〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第89回】 「外国子会社配当益金不算入規定における 外国子会社の判定基準(地判令3.9.28)(その2)」 ~法人税法23条の2第1項、法人税法施行令22条の4第1項~ 滋賀大学准教授・税理士 金山 知明 6 判決の要約 大阪地裁は、次のように判断して、Xの主張を退けた。 (1) F社は施行令22条の4第1項2号に規定する「外国子会社」の要件を満たさない〔《争点2》についての判示〕 施行令22条の4第1項2号の「議決権のある株式又は出資の数又は金額」については、①「議決権のある株式の数」、②「議決権のある株式の金額」、③「議決権のある出資の数」及び④「議決権のある出資の金額」の4通りを意味すると解しても、いずれも不合理なものとはいえないから、上記の4通りと解するのが文理上は自然ということができる。 F社は株式を発行する法人であるから、F社がXの「外国子会社」に該当するか否かは、「議決権のある株式の数」又は「議決権のある株式の金額」の各保有割合に係る要件により判定し、③「議決権のある出資の数」又は④「議決権のある出資の金額」の各保有割合に係る要件によって判定することはできないものというべきである(※5)。 (※5) その根拠につき、株式発行法人に対する影響力は、出資でなく、保有する株式の数・内容に反映されるのが通常であることを挙げている。 ①の「議決権のある株式の数」の保有割合について、本件配当日において、F社が発行する議決権のある株式の総数は201株であり、そのうちXが保有するF社の議決権のある株式の数は1株であるから、F社の議決権のある株式の総数に占めるXが保有するF社の議決権のある株式の数の割合は、201分の1であって、100分の25に満たない。 ②の「議決権のある株式の金額」については、Xが本件配当日において保有していたクラスC株式とは、議決権はあるものの、額面金額がない株式であるため、Xが有するF社のクラスC株式について、「議決権のある株式の金額」は存在しないというべきである(※6)。したがって、F社は、その発行済株式等のうちの②「議決権のある株式の金額」のうちにXが保有している当該株式の金額の占める割合が100分の25以上であるという要件を満たさない。 (※6) 判決は、法人税法その他の関係法令には、「株式の金額」の定義を定めた規定はないが、その文理に照らせば、「株式の金額」とは、株式の額面金額をいうものと解するのが相当であるとする。 以上によれば、F社は、施行令22条の4第1項2号に規定する「外国子会社」の要件を満たさない(※7)。 (※7) 判決は、OECDモデル租税条約10条2項(a)の文言や、カナダ事業法人法の議決権割合の異なる株式発行を許容する規定を踏まえたXの主張に対しても、それらの規定は、我が国の法令解釈に直ちに影響を及ぼすものではないとして退けている。また、「外国子会社」に該当するか否かを個別的に判断すべきであるとのXの主張は、「外国子会社」について簡明な判定基準とすることを許容する法人税法23条の2第1項の委任の趣旨にも反しており、これはOECDモデル租税条約の10条2項に対するコメンタリーの内容にも左右されるものではないと述べる。 (2) 施行令22条の4第1項は法人税法23条の2第1項に適合する〔《争点3》についての判示〕 法人税法23条の2第1項が外国子会社配当益金不算入制度の対象となる「外国子会社」の定めを政令に委任した趣旨は、適切な二重課税の排除を維持しつつ、間接外国税額控除制度よりも簡素な制度とし、内国法人が外国で得た所得の我が国への所得の還流をより促進するという同項の産業政策的な趣旨に整合するように、多種多様な制度から成る外国法人のうち、どのような法人を外国子会社配当益金不算入制度の対象とするかといった専門技術的な判断を政令に委ねたものであり、また、内国法人が外国法人に対して実質的な支配力を有しているか否かに関わらない簡明な判定基準を採用することも許容するものと解するのが相当である。 このような同項の委任の趣旨からすると、同項の委任を受けた施行令22条の4第1項が、「外国子会社」の要件として、発行済株式等の保有割合に係る要件(同項1号)及び議決権のある発行済株式等の保有割合に係る要件(同項2号)を定め、議決権の数又は議決権の割合に係る要件を定めていないことが不合理であるということはできない。 (3) 法人税法23条の2第1項及び施行令22条の4第1項は憲法14条1項に反しない〔《争点4》についての判示〕 国民の租税負担に係る規定を策定するに当たっては、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件の定めについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることから、租税法の分野における取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が上記の目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当である(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁)。 法人税法23条の2第1項は、内国法人が「外国子会社」から受ける配当に係る二重課税を排除するための制度として、間接外国税額控除制度よりも簡素な制度として外国子会社配当益金不算入制度を定め、我が国への所得の還流をより促進することを目的とする規定であると解され、その目的は正当であるというべきである。 外国法人は多種多様な制度から成り、内国法人が外国法人に対して外国子会社配当益金不算入制度の対象とするにふさわしい影響力を有する全ての場合を過不足なく捕捉する要件を定めることは極めて困難であるというべきであるから、「外国子会社」の要件を定めるに当たって、一定程度の簡明な基準を採用したとしても、これをもって直ちに不合理であるということはできない。 また、内国法人が外国法人に対して一定の議決権を保有している場合には、その影響力は、議決権のある発行済株式等の数又は金額に反映されるのが通常であるから、議決権の数又は議決権の割合を判定の基準として定めなかったとしても、このことをもって、上記目的との関連で不合理であるということはできないから、憲法14条1項に違反するということはできない。 (4) 法人税法23条の2第1項及び施行令22条の4第1項2号は日加租税条約21条2項(b)に反しない〔《争点5》についての判示〕 日加租税条約において、「議決権のある株式」の定義規定はないから、文脈により別に解釈すべき場合でない限り、我が国の国内法上の意義を有するものと解釈すべきことになる(日加租税条約3条2項)。 我が国の国内法上、「議決権のある株式」の定義規定はないものの、施行令22条の4第1項2号の「議決権のある株式」とは、その文理等に照らし、議決権そのものでなく、議決権のある株式と解すべきである。 日加租税条約の条約文、日加租税条約の締結に関連する関係合意及び関係文書において、「議決権のある株式」について特別な意義が付与されていたといった事情はないから、「文脈により別に解釈すべき場合」に当たらない(※8)。 (※8) 判決は、この「文脈」については、条約法に関するウィーン条約31条2項を引用して、条約文のほか、条約の締結に関連して当事国の間でされた条約の関係合意及び条約の締結に関連して当事国が作成した文書であって、双方の当事国が条約の関係文書として認めたものをいうとする。 したがって、日加租税条約21条2項(b)の「議決権のある株式」とは、その文理に照らせば、議決権そのものではなく、議決権のある株式をいうものと解するのが相当である。以上によれば、法人税法23条の2第1項、施行令22条の4第1項2号は、日加租税条約21条2項(b)に適合するというべきである(※9)。 (※9) また、Xが指摘する日加租税条約21条2項(b)と日英租税条約10条2項(a)との文言の相違が、上記の「文脈により別に解釈すべき場合」に当たるというべき事情は見当たらないから、このことを理由として日加租税条約21条2項(b)の「議決権のある株式」について議決権の割合を意味すると解することはできないと判示している。 7 検討 本件では、外国子会社の判定に関する法令が、議決権割合等によらず、単純な持株割合による要件のみを規定している結果として、上記の判示が導かれている。そこで以下においては、外国子会社該当要件に関する法令規定そのもののあり方につき、主に本制度導入時の趣旨と、外国子会社合算税制との関係から検討を加える。 (1) 外国子会社の該当要件について 外国子会社配当益金不算入制度が導入される前の法人税法は、内国法人が外国において事業を行う場合に、外国子会社を設立するか、支店形態で進出するかにおいて、税制は中立的である必要があるとの観点(いわゆるイコールフッティングの要請)から、一定の外国子会社から受ける配当に係る二重課税を排除するための制度として、間接外国税額控除方式を採用していた(※10)。 (※10) 武田昌輔編著『DHCコンメンタール法人税法』第一法規、1253の4。高橋元監修『タックス・ヘイブン対策税制の解説』清文社(1979)166頁。 しかし、間接外国税額控除制度は、計算の複雑さや書類添付等の過大な事務負担という問題があったほか、同制度の下では、内国法人は外国で得た所得を現地に留保する(国内環流を敬遠する)傾向があるという指摘もあった(※11)。そのため、外国子会社から受ける配当に係る二重課税排除の方式として、税制の中立性の観点に加え、適切な二重課税の排除を維持しつつ、制度を簡素化する観点も踏まえ、平成21年度改正において、間接外国税額控除制度に代えて、外国子会社配当益金不算入制度が導入されたという(※12)。 (※11) 武田編著・前掲(※10)1253の4。 (※12) 武田編著・前掲(※10)1253の4。間接外国税額控除制度に、計算の複雑さという弊害があり、制度の簡素化の要請から外国子会社配当益金不算入制度が導入されたことは、本件判決書上で裁判所も認めている。 つまり、外国子会社配当益金不算入制度は、間接外国税額控除の規定を引き継ぐ形で制定されており、外国子会社の該当要件は、従前の間接外国税額控除制度においても、内国法人が外国法人の発行済株式総数もしくは出資金額の25%以上、又は議決権のある株式の総数の25%以上を有することとされていた(※13)。 (※13) 髙木克己「間接外国税額控除制度の問題点」駒大経営研究20巻2号(1989)31頁。 このように、間接外国税額控除の導入当時(昭和37年度)から外国子会社の判定には、議決権割合を考慮しない単純な持株数基準が採用されており(※14)、その基準自体は外国子会社配当益金不算入制度に移行した後も変わっていない。争点2においてXは、F社の議決権割合の26%を所有しているからこの基準を満たすと主張するが、条文が株式の数のみを規定し、「議決権の割合」などという文言がない以上、文理解釈からはこの主張は極めて不利であったというほかない。 (※14) 武田編著・前掲(※10)4289の31。 (2) 簡素化の内容と持株数基準の合理性 しかし、このように株式の数のみに着目して外国子会社の該当判断を行う規定自体は、外国子会社配当益金不算入という新制度に移行した現在においても合理的なものだろうか。本制度の導入の背景としては、企業利益の国内環流と、制度の簡素化という2つの目的が挙げられるが(※15)、導入の趣旨について『平成21年版改正税法のすべて』は、2000年以降日本企業の海外進出の加速に伴い、海外での内部留保が増大し、2006年度末には約17兆円にも達していることに言及し、これを国内に環流させる「好循環」の確立による国内経済の活性化という目的を最も強調している(※16)。では、もう1つの要素である「制度の簡素化」はどのような位置づけだろうか。 (※15) 松永真理子「外国子会社からの配当に関する一考察」立教経済学研究78巻1号(2024)99頁。 (※16) 『平成21年版改正税法のすべて』大蔵財務協会(2009)425頁。 判決は、内国法人が外国子会社から受ける配当に係る二重課税を排除する必要があることは明らかであり、従来の間接外国税額控除制度よりも簡素な制度を定めて国民の利便性を向上させ、我が国への所得の還流を促進するとの産業政策的な考慮から外国子会社配当益金不算入制度を設けることには合理性があるとして、本制度の憲法14条1項への適合性を判示するが、判決ではこれ以外にも随所に「簡明な判定基準」という言葉が用いられ、それを根拠としてYの主張を認めている。 しかし、制度の簡素化の要請が、持株割合などによる判定の単純さに向けられたものかどうかは検討の余地がある。外国子会社配当益金不算入制度の導入当時、従前の間接外国税額控除制度の問題点としては、その計算方法の複雑さや、情報や書類の申告書添付義務の過大さが指摘されており(※17)、この複雑性や過大性というのは、外国子会社の該当判断基準についてでなく、控除税額の計算と税務手続について言及されたものである。 (※17) 南波洋「外国子会社配当益金不算入制度」税務弘報57巻14号(2009)30頁。 さらに、経済産業省国際租税小委員会が2008年8月に公表した中間論点整理においては、「税制の簡素化・中立化」の節において、従来は複雑な計算と膨大な証拠書類の添付義務があったことを挙げたうえで、外国子会社配当益金不算入制度の導入により、「税額控除を受けるための膨大な事務作業から解放され、より簡素な手続によって二重課税の排除がなされること」の重要性を述べている(※18)。 (※18) 経済産業省貿易経済協力局貿易振興課・国際租税小委員会「我が国企業の海外利益の資金還流について~海外子会社からの配当についての益金不算入制度の導入に向けて~」中間論点整理(2008)11頁。 上記の点から、制度の簡素化の要請は主として手続面に向けられたものであり、本件判決が再三にわたり「簡明な判定基準」とすべきことを根拠に単純な持株数比率による判断を肯定していることは、論点を的確に捉えたものではないということがいえる(※19)。 (※19) 渡辺徹也「外国子会社配当益金不算入制度の意義と効果」租税法研究40号(2012)87頁では、間接外国税額控除が廃止されたこと自体をもって、簡素化の実現と捉えている。 (3) 外国子会社合算税制との関係からの検討 外国子会社合算税制が導入された昭和53年以後、配当に係る間接外国税額控除の規定は、外国子会社合算税制が適用される法人については、当該税制と連動する形で適用されていた。すなわち、外国子会社合算税制が適用される年度において、内国法人である親会社が特定外国子会社等から剰余金等の配当を受けている場合、その配当については、間接外国税額控除の対象とされていた(※20)(当時の措置法66条の7第3項)。 (※20) 高橋監修・前掲(※10)168頁。 特定外国子会社等からの配当等にかかる間接外国税額控除は、昭和63年度改正により外国子会社合算税制の適用要件とは異なる対象範囲とされ、持株割合25%以上という要件が規定された(※21)。しかし、少なくとも当該年度の改正に至るまでは、外国子会社合算税制を補完する形で、配当等に係る間接外国税額控除が用いられていたことになる(※22)。 (※21) 武田編著・前掲(※10)4985の6。 (※22) 髙木・前掲(※13)40頁はタックスヘイブン対策税制の対象となる特定外国子会社から内国法人である親会社が配当を受けた場合には、無条件に間接外国税額控除が適用されていたことを指摘する。 また、平成21年度改正において外国子会社配当益金不算入規定が導入されるまでの間、外国子会社合算税制の趣旨は、特定外国子会社等から内国親会社への配当を擬制して課税するものであったことを考えると、間接外国税額控除が外国子会社合算税制と密接な関連性を有していたことが理解できる。 さらに、外国子会社合算税制においては従来、特定外国子会社等からの配当金は、課税対象留保金額の計算から除外されていたが、外国子会社配当益金不算入制度の導入と同時に、課税対象金額から控除されないこととされた(※23)。このことは、少なくとも外国子会社合算税制の対象となる外国子会社についていえば、外国子会社配当益金不算入制度との間に対応関係があることを示す(※24)。 (※23) 武田編著・前掲(※10)4985の23。 (※24) 増井良啓「外国子会社配当の益金不算入制度は何のためにあるか」村井正先生喜寿記念論文集『租税の複合法的構成』清文社(2012)217頁は、外国子会社合算税制を外国子会社益金不算入規定のバックアップと捉えている。 その後、外国子会社合算税制においては、単純な持株割合により適用対象法人を決するのでなく、議決権割合による判定に加え、請求権勘案による要件が導入されている。時系列的にみると、まず平成10年度改正において、それまでの単純な保有株数割合による判定に代えて、利益配当の請求権のない株式を除いたところでの株式保有割合が採用された。これは外国において、配当金受領権のない株式の発行が可能とされているので、そのような特殊な株式を利用して同税制の適用を免れようとする行為を抑制するためであるとされる(※25)。 (※25) 武田編著・前掲(※10)4985の11。 平成19年度改正においては、外国法人が議決権の数が1個でない株式や、配当金等請求権の内容が異なる株式等を発行している場合に、議決権の割合や配当金請求権の割合を勘案して外国関係会社の判定をする規定が設けられた(※26)。 (※26) 武田編著・前掲(※10)4985の16。 上記のとおり、外国子会社合算税制上の対象法人判定基準は、数次の改正により、実質的な支配力や、配当金等の請求権を反映しうるように精緻化が図られてきた。特に平成19年度改正は、外国法において議決権や請求権の異なる株式を発行できる制度が存在することを認識したうえで、それらの特殊な株式発行を駆使することで、実質的に支配力を有しながら合算税制の適用を免れようとする行為に対処するために行われたものである(※27)。 (※27) 財務省「平成19年度 税制改正の解説」579頁。 このように内国法人の外国法人に対する支配力に着目して、それが一定水準以上である場合に必要な調整を行うという趣旨自体は、間接外国税額控除制度においても前提とされていたものと考えられる(※28)。そうであれば、それを引き継いだ外国子会社配当益金不算入制度においても同様のはずであり、実質的な支配力を測定するためには、議決権や請求権の割合による判断が必要であるといえるだろう(※29)。 (※28) 髙木・前掲(※13)31頁。 (※29) 経済産業省貿易経済協力局貿易振興課・国際租税小委員会・前掲(※18)は、子会社株式配当益金不算入制度の検討にあたり、出資比率要件につき、「株式出資比率25%以上の海外子会社とするべきである。」と述べ、保有株式数による判定とは異なる考え方を示している(3頁)。また本件についての国税不服審判所裁決(平成30年12月14日)では、外国子会社に当たるかどうかは、外国法人の経営判断への内国法人の支配力(影響力)をもって判断すべきであると述べており、渡辺充「外国子会社配当益金不算入制度の対象となる外国子会社」税理(2021・12月)180頁もそれを指摘して裁決に疑問を呈する。 このような考察からすると、外国子会社配当益金不算入制度における外国子会社の判定においてのみ「簡明な基準」を維持することは実情に合わず、外国子会社合算税制による特定外国子会社等の判定基準との関係からも均衡を欠くことになると考え得る。 本件において、Xが実際にF社の資本の99.98%の金額を出資し、26%の議決権という形で支配力、影響力を持っていることを前提とすると、配当金の益金不算入が否定される結果には違和感を覚える。ただ、外国子会社の該当基準を定める現行の施行令22条の4第1項の文理からは、Xの議決権割合を考慮することが困難であることは否定しがたい。 この問題に対し、内国法人の外国法人に対する議決権や請求権の割合を的確に捉えて支配力を判定する基準への改正を含め、立法的な解決が期待される。 8 総括 外国子会社配当益金不算入制度における外国子会社の判定基準は、基本的には間接外国税額控除制度の時代から変更されておらず、単純な株式保有割合による判定を求める現行規定の文言上、本件原告の訴えは不利なものであった。 しかし、そのような株式保有割合に依拠する判断基準は状況に適合しなくなってきたことも事実であり、本件は現行の外国子会社配当益金不算入制度にこうした問題が残されていることを再認識させる事案であったといえる。 外国法において議決権や請求権の内容の異なる株式を容易に発行できる制度がある以上、株式の数のみにより支配力を測定することは不可能であるため、外国子会社合算税制における議決権割合や請求権勘案株式保有割合との均衡を考慮する基準へと見直すべき時期にきていると考えられる。 (了)
有価証券報告書における作成実務のポイント 【第19回】 (最終回) 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 本連載の最終回となる今回は、有価証券報告書のうち、第6【提出会社の株式事務の概要】から第二部【提出会社の保証会社等の情報以降】までの作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2025年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 提出会社の株式の概要 第6【提出会社の株式事務の概要】では、当事業年度末の株式事務の概要について記載する。 【事例:JBCCホールディングス(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 2 提出会社の参考情報 第7【提出会社の参考情報】では、【提出会社の親会社等の情報】と【その他の参考情報】を記載する。 (1) 提出会社の親会社等の情報 (2) その他の参考情報 【事例:日本郵船(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 3 提出会社の保証会社等の情報以降 第二部【提出会社の保証会社等の情報以降】では、第1【保証会社情報】として【保証の対象となっている社債】、【継続開示会社たる保証会社に関する事項】、【継続開示会社に該当しない保証会社に関する事項】を記載する。また、第2【保証会社以外の会社の情報】と第3【指数等の情報】を記載する。 なお、該当事項がない場合は、第二部【提出会社の保証会社等の情報】のタイトルのみ記載し、「該当事項ありません。」と記載する。 (連載了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第180回】 株式会社ジェイアール東日本企画 「外部調査委員会調査報告書(2025年5月30日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社ジェイアール東日本企画外部調査委員会の概要】 【株式会社ジェイアール東日本企画の概要】 株式会社ジェイアール東日本企画(報告書上は「jeki」、以下「JR東日本企画」と略称する)は、1988(昭和63)年5月、東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」と略称する)の100%出資子会社として設立された、各種広告の取扱い及びセールスプロモーション並びにパブリックリレーションズに係る業務等を目的とする会社である。 2024年度の売上高は1,149億円、資本金15億5,000万円、従業員数1,200名(2025年4月現在)。親会社であるJR東日本の会計監査人は、有限責任あずさ監査法人東京事務所である。 【調査報告書の概要】 1 外部調査委員会設置の経緯 JR東日本企画は、2020(令和2)年度から2023(令和5)年度にかけて、経済産業省資源エネルギー庁から、「災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金(災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業のうち自治体における防災の拠点となる施設向け自家用発電設備等利用促進対策事業に係るもの)」(以下「防災インフラ補助事業」という)の補助事業者(執行団体)として採択され、補助金の交付決定を受けた。 そして、2022(令和4年度(2023(令和5)年度への繰越分を含む))年度の防災インフラ補助事業において、補助事業に従事していない従業員が作業していたかのように作業時間が計上されていたこと(以下「不適切な作業時間の計上」という)が、2024年7月以降の会計検査院の検査において判明した。 これを受けてJR東日本企画は、同年12月4日、外部法律専門家による外部調査委員会を設置し、防災インフラ補助事業における不適切な作業時間の計上に関する事実関係の解明等を目的とする調査を行うこととした。 2 不適切な作業時間の計上及び不適切な人件費の請求スキームの概要 外部調査委員会は、調査の結果、JR東日本企画において、2022(令和4)年度及び2023(令和5)年度の防災インフラ補助事業を含め、中央省庁等向けの委託事業及び補助事業に関し、実際には事業に従事していないにもかかわらず、当該事業の作業をしていたかのように作業時間が計上され、また、当該事業に従事しているとしても実際の作業時間とは異なる作業時間が計上され(不適切な作業時間の計上)、そして、実態と異なる人件費が計上され、中央省庁等に対し、人件費が過大に請求されていたという判断を示した。 その不正のスキームは、「想定人件費一覧表」と呼称される資料の作成からスタートする。 まず、ソーシャルビジネス・地域創生本部(「SBD本部」という)において、年度初めに想定人件費一覧表を作成し、当該年度に補助金交付決定を受けた補助事業及び受託した委託事業と、SBD本部及びその傘下部門、支社・支店、本社のスタッフ部門等の従業員の氏名を記載して、各事業において人件費を計上する対象従業員を選定した上で、各人件費計上対象従業員並びに「想定年間時間」及び「想定人件費」は、各事業について中央省庁等との契約等において請求し得る人件費の上限額にできるだけ近付けるように選定・記載を行い、人件費計上対象従業員による実際の作業の有無・内容にかかわらず、想定人件費一覧表に選定・記載していた。 次に、想定人件費一覧表に記載した各人件費計上対象従業員の「想定年間時間」を基にして、各人件費計上対象従業員について、個別に、当該従業員が作業時間を計上する補助事業・委託事業名、当該年度の毎月の「想定作業時間数」が記載された「従事時間配分表」と呼称される資料を作成して、年に数回、最低限、「想定作業時間数」に記載された作業時間を工数オプションシステムに入力するよう依頼し、依頼を受けた人件費計上対象従業員は、実際には当該事業に従事していない者においては、当該事業の作業をしていたかのように作業時間及び従事内容を工数オプションシステムに入力し、また、当該事業に従事している者においては、実際の作業時間とは異なる作業時間を工数オプションシステムに入力していた。 また、JR東日本企画の支社・支店及び本社のSBD本部以外の部門に所属する人件費計上対象従業員については、人事部が、SBD本部からの依頼に基づき、毎年8月頃、中央省庁等向けの事業への兼務を命ずる「プロジェクト指定」と呼称される人事発令を行っており、プロジェクト指定を受けた従業員は、実際の作業時間等とは異なる内容を工数オプションシステムに入力していた。 3 会計検査院による検査 2024年7月26日、会計検査院による防災インフラ補助事業に関するJR東日本企画に対する実地検査が行われ、その後、8月19日に、会計検査院は、防災インフラ補助事業の体制図に記載されている従業員に対して、個別に実施した業務に関するヒアリングを実施したいとの要望を出した。 JR東日本企画では、検査対応に当たったSBD本部長代理、SBP局長らは、実際に防災インフラ補助事業に従事している者と、実際には従事していないものの防災インフラ補助事業の内容を理解している管理職やその他の従業員をヒアリング対象の候補者として選定した上、9月2日及び3日、これらの候補者に対して防災インフラ補助事業の業務内容に関するレクチャーを実施したところ、結果として、防災インフラ補助事業に実際には従事していない者の多くがヒアリングを辞退し、9月5日に行われた会計検査院のヒアリングにおいては、実際に従事している者5名と、実際には従事していない者1名が対応を行った。 その後、会計検査院は、9月26日、JR東日本企画に対して、11月11日に、A支社従業員4名に対するヒアリングを実施したいと連絡した。A支社長は、SBP局長に対して、実際の作業は行っていない中で、業務の実態について会計検査院から質問を受けると、A支社従業員に虚偽の回答を強いることになるため、会計検査院に正直に報告すべきであると述べた。 JR東日本企画は、社内での検討を重ねるとともに、外部弁護士の意見も参考にした上で、11月8日、総務局長、SBD本部長代理、SBP局長は、会計検査院との打合せを行い、フロント(本社)、バック(支社)では役割分担があり、補助金申請書類のチェックはバック(支社)で行う計画であったが、補助金申請者に補助金交付の決定を急かされたためにバック(支社)が行うはずであった書類チェック業務をフロント(本社)が行った旨、本来、フロント(本社)で人件費計上すべきところ、バック(支社)の人件費として従事日誌を作成しており、結果として従事日誌が虚偽であったこと、人件費の付け替えになるかもしれないが二重取りはしていないこと等を説明した。 4 原因・背景の分析(報告書75頁以下) 外部調査委員会は、原因・背景の分析として次の7項目を挙げている。 ここでは、本事案の特徴である、「(7) 内部統制機能(内部通報制度及び内部監査制度の運用等)の不十分さ」について、外部調査委員会の指摘を見ておきたい。 外部調査委員会の調査によれば、JR東日本企画監査室は、2020年1月に実施した内部監査において、人件費を請求するための証憑である従事日誌について、SBD局において約150本もの従業員名の印鑑を保管、特定の担当者が各従業員の従事日誌を無断で作成して印鑑を押印しており、SBD局以外の部門に所属する従業員は従事日誌の存在すら認識していなかったことを指摘したものの、監査室は、不適切な印鑑の取扱いに焦点を当てて調査を行ったことから、従事日誌に記載された作業時間は実際の作業時間とは異なり、その結果、人件費の請求が不適切に行われているのではないかといった問題意識を有していなかったため、従事日誌の作成の実態について調査を行わなかった。そのため、不適切な作業時間の計上及び不適切な人件費の請求について是正する契機を失い、不正の継続及び拡大を許したものであると結論づけて、内部監査制度の運用としては極めて不十分であったという評価を行っている。 さらに、外部調査委員会は、2024年9月26日に内部通報があり、不適切な作業時間の計上の手口について具体的に指摘され、不正な請求が行われている旨も指摘されていたにもかかわらず、内部通報対応の調査として、総務局からSBD本部の実質的責任者である本部長代理に指示がされ、本部長代理が不正の当事者的な立場にあるSBD本部の幹部従業員らに問い合わせただけで調査が済まされていたこと、調査後の対応として、SBD本部の幹部従業員らから、業界慣行として本社の間接的な貢献を行っている部門の従業員について人件費を計上しているとの説明を受け、本社の間接的な貢献を行っている部門の従業員のみを人件費の計上対象から除外することにとどめる方針としたことを批判している。 その理由として、この内部通報には、不適切な作業時間の計上の具体的な手口について指摘があり、通報者の氏名が明らかであるとともに、証憑となるべきメール等も添付されていたのであるから、SBD本部において組織的かつ継続的な不正が行われている可能性が相応に高いことを疑わせるものであったと判断でき、本来であれば、SBD本部とは独立した部門が調査の主体となり、メール等の客観資料も収集・精査して、不正の動機や範囲といった実態を解明すべく深度ある調査を行うべきであったにもかかわらず、実際に行った調査は表面的な対応にとどまっており、外形的には不正を矮小化しようとしているとも評価されかねないものであって、内部通報制度の運用としては極めて不十分であったという評価を行っている。 外部調査委員会は、2020年1月の内部監査については、内部監査制度の運用が極めて不十分だったため、不正を是正する機会を失い、不適切な作業時間の計上及び不適切な人件費の請求の継続・拡大を許すこととなり、また、2024年9月以降の内部通報への対応についても、内部通報制度の運用が極めて不十分だったことは、JR東日本企画の内部通報制度がこれまで従業員にとって信頼に足るものであったのかを疑わせる事情であるといえ、内部統制機能として重要な役割を果たすべき内部監査制度及び内部通報制度の運用が極めて不十分であったことは不適切な作業時間の計上及び不適切な人件費の請求が長きにわたり継続・拡大する要因となったと考えられるとまとめている。 5 再発防止策の提言(報告書83頁以下) 外部調査委員会は、原因・背景の分析に基づく「再発防止策」として、次の5項目を提言している。 外部調査委員会は、再発防止策のトップに、「経営陣等の意識改革」を掲げ、当時の社長をはじめとする経営陣による、内部監査による印鑑の不正使用の指摘や不適切な作業時間の計上に関する内部通報への対応について、経営陣等のリスク感度の著しい低さと「事なかれ主義」の姿勢が不正の是正の機会を失わせたと述べた上で、こうした経営陣等のリスク感度の著しい低さや「事なかれ主義」の姿勢及び自社の事業への不十分な理解を是正しなければ、実効的な再発防止策を実行していくことは困難であるとして、企業統治の規律付け、とくに取締役会のモニタリング機能を強化することが必要であり、コンプライアンスを所管する取締役や監査役について JR東日本グループの出身者ではないグループ外の取締役・監査役を選任し、外部の目線を取り入れて経営陣等の意識改革の推進とモニタリングを行うことも一案であると提言している。 さらに、「内部統制機能体制、内部監査制度及び内部通報制度の運用、並びにリスクマネジメントの取組みの強化」として、 外部調査委員会は、内部統制機能を担う、監査室や総務局において内部監査や内部通報に対応する人員の拡充を検討するとともに、内部監査及び内部通報において、重大な不正が疑われる事項が発覚した場合、不正の当事者的な立場にある部門に調査を実施させるのではなく、内部監査であれば監査室が、内部通報であれば総務局が主体となり、メールレビューや関係書類のサンプリングチェックといった客観資料の収集・精査や、幅広い層の従業員に対するヒアリングを行って、実態解明のための深度ある調査を実施する必要があり、このような実務対応について社内の規程・マニュアル等に規定しておくことを提言している。 【調査報告書の特徴】 子会社の不正について、親会社であるJR東日本は、2025年5月30日、「人事措置について」というリリースにおいて、代表取締役及び常務取締役2名について、管理責任を取る形で、報酬の一部を返上することを公表するとともに、同日付で、JR東日本企画の代表取締役社長赤石良治氏と前常務取締役で現在は別のグループ会社の社長である高橋敦司氏が辞任し、前社長である相談役の原口宰氏については報酬を返上し、嘱託契約を更新しないことを公表した。 もともとは、「社会課題解決・地域振興に貢献でき、かつ地域に根差した企業グループとしての信頼等が強みになるとの判断により事業を本格化」してきたはずのJR東日本企画であったが、いつしか、「契約において請求できる人件費の上限額にできるだけ近付けるように、実際の作業の有無・内容にかかわらず、特定の担当者がまとめて従事日誌を作成し、その虚偽の従事日誌をエビデンスとして人件費を請求する不正な運用」を行っていたという(「」内の引用は、後掲の「中央省庁等から受注した委託事業及び補助事業に関わる不正な人件費の請求に対する再発防止策について」による)。 会計検査院の検査により不正が判明するという珍しい経緯で発覚した、本件の特徴をいくつか見ておきたい。 1 会計検査院による検査結果の公表 会計検査院は、2025年11月5日に公表した「2024年度決算報告書」を公表するとともに、「特徴的な案件」として、8府省庁がJR東日本企画に支払った「委託費の支払額及び国庫補助金の交付額」22億4,166万円について、その89%が委託事業等に従事していたことが確認できなかったとして、19億9,527万円について、過大であり「不当」であったと指摘をしている。 公表されている「報告のポイント」から、検査結果の一部を抜粋しておきたい(強調は筆者による)。 2 JR東日本企画による再発防止策 2025年11月5日、JR東日本企画は、「中央省庁等から受注した委託事業及び補助事業に関わる不正な人件費の請求に対する再発防止策について」をリリースして、次の5項目からなる再発防止策を公表した。 なお、同日に公表されたニュースリリースでは、JR東日本企画は、自主調査の結果、「複数の事業において不正な請求があったことが確認されており、現在、関係者の皆さまと今後の対応について協議を進めて」いることを公表している。 3 宮城県の事業に関する不正請求 11月21日、JR東日本企画は、「宮城県の事業に関する不正請求について」をリリースして、宮城県経済商工観光部から受託した事業のうち、作業時間を計上して人件費を請求した事業について不正の疑いを認めたことから、今後、宮城県の調査を受けることとなったことを公表した。 (了)
〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第12回】 「従業員の中途採用・退職時の留意点」 〈情報通信業・IT〔Q1〕〉 弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 木原 康雄 〈情報通信業・ITの特徴と特有の労務問題〉 情報通信業・IT企業は、専門的知識・技能を有するITエンジニアに、クライアントの要求・要望に基づいてシステムの設計等の業務を遂行させることになる。また、フリーランスで活動している社外のITエンジニアに業務委託する場面も少なくないだろう。それらの場合、以下のような問題が生じ得る。 (1) 中途採用時・退職時の問題 各企業がAIの活用に向け取り組んでいることもあり、ITエンジニアは人手不足の状況である。このような売り手市場の状況では、ITエンジニアは専門的知識・技能を活かして、より有利な待遇を目指して転職することも多い。雇用の流動化が高まることで懸念されるのは、退職者による営業秘密等の競合企業への流出や、中途採用者の能力不足である。 (2) 長時間労働・残業代問題 様々なクライアントの要求・要望に速やかに応じなければならないITエンジニアは、長時間労働になりやすい。そこで問題となるのは、ITエンジニアの健康維持はもちろんだが、残業代(人件費)の増加である。 (3) メンタルヘルス不調者への対応問題 ITエンジニアが長時間労働となり、あるいはクライアントの厳しい要求に曝され続けることは、メンタルヘルス不調の原因となる。病状の悪化を防止し、重大な結果を招かないようにするため、少しでも早く不調に気づき、適時・適切な対応をとる必要がある。 (4) 偽装請負の問題 クライアントの要求に応じつつシステム設計等を行うITエンジニアは、客先常駐の場合も多い。この場合に懸念されるのは、クライアントがITエンジニアに直接指揮命令してしまい「偽装請負」と評価されることである。 (5) フリーランスへ委託する際の問題①―ハラスメント防止義務 令和6年11月1日から施行されているフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)上、発注事業者にハラスメント防止対策に係る体制整備義務が課せられている。情報成果物の作成等を目的とするITエンジニアとの間の業務委託契約も同法の適用対象となるため、同法に則った体制整備を行う必要がある。 (6) フリーランスへ委託する際の問題②―労災保険給付・安全配慮義務 業務委託契約関係にあるITエンジニアは「労働者」ではないので、業務に伴って傷病を罹患しても労災保険給付の対象とはならず、また、発注事業者は安全配慮義務を負わないのが原則である。もっとも、例外的に給付の対象となり、あるいは安全配慮義務が生じる場合があるので、それを整理・理解しておく必要がある。 【Q】 SEは中途採用と転職者が多く、流動性が高いのですが、採用時・退職時に問題となる点を教えてください。 【A】 退職者による営業秘密やノウハウ等の競合企業への流出防止、及び、中途採用者の能力不足への対処が問題となります。ただし、裁判例上、各対処策が有効とされる範囲が限定されている点に注意が必要です。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 人材の高流動性 近時、AIの活用に向けたシステムの構築が各企業で急務となっていることもあり、システム開発分野における人材不足が問題となっている。 このような状況は、専門的知識・技能を有するSEに対して、より高度な経験・待遇の獲得を目指して転職する機会を提供することになるため、雇用の流動性が高まる。 その際に企業として懸念される点として、退職者による営業秘密やノウハウ等の競合企業への流出防止、及び、中途採用者の能力不足への対処を挙げることができる。 以下、各別に見ていく。 2 営業秘密等の流出防止 転職者が、技術情報等を転職先である競合会社に開示し、競合会社がそれを利用して企業活動を行ったとして、不正競争防止法違反を問われる事例が増えている。 また、不正競争防止法違反にはあたらないとしても、社内規程上の秘密保持義務違反として、懲戒解雇や退職金を不支給とされるケースも多い。 これらは事後的な対処であるが、企業としては、事前の流出防止策として、退職者から秘密保持の誓約書を取得したり、競業避止義務の特約も結んでおき、予め退職者が競合会社に転職できないようにしておきたいと考えるだろう。 しかし、裁判例上、いかなる競業避止特約も可能とされているわけではない点に注意が必要である。 裁判例では、以下の要素を総合考慮して、競業避止特約による転職の制限が必要かつ合理的な範囲を超えると判断される場合には、公序良俗に反し無効と判断されることが多い。 たとえば、REI元従業員事件・東京地判令和4年5月13日労判1278号20頁では、競業避止義務の期間が1年とされているものの、その目的が明らかでなく、禁じられる転職等の範囲も広汎で、代償措置も講じられていないとして、競業避止特約の効力が否定されている。 3 中途採用者の能力不足への対処 採用時の面接や職務経歴書等の応募書類だけから、応募者の能力を的確に把握するのは難しい。そのため、記載されている経歴や能力、専門性を見込んで雇用契約の締結に至ったにもかかわらず、実際にはそのような能力等がなかったという場合も生じ得る。 また、採用後に、勤務態度が悪かったり、コミュニケーション能力や協調性に難があることが発覚したという場合もあるだろう。 このような場合、企業としては、当該中途採用者との間の雇用契約の解消を検討せざるを得ない。 もっとも、解雇が有効とされるには、客観的に合理的な理由と、社会通念上相当であると認められることが必要になる(労働契約法16条)。そして、これらを認めるにあたっては、裁判例上、企業が改善指導を行ったにもかかわらず、労働者に改善が見られなかったという事情が重視されている。 たとえば、パタゴニア・インターナショナル・インク事件・東京地判令和2年6月10日労経速2440号17頁では、高賃金で雇用したものの、実際には企業が期待するパフォーマンスのレベルに達しておらず、また、他の社員と協力し合って仕事をすることができなかった中途採用者の解雇が有効とされたが、その理由として、会社が具体的な要望を交えて指導(PIP)を行ったにもかかわらず、中途採用者がその後も指導に沿った業務を行うことができなかったばかりか、指導を受け入れようともしなかったという点が挙げられている。 また、試用期間が設けられていた場合の本採用拒否についても、本採用の拒否(解約権)の可能性が留保されている(採用決定の当初において労働者の資質・性格・能力等の適格性の有無に関連する事項について資料を十分に収集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定権を留保するという)趣旨・目的に照らした上で、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められることが必要であるとされている(三菱樹脂事件・最大判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁等)。 たとえば、他の従業員との協調性やコミュニケーション能力不足等を理由に、情報通信システム開発企業が行った本採用拒否について、大宇宙ジャパン事件・東京地判令和5年2月22日労ジャ140号46頁は、上長が協調性やコミュニケーションについて指導したものの、元従業員が他の従業員の批判を繰り返すなどして自らの言動を改善しなかったという点等を考慮して、本採用拒否を有効と判断している。 なお、応募者が提出した履歴書や職務経歴書の記載に虚偽があったという経歴詐称のケースも発生し得る。 このケースについては、内定取消に関するアクセンチュア事件・東京高判令和6年12月17日労判1333号58頁が参考になる。判決は、当該事案における諸事実からすれば、内定取消権が留保されたのは、事後の経歴調査により経歴詐称が判明した場合には、これを原因として雇用契約を解約するためという目的も含まれており、したがって、経歴詐称の結果、労働者の資質、能力を客観的合理的に見て誤認し、企業の秩序維持に支障をきたすおそれがあるときや、企業の運営に当たり円滑な人間関係、相互信頼関係を維持できる性格を欠いていて企業内にとどめおくことができないほどの不正義性が認められるときには内定取消が可能であると判断している。試用期間における本採用拒否についても、事案によっては、同様の判断がなされる可能性があるといえるだろう。 4 まとめ 以上のとおり、営業秘密等の流出防止策としては競業避止特約が、中途採用者の能力不足への対処策としては解雇や本採用拒否が考えられるところであるが、裁判例上、それが有効とされる範囲が限定されている点に注意が必要である。 (了)
事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第36回】 「信用組合による反社会的勢力への資金提供」 弁護士 原 正雄 前々回と前回は、2025年5月30日公表の第三者委員会報告書に基づき、I信用組合における長年にわたる不正融資と元役員らによる調査妨害について論じた。同報告書は「不正融資によって捻出した資金のうち、8.5億円~10億円の使途が明確になっていない」として、さらなる調査が必要と指摘した。東北財務局も、業務改善命令において「更なる事実関係の精査及び真相究明」を求めた。 同年6月30日、I信用組合は、新たな役員による新体制において、改めて外部専門家による特別調査委員会(以下、追加調査委員会)を組成し、追加調査を実施させた。その結果は同年10月31日に「調査報告書(公表版)」として公表され、I信用組合による反社会的勢力(反社)への資金提供の実態が明らかになった。 同報告を受け、金融庁は、行政処分(業務の一部停止命令と業務改善命令)を下した。あわせて、2026年1月21日、金融庁と東北財務局は、立入検査における虚偽答弁・虚偽報告を理由としてI信用組合を刑事告発した。 以下、追加調査によって明らかにされたI信用組合による反社への資金提供について分析する。 1 反社に提供した金額 追加調査委員会が調査を進めた結果、不正融資の手法と規模は、第三者委員会による認定を上回ることが判明した。具体的には、不正融資の手法は、①無断借名融資、②迂回融資に加えて、③水増し融資も行われていた。また、2004年3月期以降に行われていた不正融資の総額は、第三者委員会が認定した約250億円を上回り、約280億円であった。 約280億円の大半は、不正融資の返済や利息等としてI信用組合に還流した。しかし、約26億円が外部に流出していた。 前々回で述べたとおり、外部流出した約26億円のうち約12億円は、Xグループの資金繰りに用いられ、約2億円は元職員の横領の補填に用いられた。そして、今回の追加調査の結果、Xグループ以外の破綻懸念先のためにも約2億円が用いられたことが判明した。以上の合計が、約16億円である。では、外部流出した約26億円のうち、残りの約10億円は何に用いられたのか。 今回の追加調査で、ついに元役員らも事実を告白した。残りの約10億円は、あろうことか反社に交付されていた。 2 反社への資金提供の経緯 上記のとおり、I信用組合は、反社に対して約10億円もの資金を提供していた。その中心は、E理事長であった。E理事長は、2004年11月に理事長に就任後、2016年までの約13年間で、反社に合計約10億円を支払ったとのことである。経緯は、以下のとおりである。 (1) Σ氏への支払の開始 E理事長は、理事長に就任すると、それまでの素行などを理由に、右翼団体から街宣活動を受けるようになった。 それに対して、Σ氏が仲介を申し出た。Σ氏は、I信用組合が「暴力団関係者と親交を有する周辺者」と整理していた人物である。E理事長は、Σ氏の申し出に応じ、解決料名目で金員を支払ってしまった。例えば、2008年4月頃には、水増し融資を実行させて1億円の現金を捻出し、それをΣ氏に支払った。 (2) Σ氏への支払の拡大 Σ氏の要求は、当然のように拡大した。 例えば、2014年、E理事長は、G社にビル購入資金を融資した際、約3.5億円の水増しをして約9億円の融資を実行した。既に行っていた無断借名融資を解消するための資金の捻出が目的であった。これを聞きつけたΣ氏は、口止め料を要求した。E理事長はこれに屈し、自ら商業施設の駐車場に赴いて、Σ氏に現金1億円を手渡した。 なお、当該1億円は、本部の金庫に保管していた「経理部管理現金」を流用したもので、最終的に無断借名融資で作った現金で穴埋めしたようである。当該金庫には監査法人が現金実査を行っていたが、別の金庫から現金を一時的に移動させて現金不足を隠蔽していたとのことである。 (3) Σ氏の子に対する3億円の融資 2017年9月頃、Σ氏の要求はさらに拡大した。E理事長に繰り返し電話をかけ、要求に応じなければ右翼団体の街宣活動を抑えられない、などと脅迫した。 2018年4月、E理事長らは、Σ氏に「私は、I信用組合に対し、今後一切金銭の要求をせず、いささかの迷惑もかけないことを確認します」との確認書を提出させて、直接的な現金要求をやめさせた。 その一方で、E理事長らは、Σ氏の子に3億円を融資した。担保は、評価額わずか約5,400万円のビルのみであった。営業店での手続は省略され、形式的な資料だけで本部決裁を得ていた。同融資は現在も返済されず、Σ氏への間接的な資金提供と評し得る状況であった。 当時、当該融資を指示したT常勤理事は「Σ氏では出せないので、息子で出しましょうっていう話にしたんですよ」「結局は利益供与ですから。返済しきれねぇのわかってんの」などと述べていた(録音が存在)。 (4) その他の反社への支払 I信用組合による反社への支払は、Σ氏に対するものに限られなかった。 2007年ないし2008年頃、E理事長は、情報誌の関係者から「不正を暴く」と脅され、約1.5億円の現金を支払った。無断借名融資を原資にしたとのことである。 また、2019年から2024年までに、反社リストに「暴力団幹部」と記載された人物の紹介で約30億円(9件)を融資した。これらの大半は、返済されていない。 (5) より以前からの反社への支払 もっとも、I信用組合における反社への支払は、E理事長が初めてではなかった。E理事長以前の理事長にも、反社への支払をしていた者がいた。 1990年代は、多くの金融機関が反社と関係を有していた。I信用組合でも、理事らが暴力団関係者などの反社と交友したり、弱みを握られたりして、資金提供を繰り返していた。上述のΣ氏とも一緒に飲食や海外旅行をしたうえ、資金も提供していたとのことである。 1994年頃、全国規模の右翼団体が当時のS理事長(E理事長の前々任)ら経営幹部を糾弾して街宣活動を展開したことがあった。S理事長らは、仲介を申し出たΣ氏に対し、解決料名目で合計数億円を支払った。その資金は、内部積立資金の切り崩しや水増し融資などで捻出したようである。 また、1997年頃、S理事長は、情報誌の関係者から「不正を暴く」と脅されて8億円を融資した。当該融資は、元本を一切回収していない。 2001年6月、S理事長が退任してY理事長(E理事長の前任)が就任した。追加調査委員会によると、その在任中(~2004年11月)は反社への資金提供をうかがわせる資料や供述はないとのことである。当時は、ちょうど時代が変わってきており、社会全体で反社排除が強く叫ばれていた。I信用組合もそうした時代の流れに合わせて反社を排除していたようである。トップの素行と姿勢次第では、たとえI信用組合であっても反社を排除できていた様子が分かる。 残念ながらY理事長は、2004年に急逝した。後任に就任したのが、本件で問題とされるE理事長である。その後、I信用組合は、あっという間に再度の反社の侵食を許してしまった。 3 元役員らの責任 以上のとおり、E理事長を始めとする元役員らは、反社に資金を提供してきた。これは、反社による犯罪行為や一般市民を苦しめる活動への間接的な支援とも評価し得る状況であった。 しかも、前々回で述べたとおり、I信用組合は、反社に提供した資金の穴埋めに、東日本大震災で得た公的資金を流用していた。あたかも「被災した地域の中小規模事業者や個人」を助けるための公的資金を、「被災した地域の中小規模事業者や個人」を苦しめるための反社の活動資金に流用した、とも評価すべき事態であった。 追加調査委員会は、こうした不正に関する融資について、償却を取り消して復活させた上で「役員貸付」に振り替えるべき、と提言した。すなわち、反社に提供した資金は、E理事長ら元役員らへの個人貸付とみなし、元役員らに返済させるべき、としたのである。金融庁が行政処分において「責任追及」を求めたとおりである。 2025年12月19日、I信用組合は、E理事長ら元役員20名に対して、個人連帯責任を追及すべく損害賠償請求訴訟を提起した。請求額は、以下の合計32億円であった。 そして、I信用組合は、元役員らについて、背任罪を理由に刑事告発も検討している。金融庁と東北財務局も、立入検査の際に虚偽答弁や虚偽報告をしたとして、2026年1月21日、I信用組合を刑事告発した。反社への資金提供や調査妨害がいかに重い責任を伴うかがよく分かる。 4 原因と再発防止 I信用組合には、反社排除体制がなかったわけではない。I信用組合は「反社会的勢力に対する基本方針」を定めており、「反社会的勢力による不当要求に対しては、民事と刑事の両面から法的対抗措置を講じる等、断固たる態度で対応します」と宣言していた。 また、「反社会的勢力対応管理規程」、「反社会的勢力認定先に対する取引管理内規」、「反社会的勢力対応マニュアル」など、反社排除のための規程類も整備していた。業務システムには、反社データベースも登録していた。 ところが、それらは全く機能していなかった。E理事長を始めとする元役員らはこれらを無視し、反社の要求に屈して反社への資金提供を繰り返していた。追加調査委員会は、この点を捉えて「反社排除に向けてどれだけ立派な規程や体制を整備しようとも、経営陣の意識が低ければ、画餅に帰すことを顕著に示す」と評価している。 反社排除に最も重要なことは、トップの素行と姿勢である。反社につけ込む素行上の隙があるトップを選任してはならない。また、選任されたトップは、反社排除に向けて強い姿勢を示さなくてはならない。そのうえで、経営陣を中心に役職員が全員で高い意識を保つ。実際、Y理事長の在任中(2001年6月~2004年11月)は、反社への資金提供をうかがわせる資料や供述は見当たらなかったこと、上述のとおりである。 そして、こうしたことを精神論で終わらせてはならない。その点に関して、追加調査委員会は、以下の対応を提言している。 反社排除に向けた的確な提言と解する。追加調査委員会も述べるとおり、I信用組合は、上記提言に加えて、第三者委員会が提言した再発防止策も併せて実施し、「悪しき過去」と訣別しなければならない。I信用組合が本当の意味での「社会からの信頼」を獲得できる日が来ることを切に願う。 (了)
〈執筆:編集X〉 書く論 第1回 「なぜ書く」 読者の皆さま、はじめまして。 この連載は、実務書の編集職に30年近く携わってきた編集Xが、原稿を「書く」選択をされた実務家の方々とのお仕事を通して学んだことを、これから「書く」人たちへお伝えするためのものです。 まずは簡単に自己紹介を。 私、編集Xは上記のように、そこそこ長く実務書の編集のお仕事に携わり、そして皆さまに読んでいただいているこのWeb情報誌プロフェッションジャーナルの立上げ時から少し関わらせていただきました(この連載は本誌編集者さんからの依頼で始めた連載ですが、編集者には制作の裏方に特化する「黒子」派と、著者と同様に表に出てくる「白子」派(?)がいて、個人的には圧倒的に前者派なので、ご紹介はここまでに)。 さて、この連載の第1回は「なぜ書く」のか、について考えてみます。 税理士や公認会計士など実務家の方々で、執筆のみを生業にしている方は非常に少ないと思います。要は、「本業があるので、原稿を書いて、その収益で生活しなくてもよい」、つまり、わざわざ実務の原稿を書く必要のない方々が大半です。 それでも(ありがたいお話ですが)出版社などの要請に応じて、書籍や雑誌、Web媒体などで原稿を書いている、またはこれから書きたいという方がいるのはなぜでしょうか。 これまでの経験では、その理由として「自分の本を世に出したい」「名前を広めたい」などが多かったです(現在のような出版業界の景況から、原稿料を期待している人が昔より少なくなったのは申し訳ない限りです・・・)。 ただ、初めてお会いして「原稿を書きたい」という方に、「ご執筆の目的は何ですか?」とたずねると、そこで初めて自分のお考えに気づき、言葉にされる方がけっこう多いのも事実です。 これから原稿を書きたいという方は、ご執筆の目的は何でしょうか。 すでに原稿をたくさん書かれている方は、その目的を今でも覚えておられますか。 さらに、原稿を書き続けた先にある、そのゴールは何でしょう。 あらためて考えてみると、どこに(どの媒体に)、どのようなレベルの原稿を書くべきなのかが、はっきり見えてくると思います。 ちなみに、目的やゴールについては、その人それぞれであって、「○○でないといけない」とは思いません。 ただし、この点が曖昧な方や深く自覚されていない方は、何度か原稿を書いてみて、結局お止めになるケースも多いのです。 また、依頼されるがままに原稿を書くことは、ご自身のためになりません。 これらについては今後、個別に取り上げていきます。 最後に1つエピソードを。 10年ほど前、とある先生にお会いして専門家向けのご執筆をお願いした際に、その方はこうおっしゃいました。 「競争相手である同業者に自分の原稿を読ませるのは、自身のノウハウを開示するだけでメリットがない」 確かにその通り。競争の激しい実務家の世界では正論であり、ぐうの音も出ませんでした。 そのお話を編集Xが尊敬する先生にしたところ、こうおっしゃいました。 「自身が得た知識や経験を、同業者であっても広く伝えたいと思うのは自然なことだ」 編集Xは未だにこの意見の狭間にいるような気がします。 読者の皆さまはどのように感じられるでしょうか。 では、導入部分が長くなっても良くないので、次回からは実際に原稿を「書く」ときのお話に移らせていただきます。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)
《速報解説》 会計士協会、新規上場会社等の会計不正事例の発生を踏まえ、 監査上の対応に関する通知を公表 ~監査業務実施上の留意事項を改めて集約~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年1月26日、日本公認会計士協会自主規制本部は、「新規上場会社等の会計不正事例を踏まえた監査上の対応について(通知)」を公表した。 これは、最近の新規上場会社等の会計不正事例を踏まえて、監査業務実施上の留意事項を改めて取りまとめたものである。 同日、「登録上場会社等監査人による監査の信頼性向上に向けた取組」、プレスリリース「当協会の調査について(続報)」も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 次のことが記載されている。 (了)
《速報解説》 SSBJ、「温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて『気候基準』の定めに従う場合の測定及び開示(案)」を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年1月22日、サステナビリティ基準委員会は、「温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて『気候基準』の定めに従う場合の測定及び開示(案)」(サステナビリティ開示実務対応基準公開草案第1号)を公表し、意見募集を行っている。 「地球温暖化対策の推進に関する法律」(以下「温対法」という)における「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」(以下「SHK制度」という)の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いてサステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」(以下「『気候基準』」という)の定めに従った測定及び開示を行う場合に、「気候基準」の要求事項が必ずしも明確ではなく、実務上の解釈において見解が分かれていることにより、企業の実務における対応に多様性が生じ、「気候基準」の趣旨や企業間の比較可能性が損なわれる可能性があるとの懸念などが寄せられたとのことである。 公開草案は当該問題に対応するものである。 意見募集期間は2026年3月25日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 見解が分かれている論点 温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて「気候基準」の定めに従った測定及び開示を行う場合に、次の3つの点について見解が分かれている(公開草案BC3項)。 Ⅲ 温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて「気候基準」の定めに従う場合の測定及び開示 「気候基準」49項ただし書きに従って、企業の全部又は一部について、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて測定を行う場合、当該企業の全部又は一部に係る温室効果ガス排出について、次のように開示する(公開草案7項)。 Ⅳ 基礎排出量と調整後排出量のいずれを基礎として用いるのか 基礎排出量の方が、調整後排出量よりも「GHGプロトコル(2004年)」の測定方法との親和性が高いと考えられており、比較可能性を確保する観点からは「GHGプロトコル(2004年)」に近いものが望ましいと考えられたことから、公開草案は、温室効果ガス排出の測定及び開示にあたり、基礎排出量を基礎として用いることとしている(公開草案BC14項)。 なお、任意の参考情報として基礎排出量の開示とあわせて、調整後排出量及び調整項目を開示することができると考えられるとしている(公開草案BC14項)。 Ⅴ ロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出の測定及び開示 公開草案は、公開草案で提案する測定方法により算定したロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出とマーケット基準によるスコープ2温室効果ガス排出を「GHGプロトコル(2004年)」とは異なる方法により測定した温室効果ガス排出量として開示することを提案している。 なお、「気候基準」63項に従った温室効果ガス排出の測定方法の開示にあたっては、ロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出の測定方法及びマーケット基準によるスコープ2温室効果ガス排出の測定方法のそれぞれについて、具体的に開示することが考えられるとしている(公開草案BC23項)。 Ⅵ 適用時期等 2027年3月31日以後終了する年次報告期間に係る気候関連開示から適用する。 ただし、2027年3月31日より前に終了する年次報告期間に係る気候関連開示について、適用することができる。この選択を行う場合、その旨を開示しなければならない。 経過措置に注意する。 (了)
2026年1月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.653を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第147回】 「OECD/G20のBEPS包摂的枠組みが共存システムに関する合意を公表」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 147ヶ国・地域で構成されるOECD/G20のBEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework)は、新年早々の1月5日、デジタル化・グローバル化した経済環境におけるグローバル・ミニマム課税制度の協調的運用に向けた道筋を示すパッケージの主要要素について合意したことを公表した。 2025年6月28日にG7の財務省がグローバル・ミニマム課税に関する共同声明を公表したことで、米国連邦議会に提出された税制改正法案に当初盛り込まれた報復措置が撤回されて以降、数ヶ月にわたる緊密な協議を経て発表された「共存システム(side-by-side system)」に関する包括的合意は、国際税制の安定性と確実性の基盤を築く重要な政治的・技術的合意である。これにより、グローバル・ミニマム課税の枠組みで従来までに達成された成果が維持され、特に開発途上国を含む全ての管轄区域が、自国で生み出された所得に対する第一課税権を確保する能力が保護される。 2025年12月19日に自由民主党と日本維新の会による与党が取りまとめた令和8年度税制改正大綱においては、「グローバル・ミニマム課税(「第2の柱」)については、国際課税システムの安定化等を目的とした、グローバル・ミニマム課税と米国をはじめとする一定の要件を満たす国の税制との共存等に係る国際的な議論が継続している状況にあり、近く国際合意に至る場合には当該合意に則り早急に見直しを検討する等、議論の状況を踏まえて今後対応を検討する。あわせて、令和8年度税制改正において、OECDにより発出されたガイダンスの内容等を踏まえ、制度の明確化等の観点から所要の見直しを行う。」旨が明記されていた。そのため、本合意を踏まえて、今後、国内における所要の措置が講じられることとなる。 〇 5つのポイント 公表された合意文書においては、次の5つの主要ポイントが明記されている。 〇 コーマン事務総長による声明 OECDのマティアス・コーマン事務総長は、本合意の公表にあたり、「147の国と地域が参加する包摂的枠組みによる本合意は、国際税務協力における画期的な決定である」旨とともに、「税務上の確実性を高め、複雑性を軽減し、税基盤を保護する本パッケージを最終決定した包摂的枠組みの加盟国による功績は称賛に値する。包摂的枠組みが本パッケージの実施を推進するとともに、グローバル・ミニマム課税制度とコンプライアンス負担のさらなる簡素化に向けた今後の提案を進めることを期待している」と述べている。 〇 ベセント財務長官による声明 米国のスコット・ベセント財務長官は、本合意を受けて、次のような声明を公表した。 トランプ大統領の就任初日の大統領令は、バイデン政権が提案したOECD第2の柱合意が米国に対して効力を有しないことを明確にした。 本日、当政権はその公約を果たした。米国財務省は議会と緊密に連携し、OECD/G20包摂的枠組みに参加する145ヶ国以上との合意形成に努めた結果、米国に本社を置く企業は米国のグローバル・ミニマム課税のみの対象となり、第2の柱からは免除されることとなった。この共存システムに関する合意は、米国企業の全世界的な事業活動に対する米国の課税主権と、他国が自国領土内の事業活動に対して有する課税主権を認めるものである。 さらに本合意は、米国における投資と雇用創出を促進する米国議会が承認した研究開発税額控除やその他の優遇措置の価値を保護し、イノベーションと技術進歩における米国のリーダーシップという共通目標を達成するものである。 本合意は、米国の主権を保持し、米国の労働者と企業を域外適用による過剰な課税から保護する歴史的勝利を意味する。 米国財務省は、合意の完全な実施を確保し、国際的な税制の安定性を高め、デジタル経済の課税に関する建設的な対話に向けて前進するため、引き続き諸外国との対話を継続する。 〇 実務ガイダンス OECDは本合意とともに実務ガイダンスを公表しており、その概要は次のとおりである。 (了)