19 有償支給取引
(1) 有償支給取引
有償支給取引とは、企業が対価と交換に原材料等(支給品)を支給先に譲渡し、支給先における加工後、支給先から支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含む)を購入する取引をいう(適用指針104)。
① 支給品を買い戻す義務の有無の判断
有償支給取引に係る会計処理にあたっては、企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かによって、会計処理が異なる。そのため、まず、企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かを判断する(適用指針104)。
② 企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合
有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合、企業は支給品の消滅を認識するが、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない(指針104)。
③ 企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合
有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合、企業は支給品の譲渡に係る収益を認識せず、当該支給品の消滅も認識しない。しかし、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができる。なお、この場合であっても、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない(適用指針104)。
【設例①】
当社(支給元)は、簿価7,000の部品(支給品)を9,000でA社(支給先)に販売した。その後、当社は加工後の製品YをA社から11,000で購入した。
なお、当社は、A社の加工後、製品を買い戻す義務はない。また、部品(支給品)の在庫リスクは、A社が負っていて、当社以外にも製品Yを販売している。
① A社への部品(支給品)の販売時
(※1) 買い戻し義務はないため、部品(支給品)の販売時に棚卸資産の消滅を認識する。
(※2) 収益を認識せず、負債を認識する。
② 製品Yの購入
(※3) 差額
③ 債権の回収及び債務の支払
【設例②】
当社(支給元)は、簿価7,000の部品(支給品)を9,000でA社(支給先)に販売した。その後、当社は加工後の製品YをA社から11,000で購入した。
当社は、部品(支給品)をA社に販売した時点で、法的な債権が生じ、また、A社に法的な債務が生じる(つまり、買い戻し義務がある)。
A社が部品(支給品)の使用を指図する能力や部品(支給品)から残りの便益のほとんどすべてを享受する能力は制限されているため、当社からA社の支配は移転していない。
① A社への部品(支給品)の販売時
(※) 買い戻し義務があるため、棚卸資産の消滅は認識できない。
② 製品Yの購入
(※) 差額
③ 債権の回収及び債務の支払
(2) 有償支給取引(従来との相違点等)
① 従来との相違点
[収益認識基準等]
➤買い戻し義務がない場合、支給品の消滅を認識するが、収益は認識しない。
➤買い戻し義務がある場合、支給品の消滅も収益も認識しない。ただし、個別財務諸表においては、支給品の消滅のみ認識することができる。
[従来]
➤一般的な定めはない。
② 影響がある取引(例示)
- 製造業等における有償支給取引に影響がある。
③ 適用上の課題
- 従来、有償支給時に収益を認識していた場合、収益認識基準等では、有償支給時に収益を認識できないため、収益の認識時期が異なる。そのため、業績管理及び予算管理に影響が生じる可能性がある。この結果、人事評価にも影響する可能性がある。
④ 財務諸表への影響
- 従来、有償支給時に収益を認識していた場合、収益認識基準等では、有償支給時に収益を認識できず、最終ユーザー等に販売するまで収益を認識できないため、収益の認識時期が異なる。