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民法改正(中間試案)―ここが気になる!― 【第6回】「約款」
民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第6回】 「約款」 弁護士 中西 和幸 1 約款の意義と現行法 民法改正においては、約款の項を新たに設け、「多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であって、それらの契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいうものとする。」と定義している。 すなわち、本来、契約は当事者間での合意であり個々に内容が定まることが原則であるところ、多数の相手方と画一的に内容を定めた契約を締結し、個々の同意がなくともその内容について一律の変更等ができるという例外を認めた契約方法が「約款」である。 「約款」については、現行民法上は全く規定がない。しかし、公共交通機関における標準鉄道利用運送約款(鉄道事業法)、道路運送事業における約款(道路運送法)、電気通信事業者が作成する約款(電気通信事業法)、損害保険や生命保険における約款(保険業法)など、法令に根拠を持つものがある(法的拘束力が完全に生じるかどうかは別問題である)。 これを、民法上正面から認めるという提案が中間試案からなされているのである。 2 約款の効力と組入要件 (1) 約款に拘束力が生じる根拠 契約による合意が拘束力を生じるためには、当事者間の合意が必要である。 そこで、中間試案は、現代社会においては大量の定型的取引を迅速かつ効率的に行うことが求められる場面が多く、これを実現するため、契約の一方当事者があらかじめ一定の契約条項を定め、個別の交渉を省き画一的な内容の契約を結ぶことが必要であるとして、約款を明文化して法的安定性を図ろうとしている。 そして、約款を「多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であって、それらの契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいうものとする。」と定義している。 こうすることにより、ある者(通常は事業者)と商品やサービスを購入する等の取引を行った場合、約款が作成されていれば、その契約者は常にその約款に拘束されることになるのである。 約款による合意においては、特定の条項については合意しない、あるいは特定の条項は変更したい等の当事者の意思は考慮されないという、一方的な拘束力が生じることになる。そのため、現行法下では法令の規定に根拠を持ち、監督官庁の管掌の下に用いられている。 もっとも、法令の規定がなくとも一定の限度で裁判例が約款の拘束力を認めている例があるが、中間試案の補足説明で紹介されている裁判例は、警備契約が1例と、決して多くはない。 そこで、約款を民法において規定し、かつ監督官庁による管掌がない状態にしようというものである。 (2) 約款が有効となる要件 ① 契約の当事者がその契約に約款を用いることを合意すること ある意味当然の要件である。そして、その合意のためには、相手方が当該約款を用いた契約を締結することに合意するか否かを判断できるよう、契約締結時までに相手方が約款の内容を認識する機会が確保されている必要がある。 もっとも、どのような場合に上記要件を満たすかについては、中間試案本文では、約款使用者の相手方が合理的に期待することができる行動を取った場合に約款の内容を知ることができる状態が約款使用者によって確保されていれば足りるとするが、結局のところ、その契約の内容や取引の態様、相手方の属性、約款の開示の容易性、約款の内容の合理性についての公法的な規制の有無等の事情を考慮して定まるとして、実務上は明確になっていない。 ② 契約締結時までに、相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保されていること およそ知ることもできなかった約款については、組入合意があってもその合意に拘束力を認めることはできないため、当然の要件である。そして、約款を明示的に提示することを必ずしも原則的な要件とはせず、具体的な開示の方法については個別の契約ごとに様々な要素を考慮して判断することとしている。 例えば、約款をウェブサイトに掲示ししたり、商品の外装箱に印刷したりするような、取引前に容易に確認できる方法が考えられる。また、店舗に掲示する方法や交通機関のように駅窓口で閲覧できる方法も考えられる。ただし、相手方が遠方に出かけたり取り寄せるまでに日数がかかる場合などは、その要件を満たさないとみなされる可能性もあろう。 3 不意打ち条項 (1) 不意打ち条項 本文では、相手方が約款に含まれていることを合理的に予測することができないものは、約款に記載されていても契約としての効力が生じない旨規定している。そして、その判断要素について、他の契約条項の内容、約款使用者の説明、相手方の知識及び経験その他の当該契約に関する一切の事情に照らして判断するとしている。 これが、いわゆる「不意打ち条項」に関する規定である。 (2) 不意打ち条項に関する異議 こうした不意打ち条項に関する規定は、消費者保護的な発想から生まれている。しかし、民法に消費者保護的な規定を設けることに意義があるかどうかの異論が根強い。 また、かかる不意打ちについては、補足説明では「同時に不当条項であると評価される場合が多く、不当条項に該当しない場合であっても説明義務・情報提供義務違反の問題として処理することができることから、敢えて不意打ち条項に関する規定を設ける必要はないとの指摘もある。」とあり、法的意義を疑問視する意見もあるなど、いずれにしても改正案の成立について予想はしがたい。 4 約款の変更 一度約款により契約が成立したとしても、約款作成者としては約款を画一的かつ一律に変更を必要とする場合もあろう。しかし、相手方としては、知らないうちに契約内容が変更されることは、合意による契約という大原則に抵触することから、約款については変更が重要な問題となる。 この点、中間試案では、約款の変更について の4つの要件を満たす場合に、相手方に約款を変更する旨及び変更後の約款の内容を合理的な方法により周知するという手続を経ることにより、効力を生ずるものとするとしている。 例えば、ウェブサイトへの表示、店頭販売の商品については店頭での掲示、相手方に対する約款変更の通知書や電子メールを送付することなどが考えられる。 ただし、この点については引き続き検討するとされており、改正案に盛り込まれるかどうかは不明である。 5 不当条項規制 中間試案では、当該条項が存在しない場合に比し、約款使用者の相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重するものであって、その制限又は加重の内容、契約内容の全体、契約締結時の状況その他一切の事情を考慮して相手方に過大な不利益を与える場合には、無効とするものとする、という不当条項規制を設けることを提案している。 確かに、かかる条項を設けることにより相手方、通常は消費者を想定していることから、消費者保護につながるが、このような消費者保護の条項を設けるかどうかは、不意打ち条項と共に根強い反対がある。 また、実務上は、ある程度の縛りがかかっているとはいえ、「相手方に過大な不利益を与える場合」の判断に迷うところであろう。 6 実務への影響 (1) ビジネスチャンスの拡大等 この条項が明確になれば、一般的な事業者が約款を活用することが可能になるように見える。 確かに、現行法上、約款にかかる法規制は、特別法に規定されているのみであり、一般の事業者が利用できるかどうか不明確である。そのため、結局のところ契約の形式をとり、ひな形に同意しない場合は特約条項を設けるか、契約を断念するかをひな形作成者と相手方の間で選択せざるを得なかった。また、契約変更の場合、個別に何らかの承諾を得てこれを契約書に残す方法を使用するしかなかった。 それが、約款の導入により事業者にビジネスチャンスが広がること、つまり相手方に一律の内容の契約を締結させることができるため契約を断念するケースが減少したり、特約条項の管理にかかる負担を軽減することが可能となろう。 (2) 契約者拡大の裏に 確かに、契約を断念してきた相手方と約款取引により契約できることになる、というメリットがあるように見える。 しかし、ひな形を用いた場合に各種の調整や特約が必要な相手方と、ひな形のような調整なしに契約が約款により成立したとしても、その相手方は一定の不満を有しているのであって、何らかの機会にその不満が表に出ることも考えられよう。すなわち、相手方の不満を先延ばしにする機能しか有していないとも評価することができる。 すなわち、対象者の拡大と管理コストの削減は可能であるが当然これに伴うトラブルが一定程度発生することも念頭に置く必要があろう。 (3) 約款取引の拡大 約款取引の適用が拡大することにより、便利となる取引も考えられる。 例えば、コンピュータソフトウエアを消費者に販売する場合に、著作権に関する各種の同意やインストールする端末に関する制限に関する同意等々を得ることについて、現行法上は、シュリンク・ラップ契約(商品の封を破ることにより契約の成立がみなされる考え方)や、ユーザー登録などの方法により個別の契約をしてきた取引について、効率化が図れよう。 また、店頭にて不特定多数の者に商品を販売する場合であっても、その商品の購入者に一定の契約を成立させることができるため、様々な活用が考えられよう。例えば、中間試案において契約の趣旨が重視されるところ、契約の趣旨や必要な説明を総て約款取引にしておくことで、合理的な拘束力を不特定多数の者に発生させることができよう。 (4) 消費者保護的な条項との関係 約款による取引の場合変更が容易かどうか不明であること、また不意打ち条項や不当条項が禁止される結果、約款に対するトラブルが発生することが予想されるが、消費者だけでなく事業者(下請業者等の力関係に差がある場合を除く)との間でも不意打ち条項や不当条項が適用されるリスクがある。 (5) 総括 以上の通り、約款制度が明文化されることにより、一定の業務の効率化が可能であったり、ビジネスチャンスの拡大にもつながるが、とはいえ、別のトラブルが発生することも考えられる。 現行法下でも、各種事業者により様々な工夫がなされ、約款取引そのものやこれに準じた取引が行われているため、必ずしも本改正が必要かどうかは分からない(そのため、約款に関する改正をしない選択肢も、中間試案では示されている)。 実際に約款を導入すればメリットがある事業者であれば、現行法下でも有効な手段は考えられるので、法改正にかかわらず、約款に準じた考え方で業務の効率化を検討してよいであろう。 (了)
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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第8回】「スコアリングデータから優秀な会社の傾向を読み取る」 ~財務諸表の信頼性スコア~
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第8回】 「スコアリングデータから 優秀な会社の傾向を読み取る」 ~財務諸表の信頼性スコア~ 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 前回は、優秀な会社の傾向を読み取るにあたり、スコアリングモデルにおける「総合スコア」を取り上げた。 今回取り上げるのは、「財務諸表の信頼性スコア」である。 財務諸表の信頼性スコアは、第3回で述べた5つの視点のうち、「正確性」、「安定性」、「リスク管理」から適切なKPIを抽出して算出され、経理財務部門が作成する財務諸表の信頼性のレベルを表すスコアである。 では、実際の会社を評価した財務諸表の信頼性スコアから、どのような傾向を読み取ることができるだろうか。 財務諸表の信頼性スコアの全体分布 今回も、平成18年に行った134社によるスコアリングデータを紹介する。母集団は134社である(図表11)。 図表11 スコアリングモデルに参加した会社 (再掲) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 まず、財務諸表の信頼性スコアの分布を見ていただきたい(図表16)。 図表16 財務諸表の信頼性スコアの分布 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 前回の総合スコアの場合と同様、財務諸表の信頼性スコアの分布も、全体として平均値周辺に集中し、正規分布に近い形状が形成されている。スコアリングモデルの有効性の観点からは、134社のサンプルであっても、母集団の傾向を十分説明できるだけのモデルであり、そこで得られたスコアの順位は母集団における自社のレベルの目安になることを示している。 業種別、株式公開別に見た財務諸表の信頼性スコアの傾向 次に、財務諸表の信頼性スコアの傾向を、製造業と非製造業の業種別、株式公開別に分析した結果を見てみよう(図表17)。 図表17 財務諸表の信頼性スコアの業種別、株式公開別傾向 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 結論を先取りすれば、財務諸表の信頼性スコアにおいて、業種別の優劣の傾向は見られなかったが、株式公開別には、上場企業の方が非上場企業よりも優れているという結果が出た。 すなわち、財務諸表の信頼性スコアについて製造業と非製造業を比較すると、製造業の平均値が高いものの、スコアのバラツキや分布から判断すると、いずれが優れているとは判断できない。 他方、上場企業と非上場企業を比較すると、上場企業の平均値が高いだけでなく、標準偏差から判断できるスコアのバラツキが小さくなっている。さらに、最大最小差では、非上場企業のバラツキが小さいものの、上場企業の方が非上場企業よりも高いレベルにスコアが分布している。 つまり、スコアリングデータでは、上場企業の方が、非上場企業よりも、財務諸表の信頼性スコアが高いという結果が出ているのである。 これを経験則に照らしてみると、上場企業は、外部からの監視によるガバナンスが働くだけでなく、監査法人による会計監査によって、非上場企業よりも財務諸表の信頼性レベルが高いと考えられる。 スコアリングモデルによる財務諸表の信頼性スコアの分布は、そのような経験則を裏付ける結果となっている。 他の指標との関係分析 総合スコアの場合と同様、スコアリングモデルで算出した財務諸表の信頼性スコアが持つ意味をさらに理解してもらうため、経営者や読者のような外部のステークホルダーに馴染みのある他指標とスコアの関係を分析した結果を紹介する。 今回は、財務諸表の信頼性スコアとの関係を検討する他指標として、「個別決算数値確定日数」、「全従業員に占める経理部門の割合」を使ってみる。 今回も、前回の総合スコアの場合と同様、平均の差の検定という手法で関係分析を行う。 財務諸表の信頼性スコアと他指標の関係 財務諸表の信頼性スコアの上位25社、全134社、下位25社の3グループについて、2つの他指標の平均値を算出し、財務諸表の信頼性スコアと平均値の関係を分析した結果を以下にまとめた。 改めて述べると、上表の「負」とは、財務諸表の信頼性スコアが高いグループほど他指標の数値が小さくなり、財務諸表の信頼性スコアが低いグループほど他指標の数値が大きくなる関係が、グラフにおいて見られることを意味する。 参考までに、グラフの形が「正」であれば、財務諸表の信頼性スコアが高いグループほど他指標の数値が大きくなり、財務諸表の信頼性スコアが低いグループほど他指標の数値が小さくなる関係が、グラフにおいて見られることを意味する。 関係分析では、財務諸表の信頼性スコアが高い会社ほど、個別決算数値確定日数が短く、全従業員に占める経理部門の割合が低いという結果となった。 以下、その結果が示唆する意味を読み解いてみよう。 (1) 個別決算数値確定日数 財務諸表の信頼性スコアと個別決算数値確定日数に、一定の関係が見られるだろうか(図表18)。 図表18 財務諸表の信頼性スコアと他の基本的指標との関係 (個別決算数値確定日数) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 「財務諸表の信頼性スコア」は、「正確性」、「安定性」、「リスク管理」のレベルを表すスコアであり、財務諸表の信頼性が高い会社は、規程やマニュアルの整備と運用により、日常の会計事象のリスクを正しく把握して、会計処理に反映し、決算数値を早期に確定できていると考えられる。 逆に、監査や経理指導を行う読者なら見聞されていると思うが、実際の会社の事例から経験的に分かることとして、決算数値を早期に確定できる会社は、会計事象発生から記帳までのリードタイムが短いはずなので、実在性、網羅性、評価の妥当性、期間配分の適切性等の点で間違いが少なく、結果として財務諸表の信頼性が高いレベルに維持されることが多いだろう。 そこで、グラフを見てみると、財務諸表の信頼性スコア上位25社の日数が最も短く、財務諸表の信頼性スコア下位25社の日数が最も長いという負の関係が見られる。まさに、財務諸表の信頼性が高い会社ほど決算数値の早期確定ができるという経験則が、客観的なデータとして証明されている。 (2) 全従業員に占める経理部門の割合 次に、財務諸表の信頼性スコアと全従業員に占める経理部門の割合に、一定の関係が見られるだろうか(図表19)。 図表19 財務諸表の信頼性スコアと他の基本的指標との関係 (全従業員に占める経理部門の割合) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 グラフを先に見ると、財務諸表の信頼性スコア上位25社の割合が最も低く、財務諸表の信頼性スコア下位25社の割合が最も高いという負の関係が見られる。もっとも、上位25社と全社平均の差は、下位25社と全社平均の差に比べて僅かに過ぎない。 負の関係だけを捉えれば、財務諸表の信頼性が高い会社は、少数精鋭の省力化された経理部門を持っており、財務諸表の信頼性が低い会社は、相対的に肥大化した経理部門を持っていることを示唆していると理解できなくもない。 しかし、むしろ注目すべきなのは、財務諸表の信頼性が低い下位25社の経理部門が肥大化している点である。 つまり、いたずらに経理部門の人員を増やしても財務諸表の信頼性は低くなるということであり、一定の省力化が必要ということを物語っている。 他方、上位25社と全社平均の差が僅少なのは、経理部門の人数を極端に省力化しても財務諸表の信頼性が高まるわけではなく、適正規模が必要であることを、併せて示唆していることには留意が必要だろう。 次回は、スコアの優秀な会社の傾向を読み取る最後の指標として「業務の有効性・効率性スコア」を取り上げる。 (了)
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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第13回】「精神病床を持つ意義」
〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第13回】 「精神病床を持つ意義」 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 1 5疾病5事業へ 地域医療計画における重点領域として、精神系疾患が加えられ、5疾病5事業に拡大される。図表1に示すように、精神系疾患の入院患者数は循環器系疾患やがんよりも多く、また近年の増加が社会問題にもなっていることが背景として考えられる。 図表1 推計入院患者数の推移 精神系疾患というと、慢性期的な精神病院を想起することが多いものと予想されるが、がん患者にもせん妄が認められることが少なくない。せん妄は、がん患者において頻度の高い精神症状であって、術後の30~40%、高齢入院患者の10~40%、終末期患者の30~90%程度に認められる。 また、精神系疾患の患者であっても心筋梗塞や脳卒中、外傷で救急搬送されてくることもあるわけであり、当該疾患のフォローアップ体制を有することはこれからの急性期病院にとって新入院患者を獲得するための重要な鍵を握る。 2 重症患者への対応 診療科別の管理会計を総合的な診療体制を有する病院で実施すると、入院医療で最も利益率が悪いのが精神科であることから、単純に考えると不採算であると捉えることもできる。しかしながら、図表2に示すように、DPC/PDPSにおける調整係数をみると精神病床を有する病院が高い傾向がある。 図表2 調整係数 これは精神系病床を有する病院は、重症患者に対応しているので、医療資源の投入量が多く、そのことが係数で補填されていることが予想される。 現存する暫定調整係数はやがて廃止されるものの、置換えが行われていく機能評価係数Ⅱにおけるカバー率係数、基礎係数の実績要件である診療密度などには、精神病床を有する病院が有利な傾向が出るであろうことから、筆者は精神病床=不採算と決め打ちするのは妥当ではないものと考えている。 さらに、機能評価係数Ⅰで評価されている総合入院体制加算は、急性期病院にとって金額的なインパクトが大きい。総合入院体制加算を算定するために、必ずしも精神科を標榜する必要はなく、24時間対応できる体制(自院又は他院の精神科医が、速やかに診療に対応できる体制を含む)があればよいことになっているものの、一般的には精神科を標榜する医療機関が多いことであろう。 総合入院体制加算は、急性期病院にとっては非常に重要な意義を有しており、機能評価係数Ⅰで3%弱の評価が行われており、500床程度の総合病院であれば年間約1億円の増収になることが予想される。 3 急性期精神病床の配置状況、慢性期精神病床のこれから 精神病床に関する施設基準の届出状況をみると図表3に示すように、精神科身体合併症管理加算が最も多く、ついで精神療養病棟入院料及び認知症治療病棟入院料1となっている。 図表3 精神科に関連する施設基準の届出状況 精神科身体合併症管理加算は、精神科を標榜する場合に、精神科以外の診療科の医療体制との連携がある病棟において、精神病床に入院している身体合併症を併発した精神疾患患者に対して、精神疾患、身体疾患両方について精神科を担当する医師と内科又は外科を担当する医師が協力して、治療が計画的に提供されていることが評価されたものであり、当該疾患の治療開始日から7日間算定することができる(1日につき450点)。 多くの疾患が対象とされており、金額的な影響も大きいことから、精神科を標榜する場合には届出を行うことが必須となるであろう。 また、精神療養病棟入院料については、慢性期的な患者が対象になり、一定の需要を期待することができる。しかしながら、精神科地域移行実施加算もあり、入院期間が5年を超える患者など長期入院については減少させ、地域に戻すことが政策として企図されている。 したがって、慢性期的な精神医療については、診療報酬が大幅にアップするという期待は薄いものと筆者は予想している。 認知症治療病棟入院料1については、30日以内が1日につき1,761点、31日から60日以内が1,461点と比較的高い点数が設定されており、ADLにかかわらず認知症に伴う幻覚、妄想、夜間せん妄、徘徊等で、その看護が著しく困難な患者が対象となるため、運用の仕方によってはそれなりの収益性を期待することができるものと予想される。 4 救急と精神系疾患 救急医療を断りなく行えば一定の確率で精神系疾患の患者が搬送されてくることであろう。それに備えて、2012年度診療報酬改定では、一般病棟におけるせん妄やうつのような精神科医療を想定した精神科リエゾンチーム加算が新設された(週1回200点)。 届出を行うことができる医療機関は少ないであろうが、10年後には高機能な急性期病院では当たり前の取組みになるものと予想される。精神科医、専門性の高い看護師、薬剤師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理技術員等の多職種からなるチームを編成しなければならないなど、クリアすべき課題も多いが、積極的な算定を目指したいところである。 さらに、厚生労働省が年度ごとに行っている「救命救急センターの評価結果」において、特定の診療科・診療領域に限って救急搬送を受け入れている場合には是正を要求されている。実際に救命救急センターを有する病院の54%は精神病床を有しており、救急医療に積極的に取り組む高機能な急性期病院においては精神系疾患への対応は重要な鍵を握るのであろう(二次救急医療機関では86%が精神病床を持っていない)。 なお、2012年度診療報酬改定で、精神科救急患者地域連携紹介加算及び同受入加算が新設され、緊急入院から60日以内に転院した場合の評価が行われたことも注目される。一般病院では7日以内であるのに対して、60日と長めの期間設定が行われており、これらを有効に活用することも重要である。 (了)
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女性会計士の奮闘記 【第7話】「提案は慎重に」
女性会計士の奮闘記 【第7話】 「提案は慎重に」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 〈ワンポントアドバイス〉 事業承継税制は一例ですが、会社の将来にわたって経営に大きな影響及ぼす制度は、慎重に適用しなければなりません。安易に制度の適用を勧めると、かえってお客様の信頼を失ってしまうことになります。 時間をかけて、あらゆる角度から考える必要があります。勇み足は禁物。最悪のシナリオも想定して、お客様に伝えましょう。 (了)
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神田ジャズバー夜話 「3.辛い」
昨夜の閉店間際、ゆっくりと扉が開き田中さんが顔を覗かせた。 「やっぱり誰もいないね」 「いらっしゃい。いつものことです」 田中さんは空いていれば必ずカウンターの壁と接した端に座る。この時間だともうベロベロで、いきなりメーカーズ。そして一杯で帰る。 「メーカーズでいいのかな」 「あのさ、ウンポコかけてくれる」 田中さんはイヤなことがあるとバド・パウエルの『ウン・ポコ・ロコ』を聴く。 「なんかあったの」 「あったんですよ」 『ウン・ポコ・ロコ』が流れると田中さんは眼を閉じ腕を組んで聴いていて、そのまま寝てしまった。グラスは口を着けないままカウンターに置かれている。 CDが終わり、そろそろ閉店時間。ちょうど田中さんも起きた。 「あれ、もう終わりなの」 「はい、じゃあ1,100円です」 酔っぱらいにはキビキビと対応する。店主が客に冷たいだの暖かいだのは、この状態じゃどうせ伝わらない。 「え、一杯しか飲まなかった?」 「はい」 田中さんはあちこち探してようやくコートのポケットに財布を見付け、カウンターの上に金を置いて帰った。グラスの氷はすっかり溶けていた。 そして今夜も田中さんが来た。 「私、昨日来ました?」 「ええ、メーカーズ一杯、氷溶かして帰りましたよ」 「覚えてないんですよね」 「なにがあったんですか」 「いや、実はですねえ・・・」と田中さんは始め「気がついたら家の玄関で寝ていました」で終わった。部下に裏切られたというよくある話だった。 「そりゃ辛かったですね」 「ええ、辛いですよ」 早い時間の田中さんは4杯飲む。シメイの赤、そして白、メイカーズマークのロック、最後はブラッディ・メアリで〆る。田中さんはこの流れを「起承転結」だという。たまにメイカーズが抜けて3杯のときは「序破急」になる。 今夜も〆の4杯目、ブラディ・メアリにタバスコを落とそうとすると途中でトウガラシの固まりがつかえてなかなか出ない。逆さのままビンの尻を手でポンポンするとドバッと入った。 「マスター、今日のちょっと辛くない」 「辛い」と書いてカライともツライとも読む。田中さんは今夜もまた「辛い」目に合うことになった。 「気のせいですよ。体調悪いんじゃないですか」 (了)
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《速報解説》 所得税基本通達等の一部改正(7/9公表)について
《速報解説》 所得税基本通達等の一部改正(7/9公表)について 税理士 内山 隆一 1 はじめに 平成25年7月9日付けで、国税庁ホームページにおいて、平成25年度税制改正等に伴う下記の所得税関係の通達改正の内容が公表された。 上記の通達改正は、平成25年度税制改正により創設された各種政策促進税制に関する通達の新設などが中心であるが、そのほか、社会保険料の新たな納付制度にあわせた所得控除の通達改正、震災特例法の設備投資・雇用促進のための特例の改正に関する通達改正がなされている。 上記以外の通達改正は、主に、法令改正に伴う用語・引用条文等の整理、廃止された規定に関する定めの廃止である。 本稿では、今回の通達改正のうち、実務家が注目すべきものを抜粋して紹介し、その内容について解説する。 2 前納した社会保険料等の特例 改正前は、社会保険料控除等の対象となる保険料等に限り、1年以内の期間の前納保険料等は、その全額を支払った年において控除することができることとされていたが、国民年金保険料の2年分前納制度の導入にあわせ、1年を超える期間に係る保険料等であっても、法令に基づいた一定期間の前納保険料等については、その全額を支払った年において所得控除ができることとされた。 また、この特例を適用せずに確定申告書を提出した場合には、更正の請求によりこの特例を適用することはできない旨が明らかにされた(所基通74・75-2)。 3 政策促進税制の創設に伴う通達の整備 平成25年税制改正により創設された次の租税特別措置法による特例について、通達が新設され、あわせて既存通達の整理がなされた。 新設された通達のうち、注目すべきものを紹介する。 ① 生産設備等の範囲(措置法通達10の5の2-1) 生産等設備投資促進税制の対象となる生産設備等の範囲及び対象とならない資産(事務所、寄宿舎等建物、乗用自動車など)が明らかにされた。 ② 特定中小企業者であるかどうかの判定の時期(措置法通達10の5の3-1) 中小企業設備投資税制の適用対象者である特定中小企業者に該当するかどうかは、経営改善設備等を事業の用に供した日の現況により判定することとされた。 ③ 中小企業者であるかどうかの判定の時期(措置法通達10の5の4-1) 所得拡大促進税制の適用対象者である中小企業者に該当するかどうかは、その年の12月31日の現況により判定することとされた。 ④ 税額控除等の順序(措置法通達41の19の4-4) 前述の税額控除が新設されたこと、また、電子証明書等特別控除が廃止されたことに伴い、各種税額控除等の控除順序が改正された。 (了)
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《速報解説》 消費税基本通達の一部改正(7/9公表)について~特定新規設立法人の納税義務の免除の特例と任意の中間申告制度に係る事項~
《速報解説》 消費税基本通達の一部改正(7/9公表)について ~特定新規設立法人の納税義務の免除の特例と任意の中間申告制度に係る事項~ アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆) 「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」及び「消費税法施行令の一部を改正する政令」(3/13公布)の成立に伴い、以下の事項について消費税基本通達及び申告書等の様式の一部改正が行われたため、その内容の確認をする。 上記4項目のうち、①消費税率改正に伴う事項は、税率引上げに伴う基準期間における課税売上高や課税仕入れに係る消費税額の計算に関する事項についての所要の整備を図ったものである。また、④社会福祉関係の非課税に係る事項についても、社会福祉事業に係る法律等の名称変更に伴う用語の置換えが中心である。 そこで本稿では、②特定新規設立法人の納税義務の免除の特例に係る事項と③任意の中間申告制度に係る事項について確認する。 なお、特定新規設立法人の納税義務の免除の特例の制度の概要については、本誌の創刊準備5号(2012年12月6日公開)掲載の拙稿「特定新規設立法人の納税義務の免除の特例と企業戦略」を参照されたい。 1 特定新規設立法人の納税義務の免除の特例に係る事項 (1) 特定要件の判定時期(消基通1-5-15の2)《新設》 改正後の通達では、新規設立法人が特定要件に該当するか否かは、基準期間がない事業年度開始の日の現況によることとされる旨が新設された。なお、設立事業年度に限らず、設立事業年度の翌事業年度以後の事業年度についても判定を行う必要がある点に留意すべき旨も明らかにされた。 (2) 法第11条又は第12条と第12条の2第1項又は第12条の3第1項の適用関係(消基通1-5-17) 本通達により、納税義務の有無の判定に特定新規設立法人の納税義務の免除の特例(消法12の3①)が加えられたことを確認している。 判定順序については、上記拙稿にも掲載した以下のフローチャートを参照されたい。 〈課税事業者判定フローチャート〉 (3) 新設法人又は特定新規設立法人の簡易課税制度の適用(消基通1-5-19) 本通達において、調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合の簡易課税制度選択届出書の提出制限(消法37②二)の規定の適用を受ける場合等を除き、消費税法12条の2第1項に規定する新設法人に加えて、同法12条の3第1項に規定する特定新規設立法人も簡易課税制度の選択ができることを確認している。 (4) 法第12条の3第3項の規定が適用される特定新規設立法人(消基通1-5-21の2)《新設》 平成22年4月1日以後に設立された法人は、基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(簡易課税制度の適用を受ける期間を除く)中に調整対象固定資産の課税仕入れ等を行った場合には、その調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間からその課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間は免税事業者になることはできないこととされている(消法12の2②)。 本通達は、消費税法12条の3第3項《基準期間がない課税期間中に調整対象固定資産を取得した特定新規設立法人の納税義務の免除の特例》の規定が適用される特定新規設立法人は、同条1項の規定により課税事業者となる特定新規設立法人のみならず、合併・分割等があった場合の納税義務の免除の特例により課税事業者となる法人も含むことを明らかにしている。 要するに、納税義務の判定において、法11条第3項の規定により課税事業者となる新設合併法人であっても、法12条の3第1項に規定する特定新規設立法人の要件にする場合には本通達の適用を受けることとなる。 これにより、調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合の納税義務に関する規定の適用範囲が拡大されることとなった。 なお、特定新規設立法人が当該調整対象固定資産を廃棄、売却等により処分した場合であっても、法12条の2第2項の規定が準用されるため、納税義務は免除されないことが明らかにされた(消基通1-5-22)。 * * * また、改正前は、設立1期目及び2期目の法人等は、基準期間がない法人として定義されていたが、今回の改正で基準期間がない法人に係る納税義務の免除の特例が、新設法人に係るもの(消法12の2)と特定新規設立法人に係るもの(消法12の3)に区分されたことによる用語の差替えを今回の通達改正で行っている。 2 任意の中間申告制度に係る事項 (1) 前課税期間の確定消費税額がない場合の任意の中間申告(消基通15-1-1の2)《新設》 直前の課税期間において免税事業者であった場合や還付申告書を提出している場合等、その直前の課税期間の確定消費税額がない場合であっても、6月中間申告対象期間の末日までに「任意の中間申告書を提出する旨の届出書」を提出しているときは、消費税額を0円とする任意の中間申告書又は仮決算による中間申告書を提出することができる旨が明らかにされた。 (2) 任意の中間申告書を提出する旨の届出書の効力(消基通15-1-1の3)《新設》 「任意の中間申告書を提出する旨の届出書」の効力は、「任意の中間申告書を提出することの取りやめ届出書」提出しない限り存続する旨が明らかにされた。 したがって、「任意の中間申告書を提出する旨の届出書」を提出した後の課税期間において免税事業者となった場合等であっても、その後の課税期間において再び課税事業者となったときは、6月中間申告書を提出することができることが明らかにされた。 なお、任意の中間申告制度の適用を受けている事業者が、その提出期限までに提出しなかった場合には、任意の中間申告書を提出することの取りやめ届出書の提出があったものとみなされ、中間申告、納付することができなくなるので注意されたい(消基通15-1-7)。 (3) 相続、合併又は分割があった場合の任意の中間申告書を提出する旨の届出書の効力(消基通15-1-1の4)《新設》 相続、合併又は分割があった場合における「任意の中間申告書を提出する旨の届出書」の効力は、相続により当該被相続人の事業を承継した相続人、吸収合併又は新設合併により当該被合併法人の事業を承継した合併法人、分割により当該分割法人の事業を承継した分割承継法人には、それぞれ及ばないことが明らかにされた。 3 申告書、届出書の様式の制定について 上記の消費税基本通達の改正に併せて、以下の消費税関係申告書等の様式が制定されているので、各自参照されたい。 (了)
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〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第1回】「申告業務に必要なこと」
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第1回】 「申告業務に必要なこと」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 〔はじめに〕 相続税申告業務には、「相続」という法律(民法)の基礎知識、「相続税」という税法の基礎知識のいずれもが必要となる。 加えて、相続税の財産評価を行う際に、土地(借地権を含む)の法令(建築基準法や借地借家法など)の基礎知識も必要となる場合がある。 細かなケースを含めてすべてを理解しようとすると、理解するまでにかなりの時間が必要となるため、相続税申告業務を専門にする方は別として、一般的なケースに限定し、まず必要な基礎知識を理解し、実際の実務で直面した問題についてはその都度、書籍や他の専門家に確認しつつ、業務を進めていく、ということが現実的な対応策となるだろう。 このため、「はじめての相続税申告業務」では、この一般的なケースに限定して、最低限、必要な知識を、相続の法律(民法)、相続の税金(相続税)の2つについて、理解していくことを目的としたい。 〔相続税申告業務の流れ〕 どのように相続税申告業務を獲得するか、また、報酬はいくらにすべきかという点は営業戦略の話となるため、この連載では省略するが、相続税申告業務を請け負った場合、どのように業務を進めていくのか、全体の流れをまず理解しておく必要がある。 その全体の流れに従って、最低限、必要な知識(民法、相続税)を理解していくことが、相続税申告業務を正確に行う最短の距離である。 したがって、まず、相続税申告業務の全体の流れについて学ぶこととする。 上記1から5の手続は、通常、他界した日から10ヶ月以内に完了させることになる。 これは相続税申告期限が、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内と定められており(相続税法27条1項)、通常は、相続の開始があったことを知った日は、他界した日となるからである。 また、相続税は、原則、現金で一括して申告期限までに納付することになっている(相続税法33条)。 したがって、相続税申告業務を進めるにあたって、相続税申告期限は重要な日となるため、どのように算定すべきか、しっかりと理解しておく必要がある。 ここは重要なポイントとなるので、具体例を用いて説明したい。 平成24年4月1日に他界した場合、他界した日の翌日(平成24年4月2日)を起算日として10ヶ月を計算すると、平成25年2月1日となる。 つまり、相続税申告期限は、他界した日の10ヶ月後の応当日になる。 平成24年4月2日に他界した場合、他界した日の10ヶ月後の応答日は平成25年2月2日となる。 ただし、応当日が土日祝日の場合には、土日祝日に該当しない翌日(応当日が土曜日の場合、翌々日の月曜日になる)が相続税申告期限になる(国税通則法10条2項)ので、このケースでは他界した日の10ヶ月後の応当日である平成25年2月2日は土曜日であるため、土日祝日ではない翌々日である平成25年2月4日が相続税申告期限となる。 上記で述べた相続税申告業務の全体の流れのうち、1から3は相続税申告が必要か否かにかかわらず、相続を完了させるためには行わなければならない手続である。 一方、相続税申告業務の全体の流れのうち、4及び5は相続税に特有の手続となる。 別の観点からいえば、相続税申告業務の全体の流れのうち、1から3は相続の法律(民法)上、必要とされている手続であり、4及び5は、相続の税金(相続税)上、必要とされている手続といえる。 「3 相続財産の分割協議」で、財産分けの合意ができないまま(「未分割」という)、相続税申告を行うこともあるが、その場合には、当初申告時においては、小規模宅地特例や配偶者税額軽減など特例が適用できず、結果として相続税の納税額が大きくなる(*)ので、通常は、この3を完了させ、財産分けの合意をした上で、相続税申告を行うことが大半である。 次回は、相続税申告業務の全体の流れについて、その内容の概略について見ていきたい。 (了)
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「生産等設備投資促進税制」適用及び実務上のポイント 【第5回】「特別償却・税額控除の適用を判断する際の留意点」
「生産等設備投資促進税制」 適用及び実務上のポイント 【第5回】 「特別償却・税額控除の適用を 判断する際の留意点」 マネーコンシェルジュ税理士法人 税理士 村田 直 ◆中小企業等投資促進税制との有利不利 本連載では「「生産等設備投資促進税制」適用及び実務上のポイント」として、第1回から概要、要件、手続などをご紹介してきたが、第5回となる今回は、実際に生産等設備投資促進税制を適用するに当たっての有利不利の判定、要件を満たさない場合の対処法などを解説する。 生産等設備投資促進税制の詳細は、これまでの連載で十分にご理解いただけたことと思うが、最終的なタックスプランニングにおいて、実務上の判断を左右する重要なポイントとしては、以下の5点が挙げられる。 実務においては、最初から生産等設備投資促進税制の適用が決まっているわけではなく、会社の状況から判断して、適用可能な優遇税制を検討し、それが複数ある場合には、どの税制を適用するのが最も会社にとって有利かを判断した上で、適用することとなる。 そういった場面において、上記5点は、有利不利を判断する際のポイントとなる。 例えば、既存の投資優遇税制として、中小企業等投資促進税制がある。 この制度は、中小企業者等が平成26年3月31日までの期間内に新品の機械及び装置などを取得し又は製作して国内にある製造業、建設業などの指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、基準取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除を認めるものである。 中小企業の投資優遇税制の中で、最も適用する機会の多いものであろう。 この中小企業等投資促進税制のポイントを、上記の生産等設備投資促進税制のポイントと比較する形で挙げると、以下のようになる。 特別償却の償却率はどちらも30%だが、税額控除の率では、中小企業等投資促進税制の方に軍配が上がる。同様に、税額控除限度超過額の繰越しが認められる点も中小企業等投資促進税制が有利である。 一方、対象となる資産は、生産等設備投資促進税制の場合は機械装置のみ、中小企業等投資促進税制の場合は、器具備品やソフトウェアなども対象になる、という違いがある。 また、中小企業等投資促進税制においては、取得価額要件や、税額控除の対象法人における資本金要件などの制限があるため、この点においては生産等設備投資促進税制が有利となる。 以上のように考えてみると、生産等設備投資促進税制を選択するケースとしては、例えば以下のような場合が想定される。 ◆要件を満たすためのひと工夫 以上のような有利不利をシミュレーションした上で、生産等設備投資促進税制を適用するとした場合には、本連載でも繰り返しご紹介してきた通り、以下の2つの要件を満たす必要がある。 ①の要件については、事前に予定している「生産等設備への年間総投資額」も含めたところで、「適用事業年度の減価償却費」を計算すれば、要件を満たすかどうか、おおよその見込みは立つだろう。 この段階で、もし要件を満たさないとしたら、どうすればよいだろうか。 この場合の選択肢は2つ。「生産等設備への年間総投資額」を増やすか、「適用事業年度の減価償却費」を減らすか、のどちらかである。 後者で要件を満たそうとすると、会計上、損金経理する減価償却費を減らす、又は事業年度を変更し、12ヶ月未満の事業年度にすることで計上する減価償却費を減らす、などの方法が考えられる(しかし、これらの方法が実務上認められるものになるかどうかは、今後の適用事例等の公表を待ちたい)。 ②の要件については、現在がどの時点なのかによって取れる選択肢が変わってくる。現在進行中の事業年度が平成25年3月31日以前開始事業年度であれば、進行事業年度における年間総投資額をできるだけ減らし、大型設備投資はできるだけ来期に延期することで、10%超増加の要件を満たしやすくすることができる。 一方、現在進行中の事業年度が平成25年4月1日以降開始事業年度であれば、前事業年度における調整はできない。この場合は、事業年度を変更し、12ヶ月未満の事業年度にすることで、比較取得資産総額(連載第3回参照)を月割計算することができ、その分10%増加の要件を満たしやすくすることができる(しかし、この方法も認められるものになるかどうか、今後の適用事例等の公表を待ちたい)。 ただし、事業年度は、経営上の様々な見地から総合的に決定すべきものであり、税制面の有利不利のみでむやみに変更すべきものではないため、十分注意していただきたい。 最後に、生産等設備投資促進税制において、特別償却と税額控除のいずれを選ぶか、ということだが、一般的には税額控除の方が有利である。特別償却は、減価償却の前倒しというだけであり、来期以降に計上される減価償却費はその分少なくなる。その結果、トータルで計上できる減価償却費は変わらない。 ただし、生産等設備投資促進税制では、税額控除限度超過額の繰越しが認められないため、適用事業年度において赤字である場合には、税額控除を選択しても意味がない。 その場合は特別償却を選択せざるを得ないことになるが、中小企業者等で前期が黒字であれば、欠損金の繰戻し還付を適用するなどの選択肢が考えられる。 (了)
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中小企業のM&Aでも使える税務デューデリジェンス 【第6回】「親族への事業承継における税務の取扱い」
中小企業のM&Aでも使える 税務デューデリジェンス 【第6回】 「親族への事業承継における 税務の取扱い」 公認会計士・税理士 並木 安生 1 はじめに 第6回では、親族への事業承継の際に活用される各手法の内容及びその税務上の取扱いやポイント、税務デューデリジェンスの必要性等について解説する。 2 親族への事業承継の手法 事業承継を含むグループ内再編では、対象会社の株式異動を伴うケースがほとんどである。 一般に税務上は、株主構成に変化がある場合はグループ内再編における適格要件等を満たさなくなることがあり、その場合は含み益を益金算入させざるを得ない状況となる。 一方で、今回のテーマである親族間の事業承継を前提とした株式異動であれば、実質的には株主構成に変化がなかったと捉えることが多く、その場合は適格要件を満たすことで含み益が益金算入されないことになる。以下にその具体例を記載する。 ① 株式譲渡を行うケース オーナー経営者(個人)が、後継者となる子などの親族(個人)に対して自社(A社)株式を譲渡し、A社株式売却の代金として現金を受け取るものとする(図①)。 この株式譲渡は原則として組織再編税制の対象ではないため、適格要件を判定する必要はない。そのため、A社が保有する資産に含み損益があった場合でも損金(又は益金)に算入されることはない。 なお、売り手となるオーナー経営者側では、譲渡損益が所得税における申告分離課税の対象となる。 図① 株式譲渡 [ステップ1] [ステップ2] ただし、譲渡時点においてA社に含み損のある資産や青色繰越欠損金がある場合、欠損等法人に該当することで、含み損のある資産の売却による損失や青色繰越欠損金に対してA社が損金算入制限を受ける可能性がある。 これは、親族間で発行済株式総数の50%超の株式を売買したに過ぎず、親族全体を1つのグループとして考えると株式異動はなかったと考えられる場合であっても、条文上は株式異動があったと解釈され得るためである。 ② 分割型分割を活用するケース オーナー経営者が保有する自社(A社)で営んでいる複数の事業を親族に当たるそれぞれの後継者(B及びC)へ承継させたい場合、分割型分割の手法を利用してA社を複数の会社(A社及びA1社)に分け(図②)、将来の相続発生時にそれぞれの後継者が各々の事業を含む会社の株式を相続できるように備えておく方法、あるいは生前にA社及びA1社それぞれの株式を譲渡する等の方法が挙げられる。 分割型分割は組織再編税制の対象となるため、適格要件の判定が必要となる。 この点、オーナー経営者が従前より発行済株式総数の100%を保有している場合は、「同一の者が分割後もそれぞれの会社の株式を100%保有し続ける見込みがあること(完全支配関係継続見込要件)」が求められるが、親族間の株式譲渡や相続を見込んでいるのであれば、「同一の者」による完全支配関係の継続見込があると考えられことになるため、この分割は適格再編扱いとなる。 したがって、分割時点においてオーナー経営者が株式譲渡損益やみなし配当を認識する必要はなく、分割法人(A社)が譲渡損益を認識する必要はないことになる。 図② 分割型分割 [ステップ1] [ステップ2] ③ 株式移転を活用するケース 1) 完全子会社が複数(共同株式移転)の場合 オーナー経営者が複数の会社株式(発行済株式総数のうちすべて)を保有しており、子などの相続人がそれらの株式の相続又は贈与を受け後継者となる予定であるとする。 この場合、株式移転の手法を用いて持株会社を組成し複数の会社をその傘下の完全子会社とし(図③-1)、持株会社株式を相続・贈与対象とする方が、相続税計算における株式評価上や事務処理の簡素化の点で有利となるケースが多い。 株式移転は組織再編税制の対象となるため、適格要件の判定が必要となる。 本ケースの下では「同一の者が株式移転後も持株会社株式及び完全子会社株式を100%保有し続ける見込みがあること」が求められるが、持株会社株式の相続・贈与が見込まれている場合だけではなく、相続発生前に親族の後継者へ持株会社株式を譲渡することを見込んでいる場合でも、税務上は親族全体を「同一の者」として捉えることから、「同一の者」による100%保有の継続見込があると考えられるため適格再編扱いとなる。 したがって、資産評価損益を認識する必要はないことになる。 図③-1 共同株式移転 [ステップ1] [ステップ2] 2) 完全子会社が1社(単独株式移転)の場合 オーナー経営者が保有する会社(A社)にオーナー以外の少数株主が存在しており、子などの相続人がその株式の相続又は贈与を受け後継者となる予定であるとする。 この場合、上記1)と同様に、株式移転の手法を用いて持株会社を組成しその会社を傘下の完全子会社とし(図③-2)、持株会社株式を相続・贈与対象とする方が、相続税計算における株式評価の点で有利となるケースが多い。 1)と同様に、この株式移転は適格要件の判定が必要となる。本ケースの下では「株式移転後も持株会社が完全子会社の100%を保有し続ける見込みがあること」の条件を満たせば足り、各株主による持株会社株式の保有継続見込が適格要件を満たすために必要となるわけではない。 したがって、持株会社株式の相続・贈与が見込まれている場合だけではなく、相続発生前にオーナー経営者が親族内外いずれの後継者へ持株会社株式の譲渡を行うことを見込んでいる場合でも、適格要件に影響を与えることはなく、上記カギ括弧内の条件を満たせば資産評価損益を認識する必要もないことになる。 図③-2 単独株式移転 [ステップ1] [ステップ2] ④ 事業譲渡を行うケース オーナー経営者が保有する会社から後継者となる子などの親族が保有する会社に対して事業譲渡を行う方法(図④)も、事業承継の手法としてしばしば利用される。 この点、事業譲渡は組織再編税制の対象ではなく単なる資産の譲渡取引であるため、税務上時価で譲渡されたものとして取り扱わない限り寄附金・受贈益認定を受けることになる。 また、本ケースのようにそれぞれが発行済株式のすべてを保有する会社間での事業譲渡の場合は、税務上「一の者」の間の取引に該当するためグループ法人税制の適用対象となり、一定の資産の譲渡損益は譲渡会社と譲受会社の間の完全支配関係が将来解消される時点まで繰り延べられることになる。 なお、グループ法人税制が適用される場合、先述の寄附金・受贈益は損金又は益金不算入扱いとなり、かつ子法人株式の寄附修正の対象として扱われる。 図④ 事業譲渡 [ステップ1] [ステップ2] 3 税務デューデリジェンス 親族間の取引であっても第三者間取引の場合と同様に、取引当事者において寄附金・贈与認定リスクが生じないようにするためにも、税務上は時価での取引が必要となる。 したがって、税務デューデリジェンスを実施することで税務リスク額を試算し取引価額へ反映させることが有用といえる。 また、親族間のトラブルを避けるためにも、税務デューデリジェンスにより税務リスクを事前に洗い出し、税務上の問題点や課題を当事者の共通認識としておくことが望まれる。 なお、事業承継の各手法が図らずも非適格再編に該当し、不測の含み益課税を受けてしまうことを避けるためにも、上記2に記載したそれぞれの税務の取扱いを参考として、将来予定している株式異動等の取引が適格要件を満たすか否かに影響を与えるかを事前にチェックしておくことも必要といえる。 事業承継における税務デューデリジェンスの手続は、買収や統合の場合のものと基本的に大きな違いはない。詳細については第2回「具体的な調査項目とは」を参照されたい。 (了)