「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例8(法人税)】
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
平成25年3月期の法人税につき、利益圧縮のため、帳簿価額1,500万円(入会金500万円、預託金1,000万円)のゴルフ会員権を時価の10万円で売却し、売却損を計上した。
ところが、このゴルフ会員権は運営会社が平成16年3月の再生計画の認可の決定により、預託金の一部が切り捨てられていた。これを税務調査で指摘され、結果として切り捨てられた預託金部分に係る売却損を否認されてしまった。
これにより、否認された売却損に係る税額300万円につき損害賠償請求を受けた。
《賠償請求の経緯》
- 平成16年3月にゴルフ場運営会社の再生計画認可の決定により預託金のうちの950万円(95%)の切捨てが確定。
- 前任税理士はこの事実を知らされなかったため、貸倒処理をせず平成16年3月期の法人税申告書を提出。
- 前任税理士は平成18年5月に上記事実を確認するも更正の嘆願等は行わず。
- 平成19年1月に税理士は前任税理士から業務を引き継ぐ。
- 平成25年3月期に利益圧縮のため税理士主導によりゴルフ会員権を代表者に時価の10万円で売却し、簿価との差額1,490万円を売却損に計上。
- 平成25年9月に税務調査により平成16年3月期の貸倒損失計上漏れを指摘され、売却損のうち貸倒損失部分を否認される。
《基礎知識》
◆金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ(法基通9-6-1)
法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。
(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
◆更正の期間制限(旧通法70)
法人税に係る更正については、法定申告期限から5年を経過した日以後においては、することができない。ただし、次に掲げる更正(純損失等の金額に係るものに限る。)については、法定申告期限から7年を経過する日まで、することができる。
(1) 純損失等の金額で当該課税期間において生じたもの若しくは還付金の額を増加させる更正又はこれらの金額があるものとする更正
(2) 純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを減少させる更正
※平成23年12月の国税通則法の改正により、平成23年12月2日以後に法定申告期限等が到来する法人税の純損失等の金額に係る更正の期間制限については、9年に延長することとされた。(通法70②)
《税理士の落とし穴》
ゴルフ会員権を売却する際に、ゴルフ場運営会社が再生計画認可の決定を受けていることを確認しなかった。
《税理士の責任》
依頼者の所有するゴルフ会員権の運営会社は、平成16年3月に再生計画認可の決定を受け、預託金の95%が切捨てとなった。前任税理士は、この決定を依頼者から聞かされたのが平成18年であったことから、そのままとなり、上記事実が引き継がれないまま前任税理士から税理士に交代した。
そして上記事実が失念されたまま減額更正の期間が過ぎ、平成25年3月期の法人税申告において、利益圧縮のため税理士がゴルフ会員権を代表者に時価の10万円で売却することを提案し、簿価との差額1,490万円を売却損に計上した。その後、税務調査により売却損のうち貸倒損失部分を否認されることとなる。
税理士は上記事実を聞かされていなかったが、多額の売却損を計上するに当たっては、専門家として慎重に事を運ぶべきであり、ゴルフ会員権の運営会社の状況を調査すべきであったと思われることから、税理士にも責任がある。
《予防策》
[ポイント①]
コミュニケーションをとる
税理士は常日頃から、依頼者とのコミュニケーションをとり、会社の資産の状況等に変化がある場合には、税理士にその情報が伝わるような仕組みを作っておくことが必要である。
[ポイント②]
チェックリストを活用したダブルチェック体制を構築する
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月最終週に掲載します。