17 ライセンスの供与
(1) ライセンスの供与
ライセンスとは、企業の知的財産に対する顧客の権利を定めるものである(指針61)。例えば、ソフトウェア、フランチャイズ、動画、音楽、特許権、商標権、著作権などがある。
① ライセンスの供与は他の財又はサービスと別個のものであるかの判断
契約にライセンスの供与が含まれる場合、契約に含まれる他の財又はサービスと別個のものである場合、会計処理の単位が異なるため、まず、ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものであるかどうかを判断する。
そして、ライセンスの供与が、契約における他の財又はサービスと別個のものである場合、ライセンス部分とその他の財又サービス部分を別々の履行義務として会計処理する。また、別個でない場合、1つの履行義務として会計処理する。
② ライセンスを供与する約束が別個のものでない場合の会計処理
上記①の結果、ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものでない場合には、ライセンスを供与する約束と当該他の財又はサービスを移転する約束の両方を一括して単一の履行義務として処理し、【STEP5】に従い収益を認識する(適用指針61)。
③ ライセンスを供与する約束が別個のものである場合の会計処理(総論)
上記①の結果、ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものである場合には、ライセンスを供与する約束と他の財又はサービスを移転する約束は、別々の履行義務であるため、取引価格をそれぞれに配分し、別々に収益を認識する。
基本的な会計処理は、上記のとおりだが、ライセンスを供与する約束の収益認識については、以下④の特有の論点がある。
④ ライセンスを供与する約束の会計処理
(ⅰ) アクセスする権利か使用する権利かの判定
ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものであり、ライセンスを供与する約束が独立した履行義務である場合には、ライセンスを顧客に供与する際の企業の約束の性質が、顧客に以下のいずれを提供するものかを判定する(適用指針62)。
(ア) ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利
(イ) ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利
具体的には、以下のように判定する。
ライセンスを供与する際の企業の約束の性質は、以下の要件のすべてに該当する場合には、顧客が権利を有している知的財産の形態、機能性又は価値が継続的に変化していて、企業の知的財産にアクセスする権利を提供するものとなる(適用指針63)。いずれかに該当しない場合は、企業の知的財産を使用する権利となる(適用指針64)。
▷ライセンスにより顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことが、契約により定められている又は顧客により合理的に期待されていること
(※) 以下のいずれかに該当する場合には、企業の活動は、顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える(適用指針65)。
■企業の活動が、知的財産の形態(例えば、デザイン又はコンテンツ)又は機能性(例えば、機能を実行する能力)を著しく変化させると見込まれること
■顧客が知的財産からの便益を享受する能力が、企業の活動により得られること又は企業の活動に依存していること(例えば、ブランドからの便益は、知的財産の価値を補強する又は維持する企業の継続的活動から得られるかあるいは当該活動に依存していることが多い)
▷顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動により、顧客が直接的に影響を受けること
▷顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動の結果として、企業の活動が生じたとしても、財又はサービスが顧客に移転しないこと
なお、ライセンスを供与する際の企業の約束の性質を判定するにあたっては、以下の要因は考慮しない(適用指針66、148)。
- 時期、地域又は用途の制限
- 企業が知的財産に対する有効な特許を有しており、当該特許の不正使用を防止するために、企業が提供する保証
(ⅱ) ライセンスを供与する約束の会計処理
上記の(ⅰ)の判定の結果、アクセスする権利か使用する権利かにより、以下のように会計処理する(適用指針62、147)。
◆ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利
⇒一定の期間にわたり充足される履行義務として収益認識する。
◆ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利
⇒このような知的財産はライセンスが顧客に供与される時点で形態と機能性の観点で存在していて、その時点で顧客がライセンスの使用を指図し、当該ライセンスからの残りの便益のほとんどすべてを享受することができる。そのため、一時点で充足される履行義務とし、顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できるようになった一時点で収益を認識する。
(※) 顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できる期間の開始前には収益を認識しない(顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できるようになった時点で収益を認識する)。
例えば、ソフトウェアの使用に必要なコードを顧客に提供する前にソフトウェアのライセンス期間が開始する場合、コードを提供する前には収益を認識しない。
※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。
【売上高又は使用量に基づくロイヤルティ】
知的財産のライセンス供与に対して受け取る売上高又は使用量に基づくロイヤルティが知的財産のライセンスのみに関連している場合、又は当該ロイヤルティにおいて知的財産のライセンスが支配的な項目である場合(※)には、変動対価の規定(【STEP3】参照、基準54、55)を適用せず、以下のいずれか遅い方で、当該売上高又は使用量に基づくロイヤルティについて収益を認識する(適用指針67)。
・知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上する時又は顧客が知的財産のライセンスを使用する時
・売上高又は使用量に基づくロイヤルティの一部又は全部が配分されている履行義務が充足(あるいは部分的に充足)される時
上記の内容は、売上高又は使用量に基づくロイヤルティにのみ適用されるものであり、他の種類の変動対価に適用することはできない(適用指針151)。
なお、売上高又は使用量に基づくロイヤルティが知的財産のライセンスのみに関連していない場合、又は当該ロイヤルティにおいて知的財産のライセンスが支配的な項目でない場合には、変動対価の規定(【STEP3】参照、基準50~55)を用いて会計処理する(適用指針68)。
(※) 知的財産のライセンスが支配的な項目である場合とは、例えば、ロイヤルティが関連する財又はサービスの中で、ライセンスに著しく大きな価値を顧客が見出すことを、企業が合理的に予想できる場合である(適用指針152)。
【設例①】
当社(ソフトウェア開発業者)は、X社とソフトウェア・ライセンスの移転、インストール・サービスの他に、ソフトウェア・アップデート及びオンラインや電話によるテクニカル・サポートを2年間提供する契約を締結した。
当社は、ソフトウェア・ライセンス、インストール・サービス及びテクニカル・サポートを独立して提供している。インストール・サービスには、利用者の使用目的(例えば、販売、在庫管理、情報技術)に応じてウェブ画面を変更することも含まれる。また、ソフトウェア・アップデート以外にソフトウェアの機能を変化させる活動は契約に定められていないし、取引慣行上もない。なお、ソフトウェアは、アップデートやテクニカル・サポートがなくても機能する。
当社が提供するインストール・サービスは、同業他社も行っているものであり、ソフトウェアを著しく修正するものではない。
そして、【STEP2】に従い、以下の履行義務を識別した。
・ソフトウェア・ライセンス
・インストール・サービス
・ソフトウェア・アップデート
・テクニカル・サポート
ソフトウェア・ライセンスの会計処理について検討する。
(1) 以下の(ⅰ)から(ⅲ)を考慮して、ソフトウェア・ライセンスを移転する約束の性質を評価した。
(ⅰ) ソフトウェア・アップデートを提供する約束は、X社への追加的な財又はサービスの移転を生じさせるものであるため、考慮の対象としない。
(ⅱ) ソフトウェア・アップデート及びテクニカル・サポートの他に、ライセンス期間中にソフトウェアの機能性を変化させる活動を行う契約上の義務も取引慣行もない。
(ⅲ) ソフトウェアはソフトウェア・アップデート及びテクニカル・サポートがなくても機能する。そのため、X社がソフトウェアの便益を享受する能力は、当社の継続的な活動から得られるものではなく、当社の活動に依存しない。
(2) 以上から、ソフトウェアは重要な単独の機能性を有していて、適用指針第63項の要件(アクセスする権利の要件)を満たさないと判断した。
(3) したがって、ライセンスを移転する当社の約束の性質は、「ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利」であるため、当該ライセンスについて、一時点で収益を認識する。
【設例②】
当社(フランチャイザー)は、A社と20年間の当社の商号の使用と当社の製品を販売する権利を提供するフランチャイズ・ライセンス契約を締結した。契約にはフランチャイズ店舗の運営に必要な設備を提供することも含まれている。
当社は、ライセンスの供与と交換に、A社の毎月の売上高の5%のロイヤルティを受け取る。設備の対価は設備の引渡時に支払われる。
当社は、フランチャイザーの取引慣行として、フランチャイズの評判を高めるため、顧客の嗜好分析、製品の改善、価格戦略、販促キャンペーン及び運営面の効率化の実施などの活動を行っている。
(1) 財又はサービスが別個のものであるかどうかの判定
財又はサービスが別個のものであるのかどうかを判定するために、A社に約束した財又はサービスを判断する。
(ⅰ) 当社は、顧客の嗜好分析などの活動は、ライセンスを供与するという当社の約束の一部であるため、A社に財又はサービスを直接的に移転するものではない。そのため、契約にはライセンスを供与する約束及び設備を移転する約束の2つが含まれると判断した。
(ⅱ) A社はライセンスからの便益を、フランチャイズ開店前に引き渡される設備とともに享受することができ、設備はフランチャイズで使用するか又は廃棄における回収額ではない金額で売却することができる。そのため、A社はライセンス及び設備からの便益を、単独で又はA社が容易に利用できる他の資源と組み合わせて享受することができるため、基準第34項(1)の要件【性質の観点】を満たすと判断した。
(ⅲ) 当社は、ライセンスと設備を結合後のアウトプットに統合する重要なサービスを提供していない(ライセンスの対象となる知的財産は設備の構成部分ではなく、設備を著しく修正するものでもない)ため、ライセンスと設備は、結合後のアウトプットの元となるインプットではない。したがって、本契約は、A社への単一の約束ではない。
フランチャイズのライセンスを供与する約束又は設備を移転する約束を他方とは独立して履行することができるため、ライセンスの供与と設備の提供は、相互依存性及び相互関連性が高くない。
以上から基準第34項(2)の要件【契約の観点】を満たし、フランチャイズのライセンスを供与する約束と設備を提供する約束は区分して識別できると判断した。
(ⅳ) 以上から、ライセンスを供与する約束と設備を移転する約束は、それぞれ別個のものであり、契約には、以下の2つの履行義務があると判断した。
・フランチャイズのライセンスの供与
・設備の提供
(2) ライセンスの会計処理
(ⅰ) 以下のとおり、ライセンスを供与する自らの約束の性質を判定した。
報酬の一部がA社の売上高に基づくロイヤルティである(A社の売上高に影響される)ため、当社が自らの利益を最大化するように活動することをA社は期待し、A社と共通の経済的な利害がある。また、当社がフランチャイズの評判を高めるために、顧客の嗜好分析などの活動を行う取引慣行があるため、A社が権利を有している知的財産から便益を享受する能力は、実質的に当社の活動により得られるか又は当該活動に依存する。
このため、A社が権利を有している知的財産に著しく影響を与える活動を当社が行うことを、A社は合理的に期待していると判断した。
A社は、フランチャイズのライセンスにより、当社が行う活動から生じる様々な変化に対応することが求められるため、当社の活動の直接的な影響を受けると判断した。
A社は顧客の嗜好分析などの当社の活動からの便益を享受する可能性があるが、当社の活動が生じても、財又はサービスはA社に移転しない。
(ⅱ) 以上から、適用指針第63項の要件(アクセスする権利の要件)が満たされているため、当社の約束の性質は、ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利であり、一定の期間にわたり充足される履行義務であると判断した。
また、売上高に基づくロイヤルティ形式による対価はフランチャイズのライセンスに明確に関係するものであるため、適用指針第67項に従い、A社の売上高が生じるにつれて収益を認識する。
(注) 本設例では、設備に係る会計処理について、記載していない。
(2) ライセンスの供与(従来との相違点等)
① 従来との相違点
[収益認識基準等]
➤ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利の場合、一定の期間にわたり充足される履行義務として処理する。
➤ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利の場合、一時点で充足される履行義務として処理し、顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できるようになった時点で収益を認識する。
[従来]
➤ライセンスの供与に関して一般的な定めはない。
➤実務上は、ソフトウェア実務報告に従い、契約上の対価を適切に分解している場合もあると考えられる。
② 影響がある取引(例示)
- メディア・映像コンテンツのライセンス、フランチャイズ料、特許権の使用、独占販売権を与えるライセンス取引、医薬品業界の導出取引等が影響を受ける可能性がある。
③ 適用上の課題
- 契約にライセンスの供与が含まれる場合、アクセスする権利か、使用する権利かの判定のために業務プロセスの新規追加が必要となる可能性がある。
- 従来、一時点で収益を認識していたライセンスの供与が、収益認識基準等では一定の期間にわたり収益を認識した場合、収益認識の時期が異なるため、業績管理及び予算管理に影響が生じる可能性がある。この結果、人事評価にも影響する可能性がある。
④ 財務諸表への影響
- 従来、一時点で収益を認識していたライセンスの供与が、収益認識基準等では一定の期間にわたり収益を認識した場合、収益認識の時期が大きく異なる可能性がある。
「企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表」
〔凡例〕
・ASBJ・・・企業会計基準委員会
・IASB・・・国際会計基準審議会
・FASB・・・米国財務会計基準審議会
・基準・・・企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」
・適用指針・・・企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」
・収益認識基準等・・・企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」
・設例・・・企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」設例
・対応・・・企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」等に対するコメント 5.主なコメントの概要とその対応
・意見募集・・・「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」
・工事基準・・・企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」
・工事指針・・・企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」
・ソフトウェア実務報告・・・実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」
・リース基準・・・企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」
・遡及基準・・・企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。