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改正労働契約法──各企業への適用に当たっての注意点 【第1回】「法改正のポイントと無期転換ルール」
改正労働契約法 ──各企業への適用に当たっての注意点 【第1回】 「法改正のポイントと無期転換ルール」 特定社会保険労務士 奥田 エリカ 平成19年に公布された労働契約法が、昨年初めて改正された。 改正の主な目的は、簡単にいうと、不安定な有期雇用の労働者をより手厚く保護しよう、というものである。 いわゆる契約社員のみならず、パートタイマーやアルバイトを雇う場合も、かなりの場合、有期労働契約を締結しているだろう。したがって、多くの企業にとって、今回の改正には十分な理解と対策が不可欠である。 そこで、本連載の第1回及び第2回では、もっとも注目される無期転換ルールの検証と対応を検討する。さらに第3回、第4回では、雇止め法理の法定化、有期労働契約の不合理な労働条件の禁止について、今後想定される問題点とその対応をまとめることとする。 改正労働契約法における3つのポイント 今回の改正点は次の3事項である。 本連載では紙幅の関係上、改正法の詳細については省略し、上記3つの改正ポイントを各企業が適用する際の問題点や注意点を述べていく。 [改正ポイント①] 有期労働契約から期間の定めのない労働契約への転換 (改正労働契約法18条) 有期労働契約が5年を超えて反復更新されたときは、労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換することができるルールである。 日本では、有期労働契約の期間について、原則として上限3年の制限があるものの、更新回数についての制限はない。 今回の改正により、「労働者からの申込みがあった場合」という前提付きながら、一定(5年)期間の経過後、有期労働契約をそのまま継続することはできないこととなる。 ◆同一の使用者とは? 有期労働契約の通算にあたっては、「同一の使用者」との間で締結された二以上の有期労働契約が対象である。 一般に、契約社員は事業場単位で採用されることが多いが、「同一の使用者」とは事業所単位ではなく、法人単位、又は個人事業主単位である。 したがって、労働者の就業実態が同じであり、無期契約への転換を避ける目的で、派遣や請負契約に切り替えるような雇用管理は法の趣旨にそぐわず、通算契約期間の計算上は、「同一の使用者」との有期労働契約とみなされることになる。 ◆転換申込権はいつ発生するのか? 契約期間1年の有期労働契約を例にすると、労働者が無期労働契約への転換を申込みできるのは、下図の場合、①の期間中である。 なお、この期間中に労働者が申込みをしなかった場合には、次の更新以後でも申込みが可能である(※「通算5年」の起算日は平成25年4月1日以後であり、その前に締結した有期労働契約は通算契約期間には含めない)。 厚生労働省「労働契約法改正のあらまし」P4より ※PDFファイル では、契約期間が複数年である場合はどうであろうか。 例えば契約期間が3年の場合は、更新後、契約期間が通算5年を超える契約期間内において、無期労働契約への転換申込権が発生する。 つまり、労働者は、下図の①で示された期間内であればいつでも無期労働契約への転換を申し込むことができる。 厚生労働省「労働契約法改正のあらまし」P4より ※PDFファイル 「通算5年」の意味は、5年を超えたら無期労働契約への転換の申込みができる、ということではなく、1回以上更新が行われた有期労働契約の「期間を通算して5年」を超えるときに、転換の申込みができるということである。 上図のように、1回の更新だけで有期労働契約の年数が通算5年となる場合には、5年に至る前に無期労働契約への転換申込みが可能となるのである。 したがって、無期労働契約への転換を望まないとすれば、契約期間の終了時点が通算5年を超えないように設定する必要がある。 なお、通算5年の計算にあたっては、以下に述べる取扱いがある。 ◆通算契約期間の計算について 無期労働契約への転換ルールは、契約期間が通算5年となる場合に適用されるが、「クーリング」と呼ばれる期間により、過去の有期労働契約期間が、通算の対象外となる場合がある。 クーリング期間とは、同一の使用者との間で締結された一の有期労働契約の期間満了日と、同使用者と締結する新たな有期労働契約の契約初日の間に、原則として6ヶ月以上の空白期間、つまり、労働契約が存在しない期間をいう。クーリング期間がある場合には、空白期間より前に満了したすべての有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入されないこととなる。 厚生労働省「労働契約法改正のあらまし」P6より ※PDFファイル 直前に満了した有期労働契約の契約期間の期間が1年未満である場合、クーリング期間は、同契約の期間に2分の1を乗じて得た期間となる。例えば、有期労働契約の期間が6ヶ月である場合には、クーリング期間は3ヶ月以上必要となる。 なお、契約期間の通算においては、1ヶ月未満の端数は1ヶ月に切り上げて計算されるため、直前に満了した有期労働契約が6ヶ月と15日であったような場合は、同契約期間は7ヶ月となる。7ヶ月に2分の1を乗じると3.5ヶ月であるが、端数切上げにより、クーリング期間は4ヶ月以上必要となる。 なお、期間の通算を避けるため意図的にクーリング期間を設けることは、労働者の雇用と生活の安定という面からも法の趣旨に反する行為とみなされる。 次回は、無期転換ルールの適用についてさらに検討を進めたい。 (了)
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会社が取り組む社員の健康管理【第5回】「快適な職場環境作り」
会社が取り組む 社員の健康管理 【第5回】 「快適な職場環境作り」 社会保険労務士 佐藤 信 1 はじめに 労働者の多くは、1日のうちおよそ3分の1を仕事に関する時間として費やしているが、劣悪な環境、不自然な体勢など不快な状況での作業は心身へのストレスを大きくし、健康障害や作業能率の低下を生じさせる原因となることがある。 労働災害の減少、健康障害の防止のほか従業員の不満・不快な要因を取り除きながら事業活性化につなげていくためにも、快適な職場環境の形成は必要である。 作業環境や施設・設備などのハード面、人間関係その他のソフト面について現状を的確に把握し、優先順位を掲げながら職場の環境改善を図っていきたい。 2 快適な職場環境形成のための目標設定 仕事による疲労やストレスを感じることの少ない職場作りを行うには、快適化の目標を立て、計画的に実施していくことが望ましい。 以下、職場快適化の目標やチェック項目の設定例を掲げていくこととする。 (1) 作業環境 不快と感じることがないよう、空気の汚れ、臭気、温度、湿度等の作業環境を適切に維持管理する。 (2) 作業方法 心身の負担を軽減するため、相当の筋力を必要とする作業等について、作業方法を改善、必要な設備の導入等を行う。 (3) 疲労回復支援施設 疲労やストレスを効果的に癒すことのできる休憩室等を設置・整備する。 (4) 職場生活支援施設 洗面所、トイレ等職場生活で必要となる施設等を清潔で使いやすい状態にしておく。 3 考慮すべき事項 快適な職場環境作りは、次の事項について考慮しながら進めていくとよい。 4 職場における喫煙対策 近年、職場の快適化に関して、喫煙対策が大きな問題として取り上げられるようになってきた。 平成15年に施行された健康増進法においては、事務所その他多数の者が利用する施設を管理するものに対し、受動喫煙防止対策を講ずる努力をする義務が課せられ、平成16年6月には、厚生労働省健康局に設置された「分煙効果判定検討会」において、分煙のための新たな判定の基準が提示されている。 また、受動喫煙による健康への悪影響については、流涙、鼻閉、頭痛等の諸症状や呼吸抑制、心拍増加、血管収縮など生理学的反応があげられ、より適切な受動喫煙防止対策が必要とされる。 以下は厚生労働省による「職場における喫煙対策のためのガイドライン」の要点を掲げたものであるが、労働者の健康確保と快適な職場環境形成の一層の充実を図る観点から対策を講じておきたい。 5 ソフト面の快適さ 疲労やストレスを感じることが少ない快適な職場環境を形成するためには、職場の設備等ハード面のほか、ソフト面(人間関係、処遇、労働負荷等の心理的・制度的側面)についても現状を把握し、その上で問題点の解消に必要な取組みを講じておきたい。 厚生労働省が運営するサイト「こころの耳」では、「職場の快適度チェック」として事業所用・従業員用のチェックシートが公開されている。まずは、このようなツールを活用していくとよいであろう。 6 おわりに 快適・不快の感じ方には個人差があるため、ヒアリングを通じ、多くの労働者が不快とするものや現行の法令基準を満たしていないものから優先的に着手していくとよいであろう。 快適な職場環境の形成や作業の見直しにおいては、意見聴取やアイデア・提案を募る機会を設けるなど労働者の声にも耳を傾けながら、単に各種法令の最低基準を満たすことにとどまらず、労使間の協力のもとでさらに快適化のレベルを高めていきたい。 次回はメンタルヘルス(主に予防策)について触れていくこととする。 (了)
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親族図で学ぶ相続講義【第4回】「数次相続と遺産分割(その3)」
親族図で学ぶ相続講義 【第4回】 「数次相続と遺産分割(その3)」 司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司 さて、前回(2013年3月7日 No.9)は、甲野太郎が所有していたX不動産を(亡)甲野一男に相続させることに成功しました。 次の問題は、第二の相続(平成24年4月10日に甲野一男が死亡)において、X不動産を甲野一郎に相続させるための方法です。 第二の相続における相続人は、甲野桜子(配偶者)、甲野一郎(長男)、甲野次郎(次男)の3名です。この3名はすべて存命ですから、この点についてはややこしい問題はありません。 しかし、第二の相続における難問は、甲野一郎(長男)と甲野次郎(次男)が未成年者であることなのです。 つまり、単純にこの三者で遺産分割をすると、次のカタチになってしまうのです。 上記のパターンは、親と子の利益相反行為に当たります。 利益相反とは、「親にとって得であれば子にとって損、子にとって得であれば親にとって損」というパターンのことです。 遺産分割で共に相続人である親子において親が子を代理すると、親が好きなようにその内容を決定できますから、子の損害の元に親が利得を図る可能性が生じます。 そこで、こういった場合は、「親が子を代理することはできない」というのが民法の考え方です(無権代理となる)。 つまり、次のパターンはアウトなのです(遺産分割協議の末尾)。 本事例では、X不動産は子の甲野一男が相続するのだから、親に利得はないようにも思えます。 しかし、判例は、親と子の利益相反についてはその行為の外形から判断する(外形標準説)という考え方です(最判昭42.4.18 親の内心や行為の意図を問題としない)。 ですから、「親子間で遺産分割をすること」自体が利益相反行為となります。 さらに本事例では、子と子の利益相反もあります。 遺産の分割により「長男にとって得であれば次男にとって損、次男にとって得であれば長男にとって損」という関係が生じています。 この場合、親権者は、その双方を代理することができません。 つまり、次のパターンもアウトなのです(遺産分割協議の末尾)。 さて、今日の結論に入りましょう。 では、こういう場合はどうしたらよいか、以下に条文を引用します。 要するに、親権者が子を代理することができないので、家庭裁判所の手を借りて、子を代理する人(特別代理人)をわざわざ選任しなければならないのです。 本事例は、1項の利益相反と2項の利益相反の双方が存在しますから、親権を行う者(甲野桜子)が家庭裁判所に選任を請求すべき「特別代理人」の数は「2名」です。 そして、特別代理人(通常は、叔父や叔母など利害関係のない親族を起用する)を選任する手続が終わった後に、次の内容の遺産分割をすれば目的(X不動産を甲野一郎の名義とすること)を達成することができます。 (了)
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「石原産業役員責任追及訴訟第一審判決」から読む会社経営者としての責任の分水嶺【2】
「石原産業役員責任追及訴訟 第一審判決」から読む 会社経営者としての責任の分水嶺 【2】 弁護士 中西 和幸 8 本判決上の区分 本判決では、Y1以外の取締役の注意義務違反行為を、 の2種類に義務を分類し、その中で、 に区分して責任の有無を論じている。 以下、責任の有無について紹介する。 9 QMSに関する調査・確認義務違反として責任が認められた取締役 (1) 工場長としての責任について ア Y5について まず、取締役Y5に対して問われた責任は、顧客から回収を要請され、実際に回収せざるを得ない商品を他の顧客に販売・搬出することについて、Y1がQMSを遵守していたかどうかの調査・確認義務違反であり、フェロシルトが最初に売却・搬出される意思決定がなされた平成13年8月6日の推進会議や同月10日付の稟議が争点とされていた。 石原産業には平成7年6月1日に制定された品質マネジメントシステムにかかるマニュアルであるQMSが制定されており、Y5は、四日市工場長として、この社内マニュアルにY1が違反してフェロシルトを搬出したか否かを調査・確認することを怠ったとして、善管注意義務違反が認定されている。 イ Y6について これに対し、その後に工場長に就任したY6については、QMSが履行されているか否かを調査・確認する義務はなかったとして、責任を認めていない。 ウ Y23について Y23については、工場長に就任していた期間中はフェロシルトが販売・搬出されておらず、そもそもQMSは、四日市工場長としてのY23については、問題にならないとしている(もっとも、Y23については、四日市工場長としての経験や知識等が、その他の善管注意義務違反を基礎付ける根拠となっている)。 エ 小括 このように、四日市工場長としての責任については、四日市工場がフェロシルトを生産、販売、搬出しており、フェロシルトが販売・搬出された際にQMSに違反していたかどうかをY1の上司として確認する義務があったとして、Y5について責任を認めており、一方、Y6については、善管注意義務違反が認められていない。なぜであろうか。 オ Y5の責任を認めた根拠 Y5について責任を認める根拠となった事実として主要なものを挙げると、 を読み取ることができる。 このように、工場長であるならば、社内マニュアル違反であることを認識することができ、販売や搬出を止めるべきであったと認定しているのである。 カ Y23の責任を認めなかった根拠 これに対し、判決は、Y23については取締役四日市工場長としての責任は、その任期中はフェロシルトのQMS違反が問題にならないこと、すなわちQMS違反が問題となった平成13年8月頃はすでに四日市工場長の職務から離れていたとして、認めていない(ただし、後述するとおり、Y23については、推進会議の構成員としての責任を認定している)。 キ Y6の責任を認めなかった根拠 一方、Y6については、部下等や会議体での報告においてフェロシルトの開発、生産について、QMSが実施されていないことを疑わせるような報告がされたことはなかったことや、会社が平成14年5月以降三重県と共同でフェロシルトに関する特許を出願し、また、三重県との共同研究を実施したという事実を認定し、その事実から、フェロシルトの開発、生産、管理、搬出がQMSに沿ってされていないことを疑わせる事情を認識しておらず、認識し得た状況にもなかったと判断している。 ク まとめ 以上のとおり、四日市工場長としての責任はY5が負っている一方、Y6及びY23については、工場長としての責任を負っていない。それは、工場長としての責任を問われた根拠が、平成13年8月6日開催の推進会議の会議までにQMS違反を認識することができたにもかかわらず販売・搬出を阻止しなかった責任が問われているため、当時の四日市工場長であったY5のみが責任を問われているのである このように、本判決では、工場長という抽象的な地位に基づく責任ではなく、具体的にQMSに沿っていない商品の販売を阻止できたかどうか、こうした阻止の機会における事実認識や権限等が問題となっているものと解される。 (2) 実行本部構成員の責任 実行本部は、平成5年度から9年度にかけて発生した赤字決算解消のための会議体であり、平成9年4月頃に設置され、平成11年1月9日に解散した。 そして、実行本部の構成員が、フェロシルトの生産が開始された平成11年1月当時、その経歴、属性や認識していた事情に照らして、フェロシルトについて、QMSの開発が完了せず、フェロシルトの安全性規格が整備されず、安全性が確認されないまま、将来搬出されることにより、重金属や放射線による環境汚染を生じさせ、会社に回収費用等の損害が生じることを予見し得たといえる場合に責任があるとした。 そして、取締役毎に重金属等による環境汚染の予見可能性及びQMSからの逸脱の予見可能性の2点を検討し、実行本部の構成員である取締役全員について、責任がないものとした。なお、Y23も実行本部の構成員であるが、実行本部の構成員としての責任は認定していない。 (3) 推進会議構成員の責任 推進会議は、コア事業である酸化チタン事業の事業構造を改革し高収益率の事業に発展させるための会議体であり、平成13年6月28日に設立が決定された。そして、推進会議は、本部会と実行委員会から構成され、本部会の構成員は、会長(Y7)、社長(Z2)、副社長(Y21)、専務取締役(Y23、Y21、Y5)、常務取締役(Y14)、取締役(Y22)であった。また、実行委員会の構成員は、委員長(Z2)、委員長代行(Y5)、副委員長(Y22)、委員長付(Y1 ほか2名)、事務局長2名、委員7名であった(いずれも平成13年6月28日当時)。 本判決は、こうした推進会議の構成員について、その経歴や属性に基づく見地から、フェロシルトの安全性や適法性に問題があることを認識し、認識し得た場合には、安全性や適法性の面からの社内規程の遵守を含めた調査・確認をすべき注意義務を負うことになるとの基準を示した。 そのうえで、Y23、被告Y5、被告Y1を除く取締役については、フェロシルトの受入れがT国際空港から既に断られていることを知らなかったのであるから、Y1やY5の虚偽の説明に依拠したことを前提として、フェロシルトについてQMSから逸脱した運用がされていることを明らかに認識し得たなどの特段の事情がないとして、その担当していた職務上知り得た知識、経験に照らして、上記計画や報告の是非について検討すれば足りるというべきであるとし、責任を認めなかった。 一方、Y5、及びY23について、その役職と属性及びフェロシルトに関する認識から、QMSの内容を詳細に把握しておくべき立場にあり、QMS違反に関する調査・確認を怠ったとして責任を認めたのである。 Y23については、工場長の責任ではないが、四日市工場長の時期を含め、長年四日市工場に勤務しており、また、平成11年6月以降は、四日市工場長ではなく、会社全体の品質管理状況の把握を業務とする品質保証部を統括する地球環境本部長を務めていた職歴等に基づき、QMSの内容を詳細に把握しておくべき立場にあったと認定した。 さらに、平成13年5月には、T国際空港からフェロシルトの受入れが断られたと聞いたにもかかわらず、平成13年8月6日午後の推進会議本部会において、ゴルフ場の整地用、石材採掘跡の埋立用、茶畑造成用、ゴルフ場調整池埋立用という用途でフェロシルトを搬出する旨の本件新規搬出計画の報告を受けたのであるから、QMS上は本件新規搬出先の用途に応じた開発が別途必要であるはずなのに、開発期間が短すぎるのではないかという疑問を抱いてしかるべきであり、QMSから逸脱した運用がされていることを認識し得たといわざるを得ないと認定している。 Y5については、推進会議の実行委員としては平成13年8月6日の推進会議本部会の説明そのものが過失であると結論付けたわけではないが、同本部会において虚偽の説明をしたことが、フェロシルトの販売・搬出が当時QMSに従っていなかったことを認識することができた根拠として取り扱っている。 以上のとおり、Y5については、工場長であることの責任と同時に、推進会議の構成員という視点からも、その責任を問われているものと解される。 (4) フェロシルト生産・搬出開始時の取締役 本判決では、実行本部や推進会議の構成員ではなかったもののフェロシルト生産・搬出開始時の取締役であった者の責任も検討している。これらの取締役については、役職と属性及びフェロシルトに関する認識を検討したうえで、QMS違反を認識し得なかったとして、責任がないと認定している。 (5) まとめ 本判決では、QMS違反に対する調査・確認義務違反について、Y5及びY23についてのみ責任が認められている。 その認められた責任を見る限り、不良品(本件の場合は、環境を汚染する有害物質が流出する可能性がある商品)が販売・搬出されることを防止する責任がどの取締役にあるか、といった点につき、Y5及びY23にあるものと結論付け、その方法として、QMSのとおりに業務が行われているかどうかをチェックすれば搬出防止が可能であったとし、Y5及びY23についてはこれが可能であったと述べられている。 そのため、賠償すべき損害については、会社が負担した回収費用が認定されており、産業廃棄物処理法違反による罰金が当該損害に算入されていないことに注目したい。 本解説記事は、裁判所が公表した判決文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121119105409.pdf の記号を使用しています。 参考文献 資料版商事法務342号131頁以下(但し、上記判決文と記号が一部異なる) (了)
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NPO法人 “AtoZ” 【第1回】「NPO法人とは何か」
NPO法人 “AtoZ” 【第1回】 「NPO法人とは何か」 税理士 岩田 聡子 1 NPO法人とは? 平成24年4月に改正特定非営利活動促進法(以下、「NPO法」という)が施行された。 これは、特定非営利活動法人(以下、「NPO法人」という)を新しい公共の担い手として、医療、福祉、子育て、その他様々な分野の市民活動をさらに公益活動に生かしていくことが期待されており、そのための法整備を行う改正である。 その前段階として、平成22年7月にNPO法人会計基準が公表されたことにより、それまでNPO法人ごとに異なっていた会計基準も統一されていた。 現在のNPO法人数は47,000余(H25/1/31現在、内閣府NPOホームページより)であり、その活動も介護から市民イベントまで多種多様であるが、これからもその数が増えていくことが予想されている。 ただし、「NPO法人」という名称は知っていても、「NPO法人とは何か」を知っている読者は少ないかと思われる。また、すでにご存知の読者も、本連載により、改めてNPO法人の活動について、理解を深める一助としていただければと思う限りである。 NPOとはNonprofit Organizationの略語で、非営利組織の総称であり、ここでいう非営利とは「収益を分配することを目的としないこと」である。 NPO法人とは、このNPOのうち、特定非営利活動を行うことを主たる目的として、NPO法による要件を満たし、法人格を与えられた社団で、正式名称を「特定非営利活動法人」という。 2 特定非営利活動とは? 特定非営利活動とは、以下のいずれにも該当するものをいう。 上記(1)で定める20分野は、以下のものをいう。 なお、上記(2)の「公益の増進に寄与することを目的とするもの」とは、法人の活動により利益を受ける者が特定の者のみに限定されず、広く一般の利益となる活動である。 3 NPO法人となるための要件 NPO法人となるための主な要件は、次のとおりである。 4 NPO法人となるメリットと情報公開 任意団体での活動では、公的な法人格がないため、NPO名での銀行口座の開設や不動産の契約、登記等ができないが、NPO法人となって法人格を持つことにより、これらをNPO名義で行うことが可能となる。 また、法人格を持つことにより、任意団体での活動に比べ、社会的な信用も増すことが期待できる等のメリットがある。 ただし、NPO法に従って法人を運営しなければならず、その運営上、NPO法人の主たる事務所や所轄庁において、情報公開をしなければならない。 なお、税法上では、人格のない社団等と同様に収益事業を行った場合、納税義務が生ずることとなるので、収益事業に該当するかしないかについては、特に注意を払うべきである。 次回は、NPO法人の認証申請から登記までの流れについて紹介する。 (了)
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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第5回】「DPC/PDPSにおける医療機関別係数」
〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第5回】 「DPC/PDPSにおける医療機関別係数」 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 DPC/PDPSでは、医療機関別係数が存在し、医療機関ごとの係数に基づき診療報酬の支払いを受ける。DPC/PDPSが包括払いだからといって、必要な検査や投薬を行わない粗診粗療は行うべきではなく、大切なことは王道に立ち返り、医療機関別係数を高めることである。医療機関別係数が高い病院と低い病院では1.5倍の差がついており、1点10円全国一律が診療報酬の常識である中で、特別な存在ともいえる。 医療機関別係数は、基礎係数、暫定調整係数、機能評価係数Ⅰ及び機能評価係数Ⅱの4つから構成されている。このうち、機能評価係数Ⅰは、主に医療機関の構造的な側面が評価されたものであり、7対1入院基本料などDPC/PDPSに固有のものではない(図表1)。係数の金額的な重みは今のところ大きく、体制を整備し、施設基準等の届出を適切に行うことが期待される。 図表1 機能評価係数Ⅰ(一部) 次に基礎係数は、2012年度診療報酬改定で導入されたものであり、医療機関群ごとに異なる係数設定が行われている。基礎係数における医療機関群は、Ⅰ群・Ⅱ群・Ⅲ群の3群から構成されており、Ⅰ群が大学病院の本院(80病院、基礎係数:1.1565)、Ⅱ群が大学病院本院に準ずる高診療密度を有する病院(90病院、基礎係数:1.0832)、Ⅲ群がその他急性期病院(1,335病院、基礎係数:1.0418)とされている(図表2)。 図表2 調整係数の見直しに係る対応と経過措置 暫定調整係数は、DPC/PDPSが導入された当初より、前年度並みの収入を保証する役割を果たしてきたものであり、平成30年までには廃止されることになっている。ただし、現状では暫定調整係数の高い医療機関も存在し、これらの医療機関は今後、他の係数を高めなければ大幅な減収になる可能性がある(図表3)。 図表3 暫定調整係数/機能評価係数Ⅱ 全国トップ30病院 暫定調整係数には、その性格が不明瞭であるという批判もあり、また、地域差も存在する。特に北海道は当該係数が高く、出来高算定時代に標準化が進んでいなかった、あるいは標準化しづらい患者が多かったということを意味する可能性がある(図表4)。 図表4 都道府県別 暫定調整係数の平均値 最後に機能評価係数Ⅱが医療機関の質的面からの機能を評価したものであり、6項目から構成されている(図表5)。 図表5 機能評価係数Ⅱの見直し 2012年度診療報酬改定において、地域医療係数、救急医療係数、データ提出係数については多少の変更が加えられたが、基本的な仕組みは変更されず、今後も大きな方向性は変わらないものと予想される。 2012年度診療報酬改定では、前述したように、医療機関群の設定が行われ、DPC対象病院全体で評価された項目(データ提出係数、効率性係数、救急医療係数)と医療機関群ごとに評価された項目(複雑性係数、カバー率係数、地域医療係数)に分かれた。 今後、暫定調整係数が廃止され、機能評価係数Ⅱのウェイトが高くなるため、当該係数の向上に向けた取組みが期待される。 (了)
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《速報解説》 金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令の改正ポイント
《速報解説》 金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う 金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令の一部を改正する 内閣府令の改正ポイント 宝印刷総合ディスクロージャー研究所 顧 問 小谷 融 (大阪経済大学教授) 研究員 増田 美和 Ⅰ 改正された内閣府令 「金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第14号)が平成25年3月29日に公布された。 Ⅱ 主な改正内容等 平成21年6月24日に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成21年法律第58号)。以下「改正法」という)による金融商品取引法の改正により、「有価証券の売出し」に係る開示規制は大きく見直しが行われた。これらを実施するための政府令に、平成21年12月28日に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令」(平成21年内閣府令第78号。以下「改正府令」という)がある。 改正法による改正前の法23条の14第1項ただし書に基づき、日本証券業協会の規則に定めるところによる有価証券の内容等を説明した文書(外国証券内容説明書)を投資者に交付することなどにより「海外発行証券の少人数向け勧誘」が行われた有価証券(少人数向け勧誘対象海外発行有価証券)が存在していた。 改正法により、この「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」を開示の行われないまま転売するには、「外国証券売出し」(法4条1項4号、27条の32の2)又は「少人数私売出し」(法2条4項2号イ・ハ)を行うことが必要となった。しかしながら、その「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」が「外国証券売出し」の対象有価証券に該当しない場合には、「少人数私売出し」を行うことになり、転売制限が付される。 その結果、改正前に、譲渡制限が付されていない「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」を取得した投資者がそれを売却する際には、一括譲渡以外の譲渡が禁止されるなどの譲渡制限が付されることとなり、売却が困難となることがある。このため、「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」のうち、「外国証券売出し」の対象有価証券に該当しないものについては、平成25年3月31日までの間、「少人数私売出し」の要件を「改正前の外国証券内容説明書を交付すること」とすることができるとされた(改正府令附則4条1項)(注)。 (注) 谷口義幸「有価証券の売出しに係る開示規制の見直しの概要(上)」『商事法務』No.1902(2010.6.25) これにより、「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」を転売する際には、一括譲渡以外の譲渡が禁止される等の譲渡制限は付されず、その勧誘の相手方に外国証券内容説明書を交付することにより、「少人数私売出し」を行うことができることとなった。なお、この場合、「少人数私売出し」である旨の告知を勧誘の相手方に行う必要がある(法23条の13第4項) 本改正は、「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」について、「少人数私売出し」の要件に関するこの経過措置を3年間延長し、平成28年3月31日までの間とするものである。 Ⅲ 適用時期 平成25年3月29日から適用する。 (了)
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《速報解説》 金融庁 企業会計審議会開催~不正リスク対応基準を承認。IFRSの議論はかみ合わず
《速報解説》 金融庁 企業会計審議会開催 ~不正リスク対応基準を承認。 IFRSの議論はかみ合わず Profession Journal編集部 金融庁は3月26日、企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議を開き、「監査基準の改定及び監査における不正リスクの対応基準の設定に関する意見書」を承認するとともに、IFRSについて、カナダと韓国における適用状況の報告及び我が国の当面の対応について意見交換を行った。 出席した島尻安伊子内閣府金融担当大臣政務官から「日本における国際会計基準適用の在り方については様々な考え方があり、適用の今後の方向性については、幅広い共通理解が得られるよう、引き続き議論を行っていく必要がある。国際情勢を踏まえ、日本が孤立することのないように留意をしつつ、日本にとって最適な対応を総合的に検討してほしい」という発言があり、当面、これまでの議論を続けるという政府のスタンスを明らかにした。 IFRSのカナダ・韓国での適用状況 事務局(金融庁)より、カナダ、韓国ともIFRS適用についておおむね順調に適用されているという報告があった。しかしそれを受け、佐藤行弘委員(三菱電機常任顧問)から、経済産業省企業財務委員会が、韓国高麗大学のジョン・ソクウ教授を招請し行った「韓国でのIFRS導入について」の講演の中で、「韓国でのIFRS適用はほぼ問題なく進捗したが、企業間の比較可能性が低下し、また海外からの投資、特に欧州からの投資が低下した」という指摘があったことを報告した。 経団連の当面の対応 谷口進一委員(新日鐵住金常任顧問)から、日本経済団体連合会(経団連)企業会計委員会の立場から「国際会計基準(IFRS)への当面の対応について」報告があった。 原則主義といわれるIFRSを実務で適用する際には様々な課題が生ずることから、円滑な任意適用を進めるために、具体的解決策を互いに紹介し合い、後に続く企業に実例としてフィードバックする必要がある。 具体的には、ゼロベースで会計実務を変更しなければならないという誤解や、当期利益に代表されるマネジメントの考え方からは受け入れ難い基準があること、さらに開示負担が過大であることなどが挙げられる。 これらの課題に実務的に対応していくためには、タイムリーにガイダンスを作成し、データベース化等により実務を共有する仕組みが必要であり、また、受け入れ難い基準についての改善、開示の簡素化等をIASBに要求していく必要がある。そのために、我が国の発言力を高めていかなければならない。 現在、IFRS適用企業が8社、任意適用公表企業が8社である。報道等により明らかになっている適用を検討している企業を含めると、約60社が任意適用の対象企業である。この約60社の時価総額は2月末ベースで約75兆円。2012年末の市場の時価総額は韓国が100兆円、ロシア70兆円、シンガポール65兆円であり、ロシア・シンガポールの時価総額に匹敵する。また、我が国の時価総額上位50社のうち約4割の企業が任意適用の公表あるいは検討を行っていると考えられる。 今後の検討課題として、IFRSの適用に関する予見可能性を高められるような時間軸(ロードマップ)を示すことが重要であること、受け入れ困難な基準については、我が国での取扱いのプロセスを明確化していく必要があることを挙げ、その場合でも、諸外国の証券市場での使用を可能とするため、ピュアなIFRSの適用が必須である。 補足説明として、経団連企業会計委員会委員長の釜和明委員が、IASBに対する発言力を高めていく必要性について、リース、収益認識の開示などに我が国の意見が十分に反映されていないという懸念を示した。 ロードマップ また、別の委員から、「グローバルな枠組みが構成されていく中で、2012年7月のSECの最終報告書で米国はコンドースメントアプローチを採用し、US-GAAPを残すことが明確になった以上、IFRSの強制適用はないという、我が国の企業会計制度の枠組みの方向性を明確化するタイミングに来ているのではないか」という意見があった。 ロードマップについて事務局から、「時間軸を早く示すべきであるという意見が多々あることは承知しているが、国際情勢の変化もあり、容易ではないことはご理解いただきたい。とりあえずは、2012年7月に公表された「中間的論点整理」の検討課題を順番にやっていく」との考えを示した。さらに、もし強制適用になった場合には、ロードマップがないと困るのではないかという意見に対し、「その場合は、強制適用が決まった時点からその先どういう工程で進めるのかという強制適用のロードマップを、その時点で作ることになる」という考えを示した。 金融庁、基準作成サイド、企業サイドの意見がかみ合っておらず、2012年の「中間的論点整理」以降、議論が進んでいない現状が明らかになった。 (了)
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《速報解説》 商業・サービス業・農林水産業活性化税制の創設─平成25年度税制改正
《速報解説》 商業・サービス業・農林水産業 活性化税制の創設 ─平成25年度税制改正─ 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成25年1月29日に閣議決定した平成25年度税制改正大綱(本稿公開時点では改正法案が参議院にて審議中)において、中小企業活性化のために設備投資を促進する税制が創設された。 具体的には「商業・サービス業及び農林水産業を営む中小企業等の経営改善に向けた設備投資を促進するための税制措置の創設」という(改正法案では租税特別措置法42条の12の3)。 ここではその内容について解説する。 税制の概要 中小企業等が器具備品及び建物附属設備を取得した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除(当期の法人税額の20%が上限)を認める税制措置を創設する。 ただし、下記の要件を満たす必要がある。 〔イメージ図〕 (了)
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後発的事由による更正の請求と未分割財産
後発的事由による更正の請求と 未分割財産 税理士 小林 磨寿美 解 説 1 申告期限後3年以内に分割取得した財産についての配偶者の税額軽減等の適用 配偶者の税額軽減の特例及び小規模宅地等の減額特例については、未分割財産には適用されない。しかし、対象としたい財産が相続税の申告期限において未分割であっても、申告期限後3年以内に分割されれば、これらの特例の対象財産となることとなり、相続税の更正の請求を行うことで、軽減規定等の適用を受けることができる(相法19の2②ただし書、同32①八、措法69の4④ただし書、相基通19の2-4(7))。 もっとも、この規定の適用を受けるためには、この期限内申告書の提出時に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出していたということが必要となる(相規1の4③二、措規23の2⑦五)。 ところで、平成23年12月改正により、一般の場合の更正の請求期間が原則として法定申告期限から5年となったことにより、上記の場合の更正の請求期限は、相続税法32条1項の「事由が生じたことを知つた日の翌日から4月以内」と、国税通則法23条1項の「法定申告期限から5年以内」のいずれが適用されるか疑問が生じる。 もともと、後発的事由による更正の請求の規定は、既に確定した課税要件事実が、遡って変動することとなった場合に、その事由が生じた日から一定期間に限り、更正の請求ができる旨を定めたもので、国税通則法23条2項の他、各個別税法において設けられているものである。そしてこの規定は、課税要件事実の変動により、課税の根拠が失われたことに対応したものであり、「確定済みの租税法律関係を変動した状況に適合させるために認められた救済手続」(金子宏『租税法(17版)』721頁)という性格のものである。 そして、遺産の分割は、相続開始の時に遡ってその効力を生ずることから(民909)、申告期限後に遺産分割が行われた場合、期限内に行われた当初申告は、「国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたこと」により、その申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときという要件を満たすこととなり、相続税法32条1項と、国税通則法23条1項の両方の規定がそのまま適用できることになる。 また、国税通則法23条2項括弧書に、「納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。」とあることからも、後発的事由が生じた場合の更正の請求の期限が後になる場合を除き、一般の更正の請求の規定が優先されることが分かる。 2 分割期限を伸長した場合にやむを得ない事情が解消され特例の適用を受ける場合 相続税の申告期限から3年以内に遺産分割を行うことが、配偶者の税額軽減の特例及び小規模宅地等の減額特例の規定の適用を受けるための要件であるが、やむを得ない事情があるときは、税務署長の承認を得て、3年という分割制限を伸長することができる(相令4の2①、措令40の2⑪、相基通19の2-15)。 そして、分割できることとなった日から4ヶ月以内に分割することを条件に、更正の請求により、これらの規定の適用を受けることができることとなる(相法19の2②括弧書、措法69の4④括弧書)。 この税務署長の承認を得るためには、申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までに、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出する必要がある(相令4の2②④、相規1の4②、同1の6②、措令40の2⑪)。 この特例については、上記のような承認を必要とすること及び平成23年改正前は一般の場合の更正の請求期限に間に合い得なかったことから、分割後4ヶ月以内の更正の請求が特例適用のためには必要と考えられていた。 しかし、分割取得財産について軽減特例等の適用対象とするための要件は、その分割可能となった日から4ヶ月以内に分割により取得することのみであることから、この分割期限を満たしたならば、3年以内の分割規定と同様に、相続税法32条1項と、国税通則法23条1項の両方の規定がそのまま適用できることになり、そのいずれか遅い日までに更正請求書を提出すればよいこととなる。 3 相続させる旨の遺言があった場合 遺産全部を一部の相続人に「相続させる」旨の遺言は、遺言書の記載からその趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産の分割の方法を定めた遺言であり、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに遺産全部について分割の効果が発生し、もはやその遺産について再度の分割がなされる余地はなく、また、その相続人に法定相続分を超える遺産を相続させることになるから、遺産分割方法の指定と同時に相続分の指定がなされたものと解すべきであるとした裁決例がある(平23.12.6裁決)。 この判断は、最高裁平成3年4月19日第二小法廷平成1年(オ)174号土地所有権移転登記手続請求事件判決(民集45巻4号477頁)をベースとしたものである。 判決では、「「相続させる」趣旨の遺言は、正に民法908条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである」としている。 一方、実務的にはすべての相続人及び受遺者の合意により、遺言に従わない遺産分割が認められている。そうすると、相続税の申告期限までに遺言に従うかどうか、関係者間で方針が定まらない場合に、3年以内の分割見込書を提出し、その後遺産分割がされたとして配偶者の税額軽減や小規模宅地等の減額特例を適用したところで更正の請求書を提出できるかという疑問が生じる。 しかし、上記裁決、そして最高裁判決の趣旨からは、このような分割見込書の提出は遺産が未分割であるという前提を欠くものとなり、国税通則法23条1項に該当し得ないこととなる。 4 当初申告において特例の適用を選択した宅地等を変更する場合 小規模宅地等の減額特例の規定では、「第1項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法第27条又は第29条の規定による申告書(これらの申告書に係る期限後申告書及びこれらの申告書に係る修正申告書を含む) に第1項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。 」(措法69の4⑥)とあることから、当初申告においてこの特例を適用した宅地について、税務調査等によりその要件に該当しないことを指摘された場合に、別の宅地について特例の申請を前提に修正申告を行うことも可能とされている。 しかし、納税者が申告期限までに適法に選択した宅地について、申告期限後に別の宅地を選択した方が納税額が少ないことが分かったとしても、更正の請求によって選択替えの変更はできない。さらに、同特例の適用を受けた相続人が他の相続人と共有している宅地であっても、申告期限後においては選択した適用者を変更することはできない。 これに対し、当初の遺産分割協議が錯誤により無効とされ、申告期限後3年以内に改めて分割がされた場合、小規模宅地等の減額特例が適用できるかという問題がある。法律行為が無効とされた場合、その行為は始めから生じなかったこととなる。したがって、3年以内分割特例の適用は、選択替えには該当しない。しかし、3年以内分割特例については、上述のように、期限内申告書の提出時の「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出が要件となることから、やはり、この場合も特例の適用は受けられないこととなり、国税通則法23条1項の前提を欠くこととなる。 (了)