件すべての結果を表示
相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について 【追補①】「新設された措置法通達のポイント(その1)」

教育資金の一括贈与に係る 贈与税非課税措置について 【追補①】 「新設された措置法通達のポイント(その1)」   ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典   1 はじめに 国税庁は、平成25年度税制改正の施行に伴い、平成25年7月10日に「「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」等の一部改正について(法令解釈通達)」を公表した。 今回の改正に伴い、教育資金の一括贈与に係る非課税措置に関する通達(以下「新通達」)が新たに設けられたところである。 また、同年7月24日には、本通達に関して「「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」等の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)」(以下「情報」という)を明らかにした。 そこで、公表された「新通達」と「情報」に関する内容を中心に、全3回にわたり、かねてより連載していた拙稿「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について」(全5回)の補足として解説していく。 今回は、新通達の全体像を理解していただくため、その概要を簡単に述べていくこととする。   2 新通達の概要 新通達では、「租税特別措置法70条の2の2(直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税)関係」として、70の2-2-1~12が新設された。 新通達の各項目とその概要は、以下のとおりである。 ※上記の一覧表はこちら(画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます)。 次回より、上記の新通達について、個別に解説していく。 (了)
#32(掲載号)
#甲田 義典
2013/08/22
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

交際費課税Q&A~ポイントを再確認~ 【第7回】「交際費と売上割戻しを区別する」

交際費課税Q&A ~ポイントを再確認~ 【第7回】 「交際費と売上割戻しを区別する」   公認会計士・税理士 新名 貴則   会社が事業を行うに当たり、得意先に対して何らかの形で売上額を還元することがある。このとき、会社としては「売上割戻し」として認識したいところだが、その還元の仕方によっては、税務上は「交際費等」として扱わなければならなくなり、損金に算入できなくなる場合があるので注意が必要である。 交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人がその得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう(措法61の4③)。 これに対して、法人が得意先に対して、次のような基準に基づいて金銭で支出する場合は、交際費等ではなく売上割戻しとなる(措通61の4(1)-3)。 また、得意先の営業地域の特殊事情、協力度合い等を勘案して金銭で支出する場合も、売上割戻しとなる。 これとは異なり、一定の基準がなく任意で得意先に支出される金銭は交際費等となる。 【金銭での支出の場合】   一定の基準に基づく金額を金銭で支出する場合は、上記のように売上割戻しとなる。 しかし、同様の基準に基づいている場合でも、金銭での支出ではなく「物品の交付」や「旅行、観劇等への招待」などを得意先に対して行う場合は、売上割戻しではなく交際費等となってしまうので注意が必要である(措通61の4(1)-4)。 【一定の基準がある場合】 ただし、売上割戻しとして認められる一定の基準に基づいて「物品の交付」を行う場合、本来であれば交際費等に該当するが、その物品が次のいずれかに該当する場合は、売上割戻しとして扱うことができる(措通61の4(1)-4但書)。 ここで、売上割戻しとして認められる一定の基準に基づく金額を、得意先に金銭では支出せず預り金などで積み立てておき、一定額に達したときに旅行や観劇等に招待する場合がある。 このような場合は、積み立てた時点では損金とはならず、実際に旅行や観劇等に招待した時点で交際費等として扱うことになる(措通61の4(1)-6)。 【交際費等と売上割戻し:まとめ】 (了)
#32(掲載号)
#新名 貴則
2013/08/22
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔理解を深める〕研究開発税制のポイント整理 【第2回】「各制度の計算方法を整理する」

〔理解を深める〕 研究開発税制のポイント整理 【第2回】 「各制度の計算方法を整理する」   税理士法人山田&パートナーズ 税理士 吉澤 大輔   1 はじめに 第1回は、研究開発税制の制度内容を制度の沿革と照らし合わせながら整理し、現行制度の概要を解説した。 第2回では、研究開発税制の具体的な計算方法を解説する。   2 研究開発税制の各制度の計算方法 前回述べたように、研究開発税制の適用事業年度における法人税額から控除する税額控除額は、「本体部分」と「上乗せ部分」のそれぞれの税額控除額の合計額である。 そこで、研究開発税制の各制度の計算方法を「本体部分」と「上乗せ部分」に分けて解説していく。 (1) 本体部分 ① 試験研究費の総額に係る税額控除制度 【内容】 青色申告書を提出する法人(人格のない社団等を含む。以下、本稿において同じ)の各事業年度(解散(合併による解散を含む)の日を含む事業年度及び清算事業年度を除く)において、その事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額※1がある場合には、その事業年度の法人税額から次の金額を控除することができる。 【平成25年度税制改正】 平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度については、税額控除限度額が法人税額の30%相当額に引き上げられた。 【用語の意義】 ② 特別試験研究費に係る税額控除制度 【内容】 青色申告書を提出する法人の各事業年度(解散(合併による解散を含む)の日を含む事業年度及び清算事業年度を除く)において、その事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される特別試験研究費の額※がある場合には、その事業年度の法人税額から次の金額を控除することができる。 【用語の意義】 【平成25年度税制改正】 ●税額控除限度額の引上げ 平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度については、税額控除限度額が法人税額の30%相当額から①(ウ)の税額控除額を控除した金額に引き上げられた。 ●特別試験研究費の額 改正前は大学などの公的な研究機関に対する研究開発支出のみが対象となっていたが、改正後は民間会社との共同研究や一定の中小企業者に対する委託についても含まれるなど、その範囲が拡大した。 ③ 中小企業技術基盤強化税制 【内容】 青色申告書を提出する中小企業者又は農業組合等(以下「中小企業者等」という」)で、各事業年度(①及び②の規定の適用を受ける事業年度、解散(合併による解散を含む)の日を含む事業年度及び清算事業年度を除く)において、その事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額がある場合には、その事業年度の法人税額から次の金額を控除することができる。 【平成25年度税制改正】 平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度については、税額控除限度額が法人税額の30%相当額に引き上げられた。 ④ 税額控除限度超過額の繰越控除制度 【内容】 ①及び②の制度を適用した法人の税額控除額又は③の制度を適用した中小企業者等の税額控除額が、適用事業年度の法人税額の20%相当額を超えたため控除しきれなかった金額がある場合には、その控除しきれなかった金額については1年間繰り越して税額控除を行うことができる。ただし、繰越控除の適用を受けることができる金額は、その事業年度の法人税額の20%相当額を限度とする。 【平成24年度に開始した事業年度の特例】 平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度は、繰越控除の対象となる金額に平成21年度又は平成22年度に生じた繰越税額控除限度超過額を含めることとし、繰越控除の適用を受けることができる税額控除限度額を法人税額の30%相当額とする。 【平成25年度税制改正】 平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度については、税額控除限度額が法人税額の30%相当額に引き上げられた。   (2) 上乗せ部分(試験研究費が増加した場合等の税額控除制度) 青色申告書を提出する法人が、平成20年4月1日から平成26年3月31日までに開始する各事業年度(解散(合併による解散を含む)の日を含む事業年度及び清算事業年度を除く)において、次の①又は②の要件に該当する場合には、その事業年度の法人税額からそれぞれ①又は②の算式により計算した金額を控除することができる。 なお、法人が①又は②のいずれにも該当する場合には、法人の選択によりいずれか1つの制度のみを適用する。 ① 増加型(試験研究費の額が増加した場合の税額控除制度) 【要件】 適用事業年度の試験研究費の額が比較試験研究費の額※1を超え、かつ、基準試験研究費の額※2を超えている 【算式】 (試験研究費の額-比較試験研究費の額) × 5% = 税額控除額 【用語の意義】 ② 高水準型(平均売上金額の10%相当額を超えた場合の税額控除制度) 【要件】 適用事業年度の試験研究費の額が平均売上金額の10%相当額を超えている 【算式】 (試験研究費の額-平均売上金額) × 超過税額控除割合※ = 税額控除額 【用語の意義】 次回は、実務上の留意点について解説する。 (了)
#32(掲載号)
#吉澤 大輔
2013/08/22
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第14話】「源泉徴収に係る所得税の調査(その1)」

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第14話】  「源泉徴収に係る所得税の調査(その1)」  公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「田村上席。納税義務者の中には、源泉徴収義務者は含まれるのですか?」 山口調査官が田村上席に尋ねる。 「源泉徴収義務者?」 田村上席は頸を傾げる。 「源泉徴収制度における徴収義務者のことなんですけど・・・」 山口調査官が言い換える。 しばらく考えてから、田村上席は、机の上の罫紙に図を描き始めた。 「まあ、源泉徴収制度というのは、こんな関係なんだろうな」   田村上席は少し満足そうな表情で、自分の描いた図を見直しながら説明を始めた。 「・・・つまり、国と本来の納税義務者である受給者との間には、国と支給者との関係(公法関係)とか支給者と受給者との関係(私法関係)のような特別な関係はないことになる・・・」 田村上席は、力を込めて言う。 「・・・ということは、国と本来の納税義務者である受給者とは、何の関係もないということですから、税務調査はできないことになるのですか?」 山口調査官は、頸を傾げながら尋ねる。 「いや、そうではないだろう・・・国税通則法74条の2第1項1号イで、「所得税法の規定による所得税の納税義務のある者」となっている。だから、サラリーマン、つまり給与所得者も所得税の納税義務のある者に該当するから、課税庁は、税務調査をすることは当然できる・・・もっとも、国は、支給者と直接的(公法)な関係があるのだから、支給者を通じて、受給者に確認をしてもらうというケースが多いと思われるが」 田村上席が答える。 「そうすると・・・国と公法関係にある支給者に対しても、税務調査ができることになるから、この場合に、源泉徴収義務者は、質問検査権(国税通則法74条の2)に規定する「所得税法の規定による所得税の納税義務のある者」に含まれると解することになるのですか?」 「そう解釈することになるんだろうな」 田村上席は頷く。 「源泉徴収に係る所得税の調査について、国税庁の通達では、次のように記載している」 田村上席はそう言って、「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達の制定について」の3-1(2)を読み上げた。 「源泉徴収に係る所得税の調査は、それ自体、独立した税務調査ということになるのですね」 「・・・通達で、そう明示されているね」 田村上席は、言葉を続ける。 「ただ・・・私自身は、源泉徴収制度に対する最高裁の考え方について、賛成していないんだ・・・」 「最高裁は、源泉徴収制度について、どのような判断をしているのですか?」 山口調査官が尋ねる。 「・・・最高裁の平成4年2月18日の判決は、次のように述べている・・・」 田村上席は、また読み上げる。 田村上席が読み上げる判決文を聞きながら、山口調査官は、大きく頷く。 「つまり、国と徴収義務者との関係では、公法関係に基づいて、源泉所得税の徴収・納付の是正がなされるが、受給者である本来の納税義務は分断されているから、受給者は是正を国に対して、直接求められない・・・と最高裁は考えているのですね」 田村上席は、「そう、そう」と言いながら頷く。 「この図のような関係なのだから、国と受給者の間では、何ら直接的な関係はない」 田村上席は、先ほどの図を一部修正して、山口調査官に見せた。   「私はね、受給者も国に対して、自分の源泉所得税等に誤りがあった場合、自ら還付を求めることができるようにしたらいいと思っている」 「・・・しかし、そうすると、国は支給者と受給者の2人を相手にしなければならないので、かえって複雑な法律関係が生じるのでは・・・」 山口調査官がつぶやく。 「確かにそうだが、もともと、源泉徴収制度は、課税庁の(徴税上)便宜のために設けられたもので、受給者は、本来の自分の税負担に対して、直接、国に請求できる制度を設けるべきだと思うんだが・・・」 田村上席は、少し強い口調で、山口調査官に言った。 (次回につづく)
#32(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/08/22
税務 税務・会計 解説 解説一覧 財産評価

鵜野和夫の不動産税務講座 【連載5】「路線価図の読み方(2)」

鵜野和夫の不動産税務講座 【連載5】 路線価図の読み方(2)   税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫   (一) 地形等による補正率表 図表-1 土地及び土地の上に存する権利の評価についての調整率表(平成19年度分以降用) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます(国税庁ホームページへ)。   (二) 奥行距離・間口狭小・奥行長大による補正率 (図表-1より抜粋) 奥行価格補正率表(一部) (図表-1より抜粋) 間口狭小補正率表 (図表-1より抜粋) 奥行長大補正率表 図表-2   (三) 側方・二方路線の場合の影響加算率 (図表-1より抜粋) 側方路線影響加算率表・二方路線影響加算率表 図表-3 普通住宅地区  100,000円+80,000×0.03=102,400円 図表-4 普通住宅地区  100,000円+80,000×0.02=101,600円 図表-5 普通住宅地区  100,000円+80,000×0.02=101,600円   (四) 地区の判定は 〈地区区分の判定記号〉   (五) 評価明細書の記載方法 図表-6 記載例(評価明細書(第1表)) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
#32(掲載号)
#鵜野 和夫
2013/08/22
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載32〕 分社後の事業譲渡スキームに関する税務・会計処理

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載32〕 分社後の事業譲渡スキームに関する 税務・会計処理   公認会計士・税理士 武田 雅比人   Q 当社は、100%子会社A社の一部の事業を、当社と資本関係のないC社に譲渡することとしました。 権利義務が包括的に移転するメリットを考慮し、A社が新設分社型分割によりB社を設立し、分割後直ちにB社株式をC社に譲渡する方法を採用することとし、その合意内容をA社とC社は契約により明確にします。分割後の関係ですが、当社やA社が、B社やC社の経営に関係することはありません。 A社の決算期は3月31日ですが、このスキームに関する会計処理や法人税法の取扱いを説明してください。 A このスキームについては、A社とB社について、会計処理及び法人税の取扱い(組織再編税制とグループ税制)の検討が必要である。 解 説 Ⅰ A社とB社の会計処理 1 会計基準の内容 関連する会計基準としては、企業結合に関する会計基準(以下「結合会計基準」とする)、事業分離等に関する会計基準(以下「分離会計基準」とする)、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(以下「適用指針」とする)がある。 貴社に関係する重要な部分を要約すると、下記のようになる。 2 会計基準の適用 貴社のスキームには次のような特徴があり、これらの特徴を検討して会計処理の適用を決定する必要がある。 結合会計基準や分離会計基準では、単独新設分社型分割は共通支配下の取引とされているが、上記の特徴から考えると、A社のB社支配は一時的なものであり、結合会計基準や分離会計基準が規定する共通支配下の取引には該当しないことは明白である。 A社が会社分割スキームを採用して一部の事業を移転することは、権利義務が包括的に移転するという会社分割の特徴を利用するものであり、新設分割を利用する関係上で株式を発行する必要があることから(会社法763六)分割対価をB社株式としたにすぎず、実質的には金銭を対価とする会社分割と同様な経済効果となっており、B社への移転事業に関しては、将来の環境変化や経営者の努力に成果が左右されなくなった場合や従来背負っていた成果の変動性(事業のリスク)を免れるようになった場合に該当することも明白である。 結合会計基準、分離会計基準、適用指針には、貴社のようなケースは記載されていないため、制度の趣旨などを考慮して処理方法を決定する必要があるが、諸状況を考慮すれば、この会社分割は「共通支配下の取引」ではなく、「取得取引」(適用指針34(2))として認識すべきものと考えられる。 このため、時価による取引として移転損益を認識することになる。 なお、会社分割時点では企業結合が行われていないため、共通支配下の取引とする見解も見受けられる(布施伸章著『詳解組織再編会計Q&A』清文社、P118)。しかし、この見解は、B社株式の売却が決定されていない場合や、A社のB社株式保有期間が長期になる場合などに適用があるものであり、貴社のような場合に適用されるものではないと思われる。 3 A社の会計処理 会社分割により移転する資産負債は時価で移転されたものとして処理し、分割効力発生日(B社設立日)に移転損益を計上することになる。 4 B社の会計処理 資産負債は時価で受け入れたものとして処理することになる。   Ⅱ 法人税関係の検討 1 A社に関する事項 (1) 組織再編税制等の検討 会社分割であるため、組織再編税制の適用を受ける。A社は株式継続保有要件を充足しないため非適格会社分割(法法2十二の十、十二の十一)となり、時価による譲渡をしたものとされ、A社において譲渡損益を認識することが原則である(法法62①)。 ただし、A社とB社の関係が完全支配関係(法法2十二の七の六)であるから、グループ法人税制に関する検討が必要となる。 なお、A社が取得するB社株式は時価により取得されたものとなり、取得と同時に取得価額と同額で譲渡することになるため、B社株式の譲渡について譲渡益が認識されることはない。 (2) グループ法人税制の検討 非適格分割のため、移転損益を認識することが原則であるが、完全支配関係がA社とB社間に存在するため、土地等の譲渡損益調整資産に係る譲渡損益は繰り延べられることが原則である(法法61の13①)。 この繰り延べられた譲渡損益は、B社がA社との完全支配関係がなくなった際に実現するが、その時期は、完全支配関係を有しなくなった日の前日の属する事業年度となる(法法61の13③)。 A社に、この規定を単純に適用すると、次のようになる。 そうすると、A社は2014年度に会社分割を行ったのであるが、非適格分割による譲渡損益を分割の日の前日を含む事業年度(前事業年度の2013年度)に計上する必要があることになってしまう。 この点について国税庁から公表された取扱いはないが、グループ法人税制の趣旨からして、繰り延べられている譲渡損益が存在する場合に完全支配関係消滅の前日に実現させるということであり、繰り延べられていないものまで前日に認識するということではないと考える(「譲渡損益調整資産の譲渡日に完全支配関係を有しなくなった場合の処理」日本税制研究所レポートNo. 96(2012.04.06))。 (3) 譲渡損益の認識時期 上記のような関係であるので、グループ法人税制の適用を受けることなく、分割効力発生日である2014年4月1日(B社設立日)において譲渡損益を認識することとなる。 2 B社に関する事項 B社は、非適格会社分割により資産負債を受け入れるため、営業権や資産負債調整勘定について検討が必要である(法法62の8)。 (了)
#32(掲載号)
#武田 雅比人
2013/08/22
会計 税効果会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

税効果会計を学ぶ 【第16回】「連結財務諸表における税効果会計の取扱い①」

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第16回】 「連結財務諸表における 税効果会計の取扱い①」   公認会計士 阿部 光成   今回から、連結財務諸表における税効果会計の取扱いについて解説する。 連結財務諸表における税効果会計については、基本的に、「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第6号。以下「連結税効果会計実務指針」という)に規定されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 連結財務諸表における税効果会計の基本的な考え方 連結財務諸表における税効果会計とは、個別財務諸表において財務諸表上の一時差異等に係る税効果会計を適用した後、連結財務諸表作成手続において連結財務諸表固有の一時差異に係る税金の額を期間配分する手続である(連結税効果会計実務指針2項)。 税効果会計の基本的な考え方は、貸借対照表上の資産及び負債の金額(会計上の簿価)と課税所得計算上の資産及び負債の金額(税務上の簿価)との差額である「一時差異」について、繰延税金資産及び繰延税金負債を認識する会計手法である(「税効果会計に係る会計基準の設定に関する意見書」Ⅲ、1、「税効果会計に係る会計基準」第二、一、2)。 前述のように、連結税効果会計実務指針では「個別財務諸表において財務諸表上の一時差異等に係る税効果会計を適用した後」と規定されている。 これは、連結財務諸表における税効果会計の適用に際して、連結修正項目に係る税効果会計は、個別財務諸表の会計上の簿価を税務上の簿価とみなし、連結財務諸表における会計上の簿価との差額を一時差異として税効果会計を行うことを意味している(手塚仙夫『税効果会計の実務(第7版)』(清文社、2011年6月)137ページ参照)。   Ⅱ 連結財務諸表における税効果会計適用の手順 連結財務諸表における税効果会計適用の手順は、連結納税制度が適用されている場合を除いて、個々の連結会社ごとに行う(連結税効果会計実務指針10項)。 これは、まず個別財務諸表項目に存在する一時差異等に対して繰延税金資産及び繰延税金負債を計上した後の個別財務諸表を作成し、その後、資本連結手続及びその他の連結手続上生じた一時差異に対して、当該差異が発生した連結会社ごとに税効果会計を適用することを意味している。   Ⅲ 連結財務諸表固有の一時差異 連結財務諸表固有の一時差異には、次のものがある。 (了)
#32(掲載号)
#阿部 光成
2013/08/22
会計 監査 税務・会計 解説 解説一覧 財務諸表監査

〔会計不正調査報告書を読む〕【第10回】扶桑電通株式会社・当社営業所における不適切な取引に係る「第三者委員会調査報告書」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第10回】 扶桑電通株式会社・ 当社営業所における不適切な取引に係る 「第三者委員会調査報告書」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】   【扶桑電通株式会社の概要】 扶桑電通株式会社(以下「扶桑電通」という)は昭和23年創業。富士通製品の販売、設計施工、保守、システムソフト開発を主たる事業とする。売上高38,489百万円、経常利益322百万円。従業員1,032名(数字はいずれも2012年9月期)。東証2部上場。   【報告書のポイント】 第三者調査委員会による調査に先立つ2012(平成24)年12月12日、扶桑電通では、社外監査役(弁護士)を含む社内調査委員会の調査結果として、平成19年度から平成24年度までにおいて、架空循環取引などの不適切な取引による売上高1,036百万円、スルー取引による売上高1,521百万円があったことを公表し、過年度の有価証券報告書などを訂正した。 ところが、その後の定期監査において、商流が不明確な取引が抽出され不適切な取引であるとの疑念を抱いたことから、継続して事実調査を行った結果、不適切な取引であることが判明し、専門的及び客観的な見地から調査分析、不適切取引に関する事実の認定、発生原因の究明、再発防止策に関する提言が必要であると判断し、第三者調査委員会を設置した。   1 調査結果により判明した事実 (1) 不適切な取引発覚の経緯 2012年12月時点では、今回の不適切な取引が判明した営業所については、スルー取引に係る会計上の誤りは訂正したものの、架空取引は判明していなかった。 その後、再発防止策の一環として2013年3月に行われた定期監査で、不明確な取引が発見され、同月29日に当該取引に係る入金がなかったことから、同営業所販売課長に確認したところ、架空取引の疑いが判明した。 (2) 不適切な取引の内容 首謀者である販売課長は、前職においても、販売実績を上げるために架空取引を行っており、その架空取引の代金について、甲社に資金の工面を依頼し、甲社が銀行から4,000万円の融資を受け、入金に充てた。その後、扶桑電通に転職した販売課長は、この4,000万円を甲社に返済するために、架空循環取引を開始した。 架空循環取引の手口としては、エンドユーザーを自治体や学校とする架空の商談に基づき、扶桑電通が、甲社から仕入れて、己社に販売するという、3社間で資金を循環させる取引を繰り返していた。 (3) アンケート調査 社内調査でも、調査委員会の調査でも、全社員に対してアンケート調査が行われた。 社内調査の際のアンケートは、対象者全員から回答を得ているものの、回答に記名を要求するものであったことから、コンプライアンス上大きな問題となる取引に関する回答はなかった。 一方、調査委員会のアンケートは、調査委員が所属する事務所あてに電子メールで送信させ、会社へは回答者名を提供しないという条件で行われた。 その結果、3名の回答者から調査委員会が把握していない取引に関する回答があったが、1名は通報者の匿名性に不安を感じたことから聞き取り調査を拒否し、聞き取り調査に応じた2名からも、架空取引等を認定する資料までは得られなかった。 (4) 業績に与えた影響 今回の不適切な取引に関する訂正額は、売上高1,836百万円、経常利益347百万円となり、架空取引による売上計上額は、昨年12月に公表した金額を合わせ、2,874百万円に達した。   2 不適切な取引が長期間発覚しなかった理由 (1) 営業所における売上高の急激な増加 同営業所の売上高は例年3億円程度で推移していたところ、販売課長が入社した翌年の平成20年度は6億円弱、その翌年度以降は8億円超となるなど、急激に売上高が増加したが、管理部門・支店長は、不審をもって調査するなどの措置はとらなかった。 通常、社員が1人増加したくらいで、年間3億円から5億円も売上が増えるとは考えづらいところである(しかも、問題の営業所は地方にあると推定される)が、業績が向上している場合に、それを問題にしづらい社風があったことが、発覚を遅らせた一因となっていることが、報告書からはうかがえる。 また、販売課長の上司である支店長や営業所長は、個別の大型案件の成約があっても、得意先やエンドユーザーにお礼を兼ねて挨拶に行くことはなかったということである。しかし、他社の架空取引事例についての調査結果では、新規商談や大型商談の受注に際して、営業部門の責任者などが顧客を訪問することで、取引の不自然さに気づく可能性が高いことは繰り返し報告されており、そうした知見は生かされなかった。 (2) 富士通製品以外の製品を扱う商談、文教商談に関する聖域化 首謀者である販売課長が仕立て上げた架空取引は、扶桑電通の主力である富士通製品ではなく、また、当営業所において不得手とする文教関係の顧客との商談であったことから、これらの商談は、営業所長をはじめ、販売課長の部下である主任クラスの社員も、取引全般を販売課長に任せきりにせざるを得ず、これが、販売課長による架空取引の作出と継続を可能又は容易にした原因の1つとなった。 なお、扶桑電通の主要取引先である富士通グループへの商品発注については、すでに電子化対応により一元管理されており(東京証券取引所への「改善報告書」より)、富士通製品以外の製品についてはこうした対応ができておらず、また、独立した購買部門が存在しなかった組織上の不備も、架空取引を容易に作出できた原因といえよう。 (3) 内部監査の不十分さ 問題となった営業所のような小規模な営業所への往査は5年に一度しか行われず、定期的な監査以外に、売上が急増するとか、一定額以上の大きな成約があったとか、又は、入出金日が近接するなどの取引の異常性に着目した監査は行われていなかった。 こうした内部監査の不十分さも、架空取引の牽制や早期発見を妨げた原因の1つになった。   3 調査報告書の特徴 売掛債権の増加と回収の長期化を懸念した監査室が在庫確認などの内部監査を行い、また、会計監査人からも不適切な会計の疑いを指摘されて、社内踏査委員会を立ち上げ、全社員にアンケート調査を行うなどして、不適切な取引の解明を終え、過去6年間で25億円以上の売上高の修正を発表した。同時に再発防止プロジェクトを立ち上げ、徹底した再発防止に取り組む――これが2012年12月における扶桑電通の対応である。 これで終わっていれば、発見までに少し長い期間を要したとはいえ、一応の自浄能力が発揮できた事例として、さほどの注目を集めることもなかったかもしれない。 ところが、社内調査だけでは、すべての不適切な取引が解明できたわけではなかった。 1つの不正が発覚した場合に、社内に他の不正が潜在しているかどうかについても調査・検証が求められるのは当然であり、扶桑電通においても、限られた時間の中で、こうした作業を行っていたのだが、結果的には、社内調査委員会による調査は不十分なものであり、改めて第三者調査委員会を設置することになる。 第三者調査委員会の調査対象となった営業所は、営業所長が支店長と兼任で常駐しておらず、首謀者である課長、主任を含む所員4名程度の小規模なものであった。そのため、内部監査は5年に一度しか行われず、発注業務を主任に任せることで体裁上は職務分離を行っていたが、実際には、販売課長の商談に対する牽制機能はなかった。 なお、調査委員会によるアンケートは、結果的には、新たな不正の発見にはつながらなかったが、「匿名性が確保されれば有効な回答が得られる」という示唆を与えるものであり、不正調査における網羅性の検証のための手段として、全社員に対するアンケートをどのように利用すればいいのかを検討する1つのヒントを与えたものであると評価できる。 (了)
#32(掲載号)
#米澤 勝
2013/08/22
会計 研究開発費 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第16回】ソフトウェア会計③「自社利用のソフトウェアの会計処理」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第16回】 ソフトウェア会計③ 「自社利用のソフトウェアの会計処理」   仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広   〈事例による解説〉 在庫管理システムの導入費用が3,000千円で、この在庫管理システムによる費用削減効果が5年間継続すると見込んだ場合、会計処理は以下のようになります。 〈会計処理〉 ① 在庫管理システムの資産計上 ② 減価償却費の計上(×1年度末決算時)  (*1) 3,000千円/5年=600千円 〈会計処理の解説〉 本事例における在庫管理システムは、将来の費用削減効果が確実に見込まれるため、取得に要した費用を無形固定資産として計上します。仮に、この在庫管理システムを導入しても、費用削減効果が見込まれない場合には、資産計上は認められず、費用として処理しなければなりません。 ソフトウェアは、物理的実体が見えにくく、その経済価値に不確実性があるため、有形固定資産に比べて資産計上の要件が厳格である点に注意が必要です。 自社利用のソフトウェアには、大きく分けて以下の2つが含まれます。 本事例における在庫管理システムのように、①社内業務の効率化を目的とするソフトウェアは、収益との直接的な対応関係が希薄であるため、定額法による償却が一般的です。 一方、②サービス提供目的のソフトウェアは、通常、自社のサーバーで管理されますが、これを顧客に利用させて収益を獲得するものであるため、収益と密接に対応しています。したがって、自社利用のソフトウェアであっても、サービス提供目的のソフトウェアの場合には、見込販売収益に基づく減価償却を採用した方が合理的と考えられます。 耐用年数は、利用可能期間を基礎として原則5年以内の年数とすることとされています。これは、ソフトウェアは有形固定資産と比較して、技術革新による陳腐化のリスクが高いためです。5年を超える耐用年数を設定することもできますが、その場合には合理的な根拠に基づくことが必要とされています。 (了) ※9月は建設業会計を取り上げます。
#32(掲載号)
#大川 泰広
2013/08/22
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

活力ある会社を作る「社内ルール」の作り方 【第1回】「権利と義務で統治することの限界」

活力ある会社を作る 「社内ルール」の作り方 【第1回】 「権利と義務で統治することの限界」   特定社会保険労務士 下田 直人     〈組織にはルールが必要〉 複数の人間がひとつの場所でひとつの目的に向かって同じ方向を見るには、一定のルールが必要となってくる。 ルールがなければ、それぞれの人が自分なりの考えに基づいて行動することになり、一定基準以上の高い成果を継続的に上げつづけることが難しくなるからだ。 集団を効率的、効果的に動かすには、ルールが存在し、また、そのルールが社員に理解されている必要がある。 この理解というプロセスに極めて重要なのが、「文書によるルールの明文化」である。   〈就業規則の必要性〉 社内ルールと言うと、皆さんは、何をイメージするだろうか。 おそらく、「就業規則」が思い浮かぶのではないだろうか。 就業規則は、労働基準法上では、従業員が10名以上いる事業場では労働基準監督署への届出と社員への周知が義務付けられている。また、労働契約法という法律では、就業規則が定められ、社員に周知されていれば、その内容が労働契約の一部となるとも言っている。 つまり、就業規則は、社内で発生する会社と社員との間の権利と義務をはっきりさせるものである。したがって、会社は、就業規則を根拠に、社員に命令することができるのだ。また、労使間でトラブルが生じた際には、解決の根拠となるものでもある。 仮に就業規則が社内に存在しないということは、各社員と細かな労働契約を結ばない限り、会社の規律に従わせることなどが難しくなる。 つまり、就業規則がないということは、社内統治ができなくなる恐れがあるということだ。 昨今では、「問題社員対策」として事細かな内容を就業規則に定める傾向にある。 前述のとおり、就業規則に様々な禁止規定や義務規定を設けておけば、それを根拠に社員を拘束することができるからだ。 これは、ある意味においては、重要なことであり、否定するものではない。実際に、トラブルメーカー的な者がいることも事実だ。 したがって、何はさておき、会社は、規模や業種に関係なく、自社実情にマッチした就業規則をきちんと作成しておくことが必要になってくる。   〈就業規則重視が行き過ぎると〉 しかしながら、一方で次のような考えも、筆者の頭の中には駆け巡る。 このやり方を追求していくと、問題が起きれば、それに対応する新たな規則を作ることになり、規則がどんどん肥大化していってしまう。 つまり、きりがなくなってしまうのだ。 筆者が学生の頃は、全国の学校で「変な校則がある」と話題になった。 その中には「男子生徒と女子生徒は1メートル以上離れて歩かなければならない。」といった極めておかしなものがあったのを記憶している。想像するに、このような校則も何か問題が起こり、その対処として決められたものであろう。 問題への対処療法としてのルール作りが極端に行きついてしまうと、規則が戦略的にしかけるツールではなくなってしまう。肥大化したルールは、業務の生産性を上げるために求められる一定の基準ではなく、問題が起きた時に会社が都合よく罰することができるようにすることを目的とした、経営的には極めて後ろ向きのツールにしかならない。   〈規則は何のために必要か?〉 ここで一度原点に立ち返りたいのであるが、そもそも、なぜ規則が必要なのか? 筆者は、会社にとって規則が必要な理由は、「生産性の向上」にあると思っている。一定のルールを作ることによって、「非効率な時間が少なくなる」「社員が安心して働くことができ、仕事に集中できる」「離職率が下がる」そのようなことに寄与するのが規則なのではないかと考えている。 「生産性向上」という視点から考えると、規則は、読んで理解できる程度のボリュームにしておかなければならない。そうはいっても、入社から退社まで社内で起こりうることに対応するルールを決めれば、そこそこのボリュームにはなり、すべてを理解しておくことは至難の業と思われる。 そうなると、就業規則の細かい部分を読まなくても、「うちの会社ならこういうことが求められるだろう」「こういうことは禁止されるだろう」と、ある程度の予想が付けられるようにしておく必要がある。   〈規則でないもので統治するとしたら?〉 では、それらの予想は、何が根拠となるのであろうか。 これについて筆者は、自社の企業文化やコア・バリューなど、会社が大切にする価値観が根拠になりうると考えている。 つまり、自社の企業文化やコア・バリューがきちんと明文化されたものとして存在し、その方針と就業規則の内容が同じ方向を向いているのであれば、規則の細部を読み込まなくても大方の方向は間違えないのである。 「企業文化」や「コア・バリュー」というと、何だか堅苦しくて難しいようなものに感じとられてしまうが、実はそんな難しいものではない。特に、オーナー企業で社長の話が伝わりやすい中小企業ではなおさらだ。 最初のうちは、 「社長が大切にしていることで、いつも口酸っぱく言っていること」 「社長が考える社員の幸せ」 「これだけは譲れないもの」 そういったものを少し整理して、文書にするだけでも立派なコア・バリューになると思う。   〈権利と義務で統治することの限界〉 インターネットの発達により、誰でも簡単に多くの情報にアクセスできる時代になってきているのは周知のとおりである。こんな時代に、会社にとって都合のいい就業規則を作り、それに社員を従わせようとしても、難しくなってきている。 つまり、「アラブの春」がインターネットの威力により国家を転覆させたように、会社にとってだけ都合がいいルールは、いとも簡単に社員にそっぽを向かれてしまう時代に突入している事実を認識する必要がある。 例えば、就業規則で副業を禁止していた場合、「規則があるということだけをもって、すべての副業を禁止できない」という事実を、今ではインターネットを通じ誰でも簡単に知ることができてしまう。 権利義務関係での話になっていくと、どうしても会社の方が不利になってくる。 権利は持っているから必ず行使しなければならないものではなく、行使しなくてもいいのだ。誰でも真の情報を簡単に手に入れられる時代になったからこそ、会社は、権利義務の関係ではないところで労使関係を構築していくことが、重要になってきていると筆者は考える。 そして、権利と義務は、突き詰めるほど窮屈な組織になってくる。 窮屈な組織では、皆の発想が「何をやるべきか」ではなく「やってもよい」という発想に陥りがちになる。 世の中がダイナミックに動く時代では、「やってもよい」という消極的な判断が横行する組織では、発展は難しくなってくると思われる。それよりも、自分たちの価値観を基準に照らし合わせ「やるべきか否か」で行動していく組織の方が発展する。 また、価値観が明確になると、変な行動をとる社員がいた場合に、就業規則がその人間を許さないのではなく、周囲がその人間を許さなくなる。つまり、権利義務の関係でその人間が組織から排除されるのではなく、周囲がその人が組織に存在することを許さなくする。 そうなると就業規則は基本的な原則が載せられ、最後のジャッジメントの時に念のために、確認だけすればいいものになってくる。 *  *  * 以上、見てきたとおり、これからの社会では、最終的には価値観で社内統治することを目指していくべきであると筆者は考える。しかし、前述のとおり、その前提としては、社内ルールとしての就業規則が存在していることである。 次回以降では、こんな時代の就業規則のあり方について考えていきたい。 (了)
#32(掲載号)
#下田 直人
2013/08/22
#