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ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第21回】「社員にワクチン接種を勧奨する場合の注意点」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第21回】 「社員にワクチン接種を勧奨する場合の注意点」   弁護士 柳田 忍   【Question】 先日、新型コロナワクチンの追加接種の実施方針が国から示され、また、厚生労働省が3回目の職場接種に関する説明会を実施しました。追加接種の対象となるのは1回目、2回目の接種を受けた人だということなので、当社においては、1回目・2回目のワクチン接種を受けていない社員に向けて社長がメッセージを発信することを検討しています。 メッセージの概要は以下のとおりです。 このような、メッセージはワクチンハラスメントに当たらないでしょうか。また、社員にワクチン接種を勧める場合のポイントを教えてください。 【Answer】 社長のメッセージは、社員に対して新型コロナウイルスのワクチン接種を強要するおそれがあり、いわゆるワクチンハラスメント(新型コロナウイルスのワクチンの予防接種を強要されたり、接種を受けたことや受けなかったことについて不当な取扱いや嫌がらせ等を受けたりすること)に該当する可能性を否定できないものと思われます。 社員に対してワクチン接種を勧奨する場合には、これが強要に当たらないよう、ワクチン接種を受けた場合・受けない場合それぞれのメリット、デメリット、リスク等について正確な情報を丁寧に説明したうえで、ワクチン接種に不安や抵抗感を覚えている社員の心情に理解を示し、寄り添う内容のものにするのがよいと思います。   1 ワクチン接種の勧奨と強要の判断基準 新型コロナウイルスのワクチン接種は努力義務(目的実現のため、心身を労して務めることをもって義務を達成したことになるもの)であり、会社は、社員に対してワクチンの接種を勧奨することは可能だが、ワクチン接種を強要することはできない。どの程度の「勧奨」であれば「強要」に当たらないかについては、退職勧奨と退職強要の判断基準が参考になる(拙稿【第11回】、【第16回】参照)。 具体的には、以下のとおりと考えられる。 社長のメッセージの対象者は、1回目・2回目のワクチン接種を受けていない社員であり、ワクチン接種の勧奨に応じない明示ないし黙示の意思表示を行った者と捉えることも可能である。 よって、これらの者に対してワクチン接種を勧奨する場合、ワクチン接種を受けた場合・受けない場合のメリット、デメリット、リスク等について、正確な情報をもって丁寧に説明し、説得活動を行うよう心がけるべきである。   2 本メッセージにおける問題点 (1) 接種を受けない者に対して不利益な取扱いがなされる可能性を示唆する点 本メッセージは、社長自らが、社員はワクチン接種を受けるべきであるとの立場を強く表明し、接種に応じない意思表示を行ったとみることができる社員にわざわざ再考を求める内容のものである。 よって、これに逆らってワクチン接種を受けない場合に会社から何らかの不利益な取扱いを受けるおそれを推認させるものであり、社員に不当な心理的圧力を与えて自由な意思形成を阻害するものに当たる可能性がある。 (2) ワクチン接種を受けた場合のデメリット・リスクについて不正確な情報を提供している点 ワクチン接種により重大な副反応(アナフィラキシー(急性のアレルギー反応等))が現れる確率が極めて低いことは事実である。しかし、ワクチンの長期的な安全性についてはまだ評価できる段階にはなく、今後も観察が必要であると言われている。 それにもかかわらず、本メッセージにおいて、あたかもワクチン接種を受けることについて健康被害の可能性がないかのごとく述べられている点に問題がある。 (3) いわゆる「同調圧力」が生じるおそれがある点 本メッセージは、社員がワクチンを接種しないことにより会社や周りの社員が迷惑を被るのだからワクチンを接種すべきであるというメッセージを伝えるものと言える。このようなメッセージは、いわゆる同調圧力を生じさせる可能性が高い。 同調圧力の危険性については、公的機関が発行している文書やウェブサイト等においても警告がなされているところである(例えば、文部科学省等の「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種を生徒に対して集団で実施することについての考え方及び留意点等について」)。 ワクチン未接種者の感染リスクが接種者よりも高く、感染者との接触により接種者の感染リスクが高まることは事実であり、その事実自体をニュートラルに伝えることは問題ないと思われる。社員へのメッセージを発する際には、かかる事実の伝達が同調圧力に繋がらないよう、文案を慎重に検討すべきである。   3 ワクチンハラスメントを避けつつ職場の安全を守る方法 社員に向けたメッセージにおいてワクチンハラスメントを避けるポイントとしては、以下のとおりである。 (1) ワクチン接種を受けるか否かは本人の自由であるという原則を明確にする この基本原則を強く打ち出すことにより、メッセージ中の他の文言がワクチン接種を強要する趣旨であると誤解されることを避ける効果が期待できる。 例えば、「ワクチン接種を受けるか否かは本人の自由」というメッセージを打ち出しておけば、上記の「ワクチン未接種者の感染リスクが接種者よりも高く、感染者との接触により接種者の感染リスクが高まる」との事実の伝達が同調圧力ととられるリスクを低減できる。 (2) メッセージの発信者を社長以外の者にする 上記のとおり、社長がワクチンを強く推奨するメッセージを発すれば、これに逆らってワクチン接種を受けない場合に会社から何らかの不利益な取扱いを受ける可能性を推認させるおそれがある。 よって、メッセージの発信者は社長以外の者とするのが望ましい。 (3) ワクチン接種のメリット・デメリットについて、正確な情報を提供する まず、ワクチン接種のデメリットに関する正確な情報を提供するとの観点から、ワクチン接種に健康上の問題がないかのごとくの表現は避けるべきである。 上記のとおり、ワクチン接種のリスクについて、社員に対して正確な情報を提供することは、ワクチンハラスメントを避けるために重要なポイントであるが、同時に、社員がワクチン接種のリスクを過剰に評価して、接種に抵抗するケースも多いことに照らすと、ワクチン接種率の上昇に繋がり、職場の安全を守る方向にも資することになる。 また、ワクチン接種のメリットに関する正確な情報の提供については、例えば、妊娠中の方でワクチン接種について不安を感じている方は少なくないが、公的機関や専門家などは、妊娠中に新型コロナウイルスに感染すると、特に妊娠後期は重症化しやすいとして、妊娠中の方へのワクチン接種を推奨している(例えば、厚生労働省ホームページの「新型コロナワクチンQ&A」)。 このような情報を提供するなどして、ワクチン接種への不安や抵抗感を覚えている社員に理解を示し、これらを取り除いてあげることが、ワクチンハラスメントを避けつつ、ワクチン接種率を向上させ、職場の安全確保にも繋がるのではないかと思われる。   4 まとめ 会社は、社員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負うことから、職場の安全を守るため、また、取引先との関係等から、社内のワクチン接種率を上げたいという切実な事情は理解できる。 しかし、社員にワクチンを受けてほしいという気持ちが先行して、圧力をかけるようなコミュニケーションとなったり、不正確な情報をもって説得しようとしたりする場合には、ワクチンハラスメントに該当するおそれがあり、また、接種を強要された社員に健康問題等が発生した場合には会社の責任になりかねない。 ハラスメントにおいては、言動がハラスメントに当たらないようにすることはもちろんのこと、相手から「ハラスメントだ」と言われないようにすることも重要である。そのためには、ワクチン接種への不安や抵抗感を覚えている社員に理解や共感を示し、寄り添う内容にすることがポイントになると思われる。 (了)

#No. 448(掲載号)
#柳田 忍
2021/12/09

〔一問一答〕税理士業務に必要な契約の知識 【第24回】「再転相続と相続放棄の熟慮期間」

〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第24回】 (最終回) 「再転相続と相続放棄の熟慮期間」   虎ノ門第一法律事務所 弁護士 鏡味 靖弘   〔質 問〕 私の父は、令和3年5月31日に亡くなりました。父の法定相続人は子である私だけであり、相続手続を終えたところ、令和3年12月1日、伯父(父の兄)の債権者だったという方から私宛に5,000万円もの支払を求める訴状が届きました。訴状によると、伯父の妻及び子が全員相続放棄をしており、父が伯父の相続人となっていたため、父からの相続により私が伯父の相続人たる地位を承継したとのことです。 父と伯父はもう30年以上も音信不通であり、父は伯父が亡くなったことさえ知らなかったはずです。今回届いた訴状により、私は初めて父が伯父の相続人であったことを知りましたが、5,000万円もの支払をするつもりはありません。父が亡くなってから半年を経過していますが、私は、これについて相続放棄をすることができるのでしょうか。 〔回 答〕 訴状が送達され、父親が伯父の相続人であったことを知った時(令和3年12月1日)から3ヶ月以内であれば、伯父からの相続について、相続放棄をすることができます。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 再転相続とは 「再転相続」とは、ある人(A)が亡くなった後(第1次相続)、その法定相続人(B)が相続放棄や限定承認、単純承認をする前に死亡し、Bについても相続(第2次相続)が開始した場合のことをいう。 なお、類似のケースとして「代襲相続」や「数次相続」があるが、代襲相続は、Aが亡くなった時点で法定相続人であるBが相続権を失っている場合(死亡が典型例)をいい(民法887条2項)、数次相続は、BがAの遺産について承認したが、遺産分割協議をしないうちに死亡してしまい、Bについての相続が開始した場合をいう。   2 再転相続における相続放棄等の対象 例えば、Aが死亡し(第1次相続)、その子であるBが相続放棄や単純承認をする前に死亡した場合(第2次相続)、Bの子であるCは、第2次相続についてだけでなく、第1次相続についても承認又は放棄の選択をしなければならない。孫であるCは、父Bの相続と祖父Aの相続の両方についてこれを決しなければならないのである。 第1次相続及び第2次相続に対する承認・放棄の組み合わせは合計4パターンあり得るが(承認・承認、放棄・放棄、放棄・承認、承認・放棄)、このうち、第1次相続は承認して第2次相続を放棄するというパターンはとり得ない。なぜならば、第2次相続について放棄した時点で、第1次相続に関する相続人の地位を失うからである。そのため、祖父(A)は積極財産のみを遺し、他方で父(B)は多額の負債を抱えていたという場合に、Bの負債については承継せず(放棄)、Aの積極財産は引き継ぐ(承認)という対応はできない。   3 再転相続における熟慮期間 (1) 相続放棄の熟慮期間(一般) 相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に、相続の承認(単純承認・限定承認)又は放棄をしなければならない(民法915条1項本文)。この3ヶ月という期間のことを「熟慮期間」という。 相続の承認及び放棄の制度は、相続人に対し、被相続人の権利義務の承継を強制せず、相続の承認・放棄をする機会を与えることによって、相続財産を調査するかどうかについての選択権を付与したものであり、民法915条1項本文の規定する熟慮期間は、相続人が承認・放棄の判断をするに当たり、相続財産の状態、積極・消極財産の調査をして熟慮するための期間として定められたものである。 そこで、民法915条1項本文にいう「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続開始の原因たる事実の発生を知っただけでは足りず、それによって自己が相続人となったことを覚知した時をいうものと解釈されている(最高裁判所昭和59年4月27日判決・民集38巻6号698頁)。 (2) 再転相続における熟慮期間の起算日 再転相続における熟慮期間の起算日について、民法916条は、「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する」と規定している。 (3) 第2次相続基準時説と第1次相続基準時説 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の解釈については、いわゆる「第2次相続基準説」と「第1次相続基準説」との争いがあった。 第2次相続の相続人Cが、自分のために第2次相続(Bからの相続)の開始があったことを知った時をいうとするのが第2次相続基準説であり、CがBのために第1時相続(Aからの相続)の開始があったことを知った時を指すとするのが第1次相続基準説である。 〔質 問〕の事例のように、第1次相続に関する関係事実(父が伯父の相続人である事実)を知らないまま、第2次相続に関する熟慮期間が経過した後に初めてそれを認識したというケースの場合、第2次相続基準説によれば熟慮期間経過後のためもはや相続放棄ができないとの結論になるのに対し、第1次相続基準説に立てば熟慮期間内であるため放棄可能という結論になる。 (4) 最高裁判所令和元年8月9日判決 この点の解釈につき、【最高裁判所令和元年8月9日判決・民集73巻3号293頁】は、「民法916条にいう『その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時』とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである」と判示し、第1次相続基準説に立つことを明らかにした。 最高裁判所の上記判示の理由は、主に以下の点である。   4 まとめ 前記最高裁判所判決により、再転相続の場合における熟慮期間の起算点の解釈は実務上の決着をみることとなった。急速に進む高齢化により、今後、再転相続や代襲相続、数次相続など複数の相続が発生し、非常に複雑な法律関係に陥る事案が多発することが十分に考えられる。 期間の経過等により思わぬ不利益を被るケースが多い分野であり、なるべく早い段階で適切な対応をとるべきである。 (連載了)

#No. 448(掲載号)
#鏡味 靖弘
2021/12/09

《速報解説》 定年を延長した場合に一部の従業員に対してその延長前の定年に達した時に支払う一時金の所得区分に関し、東京国税局から文書回答事例が公表される

《速報解説》 定年を延長した場合に一部の従業員に対してその延長前の定年に達した時に支払う一時金の所得区分に関し、東京国税局から文書回答事例が公表される   税理士 菅野 真美   令和3年11月11日(ホームページ公表は令和3年12月3日)、東京国税局は、事前照会を受けた「定年を延長した場合に一部の従業員に対してその延長前の定年に達した時に支払う一時金の所得区分について」に関して、照会者に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありませんと回答した。 照会者は、労働協約書等を改定し、従業員の定年を満60歳から満65歳までの間で従業員の選択したいずれかの年齢に達した月の末日に延長した(選択定年年齢)。これまで60歳に達した月の翌月までに退職金を支給していたが、原則的には選択定年年齢に達した月の翌月までに退職一時金を支給することとした。しかし、従業員が希望した場合は、満60歳に達した月の翌月までに一時金の支給をすることとした。この希望した従業員に支給された一時金は退職所得として取り扱われるかが本照会のポイントである。 所得税基本通達30-2(5)において、次のように定められている。 本事案の一時金は、労働協約等による定年延長であり、新制度導入前に入社した従業員で、満60歳に達した希望者に対し、旧定年である満60歳に達した月の末日までを基礎として計算されたもので、支給後は退職を理由とした一時金を支給しない。また、旧定年を迎えたときに退職一時金が支給されることを前提に生活設計をしてきた希望者の事情を踏まえ精算を行うことであること等から相当の理由もある。よって通達の要件が満たされることから、退職所得として取り扱われるとされたと考える。 なお、平成31年1月10日に熊本国税局が「定年を延長した場合に従業員に対してその延長前の定年に達した時に支払う退職一時金の所得区分について」に関して回答したが、その中で、定年延長後に入社した従業員に対して旧定年(60歳)の時に支給した退職一時金については、雇用の時点で64歳定年として採用されるため、労働協約等を改正して定年を延長した場合に該当しないから、退職所得として取り扱われるとは限らないとしている。 (了)

#No. 447(掲載号)
#菅野 真美
2021/12/06

プロフェッションジャーナル No.447が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年12月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.447を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/12/02

monthly TAX views -No.107-「所得制限、「制度設計」が先か「システム構築」が先か」

monthly TAX views -No.107- 所得制限、「制度設計」が先か「システム構築」が先か   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   岸田内閣の下での経済対策として「18歳以下の子供1人あたり10万円の給付」が行われる。所得制限を付けるかどうか、世帯所得とするかどうかなどが議論されたが、結局世帯主年収960万円未満という現行児童手当と同様の所得制限の導入ということで決着がついた。この所得制限では、ほぼ9割の世帯に配られるということになり、事実上制限なし(バラマキ)に等しい。 適切な所得制限が付かなかった理由は、迅速な給付を行うため、つまり所得情報と給付を個別に結び付ける連携システムがいまだ整っていないということだ。 経済対策の中には、「生活困窮者」への支援も入っている。「生活困窮者」は、これまで通り「住民税非課税者」ということになりそうだ。しかし住民税非課税者の中には、多額の資産を蓄えている高齢者が、所得は年金しかないので住民税が非課税になっているケースが相当あるといわれており、これも無駄な給付につながっている。 *  *  * わが国の社会保障給付を見ると、保育料(0-2歳)や高等学校等就学支援金制度、国民健康保険料や介護保険料など、給付と負担の両面で所得制限を設けているものが多くある。 さらに所得については、個人(世帯主の年収)と世帯の両方に分かれている。例えば児童手当は個人で判断し、保育料(0-2歳)や高等学校等就学支援金制度や高等教育の修学支援新制度は世帯年収で判断する。 このような区々ばらばらな制度は、いろいろな経緯があり統一するには時間がかかる。そこで、“デジタル"の出番となる。 しかし冒頭で述べたように、所得情報と給付をつなげるシステムや基盤作りは進んでいない。今後、本人の申請なく国・自治体で要件を把握してプッシュ型で給付などを行うことが予定されており、それにはこの情報連携システムの構築が必須となるはずだが。 筆者は、デジタル庁の「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」の委員をしており、牧島かれん大臣も出席された第2回目(11月22日)会合で以下のように発言した。 (※) デジタル庁「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ(第2回)」。なお、議事録は後日掲載予定。 システム作りに加えて、さらなる情報の収集も必要となる。資産を把握するには、預金口座付番を進めなければならない。預金口座付番が進まないうちは、特定口座で取引を行っている株式譲渡益と配当所得を番号で名寄せして対応することも考えられる。 いずれにしても、早急に所得情報と給付を連携させるシステム構築ができないと、今後も「システムがないのでできない」ということになり、いつまでたってもバラマキ型給付から抜け出せない。 *  *  * ところでエコノミストの中には、一律10万円給付して事後的に申告で取り返せばいいではないかという「事後精算方式」を主張する者がいる。しかしこれは思い付き素人の非現実的なアイデアだ。 わが国では、就業者6,700万人のうち納税者は5,400万人で、そのうち8割強の者の適用税率(所得税)は、最低税率の5%か、その次の10%となっている。40%以上の税率で課税される者はわずか40万人程度である。 さらに手間の問題がある。納税者の大部分の者は給与所得者で、年末調整で申告不要となる。10万円を税金で取り返すには、会社の年末調整で行うことになるが、これは民間の事務コストを増やすことになる。いずれにしても返ってくる税金は極めて少なく、「事後清算」とはならない。 これらの点については、筆者のコラム「『迅速』で『公平』なコロナ対策給付のためのインフラとは」を参照いただきたい。 (了)

#No. 447(掲載号)
#森信 茂樹
2021/12/02

〔令和3年度税制改正における〕人材確保等促進税制の創設(賃上げ・投資促進税制の見直し) 【第2回】

〔令和3年度税制改正における〕 人材確保等促進税制の創設 (賃上げ・投資促進税制の見直し) 【第2回】   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   ←(前回) | (次回)→   5 用語の定義 (1) 全体像 人材確保等促進税制及び(改正後の)所得拡大促進税制における用語については、新たに設けられたもののほかに改正前の用語が引き続き用いられているものもある。その場合においても、改正前の用語の定義が変更されているものもあるため留意が必要である。 本税制における用語について、①税制改正による定義の変更がなかったもの、②税制改正により定義が変更されたもの、及び③税制改正により新設されたものをまとめると下表のとおりとなる。 また、以下の用語は令和3年度の税制改正によって廃止されている。 (2) 用語の定義 (人材確保等促進税制) 1 国内新規雇用者【新設】 法人の国内雇用者のうち、その法人の有する国内の事業所に勤務することとなった日から1年を経過していない者をいい(措法42の12の5③二)、具体的には、雇用開始日(国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第107条第1項に規定する労働者名簿に氏名が記載された日(※1))から1年を経過しないものをいう(措令27の12の5③本文)。基本的には、いわゆる「新入社員(中途採用含む)」と理解して差し支えない。過去において当該法人に雇用されており、その後一度退職したものの、一定期間後に再び同法人に雇用された者も、国内新規雇用者に該当することとされている(※2)。 (※1) その国内に所在する事業所につき作成された労働者名簿に記載されている「雇入れの年月日」(労基規53①四)をいい、その国内雇用者がその法人の国内に所在する他の事業所から異動した者である場合には、その法人の国内に所在する各事業所におけるその国内雇用者の雇入れの年月日のうち最も早い日とする(措規20の10②)。 (※2) 経済産業省「『人材確保等促進税制』よくある御質問 Q&A集(令和3年8月30日 改訂版)」A9より。 この点に関し、国内新規雇用者となるのは、国内雇用者のうち労働者名簿に氏名が記載された者に限られる点にも注意が必要である。 ただし、以下に該当する者は除かれる(措令27の12の5③一~三)。 ① 役員及び一定の使用人 その法人の国内雇用者となる直前に、その法人の役員及び一定の使用人に該当する者は、国内新規雇用者の範囲から除外される(措令27の12の5③一)。 一定の使用人とは、具体的には以下の者をいう。 すなわち、役員を退任して使用人になった者や、海外支店等から国内の事業所に異動した者は除かれるということである。 ② 支配関係法人の役員、支配関係のある個人及び一定の使用人 (ア) 支配関係法人の役員及び一定の使用人 その法人の国内雇用者となる直前に、その法人の「支配関係法人」の役員及び一定の使用人に該当する者は、国内新規雇用者の範囲から除外される(措令27の12の5③二前段)。 支配関係法人とは、法人税法第2条第12号の7の5に規定する支配関係がある法人をいい、具体的には、「一の者が法人の発行済株式等の総数又は総額の50%超を直接又は間接に保有する関係(当事者間の支配関係)」又は「一の者との間に当事者間の支配関係がある法人相互の関係(同一の者による支配関係)」のある法人が該当する。 一定の使用人の範囲は、具体的には以下の者をいう。 上記①の範囲に加え、「その支配関係法人の国内雇用者である者」が新たに追加されている。支配関係法人から異動した者については原則として国内新規雇用者に含まれないということである。 (イ) 支配関係のある個人及び一定の使用人 その法人の国内雇用者となる直前に、その法人と「支配関係のある個人」及び(その個人の)一定の使用人に該当する者は、国内新規雇用者の範囲から除外される(措令27の12の5③二後段)。 支配関係のある個人とは、具体的にはその法人の発行済株式総数等の50%超を直接又は間接に保有する個人、すなわち筆頭株主等を指すものと考えられる。 一定の使用人の範囲は、具体的には以下の者をいう(措規20の10③、措令5の6の4⑤一)。 (ウ) 組織再編成等が行われた場合等の取扱い 上記(ア)及び(イ)の取扱いには例外があり、その異動が組織再編成又は連結納税グループ法人間の異動による場合には、一定の要件に該当する者については国内新規雇用者に含めることとされている。 すなわち、その法人を合併法人等(合併法人、分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人)とする合併等(合併、分割、現物出資又は現物分配)が行われた場合において、その合併等の直後の国内雇用者のうち、その合併等の直前においてその合併等に係る被合併法人等の国内雇用者であった者は、上記①及び②の範囲から除外されている(措令27の12の5③二イ)。 つまり、その合併等によって被合併法人等から合併法人等に異動した使用人のうち、被合併法人等において国内雇用者であった者については、他の要件に該当する限り合併法人等において引き続き国内新規雇用者等に該当するものとして取り扱われる、ということである。この場合には、その被合併法人等における雇用開始日を合併法人等における雇用開始日とみなすこととされている(措令27の12の5④)。 具体的には、合併等の日において被合併法人等における雇用開始日から1年を経過していない場合には、被合併法人等における雇用開始日から1年を経過する日までの間は合併法人等において国内新規雇用者となり、逆に、合併等の日において被合併法人における雇用開始日から1年を経過している場合には、合併法人等において国内新規雇用者である期間は存在しないこととなる(※3)。 (※3) 財務省「令和3年度 税制改正の解説」513頁。 この取扱いは、その法人の国内雇用者となる直前に、その法人と連結完全支配関係にある他の連結法人の国内雇用者であった者についても同様である(措令27の12の5③二ロ)。 ③ 合併等の直前において支配関係のない被合併法人等の役員及び一定の使用人 その法人を合併法人等とする合併等(その法人との間に支配関係がない法人を被合併法人等とするものに限る)の直後のその法人の国内雇用者で、その合併等の直前においてその合併等に係る被合併法人等の役員及び一定の使用人に該当する者は、国内新規雇用者の範囲から除外される(措令27の12の5③三)。 一定の使用人の範囲は、具体的には以下の者をいう。 上記②(ウ)との相違点は、支配関係のない法人との合併等に係る被合併法人等における国内雇用者については、除外の対象に含まれていないという点である。すなわち、他の要件に該当する限り、合併法人等において国内新規雇用者となるということである。この場合には、その被合併法人等における雇用開始日をその合併法人等における雇用開始日とみなすこととされている(措令27の12の5④)。 2 新規雇用者給与等支給額【新設】 法人の各事業年度(適用年度)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内新規雇用者(雇用保険の一般被保険者(雇保法60の2①一)に該当するものに限る)に対する給与等の支給額から、その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額のうち雇用安定助成金額を除いた金額を控除した金額をいう(措法42の12の5③五)。 ① 集計の対象者 新規雇用者給与等支給額の計算にあたっては、まず対象となる国内新規雇用者の範囲を確定させたうえで、雇用保険の一般被保険者に該当する者を抽出する必要がある。 すなわち、国内新規雇用者に該当するとしても、雇用保険一般被保険者以外の被保険者(高年齢保険者、短期雇用特例被保険者又は日雇労働被保険者)に対する給与等の支給額は、新規雇用者比較給与等支給額に含まれないということである。 ② 集計期間 国内新規雇用者となるのは雇用開始日から1年を経過する日までであるから、新規雇用者給与等支給額の支給期間もおのずと最長12ヶ月間ということになる。この期間は、国内新規雇用者の雇用開始日から起算されることになるから、必ずしも事業年度の期間と一致するものではない。雇用開始日と事業年度開始日が一致していれば、国内新規雇用者となるのはその事業年度(12ヶ月間)のみということになるが、雇用開始日と事業年度開始日が異なる場合、その者は2事業年度にわたって国内新規雇用者に該当することとなる。 したがって、各事業年度において「雇用開始日から1年を経過していない者」を把握する必要があるが、事業年度ごとにまとめて集計できるものではなく、各自の雇用開始日から1年を経過していない者を毎年度個別に集計する必要がある点に留意が必要である。 (つづく)

#No. 447(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2021/12/02

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例36】「同族会社の代表者と同居する愛人に対して支給する給与の損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例36】 「同族会社の代表者と同居する愛人に対して支給する給与の損金性」   国際医療福祉大学大学院教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、神奈川県内の私鉄沿線のとある駅から徒歩圏内に事務所を構える税理士です。私のクライアントの多くは地元で何十年も前から会計事務所を構えていた父親から引き継いだものですが、その中から廃業する会社が徐々に増えており、顧問先の新規開拓が最近の私の重要な経営課題となっております。 そこで、現状打開の窮余の策として始めたのが、顧客紹介会社の利用とホームページを通じたマーケティング戦略です。後者は、検索エンジンでわが事務所が上位に来るような施策を講じることと、ウェブ広告によりわが事務所のホームページに顧客を誘導することを行っています。前者は、紹介された顧客が顧問契約を締結した場合、年間顧問料の何割かを報酬として支払う施策となります。 その甲斐あってか、わが事務所の顧問先が徐々に増え始めているところですが、その中の1社(A株式会社)のことで相談があります。その会社は創業後10年くらいの芸能事務所で同族会社なのですが、最近売れ始めたタレントが何名か在籍しており、売上げも急上昇しております。そのため、節税の相談が多いのですが、何か手っ取り早い方法はないかとしつこく迫ってきて閉口させられております。 そんな中、A社の社長から連絡があり、現在、税務調査で税務署ともめているので直ちに来てほしいと言われました。話をよく聞いてみると、A社の社長は妻帯者でありながら、自社のタレントの卵Bに手を出して、自宅以外のセカンドハウスに同居させて自分の身の回りの世話をさせており、その対価として給料を毎月50万円支払っているとのことです。BはA社との間に雇用契約がないので従業員ではなく、A社の仕事もしておらず、ただ社長の身の回りの世話をしている愛人に過ぎないことから、税務署の調査官は「「愛人手当」のような個人的な支払いを会社に付け回しているのみでなく、従業員に仮装して給与を支払うのは極めて悪質である」として、厳しく追及されているようです。 私としては、これは良い機会なので、この社長は調査官にこっぴどく絞られるべきと考えているのですが、社長は「最悪でも役員給与として損金に算入されるべき」と主張して譲りません。社長の主張通り、役員給与として損金算入される余地はないのでしょうか、教えてください。 【A】 法人代表者の愛人Bに対して給与を支払っていたとしても、その愛人にA社における勤務実態がない場合には、その支払いは雇用関係に基づくものではないため、愛人に対する給与ではなく、代表者個人が負担すべき支払いとなり、当該支払いはその他の経済的利益として代表者に対する役員給与となります。 また、当該役員給与は、雇用関係がないにもかかわらず、従業員への給与と仮装して愛人に支払ったものであるので、法人税法第34条第3項が適用され、A社の損金には算入されません。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 役員給与の損金算入 平成18年度の税制改正で、従来の役員報酬と役員賞与という概念は「役員給与」に一本化された。その上で、損金算入される役員給与の類型として、①定期同額給与、②事前確定届出給与、及び、③業績連動給与の3つを挙げ、それ以外は原則として損金不算入となることとされた(法法34①)。 ① 定期同額給与 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与や新株予約権(ストックオプション)によるもの、使用人兼務役員の使用人部分の給与等を除く)のうち、支給時期が1ヶ月以下の一定期間ごとに原則として同額支給される給与である「定期同額給与」に該当する額は、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される(法法34①一)。これは、従来(平成18年度税制改正前)の役員報酬に相当する。 ② 事前確定届出給与 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与を除く)のうち、所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与である「事前確定届出給与」の額は、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される(法法34①二)。これは、従来(平成18年度税制改正前)の役員賞与に相当する。 ③ 業績連動給与 内国法人(同族会社の場合、同族会社以外の法人との間に当該法人による完全支配関係があるものに限る)が、(1)取締役会設置会社の代表取締役、業務執行取締役(会社法363①)、(2)指名委員会等設置会社の執行役(会社法418)、及び、(3)その他の(1)又は(2)に準ずる役員に対して支給する「業績連動給与」で、次に掲げる(ア)及び(イ)の2要件を満たし、さらに第1の要件(ア)については「3つのサブ要件」を満たしている給与の額(他の業務執行役員のすべてに対してこれらの要件を満たす業績連動給与を支給する場合に限る)は、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される(法法34①三)。 業績連動給与は、平成29年度の税制改正前まで「利益連動給与」とされていたものが、改正により修正されて導入されたものである。 上記の①定期同額給与、②事前確定届出給与、③業績連動給与のいずれにおいても、損金算入される役員給与は、恣意性の排除を目的として、予め定められているかどうかが重要な判断要素となっているものと考えられる。また、同族会社は身内(少数の大株主)による業務運営が可能なことから、役員給与についても「お手盛り」の支給・利益調整がなされることに課税庁は神経をとがらせているようである。   (2) その他の経済的利益 役員給与の中には、金銭での支払いのほかに、現物、債務の免除による利益「その他の経済的利益」も含まれる(法法34④)。当該経済的利益の中には、役員が負担すべき(個人的な)費用を、法人が代わって負担した金額も含まれることとなる(いわゆる「付け回し」)。この中には、愛人を囲っている法人の役員が、愛人に係る支出(愛人の宝石類や衣服の購入費用など)を法人に負担させるケースが含まれる。 当該支出の相手方(役員と事実上婚姻関係があると同様の関係にある愛人等(法令72二))との間に法人との雇用契約が存在する場合には、当該相手方は特殊関係使用人に該当し、その者に対する給与は不相当に高額である場合、その部分の金額が損金不算入となる(法法36)。   (3) 愛人や内縁の妻に対する「給与」の支払い 愛人や内縁の妻に対する「給与」名義の金銭の支払いに関し、その損金性が争われた事案として、東京地裁令和元年5月30日判決・税資269号-55(順号13278)(TAINSコード:Z269-13278)があるので以下で確認しておきたい。 ① 事案の概要 原告は、平成8年3月に建設用機械及び車両の企画・設計・製造・販売等を目的として設立された有限会社である。同社は、平成20年9月期から平成26年9月期までの各事業年度の法人税の確定申告において、自己の従業員であるとする乙に給与(月額45万円)を支給したとして、その支給額を損金の額に算入して申告した。これに対し、茂原税務署長は、上記支給額につき、乙に対する給与であるかのように事実を仮装して経理することにより、原告代表者に対して支給された役員給与の額であると認め、以下の課税処分を行った。 本件は、原告が、被告を相手に、本件各処分の取消しを求める事案である。なお、原告代表者には配偶者丙がいる。 ② 事案の争点 ③ 裁判所の判断 争点1 争点2 なお、納税者側は控訴したが、控訴審の東京高裁令和2年1月16日判決(TAINSコード:Z888-2294)でも原審が維持され、確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 中小企業の経営者がその愛人(税務実務では一般に「特殊関係者(人)」という)や内縁の妻に給与の支払いやマンション家賃の法人負担等、様々な経済的利益を供与することはよく見られることであるが、それは概ね税務調査の段階で結論が出る(課税処分となる)のが通例であり、本事例のように裁判で正面から争われる事案は意外に少ないように思われる。その意味で、本事例は貴重な裁判例であり、実務の参考になるものと考えられる。 本事例の焦点は、法人から法人代表者の内縁の妻への「給与」の支払いが「その他の経済的な利益(法法34④)」に該当し、かつ、その支払いにつき「内国法人が事実を隠蔽し、又は仮装して経理を」した(法法34③)と言えるのかという点である。 前者については、「役員が個人として負担すべき費用を法人が負担することによって当該役員に付与される経済的利益についても、以上の趣旨は該当するものと解されるところ、これを同条1項から3項までの適用上、役員給与に含まれないものとして扱うべき理由はないから、その負担額について、同条4項が定める「その他の経済的な利益」に該当するものと解するのが相当である」として、勤務実態のない愛人への給与と称するお手当(?)は、そもそも法人が負担すべき支払いではなく、代表者個人が負担すべきものであるから、その支払いは代表者個人への経済的利益の供与となり、役員給与となると判示された。 後者については、「乙(筆者注:代表者の内縁の妻)が原告の従業員であるかのように装って本件各支給をし、本件各事業年度における法人税の所得金額の計算上、本件各支給額を損金の額に算入したものである」として、代表者の内縁の妻を従業員であるかのように仮装して給与を支給した行為は、事実を隠蔽し、又は仮装して経理を行ったものと考えられることから、損金算入が認められないと判示した。なお、当該損金算入の否認規定は、事実を隠蔽し、又は仮装して経理を行うという不正常な給与の支払いは、いわゆる「利益の処分」にあたるため、という立法趣旨に基づくものと解されている(※)。 (※) 金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019年)399頁。   (4) 本件へのあてはめ 法人代表者の愛人に対して給与を支払っていたとしても、その愛人にA社における勤務実態がない場合には、その支払いは雇用関係に基づくものではないため、愛人に対する給与ではなく、代表者個人が負担すべき支払いとなり、当該支払いはその他の経済的利益として代表者に対する役員給与となる。 また、当該役員給与は、雇用関係がないにもかかわらず、従業員への給与と仮装して愛人に支払ったものであるから、法人税法第34条第3項が適用され、A社の損金の額には算入されない。 (了)

#No. 447(掲載号)
#安部 和彦
2021/12/02

租税争訟レポート 【第58回】「居住用不動産の売買取引に係る課税仕入れの区分(控訴審:東京高等裁判所令和3年7月29日判決(第一審:東京地方裁判所令和2年9月3日判決))」

租税争訟レポート 【第58回】 「居住用不動産の売買取引に係る課税仕入れの区分 (控訴審:東京高等裁判所令和3年7月29日判決 (第一審:東京地方裁判所令和2年9月3日判決))」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【判決の概要】 〈控訴審〉 〈第一審〉 (※) 詳細は本連載【第53回】を参照。   【事案の概要】 不動産の売買及び仲介業務等を目的とする株式会社である原告は、平成27年3月期から平成29年3月期までの各課税期間において、将来の転売を目的としてマンション84棟(その一部又は全部が住宅として貸し付けられているもの。以下「本件各マンション」という)を購入した。 本件各マンションの購入は、消費税法2条12号に定める課税仕入れに当たるところ、原告は、各課税期間に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)の確定申告において、本件各課税仕入れが同法30条2項1号にいう「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」(課税対応課税仕入れ)に区分されるとして、本件各課税仕入れに係る消費税額の全額を当該課税期間に係る課税標準額に対する消費税額から控除して申告を行った。 これに対し、麹町税務署長(処分行政庁)は、本件各課税仕入れは同号にいう「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」(共通対応課税仕入れ)に区分すべきものであるから、本件各課税仕入れに係る消費税額の一部しか控除することができないとして、平成30年7月30日付けで、原告に対し、各課税期間に係る消費税等の各更正処分及びこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分をした。 本件は、原告が、被告を相手に、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。   【判決の概要】 1 争点 争点は次の3点であるが、本稿では、主たる争点である「本件各課税仕入れの用途区分〔争点1〕」を中心に、東京高等裁判所の判断を検討したい。特に、第一審である東京地方裁判所の判断との相違点に注目して、検討することとする。 2 控訴人(第一審被告:国/処分行政庁)の主張 〔争点1〕について、控訴人は、被控訴人の本件事業におけるビジネスモデル(本件ビジネスモデル)の下では、本件各課税仕入れについては、本件各仕入日において、将来、住宅の貸付けによる賃料収入という非課税売上げが見込まれるとともに、本件各マンションの売却により課税売上げも見込まれることから、消費税法30条2項1号に規定する「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」(課税対応課税仕入れ)及び「課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下この号において「その他の資産の譲渡等」という。)にのみ要するもの」(非課税対応課税仕入れ)のいずれにも該当せず、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通するもの」(共通対応課税仕入れ)に該当することが明らかであるとしたうえで、被控訴人は、本件各課税仕入れにつき、本件各課税期間において課税売上割合に代えて課税売上割合に準ずる割合を用いて共通対応課税仕入控除税額を計算することの承認申請をせず、所轄税務署長から消費税法30条3項2号の承認を受けていないことから、本件各課税仕入れに係る共通対応課税仕入控除税額の計算に当たっては、同条2項1号ロにより被控訴人の本件各課税期間における課税売上割合を用いることになると主張した。 3 被控訴人(第一審原告:ADワークス)の主張 被控訴人は、〔争点1〕について、まず、控訴人の主張を次のように批判した。 そのうえで、本件各課税仕入れは、本件各マンションの販売を専ら主眼として行われたものであって、本件各マンションの賃貸は、専らその販売の手段(つまりバリューアップ)として行われたものと評価すべきことは、通常の合理的な経験則をもって事実を認定評価すれば明らかというべきであるから、消費税法上の税負担の累積の排除という趣旨から被控訴人に課されるべき消費税額は、本件各マンションの建物部分の販売の対価と仕入れの対価の差額、すなわち被控訴人の下で創出された付加価値に相当する額に対する消費税額であるべきことは明らかというべきであると主張した。 4 東京高等裁判所の判断 東京高等裁判所は、判決文の「第3 当裁判所の判断」の冒頭で、①本件各課税仕入れは共通対応課税仕入れに区分されるべきものであり〔争点1〕、②本件各更正処分は平等取扱原則に違反するものではなく〔争点2〕、③本件各確定申告において消費税の申告額が過少であったことにつき、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとはいえない〔争点3〕から、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分はいずれも適法であって、被控訴人の請求はいずれも理由がないと判断すると結論を述べた。 (1) 用途区分の判定基準 裁判所はまず、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合には、課税仕入れを課税対応課税仕入れ、非課税対応課税仕入れ又は共通対応課税仕入れのいずれかに区分する必要があるとして、 と説明したうえで、消費税法30条2項1号の定める各課税仕入れについては、同号の文言及び趣旨等に即して、課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、非課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来非課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引と非課税売上げを生ずる取引の双方が客観的に見込まれる課税仕入れについては、全て共通対応課税仕入れに区分されるものと解するのが相当であるという結論を導き出した。 (2) 本件各課税仕入れの用途区分について 上記(1)の判定基準によって、裁判所は、本件ビジネスモデルにおいては、本件各課税仕入れについて、本件各仕入日において、将来、住宅の貸付けによる賃料収入という非課税売上げが見込まれるとともに、本件各マンションの売却による課税売上げも見込まれるから、本件各課税仕入れは、消費税法30条2項1号に規定する課税対応課税仕入れ及び非課税対応課税仕入れのいずれにも該当せず、共通対応課税仕入れに該当するものと解するのが相当であるという判断を示した。 (3) 被控訴人の主張について 東京高等裁判所は、被控訴人による、消費税法30条2項1号の課税対応課税仕入れ及び非課税対応課税仕入れに共通して用いられている「にのみ要するもの」という文言は、「その資産の譲渡等を行わないのであれば、そもそも事業者はその課税仕入れ等を行わなかった」という条件関係を意味するものと解され、そうすると、用途区分の判定については、その対象となる課税仕入れ等が、課税資産の譲渡等との間でのみ条件関係を満たす場合には課税対応課税仕入れに、その他の資産の譲渡等との間でのみ条件関係を満たす場合には非課税対応課税仕入れに、その双方と条件関係を満たす場合には共通対応課税仕入れに、それぞれ区分されるものと解するのが相当であるという主張に対し、次のように批判して、これを認容しなかった。 すなわち、単に「その資産の譲渡等を行わないのであればそもそも事業者はその課税仕入れ等を行わなかった」という条件関係があれば同条2項1号の定める課税対応課税仕入れに該当するという法文の文言と異なる解釈を認めるとすると、将来一部に非課税対応課税仕入れを生ずる取引が客観的に見込まれる場合も課税対応課税仕入れに区分されることになり、課税対応課税仕入れに区分される取引が相当広汎に認められることになるが、上記(1)①から③で説明したように、被控訴人の主張に係る解釈及びその適用の結果は以上のような消費税法30条2項の規定の文言及び趣旨並びに同条所定の仕入税額控除制度の仕組みと整合しないものであって相当とは解し難いものといわざるを得ないことから、東京高等裁判所は、被控訴人の上記主張は採用することができないという判断を示している。   【解説】 本連載【第53回】で取り上げた本件の第一審判決は、転売目的で購入した住宅用マンションについて、転売までの期間に発生する賃料収入(消費税法においては非課税売上げに該当する)が発生することが認められるにもかかわらず、課税仕入れがいかなる取引のために行われたものであるのかを、その経済実態に即して判断すべきであるとして、住宅用マンション購入時の消費税等について、個別対応方式によりその全額を課税対応課税仕入れとしてその全額を課税仕入れの対象とすることを認めたものであったが、これは、国税不服審判所の裁決や類似事案の判決とは異なる判断を示したものであり、国側の控訴による控訴審判決が注目されていたが、控訴審判決では、納税者の主張は全面的に否認され、国/課税庁の主張が認められることとなり、類似事案の判決や裁決とは整合性が取られることとなった。 第一審判決を取り上げた本連載【第53回】でも指摘したとおり、被控訴人及びその同業者が採用しているビジネスモデルについては、過去の税務調査においても、国税庁による「課税対応課税仕入れに区分して差し支えない旨の通知」をもとに、消費税申告を是認してきただけに、〔争点2〕の「平等取扱原則違反の有無」についても、裁判所の判断が注目されたが、こちらも、平等取扱原則に反して違法となるものではないという判断が示された。 1 課税庁の判断が変更されたのは平成17年 判決文の中で、東京高等裁判所は、平成17年11月5日刊行の国税庁職員の執筆に係る「こんなときどうする 消費税Q&A」と題する文献を引用する形で、「現住建造物を転売目的で購入した場合の仕入税額控除」と題する設例では、「事業者の最終的な目的は中古マンションの転売ということであっても、転売までの間非課税売上げである住宅家賃が発生することも事実であり、中古マンションの購入に係る消費税は、課税売上げと非課税売上げに共通して要するものに該当することになります。」との明確な見解が示されていると説明している。また、同月10日には、国税不服審判所において、転売用マンションに係る課税仕入れは共通対応課税仕入れに区分するのが相当であるとの判断が初めて示されていることもあり、従前の「課税対応課税仕入れに区分して差し支えない」という課税庁の取扱いは、平成17年を機に変更されたことがわかる。 2 被控訴人であるADワークスの対応 東京高等裁判所の判決を受けて、ADワークスの親会社である株式会社ADワークスグループは、2021年8月12日、「株式会社エー・ディー・ワークスが提起していた消費税の更正処分等の取消請求訴訟に係る上告受理申立てに関するお知らせ」を公表して、判決を不服として最高裁判所に上告受理申立てを行ったことを明らかにした。 このリリースの中で、ADワークスは、2019年3月期以降について、国税当局の見解に従って算出される税額を一旦納付していることから、控訴審判決が今期以降の当社の連結業績に与える影響はないと説明している。 (了)

#No. 447(掲載号)
#米澤 勝
2021/12/02

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第14回】「従業員・相続人以外の親族・生計一親族に事業を承継させた場合の特定事業用宅地等の特例の適用の可否」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第14回】 「従業員・相続人以外の親族・生計一親族に事業を承継させた場合の特定事業用宅地等の特例の適用の可否」   税理士 柴田 健次   [Q] 次のそれぞれの場合には、A宅地からC宅地について、小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例の適用を受けることは可能でしょうか。 [A] A宅地及びC宅地については、小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることはできませんが、B宅地については他の要件を満たせば特例の適用を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定事業用宅地等の意義 特定事業用宅地等とは、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業(貸付事業を除く、以下同じ)の⽤に供されていた宅地等で、次に掲げる場合の区分に応じていずれかを満たすその被相続⼈の親族が相続⼜は遺贈により取得したものをいいます。 なお、令和元年度税制改正により、特定事業用宅地等の範囲から、被相続人等の事業の用に供されていた宅地等で、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等を除くこととされました。ただし、租税特別措置法施行令40条の2第8項で定める規模以上の事業(特定事業)を行っていた場合のその宅地等については、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供されたものであっても、その範囲から除かれないこととされました(措法69の4③一、措令40の2⑧)。 この取扱いは、平成31年4月1日以後に新たに事業の用に供された宅地等から適用され、同日前に新たに事業の用に供された宅地等については適用されません(附則79②、措通69の4-20の5)。   2 A宅地の判定 土地を取得した配偶者が事業を承継していないため、特例の適用を受けることができません。なお、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例は、相続開始の直前において被相続人又は生計一親族が貸付事業を行っていた場合に適用されるものですが、本問においては、相続開始の直前において貸付事業を行っていませんので、貸付事業用宅地等の特例も受けることができません。 仮に生前に従業員に事業を承継させ、相当の対価で3年以上の貸付を行い、他の要件を満たせば、貸付事業用宅地等の特例の適用を受けることは可能です。 親族内に後継者がいない場合には、特定事業用宅地等の特例を受けることはできなくなりますので、従業員などの親族以外に事業を承継させる場合には、生前に事業を承継し、貸付事業用宅地等の特例を受けられるように専門家がアドバイスすることも重要となります。   3 B宅地の判定 甥は相続人ではありませんが、親族であるため、特例の対象者になり得ます。親族の範囲については、【第1回】で解説しています。本問の場合には、上記1の①の要件を満たしていますので、特例の適用を受けることができます。   4 C宅地の判定 C宅地の判定を行う際には、新たに事業の用に供された宅地等の判定及び特定事業の判定がポイントになります。本問の場合には、新たに事業の用に供された宅地等に該当し、特定事業には該当しませんので、特例の適用を受けることができません。 〔新たに事業の用に供された宅地等の判定〕 「新たに事業の用に供された宅地等」に該当するかどうかの判定は、被相続人又は生計一親族のそれぞれの利用状況により行うことになります。したがって、被相続人にとって「新たに事業の用に供された宅地等」であるかどうか、生計一親族にとって「新たに事業の用に供された宅地等」であるかどうかが問題になります。 本問のC宅地のように、被相続人の事業を廃止した上で生計一親族の事業の用に供した場合には、生計一親族にとっては「新たに事業の用に供された宅地等」に該当することになります。 「新たに事業の用に供された宅地等」の判定については、【第9回】で解説しています。 〔特定事業の判定〕 特定事業の判定は、【第10回】で解説していますが、本問の場合には、下記の通り判定することになります。 ① 事業主宰者が有していた減価償却資産のうち事業の用に供されていた部分の相続開始時の価額(分子) ② 被相続人が有していた宅地等のうち相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された部分の相続開始時の価額(分母) ③ 特定事業の判定 ➡したがって、C宅地は特定事業に該当しませんので、特例の適用を受けることができません。   ★実務上のポイント★ 生前に事業の承継を親族に行う場合には、生計を一にしていた親族であることの要件の他にも、特定事業に該当しない場合には、生計一親族が3年を超えて事業の用に供していることの要件もありますので、特例を受けるための要件をしっかりと確認することが重要となります。   (了)

#No. 447(掲載号)
#柴田 健次
2021/12/02
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