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〔会計不正調査報告書を読む〕【第9回】椿本興業株式会社・ 元従業員による不正行為に係る「第三者委員会調査報告書」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第9回】

椿本興業株式会社・

元従業員による不正行為に係る

「第三者委員会調査報告書」

 

税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝

【概要】
当社従業員による不正行為について, 三浦州夫, 渡辺徹, 安原徹, 第三者委員会の報告書受領と当社の対応方針について, 当社元従業員による不正行為に係る決算訂正について, 特別損失の計上について及び業績予想の修正に関するお知らせ

 

【椿本興業株式会社の概要】

椿本興業株式会社(以下「椿本興業」という)は大正5年創業。機械器具、運搬機械装置販売会社の老舗。連結子会社は国内13社、海外3社。連結売上高81,665百万円、連結経常利益2,003百万円。従業員379名(数字はいずれも2012年3月期)。東証・大証1部上場。

 

【報告書のポイント】

社内調査委員会による報告書と第三者委員会による調査報告書(要約版)が同時に公表されている。社内調査委員会による調査の目的は、

① 不正取引に関する事実関係の調査・解明

② 過年度決算への影響額の確定

③ 調査報告書の作成

の3点である。

以下では、第三者委員会による調査報告書の記載を中心に、社内調査委員会の報告内容を補完して記述する。

 

1 調査結果により判明した事実

(1) 不正発覚の経緯
中日本営業本部東海東部SD(Sales Division)における元SD長が関与する取引において、多額の棚卸残高が計上されていることから、平成24年1月以降、経理部門、コンプライアンス室を交えた打合せが行われてきたが、改善されなかった。

平成24年12月末の棚卸資産残高が1,303百万円に達したことから、平成25年2月、経理部門責任者から中日本営業本部長にあてて、以下の理由から、元SD長が関与する一連の取引を中止させるよう、勧告が行われた。

【取引中止の勧告が行われた理由】

・棚卸資産残高及び売掛金残高の水準の高さ、削減目標内に取引が制御できていないこと

・一担当者の案件数が多く、元SD長がすべてを把握できているか疑問であり、取引全般が不透明であること

・棚卸資産が売上できない場合、売掛金が回収できない場合のリスクが高いこと

勧告の結果、架空・循環取引による資金の流れが止められたため、資金繰りに困った元SD長が、3月13日、営業総括本部長に対し、架空・循環取引を行っていた旨の自白をした。

(2) 不正取引の内容
不正取引を行うこととなった発端は、元SD長が、関係の深い仕入先KE社の資金繰りを支援するため、先行検収(前渡金の支払い)や売上債権の流動化(資金化)を行ってきたものの、資金繰りが一向に改善しなかったため、水増し発注を行うようになった。
水増し発注を繰り返す中で、元SD長は水増し発注した代金の着服を行うようになる。

【不正取引の種類】

① 納入実態のある仕入取引に水増し発注した取引

② 納入実態のある仕入取引に架空工事代金を追加発注した取引

③ 納入実態のない架空・循環取引

④ 納入実態のない架空・循環取引に架空工事代金を追加発注した取引

元SD長は、KE社以外の7社を椿本興業の販売先として、KE社と椿本興業の間に介入させ、一方、椿本興業からはKE社を含む5社に対して発注を行い、KE社に資金を還流させることにより、架空・循環取引を繰り返していた。

【資金の流れ】

(3) 隠蔽工作
元SD長による隠蔽工作の一つは、KE社に対する2度の税務調査においてKE社からの現金着服が問題になった際に、椿本興業に反面調査が及ぶことを避けるため、国税調査官に対して「使途秘匿金扱い」とすることを依頼したことである。また、監査法人が架空・循環取引に関与した社に対して残高確認書を送付した際には、この郵便物を同社から取り戻し、偽造した残高確認書を監査法人に返送していた。

(4) 業績に与えた影響
過去7年間の財務諸表の訂正により、売上高は約70億円の減少、当期純利益は約15億円の減少、純資産額は約17億円の減少となっている。

 

2 不正行為の発生原因と長期間発覚しなかった理由

(1) 人事異動の少なさ
椿本興業では、顧客密着型の営業スタイルにより顧客の信頼を築き、リピートオーダーを獲得するため、特定の営業が特定の顧客を担当することが必要であった。特に、名古屋地区の顧客特性から、他の地域の者に代替させることが容易にできない商慣習もあり、人事異動ができにくい環境にあった。
本件の首謀者元SD長も、入社以来、中日本営業本部に勤務し、課長職になってから20年、装置営業部門で決裁権限を有していた。

(2) 営業担当者に対する広範な権限付与と牽制機能の欠如
営業担当者は、仕入先選定、見積書提出、現場据付工事の立会い、顧客引渡しなどの営業活動、売掛金回収や仕入先に対する支払指示などを一人で担当するというスタイルが踏襲され、社内・社外の人間関係の濃密さも相俟って、内部統制の機能の大きな柱である相互牽制・監視が機能せず、不正発生の温床となりやすい常況にあった。

(3) 平成18年2月発覚した元従業員による横領事件
平成14年4月、名古屋支店から大阪本社に異動した元従業員による架空仕入の計上による横領事件が、平成18年2月に発覚した。
この事件は、結果的に見れば、本件の首謀者である元SD長が行っていた不正行為と同一態様のものであり、平成18年2月の時点で徹底した調査が行われていれば、この時点で不正行為の発見につながったものと考えられるが、調査を行った事実はない。また、元従業員が大阪本社への転勤前、名古屋支店で同様の不正行為をしていたかどうかを調査した形跡もない(実際には元SD長と共謀し、あるいは単独で、名古屋支店時代から不正を行っていたことが今回発覚した)。

(4) 監査法人による指摘
上記(3)の事件の発覚を受け、あずさ監査法人は、監査役会に対して、椿本興業の業務体制が孕む不正リスクを指摘したうえで、「内部管理体制や内部監査の強化等の対策による再発防止へ向けての留意が特に重要だ」と報告した。
ところが、この指摘に対して椿本興業経営陣がこれを真摯に受け止め、対策を検討した形跡はなく、不正行為の再発防止策が講じられることはなかった。

 

3 会計監査人に対する問題点の指摘

あずさ監査法人の問題点は、せっかく正鵠を射た指摘をしておきながら、指摘に対して経営陣が再発防止策を講じなかったにもかかわらず、その不作為(放置)に対して、継続的な改善を促した形跡はないこと、現任の監査責任者に対して、平成18年5月の指摘事項が引き継がれておらず、監査の連続性、一体性が確保されていないことにある。

報告書は、「これでは、当社の業務上の不正リスクに関する当監査法人自身による適確な監査の効果が、当監査法人自らの事後的対応によって減殺され、全く活かされることなく雲散霧消したと言わざるを得ない」と酷評、「不正行為の発見を遅らせた一因をなした」と締めくくっている。

 

4 調査報告書の特徴

椿本興業について、第三者委員会は「役職員間における派閥や対立関係、無用な軋轢等がほとんどなく、職場環境は融和的な気風に富んでいる」と評している。しかし、こうした美風は、残念ながら、発覚した不正事件を矮小化して、首謀者の懲戒解雇だけで済ませた上、監査法人の指摘に対しても業務体制の見直しを行わない方向に作用し、結果として、複数の従業員が関与する長期間の不正を見過ごすことにつながってしまった。

調査報告書では、こうした経営陣のコンプライアンス意識の希薄さを、平成18年2月に発覚した事件を良き教訓とし、監査法人の指摘を真摯に受け止めて再発防止策を講じていたならば、不正行為の継続を困難にし、あるいはより早期に発覚し得た可能性を否定できないとして、問題視している。

架空循環取引の手口による不正な売上計上は、首謀者が、所属部門の業績を良く見せることを目的として行われることが多いが、本件の首謀者である元SD長は「私的な遊興費、愛人の生活費等に充てる金員を詐取する目的」のために、架空循環取引に架空発注を付加して、発注代金から現金を取得していた点で、より悪質である。

その上、社内体制も、元SD長による不正を認識しながら、自らも不正な利益を得るため積極的に加担した幹部職員が複数存在し、より広範囲の職員も反対意見を具申することなく、不正取引に加担していたように、組織全体のコンプライアンス意識の欠如も不正が長く続いた要因であった。

なお、元SD長が、架空・循環取引を発案し、KE社との間で開始したのは平成17年3月頃からであったということであるが、メディア・リンクス社による架空取引が報じられたのが平成16年11月であったことと考え合わせると、この事件から何らかのヒントを得たのかもしれない。
経営者はなかなか他社の不正事例に学ぶことができないようだが、不正実行者とその予備軍は、他社の不正事例を知見として自社の脆弱性を見極め、不正を実行する機会を探っていると言ったら、言葉が過ぎるだろうか。

(了)

〔筆者追記:2013/12/11〕

【KE社による損害賠償請求訴訟の提起】

10月24日付の新聞報道 によれば、調査報告書で、椿本興業元SD長が、資金繰りを助けるために循環取引を繰り返したとされたKE社は、この元SD長及び椿本興業を相手取り、約10億7,000万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴した。

提訴は10月21日付で、訴状によると、元SD長は1998年から取引先のKE社社長(当時)に架空発注への協力を要求。椿本興業からの支払いをキックバックさせるなどして遊興費に使った。その後、KE社の資金繰りが悪化し、「倒産すると不正が発覚する」と恐れた元SD長は、KE社の帳簿上の売上を増やすため2005年ごろから別の複数の取引先を介在させる循環取引を行い、架空取引を繰り返した。

調査報告書における事実認定(KE社の資金繰りを支援するための架空循環取引)と、新聞が報じる訴状の事実認定(先に、元SD長がキックバックを要求した)に大きな相違点があるようで、裁判の進展が注目される。

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第50回 ※クリックするとご覧いただけます。

第51回~

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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