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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第21回】「評価方法の選定に影響を与える「特別の事情」とは何か」~鑑定評価額が採用されたレアケース~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第21回】 「評価方法の選定に影響を与える「特別の事情」とは何か」 ~鑑定評価額が採用されたレアケース~   不動産鑑定士 黒沢 泰   (※1) 金融・商事判例No.1583(2020年2月1日号)、TAINSコード:Z888-2271。   1 東京地方裁判所令和元年8月27日判決のあらまし この事案は、相続人が相続財産の時価を算定するに当たり評価通達に基づいて評価したところ、これが課税庁から否認されたというものです(本件裁判例では行政手続法との関連についても争点となっていますが、これについては割愛させていただきます)。 なお、本件はまだ最終的な確定に至っていないことを前提とした概要紹介という形で取り扱わせていただきます。 (1) 事実関係 (2) 本件相続に係る相続財産等 本件相続に係る相続財産等は以下のとおりです。 本件各不動産は、養子であるX3が遺言により取得しています。また、X3は相続による取得後、本件乙不動産を5億1,500万円で売却しています。 (3) 課税庁(原処分庁)による更正処分と納税者からの訴訟提起 (4) 争点 本件の争点は、相続開始時における各不動産の時価であり、評価通達の定める評価方法によらない評価が許されるための「特別の事情」とはどのようなものか、そして本件の場合、このような事情が認められるか否かにありました。 これに関し、当事者双方からの主張がなされましたが、審理に当たった裁判所は以下の理由から通達評価額に替えて鑑定評価額を採用し、Xらの主張を棄却しました(下線は筆者によります)。 (5) 裁判所の判断   2 上記判決における鑑定評価の位置付け 本稿は、不動産鑑定士による鑑定評価の結果が相続税法上の時価として受け容れられるためには、単に不動産鑑定士が鑑定評価したというだけでなく、その前提として、評価の対象案件に関しどのような理由で評価通達の定めを適用することが不合理であるのかを論証する必要があるという点を模索しています。 通常の場合、暗黙の前提として、評価通達に基づいて算定した評価額が納税者の考える以上に高額であり、このことを立証する手段として納税者が不動産鑑定士による鑑定評価を求めるといった背景が思い浮かびます。しかし、本件の場合、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼したのは課税庁側であり、課税庁において特別の事情の存在を根拠に、評価通達の定めを適用することが不合理であることを主張している点に特徴があります。すなわち、本件の場合、特別の事情の有無が争点となる典型的なパターンの逆のケースであるといえます。 固定資産税評価額と鑑定評価額及び特別の事情との関係について取り扱った最高裁平成25年7月12日判決の補足意見(※2)では次の見解が示されています。 (※2)  TAINSコード:Z999-8323。 このような捉え方は相続税の財産評価においても同じ傾向にあると思われます。 しかし、本件の場合、相続物件の実際の売却価額が通達評価額を著しく上回ったという事実が存在すること、その背景に相続税対策のための多額の借入行為が存在し、売却代金から借入金を返済していることが、課税庁から見て評価通達の定める評価方法以外の方法によって評価すべき特別の事情があると判定されたことが判決文から読み取れます。 財産評価における鑑定評価の位置付けを考える上できわめて示唆に富む判決であると思われます。 (了)

#No. 436(掲載号)
#黒沢 泰
2021/09/16

《速報解説》 「適格請求書発行事業者の登録申請書」、郵送による提出の場合は各国税局に設置された「インボイス登録センター」宛てに

《速報解説》 「適格請求書発行事業者の登録申請書」、郵送による提出の場合は各国税局に設置された「インボイス登録センター」宛てに   Profession Journal編集部   来月1日からインボイス制度に係る適格請求書発行事業者の登録申請受付が開始されるが、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を書面で提出する場合、送付先に注意が必要だ。 国税庁ではシステム上入力漏れがなくスムーズに申請データを作成することができ、書面に比べ登録番号が記載された「登録通知」を早く受け取ることができる「e‐Taxでの申請」を推奨している(書面の場合は提出から1ヶ月程度、e‐Taxの場合は2週間程度で通知の受取りが可能)。e‐Taxによる場合、「e‐Taxソフト」のほか、e‐Taxソフトのダウンロードが不要な「e‐Taxソフト(WEB版)」やスマートフォンから申請できる「e‐Taxソフト(SP版)」がリリースされる予定となっている。 一方、書面での提出の場合は、申請書が所轄税務署長宛てとされていることから所轄税務署の窓口や時間外収受箱へ直接提出することも可能だが、郵送による場合は、申請書の入力や電話照会等の事務について集約処理を行うために、各国税局に設置された「インボイス登録センター」が送付先となっている点に注意したい。 各国税局(所)における「インボイス登録センター」の住所等については、下記のページで確認できる。 インボイス登録センターは「適格請求書発行事業者の登録申請書(国内事業者用・国外事業者用)」の他、「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を郵送で提出する場合の送付先とされている。 なお、インボイス制度に関する一般的な電話相談については、「軽減・インボイスコールセンター(消費税軽減税率・インボイス制度電話相談センター)」が窓口となっており、インボイス登録センターではインボイス制度に関する相談は受け付けていない。 また、いずれの方法による場合でも、登録申請書の提出が可能となるのは、令和3年10月1日(金)以降とされている。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 435(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/09/10

プロフェッションジャーナル No.435が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年9月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.435を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/09/09

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第99回】「節税義務が争点とされた事例(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第99回】 「節税義務が争点とされた事例(その2)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   居住用不動産を2度の取引により譲渡した依頼者から譲渡所得の税務申告手続を受任した税理士が、両取引を一括修正申告せず別の年度に分けて申告したために、依頼者が課税軽減の特例措置を受けられなかったときは、当該税理士に過失が認められるとされた事例として、東京地裁平成9年10月24日判決(判タ984号198頁)がある(※)。 (※) この事例を扱った論稿として、酒井克彦・税務弘報53巻4号65頁(2005)も参照。 今回は、この事例を検討することとしよう。   Ⅰ 事案の概要 X(原告)は、平成4年分の確定申告の際、A取引に係る不動産の譲渡所得を申告しなかったため、平成6年になって、かねてから税務申告手続を依頼している税理士Y(被告)に、A取引に係る譲渡所得の修正申告手続を依頼するとともに、B取引に係る譲渡所得の税務申告手続を依頼した。Y税理士は、Xのために、A取引についてのみ、平成4年分の譲渡所得として修正申告手続を行い、B取引については、平成6年3月に、平成5年分の譲渡所得として確定申告手続を行った。 その後、納税を終えたXは、これらの取引を一括して同一年分の所得として申告していたならば、居住用不動産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例による軽減措置を受けられたはずであるのに、その軽減を受けられなかったのはYに過失があると主張して、課税軽減を受けられたはずの金額の損害賠償を求め、訴えを提起した。 これに対し、Yは、同一年分の所得として申告手続をせず、別の年分の所得として税務申告手続をとった点に過失はないと主張した。 ところで、所得税基本通達36-12《山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期》は、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日を原則とするが、納税者の選択により、譲渡に関する契約の効力発生日の属する年度分の収入金額とすることができると通達している。 すなわち、本件では、A取引とB取引について、上記通達のいう原則に従えば、資産の引渡しを基準にして2つの年度に分けて修正申告と期限内申告を行うこととなる一方、例外的に、納税者の選択により、譲渡契約の効力発生日を基準にして同一年度の収入として一括して申告することも可能であった。この点、Xは、Yが上記通達のいう例外処理を採用していれば、長期譲渡所得の課税軽減を受けることができたとして、Yの過失を主張している。   Ⅱ 争点 Yが、A取引及びB取引について同一年度での申告をしないで、両取引を別の年度に分けて申告した点に過失があるとして、XのYに対する損害賠償請求が認められるか否か。   Ⅲ 判決の要旨 東京地裁は、税理士の義務について次のように述べる。 そして、東京地裁は、YがXから税務申告手続の依頼を受けた当時、両取引に係る譲渡所得を平成4年分の譲渡所得として一括して修正申告することが可能であったこと、その場合、Xは、実際に納付した税額に比べ3,016万円以上の課税軽減を受けられたことが明らかであったとした。 また、そもそも、両取引を一括して修正申告することには困難を伴わず、現にYも一旦は一括修正申告に思い至ったが、専ら加算税を賦課されることに気をとられてともかく早期に修正申告することばかりを念頭に置いたため、深く検討しないまま、平成4年分の譲渡所得として、A取引についてのみ修正申告手続をし、一括修正申告手続をしなかったと認定した。 上記のような認定を行った上で、結論として、Yに損害賠償義務があるとする。   Ⅳ コメント 税理士は申告納税制度の趣旨にのっとって、税務に関して、法令に基づく正しい指導や適正な確定申告書等を作成することが使命であるから、必ずしも依頼者である納税者にとって最も有利になるような税制上の取扱いを選択しなければならないと考える必要はないようにも思われる。 管見するところ、昭和年代の税理士賠償責任事件においては、必ずしも税理士に具体的な節税義務や節税措置義務が認められるとするような判決は、ほとんどみられなかったのではなかろうか。 例えば、岐阜地裁大垣支部昭和61年11月28日判決(判時1243号112頁)は、「税理士は税理士法に照らしても、本来依頼者の会計帳簿に基づいて所轄の税務署に対する税務申告を代行するについて受任関係に立つことをもって足り、またそれを超えることは許容されるものでなく、そうすると税理士は依頼者の租税に関してあらゆる有利を計らなければならない準委任上の義務を負うものでなく、依頼された個別的な申告手続代行についてのみ善良な管理者としての注意義務を負うに過ぎないものと言うべきである。」とし、「税理士の性格上こうしたこと〔筆者注:節税措置〕は単なるサービスであって義務の問題ではな〔い〕」と説示している。 このように、過去の裁判例においては、「依頼者の租税に関してあらゆる有利を計らなければならない準委任上の義務を負うものでな〔い〕」として節税措置義務についてやや否定的な判断を下したものがある。しかしながら、その後の判決の動向は、むしろ税理士の節税措置義務を認める傾向にあるといえよう。 本件は、居住用不動産を2度の取引により譲渡した依頼者から譲渡所得の税務申告手続を受任した税理士が、両取引を一括修正申告せず別の年度に分けて申告したために、依頼者が課税軽減の特例措置を受けられなかったというものであり、税理士の行った処理が何か租税法の法令解釈などの適用誤りに当たるような事案ではなかった。 2つの取引を一括して修正申告を行うことがどの程度可能であったのかについては事実認定に委ねられる領域にあり、また通達の妥当性については判決文からは必ずしも判然とはしないが、2つの取引を一括しなければならないとする法的根拠は奈辺にあるのであろうか。 判決は、税理士法1条《税理士の使命》を示すのみで、「特別の事情があるときでない限り、租税関係法令に適合した範囲内で依頼者にとってより有利な税理士業務の方法を選択すべき義務があるというべきである。」と論じているが、このような「義務」が如何なる根拠をもって導出されるのかについては必ずしも明確にはしていない。この点について、税理士法1条を頼りに考えるとするならば、「納税義務者の信頼に応え」という点であろうか。 しかしながら、同条が、税理士は「納税義務者の信頼に応え」るべきであるとして、いわば使命論を示しているからといって、それがダイレクトに、依頼者にとってより有利な方法の選択義務を生起するのであろうか。その答えは、そもそも、同条にいう「納税義務者の信頼」をどのように捉えるかという点に所在するようにも思われる。 ここでは、差し当たり、「納税義務者の信頼」を、①節税となるように申告を行ってほしいという信頼と捉えるべきか(節税措置期待説)、それとも、②租税法規に従った適正な申告を行ってほしいという信頼と捉えるべきか(適正申告期待説)によって、税理士の申告業務に係る義務についての考え方が変わり得ると解しておきたい。 本件事案においては、①の節税措置期待説が採用されているとみるべきであるように思われる。なお、前述の岐阜地裁大垣支部昭和61年11月28日判決では、②の適正申告期待説が採用された判断とみることもできよう。 もっとも、①の節税措置期待説と②の適正申告期待説のいずれが妥当するかについては、依頼人である納税者と税理士との間の契約段階における経緯や契約内容等によって大きく異なり得るところではなかろうか。すなわち、税理士法1条が税理士の使命を規定していることとは別に、個別具体的な両当事者の間の契約に関する事実認定次第なのではなかろうか。 (了)

#No. 435(掲載号)
#酒井 克彦
2021/09/09

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第2回】「小規模宅地等の特例の対象財産(配偶者居住権・信託財産・国外財産など)」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第2回】 「小規模宅地等の特例の対象財産 (配偶者居住権・信託財産・国外財産など)」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲の相続発生に伴い、次に掲げる土地等を相続人が取得した場合において、小規模宅地等の特例の対象にならないものはありますか。 [A] ①のうち法人が有している借地権及び②のうち配偶者が取得した配偶者居住権は、小規模宅地等の特例(以下単に「特例」という)の適用を受けることはできません。 ①のうち、被相続人が所有していた底地、②の敷地利用権及び敷地所有権と③④の土地は他の要件を満たせば、特例の適用を受けることはできます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特例の対象となる財産の範囲 特例の対象になるものは、被相続人が所有していた宅地等(土地又は土地の上に存する権利を含む)とされています(措法69の4①)。 したがって、配偶者が取得した配偶者居住権は、家屋としての権利であり、宅地等には該当しませんので、特例の適用を受けることはできません。また、法人が有している借地権は、被相続人が所有していたものではありませんので、特例の適用を受けることはできません。 なお、国外財産を除く旨の規定はありませんので、他の要件を満たせば、国外財産も特例の適用を受けることはできます。 宅地等には、次の2、3に記載のとおり、配偶者居住権に基づく利用権及び敷地所有権並びに、信託財産に属する宅地も含まれます。   2 配偶者居住権、配偶者居住権の敷地利用権及び敷地所有権 特例の対象になるものとして、個人が相続又は遺贈(死因贈与を含む。以下同じ)により取得した配偶者居住権に基づく敷地利用権及び配偶者居住権の目的となっている建物等の敷地の用に供される宅地等(敷地所有権)が含まれます。なお、配偶者居住権自体は、建物の権利であり、宅地等ではありませんので、特例の対象にはなりません。 したがって、配偶者が取得した敷地利用権、長男が取得した敷地所有権のいずれも要件を満たせば、適用を受けることができますが、その場合の特例対象宅地等のそれぞれの面積の計算は、下記の通り、敷地利用権の価額と敷地所有権の価額の比で按分して計算することになります(措令40の2⑥、措通69の4-1の2)。 【算式】 (1) 敷地利用権の面積 (2) 敷地所有権の面積   3 信託財産に属する宅地 信託に関する権利又は利益を取得した者は、信託財産に属する資産及び負債を取得したものとみなされますので、信託に属する資産が土地である場合には、土地を取得したものとして、特例の適否を考えます(相法9の2⑥、措令40の2㉗)。 したがって、特例の対象になるものとして、個人が相続又は遺贈により取得した信託に関する権利が含まれますが、次に掲げる信託に関する権利は除かれます(措通69の4-2)。   ★実務上のポイント★ 配偶者居住権の設定、信託の設定、被相続人が国外財産を所有しているケースは、実務上でも増えてくると考えられますので、最初の入り口の段階で全て対象にならないと勘違いしないように特例の対象となる宅地等の範囲を確認することが重要となります。   (了)

#No. 435(掲載号)
#柴田 健次
2021/09/09

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第6回】「インボイス発行事業者の氏名として公表できる範囲」~旧氏や通称の登録・併記~

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第6回】 「インボイス発行事業者の氏名として公表できる範囲」 ~旧氏や通称の登録・併記~   税理士 石川 幸恵   【Q】 私は結婚前の姓を名乗って、フリーランスとして働いています。国税庁ホームページ「適格請求書発行事業者公表サイト」で、氏名として結婚後の姓が公表されると、取引先1件1件に説明しなければならず、とても手間がかかるのですが、何か良い方法はありますか。 〔ポイント〕 (1) 「住民票に併記されている旧きゅう氏うじ(旧姓)」や「住民票に併記されている外国人の通称」を氏名として公表、又はこれらを氏名と併記して公表することができます。 (2) 旧氏(旧姓)は「住民票への旧氏併記」の手続きがされているものに限ります。 (3) 芸名や雅号、ペンネームなどは屋号として、氏名とは別途に登録することになると考えられます。 *  *  * 【A】 国税庁ホームページ「適格請求書発行事業者公表サイト」に適格請求書発行事業者として公表される氏名には、旧氏(旧姓)を登録することができます。   (1) 旧氏(旧姓)や通称の使用について インボイスQ&Aの令和4年4月改訂版で、適格請求書発行事業者の氏名に関して、旧氏(旧姓)や通称を氏名として公表、又はこれらを氏名と併記する方法が明らかになりました(インボイスQ&A問2)。 旧氏(旧姓)は、結婚や再婚、養子縁組などにより1人が複数持っている可能性もありますが、適格請求書発行事業者の氏名として登録又は併記できる旧氏(旧姓)は、住民票への旧氏併記の手続きがされたものに限られます。 アーティストの芸名や雅号、ペンネームなどは、屋号として、氏名とは別途に登録・公表することになると考えられます。氏名を一切公表したくない場合は、法人を設立して登録するという方法が取り得ます。   (2) 手続き ① 登録の手続き 旧氏(旧姓)や通称を適格請求書発行事業者の氏名として公表又は併記するには「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を提出します。申出書には、住民票の写しの添付が必要です。ただし、e-Taxにより提出する場合は、添付を省略することができます(申出書の記載要領より)。 ② 提出時期 「適格請求書発行事業者の登録申請書」と同時に「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を提出することが可能です。 ③ 変更があった場合 イ 氏名の変更 結婚などにより氏名に変更があった場合は、「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」を速やかに提出します。提出により、公表事項の変更は遅滞なく行われます(インボイスQ&A問23、新消法57の2⑧) なお、個人事業者の氏名の変更については、「消費税異動届出書」や「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」の提出は必要とされていません(通法124、消法25)。 ロ 旧氏(旧姓)や通称の変更 公表している旧氏(旧姓)や通称を変更するときは、「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を提出します。 ハ 氏名の変更と同時に住民票への旧氏(旧姓)併記をした場合 登録事業者が結婚により姓を変更し、併せて住民票への旧氏併記の手続きをしたことで、結果として適格請求書発行事業者の公表事項に変更がない場合でも、イとロの手続きが必要なのかは明記されていません。   (3) 住民票への旧氏併記 ① 住民票への旧氏併記とは? 住民票への旧氏併記とは、令和元年11月5日より新たに始まった制度で、住民票のほか、マイナンバーカード、運転免許証にも旧氏を併記することができます。旧氏として登録できるのは1つだけです(住民基本台帳法施行令30条の13、30条の14)。 ② 旧氏併記の手続き 旧氏が記載された戸籍謄本等を用意して、現在居住している市区町村で手続きします。   (了)

#No. 435(掲載号)
#石川 幸恵
2021/09/09

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第33回】「100%親子会社間における資産の移動」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第33回】 「100%親子会社間における資産の移動」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) シニアマネジャー 税理士 佐藤 達夫   相談内容 私は、金属加工業及び不動産賃貸業を営んでいるY社(非上場会社)の社長です。Y社の株式はX社が100%所有しており、X社の株式は私が100%所有しています。X社は私の資産管理会社となっています。 将来的にY社を息子に承継したいと考えていますが、将来的な業績の不透明感からY社をM&Aにより親族外へ売却することも選択肢の1つとして悩んでいます。 そこで、Y社の不動産賃貸業をX社へ移転させたいと考えていますが、Y社からX社へ賃貸不動産を移転させる手法としてどのような方法があるか、また、その留意点についてご教示ください。 【資本関係図】 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 会社分割 (1) 会社法 会社分割の対象は「事業に関して有する権利義務の全部又は一部(会2二十九、三十)」とされており、その対象を「事業」そのものに限定しておらず、特定の資産及び債務を承継することも可能です。 原則として、X社及びY社の株主総会の特別決議が必要です(会309②十二、783①、804①)。 また、債権者保護手続として、公告及び個別催告の期間として最低1ヶ月必要です(会789①二、810①二)。 (2) 税法 ① 分割法人(Y社) 会社分割が適格会社分割に該当する場合には、移転資産・負債に係る譲渡損益課税は生じず、帳簿価額による承継が可能です。 100%親子会社間での会社分割の場合、会社分割にあたって対価が発行されない無対価の会社分割を行うことが一般的です。この無対価の会社分割とは、次のすべての要件を満たす会社分割をいいます(法令4の3⑥二)。 ② 分割承継法人(X社) 移転を受ける資産の帳簿価額は、会社分割が適格会社分割に該当する場合には、分割法人の分割直前の帳簿価額になります(法法62の2④、法令123の3③)。 みなし共同事業要件(※)を満たさない会社分割で、分割法人(Y社)と分割承継法人(X社)との間の支配関係が、分割承継法人(X社)の会社分割を行った事業年度開始日の5年前の日等から継続していないときは、分割承継法人(X社)の会社分割を行った事業年度開始以後、繰越欠損金の使用制限、特定資産の譲渡等損失の損金不算入制限が課されます(法法57④、62の7①)。 (※) みなし共同事業要件は、会社分割が共同で事業を行うため、下記イ~ハまでのすべての要件又はイ及び二の要件を満たすことが求められています。    イ 事業関連性要件 ロ 事業規模要件 ハ 事業規模継続要件 二 特定役員要件 ただし、分割承継法人(X社)の支配関係発生日の属する事業年度の前事業年度末時点における時価純資産価額が簿価純資産価額以上あるなどの含み損益の特例計算の要件を充足する場合には、繰越欠損金の使用制限、特定資産の譲渡等損失の損金不算入制限が緩和されます(法令113①一、二、④、⑤、123の9①一、⑥~⑧)。 また、不動産移転コストは、次のとおりです。 (※) ただし、一定の要件を満たした場合には、不動産取得税が非課税となります。 一定の要件については、本連載の「【第27回】親族外承継における分割型分割の活用」の[2]不動産の移転コストをご参照ください。   [2] 現物配当 (1) 会社法 現物配当の対象となるのは、会社の財産に限定されます。 ただし、賃貸不動産に係る賃貸借契約や保証金・敷金返還債務は、現物配当に伴い親法人に承継されます(最高裁昭和33年9月18日判決、最高裁昭和44年7月17日判決)。 現物配当をする法人(Y社)の株主総会の決議が必要です(会454①、309②十)。 会社分割のような債権者保護手続として公告や個別催告は必要ありません。 また、分配可能額の範囲内で配当することが可能です(会461①八)。 (2) 税法 ① 現物配当をする法人(Y社) 次のすべての要件を満たす現物配当である場合には、現物配当資産の譲渡損益課税は生じず、帳簿価額による承継が可能です(法法2十二の十五)。 上記の要件を満たす現物配当については、配当に係る源泉所得税の徴収が不要です(所法24①)。 ② 現物配当を受ける法人(X社) 現物配当が上記①の要件を満たす場合には、配当金額の全額が益金不算入となります(法法62の5④)。 現物配当により受け入れた資産の帳簿価額は、現物配当をする法人の配当直前の帳簿価額を承継します(法令123の6①)。 現物配当をする法人(Y社)と現物配当を受ける法人(X社)との間の支配関係が、現物配当を受ける法人(X社)の現物配当の日の属する事業年度開始日の5年前の日等から継続していない場合には、現物配当を受ける法人(X社)の現物配当を受けた日の属する事業年度以後、繰越欠損金の使用制限、特定資産の譲渡等損失の損金不算入制限が課されます(法法57④、62の7①)。 ただし、現物配当を受ける法人(X社)の支配関係発生日の属する事業年度の前事業年度末時点における時価純資産価額が簿価純資産価額以上あるなどの含み損益の特例計算の要件を充足する場合には、繰越欠損金の使用制限、特定資産の譲渡等損失の損金不算入制限が緩和されます(法令113①一、二、④、⑤、123の9①、④~⑥)。 また、不動産移転コストは、次のとおりです。 (※) 会社分割と異なり、現物配当には不動産取得税の非課税規定はありません。   [3] 結論 100%親子会社間での資産の移動にあたっては、寄付という手法もありますが、将来的にY社を売却する可能性がある場合には、賃貸不動産の含み益がX社側でも実現する可能性があるため、お勧めしません。 ご相談の場合は、会社分割や現物配当の手法を用いることを検討することが良いと考えます。 両手法のポイントは次のとおりですが、賃貸不動産の数が少なく、短期間での資産移転を行いたい場合や、資産移転後にY社の売却の可能性がある場合には現物配当を選択することをお勧めします。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 435(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2021/09/09

金融・投資商品の税務Q&A 【Q67】「同族株主等が受領する社債利子に対する課税」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q67】 「同族株主等が受領する社債利子に対する課税」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 公社債の利子に対する課税の概要 (1) 特定公社債と一般公社債 内国法人が国内で発行した社債の利子については、その支払いの際に、原則として、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)で源泉徴収されます。 特定公社債の利子は、その金額にかかわらず、申告不要制度を適用して源泉徴収のみで課税関係を終了させることができますが、申告する場合には、上場株式等の配当所得等として申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の対象となります。特定公社債の範囲については、【Q3】の「キーワード」をご参照ください。 一方、特定公社債に該当しない一般公社債の利子は、原則として、源泉分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の対象となります。 したがって、特定公社債、一般公社債ともに、原則として、分離課税が適用され、総合課税の対象とはなりません。 (2) 同族会社の株主等が受領する一般公社債の利子に対する総合課税 一般公社債の利子であっても、同族会社の一定の株主等が受領する利子については分離課税の対象から除外され、総合課税されます。このような措置が講じられた背景としては、同族会社の株主の立場にある役員などが、その同族会社から支給される役員報酬に代えて、社債の利子として所得を得ることにより、本来は総合課税されるべき所得(すなわち給与所得)を分離課税の対象となる利子所得とすることが考えられます。このような税負担の軽減を図ることを目的とした所得の種類の変換に対応するために、この措置が設けられています。   2 総合課税の対象となる利子の範囲 総合課税の対象となる利子は、その支払いの確定した日において、下記に該当する者に対して支払われるものとされています。 また、令和3年度税制改正により、令和3年4月1日以後に支払いを受けるべき利子については、この総合課税の対象となる範囲が拡大され、利払いをする同族会社の直接の株主ではなく、特殊関係法人を通じて間接的にその同族会社を保有する個人が支払いを受けるものも含まれることになりました。特殊関係法人とは、判定の対象となる利子の受領者(対象者)との間に下記のいずれかの関係にある法人をいいます。 (※) 法人を支配している場合とは、発行済株式又は出資の総数又は総額の50%超、事業の全部若しくは重要な部分の譲渡など一定の決議に係る議決権の50%超を有する場合などをいいます。 【例】特殊関係法人が同族株主になる場合の総合課税 なお、総合課税の対象となる同族会社の株主等に対する利子は、源泉徴収される地方税(利子割)の対象とはなりませんので、支払いの際には、所得税及び復興特別所得税(15.315%)のみが課されます。   3 本件へのあてはめ 親族が経営する会社が発行した社債は、私募により発行されたものであるとのことですので、特定公社債には該当しないものと考えられます。また、当該会社が同族会社に該当するか否かを判定する際に、その判定の基礎となる株主に当該親族が含まれる場合には、分離課税の対象となる一般公社債にも該当しない可能性があります。 したがって、当該会社が同族会社に該当するか否か、当該親族がその判定の基礎となる同族株主に該当するか否かを確認し、これに該当する場合には、当該社債の利子は、総合課税の対象として、確定申告が必要となるものと考えられます。   (了)

#No. 435(掲載号)
#西川 真由美
2021/09/09

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第45回】「銀行からの住宅借入金と親族からの借入金がある場合」-住宅借入金等の意義-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第45回】 「銀行からの住宅借入金と親族からの借入金がある場合」 -住宅借入金等の意義-   税理士 大久保 昭佳   Q X(夫)とY(妻)は、9年程前から住んでいた共有の土地家屋を、本年4月に売却しましたが、多額の譲渡損失が発生したこともあり、売却代金の他に借入金を加えて買換資産を購入しました。 買換資産に係る借入金の内訳は、Xが銀行からの1,500万円及び父親からの500万円の計2,000万円、Yは母親からの2,000万円となっています。 その他の適用要件が具備されている場合、XとYは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることはできるでしょうか。 A Yは「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができませんが、Xは金融機関からの住宅借入金があることから同特例を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」における「住宅借入金等」とは、住宅の用に供する家屋の新築若しくは取得又はその家屋の敷地の用に供される土地等の取得に要する資金に充てるために、契約において償還期間又は賦払期間が10年以上の割賦償還又は割賦払の方法により返済することとされている次の借入金等をいいます(措法41の5⑦四、措令26の7⑫)。 したがって、本事例の場合、父母からの借入金は、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の対象となる借入金に該当しないことから、Yについては同特例の適用はありませんが、Xについては、銀行からの借入金が上記①の借入金に該当するため、特例の適用があることとなります。 (了)

#No. 435(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/09/09

〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第5回】「審査請求を審理する国税不服審判所の特徴」

〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第5回】 「審査請求を審理する国税不服審判所の特徴」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 国税不服審判所の機能と目的 (1) 納税者の正当な権利利益の救済 国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対する裁決を行う機関であり、「納税者の正当な権利利益の救済」という目的を図るため、審査請求人と国税の賦課徴収を行う執行機関(税務署・国税局等)との間に立つ公正な第三者的立場で審査請求事件を調査・審理して裁決を行っている。 組織上は国税庁の特別の機関となっているが、これを機能面から見ると、国税庁長官の持つ権限のうちから、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に関する裁決権を分離し、その裁決権を国税不服審判所長に与え、執行権を行使する機関から独立した第三者的な立場を取る機関としての制度設計となっている。 (2) 税務行政の適正な運営の確保 また、国税不服審判所制度のもう1つの目的は、「税務行政の適正な運営の確保」に資することにある。 国税不服審判所長による裁決書は審査請求人のみならず課税庁(原処分庁)にも送達されるところ、課税庁が納税者に対して行った不利益処分を国税不服審判所長が取り消した場合、課税庁がその取消裁決を事後的に検証することによって、今後の税務調査を執行する上での教訓を汲み取ることが期待され、謙抑的な国家権力の執行という視点からも、そのようにすべきであろう。 このようにして、国税不服審判所は将来の税務行政(課税・徴収)を適正な方向に仕向ける作用(自己反省機能)を発揮している。   2 国税不服審判所の特色 (1) 執行機関からの独立 国税不服審判所は、国税庁の特別の機関として、執行機関である課税庁(原処分庁)から分離・独立した機関として設けられている。 したがって、審査請求事件について審査請求人と原処分庁の双方の主張を聴き、必要に応じ自ら調査し、公正な第三者的立場で審理した上で裁決を行うことになる。 また、国税不服審判所長による裁決は税務行政部内の最終判断であり、仮に国税不服審判所長の裁決に不服があっても、原処分庁は訴訟を提起することはできない(納税者が裁決の後なお不服がある場合には、裁判所へ訴訟を提起することができる)。 (2) 国税庁長官通達に拘束されない ① 個別事案に即した法令解釈の余地 国税庁長官の発する法令解釈に関する通達は、税法が多数の納税者に対して適正、公平に適用されるようその解釈を具体的に示し、税務職員の職務執行の指針としているものであり、想定し得る事柄について適合するよう一般的な解釈や取扱いを定めている。 しかし、社会経済事象の進展を全て想定して通達することは不可能であり、納税者の特殊事情に応じた個別的、具体的事情を全て網羅できるものでもない。 そこで、国税不服審判所長は、裁決に当たっては、具体的な個別事案に即して独自に法令を解釈・適用することができるように、国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈と異なる解釈により裁決を行うことができることとされている。 ② 行政判断の全国統一性との調和 しかし、このような場合、国税不服審判所長と執行機関である税務署長等とが、同一の法条について異なる解釈を行い、これによって税務行政が運営されることになれば実務に混乱をきたし、租税負担の公平という見地からも適当でない。 そこで、両者の調整を図るため、国税不服審判所長は、国税庁長官通達と異なる法令解釈により裁決をする場合や他の国税に係る処分を行う際における法令解釈の重要な先例となると認められる裁決をする場合には、あらかじめその意見を国税庁長官に通知することになっている。 国税不服審判所長の意見が審査請求人の主張を認容するものであり、かつ、国税庁長官がその意見を相当と認めるときは、そのまま裁決が行われるが、それ以外の場合には、国税不服審判所長と国税庁長官が共同して国税審議会に諮問し、国税不服審判所長は国税審議会の議決に基づいて裁決しなければならない。 ③ 国税庁長官からの機能的独立の発露 このように、行政判断の統一性を図るために一定の手続を必要とするものの、国税不服審判所長が、国税庁長官通達に拘束されずに裁決を行うことが可能であるという点が国税不服審判所制度の大きな特色であり、国税庁長官から機能的に独立していることの顕れである。 (3) 人事面の配慮 ① 国税審判官の資格は法令に規定されている 国税不服審判所の職員の多くは執行機関である国税局や税務署などからの任用(出向)であるが、国税審判官については、納税者の権利救済というその職責の重要性を考慮し、その資格が国税通則法施行令第31条において規定されており、「弁護士、税理士、公認会計士、大学の教授若しくは准教授、裁判官又は検察官の職にあった経歴を有する者で、国税に関する学識経験を有するもの」と定められている。 そのため、人的構成面からの裁決の公正性、適正性を確保するため、国税審判官等の一部に税務部外の人材を登用し、令和2年4月1日現在で65名(※1)が在籍している。 (※1) 国税不服審判所「国税不服審判所の50年」38頁参照。 ② 国税職員以外の登用者 特に歴代の国税不服審判所本部所長、東京国税不服審判所長、大阪国税不服審判所長及び法規・審査担当など枢要なポストには、裁判官又は検察官の職にあった者を任用している。 また、近年の経済取引の国際化、広域化等により、複雑・困難なものとなっている審査請求事件を適正かつ迅速に処理するため、民間の高度な専門知識・経験・ノウハウが必要であると考え、平成19年から、弁護土、税理士、公認会計士及び大学の教授又は准教授など、高度な専門知識等を有する民間専門家を国税審判官として公募し採用している。 (4) 争点主義的運営 不服申立てに係る審理の対象の範囲については以下の2つの考え方があり、判例及び訟務実務としては①の総額主義であるとされている。 国税不服審判所が納税者の権利救済機関であることを踏まえると、税務調査によって論点とならなかった事項(争点外事項)を掘り起こすのでは必ずしも適当ではない。 そこで、国税不服審判所は、原処分の適否について新たに行う調査は争点及び争点関連事項の範囲にとどめ、争点外事項については原則として新たな調査を行わないという調査・審理方針である「争点主義的運営」を採用している。 国税不服審判所創設時の制度設計、そして、設立後には大阪国税不服審判所の(実質的な)初代の審理部部長審判官として理論的支柱を担った南博方氏は、国税不服審判所が「争点主義的運営」を調査・審理の基本方針とするのは、以下の理由によるものと述べている(※2)。 (※2) 南博方「租税争訟の理論と実際(増補版)」(弘文堂・1980年)58~59頁。 (了)

#No. 435(掲載号)
#大橋 誠一
2021/09/09
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