件すべての結果を表示
お知らせ
その他お知らせ
プロフェッションジャーナル No.512が公開されました!~今週のお薦め記事~
2023年3月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.512を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
税務
税務・会計
解説
解説一覧
谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第24回】「租税回避の否認と租税法律主義」-土地相互売買[岩瀬]事件・東京高判平成11年6月21日訟月47巻1号184頁-
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第24回】 「租税回避の否認と租税法律主義」 -土地相互売買[岩瀬]事件・東京高判平成11年6月21日訟月47巻1号184頁- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 本連載では、第1回の冒頭で述べたとおり、基本的には拙著『税法基本講義』(弘文堂。当時は第6版[2018年]、現在は第7版[2021年])における叙述の順に、税法に関する基本判例を取り上げ検討することにしているが、第20回以降ここ4回は租税回避に関する基本判例を取り上げて検討してきた。今回は、租税回避をめぐる基本的かつ重要な論点の1つであるその否認に関する明文の規定の要否(この問題については前掲拙著【72】参照)について、判例の立場を検討することにする。 上記の論点について、かつては、否認規定不要説の立場に立つ裁判例がみられた。例えば、大阪高判昭和39年9月24日訟月10巻11号1597頁は次のとおり判示していた(下線筆者。以下「昭和39年大阪高判」という)。 これはいわゆる実質主義ないし実質課税の原則に基づき否認規定不要説を説くものと解されるが(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第20回Ⅲ参照)、このような考え方は学説においても次のとおり説かれていた(田中二郎『租税法〔第3版〕』(有斐閣・1990年)89頁。下線筆者。なお、初版[1968年]では字句が若干異なる箇所があるが85頁参照)。 しかし、実質課税の原則は税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月)4頁で国税通則法における制度化の方針が示されたものの結局その制度化は見送られ(大蔵省主税局「国税通則法の制定について」税法学132号(1961年)27頁、28頁参照)、その後、税法の解釈適用においても租税法律主義を重視する傾向が強まってくるに伴って、実質課税の原則それ自体として議論されることは徐々に少なくなってきたが(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)215-216頁[初出・2015年]参照)、それとともに同原則に基づく否認規定不要説も影を潜めていった。 Ⅱ 租税法律主義による否認規定不要説の克服 さて、話を再び前記の昭和39年大阪高判に戻し、それ以降の裁判例の展開を概観しておこう。その展開は、次の見解(中川一郎編『税法学体系総論〔第6版〕』(三晃社・1974年)128-129頁[中川一郎執筆]。太字原文・下線筆者)において簡潔にまとめられているので、少し長くなるがその部分をそのまま引用しておくことにする。 この見解はまさに「達見」というべきものであり、特に上記引用の最後の下線部で説いたところは、20年近い年月を経て、下級審レベルではあるが、土地相互売買[岩瀬]事件・東京高判平成11年6月21日訟月47巻1号184頁(以下「岩瀬事件東京高判」という)によって実現されたといえよう。この判決は、次のとおり判示し(下線筆者)、租税法律主義を重視し否認規定不要説を克服し、否認規定必要説の立場を示したが、これが前記の論点に関する「一応の到達点」となったと考えられるのである(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第29回Ⅲ参照)。 なお、前記の見解において否認規定不要説の克服の先駆けとなった裁判例として引用されている東京高裁昭和47年4月25日判決の翌年に刊行された教科書の中で次の見解が示されたことも注目される(清永敬次『税法〔初版〕』[ミネルヴァ書房・1973年]49-50頁。下線筆者。なお、《》内は新版(全訂)(1990年)45頁での加筆部分である。また、若干の表記の修正はあるが新装版(2013年)では43頁参照)。 Ⅲ 租税法律主義による否認規定必要説の確立 1 私法上の法律構成による否認論 岩瀬事件東京高判は高裁判決であるが故に、これが示した否認規定必要説の立場は前記の論点に関する「一応の到達点」にとどまるといわざるを得ないが、同東京高判は別の観点からみると、否認規定必要説を確立したものといってもよいように思われる。その別の観点というのは、否認規定不要説と否認規定必要説との対立のいわば「間隙」を縫って1990年代に唱えられるようになった私法上の法律構成による否認論を否定することによって、後に最高裁が同否認論を含め広く事実認定による否認論に対して慎重ないし否定的な態度をとること(拙著『租税回避論』(清文社・2014年)210-215頁[初出・2011年]参照)に道筋を示した、というような観点である。 私法上の法律構成による否認論の主唱者によると、「租税回避行為の否認の方法を類型化すると、①租税法上の実質主義による否認、②私法上の法律構成による否認、③個別否認規定による否認の三つの類型に分けることができよう。」(今村隆『租税回避と濫用法理-租税回避の基礎的研究-』(大蔵財務協会・2015年)60頁[初出・1999年])とされるが、否認規定不要説と否認規定必要説は上記の「否認の三類型」(同56頁)のうち①を認めるか否かをめぐって対立してきたところ、私法上の法律構成による否認論は、その対立の射程外にある考え方として唱えられたものであり、その内容は次のとおりである(同57-58頁。下線筆者)。 要するに、私法上の法律構成による否認は、「私法上の事実認定あるいは契約解釈の方法によるもの」であり、「税法固有のもの」ではないので、そのための租税法律の明文の規定は必要ないと説かれたのである。上記の引用文中にいう「通説」は、次のとおり説いていた(今村・前掲書57頁脚注8では金子宏『租税法〔第7版〕』(弘文堂・1999年)130-131頁。下線筆者。なお、最新版(第24版・2021年)では148-149頁参照)。 この引用文の2つ目の下線部の前半(「・・・・・・に止まり」まで)で述べられている考え方は法的実質主義、後半で述べられている考え方は経済的実質主義と呼ばれることがあるが(前掲拙著『税法基本講義』【57】参照)、私法上の法律構成による否認論では、これは法的実質主義に属する考え方であり、「他の法分野におけると同様に、租税法においても」、地方税法343条2項(台帳課税主義)のような特段の規定がある場合は格別、そうでなければ「当然のこと」(今村・前掲書58頁)として許容されると説かれたのである。 ただ、私法上の法律構成による否認論の説くところを更に読み進めていくと、次のとおり説かれている(今村・前掲書100頁[初出・2000年]。下線筆者)。 この説示によれば、私法上の法律構成による否認論は、要件事実論を租税回避に係る課税要件事実の認定の場面に応用して、課税要件事実に係る真実の法律関係を主要事実(要件事実)として捉えた上で租税回避目的を、当事者がその目的で選択した法形式が真実の法律関係と異なることを強く推認させる重要な間接事実と捉える、租税回避事案における「契約の法的性質決定に当たっての裁判上のルール」(今村・前掲書98頁)であると解される。 このように主要事実の捉え方だけからすると、私法上の法律構成による否認論は、課税要件事実の認定基準とされる「実体」ないし「実質」を私法上の真実の法律関係とする法的実質主義の単なる言い換えにすぎず、特に問題のある考え方でないようにも思われる。しかし、法的実質主義では、私法上の法律関係が真実であるということは、それが仮想でないということを意味するにとどまる(べきである)。租税回避事案においては、仮装行為(前掲拙著『税法基本講義』【62】)の場合と異なり、租税回避目的に相応する真実の法律関係が形成される以上、租税回避目的を、その目的で形成された法律関係が仮装であること(法的実質主義からいえば、真実でないこと)の重要な間接事実とすることはできない。したがって、私法上の法律構成による否認論を法的実質主義の単なる言い換えとみることはできないであろう。 このように間接事実をも視野に入れ訴訟における事実認定に関する「間接事実から要件事実を推認する判断の構造」(伊藤滋夫『事実認定の基礎-裁判官による事実判断の構造-〔改訂版〕』(有斐閣・2020年)71頁)に照らしてみると、私法上の法律構成による否認論は、租税回避目的を、当事者の選択した法形式が真実の法律関係と異なることの重要な間接事実と捉える以上、裁判官が租税回避目的に対する一定の税法的評価を念頭に置きながら、これを訴訟における課税要件事実の認定(ここでは契約解釈)に反映させる考え方(租税回避目的混入論)をも含んでいると解される。 しかし、そのような税法的評価は、租税法律主義の下では、事実認定それ自体とは切り離して、課税要件法(の解釈によって定立された規範)への包摂(当てはめ)の際に行うべきものである(租税法律主義の下における事実認定と法的評価との峻別・遮断)。その点を曖昧にして包摂の際の税法的評価をいわば先取りして事実認定固有の問題として税法的評価に従って目的論的に行うような「事実認定」は、目的論的事実認定というべきものであり、事実認定における経済的実質主義と同じく、租税法律主義の下では、そのような事実認定を認める明文の規定がない限り、許容されない。 以上を要するに、私法上の法律構成による否認論は、要件事実論の観点からみれば、その主唱者が説く「否認の三類型」のうち「①租税法上の実質主義による否認」を認める否認規定不要説と実質的には同じ考え方に帰結する裁判上のルールというべきものであり、また、従来からの議論の枠組みをも踏まえて表現すれば、「訴訟法のレベルにおける法的実質主義の衣を着た経済的実質主義」といってもよかろう(以上の私見について詳しくは、前掲拙著『租税回避論』35-43頁[初出・2004年]、128-130頁[初出・2005年]、同『税法創造論』220-223頁[初出・2015年]、340-345頁[初出・2016年]、同『税法基本講義』【73】~【75】、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第8回、本連載第21回Ⅳ等参照。なお、私法上の法律構成による否認論の主唱者による「法的実質主義と経済的実質主義の区別」については、今村・前掲書105-107頁参照)。 2 岩瀬事件東京高判の意義 私法上の法律構成による否認論に対する以上の私見からすると、岩瀬事件東京高判は、前記1の冒頭で述べたように同否認論を否定した点で、高く評価されるべきものである。この点について、まず、岩瀬事件の原審・東京地判平成10年5月13日訟月47巻1号199頁の判断からみておくと、この判決は次のとおり判示した。 この判示が私法上の法律構成による否認論を採用したものであるかどうかについては議論のあるところであるが(今村・前掲書65-66頁[初出・2000年]、金子・前掲書131頁[前記1の引用文]、前掲拙著『租税回避論』128頁[初出・2005年]参照)、ともかく、本件取引をこれと異なり「交換」ではなく「売買」として性質決定した岩瀬事件東京高判については、現在では、私法上の法律構成による否認を認めなかった裁判例という理解が定着しているといってよく、筆者自身も次のとおり評価しているところである(拙稿「判批」中里実ほか編『租税判例百選〔第7版〕』(別冊ジュリスト253号・2021年)38頁、39頁)。 そうすると、岩瀬事件東京高判は、前記1の冒頭で述べたように、後に最高裁が私法上の法律構成による否認論を含め広く事実認定による否認論に対して慎重ないし否定的な態度をとることに道筋を示したという意味で、否認規定必要説の立場を確立したものといってもよかろう。 Ⅳ おわりに 租税回避の否認に関する明文の規定の要否について、かつては、実質主義の立場から否認規定不要説が説かれ、これを支持する裁判例もみられたが、租税法律主義が重視されるようになってきたのに伴って否認規定必要説を支持する傾向が裁判例でも強まってきたところ、その過程で両説の対立の「間隙」を縫って、実質的には経済的実質主義の系譜に属する私法上の法律構成による否認論が唱えられたものの、岩瀬事件東京高判は同否認論を否定し、広く事実認定による否認論に対する最高裁判例の慎重ないし否定的な態度に道筋を示したと考えるところである。 そのような最高裁判例の1つである住所国外移転[武富士]事件・最判平成23年2月18日訟月50巻3号864頁は次のとおり判示しているが(下線筆者)、これは否認規定必要説を前提とする判断を示したものと解される(須藤正彦裁判官の補足意見については第21回Ⅲ参照)。 最後に、租税法律主義を重視する筆者の立場から付言すると、最高裁が正面から否認規定必要説の立場を認める判断を示すことを強く望むものである。 (了)
所得税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
令和5年以後の国外居住親族に係る扶養控除等の適用ポイント 【第2回】「提出等要する確認書類の詳細と留意点」
令和5年以後の 国外居住親族に係る扶養控除等の適用ポイント 【第2回】 「提出等要する確認書類の詳細と留意点」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【第1回】で解説したとおり、国外居住親族について扶養控除の適用を受けるには、扶養控除等申告書を提出する際、その親族に係る一定の確認書類を提出又は提示する必要がある(所法194④)。 〈確認書類一覧〉 以下、各確認書類について解説する。 【1】 親族関係書類 親族関係書類とは、次の①又は②のいずれかの書類で、国外居住親族が居住者の親族に該当することを証するものをいう(所令316の2②、所規73の2②)。 (注) 居住者の親族であることを1つの親族関係書類で証明できない場合には、複数の書類を組み合わせることにより親族であることを確認する。 なお、親族関係書類の組み合わせについては、国税庁から公表されている「令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係)」(以下「Q&A」という)の[Q28]において詳しく示されているので、そちらも参照いただきたい。 【2】 留学ビザ等書類 留学ビザ等書類とは、次の①又は②のいずれかの書類で、国外居住親族が外国における留学の在留資格をもって外国に在留することにより国内に住所又は居所を有しなくなったことを証するものをいう(所令316の2②、所規73の2②)。 【3】 送金関係書類 送金関係書類とは、次の①又は②のいずれかの書類で、その年において国外居住親族の生活費又は教育費に充てるため支払をしたことを明らかにするものをいう(所令316の2③、所規73の2③)。 【4】 38万円送金書類 38万円送金書類とは、【3】の送金関係書類のうち、居住者から国外居住親族へのその年の支払の合計額が38万円以上であることを明らかにする書類をいう(所令316の2③、所規73の2④)。 【5】 各確認書類についての留意点 各確認書類について、主な留意点をまとめると次のとおりである。 (1) 原本の提出又は提示が必要な確認書類 【1】から【4】の書類のうち、原本の提出又は提示が求められる書類は、親族関係書類のうちパスポートの写し以外の書類である(所規73の2)。 (2) 確認書類が外国語で作成されている場合 各確認書類が外国語で作成されている場合には、その翻訳文も提出又は提示する必要がある(所規73の2)。 (3) 確認書類の保存義務(参考:Q&A[Q17]) 確認書類の保存義務を定めた法令上の規定はない。しかし、扶養控除等申告書等は、給与等の支払者において7年間保存することとされている(所規76の3)。確認書類も扶養控除等申告書等と併せて保存することが求められる。 (4) 確認書類の有効期限(参考:Q&A[Q18]) 親族関係書類及び留学ビザ等確認書類について、書類の発行日に関する法令上の規定はない。よって、1年以上前に発行された書類であっても有効である。しかし、親族関係や留学の状況に変更がないかを確認することにより、扶養控除等申告書提出日の現況を正しく判定しなければならない。 なお、パスポートの写しや在留カードに相当する書類の写しについては、有効期間中のものであることを確認する必要がある。 (5) 前年と異動がない場合の取扱い(参考:Q&A[Q21][Q24][Q27]) 前年と異動がない場合であっても、原則として、毎年親族関係書類や留学ビザ等書類の提出又は提示を受ける必要がある。 しかし、国外居住親族との親族関係や親族の住所又は留学の事実等に異動がない場合には、前年と変更がないことを確認した上で、前年以前に提示を受けた親族関係書類や留学ビザ等書類を再度提示してもらうことや、前年以前に提出を受けた書類による確認(再提出は省略)も可能である(※)。 (※) パスポートの写しや在留カードに相当する書類の写しについては、(4)と同様に有効期間中のものであることが確認できる場合に限られる。 (6) 送金関係書類と38万円送金書類 送金関係書類と38万円送金書類は、各親族別に送金していることを明らかにするものとされている(所規73の2③)。よって、まとめて代表者へ送金している場合には、その代表者に対する送金関係書類又は38万円送金書類(以下、送金関係書類等という)とされ、他の親族への送金関係書類等には該当しないこととなる。また、共同名義口座への送金の場合も、個々の親族の名義が明らかでなければ、送金関係書類等には該当しない。 なお、複数年分をまとめて送金している場合には、送金した年分の送金関係書類等とされ、それ以外の年分の送金関係書類には該当しない。また、現金を手渡ししている場合等には、送金関係書類等の提出又は提示ができないため、扶養控除等を適用することはできない。 (了)
消費税・地方消費税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例120(消費税)】 「税関調査により過去5期分の引取りに係る消費税の修正申告書を提出したため、過年度分を含め、その全額を進行年度で仕入税額控除を行い還付申告したところ、所轄税務署より、各期ごとの更正の請求を求められたため、最初の1期分につき更正の請求期限が徒過してしまい、還付が受けられなくなってしまった事例」
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例120(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆仕入れに係る消費税額の控除(消法30①) 事業者が、国内において行う課税仕入れ若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の①~③に掲げる場合の区分に応じそれぞれ①~③に定める日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、その課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額、その課税期間中に国内において行った特定課税仕入れに係る消費税額及びその課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額の合計額を控除する。 (※) 保税地域から引き取る課税貨物につき特例申告書を提出した場合には、その特例申告書を提出した日 ◆課税貨物を引き取った日の意義(消基通11-3-9) 仕入れに係る消費税額の控除に規定する「課税貨物を引き取った日」とは、関税法第67条《輸出又は輸入の許可》に規定する輸入の許可を受けた日をいう。 (了)
固定資産税・都市計画税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第25回】「年の途中で死亡した場合の固定資産税等は、被相続人の必要経費になるか、相続人の必要経費になるかで争われた事例」
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第25回】 「年の途中で死亡した場合の固定資産税等は、被相続人の必要経費になるか、相続人の必要経費になるかで争われた事例」 税理士 菅野 真美 ▷必要経費と認められる条件 個人の不動産所得の金額の計算上、必要経費となるのは、所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く)の額(所法37①)とされている。 債務が確定しているというのは、原則的には次の条件を満たす必要がある(所基通37-2)。 固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という)は、その年1月1日に土地、家屋を所有している者に市町村等が賦課決定する税金である(地法343、359、702、702の6)。 不動産所得の起因となる土地、家屋に係る固定資産税等は必要経費にできるが、所得税においては、いつ必要経費になるかというと、賦課決定のあった日の属する年が原則である。しかし、固定資産税等は分納が可能であり、各納期の税額をそれぞれ納期の開始の日又は実際に納付した日の属する年分の必要経費に算入することができるとされている(所基通37-6)。 不動産所得を生ずべき者が年の中途において死亡した場合、不動産所得については、死亡日までは被相続人、その後は相続人に帰属することになる。この場合、死亡年度の固定資産税等については、誰の所得の計算上、必要経費になるのであろうか。 ちなみに相続税において、債務控除の対象となる固定資産税等の未納部分については、相続人等の相続税の計算上、債務控除が可能となる(相法13、14)。 所得税法上、固定資産税等の必要経費について、被相続人の準確定申告に含めるべきか、相続人の申告に含めるべきかで争われた裁決事例を今回は検討する。 ▷どのような事案か 本事案について、時系列で並べると次のようになる。 ▷事案の争点と当事者の主張 争点は、Aの不動産所得の計算上、固定資産税等は必要経費に算入されるか否かであり、当事者の主張は次のようなものである。 〈納税者の主張〉 〈課税庁の主張〉 ▷審判所の判断 審判所は、以下のように、課税庁側の主張に沿った裁決をしてXの主張を取り消した。 このように、所得税においては固定資産税等の納税通知書の交付日が相続開始日の後の場合は、被相続人に係る準確定申告の必要経費に算入できない。相続税の債務控除の取扱いと、準確定申告の取扱いが異なることから注意したい。 (了)
国際課税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第12回】「エスコ事件-移転価格税制における推定課税-(地判平23.12.1、高判平25.3.14)(その1)」~租税特別措置法66条の4第7項(現行6項)~
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第12回】 「エスコ事件 -移転価格税制における推定課税- (地判平23.12.1、高判平25.3.14)(その1)」 ~租税特別措置法66条の4第7項(現行6項)~ 税理士 吉村 優 1 事実の概要 精密小型モーター等の販売、高性能モーター及び各種制御基板の設計・開発等を行う同族会社である原告Xは、従前、非関連者である製造業者Dからモーター等を購入して独立第三者に販売していた。平成11年12月以降、パチスロメーカー向けコインホッパー用モーターを、香港所在の外国法人であり、Xの国外関連者(租税特別措置法[平成16年法律第14号による改正前のもの]66条の4第1項)に該当するBから購入するようになった。 国税当局は平成14年4月頃からXに対する税務調査を実施し、XとDとの取引にBが介在するようになってから購入価格が2倍強に高騰したとの事実を把握した。同年6月以降Xの代表者らに対し価格高騰の理由説明を求めるとともに、Xに対し少なくともBの財務書類につき6回、本件取引の価格算定の根拠となった資料につき4回提示を求めたが、Xはこれらの資料の提示に応じなかった。 国税当局は、独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類又はその写しを遅滞なく提示又は提出しなかったとして租税特別措置法(以下「租特法」という)66条の4第7項(現行6項)に基づいて、独立企業間価格を推定して更正処分を行ったところ、Xがその取消しを求めた。 2 前提事実 原告XとBの全株式は原告代表者及びその親族によって保有されている。 〈図解①:モーターG・Iの取引の流れ〉 XはDから直接仕入れを行っていたが、平成11年12月からBが介在し、価格が2倍強に高騰している。 〈図解②:モーターKの取引の流れ〉 3 主たる争点 4 判旨 請求棄却。 (1) 租特法66条の4第7項「推定課税」の適用の可否(主たる争点①) まず、租特法66条の4第7項「推定課税」の適用の可否(主たる争点①)について、裁判所は次のとおり判示した。 (2) 租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たすか否か(主たる争点②) また、租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たすか否か(主たる争点②)について、裁判所は次のとおり判示した(下線は筆者挿入)。 ((その2)へ続く)
会計
内部統制監査
監査
税務・会計
解説
解説一覧
内部統制報告制度改訂案のポイントを読み解く 【第1回】「「報告の信頼性」の確保と内部統制の限界への対抗策」
内部統制報告制度改訂案のポイントを読み解く 【第1回】 「「報告の信頼性」の確保と内部統制の限界への対抗策」 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行 ◇はじめに◇ 内部統制報告制度が我が国に導入され、今年で15年が経過しようとしている。その間、制度は財務報告の信頼性の向上に一定の成果を上げた一方、実効性の点で多くの教訓と反省ももたらした。 こうした状況を踏まえ、昨年末に企業会計審議会内部統制部会は、制度改正に向けた検討を行い、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(公開草案)」を公開し、各界の意見を広く求めた。 Ⅰ 改訂監査基準及び改訂実施基準の草案 内部統制部会の審議は、今後に向けた中長期的な検討課題を残しつつも、公開した草案で、主な改訂点と考え方が示された。草案による改訂点は、時代の経過により改善が求められる点、制度の運用により新たな課題として認識された点に対する対応や今後に向けた課題に関して広く言及している。 具体的には、内部統制の基本的枠組み、内部統制に係る評価と報告、更に内部統制に係る監査に及び、制度が直面した数多くの実務的な課題に対応している。最終的に改訂監査基準及び改訂実施基準は、令和6(2024)年4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用される。 今回は、内部統制の基本的枠組みに関わる改訂案の中でも、内部統制の目的に関わる財務報告の信頼性と内部統制報告制度の限界に関する改訂のポイントを読み解く。 そして次回以降は、内部統制とガバナンスに関わるリスク管理体制、サイバーテロが増える中で重要性を増すIT統制、業務プロセスに関わる評価の範囲、更に内部統制監査に関わる改訂の意図について分析を加えたい。 Ⅱ 内部統制の基本的枠組みに関する改訂案のポイント 1 「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」へ 今回の改訂案では、内部統制報告制度は、あくまで「財務報告の信頼性」の確保が目的であることを強調する一方、制度の目的の1つである「財務報告の信頼性」を、「報告の信頼性」に改訂した。そして「報告の信頼性」を「組織内及び組織の外部への報告(非財務情報を含む。) の信頼性を確保すること」と位置づけた。 報告の対象をこれまでの財務情報に限らず、非財務情報にまで広げた背景には、企業による非財務情報(例えば、IR活動報告書、CSR報告書や環境に対する取り組みを示す報告書等)の任意的な開示の趨勢が世界的に進んでいることや米国のCOSO報告書の改訂(※)を踏まえたことなどが挙げられる。 (※) 内部統制の基本的な枠組みを世界的に提供している米国ドレッドウェイ委員会支援組織委員会(COSO)は、2013年に内部統制の枠組みの改訂を行った。なかでも内部統制の目的を「財務報告」から「報告」に再定義し、内部統制の報告対象を広く非財務情報にまで広げている。 もはや財務情報だけに限っていては、ゴーイングコンサーンとしての企業活動のリスクを適切に把握することは、困難であるという認識に立ったといえる。では、組織内及び組織の外部への報告(非財務情報を含む) の対象となる事項とは、いかなるものであろうか、想定される事項を実務に即して下図に示すことを試みた。第一義的には、財務報告の信頼性を確保することが今後も変わらず求められる一方で、それを適切に支援しかつ担保するため、これらの非財務情報に関する信頼性も広く求められることになる。ただ、こうした非財務情報が内部統制の評価や監査の範囲として、今後どこまで重視されるかは、今後の更なる金融庁の具体的な動きを見極める必要がありそうだ。 〈組織内及び組織の外部への報告(いずれも非財務情報を含む)事項の例〉 (注) 新たに報告の対象となることが想定される項目を色分けして表示 〈開示情報の分類〉 2 経営者による内部統制の無効化と内部統制の限界 内部統制の仕組みを構築し、適切な運用を求められる立場にありながら、経営者又は経営者以外の業務に携わる責任者により、内部統制の仕組みが無視、無効化される事件が、制度創設以来、数多く起きたことは、いまさら指摘するまでもない。内部統制報告書を見れば、経営層の不正や不適切な会計処理による重要な不備が、毎期のように報告されてきたことがわかる。今回の改訂ではこの無視、無効化の問題に対抗する仕組みづくりについて多くの言及があり、この問題が深刻に受け止められていることがよくわかる。 (1) 内部統制の限界とその追加的な対抗策 従来の制度は、経営者による無視、無効化を内部統制の限界として位置づけながらも、組織内に適切な内部統制が構築されていれば、相応の抑止効果があるというにとどめていたが、今回の改訂案では、以下に示す具体的な対策を追加し、無視や無効化に対する組織的な整備と対応の強化を求めた。実務的な観点では、以下に挙げられた項目のうち、①から⑤については、全社的な内部統制を構成する各評価項目の中でも統制環境において、とりわけ①②については各業務プロセスの運用面やキーコントロールの設計時において、それぞれ重点的な仕組みの整備と評価が求められることになろう。 (2) 内部統制に関わる取締役会、監査役等及び内部監査人の役割と責任 取締役会、監査役等及び内部監査人は、上記③④⑤に関わる無視、無効化の対応として、その役割と責任の重要性が強調されている。3者による互いの連携、情報共有の手続や経営者に対するモニタリングの仕組みを、具体的な制度として全社的な内部統制の文書(主に統制環境)に落とし込み、次に示す趣旨を制度や仕組みに反映させることが求められるであろう。 例えば、取締役会の役割と責任は、これまで「経営者による内部統制の整備及び運用に対しても監督責任を有している。」と述べるにとどまっていたが、今回の改訂案では「内部統制の整備及び運用に関して、経営者が不当な目的のために内部統制を無視ないし無効ならしめることに留意する必要がある。」として取締役会の監督責任について、更に具体的に踏み込んでいる。 次に、監査役等は会計や業務監査を行うことに加え、「内部統制の整備及び運用に関して、経営者が不当な目的のために内部統制を無視ないし無効ならしめることに留意することが重要である。監査役等は、その役割・責務を実効的に果たすために、内部監査人や監査人等と連携し、能動的に情報を入手することが重要である。」として、内部統制の無視や無効化に配慮しつつ、内部監査人や監査人等との連携や積極的な情報の入手が求められている。 更に内部監査人には、「熟達した専門的能力と専門職としての正当な注意をもって職責を全うすることが求められ」、専門的な能力の発揮とそれに伴う正当な注意義務が強調された。他方で、「取締役会及び監査役等への報告経路を確保するとともに、必要に応じて、取締役会及び監査役等から指示を受けることが適切である。」とされ、3者間を結ぶ円滑な情報共有の役割と責任が求められている。 (3) 不正リスクとその対応について言及 内部統制の評価対象となるリスクには、不正リスクとその評価が含まれることが新たに改訂案に明示された。これは、内部統制報告制度が長らく、不正や不適切な会計処理により、その有効性を損なわれてきた経緯と決して無関係ではない。「不正に関する、動機とプレッシャー、機会、姿勢と正当化について考慮することが重要である。」として、いわゆる不正のトライアングルの視点を示した。更にリスクを具体的に検討する際には「様々な不正及び違法行為の結果発生し得る不適切な報告、資産の流用及び汚職について検討が必要である。」とし、不正の具体的な態様に言及することで、不正に対抗するコントロールの構築を図るよう、実務の現場に対して強い注意を喚起したと解釈できる。 (了)
中小企業会計
会計
税務・会計
解説
解説一覧
財務会計
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《金銭債権-手形債権・電子記録債権》編 【第1回】「手形債権」
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《金銭債権-手形債権・電子記録債権》編 【第1回】 「手形債権」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 2008年12月から施行されている電子記録債権法に基づいて、従来の紙媒体である手形債権だけでなく、電子記録債権も手形債権の代替として機能しており、中小企業においても、特に大企業の取引先との決済から徐々に普及してきています。電子記録債権の会計処理は、手形債権に準じて取り扱うことが適当です。そこで、【第1回】は手形債権の会計処理を確認します。 【設例1】 当社(12月31日決算)は、当期(X1年1月1日~X1年12月31日)に、次の取引を行いました。 (1) X1年10月20日に、製品2,000,000円(税抜金額、消費税10%)を甲社に掛けで販売しました。 (2) X1年11月30日に(1)の代金について、甲社が振り出した約束手形2,200,000円(支払期日X2年2月28日)を受け取りました。 (3) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引や裏書譲渡しない場合 (3-1) 支払期日X2年2月28日に、(2)の約束手形2,200,000円が決済(甲社の銀行口座から引き落とされて当社の当座預金に2,200,000円振込)されました。 (4) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引する場合 (4-1) X1年12月15日に、(2)の約束手形を当社の取引銀行に持ち込み、割引料80,000円を差し引いた2,120,000円が当社の当座預金に入金されました。 (4-2) X1年12月31日決算日。 (4-3) その後、支払期日X2年2月28日に、(2)の約束手形2,200,000円が決済されました。 (5) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に裏書譲渡する場合 (5-1) 当社の仕入先乙社に対する買掛金2,200,000円と相殺するために、X1年12月20日に、(2)の約束手形2,200,000円を裏書譲渡しました。 (5-2) X1年12月31日決算日。 (5-3) その後、支払期日X2年2月28日に、(2)の約束手形2,200,000円が決済されました。 1 会計処理 上記(1)~(5-3)の仕訳等は、次のとおりです。 (1) (2) (3) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引や裏書譲渡しない場合 (3-1) (4) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引する場合 (4―1) (4-2) 仕訳なし。受取手形割引高2,200,000円を決算書に注記。 (4-3) 仕訳なし。 (5) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に裏書譲渡する場合 (5-1) 当社の仕入先乙社に対する買掛金2,200,000円を(2)の手形債権と相殺することになるので、仕訳は下記のとおり。 (5-2) 仕訳なし。受取手形裏書譲渡高2,200,000円を決算書に注記。 (5-3) 仕訳なし。 〇約束手形の振出 上記(2)について、手形債権の場合、販売先の甲社が振出人として紙媒体の手形を取引銀行から購入した所定の手形用紙を用いて作成して振り出し、当社はその紙媒体の約束手形を受け取ります。 貸借対照表上、営業取引により発生した債権(又は債務)については、「受取手形(又は支払手形)」に表示します。 〇約束手形の割引 上記(4)について、手形債権の場合、販売先から受け取った紙媒体の約束手形を当社の取引銀行に持ち込み、所定の割引料を差し引いて支払期日を待たずに早期に現金化します。割引料は、「手形売却損」勘定を用います。 〇約束手形の裏書譲渡 上記(5)について、手形債権の場合、当社の支払先への支払手段の1つとして、販売先から受け取った紙媒体の手形を、その用紙の裏に譲渡先(この設例では乙社)を記入して、引き渡します。この手形債権2,200,000円の譲渡により、当社がこの債権を対価とした相殺取引として、乙社に対する買掛金2,200,000円を支払ったことになります。 * * * 上記(4)と(5)は、いずれも、紙媒体の手形債権の割引や裏書譲渡が行われた後に、約束手形の振出人(この設例では当社販売先甲社)が支払期日X2年2月28日時点で支払不能になっていれば、割引や裏書譲渡を行った者(この設例では当社)は債権者(この設例(4)では当社の割引先銀行、設例(5)では当社の仕入先乙社)へ2,200,000円の支払をしなければならず、条件付き遡及義務を負います。この設例では、当期末(X1年12月31日)現在、手形債権の割引や譲渡が行われた後であり、かつ、約束手形の支払期日(X2年2月28日)前であるので、当社は条件付き遡及義務を負っています。 「手形遡及債務」は、「貸借対照表等に関する注記」の1つ(会社計算規則103)です。会社計算規則では、会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く)には、「貸借対照表等に関する注記」を表示することは要しないとされています(同規則98②)。しかし、中小企業会計指針では、受取手形割引額及び受取手形譲渡額は、注記を要求されていない場合においても、それぞれ注記することが望ましいとされています(中小企業会計指針15(4))。 2 当期(X1年12月31日決算)における決算書の表示 当期(X1年12月31日決算)における決算書の表示は、他に取引がないと仮定すると、次のとおりです。 ➤上記(3)の「当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引や裏書譲渡しない場合」 〈当期末貸借対照表〉 ➤上記(4)の「当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引する場合」 〈損益計算書〉 〈個別注記表〉 ➤上記(5)の「当社が(2)の約束手形を支払期日前に裏書譲渡する場合」 〈個別注記表〉 (了)
会計
税務・会計
解説
解説一覧
財務会計
2023年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】
2023年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 Ⅴ 会社法施行規則等の改正 2022年12月26日に、「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(法務省令第43号)が公布された。 改正点は、以下のとおりである。 1 電子提供措置事項記載書面への記載を省略することができる事項の対象の拡大 振替株式を発行する上場会社等は、2023年3月1日以降に開催される株主総会から株主総会資料を電子的に提供する制度(電子提供制度)の適用が義務付けられている(会社法325の2、社債、株式等の振替に関する法律159の2①)。 電子提供制度でも、書面による提供を希望する株主は、電子提供措置の対象となる事項(電子提供措置事項)を記載した書面(電子提供措置事項記載書面)の交付を請求することができる。ただし、株主総会資料のうち一部の事項は、定款の定めにより電子提供措置事項記載書面への記載を省略することができる(会社法325の5)。 今回の改正では、電子提供措置事項記載書面に記載すべき(省略できない)事項の対象が、以下のとおり縮小されている。言い換えると、電子提供措置事項記載書面への記載を省略することができる事項の対象が拡大した。 〈主な電子提供措置事項記載書面に記載すべき(省略できない)事項〉 (※) 連結計算書類に対する会計監査人による会計監査報告、監査役による監査報告は、従来から、電子提供措置事項に該当しない(「「会社法施行規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について」第3 意見の概要及び意見に対する当省の考え方1③(ウ))。 2 ウェブ開示によるみなし提供制度の対象の拡大 ウェブ開示によるみなし提供制度とは、株主総会資料の一部を、ウェブサイトに掲載し、そのアドレス等を株主に通知することにより、当該情報が株主に提供されたものとみなす制度である(会社法施行規則94①、133、会社計算規則133)。 今回の改正で、ウェブ開示によるみなし提供制度についても、以下のとおり、対象が拡大されている。 3 適用時期 公布日(2022年12月26日)から施行する。ただし、ウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正(上記2)は、2023年3月1日から施行する。 Ⅵ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正 金融庁は、2023年1月31日に、以下の改正を公表した。 本改正の主な内容は、以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 1 サステナビリティ全般に関する事項(人的資本を含む)の開示 (1) 開示内容 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示内容は、以下のとおりである(開示府令第二号様式 記載上の注意(30-2)、第三号様式)。 (※1) 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示に当たっては、連結ベースの開示が必要となる。 (※2) 有価証券報告書で記載する内容を全て、参照先に記載することはできない。参照先は、あくまでも補完情報であるため、重要な情報は、有価証券報告書に記載する必要がある(下記(6)参照)。 (2) 開示対象 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示対象は、開示府令で具体的に定められていないが、記述原則別添(注1)に、以下の例示が示されている(記述原則別添(注1)、コメント対応No.109)。開示府令では具体的に定められていないため、各社で以下や他社事例等を参考に、何をサステナビリティとして開示することが投資家にとって有用であるかを検討することが必要である。 なお、温室効果ガス(GHG)排出量については、投資家と企業の建設的な対話に資する有効な指標となっている状況を鑑み、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、特に、Scope1(事業者自らによる直接排出)・Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)のGHG排出量について、積極的に開示することが期待される(記述原則別添(注2))。 (3) 開示に当たっての基本事項 「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のフレームワークに合わせて、以下の4つの構成要素に基づき記載する。 「ガバナンス」と「リスク管理」の記載は必須で、「戦略」と「指標及び目標」については、重要なものについて開示する(重要性については、下記(4)参照)。 「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示を行うことが期待される(記述原則別添)。 ただ、「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しない場合における判断やその根拠は、必ず開示しなければならない事項ではない。その上で、投資家に有用な情報を提供する観点から、例えば、各企業がその事業環境や事業内容を踏まえて、どのような検討を行い、重要性がないと判断するに至ったのか、その検討過程や結論を具体的に記載することが考えられる(コメント対応No.99-100)。 一方、人的資本については、他のサステナビリティ項目とは異なり、「戦略」並びに「指標及び目標」(以下、(a)(b))について、重要性に関係なく、全ての会社が必ず開示する。 (4) 重要性の判断基準 サステナビリティ関連開示において、開示に当たっての重要性の判断基準は、開示府令で定められていない。 記述情報の開示に関する原則(以下、「記述原則」という)において、以下の考え方(記述原則2-2)が示されているため、参考にすることができる。 なお、重要性の考え方について、将来、記述原則の改訂を行うことが想定されている(記述原則別添)。 (5) 開示に当たっての留意事項 開示に当たっての留意事項として、以下が挙げられる。 また、開示に当たっては、他社事例を参考にすることが有用である(なお、サステナビリティの取組みは各社で異なるため、真似ることは適切ではない)。そこで、金融庁から2023年1月31日に公表された「記述情報の開示の好事例集2022」が参考になる。 (6) 参照上の留意事項 参照上の留意事項として、以下が挙げられる。 〈参照可能な他の書類等(例示)〉 2 多様性に関する開示 (1) 開示内容 多様性に関する開示として、【従業員の状況】に以下の指標を開示する(開示府令第二号様式 記載上の注意(29))。 (※) 女性活躍推進法は、既に公表が義務付けられている。一方、育児・介護休業法は、2023年4月1日から指標の公表が義務付けられる(詳細は、下記(2)参照)。 ポイントは、女性活躍推進法及び育児・介護休業法により開示が求められるかどうかを、連結グループ内の各社ごとに判定し、開示が求められる会社は、連結グループ内の財務的重要性に限らず開示が必須ということである。 (2) 女性活躍推進法等 女性活躍推進法、育児・介護休業法により、以下の多様性の指標について、ホームページ等での開示が求められている。 ① 女性活躍推進法 女性活躍促進法は、既に適用されている。労働者301人以上の事業者は、(ⅰ)「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」8項目(下記(ⅰ)①から⑧)から1項目を選択し、また、(ⅱ)「職業生活と家庭生活との両立」7項目(下記(ⅱ)①から⑦)から1項目を選択し、選択したそれぞれを公表する義務がある。また、これに加えて、労働者301人以上の事業者は、男女間の賃金格差(下記(ⅰ)⑨)について、2022年7月8日の施行後に最初に終了する事業年度から実績を公表する義務がある。 労働者101人以上300人以下の事業主は、上記(ⅰ)の9項目、(ⅱ)の7項目の合計16項目から任意の1項目以上の公表が義務付けられている。 ② 育児・介護休業法 育児・介護休業法では、2023年4月1日から、労働者1,000人超の事業主は公表日の属する事業年度の直前の事業年度の男性労働者の育児休業等の取得状況の公表が義務付けられている。 (3) 開示に当たっての留意事項 開示に当たっての留意事項として、以下が挙げられる。 3 コーポレート・ガバナンスに関する開示 〇 開示内容 「コーポレートガバナンスの状況等」において、開示の追加等が求められている(開示府令第二号様式 記載上の注意(54)(56)(58))。 (※1) 「サステナビリティに関する考え方及び取組」と同様に、「コーポレート・ガバナンスの概要」においても、開示府令に定める内容を有価証券報告書に記載した上で、記載事項を補完する詳細な情報について、提出会社が公表した他の書類を参照する旨の記載を行うことができる(開示ガ5-16-4)。 (※2) 「開催頻度」とは、最近事業年度における実績である(コメント対応No.296)。 (※3) 「具体的な検討内容」として、取締役会等における全ての議案を記載することは必須ではなく、有価証券報告書の利用者である投資家にとってわかりやすいよう要約するなどして記載することが考えられる(コメント対応No.298)。 4 将来情報に関する虚偽記載の考え方の明確化 今回の改正では、有価証券報告書に記載する将来情報に関する虚偽記載の考え方が、以下のとおり明確化された。 5 適用時期 適用時期は、以下のとおりである。 (了)
会計
制度会計
税務・会計
解説
解説一覧
財務会計
計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第42回】「連結PLでよく起こる単純ミス」
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第42回】 「連結PLでよく起こる単純ミス」 公認会計士 石王丸 周夫 1 ここはミスが起こりやすい 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例42-1】 当期純利益数値の入力ミス。 (出所) キーウェアソリューションズ株式会社「第57回定時株主総会招集ご通知(訂正前のもの)」 【事例42-1】は、連結損益計算書のミス事例です。具体的には、連結損益計算書の下の方にある「当期純利益」の入力ミスです。 この事例の会社は、2022年5月27日に本事例を含む定時株主総会招集ご通知を公表し(招集通知の日付は2022年6月8日)、2022年6月16日付で当該誤記載の訂正を公表しています。 「556,045」を「566,045」と誤入力してしまったもので、明らかに単純なミスです。このような数字の並び順で入力ミスが起こる例は、本連載でもすでに紹介しています(【第22回】の【事例22-2】)。誰しも身に覚えがあることでしょう。 しかし、今回着目していただきたいのは、数字の並び順ではなく、ミスが起きた場所の方です。連結損益計算書の当期純利益であり、この場所はミスが起こりやすいと考えられるのです。 2 別の会社で同じミス 連結損益計算書の当期純利益でミスが起きた例をもう1つ紹介しておきます。 【事例42-2】 当期純利益の欄に法人税等の合計を記載してしまったミス。 (出所) 株式会社エンプラス「第61回定時株主総会招集ご通知」 【事例42-2】は、当期純利益の欄に「法人税、住民税及び事業税」と「法人税等調整額」の合計額を記載してしまったというミスです。この事例の会社は、2022年6月3日付で本事例を含む定時株主総会招集ご通知を公表し、2022年6月10日付で当該誤記載の訂正を公表しています。 一番下の「親会社株主に帰属する当期純利益」は正しいので、そこに至る計算過程の表示の仕方をうっかり間違ってしまったのかもしれません。いずれにしても、連結損益計算書の当期純利益で間違ってしまったことは確かです。 以上、わずか2事例ですが、別の会社で同じ箇所の間違いが起きたことは注目に値します。同様の事例を過去にさかのぼって集計したことはありませんが、筆者の経験的には、ここは間違いやすい箇所だと認識しています。 3 ここでミスが起こる理由は? 連結損益計算書の当期純利益で単純なミスが起こりやすい理由を考えてみたいと思います。その理由は2つ思い当たります。 第一は、連結損益計算書の当期純利益は関心の低い項目だということです。【事例42-2】を見るとわかるとおり、当期純利益は連結損益計算書の末尾の項目ではありません。末尾の項目は「親会社株主に帰属する当期純利益」であり、当期純利益はそこに至る途中段階の利益にすぎないのです。厳密に表現するなら、税引後かつ非支配株主に帰属する当期純利益控除前の利益といえます。 また、【事例42-1】の会社のように、非支配株主が存在しない連結グループの場合は、当期純利益は「親会社株主に帰属する当期純利益」と同額になります。つまり、当期純利益を算定する意味合いが薄れてきます。 こうしたことから、連結損益計算書の当期純利益は経営の場において取り上げられることが少なく、できあがった決算書をチェックする際も関心が向かないのかもしれません。 第二は、クロスチェックできる相手箇所が基本的にないことです。クロスチェックについては【第36回】を参照いただきたいですが、要は、連結損益計算書の当期純利益の数値が、株主総会招集通知の他の箇所に掲載されていることがほとんどないということです。これは第一の理由で述べたことと関係していますが、関心の低い項目なので、事業報告等で言及されることがなく、クロスチェックする相手箇所がないのです。したがって、複数の経路で数値のチェックをする機会がなく、ミスを見逃しやすいというわけです。 では、ここで起こるミスを公表前に発見するにはどうしたらよいのでしょうか。関心の低い項目とはいえ、決算書本体の数字なので、ミスは開示書類として致命的です。 確実にいえることは、最低でも計算チェックは行うべきということです。上記2つの事例はいずれも計算チェックで発見可能です。あとは、「この箇所は間違いやすい」ということを頭に入れた上で、作成・チェックにあたっていくことです。人間の限られた注意力を間違いやすい箇所に集中して投入することで、ミスを未然に防ぐことができます。 〈今回のまとめ〉 単純なミスが起こりやすい箇所を頭に入れて作業すると、ミスに気付く可能性が高まります。 (了)
