《速報解説》 東証、上場制度の見直しに係る有価証券上場規程等の改正を公表 ~市場区分の再編に係る第一次改正事項として新規上場基準、債務超過に係る上場廃止基準を見直す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年10月21日、東京証券取引所は、「資本市場を通じた資金供給機能向上のための上場制度の見直しに係る有価証券上場規程等の一部改正について(市場区分の再編に係る第一次制度改正事項)」を公表した。これにより、2020年7月29日から意見募集されていた案が確定することになる。 なお、「「資本市場を通じた資金供給機能向上のための上場制度の見直しについて(市場区分の再編に係る第一次制度改正事項)」に寄せられたパブリック・コメントの結果について」も公表されている。 これは、2022年4月に予定している市場区分の再編に係る第一次改正事項として、新規上場基準等の見直しを行い、新規上場の円滑化などを図ることのほか、債務超過に係る上場廃止基準を見直すことなどの改正を行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 新規上場基準等 市場区分再編を見据えて新規上場基準等を次のように改正する。 1 本則市場の新規上場基準等 2 市場第一部銘柄への指定に係る基準等 〈見直し前〉 〈見直し後〉 3 マザーズの新規上場基準等 事業計画の開示について次のようにする。 〈見直し前〉 〈見直し後〉 4 JASDAQスタンダードの新規上場基準等 〈見直し前〉 〈見直し後〉 Ⅲ 債務超過に関する上場廃止基準等 Ⅳ 適用時期等 2020年11月1日から施行する(詳細に規定されているので、実際の適用に際して注意する)。 (了)
《速報解説》 国税庁、本年1月から6月までの相続等について路線価の補正を見送り ~広範な地域で大幅な地価下落は確認できず~ Profession Journal編集部 国税庁は10月28日付で下記情報を公表、本年1月から6月までの相続等については、路線価等の補正を行わないことを明らかにした。 なお本情報は、本稿公開時点において国税庁の新着情報ではなく、路線価図・評価倍率表のページから参照することができる(名古屋国税局HPでも同様の情報が公表されている)。 既報のとおり国税庁は7月1日付で令和2年の路線価図を公表したが、これは本年1月1日を評価時点としているため、新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言により観光地や繁華街等への人の移動が大幅に制限された直近の地価は反映されていない。 国税庁は路線価公表時において、「国土交通省が発表する都道府県地価調査(7月1日時点の地価を例年9月頃に公開)の状況などにより、広範な地域で大幅な地価下落が確認された場合などには、納税者の皆様の申告の便宜を図る方法を幅広く検討する」としており、9月29日に国交省より公表された「令和2年都道府県地価調査」でも全国平均で商業地の地価が平成27年以来5年ぶりに下落に転じるなど、新型コロナウイルス感染症の影響も見られていた。 国税庁は今回の判断にあたって、上記調査に加え外部専門家に委託した庁独自の調査を行った結果、1月から6月までの間に、相続等により取得した土地等の路線価等が時価を上回る(大幅な地価下落)状況は確認できなかったとして、本年1月から6月までの相続等については、路線価等の補正を行わないこととした。 ただし、本年7月から12月まで(7月から12月までの相続等適用分)に、広範な地域で大幅な地価下落が確認された場合の路線価等を補正するなどの対応については、今後の地価動向の状況を踏まえ、後日、改めてお知らせするとしている。 このため本年1月から6月にかけて観光地や繁華街などコロナ禍で地価が大幅に下落し路線価との乖離が明らかなケースでは、不動産鑑定士の鑑定評価によることも検討したい。 なお、都道府県地価調査によると、令和元年7月以降1年間の地価について、全国平均では、全用途平均は0.6%の下落、また、令和2年1月以降の半年間(地価公示との共通地点)の全国平均の地価変動率は、住宅地は0.4%の下落、商業地は1.4%の下落となっている。 (了)
2020年10月29日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.392を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第46回】 「租税法律主義の基礎理論」 -遡及立法禁止の原則- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回から租税法律主義の内容を検討しているが、今回は、遡及立法禁止の原則を取り上げ検討する。 遡及立法の禁止は、税法の効力(適用範囲)に関して「時間的限界」の角度から論じられることもあり(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)119-122頁参照)、また、「国会の権限の時間的範囲(時間的な立法管轄権)の問題として理解されるべきである」(渕圭吾「租税法律主義と『遡及立法』」フィナンシャル・レビュー129号(2017年)93頁)と説かれることもあるが、以下では、まずは、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能の観点から、遡及立法禁止の原則を検討することにする。 なお、第43回以来、公益財団法人日本税務研究センターの「憲法と租税法」共同研究会で分担した研究の成果をベースにして「租税法律主義の基礎理論」を検討してきたが、その成果である拙稿「租税法律主義(憲法84条)」を収録した日税研論集77号(拙稿は243頁以下)が今月初旬に刊行されたので、今回は同号280頁以下の叙述をベースにして遡及立法禁止の原則について検討することにする。 Ⅱ 租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能 遡及立法禁止の原則は、税法の分野では、租税法律不遡及の原則と呼ばれることがあるが(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)31頁、拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)【35】参照)、主として、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能の観点から、租税法律主義の趣旨に遡及課税の禁止を加えるものとして論じられてきた。 その場合、遡及課税の禁止は、憲法が明文の規定で定める遡及処罰の禁止(39条前段)とは異なり、憲法上これを禁止する明文の規定はなく、しかも法律に基づく遡及課税が民主的正統性を有する以上、法律によらない課税とは異なり、租税法律主義それ自体が禁止するものでもないことから、一般的・絶対的な禁止とは性格づけられないことになる。 ところで、遡及立法の禁止は、「一国の法秩序において、法が法として機能するための条件、言いかえれば人が法に従いうるための最低限の条件となる要請」(長谷部恭男『憲法〔第7版〕』(新世社・2018年)129-130頁)としての法の支配において、その内容の一つとされているが(同19頁参照)、「この要請は、基本的には、私人に対し行動の帰結について予測可能性を保障することを眼目としている。」(同130頁)とされる。 もっとも、「法の支配は、法が備えるべき条件の一つにすぎず、他の要請の前に譲歩しなければならない場合もある。」(長谷部・前掲書20頁)が、そのような場合には、遡及立法禁止原則違反の判断において比較衡量論が働くことになろう。 要するに、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能は、法の支配による租税法律主義のコーティング(前掲拙稿263頁以下、第44回参照)を受けてもなお、遡及立法禁止原則違反の判断において比較衡量の余地を残すのである。 Ⅲ 遡及立法禁止原則違反の判断枠組み 1 比較衡量論 遡及立法禁止原則違反の判断における比較衡量論は、比例原則(憲法13条参照)の下、遡及課税を定める必要性と、遡及課税によって損なわれる利益(特に予測可能性・法的安定性)との比較衡量を要請するものである。 そのような比較衡量によって、遡及立法の禁止に対して例外が認められるかどうか及びどのような範囲で認められるかが決定されることになるが、その場合に考慮に入れるべき要素としては、①遡及の程度(法的安定性の侵害の程度)、②遡及課税の必要性、③予測可能性の有無・程度(法改正前情報開示の有無・時期・態様等)、④遡及課税による実体的不利益の程度、⑤代替的措置の有無・内容、等が考えられる。 以上で述べてきた考え方は、例えば、土地建物等の譲渡所得に係る損益通算廃止の年度内遡及に関する福岡高判平成20年10月21日判時2035号20頁(次の判決文は裁判所ウェブサイトによる。下線筆者)でも採用されているところである。 2 財産権に準ずる「権利」の遡及的制約論 ところが、最高裁は、前記の福岡高判と同種の事案に関する判断おいて、一見すると、前記の比較衡量論とは異なるように思われる判断枠組みを示した。最判平成23年9月22日民集65巻6号2756頁は、次のとおり判示したのである(下線・傍点筆者。最判平成23年9月30日判時2132号39頁も同旨)。 以上の判示についてとりわけ注目されるのは、「課税関係における法的安定」に関する説示はみられるが、予測可能性に関する説示がみられないことである。このことについて、筆者は次のように考えてきた(前掲拙著【36】のほか【11】も参照)。 すなわち、最高裁は、前記の比較衡量を否定するのではなく、それを客観化するために、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能のうち予測可能性という主観的側面を敢えて前面に出さず、その客観的側面としての「課税関係における法的安定」を「納税者の租税法上の地位」と結びつけ、しかも「暦年途中の租税法規の変更及びその暦年当初からの適用」(年度内遡及)が「最終的には国民の財産上の利害に帰着する」ことを考慮することによって、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能を、財産権に準じて「実体的権利」(権利としてはなお未熟で「権利未満」(片桐直人「判批」憲法判例百選Ⅱ(第7版・2019年)426頁、427頁)ではあるが)として構成し(予測可能性・法的安定性保障機能の実体的権利化)、もって、「暦年途中の租税法規の変更及びその暦年当初からの適用による課税関係における法的安定への影響が納税者の租税法規上の地位に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうか」という「観点」(判断枠組み)を設定したものと解される。 Ⅳ おわりに 以上、今回は、租税法律主義の和則可能性・法的安定性保障機能の観点から、遡及立法禁止の原則を検討してきたが、その検討内容を踏まえ、私見をまとめておくと、次のようになろう。 遡及課税は、遡及処罰とは異なり、これを禁止する明文の憲法規定はなく、しかも法律に基づき民主的正統性を有する以上、租税法律主義それ自体が禁止する法律によらない課税とは異なり、一般的・絶対的に禁止されるものではないが、しかし、租税法律主義の趣旨及び機能からすれば、合理的な理由がない限り、原則として禁止されると考えるべきであろう。その判断は、遡及課税を定める必要性と遡及課税によって損なわれる利益との比較衡量を通じて、しかもその比較衡量を客観化し、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能を実体的権利化することによって、行うべきであろう。 (了)
組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第9回】 「資本金等の額及び利益積立金額」 公認会計士 佐藤 信祐 《第3章:資本金等の額及び利益積立金額》 1 資本金等の額 (1) 株式交換等・移転における付随費用 適格株式交換・移転を行った場合において、完全親法人(株式交換完全親法人又は株式移転完全親法人をいう)が付随費用を支払った場合には、資本金等の額から減額する旨の規定がある(法令8①十・十一)。そのため、付随費用がない場合には、完全子法人株式の取得価額に相当する金額を資本金等の額に加算し、付随費用がある場合には、完全子法人株式の取得価額に相当する金額から当該付随費用の金額を控除した金額を資本金等の額に加算することになる。 【付随費用がない場合】 【付随費用がある場合】 これに対し、非適格株式交換・移転を行った場合には、完全親法人が付随費用を支払った場合の取扱いについては明記されていない。強引に解釈するとすれば、法人税法施行令8条1項10号に規定されている「第119条第1項第10号(有価証券の取得価額)に規定する費用の額」、同項11号に規定されている「第119条第1項第12号に規定する費用の額」は、「当該株式交換完全子法人の株式の取得をするために要した費用(法令119①十)」「当該株式移転完全子法人の株式の取得をするために要した費用(法令119①十二)」のことをいうため、非適格株式交換・移転に該当し、同令119条1項27号の規定により有価証券の取得価額に含まれている付随費用についても、同令8条1項10号、11号の規定により資本金等の額から控除される付随費用に含まれると解することもできる。しかしながら、本来であれば、条文上の明確化を図るべきであると思われる。 (2) 新株予約権 株式交換・移転を行った場合において、完全子法人(株式交換完全親法人又は株式移転完全子法人をいう)が発行していた新株予約権を消滅させ、完全親法人が新株予約権を発行することが考えられる(会社法768①四、773①九)。 そして、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針115-2では、「株式交換に際して、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式交換日の前日に株式交換完全子会社で付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する」と規定されている。 そして、現行法人税法上も、株式交換・移転の日の前日に完全子法人で付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を益金の額に計上すべきであると考えられる(法法22②)。ただし、税制適格ストックオプションのように、法人税法上、負債に計上されている新株予約権の金額が0円である場合には、新株予約権が消滅したとしても、新株予約権の消滅益は計上されない。 なお、法人による完全支配関係があることにより、グループ法人税制を適用することができたとしても、非適格株式交換・移転を行った場合には、完全子法人株式の取得価額から完全親法人が交付する新株予約権の時価に相当する金額(完全親法人の新株予約権に対応する債権を取得する場合には、その債権の時価を減算した金額)を減算した金額を完全親法人の資本金等の額に加算し、適格株式交換・移転を行った場合には、完全子法人株式の取得価額から完全子法人の新株予約権の帳簿価額に相当する金額(完全親法人の新株予約権に対応する債権を取得する場合には、その債権の時価を減算した金額)を減算した金額を完全親法人の資本金等の額に加算することから(法令8①十・十一)、完全親法人において寄附金が発生しない。そのため、完全子法人において受贈益の益金不算入を適用することができないという問題が生じることになる(法法25の2)。 【株式交換完全親法人】 【株式交換完全子法人】 実務上は、完全親法人が新株予約権に対応する債権を取得することにより、完全子法人において新株予約権の消滅益が生じないようにしているが、本来であれば、新株予約権の消滅益に対して受贈益の益金不算入が適用できるように、完全親法人において寄附金が生じるように改正すべきであると考えられる。 【株式交換完全親法人】 【株式交換完全子法人】 (3) 種類資本金額 法人税法施行令8条1項20号においては、種類株式を発行している場合には、自己株式の取得について種類資本金額を基礎に計算することが明らかにされているが、非適格合併、非適格分割型分割、株式分配、その他資本剰余金の配当及び解散による残余財産の分配については、そのような規定が存在しない。 そのため、実務上は、種類資本金額ではなく、資本金等の額により計算している事例が多いと思われるが、本来であれば、種類資本金額で計算すべきであるため、種類資本金額により減少資本金等の額、減少利益積立金額及びみなし配当の金額を計算するように改正すべきであると考えられる。 2 利益積立金額 非適格合併を行った場合には、被合併法人の株主に交付した合併法人株式の時価を合併法人の資本金等の額に加算することになる(法令8①五)。そして、配当見合いの合併交付金は、合併対価資産から除かれることから、法人税法施行令8条1項5号において、加算すべき資本金等の額に含めないことが明らかにされている。 これに対し、適格合併を行った場合には、被合併法人の適格合併の日の前日の属する事業年度終了の時における資本金等の額及び利益積立金額を引き継ぐことになる(法令8①五、9①二)。理論上は、配当見合いの合併交付金については、被合併法人から引き継ぐ利益積立金額から減算させるべきであるが、条文において明確に規定されているわけではない。 実務上は、被合併法人において剰余金の配当として利益積立金額から減算させることから(法令9①八)、被合併法人から引き継ぐべき利益積立金額の減算要因として取り扱うという見解が有力であるが、配当見合いの合併交付金を交付するのは被合併法人ではなく、合併法人であることから、法人税法施行令9条1項2号に明記すべきであると考えられる。 * * * 次回では、受取配当金と株式譲渡損益について解説を行う予定である。 (了)
新型コロナウイルス感染症にかかる 助成金等の課税関係 【前編】 公認会計士・税理士 菊地 弘 -はじめに- 我が国の社会・経済は、新型コロナウイルス感染症により多方面で大きな影響を受けている状況が続いている。このため、個人や法人に対して様々な支援策(助成金・給付金等)が国や地方公共団体により設けられている。それら支援策(助成金・給付金等)のうち主なものについて、その概要と受給した場合の課税関係(個人が受給する場合、法人が受給する場合)について本稿ではまとめた。また、消費税の取扱いについても触れている。 なお、これら支援策については、様々なものがあり、すでに制度自体の期限が終了しているものもあるため、現在利用できる支援策については、最新の情報の入手が必要でありその参考に供するため、「助成金・給付金等に関する情報を入手するための主なサイト一覧表」を掲載した。 〈助成金・給付金等に関する情報を入手するための主なサイト一覧表〉 1 新型コロナウイルス感染症にかかる主な助成金・給付金等の概要 2 個人が受給する場合の課税関係 新型コロナウイルス感染症の影響に関連して、国や地方公共団体から助成金・給付金(商品券等の金銭以外の経済的利益も含まれます)等を個人が受給した場合、その課税関係は下表のとおりである。 〇 助成金等の非課税と課税について 助成金・給付金等には課税されないもの(非課税)と課税されるものがある。非課税となるためにはその支給の根拠となる法令や所得税法の規定が必要である。主な助成金・給付金等について非課税の根拠となるものは下表のとおりである。それ以外の助成金・給付金等は、課税の対象となる(所得税法施行令94条1項2号)。 また、課税対象となる助成金・給付金等はその内容により、事業所得、一時所得、雑所得に区分される。 〈新型コロナウイルス感染症等の影響に関連して国等から支給される主な助成金・給付金等の課税関係(例示)〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 各自治体により支援策の名称・内容は異なる。 (出典:国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」を基に作成) * * * 次回は「法人が受給する場合の課税関係」と「消費税の取扱い」について解説する。 (続く)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第2回】 「社会通念上、居住用相当と認められる敷地」 -居住用家屋の敷地の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、居住用家屋(2階建で総床面積160㎡)とその敷地(300㎡)を売却しました。 なお、この敷地の一部は、庭及び家庭用菜園として利用していました。 他の適用要件が具備されている場合に、家屋及び敷地の全部に係る譲渡損失について、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 家屋及び敷地の全部に係る譲渡損失について、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 譲渡した土地等が居住用家屋の敷地に該当するかどうかは、社会通念に従い、その土地が居住用家屋と一体として利用されている土地等と認められるかどうかにより判定します(措通31の3-12(居住用家屋の敷地の判定)、措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 したがって、敷地の一部が庭、家庭用菜園等として利用されている場合であっても、社会通念上、その全部が居住用家屋の敷地と認められるものであれば、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができます。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第19回】 「〔第5表〕建物附属設備の計上の可否」 税理士 柴田 健次 Q A社は飲食店業を営んでいます。1号店は自社所有の建物ですが、2号店及び3号店は賃借している建物です。 A社の貸借対照表には、建物附属設備の内装工事(電気設備、給排水設備、冷暖房設備)として、下記の通り計上されていますが、いずれも建物と構造上一体となって利用がされており、独立した所有権の対象にはなりません。 【建物附属設備の帳簿価額(減価償却控除後)】 (※1) A社の社長の友人から賃借している建物で賃料は相場で支払っていますが、賃貸借契約書は作成されていません。 (※2) 他社から賃貸している建物で賃料は相場で支払っていますが、賃貸借契約書には、賃借人が支出した有益費の償還請求はできないものとする旨の記載がされています。 この場合におけるA社の「第5表 1株当たりの純資産価額の計算明細書」における「資産の部」に計上する建物附属設備の相続税評価額は、0として問題ないでしょうか。 A 1号店及び3号店における建物附属設備の相続税評価額については0となりますが、2号店における建物附属設備については、賃貸借契約終了時において有益費償還請求権を有し、財産評価の対象になると考えられます。 ◆ ◆ ◆ ① 建物附属設備の評価(1号店) 家屋の所有者が有する電気設備(ネオンサイン、投光器、スポットライト、電話機、電話交換機及びタイムレコーダー等を除く)、ガス設備、衛生設備、給排水設備、温湿度調整設備、消火設備、避雷針設備、昇降設備、じんかい処理設備等で、その家屋に取り付けられ、その家屋と構造上一体となっているものについては、その家屋の価額に含めて評価する(評価通達92(1))とされています。 したがって、1号店における建物附属設備については、上記の通達の通り、家屋に含めて評価しますので、建物附属設備単独では評価する必要はありません。しかしながら、2号店及び3号店については、家屋の所有者と建物附属設備の所有者が異なるため、上記の通達を適用することができません。 ② 賃借建物に設置した附属設備の財産評価の計上の可否(2号店・3号店) 賃借人が有益費を支出したときは、賃貸借終了時に賃貸人は、その支出した金額又は価値増加額のいずれかを償還しなければならない(民法608②、196②)とされています。 この場合における「有益費」とは、建物の価値を増加させる費用をいいますが、賃借人が有益費を支出したときは、賃貸人は価値増加部分に対して不当利得を得ることから、その費用の償還をしなければならないとされています。 したがって、賃借人からすれば、将来的に有益費については償還されることになりますので、財産評価の対象になります。ただし、有益費償還請求権を放棄する特約がある場合には、賃借人は有益費の償還を請求することができないとされていますので、財産評価の対象にはなりません。 2号店については、賃貸借契約書がなく、有益費償還請求権を放棄する特約もないと考えられますので、財産評価をする必要がありますが、3号店については、賃貸借契約書において有益費償還請求権を放棄する特約の記載がありますので、財産評価の対象にならないと考えられます。 なお、附属設備の相続税評価額の計算に当たり、有益費償還請求権を放棄したといえるため、有益費償還請求権を有額評価することは相当でないとした平成2年1月22日の裁決事例(TAINSコード:J39-4-02)があります。 ③ 有益費償還権の評価(2号店) 有益費として償還請求できる金額は、その有益費の支出による価格の増加が現存する場合に限り、賃貸人の選択により下記の金額のいずれかによることとされています(民法196②)。 評価通達上、具体的な評価の決まりはありませんが、評価通達129(一般動産の評価)に準じて評価するか又は国税庁の質疑応答事例に掲載されている下記の「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価」に準じて評価することが相当であると考えられます。 (出典) 国税庁・質疑応答事例「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価」 ☆実務上のポイント☆ 賃借物件の建物附属設備における財産評価の必要性の有無は、賃貸借契約の内容によって決まるため、賃借している建物がある場合には、賃貸借契約書を入手し、検討することが必要となります。 (了)
〔弁護士目線でみた〕 実務に活かす国税通則法 【第6回】 「過少申告加算税の意義と免除要件の捉え方」 弁護士 下尾 裕 今回から数回にわたり「加算税」を取り上げる。本稿では、まず、加算税を含む附帯税全体について概観したうえで、過少申告加算税について、実務上関連する諸問題について検討してみたい。 1 附帯税における加算税の位置づけ 国税通則法においては、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税という4種類の加算税を規定している。これらは大きくは、本税に付帯して発生する「附帯税」の中に位置づけられる。 附帯税は、いずれも本税の存在を前提にするものであるが、特に加算税については過少申告等又は源泉税不納付に対する制裁としての意味合いを有する点に大きな特徴がある。 なお、地方税法においては、延滞税及び利子税に相当する延滞金、並びに、加算税に相当する加算金の2つの累計に整理されている。 【附帯税の種類】 (※) 延滞税及び利子税の割合については、租税特別措置法第93条及び第94条等により継続的に引下げがなされている。 2 過少申告加算税 (1) 過少申告加算税の概要 税務調査の結果、納税者が納めることとなるケースとして最も多いのが、過少申告加算税及び延滞税であろう。 このうち今回取り上げる過少申告加算税は、 であるなどと説明されている(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁)。 過少申告加算税の税率は原則として10%であるが、過少申告の本税が当初申告額又は50万円のいずれか多い方の金額を超える場合には、超過部分につき5%が加算される。 (2) 過少申告加算税の免除要件 過少申告加算税は、上記のとおり期限申告後に修正申告又は更正処分により増差税額が発生した場合に賦課されるものであるが、例外的に以下の場面では課税されない。 ① 「正当な理由」とは何か 近年の判例は、上記①の「正当な理由」について、 と判示している(前掲平18最判)。 この「正当な理由」の適用が主張される主な場面として、例えば以下のようなケースを考えてみたい。 このうち、事例①については、税務調査官の誤った指導により過少申告となった場合である。 こうしたケースでは、しばしば課税上の信義則を理由とする課税処分の違法が主張されるが、これに対する裁判所の態度は と判示する(最高裁昭和62年10月30日判決)など、冷淡である。 一方、上記「正当な理由」の有無との関係では、当該税務署の誤指導に関する事実をどのように立証するかというハードルはあるものの、例えば那覇地裁平成8年4月2日判決・税資216号1頁は、事例①と類似する状況において「正当な理由」を認めている。 次に、事例②については、従前の税務上の取扱いが変更されたことに伴い過少申告となった場合と整理できる。 例えばストックオプションの権利行使益の所得区分に関する変更(一時所得→給与所得)の当否が争われた事案につき、最高裁平成18年11月16日判決税資256号順号10573等は、課税そのものの違法性は否定しつつも、「正当な理由」については肯定している。 こうした裁判所の傾向からすれば、税務署の誤指導等があった場面では、課税自体は認められるケースがほとんどである一方、「過少申告加算税」については「正当な理由」があるとして争う余地が残ることから、特に事例①のケースにおいては、税務署からの指導内容を事後に確認できるよう文書等の形で証拠化しておくことが重要となろう。 ② どのような場合に「更正があるべきことを予知」していないといえるのか こちらについては、既に本連載【第3回】において言及しているので、詳細についてはそちらを確認いただければと思うが、東京地裁平成24年9月25日判決では、 かどうかで決定するものとされている。 また、更正の予知の有無については、当該定めが過少申告加算税の減免に関わる要件であることにも鑑み、修正申告が更正を予知したものではないことを納税者側で主張立証すべきと判示した古い裁判例がある(東京地裁昭和56年7月16日判決・税資120号129頁)。 これらの事情からすれば、仮に「更正があるべきことの予知」があったかどうかを争うとする場合には、税務調査の過程で税務調査官からどのような指摘がなされていたかといった点が重要になることから、やはり調査過程を記録しておくことが望ましいといえる。 * * * 次回以降は、上記議論も踏まえ「重加算税」の実務について取り上げたい。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第40回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 〈更なる検討〉 ~「第七目 引当金」から「第七目 貸倒引当金」への目名改正と引当金損金不算入の根拠を巡る議論~ 平成30年度改正において、返品調整引当金を廃止した結果、法人税法の「第二編 内国法人の法人税」、「第一章 各事業年度の所得に対する法人税」、「第一節 課税標準及びその計算」、「第四款 損金の額の計算」の「第七目 引当金」に格納されていた引当金規定は貸倒引当金(法法52)のみとなった。これに伴い、同年度改正においては、「第七目 引当金」から「第七目 貸倒引当金」へと目名が改められた。このことは、引当金(繰入額)が損金不算入となることの根拠に関する議論にも通じる。 引当金が損金不算入となる根拠については諸説あるが、本連載は、法人税法22条3項2号括弧書に定められている債務確定基準自体は同号との関係で引当金の損金算入を認めない規定であることを認める立場である。また、債務確定基準単独ではなく、引当金に関する別段の定めが存在することをセットで理解しておくべきことも認める立場である。 法人税法22条3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額のマイナス要素である「当該事業年度の損金の額」について、次のとおり定めている。 法人税法22条3項2号について、当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを「当該事業年度の費用」から除外している括弧書部分(下線部分)は、費用の計上時期、タイミングを決する役割を有しており、一般に、債務確定基準ないし債務確定主義と呼ばれている。 債務確定基準が導入された昭和40年改正法の立案担当者の多くは、債務確定基準は、引当金・見越費用について、別段の定めがない限り、損金の額に算入しない趣旨であると説明している(伊豫田敏雄「法人税法の改正(一)」『昭和40年版 改正税法のすべて』103頁(国税庁1965)、武田昌輔「全文改正法人税法の解説(上)」産業経理25巻6号52頁など参照。昭和38年12月付け政府税制調査会「所得税法及び法人税法の整備に関する答申」第2の8も参照)。 また、立案当時になされていた次のような議論も参考となる(武田昌輔『法人税回顧六〇年』157頁以下(TKC出版2009)参照)。 立案当時、問題となったのは、法人税法22条3項2号に「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用」と規定するのみで、特に賞与引当金や退職給与引当金などの引当金が、これに含まれるかどうかという点である。これについては、次のとおり、原則として引当金の損金算入を認めるべきであるという意見(第1案)とこれを認めるべきではないという意見(第2案)があった。 第1案の「引当金も全部認める」という趣旨になると、最終的には一致してもいろいろな考え方があるため、「第2号ではやはり最初に引当金を排除しておいた方がいいのではないか」ということで「債務の確定しないものを除く。」という文言が入った。第2案が採用されたことになる。 しかしながら、例えば減価償却費のようないわゆる内部取引は、債務の確定とは関係がない。販売費や一般管理費が損金になるのなら「減価償却費、繰延資産などの資産が費用化されるものも含めて損金になるのではないか」ということが問題になったため、最終的には2号の括弧書きとして「償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。」という一文が挿入された。 以上のように、債務確定基準は引当金の損金算入を原則として認めない趣旨で設けられたものであることは沿革的に見て明らかである。体系的には、債務確定基準により引当金は原則損金不算入となり、別段の定めにより例外的に損金算入が認められているという整理になる。 文理的には、法人税法52条を例にすると、別段の定めである同条は一定のルールに従って貸倒引当金を「損金の額に算入する」規定である。このことは、債務確定基準により引当金の損金算入が原則として認められていないことを同条が前提としていることを示唆する。また、文理上、同条は「損金の額に算入しない」規定ではないし、貸倒引当金以外の引当金を「損金の額に算入しない」規定ではないことにも注意が必要である。ひとり貸倒引当金に限定したルールを定めているのであり、それ以外の引当金に関するルールを定めていることを示す手掛かりは見当たらない。 このように見てくると、例えば、法人税法22条4項の公正処理基準にかこつけて、法定の引当金以外の引当金の損金算入が認められるという主張を採用することのハードルは相当に高いことがわかる。 平成30年度改正において「第七目 引当金」から「第七目 貸倒引当金」に目名が改められたことに話を戻そう。 例えば、「債務確定基準とは、引当金の繰入額に係る損金算入を否認するためのルールではない」(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅱ〔第2版〕』187頁(中央経済社2018))という見解を有する論者からは、「文理解釈上は、法人税法22条3項にいう『別段の定め』を第6目の『引当金』という規定すべてを対象と考えることで、引当金については、第6目において完結している」という理解が示されている(同「『収益認識に関する会計基準』と法人税法(8)」税務事例50巻9号98頁)。 かかる見解の採用については、慎重な議論を要する。上述のとおり、文理解釈に従うと、法人税法52条は貸倒引当金を一定のルールに従って「損金の額に算入する」規定であり、「損金の額に算入しない」規定ではなく、貸倒引当金以外の引当金を「損金の額に算入しない」規定でもない。 「引当金」という目名は、平成30年度改正により返品調整引当金が廃止されるまでは2つ以上の引当金に関する規定が第7目に格納されていたことから、用いられたにすぎない。このことは、上記目名は平成30年度改正で返品調整引当金が廃止されたことにより、唯一存置された貸倒引当金を表現する「第七目 貸倒引当金」に改められていることからも裏付けられる。そうであるとすると、「引当金」という目名をもって債務確定基準抜きに単独で引当金繰入額を損金不算入とする確たる根拠とすることには躊躇が残る。 なお、上述のとおり、本連載は、少なくとも、債務確定基準自体は法人税法22条3項2号との関係で引当金繰入額の損金算入を認めない趣旨で定められたことを認める立場を採用しているが(泉絢也「法人税法における債務確定主義(債務確定基準)」国士舘法研論集16号47頁以下、同「債務確定主義(債務確定基準)のレゾンデートル」税務事例47巻2号39頁以下参照)、同項1号(原価)と3号(損失)に係る引当金の繰入額の問題を2号の債務確定基準の問題とは捉えない余地を残すものである。 ここでは、貸倒引当金は、貸倒損失に対する引当金として法人税法22条3項3号の別段の定めであろうか、それとも2号の別段の定めであろうかという問題があることを想起すべきである。例えば、損失に係る引当金は2号の費用であると解する見解もある(武田昌輔「新商法下における会計と税法」『第34回租税研究大会記録』87頁(日本租税研究協会1983)参照)。 1号の原価との関係を考えなければならない引当金も存在し、その場合に、2号の債務確定基準の適用はないはずであるから、その引当金繰入額の損金算入が認められないのかが問題となる。この点に関して、岡村忠生教授は、「製品の製造を行う被用者の退職給与引当額は、製品原価に集合する。また、貸倒は費用ではなく損失であるから、その引当経理は、将来の損失の見積り計上である。したがって、こうした引当経理を規制するのであれば、債務確定要件を22条3項柱書に設けるべきことになる」という見解を示される(岡村忠生『法人税法講義〔第3版〕』65頁(成文堂2007)参照)。非常に有益な指摘である。 (了)