令和4年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 (最終回) 「特に注意したい事項Q&A」 ー給与所得者の副業に関する税務上の取扱い等ー 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 最終回は、確定申告において注意が必要と考えられるもののなかから、近年増加傾向にある給与所得者の副業に関する税務上の取扱い等、雑所得に関連する5項目についてQ&A形式でまとめることとする。なお、本稿では特に指定のない限り、令和4年分の確定申告を前提として解説を行う。 〈給与所得者の副収入➀〉 【Q1】 ネットオークションを利用して、不用品(古着、家具、書籍等)を売却した。給与所得者であり年末調整を受けているので、売却による所得金額が20万円以下であれば確定申告は不要か。 【A1】 生活の用に供する資産の譲渡による所得は、非課税である。よって、家庭内の不用品を売却したことによる所得について、確定申告をする必要はない。 なお、生活に通常必要な動産であっても、1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属や書画、骨董等の売却による収入がある場合には、その売却による所得金額が20万円以下である場合を除き確定申告が必要となる。 -解説- 給与所得者が、ネットオークション等を通じて副収入を得た場合の課税関係は、次のとおりとなる(所法9➀九、②、33➀、35➀、所令25)。 ただし、1ヶ所から給与等の支払を受ける給与所得者で年末調整を受けている者の場合には、その年に他の所得があったとしても、他の所得の金額が20万円以下であれば確定申告をする必要はない(所法121➀一)。 〈給与所得者の副収入②〉 【Q2】 給与所得者で民泊による副収入がある。民泊による所得が20万円を超えているので確定申告するが、どの所得区分になるのか。 【A2】 民泊による所得は、一般的には雑所得(業務に係る雑所得)に該当する。 -解説- 給与所得者の副収入のうち、民泊による所得や自家用車等の資産の貸付けによる所得は、一般的に雑所得(業務に係る雑所得)に該当する(※)。 (※) 個人が空き部屋等を有料で旅行者に宿泊させるいわゆる「民泊」は、利用者の安全管理や衛生管理、一定程度の観光サービスの提供等を伴うため、不動産所得ではなく雑所得(業務に係る雑所得)に該当する。 なお、業務に係る雑所得がある場合には、令和4年分以後の所得税において、次の2点に留意が必要である(所法120⑥、232②、所規47の3➀、102⑦)。 〈暗号資産取引➀〉 【Q3】 暗号資産取引により生じた所得は、どの所得に区分されるのか。また、暗号資産の売却による収入は、契約日の属する年分のものとするのか。 【A3】 暗号資産取引により生じた所得は、原則として雑所得(その他雑所得)に区分される。暗号資産の売却による収入は、原則として、暗号資産の引渡しがあった日の属する年分のものとなる。ただし、選択により契約日の属する年分とすることもできる。 -解説- (1) 暗号資産取引の所得区分 暗号資産取引により生じた損益は、邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益と認められることから、原則として雑所得(その他雑所得)に区分される(所法35、所基通35-1)。 ただし、その年の暗号資産取引に係る収入金額が300万円を超える場合には、所得区分は次のとおりとなる。 また、事業所得者が、事業用資産として暗号資産を保有し、棚卸資産を購入したときの決済手段として使用する等、暗号資産取引が事業所得の起因となる行為に付随したものである場合には、事業所得に区分される。 なお、雑所得に区分される暗号資産取引から生じた損失は、他の所得から差し引く(損益通算する)ことはできない(所法69➀)。 (2) 暗号資産取引に係る収入の収入すべき時期 暗号資産取引により生じた所得は、(1)で解説したとおり、原則として雑所得(その他雑所得)に区分される。 雑所得のうち公的年金等に係る雑所得以外の収入金額を収入すべき時期は、その収入の態様に応じ、他の所得の収入すべき時期の取扱いに準じて判定した日とされている(所法36、所基通36-12、36-14(2))。 よって、暗号資産取引については、その取引により生じた収入の態様を踏まえ、資産の譲渡による所得の収入すべき時期に準じて判定する。 〈収入すべき時期〉 〈暗号資産取引②〉 【Q4】 暗号資産を1年の間に複数回売買している場合、譲渡原価はどのように計算するのか。 【A4】 総平均法又は移動平均法のいずれかの評価方法により、譲渡原価を算出する。ただし、移動平均法による場合には、納税地の所轄税務署長に対し、「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」を一定の期日までに提出する必要がある。 -解説- (1) 暗号資産の譲渡原価 暗号資産の譲渡原価は、暗号資産の種類ごと(ビットコイン、イーサリアム等、名称の異なるごと)に、以下の計算式で求める(所法48の2、所令119の2、所基通48の2-2)。 (※) 収入金額の5%に相当する金額を譲渡原価とすることもできる(所基通48の2-4)。 このうち③の「年末時点で保有する暗号資産の評価額」は、「年末時点での1単位当たりの取得価額×年末時点で保有する数量」で求められ、「年末時点での1単位当たりの取得価額」は、総平均法又は移動平均法のいずれかの評価方法により算出する(所令119の2)。 (2) 暗号資産の評価方法の届出 暗号資産の評価方法は、暗号資産の種類ごとに選定しなければならない(所令119の3➀)。 具体的には、初めて暗号資産を取得した場合や異なる種類の暗号資産を取得した場合に、「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」を、取得した年分の確定申告期限までに、納税地の所轄税務署長に提出する(所令119の3②)。 なお、届出をしなかった場合には、法定評価方法である総平均法によることになる(所令119の5➀)。 また、選定した評価方法を変更する場合には、変更しようとする年の3月15日までに、納税地の所轄税務署長に対し、「所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書」を提出し、承認を受ける必要がある(※)(所令101②、119の4)。 (※) 変更承認申請書を提出した年の12月31日までに承認又は却下の通知がない場合には、その日において承認があったものとみなされる(所令101⑤、119の4②)。 ただし、現在の評価方法を採用してから3年を経過していないときや、3年を経過していてもその変更に合理的な理由がないと認められるときには、変更が承認されないことがある(所令101③、119の4②、所基通47-16の2、48の2-3)。 なお、暗号資産の税務上の取扱いについては、国税庁より「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」が公表されているので参考にされたい。 〈公的年金等に係る申告不要制度〉 【Q5】 令和4年中に、厚生年金200万円(収入金額)と公的年金等に該当する米国の年金150万円(収入金額)を受給した。令和4年中に他の所得がなければ、公的年金等に係る収入金額が400万円以下となるので確定申告は不要か。 【A5】 米国の年金は、公的年金等に係る源泉徴収の対象となっていないことから、公的年金等に係る申告不要制度は適用できない。よって、確定申告する必要がある。 -解説- その年の公的年金等に係る雑所得を有する居住者で、その年中の公的年金等の収入金額が400万円以下であり、かつ、その年分の公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合には、確定申告をする必要はない(所法121③、「公的年金等に係る申告不要制度」)。 ただし、平成27年分以後の所得税において公的年金等の申告不要制度が適用できるのは、その年中に受給する公的年金等の全部が、所得税法203条の2の規定による公的年金等に係る源泉徴収の対象である場合に限定される(所法121③)。 通常、外国の法令に基づいて支給される年金は、公的年金等に係る源泉徴収の対象となっていないことから、公的年金等に係る申告不要制度を適用することはできない(※)。 (※) 所得控除の額等によっては、結果として確定申告が不要となることもある。 (連載了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第9回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (エ) 暗号資産の取得価額がわからない場合と5%通達の問題 暗号資産を譲渡したが、取引履歴を残していないため、譲渡した暗号資産の取得価額がわからない場合はどうすればいいかという問題がある。 無償で暗号資産が配付される行為であるエアドロップなどにより暗号資産を取得したことがないのであれば、通常は、いくらかでも取得のために金員を支払っており、それが取得価額を構成すると考えられる。 そこで、間接的な証拠をかき集めて、取得価額を推定することもあり得るが、国税庁のFAQ「2-7 暗号資産の取得価額や売却価額が分からない場合」は、次のとおり、暗号資産を取得した場合に売却価額の5%相当額とすることを認めている。 上記のFAQは関係法令等として、所得税基本通達48の2-4を挙げている。同通達は、次のとおり定めている。 国税庁は、暗号資産の売却等に係る所得金額を計算する際には、その売却等をした年の年末(12月31日)時点での一単位当たりの取得価額を総平均法又は移動平均法のいずれかの方法により算出することとしているが(所法48の2①、所令119の2①)、暗号資産を長期間保有している場合や、保有期間中何回も売買が行われている場合には、納税者において法令上の定めに則り正確に取得価額を計算することは困難といったケースも想定されるために、有価証券の譲渡による取得費の計算同様、暗号資産の売買による収入金額の5%相当額を取得価額として計算することとしてもこれを認めると説明している(国税庁「令和元年度税制改正等に伴う所得税基本通達等の主な改正事項について(情報)」7頁)。 上記FAQは、ある暗号資産を500万円で売却した場合において、その暗号資産の取得価額を売却価額の5%相当額である25万円とすることを認めており、これは、つまり、売却価額の95%相当額を暗号資産の譲渡による所得金額とみなすことを認めることを意味している。 暗号資産の場合は、暗号資産の時価が購入した金額の何十倍、何百倍、あるいはそれ以上になることもあり得る。このような場合、上記通達を適用することで、大幅に暗号資産の所得金額を圧縮することが可能となる。 しかしながら、上記通達のような取扱いが認められる法的根拠は明らかではない。 上記のFAQは関係法令等として法令ではない通達しか示しておらず、国税庁の上記説明においても法令上の根拠は明記されていない。いかにも所得税に関する通達が法令上の根拠不明のまま、執行便宜の観点から定めそうな内容ではある。 個人が昭和27年末以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費について、当該収入金額の5%相当額とすることを定める租税特別措置法31条の4第1項のような法令上の根拠は存在しないのである。 そのため、いかに納税者有利の観点から上記通達が運用されるとしても、上記通達は租税法律主義に抵触する可能性がある(憲法30、84)。 ただし、上記通達以外にも、租税特別措置法通達31の4-1は、昭和28年以後に取得した資産についても上記措置法の規定に準じて計算することを認め、所得税基本通達38-16や60-5は土地建物等以外の資産にも拡張してこのような計算をすることを認めており、問題の根は深い(このような通達の取扱いを許容する裁判例等として、京都地裁平成5年10月29日・税資199号706頁、千葉地裁平成13年1月29日判決・税資250号順号8822、岐阜地裁平成25年7月3日判決・税資263号順号12247、国税不服審判所平成20年10月28日裁決・TAINSコード:F0-1-1085参照)。 特に、次の点を考慮すると、無批判に上記通達の取扱いを受け入れることができないことは容易に理解できるであろう。 なお、課税庁が課税処分を行う際にこの通達を適用することや、納税者が不利になるような態様でこの通達を適用することがあり得るのかという点は明らかではない。 上記通達については、次の点も指摘されている(泉絢也=藤本剛平『事例でわかる!NFT ・暗号資産の税務』150頁以下(中央経済社2022)参照)。 かようなリスクに係る指摘は、次の所得税基本通達38-16の解説に触れると、得心がいく。 この通達について、国税庁の主務課の職員が代々執筆を担当している所得税基本通達逐条解説は、「取得費を譲渡収入金額の5%相当額と計算しても課税上特に弊害がないこと」、「この取扱いは、譲渡所得の金額の計算上取得費がそもそもない譲渡資産についても譲渡収入金額の5%相当額の取得費を認めるという趣旨でないことに注意する必要がある」ことに言及している(樫田明ほか編『令和3年版 所得税基本通達逐条解説』503頁(大蔵財務協会2021)。 上記解説には、国税庁の主観的判断によっていかようにでもなりそうな課税上の弊害というモノサシと、恣意的な取扱いを行う際の根拠にもなり得る通達の趣旨解釈の存在が明らかにされている。課税上の弊害がある場合にまで上記通達の適用を認める趣旨ではないとして、個別の事案に応じて通達の適用範囲を限定して、これを不適用とすることは、少なくとも行政レベルでは容易である。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第8回】 「租税条約上の情報交換(地判平29.2.17)(その1)」 ~日星租税協定26条1項及び3項、日蘭租税条約25条1項及び3項、新国税通則法74条の11第1項及び第6項~ 大阪芸術大学教授・米国公認会計士 原 光代 1 概要 国を越えて活動する企業や個人に課される二重課税を是正する一方、租税回避や脱税問題にも対処するため、多くの国・地域は相互協力を前提に租税条約を結んでいる。日本も同条約に基づき、関連国に情報提供を依頼するとともに他国からの情報提供要請に応じている。 本件は、日本に居住する裕福な夫婦の所得税等調査中に、同夫婦が外国の関連会社等を介在させ、所得や財産を海外に移し租税回避を行っているものと見込んだ国税庁が、シンガポール及びオランダの税務当局に関連情報の提供を要請したところ、それら当局から調査を受けることになった同夫婦の子や外国法人が、東京地裁に情報要請の取消しやプライバシー等侵害に対する損害賠償を求めた行政訴訟である。 〈本件の概要図〉 東京地裁は、情報要請の取消しについては要請に処分性はないとして却下、国家賠償請求についても棄却した。原告側は控訴したが、東京高裁は原審の判断を是認し、各控訴を棄却した(※1)。 (※1) 東京高等裁判所平成29年10月26日判決 2 当事者 原告は、本件税務調査対象の夫婦が外国に設立した非公開の有限会社や外国に永住権を持つ子、さらにその子が設立した外国会社である(※2)。 (※2) 平成25年事件(シンガポール関連、原告は息子Z3と非公開有限責任会社MAM)。平成27年事件(オランダ関連、原告は非公開有限責任会社マキス) 調査対象夫婦の夫Z1はメルコグループ創業者で、同グループ持株会社の代表取締役でもある。Z1は2002年オランダに非公開有限責任会社(原告マキス)を設立、翌年にはマキス財団を設立し単独理事となった。同夫婦は同財団にマキス株式の全部を預託、預託証書を発行された。 一方、シンガポールに永住権を有する同夫婦の子(原告Z3)は、全額を出資し2006年に非公開有限責任の投資運営会社(原告MAM)をシンガポールに設立、同取締役に就任した。Z3は2007年、オランダにマキサンを設立、同社はMAMがケイマン諸島の有限会社を介して運用していた投資ファンドの管理に携わった。Z3は、2009年、マキサン株式の全部を父Z1に譲渡、その後マキサンは解散した。Z1夫婦は、2009年マキス株式預託証書をMAMに譲渡したが、2013年マキス株式の全部がマキス財団に譲渡され、同財団はマキスの単独株主となった。 3 税務調査 名古屋国税局は、2012年8月、Z1夫婦に対し、平成21年から23年分の所得税調査の事前通知をし、同年9月、夫婦の自宅で調査をした。同夫婦は相続税の確定申告書も提出していたため、相続税に係る調査も合わせて行われた。同国税局は、MAMが運用する投資信託の内容や運用実態に係る資料、マキス財団が締結した預託証書関係書類の提出を求めたが、夫婦は応じなかった。 4 租税条約に基づく情報要請 (1) IRASへの要請 国税庁は、日星租税協定26条に基づき、2012年「RE:Exchange of Information on Request」と題する書簡をシンガポール政府内国歳入庁(IRAS)に送り、次の情報要請を行った。 一族の外国投資信託に係る所得を把握するには、MAMが投資運用会社になっている信託の内容や運用実績を把握する必要があるが、Z1は関連書類の提出を拒んでいる。Z1は、マキス株式預託証書を譲渡時の時価に比べて著しく低い価格でMAMに譲渡しており、譲渡時の時価との差額がMAMの隠れた利益になっている。当該利益によりMAMの株式価値が増加していれば、単独株主であるZ3は、経済的利益をZ1から受けたことになるから、Z3に対して贈与税を課税する必要があり、その課税額確定のためMAMの財務諸表を得たい。また、Z3は日本の居住者となる可能性があるため、シンガポールでの税務申告内容を確認したいとして、2006年1月から2012年2月末までの詳細情報を要請した。 同要請書には、同要請が日本の法律及び行政実務に則ってなされ、依頼者は日本法令又は行政運営上、当該情報を入手する権限を有し、当国内で可能なすべての情報入手手段は実施済みと記載されていた。 (2) オランダ・ロッテルダム税務署への要請 国税庁は、日蘭租税条約25条に基づき、2012年、「RE:Exchange of Information on Request」と題する書簡をロッテルダム税務署に送り、次の情報要請を行った。 日本の税務当局は、Z1夫婦がマキス株式預託証書は株式ではないとして総合所得から譲渡損失を控除することで所得税を回避したと考えている。そこで、マキス財団と預託証書保有者の間の契約書類を確認し、預託証書の性質を検証する必要がある。また、夫婦が預託証書の保有者としてマキスからの配当を日本で適正に申告しているかを調べるため、マキスとマキス財団の申告書及び資金の流れを確認する必要がある。日本税法では2013年に所得税の更正期限を迎えるため、調査対象期間を2009年1月から2011年12月末として至急情報提供願いたいとし、類似の状況で情報収集・提供ができること、通常の調査でできることは全て尽くしたことを発出者として確認する旨を記載した。 5 被要請国の動き シンガポール、オランダ両国の税務当局は、日本からの要請を受け早急に動いた。IRASは租税条約に基づくと明示し、2013年MAMに対し要請どおりの情報提供を求めた。原告Z3に対しても、シンガポール各口座の取引明細等詳細情報を求めた。ロッテルダム税務署は、租税条約に基づき複数の第三者に課税するための情報収集であるとして、マキスに対し、同社とマキス財団に係る情報を得るため実地監査を行うことを予告、監査時には2009年から2011年までの記録の提出が必要とした。 ((その2)へ続く)
相続税の実務問答 【第79回】 「各相続人の相続税額を計算するときの「あん分割合」と更正の請求」 税理士 梶野 研二 [答] あなたの相続税の申告書に記載した相続税額については、更正の請求事由である「その計算が相続税法等の法令の規定に従っていなかったこと」又は「その計算に誤りがあったこと」には該当しないと考えられます。したがって、あなたの更正の請求は認められません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税額の計算における「あん分割合」 相続又は遺贈(以下「相続等」といいます)により財産を取得した者(以下「相続人等」といいます)に係る相続税額は、その被相続人から相続等により財産を取得したすべての相続人等に係る相続税の総額に、当該相続等により財産を取得した各相続人等の相続税の課税価格が、当該相続等により財産を取得したすべての相続人等に係る相続税の課税価格の合計額のうちに占める割合(以下「あん分割合」といいます)を乗じて算出し(相法17)、さらに各相続人等の属性により、相続税法第18条から第20条の2までの規定に基づく一定の加算又は減算を行い各相続人等の納付すべき相続税額を算出します。 この「あん分割合」の端数処理については、法令に特段の定めは設けられていません。したがって、各相続人等の相続税額の計算における「あん分割合」は、分母を「その相続等により財産を取得したすべての相続人等に係る相続税の課税価格の合計額」、分子を「その相続等により財産を取得した各相続人等の相続税の課税価格」とする分数によることとなります。 しかしながら、相続税の総額にこの分数を乗ずるという計算は、非常に煩瑣なものとなります。そこで、「あん分割合」に小数点以下2位未満の端数がある場合には、納税者の便宜を考慮して、その相続人等の全員が選択した方法により、各相続人等の割合の合計値が1になるよう、その端数を調整して各相続人等の相続税額を計算する方法が認められています(相基通17-1)。 このような調整計算が容認されるのは、現行の相続税の計算の仕組み上、相続人等の属性によって加算又は控除される相続税法の規定や納税猶予に関する租税特別措置法の規定の適用を考慮しなければ、相続人間で「あん分割合」の合計値が1になるような調整を行ったとしても、相続人等が納付することとなる相続税額の合計額に変わりはないためです。 (※) この取扱いは、現行の相続税法基本通達が現在の形になった昭和38年には既に認められていました。当時、申告書作成ソフトはもちろん電卓さえ存在しなかったことを思うと、相続税額の計算は、非常に厄介な作業であったことは想像に難くありません。 一方、相続税法第18条から第22条の2までの規定により相続税額の加算又は控除される相続人等がある場合や、租税特別措置法第70条の6や第70条の7の2などの納税猶予の規定が適用される相続人等がいる場合には、この「あん分割合」の調整の取扱いを適用することによって、「あん分割合」を分数により計算した場合と比較して、有利又は不利な結果が生じることとなります。 2 更正の請求 国税の申告書を提出した者は、その申告書に記載した課税標準等(相続税においては「相続税の課税価格」)若しくは税額等の計算が相続税法その他の国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又はその計算に誤りがあったことにより、納付すべき税額が過大であるときには、法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき減額の更正をすべき旨の請求をすることができます(通法23①)。 3 ご質問の場合 ご質問のケースは、被相続人の配偶者であるお母様の「あん分割合」を分数により計算した場合よりも小さい割合に調整した結果、分数によるあん分計算をした場合に比べて、配偶者の税額軽減額が小さくなってしまい、各相続人が納付する相続税額の合計額が増えてしまったケースです。 確かに、あなたの納付する相続税額は「あん分割合」を分数によった場合に比して増加してしまったかもしれません。しかしながら、上記1の調整計算は、相続税法第17条の解釈として容認されるものであると考えられ、また、相続税の申告が共同申告されていることから、この調整計算による税額計算についてはお母様及び妹さんも合意していたものと認められます。そうしますと、昨年10月に行った相続税の申告については、更正の請求事由である「その申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が相続税法その他の国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又はその計算に誤りがあったことにより、納付すべき税額が過大であるとき」には該当しないと考えられます。 (※) 更正の請求をすることができる場合として、国税通則法第23条第2項及び相続税法第32条第1項の規定がありますが、ご質問の場合には、これらの規定に掲げる事由のいずれにも該当しません。 したがって、あなたが更正の請求をしたとしても、その更正の請求は認められません。 なお、質問の場合とは反対に、「あん分割合」を「分数」によって計算して行った申告について、調整計算による「あん分割合」で相続税額を再計算することを求める更正の請求も認められないと考えられます。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第68回】 「賃貸併用住宅の建築中等に相続が発生した場合における 小規模宅地等の特例の適用の可否」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲(相続開始は令和5年1月16日)は、賃貸併用住宅(区分所有登記はされていません)とその敷地であるA土地を所有し、1階から4階までを賃貸用(8部屋で各部屋の床面積は同一)として5階部分を甲とその配偶者である乙及び長男である丙の居住の用に供していました。 賃貸の用に供して50年以上経過し建物も老朽化してきたため、建替えを行うことになりました。建替え後の建物は、1階から3階までを賃貸用(6部屋で各部屋の床面積は同一)として4階は甲及び乙の居住用として、5階は丙の居住用として利用することになっています。 甲は、令和4年中に工事請負契約を締結し、同年中に建物の取壊しを行っていますが、建物の引渡しを受ける前に相続が発生しました。甲の相続人は乙及び丙の2人ですが、全ての財産及び債務は丙が承継しています。工事請負契約に係る残代金は、丙が令和5年3月1日に支払い、同日に建物の引渡しを受け、丙名義で建物の登記を行い、同月中に4階部分は乙の居住用として、5階部分は丙の居住用として利用しています。 なお、従前建物の賃借人には立退料を支払い、新たに賃借人を募集し、相続税の申告期限までに6部屋中5部屋は賃貸の用に供していますが、残りの1部屋については、引き続き募集中の状況となります。 工事請負契約の内容等は、下記のとおりですが、相続開始時における工事進捗率が50%で工事の未払金が80,000千円あります。 この場合におけるA土地及び建物に係る相続財産に計上する金額と小規模宅地等に係る特例の適否はどうなりますか。 なお、甲はA土地及び建物以外は、貸付事業を行っていませんので、事業的規模以外の貸付事業に該当します。 【工事請負契約の内容】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 [A] A土地及び建物に係る相続財産に計上する金額は、下記のとおりとなります。 小規模宅地等の特例の適用は、下記のとおりとなります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 建築中の家屋の評価 建築中の家屋は、下記のとおり評価することになります(評基通89、91)。 費用現価の額とは、相続開始日までにその家屋に投下された建築費用の額を、課税時期の価額に引き直した額の合計額のことをいいます。実務的には、工事請負金額に工事進捗率を乗じて計算することになりますので、課税時期における工事進捗率を建築会社に確認することになります。 本問の場合には、費用現価の額は、100,000,000円(200,000,000円×50%(工事進捗率))となります。 2 工事請負金額に係る債権債務 上記1で計算した費用現価の額は、工事完了金額を意味しますので、その工事完了金額に対して既に支払っている金額が大きい場合には、その超過部分については前渡金として相続財産となり、反対にその工事完了金額に対して既に支払っている金額が少ない場合には、その不足部分については未払金として相続債務となります。 本問の場合には、20,000,000円(60,000,000円+60,000,000円-200,000,000円×50%)が前渡金として相続財産となります。 3 借家権控除の適用の可否 借家権の減額の趣旨は、利用について制約を受け、借家権を消滅させるためには立退料の支払いが必要になるためとされていますので、相続開始時点において、建物の賃貸借契約が開始されていない場合には、原則として、借家権控除の適用はありません。 本問の場合には、従前建物の入居者に対して、立退料を支払っていますので、相続開始時点において立退料の支払いが発生する要因はありませんので、自用地及び自用家屋として評価することになります。 4 一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合における貸付事業用宅地等の特例の適用 貸付事業用宅地等の特例については、課税時期の直前において貸付事業の用に供されていない部分は認められませんが、一時的に賃貸されていなかったと認められる部分については、貸付事業用宅地等に該当するものとされています(措通69の4-24の2)。 国税庁からの情報(資産課税課情報第9号 令和3年4月1日(事例6) 共同住宅の一部が空室となっていた場合(参考))においては、空室部分の特例が認められる場合として、下記のとおり説明がなされています。 (下線部は筆者による) 本問の場合においては、6部屋中1室については、まだ空室となりますが、入居者を募集しており、いつでも入居可能な状態に空室を管理していれば、継続賃貸として取り扱うことができることになります。 なお、新たに貸付事業の用に供する建物等を建築中である場合には、租税特別措置法関係通達69の4-5(事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合)の取扱いがある場合を除き、貸付事業用宅地等に該当しないこととされていますので、賃貸住宅の建替えではなく、新たに賃貸住宅を建築する場合には、貸付事業用宅地等には該当しないことになります。 本問の場合には、下記6に記載のとおり、租税特別措置法関係通達69の4-5の取扱いが適用されることになります。 5 新たに貸付事業の用に供された宅地等がある場合の貸付事業用宅地等の特例との関係 平成30年度税制改正により、貸付事業用宅地等の範囲から被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の貸付事業の用に供されていた宅地等で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を除くこととされました。 ただし、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち、準事業以外のものをいう)を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供されたものは、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供されたものであっても、その範囲から除かれないこととされました(措法69の4③四、措令40の2①⑦⑲)。 「新たに貸付事業の用に供された宅地等」がある場合の判定手順は、【第40回】で解説の通り、下記の手順となります。 まず、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」があるか否かの判定となりますが、継続的に賃貸されていた建物等につき建替えが行われた場合において、建物等の建替え後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、賃貸されていたとき(当該建替え後の建物等を貸付事業の用以外の用に供していないときに限ります)は、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」には該当しないものとされています。 ただし、建替え後の建物等の敷地の用に供された宅地等のうちに、建替え前の建物等の敷地の用に供されていなかった宅地等が含まれるときは、その供されていなかった宅地等については、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当します(措通69の4-24の3)。 本問の場合には、たとえ相続開始前に建物の引渡しを受け賃貸されていたとしても、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないことになります。 6 建築中等に相続が開始した場合における小規模宅地等の特例の適否 小規模宅地等の特例は、相続開始の直前において、被相続人又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等を対象としています(措法69の4①)。したがって、その宅地等が相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていることが要件となりますので、建築中に相続が発生した場合には、相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されておらず、小規模宅地等の特例の適用を受けることができないことになります。 しかしながら、事業や居住の継続の観点から一時点で判断することは適当ではありませんので、建築中等に相続が開始した場合には、租税特別措置法関係通達69の4-5、69の4-8において救済措置があります。その内容は下記のとおりとなります。 租税特別措置法関係通達69の4-5(事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合) (下線部及び①から④の番号は筆者による) 租税特別措置法関係通達69の4-8(居住用建物の建築中等に相続が開始した場合) (下線部及び①から④の番号は筆者による) 本問については、下記の要件等に留意する必要があります。 ① 建築中の建物等の所有者の要件 建築中の建物等の所有者は、被相続人又は被相続人の親族に限られます。 本問の場合には、丙が所有者で被相続人の親族ですので、要件は満たされることになります。 ② 相続開始直前における利用見込要件 建築中の建物等が被相続人又は生計一親族の事業の用又は居住の用に供する見込みである必要があります。その利用見込要件の判定は相続開始直前において行うこととされていますので、相続開始時点における工事請負契約で建築される建物の利用見込状況に応じて判定することになります。 なお、被相続人の居住の用に供されていた建物が一棟の建物(区分所有建物である旨の登記がされている建物を除く)である場合には、その一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等として取り扱います(措令40の2④、措通69の4-7)ので、本問の場合には、4階及び5階部分は、被相続人の居住の用に供される見込みであるものとして取り扱います。 ③ 相続税の申告期限における供用要件 原則として、相続税の申告期限までに事業の用又は居住の用に供することが必要となりますが、相続税の申告期限までに事業の用又は居住の用に供していない場合でも、完成後、速やかに事業の用又は居住の用に供することが確実であれば、供用要件は充足しているものとして取り扱われます。 ④ 事業又は居住部分の範囲 事業用宅地等の部分は、建築中の建物等の敷地のうち被相続人等の事業の用に供されると認められるその建物等の部分に対応する部分に限られ、居住用宅地等も同様の考え方になります。したがって、1階から3階部分までが事業用宅地等になり、4階及び5階部分が居住用宅地等となります。 本問の場合には、宅地等及び建物を取得した丙は被相続人の親族であり、相続開始の直前において1階から3階は被相続人の貸付事業用宅地等として、4階及び5階は被相続人の居住用宅地等として利用される見込みであり、かつ、相続税の申告期限までに貸付事業の用又は居住の用に供されていますので、上記の通達の適用の範疇となります。 ★実務上のポイント★ 賃貸併用住宅を建築中に相続が発生した場合には、特定居住用宅地等及び貸付事業用宅地等の要件と関連する通達や国税庁情報を確認しながら、慎重に特例の適否を判断する必要があります。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第45回】 「弔慰金の支給に係る論点」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 法人税法上の取扱い 役員が死亡した場合、死亡に伴う役員退職給与を支給することは実務上の頻出論点である。この場合、いわゆる過大役員給与に該当しないために功績倍率などに留意すべきであることは、本連載各所で触れてきたとおりである。 ここで、弔慰金については、法人税法上ダイレクトに規定するものはなく、社会通念上適正な額であれば損金算入が認められると認識されている。 弔慰金を役員退職給与と別途支給したことについて損金算入の是非が争われた裁判例をみると、死亡した役員の「最終報酬月額・・・に不相当に高額な部分はなく、相続税法基本通達3-20 の取扱いに準じて判断すると・・・全額損金算入が認められる」とされていること(※1)、そして、国税庁HP上の質疑応答事例「贈与税の対象とならない弔慰金等」において、法人から支給を受けた弔慰金について、相続税法基本通達3-20に準拠したものについては「社会通念上相当と認められるもの」と示されていることからも、実務上、一般的には相続税法基本通達3-20に準拠する額であれば、弔慰金としての支給が損金算入されるものとして取り扱われている。 (※1) 大分地裁平成21年2月26日判決(税務訴訟資料259号順号11147、TAINS:Z259-11147)。なお、併せて支給された功労金等については「比較法人の平均功績倍率及び乙の創業者としての功績等固有の事情を踏まえて、功績倍率3.5で算出される範囲内の役員退職給与であれば相当であると認められるものの、これを超えた部分については名目の如何にかかわらず、過大な役員退職給与として損金算入を認めることはできない(下線部筆者)」として、弔慰金以外の名目であれば、過大な役員退職給与として損金算入の是非を判断すべき旨が示されている。 なお、社会通念上適正とされる額を超えた場合には、弔慰の趣旨を超えたものとして役務提供の対価たる退職給与に当たることとなる(※2)。 (※2) 同旨が示された裁判例として、大阪地判昭和44年3月27日判決(訟務月報15巻6号721頁、TAINS:Z056-2416)がある。 (2) 所得税法上の取扱い 役員が死亡したことにより支給を受けた退職給与は、一般的に、死亡後に支給期が到来し、相続税の課税価格計算の基礎に算入されるため、所得税は課されない(所基通9-17)。 同様に、弔慰金についても、社会通念上相当と認められるものは所得税が課されない(所基通9-23)。 (3) 相続税法上の取扱い 役員の死亡によって相続人が退職給与の支給を受けた場合、それが被相続人たる役員の死亡後3年以内に支給が確定した場合、みなし相続財産として相続税の課税対象とされる(相法3①二)。他方、同じく役員の死亡により相続人が弔慰金の支給を受けた場合、相続税法基本通達3-20により、一定額を超える部分のみがみなし相続財産とされることとなる。 上記通達は、弔慰金等に該当する額の計算基礎を「賞与以外の普通給与」としていることから、定期同額給与としての支給額に注目すべきであることがよく分かる。また、「死亡当時における」とされていることから、いわゆる最終報酬月額と呼ばれる「役員の退職の直前に支給した給与の額」(法基通9-2-27の3(注))と同義であると認識して差し支えないと考えられる。 (4) 最終報酬月額が低額である場合 ここで、最終報酬月額が低額となるケースは、以下の①及び②のようなことが考えられるが、弔慰金を対象としてダイレクトに争点となった裁判例・裁決例は筆者が調査した限り存在しない。したがって、近接論点について示された裁判例等をヒントに検討してみたい。 ① 事前確定届出給与制度を利用して社会保険料を削減している場合 【第7回】で触れたように、社会保険料等を削減する目的で事前確定届出給与制度を利用し、役員報酬としての年間総支給額を変えずに定期同額給与額を減少させるケースは今なお見聞するところである。 このような場合において、不幸にも対象役員が死亡し、弔慰金の支給があった場合において、相続税法基本通達3-20の「死亡当時における賞与以外の普通給与」に該当するか否かの判断はどのようにすべきだろうかという疑問が浮かぶ。この点、【第7回】で述べた通り、筆者は最終報酬月額について、あくまでその月に支給した月額給与であるとする見解を支持しているところである。相続税法基本通達3-20では、「賞与」が弔慰金の判定から除かれているが、所得税基本通達183-1の2(注1)では、事前確定届出給与制度によって役員に支給された給与は「賞与」である旨が示されていることから、事前確定届出給与によって支給された給与は相続税法基本通達3-20の対象外と考えるべきだろう。 ② 年金を受給するために定期同額給与額を減少させている場合 また、事前確定届出給与制度を用いていない場合において、「年金を満額受給したい」という理由で、前年度に比して定期同額給与額を大幅に減少させるケースも考えられる。この場合において対象役員に相続が発生した場合には、より判断が困難となる。最終報酬月額は、その役員の法人に対する長年の貢献度が適切に反映されていることを前提としているため、年金を満額受給したいという個人的な理由で法人からの支給額を減少させたことについて、どのように捉えるかが困難であるためである。 ところで、役員退職給与の損金算入限度額の判断について、退任役員らの最終報酬月額が在職期間中の職務内容等からみて著しく低額であるような特段の事情がある場合には、最終報酬月額を計算の基礎としない1年当たり平均額法によって算定すべき旨が示される裁判例として、札幌地裁昭和58年5月27日判決がある(※3)。ここで、功績倍率法に加え、1年当たり平均額法が認められているのは、裏を返せば、最終報酬月額が著しく低額であるケースが存在すること自体が認められているからであるとも考えられる。 (※3) 行政事件裁判例集34巻5号930頁、TAINS:Z130-5203。詳細は【第29回】参照。 このように考えれば、弔慰金においても、最終報酬月額が著しく低額であるような特段の事情がある場合、そのような事情は斟酌されて然るべきであるとも考えられる。また、最終報酬月額が5万円であることが低額すぎるとして、息子である後継者の報酬月額との合計額の1/2を採用して最終報酬月額とされたケースもあるため(※4)、本来適正とされる最終報酬月額が採用される余地も否定できない。 (※4) 高松地裁平成5年6月29日判決(判例時報1493号65頁、TAINS:Z195-7150)。本件については、木村浩之「法人税の解釈をめぐる論点整理《役員給与》編【第9回】」プロフェッションジャーナル2013年3月7日号参照。 もっとも、通達上は「賞与以外の普通給与」と明記されているため、仮に最終報酬月額が低額であったとしても、課税庁のスタンスは当該最終報酬月額を用いることに変わりなく、税務調査等で争いを避けるためには最終報酬月額を採用することが無難であることは明らかである。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第48回】 「適格現物分配を行った場合の現物分配法人、被現物分配法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格現物分配を行った場合の現物分配法人、被現物分配法人の取扱いについて解説します。 1 適格現物分配があった場合の現物分配法人の取扱い (1) 資産の譲渡 現物分配法人が適格現物分配により被現物分配法人にその有する資産の移転をしたときは、現物分配時の帳簿価額による譲渡をしたものとします(法法62の5③)。 (2) 適格現物分配により減少する利益積立金額 ① 剰余金の配当等 剰余金の配当等が適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において交付資産の帳簿価額に相当する金額の利益積立金額の減少を認識します。 ② 資本の払戻し 資本の払戻しが適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する利益積立金額は、次の算式で計算します。 ③ 自己株式の取得 自己株式の取得が適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する利益積立金額は、次の算式で計算します。 (3) 適格現物分配により減少する資本金等の額 ① 剰余金の配当等 剰余金の配当等が適格現物分配により行われた場合には、資本金等の額は減少しません。 ② 資本の払戻し 資本の払戻しが適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する資本金等の額は、次の算式で計算します。 ③ 自己株式の取得 自己株式の取得が適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する資本金等の額は、次の算式で計算します。 (4) 源泉徴収 適格現物分配による配当金の額については、源泉徴収する必要がありません。 (5) 具体例①(剰余金の配当等) ① 前提 ② 現物分配法人の税務仕訳 (6) 具体例②(資本の払戻し) ① 前提 ② 現物分配法人の税務仕訳 (※1) 減少する資本金等の額=現物分配直前の資本金等の額(5,000)×減少する資本剰余金の額(1,000)/前事業年度終了時の簿価純資産価額(10,000)=500 (※2) 減少する利益積立金額=交付資産の帳簿価額(1,000)-減少する資本金等の額(500)=500 2 適格現物分配があった場合の被現物分配法人の取扱い (1) 資産の取得 被現物分配法人が適格現物分配により現物分配法人から資産の移転を受けたときは、被現物分配法人が取得する資産の取得価額は、現物分配法人の現物分配直前の帳簿価額となります(法法62の5⑥、法令123の6①)。 (2) 剰余金の配当等 剰余金の配当等が適格現物分配により行われた場合には、移転を受けた資産の帳簿価額 相当額が益金不算入となります(法法62の5④)。 適格現物分配の場合には、受取配当等の益金不算入の規定ではなく、適格現物分配の益金不算入の規定により、全額益金に算入されません。 (3) みなし配当 資本の払戻しや自己株式の取得が適格現物分配により行われた場合には、被現物分配法人においてみなし配当を計算し、みなし配当相当額が適格現物分配に係る益金不算入の対象となります。 みなし配当の金額については、次の算式で計算します。 (4) 現物分配法人株式の譲渡損益 資本の払戻しや自己株式の取得が適格現物分配により行われた場合には、被現物分配法人においてみなし配当を認識するとともに、被現物分配法人の有していた現物分配法人株式の一部を譲渡したものとして取り扱います。 ただし、適格現物分配は、完全支配関係のある内国法人からの現物分配であるため、現物分配法人株式の譲渡損益は認識されず、譲渡損益相当額は資本金等の額の増減として処理することとなります。 (5) 具体例①(剰余金の配当等) ① 前提 ② 被現物分配法人の税務仕訳 (※) 適格現物分配に該当するため全額益金不算入。 (6) 具体例②(資本の払戻し) ① 前提 ② 被現物分配法人の税務仕訳 (※1) 現物分配法人株式の譲渡原価=現物分配直前の帳簿価額(4,000)×B社にて減少する資本剰余金の額(1,000)/B社の前事業年度終了時の簿価純資産価額(10,000)=400 (※2) みなし配当の金額=移転を受けた資産の帳簿価額(1,000)-現物分配法人の資本金等の額のうち払戻しに対応する部分の金額(500)=500 (※3) 完全支配関係のある内国法人からの現物分配であるため、譲渡損益に相当する100円は資本金等の額の加算として処理されます。 ◆適格現物分配を行った場合の現物分配法人、被現物分配法人の取扱いのポイント◆ 現物分配法人は移転資産を帳簿価額で譲渡したものとされ、譲渡損益は生じません。 現物分配法人において減少する利益積立金額、資本金等の額の計算が必要です。 被現物分配法人に移転する資産の取得価額は、現物分配直前の帳簿価額となります。 被現物分配法人が受ける配当の全額が益金不算入となります。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第137回】 株式会社TOKAIホールディングス 「特別調査委員会調査報告書(開示版)(2022年12月14日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社TOKAIホールディングス特別調査委員会の概要】 【株式会社TOKAIホールディングスの概要】 株式会社TOKAIホールディングス(以下「TOKAI」と略称する)は、2011(平成23)年設立。設立母体となったのは、株式会社ザ・トーカイ及び株式会社ビック東海。エネルギー事業、情報通信事業等を行う子会社等の経営管理及びそれに付帯又は関連する業務を主たる事業とする持株会社であり、子会社36社及び関連会社10社を擁している。売上高210,691百万円、経常利益15,907百万円、資本金14,000百万円。従業員数4,407名(2022年3月期連結実績)。本店所在地は静岡県静岡市。東京証券取引所プライム市場上場。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ静岡事務所(以下「監査法人トーマツ」と略称する)。 【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 代表取締役常務執行役員で経営管理本部長の中村俊則氏(報告書上の表記は「C4氏」。以下「中村取締役」と略称する)は、遅くとも2022年4月頃には、鴇田前社長の行動について、次のような疑義を有していた。 中村取締役は、こうした疑義について、常勤監査役である村田孝文氏(報告書上の表記は「C7氏」。以下「村田監査役」と略称する)と認識を共有し、後に、特別調査委員会委員長に選任されることになるモリソン・フォースター法律事務所の吉村龍吾弁護士(報告書上の表記は「H1氏」)らの指導・助言を受けながら、取締役会の構成メンバーに、鴇田前社長の解職のための取締役会決議に向けて準備を進めた。 2022年9月15日開催の取締役会では、社内取締役6人による緊急動議として、以下の8項目が説明され、特別利害関係人に該当する鴇田園社長が退出する中で、審議・可決された。 本決議に基づいて、9月22日に特別調査委員会が設置され、調査が開始されたが、10月11日、監査役会による「より客観性が担保された調査を実施すべきである」という意見を踏まえて、委員長であった吉村龍吾弁護士と委員で社外取締役の河島伸子氏(報告書上の表記は「C3氏」)に変えて、委員長に中原健夫弁護士、委員に平井太弁護士を選定し、委員会の構成を変更している。 2 特別調査委員会の調査により判明した業務との関連性が疑われる経費 特別調査委員会は、鴇田前社長が使用した経費について、TOKAIグループとの業務関連性が確認できなかった又は業務関連性に疑義が残る交際費、旅費交通費及びその他の経費の2017年3月期から2022年3月期の各会計期間及び2022年4月から9月までの期間の金額は10,196千円であったと調査結果をまとめている(2022年12月28日付「(訂正)「特別調査委員会の調査報告書公表に関するお知らせ」の一部訂正について」で、この金額は、10,086千円に訂正された)。 また、VILLA蓼科における女性コンパニオンとの混浴問題については、特別調査委員会は、TOKAI法務室の指摘を引用して、「世間に知れ渡ることにより当社の信用が低下するリスク」が当然存在しており、上場企業であるTOKAIはこうしたレピュテーショナルリスクも踏まえて混浴を実施しない又は中止するという判断がなされてしかるべきであったにもかかわらず、女性出張コンパニオンのクレーム及び取引先の指摘という二度の契機がありながらも混浴が継続されていたことは遺憾であると指摘せざるを得ないという判断を示している。 3 原因分析(調査報告書123ページ以下) 特別調査委員会は、原因分析として次の9項目を挙げている。 2009年10月にTOKAIの前身の1つである株式会社ザ・トーカイの代表取締役に就任して以来、長く経営トップに君臨してきた鴇田前社長に対する牽制機能がまったく発揮されなかったことが、さまざまな事実認定から分析されると同時に、いわゆる3線ディフェンスのすべてが、無効化されてしまっていることが指摘されている。 4 再発防止策の提言(調査報告書134ページ以下) 特別調査委員会が提言した再発防止策は、原因として挙げた「不十分」であった項目の改善を求めるものとなっており、次の10項目が挙げられている。 再発防止策の提言にはよく見られる表現である「風通しのよい企業風上の形成」について、特別調査委員会による具体策を検討したい。提言は、「TOKAI代表取締役社長を含む経営陣が率先して風通しのよい企業風土を実現に向けて適切な言動をとる」とともに、「TOKAIグループの役職員が、経営陣らについて何らか問題点を把握した場合には、不利益な取扱いを受けることを懸念することなく、直接の進言、職制上のレポーティングラインでの報告・相談、内部通報窓口への通報等の方法により問題点を指摘することができる」ための各種施策を策定し、実行していくことによって、風通しのよい企業風土を形成すべきであるとしている。 さらに、「適切な事後処置」として、特別調査委員会は、TOKAIがさらなる調査を行うことの要否を検討するとともに、法的責任の有無及び範囲の検討を行ったうえで、TOKAIグループに生じた損害に相当する金額等については、鴇田前社長らとの間で適切に精算されるべきであるとして、提言を結んでいる。 【調査報告書の特徴】 本文だけで138ページ、さらに、解職された鴇田前社長及びその代理人弁護士から提出された書面が29ページ別紙として添付された大部の報告書であるが、結論は、業務との関連性に疑義がある支出は、調査対象とされた6年半の期間合計で約1,000万円に過ぎないものであった。解職動議が提出された時にすでに77歳を超えていた鴇田前社長が、たとえば、70歳を契機に経営の第一線から退くといった決断ができていたら、経済産業省出身の元官僚でありながら、業容拡大を成し遂げた経営者として、晩節を汚すこともなかったのではないかと考えてしまう。 1 取締役会における緊急動議の決議に至るプロセス(調査報告書32ページ以下) 大部の報告書で最も読み応えのある部分が、中村取締役と村田監査役が主導して、鴇田前社長の解職のための取締役会決議に向けた準備工作の記載であろう。社内取締役4人に対する根回しの順序には、鴇田前社長との距離感がうかがえて興味深い。また、社外取締役3人のうち、2021年6月に就任したばかりの河島取締役を除く2人には、解職を求める動議が事前に漏れないようにとの理由から、事前説明をしないことを決めている。 特別調査委員会は、原因分析の中で、とくに、「社内役員が社外役員から鴇田前社長への情報の還流を懸念していたこと」という項目を挙げて、社内役員らが一部の社外役員は鴇田前社長と近い関係にある等と認識していたため、情報還流の可能性を懸念して、取締役会における解職等動議を提出することを事前に相談することを差し控えたという説明を受けたことから、鴇田前社長の問題点を社外役員に相談するという意識を持ちづらかったと分析している。 2 鴇田前社長による抗弁・反論 調査報告書には、鴇田前社長が特別調査委員会委員長にあてた書面が4通、別紙として添付されている。書面で展開されている鴇田前社長及びその代理人弁護士による抗弁・反論の概要は次のとおりである。 なお、女性コンパニオンとの混浴問題については、鴇田前社長の代理人弁護士から、以下のようなコメントが出されている。 主催者であった鴇田前社長の立場と、その命令に従ったに過ぎない他の役職者及び招待されただけの参加者などの立場を同一に論じていることについては、違和感を持たざるを得ない。「会社の役職者もVIPである社会的地位のある方々も品位を欠く行為を行っていた」ことに間違いはないと考えるが、代理人弁護士は「品位を欠くかどうか」については「客観的に判断されるべき」としているものの、見解は示していない。 3 TOKAIによる再発防止策と関係者の処分 TOKAIは、2022年12月23日、「再発防止策及び関係者の処分に関するお知らせ」をリリースして、同日開催の取締役会において、再発防止策及び関係者の処分を決議したことを公表した。 (1) 再発防止策 TOKAIが取締役会で決議した再発防止策は次のとおりである。 (2) 関係者の処分 TOKAIが公表した、関係者の処分内容は、次のとおりである。 4 2021年10月に発覚した子会社従業員による不正 TOKAIは、2021年10月8日付「当社子会社元従業員による不正行為について」をリリースして、名古屋国税局による税務調査により、子会社である株式会社ザ・トーカイ及び東海ガス株式会社の元従業員による不正が発覚したことを公表した。その後、同年12月24日に、「当社子会社元従業員による不正行為に係る調査結果のお知らせ」をリリースして、顧問弁護士を委員長とする社内調査委員会による調査結果を公表している。 (1) 不正の概要 ザ・トーカイの元従業員(行為者A)は、自身が受注した大型太陽光発電設備工事・空調設備工事において、下請業者に指示し実体のない工事代金を請求させて、自身の親族が代表を務める事業者を経由して不正な利益を得ていたものであり、2014年2月から2021年7月までの間の被害総額は173百万円であった。 東海ガスの元従業員(行為者B)は、会計システムから出力される支払いデータの中に、自身の銀行口座に対する振込データを追加し、送金することで不正な利益を得たものであり、2014年3月から2020年6月までの間の被害総額は368百万円であった。 (2) 関係者の処分 調査結果の概要では、行為者Aは懲戒解雇処分、行為者Bは不正発覚後の2021年8月に死亡していることが記載されており、ほかに、両社の代表取締役以下複数の取締役が、「経営管理責任を明確にする」との名目で、月額報酬減俸10%の処分を受けている。 なお、当時、親会社であるTOKAIの代表取締役であった鴇田前社長は、両社の取締役を兼務していたが、社内処分の対象ではなく、報酬の自主返納も行っていない。 (3) 過年度損益の修正 調査結果の概要によれば、これらの不正行為に係る修正額の影響は不正取引が行われた事業年度の各利益項目の1%程度と僅少であることから、過年度の財務諸表の訂正は行わないことが説明されている。 (4) 会計監査人であるトーマツの反応 調査結果の概要には、会計監査人である監査法人トーマツがこれらの不正に関してどのように判断を行っているかの説明はなく、過年度損益の修正を行う必要性に関しても、見解は表示されていない。 一方、特別調査委員会による報告書では、監査法人トーマツから厳しい指摘を受けたことが記載されている(調査報告書33ページ)。これらの不正事案に係る調査の過程において、中村取締役は、会計監査人である監査法人トーマツより、TOKAIの内部統制に関する統制環境や2件以外の不正の有無を厳しく問われ、場合によっては無限定適正意見を出せなくなる可能性があることについても言及されるとともに、統制環境に改善の雰囲気が出てこなければ、監査法人トーマツ内において、TOKAIとの今後の監査契約は締結できないとの意見が出る可能性があるとの認識を示されており、中村取締役は、村田常勤監査役とは、こうした指摘を受けたという情報を共有していた。 (5) 問題点 グループの経営トップである鴇田前社長が、子会社における不正をどのように受け止めていたのかは不明であり、鴇田前社長が特別調査委員会にあてて提出した書面にも一切言及はない。社内調査委員会による調査にとどめたことで、鴇田前社長の取締役としての経営管理責任が不問にされたうえ、監査法人による厳しい指摘が鴇田前社長に伝えられなかったことによって、鴇田前社長に経営トップとして襟を正すべきであるという進言をする機会を逸してしまったように感じられる。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2023年1月】 第3四半期決算(2022年12月31日) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第3四半期決算(2022年12月31日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 基本的に2022年10月1日から12月31日までに公開した速報解説を対象としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会から、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(改正企業会計基準第27号)等が公表されている。 これは、次の2つの論点についての取扱いを示すものである。 2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。 上記の改正を受けて、日本公認会計士協会の実務指針等(「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第4号)等)も改正されている。 Ⅲ 『経団連ひな型』の改訂 日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会は、「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」(改訂版)を改訂している。 これは、2023年3月以降開催の株主総会で、株主総会資料の電子提供制度が始まることなどに対応するものである。 Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査に関連して、次のものが公表されている。 〇 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」の改正(内容:EDINETで提出する監査報告書関係のQ&Aなどを追加) Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 コーポレートガバナンス改革と監査役等スタッフの実態に関する考察(内容:監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社の実務面での違い、導入する企業数が増えた監査等委員会設置会社のガバナンス、監査役スタッフの役割について研究) Ⅵ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2022年4月1日以後に適用されるものとして、次の会計基準等がある。 ① 「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(2021年8月12日、実務対応報告第42号)(内容:グループ通算制度の適用に関する会計処理及び開示) ② 「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(2021年6月17日、改正企業会計基準適用指針第31号)(内容:投資信託の時価の算定と貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価についての取扱い) また、「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(2022年8月26日、実務対応報告第43号)については、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。 ただし、実務対応報告の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することができる。 (了)
給与計算の質問箱 【第37回】 「賃上げした場合の手取の増加額と企業の負担増加額」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 当社では従業員の賃上げを検討しています。基本給を10%又は20%賃上げした場合、給料の手取額はどの程度増えるものなのでしょうか。また、企業の負担はどの程度増えるものなのでしょうか。 A 基本給を10%又は20%賃上げした場合の給料の手取額及び企業の負担増加額は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 基本給を10%賃上げした場合 基本給20万円を10%賃上げして22万円にした場合、30万円を10%賃上げして33万円にした場合、40万円を10%賃上げして44万円にした場合の手取の増加額及び企業の負担増加額を次の〈図表1〉にまとめた。 〈図表1〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 図表における計算条件(後述の〈図表2〉も同様) まず、2万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の16,449円増加する。手取額の増加率は同程度の9.8%である。 3万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の23,368円増加する。手取額の増加率は同程度の9.4%である。 4万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の32,643円増加する。手取額の増加率は同程度の9.9%である。 次に、企業の負担増加額について、2万円賃上げした場合、同程度の19,562円増加する。3万円賃上げした場合、同程度の29,479円増加する。4万円賃上げした場合、同程度の37,428円増加する。ただし企業負担額は経費になるので、税負担は減少する。 2 基本給を20%賃上げした場合 基本給20万円を20%賃上げして24万円にした場合、30万円を20%賃上げして36万円にした場合、40万円を20%賃上げして48万円にした場合の手取の増加額及び企業の負担増加額を次の〈図表2〉にまとめた。 〈図表2〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 まず、4万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の32,898円増加する。手取額の増加率は同程度の19.7%である。 6万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の49,107円増加する。手取額の増加率は同程度の19.7%である。 8万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の65,287円増加する。手取額の増加率は同程度の19.9%である。 次に、企業の負担増加額について、4万円賃上げした場合、同程度の39,124円増加する。6万円賃上げした場合、同程度の58,446円増加する。8万円賃上げした場合、同程度の74,856円増加する。ただし企業負担額は経費になるので、税負担は減少する。 (了)