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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例76(贈与税)】 「「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除」を適用して申告したが、申告期限までの担保提供を失念したため、納税猶予が認められなかった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例76(贈与税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除(措法70の7) 円滑化法に基づき都道府県知事の認定を受けた中小企業者の代表権を有している受贈者が、先代経営者である贈与者からの贈与によりその会社の非上場株式を取得してその会社を経営していく場合には、その後継者が納付すべき贈与税のうち、その株式等(一定の部分に限る)に対応する贈与税全額の納税が猶予され、先代経営者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税の納付が免除される。 《贈与税の納税猶予制度の流れ》 ◆贈与税申告と担保提供(贈与の年の翌年3月15日まで) この特例の適用を受ける場合には、贈与税の申告期限(贈与の年の翌年3月15日)までに、特例の適用を受ける旨を記載した贈与税申告書及び一定の書類を提出するとともに、納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を提供しなければならない。この担保提供については、特例の適用を受ける非上場株式等の全部を担保として提供すれば、納税猶予額及び利子税額に見合う担保提供があったものとみなされる。 ◆納税猶予期間中の取扱い 贈与税の納税猶予の特例は、後継者が事業を承継することを条件に認められているものであるため、贈与税申告期限後5年間は、経営承継期間と定められ、申告期限の翌日から1年ごとに、所轄税務署に「継続届出書」を、都道府県知事に「年次報告書」を提出することが義務付けられている。 経営承継期間経過後も猶予税額免除となるまで納税猶予の要件を満たし続ける必要があるため、都道府県知事への報告義務はなくなるが、3年ごとに所轄税務署に「継続届出書」を提出することが義務付けられている。 ◆猶予税額の免除 贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた場合において、贈与者が死亡した場合等には、一定の期間内に「免除届出書」又は「免除申請書」を所轄税務署長に提出することにより、猶予税額の全部又は一部が免除されることになる。 ◆納税猶予期限の確定と猶予税額の納付 贈与税の納税猶予の適用を受けた場合において、次に掲げる事由に該当することとなった場合には、納税猶予の期限が到来し、その時点での猶予税額の全額と申告期限の翌日から納税猶予期限までの期間に相当する利子税を、その事由が生じた日から2ヶ月以内に納付しなければならない。       (了)

#No. 328(掲載号)
#齋藤 和助
2019/07/25

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第40回】「別表6(24) 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第40回】 「別表6(24) 中小企業者等が特定経営力向上設備等を 取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、いわゆる「中小企業経営強化税制」について、「別表6(24) 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(※1)の記載の仕方を採り上げる。 (※1) 平成31年度税制改正を受け法人税申告書の様式が改正され、一部変更の上、この別表は6(22)から6(24)に番号が変更となった。   Ⅱ 概要 この別表は、いわゆる中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)のうち、税額控除を適用する場合に記載する。 本制度は、青色申告を提出する法人が、指定期間内(平成29年(2017年)4月1日から令和3年(2021年)3月31日までの間(※2))に、中小企業等経営強化法の認定を受けた「経営力向上計画」に基づいて、一定の設備(以下「特定経営力向上設備等」という)を新規取得し、指定事業の用に供したときは、その事業の用に供した日を含む事業年度において、即時償却又は取得価額の10%もしくは7%(※3)の税額控除ができる制度である。 (※2) 平成31年度の税制改正において、本制度の適用期限が平成31年3月31日から2年延長されるとともに、特定経営力向上設備等に働き方改革に資する設備等(例えば、工場等の休憩室等に設置される冷暖房設備等や作業場等に設置されるテレワーク用PC等)が含まれることが明確化された。 (※3) 資本金3,000万円以下の法人(特定中小企業者等という)については10%、資本金3,000万円超1億円以下の法人については7%となる。 要件及び対象となる設備をまとめると、以下のようになる。 ※その他の要件としては、生産等設備を構成するものであること(例えば事務用器具備品、本店、寄宿舎等に係る建物附属設備等は対象外)、国内への投資であること、中古資産・貸付資産でないこと等がある。 なお、税額控除限度額は、「中小企業者等が機械等を取得した場合の税額控除」、「特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の税額控除」の規定による税額控除額と併せてその事業年度の法人税額の20%とされ、税額控除限度超過額は1年間の繰越しができることとされている。 本制度の詳細については、中小企業庁ホームページを参照のこと。   Ⅲ 「別表6(24)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成31年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 「法人税額の特別控除額の計算」 「翌期繰越税額控除限度超過額の計算」 〔機械設備等の概要〕欄 (了)

#No. 328(掲載号)
#菊地 康夫
2019/07/25

平成31年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】「中小企業者向け租税特別措置における大企業の範囲の見直し」

平成31年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】 「中小企業者向け租税特別措置における大企業の範囲の見直し」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸     [2] 中小企業者向け租税特別措置における大企業の範囲の見直し 租税特別措置法では、中小企業者向け租税特別措置が設けられている。 例えば、研究開発税制や所得拡大促進税制について、中小企業者向けの措置は、適用要件が緩和され、税額控除額も拡大される。また、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制等については中小企業者のみに適用される。 また、連結納税では、連結親法人が中小企業者(連結納税の場合、「中小連結法人」という)に該当する場合に、連結グループ全体で中小企業者向けの研究開発税制や所得拡大促進税制を適用することが可能となり、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制等については「中小連結法人」に該当する連結法人のみに適用される。 この中小企業者(連結納税の場合は、「中小連結法人」)の範囲について、みなし大企業の判定において、大規模法人に次の法人を加えるとともに、その判定対象となる法人の発行済株式から自己株式を除外することになった。 平成31年4月1日以後に開始する事業年度又は連結事業年度に適用される単体納税の中小企業者又は連結納税の中小連結法人の範囲は、それぞれ以下のとおりとなる(平成31年所法等改正法附則1、48)(注)。 (注) 「一定の事業承継ファンドを通じて出資している中小企業基盤整備機構を大規模法人から除外する」という改正は、平成31年4月1日以後に終了する事業年度又は連結事業年度から適用される(平成31年所法等改正法附則1、49、66)。 なお、住民税の中小企業者向けの租税特別措置におけるみなし大企業の判定についても同様の措置となる。   1 単体納税における中小企業者の範囲 中小企業者とは、次に掲げる法人をいう(措法42の4⑧七、42の6①、措令27の4⑫、27の6①)。 ① 資本金の額が1億円以下の法人 ただし、次に掲げる法人を除く。 また、「大規模法人」とは以下の法人をいう。 なお、大規模法人から中小企業投資育成株式会社(中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制、被災代替資産等の特別償却、中小企業防災・減災投資促進税制の場合は、「中小企業投資育成株式会社」及び「一定の事業承継ファンドを通じて出資している中小企業基盤整備機構」)は除かれる(措令27の4⑫、27の6①)。 ② 資本又は出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人 なお、中小企業者に該当する場合でも、適用除外事業者(平成31年4月1日以後に開始する事業年度において、当事業年度開始日前3年以内に終了した各事業年度の所得の金額の年平均額が15億円を超える法人)は、中小企業者に係る各租税特別措置は適用できない(措法42の4⑧八)。 [ケース1] 親法人の資本金が1億円以下のケース(単体納税) [ケース2] 親法人の資本金が1億円超のケース(単体納税) [ケース3] 親法人の資本金が5億円以上のケース1(単体納税) [ケース4] 親法人の資本金が5億円以上のケース2(単体納税)   2 連結納税における中小連結法人の範囲 連結納税では、連結親法人が中小連結親法人に該当する場合に、連結納税グループ全体で中小企業者向けの研究開発税制や所得拡大促進税制を適用することが可能となる(措法68の9④、68の15の6②)。 また、中小企業者向けの設備投資促進税制は、各連結法人ごとに、連結親法人又は連結子法人で中小連結法人に該当するものに適用される(措法68の11、68の15の5、68の15の4)。 (1) 「中小連結親法人」とは 「中小連結親法人」とは、中小連結法人で適用除外事業者に該当しないもの又は農業協同組合等のうち、連結親法人であるものをいう(措法68の9④、68の15の6②)。 なお、適用除外事業者とは、平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度において、当連結事業年度開始日前3年以内に終了した各連結事業年度の連結所得の金額の年平均額が15億円を超える連結親法人及び連結子法人をいう(措法68の9⑧七)。 (2) 「中小連結法人」とは 「中小連結法人」とは、連結親法人が次に掲げる法人である場合のその連結親法人又はその連結子法人(資本金1億円以下のものに限る)をいう(措法68の9⑧六、68の11①、措令39の39⑪、39の41①)。 ① 資本金の額が1億円以下の法人 ただし、次に掲げる法人を除く。 また、「大規模法人」とは以下の法人をいう。 なお、大規模法人から中小企業投資育成株式会社(中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制、被災代替資産等の特別償却、中小企業防災・減災投資促進税制の場合は、「中小企業投資育成株式会社」及び「一定の事業承継ファンドを通じて出資している中小企業基盤整備機構」)は除かれる(措令39の39⑪、39の41①)。 ② 資本又は出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人 なお、中小連結法人に該当する場合でも、適用除外事業者は、中小企業者向けの設備投資促進税制は適用できない(措法68の9⑧七)。 [ケース5] 連結親法人の資本金が1億円以下のケース(連結納税) なお、研究開発税制及び所得拡大促進税制は、連結親法人が中小連結親法人(中小連結法人で適用除外事業者に該当しないもののうち、連結親法人であるもの)に該当する場合に、連結納税グループ全体で中小企業者向けの措置を適用できる。 一方、中小企業者向けの設備投資促進税制は、各連結法人ごとに、連結親法人又は連結子法人で中小連結法人に該当するものに適用される。以下、同じ。 [ケース6] 連結親法人の資本金が1億円超のケース(連結納税) [ケース7] 連結親法人の資本金が5億円以上のケース(連結納税) [ケース8] 連結親法人が資本金1億円以下の法人の子会社のケース(連結納税) [ケース9] 連結親法人が大規模法人(資本金1億円超の法人)の子会社のケース(連結納税) [ケース10] 連結親法人が外国法人(資本金5億円以上の法人)の孫会社のケース(連結納税)   (了)

#No. 328(掲載号)
#足立 好幸
2019/07/25

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第31回】「税制適格ストックオプションの外国での行使益は日本で課税されるか」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第31回】 「税制適格ストックオプションの外国での行使益は日本で課税されるか」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 私は以前、日本の会社の役員として日本で経営に従事し、その際に税制適格ストックオプションの付与を受け、条件が満たされた時に権利行使して株式を取得しました。その後、X国に出国し、株式を売却しました。 X国と日本の間では租税条約が結ばれており、X国の居住者が日本の会社の株式を売却したとしても、日本での課税権は生じないとされています。このため、私の場合、日本で所得税の申告をしなくても問題ないでしょうか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷ストックオプションとは ストックオプションは、役員や従業員に対して報酬を給料で払う代わりに、株式を一定の金額で購入する権利を与え、条件が整った場合はその権利を行使して役員や従業員が株式を取得し、市場で売却することによって収入を得ることができるものである。 従業員や役員による努力の結果、会社の業績が上がれば株価が上昇し、譲渡対価という報酬も増大するという役員や従業員側のメリットがある一方、会社側にとっても報酬を支払うのが市場であることから、資金流出を抑えるというメリットがある。 このようなメリットがあることから、ストックオプションを採用する企業が増え、国としてもストックオプションを促進するための税制が整備されている。   ▷ストックオプションに対する課税 ストックオプションの課税の原則は、税制非適格ストックオプションといわれる。税制非適格ストックオプションの場合、ストックオプションの付与時は、課税は生じない。役員や従業員が一定の金額を払い込んで株式を取得、権利行使時の株式の時価と権利行使価額との差額について、原則的には、給与所得課税となる。そして株式を譲渡した場合は、譲渡対価と権利行使時の時価との差額について譲渡所得課税が生ずる。 これに対し、一定の要件を充たす税制適格ストックオプションの場合は、二段階課税ではなく、株式譲渡時にのみ、権利行使価額と譲渡価額との差額について譲渡所得が課税される(措法29の2)。   ▷非居住者が有価証券を売却した場合の取扱い 非居住者は国内源泉所得のみ日本の所得税の納税義務がある(所法5②)。国内源泉所得の範囲は所得税法161条で定められているが、有価証券の譲渡については限定列挙されている(所令281①四・五・六・八)。つまり、法定外の有価証券を非居住者が売却した場合は、たとえ日本に本社のある会社の株式であったとしても、日本で課税されない。 このルールをストックオプションの税制に当てはめていくと、税制非適格ストックオプションの場合は、権利行使益段階では給与所得課税等できるが、税制適格ストックオプションの場合は、日本でまったく課税されなくなることから、税制適格オプションを非居住者が譲渡した場合は、国内源泉所得として日本で課税できるように手当てされた(措令19の3⑭)。 しかし、これは国内法であり、その非居住者の滞在している国との間に租税条約があって異なる取扱いが定められている場合は、租税条約の定めが適用されることになる(所法162)。   ▷OECDコメンタリーによるストックオプション課税の考え方 OECDはモデル租税条約を公表しており、これは主として先進国同士が租税条約を結ぶ場合のひな型である。そのコメンタリーは、租税条約が関わるストックオプション課税がどのような所得になり、課税権はどこの国にあるのかを判断する基準となっている。 例えば、法人の役員に付与されたストックオプションの利益のうち権利行使益(行使時点の時価-権利行使価額)は、株式の譲渡益(譲渡対価-行使時点の時価)と区分してモデル条約16条(役員報酬)が適用されると解釈されている。 つまり、日本の適格オプションの場合であっても国境をまたぐ課税関係を整理する場合は、コメンタリーの解釈に沿って行っていくことが多い。   ▷本件の元となった裁決事例 今回の事例の元となったのは、平成29年8月22日公表裁決である。この裁決例では、税制適格ストックオプションを日本の居住者の時に付与され、行使し、その後、シンガポールに出国して非居住者になった後に保護預り口座から保管口座へ移管した。この場合、課税上はみなし譲渡とされるから(措法29の2④)、権利行使益について譲渡所得として申告を行った後、権利行使益は日星租税協定により日本で課税されないとして更正の請求を行った。しかし、課税庁が更正すべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、納税者は不服であるとして審査請求をした。 争点は、本件みなし譲渡益のうち本件権利行使益について、日本国で課税を受けるか否かである。   ▷納税者の主張は 権利行使益部分については、日本で課税を受けない。なぜなら、みなし譲渡益のうち権利行使益部分についても、所得税基本通達23・35共-6(1)において税制非適格ストックオプションの権利行使益が給与所得でなく雑所得とされていることから、時の経過により内容が変化していると考え、税制適格ストックオプションにおいても権利行使益部分については役員報酬から譲渡所得に変化したと考えるのが自然だからである。 したがって、権利行使益部分も譲渡所得と考え、譲渡があったとみなされた時点で納税者はシンガポールの居住者であり、日星租税協定13条5項又は21条1項により課税権はシンガポールのみにあるから日本で課税されない。 また、日星租税協定がOECDモデル条約を参考に締結されたとしても、みなし譲渡が行われた日においてOECDに加盟していないから、租税協定締結時の協定の解釈を踏襲すべきであり、権利行使益は、国内法において株式の譲渡から生ずる所得として課税されることが文理上明らかだから(措法29の2④)、租税協定13条も同様に適用されるべきである。   ▷審判所の判断は 審判所は納税者の主張を認めなかった。税制適格ストックオプションにおいては、譲渡時に譲渡所得課税が一度だけ行われているが、これは、権利行使益部分の課税権を留保して、課税時期を繰り延べているものであり、所得の種類やどこが課税権を有するかは権利行使益部分とそれ以外の譲渡益部分に分けて判断すべきである。 本事案において、権利行使時点に納税者が日本の居住者であったことから権利行使益に係る日本の課税権を租税条約において制限する規定は設けられていない。したがって権利行使益部分については、日本に課税権があり、15%の税率で分離課税の対象となる。なお、譲渡価額と権利行使時の時価との差額については、譲渡時にシンガポールの居住者であることから、日本に課税権がない。 納税者の主張する時の経過により所得の内容が給与所得から譲渡所得に変化することは法令の根拠を欠くものであり、みなし譲渡時にシンガポールがOECDに加盟していなくとも、コメンタリーに同意しない意見表明を行っていないこと等から、納税者の主張は採用できないとした。   (了)

#No. 328(掲載号)
#菅野 真美
2019/07/25

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第12回】「「寄附者の税負担を不当に減少させないこと」とは」

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第12回】 「「寄附者の税負担を不当に減少させないこと」とは」   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   - 質 問 - 現物寄附を行った際、取得価額と時価との差額についてのみなし譲渡課税が非課税となるための条件として、現物寄附を受領する公益法人等への寄附が「寄附者の所得税の負担を不当に減少させ、又は寄附者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税もしくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること」が課されています。 この「寄附者の所得税の負担を不当に減少させ、又は寄附者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税もしくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること」とは、具体的にどういうことですか。   - 回 答 - 租税特別措置法施行令第25条の17第5項第3号に規定する「公益法人等に対して財産の贈与又は遺贈をすることにより、当該贈与若しくは遺贈をした者の所得に係る所得税の負担を不当に減少させ、又は当該贈与若しくは遺贈をした者の親族その他これらの者と相続税法第64条第1項に規定する特別の関係がある者の相続税若しくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならない」かどうかについては、以下の①~⑤のすべての要件を満たす場合には、充足していると判断されます(措令25の17⑥)。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 寄附者やその親族関係者が公益法人等から特別の利益を受けている場合には、寄附した財産が実質的には従前と同様に寄附者に支配されているにもかかわらず、財産の移転に対して何ら課税がなされないこととなり、課税の公平性上問題があります。したがって、このような場合には寄附者に対してその寄附に対する譲渡所得税を課するとともに、財産を寄附された法人に対しても贈与税を課すこととされています(相法66)。 ただし、所得税、相続税、贈与税を不当に減少させる結果となるかどうかの判断については、今後発生しうる概念をも含むものであり、難しいものがあります。 そこで、租税特別措置法施行令第25条の17第6項に掲げる5つの事項をすべて満たす場合には、逆に不当に減少する結果とならないと判断するとされています。 この「5つの事項」とは、以下に掲げる事項です。 ① その運営組織が適正であるとともに、その寄附行為、定款又は規則において、その理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるもの(以下「役員等」という)のうち親族関係を有する者及びこれらと次に掲げる特殊の関係がある者(以下「親族等」という)の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合は、いずれも3分の1以下とする旨の定めがあること。 (イ) 当該親族関係を有する役員等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者 (ロ) 当該親族関係を有する役員等の使用人及び使用人以外の者で当該役員等から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの (ハ) (イ)又は(ロ)に掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの (ニ) 当該親族関係を有する役員等及び(イ)から(ハ)までに掲げる者のほか、次に掲げる法人の法人税法第2条第15号に規定する役員又は使用人である者 (1) 当該親族関係を有する役員等が会社役員となっている他の法人 (2) 当該親族関係を有する役員等及び(イ)から(ハ)までに掲げる者並びにこれらの者と法人税法第2条第10号に規定する政令で定める特殊の関係のある法人を判定の基礎にした場合に同号に規定する同族会社に該当する他の法人 ② その公益法人等に財産の贈与若しくは遺贈をする者、その公益法人等の役員等若しくは社員又はこれらの者の親族等に対し、施設の利用、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任その他財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと。 ③ その寄附行為、定款又は規則において、その公益法人等が解散した場合にその残余財産が国若しくは地方公共団体又は他の公益法人等に帰属する旨の定めがあること。 ④ その公益法人等につき公益に反する事実がないこと。 ⑤ その公益法人等が当該贈与又は遺贈により株式の取得をした場合には、当該取得により当該公益法人等の有することとなる当該株式の発行法人の株式がその発行済株式の総数の2分の1を超えることとならないこと。 ①は、いわゆる「運営組織の適正性」と呼ばれるものです。措置法40条通達18において、さらなる詳細の条件が示されています。 ②は「特別の利益供与の禁止」と呼ばれるものです。措置法40条通達19において、さらなる詳細の内容が示されています。 ③及び④はその文言のとおり、公益法人等が解散した場合の残余財産が国若しくは地方公共団体又は他の公益法人等に帰属する旨の定めが定款等にあること、及び公益法人等につき公益に反する事実がないことが必要とされています。 ⑤は、公益法人等が自らの意思による場合でなく寄附であったとしても、株式会社の過半数の株式を保有してはいけないというものです。なお、当該株式については、議決権を行使することができる事項について制限のない株式に限られていないことに留意が必要です(措置法40条通達19の2)。   (了)

#No. 328(掲載号)
#中村 友理香
2019/07/25

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第8回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第8回】   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   (3) 収益の計上額の問題 法人税法22条2項は、無償取引に係る収益の額も益金の額に算入する旨を定めている。その趣旨や実質的な根拠については種々の議論がある。有力な学説は、「収益とは、外部からの経済的価値の流入であり、無償取引の場合には経済的価値の流入がそもそも存在しないことにかんがみると、この規定は、正常な対価で取引を行った者との間の負担の公平を維持し、同時に法人間の競争中立性を確保するために、無償取引からも収益が生ずることを擬制した創設的規定である」(適正所得算出説)と解している(金子宏『租税法〔第23版〕』338頁(弘文堂2019))。 収益とは外部からの経済的価値の流入であり、無償取引の場合には経済的価値の流入がそもそも存在しないことから、収益を計上するとしても、いったいいくらの金額で計上すべきかという問題がある。法人税法22条の2の制定前には、この点に関する基本的な規定が存在しなかったが、資産の無償譲渡の場合にはその時価相当額が収益計上額となり、無償の役務提供に含まれるとされてきた無利息融資の場合には通常の利息相当額が収益計上額になると解されてきた。 判例は、次のとおり、法人税法22条2項について、資産の譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにした規定であると述べる。そして、資産の低額譲渡が行われた場合には、譲渡時における当該資産の適正な価額をもって法人税法22条2項にいう資産の譲渡に係る収益の額に当たると判示する(南西通商株式会社事件:最高裁平成7年12月19日第三小法廷判決・民集49巻10号3121頁)。 参考として、現行法人税法22条2項を導入した昭和40年の法人税法全文改正の立案担当者は、無償による資産の譲渡と資産の譲受けについて、次のような説明を行っている(吉牟田勲「所得計算関係の改正」税務弘報13巻6号140頁)。 それでは、取引における実際の対価の額が時価と乖離していた場合には、すべてのケースにおいて、その差額を収益の額として計上しなければならないか、一定の事情がある場合には計上を要しないかという問題がある。 この点について、実際の対価の額と通常の対価相当額との間に乖離があった場合に、常に通常の対価相当額を収益の額として擬制しなければならないわけではなく、正常な対価で取引を行った者との公平が根拠だとすれば、例えば、「対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けているか、あるいは、他に当該営利法人がこれを受けることなく右果実相当額の利益を手離すことを首肯するに足りる何らかの合理的な経済目的その他の事情が存する場合」(大阪高裁昭和53年3月30日判決・高民集31巻1号63頁)には、実際の対価の額を収益の額とすることに問題はない、という見解が示されている(中里実ほか編『租税法概説〔第3版〕』160頁〔吉村政穂〕(有斐閣2018)参照)。 上記の場合の一定の事情を収益(法人税法22条2項)の場面で考慮すべきか、損金(法人税法37条等)の場面で(も)考慮すべきかという問題もある。   (了)

#No. 328(掲載号)
#泉 絢也
2019/07/25

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第30回】「コスト構造の分析(その2)」-スタンドアローン・イシュー等-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第30回】 「コスト構造の分析(その2)」 -スタンドアローン・イシュー等-   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   ▷ M&A対象企業のコスト構造分析の障害 前回はM&A対象企業のコスト構造の主な分析手法について述べたが、多くの中小企業ではこうした切り口での分析に必要なデータが抽出できない場合が多い。 例えば、売上高は主要得意先ごとに区分把握できたとしても、対応する仕入原価や外注費などは「仕入先」、「外注先」別には区分できても、「得意先ごと」の紐付けは「やってできないことはないが、これまでにやったことがない」というケースがほとんどであろう。 労務費などの共通固定費の配賦計算などが実施されたことは恐らく稀であろうし、そもそも「直接時間」や「面積比」等といった配賦計算に必要な係数の把握すらおぼつかないのが一般的ではないだろうか。 そんな状況下では、入手可能な情報からコスト構造の分析を行うことで、果たして有益な分析が行い得るのであろうか、という疑念を抱かざるを得ないケースもある。売上を得意先別に把握する一方で、全社合算での固変分解を行い、全社ベースでの損益分岐点を算出したからといって、果たしてそれが買収企業にとって有益な情報提供と言い得るのであろうか。 時間的な制約もある中で、意味あるコスト構造分析はどのようにすれば行い得るのか、筆者らの経験も踏まえて、以下で見ていきたい。   ▷限定的な情報(直接原価のみ)での把握分析 筆者らが過去に財務デューデリジェンスを依頼された案件は、まさに上記のごとく、複数得意先への売上のみが区分把握された状態である一方、それぞれの得意先の属する業種は自動車部品、家電、建材と経済状況が全く異なっていた。当時、国内自動車市場は陰りは見えたものの堅調であったが、家電業界はスマホ登場前でデジカメの出荷台数が減少に転じており、一方で建材業界は住宅着工件数の増加を背景に堅調さを維持していた。 M&A対象企業は金属製品のプレス加工と表面加工(メッキ処理)を行っており、こうした異なる業種に属する各得意先への納入製品はいずれもほぼ同一の生産工程で生産していた。どの製品も生産方法は大同小異であるにも関わらず、納入単価は取引によって様々であった。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 経理部門では売上原価を得意先(製品群)別に区分するための情報は有していなかったため、生産管理部門の保有するデータを確認したところ、製品群ごとに加工外注を行う必要のある工程は決まっていることに加え、使用している原材料の種類も得意先ごとに決まっており、購買部門で材料種類ごとの払出数量を把握していることがわかった。 これらから、主要製品に関して、使用原材料に基づく理論材料費と、一部工程の外注に係る理論外注費を直近実績に基づき算出、両者を合算した理論直接原価を算出し、理論限界利益率を導き出したところ、特定業種の得意先との取引に関する限界利益率が突出して低いことがわかった。また、メッキ工程の消耗材料使用高等を勘案すると、場合によっては逆ザヤになっている取引もある可能性も明らかとなった。 当該分析は理論値であり、時間的な制約等から一部の主要製品群についてのみ行ったため、極めて限定的な分析となったものの、ある程度の精度をもって、課題がどこにありそうかを炙り出すことはできたものと思う。   ▷「アームレングス・ルール」と「スタンドアローン・イシュー」 M&A対象企業のコスト構造を把握・分析した結果、コストドライバーや価値の源泉(収益力)がどこにあるかが把握できたとしても、当該状況はM&Aの実行後もそのまま継続するとは限らない。 例えばM&A対象企業が仕入先等との間で特殊な契約条件で原材料を調達しているような場合、当該契約がM&A実行後も継続して適用されるか否かは未知数と言えよう。条項にチェンジオブコントロール条項(【第2回】参照)等がうたわれている場合や、当該仕入先と自社の仕入先とが競合関係にあるような場合には、それまでの特殊条件での調達は継続できなくなる可能性が高い。 このように、M&A対象企業の採用している取引条件が「アームレングス・ルール(独立者間における一般取引条件)」に該当しない場合には、当該取引条件が継続しない場合に生じるであろう新たなコスト増減要因についても合わせて考察しておく必要がある。 このようにM&Aの実行後、買収対象企業がそれまで享受していた経済的な便益を喪失する事象は、一般に「スタンドアローン・イシュー」と呼ばれる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 例えば、それまで属していた企業グループから分離することでグループ企業に対する売上を喪失するケースや、グループ企業から安価に調達していた原材料の調達ができなくなるケースが代表的であるが、そのほかにも、主要な生産設備を親会社から賃借していたり、グループ本社から有償/無償で享受していた管理コスト負担に変更を余儀なくされるケースや、独立企業となることで新たに必要となる管理部門のコスト負担等の問題も「スタンドアローン・イシュー」として挙げられる。 具体的には、従前所属していた企業グループからの離脱に伴い、それまで利用していたネットワーク環境やソフトウェア環境が継続して利用できなくなるような場合には、買収者側でこれを補充するための新たな手当が必要となり、買収後、コスト構造に変化が生じることが想定されよう。   ▷地方中小企業のオーナー経営者に固有の問題 「アームレングス・ルール」は企業グループ間に特有の議論ではなく、中小企業のオーナー経営者、特に“地方の名士"と呼ばれるような経営者がオーナーであるような企業においては、当該経営者のネームバリューや地域との繋がり等、目に見えない形で「アームレングス・ルール」が歪んでいるようなケースも多い。 例えばよく見かけるのが、当該地域で形成されている「学閥」に起因するような取引関係が挙げられる。当該地域の経済・財界を「〇〇高校」、「△△大学」の卒業者が独占しているような地域では、こうした有形/無形の信頼関係から、例えば「ある時払いの催促なし」といった特殊な取引条件がまかり通っているようなケースもあろう。 さらには当該経営者が地域政界の雄であるような場合には、より一層、目に見えない「何か」が一般取引条件を歪めているようなケースもあるかもしれない。そうした目に見えない「何か」は、帳簿上には表れないことも多く、とにかく現地であらゆる情報を収集する以外にない、といったことがあり得ることも頭に入れておきたい。 (了)

#No. 328(掲載号)
#石田 晃一
2019/07/25

改正相続法に対応した実務と留意点 【第7回】「特別の寄与に関する留意点」

改正相続法に対応した実務と留意点 【第7回】 「特別の寄与に関する留意点」   弁護士 阪本 敬幸   今回は、特別の寄与に関する留意点について解説する。   1 特別寄与制度の概要 特別寄与制度は、被相続人に対し特別の寄与をした相続人以外の親族に、特別寄与料支払請求権を与える制度であり、今回の改正法で新設されたものである。従前から、相続人のためには寄与分制度(改正後民法904条の2、改正前民法と変更無し)が存在したが、相続人以外の者であっても、被相続人の財産維持・増加に寄与することはありえる。このような場合、「相続人ではない」という理由で寄与分を全く評価しないというのであれば、公平を害することになるため、特別寄与制度が設けられた。 まず、改正後民法1050条の条文を確認する。 上記改正後民法1050条1項に定められた特別寄与料請求権の発生要件を整理すると、以下のようになる。 【特別寄与料請求権の発生要件】   2 各発生要件に関する留意点 (1) 無償であること(要件①) 〔例〕 被相続人の長男の妻が、10年間にわたって、寝たきり状態であった被相続人の介護を行ってきた。介護は毎日5時間程度の時間を要した。被相続人は、長男の妻に対し、お礼として毎月3万円を渡していた。 無償性については、相続人の寄与分制度においても、解釈あるいは多くの裁判例で要求されていたところである。寄与分制度は、相続人間の公平を図る趣旨であるから、相応の対価を受領している場合には、原則として公平が害されているとはいえず、無償性が要求される。 特別寄与分制度も、相続人の寄与分制度同様、公平を図る趣旨であるため、無償性が要求されている。もっとも、私見であるが、ここでいう無償は「対価を1円ももらっていない」という意味ではなく、「相応の対価を受領していない」という意味ととらえるべきであろう。相応の対価を受領していない場合には公平は害されることになるし、労務の対価を受領していたとしても、相応の対価とはいえない場合には、労務に無償部分が存在すると言えるからである。 本件においては、毎日5時間程度の介護を10年間行っており、仮にこの労務を業者に依頼した場合に要する費用が、例えば1時間1,000円であるとした場合、1ヶ月あたり15万円(1,000円×5時間×30日)の費用が必要である。長男の妻は職業付添婦ではないことを考慮して何割か減額して考えたとしても、月額3万円では到底相応の対価を受領しているとはいえず、毎月10万円前後の無償の労務を行っていたと考えてよい。 そして、残る②~④の要件も満たす(③については、業者への依頼による支出を抑えることで、被相続人の財産維持に寄与している)と考えられるから、長男の妻は特別寄与料として、月額10万円前後の10年分の寄与分を請求できると考えるべきであろう(※)。 (※) 相続人が、被相続人を10年間無償で療養看護した事案で、職業付添婦に依頼した場合に要する費用から4割減額した額を寄与分として認めた審判例がある(盛岡家審S61.4.11)。 なお、上記は筆者の私見であり、条文上あえて「無償で」と書かれている(相続人の寄与分制度を定める改正後民法904条の2には「無償で」という文言はない)ことからすれば、厳密に「1円ももらっていない」場合のみ、特別寄与料を請求できると考えることも可能ではある。この点については、今後の解釈・裁判例が待たれる。 (2) 被相続人に対し療養看護その他の労務の提供をしたこと(要件②) 〔例〕 被相続人の長男の妻が、10年間にわたって、寝たきりであった被相続人の介護を業者に依頼し、業者に対して毎月10万円の支払を行ってきた。 相続人の寄与分制度を定める改正後民法904条の2では、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるとき」として、寄与行為の態様として「財産上の給付」「その他の方法」という労務提供以外のものが挙げられている。そして「その他の方法」として、一般的に、財産管理や自己の扶養義務の範囲を超えた扶養などが認められている。 しかし、特別寄与制度においては、条文上、「療養看護その他の労務の提供をしたこと」として、労務の提供のみに限定されており、財産上の給付・財産管理・扶養義務の範囲を超えた扶養などがあったとしても、特別寄与請求権発生の要件を満たさないと考えられる。「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案の補足説明(85頁)」でも、あえて寄与行為の態様を「無償の労務の提供」に限定したことを前提にした説明がなされている。 ただし、条文上「療養看護その他の労務の提供」とされており、労務の態様としては療養看護に限定するものではなく、家業の手伝いなども考えられるところである。 本件では、長男の妻は労務の提供をしていない以上、特別寄与料を請求することはできない。 (3) 被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと(要件③) 〔例〕 被相続人の長男の妻が、30年以上にわたり、無償で、被相続人が経営する商店の事務作業を手伝った。 長男の妻は、無償で労務提供を行っており、本来事務員を雇用すれば支払うべき賃金の支払がなくなったことにより被相続人の財産維持・増加があったと考えられるから、上記の要件①~④はすべて満たされる。したがって、長男の妻は特別寄与料を請求できる。 もっとも、相続人から、長男の妻の勤務期間・勤務内容等を争われることは十分考えられる。このような場合、要件①~④の立証責任は長男の妻が負うことになり、証拠が重要となる。したがって特別寄与料請求を考えるときは、証拠の収集にも十分注意すべきである。 本件のような場合には、勤務期間や勤務内容を示す資料(確定申告書、業務日誌、メモ、写真等)、無償性が分かる資料(確定申告書、通帳、給与明細、家計簿等)を紛失しないよう、写しを取るなどして手元に保管しておくべきである。 (4) 被相続人の親族であること(要件④) 〔例〕 被相続人の長男の妻の姪が、30年以上にわたり、無償で、被相続人が経営する商店の事務作業を手伝った。 改正後民法725条(改正無し)は、①6親等内の血族、②配偶者、③3親等内の姻族、を親族として定める。 長男の妻の姪は、4親等の姻族に当たる(改正後民法726条・改正無し)から、親族には当たらず、特別寄与料を請求することはできない。 また、「被相続人の親族」とされている以上、内縁の妻や、養子縁組をしていない事実上の養子(配偶者の連れ子等)なども特別寄与料を請求することはできない。 (5) その他 条文に書いてある通りであるが、特別寄与料請求権は、特別寄与者が相続開始及び相続人を知った時から6ヶ月又は相続開始時から1年経過すると消滅する(改正後民法1050条2項)。「相続開始及び相続人を知った時から6ヶ月」については、ある程度前後することもあり得るが、「相続開始時から1年」は明確であり、被相続人死亡1年経過が近づいてきた場合には、直ちに請求する必要がある。 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない(改正後民法1050条4項)。したがって、長期間の特別寄与があったとしても、相続財産の額によっては、ほとんど寄与料をもらえないこともあり得る。 なお、特別寄与料の負担割合は、法定相続分又は指定相続分に従う(改正後民法1050条5項)。 また、特別寄与料の支払を受けた者には、相続税が課税され、特別寄与料の額が決まってから10ヶ月以内に相続税申告書を提出しなければならない(相続税法4条2項、29条1項)。   3 経過措置 改正後民法施行日より前に開始した相続に関しては、1050条の適用はない(改正法附則2条)。 そして1050条については、他に経過措置が定められてはいないため、2019年(令和元年)7月1日より前に相続があったか、7月1日以後に相続があったかにより、特別寄与料を請求できるか否かが変わることになる。 もっとも、7月1日より前に発生した相続の場合でも、相続人の家族の寄与行為を相続人の寄与分とする考え方(東京高決H元.12.28、東京家審H12.3.8等)や、寄与行為による相続財産の維持・増加という結果を契約上の権利・不当利得返還請求権と構成するといった方法により、特別寄与料相当額の支払を求めることは考えられる。   (了)

#No. 328(掲載号)
#阪本 敬幸
2019/07/25

今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第8回】「定型約款(その1)」

今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第8回】 「定型約款(その1)」   堂島法律事務所 弁護士 奥津  周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 インターネット通販事業を行っている当社は、従来から顧客との契約に約款を利用してきました。購入希望者には、契約に際してウェブサイト上に約款を表示しています。 今回の改正では、約款についても規律が設けられるとのことですが、どのように変わるのでしょうか。 【A】 約款は幅広く社会の中で用いられているが、法律に特段の規律がなかった。今回の改正では、約款についての規律を新しく設けることとしたため、取引に約款を利用している企業は、規律の内容を把握し、見直しを行う必要がある。   1 約款とは 約款とは、同種類の取引を大量に処理するために用意された取引条項である。社会の中で広く活用され、例えば、鉄道の運送約款、保険約款、インターネットサイトの利用規約など様々なものがあり、不特定多数の顧客と取引を行う事業者にとって不可欠なものである。 これまでは約款についての民法上の規律がなかったため、法的に不安定な状態であったが、改正法では、約款のうち、特に定型性が高いものを「定型約款」と定義し、明文の規律を設けることとした。   2 定型約款の定義 改正法では、①ある特定の者(事業者)が不特定多数の者を相手方とする取引で、②内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものを「定型取引」と定義し、この「定型取引」において、 ③契約の内容とすることを目的として、その特定の者(約款準備者)により準備された条項の総体を「定型約款」と定義している(改正民法548条の2本文)。 事業者としては、まず自社の使用している約款がこの定義にあてはまるかを検討しなければならない。定義に該当すれば、改正法の規律に従う必要がある。なお、一般的に、鉄道の運送約款やインターネットサイトの利用規約等は定型約款の定義に該当することが多いとされる。一方で、相手方の個性に着目したような労働契約や、契約書のひな型のようなものは定型約款の定義には該当しないとされる。   3 定型約款が契約の内容となるための要件(組入要件) 契約は、その当事者が内容を理解して合意しない限り成立しないのが原則である。しかし、約款を利用した取引では、約款の内容を読んで取引をするケースは少なく、当事者が約款の内容を理解していないことの方が多いと考えられる。そこで改正法では、いかなる場合に、定型約款が契約の内容となるのかについて規律を設けた。定型約款を契約の内容とするための要件を、「組入要件」という。 具体的には、①定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合、又は②取引に際して定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に表示していた場合には、定型約款が契約の内容になるとされている(改正法548条の2第1項)。 ①のケースとして、当事者間で契約書を締結する場合に、「本契約には当社の『〇〇約款』によるものとする。」というように合意をした場合が典型である。②のケースとしては、インターネット通販取引の場合において、サイト上に定型約款を契約の内容とする旨を表示している場合などがある。「定型約款を契約の内容とする旨」を表示すればよく、定型約款の内容まで表示していることまでは求められない。 もっとも、定型取引を行う前に、相手方から定型約款の内容を示すように請求があった場合には、事業者としては正当な理由なくこれを拒むと定型約款の内容は契約内容とはならないため、開示ができる体制を整えておく必要があるといえる(改正法548条の3)。 事業者としては、自社の定型約款の取扱いが、組入要件を満たしているか確認する必要がある。組入要件を満たさなければ、定型約款を作成していても契約の内容とすることができないため、意味をなさない。   4 不当な条項の取扱い 改正法では、定型約款の組入要件が明確化されたが、契約当事者が定型約款の内容を理解して契約締結することは少ないということには変わりがない。どのような内容の条項であっても、組入要件を満たしさえすれば契約の内容になるとすれば、契約の相手方にとって著しく不利益なものであっても、そのことを理解せずにその契約に拘束されることになる。 そこで改正法では、定型約款の条項の中で、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害するものについては、合意したとはみなさないこととした(改正法548条の2第2項)。 事業者としては、自社の使用する定型約款の内容について一方的に相手方に不利益な条項がないか、今一度確認をする必要がある。なお、この規定は、事業者と消費者の契約に限らず、事業者間の取引にも適用される。 (了)

#No. 328(掲載号)
#奥津 周、北詰 健太郎
2019/07/25

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例37】株式会社スシローグローバルホールディングス「株式会社スシローグローバルホールディングス、株式会社神明ホールディングス及び元気寿司株式会社の資本業務提携解消に関するお知らせ」(2019.6.18)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例37】 株式会社スシローグローバルホールディングス 「株式会社スシローグローバルホールディングス、 株式会社神明ホールディングス及び元気寿司株式会社の 資本業務提携解消に関するお知らせ」 (2019.6.18)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社スシローグローバルホールディングス(以下「スシロー」という)が2019年6月18日に開示した「株式会社スシローグローバルホールディングス、株式会社神明ホールディングス及び元気寿司株式会社の資本業務提携解消に関するお知らせ」である。 2017年9月29日に「株式会社スシローグローバルホールディングス、株式会社神明及び元気寿司株式会社の資本業務提携に関するお知らせ」を開示して以来、検討してきた元気寿司株式会社(以下「元気寿司」という)との経営統合を行わないことにしたという内容である。 「1.経営統合に向けた協議の中止及び本資本業務提携解消の理由」には、次のような記載がある。 なお、元気寿司の方も、同時にほぼ同内容の「元気寿司株式会社、株式会社神明ホールディングス及び株式会社スシローグローバルホールディングスの資本業務提携解消に関するお知らせ」を開示している。   2 スシローが拒否? もともとスシローと元気寿司の経営統合は、タイトルの中に登場するもう1人の当事者である株式会社神明ホールディングス(以下「神明」という)が間に入る形で検討されるようになったものなのだが、スシローは神明の関連会社、元気寿司は神明の子会社である。そして、規模は、元気寿司よりもスシローの方がはるかに大きい。 つまり、今回の経緯は、神明が元気寿司をスシローに買わせようとしたが(方式は、株式譲渡、合併、株式交換など様々考えられるが)、スシローが拒否したという構図で捉えることができるだろう(いろいろなやり取りがあったとしても、基本的な構図はそうであるはず)。   3 魅力的な投資対象では? なぜスシローは元気寿司を取得しなかったのだろうか。元気寿司は、同業でかつ業績が良く、魅力的な投資対象のはずである。「ブランド戦略の違い」や「店舗展開方式の違い」が問題になるのだろうか。それぞれのブランドや方式を併存させながらであっても、協力してシナジー効果を生み出せるのではないだろうか。 「独立した企業としてそれぞれの戦略を独自に且つ柔軟に推し進めていくこと」よりも、「それぞれの戦略を協力して柔軟に推し進めていくこと」の方が、「両社の企業価値を高めるために最適である」はずである。なぜそうした結論に至らなかったのだろうか。   4 勘定より感情? スシローの経営陣は、神明の自社への影響力が増すことを恐れたのだろうか。元気寿司を吸収合併したり、株式交換により完全子会社化する場合、その親会社である神明に自社の株式を交付するため、神明の議決権比率が増すことになる。それを避けたかったのかもしれない。 あるいは、「合わない」、「一緒にやるのは面倒そう」といった、純粋に感情的な理由によるものだったのだろうか。人間同士のことなので、そうしたことは確かに重要ではある。しかし、仮にそうであったとしても、自社の企業価値を高める責任を負った上場会社の経営者として、あくまで合理的な判断を優先させるべきだろう。 最初に行われた2017年9月29日の開示の「1.業務提携の理由」には、次のような記載があった。 スシローも、現在のところは業績が良いが、この先どうなるかは分からない。元気寿司と経営統合しないという今回の判断が、果たして吉と出るか、凶と出るか。 (了)

#No. 328(掲載号)
#鈴木 広樹
2019/07/25
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