〈知識ゼロからでもわかる〉 ブロックチェーン技術とその活用事例 【第8回】 「シェアリングエコノミー×ブロックチェーン」 東京ハッシュ株式会社 代表取締役 段 璽 シェアリングエコノミーとは、個人又は法人が保有する遊休資産の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある。 例えば、近年民泊サービスである「Airbnb(エアビーアンドビー)」やライドシェアリングサービスである「Uber(ウーバー)」のような、特定の企業が仲介者となり運営するプラットフォームにより遊休資産を活用したシェアリングエコノミー市場が活況である。しかしながら、ブロックチェーンのスマートコントラクトを利用することにより、サービスの提供者とサービスの受領者が第三者を介することなく、利用権の管理及び取引などが行えるプラットフォームを実現することが可能である。 1 カーシェア 現在、日本で流行しているカーシェアリングサービスは、厳密には、仲介事業者がカーシェアというサービスを提供することで成り立っている。つまり、車を所有することに多額のコストが発生するようになっていたところに着目し、車を不特定多数の利用者にサービスとして提供することで、事業を行っている。しかしながら、ブロックチェーンやスマートコントラクトを活用することにより、仲介業者抜きにプラットフォームとして介在することになる。 2 スマートロック スマートロックとは、物理的な鍵を持たなくても、スマートフォンなどのデバイスのアプリケーションから自宅などの鍵を解錠・施錠できるサービスのことである。鍵を解除できる権限やコンセントから電気を利用する権限など、家庭に関するシーンでも様々な利用シーンが想定される。 例えば、物理的な部屋の鍵を人に渡すとコピーされてしまうおそれがあるが、鍵をスマートロックに変更すれば、宿泊施設、レンタル会議室、自宅の一室などを気軽にレンタルすることが可能である。また、部屋に限らず、車や自転車のシェアリング、コインランドリー、宅配ボックスなど、この仕組みを活用し応用できるビジネス形態は無数にあるであろう。 3 電子書籍、電子図書館 ブロックチェーンを用いて電子書籍の所有権をトークンで発行すれば、トークンの売買による中古販売やユーザー間の受渡しが可能になる。トークンの発行数・流通量に透明性が担保されるため、ユーザーは本の人気度を客観的に量ることも可能となる。 また、電子書籍の閲覧権をブロックチェーンで管理することで、電子図書館が実現可能になる可能性がある。電子図書館と同様、コンテンツの利用権をブロックチェーンで管理することで、著作権者を保護しながら、利用の促進を図れる可能性が考えられる。 4 チケットサービス 転々流通可能なチケットをブロックチェーン上で正式に発行、管理することで、いわゆる違法なダフ屋などの介在なしに、チケットの効率的な流通販売管理が可能になる。ブロックチェーンの耐改ざん性により、発行者の証明や権利所有を担保し、トークンに記録された電子チケットの流通経路(発行、利用、譲渡など)の把握が可能となる。 5 電力シェア 従来は、大手電力会社が大規模集中型の発電施設で電気をつくり、送配電網を通じて消費者に小売りしていた。しかしながら、ブロックチェーン技術の発達により、第三者を介さず、安価で安全な電力取引が可能となっている。 例えば、太陽光発電所を保有する需要家が発電した電力を自宅で消費し、余った電力を近隣の需要家に売電するとした場合、従来であれば、両者が近隣であっても、電力会社等の第三者がいったん電力を買い取ってから売電せざるを得なかった。これがブロックチェーン上の取引なら、仲介者がいなくても両者間で直接電力の価値を移転することができる(P2P)。また、取引の資金決済は、スマートコントラクトにより、ブロックチェーン上でも可能である。 また、発電コストが時々刻々と変動する再エネ等、調達コストの変動に応じた最適な電気料金をリアルタイムで自動的に設定することに加え、電力料金を需要に追従して最適化するアルゴリズムの導入を行い、決定した電気料金は、需要家に設置したスマートメーターから情報を取得する。需要が高まるか供給が不足すると電気料金が高くなり、逆に、深夜など需要が低い時間帯には電気料金が安くなる。このような仕組みの構築により、需要家は最適な電気料金をリアルタイムに契約(スマートコントラクト)することが可能となる。 (了)
《速報解説》 金融庁、令和3年3月期以降の事業年度における 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等を公表 ~感染拡大の影響を踏まえ、新型コロナの影響に関する開示の審査を重点的に行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和3(2021)年4月8日、金融庁は次のものを公表した。 令和3年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 後述するように、「令和2年度 有価証券報告書レビューの審査結果及びそれを踏まえた留意すべき事項」では、国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」の適用に関する審査結果が記載されているので、有価証券報告書の収益認識に関する開示に際して注意が必要である。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について 令和3年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項として次のことを述べている。 1 新たに適用となる開示制度に係る留意すべき事項 2021年3月期に適用される開示制度に係る公表・改正のうち、主なものは以下のとおりである。 2 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項 令和2年度の有価証券報告書レビューに関して、現在(2021年4月8日時点)までの実施状況を踏まえ、複数の有価証券報告書提出会社に共通して把握された事項に関し、記載に当たっての留意すべき事項について述べている。 当該事項を記載している別紙1は、表紙を含めて45ページある。 記載内容が不十分であると認められた事項には、会計監査の対象となる財務諸表等に関わるものも含まれているため、留意すべき事項等については、提出会社だけでなく、監査を実施する公認会計士又は監査法人においても、十分に留意いただきたいと記載されているので、改めて有価証券報告書の作成に際しては注意が必要である。 令和2年度の有価証券報告書レビューでは、以下の重点テーマに着目して審査する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の長期化を踏まえ、新型コロナウイルス感染症の影響に関する開示の審査を重点的に行う一方で、以下のうち、①のセグメント情報の審査を中止している。 本稿では、「審査結果」において確認された事例について、「適切ではない事例」として紹介する。なお、各所において「新型コロナウイルス感染症の影響に関する開示のポイント」が記載されている。 3 過年度の審査結果のフォローアップ 平成31年度の有価証券報告書レビューにおいて、金融庁は記述情報(「役員の報酬等」や「株式等の保有状況」)の記載内容に改善の余地があると考えられる提出会社に、翌年度からの改善・記載の充実を求める通知をしている。 令和2年度の有価証券報告書レビューでは、当該通知を行った提出会社の有価証券報告書の記載内容をあらためて確認するフォローアップを実施し、大半の提出会社で記載内容の改善・記載の充実が見られた一方、前年度の記載からほとんど変化がなく、改善が見られない提出会社も確認されたとのことである。 前年度から改善が見られない提出会社に対しては、再度、改善・充実を求める通知をしているとのことである。 Ⅲ IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の適用に関する審査 IFRSを任意適用する企業において、顧客との契約から生じる収益に関する開示がIFRS第15号に基づいて適切にされているかについて確認したところ、主に以下の各項目の開示等について、開示目的に照らすと改善の余地があると考えられる事項が識別されたとのことである。 なお、IFRS第15号の開示に関する包括的な定めの趣旨を踏まえ、本年度の重点テーマ審査では、不備の指摘を主目的とせず、より充実した開示に向けた対話を重視したとのことである。 1 全般的な留意事項 2 収益の分解 3 履行義務 4 残存履行義務に配分した取引価格 5 履行義務の充足の時期の決定 6 見積りを伴う判断 Ⅳ 有価証券報告書レビューの実施について(令和3年度) 1 法令改正関係審査 2021年3月31日以降を決算期末とする有価証券報告書の提出会社を対象として、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」及び「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の改正について、適切な記載がなされているかを審査する。 有価証券報告書提出会社は、別添の「調査票」に回答することが求められているので、有価証券報告書の作成に際して注意が必要である。 2 重点テーマ審査 令和3年度の有価証券報告書レビューについては、次のテーマに着目し、2021年3月31日以降を決算期末とする有価証券報告書の提出会社の中から審査対象会社を選定するとのことである。 財務局等からの質問状には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。 (了)
2021年4月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.414を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第1回】 「課税事業者が適格請求書発行事業者登録をする判断ポイント」 税理士 石川 幸恵 【Q】 私は飲食店を経営しています。開業当初の一定期間を除いて消費税の課税事業者です。令和5年10月1日を含む課税期間も消費税の課税事業者であることが既に確定しています。 プライベートで来店されるお客様が多いですが、接待、職場の親睦会などビジネスで利用するお客様もいらっしゃいます。ビジネス利用のお客様からは「(経費精算するので)領収書をください」と言われます。私たちのようなお店は、適格請求書発行事業者の登録をすべきなのでしょうか。その判断のポイントを教えてください。 ※本文中に特に記載がない限り、法人・個人事業者共通です。 〔ポイント〕 (1) 適格請求書発行事業者か否かで売上先から選別される恐れがある。 (2) 適格請求書発行事業者の登録申請、領収書の記載事項の見直し等の準備が必要。 (3) 登録事項が国税庁のホームページに公開される。 (4) 登録するかしないかは任意である。 * * * 【A】 (1) 適格請求書発行事業者か否かで売上先から選別される恐れ ① 適格請求書等保存方式への変更 令和5年10月1日から仕入税額控除の要件が「適格請求書等保存方式(いわゆる「インボイス制度」)」に変わります。【Q】のように飲食店をビジネスで利用したお客様は、飲食代に含まれる消費税額等について仕入税額控除をするため、適格請求書等に該当する領収書の交付を求めると思われます。 ② 適格請求書等を交付できるのは登録を受けた適格請求書発行事業者のみ 適格請求書等は税務署長に登録を受けた適格請求書発行事業者にしか交付できません。課税事業者であっても登録を受けない限り、適格請求書等は交付できないのです(インボイスQ&A問1)。 【Q】のような飲食代は比較的少額と考えられますが、より高額な仕入や外注の取引先の選定にあたっては、仕入税額控除ができない取引先(一定の経過措置あり。インボイスQ&A問110)よりも、適格請求書発行事業者である取引先が優先される可能性は否定できません(※)。 (※) 適格請求書発行事業者の登録をしていない事業者に対して、転嫁拒否等をすることは、独占禁止法や下請法の規制対象となる恐れがあります。 (2) 適格請求書発行事業者の登録申請、領収書の記載事項の見直し等準備が必要 ① 登録の申請 適格請求書等を交付しようとする課税事業者は納税地を所轄する税務署長に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者として登録を受ける必要があります(インボイスQ&A問1)。手続きの詳細は次回以降で取り上げます。 ② 領収書の記載事項の見直し 飲食店は適格簡易請求書という適格請求書よりも記載事項が簡易なものの交付が認められています(インボイスQ&A問25)が、現在の区分記載請求書等よりも記載事項が増えます。記載事項は以下のとおりです。なお、下線部分が新たに追加されます(インボイスQ&A問56)。 (3) 登録事項が国税庁のホームページに公開 ① 公表の目的 適格請求書発行事業者の登録事項はインターネットを通じて国税庁のホームページにおいて公表されますので、特に個人事業主の方などで、公表に抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。公表の目的は、公表事項の閲覧を通じて、適格請求書等の作成者が適格請求書発行事業者に該当するかを確認するためです(インボイスQ&A問1、問20)。 ② 公表事項 公表事項については次のとおりです(国外事業者に関するものは省略)。個人事業者については住所地を公表しないなど一定の配慮がされています。 主たる屋号や主たる事務所の所在地を公表するにあたっての申出は、「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」によることとなっていますが、本稿執筆時点で、申出書の書式を含め申出の方法は明らかになっていません。また、適格請求書発行事業者の氏名に関して、旧姓や通称の使用の可否についても明らかになっていません。 インボイスQ&A(令和3年7月改訂)で、適格請求書発行事業者の氏名に関して、旧姓や通称を氏名として公表、又はこれらを氏名と併記して公表する方法が明らかになりました(インボイスQ&A問2)。 旧姓や通称の登録は、「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」によって行います。「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」の様式もインボイスQ&Aの改訂と同時に公表されました。 詳細は連載【第6回】以降で解説します。 (4) 登録するかしないかは任意 適格請求書発行事業者の登録を受けるかどうかは任意です(インボイスQ&A問11)が、飲食店のような消費者が主たる売上先である事業者も登録することをお勧めします。上の(2)、(3)で示したような準備の手間や公開への抵抗感もありますが、ビジネス利用のお客様から適格請求書等を求められたときに交付できるメリットの方が大きいと思われます。 (了)
〈判例評釈〉 ユニバーサルミュージック高裁判決 【第5回】 公認会計士・税理士 霞 晴久 (B) IBM事件 〈ア〉 IBM事件控訴審が示した判断枠組み 法人税法132条1項が定める不当性要件該当性の判断枠組みについて、IBM事件高裁判決(※30)では、経済合理性基準を示した後、「経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合を含むものと解するのが相当であり、このような取引に当たるかどうかについては、個別具体的な事案に即した検討を要する」と判示し、経済合理性基準の具体的な適用において、いわゆる独立当事者間基準を加味するという考え方を示した(※31)。 (※30) 東京高裁平成27年3月25日判決(平成26年(行コ)第208号、TAINSコード:Z265-12639) (※31) 同様な判断を示した裁判例として、所得税法における行為計算否認規定である所得税法157条1項の不当性要件該当性について争われた、いわゆる「パチンコ平和」事件がある。同事件の第一審判決(東京地判平成9年4月25日・判時1625号23頁、TAINSコード:Z223-7906)は、「経済活動として不合理、不自然であり、独立かつ対等で相互に特殊な関係にない当事者間で通常行われるであろう取引と乖離した同族会社の行為又は計算により、株主等の所得税が減少するときは、不当と評価されることになる(下線筆者)」と判示している。同事件の控訴審判決(東京高判平成11年5月31日・訟月51巻8号2135頁、TAINSコード:Z243-8416)も同様の判断を示している。ただし、同事件の最高裁判決(最判平成16年7月20日・判時1837号123頁、TAINSコード:Z254-9700)では、この点が争点にならなかったため、判断が示されていない。 しかしながら、独立当事者間基準といってもそれをどのように適用するかは「個別具体的な事案に即した検討を要する」と述べるにとどまり、具体的な判断要素が示されていないことから、多くの識者からは、不当性要件の範囲が広がってしまうとの懸念が表明されていた(※32)。 (※32) 谷口勢津夫「租税回避をめぐる最近の動向・課題」税研188号10頁、今村隆「ヤフー事件及びIBM事件最高裁判断から見えてきたもの(下)」税務弘報64巻8号47頁、朝長英樹「検証・IBM事件高裁判決〔第2回〕」T&A master 595号10頁(2015)等。 独立当事者間基準は、法人税法132条1項の規定が同族会社であるがゆえに容易になし得るような取引を対象とするものであることから、理解しやすいといえるが、問題となる取引が独立当事者間の通常の取引と異なるというためには、課税当局側が、合理的な独立当事者間取引について主張立証しなければならず、実際問題として、相当な困難を伴うことが想定される。要は、判断基準として機能しない場合も少なくないといわざるを得ないのである。 〈イ〉 最高裁の対応とその後の展開 IBM事件は上告されたが、最高裁は上告不受理決定(※33)を行い、納税者勝訴が確定した。しかしながら、同時期のヤフー/IDCF最高裁判決文から見ても、最高裁は、IBM高裁判決が示した独立当事者間基準の判断枠組みを採用したわけではない(※34)ことが理解できる。 (※33) 最高裁第一小法廷平成28年2月18日決定・税資第266号-24(順号12802)、TAINSコード:Z266-12802。 (※34) 太田洋「ユニバーサル・ミュージック事件 東京地裁判決の分析と検討〈下〉」月刊 国際税務 Vol.39 No.12 39頁参照。 また、朝長英樹税理士は、IBM事件の上告不受理決定が、ヤフー/IDCF最高裁判決の僅か11日前に行われたこと、両判断を下した裁判官が同一であったことを重視する。IBM事件の高裁判決が平成27年3月25日、同上告不受理決定が約11ヶ月後の平成28年の2月18日であるのに対し、ヤフー事件の高裁判決が平成26年11月5日で、同上告棄却判決が約1年4ヶ月後の平成28年2月29日であり、朝長税理士は、「常識的に考えると、ヤフー事件の上告棄却判決が先でIBM事件の上告不受理決定が後ということになるのではないか」と述べ、「根拠条文が異なるとはいえ同じ『租税回避』に関する事件ですから、ヤフー・IDCF事件の判決で『税法の濫用は租税回避である』という解釈を示した後に、『経済合理性を欠くのは租税回避である』という解釈を示したIBM判決を是認するということは、非常にやりにくいように感じます」としている。 このことから、「IBM事件の上告受理申立ての不受理決定のタイミングを含む『背景』を念頭に置いて考えてみると、単に132条の2についてだけ『税法の濫用』を租税回避としたことではないと考えています」と述べている。 すなわち、最高裁裁判官による行為計算否認規定の不当性要件の解釈は、これからは「制度濫用基準」に重点を置くこととする、との意思の表れと見ることができるのである。このことから、朝長税理士は続けて、「今後は、三つの包括的な租税回避防止規定(筆者注:法人税法132条、同法132条の2及び同法132条の3の3つの行為計算否認規定を指すものと思われる)における租税回避については、『税法の濫用』ということで統一的な整理が図られることになっていくのではないかと思っています」(※35)と述べている。そうすると、本件控訴審判決は、かかる統一的判断基準(※36)を法人税法132条の同族会社の行為計算否認規定の解釈に最初に適用した事例ということができる。 (※35) 朝長英樹「Interview ヤフー・IDCF事件は『租税回避』の捉え方をどう変えたか」T&A master No.634 2016.3.14 8~13頁。 (※36) 荒井英夫「ヤフー事件最判を踏まえた法人税法132条1項と132条の2の不当性要件の解釈について」税大ジャーナル(2019年6月)23頁は、「私法上の選択可能性の濫用の該当性を適切に判断できない場面では、租税法規の濫用の該当性を一般化された『租税法規濫用基準』を判断基準として判断することになると考えている(下線筆者)」と述べ、「租税法規濫用基準」が、今後適用されていくであろうことを示唆している。 (C) 本件第一審が示した判断基準について 本件の第一審である東京地裁は、不当性要件の判断基準について、経済合理性基準を採用することを明らかにし、そもそも私法上の選択可能性が認められる(※37)法人に対し、 との極めてユニークな判断を示した。 (※37) 本件地裁判決では、「利益を産み出し、これを出資者である株主や社員に対して還元することを究極の目的とする会社にあっては、事業の目的に沿った種々の経済活動を遂行するに当たり、業務の管理・遂行上、財務上又は税務上などの様々な観点から、利益を最大化し得る方法を法令の許容する範囲内で自由に選択することができる」と述べている。 その上で、東京地裁は、「以上を踏まえると、同族会社の行為又は計算が経済的合理性を欠くか否かを判断するに当たっては、当該行為又は計算に係る諸事情や当該同族会社に係る諸事情等を総合的に考慮した上で、法人税の負担が減少するという利益を除けば当該行為又は計算によって得られる経済的利益がおよそないといえるか、あるいは、当該行為又は計算を行う必要性を全く欠いているといえるかなどの観点から検討すべきものである。(下線筆者)」という従来の学説や裁判例に見られない新たな判断基準(※38)(本稿では「およそない基準」と呼ぶこととする)を示した。 (※38) 太田洋『ユニバーサル・ミュージック事件 東京地裁判決の分析と検討〈上〉』月刊 国際税務 Vo.39 No.11 35頁参照。 しかしながら、かかる「およそない基準」によれば、ヤフー事件の最高裁判所判例解説が述べるように、「ごくわずかでも何らかの事業目的等が存在すれば、法132条の2(本件でいえば法132条)は適用し得ない」(※39)ことになってしまう。一般的な取引慣行や取引相場がある訳でもない組織再編成について、納税者が、何らかの事業目的の存在について主張するのはそれほど困難ではない。他人から見れば屁理屈ともいえるような目的を作出することも可能である。すなわち、東京地裁が提示する「およそない基準」を適用すれば、(上記、IBM事件控訴審判決とは全く逆に)納税者側に一方的に有利(※40)となり、法人税法132条(ないし同法132条の2)はその存在意義を失うことになる。 (※39) 前掲(※16)1528(298)頁。 (※40) 「ユニバーサル事件でヤフー判決援用、国連敗」(T&A master No.841 2020.7.6 4頁)では、筆者が「およそない基準」と呼んだ不当性要件の判断枠組みを「“納税者有利”の基準」と呼んでいる。 そこで、本件控訴審判決では、 と判示して、原審の判断基準を明確に否定したのである。 (※41) 本件控訴審においては、Xがかかる主張をしていた。 (D) 小括 IBM事件控訴審判決では国側有利、本件地裁判決では納税者有利の判断基準が示されたため、本件控訴審は、両極端に振れた2つの判断枠組みのバランスを採る必要性を考慮したものと解される。本件控訴審判決は、租税回避行為をめぐる過去の様々な論争の中で、従前の経済合理性基準に立脚した不当性要件を排し、ヤフー/IDCF事件最高裁判決が定立した制度濫用基準の判断枠組みを法人税法132条の同族会社の行為計算否認の規定の解釈に初めて適用したという点で、一定の評価を与えることができよう。本件は、最高裁に上告されているので、最高裁が、これまで議論されてきた不当性要件の判断枠組みについてどのように判断するか、注目が集まっている。 (続く)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第28回】 「会社清算の注意点」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) シニアマネジャー 税理士 佐藤 達夫 相談内容 私は、飲食業を営んでいるY社(非上場会社)の社長Aです。Y社の株式は私が40%、私と妻が所有するX社が60%を所有しています。私には子供がいないため事業を親族内で承継せず、外部に売却しようと考えていましたが、会社の業績が新型コロナウイルスの影響により急激に悪化してしまい、今の状況では買い手が見つかりません。Y社の体力が少しでもあるうちに飲食業を廃業し、Y社を清算しようと検討し始めたところ、幸いにも、従業員は、知り合いの会社に転職できることとなりました。私自身は残ったX社からの役員報酬で生活していく予定です。 Y社を清算する際の注意点として、どのようなことがあるかご教示ください。 【図1】現在の資本関係とY社の財務状況 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 清算した場合の税コスト (※1) みなし配当=交付金銭等の額-資本金等の額×株式所有割合 =41,000千円×40%-1,000千円×40% =16,000千円 (※2) みなし配当=41,000千円×60%-1,000千円×60% =24,000千円 (※3) X社とY社は、A氏及び配偶者により、発行済株式総数のすべてを所有されているため、X社にとってY社からの配当金は完全子法人からの配当金となり、受取配当金の益金不算入規定により配当金の全額が益金不算入となります。 (※4) 株式譲渡損益=資本金等の額×株式所有割合-A氏所有のY社株式簿価 =1,000千円×40%-400千円 =0円 (※5) 1,000千円×60%-600千円=0円 (※6) 株式譲渡損益課税は、株主が残余財産の分配を受けた場合に生じます。本事例では、株主が会社設立時よりY社株式を有しているため、Y社の資本金等の額と株主のY社株式の簿価の合計額が一致するため、株式譲渡損益課税は生じません。 [2] 清算時の課税関係のまとめ (1) 株主の取扱い 次のとおり、個人株主・法人株主とで課税関係が異なります。 (2) 清算法人(Y社)の取扱い 清算時の検討すべき主な事項は、次のとおりです。 ① 事業年度 解散日をもって事業年度が区切られ、新たに定款に事業年度を定めることになります。解散の決議を行った場合には、解散の日の属する事業年度開始日から解散日まで、解散日の翌日から定款に定めた事業年度終了日までがそれぞれ1つの事業年度とされます(法法14①一)。 ② 欠損金の繰戻還付 解散をした法人(Y社)が青色申告書を連続して提出している場合において、解散の日前1年以内に終了したいずれかの事業年度又は解散日の属する事業年度において欠損金が生じており、その欠損金の生じた事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度において所得が発生し、法人税を納付しているときは、欠損金の繰戻還付の規定により法人税の還付を受けることができます。この欠損金の繰戻還付の適用を受けるためには、解散日から1年以内に、「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を所轄税務署長へ提出する必要があります(法法80①④)。 なお、この規定は、法人税法のみの規定であり、道府県民税、市町村民税及び事業税には、このような規定はありません。そのため、Y社に欠損金が生じた場合には、事業税においては株式所有割合に応じた欠損金をX社に引き継ぐことになります(地法72の23、地令20の3)。 ③ 残余財産確定時の事業年度における事業税 残余財産確定時の事業年度において課される事業税は、残余財産確定時の事業年度の法人税の所得の金額の計算において、損金の額に算入することができます(法法62の5⑤)。 ④ 金銭以外の資産による残余財産分配を行った場合の譲渡損益課税 金銭以外の資産を分配した場合には、分配時における時価により譲渡をしたものとして課税されます(法法62の5①)。ただし、残余財産の分配時に、株主が内国法人のみであり、株主である内国法人と残余財産を分配する内国法人とに完全支配関係がある場合には、その分配資産の簿価により譲渡をしたものとされます(法法62の5③)。この分配資産の簿価により譲渡された場合には、金銭以外の資産の分配を受けた法人(X社)は、金銭以外の資産の分配をした法人(Y社)との間に、金銭以外の資産の分配を受けた日の属する事業年度開始日の5年前の日、X社の設立日、Y社の設立日のいずれか遅い日から継続して支配関係がない場合には、X社の有する繰越欠損金に使用制限が生じます(法法57④)。 また、分配を受けた内国法人(X社)は、分配資産の簿価を引き継ぐこととなり、その簿価相当額の全額を益金不算入とすることができます(法法62の5④)。 ⑤ 繰越欠損金の引継ぎ 内国法人(X社)との間に完全支配関係のある法人(Y社)の残余財産が確定した場合において、法人(Y社)の残余財産が確定した日の翌日以前10年以内に開始した各事業年度において生じた繰越欠損金があるときは、内国法人(X社)は、法人(Y社)の繰越欠損金を引き継ぐことができます。その引き継ぐ繰越欠損金は、「繰越欠損金の額×株式所有割合を乗じた金額」となります(法法57②)。 ただし、内国法人(X社)との間に完全支配関係のある法人(Y社)が、残余財産の確定日の翌日の属する事業年度開始日の5年前の日、X社の設立の日、Y社の設立の日のうち最も遅い日から継続して支配関係がない場合には、Y社の繰越欠損金の引継ぎにあたり、X社に引継ぎ制限が生じます(法法57③)。 [3] 結論 会社を清算する場合においては、次の点を考慮し、清算時の税コストを検討する必要があります。 本事例においては、仮に、A氏が所有するY社株式をX社に売却した後、Y社を清算した場合には、清算時に負担する税コストは、A氏のY社株式売却時の時価が16,400千円(時価純資産41,000千円×40%)とすると譲渡益16,000千円に対して3,250千円(16,000千円×20.315%)に抑えることができます。 そのため、A氏が所有するY社株式をX社に売却し、株主をX社に集約することも選択肢の1つと考えられます。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第51回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (12) 立案担当者の見解の要旨 『平成30年度 税制改正の解説』の記述から、法人税法22条の2第4項又は5項の規律内容を理解するために参考となる立案担当者の見解を抽出してみたい。なお、立案担当者の解説は、文字どおり、あくまで立案担当者の解説にすぎないため、これに盲従することは妥当ではないが、実際には、他に有力な立法関係資料がないことと相まって、改正規定の趣旨を理解するための1つの重要な手掛かりとなる。 ア 収益認識会計基準の導入に対応する形で、法人税法の改正を行うべきか① 法人税法22条の2第4項に関して、『平成30年度 税制改正の解説』は次のとおり解説している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁 ここで注目しておきたいのは、「収益認識に関する会計基準に基づく会計処理も、『一般に公正妥当と認められる会計処理の基準』に従った計算に該当し得る」という考え方を出発点としていることである。 収益認識会計基準が法人税法22条4項の公正処理基準に該当する可能性があることを前提とすると、同項を通じて、同基準の規律が法人税法においても通用する可能性が出てくる。同基準が入り口(穴)を通って、法人税法の世界に流れ込んでくるイメージである(本連載第45回参照)。 このような理解に基づいて、改正の必要性が検討されたことになる。「収益認識に関する会計基準に従った収益の額の計算のうち、法人税の所得の金額の計算として認めるべきでない部分があれば、その部分を明示する必要が生ずる」というのである。 本連載第17回で見たように、立案担当者によれば、収益認識会計基準の導入を契機として収益の計上「額」に係る規定(法人税法22条の2第4項)を定めることがまず必要とされ、次いで、かかる規定の整備に伴い、収益の計上「時期」に係る規定(法人税法22条の2第1項等)の制定にまで切り込んだという説明が成り立ちそうである イ 収益認識会計基準の導入に対応する形で、法人税法の改正を行うべきか② 『平成30年度 税制改正の解説』は、次のとおり、資産の販売等に係る収益の額は、資産の販売等により受け取る対価の額ではなく、販売等をした資産の価額をもって認識すべきという考え方を法人税法が採用しているとする。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁 法人税法22条の2第4項との関係では、資産の販売等に係る収益の額について、資産の販売等に係る取引においてインプットされるもの(インフローないし取引上の対価、売掛金等の額をイメージ)とアウトプットされるもの(アウトフローないし販売した資産の価額をイメージ)のいずれに着目して決定すべきかという点が問題となる。 『平成30年度 税制改正の解説』は、上記のとおり、資産の販売等に係る収益の額は、資産の販売等により受け取る対価の額ではなく、販売等をした資産の価額をもって認識すべきという考え方を法人税法が採用していることからすると、収益認識会計基準のように取引上の対価の額を基礎として益金の額を計算する方法は採用できないことを明言する。 その上で、次のとおり、法人税法において「価額」すなわち時価とは、一般的には第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額とされていることを前提として、この意味での価額は、結局のところ対価の額に落ち着く可能性に言及する(この点は次回のウも参照)。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁 値引きや割戻し、貸倒れ見込みや返品権付きの販売については、次のとおり説明している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁 上記下線部分については平成30年度改正法に明記されたわけではなく、次のような疑問を残すことになる。 明確な立法措置をとらなかったことによって、立案担当者の説明にあるような解釈を条文から読み取ることができるのかという点が今後問題となる可能性を残してしまったことは残念である。 結局、『平成30年度 税制改正の解説』は次のようにまとめている。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』270~271頁 下線①については法人税法22条の2第5項で明記された一方、下線②については条文に明記されておらず、法人税基本通達2-1-1の11という通達レベルでの対応となっている。やはり、租税法律主義の原則の面前において、かかる通達の内容が関係法規から導き出すことができるかという点が問われることになろう。せめて、法律から政令に委任して、政令レベルで細則的規定を設けるべきではなかったか。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q62】 「特定口座及びNISA口座開設等の手続に関する電磁的方法の利用」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 特定口座の開設手続 (1) 特定口座の利用にあたっての選択肢 特定口座では、上場株式等に関する通常の譲渡のほか、信用取引又は発行日取引に係る差金決済取引を行うことができます。特定口座内で管理する上場株式等に関する取引は、それ以外の上場株式等に係る取引と区分して、上場株式等の譲渡による譲渡所得等の金額を計算することとされています。 そして、利用者の選択により、特定口座を開設する証券会社等に対して、その年における特定口座内で管理する上場株式等の譲渡益と信用取引等に係る差金決済により生じた差損益を合計し、その合計額(源泉徴収選択口座内調整所得金額)に対して20.315%の税率で源泉徴収することを依頼することができます(源泉徴収選択口座)。 源泉徴収選択口座を保有する場合、当該源泉徴収選択口座内で管理する上場株式等の配当等(源泉徴収選択口座内配当等)についても、それ以外の上場株式等に係る配当等と区分して配当所得等の金額を計算することができます。この源泉徴収選択口座内配当等の金額は、源泉徴収選択口座内で生じた上場株式等に係る譲渡損失及び信用取引等に係る差金決済により生じた損失の金額がある場合は、それらの損失金額と通算した上で、源泉徴収されます。 (2) 必要な手続 特定口座の開設、源泉徴収選択口座の選択、源泉徴収選択口座への配当金の受入れに際しては、それぞれ下記の書類の提出が求められます。 上記の届出書は、証券会社等の窓口で書面にて提出することに代えて、電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法)によることも法令上認められています。具体的には、各証券会社のウェブサイトで入力画面が用意されていますので、それらを利用することになります。 また、これまでは、上記の届出書を提出する際には、窓口で書面を提出する場合も電磁的方法による場合も、その都度、住民票の写しなど本人確認書類を提示する必要がありましたが、令和3年度の税制改正により、すでに本人確認書類が提示された特定口座に関する届出書については、その提示を要しないこととされました。 つまり、特定口座開設届出書の提出時に本人確認書類を提示するため、その後に、特定口座源泉徴収選択届出書や源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書を提出する際には、本人確認書類を再度提示する必要はなくなりました。 2 NISA口座の開設手続 NISA口座では、上場株式等(公募株式投資信託等を含みます)を保有し、5年間の非課税措置の適用を受ける(一般NISA)か、又は、非課税累積投資契約を締結することにより、一定の公募等株式投資信託を保有し、20年間の非課税措置の適用を受けることができます(つみたてNISA)。 令和6年には制度改正が予定され、一般NISAは2階建て構造(安定的な資産形成を目的とした1階部分には、つみたてNISAに認められる一定の公募等株式投資信託等を組み入れ、成長資金の供給拡大等を目的とした2階部分には、上場株式等を組み入れます)となります。 一般NISAもつみたてNISAも、口座の開設時には、非課税口座開設届出書を提出することが必要です。これについても、証券会社等の窓口で書面にて提出することに代えて、電磁的方法によることが認められています。 また、NISA口座についても、特定口座と同様に、令和3年度の税制改正により、すでに本人確認書類が提示された口座に関する追加的な届出書(金融商品取引業者等変更届出書など)については、本人確認書類の再提出は不要とされました。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第70回】 「課税処分と信義則事件」 ~最判昭和62年10月30日(集民152号93頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第24回】 「居住したことのある生計を一にする親族の居住用家屋を譲渡した場合」 -生計を一にする親族の居住用家屋の譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、8年前に取得した家屋に、6年前まで母と共に居住していましたが、Yと結婚したことから、その家屋に母を残して、妻と共に賃貸マンションで暮らしていました。 転居後も、母はその家屋に引き続き居住し、母の生活を維持するために生活費を毎月送金してきました。 その母が高齢となったことなどから、Xは、このほど、その家屋とその敷地を売却し、銀行に住宅ローンを組んで新居を購入する予定です。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 譲渡資産であるその所有する家屋が、措通31の3-2(居住用家屋の範囲)に定める家屋に該当しない場合であっても、措通31の3-6(生計を一にする親族の居住の用に供している家屋)に定める次の全ての要件を満たしているときは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 ただし、その家屋の譲渡、その家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡、又は、災害により滅失(措通31の3-5(居住用土地等のみの譲渡)に定める取壊しを含みます)をしたその家屋の敷地の用に供されていた土地等の譲渡が上記(2)の要件を欠くに至った日から1年を経過した日以後に行われた場合には適用できないこととされています 本事例の場合のXは、上記(1)~(4)の要件の全てを満たし、生計を一にする母親が譲渡直前まで居住の用に供していることから、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)