〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第7回】 「債権回収の方法とそのポイント」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 高橋 弘行 〔質 問〕 新型コロナウィルスの影響により、当社の取引先の資金繰りが悪化して、売掛金を回収できず困っています。債権回収をするためには、どのような方法があるのでしょうか。 また、それぞれの回収方法において、どういった点がポイントとなるのでしょうか。 〔回 答〕 債権回収の方法には、大きく分けて、「当事者間の話し合いに基づく回収」と、「裁判所を関与させた回収」との2種類があります。 「話し合いに基づく回収」においては、請求の仕方(電話、メール、通常の請求書、内容証明郵便による請求)、書面を取り交わすこと(可能であれば公正証書)、裁判所を関与させた回収手続きへの移行のタイミングといった点がポイントとなります。 「裁判所を関与させた回収」としては、民事調停、支払督促、少額訴訟、通常の訴訟、といった手段があり、最終的には強制執行(差押え)という回収手段もあります。また、強制執行の実効性担保のための保全処分(仮差押え)もあります。債権の性質、証拠関係、取引先の資産状況等に応じて、的確な方法を選択することがポイントとなります。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 当事者間の話し合いによる回収 (1) 請求 取引先からの入金を確認し、支払いに遅延があった場合、まずは、電話、面談、メール、通常の請求書の再送等で、すぐに支払うよう請求することになる。 取引先がすぐに支払いに応じない場合は、繰り返し請求を行い、口頭のみならず書面、さらには、内容証明郵便にて請求することも考えられる。こういった請求により、取引先に自社への支払いの優先順位をあげさせることが肝要である。資金繰りの悪化した取引先は、他の会社への支払いも遅れている可能性が高く、対応を後回しにされてしまうリスクがあるからである。 なお、弁護士を代理人に立てた請求をすると、費用はかかるものの、自社への支払いの優先順位をあげさせる効果は大きいといえる。 これらの請求を行ったにもかかわらず、取引先が、まったく対応すらしなかったり、支払の猶予や減額を求めるのではなく、そもそも支払いの意思がないような場合は、交渉を継続する意義は小さいので、すみやかに裁判所を関与させた回収方法に移行すべきである。 (2) 書面の取り交わし 支払請求により、取引先が自社への支払いを約束した場合には、口約束だけではなく、その内容を文書化して書面の取り交わしをすることが重要である。資金繰りに窮した取引先が、支払いの口約束だけして時間を稼ごうとする場合もあるし、後から、支払うか否か、支払い条件等について、「言った言わない」でトラブルになる場合もあるからである。 なお、取り交わす書面は、「債務弁済契約書(※1)」、あるいは、「準消費貸借契約書(※2)」とするのが通常である。 (※1) 債務者が、債権者に対して弁済しなければならない債務があることを認める旨と、その債務の金額・弁済方法等を定めた契約書 (※2) 複数の債権が存在する場合に、既存の貸借を1つにまとめて、その債務の金額・弁済方法等を定めた契約書 (3) 公正証書 債務弁済契約書や準消費貸借契約書を取り交わしても取引先が契約通りに支払うとは限らない。その場合、取引先に強制的に支払わせるためには、後述する訴訟等の裁判所が関与する手続きによるのが原則である。 もっとも、そのような手続きには時間も費用もかかる。このような時間と費用をかけずに、強制的に債務者に支払わせることができる効力を有するのが「公正証書」である 「強制執行認諾文言」という規定を有する公正証書には、強制執行をとるための執行力が与えられているため、万一取引先が約束を守らないときでも、これを元に、訴訟手続きを経ることなく強制執行の手続きをとることができる。 2 裁判所を関与させた回収 (1) 前提としての資産調査 訴訟を提起し、勝訴して、強制執行ができるという段階にまで至ったとしても、資産のない取引先からは、何も回収することはできない。多くの時間と費用をかけて得た勝訴判決も、画餅に帰してしまう。 このような事態を防ぐために、強制執行をして取り立てる対象となる財産が取引先にあるのかを事前に資産調査することが重要である。強制執行の対象となるのは、不動産、債権、動産であるので、これらの財産について調査することになる。 その際、不動産については、取引先名義の土地、建物がないか、代表者の住所地や会社の本店所在地の登記簿をとって確認することが考えられる。 債権は、金融機関への預金返還請求権、売掛債権等が強制執行の対象として考えられる。自社の取引先が、どの金融機関を利用していたのか、どういった会社と取引をしていたのかといった情報を調査していくことがポイントとなる。 なお、通常時から、取引先のこういった情報を収集しておくよう努力しておくと、資金繰りの状況を正確に理解できるばかりでなく、万一の場合の強制執行の対象を把握することにも繋がる。 (2) 仮差押え 裁判所を関与させた回収まで検討せざるを得ない状況にまで至っているとすると、債務者である取引先との関係もかなり複雑な局面になっていることが予想される。そういった局面では、取引先は、財産隠しを行う可能性がある。また、故意に財産隠しをしたというような場合でなくても、資金繰りに窮している取引先が、間もなく資産を失ってしまう可能性もある。 そういった事態に陥り、裁判に勝っても強制執行する対象財産がないといったことを防ぐため、裁判前に緊急的に債務者の資産を仮に差し押さえる制度が「仮差押え」である。 仮差押えに成功した場合の影響は大きく、取引口座を仮差押えされた債務者は、慌てて弁済してくるケースが多々ある。もっとも、預金や売掛金の仮差押えは債務者の信用を失墜させることにつながり、一気に倒産に追い込む可能性もあるので、行うか否か、また行うとしてもそのタイミングは慎重に考えなければならない。 なお、仮差押えは文字どおり「仮」に差し押さえる制度であり、債権者の一方的な申し立てにより、上記のように影響の大きい効果を生じる手続きであるので、通常、債権額の10~30%程度の金額を担保金として裁判所に納めなければならない。仮差押えの後には通常訴訟を起こすことになり、その裁判に勝てば、裁判所に納めた担保金は返還される。 (3) 民事調停 「民事調停」は、裁判所を間に入れて当事者同士で「話し合い」をする制度である。裁判官と民間人から構成される調停委員会が、当事者間に和解が成立するように援助協力する。手続きが簡単で、かつ非公開であるので、通常訴訟等に比べると心理的抵抗の少ない制度といえる。 第三者に入ってもらえば話し合いで解決できそうな場合や、今後もできれば取引を継続したいという場合などに有用である。 もっとも、話し合いの場に出てくるかは債務者の自由であるし、あくまでの当事者の合意に基づく解決を目指すものであるので、取引先に支払う意思がまったくなかったり、全面的に争う姿勢を示している場合には適さない。 (4) 支払督促 「支払督促」は、金銭、有価証券、その他の代替物の給付に係る請求について、債権者の申立てにより、その主張から請求に理由があると認められる場合に、裁判所から債務者に対して金銭の支払等をするよう督促する手続である。債務者が裁判所からの支払督促を受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしなければ、裁判所は、債権者の申立てにより、支払督促に仮執行宣言を付さなければならず、債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることができることになる。 支払督促は、書類審査のみで行う迅速な手続きであり、相手方からの異議の申し立てがなければ判決と同様の法的効力が生じる。そのため、債務者である取引先が、債務の存在自体は争わないだろうと想定される場合には簡易で有用といえる。 (5) 少額訴訟 「少額訴訟」は、民事訴訟のうち、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて、原則として1回の審理で紛争解決を図る手続である。即時解決を目指すため、証拠書類や証人は、審理の日にその場ですぐに調べることができるものに限られる。法廷では、基本的には、裁判官と共に丸いテーブル(ラウンドテーブル)に着席する形式で、審理が進められる。 請求額が60万円以下と低額な場合には、訴訟は原則1回の審理で終わる迅速なものであるので、検討したい手段である。 (6) 通常の民事訴訟 「通常の民事訴訟」は、個人の間の法的な紛争、主として財産権に関する紛争について、裁判所が当事者の主張を聞いたうえで、法律的強制的に解決をするための手続きをいう。これまでに紹介してきた制度に比べれば費用も高く、期間も長くなる傾向にある。しかし、債務者が債務の存在や金額を争ってくる可能性が高い場合は選択せざるを得ないこともある。 通常訴訟は最終的には判決を目指して進められるが、途中で話し合いを行い、「和解」で終了することもある。事案によっては最初から和解を目指して通常訴訟を提起することもある。相手が交渉段階ではかたくなであったが、中立の立場にある裁判官に訴訟の中で和解を勧められることで、それを受け入れるというケースもあるからである。 (7) 強制執行 「強制執行」とは、債権者の申立てによって、裁判所がお金を返済しない人(債務者)の財産を差し押えてお金に換え(換価)、債権者に分配する(配当)などして、債権者に債権を回収させる手続である。 債務者が「判決が出たのに支払いをしない」あるいは、「公正証書を作ったのに約束を破って支払いをしない」といった場合には、強制執行をすることになる。 対象が、土地や建物であれば「競売手続き開始決定」がなされて、裁判所で競り売りにかけられることになる。預金、株や投資信託、積立型の保険などであれば、銀行・証券会社・保険会社に対し、裁判所が「これらの財産は、被告に渡さずに、債権者に渡すように」という命令を出すことになる。 (了)
老コンサルタントが出会った 『問題の多い相続』のお話 【11回】 「老コンサルタントが考える「相続事案情報獲得の心構え」とは」 ~顧客を紹介したい税理士像とともに~ 財務コンサルタント 木山 順三 〔たくさんの税理士さんとお会いしてきました〕 私はこれまでの仕事の中で、いろいろな方とお目にかかり、その後長くお付き合いさせていただいている方も多くおられます。もちろんすべてが仕事に関するお付き合いだけではなく、むしろ自分自身の人格形成に役立つことから、進んで交遊を広める努力を図っています。 中でも仕事柄「税理士さん」と知り合う機会が必然的に多くなっています。 特に現役の銀行員時代は、税理士の方々からの働きかけが多かった気がします。おそらく銀行の顧客の相続事案情報並びに顧客紹介を期待されていたのでしょう。 現役時代、特に懇意な税理士さんは5名くらいおられ、その時々発生する相続税申告については、クライアントごとの事情を勘案し、適宜ご紹介をしていました。その後、銀行においても関連子会社を設立したうえで、大手税理士事務所との提携システムの構築が行われました。一方、私自身は定年後独立するとともに、銀行からの依頼で引き続き銀行本体並びに関連子会社の顧問として10年間在籍しました。 立場上、銀行がらみの相続事案については、銀行提携先の税理士事務所に紹介するのが原則です。しかしながら、あってはならないことなのですが、過去には私が後任者に引き継いだクライアントが必ずしもグリップされておらず、何か相談事があると顧客が直接私の自宅まで依頼に来るケースもたびたびありました。 考えるに、銀行の組織変更や担当者の変更が頻繁に行われたことで、結果的に最初の担当者である私のところへ相談に来られる事態になったものと思います(やはり顧客というのは、組織に付くのでなく、人に付くのでしょうか)。 そのような場合、私としては極力銀行提携先の税理士事務所へ取り次ぐのですが、案件の内容によってはより専門的な信頼のおける懇意な税理士を紹介しました。顧問を退任した現在は、顧客の相性に合わせて紹介するよう心がけています。 今回はこれまでの経験をもとに、私なりの相続事案情報獲得の心構えと、どのような基準で顧客を紹介する税理士を選んでいるかをお伝えしたいと思います。 〔コンサルタントが注力する顧客グリップの心構え〕 顧客獲得のための相続事案情報は、基本的に現役時代から、銀行関連からの入手が主でした。もちろんその他の関係先、すなわち各種クラブ会員、学校関連、講演会参加者、友人関係、銀行OB等々からの相談も重要な情報源でした。 ただし、そのすべてが相続手続に直結する情報というわけありません。むしろ大半は既に手続が進行しているケースであり、単に参考意見を得るための相談も多くみられました。つまり「相続事案情報」はいかに早く獲得し、クライアントからの依頼を受けるかにかかっているのです。 したがって、私は今まで関わってきた人たちには極力、年賀状の送付や、毎年の税制改正情報のお知らせとそれに伴う遺言・不動産・資産運用等の当家への提案を行うよう心がけてきました。 特に当家の一次相続を担った際は、必ず二代、三代にわたる付き合いに最大限の注力をしてきました。 その理由は、これまでこの連載をお読みいただいた方はお分かりのように、最初の相続情報よりも次の配偶者の相続は獲得しやすく、なおかつ、その当家の相続事情もあらかた理解できているので、スムーズな手続に結び付けられるからです。 そのためには家族ぐるみの付き合いを心がけ、時々孫のお見合い先探しも何度か依頼されました。 このように人との密接な関係を構築すること(ただし、コロナの三密はダメです)が大切ですが、心得ておくべき最低限のマナーがあります。 次にそれを述べてみたいと思います。 〔身近な相続事案は引き受けない〕 私は原則として、居住地の町内会と、銀行の同期生の相続手続は引き受けません。 その理由は、私自身は立場上、絶対的な守秘義務を守っていますが、相手側(特に私の妻と面識のあるご夫人)が、「ひょっとして(私の)奥さんにも当家の財産状況や家庭の揉め事をすべて知られているのでは?」と思われ、いらぬ心配をおかけするかもしれないからです。 昨年秋、同じ町内会の私の同期が亡くなりました。彼は社内結婚でしたので、配偶者である夫人はある程度の相続に関する知識をお持ちでした。それでも生命保険など2、3の質問と相続税の申告手続依頼のために来宅されました。 私は、私の事務所の税理士を紹介することで前述のような誤解を生じる恐れがあることを説明した上で、代わりに銀行の後輩で税理士資格を有し、地理的にも隣町で開業している優秀な人を紹介しました。 もちろん、生前故人がよく「今日は朝から畑仕事、昼からは株の信用取引で得した、損した。」と言っていましたので、その税理士には事前に、故人には信用取引株もあるので相続税申告・準確申告に際し十分チェックするようアドバイスしました。 その後、無事手続も済み、税理士が私の事務所へ報告方々お礼に来られました。 「木山先輩、大変ありがたいお客様をご紹介いただきました。ぜひとも紹介料をお支払いさせてください。」と。 (ここからは多少、格好付けをさせてください。) 「そんな紹介料をもらうために、あなたに依頼したのではありません。同期の不幸を金儲けの材料にはしません。できればその分、相手にディスカウントしてあげてください。」 (私自身、銀行の年金給付があるからこんなことが言えるのでしょうね。) いずれにしても、相続事案情報獲得の大切さは申すまでもありません。しかしながら私としては、常に公私の区別だけは、コンサルタントとして最も重要であると心がけています。 次に、コンサルタントから税理士へ相続税申告を依頼する要点について述べてみたいと思います。 〔顧客を紹介する税理士選択の判断要素〕 前提として、紹介する顧客の情報については、当然ながら税理士よりも私の方が詳しく把握しています。 したがってその顧客情報の中から、本件の相続事案における 等を勘案し、結果として相続手続のスムーズ化を図るべく、やはりこれらを得意分野とする税理士に依頼することになります。 昔はよく、「大丈夫、いざとなればよく知っている人がいるから!」と、ご自身の当局への政治力を誇示する税理士もおられました(そんな方に限って知識はあやふやでしたが・・・)。 現在はそのような政治力(神通力?)は全く通じず、少なくとも公平な世の中になったと信じています。むしろ本当の政治力とは、当局から信頼され、「この税理士先生が担当されているなら安心だ」と思われている方ではないでしょうか。 したがって絶対に間違えられない事案については、より慎重な判断を行う税理士や公認会計士に依頼しています。これは最後まで私の紹介責任がついて回るからです。 当然ながらクライアントの諸事情の把握はもちろんのこと、一方でその税理士の人柄・経験等を熟知したうえでお引き合わせするのがコンサルタントの役割です。その人との付き合いの中で信頼を構築し、この税理士の人柄なら顧客を紹介しても迷惑がかからないという一点に尽きるのでしょう。 〔老コンサルタントのつぶやき〕 以上述べてきましたが、これまでの経験上、情報の獲得のための営業とは、まず仕事抜きの付き合いから始まるケースが多かったように思います。その中において、税理士業をはじめとする専門家の方々との多くのつながりができました。 私のようなコンサルタントは、税理士や弁護士等の専門家と顧客を取り持つ潤滑油的な役割、すなわちコーディネーターだと思っています。 その役割を支える柱とは、「品位と矜持」です! (了)
《速報解説》 中小法人に最大600万円、個人事業者に最大300万円が一括支給される 「家賃支援給付金」の詳細が明らかに ~すでに賃料の猶予・値下げ等を行っている場合は申請時期に留意~ Profession Journal編集部 新型コロナウイルスの影響で店舗・事務所等家賃の支払いに苦しむ事業者に向けた「家賃支援給付金」の詳細が、本日、経済産業省ホームページで明らかとなった。 家賃支援給付金とは、5月の緊急事態宣言の延長等により売上の減少に直面する事業者(個人・法人)の事業継続を下支えするため、地代・家賃(賃料)の負担を軽減する給付金のことで、令和2年度第2次補正予算で新たに設立された支援策であり、既報の持続化給付金とは別のもの。 支給対象となるのはコロナ禍で売上の減少した中小企業・個人事業者であり、詳しくは下記のとおり。 給付額は、次の表により、申請時の直近1ヶ月における支払賃料(月額)に基づき算定した給付額(月額)の6倍であり、法人の場合、最大600万円、個人事業者の場合は最大300万円が一括支給される。なお、賃料の他、賃料について規定された契約書と同一の契約書に規定されている場合には、共益費や管理費も給付額算定の対象となる。 (※) 中小企業庁ホームページより 対象となる契約は土地建物の賃貸借契約であり、駐車場や資材置場として事業に用している土地の賃料など借地の賃料も対象となるが、売買契約すなわち自己保有の土地建物についてローンを支払中の場合は対象とはならない。また、賃貸借契約であっても、①転貸(又貸し)を目的とした取引や、②賃貸人と賃借人が実質的に同一人物の取引(親子会社間取引含む)、③賃貸人と賃借人が配偶者又は一親等以内の取引は、給付額の算定根拠となる契約とはならない。 家賃支援給付金の申請受付は7月14日(火)から開始され(申請ページは準備中)、持続化給付金と同様、受付開始後に、補助員が入力サポートを行う申請サポート会場が順次開設される予定となっている。なお、電話による相談は下記のとおり。 ここで注意したいのが、申請の期限が2021年1月15日とされている点だ。すなわち、7月14日の申請開始後、売上減少月の翌月~2021年1月15日までの間は、いつでも申請が可能となっている。上記の通り給付額は申請時の直近1ヶ月における支払賃料に基づき算定されるため、賃貸人との交渉によって直前で支払の猶予を受けていたり、値下げ又は免除を受けている時には、通常より低い賃料を元に給付額が算定されてしまう。このような場合、元の水準の賃料に戻った時に元の水準で賃料を支払った上で申請を行うことにより、元の賃料の水準を対象として給付金を受け取ることができる。 その他、申請に必要な書類など詳細は、下記ページにて中小法人等向け、個人事業者等向けにそれぞれ申請要領が公表されている。入力の誤りや書類の不備等、申請内容に問題がある場合は通常よりも給付までの時間を要するだけでなく、給付を受けられない恐れもある。事前の確認に十分留意されたい。 (了)
《速報解説》 グループ通算制度、政省令出揃う ~投資簿価修正に係る改正施行令等の他、改正施行規則では新制度対応の別表様式も~ 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 グループ通算制度に関する法人税法施行令等の一部を改正する政令(政令第207号)が6月26日に、グループ通算制度に関する法人税法施行規則等の一部を改正する省令(財務省令第56号)が6月30日に公布された。 ポイントは以下のとおりとなる。 〇法人税法施行令第19条(関連法人株式等に係る配当等の額から控除する利子の額) 関連法人株式等に係る負債利子控除額を、関連法人株式等に係る配当等の額の4%相当額(その事業年度において支払う支払利子等の額の10%相当額を上限とする)とすることが定められている。 この取扱いは、単体納税法人についても適用されるが、さらに、通算法人については、その上限額を各通算法人の支払利子等の額の合計額を各通算法人の関連法人株式等に係る配当等の額の比で配分して計算することが定められている。 さらに、その上限額の計算について修更正の遮断措置が設けられている。 〇法人税法施行令第22条の4(外国子会社の要件等) 外国子会社の判定(25%以上の株式保有割合と6ヶ月以上の保有期間の判定)について、剰余金の配当等を受ける内国法人が通算法人である場合には他の通算法人の有する株式等を含めて判定を行うことが定められている。 〇法人税法施行令第112条の2(通算完全支配関係に準ずる関係等) 通算制度の開始又は通算制度への加入に伴う資産の時価評価の対象外となる法人(時価評価除外法人)に該当する通算法人が支配関係発生日以後に新たに事業を開始した場合の繰越欠損金の切り捨てについて、その制限の対象から除外される「通算親法人 (通算親法人にあっては、いずれかの通算子法人)との間に支配関係が5年超又は設立日からある場合」及び「通算承認の効力が生じた後に通算法人と他の通算法人とが共同で事業を行う場合」の要件が定められている。 また、この場合に切り捨てられる繰越欠損金のうち、支配関係事業年度以後の特定資産譲渡等損失相当額の計算について、合併に係る取扱いを準用することにしている。 さらに、この場合に切り捨てられる繰越欠損金について適格合併時の含み損益の特例計算の規定が準用できることが法人税法施行令第113条第12項及び第13項で定められている。 なお、連結納税制度と同様に、通算法人間の適格合併又は残余財産の確定について、適格合併又は残余財産の確定に係る繰越欠損金の利用制限(法法57③④)の適用がないことが定められている。 〇法人税法施行令第119条の3(移動平均法を適用する有価証券について評価換え等があった場合の1単位当たりの帳簿価額の算出の特例) 投資簿価修正について定められている。具体的には、通算子法人に通算終了事由(通算承認が効力を失うこと)が生じた場合、その通算子法人の株式について、その通算終了事由が生じたときの帳簿価額をその通算子法人の簿価純資産価額に相当する金額とすることになる。 また、連結納税制度の投資簿価修正に係る譲渡等修正事由と帳簿価額修正額は、法人税法施行令第9条第2項から第4項で定められているが、すべて削除されている。 この点、連結納税制度では、投資簿価修正を行う事由として譲渡等修正事由が定められており、連結グループ内での連結子法人株式の譲渡など連結承認の効力が失われる場合以外にも投資簿価修正が行われ、逆に連結グループ内の適格合併など連結承認の効力が失われる場合であっても投資簿価修正は行われない。しかし、通算制度では、通算承認が効力を失う場合にはすべて投資簿価修正が行われることになる。 以上より、通算制度と連結納税では、投資簿価修正が行われる事由と修正金額が異なることになるため、実務上留意すべきだろう。 なお、この場合、法人税法施行令第9条第1項第6号において、その通算子法人の株式を有する通算法人において、その終了直前の帳簿価額と簿価純資産価額との差額を利益積立金額に加減算することが定められている。 〇法人税法施行令第131条の8(損益通算の対象となる欠損金額の特例) 損益通算の対象外となる欠損金額について、次の取扱いを定めている。 〇法人税法施行令第131条の11(通算法人の範囲) 通算法人の適用範囲となる完全支配関係(通算除外法人及び外国法人が介在しないものとして政令で定める関係)について定められている。 また、離脱法人について、同一の通算グループへの再加入が5年間制限されることが定められている。 いずれも連結納税制度と同様の取扱いとなる。 〇法人税法施行令第131条の15~18(通算制度の開始に伴う資産の時価評価損益)、(通算制度の加入に伴う資産の時価評価損益)、(通算制度からの離脱等に伴う資産の時価評価損益)、(時価評価資産に関する他の規定の不適用等) 通算制度の開始又は加入に伴う時価評価の対象外となる資産について、税務上の帳簿価額が1,000万円未満の資産、評価損益が通算法人の資本金等の額の2分の1又は1,000万円のいずれか少ない金額に満たない資産、開始・加入日以後2ヶ月以内に通算グループから離脱する通算子法人の保有する資産が挙げられている。この点、基本的には、連結納税制度と同様の取扱いとなる。 また、離脱等に伴う時価評価については、時価評価が不要となる法人、時価評価が必要となる事由、時価評価の対象となる資産の範囲について定められている。 〇法人税法施行令第131条の19(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入) その適用の対象から除外される「通算親法人 (通算親法人にあっては、いずれかの通算子法人)との間に支配関係が5年超又は設立日からある場合」及び「通算承認の効力が生じた後に通算法人と他の通算法人とが共同で事業を行う場合」の要件が定められている。 〇法人税法施行令第148条(通算法人に係る控除限度額の計算) 外国税額控除制度について、通算法人の控除限度額は、その通算法人及び他の通算法人の法人税の額の合計額等を基礎に計算することが定められている。連結納税制度における計算方法と異なるため、計算結果まで異なることになるか検討が必要となる 〇法人税法施行規則第8条の3の3、第27条の16の8、第27条の16の9 通算制度の承認及び通算制度の取りやめの承認の申請書等の記載事項と通算制度への加入時期の特例の適用を受けるために提出する書類の記載事項を定めている。 〇法人税法施行規則第26条の2の2~第26条の2の4、第27条の16の5~第27条の16の7、第27条の16の10~第27条の16の15 通算制度の開始又は通算制度への加入に伴う資産の時価評価の対象外となる法人に該当する通算法人が支配関係発生日以後に新たに事業を開始した場合の繰越欠損金額に係る繰越控除の適用の制限について、次のとおり整備を行っている。 損益通算の対象外となる欠損金額、通算制度の開始・加入・離脱等に伴う資産の時価評価、通算制度の開始又は通算制度への加入に係る特定資産譲渡等損失額の損金不算入の取扱いについて、同様の整備を行っている。 〇法人税法施行規則第26条の3 欠損金の繰越控除制度の適用を受けるために保存することとされる書類について、次のとおり整備を行っている。 〇法人税法施行規則第68条 通算親法人が他の通算法人の法人税の申告に関する事項の処理として行う申告書記載事項又は添付書類記載事項の提供の方法等の手続の細目を定めている。 〇法人税法施行規則別表関係 法人税申告書について、通算制度に対応した別表を公布している。 別表4、5(1)、5(2)等の単体納税の別表を、通算制度に対応した様式に改めるとともに、通算制度に特有の取扱いについて、別途、別表を用意している。また、修更正の遮断措置に対応した別表も用意している。 [改正省令で公布された別表様式] 〇附則関係 この政省令は令和4年4月1日から施行され、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されることが定められている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
-お知らせ- いつもプロフェッションジャーナルをご愛読いただきありがとうございます。 2020年上半期(1月~6月)掲載分の目次をアップしました。 2020年上半期(1月~6月)掲載目次ファイル ※PDFファイル PDFファイルを開いて各記事タイトルをクリックすると、該当の記事ページが開きます。 (※) お使いのブラウザによって開かないものがあります。 パソコンやクラウド等に保存していただくと、PDFファイルから各記事ページへすぐに移動できますので、ご活用下さい(PDFファイル内の文字検索もできます)。 Back Number ページからもご覧いただけます。 ▷半年ごとの目次一覧 2020年 1月~6月(No.351~375)⇒[こちら] ★ 2019年 1月~6月(No.301~324)⇒[こちら] 7月~12月(No.325~350)⇒[こちら] 2018年 7月~12月(No.275~300)⇒[こちら] 1月~6月(No.251~274)⇒[こちら] 2017年 7月~12月(No.225~250)⇒[こちら] 1月~6月(No.201~224)⇒[こちら] 2016年 1月~6月(No.151~175)⇒[こちら] 7月~12月(No.176~200)⇒[こちら] 2015年 1月~6月(No.100~125)⇒[こちら] 7月~12月(No.125~150)⇒[こちら] 2014年 1月~6月(No.51~75)⇒[こちら] 7月~12月(No.76~100)⇒[こちら] 2013年 1月~6月(No.1~25)⇒[こちら] 7月~12月(No.26~50)⇒[こちら] 2012年 創刊準備1号~5号⇒[こちら]
《速報解説》 会計士協会が「2019年度 品質管理委員会年次報告書」を公表 ~会計上の見積りの監査に関する改善事項や監査人の異動理由等について示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年6月30日、日本公認会計士協会は、「2019年度 品質管理委員会年次報告書」、「2019年度 品質管理レビューの概要」及び「2019年度 品質管理レビュー事例解説集」を公表している。 年次報告書は、監査法人又は公認会計士が行う監査の品質管理の状況をレビューする制度(品質管理レビュー制度)に基づくものであり、基本的な対象は、監査法人又は公認会計士である。 しかしながら、年次報告書に記載されている内容については、一般の事業会社における会計処理等にも関連するものがあるので、実務において参考になるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計処理等に関連する改善勧告 多くの監査事務所が改善勧告を受けた「1.会計上の見積りの監査」では、次の事項を含めて、幅広く改善勧告事項が指摘されている(年次報告書56ページ)。 会計上の見積りの監査に関して、次の改善勧告事項が多く見受けられたとのことである(年次報告書56ページ)。 次の事項に関する改善勧告事項が述べられている(年次報告書23ページ、67ページ、事例解説集13ページ、22ページ、23ページ、30ページ、41ページ、45ページ、46ページ)。 より具体的な内容は、「2019年度 品質管理レビュー事例解説集」をお読みいただきたい。 Ⅲ 監査人の異動理由 2019年4月1日から2020年3月31日までに生じた会計監査人の異動のうち、2020年4月30日までに前任監査人及び後任監査人から届出書の提出があった106件の会計監査人の異動について、その理由を集計している(年次報告書38ページ)。 異動理由として「監査報酬」、「継続監査期間」をあげている例が多い。 一方、「監査人の対応の適時性や人員への不満」については、前任監査人が1件であるのに対し、後任監査人が30件と、両者で大きく乖離していることが伺える。 Ⅳ IFIAR の調査結果 監査監督機関国際フォーラム(以下「IFIAR」という)は、世界各国・地域の監査監督機関から構成された組織である。 IFIARによる「上場企業の監査業務における品質管理の項目別の指摘数」では、次のものがあげられている(年次報告書89ページ)。 公正価値測定を含む会計上の見積りの監査については、指摘数は前年度から減少しているが、前年度同様、整合性のない監査証拠の検討を含む経営者の仮定の合理性を十分に評価していないという指摘がほぼ半数を占めているとのことである(年次報告書89ページ)。 (了)
《速報解説》 金融庁より「四半期報告書における新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」が公表される ~財務情報(追加情報)及び非財務情報(記述情報)の開示に関する留意事項を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年7月1日に、金融庁は、「四半期報告書における新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」を公表した。 これは、5月21日の「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」の発出に続くものであり、四半期報告書においても、新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報を適時適切に開示することは、投資家の投資判断にとって重要と考えている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 四半期報告書における新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示 1 四半期報告書の提出期限 2020年4月17日に、「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第37号)が公布され、2020年4月20日から9月29日までの期間に提出期限が到来する有価証券報告書 、四半期報告書等に関して、財務局長等へ企業側が個別に申請を行わなくとも、一律に2020年9月30日まで提出期限が延長されている。 2 財務情報(追加情報)の開示 2020年6月26日の企業会計基準委員会の議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」の更新により、 四半期決算における考え方が示されている。 これを踏まえて、新型コロナウイルス感染症の影響に関する会計上の見積りについて、四半期報告書において、適時適切に投資家へ情報提供することが強く期待されている。 新型コロナウイルス感染症の影響に関する会計上の見積りの仮定について、その後の経営環境の変化を踏まえ見直しを行った結果として、会計上の見積りに変更が生じた場合には、四半期財務諸表において、当該見積りの変更の影響を反映する必要があるとのことである。 3 非財務情報(記述情報)の開示 四半期報告書における非財務情報(記述情報)の開示に関して、次のことに留意する。 Ⅲ 有価証券報告書レビューとの関係 2020年5月21日に「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」が発出されており、有価証券報告書の財務情報(追加情報)及び非財務情報における新型コロナウイルス感染症の影響に関する開示については 、有価証券報告書レビューの対象となっている。 四半期報告書の財務情報(追加情報)及び非財務情報における当該開示についても、有価証券報告書レビューの一環として、必要に応じて確認するとのことである。 (了)
2020年7月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.376を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.90- 「ドイツの消費税時限減税から考える」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 今後、第2波、第3波が予想される新型コロナ問題だが、ドイツメルケル政権は経済対策として、20年7-12月の期間限定で消費税率を19%から16%へ(軽減税率は7%から5%へ)引き下げる決定をした。 わが国でも従来からコロナ経済対策として、消費税減税を主張する声が、特に自民党の若手議員や野党から上がっており、今回のドイツの決定がわが国にも影響を及ぼすことが考えられる。 しかし、以下に述べる通り、ドイツの財政状況はわが国とは大きく異なるので、これでもって「わが国も同様の措置を」というような議論は乱暴といえよう。 * * * ドイツは2014年以降、6年連続で財政黒字を出し続けてきた。EU各国から緊縮財政を改めるよう何度も圧力がかかったが、それをはねのけて財政黒字を守り続けてきたのである。 2007年に消費税率を16%から19%へ引き上げた後、リーマンショックが襲い、ドイツでの実質経済成長率はマイナス5.6%になったが、その際も付加価値税率を引き下げなかった。そして2009年には、財政収支均衡原則を盛り込んだ憲法(基本法)の改正を行い、財政黒字を出し続けてきた。 しかし今回の新型コロナウイルス問題は、これまでとは異なる深刻度ということで、黒字を国民に還元する策として位置付けたのである。逆に言えば、医療費の削減を含む歳出削減などを通じて財政黒字を出し政府債務残高そのものを減らしてきた結果として、国民に還元する財政余地が存在していたといえよう。 この点、フローでもストックで見ても財政赤字を垂れ流してきたわが国とは、大きく背景が異なる。「ドイツが消費税率を引き下げたからわが国も」とはならないのである。 * * * もうひとつ、ドイツの消費税減税に関する現地の報道を見ると、極めて興味深いことが議論されている。 今回の時限的な消費税減税の利益が、一部事業者の手元に残り消費者に還元されないのではないか(わが国でいう「益税」)ということが議論になっているのである。 事業者間の転嫁は、インボイスが導入されているので、税率引下げ分はきちんと転嫁されるだろうが、最終的な対消費者取引になると、インボイスはあるものの、総額表示のため、税率引下げが消費者に行き渡らず、事業者の手元に利益として残るのではないかという懸念である。 インボイスが導入されているドイツでも、消費者にきちんと転嫁されるかどうかが議論されているというのは、興味深い。もっとも今回は消費税減税なので、話がややこしいのだが。 (了)