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競業避止規定の留意点 【第4回】「個別特約と就業規則」
競業避止規定の留意点 【第4回】 (最終回) 「個別特約と就業規則」 特定社会保険労務士 大東 恵子 退職後の競業避止義務契約の有効性は、競業の制限が合理的範囲を超え、債務者らの職業選択の自由等を不当に拘束し、同人の生存を脅かす場合には、その制限は公序良俗に反し無効となるのは言うまでもない。退職労働者は、これまでの経験を活かせる職業に就こうとするため、自然と同業となる。労働者の働く権利を侵害しすぎない範囲に限って、会社を守ることも許されるのである。 特約については、民法上の公序良俗違反(民法90条)として無効とすることにより、特約の適用範囲に一定の歯止めをかけている。 上記の合理的範囲を限定するにあたって、裁判例には若干のバラつきはあるが、概ね、使用者の正当な利益の保護を目的とする(ノウハウ等の要保護性)営業秘密はもちろん、技術的な秘密や営業上のノウハウ等、顧客との人間関係等についても企業利益の有無が判断される。 〔従業員の退職前の地位・業務の性質・勤続年数〕 従業員すべてを対象にした規定は、合理性が認められにくい。 就業規則への記載は勿論だが、秘密漏洩禁止と競業避止の特約などを地位や業務の性質に応じて個別契約書を締結するのが良い。 〔競業避止義務を課す業務、期間、地域〕 転職を一般的・抽象的に禁止するだけでは合理性が認められないことが多いため、具体的に事業名を明確に記載する必要がある。 期間について、1年以内は肯定的に捉えられている例が多い一方で、近年は、2年の競業避止義務期間について否定的に捉えられる判例が見受けられる。 〔代償措置の有無〕 代償措置と呼べるものがない場合には、有効性を否定されることが多い。 必ずしも競業避止義務を課すことの対価と明確に定義された代償措置でなくても、代償措置と呼べるものが存在すると肯定的に判断されることが多い。 (連載了)
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民法改正(中間試案)―ここが気になる!― 【第10回】「民法総則」
民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第10回】 「民法総則」 弁護士 中西 和幸 連載の最後に、民法総則について解説する。 今回の民法改正が「債権法改正」といわれることがあるとおり、債権法が中心であり、民法総則については大きな改正は少ない。その改正の主なものは、「錯誤」と「時効」である。 1 錯誤 (1) 表示上の錯誤 ① 要件の整理 まず、旧民法で錯誤の典型例とされている表示上の錯誤について規定されている。例えば、「Aを買う」と意思表示をするつもりが「Bを買う」と表示してしまったように、対象を誤って表示した場合が考えられる。 こうした場合の錯誤の要件について、中間試案では、民法95条においては「要素の錯誤」という、その錯誤がなかったならば表意者は意思表示をしなかったであろうと考えられ(主観的因果性)、かつ、通常人であってもその意思表示をしないであろうと認められる(客観的重要性)もののみが意思表示の効力に影響を与えるものと判例上の解釈が定着しているところ、この判例の論理を明文化して定義しているものである。 すなわち、特段、ルールが変更されている部分ではない。 ② 効果の変更 前述の要件を満たし、表示上の錯誤が要素の錯誤に当たる場合の法的効果について、民法95条の「無効」を取り消すことができるものとし、明文上のルールを変更している。 この点、「取り消すことができる」法律行為については、意思表示を行った者等法令上定められた者に限って「取り消し」の意思表示を行うことができる者とされている一方、「無効」は主張することができる者が限定されていない。そのため、錯誤による無効を第三者が主張すると法的安定性や当事者の意思に反するという不都合が古くから指摘されていた。 もっとも、判例上、錯誤による無効を主張できる者は意思表示を行った者に限定されており、実質的には判例を明文化したに過ぎず、実務上は影響がない改正と解される。 (2) 動機の錯誤 錯誤による法的紛争において多く争われたものは、動機の錯誤である。 前述の例に沿えば、「Aを買う」と意思表示をしたつもりで「Aを買う」と意思表示をしているため、表示上の錯誤ではないが、その前提となる動機を誤って「Aを買う」と意思決定をした場合をいう類型である。 この場合、現行法では、判例上動機が明示又は黙示に表示されて法律行為の内容となっていた場合には錯誤無効の主張が認められている。中間試案では、その判例を明文化して、表意者の認識が法律行為の内容になっているときと規定している。 なお、動機の錯誤についてもその効果は取り消すことができるものとされている。 (3) 不実表示 動機の錯誤の一類型として、表意者の錯誤が、相手方が事実と異なることを表示したために生じたものであるときは、表意者の認識が法律行為の内容になっているか否かを問わず、動機の錯誤にあたるものとされている。 これは、新たに設けられたルールであり、「不実表示」といわれている。 (4) 表意者の重過失 錯誤に陥った意思表示を行った者に重大な過失がある場合、原則として取消しができないものとされている。この点は民法上も規定されている。 中間試案では、これに加え、相手方が表意者の錯誤について知り又は重大な過失がなかったときや、相手方と表意者が同一の錯誤に陥っていたときは、取消しができるものとし、民法の明文にはない新しいルールを追加している。 (5) 第三者保護 民法には、錯誤の場合は詐欺(民法96条3項)や通謀虚偽表示(同94条2項)のように、善意の第三者に意思表示の取消しや無効を主張できない旨が明記されていない。 そのため、中間試案では、上記規定と平仄をそろえるため、善意無過失の第三者に対抗できないことを明記している。 (6) 実務への影響 錯誤の規定については、基本的には判例を明文化し、他の規定と平仄をそろえるなど、これらについては実務上さほど影響を与えるものではないものと思われる。 しかし、「不実表示」については、この規定のみが消費者保護を指向した、質の異なる規定である。法制審議会の議論において、元々異なる分野であった規定が錯誤の項目に盛り込まれたものである。こうした経緯に加え、「消費者保護」という特定の目的を持った規定が民法という基本法に盛り込まれることに違和感があるが、さらに、裁判等における法的解釈に際しても、消費者保護的な発想から逃れられないことが予想される。 さらに、どのような場合に不実表示となるかという点は実務の蓄積を待たなければならず、仮に規定が設けられた場合、施行後当面の間は予測可能性がなく、手探りの実務が続くため、やや保守的な運用にならざるを得ないであろう。 これに加え、不実表示の効果が「取り消すことができる」というだけであり、損害賠償や瑕疵修補等と比較して柔軟性を欠くとの指摘もあり、不実表示に関する規定が今後どのような規律となるか、また運用上不都合が生じるか生じないか、予測がつかないところである。 2 消滅時効 (1) 概要 時効については、制度自体の賛否について様々な考え方があるが、中間試案では、主に、短期消滅時効の廃止と時効期間の起算点の問題について実質的な改正が提案されている。その他に、時効中断等手続や技術的な側面について改正が提案されているが、本稿ではスペースの都合上省略する。 (2) 短期消滅時効の廃止 民法では、債権の消滅期間を原則10年としながら、職業の細かい区分に基づき、3年、2年、1年と短期消滅時効を定めている(民法170条から174条まで)が、これを廃止するものである。 この点については、補足説明を読む限り、附随する問題があるとはいえ、改正される可能性が高いものと推測される。 (3) 時効期間の始期 時効期間の始期については甲案と乙案が並列して提案されている。 甲案は、時効期間の起算点を維持したまま債権の消滅時効の期間を5年に短縮する提案である。 一方乙案は、 というように、債権の発生原因と債務者を知っているか否かで分けて規定するものである。 契約のように債権の発生原因及び債務者を認識している場合は、現行法より短期の消滅時効とし、事務管理、不当利得など、債権者が債権の発生原因及び債務者を知ることが容易でない場合に、現行民法の時効期間を適用するという規定である。 現行法では、原則として債権の消滅時効は10年、商事債権は5年、不法行為債権3年であり、相互のバランスが問題とされ、前述の提案となっている。 (4) 不法行為に関する時効期間 不法行為による損害賠償請求権の時効期間については、現行民法では除斥期間とされ、中断することができない等被害者に不利益とされていたため、「損害及び加害者を知ったときから3年」又は「不法行為の時から20年」という時効期間として整理し、除斥期間でないことが明文化されている。 また、生命・身体への侵害による損害賠償請求権について、より長期の消滅時効を定めることが検討されている。 (5) まとめ 時効期間については、各消滅時効の期間が統一されていないことを修正して整理するものであるが、当事者の納得感が得られる改正はどの範囲かの問題ともいえる。職業別の短期消滅時効の廃止は、おそらく改正されるであろうと予想される。 一方、時効期間の始期については、債権の発生原因や債務者を本当に知っているかどうかなどの事実認定が争われる可能性があり、結局その要件が不明確となったり複雑となったりするなどの可能性がある。また、甲案や乙案のどちらが採用されても、現在の時効期間が短縮される可能性があると考えた方が無難であろう。 もっとも、事業者としては、事業年度や確定申告の関係上、1年を超えて権利行使が可能であるが行使しない債権があること自体、実は自らが権利の上に眠っていることを表明しているともいえよう。 実務としては、民法がどのように可決されようが、時効について対策を立てるよりも、時効が問題となるような債権管理自身を問題とすべきであり、原則として権利行使が可能となってから1年以内に権利行使を行う、あるいはリスケジューリングを行うなどの対応を怠りなく行うことが、より必要と思われる。 (了)
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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第16回】「仕入・買掛債務管理のKPI(その③ 支払)」
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第16回】 「仕入・買掛債務管理のKPI (その③ 支払)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、「仕入・買掛債務管理」を構成する業務プロセスから、「支払」の基本を問うKPIを取り上げる。 仕入計上やその変更計上が行われた後、購買取引の支払段階では、資産保全の観点で業務管理が重要となるが、そのような業務管理のサービスレベルを評価するKPIを紹介しよう。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 前回も述べたが、仕入・買掛債務管理において、会社が担う一般的な機能として、「購買業務」、「債務残高管理」、「値引・割戻」という3つの機能が挙げられる。 「購買業務」に着目してその機能を分解すると、「購入契約」、「仕入」、「期日別債務残高管理」、「決済」で構成される。 今回解説するKPIは、このうち「期日別債務残高管理」と「決済」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:仕入・買掛債務管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、「期日別債務残高管理」と「決済」に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。 まず、「期日別債務残高管理」では、仕入計上された買掛金元帳から期日到来予定分を抽出する。 次に、「決済」では、仕入先から送られた請求書と期日到来予定の債務を照合し、請求内容検証と支払依頼のための社内承認を経る。 今回のKPIは、期日別債務残高管理を通じて期日が到来する予定が判明した買掛金の支払いに必要な社内承認について、リスク管理のレベルを問うものである。 〈経済産業省スタンダード:2.4.1期日別債務残高管理〉 〈経済産業省スタンダード:2.5.1請求内容検証〉 〈経済産業省スタンダード:2.5.2支払依頼〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 定義が不明瞭な用語はないと思われるので、調査項目の文言の行間を解説しよう。 「買掛金元帳」について、それが備えるべき前提条件がある。 「買掛金元帳」が「請求書」と照合されるためには、本連載の【第13回】で述べたとおり、仕入計上段階で買掛金元帳が取引の実在性と金額の正確性を証明する証憑に基づいて記帳されること、さらに、【第14回】で述べたとおり、仕入値引や仕入戻が適正に買掛金元帳に反映されることを担保する予防的な業務管理が不可欠ということである。 すなわち、①自社の注文書控、②仕入先からの納品書、送り状、又は自社の検収報告書に基づき適時に適正に買掛金が計上されているからこそ、支払段階における架空支払や過大支払を防ぐ最後の砦として、仕入先からの「請求書」と「買掛金元帳」を照合することに意味が出てくるのであり、適正な買掛金の計上がおぼつかない「買掛金元帳」は、「請求書」と照合するに値しないと考えている。 したがって、「請求書と買掛金元帳を照合」には、請求書と納品書を照合すること、請求書と検収報告書を照合することを含むと考えて差し支えない。 このように、仕入・買掛債務管理における一連の業務管理とKPIは、相互に関連しているのである。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、購買業務の決済において、実在する物品又は役務の購入取引に基づいた債務履行を担保するため、仕入先からの請求書だけに依拠するのではなく、都度行う予防的な検証手続を整備することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 前提となる職務分掌は、仕入・買掛債務管理で、発注依頼、購買、支払いを行う担当者を分離することに加え、支払業務プロセスの中で、支払依頼書作成、買掛金消込の記帳、支払実行を行う担当者を分離することである。 では、もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されず、購買担当者が支払業務も兼務し、請求書と買掛金元帳との照合を怠る場合、どういう事態が想定されるのか。 まず、架空支払や過大支払による会社資産の不適正な流出が発生する可能性がある。 さらに、架空支払や過大支払の延長線上には、仕入先に請求金額以上の金額を支払い、仕入先がその点について民法上の善意(知らないこと)か悪意(知っていること)かを問わず、差額を個人口座に返金させて着服する不正リスクが存在する。 筆者(株式会社スタンダード機構)がこれまで行った業務改善コンサルティングで見聞した経験則では、仮にこのKPIによる予防的な業務管理が破られても、定期的な残高照合による発見的な業務管理で、買掛金元帳の赤残の発生を端緒に架空支払や過大支払を発見することができるが、会社の内部者が不適正な支払いを隠蔽するために架空の買掛金を計上していれば、期末決算における実地棚卸まで発見が遅れてしまう。 さらに、悪質な場合、実地棚卸の発見的統制を破るため、在庫自体を隠蔽する手口も考えられるだろう。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、購買業務を構成する期日別債務残高管理や決済に関連する業務プロセスと必要な職務分掌が仕入・買掛債務管理に組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、購買規程、経理規程を閲覧し、職務分掌が整備されていることを確認することが考えられる。さらに、その職務分掌を前提に、一定期間の請求書、買掛金元帳、仕入計上段階の証憑を試査により閲覧し、業務管理の実施者による照合の痕跡が証跡として残っていることを確認していただきたい。 さて、読者の顧問先において、すべての支払実行前に、請求書と買掛金元帳を照合していただろうか。 * * * 次回からは、「棚卸資産管理」のKPIを取り上げる。 「棚卸資産管理」を構成する複数のKPIのうち、まず「受払検証」に関連する業務プロセスを評価するKPIから取り上げる。 (了)
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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第17回】「7対1入院基本料と重症度・看護必要度」
〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第17回】 「7対1入院基本料と重症度・看護必要度」 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 1 看護必要度とは何か 重症度・看護必要度は、今日の診療報酬で入院基本料等の様々な評価に用いられている。 図表1に示すように、A得点とB得点から構成されており、一般病棟用では、A得点が2点以上、B得点が3点以上の患者が全体の何割いるかという評価が行われる。 図表1 一定以上の患者は手がかかるのだから、そのような病院あるいは病棟等を評価しようという仕組みであり、A得点5点、B得点5点のような患者も必要度をぎりぎりで満たす患者も同じ評価になるため、連続的な評価にはなってないという特徴を持つ。 現行の診療報酬においては、一般病棟7対1入院基本料を算定する場合には、看護必要度を満たす患者が15%以上、また急性期看護補助体制加算25対1を届け出る場合にも7対1入院基本料を算定する病棟にあっては15%以上の看護必要度の基準を満たす患者を入院させることが求められている。看護師や看護補助者を重点的に配置する必要があるのは、看護必要度が高く手のかかる患者が多いからという考え方であろう。 今後、7対1入院基本料を算定する病床を削減する方向で各種の医療政策が展開されていく予定である。その際に重要な鍵を握るのが看護必要度と平均在院日数であり、両者は密接に関係するものでもある。 2 診療報酬における看護必要度評価の経緯 看護必要度は、人員配置等の構造的な面だけではなく、患者の看護必要度を加味した評価体系とするために、平成8年頃から開発が行われ、平成14年度診療報酬改定で評価が行われた。 図表2に示すように、平成14年度診療報酬改定では、いわゆるICUに関する加算である特定集中治療室管理料の算定要件に重症度の判定基準が導入され、続く平成16年度改定ではハイケアユニット入院医療管理料に導入された。まずは重症系ユニットを中心とした評価が行われた。 図表2 また、平成20年には一般病棟7対1入院基本料に対して10%以上の看護必要度を要求し、平成22年には急性期看護補助体制加算の算定要件や10対1入院基本料を算定する病院に看護必要度評価加算が設けられるなど、少しずつ診療報酬体系の中で存在感を増してきている。 看護必要度の評価が妥当であるか、評価のあり方に病院間格差があるなどの指摘も存在し、評価方法については進化していくものと予想される。また、がん患者の看護必要度が比較的低くなったり診療科構成による影響、そして急性期機能が高い病院よりも慢性期的な病院の看護必要度が高い場合があるなど、一般病棟の評価方法としての妥当性に疑問が呈されることもありえる。 しかし、患者の重症度に応じた人員配置を行うことは限られた医療資源の効率的配置という観点からは必然であり、時代が後戻りすることは考えづらく、看護必要度あるいは何らかの重症度を反映した類似の考え方が今後も診療報酬において重要な位置付けとして君臨することであろう。 3 平均在院日数と看護必要度 図表3は今後の、急性期病院に求められる方向性を示している。 図表3 看護必要度と平均在院日数 右下の看護必要度が高く平均在院日数が短い象限が急性期病院の理想的なポジショニングであり、左上にある看護必要度が低く平均在院日数が長い病院は急性期病院(この資料では7対1入院基本料)からは退場宣告を受けたものと捉えることもできる。 確かに右下象限には特殊な機能を持った専門病院が多く含まれるであろうし、左上の象限にある病院は連携先に苦労する地域一般病院なのかもしれない。また、この図表3からは、平均在院日数と看護必要度には相関がないと解釈することも可能であり、より精緻な分析をしていく必要がある。 ただし、治療終了後も在院日数を長引かせれば看護必要度が低くなることは容易に想像できる。平均在院日数を短縮し、集中治療をすることが求められていると捉えることが望ましい。 4 医療機関群と看護必要度 2012年度診療報酬改定でDPC/PDPSにおける基礎係数の設定で、医療機関群が新設されたことは記憶に新しい。 医療機関群については、必ずしも医療の質を評価したものではなく、病院のポジショニングが反映されたものであり、各群は優劣を意味するわけではない。ただし、基礎係数の実績要件でハードルが高かった、診療密度と手術1件当たり外保連手術指数は看護必要度と密接に関わることには言及しておきたい。 看護必要度は、平均在院日数を短縮し集中治療を行えば高くなり、また予定入院よりも緊急入院(特に救急車搬送入院)で高くなる。このことは、1日当たり包括範囲出来高換算点数である診療密度でも同じことがいえる。 さらに侵襲性の高い手術(特に全身麻酔手術)が多ければ、看護必要度が高くなり、外保連手術指数も高くなる。医療政策において急性期病院に求められている大きな方向性という意味では、看護必要度も医療機関群も共通点が多い。 5 重症系ユニットの設置と看護必要度 ICU・HCUなどの重症系ユニットにより集中治療を行うことは、これからの急性期病院にとって重要な機能といえよう。しかし、特定集中治療室管理料では概ね90%以上、ハイケアユニット入院医療管理料では概ね80%以上の重症者が在室することが要求されており、これらの病床数を増加させることは一般病棟における看護必要度を下落させることにつながる。 ICU等のユニットにおいて手厚い人員配置を行うか、7対1入院基本料等算定する病床を重視するかは病院の戦略と密接に関係する。高度急性期病院として医療の質向上を目指すためには、ユニットの充実は期待されるが、高い診療報酬にこだわり無理にユニットを維持している病院も少なくない。ICUで勤務する看護師の半分近くが新人であったりする場合には、その効果に疑問が呈されても不思議ではない。 地域の中でどのような役割を果たすべきなのかが看護必要度には反映されるという点では、医療機関群と同様であり、自院のポジショニングを明確にすることが求められている。 6 看護必要度評価見直しの影響 今後、看護必要度の評価を見直す方向で議論が進められており、具体的には時間尿測定及び血圧測定については、項目から除外し、創傷処置については褥瘡の発生状況を把握するためにも、褥瘡の処置とそれ以外の手術等の縫合部等の処置を分けた項目とし、呼吸ケアについては、喀痰吸引を定義から外すこととされている。 追加される項目は、計画に基づいた10分間以上の指導・意思決定支援、高悪性腫瘍剤の内服、麻薬の内服・貼付、抗血栓塞栓薬の持続点滴をA項目に追加することが考えられるが、このうち10分間以上の指導・意思決定支援については、実施すべき内容等定義を明確にした上で、A項目に追加される予定である。 診療科による影響はあるものの、時間尿測定や血圧測定の実施頻度は通常の急性期病院では多くない。また、高悪性腫瘍剤の内服でTS1のような抗がん剤も評価されるため急性期病院ではプラスの影響が出るものと予想される。 ただし、多くの病院の看護必要度が高くなることは、現行の15%の基準値のハードルが引き上げられる可能性もあり、今後も実態に合った適切な評価を行うことが求められる。 (了)
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女性会計士の奮闘記 【第9話】「士業の連携で幅広くサポート!」
女性会計士の奮闘記 【第9話】 「士業の連携で幅広くサポート!」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 〈社長の役員報酬変更による影響額(単位:円)〉 ・①+②+③=79,316円 ・社長の役員報酬を半分にすることによって、本人から徴収される社会保険料、源泉所得税及び会社が負担する社会保険料の額が、合計で月額79,316円も低くなります。 ・ただし、役員報酬は、事業年度の会計期間開始の日から3ヶ月を経過する日までに改定され、その後、各支給時期の給与の額が期間を通じて同額でなければ、法人税法上、損金と認められない可能性がありますので、注意が必要です。 ※社会保険料は、東京都の平成25年9月改定の基準で計算しております。 ◆ワンポントアドバイス◆ お客様の疑問は多岐にわたります。 その疑問にタイムリーに答えるため、他の士業との連携が必要です。 さらに、事前の情報提供が得られるよう、日ごろから良好なネットワークを作っておくことが大切です。 (了)
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神田ジャズバー夜話 「5.ジンクスのようなもの」
この店にもいくつかジンクスのようなものがある。 その1、後で来ると言って来るやつはいない。 「すいませーん、後で来ようと思ってるんですが、へえ、いい店ですね」 「はい、まあ」 「じゃあ、後で来まーす」 「はーい」一応返事をしておく。が、そんなことを言って来たためしはない。私はそいつが帰ると扉の外に塩をまく。 その2、ビル・エバンスの『ワルツ・フォー・デヴィ』をかけると客が来る。 客が来そうな時間にかけているからだといってしまえばジンクスでもなんでもないが、常々神仏は信じないといっておきながら、何度も実績があるので、客がいないと心細くなりかけてしまう。 一応、仮説として「二軒目でゆったり飲むには管楽器はうるさく、ボーカルは好き嫌いが別れるので、ピアノトリオぐらいが丁度いい。しかもジャズ好きには聞き覚えのある『ワルツ・フォー・デヴィ』ならば入り易いのではないか」と考えてはいる。 その3、昼間客が多いと夜は少ない。 昼間は喫茶店として営業している。客は一日に2、3人がいいところ。コーヒーは客単価が安いので私の労働時間(ほとんど待機時間だが)を時給に直すと200円ぐらいにしかならない。それでも昼間から音を流していると(外へも別のスピーカーで流れている)通りがかりの人が店の存在に気付き、夜の来店に繋がることが多いので広報宣伝活動を主な目的として営業している。 たまに5人、ときには10人ということがあり、そんな日の夜は客が少ない傾向がある。昼間5人目が来ると夜の心配をする。これは対処の仕様がない。いつものようにただじっと待つだけだ。 「エバンスにするか」その夜もまだ客は来ていなかった。 それまで好きで聴いていたバド・パウエルをビル・エバンスに代えた。 ドアが開き、新聞屋の桑原さんが入ってきた。桑原さんには以前『ワルツ・フォー・デヴィ』のジンクスの話をした。桑原さんもケニー・バレルの『ミッドナイト・ブルー』を聴くと必ずなにか悪いことがあるそうだ。 「やっぱり、誰もいないね」 「え、なんでそう思ったんですか」 「『ワルツ・フォー・デヴィ』がかかってるからさ」 そして今夜は珍しく客が沢山入っている。店内には「『ワルツ・フォー・デヴィ』が流れている。そこへ桑原さんが来た。 「あれ、マスターどうしたの、いっぱいじゃない」 「『ワルツ・フォー・デヴィ』でこれだけ入って来たんですよ」 「うそ!」 そう嘘です。『ワルツ・フォー・デヴィ』はリクエストされたのです。 (了)
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《速報解説》 「租税特別措置法(株式等に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて」の一部改正(9/17公表)~複数のNISA口座が開設された場合の取扱い~
《速報解説》 「租税特別措置法(株式等に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて」の一部改正(9/17公表) ~複数のNISA口座が開設された場合の取扱い~ 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 平成25年9月17日付けで、国税庁ホームページにおいて、「『租税特別措置法(株式等に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて』の一部改正について(法令解釈通達)」が公表された。 平成25年度税制改正において、投資促進税制の一環として少額投資非課税制度(NISA)が新設され、平成26年1月1日から施行されることになっているが、その適用に当たっては、金融機関等を通じた非課税適用の申請が必要とされている。 今回の通達改正は、その申請手続が平成25年10月1日から開始されることに伴い、NISAの適用に関する具体的な取扱いが定められたものである。 2 問題の所在 NISAは、最大500万円の上場株式や株式投資信託等への非課税投資を可能とする制度であるが、その適用関係を明確にするために、同時に1つの金融機関等でしかNISA口座を開設することができないものとされている。 ところが、NISA口座の開設について依頼を受けた金融機関等においては、他の金融機関等でNISA口座が開設されているかどうかを正確に把握できるとは限らず、事実上複数の金融機関等においてNISA口座が開設され、税務署に対して非課税適用の申請がなされることがあり得る。 そこで、今回の通達改正では、そのような場合の取扱いが定められている。 3 通達による定め (1) 複数の申請がなされた場合の取扱い 複数の金融機関等から非課税適用の申請がなされた場合は、税務署を基準に、税務署が申請を受け付けた日がもっとも早い申請を有効なものとして取り扱うことになる(措通37の14-19)。 なお、この受付日は、電子申請がなされる場合には、その受信日、記録用媒体の提出による申請がなされる場合には、その収受日が基準となる。 (2) 複数のNISA口座が開設された場合の取扱い 複数の金融機関等においてNISA口座が開設されてしまった場合は、上記(1)のとおり、税務署の受付日がもっとも早い非課税適用の申請が有効なものになるので、それより遅い申請に係るNISA口座は非課税規定の適用を受けられないことになる(措通37の14-21)。 さらに、申請の受付日が同日である場合は、実際にNISA口座内で上場株式等を取得したのが早い日のものが非課税規定の適用を受けられ、それも同日である場合は、配当や譲渡によって口座内に異動が生じたのが早い日のものが非課税規定の適用を受けられることになる。 4 関係様式の定め なお、以上にあわせて、NISA適用に関する書類の様式が定められた「『法人課税関係の申請、届出等の様式の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」も公表されているので、参考にされたい。 (了)
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【特別無料公開~10/1】 「〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕消費税率の引上げに伴う実務上の注意点」(全16回)
このたび2013年10月1日までの期間限定で、「〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕消費税率の引上げに伴う実務上の注意点」全16回を非会員の方でもご覧いただける「無料公開」とさせていただきます。 消費税率の引上げに伴い、企業では実際にどのような問題が起こりうるのか、また、経過措置への対応は問題ないか、分かりやすく、かつ、詳細に解説していますので、この機会にぜひご覧下さい。 ※公開は終了しました。
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《速報解説》 改正「企業結合に関する会計基準」等の解説
《速報解説》 改正「企業結合に関する会計基準」等の解説 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年9月13日、企業会計基準委員会は、「企業結合に関する会計基準」及び関連する他の改正会計基準等を公表した。 これにより、平成25年1月11日に公開草案を公表し、意見募集を行っていたものが確定することとなる。 以下では主な改正点について述べる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正点 改正される会計基準等は、 企業結合に関する会計基準 事業分離等に関する会計基準 連結財務諸表に関する会計基準 だけでなく、 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 包括利益の表示に関する会計基準 など広範囲に及ぶので、適用に際しては注意が必要と思われる。 また、例えば、公開草案の「連結財務諸表に関する会計基準」29項で規定されていた「売却した株式に対応するのれんの未償却額」の取扱いについては改正基準では規定されていなかったり、公開草案では「共通支配下の取引における個別財務諸表上の会計処理(企業結合会計基準案45 項)」の改正が予定されていたが、非支配株主の名称変更にとどまっていたりするので、改正基準を読む際には、注意が必要と思われる。 なお、「公表にあたって」においては、「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号)及び「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第24号)の改正について、別途予定されていることが述べられている。 1 支配が継続している場合の子会社に対する親会社の持分変動 現行基準の「少数株主持分」を「非支配株主持分」に変更する。 これにより、連結株主資本等変動計算書の表示区分における「少数株主持分」は「非支配株主持分」に変更され、また、利益剰余金の変動事由における「当期純利益」は「親会社株主に帰属する当期純利益」に変更される。 2 当期純利益の表示 次のように用語の変更が行われている。 従来と同様の「当期純利益」の用語であっても、その意味する内容は異なるものとなるので、注意が必要と思われる。 上記の改正により、連結損益及び包括利益計算書又は連結損益計算書の表示については、2計算書方式の場合は、当期純利益に非支配株主に帰属する当期純利益を加減して親会社株主に帰属する当期純利益を表示し、一方、1計算書方式の場合は、当期純利益の直後に親会社株主に帰属する当期純利益及び非支配株主に帰属する当期純利益を付記する(「連結財務諸表に関する会計基準」39項)。 「1株当たり当期純利益に関する会計基準」の適用に当たっては、連結財務諸表において、連結損益計算書上の「当期純利益」は「親会社株主に帰属する当期純利益」、連結損益計算書上の「当期純損失」は「親会社株主に帰属する当期純損失」とする(「1株当たり当期純利益に関する会計基準」12項)。 3 取得関連費用の取扱い 4 暫定的な会計処理の確定の取扱い 5 適用時期等 次のとおりであるが、複雑になっているので注意が必要である。 (了)
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法人・個人の所得課税における実質負担率の比較検証 【第1回】「税率の推移と実質負担率」
法人・個人の所得課税における 実質負担率の比較検証 【第1回】 「税率の推移と実質負担率」 (株)よつばコンサルティング 税理士 石渡 晃子 税理士 青木 岳人 1 比例税率と超過累進税率 (1) 応能負担と応益負担 「応能負担の原則」と「応益負担の原則」、この言葉を見聞きしたことがある方は多いであろう。 これは、なぜ税金が課されるのかという課税の考え方であり、「応能」「応益」、異なる2つの視点から捉えたものである。 応能負担とは、その者の担税力に応じた税負担を負うべきというものである。一方、応益負担とは、公共サービスの享受に応じた税負担を負うべきというものである。 応能負担の考え方は「超過累進税率(あるは累進税率)」へ、応益負担の考え方は「比例税率」へ、それぞれ結びつくものであり、「応能」「応益」どちらの性質が色濃いものであるかにより、税率の違いが発生するのである。また、国税は「応能」、地方税は「応益」といった傾向も強い。 なお、これら2つの考え方についての法的根拠も参照までに示しておこう。まず、「応能原則」は憲法第13条(個人の尊重)、第25条(生存権の保障)、第29条(財産権の保障)に基づく。一方、「応益原則」は憲法第14条(法の下の平等)に基づく。 平等な課税について憲法に照らし合わせ考えると、「応能原則」の方がより法律に忠実な課税であるともいえよう。 (2) 比例税率 比例税率とは、課税所得の大小に関係なく一定の率を適用することをいう。したがって、「水平的公平性」(*1)を満たす方法であるといえる。 本稿で取り上げる税のうち、「法人税」「住民税」「事業税」がこれにあたる。 では、なぜこれらは比例税率が適用されるのであろうか。 まず、法人税は、所得の再分配や限界効用の逓減といった概念には当てはまらないものであり、また、基本的に税制は経済に対して極力中立的であるべきという要求(*2)を満たす必要がある。 次に、住民税や事業税は、行政サービスを享受しているという観点から課税されており、応益負担の意味合いが濃いものである。 (*1) 公平性には「水平的公平性」と「垂直的公平性」の2つの概念が存在する。 (*2) 「公平・中立・簡素」の3つが租税原則である。すなわち、①公平な課税、②経済社会において干渉しないこと、③納税者及び税務当局双方にとって費用が最少であること、が課税を行う上での原則となる。 (3) 超過累進税率 超過累進税率とは、課税所得を複数の段階に区分し、上の段階へ進むに従って税率が高くなるかたちで税を課す制度である。 この課税方法は、大正2年改正において、所得税について2.5%~22%の14段階にて導入されたのが、その始まりである。 本稿で取り上げる税のうち「所得税」がこれにあたる。 所得税の役割は、第一は国の財源を調達することであり、第二は所得再分配を行うことである。第二の役割を果たすためには、応能負担の原則に基づく必要がある。そのため、超過累進税率を採用しているのである。 つまり、超過累進税率は、垂直的公平性と応能負担の原則の両者を満たすものである。 超過累進税率の特色は、複数の段階(ブラケット)を設けていることであるが、ブラケット数を多く設けることにはそれぞれメリットとデメリットがある。 1つ目のメリットは、貧富の差が大きい場合は特に所得再分配機能が働くことである。所得再分配の機能を存分に果たそうとするのであれば、低税率から高税率まで多くのブラケットを設けるのが好ましい。また2つ目のメリットは、ブラケット数が多いことにより、なめらかに負担が累増していくことである。 しかしその一方で、デメリットも存在する。例えばサラリーマンの場合、「就職から退職まで」という1つのライフステージの中で納税義務を負うこととなるが、所得税の税率が1つ~2つのブラケット内に収まらない場合、累進感が増すこととなる。 また、低所得層への社会福祉の充実が図られる中で所得再分配を前面に押し出すことは、かえって公平性を欠くというデメリットもある。 2 法人の所得に対する税率 (1) 法人税 法人税とは、その企業活動により得た所得に対して課される国税をいい、平成25年度予算ベースで租税収入の20.6%(9.6兆円)を占める。 その税率は、平成25年9月現在で25.5%(基本税率)である。なお、法人税は比例税率で課税を行うものであるが、中小企業に対してはその担税力を考慮し、軽減税率を導入している。この点においては、比例税率の中に若干の累進税率を取り入れているともいえよう。 下記に示すのが税率の推移であるが、近年、税率は引下げの一途をたどっている。 〈法人税率の推移〉 (注) 平成24年4月1日から平成27年3月31日の間に開始する各事業年度に適用される税率。 (※) 昭和56年4月1日前に終了する事業年度については年700万円以下の所得に適用。 (財務省ホームページより引用) 法人税は、そもそも所得税の一部として課税されていたものが、昭和15年に法人税として独立、18%の比例税率により課税されるようになったのが、その始まりである。近代税制としての始まりはシャウプ勧告であり、昭和25年に35%の比例税率によりスタートした。 その後、昭和27年には42%まで引き上げられ、多少の上下を伴いつつも、昭和59年には43.4%まで引き上げられる。これは、昭和40年代後半ごろから法人所得に対する課税強化が主張されるようになったためである。というのも、企業設備の拡大その他経済の高度成長が公害等社会的費用を増大させており、企業は応分の負担を負うべきであるという声が高まったためである。また、法人税の税率引上げの背景には、所得税減税に伴う税源確保があった。 上記推移図をさらに見進めると、昭和59年以後は一転、税率が引き下げられる一方である。これは、企業活力や国際競争力を維持する観点から行われたものである。 特に平成10年頃から大幅な引下げが行われているが、これは日本の法人課税の実効税率の高さが問題視し始められたことによる。当時、日本の法人課税における実効税率は諸外国より10%程度高いとされ、産業の空洞化を防ぐこと、景気の回復・経済の発展を図ることを理由として、税率を引き下げ課税ベースを拡大するという改正が行われてきたのである。 (2) 法人住民税 法人住民税とは、市町村民税(東京23区は特別区民税)と道府県民税・都民税のうち、法人に対して課されるものをいう。法人住民税には、課税所得にかかわらず課される「均等割額」と法人税額をベースとして課される「法人税割額」がある。 地方公共団体により多少の差異があるが、基本的には、市町村民税の均等割額は資本金等の額及び従業者数に応じ5万円から300万円、法人税額割は12.3%の比例税率による。道府県民税の均等割額は資本金等の額及び従業者数に応じ2万円から80万円、法人税額割は5.0%の比例税率による。 なお、東京都23区の場合、特別区民税と都民税は一括して課税される。 (3) 法人事業税 法人事業税は法人の行う事業に対して課される地方税であり、所得に対して課税される税金のうち、唯一損金算入が認められる税金である(*3)。 課税標準は所得であり、税率は平成20年度改正の暫定措置により、資本金又は出資金の額及び所得の額により1.5%~5.3%の比例税率とされている。また、暫定措置により税率が軽減される一方、別途、地方法人特別税(国税)が事業税を課税標準として課される。 (*3) 事業税も応能負担の考えから課税されるものであるが、欠損法人に対しては全く課税されないため、負担の公平性という観点からは矛盾しているかもしれない。 3 個人の所得に対する税率 (1) 所得税 所得税とは、個人の所得に対して課される国税であり、平成25年度予算ベースで租税収入の30.3%(14.2兆円)を占める。 税率は5%~40%の6段階の超過累進税率によるが、納税者の85%が10%以下の税率適用である(平成24年度予算推計、財務省資料より)。 現行税率までの近年推移は、下記のとおりである。 〈所得税の税率の推移(イメージ図)〉 (注)昭和62年分の所得税の税率は、10.5、12、16、20、25、30、35、40、45、50、55、60%の12段階(住民税(63年度)の最高税率は16%、住民税と合わせた最高税率は76%)。 (※)昭和62年分の所得税の税率は、10.5、12、16、20、25、30、35、40、45、50、55、60%の12段階(住民税(63年度)の最高税率は16%、住民税と合わせた最高税率は76%)。 (財務省ホームページより引用) 上記の推移をみると、平成元年改正前のブラケット数の多さに目がとまる。 そもそも現在の所得税の始まりは、戦後のシャウプ勧告による20%~55%の8段階の超過累進税率による課税である。 これが昭和28年には15%~65%の11段階、昭和44年には10%~75%の16段階までブラケット数が増やされた。昭和44年長期税制答申にて「最低税率適用階級から最高税率適用階級まで限界負担能力の上昇に応じてなめらかに負担が累増していく形が望ましい」とあるが、これがブラケット数を増加させた要因のひとつである。昭和59年改正・62年改正では最高税率を60%まで引き下げるとともに、低所得・中所得層の税率引下げを行うべく累進構造の改正を行っている。 ところで、累進構造には所得再分配の役割を果たすという重要な役割があるが、その一方できつすぎる累進構造には といったデメリットもある。 そこで、平成元年に抜本的改革が行われ、10%~50%の5段階となった。 現行は5%~40%の6段階であるが、これは平成19年度改正にて、特に若年層(20歳~39歳)での所得格差の急激な拡大(ジニ係数の変化)を是正すべく、最低税率を5%とし、30%と37%の税率を33%と40%へそれぞれ3%引き上げ、減税と増税を組み合わせて負担の調整を図ったものである。 なお、平成25年度改正において、所得税の役割のひとつである所得再分配機能の回復と所得格差の是正のため、最高税率は45%に引き上げられ、この税率は平成27年より適用となる。 (2) 個人住民税 個人住民税とは、市町村民税(東京23区は特別区民税)と道府県民税・都民税のうち、個人に対して課されるものをいう。 個人住民税には、課税所得にかかわらず課される「均等割額」と課税所得をベースとして課される「所得割額」がある。なお、個人住民税おける課税所得とは所得区分については所得税と同様であるが、所得控除額は住民税独自の金額が適用されている。 均等割額と税率は全国統一であり、均等割額は市町村民税3,000円(ただし平成26年6月より10年間は3,500円)、道府県民税は1,000円(同1,500円)、税率は市町村民税6%、道府県民税は4%の比例税率による。 (3) 個人事業税 個人事業税は、個人の行う事業に対して課される地方税である。 税率は、個人の行う事業別に第一種事業は5%、第二種事業は4%、第三種事業は5%(一部例外事業は3%)の比例税率による。 課税標準は所得であるが、所得税で適用される青色申告特別控除前の所得から事業税独自の事業主控除290万円を控除した後の金額となる。個人事業税には軽減税率といった制度はないが、低所得者の負担を軽減するためにこの事業主控除が設けられている。 4 実質負担率とは 実質負担率とは、「最終税額」を「課税所得」で除して計算したものをいう。 (1) 法人の実質負担率 まず法人に対して課される税を示す。なお、基本税率を適用し、また、設立1年目を前提として事業税の損金算入は考慮しないものとする。 これに、東京都に本店を置く法人(資本金1億円超)として税率を当てはめてみる。 では、課税所得が1,000万円の場合を計算してみよう(住民税均等割額は考慮しない)。 (2) 個人の実質負担率計算 次に、個人に対して課される税をみてみよう。 こちらも課税所得は1,000万円とし、第一種事業を営むものとする。 (3) 小括 このように、同じ課税所得であっても、法人と個人では実質負担率は異なる。また、上記計算例の場合、法人税率は25.5%、所得税率は33%まで適用されているが、所得税は超過累進税率を採用するため、税率のみでの単純比較には何ら意味がない。 したがって、「法人」「個人」どちらが税負担が少なくなるのかを検討するためには、実質負担率を使って比較をする必要がある。 第2回では、いくつかシミュレーションを示し、実質負担率を使った比較検討を行うこととする。 (了)