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〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第5回】税率変更の問題点(4) 「請求の締日に基づく処理方法」

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第5回】 税率変更の問題点(4) 「請求の締日に基づく処理方法」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   1 請求期間の締め日による問題点 事業者が得意先と継続して取引を行っている場合には、締め日を設定して1ヶ月間の期間ごとに請求するケースが多い。 この請求方法において、その締め日が月末でない場合には、施行日前の請求分と施行日後の請求分で税率が異なるため、注意しなければならない。 例えば、20日締めの場合には、平成26年3月21日から3月31日までの販売分については旧税率である5%、4月1日から4月20日までの販売分については新税率である8%を適用することとなる。 この場合における請求書等の記載については、前回でも述べたように、それぞれの税率を表示するなどの工夫が必要である。 また、締め日が月末でない場合や、その事業者の請求に係る売上の計上基準などの観点から、以下のような点に注意しなければならない。 法人税法の決算締切日の特例を適用している場合の取扱い 売上計上基準の取扱い 売上計上基準と仕入計上基準が一致しない場合の取扱い これらの点については、消費税額を計算する上で旧税率を適用するのか新税率を適用するのか、相対取引において売上側と仕入側の処理が適正に処理されているかなどといった項目につき、税務調査等においても細かく確認される可能性があるため、各当事者間の取引内容も含め明確にしておく必要がある。 したがって、これらの点につき具体的に確認していく。   2 法人税の決算締切日の特例を適用している場合の取扱い 法人税において、事業年度の末日と決算締切日がずれている場合には、一定の要件のもと、決算締切日に合わせて法人税の計算を行うことができることとしている。 具体的には、法人税基本通達2-6-1に、以下のように定めている。 この規定は、実務上の商慣行を考慮して要件を満たした場合にのみ認められていることから、事業年度の末日で締め切ることについて問題のない項目については、原則のとおり事業年度の末日をもって締切日としなければならない。 また、この通達は、取引先ごとに締切日が異なる場合についても、それぞれ継続適用していればその締切日により計算できることとなるが、その場合であっても費用と収益は対応させる必要があり、それぞれの売上高に対応する売上原価を計算するために、期末棚卸高の計算については注意が必要である。 この特例に対し、消費税法における資産の譲渡等の時期については、消費税法基本通達9-6-2において以下のように定めている。 この通達により、消費税法上の資産の譲渡等の時期は、法人税における決算締切日の特例を適用している場合には、その計算と同様に処理することが可能となる。 したがって、3月決算法人の事業者で、3月20日を締め日として計算している場合には、その20日までの売上計上を基準として法人税及び消費税における申告を行うことができることとなる。 しかしながら、これらの通達は、締め日に係る計上基準の取扱いであって消費税率についての取扱いではないことから、施行日を含めた課税期間に係る消費税額の計算については注意しなければならない。 具体的には、3月決算法人の事業者における平成26年4月1日から27年3月31日までの課税期間につき消費税の計算を行う場合、26年3月21日から3月31日までの販売分については、旧税率により処理することとなる。 このように、税率改正の施行日をまたぐ法人税及び消費税の申告の計算については、通常の税額計算と異なることが想定され、慎重な対応が必要とされる。   3 売上計上基準の取扱い 消費税の計算において、売上の計上時期である資産の譲渡等の時期については、資産等を相手先に引き渡した時点で計上する『引渡基準』が原則であるが、その事業者の販売方法や業種によって様々な基本通達が示されている。 特に税率変更の施行日の前後に販売等した売上計上時期については、その計上基準により、旧税率が適用されるのか、新税率が適用されるのか、といった問題が生ずる可能性がある。 消費税法基本通達において具体的に認められている売上計上基準では、主に以下のようなものがある。 なお、資産の譲渡等の時期については、その特例規定として長期割賦販売等における延払基準、工事等の請負契約等における工事進行基準という計上基準が認められているが、これらの規定は平成9年の改正時と同様に改正消費税法の附則において特例措置が講じられており、次回以降で詳しく解説する。 上記のように、商品や製品を販売した場合、あるいは役務を提供した場合、その売上をいつ計上するかといった問題については特に重要な項目である。 例えば、商品等の資産を販売する場合、引渡時、資産売買の契約日、代金の決済日が必ずしも同一事業年度になるとは限らないことから、どの日をもって売上計上するかによって、法人税の計算では当期及び翌期の所得金額や税額が変わることとなり、消費税の計算では施行日をまたいで取引を行っている場合には消費税率も異なることとなる。 したがって、税務調査等でトラブルとならないようにするためには、売上計上日を証明する証票等(納品書や請求書等)を整備し、その書類の写しを保管することが重要となる。 出荷基準であれば運送会社の引取りを証する伝票、検収基準であれば取引先の検収確認印・日付の入った書面等などで客観的に確認できるようにしておく必要がある。 また、継続取引を行っている取引先に対しても、税率変更の施行日をまたぐ取引については、当事業者の売上計上基準でトラブルとならないように、納品書や請求書の記載方法等も含め事前に打ち合わせや確認等を行い、相互に合意の上で処理できるように準備しておかなければならない。   4 売上計上基準と仕入計上基準が一致しない場合の取扱い 継続的取引を行っている当事者間において、売上計上基準と仕入計上基準が一致しないケースがあり、その場合の処理方法について注意する必要がある。 具体的には、売上先が出荷基準、仕入先が検収基準の場合、委託販売において売上計算書到着日基準の場合などが考えられる。 上記のように、売上側の計上基準と仕入側の計上基準が必ずしも一致するとは限らないことから、お互いの認識基準を理解した上で明確に区分して請求しなければ問題が生ずる可能性がある。 また、その事業者がサービス業等の場合でその役務の提供が3月末日において明確に区分できないような場合においては、どのように請求を行うかといった点につき事前に検討しなければならない。 この点については、税務調査等においても追及される可能性があるため、当事者間の判断に合理性があるのかどうかも含めて検討すべきである。 (了)
#1(掲載号)
#島添 浩
2013/01/10
税務 税務・会計 解説 解説一覧

税務判例を読むための税法の学び方【1】 〔第1章〕法(法源)の種類

税務判例を読むための税法の学び方【1】   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘     〔第1章〕 法(法源)の種類   はじめに 「法」は道徳などと同様、社会規範の一種である。道徳等の他の社会規範との最も大きな違いは、違反したことにより強制的な制裁(刑罰、損害賠償など)が課せられるという強制力がある点である。また、行為規範となるだけではなく、裁判規範として機能するという点がある。 ではこの「法」と言った場合、「法律」と同義語であろうか。 答えは「否」である。 「法律」の成立要件は、国家により異なるが、わが国においては、国会で可決されて制定されたものを指す。では「法」として機能するものには、どのようなものがあるだろか。 そこでまず、法の種類について見ていく。   1 自然法と実定法 自然法とは、事物の自然本性から導き出される法の総称であり、人間の作った実定法の効力・拘束力の正・不正を識別する概念である。 自然法論によれば、この自然法に反する実定法は、法的拘束力をもたず、無効だと、すなわち「悪法は法にあらず」と主張される。 これに対し、法実証主義の立場からは、社会において実効的に行われている法である実定法の内容が道徳的であるか否かにかかわらず法的効力を認める、すなわち「悪法もまた法なり」と主張される。 仮に自然法論の主張を認めるにしても、何が自然法かといった判断は事実上不可能である。したがって事実上は、法実証主義の立場に立ち、実定法の分類を見ていくことになる。   2 法源 法源とは、法の形式的存在形態、すなわち、法規範がどのような形式で存在しているかをいう。 したがって「法源」という場合、法の存在形式による法の分類を指す場合もあるが、この分類の対象の範囲内か否かという意味を指す場合もある。すなわちこの分類の対象として、法的拘束力を持つものか否か=裁判官が裁判を行う際に基準となる裁判規範であるか否かという意味で使うこともある。もっとも裁判の結果に対する予測可能性から、事実上行為規範として機能することになる。 「法源性」とは、この意味における「法源」の使い方から「法規範性」の有無を指す言葉として使われている。 では次に、この形式的存在形態について見ていこう。   3 成文法(制定法)と不文法 文字・文章で表現され、所定の手続に従って定立される法を、「成文法」又は「制定法」という。これに対し、文字・文章で表現されていない形式の法を「不文法」という。慣習法、判例法、条理などがその例として挙げられる。 なお、判例法は、判決という文章が存在するが、判決文そのものが法ではなく、そこに含まれている法原則が拘束力をもつ法規範とされ、法として制定されたものではないため、不文法に分類される。 我が国では、英米と違い、成文法主義を原則とした上で、不文法も成文法を補充するものとして認められている。これに対し英米法の社会では、裁判所の判例は重要な不文法源となっている。 成文法は、体系的・論理的に整序されており、明確で安定している。したがって、社会の構成員の行動規範、裁判官の裁判規範としての明確性は高いが、法改正には一定の手続を経なければならず、時代の変化には即応しにくい。もっとも、基本的に一般的抽象的に規定されているため、立法後の社会変化に対してもある程度の適応力がある。しかし、立法当時には予測できない問題が生じた結果、成文法でなんら規定が存在しないことも起こり得る。このような場合には不文法で補充せざるを得ず、不文法に法源としての役割が求められる。   4 成文法の種類 ① 憲法 国家の統治体制の基礎を定める基本法である。 憲法も国会の議決を経て制定されたものという点では他の法律と同様であるが、日本国憲法第98条に「この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」と最高法規性が示されている。 また第96条において「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。」と厳格な手続によらなければ改正できないとされている。 このように、厳格な手続によらなければ改正できない成文憲法を「硬性憲法」といい、通常の法律の改正手続と同じ手続で改正できる成文憲法を「軟性憲法」という。 ② 法律 日本国憲法の定める方法により、国会の議決を経て制定された成文法をいう。 法律は国権の最高機関である国会によって制定される成文法であるから、国内法としては憲法に次で強い効力を持ち、他の国内法令に優先する。条約との関係については、条約の国会承認、憲法第98条第2項の条約遵守主義などから考えて条約が法律に優先すると解されている。 ③ 規則 「規則」という名称のものは数種類あるが、これは国会以外が憲法に定められた規則制定権に基づき、作成する制定法をいい、議院規則と最高裁判所規則がある。 議院規則は、憲法第58条第2項において「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め」と衆議院及び参議院による規則制定権が定められている。なお、これも法律同様立法府の定めたものであるため法律との優劣が問題になるが、法律は国会の両院の可決等の手続により制定されたものであるため、法律が上位とされている。 最高裁判所規則は、憲法第77条において「最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律も及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。」と最高裁判所による規則制定権が定められている。 最高裁判所規則は、法律に優位するという説もあるが、一般には国会を国権の最高機関とする憲法の趣旨からして、法律の方が上位にあると解されている。 なお、議院規則や最高裁判所規則と法律との関係は、法律による委任がなくとも一定の事項については憲法上当然に制定することができる点において、政令や内閣府令・省令のような行政機関の制定する命令とは区別されるものである。 ④ 命令 行政機関が制定する成文法の総称で、法律の実施に必要な細則や法律が委任する事項を定めるものであり、法律の範囲内において定めることができる。政令、府省令、その他の命令の3種がある。 また、内容的に分類すれば、執行命令と委任命令に分けられる(旧憲法下においては独立命令というものもあった)。執行命令とは、法律の規定を執行するために必要な細則を定める命令であり、委任命令とは、法律により委任された事項について定める命令である。 なお租税法律主義により、税に関する重要な事項(すなわち、納税義務者、課税物件、課税標準、納付の方法、納付の期日等)は法律で定めるべきであり、課税標準の計算についての技術的、専門的な事項や細かい手続的事項につき命令で定め得ると解される。 したがって、これら重要な事項は法律で命令に委任し得ず、また、法律で命令へ委任するにあたっても、委任の内容・程度が具体的・個別的であることを要し、概括的・白地的な委任は許されないと解される。 (ア) 政令 内閣が制定する成文法である。日本国憲法第73条において内閣の行う事務が定められているが、その第6号には「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。」と定められている。閣議によって決定され、主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署して、天皇が公布する。 (イ) 府省令 府の主任の大臣が発する成文法である府令(「内閣府令」)と各省大臣が発する成文法である省令の総称である。 内閣府令については、内閣府設置法第7条第3項に「内閣総理大臣は、内閣府に係る主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、内閣府の命令として内閣府令を発することができる。」と、省令については国家行政組織法第12条第1項に「各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、それぞれその機関の命令として省令を発することができる。」と定められている。 なお、基本的には、命令のうちで重要なものは政令で、軽微なものは府省令で定めることになる。税法においては、原則、課税標準の計算に関する事項は政令(名称は「○○税法施行令」)で、細かい手続的事項については省令(名称は「○○税法施行規則」)で定めている。 (ウ) その他の命令 その他の命令として、会計検査院規則、人事院規則、人事院指令、府省の外局である委員会(行政委員会)が発する「規則」(例:国家公安委員会規則)、庁の主任の大臣又は省の外局である庁の長官が発する「庁令」(例:海上保安庁令・復興庁令。海上保安庁令は規則に準じ、復興庁令は府省令に準じる)などがある。その発する機関、根拠法、沿革などにより、政令又は府省令に並ぶか下位に位置することとなる。 (エ) 告示 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる(国家行政組織法第14条第1項)とされているが、一般的には告示そのものは法源とはされていない。 しかし、こうした告示の中には、法律又は委任命令の授権に基づいて、法令を補充する法規としての性質をもつものがある。すなわち、実質は法令の委任に基づく命令であって告示形式をとるものである。行政手続法第2条が、「この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 」とした上で、第1号において法令につき「法律、法律に基づく命令(告示を含む。)、条例及び地方公共団体の執行機関の規則(規程を含む。以下「規則」という。)をいう。」と告示を含めているのは、このような例があるためである。 税法における例としては、法人税法第37条により損金算入が認められるいわゆる指定寄附金の範囲が告示によることになっている。地方税については、総務省告示及び各地方団体の長の発する告示がある。 ⑤ 地方自治法規 (ア) 条例 地方公共団体が、議会の議決により、法令に違反しない限りにおいて、制定する自治立法を指す。地方税においては、賦課・徴収は地方議会の定める条例に基づいて行われなければならないとされる「地方税条例主義」によっており、地方税に関する裁判例を見るにあたっては、重要な成文法である(地方自治法第14条)。 (イ) 地方公共団体の「規則」 地方公共団体の長である首長が、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し制定するものである(地方自治法第15条第1項)。 (ウ) 地方公共団体の「規則」以外の地方公共団体の機関の定める「規則」 地方公共団体の委員会は、法律の定めるところにより、法令又は地方公共団体の条例や規則に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則その他の規定を定めることができる(地方自治法第138条の4第2項)。 ⑥ 条約 国家(一定の国際組織も含む)間の又は国際機関(国際連合等)による文書による合意を指し、名称は問わない。したがって、その名称は、条約のほか、憲章、協定、協約、宣言、議定書等さまざまである。憲法との関係では、その優劣につき学説上争いがあるが、法律以下の国内法令に対しては、条約が優位すると考えられている。 (次ページへ進む) (前ページへ戻る) 5 不文法の種類 ① 慣習法 慣習法とは、社会の慣行を通じて発生してきた社会生活の規範ともいうべき慣習が法規範として承認されたものをいう。 成文法中心主義を採用するわが国においては、慣習法が法源としての機能を果たすのは例外的な場合である。慣習が慣習法として認められるための要件を、「法の適用に関する通則法」第3条は「公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。」と定めている。 したがって、公の秩序又は善良の風俗(公序良俗)に反しない慣習で、「法令の規定により認められた」慣習か、「法令に規定されていない事項に関する」慣習に限られる。 ② 判例法 判例とは、先例として機能する裁判例のことで、ある事件に対し下された判決の中で示された一般的規準が先例として規範化され、その後の同種の事件においても同じ内容の判決が下されるようになることから、この一般的に承認されるに至った判決(裁判所の判断)を判例(法)という。判例は、他の裁判官の法解釈を拘束することになり、一種の法規範となるので、事実上法源性を有する。 したがって、判例と裁判例は区別して呼ぶ必要がある。 なお、我が国では、先例拘束性の原理が明文で規定されておらず、また憲法第76条第3項において「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」と裁判官の独立性が保証されていることから、判例は、確定的な法源とはいえないとされている。 なお、最高裁判所は、「憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき」は大法廷で裁判を行わなければならない(裁判所法第10条第3号)。 ③ 条理 条理とは、道理・筋道のことであり、西欧では「事物の本性」ともいわれる。明治8年太政官布告103号「裁判事務心得」(民事に関する事項については、現在でも効力が残っているとされ、現在の総務省の法令データ提供システムにおいても、第3条~第5条は表示されている)の第3条において「民事の裁判に成文の法律なきものは習慣に依り習慣なきものは条理を推考して裁判すべし(原文はカタカナ)」と、条理に基づく判断を定めている。 しかし実質的な内容に関しては無いに等しいため、拘束力のある法源かどうかについては否定的な見解が多い。 なお、この第4条においても「裁判官の裁判したる言渡を以て将来に例行する一般の定規とすることを得ず」と、裁判における先例拘束性を否定している。   参考(法源性のない行政機関の内部規律) 以下のものは、所管の諸機関及び職員に対し、発せられる行政組織内の職務命令である。 したがって、これまで述べた法令等が、基本的に国家・地方公共団体職員のみならず一般国民をも拘束するのに対し、これらはあくまで国家・地方公共団体職員等を規律するものである。しかし、その内容が法令の解釈を示すためのものであれば、これら職員に遵守義務が課せられていることから、結果的にこれら職員の行政行為を通じて一般国民をも拘束する結果となる。だが法令ではないため、その適否が訴訟で争われた場合には、裁判所は法令に基づいて判断を下すことになる。したがって法源性はない。しかし、行政先例法(行政上の先例や取扱いが長年の間反覆・継続して行われているうちに、社会一般に法的確信をいだかせるようになり、慣習法として認められるに至ったものをいうとされる)の形成を認める見解もある。 ① 告示 前記したように、各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる(国家行政組織法第14条第1項)とされており、法令を補充する法規としての性質をもつもの(前記)と、行政機関内部の行政規則があり(そのほか、一般処分や事実行為の場合もあるが、ここでは省略する)、ここにおいてはこの後者を指す。 ② 訓令 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達するため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる(国家行政組織法第14条第2項)とされており、行政機関及びその職員を対象として定める命令である。公共性が強く官報に掲載されるものと、非公表扱いのものがある。 ③ 通達 訓令同様、国家行政組織法第14条第2項に基づくものである。上級機関が下級機関に対して、その機関の所掌事務について示達するため発出する公文書のことであり、法令の解釈等を示すものとして、当該法令を所管する省庁が下級機関に対して発遣することが多い。ただし、あくまで行政機関内部の文書であることから、通達で示された法令の解釈は司法の判断を拘束しないが、行政解釈を知る手段として重視される。 特に税法においては、税務通達が実務上非常に大きな影響を持っている。というのも、税に関する法令を具体的な事案に適用するにあたっては、法令の解釈が必要になるが、こうした解釈について課税庁全体における統一をはかるために通達が定められるからである。 なお、これには体系的に法令全体の解釈を示した基本通達と個別の事案ごとに示している個別通達がある。 ④ 行政実例 「行政実例」とは、法令の解釈・運用について所管省庁の見解を示したもので、通達等とは異なり、都道府県・市町村からの照会に対して所管省庁が回答するという形式をとるものである。 これも通達と同じく、そこで示される解釈は司法判断への拘束力を持たないものであるが、指揮監督という関係に基づき、当該事案及び事後の同種事案において下級機関の判断を拘束する。 税務においては、地方税の取扱いにつき見解を示したものがある。 ⑤ その他 インターネットによる行政機関のサイト等において、所管法令等の解釈がされることがある。税務においては、国税庁ホームページにおいて「タックスアンサー(よくある税の質問)」として回答を示しているものがある。 (了)
#1(掲載号)
#長島 弘
2013/01/10
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載1〕 株式会社の解散と法人税申告の実務 【第1回】株式会社の解散とみなし事業年度及び残余財産確定後の取扱い

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載1〕 株式会社の解散と法人税申告の実務 【第1回】 株式会社の解散とみなし事業年度 及び残余財産確定後の取扱い   公認会計士・税理士 長谷川 敏也   A社(3月決算)は、期中の7月14日に解散の特別決議を行いましたが、法人税の申告を行う事業年度は、どのようになるのでしょうか。また、残余財産確定後の事業年度はどうなるのでしょう。 1 特別決議による解散後の事業年度 株式会社は、いつでも株主総会の特別決議によって解散することができます(会社法309②)。そして、原則として、解散の特別決議を行った株主総会の日に解散の効力が生ずることとなります(下記図①~③参照)。 会社法上は、当該事業年度の開始の日から解散の日までを一事業年度(解散事業年度)として取り扱い、その後は、解散の日の翌日から各1年の期間ごとに、各清算事務年度が生ずることとなります(会社法494①)。この各清算事務年度は、法人税法上も、各事業年度とされることとなります(法法13①)。 このため、A社の場合には、各清算事務年度が毎期7月14日に終了することになり、法人税法上も、毎期、7月14日を末日として各事業年度の申告を行うこととなります。 仮に、株主総会の特別決議の日を月の末日としたということであれば、会社法上の各清算事務年度及び法人税法上の事業年度は、いずれもその末日を終了日とするものとなり、実務上は、対応が行いやすくなることとなります。     ※ 会社法では「事務年度」、法人税では「事業年度」 法人税法上は、残余財産が確定した場合には、残余財産確定の日をもって事業年度が終了するものとされているため(法法14①二十一)、その残余財産の確定の日を末日とする事業年度について確定申告書の提出が必要となります。 なお、平成22年度改正により清算所得課税が廃止され、解散の日の翌日以降も継続企業と同様に損益法による課税(各事業年度所得課税)を行うこととされたため、平成22年10月1日以後に解散を行った法人からは、「清算確定申告書」という特別の様式は用いず、通常の各事業年度の申告書及び別表を用いて申告を行うこととされています。   2 残余財産が確定して事業年度が終了した後の期間の損益等の取扱い 法人税法上、清算中の普通法人は、その残余財産が確定した場合には、その確定した日の翌日から1月以内(当該期間内に残余財産の最後の分配又は引渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで)に、税務署長に対し申告書を提出しなければならないこととされています(法法74②)。また、みなし事業年度(法法14①二十一)も残余財産確定の日をもって事業年度が終了するものとされています。 清算株式会社は、清算事務が終了(残余財産の分配)したときは、遅滞なく、決算報告を作成しなければならず、清算人は、決算報告を株主総会に提出し、又は提供し、その承認を受けなければならない(会社法507)とされており、会社法施行規則150条では、残余財産の分配の完了までを記載することとされていることに留意が必要です。 つまり、会社法では、残余財産確定、残余財産が有る場合その分配、その分配後最後の株主総会、清算結了登記で終了です。法人税に関しては、残余財産が確定した日をもって最後事業年度は終了し、そこから1月以内又は残余財産分配の前日の早い日までに確定申告をします。 法人税法上は、その残余財産が確定した日の翌日から1月以内(当該期間内に残余財産の最後の分配又は引渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで)に、税務署長に対し申告書を提出しなければならないとされています。その後、清算結了登記までの期間の損益の帰属が、解散法人なのか株主なのかはっきりしませんが、解散法人の最後事業年度の翌日に株主に帰属するものと考えられます。 確定申告費用、残余財産の分配のための費用、株主総会費用、清算結了登記費用などを未払金として最後事業年度の費用及び債務に計上して申告する実務が行われています。これは、各事業年度の所得に対する取扱いを前提にすると確定債務ではないため、損金にならないのではないか等の疑義が発生します。しかし、清算法人の清算のための諸費用であることは異論がなく、法人税法上の最後事業年度の損金の額に算入されるものと考えられます。 なお、残余財産の確定後、残余財産が賃貸物件であったりすると、株主に分配するまでの間に残余財産から収益・費用が発生します。この帰属については法令や通達には何も示されていませんが、株主で処理することが合理的と考えられます。 法人税法62条の5第1項では、残余財産の全部の分配又は引渡し(適格現物分配を除く)により被現物分配法人その他の者にその有する資産の移転をするときは、被現物分配法人その他の者に移転をする資産の、残余財産の確定の時の価額による譲渡をしたものとして、各事業年度の所得の金額を計算するとされ、第2項では、その移転による譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額は、その残余財産の確定の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています。 これらの判定は、残余財産の確定の日でみなし事業年度が終了し(法法14①二十一)、それ以後は申告しないことが前提とされているため、この譲渡損益を所得計算に反映するべく、残余財産の確定の日の属する事業年度にこの譲渡損益を計上するための規定(すなわち、損益の認識時点の特例規定)として設けられています。 (了)
#1(掲載号)
#長谷川 敏也
2013/01/10
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企業予算編成上のポイント 【第1回】「キャッシュ・フロー経営と予算の関係」

企業予算編成上のポイント 【第1回】 「キャッシュ・フロー経営と予算の関係」   公認会計士 児玉 厚   大学卒業後、鉄鋼商社の経理、監査法人を経て、会社を起業して13年目になる。 たまたま「経理マン」「会計士・税理士」「経営者」という3つの立場を経験してきた。 それぞれの立場に対して、少なからず思い入れがある。 「経理マン」の時代には 「経営者はなぜ、管理部門を軽視するのか」 「数値に基づく経営が重要であり、経営者も会計を深く理解する必要があるはずだ」 と思っていた。 「会計士・税理士」の時代には 「(監査):経営者はなぜ、監査を軽視するのか。経営の姿をオープンにし、監査と正々堂々対峙していくべきではないか」 「(税務):経営者はなぜ、節税という幻想に目を奪われ、税引後利益をいかに最大化するかに向き合わないのか」 と思っていた。 今「経営者」の時代の中にいる。経営者の頭にあるのは次の2つの点だ。 「(お金):社員等の生活を守っていくために、いかに売上高を上げ、利益を上げていくべきか」 「(人):そのために、社員のベクトルをどう一本化して、オフバランスの人財価値をいかに最大化していくべきか」 経営者は、「過去」ではなく、99%「将来」の方向を向いている。 「なぜ、経理マンは、未来志向の経営の視点で行動し、サポートしてくれないのか」 「なぜ、会計士や税理士は、未来志向の経営の視点での良き相談相手になってくれないのか」 と多くの経営者が感じていると思う。 それだけ会社を継続させていくことが難しい時代に入っているのだ。 「経理マン」「会計士・税理士」「経営者」の間には、「大きな心の溝」がある。 お互いに信頼し合う「夢のトライアングル」の構築が、日本経済が復活していくために必要だと思う。 そのキーワードが「予算」である。 デフレの時代が長く続いている。物の価値は下がり、お金の価値が上がっていく時代だ。 「キャッシュ・フロー経営」の重要性を疑う経営者は誰もいないだろう。 ところが、目標としての「予算キャッシユ・フロー計算書」は作成されていない。 予算損益計算書の作成に留まっている。 実績財務諸表は、原則として過去の記録の積上げであるが、国際会計との整合性の観点から「予測概念」が多く入ってきている。たとえば、退職給付会計や減損評価や繰延税金資産の回収可能性や資産除却債務などである。時価評価も予測概念に入るだろう。 IFRSでは「将来キャッシュ・フローの予測に資する」という点が重視されるので、さらに予測主義が加速する。 実績財務諸表の適正性は、「予測の正確性」がなければ担保されない。 オリンパスなどの粉飾決算は跡をたたず、資本市場の発展に大きなブレーキがかけられている。 犯罪である粉飾決算は、なぜ起きるのだろうか? 上場会社は、決算短信で業績予想を発表している。(外部予算) 投資家はこの指標を重視して、「株を買う、保有し続ける、株を売る」という経済的意思決定をしている。 業績予想の売上高の10%以上、利益の30%以上、予想値からかい離すると判断した場合には、すみやかに業績予想の修正と修正理由を発表しなければならない。下方修正で合理的な理由がない場合、投資家の信頼を失い、株価が暴落する危険性がある。 経営者は、「何としても業績予想を実現する」という強いプレッシャーを受けているので、結果として経理操作による粉飾決算を誘発するリスクがある。 もし、業績予想が「営業キャッシュ・フロー」で示されるとしたら、経理操作しても意味がないので、粉飾決算の芽を実質的につむことができるはずだ。 内部予算が粉飾決算の引き金になる場合もある。 A事業は年率10%で成長しており、B事業は逆に年率10%で縮小しているとしよう。 A事業部門の目標売上高を当期比10%増加に設定することは合理的だが、B事業部門の目標売上高を同様に当期比10%増加に設定されたら、実現は限りなく不可能に近い。 B事業の営業マンは、予算達成により賞与査定が決まるとしたら、「何としても目標売上高を達成しなければ」という強いプレッシャーを感じ、与信上の危ない先にも販売したり、「経理操作してでも目標売上高を達成したい」という衝動にかられる危険性は常にあるだろう。 もし、営業部門の予算目標を「営業キャッシュ・フロー」に設定し、その目標達成により賞与等の人事評価がなされる仕組みに変わったら、「危ない先には売らない」し、「経理操作をしても意味がない」し、「できるだけ回収サイトを短くする努力をする」はずだろう。 連結経営において、連結子会社等をコントロールすることは難しいが、連結経営方針の予算目標を営業キャッシュ・フローに設定すれば、同様のリスクは大きく回避され、連結ベースのキャッシュ・フローの改善に繋がるだろう。与信管理や滞留債権の回収等の対応の管理コストも自動的に削減されていくはずだ。 営業キャッシュ・フローが改善されていけば、その資金を未来のために投資することができる。 それは社員にとっても大きな夢だ。 会社は「人」であり、「人の意識」が変わらなければ「会社」も変わらない。 つまり「キャッシュ・フロー予算制度の重要性を共に理解する教育基盤」が必要になる。 実績財務諸表を作成する理論が「会計」である。 しかし、予算財務諸表を作成する理論は世の中に存在していない。 そこで、「予算財務諸表を作成する理論」を「予算会計」に名付けることにした。 ここでいう予算財務諸表とは、「予算損益計算書、予算株主資本等変動計算書、予算貸借対照表および予算キャッシュ・フロー計算書並びに月次資金計画書」をいう。 さらに2011年7月より、ブログ&メルマガ「予算会計を学ぶ」を立ち上げた。 このサイトでは、2000年10月に発刊された『企業予算編成マニュアル』(清文社・共著)を解説し、予算作成の連関エクセルシート(製造業)を作成し、メルマガで配信している。「いつも楽しみにしています」というお言葉を多数いただき、感謝に堪えない。 素朴な気持ちとして、「会計業界をもっと夢のある世界にしたい」と思う。 多くの会計人の方のみなさんと「予算会計」という新たな世界を一緒に創造していけたらと願っている。 (了)
#1(掲載号)
#児玉 厚
2013/01/10
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〔会計不正調査報告書を読む〕 「連載の狙い」

〔会計不正調査報告書を読む〕 「連載の狙い」     税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   一昨年(2011年)は、大きな企業不正の発覚が多発した年であった。 特にオリンパス社の巨額損失隠しについては、損失の金額の大きさ、隠蔽期間の長さ、発覚の経緯など、世間の耳目を集めるものであったことから、第三者委員会調査報告書の内容は大いに注目された。 第三者委員会(「外部調査委員会」とも称されるが、本連載では同義語として取り扱う)は、企業不正のみならず、いじめ問題、年金問題などの行政問題についても広く設置されるが、その定義は、「企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施したうえで、専門家としての経験と知見に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策を提言するタイプの委員会」をいうものとされている※。 ※日本弁護士連合会「『企業不祥事における第三者委員会』ガイドラインの策定にあたって」 ※PDFファイル 一般的な企業不正の発覚から幕引きまでの流れは、概ね以下のとおりである。   外部の人間が当該企業に不正があったことを知るのは、「適時開示(1)」の段階である。 不正を公表した企業は、その前段階において、社内調査によりある程度不正の内容を把握し、損益に与える影響も試算しているのだが、残念ながら、あくまで「社内調査」であることから、その調査内容の独立性、網羅性が担保されたものではなく、株主をはじめとする利害関係者からの「他にはないのか」「責任問題はどうする」といった質問に十分応えられるものとは言えない。 そこで、第三者調査委員会を設置し、独立した外部の有識者による調査結果を公表のうえ、再発防止策や関係者の処分を打ち出して、不正事件の幕引きを図るという手続を踏むことになる。 通常、第三者委員会に与えられた時間は1ヶ月間程度であり、調査報告書の公表をもって、その役割を終える。 本連載では、企業不正のうち、特に「不正会計」に関わる、公表された第三者調査委員会報告書を読み、不正の手口、不正隠蔽工作、発覚の経緯、再発防止策などを検証することを第一義的な目的としつつ、報告書から読み取ることが可能な不正防止策、早期発見のための仕組みなどを検討することによって、調査内容を自社の不正対策に役立てられるような知見をまとめることを志向するものである。 また、調査委員会メンバーの選定、調査手法、報告内容に何らかの疑義がある場合には、その疑問点についても積極的に指摘していきたいとも考えている。  (了)
#1(掲載号)
#米澤 勝
2013/01/10
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誤りやすい[給与計算]事例解説〈第1回〉 【事例①】最低賃金法の適用

誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第1回〉   税理士・社会保険労務士  安田 大     1 支給額の算定 【事例①】―最低賃金法の適用― 〔正しい処理〕 〔解   説〕 1 賃金の決定 賃金は、原則として、労働契約により労働者と使用者との合意によって決められるものであるが、最低賃金法によって、その最低基準が定められ、使用者には最低賃金額以上の賃金の支払いが義務づけられている。 そして、労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めた場合は、その部分については無効とされ、無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる。 2 最低賃金の種類 最低賃金には、地域別最低賃金と事業別(産業別)最低賃金の2種類がある。 地域別最低賃金とは、産業や職種にかかわらず、都道府県単位でその都道府県内の事業場で働くすべての労働者に対して適用される最低賃金である。 事業別(産業別)最低賃金とは、特定の産業の基幹的労働者を対象として、地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認められるものについて設定されている。 東京都(地域別)の現在(平成24年10月1日~)の最低賃金額は、時間額で850円である。 3 最低賃金の適用労働者 地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、その都道府県内の事業場で働くすべての労働者に対して、パートタイマーやアルバイト、臨時雇いや嘱託などの雇用形態や呼び方にかかわらず、適用される。 事業別(産業別)最低賃金については、特定地域内の特定の産業の基幹的労働者に対して適用され、18歳未満や65歳以上の労働者、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の労働者、その他その産業に特有の軽易な業務に従事する労働者などには適用されない。 4 最低賃金の減額適用 最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、一般の労働者よりも著しく労働能力が低い場合など、次の労働者については、都道府県労働局長の許可を受ければ、個別に最低賃金の減額の特例が認められる。 5 最低賃金の対象 最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金とされており、次の賃金については、含めないで計算する必要がある。 6 最低賃金額の判定 最低賃金額以上の賃金が支払われているかどうかの判定は、最低賃金額が時間(時給)で定められているため、その支給形態によって次のとおりとなる。 ① 時間給制の場合 時間給 ≧ 最低賃金額(時間額) ② 日給制の場合 日給÷1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額) *日額が定められている事業別(産業別)最低賃金が適用される場合には、日額で判定する。 ③ 月給制の場合 月給÷1ヶ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額) ④ 出来高払制その他の請負制の場合 出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、その賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算して、判定する。 ⑤ 上記①~④の組み合わせの場合 ①~④の時間給換算額の合計額 ≧ 最低賃金額(時間額) *たとえば、基本給については日給制で、その他に月給制の手当があるような場合には、上記②で計算した基本給の時間額と、上記③で計算した月額手当の時間額との合計で判定することになる。 (了) 【参考】 厚生労働省ホームページ 「平成24年度地域別最低賃金全国一覧」
#1(掲載号)
#安田 大
2013/01/10
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

面接・採用・雇用契約までの留意点 【第1回】「採用の自由とその限界」

面接・採用・雇用契約までの留意点 【第1回】 「採用の自由とその限界」   社会保険労務士 菅原 由紀   「採用の自由」と「法による規制」 使用者には、広く採用の自由が認められており、いつ、どのような人を、どのような選考基準によって、どのような労働条件で雇うかは原則として使用者の自由である。これは、憲法22条、29条等における「財産権の行使」「営業の自由」などが保障されているからである(昭和48年12月12日三菱樹脂事件最高裁判決)。 しかし、この原則に対してはいくつかの例外があり、「男女雇用機会均等法」、「障害者雇用促進法」、「高年齢者雇用安定法」「雇用対策法」そして「労働組合法」という5つの法律によって禁止事項が定められている。 しかしながら、障害者雇用促進法を除いたほとんどの労働法は「機会の平等」を求めているのであって、「結果の平等」までを義務付けしているものではない。障害者雇用促進法においても、一定率の障害者の雇入れを義務付けているだけであり、特定の人を採用することを義務付けているわけではない。 したがって、やはり使用者の採用の自由は広く認められているといえるであろう。   入社試験や面接で“聞いてはいけない”質問 使用者は採用の自由を認められていることから、応募者に関する情報については、選考の合理的な必要性の範囲内であれば、様々な事項についての情報を入手することができるものと解されてきた。 しかし、近年の法令や行政指導においては、次の2点について、採用過程での使用者の情報収集活動に一定の制限を加えられている。 したがって、業務に関係のない質問、収集目的を明らかにできないような内容の質問、女性に対してだけされるような質問、基本的人権に関わる身上・経歴・思想信条に関する質問等については、特段の理由がない限り、トラブルを回避するという観点からは差し控えるべきであろう。 ただし、いったん採用した者との使用者側からの雇用契約の解消(解雇)は難しいという状況から、実務上は「雇わない自由」がある面接採用において、採用の可否を決定するために必要な情報を収集することは重要である。 そこで面接にあたっては、収集すべき情報を整理し、応募者に対して合理的な理由を説明した上で、実施する必要があるだろう。 (了)
#1(掲載号)
#菅原 由紀
2013/01/10
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外国人労働者の雇用と在留管理制度について 【第3回】「在留カードについて」

外国人労働者の雇用と在留管理制度について 【第3回】 「在留カードについて」   KPMG BRM株式会社 マネージャー 申請取次行政書士 佐々木 仁   新在留管理制度の施行に伴い、従来外国人に所持が求められていた「外国人登録証明書」に代わり、「在留カード」が発行されることになった。 在留カードは、中・長期在留者(前回参照)に、原則として空港での入国管理審査の際にパスポートへの上陸許可の証印とともに手渡されることになっている。以後、外国人は常時この在留カードを携帯するよう求められる。 在留カードにはICチップが搭載され、外国人の写真が表示されるほか、以下の事項が記載される(住居地が変更したときは、カードの裏面に変更後の新しい住居地が記載される)。 《在留カードの記載事項》 すでに「外国人登録証明書」を持っている中・長期在留者が入国管理官署において資格変更や在留期間の更新許可申請を行った場合、従来の「外国人登録証明書」は「在留カード」に切替えられる。また、上記の資格変更や届出を行わない場合であっても入国管理官署で希望すれば、「在留カード」に換えることができる。 外国人が出国する場合、これまでは事前に、入国管理官署に1回限りあるいは数次の再入国許可を受ける必要があったが、新しい制度の導入に伴い、出国後1年以内に再入国する予定であれば、外国人が出国する際にこの在留カードを提示することにより、原則として予め許可を受けることなく、再入国することができることになった(「みなし再入国許可」)。 なお、平成24年7月9日よりも前から日本に中・長期在留している外国人が保有している「外国人登録証明書」は、その有効期間内(在留期間の満了日に至るまで)は「在留カード」とみなされるため、在留資格の変更や在留期間を更新するまでは、すぐに「在留カード」に換える必要はない。 (注) 入管法と併せて住民基本台帳法が改正されたことに伴い、日本人と外国人が同居する複数国籍世帯であっても、外国人を含めた世帯全員が記載された住民票の写しを交付申請することができるようになった。 外国人の住居地の届出は、管轄の市区町村役場に在留カードを持参のうえ、転入届・転居届と一括して行うことができる。 次回は新しい在留管理制度の導入に伴う罰則等について解説する。 (了) 【参考】法務省(入国管理局)ホームページ 「「在留カード」が公布されます」
#1(掲載号)
#佐々木 仁
2013/01/10
労務・法務・経営 法務

親族図で学ぶ相続講義 【第1回】「子の子は親族か?」

親族図で学ぶ相続講義 【第1回】 「子の子は親族か?」   司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司 上図のような相続事件が発生したとしましょう。被相続人は甲野太郎です。 甲野太郎の相続人は誰でしょうか? まず、カンタンなところからお話しすると、被相続人の配偶者はつねに相続人となります(民法890条前段)。したがって、甲野花子は相続人です。 次に、甲野一男は相続人ではありません。相続は、死亡によって開始しますが(民法882条)、被相続人の甲野太郎の死亡以前に甲野一男が死亡しているからです。被相続人が死亡したときに生存していない者には相続権はないのです(これを同時存在の原則という)。 次いで、甲野桜子は相続人ではありません。なぜなら甲野桜子は被相続人の甲野太郎の子ではないからです。両者の関係は「姻族一親等」であり、被相続人の姻族には決して相続権が認められません。 では、甲野一郎と甲野次郎はどうでしょう。 ここは「代襲相続」のハナシになります。「被相続人の子が、相続の開始前に死亡したときは、その者の子がこれを代襲して相続」します(民法887条2項本文)。 ここに、「被相続人」は甲野太郎、「被相続人の子」は甲野一男ですから、「その者の子」である甲野一郎と甲野次郎は相続人となりそうです。 しかし、代襲相続を定めた民法887条2項には「ただし書」があり、そこには、「ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない」というナゾの一文があるのです。 これは、被相続人の子の子であっても被相続人の直系卑属ではない者がいるということを前提にしています。「直系卑属」とは子以下(子、孫、ひ孫など)の血族を意味しますから、普通は、子の子は被相続人の直系卑属です。 では、子の子が直系卑属でないというのはどういう場合なのでしょうか? 実は、これは、子が養子の場合にのみ起こる事態なのです。養子縁組は「法定血族」の関係を創出しますが、その関係は「誰と誰の間に生ずるか」ということが大事なのです。 では、これについて民法の規定を以下にあげましょう。 条文によると、血族関係が生じるのは「養子と養親の血族」の間です。これを逆にいうと、縁組をしても養子の血族と養親の間には血族関係が生じないわけです。 となると、甲野一郎の地位はどうなるか? 本事例のポイントは、養子の子である甲野一郎は縁組の前に出生しているということにあります。 甲野一郎は養子縁組前に生まれており、縁組のときに養子(甲野一男)の血族です。となると、先の民法727条の規定から、養子の血族(甲野一郎)と養親(甲野太郎)の間には血族関係が生じません。したがって、甲野一郎は、養親(甲野太郎)の子の子ではあるが養親の血族ではないことになります(そもそも親族ですらないアカの他人の関係)。 このため、甲野一郎は被相続人甲野太郎の代襲相続人になることができないのです。 この原理をカンタンにいうと「養子縁組前の養子の子は養親を代襲相続しない」ということになり、この民法727条と887条2項ただし書の組合せからの結論は、養子を含む相続事件では決して知らないわけにはいかない大事な実務の知識です。 次に、甲野次郎はどうなるか? 甲野次郎は縁組の後に出生しています。 養子縁組の後に出生した養子の子である甲野次郎は養親の直系卑属です。これはいったん生じた血族関係の延長と考えればよいわけです。つまり養子縁組後の養子の子は養親を代襲相続するのです。 以上から結論がでました。 甲野太郎の死亡による相続事件の相続人は、妻の甲野花子と孫の甲野次郎です。相続分は各2分の1ずつということになります。 (了)
#1(掲載号)
#山本 浩司
2013/01/10
労務・法務・経営 経営

事例で学ぶ内部統制【第5回】「全社レベルの内部統制(ELC)におけるCOSOモデルの採用実態」

事例で学ぶ内部統制 【第5回】 「全社レベルの内部統制(ELC)における COSOモデルの採用実態」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、全社レベルの内部統制(ELC)の評価項目とその関連課題を取り上げる。 ELCとは、“適切な統制が連結ベースで全社的に機能している”という心証を得るため、個別のプロセスレベルの内部統制(PLC)に先立って評価する内部統制である。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会では、ELCの評価項目として、実施基準が例示するCOSOモデルの評価項目をそのまま採用しているか、国内外の連結子会社におけるELCの評価項目をどうするかという課題について意見交換された。 以下、各社が取り組む創意工夫を見てみよう。   ELC評価項目 実施基準は、ELCの評価項目の例示として、6つの基本的要素について複数の評価項目を設定し、合計42項目を掲げている。 実務関係者にはおなじみのCOSOモデルである(図表1)。 図表1 COSOモデル まず、筆者から参加企業に対し、「この42項目の評価項目をそのまま採用しているか。それとも、社内の実情に合わせて修正しているか」と質問したところ、参加企業の対応は次の3パターンに分かれた。 【パターン1】COSOモデル型 まず、COSOモデルの評価体系と42項目の評価項目をそのまま採用する事例が報告された。 参加企業Aは、「評価の最小単位の数をCOSOモデルの42項目とし、各項目に補足説明を付して評価している」(プラント会社)と答えた。 参加企業Bも、「わが社も、COSOモデルの項目数を加除しなかった。それが最も明快だった」(商社)と話した。 【パターン2】COSOモデル準拠 これは、COSOモデルの評価体系を維持しながら、社内で分かりやすく伝達するため、42項目の評価項目を加除修正して評価する方法である。 参加企業Cは、「当初はCOSOモデルの42項目で評価を試みたが、評価される部門から、評価項目の重複がある、内容が抽象的で分からないといった指摘を受けた。実際、監査部と評価される部門の担当者との間で禅問答のような質疑応答が続いたことから、42項目のままでは使えないと考えた。そこで、42項目の体系を維持しながら、評価項目の背景にあるリスクに着目し138項目の最小評価単位に分解した」(航空会社)と話した。 参加企業Dは、「わが社もC社さんと同じだが、全部で55項目にした。COSOモデルでは、ITへの対応が5項目だが、わが社は2項目に減らした。その代わり、他の基本的要素の評価項目を増やした。特に、統制環境を13項目から18項目へ、リスクの評価と対応を4項目から9項目へ増加した。これは、PLCの評価で把握しきれないリスクをELCで捉えようとしたためだ。逆にITへの対応については、IT全般統制やITACで十分評価可能と考えた」(商社)と、リスクに応じてCOSOモデルを加除して対応していた。 参加企業Eは、「C社さんが指摘したとおり、わが社もCOSOモデルには重複が多いと感じたので、18項目にまとめた。その18項目に対して、整備、周知、運用、見直しの有無という評価の軸を設定した。その結果、18項目に4つの評価軸を掛け合わせた72項目となった」(部品メーカー)と、COSOモデルの体系に基づき評価項目を集約しながら、独自の評価の視点を加えていた。 【パターン3】独自経営管理モデル これは、COSOモデルの42項目の評価項目のリスクを網羅しつつも、6つの基本的要素の評価体系や評価項目にこだわらず、自社の経営管理の実態に応じて、評価体系と評価項目を組み直して評価する方法である(図表2)。 図表2 独自経営管理モデル   参加企業Fは、「COSOのフレームワークは維持しながらも、実施基準の42項目をそのまま評価するのではなく、自社の実態を反映させて評価した。具体的には42項目の例示の背景にある財務報告リスクを検討し、当該リスクに対して自社でどのような統制が敷かれているかを掘り下げた結果、160個の評価項目となった」(化学メーカー)と話した。 さらに、参加企業Gは、「COSOモデルのフレームワークは、現場でビジネスを回している親会社や連結子会社の経営者にとってなじみが薄い。むしろ、わが社の経営者の頭は、社内外のステークホルダーとの関係であるべき姿を掲げたビジョンや理念が他の全てのあり方を決めるという思考に慣れている。そこで、グループビジョン、取締役会と監査役のあり方、経営計画と予算、組織の職務分掌、人事管理、コンプライアンス、リスク管理、財務報告、情報管理、モニタリング、グループ子会社管理という順番で基本的要素を組み替え、それぞれにわが社の実情に沿った評価項目を再設定した。評価項目はE社さんが発表した整備、周知、運用、見直しという評価軸を設定し約200項目となった」(商社)と、自社の経営管理モデルに合わせてELCの評価体系と評価項目を大胆に組み替えていた。 このように、評価項目の数だけを見ると、42項目から200項目まで、企業間にばらつきがあることが明らかとなった。   連結子会社のELC評価項目 次に、複数の参加企業から「連結子会社や海外子会社に係る評価項目については、どのように対応しているか」という論点が提示された。 前出の参加企業Bは、「42項目のうち、14項目は親会社が回答し、28項目を子会社が単体で回答すべき項目とした。子会社には、特定の機能だけを親会社からアウトソースし、経営管理も、親会社の管理部門が取締役を兼任し、権限を与えてないので、子会社単体が回答するよりも、親会社のグループ管理の一環で回答し、そのあり方を評価する方がいい」と、親会社と連結子会社で評価項目を変更していた。 他方、複数の参加企業は、「子会社が一定の規模で独自の商売を行い、独自の権限を持って経営管理を行う体制ができているので、親会社と同じ評価項目で評価している」と話した。 また、前出の参加企業Gは、「海外の連結子会社は小規模であり対応が困難なことが多いものの、評価項目において国内の連結子会社と差を設けていない。親会社から現地に出向している常勤の取締役を中心に、取締役会のあり方や、現地のローカルスタッフの管理、経理体制の評価をしている」と、国内と海外で評価項目は変えずに統一的なグループ経営を貫いていた。 さらに、複数の参加企業が、「子会社で起こった不祥事を評価項目に加えている。子会社は小規模なので、本質的に不正や誤謬のリスクが高いにもかかわらず、PLCの対象にならないことが多い。そこで、せめてELCでリスクを低減することを目指した。子会社で過去に起こった小口現金や情報システムのアクセス権限付与、ID棚卸に絡む不祥事に対するコントロールをあえてELCの評価項目に加えている」と、COSOモデルの42項目に加えて、具体的、かつ、今そこにあるリスクを低減するために、独自の評価項目を設定した事例を報告した。   ELC評価項目の削減に向けて さらに、議論は、「どうやってELCの評価項目の削減を監査法人に納得させているか」という論点に及んだ。 前出の参加企業Gは、「評価項目が200項目だったのは、同じリスクを整備、周知、運用、見直しの評価軸で重複評価した、つまり、整備評価と運用評価が重複した結果である。評価項目の中には、4つの評価軸で分ける必要がないものが相当数あったので、再検討の結果、約70項目まで減らした。以前に網羅していたリスクを外したわけではないので、監査法人は納得した」と、コントロールすべきリスクを除外しなければ、評価項目の削減が可能であると報告した。 複数の参加企業も、「評価項目ごとに、整備評価と運用評価を分けていたが、両者の作業を一体化する過程で、評価項目も削減された」と話した。 次回は、プロセスレベルの内部統制におけるキーコントロールの比率について取り上げる。 (了)
#1(掲載号)
#島 紀彦
2013/01/10

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