記載であるかを明記する等の対応が上場会社においてなされることが期待されると記載されている。

(了)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

#