《速報解説》 JICPAより「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」等の改正(公開草案)が公表される ~一部記載の明確化等を行い2025年4月1日以後の期中レビューから適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年2月14日、日本公認会計士協会は、「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」(期中レビュー基準報告書第1号)などの期中レビューに関する報告書を改正する公開草案を公表し、意見募集を行っている。 意見募集期間は2025年2月28日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 Ⅲ 適用時期等 2025年4月1日以後開始する期中財務諸表に係る会計期間の期中財務諸表に対する期中レビューから適用する予定である。 (了)
《速報解説》 会計士協会が「財務報告に係る内部統制の監査」の改正を確定 ~「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」に基づく要求事項と適用指針を明確化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年2月13日付けで(ホームページ掲載日は2025年2月14日)、日本公認会計士協会は、「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」を公表した。これにより、2024年11月15日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられたコメントの概要とその対応も公表されている。 これは、監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」に基づく要求事項と適用指針の明確化を行うものである。 なお、改正内容には、改正監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日改正)に関連する改正も含まれている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主に次の改正を行うとともに、重複箇所を整理するなど記載内容を整理している。 Ⅲ 適用時期等 2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用する。なお、97項(2)及び116項(3)の改正並びにこれに関連する改正(付録5)については、倫理規則(2024年7月18日変更)を早期適用する場合には、併せて適用する。 ただし、他の監査人の作業の利用に関する要求事項(90項)及びこれに関連する改正(97項(4)、付録5)は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用する。また、公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所においては、2024年7月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用する。なお、それ以前の決算に係る連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用することを妨げない。 (了)
《速報解説》 JICPA、報酬依存度に関する取扱いにつき理解不足との意見踏まえ、 「監査報告書に係るQ&A」を改正 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年2月13日付けで(ホームページ掲載日は2025年2月14日)、日本公認会計士協会は、監査基準報告書700実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正を公表した。これにより、2025年1月17日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対して特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、報酬依存度に関する取扱いが十分に理解されていないことなどについて補足するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 (了)
2025年2月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.606を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第137回】 「消費税法における「課税仕入れの日」(その1)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 消費税が「消費」に対する課税であるとするならば、消費の段階で課税がなされるべきことになろう。例えば、消費者が商品(アイスクリーム)を購入したとすると、それを食べた時に課税がなされるべきであるように思われる。 しかしながら、実際問題として、消費者がアイスクリームを購入してそれを持ち帰ったとしても、自宅の冷蔵庫の中に入れっぱなしにして賞味期限が切れてしまってゴミ箱行きになるかもしれないし、そもそも、購入してお店から出た時に袋の開け方をミスして中身が地面に落ちてしまって食べることができなくなってしまうかもしれない。 「消費」を食べることと理解するとすれば、結局上記の場合には消費はなされなかったということになるし、そもそも、口に入ることを消費というのではなく、胃の中で消化・吸収されたときに初めて消費というのかもしれない。もっとも、持ち帰ったことや冷蔵庫に入れたことや、ごみ箱行きになったことをもって「消費」という理解もあり得るが、いずれにしても、持ち帰ったタイミングや冷蔵庫に入れたタイミング、ごみ箱行きになったタイミング、胃の中で消化・吸収されたタイミングはどう捉えればよいのであろうか。例えば、商品は買ったものの、持ち帰るのを忘れて店内に置いてきてしまった場合はどのように考えるべきなのであろうか。さらにいえば、購入したことが既に「消費」であるという考え方はあり得るであろうか。 しかし、一般的にいえば支出は消費のために行われるのであるから、支出=消費と考えて、支出時に課税するというのは難しそうである。本当に消費に対する課税というのであれば、消費税法においても、いわば減価償却のような購入資産の効用に応じた課税が観念されてしかるべきである。むしろ、より現金主義に接近した考え方を消費税法は採用しているように思われる。 消費課税ではなく、消費支出課税であると捉えることもできそうであるが、そうであるとすると、「支出」に関心を寄せることになるが、支出というものが現金主義的なものとなると未払いや掛けによる購入の場合には支出のタイミングが遅れることになろう。そのような際には、即時払い決済の取引よりも課税のタイミングが遅れるということで問題ないのであろうか。 いずれにしても、消費税とはどうも「消費」のタイミングで課税されているようではなさそうである。単に、代金を支払ったときをいうのであろうか、あるいは商品なりの引渡しを受けたときをいうのであろうか。売買契約締結の日をもって、消費税の課税のタイミングを考えるべきなのであろうか。 他方、消費税額の計算において、税の累積を排除するために仕入税額控除が設けられているが、かかる税額控除のタイミングが議論されることもある。 そこで、これら消費税法におけるタイミングの問題を考えることとしたい。 まずは、仕入税額控除のタイミングの問題が争点となった事例(大阪地裁令和2年3月11日判決(税資270号順号13393)及びその控訴審大阪高裁令和2年11月26日判決(税資270号順号13485))を素材として、これらの論点に踏み込んでいくこととしよう。 Ⅰ 素材とする事案 1 概観 不動産賃貸業を営むX(原告・控訴人)は、本件建物の取得に係る支払対価の額について、本件建物及びその敷地である土地(以下、本件建物と併せて「本件不動産」という。)の売買契約の締結日である平成24年11月30日が課税仕入れを行った日であることを前提として、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めて消費税等の確定申告をし、また、平成24年11月期及び平成25年11月期の法人税の各確定申告をした。これに対して、所轄税務署長は、本件建物の取得に係る支払対価の額に係る課税仕入れを行った日は、本件建物の引渡しがあった平成24年12月21日である等として、本件課税期間について本件消費税等更正処分、本件各法人税更正処分等を行った。本件は、Xが国Y(被告・被控訴人)を相手取って、本件各処分が違法であるとして各取消しを求めて訴訟を提起した事例である。 2 事実関係 (1) 本件売買契約の締結 Xは、平成24年11月30日、株式会社D(以下「本件売主」という。)との間で、本件不動産を、代金2億円で購入する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。本件売買契約には、要旨、次のような定めがある。 (2) 本件売買契約締結後の経緯 3 争点 本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」(消法30①一)が本件課税期間に属する日であるか否か。なお、本件更正通知書における理由付記に違法があるか否か、及び国税通則法65条⦅過少申告加算税⦆4項の「正当な理由」の有無についても争われているが、本稿においては省略する。 4 当事者の主張 (1) Xの主張の要旨 (2) Yの主張の要旨 5 判決の要旨 (1) 大阪地裁令和2年3月11日判決 (2) 大阪高裁令和2年11月26日判決 6 検討 (1) 「課税仕入れを行った日」と「資産の譲渡等を行った日」 本件地裁判決は、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」の時期と同様の基準により判断すべきである旨のXの主張が、「資産の譲渡等」の時期の問題は、消費税の課税対象となる「資産の譲渡等」について、譲渡人との関係で、どの課税期間に行われたものとして課税するかという問題であるのに対して、「課税仕入れを行った日」の時期の問題は、租税負担の累積の防止という観点から、譲受人との関係で、どの課税期間において消費税額の負担が確定的になったものとして仕入税額控除をするかという問題であるから、両者の時期が当然に同様の基準により判断されるべきものとは解されないとした。すなわち、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」の時期と同様の基準により判断すべきである旨のXの主張は排斥された。 これに対して、本件高裁判決は、事業者間において、「資産の譲渡等」と「課税仕入れ」が連鎖的に繋がることを前提に、消費税の負担の累積を防止する仕入税額控除の仕組みが定められていることに照らせば、譲受人事業者の「課税仕入れ」と譲渡人事業者の「資産の譲渡等」は、表裏一体的な関係にあるというべきであるとし、譲受人が「課税仕入れを行った日」と、譲渡人が「資産の譲渡等を行った日」は、同じ日をいうものと解するのが相当であるとした。 本件地裁判決が、「課税仕入れを行った日」が「資産の譲渡等」の時期と必然的に一致するものということはできないとしたのに対して、本件高裁判決はそれとは異なる判断をしたのである。 このように本件事案では、原審と控訴審との間に消費税法の「課税仕入れを行った日」と「資産の譲渡等を行った日」の時期の一致・不一致を巡る見解の対立があるのである。 その上で、本件高裁判決は、消費税等の納税義務を負うのは譲渡人であって、譲渡人が課税資産の譲渡等をした時に消費税等の納税義務が生じることからすると、譲渡人に消費税の納税義務を負わせるには、単に契約の締結により譲受人が譲渡人に対して当該資産に係る消費税の支払義務を負うことになるというにとどまらず、当該資産の付加価値が譲受人に対して現実に移転することにより、譲受人から当該消費税が実際に支払われたか、あるいは実質的に支払われたものと評価できる客観的事実が存在することが必要というべきであるから、譲渡人が消費税の納税義務を負うことになるのは、譲渡人が引渡し等の本旨的債務を履行することにより、譲受人からその対価を現実に収受すべき権利が確定した時点であると解するのが合理的であるとするのである。 いずれの見方が妥当なのであろうか。 (続く)
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第34回】 「国税通則法84条(81条~83条・85条・86条)」 -再調査の請求の審理・決定手続- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法84条(決定の手続等) 1 はじめに 国税通則法上の不服申立制度については、平成26年の行政不服審査法改正(同年法律第68号)を受けて「行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(同年法律第69号)によって、異議申立前置主義(改正前税通75条3項)の廃止、「異議申立て」(同条1項)の「再調査の請求」(現行税通75条1項1号イ)への改変、再調査の請求と審査請求との自由選択主義の採用(同号)等の改正がされた。 今回は、再調査の請求について、審理・決定手続を中心に、検討を行うことにするが、その前に、不服申立ての種類を原則として審査請求に一元化した平成26年行政不服審査法改正の考え方(不服申立種類の原則一元化)に対して、国税通則法がその例外として再調査の請求を定めている理由をみておこう(行審5条1項本文参照)。その理由については、次の解説(宇賀克也『解説 行政不服審査法関連三法』(弘文堂・2015年)24-25頁)がされている。 これとはニュアンスの異なるところもあるものの異議申立てに積極的な意義を認める考え方は、次の解説(水野武夫「国税審査請求制度改革の意義と今後の課題-行政不服審査法・国税通則法の改正を踏まえて-」税法学574号(2015年)199頁、204-205頁)にもみられる。 2 異議申立て及び再調査の請求に関する統計資料の分析 ここで、以上の解説内容の合理性ないし妥当性の有無を検証するために、国税庁のホームページにおいて現時点(2025年2月8日)で確認できる統計資料(国税庁「平成25年度における異議申立ての概要」から同「令和5年度における再調査の請求の概要」まで)に基づき、平成16年度から平成27年度までの異議申立ての発生件数、処理件数(取下げ等を含む)、処理件数に対する3か月以内処理件数の割合(処理率)及び認容率と、平成28年度から令和5年度までの再調査の請求の発生件数、処理件数(取下げ等を含む)、処理件数に対する3か月以内処理件数の割合(処理率)及び認容率を表にまとめておくと、下記の表となる。 【異議申立て】 【再調査の請求】 この表によれば、前記の解説で示された異議申立ての存在意義や再調査の請求の存置理由には一定の合理性ないし妥当性が認められることは確かであるように思われる。ただ、再調査の請求の発生件数が異議申立ての発生件数に比べて相当減少している(年度によっては半減している)のも事実であるが、これは、下記の表(国税庁「平成25年度における審査請求の概要」から同「令和5年度における審査請求の概要」までの統計資料に基づき作成したもの)によれば、審査請求の発生件数が平成28年度以後も然程増加していないことからすると、必ずしも自由選択主義の採用(再調査の請求を経ずに審査請求を行うことができるようになったこと)の影響によるものとは解されない(なお、下記の表中の「処理率」は処理件数に対する1年以内処理件数の割合である)。 【審査請求】 【審査請求】 このようにみてくると、異議申立前置主義の廃止及び再調査の請求と審査請求との自由選択主義の採用を過大評価することはできないように思われる。確かに、「すべての処分についてただちに審査請求をすることができるようになったことに意義がある」(木村浩之「行政不服審査法の抜本改正 新国税不服審査制度の要点解説」旬刊経理情報1388号(2014年)32頁、36頁)とは考えられるが、ただ、前記の解説でも述べられているように、また、「事実認定のレベルで解決できそうなものは、この再調査の[請求]制度を利用していったほうがよい」(木山泰嗣=三木義一=藤曲武美「座談会■行政不服審査法 半世紀を経た大改正!! 国税不服審査制度はこう変わる」税務弘報62巻6号(2014年)61頁、71頁[藤曲発言])、「再調査の請求も、異議申立てと基本的に変わらないと考えれば、基本的には3か月でほとんどの結論が出るという簡易迅速な手続ですので、今後も一定の意義がある」(同72頁[木山発言])といわれるように、再調査の請求の存置それ自体には一定の合理性ないし妥当性があるといえよう。 とはいえ、「この再調査の請求につきましては、基本的には現行の異議申し立ての手続と変わりのないものになってございます。」(平成26年5月8日衆議院総務委員会における塩川鉄也委員の質問に対する星野次彦政府参考人の答弁[第186回国会(常会)会議録総務委員会第19号])といわれる以上、再調査の請求は異議申立ての手続の意義及び課題も引き継いでいることになると考えられるので、以下では、再調査の請求の手続的意義及び課題を検討しておくことにする。 3 再調査の請求の手続的意義及び課題 再調査の請求については、「例外的なものであり原処分庁に処分の見直しを求めるものであるから、処分前の『手続』と処分後の『救済』との中間に位置するもの」(水野・前掲論文205頁。下線筆者)として、「再調査の請求が審査請求の前段階で簡易迅速に処理を図る手続であることを踏まえ、再調査の請求の審理手続については、事件の内容等に応ずる弾力的な運営が行われるよう規定が簡素化されている(なお、審査請求の審理手続については、審査請求人及び原処分庁の双方の協力を得て、公正かつ能率的な手続により審理を進めることができるよう、規定の充実が図られている。)。」(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)1150頁)と解説されている。 もっとも、再調査請求の審理手続は、異議申立ての審理手続と比べると、再調査の請求人及び参加人の口頭意見陳述の整備・充実等(税通84条1項~5項)並びに再調査の請求人及び参加人からの証拠書類等の提出の明文化(同条6項)が図られた点では、審査請求の審理手続(同95条の2、96条)に準ずる手続的権利を保障するものとして、「処分後の『救済』」(水野・前掲論文205頁)の方向で改善がされたものと評価することができよう。 これに対して、再調査の請求の手続は、その他の点とりわけ決定(税通83条。再調査決定)の手続の点では、異議申立ての手続と「変わりのないもの」(星野政府参考人・前掲答弁)といってよい。特に再調査決定に係る理由の記載及び程度に関する定め(税通84条7項・8項)は異議決定に係るそれをそのまま踏襲したものである。 ここで、再調査の請求に係る処分の全部又は一部を維持する決定の理由の程度については、「その維持される処分を正当とする理由が明らかにされていなければならない。」(税通84条8項。下線筆者)と定められているが、この規定は、その文言(特に下線部)からすると、総額主義を前提とする定めであると理解することができるようにも思われるかもしれない。総額主義とは、課税処分取消争訟における審理の範囲は課税処分を根拠づける一切の理由に及ぶという考え方をいうが(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【164】)、再調査の請求の調査(再調査決定のための調査)を質問検査等(課税処分等のための調査)と同じ法的根拠に基づくものとして捉える下記の通達の立場(不服審査基本通達(国税庁関係)84-3。野一色直人『国税通則法の基本 その趣旨と実務上の留意点』(税務研究会出版局・2020年)145頁も同旨)からすると、上記の理解も成り立ち得るようにも思われるかもしれないのである。 確かに、前記の理解は、平成23年度[11月]税制改正前は、異議申立ての調査(異議決定のための調査)については成り立ち得たように思われる。というのも、同改正前は、現行国税通則法74条の11第5項が定める再調査の制限に相当するような制限は、各個別税法上の質問検査権等について定められていなかったからである。ここで再調査の制限とは、先行の調査(いわゆる前回調査)の終了後に質問検査等(いわゆる再調査)を行うことができるのは、「[当該職員が]新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」という要件(再調査要件)が充足される場合に限られることをいう(再調査の制限については前掲拙著【139】(ハ)、拙著『税法創造論』(清文社・2022年)911頁以下[初出・2020年]参照)。 しかしながら、平成23年度[11月]税制改正によって「国税の調査」が国税通則法第7章の2で統一的に規定され、再調査についても再調査要件による制限が定められたことから、同改正後は、異議決定のための調査についても、また、再調査決定のための調査についても、前記の通達のように「当該職員の質問検査権等に基づいて行うもの」と解する立場によれば、再調査要件による制限が適用され、したがって、不服申立審理庁の当該職員は「[当該不服申立てによって]新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」に限り再調査を行うことができるものと解される。 そうすると、再調査の請求を受けて再調査審理庁の当該職員が再調査を行う場合には、当該非違の故にその請求に理由があると判断され、その請求に係る処分が取り消され又は変更される(税通83条3項)のが通常であるように思われる。逆に、当該職員が再調査の請求によって新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときに、再調査決定においてその請求に係る処分を維持するような場合は考え難いように思われる(ただし、平成27年度税制改正により再調査要件の適用対象が実地の調査に限定されたことから、再調査の請求に係る非違以外の理由を実地の調査以外の調査で認定し再調査決定においてその理由に基づき原処分を維持することも考えられなくはない。しかし、そのような再調査決定は権利救済の趣旨に適合するものとはいえないであろう)。 換言すれば、原処分維持の理由の記載に関する国税通則法84条8項の規定は、国税に関する法律に基づく処分に係る理由附記規定(税通74条の14第1項括弧書・行手14条、所税155条2項、法税130条2項)の確認規定としての性格を有するにとどまるのではないかと考えられる。なお、白色申告に対する更正処分等に係る理由附記の現状を踏まえ、「白色申告の納税者は、理由付記の記載がある程度明らかにされている再調査の請求を通じて、更正処分等の理由や根拠をより詳細に知ることができます。更正処分等の取消訴訟を検討する納税者にとって、再調査の請求を行うことには一定の意味があると考えられます。」と説く見解(野一色・前掲書145頁)もある。 このように考えてくると、再調査の請求の審理・決定手続は、総額主義を前提としてではなく、再調査の制限(税通74条の11第5項)の下で、請求に係る非違に即して調査・審理・決定を行う一種の争点主義を前提として運営されると考えるのが相当である。この考え方は、再調査の請求と国税不服審判所に対する審査請求を争点主義的運営による権利救済手続という同一平面上に位置づけようとするものである(国税不服審判所の争点主義的運営については次回検討するが、差し当たり前掲拙著『税法基本講義』【164】参照)。 (了)
国際課税レポート 【第11回】 「米国大統領令とOECD国際課税合意のゆくえ」 税理士 岡 直樹 (公財)東京財団政策研究所主任研究員 国際課税についてのはじめての大統領令 1月20日に第47代アメリカ合衆国大統領に返り咲いたドナルド・トランプ氏は、「OECDの国際課税合意について」と題する大統領令に署名した。 事実上2021年10月のOECD/G20・BEPS包摂的枠組み(「2つの柱による解決策」を指す)からの米国の離脱を宣言するとともに、財務長官に対して、合衆国通商代表部(USTR)と協議の上で、外国による差別的・域外適用的な税制をリストアップし、かかる課税から米国の利益を守るための「保護的な措置」の選択肢とともに、60日以内に大統領に報告することを命じている。 大統領令は2つの点で衝撃的だ。 第一は、対象となる外国の制度を特定し、それに対して米国が自国の利益を守るための措置(対抗措置)を講じる枠組みを示していることだ。 第二は、関税や移民についての大統領令への署名は予測されていたものの、就任初日に国際課税についての大統領令に署名することは誰も予想していなかったことだ。これは、第二次トランプ政権が、バイデン政権が進めたOECD国際課税合意の巻き戻しを政権の重要な政策の1つに位置付けていることを意味している。 差別的・域外適用的な税として大統領令の念頭にあるのは、欧州各国が導入した「デジタルサービス税」(DST)や、様々な経緯を経て2022年12月15日夜になんとか合意にこぎつけたEUミニマム税指令に基づいて加盟国が導入を義務付けられ、2025年1月から適用されている「軽課税所得ルール」(Undertaxed Profits Rule・UTPR)であると考えられる。 しかし、2021年10月のOECD国際課税合意に従いUTPRを国内法に導入する国はEU以外にも多い。仮に米国が本当に「保護的な措置」の適用を始めれば、その影響は多くの国に及ぶことになる。 わが国も令和7年度税制改正でUTPRを導入することとし、2月4日に国会に法案を提出しており、他人事ではない。 大統領令により顕在化したのは、世界一の多国籍企業大国であり、長年国際課税ルールの形成と安定に貢献してきた米国が、自らの選択により国際課税ルールの形成から離脱するという国際課税の世界における大事件だ。個々の企業や実務家の努力でダメージコントロールできる範囲を超える問題である。各国政府や民間企業がどのように対応するかについての情報も現時点では断片的なものしかない。 しかし、クロスボーダーの事業活動・投資において極めて重要な影響を持ちうることから、以下では現時点の情報を基に大統領令の背景と今後の展望を紹介することとしたい。 〈OECD国際課税合意(※1)についての大統領令の概要(2025年1月20日)〉 (※1) 事実上、2021年10月の「2つの柱による解決策」合意を指す。 米国の反発の背景 2つの柱による解決策は、第1の柱(利益A)は超大規模(収入200億ユーロ・3.4兆円超)の超過利益(10%超)を売上に応じて市場国に再配分するものであり、第2の柱は大規模多国籍企業(収入7.5億ユーロ・1,100億円以上)に15%のグローバルミニマム税を課税するためのものである。 米国議会事務局レポートの推計によると、利益Aの対象となる企業は全世界で68のうち、米国に31存在し、利益Aの対象となる利益全体に占める米国企業の割合は63.8%だが、これはドイツの1.6%、イギリスの3.8%に比べて突出している(※2)。 (※2) Congressional Research Service R47988(2024.4) また、米国合同租税委員会の推計によると、米国以外の国が15%のグローバルミニマム税を導入した場合、米国は10年間で1,220億ドルの税収を失うとされている(※3)。 (※3) Joint Committee on Taxation(2023.6) 2025年1月16日の上院財政委員会指名承認公聴会で、OECD第2の柱を「ひどいポリシー」(terrible policy)と呼んだスコット・ベッセント氏は、民主党バイデン政権時代の国際課税合意を巻き戻す所信を述べたにもかかわらず、1月27日の上院本会議では民主党議員15名がベッセント氏の信任に回り、賛成68票で承認されている。 バイデン政権は、看板政策であったBuild Back Better法を下院で僅差で可決し、第2の柱に沿った国内法の導入を試みたが(2024年グリーンブック)、上院では大統領と同じ民主党議員からの反対などもあり、上院で審議されたInflation Reduction Act of 2022からは除外されている。 こうしたことに鑑みれば、2つの柱による解決策に対する米国議会の反発は共和党やトランプ政権に限られたものではない。超党派のものと考えるべきであろう。 UTPRが租税条約違反にならないことをOECDは十分に説明していない UTPRの規定の下では、非居住者(外国法人)に対して自国での活動や株式保有とは直接関係のない課税が行われるが、租税条約のPE条項は、このような非居住者に対する課税を明確に禁止しているという有力な見解がある(※4)。 (※4) 例えば、Angelo Nikolakakis, Jinyan Li,(2023)「UTPR — No Taxation Without Value Creation!」Tax Notes(2023.4.3) UTPRと租税条約の関係について、OECDはこれまで「条約違反にならないように設計されている」という宣言しかしてきておらず(※5)、租税条約違反でない理由が示されていないことなどについて、複数の論者から指摘がなされてきている。このため、後述するように、司法審査に付すべきだという動きにもつながっている。 (※5) OECD(2023), Tax Challenges Arising from the Digitalisation of the Economy – Administrative Guidance on the Global Anti-Base Erosion Model Rules(Pillar Two), OECD/G20 Inclusive Framework on BEPS, Executive Summaryの第2パラグラフ 今回の大統領令により、米国財務省はUTPRが条約違反かどうかについての見解を明確にすることになる。仮に租税条約違反であると結論が示されれば、米国の主張には法律的な根拠があるということになる。2021年10月の国際課税合意を根拠に国内法を導入した国々のためにも、OECDはきちんとした解釈を示すべきであろう。 ベルギーは2023年12月にEU指令に基づく国内法を制定し、2025年以降に開始する事業年度に適用されるUTPRを導入したが、米国自由商工会議所はこれがベルギー憲法などに違反しているとして2024年に訴訟を提起している。米国自由商工会議所は、UTPRは「設計と実施の両面で根本的な欠陥があり、司法による精査が必要だ」として支持を表明している。 米国がとり得る「保護的な措置」とは それでは、米国財務省が提案する選択肢は何があるか。情報が限られた現時点で整理することは困難だ。しかし、この点についても簡単に触れておく必要があるだろう。 次の大きな動きは3月末 大統領令は、財務長官に60日以内の報告を求めている。どのような措置が対象になるかについては、デジタルサービス税とUTPRが対象になることは確実だ。財務長官がどのような「保護的な措置」を提案するのかについては、現時点では不明だ。 大統領令がターゲットにしているのは、EUの措置であることは間違いない。米国の専門誌の報道(※6)によれば、ホークストラEU税制委員は、第2の柱についての方針を変更することはないが、米国企業のための恒久的なセーフハーバーを設けることにはオープンな姿勢で臨む、と表明したそうだ。 (※6) 「EU Tax Commissioner Vows to Keep an Open Mind on Pillar 2」Tax Notes(2025.2.7) 現在、米国を念頭に、究極の親会社所在国の法定税率が20%であればUTPRを適用しない規定を2026年まで適用することにしているが、これを恒久的なものにする案などが候補としてあるようだ。切迫感は理解する。しかし、第2の柱のポイントは、実効税負担率によることと、15%の負担を求めることであったはずだ。これら2つの原則を恒久的に放棄してまでUTPRに固執する意味は、理屈の上ではもはや失われているということにならないか。 各国は2021年10月の国際合意に従い第2の柱について国内法を整備しているが、世界第1・第2の多国籍企業大国である米国と中国が第2の柱のための国内法改正に参加しないことが明らかになった(参加しないどころか米国は対抗措置をとることを誓っている)枠組みを「国際合意(the Global Tax Deal)」と呼んでよいかどうかは疑問がある。 それでは、米国は国際課税制度改革についての議論のテーブル(2本の柱による解決策)に戻る可能性はあるだろうか。 報道によれば、OECDの2本柱税制交渉への関与を継続するかどうかについて問われた米国財務省はコメントに応じていない。しかし、1月16日、財務長官候補のスコット・ベッセント氏は、米国企業の課税は主権問題であり、その権限は議会のみが有しているため、第2の柱を導入する国は「重大な過ちを犯すことになるだろう」と述べている。米国が第2の柱についての議論のテーブルに戻る望みは薄いと考えたほうが現実的といえそうだ。 おわりに まとめよう。今回の大統領令は、欧州のデジタルサービス税及びEUによるUTPRが差別的であり、米国の主権を犯していることについての米国における超党派の異議申し立てと見てよい。こうした米・欧紛争の種を生んだ背景としては、2021年10月のOECD国際合意では「common approach」として、制度の採用を各国の任意(いわばソフトロー)として導入した15%のグローバルミニマム課税を、域内軽課税国対策のため、EUは2022年12月の指令案で加盟国に導入を強制したためであることを指摘できる。 しかも、その後の事情(米国の反発など)に対応するために現在の指令案を変更したくても、加盟国の全会一致が必要というEU固有の事情が影響し、身動きがとれなくなっている。 2021年10月の2つの柱による解決策は、100年に1度の国際課税の改革と謳われた。国際課税原則は、立場の異なる関係者の数も多く、長期間にわたる安定が必要だ。米国そして中国を欠いた合意が真に「グローバルな合意」といえないことは明らかである。2つの柱による解決策に対する米国の反発の強さを踏まえると、現在が国際課税を検討するのに適した時期であるかどうか、十分考えてみる必要があるだろう。 (了)
〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第6回】 「自社ポイントを他社運営の共通ポイントへ交換した場合の取扱い」 税理士 石川 幸恵 【Q】 当社では、顧客へ付与した自社ポイントを、ポイント運営事業者が運営する共通ポイントに交換できるサービスを提供することになりました。この場合、ポイント交換に係る消費税の取扱いについて教えてください。 【A】 自社の顧客へ付与したポイントを他社が運営する共通ポイントに交換しても、顧客本人に消費税の課税関係は生じません。 一方、ポイント交換の際には、自社から共通ポイントの運営会社へ、一定の金員が支払われると考えられます。この支払いが消費税の課税対象となるかどうかは、ポイントプログラムのサービス内容や契約内容等に基づき、その「対価性」について検討、判断しなければなりません。 対価性がないと判断された裁判例がありますので、概要を見てみましょう。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 「ポイント交換に伴い授受した金員が資産の譲渡等の対価に当たるかどうか」が争われた裁判例として、大阪高等裁判所令和3年9月29日判決(TAINSコード:Z271-13609)がある。本判決では、「資産の譲渡等に当たらず消費税は不課税」と判断され、国側が敗訴したが上告等しなかったため、そのまま確定した。 以下その概要を見ていくが、本判決における判断は本判決の事例に基づくものであり、同様の取引であっても契約内容や取引の実態によって異なる判断が示される可能性があることには注意されたい。 1 ポイント交換の概要 (1) ポイント交換の関係者 ポイント交換に関わるのは次の3者である。 提携法人が付与したポイントは、会員からの申請により、ポイント運営事業者の共通ポイントへ交換することができる。会員が提携法人のポイントよりもポイント運営事業者の共通ポイントの方が魅力的だと判断すれば、ポイント運営事業者の共通ポイントに交換すると考えられる。提携法人にとっては、ポイント運営事業者の共通ポイントと交換できることで、サービスの向上・販売促進につながることが期待される。 (2) ポイント交換の流れ ポイント交換は次の流れで行われる。 2 ポイント交換における争点と裁判所の判断 (1) ポイント運営事業者と国側それぞれの主張 ポイント運営事業者と国側それぞれの主張は次のとおりである。 (2) 裁判所の判断 上記の主張に対し、裁判所の判断の要点は次のとおりである。 消費税は「国内において事業者が行った資産の譲渡等」を課税の対象としており(消法4①)、資産の譲渡等とは消費税法第2条第1項8号にあるとおり、「対価を得て」行われるものである。その「対価を得て」とは「資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に対して反対給付を受けること」をいう。 本件のポイント交換により授受される金員の額は、ポイント運営事業者が負うポイント還元額に等しくなるよう定められているという事実があるので、本件のポイント交換により生じた金員の授受は、ポイント還元の原資を提供する行為にほかならない。 国側の主張するような条件関係が存するとしても、反対給付としての性質を有さず、無償取引に該当する場合には「対価」には該当しないとの解釈を示し、この金員の支払いは消費税の不課税取引と判断した。 (3) ポイント交換に係る会計処理として考えられる仕訳 「ポイント交換に関する金員の授受が対価ではない」という考えに基づいて処理される場合の仕訳例を示すと、以下のとおりである。 ① 提携法人 (※) 勘定科目は筆者による例示である。 ② ポイント運営事業者 (※) 勘定科目は筆者による例示である。 ③ 会員 処理なし 共通ポイントサービス市場が広がる中で、昨年は老舗のポイントサービスがクレジットカード系ポイントサービスと統合されるなど、大きな変化が起こっている。消費税、法人税等の課税関係については契約や取引の実態を踏まえた個別の判断が必要となり、国税庁ホームページの情報や裁決・裁判事例だけで判断しないよう注意されたい。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第51回】 「〔第5表〕法人が店舗と駐車場を賃借している場合の借地権等の計上」 税理士 柴田 健次 Q 経営者甲(令和7年2月15日相続開始)が100%保有している甲株式会社の株式を長男である乙が相続していますが、甲株式会社は第三者であるA、B、C及びDからそれぞれA土地、B土地、C土地及びD土地を賃借しています。 土地賃貸借契約の内容及び相続開始年における土地の自用地としての相続税評価金額は、下記の通りとなります。 ■土地賃貸借契約の内容 ■相続開始年における土地の自用地としての相続税評価金額 A土地、B土地、C土地及びD土地は普通商業・併用住宅地区であり、借地権割合は60%の地域に該当します。 甲株式会社の株式価額の算定上、上記A土地、B土地、C土地及びD土地の相続税評価について第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する相続税評価額はいくらになりますか。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する相続税評価額は下記の通りとなります。 ◆ ◆ ◆ ① 財産評価基本通達における土地の評価単位 土地の評価単位は、原則として地目の別により評価をしますが、例外が下記の通り2つあります(財産評価基本通達7)。 地目の判定は、不動産登記事務取扱手続準則68条及び69条に準じて行います。 ■不動産登記事務取扱手続準則68条(地目) (下線部は筆者による) ② 宅地の及ぶ範囲 宅地の及ぶ範囲が争われた事例として、平成17年5月31日裁決(TAINSコード:F0-3-298)がありますが、不服審判所は宅地の定義について、下記の通り説明しています。 上記の裁決では、いわゆる郊外型の大規模小売店舗の敷地及びその駐車場の一部として 被相続人が貸し付けていた土地のうち、駐車場として使用されている部分について、納税者は雑種地として評価すべきであると主張したのに対して、原処分庁は宅地として評価すべきであるとした事案となりますが、不服審判所は 下記の通り宅地として評価すべきであると判示しています。 ■別図 (※) TAINSコード:F0-3-298の「別図」より抜粋 ③ 借地権の意義とその範囲 借地権の存否が争われた事例として、平成12年6月27日の裁決(TAINSコード:J59-4-26)では、借地権の定義について下記の通り説明しています。 上記の裁決事例では、バッティングセンター経営の事業用地として利用されていた待合フロアー等の建築物が借地上にあったとしても、それはその土地をバッティングセンターとして使用するための従たる目的にすぎないというべきであるから、借地借家法2条1号に規定する建物の所有を目的とする賃借権に該当しないと判断された事例となります。 したがって、実務上においては、まず賃貸借契約において建物所有を目的とするものであるのか否かを確認することが重要となります。 そして、建物所有を目的とする土地の賃貸借契約である場合には、借地権が存することになりますが、借地権の及ぶ範囲については、建物の敷地のみに限らず、隣接する駐車場であったとしても、建物の所有を目的として賃借されている土地であれば、借地権は及ぶことになります。 ④ 借地権の財産評価 借地権の価額は、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に借地権割合を乗じて計算した金額によって評価します(財産評価基本通達27)。 この借地権割合は、路線価図や評価倍率表に表示されています。 ⑤ 賃借権の財産評価 雑種地に係る賃借権の価額は、原則として、その賃貸借契約の内容、利用の状況等を勘案して評定した価額によって評価します。ただし、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げるところにより評価することができるものとされています(財産評価基本通達87) (1) 地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権 地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権とは、例えば、賃借権の登記がされているもの、設定の対価として権利金その他の一時金の授受のあるもの、堅固な構築物の所有を目的とするものなどが該当します。 この場合の賃借権の価額は、その雑種地の自用地としての価額に、その賃借権の残存期間に応じその賃借権が地上権であるとした場合に適用される相続税法23条に規定する割合(以下「法定地上権割合」という)又はその賃借権が借地権であるとした場合に適用される借地権割合のいずれか低い割合を乗じて計算した金額によって評価します。 (2) (1)に掲げる賃借権以外の賃借権 上記(1)に掲げる賃借権以外の賃借権の価額は、その雑種地の自用地としての価額に、その賃借権の残存期間に応じその賃借権が地上権であるとした場合に適用される法定地上権割合の2分の1に相当する割合を乗じて計算した金額によって評価します。 ■法定地上権割合(相法23) ※地上権で存続期間の定めのないものについての法定地上権割合は40%とします。 ⑥ 本問への当てはめ (1) A土地及びB土地について A土地は駐車場ですが、建物所有を目的として土地を賃借しており、相場の権利金及び地代の支払いが行われていること、かつ、店舗の敷地とその店舗の専用駐車場として一体利用されていることから、店舗の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地に該当し、雑種地ではなく宅地として考えることが相当になります。 上記によりA土地及びB土地は、宅地として評価を行うことになりますが、宅地の評価単位は利用の単位となっている1画地の宅地ごとに評価を行います(財産評価基本通達7-2)。本問の場合における利用の単位となっている1画地の宅地は、A及びBの立場(底地権者)と甲株式会社(借地権者)では異なります。 底地権者はあくまでも自己の所有する土地を賃貸しているに過ぎませんので、AはA土地を一画地とし、BはB土地を一画地として評価単位を考えます。これに対して、借地権者である甲株式会社は、A土地及びB土地を一体で利用していますので、A土地及びB土地を一画地として評価を行います。そして、A土地及びB土地は、建物を所有する目的で賃借されていますので、いずれも借地権があるものとして評価を行います。 したがって、A土地及びB土地は一体で評価して、その借地権の価額は、58,320,000円(97,200,000円 × 60%)となります。 (2) C土地及びD土地について D土地は駐車場として使用するために賃借されたもので、A土地とは異なり建物所有を目的とした土地の賃貸借ではありませんので、地目は宅地ではなく雑種地に該当します。 ただし、上記①の土地の評価単位における「例外その1」に記載の通り、甲株式会社としては、店舗の敷地としてC土地及びD土地を一体で利用していますので、C土地及びD土地を一団の土地として評価します。もっとも、C及びDはあくまでも自己の所有する土地を賃貸しているに過ぎませんので、CはC土地を一画地とし、DはD土地を一画地として評価単位を考えます。土地の評価単位は、貸している立場と借りている立場で異なりますので、その点は注意が必要です。 甲株式会社としては、C土地及びD土地を一体で評価しますが、C土地は建物所有を目的として賃借している一方で、D土地は建物所有を目的として賃借していませんので、C土地は借地権として評価を行い、D土地は賃借権として評価を行います。 ☆実務上のポイント☆ 評価対象法人が地代を支払っている場合には、借地契約の内容を確認し、借地権が及ぶ範囲を確認することが重要となります。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第67回】 「少数株主や非上場株式買取業者から譲渡等承認請求を受けた場合」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳 相談内容 私Eは、製造業を営む非上場S社の二代目社長です。S社は私と後継者である長男が議決権の3分の2にあたる株式を保有する同族会社で、残りの3分の1は父の時代に相続対策として株式を保有してもらった3名の社外株主が保有しています。 当社は業績好調で十分な内部留保がありますが、会社の財産を社外に流出させたくないとの思いもあり、これまで少額の配当しか行ってきませんでした。顧問税理士からは、「長男への相続・事業承継を考えて少数株主に今後も株式を継続保有してもらうことが望ましい。一方で、たいした配当もせずに少数株主が不満を募らせている状況は望ましくないため、株式を売却したいと思わせない程度の配当はしておくべき」とのアドバイスを受けています。 3名の株主は、株主総会で顔を合わせるたびに「もっと配当を増やしてほしい」、「配当する気がないなら適正な価格で買い取ってほしい」との要望をぶつけてきますが、配当期待権しか有していない少数株主に対して純資産価額などの彼らが期待しているであろう価格を提示する気にはなれませんし、できることなら従業員持株会などの友好的な株主に置き換えてしまいたいとも考えています。 ただ、私の周りでもM&Aの話を見聞きする機会が増えてきましたし、最近では新聞広告やインターネット上で非上場株式を高値で売却できると謳う広告を目にする機会が増えたように感じています。私が知らないだけで、少数株主でも株式が高値で売れてしまう方法があるのではないかと心配になります。 当社の定款には「当会社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を受けなければならない」という譲渡制限が付されているので、株式を勝手に売却されてしまう心配はないと考えて差し支えないでしょうか。 また、当社のように私と長男が株式の大部分を保有しているような会社の少数株主には配当期待権しかなく、その評価額は配当還元価額や旧額面金額など低廉な価格になると認識していますが、この認識は正しいものでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 少数株主の株式売却を支援する専門家の存在 近年、少数株主から安値で株式を買い取り、発行会社に高値での買い取りを求める非上場株式買取業者と呼ばれる存在や、非上場株式の売却に向けた交渉を支援する旨の広告を掲載する法律事務所が増加する傾向にあります。 定款に譲渡制限が付されているから安心だと考えて、社外に分散した株式の問題を先送りにしていたら、少数株主から非上場株式買取業者に株式を売却したい旨の通知書が届いた。法律事務所と価格の交渉をすることになり、最終的に純資産価額などの高い価格で自社株式を買い取ることになってしまった。このような事例が散見されるようになっています。 [2] 株主から譲渡等承認請求を受けた場合の対応 株主から譲渡制限株式を譲渡したい旨の請求(譲渡等承認請求)を受けた場合、発行会社は、譲渡承認請求書に記載された株式を譲り受ける者を確認したうえで譲渡等承認請求を承認するか否かを決定し、譲渡等承認請求者に決定の内容を通知しなければなりません(会139)。 譲渡承認請求書において「承認しない場合は譲渡制限株式を買い取る」ことが請求されているときは、譲渡等承認請求を承認しなかった発行会社に譲渡制限株式の買い取り義務が生じます(会140)。なお、発行会社は指定買取人を指定して指定買取人に当該株式を買い取らせることもできます。発行会社が2週間以内に通知をしなかった場合は譲渡等承認請求を承認したものとみなされる(会145)ため、迅速な対応が必要となります。 譲渡制限株式を取得する意思がある場合は、株主総会や取締役会等で株式の取得を決議し、1株当たりの純資産額に対象株式の数を乗じて得た額を供託したうえで、株式取得の意思を譲渡等承認請求者に通知しなければなりません(会141)。やはり期限までに通知が行われない場合は譲渡等承認請求が承認されたものとみなされる(会145)ため、発行会社が自己株式として取得する場合は、譲渡等承認請求を承認しない旨の通知をした日から40日以内、指定買取人が取得する場合は10日以内に通知ができるように手続きを進めなければなりません。対象株式の数が多い場合は供託金の金額も非常に多額となるため、注意を要します。 〈図1〉譲渡等承認請求への対応 [3] 譲渡制限株式に買取り義務が生じた場合の売買価格 発行会社又は指定買取人が株式を取得する旨の通知を行った場合、対象株式の売買価格は発行会社と譲渡等承認請求者との協議によって定めることとされています(会144①)。 発行会社又は譲渡等承認請求者は、〈図1〉④の通知があった日から20日以内に、裁判所に価格決定の申立てを行うことができます(会144②)。発行会社の資産に含み益があると見込まれる場合など、譲渡等承認請求者が供託金額である純資産価額よりも高い価格(時価純資産価額、DCF法、それらの折衷案など)での売却を希望するときは、当事者間での協議に応じることなく、裁判所に価格決定の申立てを行うことが一般的です。 一方、〈図1〉④の通知があった日から20日以内に協議が整わなかった場合は供託金額である純資産価額が売買価格となる旨が定められているため(会144⑤)、発行会社が純資産価額よりも低い価額で株式を取得するためには、20日以内に譲渡等承認請求者と合意するか、又は、裁判所に売買価格の決定を申し立てる必要があります。ただし、裁判所が決定する売買価格は、税務上の評価額(少数株主の場合は配当還元価額)とは異なり、時価純資産法やDCF法を加味して算出された価格となることが一般的です。したがって、発行会社や支配株主が少数株主からの買取価格として当初想定していた金額よりも高額となる可能性がある点に留意が必要です。 〈図2〉売買価格の決定プロセス [4] 譲渡等承認請求を承認した場合 発行会社が譲渡等承認請求を承認し、譲渡の相手が非上場株式買取業者である場合、新たに株主となった非上場株式買取業者は、株式取得後に様々な株主権、具体的には会計帳簿等の閲覧謄写請求(会433①)、株主総会議事録の閲覧謄写請求(会318④)、取締役会議事録の閲覧謄写請求(会371②)などを行使して、取締役の責任を追及できるような会社法上の瑕疵がないか調査を行うことが一般的です。 例えば、発行会社と代表取締役の資産管理会社との間の取引などの利益相反取引を行う場合、取締役は事前に取締役会の承認を得る必要があります(会356①二、会365①)。このような手続きに瑕疵があった場合など、代表取締役の背任行為、忠実義務違反、善管注意義務違反などを主張して取締役の解任訴訟を提起します。当初は代表取締役の解任を求めて訴訟が進められるものの、裁判所から和解を提案された際に代表取締役の辞任や報酬減額を和解条件として求めることなく、株式の買取りを提案するというものです。 発行会社に会社法上の瑕疵がなければ、このような解任訴訟を提起されることはありませんが、このような嫌がらせが数年にわたり続くと会社経営にも支障が出てくることから、会社側から株式の高値での買戻しを申し出るような事案も発生しています。 [5] 結論 定款に譲渡制限が付されていれば、社長Eの意に沿わない相手に株式が売却されることは防ぐことができますが、譲渡等承認請求を拒否したS社に譲渡制限株式を買い取る義務が生じてしまいます。 税務上の評価額が配当還元価額となるような少数株主であっても、会社法が定める評価額や裁判所が決定する売買価格は、時価純資産法やDCF法を加味して算出された価格となり、会社側が当初想定していた金額よりも高額での買取りが必要となることに留意が必要です。 株主が自らの処遇に不満を持ち、非上場株式買取業者への売却を希望したり、弁護士等の専門家が交渉相手になってからでは、会社側が想定しているような低廉な価格での買取りは難しくなってしまいます。そのような事態に発展することを避けるためにも、少数株主に安定的な配当を行うなど、株主が売却を望まないような魅力的な株式にしていくことが必要でしょう。また、従業員持株会などの安定株主による買取りを計画している場合は、株主と友好的な関係にあるうちに提案を行うことが望ましいでしょう。 具体的な対策については、弁護士や税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)