公開日: 2015/04/16 (掲載号:No.115)
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〔巻頭対談〕 川田剛の“あの人”に聞く 「村井正氏(関西大学名誉教授)」【前編】

筆者: 村井 正、川田 剛

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IFA総会にみる日本の問題点

川田

村井先生は、IFAの総会にはかなり前から出ておられたんですか。

村井

1989年からです。その時はブラッセル開催でした。ちょうど関西大学とルーヴァンにあるカトリック・ルーヴァン大学とが交流していて、ルーヴァン大学のバニステンデール(Frans Vanistendael)教授がベルギーから来て、レードラーも来るのを知っていましたので、当時ヨーロッパでもドイツ以外の国にはあまり行ったことがなかったので、参加することにしました。それからまたいろいろな交流が広がったんですね。それからIFAはほぼ毎年出ています。

川田

その当時出ておられた日本人は、非常に少なかったんでしょうね。

村井

覚えているのは宮武敏夫さんと大塚正民さんぐらいです。日本人はそういう国際的な場にはあまり行かないので、レードラーも私によく「ただ行くだけでも、参加するだけでもいいから、日本人はもっと税の国際会議に出るべきだ」と言っていました。

川田

私も出席し始めたのは最近なんですけど、大変勉強になりますね。特に若い人にはぜひ行ってほしい。推薦人が2人いれば、税理士など実務家でもいいし、学者でもいい。基本的に制約はないんですね。諸外国からは、若い方がけっこう参加しているんですよね。日本の若い人にもぜひ参加していただきたいですね。

村井

川田先生がおっしゃるように、日本は今でも世界第3の経済大国なんだけど、そういう場でなぜ日本人は少ないのかというジレンマはあります。

実は2007年のIFA第61回総会は京都でやったんですが、そのとき感じたヨーロッパとの違いは、ああいう国際会議を開いたときに、欧米では企業がものすごくサポートするんですね。どんどん寄付をする。

川田

たしかにそうですね。

村井

私は関西の企業に応援を頼もうと思って、関経連に紹介してもらって企業訪問へ行ったのですが、「私の会社は税金は関係ありません」とか言われて、がっかりした記憶があります。

やはり、学者が学会をやるときの日本の環境というのは、欧米に比べるととてもやりづらい。ドイツだと何かの学会をやるとなれば、すぐに企業がサポートしてくれるんです。

川田

うらやましいですね。そのような差が出るのは文化の違いなんでしょうか。

村井

そうかもしれません。

川田

ヨーロッパでは、学者と企業の交流が盛んなのでしょうか。

村井

そうだと思います。IFAの大会では、寄付をした企業の名前が表示されるのですが、見ると、その国の代表的な企業が寄付しているんですね。当然、お金もたくさん集まる。

それからもう1つ面白いと思った違いは、例えばミュンヘンでIFAをやったときに、すでに京都開催が決まっていましたのでいろいろ調べていたのですが、ミュンヘン市がIFAの参加者に、市バスなどの1週間無料券をくれるんです。それから美術館などの施設についても、IFAの会員というだけでディスカウントしてくれたりする。

そういうことを見たので、京都市にもそれを言ったんですけどね、残念ながらできなかった。

川田

そういう理解があると、運営する側は助かりますよね。参加者からみた印象もずいぶん違うと思います。

 

研究者を大切にする国

村井

ドイツは世界で一番研究者を大切にする国だと思います。
例えば今年7月に、ミュンヘンのマックス・プランク研究所に招ばれて1ヶ月滞在するんですね。マックス・プランク研究所というのは自然科学が主で、租税法の研究所はまだできて10年ぐらいです。その予算は、すべて政府がもっている。それで、私みたいな年配者でも、滞在期間中、奨学金をくれるんですよ。

川田

奨学金ですか。うらやましいですね。

村井

つまり国籍や年齢を一切問わないで、学問に対して最大のリスペクトを与える。先ほどお話した北川善太郎さんもハーバード大学でずっと講義をしていたしドイツの大学でも講義をしたけど、比較するとやはりドイツが世界で一番研究者を大切にするということを言っていました。

ドイツ、スイス、オーストリアと3つの国が国境を接しているボーデン湖(Bodensee)という湖があるんですが、そこのドイツ側にリンダウ(Lindau)という町があって、そこで最近、毎年何をやっているかというと、ドイツ政府とスウェーデン王室が組んで、ノーベル経済学賞の受賞者を全員呼んでいるんですね。

何を考えているかといったら、そこにドイツの若い研究者を行かせて、ノーベル賞の受賞者と交流させる。それで、今はアメリカがノーベル賞を独占しているのですが、またかつてのように、ドイツが巻き返しに出るという取組みなんですね。ちなみにスウェーデン王室はボーデン湖ドイツ領にあるマイナイ島を所有しています。あるいは「第二のダボス」をねらっているとも憶測されています。

川田

初めて伺いました。素晴らしいし、壮大な話ですね。

村井

それぐらいのことを国がやっているということです。

川田

なるほど。村井先生のように、海外でのご経験がないと気づかないお話ですね。

 

立場を離れた議論を行うべき

川田

ところで、それほどまでにいかないとしても、身近なところで日本が抱える問題点のようなものはあるのでしょうか。

村井

そうですね。日本では、様々な立場を離れた議論の場がやや少ないと思います。
例えば大阪国税局の中で毎月研究会をやっていまして、そこには裁判官や訟務検事等も参加してくれるのですが、先ほどお話したフォーゲル・ゼミの状況と比較すると、裁判官も国税の人も、ほとんど自分の意見を言わない。

川田

そうかもしれませんね。私見であっても、もっとぶつければいいと思うのですが。

村井

だから私は議論を引き出す役割で、「今日は皆さん方、自分の立場を離れて言ってくださいね」と誘導するんだけども、なかなか難しいですね。辛うじて話をしてくれることもありますが、やはり自分のポジションの枠でしか物を言わないという感じで。

ただし、逆にレードラーが日本の国税庁に行っていろいろ日本の制度について質問するでしょう。そうしたら、外国人に対しては結構オープンにしゃべっているらしい。「日本の国税庁はオープンですね」と言われたりするんです。

川田

なるほど。確かに、おっしゃるように外国人に対しては割合オープンですね。税務大学校でも、もっと海外の大学の人たちを呼んで話をしてもらったほうがいいのかもしれませんね。

(後編(4/23公開)へ続く)

〔巻頭対談〕

川田剛の“あの人”に聞く

「村井 正 氏(関西大学名誉教授)
【前編】

このコーナーでは、税理士の川田剛氏が聞き手となり、税法・税実務にまつわる第一人者から、これまでの経験や今後の実務家へ向けた話を聞いていきます。
今回は国内におけるドイツ租税法研究の第一人者である村井正関西大学名誉教授をお迎えしました。

(収録日:2015年2月27日)

〔語り手〕村井 正(関西大学名誉教授)
(写真/左)
〔聞き手〕川田 剛(税理士)
(写真/右)

 

ドイツ租税法研究者としての成り立ち

川田

村井先生とはもう40年以上のお付き合いで、IFA(International Fiscal Association:国際租税協会)の総会などでお会いする機会も多いのですが、本日はこれまでなかなか聞けなったことをお伺いしたいと思います。

村井

わかりました。よろしくお願いします。

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連載目次

「川田剛の“あの人”に聞く」

筆者紹介

村井 正

(むらい・ただし)

関西大学名誉教授

1960年 京都大学大学院法学研究科修了(京都大学法学修士)
1963~1966年 ドイツ政府奨学生(DAAD)としてハイデルベルク大学留学
1966年 関西大学法学部専任講師
1968年 関西大学法学部助教授
1975年 関西大学法学部教授
1986~1988年 関西大学法学部長
1989~1993年 関西大学国際交流センター所長
1993~1995年 関西大学法学研究所長
1995年 関西大学名誉教授

【主要著書】
『租税法と私法』(大蔵省印刷局)、『国際租税法の研究』(法研出版)、『租税法理論と政策』(青林書院)、『教材 国際租税法Ⅰ(解説編)・Ⅱ(資料編)』(信山社)、『現代租税法の課題』(東洋経済新報社)、『公害課税論』『多国籍企業と課税問題』『多国籍企業と実施契約』(以上、ミネルヴァ書房)、『EU通貨統合と税制・資本市場への影響』(共著、日本租税研究協会)、『国際租税秩序の構築』『金融取引と国際課税』『法とヨーロッパ統合―21世紀への挑戦』(以上、関西大学法学研究所)、『租税法と取引法』(比較法研究センター)、『入門国際租税法』(清文社)、他多数。


川田 剛

(かわだ・ごう)

税理士
税理士法人 山田&パートナーズ 会長

昭和42年東京大学卒業。昭和49年大阪国税局柏原税務署長。昭和51年人事院在外研究員(南カリフォルニア大学)。昭和53年在サンフランシスコ日本国総領事館領事。昭和58年仙台国税局調査査察部長。昭和62年国税庁調査査察部国際調査管理官。同年国税庁長官官房国際業務室長。平成7年仙台国税局長。平成9年国士舘大学政経学部教授、学習院大学法学部講師、税務大学校講師(国際租税セミナー特別コース)、明治大学商学部・大学院講師
明治大学専門職大学院グローバルビジネス研究科教授

【主要著書】
『中国進出企業のための移転価格税制ハンドブック』(共著,同文館出版)、『Q&A海外勤務者に係る税務(改訂版)』(税務経理協会)、『税金ガイド〈26年版〉 - 英和対照』(財経詳報社)、『租税法入門(11訂版)』(大蔵財務協会)、他多数

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