公開日: 2014/09/10
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《速報解説》 「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」等の公開草案について~品質の高いエクイティ・ファイナンスを支援・促進するための原理・原則を取りまとめ。パブコメ後10月に正式決定~

筆者: 阿部 光成

《速報解説》

「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」等の公開草案について

~品質の高いエクイティ・ファイナンスを支援・促進するための原理・原則を取りまとめ。パブコメ後10月に正式決定~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

平成26年8月26日付で、日本取引所自主規制法人から下記の公開草案が公表され、また、平成26年9月3日付けで、東京証券取引所からの公開草案が公表された。それぞれの公開草案は意見募集がなされている。

 「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」(日本取引所自主規制法人:パブリック・コメント締切日9月25日)

 「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」(東京証券取引所:パブリック・コメント締切日10月3日)

「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」は、プリンシプル・ベースのアプローチの考え方を基礎にして、尊重されるべき原理・原則(プリンシプル)を「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」(案)として取りまとめている。
なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」

1 基本的な認識

現状において、次の問題意識がある。

 エクイティ・ファイナンスは、新株発行等によって企業の株主資本の増加をもたらす資金調達手法である。

 最近は株主や投資者の利益を損ないかねないエクイティ・ファイナンスの事例が散見される。

 明確なルールの存在は、規制の透明性や予見可能性を高めるが、一方で、形式的なルール遵守が実質的には不公正な取引を正当化してしまう問題などが見られる。

そこで、ルール・ベースのアプローチに加え、プリンシプル・ベースのアプローチを組み合わせることが有効であると考えられた。

「プリンシプル・ベースのアプローチ」とは、上場会社や市場関係者が、尊重すべき重要な規範や行動原則(プリンシプル)を確認し、互いに共有したうえで、各自がそのプリンシプルに沿って行動することを通じて、市場全体の質的向上の実現を目指す取組みである(「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」2ページ)。

2 「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」(案)

エクイティ・ファイナンスのプリンシプルとして、次の事項が述べられている。
より詳細な部分の記述に関しては「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」(案)をお読みいただきたい。

第1 企業価値の向上に資する

第2 既存株主の利益を不当に損なわない

第3 市場の公正性・信頼性への疑いを生じさせない

第4 適時・適切な情報開示により透明性を確保する

 

Ⅲ 「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」

ライツ・オファリングについては、業績が悪く公募や第三者割当等での資本調達が困難な会社が、最後に残された手段として利用しているとの懸念があるなど、問題が指摘されている。

【改正案】

新株予約権証券(ノンコミットメント型ライツ・オファリングに係るものに限る)の上場については、既存の上場基準に加え、次の(1)及び(2)のいずれの基準にも適合することを要するものとする。

(1) 増資の合理性に係る評価手続きの基準

・次の①又は②のいずれかの手続きを経て発行されるものであること。

① 証券会社(取引参加者に限る)による増資の合理性についての審査

② 株主総会決議などによる株主の意思確認

(2) 経営成績及び財政状態に係る基準

・新株予約権証券を発行する上場会社の経営成績及び財政状態が、次の①又は②のいずれにも該当していないこと。

① 最近2年間において経常利益の額が正である事業年度がないこと

② 直前事業年度又は直前四半期会計期間の末日において債務超過であること

 

Ⅳ 適用時期

「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」は、平成26年10月を目途に正式決定する予定である。

また「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」は、平成26年10月から実施する予定である。ただし、「新株予約権証券の上場日は、行使期間の初日以降の日とします。」との規定については、会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)の施行の日からの実施が予定されている。

(了)

《速報解説》

「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」等の公開草案について

~品質の高いエクイティ・ファイナンスを支援・促進するための原理・原則を取りまとめ。パブコメ後10月に正式決定~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

平成26年8月26日付で、日本取引所自主規制法人から下記の公開草案が公表され、また、平成26年9月3日付けで、東京証券取引所からの公開草案が公表された。それぞれの公開草案は意見募集がなされている。

 「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」(日本取引所自主規制法人:パブリック・コメント締切日9月25日)

 「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」(東京証券取引所:パブリック・コメント締切日10月3日)

「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」は、プリンシプル・ベースのアプローチの考え方を基礎にして、尊重されるべき原理・原則(プリンシプル)を「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」(案)として取りまとめている。
なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」

1 基本的な認識

現状において、次の問題意識がある。

 エクイティ・ファイナンスは、新株発行等によって企業の株主資本の増加をもたらす資金調達手法である。

 最近は株主や投資者の利益を損ないかねないエクイティ・ファイナンスの事例が散見される。

 明確なルールの存在は、規制の透明性や予見可能性を高めるが、一方で、形式的なルール遵守が実質的には不公正な取引を正当化してしまう問題などが見られる。

そこで、ルール・ベースのアプローチに加え、プリンシプル・ベースのアプローチを組み合わせることが有効であると考えられた。

「プリンシプル・ベースのアプローチ」とは、上場会社や市場関係者が、尊重すべき重要な規範や行動原則(プリンシプル)を確認し、互いに共有したうえで、各自がそのプリンシプルに沿って行動することを通じて、市場全体の質的向上の実現を目指す取組みである(「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」2ページ)。

2 「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」(案)

エクイティ・ファイナンスのプリンシプルとして、次の事項が述べられている。
より詳細な部分の記述に関しては「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」(案)をお読みいただきたい。

第1 企業価値の向上に資する

第2 既存株主の利益を不当に損なわない

第3 市場の公正性・信頼性への疑いを生じさせない

第4 適時・適切な情報開示により透明性を確保する

 

Ⅲ 「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」

ライツ・オファリングについては、業績が悪く公募や第三者割当等での資本調達が困難な会社が、最後に残された手段として利用しているとの懸念があるなど、問題が指摘されている。

【改正案】

新株予約権証券(ノンコミットメント型ライツ・オファリングに係るものに限る)の上場については、既存の上場基準に加え、次の(1)及び(2)のいずれの基準にも適合することを要するものとする。

(1) 増資の合理性に係る評価手続きの基準

・次の①又は②のいずれかの手続きを経て発行されるものであること。

① 証券会社(取引参加者に限る)による増資の合理性についての審査

② 株主総会決議などによる株主の意思確認

(2) 経営成績及び財政状態に係る基準

・新株予約権証券を発行する上場会社の経営成績及び財政状態が、次の①又は②のいずれにも該当していないこと。

① 最近2年間において経常利益の額が正である事業年度がないこと

② 直前事業年度又は直前四半期会計期間の末日において債務超過であること

 

Ⅳ 適用時期

「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」は、平成26年10月を目途に正式決定する予定である。

また「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」は、平成26年10月から実施する予定である。ただし、「新株予約権証券の上場日は、行使期間の初日以降の日とします。」との規定については、会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)の施行の日からの実施が予定されている。

(了)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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