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国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第24回】「国外財産調書の提出時期と過少申告加算税」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第24回】 「国外財産調書の提出時期と過少申告加算税」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 私は平成29年分の所得について、平成30年3月15日に申告・納付しました。その後、落ち着いてから確定申告書の内容を調べたところ、外国の預金の利子など、国外財産についての申告漏れを発見しました。 これについて、調査があってあわてて提出するわけでもないから過少申告加算税もかからないし、とりあえず、修正申告をしようと思っています。おそらく国外財産調書も提出が必要かなと思いますが、作成が手間なので、修正申告の後でかまわないでしょうか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷国外財産調書の創設と加算税の加減算の趣旨 国外財産調書制度は、国外財産が年末時点で5,000万円超の居住者等を対象にして、国外財産の内容を翌年の所得税の確定申告期限までに報告させるものである。 なぜ、このような制度を導入したかというと、国外に財産を移転することにより所得税や相続税等を節税する行動を防止するためには、居住者の国外財産の状況を事前に把握することが重要だからである。そのため、1回100万円超の海外送金について金融機関から報告をする国外送金等調書制度に続いて、この国外財産調書制度が平成24年度税制改正により設けられた。 国外財産調書の提出に対するインセンティブを与えるために、期限内に国外財産調書を提出して、記載された資産について、将来、税務調査があり修正申告による増差税額が生じた場合においては、原則的には過少申告加算税が5%控除されるが、国外財産調書を提出しなかった場合や国外財産調書に記載のない資産について増差税額が生じた場合は、過少申告加算税が5%加算される。 なお、期限内に国外財産調書を提出せず、その後、調査を予見せずに国外財産調書を提出した場合の修正申告による加算税の取扱いは期限内に提出したものとみなされることから、5%減額が認められることとなる。加算については国送法6条2項で、控除については国送法6条1項でそれぞれ規定されている。   ▷国税通則法による過少申告加算税の適用除外 国税通則法65条は過少申告加算税について定めている。平成28年度の税制改正で調査通知を受けて修正申告を行う場合の加算税の見直しが行われたが、65条5項においては、修正申告が国税についての調査があったことにより国税について更正があるべきことを予知してされたものではない場合(改正後は、調査通知前まで)においては、過少申告加算税の対象とならないことを定めている。   ▷事案の概要と納税者の主張 事案は、平成26年分の所得税について期限内申告をしたが、平成27年8月31日に国外財産に該当する預金利子や、株式貸付料の申告漏れについて自主的に申告書を提出し、その後平成27年9月14日に平成26年12月31日分の国外財産調書(提出期限平成27年3月16日)を提出した。つまり、この修正申告は、国税通則法65条5項に該当する。 平成28年3月28日付で課税庁から過少申告加算税の賦課決定処分がなされ、これに不服な納税者が異議申立てをしたが平成28年8月23日付で棄却が決定、平成28年9月21日に審査請求をした。 争点は次の2点であった。 1点目は、自主的な修正申告書の提出についても加重措置が認められるかである。納税者は、国税通則法65条2項と国送法6条2項は、いずれも過少申告加算税の加重の規定であり、国税通則法において65条5項に該当する場合は、解釈により65条2項の規定の適用がないことから、65条5項に該当する場合は国送法2項の適用はないものと主張した。 もう1点は、国外財産調書は提出期限内に提出したものとみなされるかである。納税者は、法がその適用に際して先後関係を要件とする「同時に」あるいは「~において」といった文言が国送法6条4項にはないから、修正申告書提出後に国外財産調書を提出した場合も期限内に提出したものとみなされ軽減措置の適用が可能と主張した。   ▷審判所はどう判断したか 審判所は、自主的な修正申告書の提出についても加重措置は認められると判断した。国送法6条2項が「通則法第65条の規定により計算した過少申告加算税の額は、これらの規定にかかわらず」とされているのは、通則法1項のみならず、5項をも排斥するという意味である。したがって「これらの規定により計算した金額に、当該過少申告加算税の額の基礎となるべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額」とされているのは、通則法65条5項の規定が適用される結果、同条1項の規定が適用されない場合(自主的修正申告の場合は、過少申告加算税は課されない)も加重措置が適用される。 次に、国外財産調書は提出期限内に提出したものとはみなされないと判断した。もし、国外財産調書の提出時期と修正申告の提出時期に先後関係がないと解した場合、国外財産調書の提出に先んじて自主的修正申告書が提出されれば、その後に提出される国外財産調書は、その提出時期にかかわらず、一律に提出期限内に提出されたものみなされることになり、加重措置の適用の可否が自主修正申告書の提出の有無により決されることになる。このことは、国外財産調書の提出を軸として適否を決するとする軽減加重措置の趣旨から乖離されるから認められない。このため、審査請求は理由がないとして破棄された。 このように国外財産調書の加算税のルールは、通常と比較して厳しく解されており、かつ、提出時期の違いが加算税の額に影響を与えることになるから、細心の注意が必要である。   (了)

#No. 300(掲載号)
#菅野 真美
2018/12/27

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例69(相続税)】 「相続人が契約取得した「立体買換特例」に係る買換資産は、被相続人の相続財産に含まれず、当該買換資産に係る未払金も債務控除の対象にはならないとして更正処分を受けた事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例69(相続税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例(措法37の5) 個人が、既成市街地等にある土地等、建物又は構築物で、当該土地等又は建物若しくは構築物の敷地の用に供されている土地等の上に地上階数3以上の中高層耐火共同住宅の建設をする事業の用に供するための譲渡をした場合において、原則として当該譲渡の日の属する年の12月31日までに、当該事業の施行により当該土地等の上に建築された耐火共同住宅等の取得をし、かつ、当該取得の日から1年以内に、当該買換資産を、事業の用若しくは居住の用に供したときは、当該譲渡による収入金額が当該買換資産の取得価額以下である場合には、当該譲渡資産の譲渡はなかったものとし、当該収入金額が当該買換資産の取得価額を超える場合には、当該譲渡資産のうちその超える金額に相当する部分の譲渡があったものとして、譲渡所得の金額を計算する。       (了)

#No. 300(掲載号)
#齋藤 和助
2018/12/27

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第33回】「別表6(19) 特定の地域又は地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(19)付表 基準雇用者数等、給与等支給額及び比較給与等支給額の計算に関する明細書」

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第33回】 「別表6(19) 特定の地域又は地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(19)付表 基準雇用者数等、給与等支給額及び比較給与等支給額の計算に関する明細書」   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第31回目からは、平成29年度をもって終了する従来の雇用促進税制(地方拠点強化税制における雇用促進税制へ改組)、及び平成30年度の税制改正により見直しが行われたことによりその様式も改正された、地方拠点強化税制における雇用促進税制の別表をあらためて採り上げており(※)、改正点を踏まえながらその適用パターンごとに分けて順次解説している。 (※) 改正前の様式については【第10回】及び【第11回】を参照。   Ⅱ 概要 この別表は、青色申告書を提出する法人が租税特別措置法第42条の12第1項もしくは第2項(特定の地域又は地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)の規定の適用を受ける場合に作成する。 このうち、従来の雇用促進税制と、「地方活力向上地域特定業務施設整備計画」を実施する法人の上乗せ措置については、前回と前々回で解説したところであるが、今回は平成30年4月1日以後開始する事業年度から適用となる改正後の地方拠点強化税制における雇用促進税制について、その改正点を中心に解説する。 すなわち平成30年度改正では、従来の雇用促進税制のうち同意雇用開発促進地域に係る措置の廃止に伴い、同制度のうち地方事業所基準雇用者数に係る措置及び地方事業所特別基準雇用者数に係る措置を地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の税額控除制度に改組するとともに、次の見直しを行い、その適用期限が2年延長された。 なお、平成30年4月1日前に地域再生法第17条の2第3項の認定を受けた法人が、同日以後に開始する適用年度において、①基準雇用者数が5人以上(中小企業者等である場合には2人以上)であることにつき証明されたこと、②給与等支給額が比較給与等支給額以上であること、の2つの要件を満たす場合には、改正後の適用要件を満たすこととし、改正後の措置を以下のとおりとした上で適用できる(平成30年改正法附則第91条第1項の経過措置)。 ▼ 注意!▼ なお、別表6(19)及びその付表については、国税庁からは「平成30年4月1日以後終了する事業年度分」と「平成30年6月1日以後終了する事業年度分」の2種類が用意されている。 これは後者が、地域再生法の一部を改正する法律が平成30年6月1日に公布・施行されたことに対応したタイトルや裏面の文言等の軽微な改正をしたことによるもので、様式・内容は両者とも一緒である。したがって、改正前の様式を使用しても支障はない。   Ⅲ 「別表6(19)」「別表6(19)付表」の書き方と留意点 以下の解説では、【第31回】・【第32回】で使用した事例の数値をそのまま用いており、解説内容が重複する部分については省略しているので、必要に応じて【第31回】・【第32回】も併せて参照していただきたい。 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成30年4月1日以後開始する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 ◆別表6(19) 〔認定地方活力向上地域等特定業務施設整備計画に関する事項〕 〔地方事業所基準雇用者数に係る当期税額控除額の計算〕 〔地方事業所特別基準雇用者数に係る当期税額控除額の計算〕 ◆別表6(19)付表 〔基準雇用者数等の計算に関する明細〕 〔比較給与等支給額の計算に関する明細〕 (了)

#No. 300(掲載号)
#菊地 康夫
2018/12/27

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第5回】「「公益の増進に著しく寄与する」とは」

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第5回】 「「公益の増進に著しく寄与する」とは」   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   - 質 問 - 現物寄附を行った際、取得価額と時価との差額についてのみなし譲渡課税が非課税となるための条件として、現物寄附を受領する公益法人等への寄附が「教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する」ことが課されています。 この「教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する」とは、具体的にどういうことですか。   - 回 答 - 租税特別措置法施行令第25条の17第5項第1号に規定する「当該贈与又は遺贈が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する」かどうかの判定は、その贈与又は遺贈に係る「公益目的事業」が、公益の増進に著しく寄与するかどうかにより行われます。 また、「公益の増進に著しく寄与するかどうか」の判定は、下記の解説で掲げる4つの項目が、それぞれに示される要件を満たしているかどうかにより判断するものとして取り扱われます。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 以下に掲げる4つのすべてに該当するときは、「教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する」という要件を満たすものとして取り扱われます(租税特別措置法第40条第1項後段の規定による譲渡所得等の非課税の取扱いについて(法令解釈通達)12。以下本連載では「措置法40条通達」という)。 ① 寄附を受けた公益法人等の寄附に係る公益目的事業が、その事業を行う地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有していること ② 寄附を受けた公益法人等の事業の遂行により与えられる公益の分配が、その公益を必要とする全ての人に与えられるなど、特定の人に限られることなく適正に行われること ③ 寄附を受けた公益法人等の公益目的事業の運営が営利企業的に行われている事実がないこと ④ 寄附を受けた公益法人等の公益目的事業の運営が、法令に違反する事実その他公益に反する事実がないこと 上記要件についての詳細は次回以降に解説しますが、その概要をまとめると以下のようになります。 ①は、いわゆる「事業規模要件」と呼ばれるものですが、どの程度の規模なら社会的存在として認識されるかを文面だけから理解するのは困難です。 措置法40条通達では、個別に掲げるそれぞれの事業がその公益法人等の主たる目的として行われているとき、当該事業は社会的存在として認識される程度の規模を有するものに該当すると判断されるとして、事業ごとにその規模内容が示されています。 ②は、当該贈与又は遺贈を受けた公益法人等の事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする者の現在又は将来における勤務先、職業などにより制限されることなく、公益を必要とするすべての者(やむを得ない場合には、これらの者から公平に選出された者)に与えられるなど、公益の分配が適正に行われることを意味します。 ③は、当該公益法人等の当該贈与又は遺贈に係る公益目的事業について、その公益の対価がその事業の遂行に直接必要な経費と比べて過大でないことその他当該公益目的事業の運営が営利企業的に行われている事実がないことを意味します。 ④は、当該公益法人等の事業の運営につき、法令に違反する事実その他公益に反する事実がないことを意味し、包括的に定められた内容となっています。   (了)

#No. 300(掲載号)
#中村 友理香
2018/12/27

〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準 【第3回】「イヌ・サル・キジが桃太郎に約束したこと~それが履行義務」

〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第3回】 「イヌ・サル・キジが桃太郎に約束したこと~それが履行義務」 公認会計士 石王丸 周夫   1 イヌ・サル・キジが提供するサービスの内容 前回説明した内容を踏まえて、さっそくイヌ・サル・キジたちの具体的な役目を棚卸ししていきましょう。 桃太郎からきびだんごを1つずつもらったイヌ・サル・キジは、鬼退治に参加することを承諾しました。鬼退治に参加して、イヌ・サル・キジが「具体的に何をやるか」ですが、大きく次の3つに分けることができます。 この3つの提供サービスは、イヌ・サル・キジのそれぞれによって、具体的な内容が異なってきます。まずは鬼ヶ島への渡航時の様子を確認しましょう。 イヌ・サル・キジを家来に従えた桃太郎は、海までやってきました。そして船に乗り込みました。 「私は船をこぎましょう」とイヌは言いました。 「私はかじを取りましょう」とサルが言いました。 「私は物見をしましょう」とキジは言いました。 すなわち渡航については、以下のような役割分担となっています。 次は、鬼との戦闘時の様子です。 桃太郎たちは鬼ヶ島に着きました。鬼の城門の前で、イヌが門をどんどんとたたきながら言いました。 「あけろあけろ、ワンワン!」 しかし、鬼は中から門を押さえつけています。すると、鬼の城の屋根の上にいたキジがいきおいよく飛んできて、鬼の目をつつきました。鬼は「これはたまらん」と言って逃げ出しました。その間にサルが壁をよじ登り、城の中におり立つと、中から門を開けました。 このあとが鬼との直接対決です。そこでも役割分担ができています。 鬼たちはキジに目をつつかれたあと、今度はイヌにすねをかまれました。そして、サルには顔をひっかかれました。鬼は金棒を放り出して降参しました。 「降参、降参! 宝物は全部あげるから、助けてくれぇ~」 戦闘では、以下のような役割分担です。 そして最後は宝物の輸送です。 桃太郎は手に入れた宝物をすべて積み込んで、船に乗り込みました。陸に着くと、宝物をいっぱい積んだ車を、イヌが先に立って引き、キジが綱を引いて、サルが後を押しました。 これについても役割を整理しておきましょう。 以上がイヌ・サル・キジの役割です。これらが、きびだんごと引き換えに提供しなければならない業務であり、収益認識会計の用語では『履行義務』といいます。 桃太郎とイヌ・サル・キジの契約は、[桃太郎-イヌ]・[桃太郎-サル]・[桃太郎-キジ]という形で、それぞれが契約しています。契約に合わせた形で、履行義務をイヌ・サル・キジ別に整理しておきましょう。 イヌ・サル・キジはそれぞれ、上記の一連の履行義務を果たすことと引き換えに、きびだんごを1つずつもらったというわけです。 (きびだんご1つのわりに・・・なかなかハードな履行義務ですね。)   2 会計処理の話がなかなか始まらない理由 それにしてもなぜ、上図のようなことを把握しなければいけないのでしょうか。 一見すると、収益計上の会計処理とは直接関係なさそうに見えます。 しかし、そんなことはありません。 実は収益認識の会計処理では、履行義務を見極めなければ、仕訳処理にとりかかることができないのです。 一般に会計取引というのは、契約と『1対1』で対応しています。つまり、契約をベースに仕訳処理していきます。 しかし、収益認識の会計処理では、「契約」ではなく「履行義務」に対応した形で会計処理をします。履行義務との『1対1』対応です。それゆえ、履行義務の識別が必須になってくるのです。 履行義務を定めた契約は、履行義務と1対1対応のこともあれば、単一の履行義務が複数の契約に対応していることもあります。 〈履行義務と契約が1対1対応しているケース〉 〈履行義務が複数の契約に分かれているケース〉 こうしたことを把握するのが、【第1回】から今回までに述べた内容です。契約を確かめて、履行義務を把握することで、会計処理へとつながっていくという流れです。 なお、単一の契約の中に複数の履行義務があることも考えられますが、それは次回のテーマです。 〈複数の履行義務が契約に含まれているケース〉 ▷今回のまとめ 会計処理の単位は、当事者間で約束された取引の内容と対応するように決定します。 (了)

#No. 300(掲載号)
#石王丸 周夫
2018/12/27

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第16回】「偶発債務・後発事象の分析(その1)」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編-   公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴   ←(前回) | (次回)→   第6節 偶発債務・後発事象の分析 【第16回】 「偶発債務・後発事象の分析(その1)」   ▷偶発債務・後発事象 偶発債務とは、現時点では債務ではないが、一定の事由を条件に、将来債務となる可能性がある債務のことをいい、発生可能性が高く、かつ、金額が合理的に見積もれる場合は引当金として計上し、発生する可能性が低い場合は、貸借対照表に注記する必要がある。一方、後発事象とは、基準日後に発生した会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象である(以下、総称して「偶発債務(簿外債務)等」)。 多くの中小企業では、偶発債務(簿外債務)等が債務として確定するまでは、通常、負債に計上されていない。すなわち、多くのケースは簿外債務となっている。これは、多くの中小企業は、同族会社であり、引当金も税務上損金として認められず、開示や計上をする意義が乏しいからである。   ▷偶発債務(簿外債務)等のデューデリジェンスにおける主な調査手続 しかしながら、M&Aの実務では、偶発債務(簿外債務)等は、ディールブレイカー(M&Aの検討を取りやめるほどの重要な項目)となる可能性が高く、可能な限り網羅的に下記の手続により精査し、内容及び影響額を早急に検討しなければいけない項目である。 もっとも、買収後に影響のあるリスクとして把握することはできるが、正確な金額が把握し得ない場合等には、次善策として、表明保証条項による対応をすることが考えられ、この点、法務デューデリジェンスチームと緊密なコミュニケーションが必要となる。 また、実態純資産で認識した偶発債務(簿外債務)は、後述する正常収益力の分析や事業計画の検討においても影響するため、年度ごと(1年当たり)の発生額を把握しておく必要がある。   ▷非開示項目の再検証 財務諸表の注記は、主に貸借対照表、損益計算書、株主持分変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書に表示されない情報が記載される。すなわち、当該注記により、これら財務諸表に計上されている項目の説明や個別の項目への分解及び当該財務諸表における認識の要件を満たしていない項目についての情報が提供されることになる。 上述したとおり、多くの中小企業は、開示等を行う意義が乏しい等との理由から、通常求められている注記が開示されていない可能性がある。よって、偶発債務(簿外債務)等を把握するためには、まず、開示すべき注記がないかを再度確認し、把握する必要がある。 会社計算規則にて規定されている主な項目は、下記のとおりである(ただし、会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く)の個別注記表であり、★印は必須項目)。   ▷手形に関連する偶発債務(簿外債務)等 取得価額で計上されている受取手形を金融機関等で割り引いたり、裏書きをして取引先に譲渡した場合は、当該手形は、通常売却処理がなされるため、貸借対照表に計上されず、注記がなされるべきものである。 実態純資産の分析においては、(注記の有無に関係なく)受取手形の割引額や裏書譲渡額を把握したうえで、回収可能性の検討(貸倒引当金の設定の妥当性)をする必要がある。また、対象会社の資金繰り状況を分析するうえで重要になる場合もある。   ▷デリバティブ取引に関連する偶発債務(簿外債務)等 デリバティブとは金融派生商品のことであり、契約上の期日に純額又は実質的に純額で、現金、その他の金融資産又はデリバティブを授受する権利又は義務が生じる契約であり、リスクヘッジ、アービトラージなど目的に応じて様々な金融商品により構成されている。 具体的には先物取引、先渡取引、スワップ取引、オプション取引等が該当し、これらは金利や為替相場等の変動により価値が変動するという特徴がある。 ◆デリバティブの目的 デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務は、原則として時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は、ヘッジに係るものを除いて、当期の純損益として処理することになるが、対象会社である中小企業は、デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務を取得原価又はオフバランス処理している可能性が高い。 実態純資産の分析においては、金融機関等から基準日における時価を入手し、影響額を検討する必要がある。対象会社も気付かないうちに、デリバティブ取引から多額の損失が発生しており、本業が順調であるにもかかわらず会社の維持継続が困難になるという事態も発生する可能性があることに留意すべきである。 (続く)

#No. 300(掲載号)
#松澤 公貴
2018/12/27

「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第11回】

「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第11回】   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   23 表示及び注記 収益認識基準等では表示及び注記についても従来からの変更点がある。 (1) 表示 ① 貸借対照表項目 収益認識基準等では、貸借対照表の勘定科目として、「契約資産」、「債権」、「契約負債」について規定されている。 企業が顧客に対する約束を履行している場合又は企業が履行する前に顧客から対価を受け取る場合には、企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示する(基準79)。 契約資産と債権を貸借対照表に区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記する(基準79)。ただし、早期適用する場合(連載第1回4(4)参照)、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができる(基準88)。 上記区分表示及び注記の要否は、収益認識基準等が適用される時(平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む)に検討される(基準160)。 ② 損益計算書項目 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の設例の中では、収益の表示科目として「売上高」、「手数料収入」、「営業収益」が用いられている。 これに関して、収益認識基準等の成立までの審議の過程で、サービスの提供による収益や企業が代理人に該当する場合など、基準等に従って認識される収益の表示科目を明確化すべきであるという意見があった(基準155)。 現在、表示科目として一般的に用いられている売上高は、他の関連する法令等においても広く用いられているものであり、仮にその名称を変更する場合には影響が広範に及ぶこと等から、収益の表示科目について、注記事項と合わせて収益認識基準等が適用される時(平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む)に検討することとなった(基準155)。 また、IFRS第15号に定められている損益計算書における顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)の区分表示の要否についても、収益認識基準等が適用される時(平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)までに検討することとなった(基準155)。 (2) 注記 顧客との契約から生じる収益については、以下を注記する。当該注記は、重要な会計方針の注記には含めず、個別の注記として開示する(基準80、156)。 従来は、売上の計上基準は注記されないことが多かったが、今後は、各社が売上計上基準を注記することになる。また、主な履行義務ごとに売上計上基準を注記するため、連結グループの親会社はグループで採用されている売上計上基準を正確に把握する必要がある。 IFRS第15号では、上記の他に多くの注記が求められている。ただし、収益認識基準等を早期適用する段階では、各国の早期適用の事例及び日本のIFRS第15号の準備状況に関する情報が限定的であり、IFRS第15号の注記事項の有用性とコストの評価を十分に行うことができない。そのため、必要最低限の定めを除き、基本的に上記以外の注記事項は求められていない(基準156)。 しかし、収益認識基準等が適用される時(平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む)に、その他の注記事項や上記の注記が重要な会計方針の変更として注記するべきか否かについても検討される(基準156)。 (3) 会社計算規則の改正 平成30年10月15日に会社計算規則の一部を改正する法務省令第27号が公布・施行された。なお、以下では収益認識基準等に関係する改正点のみ解説している。 ① 収益認識に関する注記の改正 収益認識に関する注記として以下が必要となる(会社計算規則98①十八の二、115の2①)。内容は、上記(2)と同様である。 なお、個別注記表に注記すべき事項が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合、個別注記表にその旨を注記するときは、個別注記表では上記の注記は必要ない(会社計算規則115の2②)。 ② その他の改正 「収益認識に関する会計基準」において、返品調整引当金の計上が認められないことから返品調整引当金が削除されている(会社計算規則6)。 ③ 適用時期 改正後の会社計算規則の規定は、収益認識基準等の適用と同時期の適用である(連載第1回4(4)参照)。 (4) 財務諸表等規則の改正 平成30年6月8日「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第29号)が公布された。 ① 収益認識に関する注記の改正 収益認識に関する注記として以下が必要となる(財務諸表等規則8の32①、連結財務諸表規則15の26)。内容は、上記(2)と同様である。 連結財務諸表において同一の内容が記載される場合、個別財務諸表にその旨を記載するときは、個別財務諸表において上記注記は必要ない(財務諸表等規則8の32②)。 また、割賦販売及び工事契約に係る収益及び費用の計上基準の注記については、削除された(財務諸表等規則ガイドライン8の2-7、連結財務諸表規則ガイドライン13-5)。さらに、「収益認識に関する会計基準」を早期適用している場合には、重要な会計方針の注記にその旨を記載する(財務諸表等規則ガイドライン8の2-7、連結財務諸表規則ガイドライン13-5)。 なお、前事業年度と当事業年度で主な履行義務の内容や収益を認識する通常の時点が異なるなど、財務諸表の理解に資すると認められる場合には、前事業年度の主な履行義務の内容や収益を認識する通常の時点を注記することが考えられる(財務諸表等規則ガイドライン6、連結財務諸表規則ガイドライン8の3)。 ② その他の改正 その他の改正として、以下がある。 ③ 表示に関する金融庁の考え方 (ⅰ) 貸借対照表項目 契約資産、契約負債又は債権については、財務諸表等規則に従い、従来から用いている科目、もしくは当該資産又は負債を示す名称を付した科目をもって表示するなど、貸借対照表が明瞭に表示されていることに留意した上で適切な科目をもって表示する。なお、基準第79項、88項(上記23.(1)①参照)については、ASBJの検討結果を踏まえ、適切に対応する(「パブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」1)。 (ⅱ) 損益計算書項目 売上高の表示科目については、本人としての取引か否か等の実態に応じて、適切な科目を用いて表示する。その明確化については、収益認識基準等の強制適用時までに検討する(「パブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」2)。 ④ 適用時期 収益認識基準等の適用と同時期の適用である(連載第1回4(4))。    24 会計基準の今後 ① ASBJの今後の対応 「収益認識に関する会計基準」第96項では、基準の実務への適用を検討する過程で、基準における定めが明確であるものの、これに従った処理を行うことが実務上著しく困難な状況が市場関係者により識別され、その旨がASBJに提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否をASBJにおいて判断するとされている。 そのため、平成30年8月28日にASBJより「「収益認識に関する会計基準」の公表後の対応に関する手順」が公表された。この公表物では、以下のことが記載されている。 今後、市場関係者からの提起によっては、適用指針又は設例が改正される可能性もあるので留意が必要である。 ② 業界団体の動向 スマートフォンゲームにおける課金について、いつの時点又はどの期間で収益を認識するかは意見がわかれるところである。 そのため、平成30年5月29日に一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラムより「スマートフォンゲーム等における収益認識基準に関するガイドラインの作成に向けて」が公表されている。 公表を予定しているガイドラインは、スマートフォンゲームにおけるゲーム内アイテム等に関する収益認識について、主要なパターンに応じたガイドラインを作成することを予定している。そして、このガイドラインは、企業の過度な負担を防止し、より適正な会計処理ができることを目的としている。 収益認識基準等の適用に当たっては、多くの問題・課題が生じる可能性がある。また、日本の会計実務では、具体的な会計処理について一般にその情報がオープンとなることはない。そのため、各社の収益認識基準等の適用に対する取組みの本気度により、同じ業界内でも会社ごとに会計処理が大きく異なってくる可能性がある。そのため、このようなガイドライン等が公表され、会計実務が一般にオープンになり、より良い会計実務につながることを期待したい。 (了)

#No. 300(掲載号)
#西田 友洋
2018/12/27

改正相続法に対応した実務と留意点 【第1回】「自筆証書遺言の方式緩和(2019年1月施行)に関する留意点」

改正相続法に対応した実務と留意点 【第1回】 「自筆証書遺言の方式緩和(2019年1月施行)に関する留意点」   弁護士 阪本 敬幸   -はじめに- 平成30年7月13日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(以下、「改正法」という)が公布された。改正法に定められた各改正項目については下記拙稿で解説したが、本連載ではこれら改正を踏まえた実務上の留意点について、事例を交えつつ、具体的に解説していくこととする。なお本連載では、上記改正法適用後の相続法全体を「改正相続法」と呼ぶこととする。   1 施行期日 改正法は段階的に施行されることとなっているので、まずは施行期日について確認しておきたい。なお、2019年には元号の変更が予定されているため、以下では西暦で記載する。 (1) 原則:2019年7月1日 公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日であり(改正法附則1条本文)、政令により2019年7月1日と定められた。 (2) 例外 ① 2019年1月13日 自筆証書遺言の方式に関する改正(改正後民法968条、970条2項、982条)は、2019年1月13日に施行される(改正法附則1条2号)。 ② 2019年4月1日 遺贈義務者の引渡義務に関する改正(改正後民法998条)、第三者の権利の目的である財産の遺贈に関する改正(改正前民法1000条の削除)、撤回された遺言の効力に関する改正(改正後民法1025条)は、改正債権法の施行日である2019年4月1日に施行される(改正法附則1条3号)。 ③ 2020年4月1日 配偶者居住権、配偶者短期居住権の新設に関する改正(改正後民法1028条ないし1041条)は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日であり(改正法附則1条4号)、政令により2020年4月1日と定められた。 ④ 2020年7月10日 改正法と併せて公布された、自筆証書遺言書の保管制度を定めた「法務局における遺言書の保管等に関する法律」の施行は、政令により2020年7月10日と定められた。   2 自筆証書遺言の方式について 施行が2019年1月13日と間近に迫っている、自筆証書遺言の方式に関する改正点について、実務上問題となる点を解説する。 (1) 作成について (ア) 概要 自筆証書遺言の方式として、改正前民法では全文自書が求められていたが、改正後民法では、財産目録については自書の必要がなくなった(改正後民法968条2項)。また、財産目録について特定の様式も定められていない。したがって、財産目録をワープロで作成することや、預金通帳や登記簿を目録として添付することも可能である。ただし、財産目録には、全ページ(自書によらない記載が両面にある場合は、その両面)に署名・押印が必要である。 (イ) 注意点 注意すべき点として、以下のような点が挙げられる。 (ウ) 自筆によらない財産目録の例 法制審議会民法(相続関係)部会(平成29年1月24日開催)の参考資料では、考えられる自筆証書遺言の例として、以下のようなものが挙げられている。 〈自筆証書遺言の方式(全文自書)の緩和方策として考えられる例〉 1 遺言書本文(全て自書したもの) 2 別紙(建物の全部事項証明書に署名押印したもの) 上記の遺言書例では、登記簿を別紙として利用しており、登記簿に署名・押印している。登記簿が2ページ以上ある場合、全ページに署名・押印が必要である。 (2) 加除訂正について 加除訂正(改正後民法968条3項(改正前968条2項))については、基本的には改正はない。上記の通り、財産目録については自書によらないことも可能となったが、改正後民法968条3項は「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は」とされ、目録部分の加除訂正についても、従来通り署名・押印が要求されている。 もっとも上記の通り、署名・押印があれば財産目録は自書である必要はない。したがって、新たに自書によらないで署名・押印した財産目録を作成し、旧財産目録を適式に(署名・押印する)削除することによって、加除訂正が可能である。 法制審議会民法(相続関係)部会(平成29年7月18日開催)の参考資料では、加除訂正の例として、以下のようなものが挙げられている。 〈財産の特定に必要な事項について自書によらない加除訂正を認める場合の例〉 (3) 施行期日後に発見された、施行期日前に作成された自筆証書遺言について 施行期日前に作成された自筆証書遺言の方式は、改正前民法による(改正法附則6条)。したがって、2019年1月13日以降に自筆証書遺言が発見されたとしても、当該遺言が2019年1月12日以前に作成されていた場合、改正前民法の方式によらねば無効である。 また、2019年1月12日以前に作成されていた遺言を加除訂正する場合、加除訂正した日が2019年1月13日以降であったとしても、遺言書の作成日としては2019年1月12日以前である以上、やはり改正前民法の方式によることなる。 (了)

#No. 300(掲載号)
#阪本 敬幸
2018/12/27

老コンサルタントが出会った『問題の多い相続』のお話 【第1回】「二次相続対策が進まない・・・」~自宅が小規模宅地特例不適用の危機に~

老コンサルタントが出会った 『問題の多い相続』のお話 【第1回】 「二次相続対策が進まない・・・」 ~自宅が小規模宅地特例不適用の危機に~   財務コンサルタント 木山 順三   〔はじめに~皆さまへのごあいさつ~〕 皆さま、ご無沙汰しています。今から5年ほど前、相続税が増税される直前まで、『私が出会った[相続]のお話』というタイトルで1年間、このWeb情報誌に連載させていただいた、財務コンサルタントの木山順三と申します。 私も今年で「後期高齢者」となり、上記の連載終了後の相続税の改正等について、なかなか的確な対応ができていない状態ですが、クライアント自身も新しい相続制度に対しどのように対処すべきか迷っている模様です。 そこで新たな連載として、私が見聞きした「問題ある相続の事例」をご紹介していきますので、税理士等の相続実務に携わる皆さまにとって少しでも参考になれば幸いです。不定期の掲載ではありますが、これからしばらく、“老コンサルタントのつぶやき”におつき合いください。 ◆  ◆  ◆ まず一般的には、平成27年1月1日より開始した相続等からの「遺産に係る基礎控除額の減額」が、相続問題に大きなインパクトを与えたことは言うまでもありません。すなわち、「生前贈与」の積極的対応や相続開始時の「遺産分割」に際し、「配偶者に対する相続税額の軽減制度」を活用すべきか、二次相続を見こして一次相続で課税覚悟での相続人間の分割を優先するかどうかという問題を提起しました。 当然のこととしてそれぞれの「家庭内事情」もあり、一概に節税策のみを講じることはできません。我々コンサルタントとしては、当家の将来の「争族」につながることだけは避けるようアドバイスしなければなりません。場合によっては、「後々の大きな争い」を今のうちに「小さなケンカ」程度に収める対応が賢明なのかもしれません。 今回は、少し前に相続が発生し、「遺産分割」も終わり一次相続としては無事(?)完了しているのですが、私としては必ず次の相続の際に揉めるであろうと懸念している事例をご紹介します。   〔話の背景〕 本件は、私の知人を通じて本人(被相続人)がまだ健在な折に、相続についてのコンサルの依頼を受けたものでした。本人は一部上場会社の元社長経験者で、当時は特別相談役の立場でした。 阪神間の高級住宅地のマンション生活で、自社株を含め金融資産もかなり保有していました。また推定相続人も、妻、長男、次男の平均的家族構成でした。本人の遺産分与の希望は、あくまで妻の生活費確保が第一義で、その後は長男、次男の順に遺産分けしたいという意向でした。 一方、妻は、日頃から夫が長男を金銭面等で甘やかしていることを懸念しており、次男の方を頼りにしていました(当時、長男は離婚し、一人息子を引き取っていました)。私としては、兄弟仲の悪さを考慮し、当家としては「配偶者に対する相続税額の軽減制度」を活用するよりも、むしろ二次相続の際に揉めないよう、一次相続の際に各々の相続人への遺産分割をするような遺言書作成を勧めていました。 そのような中、本人が体調を崩して入院し、退院後の連絡待ちのところ、退院後しばらくして急逝された旨の知らせが入りました。社葬等のあわただしい時間が過ぎ、やっと落ち着いたところで相続人からお呼びがかかりました。 話を聞きますと、急な病気で正式な遺言書を書く間がなく、本人の意向がメモ程度に残されていました。 結論として、そのメモに書かれた意向を主体に「遺産分割協議」を行いました。 案の定、「母親・次男」対「長男」の主張が食い違い苦労しましたが、何とか話し合いが成立しました。 (次の相続が大変だなぁ~という予感を残して・・・)   〔相続税申告の際に想定外の事態が!〕 いよいよ担当税理士とともに、具体的な申告手続きと遺産処理手続きに入りました。ところがその折、居宅マンションが「小規模宅地等の相続税の課税価格の特例」を受けられないことが判明しました。 実は、別途、夫人所有の「医療設備付マンション」(老人ホームではない)があり、本人は退院後、自宅マンションに帰らず、直接夫人所有のマンションへ行ったのです。そして、そのままマンションで逝去されたのです。 (まさか自宅に帰られず夫人所有のマンションへ行かれるとは・・・。そこまで念押ししていませんでした。) 銀行通帳により確認するも、生活費用、公共料金等の引き落としがあり、同マンションの生活実態として把握されました。これにより居宅地に係る「小規模宅地等の相続税の課税価格の特例」の適用は不可となりましたが、救いは別途貸家があり、「貸付事業用宅地」での適用で助かった次第です。   〔やはり進まぬ二次相続対策・・・〕 このように、父親の相続については紆余曲折あったものの、なんとか無事手続きが完了しました。しかし、問題なのは母親の相続です。何しろ長男の母親に対する日頃の不信感が相続開始時に爆発する恐れがあります。すなわち「ひょっとして自分に内緒で多額の生前贈与を次男及び孫にしているのでは?」ということです(自分のことは棚に上げて・・・)。さらに言えば、互いに遡って「特別受益」に関する争いが生ずることになるのではと懸念しています。 母親としては遺留分を配慮したうえで、少しでも次男に分与したい意向でしょうが、あえて母親には、法定相続割合で取得させる旨の「遺言書」作成をアドバイスしています。 本来、法定相続割合による分割であれば「遺言書」作成は不要なのですが、当家の場合は揉めることを想定し、法定相続割合であっても遺言を作成することが、スムーズに手続きできる方法と思っています。 (民法の改正によって、これからは自筆証書遺言書も、「形式」「保管方法」等比較的手軽にできるようになります。) しかしながら、未だ夫人からは、「遺言書」を作成する旨の連絡がありません(またご主人と同じようにならなければよいのですが・・・)。 このように相続処理の難しさは、たとえ我が子、肉親でも、感情面で複雑になり、なかなか前に進まないことです。 (了)

#No. 300(掲載号)
#木山 順三
2018/12/27

《編集部レポート》 日税連税法データベースがTAINS6をリリース

《編集部レポート》 日税連税法データベースがTAINS6をリリース   Profession Journal 編集部   一般社団法人日税連税法データベース(髙田住男会長)は、12月1日にTAINS第6世代システム“TAINS6”をリリースした。また、これに伴い同月17日、関係者を招き新システムの発表会が行われた。 第6世代は、ユーザー視点に立って第5世代を全面的に見直すことから検討を行い、①検索機能の充実、②新コンテンツの創設-という2つの特徴を持つものとなっている。 (TAINS第6世代システム“TAINS6”。デザインも一新されている) ◆  ◆  ◆ 「①検索機能の充実」という点では、トップ画面に「語句セット」、「レコメンド機能」というライトユーザに向けたサービスが盛り込まれた。 「語句セット」は、調べる事柄について、まず税法で絞り込むと、ついで関係するカテゴリーが示される。最終的に事前に設定されている語句をヒントに調べたい事項にたどり着けるというシステムとなっている。 一方「レコメンド機能」は、税務用語の一部を記入すると、それに関連したキーワードが画面上に現れる仕組みだ。検索する用語が不確かであっても、検索したい結果にたどり着くことができるものだ。 もちろん、これまでどおりの詳細な検索も可能だ。 「②新コンテンツ」では、「税理士視点からの“要点”」、「外部連携機能」が注目される。 「税理士視点からの“要点”」だが、これまでTAINSに搭載されている裁決や判決には、その要約である「概要」が付されていたものの、判決自体の要約レベルであったが、これに税理士実務の視点からアプローチした「要点」を加えることとした。現時点で「要点」が付されているものは100件程度であるが、今後、件数を増加させる計画だ。 「外部連携機能」は、搭載する裁決や判決に関連する出版物などとリンクさせ、情報を得られるシステム。現時点では1社との連携にとどまるが、次第に拡大させる予定としている。 発表会では、挨拶に立った髙田会長は、「『税理士がつくる税理士のためのデータベース』というコンセプトのもとにTAINS6の作業をしてきたが、税理士に満足できるサービスに仕上がった」とその自信のほどをのぞかせていた。 TAINS6は、30日間無料で使用できる「無料お試し会員」を受け付けている。有料会員とほぼ同一の機能を体験できるとあって、この機会に新システムを体験されてはいかがだろうか。 (TAINS6発表会の様子) (了)

#No. 300(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2018/12/27
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