改めて確認したいJ-SOX 【第6回】 「「決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価」の 具体的なイメージを掴む」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 前回までに「全社的な内部統制の評価」及び「業務プロセスに係る内部統制の評価」を説明してきました。今回は、「決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価」について説明します。 この決算・財務報告プロセスに係る内部統制には、全社的な観点で評価するものと個別の業務プロセスとして評価するものの2種類があり、J-SOXの実務ではとてもメジャーな論点です。 しかし、「財務報告に係る内部統制基準・実施基準」では、あまり目立つような記載はされておらず、「決算・財務報告」といった単語が含まれる規定は、次の規定くらいしかありません。 Ⅱ2.(2) 評価の範囲の決定 [業務プロセスに係る評価の範囲の決定] Ⅱ3.(3)④ 業務プロセスに係る内部統制の運用状況の有効性の評価 ハ.運用状況の評価の実施時期 ニ.評価の実施方法の決定に関する留意事項 b.決算・財務報告プロセス 内部統制基準・実施基準では、決算・財務報告プロセスに係る内部統制について直接的に書かれている箇所が少ないため、具体的なイメージを掴みにくいという特徴があります。 そこで今回は、決算・財務報告プロセスに係る内部統制について、全社的な観点で評価するものと個別の業務プロセスで評価するものに分けて、体系立てて説明していきます。 1 全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセス (1) 内部統制のイメージ 「全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制」についての明確な定義はありませんが、「全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制」とは、営業部などの各部門が生成した勘定科目ごとの情報を集約する決算業務や財務報告業務に係る内部統制といえるでしょう。 例えば、次のようなものが該当します。 【図表1】 全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制のイメージ (2) 評価範囲 全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制は、全社的な内部統制に準じて評価します。そのため、すべての事業拠点について内部統制を評価する必要があります。また、実務上は、全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価範囲(事業拠点)と全社的な内部統制の評価範囲(事業拠点)は一致することが一般的です。 なお、全社的な内部統制の評価範囲をどのように決定するかについては、本連載の【第3回】をご参照ください。 (3) 整備状況・運用状況の評価 ① 評価項目 既述のとおり、全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制についての明確な定義はありません。そのため、全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制として、どこまで評価すればいいか実務上、迷う部分ですが、一般的には次のようなものを全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価項目とすることが多いように感じられます。 【図表2】 親会社の全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価項目例 上記はあくまで一例であり、個別の会社の状況によって評価項目が変わることも考えられます。 ② 評価時期 冒頭にも書いたとおり、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の運用状況の評価については、当該期において適切な決算・財務報告プロセスが確保されるよう、期末日までに内部統制に関する重要な変更があった場合には適切な追加手続が実施されることを前提に、前年度の運用状況をベースに、早期に実施されることが効率的・効果的です。 そのため、実務的には前期末や四半期の内部統制を対象にして、整備状況・運用状況の評価を比較的に早い時期に実施することが多いように感じられます。 ③ 評価方法 全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制は、全社的な内部統制に準じて評価するため、具体的な評価方法については、本連載の【第4回】をご参照ください。 2 固有の業務プロセスとして評価する決算・財務報告プロセス (1) 内部統制のイメージ 次の観点から個別に評価対象として追加されたものが、固有の業務プロセスとして評価する決算・財務報告プロセスに該当することになります。 実務上、引当金の計上に関する業務プロセスが固有の業務プロセスとして評価する決算・財務報告プロセスに含まれることが多いですが、これは上記(b)に該当するためです。 (2) 評価範囲 固有の業務プロセスとして評価する決算・財務報告プロセスは、業務プロセスに係る内部統制として評価されますが、評価範囲について異なる点があります。 それは、売上プロセスなど企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスは、重要な事業拠点(本連載の【第3回】を参照)の中から識別されましたが、固有の業務プロセスとして評価する決算・財務報告プロセスは、重要ではない事業拠点の中から識別されることもあるという点です。 つまり、固有の業務プロセスとして評価する決算・財務報告プロセスは、財務報告への影響を勘案して個別に評価対象に追加されるため、必ずしも重要な事業拠点に限らないということです。 (3) 整備状況・運用状況の評価 ① 評価項目 固有の業務プロセスとして評価する決算・財務報告プロセスは、業務プロセスに係る内部統制として評価されるため、個別の決算の手続(手順)を文書化し、それについて統制上の要点を識別し、評価していくことになります。 基本的な評価の流れは業務プロセスに係る内部統制の評価と同じですので、詳細は本連載の【第5回】をご参照ください。 ② 評価時期 全社的な観点で評価する決算・財務報告プロセスと同様に、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の運用状況の評価については、期末日までに内部統制に関する重要な変更があった場合には適切な追加手続が実施されることを前提に、前年度の運用状況をベースに、早期に実施されることが効率的・効果的です。 そのため、固有の業務プロセスとして評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制も、実務的には前期末や四半期の内部統制を対象にして、整備状況・運用状況の評価を比較的に早い時期に実施することが多いです。 * * * 決算・財務報告プロセスは、財務報告に係る内部統制に直接的に関連するプロセスです。そのため、評価にあたっては本当に内部統制が有効に機能しているかどうか慎重に見極める必要があります。 次回は、ITを利用した内部統制の評価について説明します。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第25回】 「子会社が親会社に分割型の会社分割により 事業を移転する場合の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 個別財務諸表上の会計処理 1 概要 子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針218項、221項、443項)。 ◎親会社(吸収分割承継会社) 【資産及び負債の会計処理】 親会社が子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。 【増加すべき株主資本の会計処理】 親会社は、子会社から受け入れた資産と負債との差額を結合分離適用指針206項に準じて会計処理する(結合分離適用指針448項)。 結合分離適用指針206項(2)①アの「子会社株式の適正な帳簿価額」は親会社が会社分割直前に保有していた子会社株式(分割に係る抱合せ株式)の適正な帳簿価額のうち、受け入れた資産及び負債と引き換えられたものとみなされる額と読み替える(下記2を参照)。 当該組織再編において、親会社は、子会社に対して新株を発行(又は自己株式を処分)すると同時に、子会社から当該株式を配当として受け取ることとなるため、親会社は発行した新株(又は処分した自己株式)を自己株式として保有することになる。 会計上、親会社による新株の発行(又は自己株式の処分)と当該自己株式の取得は一体の取引とみて、親会社が受け入れた自己株式の帳簿価額はゼロとする(自己株式を処分した場合には、当該自己株式に対応する適正な帳簿価額を付す)。 (※) 上記のほか、中間子会社に対価の支払を行う場合の取扱い、孫会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合(子会社が吸収分割承継会社となる場合)の取扱いも規定されている。 ◎子会社(吸収分割会社) 事業分離等会計基準63項により、分割型の会社分割は、会社分割と、これにより受け取った吸収分割承継会社の株式の分配という2つの取引と考えられている。このため、次のように会計処理する。 【会社分割の会計処理】 吸収分割会社である子会社は、最初に結合分離適用指針226項に準じた会計処理を行う。 【現物配当の会計処理(株主に比例的に割当を行う場合)】 上記の処理の次に子会社は、受け取った親会社株式(吸収分割承継会社の株式)の取得原価により株主資本を減少させる。 減少させる株主資本の内訳は、取締役会等の企業の意思決定機関において定められた結果に従う(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第2号)10項)。 2 分割に係る抱合せ株式の適正な帳簿価額のうち、受け入れた資産及び負債と引き換えられたものとみなされる額の算定 分割に係る抱合せ株式の適正な帳簿価額のうち、受け入れた資産及び負債と引き換えられたものとみなされる額は、次のいずれかの方法のうち合理的と認められる方法により算定する(結合分離適用指針219項、443項)。 ① 関連する時価の比率で按分する方法 分割された移転事業に係る株主資本相当額(結合分離適用指針87項(1)①)の時価と会社分割直前の子会社の株主資本の時価との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分する。 ② 時価総額の比率で按分する方法 会社分割直前直後の子会社の時価総額の差額を分割された事業の時価とみなし、会社分割直前の子会社の時価総額との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分する。 ③ 関連する帳簿価額(連結財務諸表上の帳簿価額を含む)の比率で按分する方法 分割された移転事業に係る株主資本相当額の適正な帳簿価額と会社分割直前の子会社の株主資本の適正な帳簿価額との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分する。 3 親会社が子会社から受け入れる資産及び負債の修正処理 前述のように、親会社が子会社から会社分割により受け入れる資産及び負債は、原則として、適正な帳簿価額により計上することになる。 次のことに注意する(結合分離適用指針220項)。 Ⅲ 連結財務諸表上の会計処理 親会社が減少させた子会社株式(分割に係る抱合せ株式)の適正な帳簿価額及び発生した抱合せ株式消滅差額(結合分離適用指針218項(2))は、企業結合会計基準44項により、内部取引として消去する(結合分離適用指針222項)。 (了)
税務争訟に必要な 法曹マインドと裁判の常識 【第10回】 「法曹マインドを踏まえた税務調査段階における留意点」 弁護士 下尾 裕 今回からは、これまでの連載を踏まえたまとめとして、改めて読者である税理士(会計専門家、さらには会計税務に関わる企業関係者の方)が法曹マインドを理解する意味について確認した上で、税務調査以降の各場面における留意点等について整理してみたい。 1 法曹マインドを理解する意義 改めて、税務において「法曹マインド=法曹の思考」を理解する意義を整理したい。 結論から言えば、その意義の大きな部分は、税務に関する最終判断権者である裁判官の思考を理解することにある。 すなわち、読者の皆様が税務調査に関与される場面では、税務調査官との見解の相違がある事項について反論を行い、落としどころを探っていくことがほとんどであると思われるが、こうした作業を行う上では、見解の相違がある事項について税務訴訟で争った場合の最終的な見通し(※)を適切に把握する必要がある。この見通しを得るためのツールこそが「法曹マインド」である。 (※) もちろん、税務訴訟における最終結論は、実際に訴訟を終えてみなければ分からない。その意味で、ここでいうところの「見通し」とは、決して完全なものではなく、どの程度の勝算があるのか、どの程度の根拠資料等が準備できるのかという検討を一定の精度をもって行うということに尽きる。その上で、納税者側が、どこまで課税当局との間で見解の相違を争うのかという点については、単純な勝算の有無だけでなく、事業等への影響の有無、さらには経済的合理性があるのかといった事項も踏まえた総合判断となる。 読者の皆様におかれては、この機会に一度、ここまでの連載を読み返していただき、連載の中で説明された法曹(裁判官)の感覚ないし実務とご自身の感覚とで異なる点があるかどうか、改めて確認してみていただきたい。 【第1回】で述べたとおり、本連載の主題の1つは、同じ税務に携わる法曹・税理士間で生じるスレ違いを紐解いてみることにあったが、ご自身が感じられる違和感こそがご自身の感覚と法曹マインドとの差異であり、その違いの所在を理解していくことで、税務調査等の場面において、より適切な見通しを立てることが可能になるはずである。 【イメージ図】 2 法曹マインドを踏まえた税務調査等における留意点(総論) では、法曹マインドを理解した上で、税理士等が税務調査に対応するにあたって、具体的にどのような点に留意すべきであろうか。 私見として税務調査段階での留意点を挙げると以下のとおりとなるが、特に意識していただきたいのは、税務訴訟において当事者双方の主張の根拠となる資料等の収集は税務調査段階で大半が完結するということであり、それゆえ税理士としても、いかに早期に事案の適切な見通しを立てられるかが勝負になる、ということである。 (1) 早期の争点明確化 当然ながら、税務調査の場面で法曹マインドを適切に活用するにあたっては、当該事案の争点を把握することが大前提になる。もちろん、税務調査の具体的場面、特に初期段階においては税務当局の問題意識が明確でない事案も少なからず存在するが、税務調査官とのやりとりを通じて、断片的情報は取得できるはずであり、こうした断片的情報と依頼者からの情報を突合することにより早期に争点を明確化していくことで、法曹マインドを用いた争点の見通しを立てることが可能になる。 また、争点を明らかにするにあたっては、それが事実認定に関する争点であるのか、それとも法令適用(法令解釈)に関する争点であるのかを明確に意識していくことが有用である。その意味するところは、争点がいずれであるかによりその後の対応等が異なってくることにあるが、詳細については以下の項、さらには次回以降の連載において、改めて解説させていただきたい。 (2) 事実認定が問題となる場面における留意点 争点を明確化した時点において、当該争点が事実認定に関わる事柄である場合には、速やかに手元の契約書等、事実関係を立証できる手元資料等がどの程度あるか、逆に税務調査官の主張する事実関係に沿う証拠がどの程度あるかといった点を分析する必要がある。 その上で、【第6回】で述べたとおり、納税者側が不利である場合(言い換えれば、経験則に照らせば納税者の主張する事実が認められにくい状況にある場合)には、なぜ例外的な場面が生じたのかということの合理的理由等を積極的に説明していく必要がある。 また、逆に納税者側が有利である場合でも、一度、税務調査の初期段階において納税者の意に沿わない内容又は事実認定上不利となる内容を含む質問応答記録書等が作成されてしまうと、納税者が劣勢に立たされる場面も生じてくることになることから、調査の過程を通じて質問応答への対応、さらにはその是正が必要になろう。 なお、税務調査段階では、税務調査官が事前の資料収集及び反面調査でどのような証拠を収集しているのかが明らかではないことから、本当の意味での有利不利の判定が困難な場面がある。ただし、税務調査官の説明を聞いたり、納税者側に確認するなどすれば、税務当局の手持証拠や想定される反面調査先、さらには反面調査先がどのような資料を保有しており、どのような説明を行うかということについてある程度の幅をもって予想することは可能であろうから、こうした予想を踏まえつつ、調査の進行に応じて軌道修正を行っていく姿勢が重要になろう。 (3) 法令解釈等が問題となる場合の留意点 法令解釈等が問題となる場合の留意点としては、まずは、過去の裁判例・裁決例を踏まえ、同種の争点における判断の傾向を分析することである。また、問題となっているのが借用概念の解釈等、私法上の概念の考え方等に関わる場合には、時には納税者の顧問弁護士等に協力を仰ぐなどして、私法上の概念の解釈等を調査していく必要がある。 その上で、税務調査官の意見が、過去の裁判例等又は私法上の概念に関する解釈等と相反する場合にはその点を明確に指摘するべきであるし、逆に、これらが納税者に不利であれば、その点を十分に踏まえた上で対応していく必要がある。 特に、納税者側が税務争訟を見据えている場合には、税務当局側においても審理セクションと協議しつつ処分の是非及び内容等を整理していくことが多いことから、納税者側に有利な裁判例・裁決例等があれば税務調査段階から積極的に提示していくことが有用と思われる。 * * * 次回は、税務調査が終了し、税務争訟を行う場合の留意点等について述べたい。 (了)
〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第18回】 「営業秘密を他社に開示する際の留意点」 弁護士 影島 広泰 -Question- 他社との協業にあたり、自社の営業秘密である顧客リストを開示することになりましたが、どのような点に留意して開示を行えばよいでしょうか。 -Answer- 「開示する情報を秘密として管理する意思がある」ことを、開示を受ける会社に伝えることが重要です。 例えば、①守秘義務契約書(NDA・CA)を締結した上で開示する、②送り状に営業秘密であることを記載するなどが考えられます。 顧客名簿や製造のノウハウなどの営業秘密を他社に開示する場合、開示を受けた会社がそれらの情報を目的外で勝手に使ったり、無断で第三者に開示することなどを防止しなければならない。そのために、自社としては何をすべきであろうか。 1 営業秘密を他社に開示する際に必要なこと 他社へ開示する情報が不正競争防止法(以下「不競法」)が定める「営業秘密」に当たる情報であれば、開示を受けた会社が、不正の利益を図る目的でそれを使用したり、第三者に開示した場合(不競法2①七)などには、自社としては、それを差し止めたり、損害賠償請求することができる。したがって、他社に情報を開示する際には、それが「営業秘密」に当たる形で開示することが重要である。 【第7回】で述べたとおり、「営業秘密」とは、①「」、②「」情報であって、③「」のことをいう。この3つの要件を全て満たすものだけが営業秘密として保護される。 そして、①「」(秘密管理性)とは、単に会社が秘密にしたいという意思を持っているだけでは足りず、その情報にアクセスした者にとって、その情報が秘密であることを十分に認識できる状態になっていなければならないとされていることも【第7回】で述べたとおりである。 今回のケースでいえば、開示を受けた会社が、「この情報を開示している会社は、この情報を秘密として保護する意思があるのだ」と認識できるようにしておくことがポイントである。 2 秘密保持契約書(NDA・CA)の締結 「この情報を秘密として保護する意思がある」と開示を受けた会社に認識してもらうために、最も端的かつ一般的に行われているのが、秘密保持契約書や守秘義務契約書(Non-Disclosure Agreement(NDA)・Confidentiality Agreement(CA))と呼ばれる契約書を締結した上で、それに基づいて開示する方法である。 例えば、まずは、以下のように秘密情報を定義する。 その上で、以下のように、その秘密情報について、適切な管理を求め、目的外利用を禁止し、第三者への開示等を規制しておくのである。 (出典) 経済産業省「【参考資料】秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上にむけて~」p.24 このようにしておけば、この契約の「秘密情報」に当たる情報については、開示する会社が秘密として保護する意思があることは、開示を受ける会社にとって明らかである。 これにより、開示した情報が「営業秘密」として保護されることになり、開示を受けた会社による不正使用や第三者への開示の際に、差止請求や損害賠償請求ができる可能性が出てくるのである。 3 契約以外の書類や送り状に「秘密」であることを記載しておく方法 以上のとおり、秘密保持契約書を締結した上で開示するのが最も端的かつ一般的であるが、営業秘密として保護するためには、要するに「この情報を秘密として保護する意思がある」ということを開示を受けた会社に認識してもらえればよいので、手段は契約書だけに限られない。 経済産業省が公表している「営業秘密管理指針」によれば、取引先との力関係上、秘密保持契約書の締結が困難な場合には、「自社では営業秘密として管理されているという事実の口頭による伝達や開示する文書へのマル秘表示によっても、自社の秘密管理意思を示すことは、理論上は可能である」とされている。ただし、後に裁判になったときに、“口頭で秘密だと説明した"という事実の立証は難しいことから、「口頭での秘密管理意思の伝達ではなく、何らかの書面(送り状への記載等)が望ましい。」とされている。 つまり、秘密保持契約書を締結できないようなケースでは、文書に「マル秘」の表示をしておくことや、メール本文などの送り状に「この情報は当社の営業秘密に当たりますので、お取り扱いにはご留意ください」と記載することなどにより、“営業秘密として保護される"との主張ができるようにしておくことが有用と考えられる。 * * * 今回は、他社に情報開示する際の、契約上の締結や書類への記載方法などについて解説した。次回は、引き続き、情報を開示する際の実務的な留意点を解説する。 (了)
《速報解説》 連結納税制度は「グループ通算制度」(仮称)へ、 今後の制度設計に注視 ~各府省庁からの令和2年度税制改正要望~ Profession Journal編集部 9月に入り来年度の税制改正に向けた議論が始まる時期となったが、8月末に取りまとめられた各府省庁からの要望事項では、新制度の創設等抜本的な改正要望はあまり見られず、既存制度の延長・拡充を求める内容が大半を占めている。 以下、ポイントとなる要望事項を確認しておきたい。 まず注目すべきは「連結納税制度の見直し」だが、「①企業・課税庁の事務負担の軽減」及び「②連結納税制度と組織再編税制との整合性の確保」を見直しの柱に据え、政府税調の専門家会合による昨年からの5回にわたる検討を経た結果(報告)については、8月27日の会議資料で確認することができる。 留意したいのが、そもそも上記2点の問題意識、すなわち既存の実務上の問題解決及び制度上の整合性確保がスタートであったところ、その後の議論の展開によって連結親法人へのSRLYルールの導入等が提示され、連結納税制度適用の大きなメリットが失われることにもなりかねないという点。いわゆる見直し後の呼称とされている「グループ通算制度」が制度導入の促進を図るような制度設計となるのか、今後の動向が注目される。また現行の連結納税制度適用法人としては、単体納税への移行可能な経過期間が設定されるのかも気になるところであり、グループ全体としてコスト面含む様々なシミュレーションを行う必要が生じてくる。なおこの点について詳細は、足立好幸氏による下記の解説記事を参照されたい。 経済産業省からは他に、株式・事業の譲渡やM&Aを通じた「親族以外の第三者への事業承継」を促進するための税制措置の創設が要望されており、自社株を譲渡する先代経営者や事業を承継する第三者側の税負担を軽減する施策が想定されるが、活況な中小規模のM&A市場をさらに後押しする可能性もあり、こちらも今後の動向を注視したい。また、前回の改正から11年が経過した「エンジェル税制」の見直しも盛り込まれており、クラウドファンディングの普及などIT化により投資環境が激変する中での制度再構築がどこまで進むか注目されよう。さらに実現すれば企業にとって影響の大きい事項だが、消費税の申告について、企業の事務負担軽減の観点から、法人税と同様に申告期限の延長(特例)を求める項目が盛り込まれている。 制度の延長等が要望されている主なものとしては、令和2年3月末で期限切れとなる企業版ふるさと納税制度について、内閣府等から制度の5年延長と税額控除割合の引上げ(現行3割を6割へ、すなわち寄附金の損金算入(約3割)と合わせて実質1割負担)が要望されているほか、こちらも同時期に期限切れとなる中小企業者等の少額減価償却資産(30万円)の取得価額の損金算入特例、及び中小法人の交際費課税の特例については経済産業省などから2年の延長が要望されている。 また、今年の年末(2019.12.31)に適用期限を迎える土地・住宅関連税制について、国土交通省から延長が要望されている。具体的には、居住用財産の買換え等に係る特例措置(譲渡益に係る課税繰延べ、譲渡損に係る損益通算及び繰越控除)や新築住宅に係る固定資産税の減額措置、住宅用家屋の所有権の保存登記等に係る登録免許税の特例措置、工事請負契約書及び不動産譲渡契約書に係る印紙税の特例措置、特定の事業用資産の買換えに係る課税の繰延べ(本特例は2020.3.31期限切れ)など。他に国土交通省からは、具体的な内容は示されていないものの、老朽化マンションの再生促進のための特例措置の拡充・創設要望として、マンションの売却敷地及び敷地分割に係る税制上の支援措置が盛り込まれており、空き家と共に社会問題化する本件への税制を含めた対応は喫緊の課題といえよう。 また最近話題となった老後の資産形成に関連するものとして、金融庁からはNISA制度の恒久化やつみたてNISAの期限延長の他、金融所得課税の一体化(金融商品に係る損益通算の範囲をデリバティブ・預貯金等まで拡大)が昨年に引き続き盛り込まれている。 今後の令和2年度税制改正に関する各府省庁や団体からの情報については、先ほど公開した「令和2年度税制改正に関する《資料リンク集》」に随時掲載(更新)していくので、継続して確認していただきたい。 (了)
《速報解説》 企業会計審議会、「内部統制基準等の改訂」について公開草案を公表 ~監査役等の財務報告に係る内部統制に関する責任の記載を新たに義務付け~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元(2019)年9月3日付(ホームページ掲載日は9月6日)で、企業会計審議会は、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(公開草案)」を公表した。 これは、「監査基準の改訂に関する意見書」(平成30(2018)年7月5日)において財務諸表監査における監査報告書の記載区分等が改訂されたことから、内部統制監査報告書についても改訂するものである。 意見募集期間は令和元(2019)年10月7日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主な改訂は次のとおりである。 Ⅲ 適用時期等 改訂基準及び改訂実施基準は、令和2(2020)年3月31 日以後終了する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用する予定である。 (了)
《速報解説》 「監査基準の改訂」等の確定が金融庁より公表される ~監査報告書における意見の根拠の記載・監査人の守秘義務等が見直される~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年9月3日付(ホームページ掲載日は9月6日)で、企業会計審議会は、次の基準を公表した。これにより、令和元年5月31日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 「監査基準の改訂に関する意見書」は、監査人による監査に関する説明及び情報提供の一層の充実を図る観点から、監査報告書における意見の根拠の記載や監査人の守秘義務に関するものである。 また、「中間監査基準の改訂に関する意見書」及び「四半期レビュー基準の改訂に関する意見書」は、今般の監査基準の改訂及び昨年(平成30年7月5日)の監査基準の改訂における監査報告書の記載区分の見直し等を踏まえたものである。 公開草案に対する「コメントの概要及びコメントに対する考え方」も公表されているので、改訂監査基準等の理解に資するものと思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 監査基準の改訂 アンダーラインが主な改訂事項である。 2 中間監査基準の改訂 次の改訂を行う。 3 四半期レビュー基準の改訂 次の改訂を行う。 Ⅲ 適用時期等 (了)
2019年9月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.334を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.80- 「新たな段階に入ったデジタル税制」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 デジタル経済と税制の議論は、6月のG20福岡蔵相会議で、2020年末までの最終報告書の策定という作業計画が合意され、その後G7もエンドース、具体的議論が作業部会に移る新たな段階に入っている。 G20における合意内容は、次の2つの柱からなる。 * * * 第1の柱(ピラーワン)は国際課税原則を見直して、多国籍企業が売上げを立てている国(市場国、消費国)でも「一定程度」課税ができるように、次の3つを組み合わせて、「新たな課税権」を作るということである。 3つとは、英国の主張する「ユーザーの価値創造への参加を考慮すること」、米国の主張する「市場国におけるマーケティング上の無形資産を考慮すること」、インドの主張する「重要な経済的存在というコンセプトの下で市場国が課税できる簡素な税制を作ること」である。 この議論が今後どのように具体案につながっていくかという点に関して、筆者は以下の点に注目している。 まず、この議論は、G20や新興国のゼロサムゲームにはならないということである。多国籍IT企業の利益は、これまではタックスヘイブン国で計上され、グローバルな税収には結びつかなかった。今回はそれを市場国に再配分するという議論なので、タックスヘイブンや低税率国以外は、おおむね税収が増えるということになる。つまりこの議論には、G20に共通の利益が存在しており、合意へのインセンティブがあるという点である。 次は、わが国への波及である。 英国案は、ユーザーのビッグデータを活用しデジタル広告やマーケットプレイスの提供などで利益を上げる企業がメインターゲットとなる。米国案では、市場国におけるブランド価値の大きい企業がターゲットになる。 わが国にとって懸念されていた自動運転やIoT産業への「大幅な」波及は、当面は避けられる可能性が出てきた。もっとも、デジタル経済をどこかで線引きすることは難しく、わが国産業界は今後も注意を怠ってはならない。 * * * もう1つの柱(ピラーツー)は、ミニマム・タックスの導入である。これは、国際的に最低限の税率を定めた上で、それを下回る国(タックスヘイブンや軽課税国)への利益移転に対し、利益を移転されている国が課税できるよう、以下の2つのルールを導入するというものである。 第1は、タックスヘイブン・軽課税国に所在する子会社等へ帰属する所得をミニマム・タックスで課税する。 第2は、タックスヘイブン・軽課税国に所在する関連企業への支払い(使用料など)の損金算入を否認して、支払会社側の国でその支払いに対し課税する。 モデルは、BEAT、GILTIと呼ばれるトランプ税制である。それだけに、G20レベルでの合意は可能といわれている。 こちらの方は、わが国でも最近訴訟になった外資企業の事例などに適用が可能な面もあり、合意が実際の税制改正に結びつけば、租税回避防止に役立つであろう。それは少し先の話だが。 (了)
「特定事業継続力強化設備等の特別償却 (中小企業防災・減災投資促進税制)」の解説 【第2回】 「事業継続力強化計画に係る認定手続」 公認会計士・税理士 新名 貴則 令和元年度(平成31年度)税制改正において、「特定事業継続力強化設備等の特別償却制度」(いわゆる中小企業防災・減災投資促進税制)が創設された。本連載では、本税制の概要や手続等について解説する。 本税制を適用するためには、中小企業強靭化法に基づく「事業継続力強化計画」又は「連携事業継続力強化計画」の認定を受けた上で設備投資を行う必要がある。そこで【第2回】では、中小企業強靭化法に係る諸手続について解説する。 1 中小企業強靭化法に係る手続の概要 中小企業防災・減災投資促進税制の適用を受けるためには、まずは事業者が中小企業強靭化法における「事業継続力強化計画」又は「連携事業継続力強化計画」を経済産業局に提出し、経済産業大臣の認定を受ける必要がある。 そして、認定を受けた中小企業者が、認定を受けた計画に基づいて一定の設備投資を行った場合に、本税制の適用を受けることができる。 このように本税制は、中小企業経営強化税制と異なり、対象設備取得後に計画を申請する例外措置は認められておらず、事業継続力強化設備等は、計画認定後に取得することが必須となっている。計画認定前に取得した設備は対象外となるため、注意が必要である。 なお、対象となる事業者や対象資産、適用期間などの税制適用の具体的な要件については、【第1回】を参照されたい。 2 具体的な手続 ① 「事業継続力強化計画(又は連携事業継続力強化計画)」の策定 事業者は「事業継続力強化計画」を策定し、その認定申請書を作成する必要がある。「事業継続力強化計画」には、主に次のような事項を記載する必要がある。 ② 計画の認定申請 「事業継続力強化計画」を別紙として添付した「事業継続力強化計画に係る認定申請書」を、主たる事務所の所在地を所管する経済産業局(「連携事業継続力強化計画」の場合は、代表する企業の所在地を所管する経済産業局)に提出する。その際の提出書類等は次の通りである。 なお、事業継続力強化計画に係る認定申請書については、中小企業庁のホームページからダウンロードできる。 ③ 計画の認定 経済産業大臣によって計画が適切と認められると、経済産業局から認定通知書と計画申請書の写しが交付される。申請から認定までは約45日とされているが、提出書類に不備がある場合は、経済産業局からの照会や申請の差戻しが発生して、手続が長期化する場合がある。 ④ 設備の取得と特別償却の適用 認定された「事業継続力強化計画」に従って、当該計画に記載された設備を取得する。 これらの設備のうち、中小企業強靭化法の施行日(令和元年(2019年)7月16日)から令和3年(2021年)3月31日までの間に取得又は製作若しくは建設して事業供用したものであって、一定の金額要件(前回参照)を満たすものについては、20%の特別償却を適用することができる。 ⑤ 計画を変更する場合 認定された「(連携)事業継続力強化計画」を変更(設備の追加取得や連携対象企業の追加等)する場合は、変更申請の手続を行い、改めて経済産業大臣の認定を受ける必要がある。ただし、資金調達額の若干の変更、法人代表者の交代等の軽微な変更については、変更申請は不要とされている。 変更申請に必要な提出書類は、次の通りである。 ⑥ 災害発生時に計画を実行できなかった場合 災害発生時に、事業継続力強化計画に基づく計画を実行できなかったことをもって、直ちに認定が取り消されることはない。ただし、計画との大きな乖離が認められた場合(導入した自家発電設備等を災害時において使用しなかった等)は、認定が取り消されることがある。 ⑦ 手続の流れ ここまでの手続をまとめると、下図のようになる。 (連載了)