相続税の実務問答 【第70回】 「消滅時効が完成した借入金の控除」 税理士 梶野 研二 [答] お父様が叔父様から借りていた200万円は、確実な債務とは認められませんので、相続税の計算上、債務控除の対象とはなりません。 なお、叔父様が受け取った200万円については、貸付金の返済を受けたものと認められますので、贈与税又は所得税が課税されることはありません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の債務控除の対象となる債務 相続、包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈により取得した財産について、相続税の課税価格に算入すべき価額は、その財産の価額から次の①及び②に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額によることとされています(相法13①、14①)。 (注) 相続、包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈により財産を取得した者が、相続税の制限納税義務者である場合には、①のうち一定のものの金額については、控除できますが、②については控除することができません(相法13②)。 上記①の「確実と認められるもの」とは、債務の存在及び履行の確実性を意味するものと解され(昭和55年7月29日裁決・裁決事例集第20集187頁)、履行するかどうかが債務者又はその相続人等の任意の選択に委ねられているものは「確実と認められるもの」には当たらないと解されます。 2 消滅時効とその援用 民法は、債権は時効によって消滅すると定めていますが (民法166①)、時効期間が満了しただけで債権債務関係が消滅するわけではありません。時効による消滅の効力を生じさせるためには、時効によって利益を受ける者、すなわち債務者が時効が成立したことを主張すること(時効の援用)が必要です(民法145)。 時効の援用が行われるまでは、債権債務関係は継続しており、債権者は履行を求めることができます。これに対して債務者は時効を援用することにより債務の弁済を拒絶することができ、履行の義務から解放されることとなります。 このため相続開始の時において既に消滅時効が完成し、債務者であった被相続人がいつでも時効を援用することにより消滅させることができる状態にあった債務は、上記1の①の「確実と認められるもの」には該当しないものとして取り扱われています(相基通14-4)。 したがって、被相続人の債務について、相続開始の時に、既に時効が成立しているにもかかわらず、相続人が時効の援用をすることなく当該債務を弁済したとしても、相続税の課税価格の計算上、当該債務は債務控除の対象とすることはできません。 3 ご質問の場合 お父様は亡くなられる15年前に、叔父様から200万円を借り、その返済をしていないとのことですし、叔父様から返済を免除されたこともないとのことです。そうしますと消滅時効の中断や停止の事由(又は更新や完成猶予の事由)がない限り、お父様の叔父様からの借入金200万円は債権の消滅時効期間である10年が経過することにより、消滅時効が完成することとなります(平成29年改正前の民法167①、平成29年改正民法附則10①)。しかし、お父様は消滅時効を援用していないとのことですので、お父様の相続開始時にはこの借入金債務は消滅していません。 あなたは、お父様から承継した借入金債務について、時効の援用をすることなく、弁済をしましたので、これが相続税の課税価格の計算上債務控除の対象となるのではないかとお考えになるかもしれません。 しかしながら、時効期間を満了した債務については、いつでも消滅時効を援用することにより、消滅させることができますので、あなたは、時効の援用をすることにより、心情的にはともかく、法的にはこの借入金債務を消滅させることができました。このような債務は、確実と認められる債務とはいえませんので、相続税の課税価格の計算において債務控除の対象とすることはできません。 なお、叔父様があなたから受け取った200万円については、ご質問の事実関係の下では、貸付金の返済として受け取ったものと認められますので、贈与税や所得税が課税されることはありません。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第33回】 「海外居住者が自宅敷地を取得した場合の特定居住用宅地等の特例の適否」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲(相続開始日:令和4年4月17日)は、東京都内にあるA土地及び家屋を所有し、相続開始の直前において1人で居住していました。甲は日本人であり、海外に居住したことはありません。甲の相続人は長女と二女の2人のみであり、そのA土地及び家屋を長女と二女が2分の1ずつ取得しました。 長女及び二女は、取得したA土地について特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用を受けることは可能でしょうか。 長女と二女の居住状況等は、下記のとおりとなります。 【相続人の居住状況等】 長女及び二女は、引き続き海外に居住しており、相続したA土地及び家屋は、相続税の申告期限において未利用で保有しています。 [A] 長女は特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下、単に「特例」という)の適用を受けることができませんが、二女は、他の要件を満たせばA土地の面積の2分の1に相当する部分について特例の適用を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定居住用宅地等に係る別居親族の要件 被相続人の居住用宅地等を取得した親族が次に掲げる要件の全てを満たすことが要件となります(措法69の4③二ロ、措令40の2⑭⑮、措規23の2④)。 2 相続税の納税義務者について 相続税の納税義務者の区分は、下記の5つに区分がされており、その区分ごとの課税範囲は下記のとおりとなります(相法1の3、2)。 上記⑤の特定納税義務者は、相続又は遺贈で財産を取得しなかった者で被相続人から相続時精算課税贈与に係る贈与財産を取得した者が対象となりますが、小規模宅地等の特例は相続又は遺贈により財産を取得した者が対象となり、相続時精算課税贈与により受けた財産については、対象とはなりません(連載【第1回】で解説)。 したがって、特定納税義務者はそもそも小規模宅地等の特例の対象者とはなりません。 特定納税義務者を除く相続税の納税義務者について整理すると下記のとおりとなります(網掛け部分が特例の対象となる納税義務者となります)。 〈納税義務者の範囲(特定納税義務者を除く)〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※1) 相続開始の時において在留資格(出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)別表第1(在留資格)の上欄の在留資格をいう。以下同じ)を有する者であって当該相続の開始前15年以内において国内に住所を有していた期間の合計が10年以下であるものをいう。 (※2) 相続開始の時において、在留資格を有し、かつ、国内に住所を有していた被相続人をいう。 (※3) 相続開始の時において国内に住所を有していなかった被相続人であって、当該相続の開始前10年以内のいずれかの時において国内に住所を有していたことがあるもののうちそのいずれの時においても日本国籍を有していなかったもの又は当該相続の開始前10年以内のいずれの時においても国内に住所を有していたことがないものをいう。 長女は、相続開始時において国内に住所を有しておらず、日本国籍ありで10年以内に国内に住所なしに該当しますが、甲は外国人被相続人ではないため、非居住無制限納税義務者に該当します。 二女は、相続開始時において国内に住所を有しておらず、日本国籍なしに該当しますが、甲は外国人被相続人ではないため、非居住無制限納税義務者に該当します。 3 本問への当てはめ 本問の場合には、上記1の要件のうち①、④及び⑤の要件に注意する必要があります。 ◆長女について 〔上記1①の要件について〕 長女は非居住無制限納税義務者に該当しますので、上記1①の要件は満たします。 〔上記1④の要件について〕 「相続開始前3年以内に日本国内にある当該親族、当該親族の配偶者等が所有する家屋に居住したことがないこと」とされており、あくまでも別居親族等が所有する国内にある家屋に居住したことがないことが要件となっていますので、国外にある家屋を長女が所有し、居住していても要件は満たされることになります。 〔上記1⑤の要件について〕 「相続開始時に、当該親族が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと」とされており、上記1④の要件とは異なり、国内にある家屋に限定していませんので、相続開始時に長女が居住している家屋を長女が所有していたことがあれば、要件を満たさないことになります。 したがって、上記1⑤の要件を満たしませんので、特例の適用を受けることができません。 ◆二女について 〔上記1①の要件について〕 二女は非居住無制限納税義務者に該当しますので、上記1①の要件は満たします。 〔上記1④の要件について〕 「相続開始前3年以内に日本国内にある当該親族、当該親族の配偶者等が所有する家屋に居住したことがないこと」とされており、あくまでも別居親族等が所有する国内にある家屋に居住したことがないことが要件となっていますので、国外にある家屋を二女の配偶者が所有し、居住していても要件は満たされることになります。 〔上記1⑤の要件について〕 「相続開始時に、当該親族が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと」とされており、家屋の所有者の制限は、土地を取得した当該親族に限定されており、二女の配偶者が家屋を所有していても、要件は満たされることになります。 したがって、二女は他の要件を満たせばA土地の面積の2分の1に相当する部分について、特例の適用を受けることができます。 ★実務上のポイント★ 海外居住者が相続人である場合には、特例の対象となる納税義務者の範囲をしっかりと確認することが重要となります。国外の居住用不動産を別居親族が所有しているのか、別居親族の配偶者が所有しているのかについても確認する必要があります。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第37回】 「事前確定届出給与を全額無支給とする場合の留意点」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 事前確定届出給与に関する届出書に記載した支給額を支給しなかった場合 事前確定届出給与制度に関して、「届出書の提出失念」や「記載額と異なる額の支給」というミスによって実際の支給額が損金不算入となってしまうというケースは、税務において頻出論点である。税理士職業賠償責任保険に示される事故事例に多くの事例が掲載されていることからも、消費税の納税ポジション選択ミスと並ぶ、全ての税目においても代表的ミスだといっていいだろう。 したがって、税理士にとって、クライアントが届出書に記載した内容通りに事前確定届出給与を支給しているかどうかという点は最も注意すべきポイントであるが、資金繰りの悪化等が要因となり、届出書を提出しているにも関わらず、事前確定届出給与を支給しないことを選択したがる法人もあるかもしれない。 ここで、事前確定届出給与は届出書記載額と実際に支給した額に不一致があった場合、当該支給額全額が損金不算入となる点を逆説的に解し、全くの無支給とした場合には損金不算入額がゼロとなることから、税務上問題ないと一般に認識されている(【第14回】参照)。 しかし、この認識は、事前に定め、提出した届出書に記載した支給時期までに、株主総会等で事前確定届出給与とした額を無支給とすることを改めて決議し、支給対象となった役員が支給を辞退するという所定の手続き(以下、「所定の手続き」という)が前提となっている。 というのも、会社法330条では、会社と役員との関係は委任関係にあると示され、民法648条1項及び2項では、報酬支払の特約があれば受任者は委任事務を履行した後に報酬を請求でき、また、期間によって報酬を定めている場合には、その期間終了後において報酬を請求できる旨が示されている。これらのことから、実務上は支給時期において法人に報酬支払義務が発生すると考えられている。 また、最高裁平成4年12月18日判決において、「株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である(下線部筆者)」とされた事例等が参考となる(※1)。 (※1) 最高裁判所民事判例集46巻9号3006頁、TAINS:未登載。最高裁判所は、「この理は、取締役の職務内容に著しい変更があり、それを前提に・・・株主総会決議がされた場合であっても異ならない」とも示している。同旨の先例として、最高裁昭和31年10月5日判決(最高裁判所裁判集民事23号409頁、TAINS:未登載)がある。 (2) 所定の手続きを経ず、単に無支給とした場合 上記(1)に対し、上記所定の手続きを行わず、単に支給予定時期に支給しなかった場合には、債務免除益課税と源泉徴収義務の発生という2つのリスクが生じると考えられる。 ① 債務免除益課税の発生可能性 上記の通り、株主総会等で事前確定届出給与に関する支給を決議した場合、支給時期において当該役員は報酬請求権が発生する。すなわち、支給時期が到来した時点で所定の手続きを経ていない場合も同様に、当該報酬請求権が発生することとなる。その上で、当該役員が当該報酬請求権を放棄したと認定された場合、税務上は債務免除益として扱うこととなる。もっとも、上記の通り、債務免除益認定のためには当該役員の同意が必要となるが、明示又は黙示の同意があると推認できる状況であればその可能性は高いのではないだろうか(※2)。 (※2) この点、所有と経営が一致する同族会社であればその可能性はより高いだろう。 【届出書に10,000を支給すると記載した場合の仕訳】 なお、実際の支給額はゼロであることから、届出書記載額と支給額が相違し、損金不算入額がゼロとなる一方で、債務免除益が具現化することとなる。 ② 源泉徴収義務の発生可能性 ①に加え、源泉徴収義務も発生する可能性がある。すなわち、所得税基本通達28-10において「給与等の支払を受けるべき者がその給与等の全部又は一部の受領を辞退した場合には、その支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退したものに限り、課税しないものとする」と示されている。 したがって、この点からも支給対象となった役員が支給時期までに支給を辞退しておくことが必要である。 * * * 翻せば、上記所定の手続きを行うことで、役員には報酬請求権が発生せず、課税上の弊害は生じないこととなり、上記の一般的な認識と一致する。 (3) 業績悪化改定事由との関係 事前確定届出給与には、定期同額給与と同じく業績悪化改定事由による変更が認められており(法令69⑤二)、「当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」がある場合には、「事前確定届出給与に関する変更届出書(以下、「変更届出書」という)」の提出により、当初提出した届出書に記載した内容の変更が認められる。 業績悪化改定事由は、【第14回】で触れた通り、経営状況が著しく悪化した場合等、やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない客観的事情があることが必要となるため、単なる資金繰りの悪化や目標値未達成等はこれに該当しない(法基通9-2-13)。したがって、事前確定届出給与を無支給とする判断に至った背景に鑑み、変更届出書の提出が可能か否かについても検討する必要があるだろう。 その上で、業績悪化改定事由に該当しない場合には、上記所定の手続きが必要となる。ここで、上記所定の手続きは法人内部の手続きであるため、課税当局にとっては、提出された確定申告書一式だけでは適正に処理が行われているか不明な状態にある。むしろ、当初提出された届出書に支給額の記載があり、勘定科目内訳明細書には支給をした旨の記載がないことから、確定申告書を精査した段階で疑問に感じるかもしれず、税務調査に移行して議事録等を確認しなければ、所定の手続きが行われているかが確認できない立場にあるだろう。 この点、考えられる対応として、税理士法33条の2に示される書面添付制度を活用して当該内容を明記することが一案である。また、実務上の方法として、提出済みの届出書を取り下げる旨の書面(以下、「取下げ書」という)を提出することも考えられる。もっとも、取下げ書による場合、法に定められた手続きではないため、事前に所轄税務署の担当部署に連絡した上で提出することが親切・安全かつスマートな対応だといえよう。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第39回】 「適格現物出資(支配関係)」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は「完全支配関係」がある場合の適格現物出資の要件を確認しました。今回は、「支配関係」がある場合の適格現物出資の要件について解説します。 なお、支配関係の定義については、本連載の【第3回】を参照してください。 1 支配関係がある場合の適格現物出資の要件 支配関係がある場合の適格現物出資の要件は、次の5つです。 2 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、現物出資法人に被現物出資法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十四)。 合併や分割と違って、1株未満の端数相当の金銭交付や反対株主の買取請求に基づく金銭の交付はありません。 3 支配関係継続要件 「支配関係継続要件」とは、支配関係がある法人同士の現物出資の場合に、再編後においても支配関係が継続する見込みがあることをいいます(法法2十二の十四ロ、法令4の3⑭)。 なお、前回確認した「完全支配関係がある場合の適格要件(完全支配関係継続要件)」の「完全支配関係」を「支配関係」に読み替えて適用します。 4 従業者引継要件 (1) 従業者引継要件とは 「従業者引継要件」とは、現物出資直前の現物出資事業の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が現物出資後に被現物出資法人の業務((2)参照)に従事することが見込まれていることをいいます(法法2十二の十四ロ(2))。 (2) 「被現物出資法人の業務」について ① 被現物出資法人と完全支配関係にある法人がある場合 被現物出資法人の業務には、被現物出資法人との間に完全支配関係がある法人の業務も含まれます。 下図のように、被現物出資法人の業務だけでなく、100%グループ内の法人(A社)の業務に従事している従業者も80%判定に含めてよいこととされています。 ② 現物出資後に適格合併を行うことが見込まれている場合 現物出資後に行われる適格合併により現物出資事業がその適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人の業務も含まれます。 このため、上図の合併法人B社の業務に従事している従業者も、80%判定に含めてよいこととされています。 (3) 「従業者」とは 従業者引継要件における「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、現物出資の直前において現物出資事業に現に従事する者をいいます。 ただし、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払を受ける者については、法人の選択により従業者の数に含めないことができます。 ① 出向により受け入れた者 出向により受け入れている者であっても、現物出資事業に現に従事する者であれば従業者に含まれます。 ② 下請先の従業員 下請先の従業員は、自己の工場内でその業務の特定部分を継続的に請け負っている企業の従業員であっても、従業者には該当しません。 5 事業継続要件 ◎ 事業継続要件とは 「事業継続要件」とは、現物出資事業が現物出資後に被現物出資法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法法2十二の十四ロ(3))。 ① 被現物出資法人と完全支配関係にある法人がある場合 被現物出資法人との間に完全支配関係がある法人において引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 ② 現物出資後に適格合併を行うことが見込まれている場合 現物出資後に行われる適格合併により現物出資事業がその適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合に、その適格合併に係る合併法人において現物出資事業が引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 6 主要資産負債引継要件 「主要資産負債引継要件」とは、現物出資により現物出資事業に係る主要な資産及び負債が被現物出資法人に移転していることをいいます(法法2十二の十四ロ(1))。 現物出資事業に係る資産及び負債が主要なものかどうかは、現物出資法人がその事業を行う上でのその資産及び負債の重要性のほか、その資産及び負債の種類、規模、事業再編計画の内容等を総合的に勘案して判定するものとされています(法基通1-4-8)。 なお、現物出資事業に係る主要な資産及び負債の被現物出資法人への移転が求められていますが、継続保有は求められていません。 7 従業者引継要件の具体例 〔前提〕 〇従業者引継要件の判定 現物出資法人であるA社の現物出資事業の従業者のうち、B社では5割しか受け入れていませんが、B社と完全支配関係があるC社で残りの5割を受け入れており、現物出資法人であるA社の現物出資事業の従業者すべてが被現物出資法人の業務に従事することが見込まれていることとなります。 〇結論 従業者引継要件を満たします。 ◆支配関係がある場合の適格現物出資の要件のポイント◆ 金銭等不交付要件は、被現物出資法人株式以外の対価を交付しないことをいいます。 支配関係継続要件は完全支配関係継続要件を読み替えて適用します。 従業者引継要件は現物出資法人の従業者ではなく、現物出資事業にかかる従業者で判定します。 合併と違い、現物出資は事業単位で移転することを確認するために主要資産負債引継要件が求められています。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2022年4月】 期末決算(2022年3月31日) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、期末決算(2022年3月31日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 2022年1月1日から3月31日までに公開した速報解説を対象としている。 期末決算でも、すでに公表した四半期決算に関連する速報解説に引き続き注意する必要がある。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 会計関係 1 企業会計基準委員会関係 企業会計基準委員会から次のものが公表されている。 〇 「改正実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」」(内容:金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を、米ドル建LIBORとそれ以外の通貨建てのLIBORを分けることなく、一律に2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長することなどを示す)。 2 金融庁関係 金融庁から次のものが公表されている。 ① 「記述情報の開示の好事例集2021」の更新(内容:2022年2月4日。経営方針、経営環境及び対処すべき課題等・事業等のリスク・MD&Aの開示に関する好事例を追加) ② 「記述情報の開示の好事例集2021」の更新(内容:2022年3月25日。監査の状況と役員の報酬等の好事例を追加) ③ 「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(令和4年度)」(内容:重点テーマ審査として収益認識会計基準に着目することなどを示す) 3 日本公認会計士協会関係 日本公認会計士協会から次のものが公表されている。 〇 「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料~DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」(公開草案。会計制度委員会研究資料)(内容:DX環境下におけるソフトウェア関連取引に係る会計処理等の課題を抽出し検討したもの) Ⅲ 監査関係(監査法人等) 監査法人及び公認会計士の実施する監査に関連して、次のものが公表されている。 ① 「IT委員会研究報告第34号「IT委員会実務指針第4号「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」Q&A」の改正」(内容:リモートワークの定着化により想定される課題への対応など) ② 「監査・保証実務委員会実務指針第104号「イメージ文書により入手する監査証拠に関する実務指針」」(内容:企業の取引情報の電子化の一層の加速が見込まれることなどに対応した監査人の指針) ③ 「EDINETで提出する監査報告書へのXBRLタグ付けについて(お知らせ)」(内容:「その他の記載内容」に関するXBRLタグ付けの追加」など) ④ 「公益法人会計基準を適用する公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人の理事者確認書に関するQ&A」(非営利法人委員会研究報告第22号)などの改正(内容:監査基準委員会報告書580「経営者確認書」の改正に対応) ⑤ 「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント」(内容:金融庁。望ましいKAMの記載や現状の課題等を記載) ⑥ 「IT委員会研究報告第60号「監査データ標準化に関する留意事項とデータアナリティクスへの適用」」(内容:監査データの標準化の動向や将来の監査手法などを記載) ⑦ 「監査意見不表明及び有価証券報告書等に係る訂正報告書の提出時期に関する留意事項(内容:過年度の会計不正が疑われるような状況の発生を踏まえ、監査意見不表明と有価証券報告書等に係る訂正報告書の提出時期について記載) ⑧ 「監査・保証実務委員会実務指針第103号「訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針」の改正」(内容:監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」に関連する後発事象への対応などを記載) Ⅳ ESG関係 信託協会に設置された「企業のESGへの取り組み促進に関する研究会」から「「ESG版伊藤レポート」ESGへの実効性ある取り組みの促進と課題解決に向けて~マテリアリティの特定と役員報酬制度の在り方~」が公表されている。 ESG(環境・社会・ガバナンス(ESG:Environment Social Governance))への取り組みに関する実効性や情報開示の質の向上などの課題について検討したものである。 Ⅴ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2022年3月決算に強制適用されるものとして、次の会計基準等がある。 ① 「収益認識に関する会計基準」等(2021年3月26日) ② 「時価の算定に関する会計基準」等(2019年7月4日) (了)
マスクと管理会計 ~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第3回】 「欠品!滞留!・・・在庫はどれくらい持つ?」 公認会計士 石王丸 香菜子 〔登場人物〕 ● ● ● 日常用語として使う「資産」は多いほど嬉しいものですが、会社の貸借対照表における「資産」は必ずしも多ければよいというものではありません。 棚卸資産である在庫を多く保有すると、在庫の保管費用が多く生じます。特に、大型の在庫、冷蔵など一定の条件を保つ必要がある在庫などは保管費用がかさみます。また、滞留している在庫については、想定していた価格での販売が見込めなくなる場合や、廃棄せざるを得ない場合もあるでしょう。 さらに、在庫を保有しているということは、その在庫に資金が投下されたまま回収されない状況を意味しますので、他の用途に資金を有効に使うことができません。 ● ● ● ● ● ● 管理会計では、「経済的発注量(EOQ:Economic Order Quantity)」を求める方法があります。一定期間における在庫の必要量がわかっていることを前提として、発注コストと保有コストの合計が最小になるような発注量を計算する方法です(「企業経営とメンタルアカウンティング〜管理会計で紐解く“ココロの会計”〜」【第3回】参照)。 こうした伝統的な方法は、在庫の必要量が事前に把握できる状況では合理的ですが、近年のように想定外の需要変動がたびたび生じる状況では利用できる局面が限られます。 ● ● ● ● ● ● 現在では、在庫に関するデータをシステム上で常に把握できるケースが増えています。例えば、アイテムごとに1日当たりの平均出荷量をリアルタイムで算定し、手元在庫量であと何日分の出荷に対応できそうかを把握することが可能です。手元在庫量を最低限にするためには、理論上は、手元在庫量で出荷に対応できる日数が、リードタイム(商品を発注してから入荷されるまでの期間)と同じになったタイミングで発注すればよいことになります。 ● ● ● 【1日当たりの平均出荷量10個・リードタイム2日の場合の発注例】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【出荷量が急に増えた場合】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ● ● ● 動画などのストリーミング再生では、データの一部分をいったんバッファーメモリーに溜め、100%溜めたら再生が始まります。再生が始まった後も、引き続きデータをバッファーメモリーにどんどん溜めながら、その一方で同時に再生しています。このような仕組みを取ることで、例えば回線が混雑してデータ受信が少し途切れたとしても、すぐに再生が途切れることはないのですね。 在庫も同じで、このようなバッファーを含めて持つことで、思いがけない需要変動や入荷遅延などによる欠品をなるべく防ぐことができます。欠品を防ぐために、通常必要な在庫量の他に持っておく在庫を「安全在庫」といいます。 ● ● ● 【出荷量が急に増えた場合/安全在庫20個を持っているケース】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ● ● ● 持つべき安全在庫の量は、どのくらい欠品を防ぎたいか、また、そのアイテムの需要変動やリードタイムを考慮して設定します。詳細は割愛しますが、「安全係数 × 出荷量の標準偏差 × √リードタイム(※)」として統計的に算定する方法が広く利用されています。 (※) 定期発注の場合には、√(発注間隔 + リードタイム)。 ただし、安全在庫を持っても欠品を完全に防ぐことはできません。在庫の持ち方について、在庫の性質や自社の状況に適したルールを決めて運用し、柔軟に調整していくのがよいでしょう。 ● ● ● ● ● ● 新型コロナウイルス感染症の流行当初に生じた、不織布マスクの深刻な品薄は、私たちに鮮烈な印象を与えました。一方で、1年も経たないうちに、店頭で安売りのマスクが山積みされているのを目にした方も多いはずです。振り子のように市況が変化したのはなぜでしょうか。 本来、消費者は当面使う枚数のマスクが手元にあれば十分であるはずです。しかし、マスクは1箱30枚などの単位で販売されているものが多く、当面の必要量を上回る枚数をまとめて購入することになります。 感染症流行に伴い消費者が一斉にマスクを購入して品薄になった小売店は、例えば100箱単位など、大きな単位で箱入りマスクを発注します。受注したメーカーは、製造や原料仕入の都合から、さらに大きな単位でマスクを生産することが想定されます。 増産されたマスクがこうしたサプライチェーンを経由して消費者に届くまでには、ある程度の期間を要するため、その間にも消費者は焦ってわずかなマスクに並び、小売店はさらに発注を重ね、メーカーはさらに増産にとりかかります。 しかし、実際には消費者が必要なマスクはせいぜい1日に1~2枚程度なので、増産されたマスクは実需を伴わず、最終的には過剰在庫となったのです。 このように、需要の変動がサプライチェーンをさかのぼるにつれて増幅されていく現象は、「ブルウィップ効果」と呼ばれています。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 こうした現象は、状況によっては、サプライチェーン全体で需要に関する情報を共有することで軽減できる可能性があります。また、発注済みで入荷待ちの状態にある在庫の存在を念頭に置いて、冷静に対応することも大切です。 ● ● ● (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第124回】 グローリー株式会社 「社内調査委員会調査報告書(開示版)(2022年3月14日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【グローリー株式会社社内調査委員会の概要】 【グローリー株式会社の概要】 グローリー株式会社(以下「グローリー」と略称する)は、1918(大正7)年3月創業、1944(昭和19)年11月設立。通貨処理機・セルフサービス機器の開発・製造・販売・保守を主たる事業とする。売上高は217,423百万円、経常利益14,115百万円、資本金12,892百万円、従業員数10,520名(いずれも修正前の2021年3月期連結実績)。本店所在地は兵庫県姫路市。東京証券取引所プライム市場上場。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ神戸事務所。 従業員Xによる横領事件が発覚したグローリーの国内連結子会社であるグローリーサービス株式会社(以下「GS」という)は、大阪市北区に本店を置き、ロッカー事業、社員食堂決済事業及び保険代理店事業を主たる事業としている。なお、グローリーの2021年3月有価証券報告書では、主要な連結子会社ではなく、連結子会社の「その他71社」として表記されている。 【調査報告書の概要】 1 従業員Xの経歴 多額の金銭を横領していた従業員Xは、2005年7月22日、GSに入社。以来、一貫して、総務部に在籍し、総務部が所管する経理業務の支払・資金管理の主たる部分を担当してきた。2015年4月に総務課長代理に昇進し、2021年4月からは同じ総務部配下の姫路事務所長を兼務している。 2 Xによる不正行為の全体像 社内調査委員会は、従業員Xによる不正の手口を2つに大別している。 (※) コインロッカー売上金や保険料を銀行口座に入金するまでの間、一時的に保管する目的で使用されていた金庫で、社内では、「投込み金庫」と呼ばれている。 社内調査委員会が算定したGSの被害金額は次表のとおりである。 3 Xによる不正行為の隠蔽策 社内調査委員会の調査によると、Xは、本件不正行為が発覚することを防ぐために、上長が確認するY銀行のGS名義預金口座の残高証明書及び当該証明書に添付する帳簿残高との間の差異調整表その他の資料を改竄し、また、会計仕訳を操作する等の隠蔽工作を行っていた。 さらに、Xは、GS内及びグローリーに対する運転資金需要の説明に供された資金繰り表の作成を担当していたため、短期借入金に係る追加与信枠設定のグローリーによる承認に向けて、当該資金繰り表において、現預金の金額として、Xによる着服により減少した実際の現預金の額ではなく、虚偽となっていた帳簿上の現預金の額を記載するとともに、売上、事業運営に要する各種費用等についても、専ら自らの着服事実を隠蔽する目的のもと、合理的な見込みと異なる(収入面については不合理に過少な、支出面については不合理に過大な)数値を記載していたという見解を、社内調査委員会は表明している。 4 不正行為発覚の経緯 社内調査委員会の調査によると、Xによる本件不正行為は、グローリーグループのキャッシュ・マネジメント・システム(以下「CMS」という)において、GSに対するCMS上の貸越限度枠(GS向けのCMS貸越枠は4億5,000万円であった)が超過間近又は超過の状態となる事態が頻発していたことを契機に発覚に至っている。 つまり、GSは、会計帳簿上は預金残高が相当金額計上されているにもかかわらず、CMSにおいて、2020年5月の導入当初から、貸越限度枠が超過間近又は超過の状態となる事態が頻発し、グローリー財務部の担当者は、その都度、グローリー及びGSの責任者も交えつつ、GSの資金管理担当であったX及びXの上長に対して警告を行うとともに、貸越状態の早期是正を申し入れていたにもかかわらず、度重なる警告・是正の申入れによっても改善されなかった。2021年12月末に一旦CMS貸越枠の超過状態は解消されたものの、2022年1月に再びCMS貸越枠を超えたため、グローリー財務部長及びXの上長が連携して直接対応にあたり、Y銀行のGS名義預金口座の取引明細を取得・確認したところ、当該取引明細に記録された振込先の一部にW銀行のX個人名義預金口座が確認されたことから、Xの不正行為(預金横領)の一部が発覚したものである。 5 横領金使途(本件不正行為の動機) 社内調査委員会は、Xの動機について、Xの供述及び任意に提出された資料に基づき、Xによる競馬の馬券購入費用、日常的な飲食代や遊興費として費消するためであったと判断した。 特に競馬の馬券購入費用について、社内調査委員会は、W銀行のX名義預金口座に係る取引明細、W銀行のXの配偶者名義預金口座に係る取引明細及びXから任意に提出を受けた馬券購入履歴に係るデータに基づき、被害金額のうち約17億6,355万円は、競馬の馬券購入費用として費消したと算定した。 6 原因(問題点)の分析(調査報告書22ページ以下) 社内調査委員会は、調査の結果、本件不正行為は、X単独による犯行であると認定したうえで、Xの遵法意識及び規範意識は著しく鈍麻しており、その程度は常人の理解を超えるものであることから、本件不正行為の発生及びその被害の拡大はX本人の属人的な帰責に依るところが大きいという総論を述べた。 とはいえ、本件不正行為は、約13年間という長期にわたり、XによりGSの現預金が横領されているという点で特異な事例であり、本件不正行為の発生を阻止し、又は早期に発見することができなかった直接的な原因(問題点)としては、出納・資金の管理に関するGSの内部統制が形骸化していたことが挙げられるとして、次のような原因(問題点)があることは否定できないとした。 社内調査委員会は、Xの上長である総務統括部長及び総務部長について、Xの業務に対する監督は、形式的・表層的なものにとどまり、形骸化していたと評価せざるを得ず、出納担当者であったXに対する牽制としては実質的に機能していなかったと断じたうえで、Xの上長には、Xによる業務を実効的に管理するための知見・経験・知識・意欲が著しく不足していたと評価せざるを得ないと厳しく批判している。 調査報告書によれば、Xの直属の上長は、総務部長兼総務課長であったCであり、その上位の役職者である総務統括部長は取締役が兼務していた。 さらに、社内調査委員会は、背景的な原因(問題点)として、次の要素を挙げた。 調査報告書によれば、GSは、調査対象期間にわたり監査役が設置されており、事業年度毎に監査役監査が行われており、2009年以降、グローリー監査部により、7回にわたる業務監査と5回にわたるJ-SOX監査を受けていた。 しかし、社内調査委員会の調査によれば、これらの監査は、専ら売上計上の適正性や交際費等に着目した監査や、内部統制の整備状況に関する外形的なチェックは行われていたものの、本件不正行為の直接的な原因(問題点)及び背景的な原因(問題点)に着目した監査、特に出納・資金管理に関する内部統制が実効的に機能し、牽制効果が発揮されているかという観点からの実効的な検証は行われていなかった。 7 再発防止策(調査報告書25ページ以下) 社内調査委員会は、原因分析と同じく、直接的な原因(問題点)と背景的な原因(問題点)とに分けて、再発防止策を示している。直接的な原因(問題点)に対応した再発防止策は次のとおりである。 次いで、背景的な原因(問題点)に対応する再発防止策は次のとおりである。 背景的な原因(問題点)に対応する再発防止策では、「実質化」「実効化」がキーワードになっているようであり、社内調査委員会は、グローリーの子会社与信管理や業務監査が形式的なものに終始していたことが、Xによる横領を防止し、又は早期に発見できなかったという認識を有していることがうかがえる。 【調査報告書の特徴】 本件を報じた共同通信の見出しは、「21億円横領、競馬に費消 グローリー子会社元社員」というものであった。傍流の子会社で経理業務を一任されていた従業員による巨額の横領事件と言えば、2015年に発覚した北越紀州製紙株式会社の子会社を舞台にした、総務部長による当座貸越枠を利用して銀行から借り入れた資金約27億円を横領した事件(連載第35回参照)が思い出される。 本件社内調査委員会が指摘した直接的な原因(問題点)については、両事案ともに同じような分析がされており、裏を返して言えば、北越紀州製紙事件の新聞報道や調査報告書を読んで、自社グループにも同じような不正が発生する可能性があるのではないかという「気づき」が、グローリー経営陣になかったことが、一番の問題点ではなかったかと思料する。 1 部下の業務内容に関心を持たない上長たち 社内調査委員会は、GSの経理業務は長年にわたり、X1人で行ってきたことを「属人化・権限の集中化」として問題視すると同時に、GS全体の経理業務軽視の姿勢に対する反発心が、Xにおいて本件不正行為を主観的に正当化する一因となったことは否定できないと指摘している。 さらに、Xの上長に関しては、「上長としての職責を果たそうとする意欲、内部統制の構築という観点が欠落しているように見受けられ、管理者としての資質に疑問があるといわざるを得ない」と手厳しく批判している。同時に、グローリーからの出向者(あるいは出身者)であるGSの総務統括部及び総務部の部門長についても、「GSの事業内容や経理業務に対する理解(又は理解に向けた意欲)の希薄さが認められた」としており、グローリーの人事政策(子会社出向)についても、批判的な指摘が見られる。 2 グローリーによる社内処分 グローリーは、3月29日、「当社子会社における不正行為に係る処分等に関するお知らせ」と題するリリースを出し、社内処分を公表した。かなり広範な処分であるとともに、「返上」と「減額」という語彙の使い分けは、処分の軽重を示していると言えそうである。 グローリーのリリースでは、個人名は明記されていないが、月額報酬の20%を返上(3ヶ月)することとなった取締役(監査等委員長)とは、社内調査委員会委員長の藤田亨氏であり、月額報酬の20%を減額(3ヶ月)されることとなった上席執行役員(経理・財務担当)とは、社内調査委員会委員の藤川幸博氏である。 調査結果によっては、自らが懲戒の対象となりかねない立場にある者を調査委員会委員長及び委員として起用した点について、社内調査委員会の構成には「独立性」「公平性」の観点から疑問が残るという評価をせざるを得ないが、調査委員会委員長・委員自らの社内処分を公表したことで、調査の「公平性」についてはいくらか評価を上げてもいいかもしれない。 3 訂正された内部統制報告書と再発防止策 調査報告書の公表と同日にリリースされた「2022年3月期第3四半期 四半期報告書及び決算短信の提出ならびに過年度の有価証券報告書等、決算短信等、内部統制報告書の訂正に関するお知らせ」には、訂正後の内部統制報告書において、「開示すべき重要な不備」があったとして、Xによる横領事件の原因を、次のようにまとめている。 さらに、訂正後の内部統制報告書では、社内調査委員会の報告を踏まえて、次のような再発防止策を講じることも説明されている。 (了)
給与計算の質問箱 【第28回】 「社会保険の料率の変更」 ~令和4年度対応~ 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 今月から新年度(令和4年度)になりますが、各種社会保険の料率の変更はあるでしょうか。 A 労災保険、厚生年金保険、子ども・子育て拠出金の料率の変更はない。雇用保険、健康保険、介護保険(第2号被保険者)の料率は変更がある。 * * 解 説 * * 1 料率の変更がないもの (1) 労災保険 労災保険料は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから給料計算には関係しない。 〔労災保険率表〕 (※) 厚生労働省ホームページより (2) 厚生年金保険 厚生年金保険の料率は、18.3%を折半して会社負担が9.15%、役員・従業員負担が9.15%である。役員・従業員は、標準報酬月額×9.15%=厚生年金保険料を給料から天引きされる。 例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×9.15%=27,450円の厚生年金保険料を給料から天引きされる。 〔令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)〕 (※) 協会けんぽホームページより (3) 子ども・子育て拠出金 子ども・子育て拠出金は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから給料計算には関係しない。 子ども・子育て拠出金の料率は、0.36%である。子ども・子育て拠出金の額は、被保険者個々の厚生年金保険の標準報酬月額×0.36%の総額である。 例えば、厚生年金の標準報酬月額300,000円の役員1名だけが社会保険に加入している会社の場合、300,000円×0.36%=1,080円の子ども・子育て拠出金を年金事務所へ支払う。 2 料率の変更があるもの (1) 雇用保険 令和4年4月1日から令和4年9月30日までの一般の事業の雇用保険料率は、会社負担が0.65%(令和3年度は0.6%)、従業員負担が0.3%(令和3年度と同じ)である。従業員は、給料の総支給額×0.3%=雇用保険料を給料から天引きされる。 例えば、給料の総支給額300,000円の場合、300,000円×0.3%=900円の雇用保険料を給料から天引きされる。 令和4年10月1日から令和5年3月31日までの一般の事業の雇用保険料率は、会社負担が0.85%、従業員負担が0.5%である。従業員は、給料の総支給額×0.5%=雇用保険料を給料から天引きされる。 例えば、給料の総支給額300,000円の場合、300,000円×0.5%=1,500円の雇用保険料を給料から天引きされる。 〔令和4年度の雇用保険料率〕 (※) 厚生労働省「令和4年度雇用保険料率のご案内」より (2) 健康保険 協会けんぽに加入の東京都の会社の令和4年2月分(3月納付分)までの健康保険の料率は、9.84%を折半して会社負担が4.92%、役員・従業員負担が4.92%だった。 令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険の料率は、0.03%引下げの9.81%を折半して会社負担が4.905%、役員・従業員負担が4.905%になった。役員・従業員は、標準報酬月額×4.905%=健康保険料を給料から天引きされる。 例えば、標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×4.905%=14,715円の健康保険料を給料から天引きされる。 (3) 介護保険(第2号被保険者) 第2号被保険者とは、40歳以上65歳未満の役員・従業員をいう。40歳未満及び65歳以上の役員・従業員の給料からは介護保険料を天引きしない。 協会けんぽに加入の東京都の会社の令和4年2月分(3月納付分)までの介護保険の料率は、1.8%を折半して会社負担が0.9%、役員・従業員負担が0.9%だった。令和4年3月分(4月納付分)からの介護保険の料率は、0.16%引下げの1.64%を折半して会社負担が0.82%、役員・従業員負担が0.82%になった。役員・従業員は、標準報酬月額×0.82%=介護保険料を給料から天引きされる。 例えば、標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×0.82%=2,460円の介護保険料を給料から天引きされる。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第28回】 「道路の状況1つで土地価格も変化する(その2)」 ~建築基準法の要件を満たす道路とは~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 前回、建築基準法によれば、都市計画区域及び準都市計画区域内の建築物の敷地は、道路(ただし、自動車専用道路を除きます)に2m以上接していなければならないことを述べました。また、建築基準法では道路の定義を厳格に捉え、幅員が4m以上で一定の要件に当てはまる道でなければ、いくら道の形態をなしていても道路とは呼ばないことも併せて述べました(建築基準法第42条第2項に規定する4m未満の道(いわゆる「2項道路」)は例外扱いですが)。 そこで、今回は、上記の「一定の要件に当てはまる道」とはどのようなものかにつき、解説を加えておきます。 2 建築基準法上の道路とは 建築基準法の要件を満たす道路とは、次のいずれかに該当するものです(これらのほか、幅員6m以上の道を道路として扱うという特別な区域があり、そこでは例外的に幅員6m未満の道で一定の要件に該当するものも道路として扱われていますが、説明が煩雑となるため割愛させていただきます)。 (1) 道路法による道路(通称「一号道路」) 建築基準法第42条第1項第1号に掲げられていることから、「一号道路」とも呼ばれています(以下、「二号道路」から「五号道路」まで、同様の扱い方となります)。 これに該当する例としては、一般国道、都道府県道、市町村道等があります。 イメージとしては、歩行者や自動車が頻繁に通る公道を思い浮かべていただければよいでしょう。 (2) 都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法等による道路(通称「二号道路」) 都市計画に基づく街づくりや土地区画整理によって新たに設置された道路がこれに該当します。街づくりによって設置された道路としては大規模造成地のなかにある道路を、土地区画整理によるものとしては駅前再開発等によって整備された道路を思い浮かべていただければよいでしょう。 なお、大規模造成地のなかにある道路のなかには、私人名義のまま残されている(私道扱いとなっている)ケースが時折見受けられます。ただし、一概に私道とはいっても、このような道は不特定多数の人の通行の用に供されているため、実質的には公道と何ら変わりありません。 (3) 建築基準法第3章の規定が適用されるに至った際、既に存在していた道(通称「三号道路」) 例えば、建築基準法第3章の規定(※1)が最初に適用された昭和25年11月23日以前から存在していた道がこれに該当します。本項に該当する道であれば、上記(1)、(2)に該当しなくとも幅員が4m以上ある限り建築基準法上の道路とみなされています。 (※1) 建築基準法第3章の規定とは「集団規定」とも呼ばれ、都市計画区域等に適用される規定を指します。 (4) 道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法等による新設又は変更の事業計画のある道路で、2年以内にその事業が執行される予定のものとして特定行政庁が指定したもの(通称「四号道路」) 現に道路の形状をなしていない場合でも、上記のような具体的な計画段階に至っているものについては、建築基準法上の道路として扱われます。〈資料1〉はそのイメージ写真です。 〈資料1〉 (5) 土地を建築物の敷地として利用するため、道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法等によらないで築造する政令で定める基準に該当する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの(通称「五号道路」又は「位置指定道路」) 分譲住宅のミニ開発地でしばしば見受けられる道路であり、もともとは一団の宅地であったところ、区画割りして分譲する際に新設した道路が典型例です。〈資料2〉にイメージ図を掲げます。 〈資料2〉 このような道路は私人名義(=私道)となっており、登記簿(権利部の甲区欄)にはその道路に接する多くの宅地所有者の共有持分が記載されているケースが一般的です(なかには、共有形態ではなく、公図上で道路区画を細かく分割し、それぞれの区画を各宅地の所有者が単独で所有しているケースもあります)。 (6) 42条2項道路(いわゆる「2項道路」) 幅員が4m未満であっても、建築基準法第3章の規定が最初に適用された昭和25年11月23日当時、現に建築物が立ち並んでいた道で特定行政庁(※2)の指定したものは、例外的に道路としての取扱いを受けています。 (※2) 特定行政庁とは、建築主事(建築確認の事務を司る人)を置く市町村の区域については市町村長を指し、その他の市町村の区域については都道府県知事を指します。 宅地がこのような道路に接している場合、建替時には道路の中心線から2m後退する必要がありますが、そのイメージを表わしたものが〈資料3〉です。また、根拠条文を以下に掲げます(必要個所のみ抜粋。下線は筆者によります)。 〈資料3〉 3 まとめ 前回と今回とにわたり道路の定義や種類、鑑定評価との関連性等について解説しましたが、鑑定評価において道路の調査は宅地の価値を左右するという意味できわめて重要であり、奥深いものであることを理解いただければ幸いです。 (了)
《速報解説》 マンション評価をめぐる評価通達6項適用是非が争われた最高裁判決、 上告棄却で納税者側敗訴確定 Profession Journal編集部 平成24年に発生した相続の相続人(原告)が、相続により取得したマンション2棟(甲不動産(東京都杉並区)・乙不動産(神奈川県川崎市))の価額を財産評価基本通達の定める方法(路線価)によって評価し相続税の申告をしたところ、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」とした財産評価基本通達第6項の適用により課税当局から更正処分を受けたため、その取消しを求めていた裁判で、4月19日に最高裁(第三小法廷)は上告を棄却、原告側の敗訴が確定した。 事案の概要は以下のとおり。本件の争点は、下記の各不動産について、通達評価額ではなく鑑定評価額をもって評価した価額を基礎としてされた更正処分の適否である。 〔事案の概要〕 本件は、上告人らが、相続財産の価額を財産評価基本通達の定める方法によって評価した額(通達評価額)により相続税の申告をしたところ、税務署長から、相続財産のうち不動産の一部の価額は上記通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められるから別途実施した鑑定による評価額(鑑定評価額)をもって評価すべきであるとして、それぞれ更正処分等を受けたため、被上告人を相手に、その取消しを求める事案である。 問題となる不動産(甲不動産、乙不動産)の購入価格(購入に伴う借入額)、売却価格、通達評価額及び鑑定評価額は、次のとおりである。 (※) 購入は相続開始の約3年5ヶ月前(甲不動産)と約2年6ヶ月前(乙不動産)であり、売却は相続開始の約9ヶ月後(乙不動産)。 一審(東京地裁令和元年8月27日判決)、二審(東京高裁令和2年6月24日判決)では共に原告の請求が棄却されていたところ、本年3月に口頭弁論が行われたことで最高裁における原判決見直しの可能性に関心が集まったが、結果として とした原判決が維持された。 なお本最高裁判決については、同日付で裁判所のホームページに判決文が公開されている。 また、一審及び二審については、TAINSにおいて別表含む判決内容を確認することができる。それぞれのTAINSコードは以下のとおり。 (了)