酒井克彦の
〈深読み◆租税法〉
【第130回】
「消費税法上の実質行為者課税の原則(その3)」
中央大学法科大学院教授・法学博士
酒井 克彦
《(その1)はこちら》
はじめに
Ⅰ 素材とする事案
1 概観
2 前提事実
(1) 当事者
(2) 受託契約約款の定め
(3) A場における牛枝肉取引の流れ
(4) 買受人との間の約定の締結
(5) 債権の貸倒れに至る経緯
3 争点
4 判決の要旨
《(その2)はこちら》
Ⅱ 実質所得者課税の原則
1 形式と実質
2 原因・結果アプローチ
Ⅲ 消費税法の本質と実質性の追求
1 「享受」という概念
消費税法上の実質行為者課税の原則が所得課税法における実質所得者課税の原則における法律的帰属説と親和的であり、原因(行為)に着目をした構造になっているという点を論じたが、この点は、消費税法13条の文理解釈から導き出すことができるかもしれない。
浅妻章如教授は、本件大阪地裁判決の評釈において、「所得税法・相続税法に関しては委託者が課税対象となる一方、消費税法に関しては委託者が課税対象となるという立論の余地は皆無ではない。」としつつ、「『享受』という同じ文言を重視すれば、問屋・委託者の関係について所得税法・消費税法で態度を変えることは要請されない。」とされる(浅妻「牛枝肉の問屋でもリスク負担者である場合貸倒れの仕入税額控除を主張できる」ジュリ1495号137頁(2016))。なるほど、「所得税および消費税は実質的に同性質の租税であることになり、両者は単に課税のタイミングの違いを有するものである」との指摘があるとおり(手塚貴大「消費税制の構造と改革(1)―租税法学の視点と検討―」自研96巻5号66頁(2020))、所得課税法と消費税法との間に必要以上の径庭を認める必要はないのかもしれない(消費課税におけるタイミングの問題については、渡辺智之「消費課税の意義と将来構想」租税法49号4頁(2021)参照)。
本稿の関心事項である所得税法12条や法人税法11条、消費税法13条の関係についていえば、なるほど、「享受」という概念を共有しており、また、かかる概念の意味を特段の理由なく別異に解することは租税法律主義が要請する法的安定性や予測可能性に反する結果を招来することにもなり得るところから、原則として同義に解するべきであろう。
しかしながら、この点については、他方で次のような問題関心が惹起される。
それは、そもそも、所得税法12条や法人税法11条、消費税法13条の解釈について、文理解釈を重視した上で、これらの条文において使用されている概念の意味をどこまで尊重すべきなのかという問題関心である。
例えば、福岡高裁昭和34年3月31日判決(判時198号4頁)は、次のように説示する。
所得税法2条所定の課税対象となっている個人の所得とは、当該個人に帰属する所得を指称するものであることは勿論であるが、その所得の外見上又は法律形式上の帰属者が単なる名義人に過ぎずして、他にその終局的実質的享受者が存在する場合、そのいずれを所得の帰属者として課税すべきであるかについて問題を生ずる。思うに 国家経費の財源である租税は専ら担税能力に即応して負担させることが、税法の根本理念である負担公平の原理に合し且つは社会正義の要請に適うものであると共に租税徴収を確保し実効あらしめる所以であって、各種税法はこの原則に基いて組み立てられており、又これを指導理念として解釈運用すべきものと云わねばならない。さすれば、所得の帰属者と目される者が外見上の単なる名義人にしてその経済的利益を実質的、終局的に取得しない場合において、該名義人に課税することは収益のない者に対して不当に租税を負担せしめる反面、実質的の所得者をして不当にその負担を免れしめる不公平な結果を招来するのみならず、租税徴収の実効を確保し得ない結果を来す虞があるからかかる場合においては所得帰属の外形的名義に拘ることな<、その経済的利益の実質的享受者を以って所得税法所定の所得の帰属者として租税を負担せしむべきである。これがすなわちいわゆる実質所得者に対する課税(略して実質課税)の原則と称せられるものにして、該原則は吾国の税法上早くから内在する条理として是認されて来た基本的指導理念であると解するのが相当である。
このように地裁は、実質所得者課税の原則を「基本的指導理念」と位置付け、確認的規定と捉えている。なお、上告審最高裁昭和37年6月29日第二小法廷判決(裁時359号1頁)は、この原審判断を維持した。
また、最高裁昭和39年6月30 日第三小法廷判決(税資42号486頁)は、租税法上古くから条理として是認されていたいわゆる実質課税の原則によって納税義務の所在を決定した原審判断は相当であると判示している。この立場も、実質所得者課税の原則が確認的規定であるというところに立つものであるといえよう。
かように実質所得者課税の原則を確認的規定であると捉えるのが判例の態度であるといえよう。
そうであるとすると、所得税法12条や法人税法11条、消費税法13条が「享受」という共通の概念を使用していることのみをもって、これらの解釈に径庭を認めるべきではないとするのにも一定の不安が付きまとうのである。
2 随時税・行為税という性質
もっとも、所得税法や法人税法における実質所得者課税の原則が法律的帰属説に立ち、原因(行為)に着目した考え方が採用されていることと、消費税法上の実質行為者課税の原則も同様に原因(行為)に着目しているという仮説は、消費税法の本質からも論じることができるかもしれない。そこにいう消費税法の本質とは、消費税が随時税あるいは行為税という側面を有するという点である。
消費税法の随時税や行為税という性質は、次の国税通則法15条を確認することから判然とする。
国税通則法15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》
国税を納付する義務(源泉徴収等による国税については、これを徴収して国に納付する義務。以下「納税義務」という。)が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が確定されるものとする。
2 納税義務は、次の各号に掲げる国税(第一号から第十三号までにおいて、附帯税を除く。)については、当該各号に定める時(当該国税のうち政令で定めるものについては、政令で定める時)に成立する。
(中略)
七 消費税等 課税資産の譲渡等若しくは特定課税仕入れをした時又は課税物件の製造場(石油ガス税については石油ガスの充塡場とし、石油石炭税については原油、ガス状炭化水素又は石炭の採取場とする。)からの移出若しくは保税地域からの引取りの時
例えば、三木義一青山学院大学名誉教授は、消費税法の本質について、上記の国税通則法15条を引用した上で、「この規定から明らかなように、消費税法は消費に着目する税、つまり行為税として構成され、個々の取引時に『納税義務が成立』するという基本的性格を有している税である。従って、所得税や法人税のように一定期間の終了を待って納税義務が成立する期間税ではない。」とし、「個々の取引で見ると、売り手と買い手が取引を行うが、少なくとも売り手側は取引時点で納税義務が成立するので、その抽象的な額が観念できる仕組みでなければならないのである」とされている(三木「対価概念・仕入税額控除と消費税法の基本構造」立命館法学352号413頁(2013))。
このように所得課税が期間税であるとされる点と異なり、消費税は、随時税あるいは行為税とされているのである。
課税資産の譲渡等を基準として消費税が観念されるという点とも相まって、上記のように考えると、原因(行為)に着目をするという消費税法の本質論と同法上の実質行為者課税の原則とは親和性を有するといえそうである。
ただし、課税資産の譲渡等に着目するのが消費税の課税標準であるとはいっても、納付すべき税額の計算においては、仕入税額控除が計算される必要があるところ、同控除の性質などをも踏まえると、上記に示した消費税法を随時税あるいは行為税という性質のみで捉えることが可能であるのかについては、不安も惹起される。
すなわち、消費税法30条《仕入れに係る消費税額の控除》1項は次のように規定している。
事業者・・・が、国内において行う課税仕入れ・・・については、・・・課税期間の・・・課税標準額に対する消費税額・・・から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額・・・の合計額を控除する。
消費税法30条1項が上記のとおり規定するとおり、仕入税額控除は期間単位で計算することが予定されている。
この点について、西山由美教授は、「日本の消費税法のもとでは、納税義務は課税売上げごとに成立するが(国税通則法15条2項7号)、申告納税は各課税売上げを課税標準とするのではなく、課税期間中の課税売上げの合計金額を基礎にして(これを『課税標準額』と称する)、課税売上げにかかる消費税が計算される。」とされている(西山「消費課税におけるインボイスの機能と課題─EU域内の共通ルールと欧州司法裁判所判例を素材として─」法学新報123巻11=12号147頁(2017))。
ここから得られる示唆としては、消費税法を納税義務レベルと申告納税レベルで切り分けて考えた場合には、前者を随時税といい得るが、後者では期間税的なものとされていると解することができそうである。
もっとも、実質行為者課税の原則の議論は、納税義務レベルと申告納税レベルで切り分けて考えた場合には前者の問題であるから、行為者を基準として納税義務の帰属を捉えるべきとの考え方が導出され得るといえよう。
3 売上税という性質
消費税の本質論を考えるに当たって、「消費税は売上税ではないか」という論点は比較的ポピュラーな論点であるといえよう。
そもそも、我が国の現行消費税法は、課税資産の譲渡等に対して課税を行い、税額控除において仕入税額控除を認めるという構造を採っている。このことからすれば、いわば売上税であることは多言を待たない。そのような点からみても、消費税法の実質的な課税対象者を考えるときに、課税資産の譲渡等という行為を行った者に着目するのは至極当然であるように思われるのである。
この点、金子宏東京大学名誉教授は、付加価値税の性質と内容に関して、付加価値税の構成の仕方には、収益税として構成する考え方と売上税として構成する考え方があり得るとされた上で、「現在ヨーロッパ諸国で採用されている附加価値税〔筆者注:論文発表時は1970年〕は、立法者の意図においても実際の効果においても、いずれも一般売上税であり、後者の考え方に立つもの」とされる(金子「附加価値税の採用の是非をめぐって」税弘18巻9号5頁(1970))。この点、我が国の消費税法も売上税として構成する構造を採用しているといえよう。
西山由美教授は、消費税と付加価値税との相違については、一般に同義であるとした上で、「厳密にいえば、前者については、最終消費者の消費行為に着目してその消費能力に課税する税であることが強調されるのに対して、後者については、取引の各段階で生じる付加価値に対して課税すること」と説明される。そして、注目すべきは、以下の理由で、消費税が厳密な意味で付加価値税ではないとされるのである(西山「消費課税における中小事業者―消費税の性質論を基礎として―」早法95巻3号586頁(2020))。
① 課税標準が、「課税資産の譲渡等の対価の額」(消法28①)である限りにおいて、付加価値が生じていなくても、すなわち課税資産が原価割れで譲渡されても消費税が課されること。
② 付加価値に対する課税であれば、「(売上金額 - 仕入金額)× 税率」で納税額が計算されるべきところ、「売上税額 - 仕入税額」によって納税額が計算される仕入税額控除方式を採用していること。
このようにみてくると、厳密な意味では、消費税は付加価値税というよりも売上税的な性質を含有しているとみることができるのであって、かような意味においても、売上たる資産の販売者や役務の提供者という原因(行為)に着目をした実質課税の負担者の確定ルールは説明しやすいものであるといえよう。
(続く)
「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。






















