収益認識会計基準と
法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究
【第59回】
千葉商科大学商経学部准教授
泉 絢也
(3) 法人税法施行令18条の2第1項・第2項
ア 法人税法施行令18条の2第1項
法人税法施行令18条の2第1項は次のとおり定めている。
内国法人が、法第22条の2第1項(収益の額)に規定する資産の販売等(以下この条において「資産の販売等」という。)に係る収益の額(同項又は法第22条の2第2項の規定の適用があるものに限る。以下この条において同じ。)につき、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、法第22条の2第1項又は第2項に規定する事業年度(以下この条において「引渡し等事業年度」という。)後の事業年度の確定した決算において修正の経理(法第22条の2第5項各号に掲げる事実が生ずる可能性の変動に基づく修正の経理を除く。)をした場合において、当該資産の販売等に係る収益の額につき同条第1項又は第2項の規定により当該引渡し等事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入された金額(以下この項及び次項において「当初益金算入額」という。)にその修正の経理により増加した収益の額を加算し、又は当該当初益金算入額からその修正の経理により減少した収益の額を控除した金額が当該資産の販売等に係る同条第4項に規定する価額又は対価の額に相当するときは、その修正の経理により増加し、又は減少した収益の額に相当する金額は、その修正の経理をした事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。
〔下線及び太字は筆者〕
これは、例えば、資産の販売等に係る収益について、引渡し等事業年度で値引きや割戻し等を見積もり、その分を差し引いて益金の額を計上し、その後、引渡し等事業年度後において、当初見積額等の修正を行った場合に、その修正を行った事業年度で、その修正を課税所得計算に反映させるための規定である。
条文を整理すると次のようになる。
要 件
① 法人税法22条の2第1項又は第2項の適用がある資産の販売等に係る収益の額について、
② 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、
③ 同条第1項又は第2項に規定する事業年度(引渡し等事業年度)後の事業年度の確定した決算において修正の経理(第5項各号に掲げる事実が生ずる可能性の変動に基づく修正の経理を除く)をした場合において、
④ 次の❶の額が❷の額に相当するとき
❶ その資産の販売等に係る収益の額につき、同条第1項又は第2項の規定により、その引渡し等事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入された金額(当初益金算入額)にその修正の経理により増加した収益の額を加算し、又はその当初益金算入額からその修正の経理により減少した収益の額を控除した金額
❷ 当該資産の販売等に係る法人税法22条の2第4項に規定する価額又は対価の額
法律効果
その修正の経理により増加し、又は減少した収益の額相当額は、その修正の経理をした事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。
法人税法施行令18条の2第1項について、立案担当者は、次の諸点を述べている(財務省『平成30年度 税制改正の解説』278頁)。
- 資産の販売等に係る収益の額につき引渡し等事業年度の収益の額として益金の額に算入された場合に、その後の事業年度において一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って変動対価の見積りの変更や当初益金算入額と異なる額で変動対価の額が確定したことを反映する収益の修正の経理を行った場合には、これをその修正の経理をした事業年度の所得の金額の計算に反映するという趣旨である。
- (上記要件①により)この規定の適用があるのは、法人税法22条の2第1項又は第2項の適用があるものに限られるため、別段の定めが適用される工事の請負による収益等には適用がない。
- (上記要件③により)修正の経理は、法人税法22条の2第5項の貸倒れ又は買戻しが生ずる可能性の変動に基づく修正の経理を除くこととされている。貸倒れ又は買戻しの可能性による変動対価は法人税の所得の金額の計算上は考慮しないこととされていることから、この変動対価の見積りの変更についても同様に考慮しないということである。
- 法人税法施行令18条の2第3項の場合と異なり、当初申告において法人税法22条の2第1項又は第2項により益金の額に算入されていることを要件としていない。よって、引渡し等事業年度の修正申告又は更正により資産の販売等に係る収益の額が益金の額に算入され、又は当初益金算入額が修正され、引渡し等事業年度後の事業年度において修正の経理をした場合にもこの規定の適用がある。
- 単なる収益の計上漏れの修正は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った修正の経理には該当しない。裁判例でも、「単なる計上漏れのように、本来の事業年度で計上すべきであった損益を、後の事業年度において、前期損益修正として計算するような処理を公正処理基準に該当するものとして認めることはできないといわざるを得ない」(東京地裁平成27年9月25日判決)などと述べられている。
補足すると、上記要件④があるから、修正の経理をした事業年度の所得の金額の計算に反映するといっても、それは法人税法22条の2第4項の範囲内の額ということになる。
法律効果部分を見れば明らかなように、遡って修正することを認めているわけではない。
上記要件③にあるように引渡し等事業年度後の事業年度の確定した決算において修正の経理をしたことを前提として、その修正の経理により増加又は減少した収益の額相当額について、その修正の経理をした事業年度の益金の額又は損金の額に算入する、ということである。
もちろん、ご都合的に修正の時期を選択できる、どのような修正経理でもいい、というわけではない。上記要件②で、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うことを求めていることに注意が必要である。基本的には、収益認識会計基準がこれに含まれることを所与のものとしているのであろうか。
上記要件②に関連して、法人税基本通達2-1-1の11(注)2は、引渡し等事業年度における資産の販売等に係る収益の額につき、その引渡し等事業年度の収益の額として経理していない場合において、その後の事業年度の確定した決算において行う受入れの経理(その後の事業年度の確定申告書における益金算入に関する申告の記載を含む)は、一般に公正妥当な会計処理の基準に従って行う修正の経理には該当しないことを留意的に定めている。
このような場合は、本来計上すべきであった事業年度、すなわち、引渡し等事業年度の収益の額として処理しなければならないという。
イ 法人税法施行令18条の2第2項
上記要件②では、引渡し等事業年度後の事業年度の確定した決算における修正の経理を求めているが、別途、申告調整による修正の経理も認めるための手当てが法人税法施行令18条の2第2項においてなされている。
同項は次のとおり定めている。
内国法人が資産の販売等を行った場合において、当該資産の販売等に係る収益の額につき引渡し等事業年度後の事業年度の確定申告書に当該資産の販売等に係る当初益金算入額を増加させ、又は減少させる金額の申告の記載があるときは、その増加させ、又は減少させる金額につき当該事業年度の確定した決算において修正の経理をしたものとみなして、前項の規定を適用する。
〔下線筆者〕
これは、当初申告による申告調整により、引渡し等事業年度後の事業年度の確定した決算において修正の経理をした場合と同様の所得の金額の計算を可能にさせるための規定である(財務省『平成30年度 税制改正の解説』279頁)。
法人税法22条の2第2項と第3項の関係を彷彿とさせる規定である(本連載第31回参照)。
つまり、この法人税法施行令18条の2第2項を適用する場合にも、第1項に係る一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うことを求める同項の②の要件を満たす必要があるという議論をなしうる。このことは、法人税法22条の2第2項と第3項の場合と同様である。
この法人税法施行令18条の2第2項によって「みなされる」のは、「その増加させ、又は減少させる金額につき当該事業年度の確定した決算において修正の経理をした」ことにすぎず、第1項にいくつか定められている同項の適用要件のうちの一部にすぎないことに留意する必要があろう。
〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
(例)法法22③一・・・法人税法22条3項1号
(了)
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