「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例148(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆収用換地等の場合の所得の特別控除(措法65の2) 所有する資産が土地収用法等の規定により収用されたとき、又は買取り申出を拒めば収用されることとなる場合において買い取られたときで、その収用等が次の全ての要件に該当しているときは、その資産の譲渡益(補償金等の額から譲渡直前の帳簿価額及び譲渡経費の額の合計額を控除した金額)と5,000万円とのいずれか低い金額をその譲渡の日を含む事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができる。 ◆収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(措法64) (1) 内容 法人の所有する資産が収用等され、交付を受けた補償金等(対価補償金および移転補償金などで対価補償金として取り扱うものに限る。)により代わりの資産(以下「代替資産」という。)を取得した場合には、代替資産について圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額するなどの一定の方法で経理したときは、その減額した金額を損金の額に算入する圧縮記帳の適用を受けることができる。 (2) 適用要件 この特例の適用を受けるためには、次のいずれの条件も満たすことが必要である。 (3) 特例を受けるための経理方法 この特例を受けるためには、次のいずれかの経理方法を採用する必要がある。 (4) 圧縮限度額 圧縮限度額は次の算式により計算する。 (5) 手続き この特例を受けるためには、確定申告書等に損金の額に算入される金額を記載するとともに収用換地等に伴い取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書(別表13(4))など一定の書類を添付し、かつ、一定の書類を保存することが必要である。 (6) 選択適用 法人が収用等の補償金等についてこの特例を受けない場合には、一定の要件を満たすときに限り、「収用換地等の場合の所得の特別控除」の規定を適用することができる。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第51回】 「食堂の冷房のために設置されたクーラーは簡単に取り外すことができ、7組の室内機と室外機が各々稼働又は休止しているから建物附属設備ではなく、単体の冷房用機器(器具及び備品)の集合体とされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷建物附属設備と器具及び備品 建物附属設備とは、暖冷房設備、照明設備、通風設備、昇降機その他建物に附属する設備(法令13一)と法人税法上定義されている。この中の冷暖房設備であるが、耐用年数省令の別表によると冷暖房設備(冷凍機の出力が22キロワット以下のもの)の耐用年数は13年であり、その他のものは15年とされている。 他方、工具、器具及び備品の中においても冷房用又は暖房用機器があり、この耐用年数は6年である。 冷暖房設備と冷房用又は暖房用機器の違いについて耐用年数通達では「冷却装置、冷風装置等が1つのキャビネットに組み合わされたパッケージドタイプのエアーコンディショナーであっても、ダクトを通じて相当広範囲にわたって冷房するものは、「器具及び備品」に掲げる「冷房用機器」に該当せず、「建物附属設備」の冷房設備に該当する(耐用年数通達2-2-4)とされている。 では、大きなスペースを冷房するためにいくつもの冷房装置があり、室内機は天吊り式であり、配管が天井内を伝わっているものは建物附属設備に該当するのか、それとも、器具及び備品となるのか。この件で争われた事案を検討する。 ▷どのような事案か 日用品の供給及び食堂事業等を行う生活協同組合である納税者が、食堂ホールの冷房のために設置したクーラーを主たる減価償却資産における器具及び備品として申告したところ、課税庁が、大部分は建物附属設備として更正処分をしたことから不服な納税者が審査請求したのが本事案である。 なお、更正の理由として「ダクトを通じて相当広範囲にわたって冷房をするものに該当するから建物附属設備の冷暖房設備に該当する」とされていたが、ダクトは、冷媒配管の屋外を通る部分を隠すための化粧用ダクトであり冷風を通すためのものではないことが確認されたため、「①7組の各冷房設備が相互に結合して1つの設備として機能している。②大学会館の建物本体に固着しているから建物附属設備に該当する。」として更正処分を維持する異議決定がなされた。 ▷争点 争点は、課税庁の行った上記減価償却に係る更正処分は取り消されるべきかである。 ▷裁決 裁決は、課税庁の更正処分を全部取り消すとした。理由は要旨以下のとおりである。 本事例では、納税者の主張が全面的に認められた。 これは、各設備が相互に結合して1つの冷房設備として機能しているのではなく、1組の室内機と室外機で冷房として機能し、それが7組あったと認められたこと、簡易に取り外しができることから、建物に固着しているとはいえないこと、以上から建物附属設備ではないとされたからである。 クーラーが建物附属設備に該当するか器具及び備品に該当するかを判断する際には、書類だけでなく実際に現物を見て、上記のポイント等を確認することが重要であることをこの事例は語っている。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第72回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 イ カストディアンがいるケース ニューヨーク州法曹協会(NYSBA)のレポート38頁は、連邦所得税法上、納税者は、次の場合に限り、ラップ、アンラップ又はラップドトークンの保有者が市場取引によりそのラップドトークンと原トークンの交換を行う場合の交換取引に関する損益を認識しなければならない(財務省規則1.1001-1(a)参照)とする。 その上で、カストディアンその他の原トークンの保有者がその原トークンをいかなる他者に対しても譲渡する権利を有しておらず、かつ、ラップドトークンの保有者がいつでもこれを原トークンと交換することができる場合に限り、連邦所得税法上、ラップドトークンの保有者が原トークンのownerとして扱われることを米国内国歳入庁(IRS)はガイダンスで明確にすべきであると提言している(NYSBA・前掲レポート40~41頁)。 このような見解をそのまま我が国における課税関係の議論に持ち込むことは難しいとしても、いくばくかの示唆を得ることができよう。 本稿では、カストディアンがいるケースにおけるラップによるトークンの移転は、その処分権の移転を伴わず、ラップ後においても原トークンの処分権は依然として元の保有者に帰属するため、課税イベントではないという見解を示す。 BTCをWBTCにラップする場合、BTC保有者は、マーチャント経由でカストディアンにBTCを移転し、代わりにWBTCを受領するが、その後においては、ラップとは正反対の手順でWBTCと引き換えに同量のBTCの返還を受けることができる。 カストディアンは、マーチャント経由でアンラップの依頼があるまで、自身の分別管理されたウォレットでBTCを保管した上で、外部監査を実施してそのことを公に検証できる状態にしている。 事実関係及び法律関係を精査する余地はあるかもしれないが、ユーザーは、BTCを移転したことに伴い、当該BTCの処分権までもカストディアンに移転したわけではなく、カストディアンはユーザーのBTCを預かっているにすぎず、(処分権以外の権利の移転を受けている可能性は否定しないが)移転を受けたBTCを自由に処分することは認められないと解される。 そうであるとすれば、原トークンの処分権の移転がないのであるから、ラップは原トークンの含み損益に係る課税イベントではない。 また、所得税法36条の収入等との関係では、BTCをラップすることにより、BTCのままではアクセスできなかったアプリケーションにアクセスできるようになることから、ラップによって「実質的に異なる法的権利が得られる」(Miles Brooks, The Taxability of Wrapping Digital Assets, 176 Tax Notes Federal 201, 202(2022))、「発生している所得が別のもの(または具体的な何か)に形を変えて所得の大きさを計れるようにな」った、あるいは「資産を手放して、それと実質的に異なる資産を取得」したなどとして、所得が実現しているとか、少なくともトークン同士の交換という譲渡があったとか、これにより収入があったと解すべきであると論じる見解が考えられる(実現の意義について、本連載第67回の27(2)参照)。 もっとも、ユーザーのBTCがカストディアンのアドレスに移転され、カストディアンはそのBTCを保管しなければならず、ユーザーはいつでも好きなときにWBTCを戻すことでそのBTCの返還を受けることができるという仕組みを前提とすれば、DEXにBTCを預けたユーザーにとってWBTCはDEXが発行した預かり証のようなものであって、多少のディペグがあるとしても、1対1でペグされているBTCとWBTCの価値はほぼ同額になるはずであり、その価値はその預託されたBTCの経済的価値を表章しているといえる。 WBTCは、BTCと同一の価値を有し、互いに容易に交換可能なものであり、BTCと実質的に同一の資産であるという議論もありうる(Jason Schwartz, The Taxation of Decentralized Finance, 174 TAX NOTES FEDERAL 767, 769-770.(2022))。 ユーザーからすれば、このようなWBTCの受領をもって、外部から経済的価値が入ってきたとはいい難く、純資産の増加はないとして、収入があったとはいえないという見解やBTCを譲渡していないという見解が考えられる。 結局、カストディアンがいる場合のBTCからWBTCへのラップは、ユーザーがマーチャント経由でBTCをカストディアンに預託し、その預託されたBTCの経済的価値を表章し、かつ、移転(預託)したBTCと同数量のBTCの返還を受ける権利を表章するWBTCを得る取引であるといえる。 (※) Napkin AIを利用して筆者作成 この場合のトークンの移転は、預託、(トークンが寄託の対象たる物であるか、受寄者が存在するかなど議論すべき点はあるが)寄託(民法657)、混合寄託(民法665の2)ないしこれらに準じるものとして検討する余地があるように思われるが、いずれも所得税法上の譲渡や収入はない。 よって、WBTCのようなカストディアンがいる場合のラップは、処分権の移転としての譲渡はなく、あるいは収入はないため、移転したトークンの含み損益に係る課税イベントではないと解される。 ウ カストディアンがいないケース トークンの移転によって、そのトークンの処分権がその移転先に移転するためには、移転先が権利義務の帰属主体でなければならないが、スマートコントラクトを利用するにすぎず、カストディアンがいないラップの場合には、そもそも相手方として権利義務の帰属主体になり得る者が存在せず、譲渡を観念できない。 ユーザーによるトークンの移転は、外部との取引や権利移転のやりとりのない単独行為であり、せいぜい自己取引にすぎない。よって、課税イベントではないという見解が考えられる。 例えば、ETHをWETHにラップすることがある。WETHは、高速かつ安価な取引実行を可能にするイーサリアム互換ネットワーク(いわゆる「レイヤー2ネットワーク」など)へのブリッジのために広く利用されているトークンである。 ETHをWETHにラップする場合を考えてみると、例えば、Uniswapでこれを行うときは、カストディアンは存在せず、単にスマートコントラクトにETHを移転することで自動的にWETHがミントされる。 相手方として権利義務の帰属主体は存在せず、ETHの移転に伴い、ユーザーが有するETHの処分権が誰かに移転するわけではない。ただし、WETHをそのコントラクトアドレスに送付しない限りは、ETHは戻ってこない、自由に処分できないという意味での制限は付されている(コントラクトアドレスの意義については本連載第69回の27(5)参照)。 ユーザーが上記コントラクトアドレスにETHを移転し、そこにETHがロックされ、その代わりにユーザーはETHと1対1でペグされているWETHを受領し、以後、ユーザーはいつでも好きなときにWETHを戻すことでそのETHの返還を受けることができるという仕組みを前提とすれば、上記WBTCの場合とほぼ同様の理屈により、WETHの受領をもって、収入があったとはいえないという見解があり得る。 つまり、WETHは、ETHと同一の価値を有し、互いに容易に交換可能なものであり、ETHと実質的に同一の資産であり、ユーザーからすれば、このようなWETHの受領をもって、外部から経済的価値が入ってきたとはいい難く、純資産の増加はないとして、収入があったとはいえないという見解やETHを譲渡していないという見解が考えられる。 以上のとおり、カストディアンがおらず、単独行為又は自己取引のようなものとして、スマートコントラクトを利用する場合のラップは、処分権の移転としての譲渡はなく、あるいは収入はないため、移転したトークンの含み損益に係る課税イベントではないと解される。 なお、UniswapでETHと他のトークンをペアにして流動性供給等する場合、(多くのユーザーは意識又は認識していないかもしれないが)スマートコントラクト内部ではETHがWETHに交換される。 この場合、ETHが上記のコントラクトアドレスに送付されている点で変わりはないが、ユーザーはこの取引を認識していない場合もあるし、WETHはユーザーのウォレットに移転されるわけではないことなどから、そもそもユーザーがWETHを取得したものとは取り扱うべきではないという議論がある。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第75回】 「外国証券会社への売委託による株式譲渡損失に関する繰越控除の適用可否(地判平27.7.3、高判平28.3.17)(その1)」 ~租税特別措置法37条の12の2、日本国憲法13条・14条・84条・98条2項、 日米租税条約1条2項(a)~ 公認会計士・税理士 西川 浩史 1 はじめに 本件は、確定申告において外国証券会社への売委託により生じた株式譲渡損失の繰越処理を行った納税者に対して、課税庁が当該処理を適用するための要件を満たしていないとして更正処分を行った事案である。 納税者は、憲法違反、日米租税条約違反、規定の解釈及び適用の誤りを主張したが、地裁・高裁ともに納税者の主張を認めず、最高裁も上告を棄却したため、課税庁の勝訴が確定した。 本件の背景には、「貯蓄から投資へ」の政策目的のための税制改正や「投資交流促進」等を目的とした日米租税条約の改正があり、これらの内容の理解が前提になる。また、株式譲渡損失の繰越控除制度の本質についても検討が必要と考える。 本件の争点である憲法14条(平等原則)違反か否かに関して、裁判所はサラリーマン税金訴訟(大島訴訟)(以下「大島訴訟」)(※1)の最高裁判決での判断基準をもとに違憲審査を行い、違憲ではないとの結論を出した。租税立法に対する違憲審査基準のあり方についても検討をしたい。 (※1) 大島訴訟とは、事業所得者に比べて給与所得者は著しく不公平な税負担をしているとして、憲法14条1項違反を争った訴訟である。金子宏教授は「本件判決は、裁判所の租税立法に対する違憲審査の基準、租税法律主義、および租税公平主義と給与所得の課税の3つの問題に関する判例として重要な位置を占めている。租税法の判例の中でも最も重要で興味ぶかい判例の1つである。」と述べられている。金子宏「憲法と租税法-大島訴訟」『租税判例百選[第6版]』別冊ジュリスト228号(2016.6)6頁。 2 事案の概要 国内に住所を有する青色申告者である納税者(原告、控訴人)(※2)は、平成23年中に、米国証券会社への売委託により行った株式譲渡損失について、平成24年法律第16号による改正前の租税特別措置法(以下「租税特別措置法」)37条の12の2が規定する特例(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除(※3))(以下「本件特例」)が適用されるとして平成23年分の所得税の確定申告をした。 (※2) 地裁の判決文の別紙「課税の経緯」によれば、納税者は株式譲渡所得以外に配当所得や先物取引に係る事業所得(分離課税)等を有しており日本人の個人投資家と推測する。 (※3) 本件事案では、「繰越控除」の適用有無のみが問題になっているが、本来ならば、先に適用される「損益通算」の適用有無も含めた議論が行われるべきであったのではないかと考える。 課税庁(被告、被控訴人)は、納税者に対し、平成24年11月28日付けで、本件米国証券会社への売委託により生じた株式譲渡損失の金額について本件特例の適用がなく、翌年以後に繰り越すことができないなどとして、翌年以後に繰り越す株式譲渡損失の金額を納税者の申告に係る31,968,863円から8,139,478円と更正をした。 なお、本件米国証券会社は、本件特例の対象業者(以下「本件特例対象業者」)に該当しないことには争いはない。 3 地裁及び高裁の判断(判決文の一部及び要約。下線及び注記は筆者追加) 裁判での争点は以下の4点である。高裁は、争点①については地裁の判断に追加を行っているが、争点②・争点③・争点④については、地裁の判断をそのまま採用している。本稿では、争点①・争点③・争点④を検討対象とする。 (1) 有価証券の譲渡による所得税課税に関する税制改正の経緯 地裁及び高裁では、有価証券の譲渡による所得税課税に関する税制改正の経緯を以下のように説明している。 (※4) この繰越控除制度が、租税特別措置法37条の12の2による本件特例である。なお、一般株式等に係る譲渡所得の計算上生じた損失は、生じていなかったものとみなされるため、繰越控除の適用はない(租税特別措置法37条の10第1項)。 (2) 本件特例は憲法13条ないし14条に違反するか(争点①) 地裁は、大島訴訟の最高裁判決での違憲審査の判断基準に従い、以下の検討を行い、憲法13条ないし14条には違反しないと判断した。 高裁は、下記のように控訴人の主張に対する判断を付加し、地裁と同様の結論としている。 (3) 本件特例は日米租税条約ないし憲法98条2項に違反するか(争点③) (4) 本件特例の解釈・適用に関する違法性の有無(争点④) ((その2)へ続く)
〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2025年7月】 第1四半期決算(2025年6月30日) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第1四半期決算(2025年6月30日)に関連する速報解説のポイントについて、基本的に2025年4月1日から6月30日までに公開した速報解説を対象としている。 公開草案及び適用時期が将来のものは、基本的に記載の対象外としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、月ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。 Ⅱ 会計関係 次のものが公表されている。 〇 会計制度委員会研究報告第18号「補助金等の会計処理及び開示に関する研究報告」 (内容:補助金等に関する会計処理及び開示について研究したもの。日本公認会計士協会) Ⅲ 金融商品取引法関係 次のものが公布・公表されている。 ① 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第31号) (内容:「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)の改正を受けたもの) ② 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等 (内容:「金融商品会計に関する実務指針」(改正移管指針第9号)、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等の修正を公表したこと等を受けたもの。意見募集期間は2025年7月7日まで) ③ 「特定目的信託財産の計算に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第62号) (内容:「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を受けたもの) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 監査基準報告書560周知文書第1号「事後判明事実への対応に関する周知文書」 (内容:事後判明事実への対応について、日本公認会計士協会の会員の理解に資するために公表するもの) ② 監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正 (内容:倫理規則改正に伴う記載の変更など) ③ 「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正 (内容:監査ファイルの最終的な整理期間中の改竄防止策に関する改正など) ④ 「倫理規則」の改正(定期総会に付議する予定の改正案の公表) (内容:タックス・プランニング業務及び関連業務に関して改正するもの) Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 改定版「監査役監査実施要領」 (内容:2024年4月の金融商品取引法における四半期開示制度の改正などの各種制度改正を反映したもの) Ⅵ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2025年4月1日以後に適用されるもの(早期適用を含む)として、次の会計基準等がある。 ① 「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)等 (内容:グローバル・ミニマム課税について、法人税及び地方法人税の会計処理及び開示の取扱いを示すもの。補足文書がある。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(実務対応報告第46号14項)。ただし、実務対応報告第46号13項の四半期財務諸表及び中間財務諸表における注記の定めについては、実務対応報告第46号14項の定めにかかわらず、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(実務対応報告第46号15項)) ② 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正 (内容:包括利益の表示、特別法人事業税及び種類株式の取扱いについて改正するもの。早期適用の可否については、各会計基準等をお読みいただきたい。改正包括利益会計基準及び改正株主資本適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度の期首から適用する。改正法人税等会計基準及び改正税効果適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。改正「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第10号)は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後取得する種類株式について適用する) ③ 改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」 (内容:ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価評価に関するもの。2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) ④ 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等 (内容:借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準。2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) (了)
〈2026年1月施行〉 下請法改正と企業対応のポイント 【前編】 「下請法改正の概要」 弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之 1 はじめに 2025年5月16日、下請法の改正法案が衆議院本会議において可決、成立した。 改正の主な目的は、近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を背景に、中小企業をはじめとする事業者が物価上昇を上回る賃上げを実現するためには、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくことが重要だという点にある。かかる改正法の目的から、2026年の春闘を見据えた中小企業の賃上げ原資の確保につなげるため、改正法の施行日は2026年1月1日とされており、事業者は早急な対応が必要となるが、改正法は下請法の適用範囲を拡大するとともに、親事業者による禁止行為も拡充するなど、実務への影響は小さくない。 なお、「下請」という用語は発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えること、時代の変化に伴い発注者である親事業者の側においても「下請」という用語は使われなくなっていることなどの理由から、改正法では、「下請」等の用語が見直されており、「親事業者」を「委託事業者」、「下請事業者」を「中小受託事業者」、「下請代金」を「製造委託等代金」等に改めるとともに、法律の名称も「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改められることとなった。以下では、かかる用語の見直しに倣うこととし、便宜上、改正法を「中小受託取引適正化法」、現行下請法を単に「現行法」という。 2 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止(禁止行為の拡充) 上述した改正の目的に照らし、適切な価格転嫁の円滑化は重要なテーマの1つであるところ、中小受託取引適正化法は、委託事業者の新たな禁止行為類型として、「協議を適切に行わない一方的な代金額の決定」を追加した。 具体的には、中小受託事業者の給付に関するコストが上昇しているなどの場合において、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、当該協議に応じなかったり、当該協議において中小受託事業者が求めた事項について委託事業者が必要な説明もしくは情報の提供を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為は禁止される(中小受託取引適正化法5条2項4号)。 これまで、コストが上昇しているにもかかわらず価格を据え置く行為については、「買いたたき」(現行法4条1項5号)に該当するものとして、対処がなされてきた。しかしながら、従来の「買いたたき」は、「市価」の把握が困難な場合に、「従前の対価」をもって「通常支払われる対価」として取り扱い、「従前の対価」に比して著しく低い下請代金の額を不当に定めることを「買いたたき」にあたるものと解釈しており、基本的には、従前の対価を引き下げる場面を想定した規定であった。 そのため、コストの上昇局面において当該上昇分を対価に反映しない行為についても、「買いたたき」に該当するものとして対処することが適当であるかどうかは疑問の残るところであったが、中小受託取引適正化法は、一方的ではない実質的かつ実効的な価格協議が確保されることで適正な価格転嫁が実現されるという考えの下、「対価」ではなく「交渉プロセス」に着目した禁止行為類型を新設したものである。 3 手形払い等の禁止(禁止行為の拡充) 現行法上、委託事業者は、受領日から60日以内のできる限り短い期間内において支払期日を定めた上(現行法2条の2)、その支払期日までに製造委託等代金を支払わなければならない(現行法4条1項2号)。 もっとも、支払手段については、現金払いを原則としつつも、手形やその他の支払手段(電子記録債権、ファクタリングなどの一括決済方式)による支払も認められており、例えば、受領日から60日以内の支払期日に手形を交付すれば、委託事業者は支払遅延とならないものの、中小受託事業者は、そこから手形サイトに相当する期間を待たなければ現金を受領することができず、手形等による支払いは、実質的に資金繰りの負担を中小受託事業者にしわ寄せする結果となっていた(手形を割り引くことによって満期日よりも前に現金化することは可能であるが、手形の割引には手数料がかかるため、この場合、製造委託等代金の満額を受領することはできない。)。 このような状況に対して、公正取引委員会および中小企業庁は指導基準を変更し、2024年11月1日以降は、手形サイトが60日を超える手形は割引困難手形(現行法4条2項2号)に該当するものとして取り扱ってきたが、中小受託取引適正化法は、これを一段進め、同法上の支払手段として、手形サイトに関係なく、手形払いを一切認めないこととした(中小受託取引適正化法5条1項2号)。また、電子記録債権やファクタリングなどの一括決済方式についても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものについては認めないこととしている(同号)。 4 適用対象取引への「特定運送委託」の追加(適用範囲の拡大) 現行法上、運送委託は「役務提供委託」(現行法2条4項)に該当するところ、いわゆる自家使用役務(委託事業者が自ら用いる役務)は役務提供委託に含まれないこととされている(同項にいう「提供の目的たる役務」にあたらない。)。 そのため、例えば、売買契約の売主である発荷主(例:卸売業者)が、買主である着荷主(例:小売業者)に対して、売買の目的物の引渡しを履行するため、運送事業者Aに運送を委託し、さらに運送事業者Aが当該運送業務を運送事業者Bに再委託するような場合、発荷主と運送事業者Aとの間の運送委託は、発荷主が引渡しの履行のために自ら用いる役務として自家使用役務にあたり、現行法の適用対象外とされていた(独占禁止法の物流特殊指定で対応)。一方、運送事業者Aと運送事業者Bとの間の再委託は、自家使用役務ではなく、役務提供委託に該当するため、現行法が適用される。 しかしながら、このような住み分けは事業者にとってわかりにくいばかりか、自家使用役務にあたる運送取引においても、立場の弱い物流事業者が長時間の荷待ちや契約にない荷役などの附帯作業を無償で行わされているなどの実態があり、下請法による機動的な対応の必要性が指摘されていた。 そこで、中小受託取引適正化法では、上記の例でいう発荷主と運送事業者Aとの間の運送取引についても、「特定運送委託」として、新たに同法の適用対象取引に追加されることとなった(中小受託取引適正化法2条5項、同6項)。 ただし、条文上、「事業者が業として行う販売・・・の目的物たる物品・・・の当該販売・・・に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」とされていることから(中小受託取引適正化法2条5項)、あらゆる運送委託が対象となったわけではなく、「特定運送委託」に該当する取引は、あくまでも「取引の目的物を顧客へ運送する場合の運送委託」に限定されている点は、留意が必要である。 5 従業員基準の追加(適用範囲の拡大) 現行法は、委託取引の内容(委託取引基準)と資本金の区分(資本金基準)によってその適用範囲を形式的・機械的に画している。 しかしながら、資本金基準については、資本金制度の柔軟化や減資手続の緩和などの影響もあり、実質的には事業規模は大きいものの当初の資本金が少額である事業者や、減資によって下請法の適用を意図的に潜脱する事業者の例などが見られた。 そこで、中小受託取引適正化法は、その適用範囲を画する基準として、従来の資本金基準に加えて、新たに従業員数の基準を追加することとした。具体的には、常時使用する従業員の数が300人を超える事業者が、常時使用する従業員の数が300人以下の事業者に対して製造委託等をする場合(役務提供委託等では100人が基準)には、資本金基準を満たすか否かにかかわらず、中小受託取引適正化法の適用対象となる(中小受託取引適正化法2条8項5号、同6号、同条9項5号、同6号)。 6 その他の改正事項 以上のほか、その他の改正事項の内容は、以下のとおりである。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例107】 太陽ホールディングス株式会社 「新経営体制移行後の企業価値向上及び株主共同の利益の確保に向けた取り組みについて」 (2025.7.1) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、太陽ホールディングス株式会社(以下「太陽ホールディングス」という)が2025年7月1日に開示した「新経営体制移行後の企業価値向上及び株主共同の利益の確保に向けた取り組みについて」である。 同社は、2025年6月23日、佐藤英志氏(以下「佐藤氏」という)から齋藤斉氏へ代表取締役が交代するという内容の「代表取締役の異動に関するお知らせ」を開示していたのだが、その「異動の理由」は「2025年6月21日開催の第79回定時株主総会の決議結果を受け、経営体制の見直しを行ったため」と記載されていた。定時株主総会で佐藤氏が取締役に再任されなかったのである。今回の開示のタイトルにある「新経営体制」とは、代表取締役が交代した後の経営体制という意味である。 なお、定時株主総会が開催されたのは2025年6月21日であり、「異動の日付」も同じ「2025年6月21日」と記載されていた。しかし、「代表取締役の異動に関するお知らせ」は、その2日後の23日に開示されている(したがって遅延開示ということになる)。そして、今回の開示は、それからさらに約1週間後に行われている。それらの間隔はなぜ生じたのだろうか。 2 解任提案 もともと太陽ホールディングスは、OASIS JAPAN STRATEGIC FUND Y LTD.(以下、関連するファンドも含めて「オアシス」という)から佐藤氏の取締役解任についての株主提案を受けており、それに対しては2025年5月16日に「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」を開示し、反対意見を表明していた。なお、オアシスは太陽ホールディングスの大株主である(2025年4月2日開示「主要株主の異動に関するお知らせ」)。 その開示によると、オアシスは、佐藤氏の取締役解任の理由として、①既存株主の希薄化を目的とした第三者割当増資、②佐藤氏に対する過大な報酬、③医療・医薬品事業への過剰な投資と失敗、④タイ現地法人の不祥事と不適切な対応、⑤DIC派遣取締役による監督の失敗、を挙げていた。 佐藤氏には、公私混同やハラスメントといった問題があるわけではなく、経営手腕にも問題はなさそうである。経営手腕は、問題がないどころか、極めて優れているといえる。佐藤氏が太陽ホールディングスの代表取締役に就任したのは2011年3月22日だが(2011年3月22日開示「代表取締役の異動に関するお知らせ」)、その後、同社の業績は飛躍的によくなっているのである(2011年5月11日開示「平成23年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」と2025年4月30日開示「2025年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」の数値を比較)。 2011年3月期の売上高は40,366百万円、最終利益は3,402百万円であるのに対して、2025年3月期の売上高は119,010百万円、最終利益は10,780百万円であり、これまで売上と利益ともに3倍ほどになっている。また、配当総額も、2011年3月期は2,925百万円であるのに対して、2025年3月期は10,652百万円であり、こちらも3倍超になっている。 株主からすれば、佐藤氏は文句のない経営者のはずであり、オアシスが並べる理由は、重箱の隅をつついているような印象を受ける。佐藤氏を解任した後、佐藤氏よりも優れた人物を代表取締役にできればよいが、そうした見込みがあるわけでもないようである。 3 裏切り 佐藤氏が取締役に再任されなかったのは、太陽ホールディングスの筆頭株主であるDIC株式会社(以下「DIC」という)がオアシスに同調したことが大きい。もともとDICは太陽ホールディングスと資本業務提携を結んでおり(2017年1月25日開示「DIC株式会社との資本業務提携、第三者割当による新株式発行及び自己株式の処分並びに主要株主、主要株主である筆頭株主及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ」)、太陽ホールディングスとは協力関係にあった。 しかし、DICは2025年6月3日に「太陽ホールディングス株式会社の第79回定時株主総会における取締役選任議案(第2号議案)に対する当社の議決権行使予定に関するお知らせ」を開示し、佐藤氏の取締役再任に反対すると表明した。その理由を次のように記載している。 取締役会が「必ずしも適切に機能しているとは言え」ず、「その一因は、佐藤社長の強い影響力にあると考えるに至」ったというあたりは、歯切れの悪い印象を受ける。また、「佐藤社長から経営の一新を図り、新たな経営体制のもとで経営戦略を推し進めることが、株主共同の利益に資すると判断し」というのも、新たな経営体制の具体像を示しているわけでもなく、乱暴に思われる。 この理由の記載にも、今回の開示の主文にも「非公開化」という言葉が出ているように、太陽ホールディングスは株式非公開化の提案を受けている。DICとしては、太陽ホールディングスの株式を売却して現金化したいという思いがあるのかもしれない。業績がよく、配当額も多い太陽ホールディングスの現在の株価は高く、株式非公開化となれば、高く買い取ってもらえるはずである。しかし、それだけではないのかもしれない。 DICにとっても、オアシスは大株主であり(2024年10月21日開示「主要株主の異動に関するお知らせ」)、オアシスから提案を受ける立場なのである(2025年2月12日開示「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」)。オアシスが挙げていた佐藤氏の取締役解任の理由の1つ「①既存株主の希薄化を目的とした第三者割当増資」の割当先はDICである。オアシスに同調しないと、新たな攻撃材料になりかねない。自分の身が危ないと思い、協力関係にあった太陽ホールディングスを裏切ったのだろうか。 なお、「太陽ホールディングス株式会社の第79回定時株主総会における取締役選任議案(第2号議案)に対する当社の議決権行使予定に関するお知らせ」は適時開示を行っておらず、自社のホームページに掲載しているだけである。少し後ろめたさでもあったのだろうか。 4 2025年6月21日から7月1日まで 「代表取締役の異動に関するお知らせ」では、佐藤氏が「上席専務執行役員」に就任するとされていた。あくまで筆者の推測だが、異動日とされる2025年6月21日から開示日の23日までの間、佐藤氏の去就をめぐって社内で議論がなされたのではないだろうか。通常ならば、会社を去るはずのところ、佐藤氏に去られると困るということで、上席専務執行役員就任ということになったのではないだろうか。 佐藤氏が独裁者で、自分を上席専務執行役員にしろと指示したわけではないだろう。佐藤氏が所有する太陽ホールディングスの株式は544千株だけで、持株比率は1%未満である(第79期有価証券報告書)。株式の裏付けのある権力を持っているわけではない。佐藤氏が信頼されていなければ、すぐに会社を去るという結論に至り、2025年6月21日中に「代表取締役の異動に関するお知らせ」が開示されていたのではないだろうか。 そして、「代表取締役の異動に関するお知らせ」から約1週間後に今回の開示を行ったのだが、そこでは、佐藤氏を上席専務執行役員とすることにした経緯を記載するとともに、佐藤氏の同社の意思決定への関与について次のように記載している。 これは、「代表取締役の異動に関するお知らせ」開示後にオアシスなどの株主から反対意見が出たからだと思われる。ここでも議論がなされたのだろう。もともとこうしたことが決まっていたならば、約1週間も時間を要しないはずである。 佐藤氏にも、「これだけ会社を成長させたのだから、何も問題はないはずだ」といった慢心があったのかもしれない。そのため、株主とのコミュニケーションがおろそかになっていたのかもしれない。しかし、果たしてこれが正解なのだろうか。DICは「株主共同の利益に資する」といっていたが、本当にそうなのだろうか。太陽ホールディングスが株式非公開化となり、同社の株式を売却した場合と、佐藤氏のもとで成長を続ける同社の株式を持ち続ける場合とを比較して、どちらが同社の株主にとって利益となるのだろうか。 (了)
《速報解説》 JICPAがサステナビリティ能力開発シラバスを改訂 ~2026年の開始を目指す専門プログラムに関する報告書も公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年7月17日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、「JICPAサステナビリティ能力開発シラバスの改訂について」と、「サステナビリティ能力開発協議会報告書「JICPAサステナビリティ専門プログラムの開始に向けて」」を公表した。 これらは、公認会計士のサステナビリティ能力開発に関する施策に関するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ JICPAサステナビリティ能力開発シラバス シラバスは、公認会計士に求められるサステナビリティ関連の能力開発に関する包括的な指針である。 今回、サステナビリティに関する新たな基準の反映に加え、日本公認会計士協会及び監査法人におけるシラバス運用との整合性を図る観点から、一部内容の更新を行っている。例えば、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)のサステナビリティ開示基準、国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」について記載されている。 Ⅲ JICPAサステナビリティ専門プログラムの開始に向けて 「JICPAサステナビリティ能力開発シラバス」に沿って、「JICPAサステナビリティ専門プログラム」を開発することについて記載している。 サステナビリティ保証業務において中心的役割を担う公認会計士には、サステナビリティ情報の開示・保証に関する十分な専門性を保持することが求められる。 専門プログラムは、公認会計士のうち、特にサステナビリティに関する専門性確保についての社会的要請が高いサステナビリティ保証業務従事者を主たる対象として想定している。 ただし、サステナビリティ情報を作成する役割を担う組織内会計士やサステナビリティに関する経営及び開示を監督する役割を担う社外役員会計士においても、サステナビリティに関する専門性確保のニーズは高まっており、そのような要請も踏まえた内容となるよう設計する。 日本公認会計士協会は、専門プログラムに対応した研修を開発し、会員に対して提供するとのことである。 サステナビリティ能力開発協議会は、研修提供主体が提供する専門プログラム(コアコース・マスターコース)に対応した研修のすべてを受講完了した公認会計士に対し、修了の申請に基づき各コースを修了したことを証明する修了証を交付する。 専門プログラムは2026年に開始することを目指しているとのことである。 (了)
《速報解説》 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関する中間論点整理等が公表される ~第三者保証制度の導入時期や当初の保証範囲等の大きな方向性を整理~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年7月17日、金融庁の金融審議会から、「金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」中間論点整理」が公表された。 これは、サステナビリティ情報の開示と保証のあり方について検討したものであり、なお引き続き検討を続けるべき事項が残されているものの、サステナビリティ開示基準の適用開始時期、第三者保証制度の導入時期や当初の保証範囲等大きな方向性についてはメンバー間の賛同が得られたとのことである。 また、同日、日本公認会計士協会から、「会長声明「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ中間論点整理の公表に当たって」が発出されるとともに、サステナビリティ情報開示・保証業務特別委員会「サステナビリティ情報開示・保証のあるべき姿の検討-サステナビリティ情報の信頼性確保に向けて-」も公表された。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 中間論点整理 主な内容は以下のとおりである。 全体像については、「サステナビリティ開示基準の適用及び保証制度の導入に向けたロードマップ」が公表されている。 1 適用対象企業及び開始時期 サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の公表したサステナビリティに関する開示基準(SSBJ基準)の適用は、企業等の準備期間を考慮し、次のようなスケジュールによる適用開始を基本とし、③の適用時期は、国内外の動向等を注視しつつ、引き続き検討していく。 時価総額5,000億円未満の企業へのSSBJ基準の適用については、企業の開示状況や投資家のニーズ等を踏まえて、今後検討する。 時価総額の算定方法については、流通市場における株式時価総額の過去5年間の平均等を参考としつつ、例えば、プライム市場上場後5年を経過していない場合、組織再編があった場合、5事業年度の株式時価総額の平均値が5,000億円を下回った場合等においても的確に対応できるような株式時価総額の算定方法について、金融庁において検討を行うべきであるとしている。 経過措置としての二段階開示は、「半期報告書の提出期限までに」訂正報告書により二段階目の開示を行うこととすることが適当であるとされており、その適用期間は適用開始から2年間とすることが適当であるとされている。 現行制度上の有価証券報告書の提出期限は事業年度経過後3月以内とされているが、財務諸表監査に加えてサステナビリティ情報の第三者保証への対応が必要になることを踏まえれば、諸外国の年次報告書の公表期限を参考に、事業年度経過後4月以内に延長することも考えられるが、有価証券報告書の提出期限の延長については引き続き検討していく。 2 第三者保証制度の導入時期及び保証範囲 開示基準の適用開始時期の翌年から、第三者保証を義務付ける。 第三者保証制度の適用開始時期から2年間は、有価証券報告書におけるサステナビリティ関連財務開示のうち、Scope1及びScope2のGHG排出量に関する情報、ガバナンス並びにリスク管理に対する第三者保証を義務付けることとし、3年目以降については国際動向等を踏まえ、今後検討することが適当である。 保証の水準は限定的保証とし、合理的保証への移行の検討は行わないことが適当である。 保証の担い手については引き続き検討していく。 Ⅲ サステナビリティ情報開示・保証業務特別委員会の報告書 サステナビリティ情報開示、サステナビリティ保証業務に関する論点について検討している。 保証品質の確保を達成するに当たっては、高品質な保証業務を提供するプロフェッショナルである監査法人が、保証業務実施者として重要な役割を担っていくと考えられるとしている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、6/30時点施行の法令・会計基準等に基づき 「第1四半期又は第3四半期の四半期決算短信に含まれる四半期連結財務諸表等に関する表示のチェックリスト」を改正 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年7月17日、日本公認会計士協会は、「第1四半期又は第3四半期の四半期決算短信に含まれる四半期連結財務諸表等に関する表示のチェックリスト」(中小事務所等施策調査会研究報告第10号)の改正を公表した。 これは、監査事務所が期中レビューにおいて、表示の確認を実施する際の参考となるチェックリストである。 研究報告は監査事務所における利用を想定しているが、財務諸表の作成者も利用可能である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 研究報告は、2025年6月30日時点で施行されている法令や会計基準等に基づいて作成している。 このため、法令や会計基準等の改正が実施された場合には、その改正事項を考慮した上で使用する必要がある。 また、2025年6月6日に、金融庁から「『財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)』等の公表について」が公表されているが、2025年6月30日時点では確定していないため、研究報告には反映していない。 「金融商品会計に関する実務指針」(移管指針第9号。2025年3月11日改正)、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を早期適用する場合には、上記の公開草案の動向に留意する。 (了)