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《速報解説》 改正会社法を受けた取締役の報酬に関する法規の見直し ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士 中尾 隼大 はじめに 令和元年12月20日、令和2年度税制改正大綱が閣議決定された。その中には、先般公布された「会社法の一部を改正する法律」及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」を踏まえた改正も含まれているため、以下に概観したい。 1 会社法の改正(役員報酬に関連する部分) 役員報酬は、取締役にとっては適切な職務執行のインセンティブを付与する手段となり得るものであるため、手続きの透明化を担保する必要性があった。したがって、会社法の改正により以下の措置がなされた。 【会社法361条7項(新設)】 監査役設置会社(公開会社かつ大会社に限る)及び監査等委員会設置会社に該当する株式会社の取締役会は、取締役の報酬等の内容として定款又は株主総会の決議による事項についての定めがある場合には、当該定めに基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として、法務省令で定める事項を決定しなければならないとされた。 すなわち、取締役会にて各取締役の報酬を決定する場合、その決定方針等を定めなければならない。 ただし、取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められているときは、この限りでない。 【会社法361条1項3号~5号(新設)、6号(追加)】 取締役の報酬として株式等を付与する場合の株主総会の決議事項に、株式等の数の上限等が加えられた。例えば、以下の項目を決議しなければならない。 (これらの詳細は、会社法の一部を改正する法律該当箇所を参照) 【会社法202条の2(新設)】 当該条項の新設により、上場企業は定款又は株主総会で決議することによって、株式又は新株予約権を無償で交付することができるようになる。 これにより、会社は純然たる報酬として譲渡制限付株式を交付することが可能となり、これまでのように金銭債権として報酬を付与し、当該金銭債権の現物出資を受ける形をとる必要が無くなったと考えられる。 2 令和2年度税制改正大綱の内容 上記の会社法の改正に伴い、令和2年度税制改正において以下の対応がなされることとされた。 (1) 個人課税(税制改正大綱閣議決定版24-25頁、30頁) 平成28年度税制改正で整備された譲渡制限付株式の取扱い、すなわち、譲渡制限付株式は交付時点ではなく、譲渡制限が解除された時点で役員に収入が発生するとした措置について、以下の措置が講じられることとされた。 (注) 上記①の改正は、会社法の一部を改正する法律の施行の日以後に交付の決議がされる譲渡制限付株式について適用される。 上記の会社法の改正に合わせ、今後は無償で交付する譲渡制限株式もその対象に含まれるとされる。また、これまでは譲渡制限期間中に当該役員が死亡した場合の取扱いについて実務上見解が分かれていたが、その取扱いが示された形である。 (2) 法人課税(税制改正大綱閣議決定版62頁) 上記に合わせ、法人税法54条の譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例についても、会社関係制度の見直しを前提に、以下の措置が講じられることとされた。 法人課税における費用の帰属についても、無償にて交付する譲渡制限付株式が、費用の帰属年度特例に含まれることとなる。 その他、過大役員給与の形式基準についても、会社法の改正に合わせ、上限数を反映させること等が盛り込まれた。 (了)
《速報解説》 措置法40条特例、認定NPO法人等に対する寄附も適用対象に ~令和2年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 1 特定買換資産の特例の制度 通常、個人が法人に現物財産を寄附した場合、その寄附時の時価で譲渡したとみなされ、譲渡所得税が課される。ただし、(1)その寄附が公益の増進に著しく寄与すること、(2)寄附した財産が、寄附があった日から2年以内に公益目的事業の用に直接供される、又は供される見込みであること、(3)その寄附により、寄附をした者の所得税又は寄附をした者の親族等の相続税若しくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること、の要件を満たす場合には、当該譲渡所得税を非課税とする制度がある。 この特例措置を適用して受領した現物財産については、(ⅰ)そのまま継続して保有し、公益目的事業に利用するか、(ⅱ)公益目的事業の用に2年以上直接供した後、同種の資産等に買換えをして引き続き公益目的事業に利用するか、いずれかしか認められていなかった。 しかし、平成30年度の税制改正において、上記の非課税承認を受けた後、その寄附を受けた一定の公益法人等がその寄附財産を譲渡し、買換資産を取得する場合で、一定の要件を満たすときは、同種の資産への買換でなくても非課税承認を継続することができるという特例が創設された。 上記一定の要件とは、次の4つの要件をいう。 2 承認特例の制度 1で紹介した譲渡所得税非課税制度の特例は、国税庁長官の承認が出るまで通常2年以上の期間がかかるとされているが、次の3つの要件を満たす寄附であることを証する一定の書類を添付した申請書を、寄附をした日から4ヶ月以内に 納税地の所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出した場合で、その提出した日から1ヶ月以内(寄附財産が株式等である場合には、3ヶ月以内)に、その申請について国税庁長官の承認がなかったとき、又は承認をしないことの決定がなかったときは、その申請について承認があったものとみなされ、現物寄附を行った個人に対し、譲渡所得税が非課税とされる、承認特例という制度も設けられている。 この特例の対象となる法人は、国立大学法人等(国立大学法人、大学共同利用機関法人、公立大学法人、独立行政法人国立高等専門学校機構若しくは国立研究開発法人をいう)、公益社団法人、公益財団法人、学校法人又は社会福祉法人となっている。 3 令和2年度税制改正の内容 従来、認定及び特例認定NPO法人に対する寄附財産に関しては、1の特定買換資産の特例及び2の承認特例の制度は認められていなかった。 しかし、令和2年度税制改正により、2で示した3つの要件をすべて満たす場合には、他の承認特例対象法人(国立大学法人等、公益社団法人、公益財団法人、学校法人、社会福祉法人)と同様の承認特例を適用し、国税庁長官の承認手続きがを簡素化されることとなる。 また、寄附された財産を公益目的事業の用に供する別の資産に買い換える場合についても、一定の手続きの下で特定非営利活動に充てるための基金に、寄附された財産を組み入れて管理し、当該財産の譲渡収入の全部をもって取得した資産を、継続して基金において管理する場合には、公益目的事業の用に直接供した日から2年以内に買い換える場合であっても、非課税の措置を継続することとされた。 なお、本改正の施行時期については、大綱に記載されていない。 【参考図】 (※) 内閣府ホームページより (了)
《速報解説》 監査基準改訂に対応した監査証明府令・会社計算規則等の改正が確定 ~会計監査報告におけるKAMの記載について法務省が考え方を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年12月27日、官報号外第195号にて「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令及び企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第53号)及び「会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第54号)が公布された。「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」の取扱いに関する留意事項について(監査証明府令ガイドライン)も改正されている。 これにより、令和元年10月30日及び10月31日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これらは、「監査基準」の改訂に対応するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」等 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」等の公開草案に対してコメントはなかったとのことである。 1 監査報告書に関する記載 監査証明府令4条1項1号ロに掲げる意見の根拠は、次に掲げる事項について記載する(監査証明府令4条4項3号)。 2 四半期レビュー報告書に関する記載 監査報告書等の記載事項(監査証明府令4条)の四半期レビュー報告書について、次の記載に改正する(中間監査報告書も同様に改正する)。 3 企業内容等の開示に関する内閣府令の一部改正 監査証明府令の改正に合わせて、臨時報告書の記載内容等(「企業内容等の開示に関する内閣府令」19条)における公認会計士等の意見又は結論に関する記載を改正する。 4 適用時期等 公布の日(令和元年12月27日)から施行する。 Ⅲ 会社計算規則の一部を改正する省令 企業会計審議会において、「監査上の主要な検討事項」の導入等に関する「監査基準」の改訂(平成30年7月5日)及び監査報告書における意見の根拠の記載等に関する「監査基準」の改訂(令和元年9月3日)を行ったことを受けたものである。 1 会計監査人の会計監査報告(監査報告書)に関する記載 次の改正を行う(会社計算規則126条)。 2 コメントに対する法務省の考え方 公開草案に対する意見の概要とそれに対する法務省の考え方が次のように示されている。 (1) 会社計算規則上の会計監査報告の記載事項と監査基準上の監査報告書の記載事項の不一致 (2) 会社法の会計監査報告における監査上の主要な検討事項の記載 3 適用時期等 公布の日(令和元年12月27日)から施行する。 改正後の会社計算規則の規定は、令和2年3月31日以後に終了する事業年度に係る計算関係書類についての会計監査報告について適用し、同日前に終了する事業年度に係る計算関係書類の会計監査報告については、なお従前の例による。 (了)
《速報解説》 経済産業省が「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(案)」を公表 ~インターネット等を用いた株主総会の実施に関する法的・実務的論点について言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年12月26日、経済産業省は、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(案)」を公表し、意見募集を行っている。 これは、ハイブリッド型バーチャル株主総会を実施する際の法的・実務的論点、及び具体的取扱いを明らかにするためのものである。 ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加/出席することができる株主総会のことである。 意見募集期間は2020年2月7日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 本ガイド(案)では、上場会社をはじめとする、株主が地理的広範に分散している株主総会を念頭に、株主総会へのIT活用の第一歩として、ハイブリッド型バーチャル株主総会における法的・実務的論点について述べている。 ハイブリッド型バーチャル株主総会には、①ハイブリッド参加型バーチャル株主総会と②ハイブリッド出席型バーチャル株主総会がある(2ページ)。 下記におけるリアル株主総会とは、基本的に、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所において開催される株主総会のことである(2ページ)。 本ガイド(案)は、会社の株主総会の在り方として、必ずしもハイブリッド型バーチャル株主総会が望ましいという方向性を提示するものではなく、会社が自社の株主総会の在り方を検討するときの追加的な選択肢を提供することを目的とするものである(5ページ)。 1 ハイブリッド参加型バーチャル株主総会 ハイブリッド参加型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会をいう(2ページ)。 遠方株主の株主総会参加・傍聴機会の拡大などのメリットが期待される一方、円滑なインターネット等の手段による参加に向けた環境整備の必要性などに留意が必要である(7ページ)。 議決権行使、参加方法、コメント等の受付と対応について記載されている。 2 ハイブリッド出席型バーチャル株主総会 ハイブリッド出席型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会をいう(3ページ)。 遠方株主の出席機会の拡大などのメリットが期待される一方、質問の選別による議事の恣意的な運用につながる可能性などに留意が必要である(7ページ)。 前提となる環境整備、株主総会の運営に際しての法的・実務的論点(株主の本人確認、株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係、株主からの質問・動議の取扱いなど)について記載されている。 (了)
《速報解説》 低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除の創設 ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士 齋藤 和助 本稿では、昨年12月20日に閣議決定された「令和2年度税制改正大綱」に示された、低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除について概説する。 1 特別控除の創設の主旨 人口減少が進展し利用ニーズが低下する土地が増加する中で、取引価額が低額の土地については、取引コスト等が相対的に高いことがネックになり取引が進まず、利活用されないまま所有されている場合がある。そこで、当該土地の譲渡を促進し、当該土地に新たな価値を見出す者による適切な利用・管理を確保することで、更なる所有者不明土地の発生を防止し、地域の価値向上を支援するために創設されるものである。 2 特別控除の内容 (1) 内容 個人が都市計画区域内にある低未利用土地又はその土地の上に存する権利(以下「低未利用土地等」という)を譲渡した場合において、下記(2)の要件を満たすときは、その年中の低未利用土地等の譲渡に係る長期譲渡所得の金額から100万円を控除するこができる。ただし、低未利用土地等とその上にある建物等を一括譲渡した場合であっても、建物等の譲渡に係る譲渡所得の金額については、この特別控除の適用はない。なお、この特別控除は住民税についても同様の適用がある。 (2) 適用要件 次の①から③の要件のすべてを満たす必要がある。 ① 市区町村長の確認 低未利用土地等であること及び譲渡後の低未利用土地等の利用について市区町村長の確認がされていること。 ② 所有期間 譲渡する年の1月1日において、所有期間が5年を超えていること。 ③ 譲渡対価 譲渡対価が500万円以下(低未利用土地等の上にある建物等の対価の額を含む)であること。 (3) 適用除外 次のいずれかに該当する場合には、この特例の適用は受けられない。 ① 特殊関係者への譲渡 譲渡者の配偶者その他、その譲渡者と一定の特別の関係がある者に対する譲渡である場合。 ② 前年以前の適用の有無 適用を受けようとする低未利用土地等と一筆の土地から分筆された土地等について、その年の前年又前々年に既にこの特別控除の適用を受けている場合。 3 適用時期 次の①又②のいずれか遅い日から令和4年(2022年)12月31日までの間の譲渡について適用する。 4 今後の動向を注視 上記特別控除の内容について、次の事項については詳細が不明であることから、今後の動向を注視する必要がある。 (了)
《速報解説》 国外居住親族に係る扶養控除の見直し ~令和2年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 令和2年度税制改正大綱では、国外居住親族に係る扶養控除の見直しが示されている。 以下、国外居住親族に係る扶養控除について、現行制度の概要と今回の見直しの解説を行う。 【1】 現行制度の概要 (1) 国外居住親族に係る扶養控除等 配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、障害者控除(以下「扶養控除等」という)の対象となる親族(※)は、居住者に限定されていない。よって、親族が非居住者であっても、要件を満たせば扶養控除等の適用を受けることができる(所法2①二十八・三十三の二・三十四)。 (※) 親族:6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族(民法725) 給与等又は公的年金等の源泉徴収及び給与等の年末調整において、非居住者である親族(以下「国外居住親族」という)について扶養控除等の適用を受ける場合には、当該国外居住親族に係る「親族関係書類」及び「送金関係書類」を源泉徴収義務者に提出又は提示しなければならない(所法194①七・④⑤)。 また、確定申告において、国外居住親族について扶養控除等の適用を受ける場合には、原則として「親族関係書類」及び「送金関係書類」を確定申告書に添付又は提示しなければならない(所法120③二、所令262③、所規47の2⑤⑥)。 (2) 国外源泉所得の取扱い 国外居住親族について扶養控除等を適用する場合には、非居住者に係る課税所得の範囲を踏まえ、所得金額の判定は国内源泉所得のみに基づいて行われる(所法5②一)。すなわち、判定の対象に国外源泉所得は含まれない。 【2】 現行制度の問題点 上記のとおり、現行制度では、国外居住親族の所得要件が国内源泉所得のみで判定されるため、一定水準を超える国外源泉所得を有する人も扶養控除等の対象になっていると指摘されていた。 【3】 見直しの内容 【2】の問題点を踏まえ、令和2年度税制改正大綱では、国外居住親族に係る扶養控除の適用要件について次の見直しが示された。 見直しの内容は、令和5年1月1日以後に支払われる給与等及び公的年金等、並びに令和5年分以後の所得税に適用される。 ◇年齢要件の見直し 扶養控除の適用対象者から年齢30歳以上70歳未満の者を除く。 ただし、30歳以上70歳未満であっても、次の①から③のいずれかに該当する人は適用対象とされる。 国外居住親族の扶養控除の適用範囲は、今回の見直しにより、次のとおりとなる(アミカケ部分が適用対象)。 (了)
2019年12月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.350を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第66回】 「2つの国民負担を考える」 税理士 山本 守之 1 法人に対する減税の継続 法人に対する減税を続けた結果、大企業が保有する内部留保は、2018年度で463兆円になってしまいました。令和2年度税制改正大綱では、政府与党は次世代通信規格「5G」の通信網を整備する税制支援策で投資額の15%を法人税から税額控除することにしました。 実は、この税額控除は経済産業省と財務省の両省の税制改正案で9%の税額控除とする調整が行われており、12月9日までは自民税調のインナー間ではこの数値であったようです。 しかし、来年以降に中国製の5G関連機器が国内市場を席巻しかねないという経済安保の観点から12月11日に15%とすることになりました。 税額控除の水準は5%であったのを甘利税調会長が9%としたのですが、首相の「9%では低すぎる」という指示で15%となったのです。 2 医療費の窓口負担の引上げ これに比べ個人の負担は、現在は「原則1割」となっている75歳以上の医療費の窓口負担について、全世代型社会保障検討会議(代表は安倍首相)の中間報告書で2割に引き上げるとしたことは納得できません。 これについて政府関係者は「余力のある高齢者には『支えられる側』から『支える側』になってもらおうというメッセージ」と説明するようですが、老年者いじめのようにみえます。 医療費の窓口負担は次のようになっています。 75歳以上の医療費は1人あたり年間平均92.1万円で、65歳未満の18.7万円のほぼ5倍であり、1割負担を2割負担にするというのは倍額ということですから、負担する側にとってはかなり痛いといえます。 社会保障が乏しいのはアメリカと日本と言われていますが、日本は国民皆保険ですから、公的保険のないアメリカに比べれば、まだ良いのかもしれません。 しかし、ヨーロッパ諸国と比べると改善すべき点が多いです。 3 「負担の公平」と「所得の再分配」 企業の減税も医療費窓口負担も「国民の負担」という点では同じですが、政府の取組む姿勢が異なるのは気がかりです。 税制改正の最も大切なことは「負担の公平」と「所得の再分配」です。しかし、今回の税制改正大綱はこの2つが守られていません。 例えば、手元資金の潤沢な企業を優遇して税額控除を認めても賃上げには結び付きません。 株式の配当に対する不公平是正は、株価の動きを強く意識する政府のもとでは是正されません。 配当の分離課税の中では、いくら高額な配当を受けても所得税と住民税で20%程度しかありません。働いて得た所得には高額な納税を課し、配当所得は低い納税額で済んでしまうということです。 この結果、合計所得金額が1億円を超えると次のように税負担が下がっていくのをどう説明するのでしょうか。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 財務省資料 今回の税制改正大綱は「所得の再分配の観点から見直す」として検討していましたが、前年の表現と同じで、改革の熱意がありません。 これでは公平に関する責任放棄ではありませんか。税制は国民みんなが双手を挙げられるようにすべきではないでしょうか。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第26回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -「租税回避の意図」の意義と必要性- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は租税回避論の沿革とりわけ淵源を概観したが、その中で同族会社の行為計算否認規定においては当初から「所得税逋脱ノ目的」が、また、ドイツから継受した租税回避論においては租税逋脱との共通の要素としての「故意」がそれぞれ問題とされていたことを確認した。 今日の租税回避論においても、とりわけ租税回避を行為概念として論じ(第23回参照)、その不当性を論ずる場合(第24回Ⅲ参照)には、租税回避概念の主観的要素として租税回避の「意図」ないし「目的」が論じられることがあるが、今回は、そのような主観的要素が租税回避論においてどのような意義ないし性格をもつか及び租税回避の概念要素として必要かどうかを検討することにする。 Ⅱ 租税回避の概念と租税回避の意図 1 わが国の租税回避論 前回概観したように、同族会社の行為計算否認規定は、大正12年所得税法改正による創設時には、その要件の1つとして「所得税逋脱ノ目的」(73条の3)を定め、それが昭和15年法人税法制定時に「法人税逋脱ノ目的」(28条)とされ、これが昭和22年法人税法全文改正では「法人税の負担を免れる目的」(34条)とされたが、昭和25年法人税法によって「法人税の負担を不当に減少させる結果」(31条の2)という現行法(132条1項)と同じ文言による要件で定められた。 以上の要件の変遷をみると、次の見解(清永敬次『税法〔新版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)44-45頁。下線筆者)が指摘するように、租税回避の意図を租税回避の概念要素ないし要件とするかどうかは「立法政策の問題」であると考えられる。 この見解の中で述べられているような「同族会社の行為計算の否認規定の解釈」(1つ目の下線部)は、裁判例においても採用されている。IBM事件・東京高判平成27年3月25日訟月61巻11号1995頁は次のとおり判示したところである(下線筆者。同事件については第11回参照)。 なお、金子宏教授は同族会社の行為計算否認規定の不当性要件の解釈において経済的合理性基準を示された上で、次のとおり、同規定の「解釈・適用上問題となる主要な論点」の1つとして、かつては、租税回避の意図の存否を挙げておられたが、現在では、それは租税回避以外の合理的な理由ないし事業目的の有無という基準の「主観的側面」とされ、明示的には挙げておられない(同『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)532-533頁。下線筆者)。この修正は、内容的な修正ではないと解されるが、IBM事件・東京高判の前記判示を受けてされたものと推察される。 2 ドイツの租税回避論 これに対して、ドイツの租税回避論においては、租税回避の意図(Steuerumgehungsabsicht)を租税回避の概念要素とする見解が以前から支配的であった。わが国にドイツから継受された租税回避論(前回Ⅲ参照)において、租税回避の意図に関するヘンゼルの見解は次のとおりであった(Hensel, Zur Dogmatik des Begriffs "Steuerumgehung", in Bonner Festgabe für Zitelmann, 1923, 217, 282. 文中のイタリック体部分の原文は活字間の間隔が広い強調部分)。 租税回避の意図に関するドイツの議論状況について、清永敬次教授は租税調整法(Steueranpassungsgesetz)6条(現行租税基本法[Abgabenordunung]42条の前身)の解釈論に関する紹介の中で次のとおり述べておられた(同『租税回避の研究』(ミネルヴァ書房・1995年/復刻版2015年)48-49頁[初出・1966年]。下線筆者)。その叙述は、前記1で引用した清永教授の見解や前回Ⅱ2で引用した片岡政一氏の見解(特に行為計算の否認規定を「一種の制裁的法規」と捉えている点)を理解するのにも有益であるから、少し長くなるが引用しておこう。 その後、清永教授は、1919年ライヒ租税基本法(Reichsabgabenordnung)5条から1977年租税基本法42条に至る租税回避否認規定に関するライヒ財政裁判所(Reichsfinanzhof)及び連邦財政裁判所(Bundesfinanzhof)の判例を分析した結果として次のように述べておられる(同・前掲書210-211頁[初出・1986年]。下線筆者)。 清永教授の以上の叙述・分析は、租税基本法の定評あるコンメンタールにおける同法42条に関する次の注釈(Drüen, in: Tipke/Kruse, Abgabenordnung, Finanzgerichtsordnung, Kommentar, Loseblatt Lfg. 123 Mai 2010, § 42 Tz.44. 下線筆者)と基本的に一致していると解され、同注釈が同法の2008年改正前の42条に関するものではあれ、租税回避の意図に関する議論が同改正によって特段の影響を受けていない以上、今日でも妥当すると考えられる。 以上を要するに、租税回避の意図は、租税基本法42条において明文では要件とされていないものの、同規定の解釈適用上は要件とされている。ただし、租税回避の意図の要件は「緩やかなもの」(清永・前掲引用文)であり、同規定の他の適用要件、すなわち、経済的諸事情に相応しない法的形成の要件及び租税負担の軽減・排除の要件が充足される場合には、当該法的形成に関する特段のもっともな理由のない限り、その充足が肯定されることとされている。つまり、租税回避の意図の要件は、間接証拠による推認を通じて通常はその充足の有無が判断されるいわば「証拠法上の要件」(主要事実)にとどまり、(証拠法との対比における)実体法(課税要件法)上の要件とはされていないと考えられる。 Ⅲ ヤフー事件最判にいう「租税回避の意図」 わが国でも、租税回避の意図の要件は、既にⅡ1でみたとおり同族会社の行為計算否認規定において明文の要件としては定められていないが、同規定と基本的に同じ文言で定められている組織再編成に係る行為計算否認規定(法税132条の2)の解釈適用上、前記Ⅱ2でみたドイツの租税回避論におけるのと同じような性格づけ(「証拠法上の要件」)を受けることがある。第10回で取り上げたヤフー事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁における「租税回避の意図」の性格づけがそれである。まず、同判決の関連する判示部分をみておこう(下線筆者)。 ヤフー事件・最判に関する調査官解説(徳地淳=林史高「判解」法曹会編『最高裁判所判例解説民事篇(平成28年度)』(法曹会・2019年)84頁)は、上記引用判示のうち下線部の判示(「観点」)について、「この部分は、要するに、『濫用』という用語が抽象的な概念であるため、その意味内容を具体的に示したものといえよう。」(同109頁)と述べた上で、外国税額控除余裕枠利用事件(りそな銀行事件)・最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁(第7回参照)を参照し、次のとおり述べている(同110頁。下線筆者)。 この叙述に続く「なお」以下の次の叙述(徳地=林・前掲「判解」110-111頁。下線筆者)が、ここで検討している「租税回避の意図」の性格づけにとって、重要である。 上記の叙述の第1段落(「なお」以下)の下線部にいう「常識的な考え方」は、ドイツの租税回避論における「支配説」(前記Ⅱ2)と同じく「濫用」を「目的的な行為」とみることから、導き出されたものと解され、解釈論として自然な考え方であるように思われる。 また、ヤフー事件・最判について、(a)租税回避の意図及び(b)趣旨目的からの逸脱という要素によって構成される「観点」を、不当性要件の言い換えとしての濫用要件という規範的要件の評価根拠事実(要件事実=主要事実)として捉え、これを①及び②の「事情」という間接事実によって推認するという判断枠組みを示したものと解する私見(第10回Ⅱ参照)からすると、前記の叙述の第2段落(「ところで」以下)の下線部で示された「租税回避の意図」に関する理解ないし性格づけは妥当であると考えられる。 そうすると、ヤフー事件・最判にいう「租税回避の意図」は、基本的には、ドイツの租税回避論(租税基本法42条の解釈論)におけるそれと同じく、証拠法上の主張立証のレベルで捉えられており、同族会社の行為計算否認規定における「租税回避の意図」に関する通説・裁判例の立場と整合性を欠くものではないと考えられる。金子宏教授も、前記Ⅱ1における引用文の最後で、「[租税回避の意図があったか否かの基準は]②の基準[=ヤフー事件・最判の前記②の考慮事情に相当する基準]の適用において問題となることが多い」と述べておられ、また、IBM事件・東京高判も、前記Ⅱ1でみたとおり、「法人税法132条1項の『不当』か否かを判断する上で、同族会社の行為又は計算の目的ないし意図も考慮される場合があることを否定する理由はない」と説示していることからして、そのように考えられよう。 Ⅳ おわりに 今回は、以上の検討を通じて、租税回避の意図を租税回避否認規定において明文の定めで要求するかどうかは立法政策の問題であることや、租税回避の意図を明文で要件化していない場合でも証拠法上の主張立証のレベルで考慮することは特にヤフー事件のような濫用事案(第22回Ⅲでみた租税回避の第2類型すなわち税法上の課税減免規定の濫用による租税回避の事案)においては妥当であること、を明らかにした。 ただ、租税回避の意図は、これを考慮する場面によっては、租税法律主義との関係で問題を惹起することがあることには、注意しておかなければならない。ヤフー事件・最判の調査官解説は、前記Ⅲの引用文の中で、「第1審及び原審が採用した趣旨目的基準に対しては、納税者の予測可能性を害し、租税法律主義の趣旨に反するなどという強い批判があったところ、本判決は、濫用の有無の判断において租税回避の意図を要求することにより、上記の批判に対応したとみることも可能であろう(後記(3)参照)。」と述べているが、このような場面で租税回避の意図を考慮することは、以下のとおり、租税法律主義の観点から検討すべき問題を看過することにつながるおそれがあると考えられる。 調査官解説は、前記引用文中で参照を指示した「後記(3)」で次の見解を述べている(徳地=林・前掲「判解」111-112頁。下線筆者)。 この見解は、租税回避の「意図」を租税回避に対する課税結果の「予測」と結びつけた上で、納税者に租税回避の意図がある場合に租税回避を否認しても当該納税者の予測可能性は害されないから、租税法律主義違反の問題は生じない、とする論法によるものと解される。 確かに、この論法は、前記の見解の中で参照されている2つの調査官解説においても採用されたものであり、特に後者の調査官解説では、濫用の「認識」をもって直ちに濫用を許容しないとして「否認」することを正当化するために、用いられている(この点については拙著『租税回避論-税法の解釈適用と租税回避の試み-』(清文社・2014年)59-63頁[初出・2007年]参照)。しかし、その正当化の問題性については、既に第1回Ⅱで述べたように、濫用を「認識」することと、濫用を許容されないものとして「否認」することとは、論理的にも法律論的にも、別問題であることを指摘しておくべきであろう(【11】【47】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号[以下同じ])。 ただ、ヤフー事件・最判については、そのような指摘は直接的には妥当しない。というのも、同最判は、法人税法132条の2の趣旨・目的に基づき、濫用を許容しないとする規範(濫用要件)を定立し、その規範の解釈適用によって濫用を「否認」したからである。つまり、ヤフー事件・最判は、前記の論法そのものによって「否認」という結論に到達したのではなく、その論法に濫用要件を介在させて、直接的には、濫用要件に反することを理由に「否認」という結論に到達したのである。 したがって、ヤフー事件・最判について租税法律主義の観点から「予測可能性及び法的安定性の確保」のために真に検討すべき問題は、同最判が定立した濫用要件という規範の明確性である。租税回避の「意図」を租税回避に対する課税結果の「予測」と結びつけて租税法律主義違反の問題を回避しようとする前記の論法によれば、租税法律主義の観点から検討すべき濫用要件の明確性という問題を看過することになりかねないと考えるところである。 なお、ヤフー事件・最判に関する調査官解説の前記の見解においては、「予測可能性及び法的安定性の確保」が租税法律主義の「目的」とされているが、そこでいう「目的」は、法の外部の現実社会において追求される効果・作用という意味での「目的」であると解され、通常は、租税法律主義の「機能」というべきものであると解される(【11】、前掲拙著60頁[初出・2007年]参照。租税法律主義の機能については、金子・前掲書80頁も参照)。 (了)