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基礎から身につく組織再編税制 【第45回】「適格現物分配」

基礎から身につく組織再編税制 【第45回】 「適格現物分配」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   前回は組織再編税制における「現物分配」に関する基本的な考え方を解説しました。今回は、適格現物分配の要件について解説します。   1 適格現物分配の要件 適格現物分配の要件は、次の2つです(法法2十二の十五)。   2 内国法人から内国法人への現物分配に該当すること 「内国法人から内国法人への現物分配に該当すること」とは、内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者が内国法人(普通法人又は協同組合等に限ります)のみであるものをいいます。   3 完全支配関係があること 「完全支配関係があること」とは、現物分配の直前において被現物分配法人と現物分配法人との間に完全支配関係があることをいいます。合併等と違い、完全支配関係の継続までは求められていません。 (1) 当事者間の完全支配関係 現物分配直前に、内国法人Aと内国法人Bとの間に完全支配関係があることが求められます。 (2) 同一の者との間の完全支配関係 現物分配直前に、内国法人Cと内国法人Dと内国法人Eとの間に同一の者による完全支配関係があることが求められます。   4 適格現物分配に該当しないもの (1) 現物分配を受ける株主が個人の場合 適格現物分配になるための要件は、現物分配により資産の移転を受ける者が内国法人との間に完全支配関係がある内国法人のみであることとされているため、下図のように、個人が現物分配により資産の移転を受ける場合には、非適格現物分配になります。 (2) 現物分配を受ける株主に外国法人がいる場合 適格現物分配になるための要件は、現物分配により資産の移転を受ける者が内国法人との間に完全支配関係がある内国法人のみであることとされているため、外国法人が現物分配により資産の移転を受ける場合には非適格現物分配になります。 〇留意点 個人、外国法人に対する現物分配があった場合には、内国法人に対する現物分配も含めて全体が非適格現物分配になります。   5 具体例 ① 法人株主と個人株主がいる場合 〔前提〕 〇適格要件の判定 金銭による配当と金銭以外の配当が行われた場合には、別々の取引が行われたものとして考えます。この場合、Cに対する配当は金銭によってなされたものであるため、現物分配を行ったとは考えず、A社に対してのみ現物分配を行ったと考えます。現物分配により資産の移転を受ける者が内国法人との間に完全支配関係がある内国法人のみとなるため、適格現物分配に該当します。 ② 現物分配後に完全支配関係が継続しない見込みの場合 〔前提〕 〇適格要件の判定 現物分配を行った後に現物分配法人を売却することを予定している場合においても、現物分配を受ける者が内国普通法人であり、現物分配直前に完全支配関係がある限り、適格現物分配に該当します。合併等で求められているような完全支配関係の継続は、現物分配では要求されていません。   ◆適格現物分配の要件のポイント◆ 現物分配を受ける者は、内国法人(普通法人・協同組合等)のみに限られています。 現物分配を個人、外国法人が受ける場合には、非適格現物分配に該当します。 完全支配関係が現物分配直前にあることが求められています。 合併等と違い、完全支配関係の継続は求められていません。   (了)

#No. 491(掲載号)
#川瀬 裕太
2022/10/20

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第2回】「グラクソ事件(最判平21.10.29)(その2)」~租税特別措置法66条の6、日星租税条約7条1項、ウィーン条約法条約32条~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第2回】 「グラクソ事件(最判平21.10.29)(その2)」 ~租税特別措置法66条の6、日星租税条約7条1項、ウィーン条約法条約32条~   税理士 中野 洋     7 判示2(コメンタリーが「解釈の補足的手段」となること) 本最高裁判決においては、もう1つ重要な判示がなされた。本件において、OECDモデル条約コメンタリー(以下、単に「コメンタリー」)が、「ウィーン条約32条にいう『解釈の補足的な手段』として参照されるべき資料」と判示されたのだ。 本件のように、国内法(CFC税制)と租税条約(7条1項)の抵触関係が問題となる場面における租税条約の解釈については、一般国際法であるウィーン条約法条約を参照することになる。原審では、OECDモデル条約に準拠した7条1項の解釈について「コメンタリーは、その性質上、法的拘束力を有するものではないが・・・・・解釈指針を説明した重要な資料として広く受入れられている」としていた。しかし、最高裁では、第一審よりも、一歩踏み込んだ判示をした。 では、ウィーン条約はどのような規定ぶりになっているのだろうか。下記は条約法に関するウィーン条約31条及び32条(以下、単に「31条又は32条」)の抜粋である。 上記31条と32条の関係については31条が原則的な規定である。32条の「解釈の補足的な手段」が問題となるのは、①31条の解釈手法により得られた意味を確認するため、又は、31条にあてはめて検討してもなお②32条(a)となる場合、あるいは③32条(b)となる場合である。32条の規定ぶりからは、解釈の補足的手段として、特に条約の準備作業及び条約の締結の際の事情が想定されているが、最高裁はここにコメンタリーが入ることを示し、適宜、コメンタリーを参照することに後ろ盾を与えた。ただし、コメンタリーが32条の「解釈の補足的な手段」として参照されるのは、主に上記①~③のいずれかのケースということになり、一足飛びに32条の問題とはならないはずである。 第一審では、コメンタリーが31条3項(a)、(b)に該当するとした国税側の主張が却下されており、それだけに、この点を取り上げた最高裁においては、判断のプロセスについて、各条項に照らした検証が必要であったと思われる。本件においては、31条1項の文脈により得られた意味を確認するため、解釈の補足的手段としてコメンタリーを参照したということになろう。 ただ、租税条約の規定全体について考えた場合、②32条(a)に該当するケースが多くなるのではないか。すなわち、租税条約の規定は、その多くが課税の根拠規定ではなく制限規定である(※6)ことから、必然的に抽象的な表現にとどめる場合が多い。したがって、意味があいまい又は不明確ということになり、32条(a)により解釈の補足的手段としてコメンタリーが参照されるようになるのではないか。 (※6) 増井良啓・宮崎裕子『国際租税法 第4版』東京大学出版会(2019年)31頁。   8 遡及解釈の問題 では、判示が参照したコメンタリーとはどのようなものか。本件は、平成11年の課税事案であるが、平成15年に改訂されたコメンタリーを引用している。改定コメンタリーでは、その1条の23パラグラフで「抵触しないということを、その条約において、明示的に確認したいと考える国もあるが、そのような確認は不必要である」(※7)が、7条の10.1パラグラフでは、CFC税制が源泉地国の企業の利得に基づき算定されるにもかかわらず7条1項ではこれを制限していない点、そして、居住地国に対するCFC課税は源泉地国の企業の利得への課税ではない点を述べ、源泉地国課税の問題と居住地国課税の問題とを切り離して考えるべきことが追加された。 (※7) 川端康之『OECDモデル租税条約2003年版』日本租税研究協会(2003年)55頁及び103頁。 このような解釈は、平成14年のフランス国務院判決などを受けて公表されたものと考えられ、平成11年の課税事案である本件に適用するのは遡及解釈であるとの批判がある。コメンタリー改正と条文解釈の関係については、条文改正が行われていない状態でコメンタリーの改正・追加が行われた場合、それ以前に締結された租税条約の解釈及び適用にも、改正・追加後のコメンタリーが遡及して適用されるとする見解がある(※8)。 (※8) 川田剛・徳永匡子『OECDモデル租税条約コメンタリー逐条解説』税務研究会出版局(2018年)20頁。 最後に、コメンタリーについて留意すべき点を2点挙げる。 1つ目は、コメンタリーがOECD加盟国の行政府、つまり課税する側の解釈であり、課税する側の立場から適宜、公表される可能性が否めないことである。国内法のように国会での審議を経て制定されるものではないこと。 2つ目は、コメンタリーの法的位置付けである。コメンタリーに法的拘束力があるといえるのかどうかについて、直接的には法源とはなり得ないものの、事実上の間接的な法的拘束力を有するといえる余地があること。 ((その3)へ続く)

#No. 491(掲載号)
#中野 洋
2022/10/20

相続税の実務問答 【第76回】「葬式費用の範囲①(告別式当日に初七日の法要を済ませた場合)」

相続税の実務問答 【第76回】 「葬式費用の範囲①(告別式当日に初七日の法要を済ませた場合)」   税理士 梶野 研二   [答] 初七日等の法要のための費用は、葬式費用には該当しません。しかしながら、あなた方のお住まいになられている地域において、初七日の読経等火葬場から戻った後に引き続き行われる儀式まで含めた一連の儀式を葬儀と認識できるほど慣習化しているのであれば、その一連の儀式に要した費用の全額を葬式費用に含める余地はあるのではないかと思われます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 葬式費用として控除できる金額の範囲 相続税の納税義務者が、無制限納税義務者である相続人の場合、相続税の課税価格の計算上、被相続人の債務で相続開始の際に現に存するもののほか、被相続人に係る葬式費用で、その者の負担に属する部分の金額を控除します(相法13①)。 相続税の課税価格の計算において、葬式費用を控除するのは、葬式費用が「相続開始に伴う必然的出費であり、社会通念上も、いわば相続財産そのものが担っている負担ともいえることを考慮」したものであると説明されています(森田哲也編『相続税法基本通達逐条解説(令和2年11月改訂版)』(大蔵財務協会・2020年)274頁)。 広辞苑(第7版)によると葬式とは、「死者をほうむる儀式」のことをいいますが、相続税の申告において葬式費用として控除する金額は、次に掲げる金額の範囲内のものとされています(相基通13-4)。 一方、葬式費用に該当しない費用として、相続税法基本通達では、次のものを掲げています(相基通13-5)。 (※) 通達では、「香典返戻・・費用」と表記していますが、「香典返礼・・費用」の方が適切だと思われます。   2 葬式費用に該当するかどうかの判断 ところで、葬式の方式は、被相続人や家族の信仰する宗教、地域の慣習や社会環境、その家族の考え方によりさまざまであり、また、その時代背景によっても変化します。例えば、新型コロナウイルス感染症のまん延と共に、いわゆる家族葬による葬儀が多くなりました。葬式費用に該当するかどうかの判断は、つまるところ具体的な個々の事案ごとに、社会通念に従って判断することになります。 初七日の法要は、本来は、故人が亡くなってから7日目に、親族など故人と関係が深かった人に集まってもらい、執り行われます。しかしながら、葬儀の後、わずかな日数をはさんで親族などに再び集まってもらうことは、これらの者に負担をかけることとなり、現下の経済社会環境の下では、しだいに難しくなってきています。そのため、最近では、故人を火葬にしたその日のうちに初七日の法要を行ってしまうことも珍しくありません。このような法要のやり方を「繰上げ法要」ということもあるようです。 国税庁の通達では、法会に要する費用は葬式費用には該当しないとしています。ここでいう「法会」とは、故人の追善供養などで行われる法要(法事)の意味で用いられています。初七日の法要は、この「法会」に該当することとなりますので、初七日の法要のために要した費用は、相続税の課税価格の計算上、葬式費用として、控除することはできません。 〈参考:平成10年6月12日裁決(仙裁(諸)平9-54)(非公表)〉 しかしながら、初七日の法要が、通夜、告別式、火葬など一連の葬式の儀式と一体となって行われるような場合には、一概に、葬式費用には該当しないとは言えず、その地域の習慣や、時代背景により異なった判断がされることもあり得ると考えられます。   3 ご質問の場合 一般的には、初七日の法要のための費用は、葬式費用には該当しません。しかしながら、葬式の方式は、宗教、地域や家族の考え方などにより様々であり、ある費用が葬式費用に該当するかどうかは、結局のところ、個々の事案ごとに社会通念に従って判断することになります。葬式の日に火葬場から戻った後に、初七日の法要として、引き続き僧侶による読経、焼香、精進落としの食事が行われていたとしても、それがあなた方のお住まいになられている地域において葬式のスタイルとして慣習化しており、これらを含めて一連の葬式の儀式とみることができるようであるならば、その費用を葬式費用に含める余地があるのではないかと思われます。 (了)

#No. 491(掲載号)
#梶野 研二
2022/10/20

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第56回】「敷地所有権者の相続に係る貸付事業用宅地等の特例の適用(配偶者居住権設定後に二次相続があった場合)」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第56回】 「敷地所有権者の相続に係る貸付事業用宅地等の特例の適用 (配偶者居住権設定後に二次相続があった場合)」   税理士 柴田 健次   [Q] 甲の相続(一次相続)では、下記のとおり甲の建物持分について配偶者居住権が設定され、甲の配偶者である乙が配偶者居住権及び敷地利用権を取得し、甲の建物所有権の持分、敷地所有権及び土地所有権は、長男である丙が取得しました。甲の相続後は、乙がしばらくの間、居住の用に供していましたが、乙が老人ホームに入所するのを契機として、乙は丙の承諾を得て、第三者に賃貸することになりました。乙が貸付の用に供した後、3年経過後に丙に相続が発生しました。 丙の遺言書には、土地及び建物については乙に遺贈する旨が記載されています。乙は丙と生計を一にしていました。この場合に乙が適用できる小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 なお、丙は乙から土地の賃料は受け取っていません。 【相続関係図】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【丙の相続時における土地に係る相続税評価額】 [A] 乙は145㎡(200㎡ × 58,000,000円/80,000,000円)について小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 配偶者居住権等が及ぶ範囲 配偶者居住権が設定された場合には、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することになります(民法1028)。居住建物の全部というのは、配偶者が相続開始の時に居住していた建物の全部という意味ですが、被相続人が土地又は建物の持分を共有で有している場合には、配偶者居住権は被相続人の建物の持分に対して設定し、敷地利用権は、被相続人の土地の持分と建物の持分のいずれか低い方の持分に対して設定することになります(相法23の2①一かっこ書・③かっこ書、相令5の7)。 したがって、本問の場合には、甲の相続時において甲の建物持分である1/2部分に対して配偶者居住権及び敷地利用権が設定されます。 また、老人ホームに入所して居住の用に供しなくなった場合においても、下記の配偶者居住権の消滅事由に該当しなければ、配偶者居住権は存続することになります。第三者に居住建物の使用をさせるときは、居住建物の所有者の承諾を得る必要があります(民法1032)。この場合の賃料の帰属は、居住建物について使用及び収益をすることができる配偶者居住権者となります。 配偶者居住権の消滅事由の例としては、下記のものがあります。 なお、上記以外にも配偶者居住権の目的となっている建物及びその敷地を配偶者が取得した場合には、配偶者居住権と建物所有権が同一人に帰属することになりますので、配偶者居住権は混同により消滅することになります。本問の場合には、乙は丙の相続により居住建物及び敷地所有権を承継していますので、配偶者居住権及び敷地利用権は消滅することになります。   2 二次相続に係る配偶者居住権及び敷地利用権の相続税評価額 配偶者居住権の設定後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得した配偶者居住権の目的となっている建物及び敷地所有権の相続税評価額については、相続税法23条の2の規定に準じて計算することになります(相基通23の2-6)。 具体的には、二次相続発生時において配偶者居住権の設定があったものとして計算しますので、二次相続開始時における乙の平均余命年数等を使用することになります。当然ですが、乙の平均余命年数は、一時相続時よりも二次相続時の方が短くなっていますので、敷地利用権の相続税評価額は、路線価の上昇等がない場合には、二次相続時の方が低くなります。 なお、居住建物の一部が賃貸用である場合には、賃借人に権利を主張することはできないため、配偶者居住権及び敷地利用権の評価額の計算の基礎となる金額から「賃貸の用に供されている部分」を除くこととされています(相法23の2①一かっこ書・③一かっこ書、相令5の7)。ただし、そのような取扱いは配偶者居住権設定時(本問の場合には一次相続時)に賃貸している場合であり、本問の場合のように配偶者居住権設定後に賃貸している場合には、配偶者居住権に基づき賃貸していますので、賃貸の用に供されている部分は除外しないで配偶者居住権及び敷地利用権を計算することになります。 また、建物を賃貸している場合には、借家権控除を考慮する必要があるかどうかが問題となりますが、配偶者居住権に基づき賃貸されているため、配偶者居住権の権利内に賃借権も包括されていることから、借家権控除を考慮する必要はありません。   3 相続税評価額の算定と面積の計算 敷地利用権及び敷地所有権に区分し、相続税評価額と面積を計算します。上記2で解説のとおり、配偶者居住権に基づき賃貸している場合には、賃貸されている部分を除外する必要はなく、借家権控除を考慮して計算する必要もありません。 ・敷地利用権の相続税評価額: ・敷地所有権・土地所有権の相続税評価額: ・敷地利用権の面積: ・敷地所有権・土地所有権の面積: なお、敷地利用権は乙に属する財産となりますので、丙の相続時において丙の相続財産に計上する必要がありません。 また、乙が配偶者居住権の目的となっている建物及びその敷地を取得したことにより、配偶者居住権は消滅することになりますので、乙に相続(三次相続)が発生した場合には、通常の土地家屋の所有権として、貸家・貸家建付地として評価を行い、要件を満たせば特例の対象となります。   4 被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等の範囲 貸付事業用宅地等は、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていた親族(以下「被相続人等」という)の貸付事業の⽤に供されていた宅地等であることが要件の1つとなっています。したがって、その宅地等が「誰の」、そして何の「用途」に供されていたかが重要となります。 租税特別措置法関係通達69-4-4の2(宅地等が配偶者居住権の目的となっている建物等の敷地である場合の被相続人等の事業の用に供されていた宅地等の範囲)では、下記のとおり定められています。 本問の場合には、上記通達の(2)に該当し、被相続人の生計一親族である乙の貸付事業の用に供されていた建物等(丙及び乙が所有)で、被相続人の生計一親族である乙が配偶者居住権者であるものの敷地の用に供されていたものに該当します。 したがって、生計一親族である乙の貸付事業の用に供されていた宅地等に該当することになります。   5 本問の場合の特例適用の可否 貸付事業用宅地等の意義は、【第39回】で解説していますが、生計一親族である乙が相続税の申告期限まで引き続き宅地等を有し、かつ、引き続き自己の貸付事業の⽤に供していれば特例の対象となります。 仮に乙ではなく丁が土地建物を相続により承継した場合には、配偶者居住権はそのまま継続し、乙が引き続き賃料を受領することになり、丁は貸付事業を承継していませんので、特例の適用を受けることはできません。   6 本問の場合の選択特例対象宅地等の面積 乙が取得した敷地所有権・土地所有権の面積145㎡となります。   ★実務上のポイント★ 配偶者居住権に基づき賃貸している場合には、借家権控除を考慮しないで敷地利用権及び敷地所有権を計算することになりますので、計算方法に注意しておきましょう。 本問の場合には、配偶者が取得することにより特例の適用を受けることはできますが、配偶者居住権は消滅し、配偶者死亡時には通常の所有権として財産評価をする必要があります。実務的には、二次相続の影響と三次相続の影響も踏まえて、二次相続の分割のアドバイスをする必要があります。   (了)

#No. 491(掲載号)
#柴田 健次
2022/10/20

給与計算の質問箱 【第34回】「年末調整書類の書式の前年からの変更点」

給与計算の質問箱 【第34回】 「年末調整書類の書式の前年からの変更点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 年末調整書類の書式について前年から変更がありましたら教えてください。 A 年末調整書類の書式の変更点は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 令和3年分と令和4年分の書式は同じであるが、令和5年分の書式には変更点がある。 【令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の一部】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【令和5年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の一部】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 上記につき国税庁「令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」及び「令和5年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」よりそれぞれ抜粋の上作成。 〈変更点①〉 30歳以上70歳未満の非居住者で次のいずれにも該当しないものは扶養控除の対象外になったため、「非居住者である親族」の欄にチェック欄が追加された。 【非居住者である扶養親族が30歳以上70歳未満の場合の源泉徴収事務における確認書類】 (注) 扶養控除等申告書を受領する時の親族関係書類及び年末調整を行う時の送金関係書類の確認については、現行のとおり必要となります。ただし、年末調整を行う時に38万円送金書類の確認をする場合には、現行の送金関係書類の確認をする必要はありません。 (出典:国税庁「令和4年分 年末調整のしかた」) 〈変更点②〉 住民税に関する事項に「退職手当等を有する配偶者・扶養親族」の欄、「寡婦又はひとり親」の欄が追加された。   2 給与所得者の保険料控除申告書 令和3年分と令和4年分の書式は同じである。   3 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書 令和3年分と令和4年分の書式は同じである。 (了)

#No. 491(掲載号)
#上前 剛
2022/10/20

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第132回】元気寿司株式会社「特別調査委員会調査報告書(2022年8月29日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第132回】 元気寿司株式会社 「特別調査委員会調査報告書(2022年8月29日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【元気寿司株式会社特別調査委員会の概要】   【元気寿司株式会社の概要】 元気寿司株式会社(以下「元気寿司」と略称する)は、1979年7月設立(設立時の社名は元禄商事株式会社)。複数回の商号変更を経て、1990年3月から現商号。国内外での寿司レストランの展開を主たる事業内容とする。売上高44,607百万円、経常利益245百万円、資本金100百万円。従業員数566名(2022年3月期実績)。2012年5月に資本・業務提携に合意した株式会社神明ホールディングスが発行済株式の40.78%を所有する筆頭株主である。本店所在地は栃木県宇都宮市。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人は有限責任監査法人トーマツさいたま事務所(以下「監査法人トーマツ」と略称する)。 不適切な支出が発覚した店舗開発部の組織は、調査報告書で、次のように説明されている。   【特別調査委員会調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 (1) 不適切な支出に係る内部通報 2022年5月10日、元気寿司の常勤監査役である山口高司氏(報告書上の表記は「A氏」。以下「山口常勤監査役」という)は、ヘルプラインの外部通報窓口を務める法律事務所から、新規店舗出店時の工事において不適切な支出がなされた疑いがあること等について通報(本件通報)があった旨の報告を受けた。 具体的には、本件通報においては、店舗開発部長であるB氏の指示により、甲店に関して床上げ工事やパーテーション工事が行われていないにもかかわらず、架空の工事費用が元気寿司から建築業者であるa社に対して支出されている疑いがあること、乙店に関して元気寿司が負担すべきでない解体工事費用が元気寿司からa社に対して支出されている疑いがあること、B氏が、複数の会社の肩書を持つ不動産仲介ブローカーであるa氏と話し合って、入札等を経ずにa社といった建築業者を店舗の建築業者として指定している疑いがあること等が指摘されていた。 また、2022年5月15日、元気寿司の会計監査人である監査法人トーマツは、本件通報と同内容の通報を受けたため、翌16日、元気寿司監査役会に対して、2022年3月期決算について適正な監査意見を表明できる状況にない旨を通知し、さらに、翌17日、代表取締役社長である法師人尚史氏(以下「法師人社長」と略称する)に対し、本件通報に係る事実及び本件事案に類似する事案の存否等について、調査を実施する必要がある旨の指摘を行い、元気寿司の経営層が本件通報を認識するに至った。 元気寿司は、会計監査人の指摘を踏まえ、本件事案及び本件事案に類似する事案の存否及び事実関係の調査を改めて行うこととし、また、公正で適正な調査を行うため、外部の有識者で構成される特別調査委員会を、2022年5月27日付で設置し、新規店舗出店時の工事における不適切な支出の有無に関する事実関係の解明等を目的とする調査(以下「本件調査」という)を行うこととした。 (2) 特別調査委員会に対する情報提供 特別調査委員会は、2022年7月27日、元気寿司の取引先から、B氏が新規店舗出店時において、仲介実体がないにもかかわらず、元気寿司から仲介業者等に仲介手数料・企画料を支払わせ、その中からバックリベートとして現金を受け取っていたとの情報提供を受けたことから、本件についても事実関係の解明等を目的とする追加調査を行うこととした。 2 特別調査委員会の調査により判明した不正の概要 調査委員会は調査結果を次のようにまとめている。 調査の結果、元気寿司において、店舗開発部長であったB氏が担当する複数の店舗に係る建築工事において、B氏が、架空工事の発注や工事費用の付け替えを指示したり、建築業者からの架空の名目での請求であると認識しつつも、その名目については重視せず、架空の名目での支払をそのまま承認した事実が認められ、建築工事費用に関して不適切な支出が行われていた。 また、B氏は、店舗開発担当者であるL氏が担当する複数の店舗において、バックリベートを受領するため、仲介業者であるu社に対して、業務の実体がないにもかかわらず、架空の仲介手数料・企画料名目の請求を指示し、元気寿司において仲介手数料・企画料に関して不適切な支出が行われ、B氏がバックリベートを受領していた事実が認められた。 しかし、特別調査委員会の調査に対し、B氏は、架空工事の発注や工事費用の付け替えについては、明確に自身の関与を認めておらず、バックリベートは一切受け取っていないと否定しているとのことである。 なお、特別調査委員会の調査によって、u社以外にも、仲介業者としての業務の実体を確認することができなかった社に対する仲介料・企画料の支払が、3社で12,670千円であったことが判明しており、調査委員会は、架空であるとの認定には至らなかったものの、架空の仲介手数料・企画料である強い疑いが残ると評価している。 3 2021年に元気寿司が実施した社内調査 (1) G氏に対する従業員からの報告とそれに基づく調査 常務執行役員で店舗開発部を担当していたG氏は、2021年7月、従業員から、B氏の攻撃的な言動や暴言で店舗開発部員が精神的苦痛を感じていること、甲店において、床上げ工事を実施していないにもかかわらず、B氏が、a社が工事をしたかのように工作し、元気寿司がa社に工事代金を支払ったと疑われること、B氏が、物件オーナー指定である等の理由により建築工事業者を相見積りなしに起用するよう指示することや、関西の物件について特定の仲介業者を起用することが多いといった報告を受け、まずは、甲店において架空の床上げ工事費用が請求された疑いに関する調査を行い、その後にB氏によるパワーハラスメントに関する調査を行うこととした。 2021年10月半ば頃、G氏は、それまでの調査結果を踏まえ、店舗開発部で設計を担当するC氏及びK氏に対して、顛末書を作成するよう指示し、事実関係をまとめさせたうえで、元気寿司オフィスにおいて、法師人社長に対して、甲店及び丙店に関する調査結果を報告し、また、併せて、乙店について、本来元気寿司が負担しない解体費用の支払の疑いがある点についても報告した。G氏は、法師人社長に対して、調査結果を踏まえてB氏に対するヒアリングを実施する予定である旨報告したが、法師人社長は、報告された問題の重要性を踏まえると、会社として十分な体制を整えて調査を行う必要があると考え、事前に法師人社長が情報を共有していた取締役専務執行役員大沢祐司氏(報告書上の表記は「P氏」。以下「大沢専務執行役員」という)及び執行役員人事部長瀧川沙織氏(報告書上の表記は「I氏」。以下「瀧川執行役員」という)、加えて内部監査室長のQ氏と一緒に、その後の調査を実施するよう、G氏に指示した。 (2) 関係者のヒアリング調査 2021年11月2日、G氏は、B氏に対するヒアリングを実施したが、B氏は工事費の付け替え、不適切な支出について否認。G氏は議事録を大沢専務執行役員、瀧川執行役員及び内部監査室長Q氏と共有した。大沢専務執行役員及び瀧川執行役員は、G氏とB氏の人間関係が良好ではないと認識していたため、B氏から直接話を聞く方が望ましいと考え、B氏に対するヒアリングを実施することとした。 2021年11月8日、大沢専務執行役員、瀧川執行役員及び内部監査室長Q氏は、B氏に対するヒアリングを実施したが、B氏は、工事費の付け替え等は認識していないと述べ、業者からのバックリベート等の個人的な利益も得ていないと述べた。ヒアリングの議事録は、法師人社長とも共有していた。また、同年11月17日には、大沢専務執行役員及び瀧川執行役員は、顛末書作成者であるC氏及びK氏に対するヒアリングを実施したが、顛末書作成の意図を聴取したにとどまり、架空工事の有無や工事費の付け替えの有無等に関する具体的な事実関係や証拠の確認は行わなかった。 大沢専務執行役員は、この問題の本質は、B氏とG氏のコミュニケーション不足によって、店舗開発部内の業務が円滑に回っていないという点にあり、また、工事費の付け替え等の疑いについては、会計上問題であるとの意識が乏しかったこともあり、今後事実関係が店舗開発部内において整理され、問題があれば店舗開発部内において対応が行われるべきであると考えていた。 こうしたヒアリング調査の結果、法師人社長は、より重視していたB氏によるバックリベート等による個人的利益の受領の点については、確固たる証拠はないと再度認識するとともに、顛末書に記載されたC氏及びK氏の供述の信用性には疑問がないとは言えず、工事費の付け替えや架空工事が行われていたとしても、そのような行為が行われているのは、一部の物件にとどまるものと考えた。そのため、法師人社長は、実際に工事費の付け替えや架空工事が行われたか、取引先への反面調査を実施するなどして確認することや、他に同様の行為を行った物件が存在しないか、更に調査を拡大する必要はないと判断した。 (3) 戊店の空賃料の問題に関する監査役会による調査及び関係者の処分 2021年9月のオープンが予定されていた戊店は、建築費用の大幅な予算超過を理由に設計変更が行われたため、店舗オープンが2022年3月まで遅れ、物件オーナーとの交渉の結果、同期間の賃料(空賃料)約900万円について、元気寿司が支払うこととなった。空賃料について、店舗開発部が、2021年10月15日の出退店委員会で報告をしたところ、議事録の共有を受けた監査役会は、経緯について明らかにする必要があると考え、2021年11月16日以降、店舗開発部関係者を対象として調査を行い、山口常勤監査役が主に関係者のヒアリングを行った。その結果、監査役会は、店舗開発部(少なくとも店舗設計課)は、2021年4月下旬から5月上旬頃には店舗オープンの遅れを認識していたものの、それを同年10月15日の出退店委員会まで報告しなかったことの問題等について、監査役会の意見をまとめた文書を同年12月14日に法師人社長及び大沢専務執行役員に提出した。 ヒアリング調査の結果、法師人社長、大沢専務執行役員及び山口常勤監査役は、賞罰委員会による賞罰検討の手続を行う必要があるとの結論に達した。2022年1月18日、賞罰委員会が開催され、法師人社長及び大沢専務執行役員が出席し、山口常勤監査役及び内部監査室長Q氏が同席し、「戊店開発時に、報告義務を怠り会社承認なく多額の費用決済がなされた」として、G氏については常務執行役員から執行役員への降格、B氏については出勤停止7日間とすることなどが決定された。 (4) 特別調査委員会による小括 特別調査委員会は、関係者の認識について、従業員から問題提起された、工事費の付け替えや架空の工事という問題は、それが事実であるとすれば、適切な経理処理に明確に違反するものであり、重大な事柄であるにもかかわらず、法師人社長の指示を受けてヒアリングを行った大沢専務執行役員及び瀧川執行役員は、B氏がバックリベートを受け取っているとすれば重大な問題であるとの認識はあったものの、工事費の付け替えや架空工事それ自体が会計上重大な問題を招来することについて十分に認識できていなかったと判断した。 さらに、法師人社長については、ヒアリングにおいて、バックリベートの受領の事実が認められなかったとしても、工事費の付け替えや架空工事それ自体、会計上不適切な行為であり問題であると認識していたと述べているものの、C氏及びK氏の顛末書に記載されていた工事費の付け替えや架空工事の疑いについては、工事費の付け替えや架空工事という話ではなく、ある工事で業者に泣いてもらう(代金を減額してもらう)代わりに他の工事で仕事をしてもらうといった価格交渉が行われていた可能性があると結論付けていると評価した。 そのうえで、法師人社長、大沢専務執行役員及び瀧川執行役員が、G氏らによる問題提起を意図的に握りつぶし隠蔽したとまでは認められないものの、問題の重大性に鑑みれば、法師人社長としては、顛末書の信憑性に疑問があるとの理由で調査を中止するのではなく、顛末書の内容が真実なのかを確認するため、実際に工事費の付け替えや架空工事が行われていたのか調査し、場合によっては、業者に対する反面調査を実施することも指示するべきであり、さらに、他の開発案件においても同様の行為が行われていないか調査を指示して然るべきであったという点で、当時、法師人社長が十分なリスク認識の下、十分な対応を尽くしたとは言い難いと批判した。 4 原因・背景(調査報告書44ページ以下) 特別調査委員会は、不適切な支出が行われた原因として、B氏が、店舗開発部において新規出店に関連する開発業務の支払の場面において、店舗開発部長として承認権者であったことを奇貨として、自らが担当する開発案件を当初設定された予算に近づけることのみならず、自らの利益を得るためにその権限を濫用していたことにあると考えられると結論づけたうえで、その原因と背景を次のようにまとめている。 ここでは、「コンプライアンス違反への対応体制の不十分さ」について、特別調査委員会による指摘を見ておきたい。 特別調査委員会は、元気寿司において、2021年度に発覚した工事関連の問題は、会計上の問題のみならず、不透明な支出が容認されている状態が、違法なバックリベート等のより深刻な不正行為の温床となり得ることを理解したうえ、経営判断上も重大な意味を持つ問題であると認識し、徹底的に事実関係を解明するとともに、速やかに他の建築工事でも同様の行為が行われていないか調査して然るべきであったと指摘したうえで、元気寿司の経営層の間では、こうした本件の問題の重大性についての認識が十分に共有されていたとは言い難いと結論づけている。 その背景には、本件の調査に関わった経営層において、特に会計に関する専門知識を十分に備えた者がおらず、会計上の問題について正確な問題意識を持つことができなかったという事情が存在するとともに、会計の知識・知見を有する経理部長や監査役会への情報共有が行われなかったために、会計の観点からの検討が不十分となったことを指摘した。 そして、結果として、コンプライアンス違反が窺われる事態に対して、多角的な視点でリスク分析をする体制が十分に構築されていなかったために、経営層において、本件が会計上の問題のみならず、経営判断上も重大な問題に繋がりかねない問題であるとの問題意識を共有することができず、徹底した調査を行うには至らなかったという判断を示している。 5 再発防止策の提言(調査報告書49ページ以下) 特別調査委員会は、上記の「原因・背景」を踏まえたうえで、再発防止策を次のように提言している。 特別調査委員会は、「コンプライアンス違反への対応体制の強化」について、次のような具体策を提言している。   【調査報告書の特徴】 回転寿司チェーンで国内第5位、「魚べい」「元気寿司」などのブランドで店舗展開を進める元気寿司で、内部通報をきっかけに発覚した架空工事代金の支払疑義は、調査の過程で、店舗開発部長によるバックリベートの受取りという横領事件へと発展した。 特別調査委員会の調査に対して、B氏は、最後までバックリベートの受取りを否認しているため、最終的には、刑事事件として裁判の場で事実が明らかになることと思われるが、第三者委員会等の調査結果が、裁判所により否定される事件が複数報じられていることもあってか、本調査報告書では、否認しているB氏に関して、抑制された表現に止まっているように感じられた。 1 店舗開発担当常務執行役員と店舗開発部長との軋轢 元気寿司の「人事異動に関するお知らせ」の履歴を追うと、B氏は、2018年4月1日付で店舗開発部長に昇進した平木剛氏であり、G氏は、平木氏の前任の店舗開発部長を兼務していた店舗開発部担当常務執行役員の大河原誠氏であったことがわかる(平成30年3月14日「人事異動に関するお知らせ」参照)。 両氏の社歴等は、報告書には記載がないのだが、関西地区での出店を推進していた元気寿司にとって、前職で関西地区での新店舗展開の経験を有していたB氏を昇進させて、出店を加速することが企図された人事異動であったかもしれない。 その後、2019年6月21日付で、取締役専務執行役員田中義昭氏が店舗開発部を担当することとなった(2019年6月24日「役員の異動に関するお知らせ」参照)が、同氏は、2020年6月29日付で非常勤取締役となって執行から離れている(2020年5月20日「役員の異動に関するお知らせ」参照)ことから、再び、G氏が店舗開発部を担当していたものとみられる(人事異動の公表はなく、執行役員の職務分掌の変更については判然としない)。 なお、G氏は、2021年末から2022年初め頃、法師人社長に対して、「B氏とのコミュニケーションが上手くいっていないことや新業態店舗の開発のプレッシャー等を理由に、役職を降りたい」と申し出て、その後、2022年2月に休職することとなっていることから、社内での立場は、むしろ部下であるはずのB氏の方が強かった面があったのかもしれない。 この点、調査委員会は、B氏による業務がブラックボックス化した背景として、「元気寿司が、これまで出店の経験が乏しい関西エリアへの出店を拡大していく中で、B氏の仕事の進め方について周囲が疑問を投げ掛けることができない雰囲気が形成されていた」との見解を示すとともに、B氏は、日常的に、部下に対して威圧的な言動をとることが多かったため、その仕事の進め方について疑問を投げ掛けにくい状況にあったとも評している。 2 2021年度調査における疑問―何のための社外取締役・社外監査役か 2021年の社内調査の時点で、元気寿司の社外取締役3名の内訳は公認会計士2名と弁護士1名であり、社外監査役3名は全員が公認会計士であった。特別調査委員会は、調査を行った執行役員らが、「工事費の付け替えや架空工事それ自体が会計上重大な問題を招来することについて十分に認識できていなかった」と評価していることから、社外取締役・社外監査役に報告したり、調査の協力を仰いだりという発想には至らなかったと言えばそれまでだが、社外取締役・社外監査役に有資格者の名前を並べて、コーポレート・ガバナンスに問題がないことを装っているのではないかと勘繰りたくなってしまう。 本来であれば、社外取締役・社外監査役に相談や報告がなかったことについて、執行部門の取締役に厳重に抗議をしたり、場合によっては、社外取締役・社外監査役を辞任したりすべき局面ではないかと思料するのだが、1人の社外取締役を除いて全員、株主総会で再任されているようである(退任した社外取締役も同じ事務所の別のパートナー弁護士と交代したものであり、円満な交代であったことが推測できる)。 3 不適切行為関連損失 元気寿司が、2022年8月29日に公表した「2022年3月期有価証券報告書」には、連結損益計算書上、「不適切行為関連損失」29,860千円が営業外費用として計上されている。 これは、注記によれば、「特別調査委員会の調査で判明した影響額等を不適切行為関連損失として適正に処理」したということである。 4 関係者の処分 元気寿司は、2022年9月29日、「当社従業員の処分に関するお知らせ」をリリースして、「不適切な支出を行っていたことに加え、当社取引先からバックリベートを受領していた事実が認められた従業員1名に対して、厳正な処分を行うことを検討しておりましたが、社内規程に基づき、2022年9月28日付で懲戒解雇処分」としたことを発表するとともに、「当該従業員に対して、刑事告発または民事上の損害賠償請求を行うことを検討」しているとした。 また、同日付の「代表取締役及び役員の異動に関するお知らせ」では、同日付で、法師人代表取締役社長が取締役執行役員へ、大沢取締役専務執行役員が取締役執行役員へとそれぞれ降格し、代表取締役会長藤尾益雄氏が社長を兼務する取締役会決議が公表された。なお、同リリースでは、異動の理由については「経営体制の強化のため」と説明されている。 (了)

#No. 491(掲載号)
#米澤 勝
2022/10/20

マスクと管理会計~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第9回】「資金繰り、どうやって改善する?」

マスクと管理会計 ~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第9回】 「資金繰り、どうやって改善する?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔登場人物〕 ●  ●  ● 野菜のやりくりと同じ発想で、企業の資金繰りを捉える指標として、「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(Cash Conversion Cycle:CCC)」があります。CCCは、企業が商品や原材料などの仕入代金を支払ってから、商品や製品などの売上代金を回収するまでのタイムラグを指します(企業経営とメンタルアカウンティング〜管理会計で紐解く“ココロの会計”〜【第11回】参照)。 CCCの間は入金がないため、状況によっては借入などによって資金を調達する必要があり、借入を行えば利息が発生します。借入を行わないとしても、CCCの間は資金が棚卸資産や売上債権に投下されたまま拘束されている状態なので、その資金を設備投資や研究開発、販売促進などに有効活用することはできず、機会原価が発生していることになります。すなわち、CCCは短い方が望ましい指標です。 CCCそのものは目新しい指標ではありませんが、近年、有価証券報告書や中期経営計画資料などにおいて、重視する経営指標の1つとしてCCCを掲げる事例をよく見かけるようになりました。その背景には、CCCの短縮を図って効率的に資金を創出し、その資金を設備投資や研究開発などに振り向けることが、企業成長の源泉力になるという考えがあります。 新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた混乱期には、多くの企業が緊急的な借入や助成金・補助金などの活用により、資金繰りの急場をしのぎました。しかし、こうした資金繰りはあくまでも一時的なものです。感染症の流行をきっかけとして企業環境自体が大きくシフトしつつあり、効率的に資金を創出できる仕組みを構築することの重要性が増しています。 ●  ●  ● ●  ●  ● CCCへの注目の高まりとともに、CCCの短い企業ランキングなども見かけるようになりました。多くの企業では、仕入債務の支払が売上債権の回収よりも先行するため、CCCはプラスになります。一方で、いわゆる「勝ち組」企業の中には、CCCがマイナスとなっている企業もあります。在庫をほとんど持たないようなビジネスモデルであったり、サプライヤーに対して自社が強い立場にあり仕入債務の支払を遅く設定できたりする場合には、CCCがかなり短くなり、状況によってはマイナスのCCCを実現できることもあります。 つまり、CCCは、企業の業種や業態、企業の規模や業界内での立ち位置などに大きく左右される指標です。そのため、業種や業態、規模などが全く異なる他社のCCCと自社のCCCを直接比較しても、さほど意義はありません。自社のCCCの構造を分析し、CCCの短縮に向けた具体的なアクションにつなげることが大切です。 ●  ●  ● ●  ●  ● 売上債権回転期間の短縮方法としては、与信管理を徹底する、滞留債権を適時に把握して回収遅延を防ぐ、ファクタリングを利用する、などの方法が挙げられます。また、仕入債務回転期間は、サプライチェーン・ファイナンスの仕組み(※)を利用することなどで、延長できる場合もあります。ただし、売上債権や仕入債務は、先方との関係を前提としており、自社の立ち位置や業界全体の決済慣習などの影響も受けるため、大幅な短縮ないし延長は難しいこともあります。 (※) 金融機関などが、サプライヤーの保有している特定のバイヤーに対する売上債権を買い取る仕組み。金融機関は、本来の支払期日よりも前にサプライヤーに対して支払を行い、バイヤーは支払期日に金融機関に対して支払を行う。 これに対し、棚卸資産回転期間は、自社における工夫やアイデア次第で短縮できる余地があるケースが多いと考えられます。棚卸資産の内容は企業によって大きく異なるので、自社の棚卸資産の実態に合わせ、回転期間の短縮(=在庫の圧縮)につながる具体的なアクションを起こすことが大切です(本連載【第3回】・【第4回】参照)。棚卸資産に関する一連の流れを見直して、在庫を圧縮するための工夫やアイデアを考えるとよいですね。 また、棚卸資産全体の回転期間だけでなく、種類別やアイテム別の棚卸資産回転期間を分析すると、改善すべき点がわかりやすくなります。そうした回転期間を時系列で捕捉していけば、改善活動に継続して取り組むことに役立ちます。 ●  ●  ● (了)

#No. 491(掲載号)
#石王丸 香菜子
2022/10/20

〔まとめて確認〕会計情報の四半期速報解説 【2022年10月】第2四半期決算(2022年9月30日)

〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2022年10月】 第2四半期決算(2022年9月30日)   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第2四半期決算(2022年9月30日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 基本的に2022年7月1日から9月30日までに公開した速報解説を対象としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会から、「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第43号)が公表されている。 「金融商品取引業等に関する内閣府令」における電子記録移転有価証券表示権利等の発行・保有等に係る会計上の取扱いを示すものである。 2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。 ただし、実務対応報告の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することができる。   Ⅲ コーポレート・ガバナンス関係 経済産業省が「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を改訂し公表している。 取締役会による「監督」、社外取締役、ガバナンス体制などについて記載している。   Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査に関連して、次のものが公表されている。 〇 「「監査事務所検査結果事例集(令和4事務年度版)」の公表について」(公認会計士・監査審査会による監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたもの)   Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「監査役監査基準」等の改定(内容:2022年9月施行の「株主総会資料の電子提供制度」に対応するもの) ② 2022年版「監査役監査と監査役スタッフの業務」の公表(内容:会社法改正及びコーポレートガバナンス・コード適用開始後に定着した事例や実態を反映するものなど)   Ⅵ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2022年4月1日以後に適用されるものとして、次の会計基準等がある。 ① 「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(2021年8月12日、実務対応報告第42号)(内容:グループ通算制度の適用に関する会計処理及び開示) ② 「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(2021年6月17日、改正企業会計基準適用指針第31号)(内容:投資信託の時価の算定と貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価についての取扱い) (了)

#No. 491(掲載号)
#阿部 光成
2022/10/20

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第34回】「市街化調整区域内の土地の評価は不動産鑑定士でも難しい」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第34回】 「市街化調整区域内の土地の評価は不動産鑑定士でも難しい」   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 今回は、市街化調整区域内にある土地の評価について取り上げます。 税理士の皆様にとって、相続税評価額の算定や有効活用の方法等につき、依頼者から相談のある物件の多くは市街化区域内にある土地や建物であると思われます。 市街化区域であれば、例えば戸建住宅の敷地の価格がどれ位であるかについても、近隣の分譲事例等からおおよその見当を付けられる場合も少なくありません。しかし、市街化調整区域となれば話は別です。それは、市街化調整区域では開発や建築が著しく制限され、資材置場や駐車場等以外には思ったとおり土地を利用できない場合が圧倒的に多いからです。 その反面、市街化調整区域のなかには以前から建物が建っている場所もあります。このような状況ですから、隣同士の土地価格が利用形態によって大幅に異なるケースも珍しくありません。加えて、市街化調整区域では需要は少なく、土地の取引も少ないといえます。 そのため、不動産鑑定士にとっても市街化調整区域内の土地の評価は難しい(=水準がつかみにくい)というのが実情です。以下、その要因をもう少し掘り下げて探ってみたいと思います。   2 市街化調整区域とは 市街化調整区域とは、都市計画の上では市街化を抑制すべき区域とされています(都市計画法第7条第3項)。それは、市街化区域がすでに市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域とされている(同法第7条第2項)のとは対照的です(下図参照)。このように、市街化区域と市街化調整区域との間には土地利用に係る制約に著しい相違があることから、双方の価格水準には相当の乖離がみられる(=市街化調整区域の方が価格水準は著しく低い)のが通常です。 〈都市計画の概念図〉   3 市街化調整区域における開発行為、建築行為の規制 開発行為とは、主として建築物の建築又は特定工作物(コンクリートプラントその他)を建設する目的で行う土地の区画や形質の変更を指しますが、これを行うに際しては事前に都道府県知事の許可が必要となっています(原則)。ただし、市街化区域では開発の対象面積が一定規模未満であれば許可は不要とされています(例外扱い)。 これに対し、市街化調整区域の場合は、(市街化を抑制するという目的から)開発面積の大小に係わりなく許可が必要とされている点で規制が厳しいといえます。ちなみに、市街化調整区域の場合、開発区域の対象面積が一定規模未満であれば許可不要という規定は一切存在しません。ただし、公共的な用途に供する場合その他用途的にみて一定の条件を満たす場合(農林漁業従事者の自宅としての利用)など、例外的に許可が不要とされているケースはあります。 また、市街化調整区域では、土地の区画形質の変更を伴う開発行為だけでなく、建築行為そのものも原則的に不許可とされています。このようなことが相俟って、市街化調整区域内の土地の価格は市街化区域内に比べて著しく低いものとなっているのが実情です。   4 同じ市街化調整区域内でも土地価格が格段に相違するケースも 今まで述べてきた内容は主に市街化区域と市街化調整区域の規制上の相違を意識したものですが、同じ市街化調整区域内においても規制が非常に強い土地とやや緩い土地とが混在しており、このことが市街化調整区域内における土地価格の相場を一層つかみにくいものとしている要因ともなっています(規制の強弱により土地価格が格段に相違するからです)。ちなみに、一概に市街化調整区域といっても、市街化区域に利用形態が近い土地から、農地や林地に近く建物が全く建築できない土地まで実に様々です。 例えば、市街化調整区域でありながら大規模な住宅団地が造成されていて、それが1つの街並みを形成しているところもあります(以前の都市計画法の規定に基づき開発された区域であり、調整区域において開発面積が20ha以上のものについては開発や建築が条件付きで許可されていた時期もあります。ただし、現行の都市計画法にはこのような規定は存在しません)。このような地域では、市街化調整区域といえども価格水準は市街化区域とあまり差のないレベルに形成されています。 上記のようなケースも含め、市街化調整区域内において現に建築物の敷地に供されている土地がどのような法的根拠(都市計画法、建築基準法等)に基づいているかを区分した結果は以下のとおりです。 このように考えた場合、市街化調整区域においては何にも増して、将来その土地で開発許可や建築許可を取得できる可能性が高いか低いかが、その土地の価格水準を大きく左右する分かれ目となってきます。しかし、これを的確に予想することは難しいといえます。 他の例として、市街化調整区域内の土地で建築許可を受けて建物の建築がなされている場合でも、それが一身専属的に認められていることもあり、売買により他人(第三者)に所有権が移転したとしても、その購入者は建物を建てられないというケースもあり得ます。 加えて、先程述べたように、市街化調整区域内には農地や林地に近く建物が全く建築できない土地が多く存在します。   5 市街化調整区域における評価の難しさ 市街化調整区域内の土地の評価を行う際には、上記事情を踏まえて細心の注意を払わなければなりません。上記のとおり、現在建物が建築されているからといって、誰がその土地を購入しても、いつでも同じ建物が建てられるとは限らないからです。この点が市街化区域とは大きく異なります。 不動産鑑定士が実際に市街化調整区域内の土地の鑑定依頼を受けた場合、対象地の利用規制の程度を念頭に置きつつ、(数は少ないながらも)収集した取引事例の間で大きな価格差がある場合には、可能な限り、事例地の背後に潜む開発の難易度を対象地の場合と対比させながら価格水準を検討しています。 その際に留意すべき点は、たとえ一団の土地のなかでも(あるいは隣接する土地同士)であっても、建築物の建築が許可されている部分と従来から更地のままで未利用となっている部分とでは開発の難易度が著しく異なり、このことが価格に直接反映されることです。 また、通常のケースでは、最有効使用(対象不動産をどのような用途に利用すれば最も価値が高まるか)の判定に当たっては、近隣地域における標準的な使用方法との整合性が1つの拠り所となりますが、市街化調整区域においては法的に市街化が抑制され、例外的に開発が認められているに過ぎません。そのため、市街化調整区域内の土地の評価に当たっては、最有効使用の概念を標準的使用との関連から捉えることが困難である場合がむしろ多いといえます。 評価に際して想定する土地の使用方法が、仮に社会的・経済的な観点からみて客観的に妥当と思われるものであるとしても、そのような使用方法が許可されるか否かは行政主体の判断に大きく左右されます(例えば、高速道路のインターチェンジに近い場所に位置する市街化調整区域内の土地で、物流倉庫用地としての需要が見込まれる土地であっても、開発許可が得られない限り最有効使用は実現できないということになります)。   6 おわりに 今回は取り止めもなく雲をつかむような話となってしまいましたが、市街化調整区域内の土地の評価に当たっては特有の難しさがあります。(開発規制や建築規制の程度を含めて)同じような状況の土地の取引事例が多数収集できればそれほど判断に迷うこともないのでしょうが、なかなかそのようにはいきません。市街化調整区域内の土地の評価を難しいと考えている不動産鑑定士は決して私1人だけではないと思うのですが。 (了)

#No. 491(掲載号)
#黒沢 泰
2022/10/20

〈エピソードでわかる〉M&A最前線 【第6回】「介護業界のM&A」-医療業M&Aにおける譲渡側・譲受側それぞれのメリット②-

〈エピソードでわかる〉 M&A最前線 【第6回】 「介護業界のM&A」 -医療業M&Aにおける譲渡側・譲受側それぞれのメリット②-   株式会社日本M&Aセンター 医療介護支援部 永泉 耀   【第6回】は、数少ない成長産業ともいわれる介護業界のM&Aについて、ご紹介します。医療業界と比較するとビジネスとしての側面が強い介護業界の経営について特徴を整理しながら、譲渡側のメリット、譲受側のメリットとそれぞれの視点に焦点を置き、実例を挙げていきながら解説します。   1 事業展開意欲を引き継ぎたい×東日本から西日本への事業展開を実現したい -譲渡会社グループ A社・B社×譲受会社C社の場合 初めてM&Aを検討するにあたり、譲渡側にとっての問題の1つが価額の妥当性です。譲受側から提示された金額が適正な価額なのかどうかを判断する基準がないため、どうしても提示額よりも高い額を希望することが多くなります。本事例は、収益力や今後の事業計画は魅力的なのにもかかわらず、適正金額の見誤りからなかなか譲渡先がありませんでした。 【譲渡側・譲受側のデータ】 ※情報管理の観点から、実際の事例とは一部内容を変更しております(以下、他の事例も同様)。 (1) 譲渡側の視点~事業成長の可能性があるにも関わらず実現困難~ A社・B社は、関西を中心に約10施設を展開する優良介護事業者グループです。譲渡側社長は創業者でありながらまだ40歳と若く、業績も順調でさらに事業を拡大できる余地は十分にありました。問題点は、創業社長への依存度が高く、組織の急速な事業拡大に対して次の経営幹部となる人材の育成が間に合っていないことでした。 創業時からほぼ休みなく社長業をこなし、健康には自信を持っていた社長でしたが、ある時、体の違和感を覚え、病院で検査をすることになりました。検査の結果、生命の危険はありませんでしたが、手術と入院が必要であり、治癒しても今までのような激務は控えなければならない状況でした。自身の健康を考慮すると、今後の事業展開を加速し、単独で成長を遂げることは困難です。そのため、その意欲を引き継いでくれる譲渡先があれば、譲渡を考えたいとの希望でした。譲渡側社長はまず懇意にしている保険会社に相談し、その保険会社が日本M&Aセンターと提携していたことから、相談に来られました。 (2) 譲受側の視点 ~西日本への事業展開には非常に魅力的な案件~ C社は東日本を中心に訪問介護事業を展開する上場企業です。約4年前にある介護事業者から事業譲受を行い、その整備がようやく一段落したタイミングでした。中期経営計画でも「西日本ヘの展開と拠点強化」を戦略とし、M&Aを手掛けていこうとしていた矢先でした。 (3) それぞれのメリット ① 譲渡側のメリット 創業者である社長はまだ若いものの、組織の創業社長への依存度が高く、共に戦う経営幹部の育成も追い付いていませんでした。そんななか、事業のさらなる展開の見通しがあるにも関わらず、困難であることを自覚し、悩んでいました。そのような背景から社長は客観的な株価よりも高い株価にこだわっていたため、それまで5社ほどM&Aが破談となった経緯がありました。 半年ほどの相手探しのなかで社長自らが適正価格に気づき始め、本件の相手となったC社に提案したところ、成約までトントン拍子に進みました。A社等グループの地域性とその事業内容は、C社の戦略を実現するためのM&Aに最適であり、C社はまた、A社等グループのさらなる成長を実現できる相手であると納得しての譲渡となりました。譲渡側社長も今後の事業の発展を安心して見守ることができます。 ② 譲受側のメリット 事業拡大、特にエリア拡大という面ではM&Aは非常に有力な経営戦略です。 A社等グループの地域性とその事業内容は、C社の戦略を実現するためのM&Aに最適な相手でした。これからのさらなる事業展開の足掛かりとしてはずみがつきました。   2 本業への集中×既存事業の引き継ぎによる効率的な事業拡大-譲渡会社グループD社✕譲受会社E社の場合 地方ではよくある例ですが、同じ地域のなかで事業を譲渡したい、また逆に事業を譲受したいと考える企業があります。本事例はまさにそのような例で、譲渡側は事業の集中のために介護事業を譲渡したいという希望者であり、譲受側は介護事業を地域で拡大したいという希望者でした。 【譲渡側・譲受側のデータ】 (1) 譲渡側の視点~先代の引退を機に本業へ選択と集中~ 譲渡側のD社社長は2代目社長であり、D社の本業は介護とは無縁の卸業です。介護事業は父親である先代が始めた事業であるため、先代の引退を機に、現社長は特に興味のない介護事業を整理し、本業の卸業に集中したいという思いが強くなっていました。 その旨を取引銀行である地方銀行に相談したところ、M&Aを提案されました。その地方銀行は日本M&Aセンターと提携しており、以前より多くの案件でM&Aに関わっていることから、D社を日本M&Aセンターに紹介しました。 (2) 譲受側の視点~効率的に介護事業を拡大させたい~ 譲受側のE社の事業内容は、地域コングロマリットです。近年は介護事業を拡大させたいとの希望があり、すでに有料老人ホームを設立し、運営していました。M&Aの最大の利点はなんといっても時間を買えるという点です。なぜなら、既存事業をそのまま短時間で引き継ぐことができるからです。 (3) それぞれのメリット ① 譲渡側のメリット 介護事業を譲渡することで、本業に専念できるという長年の希望が叶うのみならず、先代が築き上げた事業をM&Aで次へと繋ぐことで、利用者にも全く不便をかけることなく地域経済活性化に貢献する結果となりました。 ② 譲受側のメリット 介護事業の拡大をスピーディーに、かつローリスクで既存事業として引き継ぐことができ、非常に効率的な事業戦略に成功したといえます。   3 「海外進出」という夢の実現×ノウハウや有資格者の確保-譲渡会社J社×譲受会社K社の場合 わが国では医療費、介護費を抑制し、自立支援の観点から施設サービスより在宅サービスを重視する流れにあります。そうした状況のなか、多くの営利企業が訪問介護やデイサービス事業へ進出しています。この事例は、リハビリテーション(以下、リハビリ)に特色のある訪問看護ステーションとデイサービス会社を立ち上げた民間事業者が、地域に根ざした事業を確立しながらも、株式譲渡した稀有なM&A事例です。 【譲渡側・譲受側のデータ】 (1) 譲渡側の視点~事業の海外進出を成し遂げたい~ J社の代表者は40歳代半ばの事業欲旺盛な経営者です。理学療法士の免許を取得し、数ヶ所の医療機関に勤務した後、約10年前に訪間看護ステーションJ社を開設しました。持ち前のバイタリティで、優秀な看護師を管理者とし、数名の看護師、理学療法士の従業員とともに地域密着型のリハビリに特色のある訪問看護ステーションを運営していました。 事業は順調で、5年後にはJ社の子会社としてリハビリ特化型デイサービス会社を設立、2ヶ所にてデイサービスを運営していました。両事業とも同地域には競合相手もなく、さらに事業は拡大していきました。事業が順調に進むなか、社長の思いはいつしか海外へと向きました。本件の相談前にすでに海外にもリハビリ関連事業の別法人を設立しており、生活拠点も海外に移し海外事業に集中したいとの意向から国内の訪問看護事業、デイサービス事業の2社の譲渡を強く決意されていました。 (2) 譲受側の視点 ~ノウハウや有資格者の確保~ K社は、ドラッグストアや調剤薬局などを展開する持株会社です。首都圏を中心に介護事業にも参入しており、介護分野のノウハウや有資格者の確保などをさらに図るべく、介護事業の譲受けの希望を持っていました。 (3) それぞれのメリット ① 譲渡側のメリット 今回譲り受けたK社はすでにM&Aの経験があり、J社社長もトップ面談終了時からお任せするならK社との思いを強く持ったようでした。特に以下の点が決め手となりました。 やはりJ社社長として、苦楽をともにしてきた従業員には幸せになってもらいたいとの思いが強く、同時に利用者に対しても安心して任せられる相手へM&Aができたことで、真の意味で海外事業に専念できるようになりました。 ② 譲受側のメリット 一方、譲受側のK社は介護事業として有料老人ホーム、グループホーム、訪問介護事業には進出していますが、特にリハビリ特化型の訪問看護事業、また介護事業運営のノウハウの吸収と有資格者の揃った従業員の確保はとても魅力的な案件でした。 *  *  * 以上、本稿における譲渡側・譲受側のメリットをまとまめると次のとおりです。 《譲渡側のメリット》 ・事業のさらなる成長を実現 ・別事業である本業へ選択と集中 ・介護事業の海外進出に専念 《譲受側のメリット》 ・他エリアへの事業展開 ・効率的な介護事業拡大 ・ノウハウや有資格者の確保   (了)

#No. 491(掲載号)
#株式会社日本M&Aセンター
2022/10/20
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